(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703808
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】車両用樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
B29C 45/37 20060101AFI20200525BHJP
C25D 5/56 20060101ALI20200525BHJP
B60R 13/04 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
B29C45/37
C25D5/56 Z
B60R13/04 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-68003(P2015-68003)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-187881(P2016-187881A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2018年3月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136889
【氏名又は名称】株式会社ファルテック
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 俊宏
【審査官】
酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−282049(JP,A)
【文献】
特開2008−169403(JP,A)
【文献】
特開2013−203102(JP,A)
【文献】
特開2005−053210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84,
C25D 5/56,7/00,21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型との間に形成されるキャビティに樹脂を充填することにより形成される車両用樹脂成形品であって、
板状の縁部を有する本体部と、前記縁部の表面から前記縁部の端面が向く方向と直交する方向に突出する被切断部と、当該被切断部を介して前記本体部の前記縁部と接続される通電用リブとを備え、
前記被切断部は、前記縁部の表面に沿い、かつ前記縁部の前記端面が向く方向の厚みが、前記本体部の前記縁部の厚みよりも薄肉化された部位よりなり、
前記被切断部は、前記縁部の表面に沿い、かつ前記縁部の前記端面が向く方向に凹む溝部を備える
ことを特徴とする車両用樹脂成形品。
【請求項2】
前記本体部の前記縁部は、前記縁部の裏面と前記縁部の端面とを接続する角部に設けられる段部を備えることを特徴とする請求項1記載の車両用樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に対しては、ラジエータグリルやバックドアフィニッシャ等の樹脂成形品(車両用樹脂成形品)が取り付けられている。これらの樹脂成形品の表面には、外観デザインの向上のため、必要に応じてめっき層が形成される。このようなめっき層は、複数層に分割されており、例えば樹脂層上に直接形成される下地層を除いては、電気めっき法によって形成される。
【0003】
このような電気めっき法によるめっき処理を行いやすくするため、例えば特許文献1に示すように車両用樹脂成形品には、通電を行うためのリブ(通電用リブ)が形成されている。この通電用リブは、電気めっき処理を行う場合には、電極との接点として用いられ、めっき処理後は切断され、樹脂成形品の本体から取り除かれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−203102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、通電用リブの本体部からの切り離しを容易に行うため、通電用リブの根元部分に薄肉化された部位(被切断部)を形成している。このような部位を設けることにより、作業者が通電用リブを容易に本体部に対して折り曲げることができ、通電用リブを容易に本体部から切り離すことが可能となる。
【0006】
一方で、車両用樹脂成形品は、一般的に射出成形によって形成される。このため、上述のように通電用リブの根元部を薄肉化するためには、射出成形に用いる金型にも、当然に対応する部位を形成する必要がある。ところが、特許文献1においては、通電用リブの根元部が、可動金型の移動方向と直交する方向に凹んでいることから、当該凹部がアンダーカット部となっている。このため、通電用リブの根元部の薄肉化を行うために、金型に対してスライドコアを設ける必要があり、金型の構造が複雑化する。
【0007】
また、均一なめっき層を形成するため、通常は、上述のような通電用リブが本体部に対して多数接続されている。このため、通電用リブの数と同じだけ、スライド金型を設ける必要があり、金型がより複雑化するという問題が生じる。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、通電用リブを本体部から容易に切り離し可能とする構造を、射出成形時にスライドコアを用いることなく形成可能な車両用樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0010】
第1の発明は、固定金型と可動金型との間に形成されるキャビティに樹脂を充填することにより形成される車両用樹脂成形品であって、板状の縁部を有する本体部と、上記縁部の表面から上記縁部の端面が向く方向と直交する方向に突出する被切断部と、当該被切断部を介して上記本体部の上記縁部と接続される通電用リブとを備え、上記被切断部が、上記可動金型の移動方向の厚みが、上記本体部の上記縁部の厚みよりも薄肉化された部位よりなるという構成を採用する。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記被切断部が、上記可動金型の移動方向に凹む溝部を備えるという構成を採用する。
