特許第6703802号(P6703802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703802銀ナノワイヤおよびその製造方法並びにインク
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703802
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】銀ナノワイヤおよびその製造方法並びにインク
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20200525BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20200525BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20200525BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20200525BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200525BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20200525BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20200525BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20200525BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20200525BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20200525BHJP
【FI】
   B22F1/00 K
   B22F1/02 B
   B22F9/24 E
   B22F9/24 F
   H01B5/00 H
   H01B5/00 M
   H01B13/00 501Z
   H01B1/22 A
   H01B1/00 H
   H01B1/00 M
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   C09D11/52
【請求項の数】20
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-5625(P2016-5625)
(22)【出願日】2016年1月14日
(65)【公開番号】特開2016-135919(P2016-135919A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2018年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-6211(P2015-6211)
(32)【優先日】2015年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】伊田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】廣川 能嗣
(72)【発明者】
【氏名】バラチャンドラン ジャヤデワン
(72)【発明者】
【氏名】クヤ ウアマン ジョン レマン
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015-511269(JP,A)
【文献】 特表2014-505963(JP,A)
【文献】 特開2015-180772(JP,A)
【文献】 特開2013-148602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00〜8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーに被覆された、平均直径100nm以下、平均長さ5μm以上の銀ナノワイヤ。
【請求項2】
平均直径50nm以下、平均長さ10μm以上である請求項1に記載の銀ナノワイヤ。
【請求項3】
前記マレイミド系モノマーの分子量が97〜300である請求項1または2に記載の銀ナノワイヤ。
【請求項4】
マレイミド系モノマーが、N−メチルマレイミドである請求項1または2に記載の銀ナノワイヤ。
【請求項5】
マレイミド系モノマーが、N−エチルマレイミドである請求項1または2に記載の銀ナノワイヤ。
【請求項6】
マレイミド系モノマーが、マレイミドである請求項1または2に記載の銀ナノワイヤ。
【請求項7】
マレイミド系モノマーが、N−プロピルマレイミドである請求項1または2に記載の銀ナノワイヤ。
【請求項8】
マレイミド系モノマーが、N−tert−ブチルマレイミドである請求項1または2に記載の銀ナノワイヤ。
【請求項9】
銀化合物が溶解しているアルコール溶媒中で銀をワイヤ状に還元析出させる銀ナノワイヤの製造方法において、マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーが前記溶媒中に溶解している状態で前記析出を進行させる銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項10】
銀化合物が溶解しているアルコール溶媒中で銀をワイヤ状に還元析出させる銀ナノワイヤの製造方法において、マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマー、塩化物、臭化物、アルカリ金属水酸化物およびアルミニウム塩が前記溶媒中に溶解している状態で前記析出を進行させる銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項11】
前記マレイミド系モノマーの分子量が97〜300である請求項9または10に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項12】
マレイミド系モノマーが、N−メチルマレイミドである請求項9または10に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項13】
マレイミド系モノマーが、N−エチルマレイミドである請求項9または10に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項14】
マレイミド系モノマーが、マレイミドである請求項9または10に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項15】
マレイミド系モノマーが、N−プロピルマレイミドである請求項9または10に記載の銀ナノワイヤの製造方法
【請求項16】
マレイミド系モノマーが、N−tert−ブチルマレイミドである請求項9または10に記載の銀ナノワイヤの製造方法
【請求項17】
マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーは、0.1〜25質量部のマレイミド系モノマーと100質量部のビニルピロリドンが重合した構造を有するものである請求項9〜16のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項18】
溶媒であるアルコールがポリオールである請求項9〜17のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項19】
前記銀の還元析出を60℃以上かつ使用する溶媒アルコールの沸点以下の温度範囲で進行させる請求項9〜18のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤの製造方法。
【請求項20】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の銀ナノワイヤを液状媒体中に0.02〜5.0質量%含有する銀ナノワイヤインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電体を形成する材料などとして有用な銀ナノワイヤ、およびその製造方法に関する。また、その銀ナノワイヤを用いた銀ナノワイヤインクに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書では、太さが200nm程度以下の微細な金属ワイヤの集まりを「ナノワイヤ(nanowires)」と呼ぶ。粉末に例えると、個々のワイヤは粉末を構成する「粒子」に相当し、ナノワイヤ(nanowires)は粒子の集まりである「粉末」に相当する。
