特許第6703846号(P6703846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703846
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】穿孔機及び被穿孔品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 45/14 20060101AFI20200525BHJP
   B23B 35/00 20060101ALI20200525BHJP
   B23B 49/00 20060101ALI20200525BHJP
   B23B 49/02 20060101ALI20200525BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   B23B45/14
   B23B35/00
   B23B49/00 A
   B23B49/02 A
   B23Q17/22 Z
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-20640(P2016-20640)
(22)【出願日】2016年2月5日
(65)【公開番号】特開2017-136674(P2017-136674A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】596179368
【氏名又は名称】株式会社三栄機械
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】平井 久之
(72)【発明者】
【氏名】小野 譲
(72)【発明者】
【氏名】横野 司
(72)【発明者】
【氏名】柴田 繁
【審査官】 中里 翔平
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2014/0339394(US,A1)
【文献】 特表2008−502496(JP,A)
【文献】 特開平05−042456(JP,A)
【文献】 特表2006−502010(JP,A)
【文献】 特開2001−290521(JP,A)
【文献】 特開2015−139877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 45/14
B23B 35/00
B23B 49/00
B23B 49/02
B23Q 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿孔対象物に第1の直径の孔を穿孔するための第1の穿孔機構と、
前記穿孔対象物に前記第1の直径と異なる第2の直径の孔を穿孔するための第2の穿孔機構と、
前記第1の直径の孔及び前記第2の直径の孔の穿孔方向と異なる方向に走行することによって、走行方向における前記第1及び第2の穿孔機構の位置決めを行う走行装置と、
前記穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報を読み取るリーダと、
前記リーダにより読み取られた情報に基づいて前記走行装置を制御する制御装置と、
を備え
前記第1の穿孔機構は、往復移動する前記走行装置の往路において前記第1の直径の孔を穿孔するように構成される一方、前記第2の穿孔機構は、前記走行装置の復路において前記第2の直径の孔を穿孔するように構成される穿孔機。
【請求項2】
前記穿孔板の端部の位置を検出するセンサを更に備え、
前記制御装置は、前記センサにより検出された前記穿孔板の端部の位置に基づいて前記走行装置の走行方向を制御するように構成される請求項記載の穿孔機。
【請求項3】
前記リーダは、前記第1の直径の孔の穿孔位置を特定するための情報を、前記往路の開始側における前記穿孔板の端部に取付けられる第1の集積回路タグから読み取る一方、前記第2の直径の孔の穿孔位置を特定するための情報を、前記復路の開始側における前記穿孔板の端部に取付けられる第2の集積回路タグから読み取るように構成され、
前記制御装置は、前記第1の穿孔機構が前記第1の直径の孔の穿孔位置に位置決めされるように前記走行装置を制御する一方、前記第2の穿孔機構が前記第2の直径の孔の穿孔位置に位置決めされるように前記走行装置を制御する請求項又は記載の穿孔機。
【請求項4】
前記リーダは、前記穿孔対象物に複数の前記穿孔板が前記走行装置の走行方向に取付けられている場合に、前記穿孔板ごとに前記第1の直径の孔の穿孔位置を特定するための情報を前記第1の集積回路タグから読み取る一方、前記第2の直径の孔の穿孔位置を特定するための情報を前記第2の集積回路タグから読み取るように構成される請求項記載の穿孔機。
【請求項5】
前記制御装置は、前記穿孔板ごとに基準位置をリセットして前記第1の穿孔機構が前記第1の直径の孔の穿孔位置に位置決めされるように前記走行装置を制御する一方、前記第2の穿孔機構が前記第2の直径の孔の穿孔位置に位置決めされるように前記走行装置を制御するように構成される請求項記載の穿孔機。
【請求項6】
穿孔対象物の穿孔を行う穿孔機構と、
穿孔方向と異なる方向に走行することによって、走行方向における前記穿孔機構の位置決めを行う走行装置と、
前記穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報を読み取るリーダと、
前記リーダにより読み取られた情報に基づいて前記走行装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記リーダは、前記穿孔対象物に複数の前記穿孔板が前記走行装置の走行方向に取付けられている場合に、各穿孔板に取付けられる集積回路タグから前記複数の穿孔板の前記穿孔対象物への取付順序を表す情報をそれぞれ読み取るように構成され、
前記制御装置は、前記取付順序を表す情報が前記リーダによって前記複数の穿孔板から正しい順序で読み取られなかった場合には、エラー情報を出力するように構成される穿孔機。
【請求項7】
穿孔対象物の穿孔を行う穿孔機構と、
穿孔方向と異なる方向に走行することによって、走行方向における前記穿孔機構の位置決めを行う走行装置と、
前記穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報を読み取るリーダと、
前記リーダにより読み取られた情報に基づいて前記走行装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置に複数の穿孔板の識別情報と穿孔位置との関係を示す情報を保存し、前記制御装置は、前記リーダによって前記集積回路タグから読み取られた前記穿孔板の識別情報と前記保存された関係を示す情報とに基づいて前記穿孔機構による穿孔位置を特定し、特定した前記穿孔位置に前記穿孔機構が位置決めされるように前記走行装置を制御するように構成される穿孔機。
【請求項8】
前記制御装置は、
複数の前記穿孔板の識別情報と穿孔位置との関係を示す情報を保存する記憶装置と、
前記リーダによって読み取られた前記穿孔板の識別情報を無線によって取得し、取得した前記穿孔板の識別情報と前記記憶装置に保存された前記情報とに基づいて特定した前記穿孔位置に前記穿孔機構が位置決めされるように前記走行装置を制御するための制御信号を生成して無線で送信する制御信号生成部と、
前記制御信号を無線によって受信し、受信した前記制御信号を前記走行装置に与える制御信号受信装置とを有し、
前記制御信号受信装置を前記走行装置に搭載する一方、前記記憶装置及び前記制御信号生成部を前記走行装置の外部に設置した請求項1乃至のいずれか1項に記載の穿孔機。
【請求項9】
前記走行装置は、前記穿孔対象物が有する構造物をガイドとして走行するように構成される請求項1乃至のいずれか1項に記載の穿孔機。
【請求項10】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の穿孔機を用いて被穿孔品を製造する被穿孔品の製造方法。
【請求項11】
穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報をリーダで読み取るステップと、
