(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の典型的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。実施形態の眼科計測装置は、少なくともOCTを実行する機能を備えた眼科装置である。以下、スウェプトソースOCTと眼底カメラとを組み合わせた眼科計測装置について説明するが、実施形態はこれに限定されない。例えば、OCTの種別はスウェプトソースOCTには限定されず、スペクトラルドメインOCT等であってもよい。ここで、スウェプトソースOCTは、波長掃引型(波長走査型)光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と干渉させて干渉光を生成し、この干渉光をバランスドフォトダイオード等で検出し、波長の掃引及び測定光のスキャンに応じて収集された検出データにフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。スペクトラルドメインOCTは、低コヒーレンス光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と干渉させて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル分布を分光器で検出し、検出されたスペクトル分布にフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。
【0012】
実施形態は、眼底カメラのような被検眼の写真(デジタル写真)を取得する機能を備えていてもいなくてもよい。また、眼底カメラの代わりに、走査型レーザ検眼鏡(SLO)や、スリットランプ顕微鏡や、前眼部撮影カメラや、手術用顕微鏡などが設けられてもよい。なお、眼底写真は、眼底の観察やスキャンエリアの設定やトラッキングなどに利用可能である。また、実施形態は、前眼部のデジタル写真等を取得する機能を備えてもよい。
【0013】
〈構成〉
図1に示すように、眼科計測装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2には、従来の眼底カメラとほぼ同様の光学系が設けられている。OCTユニット100には、OCTを実行するための光学系や機構が設けられている。演算制御ユニット200はプロセッサを含む。被検者の顔を支持するための顎受けや額当てが、眼底カメラユニット2に対向する位置に設けられている。
【0014】
本明細書において「プロセッサ」は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を意味する。プロセッサは、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。
【0015】
〈眼底カメラユニット2〉
眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efを撮影するための光学系や機構が設けられている。眼底Efを撮影して得られる画像(眼底像、眼底写真等と呼ばれる)には、観察画像や撮影画像がある。観察画像は、例えば、近赤外光を用いた動画撮影により得られる。撮影画像は、例えば、可視フラッシュ光を用いて得られるカラー画像若しくはモノクロ画像、又は近赤外フラッシュ光を用いて得られるモノクロ画像である。眼底カメラユニット2は、フルオレセイン蛍光画像やインドシアニングリーン蛍光画像や自発蛍光画像などを取得可能であってよい。
【0016】
眼底カメラユニット2は、照明光学系10と撮影光学系30とを含む。照明光学系10は被検眼Eに照明光を照射する。撮影光学系30は、被検眼Eからの照明光の戻り光を検出する。OCTユニット100からの測定光は、眼底カメラユニット2内の光路を通じて被検眼Eに導かれ、その戻り光は、同じ光路を通じてOCTユニット100に導かれる。
【0017】
照明光学系10の観察光源11は、例えばハロゲンランプ又はLED(Light Emitting Diode)である。観察光源11から出力された光(観察照明光)は、曲面状の反射面を有する反射ミラー12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ17、18、絞り19及びリレーレンズ20を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼E(特に眼底Ef)を照明する。
【0018】
被検眼Eからの観察照明光の戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この戻り光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に結像される。CCDイメージセンサ35は、例えば所定のフレームレートで戻り光を検出する。なお、撮影光学系30のピントが眼底Efに合っている場合には眼底Efの観察画像が得られ、ピントが前眼部に合っている場合には前眼部の観察画像が得られる。
