特許第6703859号(P6703859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703859
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】微生物燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/16 20060101AFI20200525BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   H01M8/16
   H01M4/86 H
   H01M4/86 M
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-35468(P2016-35468)
(22)【出願日】2016年2月26日
(65)【公開番号】特開2017-152296(P2017-152296A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年2月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発/資源生産性を向上できる革新的プロセス及び化学品の開発(微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100141449
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆芳
(74)【代理人】
【識別番号】100142446
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 覚
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】吉川 直毅
(72)【発明者】
【氏名】北出 祐基
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/198520(WO,A1)
【文献】 特開2015−046361(JP,A)
【文献】 特表2015−525692(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/038866(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/063455(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/16
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電体層と、前記導電体層に積層され、触媒を内部に担持する多孔質体層と、前記導電体層における前記多孔質体層と接する面と反対側の面、又は、前記多孔質体層における前記導電体層と接する面と反対側の面に積層された撥水層と、を有する正極と、
微生物を保持する負極と、
電解液と、
を備え、
前記多孔質体層及び前記負極が前記電解液に浸漬され、前記撥水層の少なくとも一部が気相に露出している、微生物燃料電池。
【請求項2】
前記導電体層における前記多孔質体層と接する面の算術平均粗さRaは、0.1μm以上100μm以下である、請求項1に記載の微生物燃料電池。
【請求項3】
前記正極と前記負極との間に設けられ、プロトン透過性を有するイオン移動層をさらに備える、請求項1又は2に記載の微生物燃料電池。
【請求項4】
前記多孔質体層は不織布からなる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の微生物燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物燃料電池に関する。詳細には本発明は、廃水を浄化し、かつ、電気エネルギーを生成することが可能な微生物燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、持続可能なエネルギーとして、バイオマスを利用して発電をする微生物燃料電池が注目されている。微生物燃料電池は、生活廃水や工場廃水に含まれる有機性物質の化学エネルギーを電気エネルギーに変換しつつ、その有機性物質を酸化分解して処理する廃水処理装置である。そして、微生物燃料電池は、汚泥の発生が少なく、さらにエネルギー消費が少ない特徴を有する。ただ、微生物が発する電力が非常に小さく、出力される電流密度が低いため、更なる改良が必要である。
【0003】
このような微生物燃料電池として、電解槽と、電解槽の槽内部に配置されるアノードと、電解槽の槽体部に配置され、一面が槽外部の空気と接触し、他面が電解液と接触するカソードとを備えるものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。当該電解槽は、電解液、微生物及び微生物による酸化分解の基質を保持している。そして、カソードにおける空気と接触する一面にはシリコーンを含有してなる止水層が形成され、カソードの他面にはカソード触媒が担持された触媒層が形成されている。当該触媒層は、カソード触媒の微粒子を結着剤溶液と混合してペーストとした後、このペーストをカソードの一面上に塗布し乾燥することによって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−46361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、カソード触媒をペーストとした後に塗布して乾燥した場合には、乾燥時にペーストが収縮し、得られる触媒層にクラックが発生してしまう。そのため、使用時に触媒層が剥離してカソードの酸素還元特性が低下し、安定的に電気エネルギーが得られないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、触媒層のクラックの発生を抑制し、安定的に電気エネルギーを生産することが可能な微生物燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様に係る微生物燃料電池は、正極と、微生物を保持する負極と、電解液とを備える。当該正極は、導電体層と、導電体層に積層され、触媒を内部に担持する多孔質体層と、導電体層における多孔質体層と接する面と反対側の面、又は、多孔質体層における導電体層と接する面と反対側の面に積層された撥水層とを有する。そして、多孔質体層及び負極が電解液に浸漬され、撥水層の少なくとも一部が気相に露出している。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多孔質体層の内部に触媒を担持するため、触媒層のクラックを抑制し、安定的に電気エネルギーを生産することが可能な微生物燃料電池を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る微生物燃料電池の一例を示す概略斜視図である。
