特許第6703871号(P6703871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703871
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】可変容量型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/10 20060101AFI20200525BHJP
   F04B 49/06 20060101ALI20200525BHJP
   F04B 49/02 20060101ALI20200525BHJP
   F04B 49/00 20060101ALI20200525BHJP
   F04B 49/22 20060101ALI20200525BHJP
   F04B 49/08 20060101ALI20200525BHJP
   F04B 35/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   F04B49/10 331C
   F04B49/06 341A
   F04B49/02 331F
   F04B49/00 A
   F04B49/22
   F04B49/08 331
   F04B35/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-57526(P2016-57526)
(22)【出願日】2016年3月22日
(65)【公開番号】特開2017-172409(P2017-172409A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241795
【氏名又は名称】北越工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】特許業務法人小倉特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100081695
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 正明
(74)【代理人】
【識別番号】100103414
【弁理士】
【氏名又は名称】戸村 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 真
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−038466(JP,A)
【文献】 特許第4792015(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0286087(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/10
F04B 49/06
F04B 49/02
F04B 49/00
F04B 49/22
F04B 49/08
F04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機本体の吸入口に設けた吸気制御弁と,前記吸気制御弁の閉弁受圧室を前記圧縮機本体の吐出側に連通する制御流路と,前記制御流路を開閉する電空比例弁と,設定された定格圧力と前記圧縮機本体の吐出側圧力の検出値に基づいて前記電空比例弁の動作を制御する電空比例弁制御手段を備え,前記電空比例弁による前記制御流路の開閉及び開度の増減によって前記吸気制御弁を操作することで,前記圧縮機本体の吐出側圧力が前記定格圧力に近付くように前記圧縮機本体の吸気を制御する吸気制御装置を備え,前記定格圧力の設定値を,所定の圧力範囲内で任意に設定可能とすることで,消費側の接続機器に供給する圧縮気体の圧力の設定を可変とした可変容量型圧縮機において,
前記電空比例弁をバイパスして前記圧縮機本体の吐出側と前記吸気制御弁の閉弁受圧室間を連通するバイパス流路と,前記バイパス流路を開閉する電磁弁,及び,前記圧縮機本体の吐出側圧力における圧力異常を監視すると共に判定し,該圧力異常の判定時,前記電磁弁を操作して前記バイパス流路を開く電磁弁制御手段を備えた保護装置を含み,
前記電磁弁制御手段が,
予め設定された対応関係に従い,前記定格圧力の前記設定値に基づいて,該設定値に対し所定の高い圧力で,かつ,該設定値に対応する常用圧力の接続機器が有する許容圧力未満の圧力である上限圧力を算出し,