【0019】
撮影光源15は、例えば、キセノンランプ又はLEDを含む可視光源である。撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。被検眼Eからの撮影照明光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、集光レンズ37によりCCDイメージセンサ38の受光面に結像される。
【0020】
LCD39は、被検眼Eを固視させるための固視標を表示する。LCD39から出力された光束(固視光束)は、その一部がハーフミラー33Aにて反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した固視光束は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。LCD39の画面における固視標の表示位置を変更することにより被検眼Eの固視位置を変更できる。なお、LCD39の代わりに、複数のLEDが2次元的に配列されたマトリクスLEDや、光源と可変絞り(液晶絞り等)との組み合わせなどを、固視光束生成手段として用いることができる。
【0021】
眼底カメラユニット2にはアライメント光学系50とフォーカス光学系60が設けられている。アライメント光学系50は、被検眼Eに対する光学系のアライメントに用いられるアライメント指標を生成する。フォーカス光学系60は、被検眼Eに対するフォーカス調整に用いられるスプリット指標を生成する。
【0022】
アライメント光学系50のLED51から出力されたアライメント光は、絞り52及び53並びにリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔開きミラー21の孔部を通過した光は、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により被検眼Eに投射される。
【0023】
アライメント光の角膜反射光は、対物レンズ22、ダイクロイックミラー46及び上記孔部を経由し、その一部がダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を通過し、ミラー32により反射され、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33に反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に投影される。CCDイメージセンサ35による受光像(アライメント指標像)に基づき、従来と同様のマニュアルアライメントやオートアライメントを行うことができる。
【0024】
フォーカス光学系60は、撮影光学系30の光路(撮影光路)に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、照明光学系10の光路(照明光路)に沿って移動される。反射棒67は、照明光路に対して挿脱可能である。
【0025】
フォーカス調整を行う際には、反射棒67の反射面が照明光路に斜設される。LED61から出力されたフォーカス光は、リレーレンズ62を通過し、スプリット視標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投射される。
【0026】
フォーカス光の眼底反射光は、アライメント光の角膜反射光と同じ経路を通ってCCDイメージセンサ35により検出される。CCDイメージセンサ35による受光像(スプリット指標像)に基づき、従来と同様のマニュアルアライメントやオートアライメントを行うことができる。
【0027】
撮影光学系30は、視度補正レンズ70及び71を含む。視度補正レンズ70及び71は、孔開きミラー21とダイクロイックミラー55との間の撮影光路に選択的に挿入可能である。視度補正レンズ70は、強度遠視を補正するためのプラス(+)レンズであり、例えば+20D(ディオプター)の凸レンズである。視度補正レンズ71は、強度近視を補正するためのマイナス(−)レンズであり、例えば−20Dの凹レンズである。視度補正レンズ70及び71は、例えばターレット板に装着されている。ターレット板には、視度補正レンズ70及び71のいずれも適用しない場合のための孔部が形成されている。
【0028】