【0003】
銀ナノワイヤは、透明基材に導電性を付与するための導電素材として有望視されている。銀ナノワイヤを含有する液(銀ナノワイヤインク)をガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)などの透明基材にコーティングしたのち、液状成分を蒸発等により除去させると、銀ナノワイヤは当該基材上で互いに接触し合うことにより導電ネットワークを形成するので、透明導電体を実現することができる。従来、透明導電材料としてはITOに代表される金属酸化物膜が主として透明電極等の用途に使用されている。しかし、金属酸化物膜は、成膜コストが高いことや、曲げに弱く最終製品のフレキシブル化を阻む要因となることなどの欠点を有している。また、透明導電体の主要用途のひとつであるタッチパネルセンサーの導電性フィルムには高い透明性と高い導電性が要求されるが、昨今、視認性に関する要求も一層厳しくなっている。従来のITOフィルムでは、導電性を稼ぐためにはITO層の厚さを増大させる必要があるが、厚さの増大は透明性の低下を招き、視認性の改善には至らない。
銀ナノワイヤは、ITOに代表される金属酸化物膜に特有の上記欠点を克服するうえで有望である。
【0004】
銀ナノワイヤの製造方法としては、エチレングリコール等のポリオール溶媒に銀化合物を溶解させ、ハロゲン化合物と有機保護剤であるPVP(ポリビニルピロリドン)存在下において、溶媒のポリオールの還元力を利用して線状形状の金属銀を析出させる手法が知られている(特許文献1、2、非特許文献1)。PVPは銀ナノワイヤを収率良く合成するための有機保護剤として極めて効果的な物質である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2005/0056118号公報
【特許文献2】US2008/0003130号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.of Solid State Chem.1992,100,272−280
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
銀ナノワイヤを用いて透明導電体を製造するためには、「銀ナノワイヤインク」を透明基材上に塗布する工程が不可欠である。PVPで被覆された従来の銀ナノワイヤは、水に対して良好な分散性を示すため、通常、水系の液状媒体を用いた銀ナノワイヤインクとして提供される。ただし、透明基材に多用されているPET(ポリエチレンテレフタレート)との濡れ性を改善する必要があるため、銀ナノワイヤインクの水系溶媒中にはエタノール、2−プロパノール、エチレングリコールなどのアルコールが添加されることが一般的である。アルコールの添加量が多くなるほどPET基材との濡れ性は向上する。しかし、このアルコールの添加はPVP被覆された銀ナノワイヤの液中分散性を低下させるという問題がある。すなわち、水系溶媒中へのアルコールの添加量が多くなるとPVP被覆された銀ナノワイヤは液中で凝集しやすくなり、良好な分散性を有する銀ナノワイヤインクとして提供することが難しくなる。
【0008】
一方、銀ナノワイヤは、その直径が細く、また長さが長いほど、高い透明性と高い導電性を両立させるうえで有利である。PVPを用いて合成された従来の銀ナノワイヤは、タッチパネルセンサー等の用途で今後更に厳しくなることが予想される要求特性(透明性と導電性の更なる高レベルでの両立)を考慮すると、必ずしも満足できるものではない。
【0009】
アルコールを添加した水系溶媒中における銀ナノワイヤの分散性を改善するための一手法としては、PVPの親水性を低下させた「アルキル化PVP」を有機保護剤として適用することが有効であると考えられる。しかしながら、アルキル化PVPを有機保護剤に用いた銀ナノワイヤの合成手法では、細く、長い形状のワイヤを合成することが難しい。
【0010】
このように、アルコールを添加した水系溶媒中において、従来のPVP被覆銀ナノワイヤよりも優れた分散性を発揮する銀ナノワイヤを得るというニーズに叶う技術は、まだ確立されていない。特に、より細く、より長いワイヤを得るというもう一つのニーズと両立させることは更に難しい。本発明は、これらのニーズに応えることのできる銀ナノワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは研究の結果、アルコール溶媒中において有機保護剤の存在下で銀をワイヤ状に還元析出させる際に、有機保護剤として、PVPではなく、「マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマー」を使用することにより、アルコールを添加した水系溶媒中での分散性を改善することができ、かつ、細く、長い形状のワイヤを合成させることが可能となることを見出した。
【0012】
上記目的は、マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーに被覆された、平均直径100nm以下、平均長さ5μm以上の銀ナノワイヤによって達成される。平均直径50nm以下、平均長さ10μm以上であるものがより好適な対象となる。平均長さ(nm)と平均直径(nm)の比を平均アスペクト比と呼ぶとき、平均アスペクト比が200以上であるものが特に好ましい。ここで、平均直径、平均長さ、平均アスペクト比は以下の定義に従う。
【0013】
〔平均直径〕
顕微鏡画像(例えばFE−SEM画像)上で、ある1本の金属ワイヤの投影像において、太さ方向両側の輪郭に接する内接円の直径をワイヤ全長にわたって測定したときの前記直径の平均値を、そのワイヤの直径と定義する。そして、ナノワイヤ(nanowires)を構成する個々のワイヤの直径を平均した値を、当該ナノワイヤの平均直径と定義する。平均直径を算出するためには、測定対象のワイヤの総数を100以上とする。
【0014】
〔平均長さ〕
上記と同様の顕微鏡画像上で、ある1本の金属ワイヤの投影像において、そのワイヤの太さ中央(すなわち前記内接円の中心)位置を通る線の、ワイヤの一端から他端までの長さを、そのワイヤの長さと定義する。そして、ナノワイヤ(nanowires)を構成する個々のワイヤの長さを平均した値を、当該ナノワイヤの平均長さと定義する。平均長さを算出するためには、測定対象のワイヤの総数を100以上とする。
本発明に従う銀ナノワイヤは非常に細長い形状のワイヤで構成されている。そのため、回収された銀ナノワイヤは、直線的なロッド状より、むしろ曲線的な紐状の形態を呈することが多い。発明者らは、このような曲線的なワイヤについて、上記のワイヤ長さを画像上で効率的に測定するためのソフトウエアを作成し、データ処理に利用している。
【0015】
〔平均アスペクト比〕
上記の平均直径および平均長さを下記(1)式に代入することにより平均アスペクト比を算出する。
[平均アスペクト比]=[平均長さ(nm)]/[平均直径(nm)] …(1)
【0016】
マレイミド系モノマーとは、マレイミド基を持つモノマーである。その分子量は例えば97〜300である。より具体的には、N−メチルマレイミド(図5)、N−エチルマレイミド、マレイミド(図16)、6−マレイミドヘキサン酸、N−プロピルマレイミド(図9)、N−tert−ブチルマレイミド(図12)などが挙げられる。
【0017】
上記のコポリマーに被覆された銀ナノワイヤの製造方法として、銀化合物が溶解しているアルコール溶媒中で銀をワイヤ状に還元析出させる銀ナノワイヤの製造方法において、マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーが前記溶媒中に溶解している状態で前記析出を進行させる銀ナノワイヤ製造方法が提供される。この手法で銀ナノワイヤを合成すると、有機保護剤である「マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマー」に被覆された銀ナノワイヤが得られる。
【0018】