算出した前記上限圧力と前記圧縮機本体の吐出側圧力の検出値を比較して,前記検出値が前記上限圧力以上になると,前記圧力異常を判定することを特徴とする可変容量型圧縮機。
【請求項2】
前記電磁弁制御手段は,前記圧力異常の判定以降,前記圧縮機本体の吐出側圧力の検出値の変化に拘わらず,前記バイパス流路を開いた状態に前記電磁弁を保持することを特徴とする請求項1記載の可変容量型圧縮機。
【請求項3】
記定格圧力の前記設定値において正常動作時における前記圧縮機本体の吐出側圧力が取り得る最大値である無負荷最高圧力に対し所定値以上高い圧力となるよう,前記上限圧力を設定したことを特徴とする請求項1又は2記載の可変容量型圧縮機。
【請求項4】
前記電磁弁制御手段による圧力異常の判定時,前記吸気制御弁を全閉とするに必要な前記閉弁受圧室に供給される圧縮気体の圧力の設定値と,前記閉弁受圧室に供給される圧縮気体の圧力の測定値とを比較し,前記測定値が前記設定値未満であるとき,前記圧縮機本体の駆動源を非常停止させる非常停止手段を設けたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の可変容量型圧縮機。
【請求項5】
前記圧縮機本体を油冷式とし,前記圧縮機本体が潤滑油と共に吐出した圧縮気体を貯留する,油分離装置を備えたレシーバタンクを設け,
前記制御流路およびバイパス流路を,前記油分離装置の一次側で前記レシーバタンクに接続して前記圧縮機本体の吐出側に連通させたことを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の可変容量型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,消費側に供給する圧縮気体の圧力(定格圧力)の設定を可変とした可変容量型圧縮機に関し,より詳細には,消費側に接続された空圧機器等の接続機器に対し許容圧力を超える圧縮気体が導入されることを防止することにより,前記接続機器を保護する保護装置を備えた可変容量型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮気体,例えば圧縮空気を生成する圧縮機は,土木作業現場や建築現場,工場施設等において掘削機器や回転工具などの空圧機器に対する圧縮空気の供給源として使用されており,特に,圧縮機本体の駆動源としてエンジンを備えたエンジン駆動圧縮機は,電源等の確保が困難な屋外等において広く使用されている。
【0003】
このような圧縮機1’の構成例を図8に示す。図8に示す圧縮機1’は,圧縮機本体2として被圧縮気体を潤滑油と共に圧縮して気液混合流体として吐出する油冷式のスクリュ型である圧縮機本体2を備えたもので,このような油冷式の圧縮機本体2を備えた圧縮機1’では,圧縮機本体2や,この圧縮機本体2を駆動するモータやエンジン等の駆動源3の他に,圧縮機本体2が吐出した圧縮気体から潤滑油を分離するためのレシーバタンク4が設けられており,このレシーバタンク4内で潤滑油が分離された後の圧縮気体を,オイルセパレータ(図示せず)を介してさらにミストの状態で圧縮気体中に含まれる油分を除去した後,図示せざる空気作業機等が接続された消費側に供給することができるように構成されていると共に,レシーバタンク4内に回収された潤滑油を,オイル配管5及びオイルクーラ5aを介して圧縮機本体2に供給することができるように構成されている。
【0004】
このような圧縮機1’では,消費側に対し所定圧力(定格圧力)の圧縮気体を供給することができるようにするために,圧縮機本体2の吐出側圧力,図示の構成ではレシーバタンク4内の圧力変化に対応して,圧縮機本体2の吸気量を制御する吸気制御装置20が設けられている。
【0005】
このような吸気制御装置20として,図8の圧縮機1’には,圧縮機本体2の吸入口2aに設けた吸気制御弁21と,この吸気制御弁21の閉弁受圧室21aとレシーバタンク4間を連通する制御流路22と,この制御流路22を開閉制御する圧力調整弁23’が設けられている。
【0006】