ダイクロイックミラー46は、眼底撮影用の光路とOCT用の光路(測定光路、測定アーム)とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCTに用いられる波長帯の光(測定光LS)を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。測定アームには、OCTユニット100側から順に、光束制限部材80、コリメータレンズユニット40、光束変換部材81、レンズ82、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、ミラー44、及びリレーレンズ45が設けられている。
【0029】
光束制限部材80は、OCTユニット100から延びる光ファイバ127の眼底カメラユニット2側の端面127a又はその近傍位置に設けられている。光束制限部材80は、被検眼Eからの測定光LSの戻り光のビームサイズ(ビーム径、ビーム断面積)を制限する。本例では、コリメータレンズユニット40により端面127aに向けて集光された戻り光のビームサイズを制限するために光束制限部材80が設けられている。光束制限部材80は、例えば絞りである。
【0030】
光束制限部材80を通過するビームサイズは一定でもよいし可変でもよい。前者の場合には例えば固定絞りが用いられ、後者の場合には例えば可変絞りや液晶絞りが用いられる。後者の場合、光束制限部材80(可変絞り、液晶絞り等)は、後述の制御部210によって制御される。制御部210は、例えば、被検眼Eの計測部位(特に注目する部位等)や焦点深度等の所定のファクタに応じて光束制限範囲(絞りの開口サイズ等)を変更することができる。また、例えば予備的なOCT計測により得られるリアルタイム画像を観察しながらユーザが任意に光束制限範囲を調整することができる。或いは、予備的なOCT計測により得られるリアルタイムデータ(信号、画像等)を解析することによって光束制限範囲を調整するように構成することも可能である。
【0031】
光ファイバ127の端面127a(測定光LSの戻り光の入射口)を十分小さく形成することによって、端面127aに光束制限機能を付与することができる。この場合、光束制限部材を別途に設ける必要はない。
【0032】
コリメータレンズユニット40は、光ファイバ127の端面127aから出射して光束制限部材80を通過した測定光LSを平行光束に変換する作用と、被検眼Eからの測定光LSの戻り光を集束して(光束制限部材80を介して)端面127aに入射させる作用とを奏する。
【0033】
光束変換部材81は、被検眼Eに向かう測定光LSをベッセル型ビームに変換する。ここで、コリメータレンズユニット40から出射して光束変換部材81に入射する測定光LSは、例えば、実質的にガウシアン(ガウス型)ビームであるとする。ガウシアンビームは、ビーム断面における光強度分布がガウス分布になっているビームである。この場合、光束変換部材81としてアキシコンレンズを用いることができる。
【0034】
光束変換部材81の構成はこれには限定されず、例えば、リング開口(リングスリット)とレンズとを組み合わせた構成や、回折素子(空間位相変調器、アキシコンゾーンプレート等)によって、ベッセル型ビームを生成することが可能である。
【0035】
元の測定光LSのビーム特性はガウシアンビームには限定されず、例えばトップハット型ビーム等の任意のビーム特性の測定光LSを用いることができる。光束変換部材81は、測定光LSのビーム特性に応じた構成を備えていてよい。
【0036】
光束変換部材81は、被検眼Eからの測定光LSの戻り光に対し、上記とは逆の変換を施すよう構成されていてよい。また、被検眼Eに向かう測定光LSのみが光束変換部材81を通過し、その戻り光は光束変換部材81を迂回するように構成することも可能である。なお、光束変換部材81は、測定アームにおいて光スキャナ42よりもOCTユニット100側(光源ユニット101側)に設けられており、例えば、被検眼Eからの戻り光(例えば眼底Efからの戻り光)が再度集光される位置に配置される。
【0037】
レンズ82は、光束変換部材81により生成されたベッセル型ビームを伝搬させる。測定アームを構成する要素群の配置は、例えば、ベッセル型ビームの発生位置(光束変換部材81の焦点の位置)と光スキャナ42の位置とが、レンズ82の焦点と瞳の関係になるように設計されている。
【0038】
光路長変更部41は、
図1に示す矢印の方向に移動可能とされ、OCT用の光路の光路長を変更する。この光路長の変更は、被検眼Eの眼軸長に応じた光路長の補正や、干渉状態の調整などに利用される。光路長変更部41は、例えばコーナーキューブと、これを移動する機構とを含む。
【0039】
光スキャナ42は、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。光スキャナ42は、OCT用の光路を通過する測定光LSの進行方向を変更する。それにより、被検眼Eが測定光LSでスキャンされる。光スキャナ42は、xy平面の任意方向に測定光LSを偏向可能であり、例えば、測定光LSをx方向に偏向するガルバノミラーと、y方向に偏向するガルバノミラーとを含む。
