特許第6703809号(P6703809)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703809シートの吊り込み構造およびシートにおけるトリムカバーの吊り込み方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703809
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】シートの吊り込み構造およびシートにおけるトリムカバーの吊り込み方法
(51)【国際特許分類】
   A47C 31/02 20060101AFI20200525BHJP
   B68G 7/05 20060101ALI20200525BHJP
   B60N 2/58 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A47C31/02 B
   B68G7/05
   B60N2/58
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-89322(P2015-89322)
(22)【出願日】2015年4月24日
(65)【公開番号】特開2016-202673(P2016-202673A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】戸畑 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】長澤 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】藤掛 勤
【審査官】 小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−212019(JP,A)
【文献】 特開2011−078452(JP,A)
【文献】 特開2009−160261(JP,A)
【文献】 実開平01−086899(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 31/02
B68G 7/05
B60N 2/58−2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを構成するシート部材に対してトリムカバーを吊り込み支持するシートの吊り込み構造において、
前記トリムカバーの表面側に配置された吊り込み用の線状吊り部材と、
前記シート部材に形成された吊り込み用の溝部に差し込まれた状態の前記線状吊り部材を前記シート部材に留め付ける留付部材と、
を有しており、
前記トリムカバーの表面に、前記線状吊り部材が配置されるべき位置を示すマーキングがされており、
前記トリムカバーが、当該トリムカバーのうち前記線状吊り部材が配置された部分が縫製されずに前記吊り込み用の溝部に差し込まれる構造であり、
前記シート部材内部に、前記留付部材を係止させるインサート部材が設けられていることを特徴とするシートの吊り込み構造
【請求項2】
吊り込み用の溝部が形成されたシート部材にトリムカバーを吊り込んで該シート部材に取り付ける際の吊り込み方法であって、
吊り込み用の線状吊り部材が配置されるべき位置を示すマーキングが表面になされた前記トリムカバーの当該表面側に前記線状吊り部材を配置し、
該線状吊り部材を前記トリムカバーの表面側で包み込み、
前記シート部材に形成された吊り込み用の溝部に、前記トリムカバーで包み込まれた前記線状吊り部材を、当該トリムカバーのうち前記線状吊り部材が配置された部分が縫製されない状態のまま差し込み、
前記シート部材の内部に設けられたインサート部材に留付部材を留め付けることにより、前記線状吊り部材を前記シート部材に留め付ける
ことを特徴とする、シートにおけるトリムカバーの吊り込み方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートの吊り込み構造およびシートにおけるトリムカバーの吊り込み方法に関する。
【背景技術】
【0002】
座席形状にモールド加工した発泡体クッション材に対してトリムカバー(表面カバー)を取り付けるための構造として、クッション材に溝状の吊り込み部を形成し、該吊り込み部にトリムカバーの一部を差し込み、クッション材に締結してトリムカバーを吊り込む構造が利用されている。
【0003】
このような吊り込み構造として、特許文献1では、トリムカバー(シートカバー)の裏面に吊り布(吊り袋)を縫い付けておき、該吊り布と、クッション材に埋め込んだワイヤー(シートバックワイヤー)とをCリングでホグリング止めすることによって吊り込む構造が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5665115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この吊り込み構造においては、トリムカバーの裏面に吊り布を縫製する必要があることから、その分の手間とコストが生じている。
【0006】