この場合、特に、マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマー、塩化物、臭化物、アルカリ金属水酸化物およびアルミニウム塩が前記溶媒中に溶解している状態で前記析出を進行させることが、細く、長いワイヤを合成するためには、より効果的である。マレイミド系モノマーとしては、前記のN−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、マレイミド、6−マレイミドヘキサン酸、N−プロピルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミドなどを例示することができる。マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーは、例えば0.1〜25質量部のマレイミド系モノマーと100質量部のビニルピロリドンが重合した構造を有するものが適用できる。溶媒であるアルコールとして、ポリオールが適用できる。前記銀の還元析出を60℃以上かつ使用する溶媒アルコールの沸点以下の温度範囲で進行させることがより効果的である。
【0019】
また、本発明では、前記のマレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーに被覆された銀ナノワイヤを液状媒体中に0.02〜5.0質量%含有する銀ナノワイヤインクが提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーに被覆された銀ナノワイヤを開示した。この新たなタイプの有機保護剤は、アルコールを添加した水系溶媒中での分散性を改善する点で、PVPとは異質の効果を呈する。コポリマーに占めるマレイミド系モノマーの配合割合を調整することにより、有機保護剤の親水性、疎水性の程度を変化させることができるので、銀ナノインクの液状媒体の種類に応じた分散性の適正化が行いやすい。従って本発明は、アルコール等を添加してPET基材等との濡れ性を改善した銀ナノワイヤインクを得る上で極めて有用である。また、マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーを有機保護剤に用いる場合において、例えば平均直径50nm以下、平均長さ10μm以上、平均アスペクト比200以上といった、細く、長い銀ナノワイヤを合成することが可能である。細く、長い銀ナノワイヤは、透明導電体の導電性および視認性(耐ヘイズ性)の改善に極めて有効である。
【0021】
以上のように、本発明は、(i)細く、長い銀ナノワイヤの合成、(ii)銀ナノワイヤインクの分散性改善、(ii)銀ナノワイヤインクの透明基材に対する濡れ性改善、を同時に実現しうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】N−エチルマレイミドの構造式。
図2】ビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーの構造式。
図3】実施例1で用いたビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーのNMRスペクトル。
図4A】実施例1で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図4B】実施例1で得られた銀ナノワイヤのSEM写真(高倍率)。
図5】N−メチルマレイミドの構造式。
図6】ビニルピロリドン−メチルマレイミドコポリマーの構造式。
図7A】実施例2で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図7B】実施例2で得られた銀ナノワイヤのSEM写真(高倍率)。
図8】実施例3で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図9】N−プロピルマレイミドの構造式。
図10】ビニルピロリドン−プロピルマレイミドコポリマーの構造式。
図11】実施例4で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図12】N−tert−ブチルマレイミドの構造式。
図13】ビニルピロリドン−tert−ブチルマレイミドコポリマーの構造式。
図14】実施例5で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図15】比較例1で得られた銀ナノワイヤのSEM写真。
図16】マレイミドの構造式。
【発明を実施するための形態】
【0023】
《銀ナノワイヤの合成》
本発明に従う銀ナノワイヤは、有機保護剤である「マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマー」に被覆されたものである。この銀ナノワイヤは、アルコール溶媒中において、有機保護剤の存在下で、当該溶媒アルコールの還元力を利用して銀をワイヤ状に還元析出させる手法にて合成することができる。以下にその手法について説明する。
【0024】
〔アルコール溶媒〕
適用するアルコールの種類としては、銀に対して適度な還元力を有し、金属銀をワイヤ状に析出させることができるものが選択される。現時点において、エチレングリコールに代表されるポリオールが銀ナノワイヤの生成に比較的適しているとされるが、今後の研究により、適用可能な多くのアルコール類が確認されると思われる。発明者らは既に、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、1,3−プロパンジオール、1,3ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセリンの1種以上からなるアルコール溶媒中で、工業的に実用可能な収率で、細くて長い銀ナノワイヤの合成に成功している。これらのアルコールは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
〔有機保護剤〕
有機保護剤は、還元反応において析出した銀ナノワイヤの表面を覆い、粗大成長を抑止する作用を有する。また、得られた銀ナノワイヤの表面に存在する有機保護剤は液状媒体への分散性を確保する作用を有する。銀の析出を一方向のみへ優先的に生じさせて銀ナノワイヤを合成するために有効な有機保護剤としてはPVP(ポリビニルピロリドン)が知られている。しかし、PVPを用いて合成した銀ナノワイヤでは、分散安定性の良好な銀ナノワイヤインクを得ることが難しい。PET基材に代表される透明基材に銀ナノワイヤインクを塗布する際には、基材に対するインクの濡れ性が良好でなければならない。PVPは親水性が高いため、通常、銀ナノワイヤインクには水系溶媒が使用される。この場合、PET等の基材との濡れ性を確保するために、水系溶媒中にアルコールが添加されることが一般的である。アルコールの添加により、基材との濡れ性が向上する反面、PVPで被覆された銀ナノワイヤの水系溶媒に対する分散性は大幅に低下する。すなわち、銀ナノワイヤをインク化したときに沈殿し易い。このように、PVPを用いて合成された銀ナノワイヤの場合、銀ナノワイヤインクの分散安定性を向上させることには厳しい制約があった。
【0026】
発明者らは、有機保護剤として、PVPではなく、マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーを使用することにより、細く、長い銀ナノワイヤの合成と、アルコールを添加した水系溶媒に対する銀ナノワイヤの分散性向上が両立できることを見出した。
マレイミド系モノマーの例としては、分子量97〜300のものを挙げることができる。例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、マレイミド、6−マレイミドヘキサン酸、N−プロピルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミドなどを使うことができる。
【0027】
マレイミド誘導体はα,β−2置換モノマーであるため、重合によって得られるポリマーの主鎖中に剛直な環構造が形成される。そのためマレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーは、PVPに比べ屈曲性の低下した(すなわち剛直な)コポリマーとなる。剛直なコポリマー構造は親水性を低下させる方向に機能し、それに伴ってアルコールを添加した水溶媒中における分散性が改善される。マレイミド系モノマー自体は高い親水性を呈するが、ビニルピロリドンとの重合が進むと疎水性が強まり、PVPとは異質のコポリマーを形成する。さらに、マレイミド誘導体には種々の置換基を導入することが可能であり、置換基の構造によってアルコールを添加した水系溶媒に対する溶解性・分散性を調整することができるというメリットがある。