【0040】
OCT合焦レンズ43は、測定光LSの焦点位置を変更するために光軸に沿って移動される。なお、本実施形態ではベッセル型ビームを測定光LSとして用いるので、測定光LSの焦点深度が拡大される。例えば、典型的な実施形態では、ガウシアンビームの場合の数十倍程度に焦点深度が拡大される。焦点深度が十分に拡大される実施形態においては、OCT合焦レンズ43を設ける必要はない。
【0041】
ベッセル型ビームを用いたOCTと、他の特性のビーム(ガウシアンビーム、トップハット型ビーム等)を用いたOCTとを選択的に適用できる場合、ベッセル型ビームを用いたOCTが行われるときにはOCT合焦レンズ43を測定アームから退避し、他の特性のビームを用いたOCTが行われるときにはOCT合焦レンズ43を測定アームに挿入することが可能である。このとき、ビームの特性とOCT合焦レンズ43の有無とを予め対応付けておき、ビームの特性の設定(又はOCT合焦レンズ43の有無の設定)に基づいてOCT合焦レンズ43の有無(又はビームの特性)を制御することが可能である。例えば、光束変換部材81(並びに、光束制限部材80及び/又はレンズ82)の有/無と、OCT合焦レンズ43の無/有とを予め対応付け、光束変換部材81(並びに、光束制限部材80及び/又はレンズ82)とOCT合焦レンズ43とを互いに排他的に測定アームに配置するように制御を行うことが可能である。
【0042】
〈OCTユニット100〉
図2に例示するように、OCTユニット100には、被検眼EのOCTを実行するための光学系が設けられている。この光学系の構成は、従来のスウェプトソースOCTと同様である。すなわち、この光学系は、波長掃引型(波長走査型)光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eからの測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光を検出する干渉光学系を含む。干渉光学系により得られる検出結果(検出信号)は、干渉光のスペクトルを示す信号であり、演算制御ユニット200に送られる。
【0043】
光源ユニット101は、一般的なスウェプトソースOCTと同様に、出射光の波長を高速で変化させる波長掃引型(波長走査型)光源を含む。波長掃引型光源は、例えば、近赤外レーザ光源である。
【0044】
光源ユニット101から出力された光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。更に、光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。
【0045】
参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、コーナーキューブ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。
【0046】
コーナーキューブ114は、入射した参照光LRの進行方向を逆方向に折り返す。コーナーキューブ114に対する参照光LRの入射方向と出射方向は互いに平行である。コーナーキューブ114は、参照光LRの入射方向に移動可能であり、それにより参照光LRの光路長が変更される。
【0047】
図1及び
図2に示す構成では、測定光LSの光路(測定アーム)の長さを変更するための光路長変更部41と、参照光LRの光路(参照光路、参照アーム)の長さを変更するためのコーナーキューブ114の双方が設けられているが、光路長変更部41とコーナーキューブ114のいずれか一方のみが設けられてもよい。また、これら以外の光学部材を用いて、測定光路長と参照光路長との差を変更することも可能である。
【0048】
コーナーキューブ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整され、光ファイバ119によりアッテネータ120に導かれて光量が調整され、光ファイバ121によりファイバカプラ122に導かれる。
【0049】
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127に導かれて端面127aから出射する。端面127aから出射した測定光LSは、光束制限部材80を介してコリメータレンズユニット40に到達し、平行光束に変換される。更に、平行光束となった測定光LSは、光束変換部材81に入射してベッセル型ビームに変換され、レンズ82を介して光路長変換部41に到達する。そして、測定光LSは、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、ミラー44及びリレーレンズ45を経由し、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに入射する。