特許第6703806号(P6703806)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703806
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】低抗凝固剤ヘパリン
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/10 20060101AFI20200525BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 31/357 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 31/727 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 33/06 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C08B37/10
   A61K31/122
   A61K31/155
   A61K31/357
   A61K31/727
   A61P33/06
   A61P43/00 121
【請求項の数】22
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-547145(P2014-547145)
(86)(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公表番号】特表2015-500387(P2015-500387A)
(43)【公表日】2015年1月5日
(86)【国際出願番号】SE2012051428
(87)【国際公開番号】WO2013095276
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年12月16日
【審判番号】不服2018-8069(P2018-8069/J1)
【審判請求日】2018年6月12日
(31)【優先権主張番号】PCT/SE2011/051538
(32)【優先日】2011年12月19日
(33)【優先権主張国】SE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514153218
【氏名又は名称】モーダス セラピューティクス アクチエボラゲット
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エイキュラ,ハンス−ペータ
(72)【発明者】
【氏名】リンダール,ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】ホルマー,エリック
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,ペル−オルブ
(72)【発明者】
【氏名】ライトゲプ,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ボールグレーン,マッツ
(72)【発明者】
【氏名】ティーディア,ステファーニャ
(72)【発明者】
【氏名】リヴェラーニ,リーノ
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 齊藤 真由美
【審判官】 冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表平6−502398(JP,A)
【文献】 特表2007−537169(JP,A)
【文献】 特開平2−157223(JP,A)
【文献】 特開2018−154848(JP,A)
【文献】 CARBOHYDRATE RESEARCH,Vol.337,(2002年),p.2239−2243
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/10, A61K 31/727
JSTPlus (JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580 (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学修飾ヘパリンであって、
(i)10 IU/mgまでの抗因子IIa活性、
(ii)10 IU/mgまでの抗因子Xa活性、及び、
(iii)6.5乃至9.5kDaの重量平均分子量を有し;
該化学修飾ヘパリンの多糖鎖が:
(iv)主な構造として、以下に示された二糖単位と末端スレオニン残基を有し:
【化1】

(式中、nは2から25までの整数であるため、多糖鎖は1.2〜15kDaの分子量に相当する2から25個の二糖単位を含む。)
v)対応する化学修飾されていないヘパリン中の硫酸基の少なくとも90%を保持し;
(vi)化学修飾により、該化学修飾されていないヘパリンの多糖鎖に比較して、アンチトロンビン媒介性の抗凝固作用を与えることに関与する化学的にインタクトな五糖配列に減少があり;
該五糖配列が、以下の化学構造を有し:
【化2】

(式中、RはCOCH又は−SOである。);
(vii)化学修飾により、該化学修飾されていないヘパリンの多糖鎖に比較して、非硫酸化イズロン酸単位及び非硫酸化グルクロン酸単位に減少があり;そして、
(viii)該化学修飾ヘパリンが、化学修飾されていないヘパリンの5.42ppmにおける参照シグナルの高さと比較して、0.10−2.00ppm、2.10−3.10ppm、及び5.70−8.00ppmの範囲において、4パーセントを超える高さの未同定のシグナルがないH−NMRスペクトルを有する、
該化学修飾ヘパリン。
【請求項2】
主に存在する多糖鎖が、6〜16個の二糖単位(分子量:3.6〜9.6kDa)を有する、請求項1に記載の化学修飾ヘパリン。
【請求項3】
前記多糖鎖の少なくとも30%が少なくとも8kDaの分子量をもつ、請求項1又は2に記載の化学修飾ヘパリン。
【請求項4】
以下の化学構造:
【化3】

のグリコール分割残基を含んでなる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリン。
【請求項5】
前記多糖鎖の3乃至15%が、少なくとも15kDaの分子量を有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリン。
【請求項6】
前記多糖鎖の25乃至47%が、少なくとも9kDaの分子量を有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリン。
【請求項7】
前記多糖鎖の40乃至60%が、少なくとも7kDaの分子量を有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリン。
【請求項8】
前記多糖鎖の60乃至80%が、少なくとも5kDaの分子量を有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリン。
【請求項9】
前記多糖鎖の少なくとも85%が、少なくとも3kDaの分子量を有する、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリン。
【請求項10】
前記多糖鎖の少なくとも95%が、少なくとも2kDaの分子量を有する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリン。
【請求項11】
マラリアを治療するための方法に使用する請求項1乃至10のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリンであって、
該方法が、該化学修飾ヘパリンの治療有効量を、かかる治療を必要とする患者に投与することを含む、化学修飾ヘパリン。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリンの治療有効量を、薬学的及び薬理学的に許容される担体と一緒に含んでなる医薬組成物。
【請求項13】
10 IU/mgまでの抗因子IIa活性と、10 IU/mgまでの抗因子Xa活性と、及び6.5乃至9.5kDaの平均分子量(重量平均、Mw)とをもつ化学修飾ヘパリンを調製する方法であって、以下の連続した工程(a)〜(c)を含み:
(a)化学修飾されていないヘパリンを、非硫酸化糖残基を酸化できる酸化剤にさらすことにより非硫酸化糖残基を酸化すること;