【0028】
マレイミド系モノマーとビニルピロリドンの重合組成により、アルコール等の有機物質を添加した水系溶媒に対する親和性を調整することが可能である。0.1〜25質量部のマレイミド系モノマーと100質量部のビニルピロリドンが重合した組成のコポリマーにおいて、細く、長い銀ナノワイヤの合成容易性と、アルコールを添加した水系溶媒中での銀ナノワイヤの分散性とのバランスを最適化しやすい。ビニルピロリドン100質量部に対するマレイミド系モノマーの配合割合は0.1質量部と僅かであっても、分散性はPVPと比較して大きく向上する。一方、マレイミド系モノマーの配合割合が過剰になると、細く、長い銀ナノワイヤを合成することが難しくなる。ビニルピロリドン100質量部に対するマレイミド系モノマーの配合割合の範囲は0.1〜10質量部とすることがより好ましい。
【0029】
〔銀化合物〕
銀ナノワイヤを還元析出させるための銀源として、溶媒に可溶な銀化合物を使用する。例えば、硝酸銀、酢酸銀、酸化銀、塩化銀などが挙げられるが、溶媒に対する溶解性やコストを考慮すると硝酸銀(AgNO3)が使いやすい。使用するアルコール溶媒の総量に対するAg添加量は、溶媒1L当たりAg0.001〜0.1モルの範囲とすることが好ましく、0.025〜0.080モルの範囲とすることがより好ましい。
【0030】
〔塩化物〕
アルコール溶媒中で金属銀をワイヤ状に還元析出させるためには、析出の成長方向に異方性を持たせる作用を有する塩化物イオンの存在させることが効果的である。塩化物イオンは、核生成した金属銀の特定の結晶面を速やかにエッチングして多重双晶の生成を促し、それによってワイヤとなる核晶の存在比率を高める効果を有すると考えられる。塩化物イオン源としては、溶媒であるアルコールに溶解する塩化物であれば種々のものが適用対象となる。有機塩素化合物であるTBAC(テトラブチルアンモニウムクロライド;(CH3CH2CH2CH2)4NCl)なども対象となる。工業上入手しやすく、価格の安い塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化水素(HCl)、塩化リチウム(LiCl)などが好適な対象となる。また、アルコール溶媒に可溶な塩化銅(II)(CuCl2)を使用してもよい。使用するアルコール溶媒の総量に対する塩化物の添加量は、溶媒1L当たりCl量として0.00001(1×10-5)〜0.01モルの範囲とすることが好ましく、0.00005(5×10-5)〜0.01モルの範囲とすることがより好ましい。
【0031】
〔臭化物〕
臭化物イオンも、金属銀の析出成長方向に異方性を持たせる作用を有する。種々検討の結果、アルコール溶媒中に、上述の塩化物イオンに加え、臭化物イオンを存在させておくことが、平均直径50nm以下、平均長さ10μm以上といった細くて長い銀ナノワイヤを得る上で極めて有効であることがわかった。臭化物イオン源としては、溶媒であるアルコールに溶解する臭化物であれば種々のものが適用対象となる。有機臭素化合物であるCTAB(臭化セチルトリメチルアンモニウム;(C1633)N(CH3)3Br)なども対象となる。工業上入手しやすく、価格の安い臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化水素(HBr)、臭化リチウム(LiBr)などが好適な対象となる。臭化物の添加量は極めて微量であるが、異方性を持たせるには極めて有効な添加物である。使用するアルコール溶媒の総量に対する臭化物の添加量は、溶媒1L当たりBr量として0.000001(1×10-6)〜0.001(1×10-3)モルの範囲とすることが好ましく、0.000005(5×10-6)〜0.001(1×10-3)モルの範囲とすることがより好ましい。
【0032】
〔アルミニウム塩およびアルカリ金属水酸化物〕
発明者らの研究によれば、銀を析出させる溶媒中に、アルミニウム塩と、アルカリ金属水酸化物とを所定割合で溶解させておくことが、アスペクト比の大きい銀ナノワイヤを効果的に合成するうえで極めて有効である。このような現象のメカニズムについては現時点で不明であるが、アルミニウムイオンには銀がワイヤ状に成長するための結晶面を活性化する作用や、還元速度を向上させる作用があるのではないかと推測され、そのような作用は、水酸化物イオンの適正存在下で発揮されるものと考えられる。
なお、アルミニウム塩を含有する溶媒中で合成した銀ナノワイヤには、Alの存在が確認される。発明者らの調査によれば、金属成分のうち、Alを100〜1000ppm含有する金属ナノワイヤは、直径の均一性が高く、細くて長いわりに局所的な折れや曲がりが生じにくい傾向が見られた。このような銀ナノワイヤはインク化の操作や、基材へのコーティングの操作において、取り扱い性に優れる。A1含有量200ppm以上であるものがより好適な対象となる。
【0033】
本明細書では、溶媒に溶解させるアルミニウム塩のAl総量とアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量とのモル比を「Al/OH」と表記し、以下、このモル比を単に「Al/OHモル比」と呼ぶことがある。詳細な検討の結果、Al/OHモル比を0.01〜0.40とすることにより、細く、長い銀ナノワイヤを合成できる。Al/OHモル比が高すぎるとアルコール溶媒による還元力が低下し、当該溶媒中に溶解している銀イオンあるいは銀錯体を金属銀に還元させることができない。Al/OHモル比が低すぎると平均アスペクト比の大きい、長いワイヤを合成することが難しくなる。
【0034】
だだし、Al/OHモル比が適正範囲にあっても、銀に対するアルカリ水酸化物の量が多すぎると酸化銀を主体とした合成物が多量に形成され、ワイヤの合成ができなくなる。逆に銀に対するアルカリ水酸化物の量が少なすぎると銀の還元反応が生じにくくなる。本明細書では、溶媒に溶解させるアルカリ金属水酸化物の水酸化物イオン総量と銀化合物のAg総量とのモル比を「OH/Ag」と表記し、以下、このモル比を単に「OH/Agモル比」と呼ぶことがある。詳細な検討の結果、OH/Agモル比は0.005〜0.50の範囲とすることが望ましい。
【0035】
アルカリ金属水酸化物としては、工業的には例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの1種以上を使用することが望ましい。
アルミニウム塩としては、硝酸アルミニウムや、塩化アルミニウムが適用対象となる。硝酸アルミニウムは硝酸アルミニウム九水和物Al(NO3)3・9H2Oとして添加しても構わない。塩化アルミニウムを使用する場合、上述の塩化物を兼ねることができる。
【0036】
〔銀ナノワイヤ合成手順の例示〕
従来、銀化合物が溶解しているアルコール溶媒中において、ハロゲン化合物および有機保護剤の存在下で、溶媒であるアルコールの還元力により銀ナノワイヤを得る手法が知られている。この場合、金属銀をワイヤ状に析出させるための有機保護剤としてPVPが適しているとされる。本発明でも、このようなアルコール溶媒の還元力を利用して銀ナノワイヤを生成させる。ただし本発明では前述の通り、有機保護剤として、PVPではなく、マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーを使用する。
【0037】
銀の還元析出反応を進行させる温度は60℃以上溶媒の沸点以下の範囲で設定することができる。沸点は、反応容器内の溶媒液面が接する気相空間の圧力における沸点である。複数種類のアルコールを混合して溶媒とする場合、最も沸点が低いアルコールの沸点以下の温度とすればよい。ただし、穏やかに反応を進行させる観点から、沸騰を避け、沸点より低い温度に管理することが好ましい。例えば溶媒としてエチレングリコールを使用し、大気圧下で反応を進行させる場合、エチレングリコールの沸点は約197℃であるが、60〜185℃で反応を進行させることが好ましく、80〜175℃とすることがより好ましい。反応時間は例えば10分〜100時間の範囲で設定すればよい。
【0038】