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱・反射される。被検眼Eからの測定光LSの戻り光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してコリメータレンズユニット40に到達し、集束光に変換される。集束光となった戻り光は、光束制限部材80によりビームサイズが制限されて端面127aから光ファイバ127に入射する。更に、測定光LSの戻り光は、光ファイバ127を通じてファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を通じてファイバカプラ122に到達する。
【0050】
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを合成して(干渉させて)干渉光を生成する。ファイバカプラ122は、所定の分岐比(例えば1:1)で干渉光を分岐することにより、一対の干渉光LCを生成する。一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバ123及び124を通じて検出器125に導かれる。
【0051】
検出器125は、例えばバランスドフォトダイオード(Balanced Photo Diode)である。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらによる検出結果の差分を出力する。検出器125は、その検出結果(検出信号)をDAQ(Data Acquisition System)130に送る。
【0052】
DAQ130には、光源ユニット101からクロックKCが供給される。クロックKCは、光源ユニット101において、波長掃引型光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニット101は、例えば、各出力波長の光L0を分岐することにより得られた2つの分岐光の一方を光学的に遅延させた後、これらの合成光を検出した結果に基づいてクロックKCを生成する。DAQ130は、検出器125から入力される検出信号をクロックKCに基づきサンプリングする。DAQ130は、検出器125からの検出信号のサンプリング結果を演算制御ユニット200に送る。
【0053】
〈演算制御ユニット200〉
演算制御ユニット200は、眼底カメラユニット2、表示装置3及びOCTユニット100の各部を制御する。また、演算制御ユニット200は、各種の演算処理を実行する。例えば、演算制御ユニット200は、一連の波長走査毎に(Aライン毎に)、検出器125により得られた検出結果に基づくスペクトル分布にフーリエ変換等の信号処理を施すことにより、各Aラインにおける反射強度プロファイルを形成する。更に、演算制御ユニット200は、各Aラインの反射強度プロファイルを画像化することにより画像データを形成する。そのための演算処理は、従来のスウェプトソースOCTと同様である。
【0054】
演算制御ユニット200は、例えば、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクドライブ、通信インターフェイスなどを含む。ハードディスクドライブ等の記憶装置には各種コンピュータプログラムが格納されている。演算制御ユニット200は、操作デバイス、入力デバイス、表示デバイスなどを含んでよい。
【0055】
〈制御系〉
眼科計測装置1の制御系の構成例を
図3に示す。
【0056】
〈制御部210〉
制御部210は、眼科計測装置1の各部を制御する。制御部210はプロセッサを含む。制御部210には、主制御部211と記憶部212とが設けられている。
【0057】
〈主制御部211〉
主制御部211は各種の制御を行う。例えば、主制御部211は、撮影合焦レンズ31、CCD(イメージセンサ)35及び38、LCD39、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦レンズ43、フォーカス光学系60、反射棒67、光源ユニット101、参照駆動部114A、検出器125、DAQ130などを制御する。参照駆動部114Aは、参照光路に設けられたコーナーキューブ114を移動させる。それにより、参照光路の長さが変更される。
【0058】
更に、主制御部211は、光束制限部材80、光束変換部材81及びレンズ82の少なくとも1つの制御を行うことができる。光束制限部材80の制御の例として、測定アームに対する光束制限部材80の挿入/退避や、光束制限範囲の変更などがある。光束変換部材81の制御の例として、測定アームに対する光束変換部材81の挿入/退避や、2以上の光束変換部材の選択的配置などがある。レンズ82の制御の例として、測定アームに対するレンズ82の挿入/退避、2以上のレンズ(レンズ群)の選択的配置などがある。