(b)得られた酸化糖残基を還元すること;及び
(c)3乃至4の酸性pHにおける加水分解により多糖鎖を解重合すること;
さらに、前記還元工程(b)と前記解重合工程(c)との間に、いかなる残留酸化剤も除去しかつ還元型の酸化剤を取り除く工程を含んでなる方法。
【請求項14】
pH3.0乃至3.5の酸性pHにおける加水分解によりヘパリン鎖を解重合することを含んでなる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記除去工程が、前記化学修飾ヘパリンを沈殿させるのに充分な量のアルコールを添加することを含んでなる、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
解重合が、少なくとも20℃の温度において実施される、請求項13乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記化学修飾ヘパリン中の、5.5乃至10.5kDaの分子量を有する多糖鎖を豊富にする、請求項13乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
非硫酸化イズロン酸及び非硫酸化グルクロン酸の非硫酸化糖残基が過ヨウ素酸化合物により酸化される、請求項13乃至17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の化学修飾ヘパリンと、マラリアの治療のための別の薬剤とを含んでなる組合せ物。
【請求項20】
前記別の薬剤が、アトバキノン/プログアニル複合剤である、請求項19に記載の組合せ物。
【請求項21】
前記別の薬剤が、アルテスネートである、請求項19に記載の組合せ物。
【請求項22】
化学修飾ヘパリンに含まれる多糖鎖の主な二糖単位が以下の化学構造を有する、請求項13乃至18のいずれか1項に記載の方法。
【化4】

(式中、nは2から25までの整数であるため、多糖鎖は1.2〜15kDaの分子量に相当する2から25個の二糖単位を含む。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗凝固活性の低い化学修飾されたヘパリン及びその製造法に関する。化学修飾されたヘパリンは、ヘパリンが有効とされてきた疾患を治療するのに有用であるが、マラリアなどの副作用を受けやすいとされてきた。
【背景技術】
【0002】
ヘパリンは、天然に生じるGAG(グルコサミノグリカン)であり、ヒト及び動物の、いわゆる肥満細胞において、細胞内で合成及び貯蔵される。ブタ腸粘膜から工業的に調製されたヘパリンは、強力な抗凝固剤であり、60年を超えて血栓塞栓性疾患の予防及び治療のための選択薬として臨床的に使用されてきた。ヘパリン治療について可能性のある主な副作用は、その抗凝固特性によって引き起こされる出血性合併症である。ヘパリンは、高度に多分散性であり、5乃至40kDaの範囲の、平均約15乃至18kDaの分子量をもつ多糖類の異種集団からなる。
【0003】
ヨーロッパ薬局方第6版(European pharmacopeia 6.0)によれば、低分子量/質量ヘパリン(LMWH)は、「8未満の質量平均分子質量を有し、その全質量の少なくとも60パーセントが8kDa未満の質量を有する、硫酸化GAGの塩」として定義される。低分子質量ヘパリンは、多糖鎖の還元又は非還元末端において様々な化学構造を示す。」「乾燥した物質について計算された力価は、ミリグラムあたり70 IU以上の抗Xa因子活性である。抗IIa因子に対する抗Xa因子活性の比は、1.5以上である。」臨床上使用されるLMWHは、3から15kDaにわたり、平均約4乃至7kDaの分子量を有する。ヘパリンのコントロールされた解重合/分画によって製造されたLMWHは、出血誘発傾向の低下、バイオアベイラビリティの増大、及び皮下注射後の半減期の延長を含む、より良好な薬理学的及び薬物動態学的特性を示す。
【0004】
ヘパリンはその抗凝固活性を、主としてセリンプロテアーゼ阻害剤、アンチトロンビン(AT)への高親和性結合及び活性化を介して及ぼす。結合は、特異的な五糖配列により媒介される。血液凝固の重要な生理学的阻害剤であるATは、これらの因子と安定な複合体を形成することにより、活性化された凝固因子を中和する。ヘパリンの結合は、凝固因子の阻害速度を劇的に増大する立体変化をATに引き起こし、それにより血液凝固及び血栓形成を減衰させる。
【0005】
熱帯熱マラリア原虫(プラスモジウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum))によってもたらされる感染症は、しばしばヒトにおいて重症マラリアを引き起こす。寄生された赤血球(pE)は、深部微細血管内に、並びに未感染の赤血球に結合する(インビボ:捕捉する(sequestrate))、いわゆるロゼッティング(rosetting)と称される能力を有する。pEの捕捉及びロゼッティングは、結合が過剰である場合には、重症疾患の発生を増大させる;血流を遮断し、酸素送達を低減し、かつ組織損傷を引き起こす。
【0006】
ヘパリンは、重症マラリアの間に生じる病理の治療において有用な薬剤として示唆されてきた。ヘパリンは、マラリア患者において播種性血管内凝固(DIC)の存在が示唆されたことから、従来重症マラリアの治療において使用されたが、頭蓋内出血などの重い副作用の発生のため中止された。さらに、pE凝集は主として血液凝固にではなく、pE表面上の寄生虫誘発性タンパク質と、赤血球及び血管内皮細胞上のヘパラン硫酸(ヘパリン関連GAG)との間の、非共有結合性相互作用に起因することが見出された。ヘパリンの効果は、この相互作用と競合するその能力に起因する(非特許文献1)。それ故、その適切なサイズ及び電荷の鎖の分布について設計された、抗凝固活性及び出血誘導能が著しく低減されたヘパリン誘導体に、医学的ニーズがある。特許文献1(Ekreら)は、マラリア治療のための、低減された抗凝固活性をもつヘパリンの使用を開示している。
【0007】
非特許文献2は、マラリア患者からの新鮮な臨床分離体のロゼットを破壊することが判明していている、低抗凝固ヘパリンを用いた有望な研究を報告する。
【0008】
要約すれば、本質的な点においてはヘパリンのポリアニオン性をもつが、抗凝固作用を欠くヘパリン誘導体は、ヘパリンの抗凝固作用が重い副作用とみなされる疾患を治療するための優れた候補となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,472,953号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Vogtら、「Plos Pathog.」、2006年、2、e100.
【非特許文献2】AM Leitgeibら、「Am.J.Trop.Med.Hyg」、2011年、第84巻、第3号、p.380−396.
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、多糖鎖由来の治療効果は保持するとともに、低い抗凝固効果を有している、選択的に調製された化学修飾ヘパリンに関する。
【0012】
本発明に関しては、ヘパリンの抗凝固活性は、ATによる凝固因子Xa及びIIa(トロンビン)の阻害を強化する臨床機能に関係する。他の用語は、以下の記載の関係する文脈において定義されるものとする。
【0013】
一態様において、本発明は、10 IU/mg未満の抗因子II活性と、10 IU/mg未満の抗因子Xa活性と、及び約6.5乃至約9.5kDaの平均分子量(重量平均、Mw)とをもつ化学修飾ヘパリンを調製する方法に関する。方法は一般に、水溶液中に存在するヘパリンを、非硫酸化糖残基を酸化できる酸化剤にさらすことにより選択的に酸化すること、及び次に、得られた酸化糖残基を還元すること、の工程を含んでなる。方法はまた一般に、約3乃至約4の酸性pHにおける加水分解により、酸化されかつ還元されたヘパリン鎖を解重合することを含んでなる。方法は、一般的な順序で、今述べたばかりの方法で連続的に酸化すること、還元すること、及び加水分解によって解重合することにより実行し得るが、他の補足的な工程段階を任意の適当な順序で加えてもよい。
【0014】
解重合は、所望の分子量をもつ適切に分画された鎖を得る目的で、少なくとも約20℃の温度において実施する。所望の鎖の選択を支持するため、方法はまた一般に、約5.5乃至約10.5kDaの分子量を有する多糖鎖を富化する工程を含み得る。富化工程は一般に、バイオポリマー製造の当業者には周知の、通常のクロマトグラフ法か、濾過法か、又は篩分け法を含む。