そして,この圧力調整弁23’を,制御流路22を閉じた状態からレシーバタンク4内の圧力が定格圧力を越えると開き始めると共に圧力上昇に応じて開度を増し,その後全開となるように構成することで,この圧力調整弁23’を介して閉弁受圧室21aがレシーバタンク4と連通された吸気制御弁21は,レシーバタンク4内の圧力が定格圧力以下の低い状態では閉弁受圧室21aに対し作動圧力が導入されず圧縮機本体2の吸入口2aを全開とするが,レシーバタンク4内の圧力が定格圧力を超えると閉弁受圧室21aに対し圧縮気体の導入が開始されて圧縮機本体2の吸入口2aを絞り,その後,圧力調整弁23’が全開になると,圧縮機本体2の吸入口2aを全閉として無負荷運転に移行して圧縮気体の生成を停止することで,レシーバタンク4内の圧力は,この無負荷運転への移行時を最高圧力(本願において「無負荷最高圧力」という)として上昇を停止することで,消費側に供給される圧縮気体の圧力を定格圧力に近付ける,吸気制御を行う。
【0007】
このような吸気制御装置20を備えた圧縮機において,消費側に供給する圧縮気体の圧力(定格圧力)の設定を可変とすることができるようにした,所謂「可変容量型」と呼ばれる圧縮機も提案されている。
【0008】
このような可変容量型圧縮機の一例として,後掲の特許文献1には,図8を参照して説明した圧縮機における圧力調整弁23’を,入力された電気信号に応じて弁の開度を変化させる電空比例弁に変更すると共に,この電空比例弁の動作を制御する,電子制御装置である制御ユニットを設けた可変容量型圧縮機が記載されている。
【0009】
この可変容量型圧縮機では,制御ユニットに,定格圧力の設定値の変化に対する,レシーバタンク内の圧力と電空比例弁の開度との対応関係の変化の関係が予め記憶されており,制御ユニットは,ユーザが設定した定格圧力に基づいてレシーバタンク内の圧力と電空比例弁の開度の対応関係を特定し,圧力センサが検知したレシーバタンク内の圧力に基づいて電空比例弁に出力する制御信号を変化させることで,前述した圧力調整弁23’を使用した吸気制御装置と同様,レシーバタンク内の圧力を定格圧力に近付くように制御できるように構成されていると共に,ユーザが定格圧力の設定を変更すると,制御ユニットは,変更後の定格圧力に基づいてレシーバタンク内の圧力と電空比例弁の開度の対応関係を特定し,これに基づいて吸気制御を行うことで,消費側に供給する圧縮気体の圧力を任意に変更することができるように構成されている。
【0010】
なお,このように定格圧力の設定を可変とした可変容量型圧縮機1では,設定した定格圧力(例えば1.40MPa)に対し,常用圧力や許容圧力が低い機器(例えば常用圧力0.7MPa,許容圧力1.0MPaの空圧機器)を誤って接続して運転を開始してしまうと,接続機器に対し許容圧力を超える圧縮気体が供給され,接続機器を破損させてしまうおそれがあるだけでなく,圧縮機の消費側から接続機器に至る配管が破裂,破壊するおそれがある等,危険である。
【0011】
そのため,前掲の特許文献1では,このような可変容量型圧縮機に対する誤接続を防止するために,オペレータが確認操作手段を操作した後に始動操作をしなければエンジンが始動しないように構成し,あるいは,確認操作手段を操作しないで始動操作を行った場合,設定可能な定格値の範囲内で最低の吐出圧力に設定されるように構成することで,誤接続に伴う空圧機器の破損や,接続配管の破裂や破壊を防止できるようにすることを提案している(特許文献1[0016]欄他)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4792015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前掲の特許文献1として紹介した可変容量型圧縮機では,オペレータが確認操作手段を操作しなければエンジンが始動せず,あるいは,定格圧力として設定可能な最低値の圧力が定格圧力として設定されるため,誤接続等の人為的なミス(ヒューマンエラー)を原因とする接続機器や配管の破損等の防止には一定の効果があると考えられる。
【0014】
しかし,可変容量型圧縮機において設定した定格圧力と接続機器の許容圧力や常用圧力が一致しており,かつ,オペレータが定められた手順でエンジンを始動させた場合のように人為的なミス(ヒューマンエラー)が存在していない場合であっても,制御流路や,制御流路に設けた電空比例弁の故障によって,レシーバタンク内の圧力が定格圧力を超えても吸気制御弁の閉弁受圧室に圧縮気体が導入されず,あるいは制御流路で生じた漏れなどにより吸気制御弁を全閉とするに必要な圧力の圧縮気体が導入されない等の事態が生じると,接続機器の使用を停止して圧縮空気の消費量が減少し,これによりレシーバタンク内の圧力が上昇しても,吸気制御弁が圧縮機本体の吸入口を全閉とした無負荷運転には移行せず,圧縮機本体2が圧縮気体の生成を継続して,レシーバタンク内の圧力は前述した無負荷最高圧力を超えてもなお上昇を続ける。