図2図1中のA−A線に沿った断面図である。
図3】上記微生物燃料電池における燃料電池ユニットを示す分解斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係る正極の一例を示す概略断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る正極の他の例を示す概略断面図である。
図6】実施例1及び実施例2並びに比較例1の正極に関し、酸素還元特性を評価した際の電位と電流密度との関係を示すグラフである。
図7】実施例3及び比較例2の正極に関し、酸素還元特性を評価した際の電位と電流密度との関係を示すグラフである。
図8】実施例4及び比較例3の正極に関し、酸素還元特性を評価した際の電位と電流密度との関係を示すグラフである。
図9】(a)は実施例1の正極を示す写真であり、(b)は比較例1の正極を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態に係る微生物燃料電池について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る微生物燃料電池100は、正極10、負極20及びイオン移動層30からなる複数の電極接合体40を備えている。微生物燃料電池100では、図2に示すように、イオン移動層30の一方の面30aに負極20が接触するように配置されており、イオン移動層30の面30aと反対側の面30bに正極10が接触するように配置されている。
【0012】
図3に示すように、2枚の電極接合体40は、正極10同士が対向するように、カセット基材50を介して積層されている。カセット基材50は、正極10における面10aの外周部に沿うU字状の枠部材であり、上部が開口している。つまり、カセット基材50は、2本の第一柱状部材51の底面を第二柱状部材52で連結した枠部材である。そして、カセット基材50の側面53は、正極10の面10aの外周部と接合されており、正極10の面10aの外周部からカセット基材50の内部に電解液70が漏出することを抑制できる。
【0013】
そして、図2に示すように、2枚の電極接合体40とカセット基材50とを積層してなる燃料電池ユニット60は、大気と連通した気相90が形成されるように、廃水槽80の内部に配置される。廃水槽80の内部には被処理液である電解液70が保持されており、正極10、負極20及びイオン移動層30は電解液70に浸漬されている。
【0014】
後述するように、正極10は、撥水性を有する撥水層4を備えている。そのため、廃水槽80の内部に保持された電解液70とカセット基材50の内部とは隔てられ、2枚の電極接合体40とカセット基材50とにより形成された内部空間は気相90となっている。そして、図2に示すように、正極10及び負極20は、それぞれ外部回路110と電気的に接続されている。
【0015】
[正極]
本実施形態に係る正極10は、図4に示すように、導電体層1と、導電体層1に積層され、触媒3を内部に担持する多孔質体層2と、導電体層1における多孔質体層2と接する面1aと反対側の面1bに積層された撥水層4とを有する。また、本実施形態に係る正極10Aは、図5に示すように、導電体層1と、導電体層1に積層され、触媒3を内部に担持する多孔質体層2と、多孔質体層2における導電体層1と接する面2aと反対側の面2bに積層された撥水層4とを有する。
【0016】
(導電体層)
正極10における導電体層1は、導電性及び酸素透過性を有している。正極10にこのような導電体層1を設けることで、後述する局部電池反応により生成した電子を触媒3と外部回路110との間で導通させることが可能となる。つまり、後述するように、多孔質体層2の内部には触媒3が分散しており、さらに触媒3は酸素還元触媒である。そして、正極10に導電体層1を設けることにより、電子が外部回路110から導電体層1を通じて触媒3に移動し、触媒3によって、酸素、水素イオン及び電子による酸素還元反応を進行させることが可能となる。
【0017】
正極10では、安定的な性能を確保するために、酸素が撥水層4及び導電体層1を効率よく透過し、触媒3に供給されることが好ましい。そのため、導電体層1は、撥水層4と対向する面1bから反対側の面1aにかけて、酸素が透過する細孔を多数有する多孔質体であることが好ましい。また、導電体層1の形状は、三次元のメッシュ状であることが特に好ましい。このようなメッシュ状であることにより、導電体層1に対し、高い酸素透過性及び導電性を付与することが可能となる。
【0018】
導電体層1を構成する導電体材料は、高い導電性が確保できるならば特に限定されない。ただ、導電体材料は、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも一つの導電性金属からなることが好ましい。これらの導電性金属は、高い耐食性及び導電性を備えているため、導電体層1を構成する材料として好適に用いることができる。
【0019】
また、導電体材料は、炭素材料であってもよい。炭素材料としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス及び黒鉛シートからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。また、導電体材料は、カーボンペーパー、カーボンフェルト、カーボンクロス及び黒鉛シートからなる群より選ばれる一つからなるものであってもよく、これらを複数積層してなる積層体でもよい。炭素繊維の不織布であるカーボンペーパー及びカーボンフェルト、炭素繊維の織布であるカーボンクロス、並びに黒鉛からなる黒鉛シートは、高い耐食性を有し、かつ、電気抵抗率が金属材料と同等であるため、耐久性と導電性を両立することが可能となる。
【0020】