【0015】
本発明による方法は、さらに、残留酸化剤を除去する少なくとも1つの工程を含んでなっていてもよい。
【0016】
加えて、本発明による方法は、還元型の酸化剤を取り除くことを含む、少なくとも1つの除去工程を含んでなっていてもよい。この状況において、還元型とは、ヘパリン中の標的糖残基の酸化に寄与した後に、還元された形態へ変換された酸化剤を意味する。またこの状況において、還元工程は、残留酸化剤の消費(還元)に寄与する、酸化ヘパリンを還元することとは別の還元剤を添加する工程を含んでなっていてもよい。
【0017】
一態様においては、本発明による方法は、記載された還元工程と記載された解重合工程との間で、いかなる残留酸化剤も除去しかつ還元型の酸化剤を取り除く工程を含んでなる。解重合は、pH3.0乃至3.5における加水分解により実施し得る。
【0018】
したがって、一態様においては、本発明は未分画ヘパリンを選択的に酸化する連続的な工程を含んでなる方法であって、非硫酸化糖類を酸化することができる酸化剤にそれをさらすこと;得られた酸化された糖類を還元すること;残留酸化剤及び還元型の酸化剤を除去すること;及び約3乃至約3.5の酸性pHにおける加水分解により、ヘパリン鎖を解重合することによる、該方法を対象とする。
【0019】
除去の工程は、化学修飾ヘパリンを沈殿させるのに充分な量のアルコールを添加することを含んでなっていてもよい。アルコールは、メタノール、エタノール、又は同様のアルコールでよく、化学修飾ヘパリンが沈殿されるようにするとともに、酸化剤及びその還元型がアルコールによって取り除かれるようにする。
【0020】
除去の工程はまた、酸化剤がヘパリンに対しさらなる酸化効果を及ぼすのを化学的に不活性化させ得るクエンチ剤の添加も含むことができる。そのように記載された除去工程又は複数の除去工程は、本発明らによって、ヘパリンの非特異的な解重合、即ち酸性加水分解の予測可能な結果に帰すことができない解重合作用を、妨害するか又は最小限にするのに寄与するものと一般的にみなされる。非特異的解重合は、結果として、予測不能な分子量減少、変色した生成物(不安定な吸収値)、安定性に関する他の問題、及びヘパリン又は低分子量ヘパリンにおいて到達することが予測されなかった未確認の残基の出現をもたらし得る。
【0021】
酸化工程後の除去工程の導入は、任意の非特異的解重合に対し、改良されたコントロールを可能にする。非特異的解重合をコントロールする、任意の前述の方法に適用可能な別の方法は、アルコールを添加する際の、前の沈殿工程又は複数の工程を通じて温度を周囲温度(室温)より著しく下げることである。例えば、結果として非特異的解重合をもたらす望ましくない反応を防止するためには、温度を約5℃まで下げてもよい。
【0022】
本発明によれば、ヘパリンは選択的に酸化され、それによりATと特異的な五糖との間の相互作用により媒介される抗凝固作用を阻害する。酸化は、2つの隣接した遊離のヒドロキシルをもつグリコールを選択的に分割し、得られた生成物は「グリコール分割」生成物と称される。このため、未分画ヘパリンの組成物は、例えば米国特許第4,990,502号明細書の開示に従い、適当な反応媒体中で、メタ過ヨウ素酸ナトリウムなどの過ヨウ素酸塩化合物で処理される。他の酸化剤は、それらが非硫酸化残基に対し、最終生成物において要求されるような硫酸塩のクリティカルレベルを損なうことなく、同様の化学的インパクトを与える場合には有用となる。過ヨウ素酸化合物が酸化剤として使用される場合、それはヨウ素酸塩へ、続いて還元工程において、集合的に「ヨウ素化合物」と称される別の不活性型のヨウ素へ還元される。本発明のプロセスの除去工程は、いかなるヨウ素化合物の酸化作用も除去又は最小限にするため、及び非特異的解重合を妨害する( )最小限にする方法で、プロセスからヨウ素化合物を取り除くために役立つ。この理由から、除去工程はアルコールを用いた1つ又は2つの沈殿工程を含んでなり得る。それはまた、化学的及び選択的に酸化剤を除去する目的で、2つの近接したヒドロキシル基をもつクエンチ剤、例えばエチレングリコール、グリセロール、及び同様の薬剤を添加することも含み得る。
【0023】
酸化されたヘパリンはその後、例えばアルコール沈殿による単離の後、還元剤、適切にはホウ素化水素ナトリウムを用いて、例えば米国特許第4,990,502号明細書に従って処理される。他の還元剤は、酸化されたグルクロン/イズロン酸残基の同様の還元を、ホウ素化水素ナトリウムのように他の糖残基の硫酸基を不必要に修飾又は破壊することなく実行し得る場合には、使用してもよい。そのように還元された鎖は、例えばアルコール沈殿により単離可能であり、解重合工程へ移される。
【0024】
そのように記載された方法において未分画ヘパリンを用いることは、廃棄物を減らすこと及び費用効果を高めることに寄与しかつ、望ましい多糖鎖長と保持された硫酸基とをもつ組成物製品の供給を支持し得ることから、一般に本発明に有利であると考えられる。
【0025】
解重合工程は、水溶液中で、約15乃至約25%w/vの修飾ヘパリン濃度において実施し得る。次いで、強力な酸性化剤を、約3乃至約4のpHまで混合する。適切なpH範囲は、約3.0乃至約3.5である。約3.0のpH値は、本発明の方法によれば適切であるが、pH3.5もまた適することが判明しており、概説された分子量範囲内の化学修飾ヘパリンを産生することができる。本発明のプロセスは、4乃至10時間の時間枠内で操作する場合、加水分解工程のプロセス時間によってコントロール可能な、このpH範囲内のフレキシビリティを許すことが判明している。塩酸は、本発明のプロセスにとり適切な酸であるが、他の強酸も、それらが硫酸基を実質的に破壊しない場合には有用であると判定し得る。上記に規定した条件を適用することにより、適切な鎖長と貯蔵安定性とをもつ製品が、薬学的に有用な組成物へのその後のワークアップのために回収される。
【0026】
方法は、非硫酸化グルクロン/イズロン酸が化学的に修飾され、かつ主として還元末端、レムナント末端として生じることから、多糖鎖長内の硫酸基の全体的な富化をもたらす。方法はしたがって、硫酸基を保持すること、及びそれ故、天然ヘパリンの硫酸化されたドメインを保持する条件を含む。方法はまた、望ましい治療効力を支持し、かつ他の記載された低抗凝固性ヘパリンに比較して治療指数を改善するとみなされる、有利なサイズ分布をもつ鎖をもたらす。本発明は、総括的に言えば、列挙した方法により調製された化学修飾ヘパリンまで拡張される。
【0027】
本発明は、記載された方法で製造し得る、10 IU/mg未満の抗因子II活性、10 IU/mg未満の抗因子Xa活性と、及び約6.5乃至約9.5kDaの平均分子量(Mw)とをもつ、化学修飾ヘパリンを対象とする。本発明による化学修飾ヘパリンは、少なくとも90%の硫酸基を保持する多糖鎖を有する。本発明による化学修飾ヘパリンは、ヘパリンが二糖単位あたり平均2.4個の硫酸基を含有し、かつイズロン酸、I2Sあたり1個の硫酸基が、また主なグルコサミン変異体、GlcNSに2個の硫酸基があるとすれば、100個の二糖単位からなる二糖単位あたり、約1個の硫酸基を失っており、全硫酸基含量の1%未満の硫酸基の減少に相当する。
【0028】
本発明の一態様は、10 IU/mg未満の抗因子II活性と、10 IU/mgまでの抗因子Xa活性と、及び約6.5乃至約9.5kDaの平均分子量とをもつ、化学修飾ヘパリンであり、これにおいて多糖鎖は:
(i)対応する天然ヘパリンの硫酸基の少なくとも90%を保持し;
(ii)1.2乃至15kDaの分子量に相当する、2乃至25個の二糖単位を含んでなり;
(iii)天然ヘパリンの多糖鎖に比較して、アンチトロンビン媒介性の抗凝固作用を与える化学的にインタクトな糖配列に減少があり;かつ
(iv)天然ヘパリンに比較して、非硫酸化グルクロン及び/又はイズロン酸単位に減少がある。
【0029】
化学修飾ヘパリンは、約1.2乃至約15kDaの分子量に相当する、2乃至25個の二糖単位を含んでなる。化学修飾ヘパリンは、天然ヘパリンの多糖鎖に比較して、アンチトロンビン(AT)媒介性の抗凝固作用に関与する化学的にインタクトな五糖配列に減少があり、かつ天然ヘパリンに比較して、非硫酸化グルクロン及びイズロン酸残基に減少がある多糖鎖を有する。
【0030】
本発明の一態様は、分子量3.6乃至9.6kDaの、6乃至16個の二糖単位をもつ、主に生じる多糖鎖を含んでなる化学修飾ヘパリンである。用語「主に」は、この文脈では「しばしば最も多く存在する」多糖鎖の意味をもつ。