【0012】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記本体部の上記縁部が、上記縁部の裏面と上記縁部の端面とを接続する角部に設けられる段部を備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本体部の縁部に対して通電用リブが被切断部を介して接続されている。また、被切断部が本体部の縁部よりも薄肉化されている。このため、通電用リブを本体部に対して折り曲げることによって容易に通電用リブを本体部から切り離すことができる。また、本発明によれば、被切断部は、可動金型の移動方向に薄肉化され、本体部の縁部の表面から縁部の端面が向く方向と直交する方向に突出するように形成されている。つまり、例えば縁部の端面が下方に向いている場合には、被切断部が縁部の表面から水平方向に突出するように形成されている。このため、本体部の縁部の表面に沿って可動金型を移動させることにより、可動金型の移動方向と直交する方向に本体部の縁部から突出した位置に被切断部を配置することができる。このため、本発明によれば、被切断部を固定金型と可動金型との間(例えばパーティング面)で形成することができ、スライドコアを用いることなく被切断部を形成することができる。よって、本発明によれば、通電用リブを本体部から容易に切り離し可能とする構造を、射出成形時にスライドコアを用いることなく形成可能な車両用樹脂成形品となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態における車両用樹脂成形品の概略構成を示す正面図である。
【
図3】車体に取り付けられる前における本発明の一実施形態の車両用樹脂成形品の概略構成を示す断面図である。
【
図4】車体に取り付けられる前における本発明の一実施形態の車両用樹脂成形品が備える通電用リブを含む拡大斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態の車両用樹脂成形品を形成するための金型の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る車両用樹脂成形品の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0016】
図1は、車体取付時における本実施形態の車両用樹脂成形品1の概略構成を示す正面図である。また、
図2は、
図1のA−A線断面図である。本実施形態の車両用樹脂成形品1は、樹脂層の上に複数層のめっき層が形成された部品であり、例えば、車両のフロント、リヤあるいはサイドにおいて車体100に対して取り付けられる外装部品である。なお、めっき層は、樹脂層に対して非常に薄い金属層である。このため、断面図(
図2、後述の
図3及び
図5)では、樹脂層とめっき層とに分離して図示していない。このようなめっき層は、複数層のめっき層が積層されてなる多層めっき層であり、樹脂層上に直接形成される下地層、下地層上に形成されるニッケルめっき層、ニッケルめっき層上に形成されるクロムめっき層等からなる。
【0017】
本実施形態の車両用樹脂成形品1は、
図2に示すように、断面が略U字状とされた湾曲した板状の部品であり、U字型の端部に相当する板状の縁部2が車体100に被覆されるようにして車体100に対して取り付けられている。つまり、本実施形態において、車両用樹脂成形品1の縁部2は、車両用樹脂成形品1が車体100に対して取り付けられた後に外部から視認され難い部位とされている。したがって、後述の被切断部20の一部が縁部2に残存していたとしても、この残存した部分が外観に影響を与えることを防止することができる。
【0018】
図3は、車体100に取り付けられる前における本実施形態の車両用樹脂成形品1の概略構成を示す断面図である。この図に示すように、本実施形態の車両用樹脂成形品1は、
図1及び
図2に示す車体取付時における車両用樹脂成形品1に相当する本体部10と、被切断部20を介して本体部10の縁部2に接続される通電用リブ30とを備えている。このような通電用リブ30は、車両用樹脂成形品1の長手方向に沿って複数箇所設けられている。
【0019】
図3に示すように、被切断部20は、縁部2の表面2a(本体部10の外側面)から、縁部2の端面2bが向かう方向と直交する方向に突出して設けられている。つまり、
図3においては、縁部2の端面2bが紙面右側に向けられており、被切断部20は、紙面上側に向く縁部2の表面2aから紙面上側に突出して設けられている。また、
図4は、通電用リブ30を含む斜視図である。この図に示すように、被切断部20は、通電用リブ30の車両用樹脂成形品1の長手方向(本体部長手方向)における長さが、通電用リブ30の同方向の幅よりも短く設定されている。
【0020】
この被切断部20は、縁部2の表面2aに沿いかつ端面2bが向く方向において、薄肉化された部位からなる。このような被切断部20は、厚みD1が縁部2の厚みD2よりも薄くなるように薄肉化されている。なお、本実施形態の車両用樹脂成形品1は、縁部2の表面2aに沿いかつ端面2bが向く方向が成形時の可動金型K2(
図5参照)の移動方向(可動金型移動方向)とされている。したがって、本実施形態の車両用樹脂成形品1において、被切断部20は、可動金型移動方向の厚みD1が、本体部10の縁部2の厚みD2よりも薄肉化されている。この被切断部20は、破断されることによって本体部10と通電用リブ30とを分離するための部位であり、薄肉化されることによって通電用リブ30を本体部10に対して折り曲げることで容易に破断可能とされている。
【0021】
また、被切断部20は、
図3に示すように、溝部21を有している。この溝部21は、金型移動方向に凹むように形成されており、
図4の本体部長手方向において被切断部20の全域に亘って形成されている。このような溝部21を形成することによって、めっき層に屈曲部が多数形成され、縁部2の表面2aに形成されためっき層と通電用リブ30の表面のめっき層とが切断されやすくなる。このため、通電用リブ30を本体部10に対して折り曲げるときに、本体部10の表面に形成されためっき層が通電用リブ30の表面のめっき層に引きずられて剥離等することを防止することができる。