なお、上述の黒鉛シートは、次のようにして得ることができる。まず、天然黒鉛を酸によって化学処理を施し、黒鉛のグラフェン層の層間へ挿入物を形成する。次に、これを高温で急速加熱することで、層間挿入物の熱分解によるガス圧でグラフェン層間が押し広がった膨張黒鉛が得られる。そして、この膨張黒鉛を加圧し、ロール圧延することにより、黒鉛シートが得られる。このようにして得られた黒鉛シートを導電体層1として用いた場合、黒鉛におけるグラフェン層が積層方向Xに垂直な方向YZに沿って配列している。そのため、導電体層1と外部回路110との間の導電性を高め、電池反応の効率をより向上させることが可能となる。
【0021】
導電体層1における多孔質体層2と接する面1aの算術平均粗さRaは、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。導電体層1の表面の算術平均粗さRaがこの範囲内であることにより、導電体層1の表面は平坦となり易い。導電体層1の面1aが平坦な場合には、対向する多孔質体層2の面2aと密着しやすくなり、導電体層1と多孔質体層2との接合を強固にすることができる。また、後述するように、導電体層1と触媒3とは電気的に接続されていることが好ましいため、導電体層1の面1aと触媒3との接触性を高めることが可能となる。
【0022】
導電体層1における表面の算術平均粗さRaは、日本工業規格JIS B0601:2013(製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ)に準じて求めることができる。具体的には、導電体層1の表面を例えばレーザー顕微鏡を用いて観察し、異なる3箇所における500μm×500μmの範囲の算術平均粗さRaを測定する。そして、得られた、算術平均粗さRaの平均値を計算することにより、導電体層1の表面の算術平均粗さRaを求めることができる。
【0023】
(撥水層)
図4に示すように、正極10は、導電体層1における多孔質体層2と接する面1aと反対側の面1bに撥水層4を設けている。または、図5に示すように、正極10Aは、多孔質体層2における導電体層1と接する面2aと反対側の面2bに撥水層4を設けている。撥水層4は、撥水性を有しているため、廃水槽80の内部に保持された液相としての電解液70と気相90とを分離する。そして、撥水層4を設けることで、電解液70が気相90側に移動することを抑制できる。なお、ここでいう「分離」とは、物理的に遮断することをいう。
【0024】
撥水層4は、酸素を含む気相90と接触しており、気相90中の気体を拡散している。そして、撥水層4は、図4に示す構成では、導電体層1の面1bに対し気体を略均一に供給し、図5に示す構成では、多孔質体層2の面2bに対し気体を略均一に供給している。そのため、撥水層4は、当該気体を拡散できるように多孔質体であることが好ましい。なお、撥水層4が撥水性を有するため、結露等により多孔質体の細孔が閉塞し、気体の拡散性が低下することを抑制できる。また、撥水層4の内部に電解液70が染み込み難いため、撥水層4における気相90と接触する面4bから導電体層1と対向する面4aにかけて、酸素を効率的に流通させることが可能となる。
【0025】
撥水層4は、織布又は不織布によりシート状に形成されていることが好ましい。また、撥水層4を構成する材料は、撥水性を有し、気相90中の気体を拡散できれば特に限定されない。撥水層4を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチルセルロース、ポリ−4−メチルペンテン−1、ブチルゴム及びポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる群より選ばれる少なくとも一つを使用することができる。これらの材料は多孔質体を形成しやすく、さらに撥水性も高いため、細孔の閉塞を抑制してガス拡散性を向上させることができる。なお、撥水層4は、撥水層4及び導電体層1の積層方向Xに複数の貫通孔を有することが好ましい。
【0026】
撥水層4は撥水性を高めるために、必要に応じて撥水剤を用いて撥水処理を施してもよい。具体的には、撥水層4を構成する多孔質体にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水剤を付着させ、撥水性を向上させてもよい。
【0027】
図4に示す正極10において、導電体層1の面1bに効率的に気体を供給するために、撥水層4は、接着剤を介して導電体層1と接合していることが好ましい。つまり、撥水層4の面4aは、対向する導電体層1の面1bと接着剤を介して接合していることが好ましい。これにより、導電体層1の面1bに対し、拡散した気体が直接供給され、酸素還元反応を効率的に行うことができる。接着剤は、撥水層4と導電体層1との間の接着性を確保する観点から、撥水層4と導電体層1との間の少なくとも一部に設けられていることが好ましい。ただ、撥水層4と導電体層1との間の接着性を高め、長期間に亘り安定的に気体を導電体層1に供給する観点から、接着剤は撥水層4と導電体層1との間の全面に設けられていることがより好ましい。
【0028】
また、図5に示す正極10Aにおいて、多孔質体層2の面2bに効率的に気体を供給するために、撥水層4は、接着剤を介して多孔質体層2と接合していることが好ましい。つまり、撥水層4の面4aは、対向する多孔質体層2の面2bと接着剤を介して接合していることが好ましい。これにより、多孔質体層2の面2bに対し、気体が直接供給され、酸素還元反応を効率的に行うことができる。接着剤は、撥水層4と多孔質体層2との間の接着性を確保する観点から、撥水層4と多孔質体層2との間の少なくとも一部に設けられていることが好ましい。ただ、撥水層4と多孔質体層2との間の接着性を高め、長期間に亘り安定的に気体を多孔質体層2に供給する観点から、接着剤は撥水層4と多孔質体層2との間の全面に設けられていることがより好ましい。
【0029】
接着剤としては酸素透過性を有するものが好ましく、ポリメチルメタクリレート、メタクリル酸−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム及びシリコーンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む樹脂を用いることができる。
【0030】
(多孔質体層)