【0031】
本発明の一態様は、少なくとも分子量8kDaの、少なくとも30%の多糖鎖をもつ化学修飾ヘパリンである。
【0032】
本発明の一態様は、スレオニン残基により、又はスレオニンの誘導体、例えばそのエステルもしくはアミドにより終端する鎖を含んでなる、化学修飾ヘパリンである。スレオニン残基は、以下に末端基として図示される。
【0033】
本発明の一態様においては、化学修飾ヘパリンの多糖鎖の3乃至15%は、少なくとも15kDaの分子質量を有する。
【0034】
本発明の一態様においては、化学修飾ヘパリンの多糖鎖の25乃至47%は、少なくとも9kDaの分子質量を有する。
【0035】
本発明の一態様においては、化学修飾ヘパリンの多糖鎖の40乃至60%は、少なくとも7kDaの分子質量を有する。
【0036】
本発明の一態様においては、化学修飾ヘパリンの多糖鎖の60乃至80%は、少なくとも5kDaの分子質量を有する。
【0037】
本発明の一態様においては、化学修飾ヘパリンの多糖鎖の85%は、少なくとも3kDaの分子質量を有する。
【0038】
本発明の一態様においては、化学修飾ヘパリンの多糖鎖の95%は、少なくとも2kDaの分子質量を有する。
【0039】
さらなる一態様においては、本発明の化学修飾ヘパリンは、以下の表による、重量の累積%で表わされた、多糖の分布及びその対応する分子質量を有する:
【0040】
【表1】
【0041】
さらなる一態様においては、本発明の化学修飾ヘパリンは、以下の表による、重量の累積%で表わされた、多糖の分布及びその対応する分子質量を有する:
【0042】
【表2】
【0043】
本発明による化学修飾ヘパリンは、主な構造として、末端スレオニン残基と共に以下に図示した二糖をもつ多糖鎖を有する。主な二糖は、約600Daの分子量を有する。
【0044】
【化1】
【0045】
(式中、nは2−25の整数である)
本発明のさらなる一態様においては、本発明による化学修飾ヘパリンは、以下の化学構造を有するグリコール分割残基を含んでなる:
【0046】
【化2】
【0047】
グリコール分割残基は、方法及び特異的な加水分解工程に関する文脈において先に議論されたような、酸化及び還元プロセスの結果として、化学修飾ヘパリンの多糖鎖中に出現する。それらはまた、先に記載された解重合(加水分解)工程の有効性の指標とみなし得る。それはさらに、グリコール分割残基の出現の化学的言及に関する米国特許第4,990,502号明細書が参照される。図示されたグリコール分割残基は、非硫酸化イズロン酸及びグルクロン酸の酸化及び還元に由来する。
【0048】
本発明による化学修飾ヘパリンは、5.0乃至6.5ppmの範囲内にH−NMRスペクトルを有しており、これは、何ら0.1(mol)%を上回る大きさのプロトンシグナルがないことにより、天然ヘパリンからのH−NMRスペクトルに適合する。
【0049】
本発明の一態様においては、本明細書に記載されたような化学修飾ヘパリンは、欧州評議会、欧州医薬品品質部門(EDQM)、2012により設定されたヘパリン承認基準に合致するH−NMRスペクトルを有すること、例えば、0.10−2.00ppm、2.10−3.10ppm、及び5.70−8.00ppmの範囲において、5.42ppmにおけるヘパリンシグナルの高さに比較して、4パーセントを超えて大きい任意の未確認のシグナルがないことにより、現在承認されているヘパリン基準に適合する。
【0050】
一態様においては、本発明による化学修飾ヘパリンは、2,000乃至15,000ダルトンの間に約90%が分布する、約7,500ダルトンの相対平均分子質量範囲を有する;硫酸化の程度は、二糖単位あたり2乃至2.5である。
【0051】
本発明の一態様においては、本明細書に記載されたような化学修飾ヘパリンは、ATへの結合部位以外の別のヘパリン領域に関連して既に開示された療法にとり、有用であり得る。例としては、制限するものではないが、炎症の治療、神経変性性疾患の治療、組織修復、卒中、ショック特に敗血症性ショックの予防及び治療、並びに転移の発生防止などの領域を包含する。
【0052】
本発明の一態様は、マラリアの治療において有用な、化学修飾ヘパリンである。本明細書において開示されたような化学修飾ヘパリンは、血液の異常な粘着作用により引き起こされる、マラリア由来の閉塞性作用を予防又は治療することにおいて有用であり得る。
【0053】
本発明の一態様は、本明細書に開示されたような化学修飾ヘパリンと、別のマラリア薬との併用である。本発明の一態様においては、かかる併用は、化学修飾ヘパリンと、アトバクオン/プログアニル又はアルテスネート(非経口)とを含んでなる。本発明の併用態様における、マラリア薬の例は、単独で又は互いに組合せて使用するための薬剤であり、アルテメテール、ルメファントリン、アモジアキン、メフロキン、スルファドキシン、ピリメタミン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ダプソン、クリンダマイシン、キニン、テトラサイクリン、アトバキノン、プログアニル、クロロキン、プリマキン、スルファドキシン、アモジアキン、ジヒドロアルテミシニ、ピペラキン、ジヒドロアルテミシニン、及びピペラキンである。
【0054】
本発明のさらなる一態様においては、本明細書に開示されたような化学修飾ヘパリンは、マラリア薬と同時に又は連続的に、即ちマラリア薬との補助療法において投与し得る。
【0055】
用語「マラリア薬」は、寄生虫感染症を治療するために既に確立された薬剤などの、マラリアの治療用に通常使用される薬剤を包含する。本発明のさらなる一態様は、マラリアを治療するための方法であって、治療有効量の本明細書に記載されたような化学修飾ヘパリンを、かかる治療を必要とする患者に投与することを含んでなる、該方法である。
【0056】
本発明のさらなる一態様は、本明細書に記載されたような化学修飾ヘパリンを、薬学的及び薬理学的に許容される担体と一緒に含んでなる医薬組成物である。本発明のさらなる一態様においては、本明細書に記載されたような医薬組成物は、皮下又は静脈内注射によるなど、非経口的投与によって全身投与してもよい。さらなる一態様においては、本明細書に記載されたような医薬組成物は、経口的に投与してもよい。非経口投与用には、活性化合物は溶液又は懸濁液中に取り込まれていてもよく、それはまた、無菌の希釈剤、例えば注射用の水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセロール、プロピレングリコール、又は他の合成溶媒、抗菌薬、抗酸化剤、キレート剤、緩衝剤、及び浸透圧を調整するための薬剤などの、1つ以上のアジュバントも含有する。非経口用の製剤は、アンプル、バイアル、また自己投与用のプレフィルド又はディスポーザブルシリンジ、或いは静脈内又は皮下注入用などの注入装置として送達し得る。本発明による化学修飾ヘパリンは、皮下に、かつ適切な自己投与式の用具、例えばインジェクタを用いて投与してもよい。
【0057】
本明細書に記載のような化学修飾ヘパリンを含んでなる医薬組成物は、1つ又はいくつかの、通常の薬学的に許容される担体の組合せを含んでなっていてもよい。担体又は賦形剤は、活性物質のためのビヒクルとしての役割を果たし得る、固体、半固体、又は液状の物質であってよい。組成物は、単回用量で、24時間ごとに、1−30、好ましくは1−10日の期間にわたり投与し得る。用量は、所与の体重あたり0.5−6mg/kgでよく、静脈内に6又は8時間ごとに、又は皮下に毎日1−4回のいずれかで与えられる。推算される単回用量は、25−100mg/日の化学修飾ヘパリンであるが、1gまで、又はそれより多くてもよい。用量は、投与の形態に関連する。記載された医薬組成物はさらに、先のセクションで概説したような補足的又は相補的療法を用いてマラリアを治療するのに適した、追加の薬剤を含んでなっていてもよい。本発明の化学修飾ヘパリンは、例えば、P.ファルシパルム(falciparum)赤血球膜タンパク質1(PfEMP1)を標的とすることにより、抗凝固作用に無関係な治療活性を及ぼす目的で、天然の形態に含まれる充分量の硫酸基を保持すること、及び、同時に五糖に固有の抗凝固活性を廃止又は大部分を低減させることが必要となる。また、本発明らは、セレクチン阻害、並びに他のヘパリン依存性の生物学的作用が、多糖鎖長と相関しており、それ故、化学修飾が結果として天然分子の高度のフラグメント化をもたらし得ないことを理解している。