【0059】
図3に例示した構成においては、光束変換部材81及びレンズ82を測定アームに挿入する動作と、これらを測定アームから退避する動作とを行うための移動機構84が設けられている。他の実施形態において、光束制限部材80、光束変換部材81及びレンズ82を制御するための機構を個別に設けることが可能であり、更に一般的には、光束制限部材80、光束変換部材81及びレンズ82を1以上の機構によって個別に又は任意の組み合わせとして制御するよう構成することが可能である。
【0060】
〈記憶部212〉
記憶部212は各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、例えば、OCT画像の画像データ、眼底像の画像データ、被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者情報や、左眼/右眼の識別情報や、電子カルテ情報などを含む。
【0061】
〈画像形成部220〉
画像形成部220は、DAQ130から入力された検出信号のサンプリング結果に基づいて、眼底Efの断面像の画像データを形成する。この処理には、従来のスウェプトソースOCTと同様に、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、FFT(Fast Fourier Transform)などの信号処理が含まれる。画像形成部220により形成される画像データは、スキャンラインに沿って配列された複数のAライン(z方向のライン)における反射強度プロファイルを画像化することにより形成された一群の画像データ(一群のAスキャン像データ)を含むデータセットである。
【0062】
画像形成部220は、例えば、プロセッサ及び専用回路基板の少なくともいずれかを含む。なお、本明細書では、「画像データ」と、それに基づく「画像」とを同一視することがある。また、被検眼Eの部位とそれを表す画像とを同一視することがある。
【0063】
〈データ処理部230〉
データ処理部230は、画像形成部220により形成された画像に対して画像処理や解析処理を施す。例えば、データ処理部230は、画像の輝度補正や分散補正等の補正処理を実行する。また、データ処理部230は、眼底カメラユニット2により得られた画像(眼底像、前眼部像等)に対して画像処理や解析処理を施す。データ処理部230は、例えば、プロセッサ及び専用回路基板の少なくともいずれかを含む。
【0064】
データ処理部230は、画像形成部220により形成された複数の断層像の間の画素を補間する補間処理を実行するなどして、眼底Efの3次元画像を形成することができる。3次元画像とは、3次元座標系により画素の位置が定義された画像である。3次元画像としては、複数のスキャンラインに沿う複数の断層像をスキャンラインの位置関係に基づいて3次元的に配列することで得られるスタックデータや、スタックデータの補間等を行って得られるボクセルデータ(ボリュームデータ)などがある。3次元画像にレンダリング(ボリュームレンダリング、MIP(Maximum Intensity Projection:最大値投影)など)を施すことにより表示用画像が形成される。また、3次元画像に断面を設定し、それを表示することができる(多断面再構成:MPR)。また、3次元画像の少なくとも一部をz方向(Aライン方向、深さ方向)に投影することにより、プロジェクションデータやシャドウグラムが得られる。また、データ処理部230は、OCT血管造影や血流計測に関する処理を実行することが可能である。
【0065】
ベッセル型ビームを用いたOCTと、他の特性のビーム(ガウシアンビーム、トップハット型ビーム等)を用いたOCTとを選択的に適用できる場合において、データ処理部230は、OCTの種別(ビームの特性)に応じて異なる処理を実行することができる。
【0066】
例えば、ガウシアンビームを用いたOCTでは深さ方向の狭い範囲に焦点を合わせてスキャンが行われる。この範囲(前眼部、眼底など)は事前に設定されるので、データ処理部230は、設定された範囲(計測部位)に応じた所定の処理を実行する。例えば、前眼部のOCTが行われた場合、データ処理部230は、角膜曲率分布を求める処理、前房深度を求める処理、隅角の角度を求める処理などを実行することができる。
【0067】
一方、ベッセル型ビームを用いたOCTでは、深さ方向の広い範囲に焦点を合わせてスキャンを行うことができる。データ処理部230は、OCTで取得されたデータ(信号、画像、解析結果等)を深さ位置が異なる2以上の部分データに分割し、各部分データに対して異なる処理を実行することができる。
【0068】