手順としては、アルコール溶媒中に銀化合物以外の各物質を溶解させておき、その溶媒(以下「溶液A」という)の温度が所定の反応温度に到達したのちに、銀化合物を溶液A中に添加することが望ましい。銀化合物は、予め別の容器で前記溶媒と同種のアルコール溶媒に溶解させておき、その銀含有液(「溶液B」という)を溶液A中に混合する方法で添加することができる。溶液Aに混合する前の溶液Bは、常温付近の温度(例えば15〜40℃)とすることが望ましい。溶液Bの温度が低すぎると銀化合物の溶解に時間がかかり、高すぎると溶液B中のアルコール溶媒の還元力によって溶液Aに混合する前の段階で銀の還元反応が起こりやすくなる。硝酸銀など、アルコール溶媒に溶けやすい銀化合物は、固体のまま前記溶液A中に添加してもよい。銀化合物の添加は、全量を一度に添加する方法や、一定時間内に断続的または継続的に添加する方法が採用できる。反応進行中は液の撹拌を継続する。また、反応進行中に溶液Aの液面が接する気相の雰囲気は大気または窒素とすることができる。
【0039】
銀の析出反応が終了したのち、銀ナノワイヤを含有するスラリーを遠心分離やデカンテーションなどの手段を用いて固液分離して固形分を回収する。デカンテーションは、静置したまま2〜2週間程度かけ濃縮を行ってもよいし、スラリーに、アセトン、トルエン、ヘキサン、ケロシンなどの極性の小さい溶媒を少なくとも1種類以上添加し、沈降速度を速めて濃縮してもよい。遠心分離の場合は、反応後のスラリーをそのまま遠心分離機にかけて、銀ナノワイヤを濃縮すればよい。
濃縮後、上澄みを除去する。その後、水やアルコールなど極性の大きい溶媒を添加し、銀ナノワイヤを再分散させ、さらに遠心分離やデカンテーションなどの手段を用いて固液分離して固形分を回収する。この再分散と濃縮の工程(洗浄)を繰り返して行うことが好ましい。
【0040】
〔銀ナノワイヤの精製〕
銀ナノワイヤを合成すると、十分に長い銀ナノワイヤ以外に、銀ナノ粒子や短い銀ナノワイヤも生成する。これら粒子状のものや短いワイヤなど、不純物に属する生成物(以下「生成不純物」という)をできるだけ除去して、有用である長い銀ナノワイヤを分離回収する操作を「精製」と呼ぶ。
【0041】
精製においては、体積的に大きい銀ナノワイヤが優先的に沈降する現象を利用し、合成後に回収された銀ナノワイヤ含有固形分を水に分散させたあと、遠心分離、デカンテーションなどにより生成不純物を上澄みとともに除去することができる。沈降速度をより速くするためには上記極性の小さい溶媒を添加してもよい。
【0042】
ナノ粒子や短いワイヤなどの生成不純物は凝集性が高く、長いナノワイヤに付着して分離し難いことがある。このような場合の対策として、発明者らは、銀ナノワイヤ含有固形分(濃縮物)を水に分散させる際に分散剤や界面活性剤を添加し、より良好な分散状態とすることにより、生成不純物の分離が促進されることを見出した。好適な分散剤としてはPVPが挙げられる。
【0043】
また、メンブレンフィルター、ナイロンフィルターのように孔径の小さいフィルターを用いてフィルタリングすると、回収すべき銀ナノワイヤはフィルター径より長いためフィルターを通過せずにトラップされ、フィルターを通過する生成不純物と分離することができる。その他、クロスフローろ過方式を適用することも有効である。
【0044】
洗浄後の固形分は有機保護剤を表面に有する銀ナノワイヤを主体とするものである。この銀ナノワイヤは、目的に応じて適切な液状媒体中に分散させた分散液として保管することができる。銀ナノワイヤインクの製造方法に適用する場合、前記洗浄後の固形分を水やアルコールなどに分散させた銀ナノワイヤ分散液に、後述のように粘度調整剤やバインダー成分を添加して「インク化」させる。
【0045】
《銀ナノワイヤインク》
銀ナノワイヤインクを製造するためには、上述のようにして精製された銀ナノワイヤの分散液を用意し、粘度調整剤やバインダー成分を添加して所定の性状に調整する。ここでは、水系溶媒に、PET基材との濡れ性改善に有効なアルコールを添加したインクを例に、以下、インクの好ましい添加物質、組成、性状、分散安定性等について説明する。
【0046】
〔粘度調整剤〕
本発明に適用する粘度調整剤は、溶媒である水+アルコールに溶解することが必要である。増粘剤として従来から各分野で使用されている各種水溶性高分子が使用できる。例えば、天然系およびその誘導体としては、センイ繊維素(セルロース)系およびその誘導体ではCMC(カルボキシメチルセルロース)、MC(メチルセルロース)などがあり、蛋白質系ではアルブミン(卵白の成分)、カゼイン(牛乳に含まれている)などがある。その他、アルギン酸、寒天、澱粉、多糖類なども水溶性増粘剤として使用可能である。合成系としては、ビニル系化合物、ポリエステル系化合物、ポリビニルアルコール系化合物、ポリアルキレンオキサイド系化合物などの高分子が挙げられる。
【0047】
〔バインダー〕
銀ナノワイヤインクを基材に塗布し乾燥させて得られる透明導電塗膜における、個々の銀ナノワイヤ同士の密着性、および銀ナノワイヤと基材との密着性は、透明導電フィルムを製造するうえで歩留まりに大きく影響し、極めて重要である。この密着性を確保するためには、「糊」の役割を有するバインダー成分を添加する必要がある。本明細書では、銀ナノワイヤインクを基材に塗布し乾燥させて得られる透明塗膜であって、個々のワイヤが一体化して導電性を呈する状態となっているものを、透明導電塗膜と呼んでいる。
【0048】
透明導電フィルム(フィルム状基材とその表面の透明導電塗膜との接合構造体)の導電性は、透明導電塗膜を構成する銀ナノワイヤの金属同士が接触していることによって発現する。銀ナノワイヤインクに、バインダー成分を添加すると、ワイヤ同士の金属接触が妨げられて十分な導通が得られなくなる恐れがある。そのため、従来は、強力なバインダー成分を含まない銀ナノインクを基材上に塗布して乾燥させることにより、まずワイヤ同士の確実な接触状態を得ておき、その後、接着成分を含む上塗り剤(オーバーコーティング剤)を塗布して、透明導電塗膜の密着性を確保する手法を採用する場合が多い。
【0049】
しかし、上記のオーバーコーティングを行う手法においても、最初に銀ナノワイヤインクを塗布したフィルムは、乾燥時間を稼ぐために炉内のロールによる方向転換箇所を何度も通過するのが一般的である。ライン内のロール通過点では基材に曲げが加えられるため、塗膜にもストレスが付与され、ワイヤ同士の接触による導通性が劣化する恐れがある。良好な導通性を維持するためにはライン速度を高めた操業を行うことが難しく、生産性向上は望めない。また、次工程に送るために一旦コイル状に巻き取られ、その後オーバーコーティング工程で再び巻き出されるという手順を踏む場合も多い。この場合にも巻き取り・巻き出しの際に基材の塗膜表面にはストレスが付与され、導通性の低下や、基材からの剥離が生じる恐れがある。従って、オーバーコーティングを行う場合にも、銀ナノワイヤインク中に何らかのバインダー成分を配合させ、ワイヤ同士の密着性および基材と塗膜の密着性を向上させることが、生産性向上のためには不可欠となる。以下、特に断らない限り、「密着性」とは、ワイヤ同士の密着性および基材と塗膜の密着性の両方を意味する。
【0050】
銀ナノワイヤインクに添加されるバインダーには、導電性、光学性能(光の透過性が高くヘイズが小さいこと)、および密着性に優れることが要求される。しかし、これらを高度に満たすことは容易でない。バインダーは基本的には接着剤であるため、その選択を誤ると、銀ナノワイヤ同士の接触点間に接着剤が介在し、導電性を大幅に阻害することがある。また、接着剤であるが故に、インク中で銀ナノワイヤ同士がくっつき、凝集が生じやすくなるという問題もある。好適なバインダー成分として水溶性アクリル−ウレタン共重合樹脂を例示することができる。以下、水溶性アクリル−ウレタン共重合樹脂を適用する組成を例に挙げて説明する。
【0051】
〔インク組成〕
銀ナノワイヤインクの総量に占める質量割合において、銀ナノワイヤの含有量は0.02〜1.0質量%であることが好ましく、粘度調整剤の添加量は0.01〜1.0質量%、バインダー成分の添加量は、有効成分である水溶性アクリル−ウレタン共重合樹脂の添加量が0.01〜2.0質量%であることが好ましい。溶媒は水とアルコールの混合物であることが好ましく、質量割合でアルコールが5〜40質量%、残部が水であることが好ましい。アルコールとしては、溶解度パラメータ(SP値)が10以上の極性を有するものが好ましい。例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(2−プロパノール)などの低沸点アルコールが好適に使用できる。なお、SP値は、水:23.4、メタノール:14.5、エタノール:12.7、イソプロピルアルコールが11.5であるとされる。
【0052】
〔粘度と表面張力〕