【0015】
このようにして,可変容量型圧縮機のレシーバタンク内の圧力,従って消費側に供給される圧縮気体の圧力が,設定された定格圧力に対する無負荷最高圧力を超えて更に上昇し,接続機器の許容圧力を超えると,接続機器を破損させる危険性がある。
【0016】
なお,通常圧縮機には,レシーバタンク内の圧力が定格圧力よりも所定の高い圧力まで上昇すると,安全弁(図示せず)が開いてレシーバタンク内の圧縮気体を放気することで,レシーバタンクや配管類が破損等することが防止されている。
【0017】
そのため,図8を参照して説明したように,定格圧力が固定されている一般的な圧縮機では,安全弁の吹き出し圧力を,消費側に接続する接続機器の許容圧力と同程度の圧力に設定することで,安全弁を圧縮機の保護装置として機能させるだけでなく,消費側に接続された接続機器に対する保護装置としても機能させることが可能である。
【0018】
しかし,安全弁は,これを定格圧力の設定が可変である可変容量型圧縮機に設ける場合,安全弁の吹き出し圧力を,定格圧力として設定可能な圧力の最大値よりも高い圧力に設定する必要がある。
【0019】
その結果,定格圧力として設定可能な圧力の範囲(一例として0.50〜1.45MPa)から比較的低い圧力(一例として0.7MPa)を定格圧力として選択・設定し,これに対応した常用圧力や許容圧力の空圧機器(一例として常用圧力0.7MPa,許容圧力1.0MPaの空圧機器)を接続して使用している場合,電空比例弁の故障によりレシーバタンク内の圧力が安全弁の吹き出し圧力(一例として1.7MPa)まで上昇すると,安全弁が作動した時点で,既に,空圧機器には許容圧力(一例として1.0MPa)を大幅に超える,安全弁の吹き出し圧力(一例として1.7MPa)の圧縮気体が導入されていることから,前述した安全弁は,接続機器に対する保護装置とはならない。
【0020】
そこで本発明は,上記従来技術における欠点を解消するために成されたものであり,定格圧力の設定を変更可能な可変容量型圧縮機において,定格圧力の設定値に拘わらず,設定圧力に対応して接続された空圧機器等の接続機器に対し許容圧力を越える過大な圧力が導入されることを防止して接続機器を保護する保護装置を備えた可変容量型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
以下に,課題を解決するための手段を,発明を実施するための形態で使用する符号と共に記載する。この符号は,特許請求の範囲の記載と,発明を実施するための形態の記載との対応を明らかにするためのものであり,言うまでもなく,本願発明の技術的範囲の解釈に制限的に用いられるものではない。
【0022】
上記目的を達成するために,本発明の可変容量型圧縮機1は,
圧縮機本体2の吸入口2aに設けた吸気制御弁21と,前記吸気制御弁21の閉弁受圧室21aを前記圧縮機本体2の吐出側(実施形態においてレシーバタンク4)に連通する制御流路22と,前記制御流路22を開閉する電空比例弁23と,設定された定格圧力と前記圧縮機本体2の吐出側圧力の検出値に基づいて前記電空比例弁23の動作を制御する電空比例弁制御手段24を備え,前記電空比例弁23による前記制御流路22の開閉および開度の増減によって前記吸気制御弁21を操作することで,前記圧縮機本体2の吐出側圧力が前記定格圧力に近付くように前記圧縮機本体2の吸気を制御する吸気制御装置20を備え,前記定格圧力の設定値を,所定の圧力範囲内で任意に設定可能とすることで,消費側に供給する圧縮気体の圧力の設定を可変とした可変容量型圧縮機1において,
前記電空比例弁23をバイパスして前記圧縮機本体2の吐出側(実施形態においてレシーバタンク4)と前記吸気制御弁21の閉弁受圧室21a間を連通するバイパス流路41と,前記バイパス流路41を開閉する電磁弁42,42’,及び,前記圧縮機本体2の吐出側圧力における圧力異常を監視すると共に判定し,該圧力異常の判定時,前記電磁弁42,42’を操作して前記バイパス流路41を開く電磁弁制御手段43を備えた保護装置40を含み,
前記電磁弁制御手段43が,
予め設定された対応関係に従い,前記定格圧力の前記設定値に基づいて,該設定値に対し所定の高い圧力で,かつ,該設定値に対応する常用圧力の接続機器が有する許容圧力未満の圧力である上限圧力を算出し,
算出した前記上限圧力と前記圧縮機本体2の吐出側圧力(実施形態においてレシーバタンク4内の圧力)の検出値を比較して,前記検出値が前記上限圧力以上になると,前記圧力異常を判定することを特徴とする(請求項1)。