【0022】
通電用リブ30は、被切断部20を介して本体部10の縁部2に接続されたプレート状の部位である。この通電用リブ30は、車両用樹脂成形品1に対してめっき層を電気めっき法によって形成する場合に、電極との接点とされる。この通電用リブ30は、本実施形態の車両用樹脂成形品1が車体100に対して取り付けられる場合には、本体部10から切り離される。
【0023】
また、
図3に示すように、本実施形態の車両用樹脂成形品1において、本体部10の縁部2は、縁部2の裏面2cと縁部2の端面2bとを接続する角部に設けられる段部2dを有している。この段部2dによって、めっき層に屈曲部が多数形成され、縁部2の裏面2cに形成されためっき層と通電用リブ30の表面のめっき層とが切断されやすくなる。このため、通電用リブ30を本体部10に対して折り曲げるときに、本体部10の表面に形成されためっき層が通電用リブ30の表面のめっき層に引きずられて剥離等することを防止することができる。
【0024】
このような本実施形態の車両用樹脂成形品1は、
図5に示すような金型Kを用いた射出成形によって形成される。金型Kの内部には、本実施形態の車両用樹脂成形品1の形状のキャビティが形成されており、このキャビティに樹脂を充填することによって車両用樹脂成形品1が形成される。このような金型Kは、固定金型K1と可動金型K2とを備えている。固定金型K1は、固定状態で使用される金型であり、車両用樹脂成形品1の本体部10の外側面等を形作る。このような固定金型K1は、
図5に示すように、被切断部20の溝部21を形成するための突出部K11を有している。また、可動金型K2は、固定金型K1に対して移動される金型であり、本体部10の内側面や通電用リブ30の表面等を形作る。このような可動金型K2は、段部2dを形成するための突出部K21を有している。
【0025】
また、本実施形態の車両用樹脂成形品1を形成する金型Kにおいて、可動金型K2は、
図5の矢印方向、すなわち本体部10の端面2bが向く方向とその反対方向とに移動可能とされている。本実施形態の車両用樹脂成形品1を形成する金型Kでは、このような可動金型K2と固定金型K1との間に被切断部20が形成されるように金型Kのパーティング面PLが設定されている。
【0026】
本実施形態の車両用樹脂成形品1は、上述のような金型Kが設置された射出成形機(不図示)によって樹脂材料を成形することによって形作られ、さらに表面にめっき層が形成されることによって完成する。そして、例えば車体に取り付けるときに通電用リブ30が本体部10から切り離される。
【0027】
以上のような本実施形態の車両用樹脂成形品1によれば、本体部10の縁部2に対して通電用リブ30が被切断部20を介して接続されている。また、被切断部20が本体部10の縁部2よりも薄肉化されている。このため、通電用リブ30を本体部10に対して折り曲げることによって容易に通電用リブ30を本体部10から切り離すことができる。また、本実施形態の車両用樹脂成形品1によれば、被切断部20は、可動金型K2の移動方向に薄肉化され、本体部10の縁部2の表面2aから縁部2の端面2bが向く方向と直交する方向に突出するように形成されている。このため、本体部10の縁部2の表面2aに沿う方向に可動金型K2を移動させることにより、可動金型K2の移動方向と直交する方向に本体部10の縁部2から突出した位置に被切断部20を配置することができる。このため、本実施形態の車両用樹脂成形品1によれば、被切断部20を固定金型K1と可動金型K2との間で形成することができ、スライドコアを用いることなく被切断部20を形成することができる。よって、本発明の車両用樹脂成形品1によれば、通電用リブ30を本体部10から容易に切り離し可能とする構造を、射出成形時にスライドコアを用いることなく形成することができる。
【0028】
また、本実施形態の車両用樹脂成形品1においては、被切断部20は、可動金型K2の移動方向に凹む溝部21を備える。このため、本実施形態の車両用樹脂成形品1では、通電用リブ30を本体部10に対して折り曲げるときに、本体部10の表面に形成されためっき層が通電用リブ30の表面のめっき層に引きずられて剥離等することを防止することができ、本体部10の表面に形成されためっき層が損傷することを防止することができる。
【0029】
また、本実施形態の車両用樹脂成形品1においては、本体部10の縁部2は、縁部2の裏面2cと縁部2の端面2bとを接続する角部に設けられる段部2dを備える。このため、通電用リブ30を本体部10に対して折り曲げるときに、縁部2の裏面においても、本体部10の表面に形成されためっき層が通電用リブ30の表面のめっき層に引きずられて剥離等することを防止することができ、本体部10の表面に形成されためっき層が損傷することを防止することができる。
【0030】
また、本実施形態の車両用樹脂成形品1は、車体100に取り付けられたときに外部から視認し難い縁部2に対して被切断部20が形成されると共に通電用リブ30が接続されている。このため、通電用リブ30を切り離した後に、被切断部20の一部が縁部2に残存していたとしても、この残存した部位が外観に影響を与えることを防止することができる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態の車両用樹脂成形品1の形状は一例であり、本発明は当該形状に限定されるものではない。例えば、本発明をラジエータグリルに適用することも可能である。
【0033】
また、上記実施形態においては、本体部10に2つある縁部2の一方のみに通電用リブ30を接続する構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、2つの縁部2の各々に対して通電用リブ30を、被切断部20を介して接続する構成を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
1……車両用樹脂成形品、2……縁部、2a……表面、2b……端面、2c……裏面、2d……段部、10……本体部、20……被切断部、21……溝部、30……通電用リブ、K……金型、K1……固定金型、K2……可動金型