銀ナノワイヤインクは、回転型粘度計によるシェアレート300(1/s)のときの粘度が1〜100mPa・s、表面張力が20〜80mN/mであることが塗布性に優れる。
粘度は、例えば、Thermo scientific社製回転型粘度計、HAAKE RheoStress 600(測定コーン:Cone C60/1°Ti、D=60mm、プレート:Meas. Plate cover MPC60)を用いて測定することができる。
表面張力は、全自動表面張力計(例えば、協和界面科学株式会社製全自動表面張力計、CBVP−Zを用いて測定することができる。
【0053】
〔銀ナノワイヤインクの分散安定性〕
分散安定性は、銀ナノワイヤインクを作成後、そのインクを収容した容器を静置し、インク作成直後および所定時間経過後に銀ナノワイヤインクを基材に塗布し、乾燥塗膜とし、この乾燥塗膜についてシート抵抗を測定することにより評価することができる。銀ナノワイヤの分散安定性が良好なインクでは、作成直後、4時間後、8時間後、24時間後のそれぞれのインクを塗布して得たシート抵抗値がほとんど変化せず一定となる。分散安定性の悪いインクでは銀ナノワイヤの沈殿に起因してインクの液中に分散している銀ナノワイヤの濃度が低下し、4時間後、8時間後、24時間後と経過時間の長いインクで形成した塗膜ほど、シート抵抗値が高くなる。このような分散安定性の悪いインクは、容器内のインクを目視すると、長時間経過後(8時間後、あるいは24時間後)に上澄みが透明になっていることが確認できる。
【0054】
この分散安定性は、透明導電体の製造上極めて重要である。銀ナノワイヤの重要な用途のひとつに透明導電フィルムがある。その製造過程では、透明基材であるPETフィルム上に、コーティング装置によりRoll to Rollで連続的に銀ナノインクがコーティングされ、その連続コーティング時間は長いときは半日にもなる。その間、銀ナノワイヤインクはコーティング装置のインクタンクの中に収容されているが、銀ナノワイヤの分散安定性が悪いと、このインクタンク内で銀ナノワイヤが沈殿・凝集を起こしてしまい、品質の安定したコーティング層を形成することが困難となる。
【実施例】
【0055】
〔実施例1〕
<マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーの作成>
蓋で密閉できる100mLのガラス容器に、溶媒である1,4−ジオキサン45gと、1−ビニル2ピロリドン10.014g、N−エチルマレイミド(分子量125.13)1.113g、および重合開始剤である2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)0.576gを入れ、マグネチックスターラーを用いて撹拌し、溶媒中に各物質を溶解させた。溶解後の溶液を撹拌しながらに、窒素ガスを10分間吹き込んだ後、蓋で容器を密閉し、窒素雰囲気を維持できるようにした。この溶液をマグネチックスターラーにより500rpmで撹拌しながら60℃で24時間保持した。24時間後、反応を止めるために、氷水の中に容器をつけ急速冷却した。
【0056】
未反応のモノマーや重合開始剤などを除去する目的で以下の洗浄操作を行った。
前記の24時間保持した溶液を、撹拌状態にある500mLのジエチルエーテル中にビュレットを使い滴下した。滴下することにより、ビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーが析出する。析出したビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーをメンブレンフィルターでろ過して回収し、これを室温真空乾燥により30分間乾燥させ、ビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーの固形物を得た(1回目の洗浄工程終了)。
【0057】
1回目の洗浄工程を終了したビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーの固形物を100mLのクロロホルムに溶解させた。この溶液を、撹拌状態にある500mLのジエチルエーテル中にビュレットを使い滴下した。滴下することにより、ビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーが析出する。析出したビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーをメンブレンフィルターでろ過して回収し、これを室温真空乾燥により30分間乾燥させ、ビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーの固形物を得た(2回目の洗浄工程終了)。
【0058】
2回目の洗浄工程を終了したビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーの固形物を再度100mLのクロロホルムに溶解させた。この溶液を、撹拌状態にある500mLのジエチルエーテル中にビュレットを使い滴下した。滴下することにより、ビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーが析出する。析出したビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーをメンブレンフィルターでろ過して回収し、これを60℃真空乾燥により24時間乾燥させ、ビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーの乾燥物を得た(3回目の洗浄工程終了)。
【0059】
以上の洗浄操作を経て、11.11質量部のマレイミド系モノマーと100質量部のビニルピロリドンが重合した構造を有するビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーの乾燥物が作成された。各モノマーの仕込み量を質量%に換算すると、エチルマレイミド10質量%、ビニルピロリドン90質量%となる。図2に、ビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーの構造式を示す。図中に記入されている小文字のアルファベット記号は、後述図3のNMR(核磁気共鳴分光法)によるスペクトルのピーク位置との対応関係を表すものである。
【0060】
得られたビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーについて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により重量平均分子量を求めた。まず、前処理として、コポリマーを溶離液であるN,N−ジメチルホルムアミド(30mM臭化リチウム添加)に溶解させ、この溶液を孔径0.45μmメンブレンフィルターでろ過した。フィルターを通過したろ液を測定用の試料溶液とした。その他の測定条件を以下に示す。
・カラム:TSKgel α−M×2+α−2500
・溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド(30mM臭化リチウム添加)
・流量:1.0mL/min
・検出器:RI検出器、光散乱検出器(MALS)
・カラム温度:40℃
・注入量:200μL
測定の結果、重量平均分子量は1,800,000と求まった。
【0061】
また、得られたビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーについて、NMR(核磁気共鳴法)スペクトルを測定した。図3にそのNMRスペクトルを示す。記号横軸は化学シフトである。測定されたNMRスペクトルには、図2に記入したアルファベット記号の位置に対応すると考えられるピークが観測された。すなわち、上記の手法で作成したビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーは、エチルマレイミドに由来する構造部分を有していることが確認できた。なお、図3中、「TMS」は標準物質として重クロロホルムに含まれているテトラメチルシラン(0ppm)を表す。また、溶媒に微量含まれているCHCl3およびH2Oのピークも示してある。
【0062】
<銀ナノワイヤの作成>