皮下投薬後の長鎖ヘパリンのバイオアベイラビリティは低く、かつヘパリン誘発性の血小板減少症(HIT)の可能性は、明確に鎖長と相関しており、本発明による化学修飾ヘパリン誘導体は、完全長のものであってはならない。本化学修飾ヘパリンは、いくつかの重要な配慮の結果である:1.最初に、プロセス効率の基準を満たすため、標的ヘパリンは、未分画ヘパリンから製造可能でなければならなかった。2.治療効果は、充分に長い糖鎖長と明確に相関することから、プロセスは多すぎる短鎖をもたらすことはできない。3.望ましい皮下投薬レジームは、長鎖を以てしては不可能であるため、プロセスは多すぎる長鎖をもたらしてはならない。4.同様に、長い鎖長は、HITなどの望ましくない副作用と相関する。5.プロセスは、AT結合性五糖に固有の抗凝固作用を除去するべきである。6.プロセスは、ポリマーの脱硫酸化を避けるものとなるが、治療効果は陰性の電荷密度を与える硫酸化の程度と明確に相関することから、硫酸化された残基の割合はむしろ増大するべきである。上記に記載され、かつ以下の詳細な実験のセクションにおいて記載される本発明は、上記に概説された障害を克服すること、及びそれ故、マラリアを治療するための有用な薬物候補を製造することが可能であることを証明する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】ヘパリン配列の代表的な一例を示す図である。
図2】ヘパリン中の、そのATへの結合に必要な五糖単位の構造を示す図である。
図3】化学修飾ヘパリンDF02の合成スキームを示す図である。
図4】DF02の主構造を示す図である。
図5】寄生虫FCR3S1.2のロゼットがDF02及びヘパリンにより、用量依存的様式でいかに破壊されるかを示す図である。
図6】重症か、合併症があるか、又は軽度のマラリアをもつ小児の新鮮な分離体が、DF02(100(暗色のバー)及び1000(灰色のバー)μg/ml)による治療に対し、いかに感受性であるかを示す図である。
図7】細胞接着の破壊を示す図である:寄生虫FCR3S1.2のpEの、内皮細胞への結合は、DF02又はヘパリンにより、用量依存的様式で阻害又は逆転され得る。
図8】新鮮な赤血球内への寄生虫FCR3S1.2のメロゾイト侵入が、DF02又はヘパリンにより、用量依存的様式で阻害可能であることを示す図である。
図9】ラット肺におけるP.ファルシパルム感染赤血球の捕捉が、化学修飾ヘパリンを用いた治療により阻害可能であることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明の一態様は、国際商標名(International proprietary name)(INN)セブパリン・ナトリウム(sevuparin sodium)を有し、またコードDF02が付与された、化学修飾ヘパリンである。これらの用語は、互換的に使用されており、同じ意味をもつものとする。
【実施例1】
【0060】
ヘパリン及びLMWHは、1個のウロン酸単位(D−グルクロン又はL−ジウロン酸、UA)と、N−硫酸化されたか又はN−アセチル化されたかのいずれかである1個のD−グルコサミン成分(GlcN)とを含有する、繰返し二糖単位からなる。これらの炭水化物残基は、グルコサミンの場合にはC−6及びC−3位において、またUAのC−2位において、さらにO−硫酸化されていてもよい。ヘパリンの構造は、UA及び硫酸残基の分布に関し可変性である;代表的な部分配列を、図1(単糖残基中の炭素原子の番号付の方法も例示する)に示す。図2は、ATへの結合に不可欠な、ヘパリンポリマー中に分布している特有の五糖配列を示す。この配列のいくつかの構造的特徴が、ヘパリンとATとの相互作用に極めて重要であることが示されている。特に、この五糖配列中に存在する2個のUA残基の一方は、一貫してC−2位において硫酸化されており;これに対し他方のウロン酸成分のC−2及びC−3の双方におけるヒドロキシル基は未置換である。
【0061】
本発明による化学修飾ヘパリンの製造プロセスの詳細な説明
図3は、本発明による化学修飾ヘパリン、以降DF02と称される、の製造を図式的に示しているが、以下のセクションではその製造工程を概説する。
【0062】
該物質は、ヘパリンナトリウムから調製される。調製は、ATに結合する五糖配列中のグルクロン酸成分を含めて、ヘパリン中の非硫酸化ウロン酸残基を、過ヨウ素酸により選択的に酸化することを含む。この残基の構造を破壊することは、ATとの高親和性相互作用を、またその結果的として、抗凝固作用(a−FXa又はa−FIIaとして測定される、表4及び5参照)を無効にする。その後の還元及び酸による処理は、過ヨウ素酸により酸化されている部位において、ポリマーを切断する結果をもたらす。これらの操作が一緒になって、ヘパリン鎖の適切な解重合と共に、抗凝固活性の低下をもたらす。
【0063】
続いて、添加剤、不純物、及び副生成物を、エタノールによる沈殿、濾過、及び遠心分離を繰り返すことにより取り除く。その後、真空及び熱で乾燥させることにより、粉末形態の物質を得る。原薬DF02を無菌の緩衝水溶液中に溶解して、静脈内又は皮下投与を意図した製剤を生成する。
【0064】
グルクロン及びジウロン酸(残基)の酸化、抗凝固活性の削除
約3000gの分量のヘパリンを、精製水中に溶解して、10−20%w/vの溶液を得る。この溶液のpHを4.5−5.5に調整する。次にメタ過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)をプロセス溶液に添加する;過ヨウ素酸の分量は、ヘパリン重量の15−25%。
pHを、再度4.5−5.5に調整する。反応器に蓋をして、反応を光から保護する。プロセス溶液を、一定した撹拌及び13−17℃の温度の維持により、22−26時間にわたり反応させる。反応時間の最後に、pHを測定して記録する。
【0065】
酸化反応の終了及びヨウ素含有化合物の除去
反応混合物にエタノール(95−99.5%)を、20−25℃の温度において慎重に撹拌しながら0.5−1時間にわたり添加する。添加されるべきエタノールの体積は、プロセス溶液の体積あたり1−2体積の範囲のエタノールである。酸化されたヘパリンを次に沈殿させ、15−20時間にわたり沈降させ、その後母液をデカンテーションして廃棄する。
【0066】
次に、沈降物を精製水中に溶解して15−30%w/vのプロセス溶液を得る。次いでNaClを添加して、プロセス溶液中に0.15−0.30mol/リットルの濃度を得る。20−25℃の温度を維持しながら、さらに0.5−1時間撹拌を継続する。その後、プロセス溶液の体積あたり1.0−2.0体積のエタノール(95−99.5%)を、慎重に撹拌しながら0.5−1時間にわたり、この溶液に添加する。このことは、生成物を溶液から沈殿させる。この沈殿反応を>1時間継続する。
【0067】
酸化されたグルクロン/イズロン酸の還元
母液をデカンテーションして廃棄した後、15−30%w/vのプロセス溶液の濃度が得られるまで、精製水を添加することにより沈降物を溶解する。温度を13−17℃に維持しながら、溶液のpHを5.5−6.5に調整する。次いで、130−150グラムの分量の水素化ホウ素ナトリウムを溶液に添加して溶解し、pHは直ちに上昇してpH10−11となり、そして反応を14−20時間継続する。溶液のpHを、反応時間の前後双方で記録する。この反応時間の後、pHを4の値に調整する目的で、希酸を徐々に添加し、これにより残留する水素化ホウ素ナトリウムを分解する。45−60分間にわたり、4のpHを維持した後、希釈したNaOH溶液の添加により、溶液のpHを7に調整する。
【0068】
多糖鎖の解重合を達成するための酸加水分解
溶液に、pH3.5(許容範囲3.2−3.8)が得られるまで希酸を添加する。溶液を撹拌しながら、温度を50−55℃で3時間±10分間維持する。次いで希釈したNaOH溶液を、pH7.0が得られるまで添加し、反応溶液を13−17℃の温度まで冷却する。次に塩化ナトリウム(NaCl)を、0.2−0.3mol/リットルの濃度が得られるまで添加する。
【0069】
生成物の精製
プロセス添加剤及び不純物の除去、対イオンの添加、及び濾過
1体積のプロセス溶液を、次に1.5−2.5体積のエタノール(95−99.5%)に添加し、続いて、>2000Gにおいて、<20℃で20−30分間遠心分離し、その後上清をデカンテーションして廃棄する。
【0070】