前記リーダにより読み取られた情報に基づいて、穿孔方向と異なる方向に走行装置を走行させることによって、前記走行装置に連結された第1及び第2の穿孔機構の走行方向における位置決めを行うステップと、
前記位置決め後における前記第1の穿孔機構を用いて前記穿孔対象物に第1の直径の孔を穿孔する一方、前記位置決め後における前記第2の穿孔機構を用いて前記穿孔対象物に前記第1の直径と異なる第2の直径の孔を穿孔することによって被穿孔品を製造するステップと、
を有し、
前記第1の穿孔機構で、往復移動する前記走行装置の往路において前記第1の直径の孔を穿孔する一方、前記第2の穿孔機構で、前記走行装置の復路において前記第2の直径の孔を穿孔する被穿孔品の製造方法。
【請求項12】
穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報をリーダで読み取るステップと、
前記リーダにより読み取られた情報に基づいて、制御装置で走行装置を制御し、穿孔方向と異なる方向に前記走行装置を走行させることによって、前記走行装置に連結された穿孔機構の走行方向における位置決めを行うステップと、
前記位置決め後における前記穿孔機構を用いて前記穿孔対象物の穿孔を行うことによって被穿孔品を製造するステップと、
を有し、
前記穿孔対象物に複数の前記穿孔板が前記走行装置の走行方向に取付けられている場合に、各穿孔板に取付けられる集積回路タグから前記複数の穿孔板の前記穿孔対象物への取付順序を表す情報を前記リーダでそれぞれ読み取り、前記取付順序を表す情報が前記リーダによって前記複数の穿孔板から正しい順序で読み取られなかった場合には、前記制御装置からエラー情報を出力する被穿孔品の製造方法。
【請求項13】
穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報をリーダで読み取るステップと、
前記リーダにより読み取られた情報に基づいて、制御装置で走行装置を制御し、穿孔方向と異なる方向に前記走行装置を走行させることによって、前記走行装置に連結された穿孔機構の走行方向における位置決めを行うステップと、
前記位置決め後における前記穿孔機構を用いて前記穿孔対象物の穿孔を行うことによって被穿孔品を製造するステップと、
を有し、
前記制御装置に複数の穿孔板の識別情報と穿孔位置との関係を示す情報を保存し、前記制御装置が、前記リーダによって前記集積回路タグから読み取られた前記穿孔板の識別情報と前記保存された関係を示す情報とに基づいて前記穿孔機構による穿孔位置を特定し、特定した前記穿孔位置に前記穿孔機構が位置決めされるように前記走行装置を制御する被穿孔品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、穿孔機及び被穿孔品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機等の部品に穿孔を行う穿孔機として、走行機能を有する自走式穿孔機が提案されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。具体例として、光を用いて加工物表面の構造を認識することによって加工物の表面上に位置決めすることが可能な自走式穿孔機が提案されている。また、加工物に位置合わせ装置を取付け、位置合わせ装置に加工対象となる孔の位置及び直径等のプロセス情報に対応付けられた識別子を保存する技術も提案されている。この技術によれば、位置合わせ装置に保存された識別子を読取器で読み取ることによって、識別子に対応するプロセス情報に従って自走式穿孔機を制御することができるとされている。
【0003】
一方、異なる直径を有する孔を、穿孔工具の交換せずに穿孔できるように、穿孔ヘッドに複数の穿孔工具を選択可能に着脱することが可能な穿孔機も知られている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−526134号公報
【特許文献2】特表2006−502010号公報
【特許文献3】特開平3−098794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、より簡易な構成で複雑な構造を有する航空機等の部品の穿孔を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係る穿孔機は、穿孔対象物に第1の直径の孔を穿孔するための第1の穿孔機構と、前記穿孔対象物に前記第1の直径と異なる第2の直径の孔を穿孔するための第2の穿孔機構と、前記第1の直径の孔及び前記第2の直径の孔の穿孔方向と異なる方向に走行することによって、走行方向における前記第1及び第2の穿孔機構の位置決めを行う走行装置と、前記穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報を読み取るリーダと、前記リーダにより読み取られた情報に基づいて前記走行装置を制御する制御装置とを備え、前記第1の穿孔機構は、往復移動する前記走行装置の往路において前記第1の直径の孔を穿孔するように構成される一方、前記第2の穿孔機構は、前記走行装置の復路において前記第2の直径の孔を穿孔するように構成されるものである。
また、本発明の実施形態に係る穿孔機は、穿孔対象物の穿孔を行う穿孔機構と、穿孔方向と異なる方向に走行することによって、走行方向における前記穿孔機構の位置決めを行う走行装置と、前記穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報を読み取るリーダと、前記リーダにより読み取られた情報に基づいて前記走行装置を制御する制御装置とを備え、前記リーダは、前記穿孔対象物に複数の前記穿孔板が前記走行装置の走行方向に取付けられている場合に、各穿孔板に取付けられる集積回路タグから前記複数の穿孔板の前記穿孔対象物への取付順序を表す情報をそれぞれ読み取るように構成され、前記制御装置は、前記取付順序を表す情報が前記リーダによって前記複数の穿孔板から正しい順序で読み取られなかった場合には、エラー情報を出力するように構成されるものである。
また、本発明の実施形態に係る穿孔機は、穿孔対象物の穿孔を行う穿孔機構と、穿孔方向と異なる方向に走行することによって、走行方向における前記穿孔機構の位置決めを行う走行装置と、前記穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報を読み取るリーダと、前記リーダにより読み取られた情報に基づいて前記走行装置を制御する制御装置とを備え、前記制御装置に複数の穿孔板の識別情報と穿孔位置との関係を示す情報を保存し、前記制御装置は、前記リーダによって前記集積回路タグから読み取られた前記穿孔板の識別情報と前記保存された関係を示す情報とに基づいて前記穿孔機構による穿孔位置を特定し、特定した前記穿孔位置に前記穿孔機構が位置決めされるように前記走行装置を制御するように構成されるものである。
また、本発明の実施形態に係る被穿孔品の製造方法は、前記穿孔機を用いて被穿孔品を製造するものである。
また、本発明の実施形態に係る被穿孔品の製造方法は、穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報をリーダで読み取るステップと、前記リーダにより読み取られた情報に基づいて、穿孔方向と異なる方向に走行装置を走行させることによって、前記走行装置に連結された第1及び第2の穿孔機構の走行方向における位置決めを行うステップと、前記位置決め後における前記第1の穿孔機構を用いて前記穿孔対象物に第1の直径の孔を穿孔する一方、前記位置決め後における前記第2の穿孔機構を用いて前記穿孔対象物に前記第1の直径と異なる第2の直径の孔を穿孔することによって被穿孔品を製造するステップとを有し、前記第1の穿孔機構で、往復移動する前記走行装置の往路において前記第1の直径の孔を穿孔する一方、前記第2の穿孔機構で、前記走行装置の復路において前記第2の直径の孔を穿孔するものである。