【0023】
前記電磁弁制御手段43は,前記圧力異常の判定以降,前記圧縮機本体2からの吐出側圧力の検出値の変化に拘わらず,前記バイパス流路41を開いた状態に前記電磁弁42,42’を保持するように構成するものとしても良い(請求項2)。
【0024】
前述の上限圧力は,前記定格圧力の前記設定値において正常動作時における前記圧縮機本体の吐出側圧力(レシーバタンク4内の圧力)が取り得る最大値である無負荷最高圧力に対し所定値β以上高い圧力に設定することができる(請求項3:図5及び図6参照)。
【0025】
前記電磁弁制御手段43による圧力異常の判定時,予め求めた算出値または実測値等に基づいて設定した前記吸気制御弁21を全閉とするに必要な前記閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力の設定値と,第2の圧力センサ51等で検知した前記閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力の測定値とを比較し,前記測定値が前記設定値未満であるとき,前記圧縮機本体2の駆動源を非常停止させる非常停止手段52を更に設けるものとしても良い(請求項4)。
【0026】
前記圧縮機本体2を油冷式とし,前記圧縮機本体2が潤滑油と共に吐出した圧縮気体を貯留する,油分離装置(図示せず)を備えたレシーバタンク4を設け,
前記制御流路22およびバイパス流路41を,前記油分離装置の一次側で前記レシーバタンク4に接続して前記圧縮機本体2の吐出側と連通させるものとすることができる(請求項5)。
【発明の効果】
【0027】
以上で説明した本発明の構成により,本発明の可変容量型圧縮機1では,以下の顕著な効果を得ることができた。
【0028】
電空比例弁23をバイパスして圧縮機本体2の吐出側と吸気制御弁21の閉弁受圧室21a間を連通するバイパス流路41と,前記バイパス流路41を開閉する電磁弁42,42’,及び,電磁弁制御手段43から成る保護装置40を設け,圧縮機本体2の吐出側圧力(レシーバタンク4内の圧力)の検出値が,設定された定格圧力に対応する所定の上限圧力を超えると,前記バイパス流路41を開くように構成したことで,制御流路22に設けた電空比例弁23が故障して開弁しない又は所定の開度にならない,吸気制御弁21の閉弁受圧室21aに制御用の圧縮気体が供給されず,または吸気制御弁21を全閉するために必要な圧力を備えた圧縮気体が導入されない等の事態が発生して,吸気制御弁21が閉弁しない又は閉弁が遅れる等の原因によって,圧縮機本体2の吐出側圧力(レシーバタンク4内の圧力)の検出値が,前記上限圧力に達すると,バイパス流路41が開いて吸気制御弁21を閉じてエンジン駆動圧縮機を無負荷運転に移行することで,圧縮機本体2の吐出側圧力(レシーバタンク4内の圧力)が更に上昇することを防止でき,消費側に接続される空圧機器に対し上限圧力を超える圧縮気体が供給されることを防止できた。
【0029】
前記電磁弁制御手段43が,前記圧力異常を判定した以降,前記バイパス流路41を開いた状態に前記電磁弁42,42’を保持するように構成した場合には,その後,圧縮機本体2の吐出側圧力が定格圧力以下に低下した場合であっても全負荷運転に移行せず,故障等の不具合が生じていることが疑われる電空比例弁23や制御流路22を使用した吸気制御が再開されることを防止できた。
【0030】
設定された前記定格圧力において前記圧縮機本体2の吐出側圧力が取り得る最大値である無負荷最高圧力よりも所定値β以上高い圧力であって,且つ,設定された定格圧力に対応する常用圧力の接続機器が有する許容圧力未満となる前記上限圧力を設定し,この上限圧力に達したときに前記バイパス流路41を開く構成としたことで,可変容量型圧縮機の公差(製造誤差,バラツキ)や,温暖時・寒冷時等運転環境の違いにより無負荷最高圧力に多少の変動が生じたとしても,バイパス流路に設けた電磁弁の誤作動を防止することができた。
【0031】