遠心分離によって得られた生成物のペーストを、次に精製水中に溶解して、10−20%w/vの生成物濃度を得る。次いでNaClを添加して、0.2−0.35mol/リットルの濃度を得る。さらに、1体積のプロセス溶液あたり1.5−2.5体積のエタノール(95−99.5%)を添加し、これにより生成物を溶液から沈殿させる。続いて、>2000Gにおいて、<20℃で20−30分間遠心分離し、その後上清をデカンテーションして廃棄する。次に、残留するペーストに精製水を添加して溶解させる。生成物濃度は今、10−20%w/vの範囲内となる。生成物溶液のpHを、ここで6.5−7.5に調整する。次に溶液を濾過して、いかなる微粒子も除去する。次に、1体積のプロセス溶液に対し、1.5−2.5体積のエタノール(95−99.5%)を添加する。続いて、>2000Gにおいて、<20℃で20−30分間遠心分離し、その後上清をデカンテーションして廃棄する。
【0071】
沈殿ペーストのサイズ及び含水量の低減
次にガラスの反応器を、体積2リットルのエタノールで満たす。エタノールを撹拌しながら、沈殿ペーストを添加する。機械的撹拌がペーストを固化し、存在する水をエタノールによって置換え、均一な粒子の懸濁液を得る。撹拌を1−2時間後に中止し、その後粒子を沈降させ、次いで母液をデカンテーションする。この手順を2回繰り返す。沈殿を、ポリプロピレン(pp)フィルタ上に単離する。この手順をさらに2回繰り返す。過剰の液体を除去した後、粒子をシーブに通して、小さく均一なサイズの粒子を得る。
【0072】
真空乾燥
生成物を、予め秤量された2つのトレイ上に均一に分配し、真空キャビネット内に設置する。真空ポンプにより減圧し、実際に得られた圧力に留意し、かつ定期的に温度を記録しながらトレイを35−40℃に加熱する。この時点で、乾燥機中の低圧を維持しながら、窒素流を乾燥機中に通す。一定した重量が得られたとき、即ちさらなる蒸発が認められないとき、乾燥が完了したとみなされる。乾燥生成物を計量分配し、パックし、かつ湿気から保護する。保存は、20−25℃の乾燥した場所で行う。
【0073】
そのように製造された生成物は、通常の無菌のプロセスにより、製剤、例えば150mg/mLの化学修飾ヘパリン活性薬剤と、15mMまでのリン酸Naとを含んでなる溶液、pH6−8として調製し得る。そのようにして得られた製剤は、静脈内又は皮下投与を意図したものである。得られた化学修飾ヘパリンDF02は、6.5−9.5kDaの予定された平均分子量をもち、かつ本質的に何ら抗凝固活性のない、解重合型のヘパリンである。
【0074】
DF02は、1.2−15kDaの分子量に相当する、2−25の範囲のnをもつ、多糖ポリマーのサイズ分布を有する。主なサイズは、3.6−9.6kDaの分子量に相当する、6−16個の二糖単位である。
【0075】
実地試験により、アルカリ性溶液中の酸化型ヘパリン製剤の反応は、得られたヘパリンの最適な薬学的機能には短すぎるか、又は適度の硫酸化を欠く鎖を生じることが判明し得る。さらに実地試験により、pH1未満の溶液中でのヘパリン製剤の処理が、製品の脱硫酸化をもたらし、したがって最適未満の薬学的効果もつ化学修飾ヘパリンを生じることが示され得る。
【0076】
【表3】
【0077】
重量平均分子量、Mwに対応する値は、6.5−9.5kDaの範囲内に入る
【0078】
【表4】
【0079】
分子量平均重量、Mwに対応する値は、7.4kDaである
【実施例2】
【0080】
実施例2は、実施例1による製造プロセスの修正バージョンを示す。プロセスの最初の部分におけるいかなる非特異的解重合も防止する目的で、プロセス温度などのいくつかのプロセスパラメータが修正された。
【0081】
グルクロン及びジウロン酸(残基)の酸化、抗凝固活性の削除
約3000gの分量のヘパリンを、精製水中に溶解して、10−20%w/vの溶液を得る。この溶液のpHを4.5−5.5に調整する。次にメタ過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)をプロセス溶液に添加する;過ヨウ素酸の分量は、ヘパリン重量の15−25%。pHを、再度4.5−5.5に調整する。反応器に蓋をして、反応を光から保護する。プロセス溶液を、一定した撹拌及び13−17℃の温度の維持により、22−26時間にわたり反応させるが、最後の2時間は温度を約5℃まで低下させる。反応時間の最後に、pHを測定して記録する。
【0082】
酸化反応の終了及びヨウ素含有化合物の除去
反応混合物にエタノール(95−99.5%)を、慎重に撹拌しながらかつ約5℃の温度において、0.5−1時間にわたり添加する。添加されるべきエタノールの体積は、プロセス溶液の体積あたり1−2体積の範囲のエタノールである。酸化されたヘパリンを次に沈殿させ、15−20時間にわたり沈降させ、その後母液をデカンテーションして廃棄する。
【0083】
次に、沈降物を精製水中に溶解して15−30%w/vのプロセス溶液を得る。次いでNaClを添加して、プロセス溶液中に0.15−0.30mol/リットルの濃度を得る。約5℃の温度を維持しながら、さらに0.5−1時間撹拌を継続する。その後、プロセス溶液の体積あたり1.0−2.0体積のエタノール(95−99.5%)を、慎重に撹拌しながら0.5−1時間にわたり、この溶液に添加する。このことは、生成物を溶液から沈殿させる。この沈殿反応を>1時間継続する。
【0084】
酸化されたグルクロン/イズロン酸の還元
この工程は、実施例1に従って行われる。
【0085】
多糖鎖の解重合を達成するための酸加水分解
この工程は、プロセス時間を、NaOHによりpHが7.0に上昇される前に、約2時間延長し得ることを相違点として、実施例1に従って実施される。
【0086】
例えば150mg/mlの化学修飾ヘパリン活性薬剤を含んでなる製剤に向けたさらなるプロセスは、実施例1に概説された工程と同一である。
【0087】
実施例2に従ってプロセス工程を実施することにより、実施例1の表1に明示された多糖分子量分布をもつ化学修飾ヘパリンが得られる。
【実施例3】
【0088】
実施例3は、酸化工程から由来するプロセス溶液を、いかなる沈殿工程も導入される前に、直接強力な還元剤に供することにより修正された、本発明による化学修飾ヘパリンの別の製造法を示す。
【0089】
グルクロン及びジウロン酸(残基)の酸化、抗凝固活性の削除
約3000gの分量のヘパリンを、精製水中に溶解して、10−20%w/vの溶液を得る。この溶液のpHを4.5−5.5に調整する。次にメタ過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO)をプロセス溶液に添加する;過ヨウ素酸の分量は、ヘパリン重量の15−25%。pHを、再度4.5−5.5に調整する。反応器に蓋をして、反応を光から保護する。プロセス溶液を、一定した撹拌及び13−17℃の温度の維持により、22−26時間にわたり反応させる。反応時間の最後に、pHを測定して記録する。
【0090】
酸化されたグルクロン/イズロン酸の還元、及び酸化性ヨウ素含有化合物の排除
温度を13−17℃に維持しながら、溶液のpHを5.5−6.5に調整する。次いで溶液に、130−200gの分量の水素化ホウ素ナトリウムを添加して溶解し、pHは直ちに上昇してpH10−11となり、そして反応を14−20時間継続する。溶液のpHを、反応時間の前後双方で記録する。この反応時間の後、pHを4の値に調整する目的で、希酸を徐々に添加し、これにより残留する水素化ホウ素ナトリウムを分解する。45−60分間にわたり4のpHを維持した後、希釈したNaOH溶液の添加により、溶液のpHを7に調整する。
【0091】
ヨウ素含有化合物の除去
反応混合物にエタノール(95−99.5%)を、20−25℃の温度において慎重に撹拌しながら0.5−1時間にわたり添加する。添加されるべきエタノールの体積は、プロセス溶液の体積あたり1−2体積の範囲のエタノールである。酸化され、続いて還元されたヘパリンを、次に沈殿させ、15−20時間にわたり沈降させ、その後母液をデカンテーションして廃棄する。
【0092】
次に、沈降物を精製水中に溶解して15−30%w/vのプロセス溶液を得る。次いでNaClを添加して、プロセス溶液中に0.15−0.30mol/リットルの濃度を得る。15−25℃の温度を維持しながら、さらに0.5−1時間撹拌を継続する。その後、プロセス溶液の体積あたり1.0−2.0体積のエタノール(95−99.5%)を、慎重に撹拌しながら0.5−1時間にわたり、この溶液に添加する。これにより、生成物を溶液から沈殿させる。この沈殿反応を>1時間継続する。