また、本発明の実施形態に係る被穿孔品の製造方法は、穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報をリーダで読み取るステップと、前記リーダにより読み取られた情報に基づいて、制御装置で走行装置を制御し、穿孔方向と異なる方向に前記走行装置を走行させることによって、前記走行装置に連結された穿孔機構の走行方向における位置決めを行うステップと、前記位置決め後における前記穿孔機構を用いて前記穿孔対象物の穿孔を行うことによって被穿孔品を製造するステップとを有し、前記穿孔対象物に複数の前記穿孔板が前記走行装置の走行方向に取付けられている場合に、各穿孔板に取付けられる集積回路タグから前記複数の穿孔板の前記穿孔対象物への取付順序を表す情報を前記リーダでそれぞれ読み取り、前記取付順序を表す情報が前記リーダによって前記複数の穿孔板から正しい順序で読み取られなかった場合には、前記制御装置からエラー情報を出力するものである。
また、本発明の実施形態に係る被穿孔品の製造方法は、穿孔対象物に取付けられる穿孔板に取付けられる集積回路タグに記録された情報をリーダで読み取るステップと、前記リーダにより読み取られた情報に基づいて、制御装置で走行装置を制御し、穿孔方向と異なる方向に前記走行装置を走行させることによって、前記走行装置に連結された穿孔機構の走行方向における位置決めを行うステップと、前記位置決め後における前記穿孔機構を用いて前記穿孔対象物の穿孔を行うことによって被穿孔品を製造するステップとを有し、前記制御装置に複数の穿孔板の識別情報と穿孔位置との関係を示す情報を保存し、前記制御装置が、前記リーダによって前記集積回路タグから読み取られた前記穿孔板の識別情報と前記保存された関係を示す情報とに基づいて前記穿孔機構による穿孔位置を特定し、特定した前記穿孔位置に前記穿孔機構が位置決めされるように前記走行装置を制御するものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係る穿孔機の構造を示す正面図。
図2図1に示す穿孔機の構造を示す上面図。
図3図1に示す穿孔機に備えられる第1の走行機構の構造を示す左側面図。
図4図1に示す穿孔機に備えられる第2の走行機構の構造を示す右側面図。
図5図1に示す穿孔板を右方向から見た図。
図6図1に示す制御装置の機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態に係る穿孔機及び被穿孔品の製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0009】
(構成及び機能)
図1は本発明の実施形態に係る穿孔機の構造を示す正面図、図2図1に示す穿孔機の構造を示す上面図、図3図1に示す穿孔機に備えられる第1の走行機構の構造を示す左側面図、図4図1に示す穿孔機に備えられる第2の走行機構の構造を示す右側面図である。
【0010】
穿孔機1は、穿孔板Tを取付けた穿孔対象物Oの上又は穿孔対象物Oの近傍を走行しながら穿孔対象物Oの穿孔を行う自走式の自動穿孔機である。例えば、板状の部品O1の上に構造物O2を設けて成る穿孔対象物Oが、穿孔機1による穿孔対象とされる。図示された例では、板状の部品O1の上にウェブO3とフランジO4とを有する複数の長尺構造物O2を設けた構造を有する穿孔対象物Oが穿孔対象となっている。より具体的には、穿孔対象物OのウェブO3の部分が穿孔対象となっている。そこで、穿孔対象物OのウェブO3には、穿孔板Tが取付けられている。
【0011】
板状の部品O1の上に複数の長尺構造物O2を取付けた構造を有する穿孔対象物Oの例としては、航空機の中央翼が挙げられる。中央翼は、航空機の左右の主翼の間に設けられる翼である。従って、中央翼は、航空機の胴体の底部に位置する。このため、中央翼は、座席を固定するためのシートレールを曲面状のパネルに取付けた構造を有する。
【0012】
従って、穿孔対象物Oがシートレールを取付けた航空機の中央翼である場合には、穿孔対象物Oは、平面でない板状の部品O1であるパネルの上にシートレールとして上面が平面である複数の形鋼状の構造物O2を設けた構造となる。穿孔対象物Oの他の例としては、ストリンガー、リブ及びスパー等のウェブとフランジとを有する構造物をパネル上に取付けた主翼等の航空機構造体が挙げられる。
【0013】
尚、形鋼、すなわちI型又はH型等の一定の断面形状を有する材軸方向に長い鋼材も長尺構造物O2の一例であるが、一定でない断面形状を有する材軸方向に長い形鋼状の鋼材も長尺構造物O2の一例となり得る。また、鋼材に限らず複合材で構成される形鋼状の構造物も長尺構造物O2の一例となり得る。
【0014】
穿孔機1は、穿孔機構2、走行装置3、位置センサ4、集積回路(IC:Integrated Circuit)タグリーダ5及び制御装置6で構成することができる。穿孔機1を構成する構成要素のうち、情報処理や制御を行うための構成要素は、コンピュータ等の回路で構成することができる。
【0015】
穿孔機構2は、ドリル等の工具を保持して穿孔対象物Oの穿孔を行う装置である。図示された例では、2つの穿孔機構2が穿孔機1に備えられている。すなわち、穿孔機1は、第1の直径の孔を穿孔するための第1の穿孔機構2Aと、第1の直径と異なる第2の直径の孔を穿孔するための第2の穿孔機構2Bとを備えている。第1の穿孔機構2Aには、第1の直径の孔を穿孔するための第1の穿孔工具が取付けられる。一方、第2の穿孔機構2Bには、第2の直径の孔を穿孔するための第2の穿孔工具が取付けられる。このため、第1の直径及び第2の直径の2種類のサイズの穿孔を行うことができる。各穿孔機構2は、ドリル等の工具の回転及び送りを行うことが可能なドリル駆動装置である。
【0016】
各穿孔機構2には、必要に応じて切削油の供給機構や切粉を集塵するための集塵機構を設けることもできる。切削油の供給方法としては、ドリル等の工具の内部を経由して切削油を供給する方法と、工具の外部に切削油の供給ノズルを配置する方法が挙げられる。
【0017】
尚、回転、送り、リターン及び切削油供給を1系統のエア信号で動作させることが可能な汎用のドリル駆動装置が市販されている。このため、市販のエア式のドリル駆動装置を穿孔機構2として流用するようにすれば、穿孔機1の製造コストを低減させることができる。但し、穿孔機構2の各部を動作させるために、エア式の機構に限らず、油圧式の機構や電気制御によって駆動する機構を用いるようにしてもよい。
【0018】
各穿孔機構2のヘッドには、図示されるようにコレット2Cを設けることが好適である。コレット2Cは、穿孔板Tに挿入された状態で穿孔機構2のヘッドを穿孔板Tにクランプする装置である。具体的には、穿孔板Tに挿入されたコレット2C内に穿孔機構2のヘッド先端を押し込むと、コレット2Cが外側に押し広げられて穿孔機構2のヘッドをコレット2Cを介して穿孔板Tに固定することができる。第1の穿孔機構2Aに取付けられる第1の穿孔工具の直径は、第2の穿孔機構2Bに取付けられる第2の穿孔工具の直径と異なる。このため、図示された例では、第1の穿孔機構2Aに取付けられるコレット2Cのサイズと、第2の穿孔機構2Bに取付けられるコレット2Cのサイズも異なっている。
【0019】
各穿孔機構2は、着脱機構7によって走行装置3と直接又は間接的に連結される。図示された例では、各穿孔機構2は、送り機構8を介して間接的に着脱機構7によって走行装置3と連結されている。
【0020】
送り機構8は、穿孔機構2自体を工具軸方向に移動させる装置である。各送り機構8は、例えば、ラック・アンド・ピニオン8A、ラック・アンド・ピニオン8Aのピニオン側を回転させるための送り用モータ8B及び穿孔機構2の移動をガイドする送り用ガイド8Cによって構成することができる。尚、ラックは、歯切りをした直線状の棒であり、ピニオンはラックと噛み合う小口径の円形歯車である。すなわち、送り用ガイド8Cに沿ってスライド可能にセットした穿孔機構2をラック・アンド・ピニオン8Aのラック側に固定し、ラック・アンド・ピニオン8Aのピニオンを送り用モータ8Bで回転させることによって、穿孔機構2の工具軸方向に送り出すことができる。
【0021】