本実施形態に係る正極10は、図4に示すように、導電体層1に積層され、触媒3を内部に担持する多孔質体層2を備えている。多孔質体層2は、複数の細孔を有するシートを備え、さらに当該細孔の内部に触媒3を保持している。そして、触媒3は、細孔の内表面に分散された状態で担持されている。さらに、多孔質体層2の面2aと導電体層1の面1aとは接合されており、導電体層1と触媒3とは電気的に接続されている。このように、多孔質体層2を介して触媒3が導電体層1の面1aに配置されていることにより、導電体層1に対する触媒3の結着性を高め、正極10の酸素還元特性を高めることが可能となる。つまり、従来では、触媒粒子を結着剤溶液と混合して分散液とした後、この分散液を塗布して乾燥することにより、触媒層を形成している。そのため、触媒層の乾燥時にクラックが発生し、剥離してしまう場合がある。しかしながら、本実施形態の正極10では、多孔質体層2を介して導電体層1の表面に触媒粒子を配置しているため、乾燥しても触媒が収縮せず、クラック及び剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0031】
上述のように、正極10では、導電体層1の面1aと多孔質体層2の面2aとが接合され、多孔質体層2に担持される触媒3と導電体層1とが電気的に接続されている。その結果、負極20で生成した電子が負極20を通じて外部回路110へ移動し、さらに外部回路110から正極10の導電体層1に移動し、後述する酸素還元反応に寄与する。そのため、導電体層1と多孔質体層2とが接合されているならば、撥水層4は導電体層1側に配置されていてもよく、また多孔質体層2側に配置されていてもよい。つまり、図4に示すように、正極10は、導電体層1における多孔質体層2と接する面1aと反対側の面1bに撥水層4を設けてもよい。または、図5に示すように、正極10Aは、多孔質体層2における導電体層1と接する面2aと反対側の面2bに撥水層4を設けてもよい。いずれの場合にも、後述する微生物燃料電池100の作用を奏し、高い酸素還元特性を発揮することが可能となる。
【0032】
多孔質体層2は、触媒3の粒子が内部に保持される細孔を多数有している。なお、多孔質体層2は、図4に示す面2aから反対側の面2bにかけて連続した細孔を有し、当該細孔の内部に触媒3が担持されていることが好ましい。これにより、面2aから細孔の内部に侵入した酸素と、面2bから細孔の内部に侵入した水素イオンとの反応を、触媒3の表面において効率的に行うことが可能となる。
【0033】
多孔質体層2は、導電体であってもよく、電気絶縁体であってもよい。ただ、酸素、水素イオン及び電子による酸素還元反応を促進する観点から、導電体層1と触媒3は電気的に接続していることが好ましい。そのため、多孔質体層2が電気絶縁体である場合には、多孔質体層2の細孔に担持されている複数の触媒3は互いに電気的に接続されており、さらに触媒3は導電体層1の面1aと電気的に接続されていることが好ましい。また、触媒3は導電体層1の面1aと直接接触していることも好ましい。
【0034】
多孔質体層2を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレンなどの樹脂材料、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの導電性金属、並びにカーボンペーパー、カーボンフェルトからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0035】
多孔質体層2としては、織布構造のシート、不織布構造のシート、及び連続発泡体構造のシートからなる群より選ばれる少なくとも一つを使用することができる。また、多孔質体層2は複数のシートを積層した積層体でもよい。ただ、多孔質体層2は不織布からなることが好ましい。負極20の多孔質体層2として、このような複数の細孔を有するシートを用いることにより、酸素及び水素イオンが触媒3の方向へ移動しやすくなり、酸素還元反応の速度を高めることが可能となる。
【0036】
多孔質体層2の細孔内部において、触媒3は結着剤を用いて結着していてもよい。つまり、触媒3は結着剤を用いて多孔質体層2の細孔内部の表面に担持されていてもよい。これにより、触媒3が多孔質体層2の細孔内部から脱離し、酸素還元特性が低下することを抑制できる。このような結着剤としては、粒子同士を結着できれば特に限定されない。結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。また、結着剤としては、ナフィオンを用いることも好ましい。
【0037】
多孔質体層2に担持される触媒3は、酸素還元触媒であることが好ましい。触媒3が酸素還元触媒であることにより、撥水層4及び導電体層1によって移送された酸素と水素イオンとの反応速度をより高めることが可能となる。
【0038】
酸素還元触媒は、金属原子がドープされている炭素系材料であることが好ましい。金属原子としては特に限定されないが、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、及び金からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属の原子であることが好ましい。この場合、炭素系材料が、特に酸素還元反応を促進させるための触媒として優れた性能を発揮する。炭素系材料が含有する金属原子の量は、炭素系材料が優れた触媒性能を有するように適宜設定すればよい。
【0039】
炭素系材料には、更に窒素、ホウ素、硫黄及びリンから選択される一種以上の非金属原子がドープされていることが好ましい。炭素系材料にドープされている非金属原子の量も、炭素系材料が優れた触媒性能を有するように適宜設定すればよい。
【0040】
炭素系材料は、例えばグラファイト及び無定形炭素等の炭素源原料をベースとし、この炭素源原料に金属原子と、窒素、ホウ素、硫黄及びリンから選択される一種以上の非金属原子とをドープすることで得られる。
【0041】
炭素系材料にドープされている金属原子と非金属原子との組み合わせは、適宜選択される。特に、非金属原子が窒素を含み、金属原子が鉄を含むことが好ましい。この場合、炭素系材料が特に優れた触媒活性を有することができる。なお、非金属原子が窒素のみであってもよい。また、金属原子が鉄のみであってもよい。
【0042】
非金属原子が窒素を含み、金属原子がコバルトとマンガンとのうち少なくとも一方を含んでもよい。この場合も、炭素系材料は特に優れた触媒活性を有することができる。なお、非金属原子が窒素のみであってもよい。また、金属原子がコバルトのみ、マンガンのみ、あるいはコバルト及びマンガンのみであってもよい。
【0043】
酸素還元触媒として構成される炭素系材料は、次のように調製することができる。まず、例えば窒素、ホウ素、硫黄及びリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の非金属を含む非金属化合物と、金属化合物と、炭素源原料とを含有する混合物を準備する。そして、この混合物を、800℃以上1000℃以下の温度で、45秒以上600秒未満加熱する。これにより、酸素還元触媒として構成される炭素系材料を得ることができる。