本発明は、トリムカバーの裏面に吊り布を縫製する手間とコストをなくすことが可能なシートの吊り込み構造およびシートにおけるトリムカバーの吊り込み方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく、本発明は、シートを構成するシート部材に対してトリムカバーを吊り込み支持するシートの吊り込み構造において、
前記トリムカバーの表面側に配置された吊り込み用の線状吊り部材と、
前記シート部材に形成された吊り込み用の溝部に差し込まれた状態の前記線状吊り部材を前記シート部材に留め付ける留付部材と、
を有することを特徴とする。
【0008】
この吊り込み構造においては、線状吊り部材ごとトリムカバーが吊り込み用の溝に差し込まれ、吊り布を介することなく留め付けられている。このため、トリムカバーの裏面に吊り布を縫製せずとも吊り込むことが可能となっている。
【0009】
この吊り込み構造において、前記シート部材内部に、前記留付部材を係止させるインサート部材が設けられていることが好ましい。インサート部材に留付部材の一方を係止させることで、留付部材がより抜けづらい状態となる。
【0010】
また、前記トリムカバーの表面に、前記線状吊り部材が配置されるべき位置を示すマーキングがされていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、吊り込み用の溝部が形成されたシート部材にトリムカバーを吊り込んで該シート部材に取り付ける際の吊り込み方法であって
前記トリムカバーの表面側に吊り込み用の線状吊り部材を配置し、
該線状吊り部材を前記トリムカバーの表面側で包み込み、
前記シート部材に形成された吊り込み用の溝部に、前記トリムカバーで包み込まれた前記線状吊り部材を前記シート部材の一部ごと差し込み、
前記線状吊り部材を、留付部材によって前記シート部材に留め付ける
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トリムカバーの裏面に吊り布を縫製する手間とコストをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るシートの一実施形態を示す斜視図である。
図2】背もたれ(シート部材)のマーキングに合わせて線状吊り部材を配置する様子を示す斜視図である。
図3図1のIII-III線における背もたれ(シート部材)および吊り込み構造の断面構造の一例を示す図である。
図4】トリムカバーを吊り込んだ状態を示す背もたれ(シート部材)等の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るシートの吊り込み構造および吊り込み方法の好適な実施形態について詳細に説明する(図1図4参照)。
【0015】
シート1は、車両のフロアパネル上で前後に移動可能な座2と、座2に対してリクライニング可能な背もたれ3とを備える。座2および背もたれ3は、それぞれ、シート1を構成するシート部材であり、発泡体からなるクッション材4を備えている。また、座2および背もたれ3には、吊り込み構造10を利用してトリムカバー7の着脱が可能となっている。
【0016】
ここで、背もたれ3を例に挙げて説明する。背もたれ3を構成するクッション材4は、乗員の背中を後方から支持するためのメインクッション部41と、乗員の背中を横から保持するためのサイドクッション部42とを有している(図3参照)。
【0017】
トリムカバー7は、クッション材4のメインクッション部41上およびサイドクッション部42の一部に載置される主面部71と、サイドクッション部42の残りの部分に載置されるサイド面部72と、によって形成されている。トリムカバー7の主面部71とサイド面部72は、互いの表面どうしを接触させた状態で縫合部74によって接合されており、表面が着座者の側、裏面がクッション材4側を向いてクッション材4に被せられたとき、縫合部74およびトリムカバー7の該縫合部74から先の部分が表面側に露出しない(図3図4参照)。
【0018】
次に、吊り込み構造10について説明する。吊り込み構造10は、吊り込み溝11、線状吊り部材14、インサートワイヤー16、ホッグリング18で構成される(図3等参照)。
【0019】
吊り込み溝11は、メインクッション部41とサイドクッション部42との境界部分に沿って背もたれ2の縦方向に所定の深さに形成された凹部12からなるもので、シート1の外観を形成する。通常時、凹部12は、クッション材4の弾力によってメインクッション部41とサイドクッション部42との間で圧迫され塞がった状態となるが、便宜上、図3図4においては理解しやすいように拡がった状態の凹部12を示している。
【0020】
なお、背もたれ3には、上述した吊り込み溝11の他、横方法(背もたれ3の幅方向)に沿って延びる吊り込み溝11がさらに設けられ、また、座2にも吊り込み溝11が設けられているが(図1図2参照)、本実施形態では上述したように縦方向に形成された凹部12からなる吊り込み溝11を例に説明を続ける。
【0021】
インサートワイヤー16は、背もたれ2のクッション材4の内部であって、凹部12の底から所定量深い部分に埋設されている(図3参照。なお、図3では、凹部12の溝深さ方向を符号Dで表している)。ここでいう所定量は、ホッグリング18で線状吊り部材14と当該インサートワイヤー16とを留め付ける際、当該ホッグリング18のサイズ等を考慮して留め付けに適した量である(図4参照)。