尚、各穿孔機構2に備えられる工具の送り機能のみによって、工具の送り動作を行う場合には、送り機構8を省略してもよい。但し、穿孔機構2の送り機構8を穿孔機1に設ければ、構造物O2に工具軸方向の凹凸が存在する場合であっても、穿孔機構2のヘッドと構造物O2との干渉を回避することができる。
【0022】
着脱機構7は、位置決めピン7A、位置決め孔7B、フック7C及び固定用ノブ7Dで構成することができる。位置決めピン7A及びフック7Cは、穿孔機構2側に設けられる。一方、位置決め孔7B及び固定用ノブ7Dは、穿孔機構2の取付対象側に設けられる。図示された例では、穿孔機構2が送り機構8に取付けられるため、送り機構8に位置決め孔7B及び固定用ノブ7Dが設けられている。
【0023】
位置決めピン7A及び位置決め孔7Bは、位置決めピン7Aを位置決め孔7Bに挿入できるように2組設けられる。従って、2本の位置決めピン7Aをそれぞれ位置決め孔7Bに挿入することによって穿孔機構2の位置決めを行うことができる。
【0024】
固定用ノブ7Dは、回転軸によってレバーのように引き上げることができるように構成されている。2組の位置決めピン7A及び位置決め孔7Bで穿孔機構2を位置決めした状態で、固定用ノブ7Dを引き上げると、固定用ノブ7Dが穿孔機構2に取付けられたフック7Cに係合するようになっている。このため、固定用ノブ7Dとフック7Cとの係合によって穿孔機構2を送り機構8に固定することができる。つまり、位置決めピン7Aによって穿孔機構2を位置決めし、固定用ノブ7Dの操作によって穿孔機構2を簡易に送り機構8から着脱することができる。
【0025】
穿孔機構2の着脱対象となる送り機構8は、走行装置3と連結される。走行装置3は、穿孔方向と異なる方向に走行することによって、走行方向における穿孔機構2の位置決めを行う装置である。このため、走行装置3を走行させるためにレール等のガイドを穿孔対象物O上又は穿孔対象物Oの近傍に据付けるようにしてもよい。但し、走行装置3を、穿孔対象物Oが有する所望の構造物をガイドとして走行するように構成することができる。そうすると、走行装置3を移動させるための専用のレールが不要となるため、走行装置3の構成を簡易にすることができる。そこで、以降では、走行装置3が穿孔対象物O自体をガイドとして走行するように構成される場合を例に説明する。
【0026】
より具体的な例として、走行装置3を、穿孔対象物Oの長尺構造物O2をガイドとして長尺構造物O2の長手方向に走行することによって、走行方向における穿孔機構2の位置決めを行う装置とすることができる。この場合、走行装置3は、複数の走行機構9及び調節機構10を用いて構成することができる。各走行機構9は、穿孔対象物Oの長尺構造物O2をガイドとして走行する装置である。一方、調節機構10は、複数の走行機構9の間隔を調節する装置である。
【0027】
図示された例では、2箇所の長尺構造物O2の位置に合わせて2つの走行機構9が走行装置3として設けられている。但し、3つ以上の長尺構造物O2の位置に合わせて3つ以上の走行機構9を設けてもよい。或いは、3つ以上の長尺構造物O2が存在する場合には、任意の2つの長尺構造物O2の位置に合わせて2つの走行機構9を設けてもよい。つまり、走行装置3は、少なくとも2つの長尺構造物O2の上を走行する複数の走行機構9で構成することができる。以降では、図示されるように走行装置3が2つの走行機構9を有する場合を例に説明する。
【0028】
走行装置3に、2つの走行機構9の間隔を調節する調節機構10を設ければ、異なる間隔で配置された3つ以上の長尺構造物O2を有する穿孔対象物Oであっても、選択された2つの長尺構造物O2をガイドとして走行することが可能となる。調節機構10は、例えば図示されるように2本のロッド10Aに沿ってスライドする円筒状のスライダー10Bをフレーム10Cに設けて構成することができる。すなわち、2本のロッド10Aに沿ってフレーム10Cをロッド10Aの長手方向にスライドさせることによって調節機構10の幅を伸縮させることができる。尚、フレーム10Cは、ストッパ10Dによってロッド10A側に固定することができる。このため、調節機構10を2つの走行機構9の間に設ければ、調節機構10の伸縮によって2つの走行機構9の間隔を調節することができる。
【0029】
各走行機構9は、ローラやチェーン等によって構成することができる。図示された例では、各走行機構9は、長尺構造物O2の上面となるフランジO4上を走行するチェーン20及びサポートローラ21と、フランジO4の下面をガイドする下面ガイドローラ22とを有する。更に、穿孔板T側における走行機構9には、ウェブO3に水平方向から接触して走行する外側サイドローラ23及び穿孔板Tに水平方向から接触して走行する内側サイドローラ24が設けられている。
【0030】
フランジO4上を走行するチェーン20は、2つのスプロケット(チェーン20と噛み合う歯車)25によって駆動するようになっている。そして、一方のスプロケット25は駆動軸26の一端に固定される。フランジO4上を走行するチェーン20は、2つの走行機構9に備えられるため、各走行機構9に備えられる2つのスプロケット25のうちの各一方が駆動軸26の両端に固定されることになる。この結果、2つの走行機構9のスプロケット25が駆動軸26によって連結される。
【0031】
スプロケット25の駆動軸26は、ベルト27によって走行用モータ28と連結される。このため、走行用モータ28が駆動すると、ベルト27によって回転動力が駆動軸26に伝達される。これにより、駆動軸26とともに両輪となる2つのスプロケット25が回転し、2つのチェーン20を長尺構造物O2の長手方向に沿う走行方向に駆動させることができる。すなわち、チェーン20の駆動によって走行装置3は、長尺構造物O2の長手方向に沿う走行方向に走行することができる。
【0032】
更に、サポートローラ21、下面ガイドローラ22、外側サイドローラ23及び内側サイドローラ24によって、走行装置3が確実に長尺構造物O2に沿って走行できるようにガイドされる。すなわち、本来走行用のレールではないシートレール等の複雑な構造を有する長尺構造物O2であっても、長尺構造物O2を跨ぐ構造を有する走行機構9によって、長尺構造物O2を走行用のレールとして利用することができる。
【0033】
長尺構造物O2がシートレールである場合には、フランジO4の部分に長手方向に沿って複数の孔が設けられる。すなわち、穿孔対象物Oがシートレールを取付けたパネルである場合には、穿孔対象物Oは、走行装置3の走行方向に沿う複数の孔を有する少なくとも1つの長尺構造物O2を板状の部品O1の上に設けた構造を有する。
【0034】
そこで、走行装置3の走行機構9に、シートレール等の長尺構造物O2に設けられた複数の孔に嵌り込むピン等の突起29を設けることができる。これにより、走行機構9の脱落を防止することができる。図示された例では、一方の走行機構9のチェーン20に、長尺構造物O2の上面に設けられた複数の孔に嵌り込む複数の突起29が設けられている。尚、サポートローラ21に突起29を設けることもできる。
【0035】
但し、チェーン20の場合には、ローラと異なり、長尺構造物O2の上面に線状に接触する部分が生じる。そこで、チェーン20に、長尺構造物O2の上面に設けられた複数の孔のうち少なくとも2つの孔に同時に嵌り込む複数の突起29を設けることができる。これにより、チェーン20の走行方向を長尺構造物O2の上面に設けられた複数の孔の配列方向とすることができる。加えて、長尺構造物O2の複数の孔の配列方向に対して工具軸方向を常に同じ向きにすることができる。
【0036】
尚、チェーン20の代わりに金属製クローラやベルト等の長尺構造物O2の上面に長手方向に線状又は面上に接触する走行手段を走行機構9に設けた場合にも、同様に、走行機構9に長尺構造物O2の上面に設けられた複数の孔のうち少なくとも2つの孔に同時に嵌り込む複数の突起29を設けることができる。
【0037】
長尺構造物O2がシートレールであれば、通常、長手方向に直線状かつ等間隔に貫通孔が設けられる。従って、貫通孔のピッチに合わせて走行機構9の突起29の間隔を決定すれば、シートレールの少なくとも2つの孔に同時に突起29を嵌め込むことができる。また、長尺構造物O2の上面に不等間隔で複数の孔が設けられている場合であっても、孔の間隔の最小公倍数となる間隔で走行機構9に突起29を設ければ、少なくとも2つの孔に同時に突起29を嵌め込むことができる。