【0044】
ここで、炭素源原料としては、上述の通り、例えばグラファイト又は無定形炭素を使用することができる。さらに、金属化合物としては、炭素源原料にドープされる非金属原子と配位結合し得る金属原子を含む化合物であれば、特に制限されない。金属化合物は、例えば金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、臭化物、ヨウ化物、フッ化物などのような無機金属塩;酢酸塩などの有機金属塩;無機金属塩の水和物;及び有機金属塩の水和物からなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができる。例えばグラファイトに鉄がドープされる場合には、金属化合物は塩化鉄(III)を含有することが好ましい。また、グラファイトにコバルトがドープされる場合には、金属化合物は塩化コバルトを含有することが好ましい。また、炭素源原料にマンガンがドープされる場合には、金属化合物は酢酸マンガンを含有することが好ましい。金属化合物の使用量は、例えば炭素源原料に対する金属化合物中の金属原子の割合が5〜30質量%の範囲内となるように設定することが好ましく、更にこの割合が5〜20質量%の範囲内となるように設定することがより好ましい。
【0045】
非金属化合物は、上記の通り、窒素、ホウ素、硫黄及びリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の非金属の化合物であることが好ましい。非金属化合物としては、例えば、ペンタエチレンヘキサミン、エチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、トリエチレンテトラミン、エチレンジアミン、オクチルボロン酸、1,2−ビス(ジエチルホスフィノエタン)、亜リン酸トリフェニル、ベンジルジサルフィドからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することができる。非金属化合物の使用量は、炭素源原料への非金属原子のドープ量に応じて適宜設定される。非金属化合物の使用量は、金属化合物中の金属原子と、非金属化合物中の非金属原子とのモル比が、1:1〜1:2の範囲内となるように設定ことが好ましく、1:1.5〜1:1.8の範囲内となるように設定することがより好ましい。
【0046】
酸素還元触媒として構成される炭素系材料を調製する際の、非金属化合物と金属化合物と炭素源原料とを含有する混合物は、例えば次のようにして得られる。まず炭素源原料と金属化合物と非金属化合物とを混合し、更に必要に応じてエタノール等の溶媒を加えて全量を調整する。これらを更に超音波分散法により分散させる。続いて、これらを適宜の温度(例えば60℃)で加熱した後に、混合物を乾燥して溶媒を除去する。これにより、非金属化合物と金属化合物と炭素源原料とを含有する混合物が得られる。
【0047】
次に、得られた混合物を、例えば還元性雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下で加熱する。これにより、炭素源原料に非金属原子がドープされ、さらに非金属原子と金属原子とが配位結合することで金属原子もドープされる。加熱温度は800℃以上1000℃以下の範囲内であることが好ましく、加熱時間は45秒以上600秒未満の範囲内であることが好ましい。加熱時間が短時間であるため、炭素系材料が効率よく製造され、しかも炭素系材料の触媒活性が更に高くなる。なお、加熱処理における、加熱開始時の混合物の昇温速度は、50℃/s以上であることが好ましい。このような急速加熱は、炭素系材料の触媒活性を更に向上させる。
【0048】
また、炭素系材料を、更に酸洗浄してもよい。例えば炭素系材料を、純水中、ホモジナイザーで30分間分散させ、その後この炭素系材料を2M硫酸中に入れて、80℃で3時間攪拌してもよい。この場合、炭素系材料からの金属成分の溶出が抑えられる。
【0049】
このような製造方法により、不活性金属化合物及び金属結晶の含有量が著しく低く、かつ、導電性の高い炭素系材料が得られる。
【0050】
[負極]
本実施形態における負極20は、後述する微生物を担持し、さらに微生物の触媒作用により、電解液70中の有機物及び窒素含有化合物の少なくとも一方から水素イオン及び電子を生成する作用を有する。そのため、本実施形態の負極20は、このような作用を生じさせる構成ならば特に限定されない。
【0051】
本実施形態の負極20は、導電性を有する導電体シートに微生物を担持した構造を有する。導電体シートとしては、多孔質の導電体シート、織布状の導電体シート及び不織布状の導電体シートからなる群より選ばれる少なくとも一つを使用することができる。また、導電体シートは複数のシートを積層した積層体でもよい。負極20の導電体シートとして、このような複数の細孔を有するシートを用いることにより、後述する局部電池反応で生成した水素イオンがイオン移動層30の方向へ移動しやすくなり、酸素還元反応の速度を高めることが可能となる。また、イオン透過性を向上させる観点から、負極20の導電体シートは、正極10、イオン移動層30及び負極20の積層方向X、つまり厚さ方向に連続した空間(空隙)を有していることが好ましい。
【0052】
当該導電体シートは、厚さ方向に複数の貫通孔を有する金属板であってもよい。そのため、負極20の導電体シートを構成する材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル及びチタンなどの導電性金属、並びにカーボンペーパー、カーボンフェルトからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0053】
負極20の導電体シートとして、正極10で使用する導電体層を用いてもよい。また、負極20は黒鉛を含有し、さらに黒鉛におけるグラフェン層は、正極10、イオン移動層30及び負極20の積層方向Xに垂直な方向YZの面に沿って配列していることが好ましい。グラフェン層がこのように配列していることにより、積層方向Xの導電性よりも、積層方向Xに垂直な方向YZの導電性が向上する。そのため、負極20の局部電池反応により生成した電子を外部回路へ導通させやすくなり、電池反応の効率をより向上させることが可能となる。