前記電磁弁制御手段43による圧力異常の判定時,前記吸気制御弁21を全閉とするために必要な前記閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力の設定値と,前記閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力の測定値とを比較し,前記測定値が前記設定値未満であるとき,圧縮機本体2の駆動源3を非常停止させる非常停止手段52を設けた構成では,電空比例弁23に加えて更に電磁弁42,42’が故障した場合や,制御流路22またはバイパス流路41に目詰まりや破れ等の異常が生じて閉弁受圧室21aに対する導入圧力が低く圧縮機本体2が無負荷運転に移行しない場合であっても,駆動源3自体を停止して以後の圧力上昇を防止することができ,消費側に接続する接続機器に過剰な圧力の圧縮気体が導入されることをより確実に防止することができた。
【0032】
前記圧縮機本体2を油冷式とし,圧縮機本体2が吐出した圧縮気体を貯留する,油分離装置(図示せず)を有するレシーバタンク4を備えた可変容量型圧縮機1の構成では,前記制御流路22およびバイパス流路41を,前記油分離装置の一次側で前記レシーバタンク4と連通することで,双方の流路共にオイルミストを含む圧縮空気が供給され,電空比例弁23や電磁弁42,42’のピストンやバルブ等の摺動部品,その他の内部構成部品の動作がこのミストオイルによって円滑になると共に,これらの部品の防錆を図ることができた。
【0033】
また,両流路22,41の内面に油膜が形成されるため,流路22,41内で吐出空気中に含まれる水分が結露して水滴が生じたとしても,流路22,41内面に水滴が付着して留まることなく気体流と共に流下して,吸気制御弁21の閉弁受圧室21aから逃し流路21bを経由して圧縮機本体2の吸入口2aに吸引させることができた。
【0034】
これにより,電空比例弁23,電磁弁42,42’の作動不良を低減できると共に,流路22,41内で水滴が凍結することにより制御不能となり,消費側に接続した接続機器に過剰な圧力がかかり破損することを防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の可変容量型圧縮機の説明図。
図2】本発明の可変容量型圧縮機の変形例を示す説明図。
図3】本発明の可変容量型圧縮機の別の変形例を示す説明図。
図4】圧縮機制御ユニットの機能ブロック図。
図5】定格圧力と上限圧力の相関図(上限圧力を無段階に設定した例)。
図6】定格圧力と上限圧力の相関図(上限圧力を段階的に設定した例)。
図7】操作パネルの正面図。
図8】従来の圧縮機の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に,本発明の可変容量型圧縮機を,添付図面を参照しながら説明する。
【0037】
なお,以下の説明において,本発明の可変容量型圧縮機を,圧縮機本体の駆動源がエンジンであると共に,圧縮機本体として圧縮作用空間の潤滑,冷却,密封に潤滑油を使用する,油冷式のスクリュ圧縮機を設けた構成例について説明するが,本発明の可変容量型圧縮機の構成は,これらの構成に限定されない。
【0038】
〔エンジン駆動圧縮機の全体構成〕
図1中,符号1は,本発明の可変容量型圧縮機であり,この可変容量型圧縮機1は,駆動源であるエンジン3と,前記エンジン3によって駆動される油冷式のスクリュ圧縮機本体2,前記圧縮機本体2が潤滑油との気液混合流体として吐出した圧縮気体を貯留するレシーバタンク4を備え,このレシーバタンク4内で圧縮気体と潤滑油の気液分離を行って,潤滑油が分離された圧縮気体が逆止弁4aを介して消費側に供給されると共に,レシーバタンク4内で分離,回収された潤滑油が,オイル配管5を介してオイルクーラ5aで冷却された後,圧縮機本体2に再度供給されるように構成されている。
【0039】
この可変容量型圧縮機1には,消費側に対して供給する圧縮気体の圧力を,設定された定格圧力に近付けることができるようにするために,圧縮機本体の吐出側圧力(レシーバタンク4内の圧力)変化に応じて圧縮機本体2の吸気を制御する吸気制御装置20と,エンジン3の回転速度を制御する速度制御装置30を備えている。
【0040】
このうちの吸気制御装置20は,圧縮機本体2の吸入口2aに設けられた吸気制御弁21と,この吸気制御弁21の閉弁受圧室21aと圧縮機本体2の吐出側,図示の例ではレシーバタンク4間を連通する制御流路22,及び前記制御流路22を開閉制御する電空比例弁23,及び前記電空比例弁23に対し制御信号を出力する電空比例弁制御手段24によって構成されており,本実施形態ではこの電空比例弁制御手段24を,可変容量型圧縮機1の動作を統括的に制御する後述の圧縮機制御ユニット6により実現するものとしており,電空比例弁制御手段24は,予め設定されている対応関係に従い,ユーザが設定した定格圧力と,圧力センサ7が検知した圧縮機本体2の吐出側圧力(レシーバタンク4内の圧力)によって特定される電空比例弁23が取るべき開度に対応した制御信号を出力する。