【0038】
これにより、本来走行用のレールではないシートレール等の長尺構造物O2を利用して、走行機構9の走行方向及び工具軸方向を適切な方向に向けることが可能となる。すなわち、長尺構造物O2の上面に設けられた複数の孔を基準として走行機構9を走行させるとともに、工具軸方向を固定することができる。加えて、走行機構9のずれや脱落も確実に防止することができる。
【0039】
但し、突起29を一方の走行機構9にのみ設けることが望ましい。これは、2つの走行機構9が走行する長尺構造物O2に設けられる孔の配列方向が必ずしも平行とは限らないためである。すなわち、図示されるように一方のチェーン20にのみ複数の突起29を設ければ、他方のチェーン20が走行する長尺構造物O2に設けられる孔の配列方向が、突起29を設けたチェーン20が走行する長尺構造物O2に設けられる孔の配列方向と異なる場合であっても、走行機構9の走行方向及び工具軸方向を、突起29を設けたチェーン20が走行する長尺構造物O2に設けられる孔の配列方向を基準として適切な方向に向けることが可能となる。具体的には、走行機構9の走行方向と工具軸方向が垂直であれば、工具を常に、長尺構造物O2に設けられる孔の配列方向に垂直に向けることができる。
【0040】
これは、走行装置3が3つ以上の走行機構9を有する場合においても同様である。つまり、走行装置3が、走行方向と異なる方向に離れた位置で走行する複数の走行機構9を備えている場合には、複数の走行機構9のうち1つの走行機構9にのみ長尺構造物O2の複数の孔のうち少なくとも2つの孔に同時に嵌り込む複数の突起29を設けることが適切である。そして、複数の長尺構造物O2から任意に選択された1つの長尺構造物O2をガイドとして走行装置3を走行させることができる。
【0041】
また、ウェブO3に水平方向から接触して走行する外側サイドローラ23及び穿孔板Tに水平方向から接触して走行する内側サイドローラ24についても、穿孔板T側における走行機構9にのみ設けることができる。これにより、複数の長尺構造物O2のウェブO3が互いに平行でない場合であっても、複数の長尺構造物O2から任意に選択された1つの長尺構造物O2及び当該長尺構造物O2に取付けられた穿孔板Tのみを対象として外側サイドローラ23及び内側サイドローラ24を走行させることができる。
【0042】
穿孔機1には、走行装置3の走行及び穿孔機構2による穿孔を自動で制御できるようにするために、更に位置センサ4及びICタグリーダ5を設けることができる。位置センサ4は、穿孔対象物Oに取付けられる穿孔板Tの位置を検出するセンサである。一方、ICタグリーダ5は、穿孔対象物Oに直接又は間接的に取付けられるICタグ30に記録された情報を読み取る情報読取り装置である。図示された例では、ICタグ30が穿孔板Tに取付けられている。
【0043】
図5は、図1に示す穿孔板Tを右方向から見た図である。
【0044】
図5に示すように、長尺構造物O2の長手方向に沿って、板状の穿孔板Tをボルト等の締付器具でウェブO3の穿孔側に取付けることができる。図示された例では、2つの穿孔板Tが並べて設けられている。各穿孔板Tには、長尺構造物O2の穿孔位置に合わせてガイド用の貫通孔が設けられる他、ICタグ30を貼り付けることができる。
【0045】
位置センサ4は、穿孔板Tの上面に向かってレーザを照射するレーザ変位センサで構成することができる。そうすると、位置センサ4により、穿孔板Tの端部の位置を検出することができる。すなわち、穿孔板Tの上面に反射したレーザが位置センサ4において検出されたか否かを表す2値の検出信号によって、穿孔板Tの存在範囲を検出することができる。
【0046】
図示された例では、組合された穿孔板Tの一方の端部を検出するための位置センサ4と、穿孔板Tの他方の端部を検出するための位置センサ4が穿孔機1に設けられている。このように、穿孔対象物Oではなく穿孔治具として設けられる穿孔板Tを検出することによって、穿孔対象物Oの構造に依らず、単純かつ共通の位置センサ4を用いて穿孔対象物Oと穿孔機1との間における相対的な位置関係を検出することができる。
【0047】
穿孔板Tに貼り付けられるICタグ30には、穿孔板Tの識別情報(ID情報)及び穿孔機構2の選択情報が記録される。穿孔機構2は2つ存在するため、図5に示す例では、各穿孔板Tに2つの穿孔機構2に対応する2つのICタグ30、すなわち第1のICタグ30A及び第2のICタグ30Bが貼り付けられている。穿孔板TのICタグ30によって、RFID(radio frequency identifier)技術を利用した穿孔機1の自動走行及び自動穿孔を含む自動制御を行うことができる。尚、RFIDとは、ID情報を記録したICタグ等のRFタグから、無線によってID情報を取得する技術である。
【0048】
穿孔機1のICタグリーダ5は、穿孔板Tに貼り付けられるICタグ30からICタグ情報を読み取ることが可能な位置に設けられる。ICタグリーダ5によって読み取られた穿孔板TのID情報及び穿孔機構2の選択情報を含むICタグ情報は、無線によって制御装置6に転送される。同様に、各位置センサ4によって検出された穿孔板Tの端部の位置情報も、無線によって制御装置6に転送される。
【0049】
制御装置6は、コンピュータ等の電子回路類で構成され、穿孔機1の各構成要素を制御する装置である。すなわち、制御装置6は、穿孔機構2の駆動、送り機構8の駆動及び走行装置3の走行を制御するための装置である。走行装置3による積載対象の軽量化の観点から、制御装置6全体を走行装置3に搭載せずに、制御装置6による穿孔機構2、送り機構8及び走行装置3の制御を、無線による遠隔制御とすることができる。
【0050】
その場合、制御装置6は、走行装置3に搭載されない本体部6Aと、走行装置3に搭載されて本体部6Aとの間で無線通信を行う制御信号受信装置6Bとによって構成することができる。図示された例では、制御信号受信装置6Bが、走行機構9の間隔を調節する調節機構10の上方に設けられている。
【0051】
図6は、図1に示す制御装置6の機能ブロック図である。
【0052】
図6に示すように、本体部6Aには、記憶装置6C、制御信号生成部6D及び無線器6Eを設けることができる。
【0053】
制御装置6の本体部6Aは、走行装置3に取付けられた位置センサ4により検出された穿孔板Tの位置及びICタグリーダ5によって読み取られた情報に基づいて走行装置3、送り機構8及び穿孔機構2を遠隔制御する機能を有している。具体的には、本体部6Aの制御信号生成部6Dは、位置センサ4により検出された穿孔板Tの位置及びICタグリーダ5によって読み取られた情報に基づいて穿孔機構2、送り機構8及び走行装置3の制御信号を生成し、生成した制御信号を無線器6Eを通じて無線によって制御信号受信装置6Bに送信する機能を有する。
【0054】
一方、制御装置6の制御信号受信装置6Bは、本体部6Aから無線で送信された穿孔機構2、送り機構8及び走行装置3の各制御信号を受信して、対象となる機器に出力する機能を有する。すなわち、穿孔機構2、送り機構8及び走行装置3は、制御信号受信装置6Bから出力される制御信号に従って駆動するように構成されている。尚、制御信号受信装置6Bから圧縮エアで駆動する機器に出力される制御信号は、エア信号としてもよい。
【0055】
位置センサ4では、穿孔板Tの両端部の位置が検出される。従って、位置センサ4により検出された穿孔板Tの端部の位置に基づいて走行装置3の走行方向を制御することができる。具体的には、穿孔板Tの端部が検出された場合には、走行装置3の停止又は走行方向の反転を指示する制御信号を本体部6Aから制御信号受信装置6Bに無線で送信することができる。これにより、走行装置3が穿孔板Tの端部に到達した場合には、速やかに走行装置3を停止又は逆走させることができる。このため、機械的な構造に加えて遠隔制御によっても走行装置3の脱落を防止することができる。
【0056】
一方、ICタグリーダ5によって読み取られた穿孔板TのID情報及び穿孔機構2の選択情報は、穿孔位置の特定のために用いられる。そのために、本体部6Aの記憶装置6Cには、予め複数の穿孔板TのID情報と、穿孔位置との関係を表す情報が保存されている。