【0054】
負極20に担持される微生物としては、電解液70中の有機物、又は窒素を含む化合物を分解する微生物であれば特に限定されないが、例えば増殖に酸素を必要としない嫌気性微生物を使用することが好ましい。嫌気性微生物は、電解液70中の有機物を酸化分解するための空気を必要としない。そのため、空気を送り込むために必要な電力を大幅に低減することができる。また、微生物が獲得する自由エネルギーが小さいので、汚泥発生量を減少させることが可能となる。
【0055】
負極20に保持される嫌気性微生物は、例えば細胞外電子伝達機構を有する電気生産細菌であることが好ましい。具体的には、嫌気性微生物として、例えばGeobacter属細菌、Shewanella属細菌、Aeromonas属細菌、Geothrix属細菌、Saccharomyces属細菌が挙げられる。
【0056】
負極20に、嫌気性微生物を含むバイオフィルムが重ねられて固定されることで、負極20に嫌気性微生物が保持されていてもよい。なお、バイオフィルムとは、一般に、微生物集団と、微生物集団が生産する菌体外重合体物質(extracellular polymeric substance、EPS)とを含む三次元構造体のことをいう。ただ、嫌気性微生物は、バイオフィルムによらずに負極20に保持されていてもよい。また、嫌気性微生物は、負極20表面だけでなく、内部に保持されていてもよい。
【0057】
[イオン移動層]
本実施形態の微生物燃料電池100は、正極10と負極20との間に設けられ、プロトン透過性を有するイオン移動層30をさらに備える。そして、図1及び図2に示すように、負極20は、イオン移動層30を介して正極10と隔てられている。イオン移動層30は、負極20で生成した水素イオンを透過し、正極10側へ移動させる機能を有している。
【0058】
イオン移動層30としては、例えばイオン交換樹脂を用いたイオン交換膜を使用することができる。イオン交換樹脂としては、例えばデュポン株式会社製のNAFION(登録商標)、並びに旭硝子株式会社製のフレミオン(登録商標)及びセレミオン(登録商標)を用いることができる。
【0059】
また、イオン移動層30として、水素イオンが透過することが可能な細孔を有する多孔質膜を使用してもよい。つまり、イオン移動層30は、負極20から正極10へ水素イオンが移動するための空間(空隙)を有するシートであってもよい。そのため、イオン移動層30は、多孔質のシート、織布状のシート及び不織布状のシートからなる群より選ばれる少なくとも一つを備えることが好ましい。また、イオン移動層30は、ガラス繊維膜、合成繊維膜、及びプラスチック不織布からなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができ、これらを複数積層してなる積層体でもよい。このような多孔質のシートは、内部に多数の細孔を有しているため、水素イオンが容易に移動することが可能となる。なお、イオン移動層30の細孔径は、負極20から正極10に水素イオンが移動できれば特に限定されない。
【0060】
なお、上述のように、イオン移動層30は、負極20で生成した水素イオンを透過し、正極10側へ移動させる機能を有する。そのため、例えば、負極20と正極10とが接触しない状態で近接していれば、水素イオンが負極20から正極10へ移動することができる。そのため、本実施形態の微生物燃料電池100において、イオン移動層30は必須の構成要素ではない。ただ、イオン移動層30を設けることにより、負極20から正極10へ水素イオンを効率的に移動させることが可能となるため、出力向上の観点からイオン移動層30を設けることが好ましい。
【0061】
次に、本実施形態の微生物燃料電池100の作用について説明する。上述の正極10、負極20及びイオン移動層30からなる電極接合体40が電解液70に浸漬された場合、正極10の多孔質体層2及び負極20が電解液70に浸漬され、撥水層4の少なくとも一部が気相90に露出している。また、この際、正極10の導電体層1も電解液70に浸漬される。
【0062】
そして、微生物燃料電池100の動作時には、負極20に、有機物及び窒素含有化合物の少なくとも一方を含有する電解液70を供給し、正極10に空気を供給する。この際、空気は、カセット基材50の上部に設けられた開口部を通じて連続的に供給される。
【0063】
そして、図4に示す正極10では、撥水層4を透過して導電体層1により空気が拡散する。また、図5に示す正極10Aでは、撥水層4を透過して多孔質体層2に直接空気が供給される。負極20では、微生物の触媒作用により、電解液70中の有機物及び窒素含有化合物の少なくとも一方から水素イオン及び電子を生成する。生成した水素イオンは、イオン移動層30を透過して正極10側へ移動する。また、生成した電子は負極20の導電体シートを通じて外部回路110へ移動し、さらに外部回路110から正極10の導電体層1に移動する。そして、水素イオン及び電子は、多孔質体層2中の触媒3の作用により酸素と結合し、水となって消費される。このとき、外部回路110によって、閉回路に流れる電気エネルギーを回収する。
【0064】
このように、本実施形態の微生物燃料電池100は、正極10,10Aと、微生物を保持する負極20と、電解液70とを備える。正極10は、導電体層1と、導電体層1に積層され、触媒3を内部に担持する多孔質体層2と、導電体層1における多孔質体層2と接する面1aと反対側の面1bに積層された撥水層4とを有する。また、正極10Aは、導電体層1と、導電体層1に積層され、触媒3を内部に担持する多孔質体層2と、多孔質体層2における導電体層1と接する面2aと反対側の面2bに積層された撥水層4とを有する。そして、多孔質体層2及び負極20が電解液70に浸漬され、撥水層4の少なくとも一部が気相90に露出している。
【0065】
本実施形態の正極10では、多孔質体層2を介して導電体層1の表面に触媒粒子を配置しているため、乾燥しても触媒が収縮せず、クラック及び剥離の発生を抑制することが可能となる。そのため、正極10における酸素還元特性を高め、安定的に電気エネルギーを生産することが可能となる。また、導電体層1に多孔質体層2を積層しているため、導電体層1及び多孔質体層2が多孔質であっても、正極10全体の剛性を高めることができる。
【0066】
本実施形態に係る負極20には、例えば、電子伝達メディエーター分子が修飾されていてもよい。あるいは、廃水槽80内の電解液70は、電子伝達メディエーター分子を含んでいてもよい。これにより、嫌気性微生物から負極20への電子移動を促進し、より効率的な液体処理を実現できる。