常温にて、50mLのバイアルビンに、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)26gをとり、その中に、上記で得たビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマー0.332g、塩化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.151g、水酸化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.195g、臭化カリウム含有量が0.25質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.166g、硝酸アルミニウム九水和物含有量が2質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.104gをそれぞれ添加して混合し、溶液Aとした。硝酸銀0.212gを1,2−プロパンジオール2g中に溶解させ、溶液Bとした。
【0063】
前記溶液Aの全量を常温から115℃まで昇温したのち、300rpmで20分間撹拌した。撹拌時間が20分を経過した後、115℃の溶液A中に、前記溶液Bをチューブポンプで1分間かけて添加し、さらに撹拌状態を維持して115℃で12時間保持することにより銀の析出反応が終了した反応液を得た。その後、反応液を常温まで冷却した。
【0064】
冷却後の反応液に純水150gとエタノール50gを添加し、遠心分離機により3000rpmで15分間の遠心分離操作を行った。濃縮物と上澄みが観察されたため、上澄み部分は除去し、濃縮物を回収した。
【0065】
上記で得られた濃縮物に純水150gとエタノール50gを添加し、10分間撹拌して濃縮物を液中に分散させた後、上記と同様に遠心分離機により3000rpmで15分間の遠心分離操作を行った。濃縮物と上澄みが観察されたため、上澄み部分は除去し、濃縮物を回収した。過剰な有機保護剤は良好な導電性を得るためにはマイナス要因となるので、この洗浄操作を更に数回繰り返し、濃縮物(固形分)を十分に洗浄した。
【0066】
洗浄後の固形分に純水を加えてこの固形分の分散液を得た。この分散液を分取し、溶媒の純水を観察台上で揮発させたのち高分解能FE−SEM(高分解能電界放出形走査電子顕微鏡)により観察した結果、固形分は銀ナノワイヤであることが確認された。図4A図4Bに、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。SEM観察において、無作為に選んだ5視野について観察される全ての銀ナノワイヤを測定対象として前述の定義に従い、平均直径および平均長さを求めた。測定対象のワイヤ総数は100個以上である。なお、直径測定は倍率150,000倍のSEM画像、長さ測定は高分解能SEM倍率2,500倍のSEM画像をそれぞれ用いて行った。
その結果、本例で得られた銀ナノワイヤの平均直径は31nm、平均長さは7.6μmであり、平均アスペクト比は7600nm/31nm≒245であった。
【0067】
この銀ナノワイヤはビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーで被覆されており、アルコールを添加した水系溶媒中での分散性が顕著に改善されている。
【0068】
〔実施例2〕
<マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーの作成>
実施例1におけるコポリマーの作成において、N−エチルマレイミド1.113gの代わりに、N−メチルマレイミド(分子量111.10)1.113gを添加したことを除き、実施例1と同じ条件でコポリマーを作成した。得られたコポリマーは、11.11質量部のマレイミド系モノマーと100質量部のビニルピロリドンが重合した構造を有するビニルピロリドン−メチルマレイミドコポリマーであり、各モノマーの仕込み量を質量%に換算すると、メチルマレイミド10質量%、ビニルピロリドン90質量%となる。図6に、ビニルピロリドン−メチルマレイミドコポリマーの構造式を示す。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定の結果、得られたビニルピロリドン−メチルマレイミドコポリマーの重量平均分子量は220,000であった。
【0069】
<銀ナノワイヤの作成>
常温にて、50mLのバイアルビンに、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)26gをとり、その中に、上記で得たビニルピロリドン−メチルマレイミドコポリマー0.192g、塩化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.151g、水酸化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.107g、臭化カリウム含有量が0.25質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.166g、硝酸アルミニウム九水和物含有量が2質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.104gをそれぞれ添加して混合し、溶液Aとした。硝酸銀0.212gを1,2−プロパンジオール2g中に溶解させ、溶液Bとした。
【0070】
前記溶液Aの全量を常温から115℃まで昇温したのち、300rpmで20分間撹拌した。撹拌時間が20分を経過した後、115℃の溶液A中に、前記溶液Bをチューブポンプで1分間かけて添加し、さらに撹拌状態を維持して115℃で12時間保持することにより銀の析出反応が終了した反応液を得た。その後、実施例1と同様の方法で洗浄を行い、銀ナノワイヤを得た。図7A図7Bに、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
【0071】
得られた銀ナノワイヤについて実施例1と同様の測定を行った結果、銀ナノワイヤの平均直径は40nm、平均長さは12.9μmであり、平均アスペクト比は12900nm/40nm≒323であった。
【0072】
この銀ナノワイヤはビニルピロリドン−メチルマレイミドコポリマーで被覆されており、アルコールを添加した水系溶媒中での分散性が顕著に改善されている。
【0073】
〔実施例3〕
<マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーの作成>
実施例1におけるコポリマーの作成において、N−エチルマレイミドの添加量を1.113gから0.113gに変更したことを除き、実施例1と同じ条件でコポリマーを作成した。得られたコポリマーは、1.128質量部のマレイミド系モノマーと100質量部のビニルピロリドンが重合した構造を有するビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーであり、各モノマーの仕込み量を質量%に換算すると、エチルマレイミド1質量%、ビニルピロリドン99質量%となる。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定の結果、得られたビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーの重量平均分子量は370,000であった。
【0074】
<銀ナノワイヤの作成>
常温にて、50mLのバイアルビンに、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)26gをとり、その中に、上記で得たビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマー0.393g、塩化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.151g、水酸化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.150g、臭化カリウム含有量が0.25質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.166g、硝酸アルミニウム九水和物含有量が2質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.104gをそれぞれ添加して混合し、溶液Aとした。硝酸銀0.212gを1,2−プロパンジオール2g中に溶解させ、溶液Bとした。
【0075】