【0022】
なお、図ではインサートワイヤー16の具体的形状を示していないが、インサートワイヤー16は、凹部12が形成された方向(本実施形態であれば、メインクッション部41とサイドクッション部42との境界部分に沿った縦方向)に真っ直ぐ延びるワイヤーであってもがよいし、ホッグリング18が留め付けられる部分が凹部12寄りにクランク状に曲折したワイヤーであってもよい。
【0023】
線状吊り部材14は、トリムカバー7の表面(クッション材4とは反対側の面で、シート1において着座者が触れる表皮となる面)側に配置され、トリムカバー7の一部とともに吊り込み溝11に差し込まれ、トリムカバー7を吊り込む。線状吊り部材14は鉄、アルミニウムといった金属製でもよいし、ポリプロピレン、ポリエチレンといった樹脂製、あるいはゴム製などであってもよい。線状ワイヤーで形成された線状吊り部材14は、作業時に扱いやすく、かつ、吊り込み溝11の内部で長手方向に動きづらくなるように、その両端部が丸められている(図2参照)。
【0024】
また、トリムカバー7の表面の所定位置には、線状吊り部材14が配置されるべき位置を示すマーキング20が付されている(図2参照)。このマーキング20を目印にすることにより、線状吊り部材14を所定の位置に配置してトリムカバー7ごと吊り込み溝11に差し込むことができる。マーキング20は、例えばトリムカバー7の表面に形成した小孔(ドット)、罫書き線などで構成される。
【0025】
ホッグリング18は、吊り込み溝11に差し込まれた状態の線状吊り部材14をシート部材に留め付ける。特に図示しないが、専用の工具(ホッグリング締結装置)を使うことによってホッグリング18を吊り込み溝11内の所定位置に簡単に留め付けることができる。ホッグリング18は略C字形であり、一端がトリムカバー7を裏面側から突き抜けて線状吊り部材14に引っ掛けられ、他端がクッション材4に突き刺されてインサートワイヤー16に引っ掛けられ、押圧されて変形し、両者を締結する(図3図4参照)。
【0026】
続いて、上述した吊り込み構造10によりトリムカバー7を吊り込む際の手順を簡単に説明する。
【0027】
まず、トリムカバー7の表面側の所定位置に、マーキング20を目印にしつつ線状吊り部材14を配置する(図2図3参照)。その後、線状吊り部材14を、トリムカバー7で包み込んだ状態のまま吊り込み溝11に差し込む(図3参照)。
【0028】
次に、ホッグリング締結装置(図示省略)を用い、ホッグリング18で線状吊り部材14とインサートワイヤー16を締結する(図3図4参照)。同様にして、他の所定箇所でもホッグリング18で線状吊り部材14とインサートワイヤー16を締結する。以上により、線状吊り部材14をトリムカバー7の一部ごと背もたれ3に留め付け、吊り込み作業を終了する。
【0029】
ここまで説明した吊り込み構造10によれば、線状吊り部材14ごとトリムカバー7の一部を吊り込み溝11に差し込み、吊り布(吊り袋)を介することなくクッション材4に留め付けることができる。すなわち、トリムカバー7の裏面に吊り布を縫製せずともトリムカバー7を吊り込むことができることから、従来の吊り込み構造におけるような吊り布を縫製する手間とコストをなくすことができる。
【0030】
また、クッション材4からトリムカバー7を取り外す際には、吊り込み溝11に差し込まれているトリムカバー7を引っ張り、線状吊り部材14およびインサートワイヤー16と係止しているホッグリング18を変形させて締結を解除させる。
【0031】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本発明に係るシート1は、自動車用シートのほか、航空機用シート、旅客船用シートなどに利用することができる。
【0032】
また、上述した実施形態のごとく、クッション材4にインサートワイヤー16等のインサート部材が設けられていることが、クッション材4の局所的変形を緩和し、ホッグリング18が動きづらくあるいは抜けづらくしうる点で好ましいが、クッション材4のみでもホッグリング18を堅固に留め付けることが可能であれば、必ずしもインサート部材が設けられていなくてもよい。
【0033】
また、上述した実施形態におけるホッグリング18は線状吊り部材14とインサートワイヤー16とを締結する留付部材の好適な一例にすぎず、この他のC形リング、あるいはその他種々の留付具を利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、シートを構成するシート部材に対してトリムカバーを吊り込み支持するシートの吊り込み構造に適用して好適である。
【符号の説明】
【0035】
1…シート
2…座(シート部材)
3…背もたれ(シート部材)
4…クッション材
7…トリムカバー
10…吊り込み構造
11…吊り込み溝(吊り込み用の溝部)
14…線状吊り部材
16…インサートワイヤー(インサート部材)
18…ホッグリング(留付部材)
20…マーキング
図1
図2
図3
図4