【0067】
具体的には、嫌気性微生物による代謝機構では、細胞内又は最終電子受容体との間で電子の授受が行われる。電解液70中にメディエーター分子を導入すると、メディエーター分子が代謝の最終電子受容体として作用し、かつ、受け取った電子を負極20へと受け渡す。この結果、電解液70における有機物などの酸化分解速度を高めることが可能になる。このような電子伝達メディエーター分子は、特に限定されない。電子伝達メディエーター分子としては、例えばニュートラルレッド、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸(AQDS)、チオニン、フェリシアン化カリウム、及びメチルビオローゲンからなる群より選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0068】
図3に示す燃料電池ユニット60は、2枚の電極接合体40とカセット基材50とを積層する構成となっている。しかし、本実施形態はこの構成に限定されない。例えば、カセット基材50の一方の側面53のみに電極接合体40を接合し、他方の側面は板部材で封止してもよい。また、図2及び図3に示すカセット基材50は、上部の全体が開口しているが、内部に空気(酸素)を導入することが可能ならば部分的に開口していてもよく、また閉口していてもよい。
【0069】
廃水槽80は内部に電解液70を保持しているが、電解液70が流通するような構成であってもよい。例えば、図1及び図2に示すように、廃水槽80には、電解液70を廃水槽80に供給するための液体供給口81と、処理後の電解液70を廃水槽80から排出するための液体排出口82とが設けられていてもよい。そして、電解液70は、液体供給口81及び液体排出口82を通じて連続的に供給されることが好ましい。
【0070】
廃水槽80内は、例えば分子状酸素が存在しない、又は分子状酸素が存在してもその濃度が極めて小さい嫌気性条件に保たれていることが好ましい。これにより、廃水槽80内で、電解液70を酸素と殆ど接触しないように保持することが可能となる。
【実施例】
【0071】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
[実施例1]
実施例1及び2では、導電体層として黒鉛シートを使用した図4に示す構成の電極を作製した。
【0073】
本例の電極は次のように作製した。まず、導電体層としての黒鉛シートと撥水層としての撥水シートとをシリコーン接着剤で接合することにより、黒鉛シート/シリコーン接着剤/撥水シートからなる積層シートを作製した。黒鉛シートとしては、日立化成株式会社製カーボフィット(登録商標)を使用した。シリコーン接着剤としては、信越化学工業株式会社製の一液型RTVシリコーンゴムKE−3475を使用した。撥水シートとしては、旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社製タイベック(登録商標)を使用した。
【0074】
この積層シートの黒鉛シート上に、厚みが0.18mm、密度が15g/mであるポリエチレン及びポリプロピレンからなる混紡の不織布を積層した。なお、当該不織布としては、パシフィック技研株式会社のポリオレフィン不織布♯210を使用した。そして、この不織布上に、酸素還元触媒の分散液を滴下して触媒を担持し、乾燥させることで、本例の電極サンプルを得た。なお、後述するように、酸素還元触媒の分散液にはPTFE分散液が含まれている。そのため、黒鉛シートに不織布を積層した後、酸素還元触媒の分散液を滴下して乾燥させることで、PTFE分散液の作用により黒鉛シートと不織布とを接合している。また、黒鉛シートと不織布との間のファンデルワールス力でも、これらを接合している。
【0075】
なお、酸素還元触媒は、次のように調製した。まず、容器内に、3gのカーボンブラック、0.1Mの塩化鉄(III)水溶液、及び0.15Mのペンタエチレンヘキサミンのエタノール溶液を入れることで、混合液を調製した。なお、カーボンブラックとしては、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製ケッチェンブラックECP600JDを使用した。0.1M塩化鉄(III)水溶液の使用量は、カーボンブラックに対する鉄原子の割合が10質量%になるように調整した。この混合液に更にエタノールを加えることで全量を9mLに調製した。そして、この混合液を超音波分散してから乾燥機で60℃の温度で乾燥させた。これにより、カーボンブラック、塩化鉄(III)、及びペンタエチレンヘキサミンを含有するサンプルを得た。
【0076】
そして、このサンプルを、石英管の一端部内に詰め入れ、続いてこの石英管内をアルゴンで置換した。この石英管を、900℃の炉に入れてから45秒で引き抜いた。石英管を炉に挿入する際には、石英管を炉に3秒間かけて挿入することで、加熱開始時のサンプルの昇温速度を300℃/sに調整した。続いて、石英管内にアルゴンガスを流通させることでサンプルを冷却させた。これにより、酸素還元触媒を得た。また、酸素還元触媒の分散液は、粉末状の酸素還元触媒0.35g、PTFE分散液0.35mL、イオン交換水2mLを混合することにより、調製した。
【0077】
[実施例2]
触媒を担持させるための不織布を、厚みが0.18mm、密度が60g/mのポリエチレン及びポリプロピレンからなる混紡の不織布に変更した以外は実施例1と同様にして、本例の電極サンプルを得た。なお、当該不織布としては、パシフィック技研株式会社のポリオレフィン不織布♯210を使用した。また、触媒の担持量は、実施例1と同じとした。
【0078】
[比較例1]
まず、実施例1と同様にして、黒鉛シート/シリコーン接着剤/撥水シートからなる積層シートを作製した。次に、この積層シートの黒鉛シート上に、直接、酸素還元触媒の分散液を滴下し、乾燥させることで、本例の電極サンプルを得た。つまり、本例の電極サンプルは、実施例1及び2の電極サンプルにおいて、多孔質体層としての不織布を使用していないものである。なお、触媒の担持量は、実施例1と同じとした。
【0079】
[実施例3]
実施例3では、導電体層としてステンレス鋼からなるメッシュシートを使用した図4に示す構成の電極を作製した。
【0080】
本例の電極は次のように作製した。まず、導電体層としてのステンレス316からなるメッシュシートと撥水層としての撥水シートとをシリコーン接着剤で接合することにより、メッシュシート/シリコーン接着剤/撥水シートからなる積層シートを作製した。メッシュシートとしては、株式会社奥谷金網製作所製ステンレスメッシュ(0.1φ、100メッシュ)を使用した。シリコーン接着剤及び撥水シートは、実施例1と同じものを使用した。