前記溶液Aの全量を常温から115℃まで昇温したのち、300rpmで20分間撹拌した。撹拌時間が20分を経過した後、115℃の溶液A中に、前記溶液Bをチューブポンプで1分間かけて添加し、さらに撹拌状態を維持して115℃で12時間保持することにより銀の析出反応が終了した反応液を得た。その後、実施例1と同様の方法で洗浄を行い、銀ナノワイヤを得た。図8に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
【0076】
得られた銀ナノワイヤについて実施例1と同様の測定を行った結果、銀ナノワイヤの平均直径は45nm、平均長さは10.9μmであり、平均アスペクト比は10900nm/45nm≒242であった。
【0077】
この銀ナノワイヤはビニルピロリドン−エチルマレイミドコポリマーで被覆されており、アルコールを添加した水系溶媒中での分散性が顕著に改善されている。
【0078】
〔実施例4〕
<マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーの作成>
実施例3におけるコポリマーの作成において、N−エチルマレイミドをN−プロピルマレイミド(分子量139.15)に変更したことを除き、実施例1と同じ条件でコポリマーを作成した。得られたコポリマーは、1.128質量部のマレイミド系モノマーと100質量部のビニルピロリドンが重合した構造を有するビニルピロリドン−プロピルマレイミドコポリマーであり、各モノマーの仕込み量を質量%に換算すると、プロピルマレイミド1質量%、ビニルピロリドン99質量%となる。図10に、ビニルピロリドン−プロピルマレイミドコポリマーの構造式を示す。
【0079】
<銀ナノワイヤの作成>
常温にて、50mLのバイアルビンに、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)26gをとり、その中に、上記で得たビニルピロリドン−プロピルマレイミドコポリマー0.472g、塩化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.151g、水酸化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.150g、臭化カリウム含有量が0.25質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.185g、硝酸アルミニウム九水和物含有量が2質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.104gをそれぞれ添加して混合し、溶液Aとした。硝酸銀0.212gを1,2−プロパンジオール2g中に溶解させ、溶液Bとした。
【0080】
前記溶液Aの全量を常温から115℃まで昇温したのち、300rpmで20分間撹拌した。撹拌時間が20分を経過した後、115℃の溶液A中に、前記溶液Bをチューブポンプで1分間かけて添加し、さらに撹拌状態を維持して115℃で12時間保持することにより銀の析出反応が終了した反応液を得た。その後、実施例1と同様の方法で洗浄を行い、銀ナノワイヤを得た。図11に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
【0081】
得られた銀ナノワイヤについて実施例1と同様の測定を行った結果、銀ナノワイヤの平均直径は30nm、平均長さは9.2μmであり、平均アスペクト比は9200nm/30nm≒307であった。
【0082】
この銀ナノワイヤはビニルピロリドン−プロピルマレイミドコポリマーで被覆されており、アルコールを添加した水系溶媒中での分散性が顕著に改善されている。
【0083】
〔実施例5〕
<マレイミド系モノマーとビニルピロリドンとのコポリマーの作成>
実施例3におけるコポリマーの作成において、N−エチルマレイミドをN−tert−ブチルマレイミド(分子量153.18)に変更したことを除き、実施例1と同じ条件でコポリマーを作成した。得られたコポリマーは、1.128質量部のマレイミド系モノマーと100質量部のビニルピロリドンが重合した構造を有するビニルピロリドン−ブチルマレイミドコポリマーであり、各モノマーの仕込み量を質量%に換算すると、ブチルマレイミド1質量%、ビニルピロリドン99質量%となる。図13に、ビニルピロリドン−tert−ブチルプロピルマレイミドコポリマーの構造式を示す。
【0084】
<銀ナノワイヤの作成>
常温にて、50mLのバイアルビンに、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)26gをとり、その中に、上記で得たビニルピロリドン−ブチルマレイミドコポリマー0.402g、塩化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.151g、水酸化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.195g、臭化カリウム含有量が0.25質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.166g、硝酸アルミニウム九水和物含有量が2質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.104gをそれぞれ添加して混合し、溶液Aとした。硝酸銀0.212gを1,2−プロパンジオール2g中に溶解させ、溶液Bとした。
【0085】
前記溶液Aの全量を常温から115℃まで昇温したのち、300rpmで20分間撹拌した。撹拌時間が20分を経過した後、115℃の溶液A中に、前記溶液Bをチューブポンプで1分間かけて添加し、さらに撹拌状態を維持して115℃で12時間保持することにより銀の析出反応が終了した反応液を得た。その後、実施例1と同様の方法で洗浄を行い、銀ナノワイヤを得た。図14に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
【0086】
得られた銀ナノワイヤについて実施例1と同様の測定を行った結果、銀ナノワイヤの平均直径は33nm、平均長さは10.3μmであり、平均アスペクト比は10300nm/33nm≒312であった。
【0087】
この銀ナノワイヤはビニルピロリドン−ブチルマレイミドコポリマーで被覆されており、アルコールを添加した水系溶媒中での分散性が顕著に改善されている。
【0088】
〔比較例1〕
有機保護剤として、市販のアルキル化PVP(ISP社製、Antaron V−904LC)を使用した。これは、ビニルピロリドンと、10質量%のアルキル付加ビニルピロリドンとのコポリマーである。
【0089】
<銀ナノワイヤの作成>
常温にて、50mLのバイアルビンに、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)20.8gをとり、その中に、上記のアルキル化PVP0.56g、塩化リチウム含有量が0.5質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.14g、水酸化リチウム含有量が1質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.150g、硝酸アルミニウム九水和物含有量が2質量%である1,2−プロパンジオール溶液0.14gをそれぞれ添加して混合し、溶液Aとした。硝酸銀0.17gを1,2−プロパンジオール2g中に溶解させ、溶液Bとした。
【0090】
前記溶液Aの全量を常温から115℃まで昇温したのち、300rpmで20分間撹拌した。撹拌時間が20分を経過した後、115℃の溶液A中に、前記溶液Bをチューブポンプで1分間かけて添加し、さらに撹拌状態を維持して115℃で12時間保持することにより銀の析出反応が終了した反応液を得た。その後、実施例1と同様の方法で洗浄を行い、銀ナノワイヤを得た。図8に、その銀ナノワイヤのSEM写真を例示する。
【0091】
得られた銀ナノワイヤについて実施例1と同様の測定を行った結果、銀ナノワイヤの平均直径は75nm、平均長さは3.7μmであり、平均アスペクト比は3700/75nm≒49であった。この銀ナノワイヤはアルキル化PVPで被覆されており、アルコールを添加した水系溶媒中での分散性は改善されるが、この種の有機保護剤を用いて細く、長い形状のワイヤを合成することは難しい。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16