【0093】
多糖鎖の解重合を達成するための酸加水分解
母液をデカンテーションして廃棄した後、15−30%w/vのプロセス溶液の濃度が得られるまで精製水を添加することにより、沈降物を溶解する。
【0094】
溶液に、pH3.0が得られるまで希酸を添加する。溶液を撹拌しながら、5乃至10時間にわたり温度を50−55℃に保持する。解重合の進行は、必要な実際の反応時間を測定することについて、GPC−HPLCによる分子量のインプロセス分析によって追跡し得る。次いで希釈したNaOH溶液を、pH7.0が得られるまで添加し、反応溶液を13−17℃の温度まで冷却する。次に塩化ナトリウムNaClを、0.2−0.3mol/リットルの濃度が得られるまで添加する。別法として、平均分子量を同様にコントロールする目的で、3.5のpHを得るべく希酸を添加し得るが、同等の加水分解レベルを達成するため、プロセス時間を5乃至6時間から8乃至9時間へ延長する。双方の変法により、平均分子量は6.5及び9.5kDaの指定範囲内が充分に保持される。
【0095】
例えば、150mg/mlの化学修飾ヘパリン活性薬剤を含んでなる製剤に向けた、残りのプロセス工程は、実施例1に概説された工程と同一である。
【0096】
実施例3によるプロセス工程を実行することにより、実施例1の表1に明示された多糖分子量分布をもつ化学修飾ヘパリンが得られる。
【0097】
【表5】
【0098】
表3は、実施例1から3に従って生成された化学修飾ヘパリンの、5.0乃至6.5ppmの範囲におけるH−NMRスペクトルの比較研究の結果である。
【0099】
表3は、実施例3によるプロセスを用いて生成されたような化学修飾ヘパリンが、5.90ppm乃至6.14ppmの範囲の予想外のシグナルがない、ヘパリンのものと等しいH−NMRスペクトルを生じる結果となることを証明する。これらのシグナルは、グルコースアミンを含有する部分的に不飽和の二重結合構造との相関関係を示すものであり、それはさらに化学修飾を受けて製品の変色に寄与し得る。言い換えれば、実施例3によるプロセスは、結果として、通常のヘパリン又は低分子量ヘパリンからのプロトンスペクトルでは予想されない未確認の残基又は構造を生じることはない。
【0100】
本発明による方法が、所望のレベルの硫酸化された多糖鎖を保持するのに寄与することを確認する目的で、酸性加水分解の工程からのプロセス液の試料、即ち、直後の、化学修飾ヘパリン製品へのワークアップ及び精製の工程にさらされない、プロセス液からの試料について、硫酸塩測定電極を用いて試験を行った。結果は、多糖から放出された(失われた)硫酸塩のレベルが、一般に1500ppm未満であることを証明する。言い換えれば、試験は、本発明の方法が100個の二糖単位からなる二糖単位あたり1個未満の硫酸基の減少を誘導することを立証する。本発明による化学修飾ヘパリンは、イズロン酸、I2Sあたり1個の硫酸基を、また主なグルコサミン変異体、GlcNSに2個の硫酸基を含有する。したがって、本発明による化学修飾ヘパリンは、ヘパリンに相当する硫酸基の少なくとも90%を保持する。
【0101】
実施例3のプロセスにより生成され、かつ製品までワークアップされた化学修飾ヘパリンは、400nmにおける非常に低い吸収を示す(10%溶液)。pH3.5又は3.0での加水分解を含むプロセスを受けた場合、製品の吸収値は、それぞれ0.02AUと0.04AUとの間で変異がある。低い吸収値は、メイラード(Maillard)型の副反応からの変色に関連したいかなる非特異的解重合からの効果も最小限にされること、及び本発明による化学修飾ヘパリンの適切な安定性が期待されることを立証している。
【実施例4】
【0102】
抗止血及び抗凝固効果
凝固及び出血に対するDF02の効果に関する研究を、雄の、成体及び若年の、スプラグ・ダウリー(Sprague−Dawley)ラットにおいて実施した。ヘパリン及びLMWH調製(フラグミン(Fragmin))も、比較のために研究した。基本的な試験法は以下の通りであった:
【0103】
被験物質のi.v.投与の15分後、ラットに、尾の背側中央部分において縦切開を行った。切開は、長さ9mmかつ深さ1mmであり、テンプレート装置を使用して標準化した。血液は、出血が停止するまで切開から吸い取られた。可視的な出血が見られた時間を、25分まで測定した。出血時間が長いほど、投与された薬剤の抗凝固効果が顕著となる。
【0104】
成体ラット
投与の40分後、ラットを完全な出血により犠牲にした。クエン酸塩で安定化された血漿を、血液から調製した。血漿は、1又は0.5mLのアリコートで、APTT及びRTの分析まで−70℃に保存した。
【0105】
以下の化合物及び用量を、成体ラットにおいて試験した(各群にラット8匹):
生理食塩水:(陰性対照)
ヘパリン:0.7、1.5、3.5、及び7.0mg/kg
フラグミン:1.5、3.5、7.0、及び35mg/kg
DF02:3.5、7.0、35、70、105、210、350、及び700mg/kg
【0106】
若年ラット
以下の化合物及び用量を、14±1日齢の若年ラットにおいて試験した(各群にラット8匹):
2.生理食塩水:(陰性対照)
3.DF02:7.0、35、70、及び105mg/kg
【0107】
成体動物において測定されたような、出血時間及び凝固パラメータは、DF02がラットにおいて低い抗凝固効果をもつことを示す。DF02の効力は、抗凝固剤ヘパリン及びフラグミンのそれよりも低いが、それら双方は全てのパラメータについて多大な影響を及ぼしており、その効果は問題の用量と直接関係している。PTに対する効果は、比較推算を可能にするためには弱すぎた。
【0108】
若年動物において確立された出血時間及び凝固パラメータは、DF02が若年ラットにおいても低い抗凝固作用をもつことを示している。若年ラットにおける出血時間及び凝固パラメータにおける変化は、成体ラットにおけると同様の範囲にある。成体ラットにおけるように、若年ラットにおいてもPTに対する効果は弱かった。
【0109】
化学修飾ヘパリン化合物の抗凝固効力における差異をさらに理解するため、等価相対用量(equipotent relative dose)を推算した(表4)。推算された等価相対用量間の関係を、ラット出血モデルにおいて測定されたような、出血時間及びAPTTに対する効果について計算した。ノーマライゼーション又はコンパレータは、未分画ヘパリンに対し設定した、以下の表4参照。
【0110】
【表6】
【0111】
以下の表5は、抗因子Xa及び抗因子IIaアッセイによる、DF02の特異的抗凝固活性を示す。
【0112】
【表7】
【0113】
比較用の、未分画ヘパリン(UFH)の対応する値は、少なくとも180IU/mgである。
【実施例5】
【0114】
マラリア感染血液におけるロゼッティング及び細胞接着の研究
DF02を、インビトロのマラリアモデルでの効果、例えば感染及び未感染赤血球のロゼットの破壊、及び内皮への感染赤血球の細胞接着の防止又は破壊について研究した。双方のモデルにおいて、DF02は、用量依存の様式で効力を示した。DF02は、軽度又は合併症のあるマラリアの患者からの新鮮な寄生赤血球(pE)にけるロゼッティングをインビトロで試験する現地調査において、有意な効力を証明した。DF02はまた、赤血球のメロゾイト侵入に対する阻止効果についても、インビトロで試験された。DF02は、このモデルにおいて、ヘパリンに対し同等のmgあたりの効力を実証した。
【0115】
結果
高ロゼッティング、かつ多接着性(multi−adhesive)の寄生虫クローン(FCR3S1.2)、並びに重症患者からの寄生虫分離体を、DF02に対するその感受性について、ロゼッティング及び細胞接着アッセイにおいて試験した。DF02は、多くの試験寄生虫培養物のロゼットを用量依存的様式で破壊し、全部又はほぼ全部のロゼット破壊が、いくつかの寄生虫で1000μg/mlにおいて達成された(図5)。臨床分離体のロゼットもまた、DF02に感受性であった。DF02を、さらに現地において研究した。ロゼッティングの表現型を示しているマラリアの小児からの47の寄生虫を、DF02で処理した。重症/合併症のあるマラリアの小児から採取されたロゼッティング血試料の91%が、試験した最も高い濃度(1000μg/ml)において50%のロゼット破壊を示した(図6)。内皮細胞へのpEの結合(細胞接着)に対するDF02の効果は、インビボの血流状態を模す目的で、動的インキュベーションによって同様に評価した。内皮細胞への最初の結合に対する直接効果を、pEをDF02と同時に内皮に添加することにより推算した(細胞接着阻止)。未処理の試料に比較して、pEの結合の80%までをDF02によって阻止し得た。DF02の、既に結合したpEを内皮から取外す効率を調べるため、異なる最終濃度におけるDF02とのインキュベーションに先立ち、pEを内皮に接着させた(細胞接着破壊)。DF02による細胞接着破壊は、80%までの結合の減少をもたらした(図7)。いくつかの寄生虫培養物は、他よりも感受性が高かった。