【0081】
この積層シートのメッシュシート上に、厚みが0.18mm、密度が15g/mである実施例1の不織布を積層した。そして、この不織布上に、実施例1の酸素還元触媒の分散液を滴下して触媒を担持し、乾燥させることで、本例の電極サンプルを得た。なお、触媒の担持量は、実施例1と同じとした。
【0082】
[比較例2]
まず、実施例3と同様にして、メッシュシート/シリコーン接着剤/撥水シートからなる積層シートを作製した。次に、この積層シートのメッシュシート上に、直接、酸素還元触媒の分散液を滴下し、乾燥させることで、本例の電極サンプルを得た。つまり、本例の電極サンプルは、実施例3の電極サンプルにおいて、多孔質体層としての不織布を使用していないものである。なお、触媒の担持量は、実施例1と同じとした。
【0083】
[実施例4]
実施例4では、導電体層としてステンレス鋼からなるメッシュシートを使用した図5に示す構成の電極を作製した。
【0084】
本例の電極は次のように作製した。まず、導電体層として、実施例3で使用したステンレス316からなるメッシュシート上に、厚みが0.18mm、密度が15g/mである実施例1の不織布を積層した。
【0085】
次に、この不織布上に、実施例1の酸素還元触媒の分散液を滴下して触媒を担持し、乾燥させた。そして、触媒を担持した不織布と、撥水層としての撥水シートとをシリコーン接着剤で接合することにより、本例の電極サンプルを得た。なお、シリコーン接着剤及び撥水シートは、実施例1と同じものを使用した。また、触媒の担持量は、実施例1と同じとした。
【0086】
[比較例3]
まず、実施例4で使用したメッシュシート上に、直接、酸素還元触媒の分散液を滴下し、乾燥させた。そして、触媒を担持したメッシュシートと、撥水層としての撥水シートとをシリコーン接着剤で接合することにより、本例の電極サンプルを得た。つまり、本例の電極サンプルは、実施例4の電極サンプルにおいて、多孔質体層としての不織布を使用していないものである。なお、触媒の担持量は、実施例1と同じとした。
【0087】
[評価]
(電気化学評価)
リニアスイープボルタンメトリーにより、実施例1〜4及び比較例1〜3の電極サンプルの電気化学特性を評価した。具体的には、実施例1〜4及び比較例1〜3の電極サンプルを用い、Trizmaバッファー溶液中で、掃引速度を1mV/secとして電気化学特性を測定した。Trizmaバッファー溶液は、Aldrich社製の溶液(0.1M, contains 0.2% chloroform as preservative)を使用した。この際、対極には白金ワイヤーを使用し、参照極には銀−塩化銀電極を使用した。なお、リニアスイープボルタンメトリーでは、酸素還元反応が起こるにつれて電流量の絶対値が大きくなるため、電流量の絶対値が大きいほど酸素還元活性に優れていると判断できる。
【0088】
図6では、実施例1、実施例2及び比較例1の電極サンプルにおける評価結果を示す。図6より、実施例1及び2では、高い電流密度値を示し、良好な電極特性となったが、比較例1は、実施例1及び2に対して電流密度値が低下し、電極特性は悪化した。例えば電位0.6Vでの電流値は、実施例1では1.18mA/cm、実施例2では0.94mA/cm、比較例1では0.63mA/cmとなり、多孔質体層を用いて触媒を担持することにより、1.5倍以上の酸素還元特性を示した。
【0089】
図7では、実施例3及び比較例2の電極サンプルにおける評価結果を示す。図7より、実施例3では、高い電流密度値を示し、良好な電極特性となったが、比較例2は、実施例3に対して電流密度値が低下し、電極特性は悪化した。例えば電位0.6Vでの電流値は、実施例3では0.45mA/cm、比較例2では0.29mA/cmとなり、多孔質体層を用いて触媒を担持することにより、1.5倍以上の酸素還元特性を示した。
【0090】
図8では、実施例4及び比較例3の電極サンプルにおける評価結果を示す。図8より、実施例4では、高い電流密度値を示し、良好な電極特性となったが、比較例3は、実施例4に対して電流密度値が低下し、電極特性は悪化した。例えば電位0.6Vでの電流値は、実施例4では0.38mA/cm、比較例3では0.33mA/cmとなり、多孔質体層を用いて触媒を担持することにより、1.15倍以上の酸素還元特性を示した。なお、実施例4及び比較例3の結果は実施例1〜3及び比較例1〜2の結果と比べて電流密度差は小さいものの、卑な電位側ではより大きな差異となっていることが分かる。
【0091】
(表面観察)
実施例1及び比較例1の電極サンプルの表面を目視で観察した。実施例1の電極サンプルの観察結果を図9(a)に示し、比較例1の電極サンプルの観察結果を図9(b)に示す。図9より、多孔質体層を使用していない比較例1は多量のクラックが発生しているが、多孔質体層を使用した実施例1はクラックの発生が抑制されていることが分かる。このことから、多孔質体層を使用しない場合には、触媒を塗工した後に、分散液から溶媒を除去する際にクラックが発生し、導電体層1への触媒3の結着性が低下すると考えられる。
【0092】
上述の結果より、多孔質体層を用いて導電体層の表面に触媒を配置することによって、酸素還元特性が向上することが分かる。さらに、多孔質体層を用いることで触媒層のクラックが抑制され、安定的に電気エネルギーを生産できることが分かる。また、図4及び図5に示すいずれの積層体においても、酸素還元特性が向上することが分かる。
【0093】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。具体的には、図面において、導電体層1、多孔質体層2及び撥水層4を備えた正極10,10A、並びに負極20、イオン移動層30は、矩形状に形成されている。しかし、これらの形状は特に限定されず、燃料電池の大きさ、並びに所望の発電性能等により任意に変更することができる。また、各層の面積も所望の機能が発揮できるならば任意に変更することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 導電体層
2 多孔質体層
3 触媒
4 撥水層
10,10A 正極
20 負極
30 イオン移動層
70 電解液
90 気相
100 微生物燃料電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9