データの分割は、例えば、被検眼Eの部位毎にデータを分割する処理(セグメンテーション)を含む。被検眼Eの角膜から眼底までの範囲のデータがまとめて取得された場合、データ処理部230は、このデータを、例えば、角膜に相当する部分データ、前房に相当する部分データ、水晶体に相当する部分データ、硝子体に相当する部分データ、網膜に相当する部分データ、脈絡膜に相当する部分データ、及び、強膜に相当する部分データに分割することができる。また、これらのサブ組織へのセグメンテーションも可能である(例えば、網膜の各層に応じたセグメンテーション)。
【0069】
典型例として、データ処理部230は、これら部分データのそれぞれに対して次のような処理を適用することができる:角膜に相当する部分データを解析して、角膜曲率分布や隅角角度を求める;前房に相当する部分データを解析して、前房深度や隅角角度を求める;水晶体に相当する部分データを解析して、水晶体厚(分布)や混濁分布を求める;硝子体に相当する部分データを解析して、硝子体剥離の状態や硝子体ポケットの状態を求める;網膜に相当する部分データを解析して、網膜厚(分布)や、網膜神経節細胞層(RNFL)厚や、網膜神経節細胞層(GCL)厚や、ドルーゼン分布や、視神経乳頭のサイズ・傾きや、血管の状態(分布、太さ等)や、血流情報(血流速度、血流量等)を求める;脈絡膜に相当する部分データを解析して、脈絡膜厚や、血管の状態や、血流情報を求める;強膜に相当する部分データを解析して、強膜の状態を求める。
【0070】
〈ユーザインターフェイス240〉
ユーザインターフェイス240は表示部241と操作部242とを含む。表示部241は表示装置3を含む。操作部242は各種の操作デバイスや入力デバイスを含む。ユーザインターフェイス240は、例えばタッチパネルのような表示機能と操作機能とが一体となったデバイスを含んでいてもよい。ユーザインターフェイス240の少なくとも一部を含まない実施形態を構築することも可能である。例えば、表示デバイスは、眼科計測装置に接続された外部装置であってよい。
【0071】
〈作用・効果〉
実施形態に係る眼科計測装置の作用及び効果について説明する。
【0072】
実施形態の眼科計測装置は、OCTを用いて被検眼のデータを収集する。眼科計測装置は、第1光学系、光スキャナ、変換部材、第2光学系、及び第1光路結合部材を備える。第1光学系は、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、対物レンズを介して被検眼に測定光を照射し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光を検出する。光スキャナは、被検眼を測定光でスキャンする。変換部材は、測定光の光路において光スキャナよりも光源側の位置に設けられ、被検眼に向かう測定光をベッセル型ビームに変換する。第2光学系は、対物レンズを介して被検眼を撮影する。第1光路結合部材は、測定光の光路において光スキャナよりも対物レンズ側の位置に設けられ、測定光の光路と第2光学系の光路とを結合する。
【0073】
上記の例において、第1光学系は、OCTユニット100に格納された光学系と測定アームを構成する光学系とを含み、OCT光源101からの光を測定光LSと参照光LRとに分割し、対物レンズ22を介して被検眼Eに測定光LSを照射し、被検眼Eからの測定光LSの戻り光と参照光LRとの干渉光LCを検出器125にて検出する。光スキャナは光スキャナ42を含む。変換部材は、光束変換部材81を含む。光束変換部材81は、測定光LSの光路(測定アーム)において光スキャナ42よりも光源ユニット101側の位置に設けられ、被検眼Eに向かう測定光LSをベッセル型ビームに変換する。第2光学系は、照明光学系10と撮影光学系30とを含み、対物レンズ22を介して被検眼Eの撮影を行う。第1光路結合部材は、ダイクロイックミラー46を含む。ダイクロイックミラー46は、測定光LSの光路(測定アーム)において光スキャナ42よりも対物レンズ22側の位置に設けられ、測定光LSの光路と撮影光学系30等の光路とを結合する。
【0074】
このような眼科計測装置によれば、ベッセル型ビームを利用して被検眼のOCTスキャンを行うことができる。更に、測定光の光路に結合された第2光学系によって眼底像や前眼部像を取得することができる。したがって、被検眼の広い範囲にピントを合わせてOCTスキャンを行うことが可能である。なお、OCTの深さ分解能は光源の可干渉距離によって決まるため、ベッセル型ビームをOCTに適用することにより、十分な深さ分解能と深い焦点深度の双方を実現することができる。
【0075】
また、焦点深度が浅い従来の技術と比較し、要求される焦点位置調整の精度が低い。更に、例えば、角膜から眼底までの広い範囲にピントが合うように焦点深度を拡大すれば、焦点位置調整の必要すら無くなる。それにより、フォーカシングのための光学素子や機構が不要となる。また、計測部位を切り替えるための光学素子やアタッチメント(前眼部計測用の前置レンズ等)が不要となる。したがって、装置構成の簡易化を図ることが可能である。