【実施例6】
【0116】
インビトロの赤血球のメロゾイト侵入に対するDF02の効果
P.ファルシパルムの赤血球内のライフサイクルは短く、pEは48時間ごとに破裂して、新鮮な赤血球に再侵入しなければならない。ヘパリンは、赤血球のメロゾイト侵入を阻止することにより、インビボのP.ファルシパルムの連続的培養を阻害することが既に証明されている。それ故DF02を、赤血球のメロゾイト侵入に対するその阻止効果について、インビトロアッセイを用いて試験した(図8)。DF02は、用量依存的様式でメロゾイト侵入を阻止し、阻害は80%を超えた。DF02の阻害効果は、標準ヘパリンのものと同等であることが判明した。
【0117】
方法
メロゾイト侵入阻害アッセイは、化学修飾ヘパリン及び未分画ヘパリン、0.4%のパラシテミア及び2%のヘマトクリット値をもつ同調されたP.ファルシパルム培養物である、成熟(Mature)pE(トロフォゾイト)を、ミクロ培養において(100ul)、濃度を増していく化学修飾ヘパリン又は未分画ヘパリンの存在下に、37℃で24−30時間増殖させた。パラシテミアを定量するため、試料をアクリジンオレンジで10秒間染色し、次いでベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson)からのFACS装置を用いて分析した。試料当たり最低50,000細胞を収集した。
【0118】
結果
DF02及び標準ヘパリンを、赤血球のメロゾイト侵入に対するその阻止効果について、インビトロアッセイを用いて試験した。DF02は、用量依存的様式でメロゾイト侵入を阻止し、80%阻害までに達した。DF02の阻害剤効果は、標準ヘパリンのものと同等であることが判明した。
【実施例7】
【0119】
捕捉された感染赤血球のインビボの放出
DF02の、結合した感染赤血球を肺の微小血管から血液循環中に放出する効力を、インビボでラットにおいて研究した。DF02は、循環中へのpEの放出を証明した。ラットモデルでは、この物質をpEと一緒に注射すると、pEがラットの肺に結合するのを80%まで阻止した。同様に、pEを最初に注射して、60分間にわたり動物の微小血管内に結合させ、次にDF02の静脈内注射を続けた場合、すでに捕捉されたpEが、60%まで処理によって放出されることが判明した(図9)。
【0120】
方法
ヒトpEをインビトロで培養し、70%を超えるパラシテミアまで富化させた。動物への注入に先立ち、ヒト感染赤血球を99mTcで放射能標識した。ラットを麻酔し、標識pEを尾静脈内へ靜注した。処理されたラットは、標識pEを異なる濃度の化学修飾ヘパリンと一緒に同時注射するか、又は最初にpEを注射し、3分後に異なる濃度の化学修飾ヘパリン、未分画ヘパリン、又は硫酸デキストランを注射するかのいずれかであり、一方対照動物は、標識pEを、DF02、ヘパリン、又は硫酸デキストランなしで注射した。標識細胞の分布を、ガンマカメラを用いて30分間モニターした。肺に捕捉された標識細胞の相対量を、切除された肺の放射能を、動物全体のそれに比較することによって算定した。
【0121】
インビボのラットにおけるpEの捕捉に対する化学修飾ヘパリンの効果
ロゼッティング及び細胞接着の双方を含む、pE捕捉の研究を、ラットにおいて実施した。このインビボ系では、様々な系統及びクローンのpEが、ラット肺においてPfEMP1依存性の様式で強く結合する。この系は、pEに対する化学修飾ヘパリンDF02の捕捉阻止効果を、最大80%(およそ)の捕捉の平均減少によって示す。未感染の標識されたヒト赤血球と化学修飾ヘパリンとの同時注射を、化学修飾ヘパリンがない標識された未感染の赤血球の注射と比較した。何らの差異は見られず、保持された全体量は非常に低かった。ラットはまた、循環中へpEを放出する化学修飾ヘパリンの能力を調べるため、標識されたpEが捕捉された後に、化学修飾ヘパリンで処理された。捕捉は、約50%まで減少した。
【実施例8】
【0122】
マラリア患者におけるセブパリンナトリウムの臨床研究
合併症のない熱帯熱マラリアに侵された患者における補助療法としてのセブパリン/DF02の、第I/II相、無作為化、オープンラベル、アクティブコントロール、比較割り当て(Parallel Assignment)、安全性/有効性研究
P.ファルシパルム感染赤血球(pEs)は、多くの生体臓器において深部微小血管内に捕捉する能力を有する。捕捉特性は、血流の妨害、酸素送達の減少、及び継続的な組織損傷を介して疾患の重症度及び病理の発生に関与しており、またトロフォゾイトpEsが血管内皮及び未感染赤血球に接着する能力に基づいている。pEsの内皮及び赤血球接着の合わされた効果は、微小血管の閉塞を、またそれにより重症マラリアの臨床的症候群をもたらす重要なメカニズムである。
【0123】
セブパリンナトリウムを、抗マラリア薬としてのアトバキノン/プログアニル(マラニール(Malanil(登録商標))と組合せて、i.v.注入として、合併症のないマラリアに侵された女性及び男性患者(年齢18乃至65歳)へ投与する。用量増加部分(パート1)に、セブパリンナトリウム及びマラニール(登録商標)対マラニール(登録商標)のみによる治療の、オープンラベル、無作為化比較を続ける(パート2)。セブパリンナトリウムは、各患者に1日4回投与し、アトバキノン/プログアニル(マラニール(登録商標))は、その標識された指示に従って各患者に投与する。実験群は、アトバキノン/プログアニル(マラニール(登録商標))と組合せたセブパリンナトリウムであり、対照としては、アトバキノン/プログアニル(マラニール(登録商標))のみである。
【0124】
方法
DF02処理された患者の寄生虫除去曲線及び逐次的な末梢血寄生虫ステージングを、対照群と比較する。より成熟した形態の寄生虫を含有するpEsの細胞接着及びしたがって捕捉は、DF02、パラシテミアの一過性の上昇、及び末梢血中のより成熟したステージの寄生虫の出現によって影響される。末梢血ステージングに関するクリアランス曲線を、ステージ分布、ステージ特異的捕捉の割合、及びパラメータとしてのキニンによるステージ特異的寄生虫クリアランスを使用してモデル化する。同様のアプローチは、熱帯熱マラリアにおける抗接着性アジュバント療法としてのレバミソールの評価において試験されている(Dondorpら、「J.Infect Dis」、2007年、第196巻、p.460−6)。DF02処理患者と対照群との間の分画差は、取り込まれた数(マイクロリットルあたりの寄生虫中)と、時間−パラシテミア曲線下の面積として測定された、72時間までの間に末梢血中に見られるトロフォゾイト−、及びシゾント−ステージの寄生虫のパラシテミア(パーセントで)とを比較することにより評価する。充分に定義された寄生虫の形態学的ステージは、以下からなる:極小輪状体(tiny ring)、小型輪状体、大型輪状体、初期トロフォゾイト、中期トロフォゾイト、後期トロフォゾイト、及びシゾント[Silamut Kら、「Am J Pathol」、1999年、第155巻、p.395−401]。インビトロ培養により評価されるような、形態学的ステージを区切る寄生虫の無性ステージの齢(メロゾイト侵入からの)は、それぞれ12、17、22、28、37、及び42時間である。入院時に大型輪状体のコホートは、6時間後に初期のトロフォゾイトステージへ発展する。他のマッチングコホートは、入院時の極小輪状体、及び12時間後の合わされた小型及び大型輪状体;入院時の小型輪状体、及び6時間後の大型輪状体、12時間後の初期トロフォゾイト、及び18時間後の中期トロフォゾイト;及び入院時の大型輪状体、及び12時間後のその中期トロフォゾイト又は18時間後の後期トロフォゾイトを含む。末梢血スライドの評価は、試験薬の割り当てについて知らされていない2名の独立した顕微鏡学者によって実施する。
図1
図2
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図9