【0057】
直線上に配列された特定の直径を有する複数の孔を穿孔する場合には、穿孔位置は1次元の位置情報、すなわち、隣接する孔間のピッチ又は基準となる位置からの各孔までの距離として表すことができる。従って、穿孔板TのID情報と、1次元の穿孔位置との関係を示すテーブルを本体部6Aに保存しておけば、穿孔板TのID情報に基づいて、穿孔位置を特定することができる。
【0058】
図5に示す例では、互いに異なる直線上に配置された2種類の直径を有する複数の孔が、穿孔対象物Oの穿孔対象となっている。このため、2つの穿孔板Tにも、2種類の直径を有する複数の孔が、互いに異なる直線上に配列されている。
【0059】
そこで、一方の直径の孔を一方の穿孔機構2による穿孔対象とし、他方の直径の孔を他方の穿孔機構2による穿孔対象とすることができる。そして、長尺構造物O2上を走行装置3が往復することによって2種類のサイズを有する孔を長尺構造物O2に穿孔することができる。つまり、走行装置3の往路において、一方の穿孔機構2で一方の直径を有する孔を加工し、走行装置3の復路において、他方の穿孔機構2で他方の直径を有する孔を加工することができる。尚、一方の直径の孔の高さ方向の位置と、他方の直径の孔の高さ方向の位置とが互いに異なる場合には、穿孔機構2に高さ方向の位置を調節するための調節機構を設けてもよい。
【0060】
図示される例では、第1の穿孔機構2Aが、往復移動する走行装置3の往路において第1の直径の孔を穿孔するように構成される一方、第2の穿孔機構2Bが、走行装置3の復路において第2の直径の孔を穿孔するように構成されることになる。
【0061】
この場合、穿孔板Tの一方の直径を有する孔の位置は、一方の穿孔機構2による穿孔位置となり、穿孔板Tの他方の直径を有する孔の位置は、他方の穿孔機構2による穿孔位置となる。そこで、図5に例示されるように、一方の穿孔機構2の選択情報及び穿孔板TのID情報を記録したICタグ30を、当該穿孔機構2の位置が穿孔開始前の初期位置である場合にICタグリーダ5によってICタグ30に記録された情報を読み取ることが可能となる穿孔板Tの端部の位置に取付けることができる。同様に、他方の穿孔機構2の選択情報及び穿孔板TのID情報を記録したICタグ30についても、当該穿孔機構2の位置が穿孔開始前の初期位置である場合にICタグリーダ5によってICタグ30に記録された情報を読み取ることが可能となる穿孔板Tの端部の位置に取付けることができる。
【0062】
より具体的には、各穿孔板Tの両端に、第1の穿孔機構2Aの選択情報及び穿孔板TのID情報を記録した第1のICタグ30Aと、第2の穿孔機構2Bの選択情報及び穿孔板TのID情報を記録した第2のICタグ30Bとを取付けることができる。第1の穿孔機構2Aは、走行装置3の往路において第1の直径の孔を穿孔するため、走行装置3の往路の開始側における各穿孔板Tの端部に第1のICタグ30Aが取付けられる。一方、第2の穿孔機構2Bは、走行装置3の復路において第2の直径の孔を穿孔するため、走行装置3の復路の開始側における各穿孔板Tの端部に第2のICタグ30Bが取付けられる。
【0063】
これにより、本体部6Aにおいて、穿孔開始時に、穿孔機構2の選択情報及び穿孔板TのID情報に基づいて、穿孔位置を特定することができる。すなわち、一方の穿孔機構2の位置が穿孔開始前の初期位置となった場合に、穿孔対象となる位置を特定することができる。
【0064】
具体的には、第1の穿孔機構2Aによる第1の直径の孔の穿孔位置を特定するための情報として、第1の穿孔機構2Aの選択情報及び穿孔板TのID情報を、走行装置3の往路の開始側における各穿孔板Tの端部に取付けられた第1のICタグ30AからICタグリーダ5によって読み取ることができる。同様に、第2の穿孔機構2Bによる第2の直径の孔の穿孔位置を特定するための情報として、第2の穿孔機構2Bの選択情報及び穿孔板TのID情報を、走行装置3の復路の開始側における各穿孔板Tの端部に取付けられた第2のICタグ30BからICタグリーダ5によって読み取ることができる。
【0065】
ICタグリーダ5によって読み取られた穿孔機構2の選択情報及び穿孔板TのID情報は、無線によって制御装置6の本体部6Aに転送される。そうすると、制御信号生成部6Dでは、ICタグリーダ5によってICタグ30から読み取られた穿孔機構2の選択情報及び穿孔板TのID情報を無線器6Eを通じて取得することができる。そして、取得した穿孔機構2の選択情報及び穿孔板のID情報と、記憶装置6Cに保存された複数の穿孔板TのID情報と穿孔位置との関係を表す情報とに基づいて、穿孔機構2による穿孔位置を特定することができる。
【0066】
穿孔位置が特定されると、特定した穿孔位置に穿孔機構2が位置決めされるように制御装置6により走行装置3を制御すること可能となる。すなわち、制御装置6により、第1の穿孔機構2Aが第1の直径の孔の穿孔位置に位置決めされるように走行装置3を制御する一方、第2の穿孔機構2Bが第2の直径の孔の穿孔位置に位置決めされるように走行装置3を制御すること可能となる。
【0067】
そのために、走行装置3の移動距離を指示する制御信号と、駆動対象となる穿孔機構2及び送り機構8の動作を指示する制御信号とを、制御装置6の制御信号生成部6Dにおいて生成することができる。そして、生成した制御信号を、本体部6Aから制御信号受信装置6Bを通じて走行装置3、送り機構8及び穿孔機構2に出力することができる。
【0068】
このように、制御信号生成部6Dには、ICタグリーダ5によって読み取られた穿孔板TのID情報を無線によって取得し、取得した穿孔板TのID情報と記憶装置6Cに保存された情報とに基づいて特定した穿孔位置に穿孔機構2が位置決めされるように走行装置3を制御するための制御信号を生成して無線で送信する機能を設けることができる。一方、制御信号受信装置6Bには、制御信号を無線によって受信し、受信した制御信号を走行装置3に与える機能を設けることができる。そして、制御信号受信装置6Bを走行装置3に搭載する一方、記憶装置6C及び制御信号生成部6Dを走行装置3の外部に設置することができる。
【0069】
これにより、走行装置3の一層の軽量化を図ることができる。すなわち、走行装置3に穿孔位置を保存するための記憶装置や制御信号を生成するための信号処理装置を搭載することを回避できる。
【0070】
また、ICタグ30を取付けた穿孔板Tを穿孔対象物Oに固定する一方、走行装置3に位置センサ4及びICタグリーダ5を設けることによって、穿孔機構2、送り機構8及び走行装置3の遠隔操作が可能となる。すなわち、本来走行用のレールではないシートレール等の長尺構造物O2をガイドとして、穿孔機1の自動走行を含む自動制御を行うことが可能となる。
【0071】
尚、穿孔対象物Oの長さが数メートル以上である場合のように長い場合において、穿孔対象物Oの長さに合わせて単一の穿孔板Tを準備すると、穿孔板Tに設けられるガイド用の孔の位置に無視できない誤差が生じる恐れがある。そこで、図5に例示されるように走行装置3の走行方向に複数の穿孔板Tを取付けることがガイド用の孔の位置の誤差を低減する観点から好ましい。そして、穿孔板Tごとに穿孔位置を特定するための基準となる位置をリセットすることが適切である。
【0072】
すなわち、穿孔対象物Oに複数の穿孔板Tが走行装置3の走行方向に取付けられている場合には、穿孔板Tごとに第1の直径の孔の穿孔位置を特定するための情報を第1のICタグ30Aから読み取る一方、第2の直径の孔の穿孔位置を特定するための情報を第2のICタグ30Bから読み取るようにICタグリーダ5を構成することが好適である。他方、制御装置6についても、穿孔板Tごとに基準位置をリセットして第1の穿孔機構2Aが第1の直径の孔の穿孔位置に位置決めされるように走行装置3を制御する一方、第2の穿孔機構2Bが第2の直径の孔の穿孔位置に位置決めされるように走行装置3を制御するように構成することが好適である。
【0073】