【0076】
また、ベッセル型ビームには、進行方向に位置する散乱体の背後に回り込む特性(自己回復性、自己修復性などと呼ばれる)がある。したがって、実施形態によれば、血管等の散乱体の背後にある組織のデータを取得することが可能である。
【0077】
実施形態において、変換部材は、被検眼に向かう測定光をガウス型ビームからベッセル型ビームに変換するよう構成されてよい。この場合、眼科計測装置は、測定光の光路に変換部材が配置された第1状態と、測定光の光路から変換部材が退避された第2状態とを切り替える切替機構を更に備えていてよい。
【0078】
上記の例において、被検眼Eに向かう測定光LSをガウス型ビームからベッセル型ビームに変換するよう構成された光束変換部材81を適用できる。更に、眼科計測装置1は、測定光LSの光路(測定アーム)に光束変換部材81が配置された第1状態と、測定アームから光束変換部材81が退避された第2状態とを切り替える移動機構84を備える。
【0079】
このような構成によれば、ガウス型ビームによるOCTとベッセル型ビームによるOCTとを選択的に使用することができる。例えば、広範囲のスクリーニングにはベッセル型ビームを適用し、特定の疾患の経過観察にはガウス型ビームを適用することができる。
【0080】
実施形態の眼科計測装置は、第1光学系(OCT)により取得されたデータを処理する処理系を備えていてよい。処理系は、測定光の光路に変換部材が配置された第1状態のときに第1光学系(OCT)により取得されたデータ又はその加工データのうち、被検眼の深さ方向の第1範囲に該当する第1部分データと、第2範囲に該当する第2部分データとに対して異なる処理を実行することができる。
【0081】
上記の例において、データ処理部230は、測定アームに光束変換部材81が配置された第1状態のときにOCTにより取得された検出データ(検出信号)又はそれを加工して得られたデータ(信号、画像、解析結果等)のうち、被検眼Eの深さ方向の第1範囲(例えば角膜)に該当する第1部分データと、第2範囲(例えば網膜)に該当する第2部分データとに対して異なる処理を実行することができる。
【0082】
このような構成によれば、深さ方向の広い範囲にわたって取得されたデータの部分毎に(例えば、被検眼の部位毎に)適当な処理や所望の処理を施すことが可能である。
【0083】
実施形態の眼科計測装置は、固視光学系と第2光路結合部材とを備えていてもよい。固視光学系は、被検眼に固視光束を照射する。第2光路結合部材は、測定光の光路において光スキャナよりも対物レンズ側の位置に設けられ、測定光の光路と固視光学系の光路とを結合する。
【0084】
上記の例において、固視光学系は、LCD39と、これから出力された固視光束を被検眼Eに照射する光路を形成する光学素子群とを含む。第2光路結合部材は、ダイクロイックミラー46を含む。ダイクロイックミラー46は、測定アームにおいて光スキャナ42よりも対物レンズ22側の位置に設けられ、測定アームと固視光学系の光路とを結合する。なお、上記の例では、ダイクロイックミラー46が第1光路結合部材と第2光路結合部材とを兼ねているが、第1光路結合部材と第2光路結合部材とは別々の光学部材であってもよい。
【0085】
このような構成によれば、被検眼を固視させつつベッセル型ビームを用いてOCTを行うことが可能である。
【0086】
実施形態の眼科計測装置は、被検眼からの測定光の戻り光のビームサイズを制限する制限部材を備えていてよい。上記の例において、制限部材は、光束制限部材80を含む。このような構成により、ビームサイズが好適に制御されたベッセル型ビームを用いてOCTを行うことができる。
【0087】
〈変形例〉
以上に説明した実施形態は本発明の一例に過ぎない。本発明を実施しようとする者は、本発明の要旨の範囲内における変形(省略、置換、付加等)を任意に施すことが可能である。
【0088】
前眼部計測用レンズ(前眼部計測用レンズ群)又は後眼部計測用レンズ(後眼部計測用レンズ群)を設けることが可能である。このようなレンズは、アタッチメントとして構成されてもよいし、装置筐体(例えば眼底カメラユニット2)に格納されてもよい。前眼部計測用レンズは、前眼部のOCTを行うときに測定アームに配置され、後眼部のOCTを行うときに測定アームから退避される。後眼部計測用レンズは、後眼部のOCTを行うときに測定アームに配置され、前眼部のOCTを行うときに測定アームから退避される。
【0089】
上記実施形態において、このような付加的レンズ(付加的レンズ群)は必要でないことについて説明した。しかし、例えば、ベッセル型ビームを用いたOCTの焦点深度が比較的浅い場合や、焦点位置調整を高い精度で行いたい場合などにおいて、このような付加的レンズは有効と考えられる。