但し、穿孔対象物Oに複数の穿孔板Tが走行装置3の走行方向に取付けられる場合には、穿孔板Tの取付けミスを防止することが重要である。そこで、ICタグ30に穿孔板Tの穿孔対象物Oへの取付順序を表す情報を記録することができる。そして、各穿孔板Tに取付けられるICタグ30から複数の穿孔板Tの穿孔対象物Oへの取付順序を表す情報をそれぞれ読み取るようにICタグリーダ5を構成することができる。一方、制御装置6には、穿孔板Tの取付順序を表す情報がICタグリーダ5によって各穿孔板Tから正しい順序で読み取られなかった場合には、エラー情報を出力する機能を設けることができる。これにより、穿孔板Tの取付け順序の間違いによる穿孔ミスを確実に防止することができる。
【0074】
(動作及び作用)
次に穿孔機1を用いた被穿孔品の製造方法について説明する。
【0075】
穿孔機1を用いて被穿孔品を製造する場合には、図5に示すように、穿孔対象物Oの長尺構造物O2に、ICタグ30を取付けた穿孔板Tが取付けられる。ICタグ30には、予め穿孔板TのID情報及び穿孔機構2の選択情報が保存される。尚、穿孔機構2の選択情報の代わりに、孔のサイズを保存してもよい。
【0076】
一方、各穿孔機構2に、穿孔対象となる孔のサイズに合わせたドリルが取付けられる。ドリルの取付けは、各穿孔機構2を、走行装置3から取外した状態で行うことができる。各穿孔機構2にドリルが取付けられると、各穿孔機構2が着脱機構7によって送り機構8に取付けられる。これにより、走行装置3と各穿孔機構2とが連結される。
【0077】
次に、穿孔機構2を搭載した走行装置3が、穿孔対象物Oの長尺構造物O2の上に設置される。長尺構造物O2が航空機の中央翼に取付けられるシートレールのように、上面に所定の間隔で孔を有する場合には、一方の走行機構9に設けられた突起29が長尺構造物O2の孔に挿入される。これにより、走行機構9の長尺構造物O2からの脱落を防止しつつ、走行機構9の走行方向を長尺構造物O2に設けられた孔の配列方向として穿孔を開始することが可能となる。
【0078】
次に、穿孔板TのICタグ30に記録された穿孔板TのID情報及び一方の穿孔機構2の選択情報が、走行装置3に取付けられたICタグリーダ5によって読み取られる。ICタグリーダ5によって読み取られた穿孔板TのID情報及び一方の穿孔機構2の選択情報は、無線によって制御装置6の本体部6Aに転送される。そうすると本体部6Aは、穿孔板TのID情報と穿孔位置とを関連付けた参照情報を参照することによって、選択された一方の穿孔機構2に対応する穿孔位置を特定する。
【0079】
続いて、本体部6Aは、特定した穿孔位置への移動を走行装置3に指示する制御信号と、選択された一方の穿孔機構2及び対応する送り機構8の各駆動を指示する制御信号を生成する。生成された各制御信号は無線によって本体部6Aから制御信号受信装置6Bに送信される。
【0080】
そうすると、制御信号受信装置6Bから走行装置3に制御信号として穿孔位置への移動指示が与えられる。このため、走行装置3が穿孔対象物Oの長尺構造物O2をガイドとして長尺構造物O2の長手方向に走行する。そして、穿孔位置に到達すると、走行装置3が停止する。これにより、走行装置3に連結された穿孔機構2の走行方向における位置決めを行うことができる。この時、走行機構9の少なくとも2つの突起29が同時に長尺構造物O2の孔に挿入された状態であれば、穿孔機構2の工具軸方向を、長尺構造物O2に設けられた孔の配列方向に対して垂直に向けることができる。
【0081】
選択された穿孔機構2の位置決めが終わると、制御信号受信装置6Bから穿孔機構2及び送り機構8に駆動信号が与えられる。このため、送り機構8の駆動によって穿孔機構2に送り動作が付与される。そして、穿孔機構2の駆動によって、長尺構造物O2を対象とする穿孔位置における穿孔を行うことができる。穿孔位置における穿孔が終わると、穿孔機構2に取付けられたドリルは初期位置に戻り、送り機構8の駆動によって穿孔機構2も初期位置に戻る。
【0082】
そして、同様な流れで、走行装置3の走行による穿孔機構2の位置決めと、穿孔機構2及び送り機構8の駆動による穿孔とが、各穿孔位置に対して順次実行される。これにより、最初に選択された穿孔機構2による各穿孔位置に対する穿孔を行うことができる。
【0083】
走行装置3が長尺構造物O2の端部付近まで走行すると、位置センサ4により穿孔板Tの端部が検出される。位置センサ4により穿孔板Tの端部が検出されると、穿孔板Tの端部の検出情報が無線により制御装置6の本体部6Aに転送される。そうすると本体部6Aは、走行装置3の走行方向を反転させる制御信号を生成する。
【0084】
一方、ICタグリーダ5によって、穿孔板Tの端部付近に設けられたICタグ30に記録された穿孔板TのID情報及び他方の穿孔機構2の選択情報が読み取られる。ICタグリーダ5によって読み取られた穿孔板TのID情報及び他方の穿孔機構2の選択情報は、無線によって制御装置6の本体部6Aに転送される。そうすると本体部6Aは、穿孔板TのID情報と穿孔位置とを関連付けた参照情報を参照することによって、他方の穿孔機構2に対応する穿孔位置を特定する。
【0085】
そして、本体部6Aは、特定した穿孔位置への移動を走行装置3に指示する制御信号と、選択された他方の穿孔機構2及び対応する送り機構8の各駆動を指示する制御信号を生成する。生成された各制御信号は無線によって本体部6Aから制御信号受信装置6Bに送信される。
【0086】
そして、最初に選択された穿孔機構2による穿孔と同様な流れで、他方の穿孔機構2による穿孔が各穿孔位置に対して実行される。すなわち、走行装置3の走行による穿孔機構2の位置決めと、穿孔機構2及び送り機構8の駆動による穿孔とが、各穿孔位置に対して順次実行される。そして、走行装置3が長尺構造物O2の端部付近まで走行すると、位置センサ4により穿孔板Tの端部が検出される。位置センサ4により穿孔板Tの端部が検出されると、穿孔板Tの端部の検出情報が無線により制御装置6の本体部6Aに転送される。
【0087】
そうすると本体部6Aは、走行装置3の走行を停止させる制御信号を生成する。生成された制御信号は無線によって制御信号受信装置6Bを介して走行装置3に出力される。これにより、走行装置3が停止し、長尺構造物O2の穿孔を完了することができる。
【0088】
尚、複数の長尺構造物O2が穿孔機1による穿孔対象であれば、次の穿孔対象となる長尺構造物O2を対象として穿孔板Tの取付け及び穿孔機構2を搭載した走行装置3の設置を行うことによって同様に穿孔を行うことができる。そして、穿孔機1による全ての穿孔対象となる長尺構造物O2の穿孔が完了すると、被穿孔品を得ることができる。すなわち、被穿孔品を製造することができる。
【0089】
つまり以上のような穿孔機1及び被穿孔品の製造方法は、シートレールを有する航空機の中央翼のように複雑な穿孔対象物Oの穿孔を行う場合において、穿孔対象物Oに取付けた穿孔板TにICタグ30を取付け、ICタグリーダ5でICタグ30から読み取った情報に基づいて走行装置3を自動的に走行させるようにしたものである。更に、穿孔機1及び被穿孔品の製造方法は、2種類の直径の穿孔を行うための2つの穿孔機構2を走行装置3で往復移動させることによって、簡易かつ効率的に2種類の直径の穿孔を行うことができるようにしたものである。
【0090】
(効果)
このため、穿孔機1及び被穿孔品の製造方法によれば、穿孔対象物Oが複雑な構造を有する場合や、穿孔対象物Oの構造にバリエーションがある場合であっても、ICタグリーダ5で情報を読み取ることが可能な適切な位置にICタグ30を取付けることができる。換言すれば、穿孔対象物Oが複雑な構造を有する場合や、穿孔対象物Oの構造にバリエーションがある場合であっても、ICタグ30を利用した自動位置決めを伴う自動穿孔を行うことが可能となる。このため、穿孔機1に汎用性を持たせることができる。
【0091】
例えば、穿孔対象物Oに基準位置を定めるための下孔等の孔が無い場合であっても、ICタグ30を貼付けた穿孔板Tを穿孔対象物Oに取付けさえすれば、ICタグ30に記録された情報に基づいて基準位置及び穿孔位置を特定できるため、穿孔機1による自動位置決めを含む自動穿孔が可能となる。より具体的な例として、シートレールを有する航空機の中央翼を穿孔する場合、従来は下孔が無い部分の自動穿孔が不可能であったが、下孔が無い部分であっても自動穿孔が可能となる。
【0092】
また、ICタグ30を取付けた穿孔板T及びICタグリーダ5に加えて位置センサ4を設けることによって、穿孔位置及び穿孔に使用する穿孔機構2のみならず、穿孔板Tの端部の位置を特定することができる。このため、複雑な構造を有する構造物であっても、構造物の構造に依存せずに走行機構9の走行による穿孔機構2の位置決めが可能である。
【0093】
更に、ICタグ30には、穿孔板TのID情報等の必要最小限の情報を記録する一方、穿孔機構2及び走行装置3の制御を、ICタグ30からICタグリーダ5で読み取った情報に対応する穿孔データプログラムに従って遠隔で行うようにすることで、走行装置3に搭載すべき制御回路類を低減することができる。すなわち、走行装置3に搭載されない制御装置6の本体部6Aにおいて制御信号を生成し、生成した制御信号を無線によって穿孔機構2及び走行装置3に転送する構成を採用することによって穿孔機構2及び走行装置3の軽量化を図ることができる。
【0094】
また、穿孔対象物Oの構造情報を利用した空間的な位置決めを行わなくても穿孔を行うことができる。例えば、NC(numerical control)工作機械のような複雑なNCプログラムによる制御を行わなくても自動穿孔を行うことができる。このため、制御アルゴリズムを極めて簡易にすることができる。
【0095】
また、穿孔を行う度に孔の位置をセンサで検出し、次の孔の位置を特定するという制御も考えられるが、その場合には、位置検出の回数及び制御信号の通信量が膨大になるという問題がある。これに対して、穿孔板Tに取付けたICタグ30から読み取った情報に基づいて、基準位置及び複数の穿孔位置のピッチ等を記録した穿孔データプログラムを呼び出すようにすることで、孔の位置の検出を不要とし、かつ情報通信量を飛躍的に低減することができる。その結果、穿孔時間の削減を図ることができる。
【0096】
また、穿孔対象物Oに穿孔板Tを取付けて穿孔を行うため、穿孔機1にトラブルが生じて穿孔が中断された場合であっても、速やかに穿孔板Tに取付けられたICタグ30から必要な情報を読み取って穿孔を再開することができる。
【0097】
また、穿孔対象物Oに複数の穿孔板Tを取付ければ、穿孔板Tごとに基準位置をリセットして自動位置決めを行うことができる。このため、大型の穿孔対象物Oであっても高精度な自動位置決めが可能となる。更に、穿孔板Tの取付順序をICタグ30に記録することによって、作業者による穿孔板Tの取付ミスが生じても、穿孔ミスを防止することができる。
【0098】
他方、上述したように、穿孔板Tの両端に2種類の穿孔機構2による穿孔位置決め用のをICタグ30を取付けることによって、2種類の穿孔機構2を往復移動させて自動穿孔することができる。すなわち、走行装置3の往路と復路との間で穿孔に使用するドリル及び穿孔機構2を変えることによって、2種類の直径を有する孔を極めて簡易な制御で自動的に穿孔することができる。
【0099】
また、穿孔機1及び被穿孔品の製造方法によれば、穿孔機1を移動させるための専用のレールを不要にすることができる。このため、穿孔機1の構成を簡易にすることができる。特に、長尺構造物O2を跨ぐ走行機構9によって、長尺構造物O2からの穿孔機1の脱落を防止することができる。
【0100】
また、長尺構造物O2に孔が配列されている場合には、走行機構9の突起29を長尺構造物O2の孔に挿入することによって走行機構9の安定した走行が可能となる。特に、同時に2つ以上の突起29を長尺構造物O2の孔に挿入すれば、工具軸を長尺構造物O2の孔の配列方向に対して垂直に向けることができる。更に、長尺構造物O2の孔に挿入するための突起29を1つの走行機構9にのみ設けることによって、孔の配列方向が平行でない複数の長尺構造物O2の上を複数の走行機構9が走行する場合であっても、穿孔対象となっていない長尺構造物O2の影響を受けずに工具軸方向を適切な向きに向けることができる。
【0101】
このように、穿孔機1及び被穿孔品の製造方法によれば、構造上及び制御上の特徴によって、本来走行用のレールではない不規則な構造を有するシートレール等の長尺構造物O2であっても、走行用のガイドとして利用することが可能である。
【0102】
また、穿孔機1は、穿孔機構2を容易に走行装置3に着脱できる構造を有している。このため、穿孔機1を運搬する場合には、穿孔機構2を取外して運搬することができる。すなわち、運搬時における穿孔機1の軽量化を図ることによって、穿孔機1の運搬を容易にすることができる。
【0103】
また、ドリルの着脱及び交換を行う場合においても、穿孔機構2を走行装置3から取外した状態で行うことができる。このため、ドリルの着脱及び交換を含む段取り作業に要する労力を低減することができる。特に、穿孔機構2を汎用のドリル駆動装置で構成すれば、穿孔機構2を走行装置3から取外した状態で穿孔に使用することも可能である。
【0104】
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0105】
例えば、上述した実施形態では、複数の走行機構9がそれぞれ長尺構造物O2の上面を走行する場合を例に説明したが、いずれかの走行機構が板状の部品O1の上を走行するようにしてもよい。その場合には、板状の部品O1の上を走行する走行機構を車輪等の単純な構造にすることができる。
【0106】
但し、板状の部品O1が曲面である場合には、板状の部品O1の上を走行することによって穿孔機構2の高さが無視できない程度に変化する場合も起こり得る。そこで、穿孔機構2に、高さ方向、すなわち走行装置3の走行方向及び工具の送り方向に垂直な方向への移動機構を設けるようにしてもよい。つまり、穿孔機構2を2次元方向に移動させる移動機構を走行装置3に搭載するようにしてもよい。
【0107】
但し、上述した実施形態のように、走行装置3に搭載される穿孔機構2の移動機構を、1次元の移動を行う送り機構8のみとすれば、2次元の移動を行う場合に比べて、必要な駆動軸及びモータの数を減らすことができる。このため、穿孔機1の軽量化を図ることができる。従って、穿孔対象物Oを構成する板状の部品O1が曲面である場合には、複数の走行機構9がそれぞれ長尺構造物O2の上面を走行するようにし、走行装置3に搭載される穿孔機構2の移動機構を1次元の移動を行う送り機構8のみとすることが穿孔機1の軽量化に繋がる。その場合においても、モータによる駆動対象とならない穿孔機構2の高さ等の位置の調節機構については必要に応じて走行装置3に搭載することができる。
【0108】
一方、上述したように、走行装置3を走行させるための専用のレールを敷設するようにしてもよい。
【0109】
また、上述した実施形態では、ICタグ30が穿孔板Tに取付けられる場合を例に説明したが、ICタグリーダ5によって情報を読み取ることが可能な位置であれば、ICタグ30を、穿孔対象物Oの任意の位置に取付けることができる。位置センサ4についても、穿孔板Tの位置に代えて、穿孔対象物Oの位置を検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1…穿孔機、2…穿孔機構、2A…第1の穿孔機構、2B…第2の穿孔機構、2C…コレット、3…走行装置、4…位置センサ、5…集積回路(IC)タグリーダ、6…制御装置、6A…本体部、6B…制御信号受信装置、7…着脱機構、7A…位置決めピン、7B…位置決め孔、7C…フック、7D…固定用ノブ、8…送り機構、8A…ラック・アンド・ピニオン、8B…送り用モータ、8C…送り用ガイド、9…走行機構、10…調節機構、10A…ロッド、10B…スライダー、10C…フレーム、10D…ストッパ、20…チェーン、21…サポートローラ、22…下面ガイドローラ、23…外側サイドローラ、24…内側サイドローラ、25…スプロケット、26…駆動軸、27…ベルト、28…走行用モータ、29…突起、30…ICタグ、30A…第1のICタグ、30B…第2のICタグ、O…穿孔対象物、O1…板状の部品、O2…構造物/長尺構造物、O3…ウェブ、O4…フランジ、T…穿孔板
図1
図2
図3
図4
図5
図6