【0041】
制御流路22に設ける電空比例弁23は,電空比例弁制御手段24からの制御信号に応じて内部に設けた弁の開度を制御して,制御流路22の開閉のみならず通路面積を変化させることができるように構成されており,これにより,電空比例弁23の下流側における制御流路22に導入される圧縮気体を制御して,電空比例弁23の全閉時には吸気制御弁21を全開とし,レシーバタンク4内の圧力が定格圧力を超えると電空比例弁23が開弁し、圧力上昇に伴い電空比例弁23が開度を増加させてやがて全開となることで,圧縮機本体2の吸入口2aを絞り,又は閉じることができるように構成されている。
【0042】
また,前述した速度制御装置30は,エンジン3に設けられているエンジンコントロールユニット(ECU)32と,前記ECU32に対し速度制御信号を出力する速度制御手段31によって構成されており,図示の実施形態にあっては,この速度制御手段31についても,後述の圧縮機制御ユニット6により実現している。
【0043】
〔保護装置〕
以上のように,可変容量型の圧縮機として構成された本発明の圧縮機には,前述した電空比例弁が故障等した場合であっても,消費側に接続される空圧機器等に対して空圧機器の許容圧力を超える圧縮気体が導入されることを防止するための保護装置40が設けられている。
【0044】
この保護装置40は,前記電空比例弁23をバイパスして前記圧縮機本体2の吐出側(図示の例ではレシーバタンク4)と,吸気制御弁21の閉弁受圧室21a間を連通するバイパス流路41と,前記バイパス流路41を開閉する電磁弁42,42’,及び,前記圧縮機本体2の吐出側(レシーバタンク4)における圧力異常を監視すると共に判定し,該圧力異常の判定時,前記電磁弁42,42’を操作して前記バイパス流路41を開く電磁弁制御手段43により構成されている。
【0045】
図示の例では,このバイパス流路41の両端を,電空比例弁23の一次側及び二次側において制御流路22に連通する構成を採用し,流路の一部を制御流路22と共用しているが,バイパス流路41は制御流路22とは別に,直接,レシーバタンク4と吸気制御弁21の閉弁受圧室21a間を連通する構成としても良い。
【0046】
図1及び図2に示す例では,バイパス流路41を開閉する電磁弁42として電磁開閉弁を設ける構成を採用したが,この構成に代え,図3に示すように,レシーバタンク4側における制御流路22とバイパス流路41との分岐点に三方電磁弁42’を設けるものとしても良く,この構成では,三方電磁弁42’によって制御流路22とバイパス流路41のいずれか一方を選択的にレシーバタンク4に連通させることで,バイパス流路41を開閉できるようにしている。
【0047】
この電磁弁42,42’の開閉制御を行うために,圧縮機制御ユニット6には,前述した電空比例弁制御手段24や速度制御手段31の他に,更に,電磁弁制御手段43が実現されており,この電磁弁制御手段43が,予め設定された定格圧力と上限圧力の対応関係に従い,ユーザが設定した定格圧力に基づいて,これに対する上限圧力を算出し,算出した上限圧力と,圧力センサ7によって検知されたレシーバタンク4内の圧力を比較して,レシーバタンク4内の圧力が上限圧力以上になると,レシーバタンク4の圧力異常を判定して,バイパス流路41を開く制御信号を電磁弁42,42’に出力する。
【0048】
このようにして電磁弁42,42’がバイパス流路41を開くことで,図1及び図2に示す構成では,レシーバタンク4内の圧縮気体がバイパス流路41を介して吸気制御弁21の閉弁受圧室21aに導入され,圧縮機本体2が吸気を停止することで圧縮気体の生成が停止して,レシーバタンク4内の圧力が上限圧力を超えて更に上昇することが防止される。
【0049】
図1及び図2に示した構成に代え,図3に示すようにレシーバタンク4側における制御流路22とバイパス流路41の分岐点に三方電磁弁42’を設けていずれか一方の流路(22又は41)を選択的にレシーバタンク4に連通可能とした構成では,バイパス流路41中に圧力調整弁44を設け,この圧力調整弁44の作動圧力を,可変設定可能な定格圧力の最低圧力に設定するように構成する。
【0050】
この構成では,電磁弁制御手段43が,レシーバタンク4の圧力異常を判定すると,以後,レシーバタンク4内の圧力変化に拘わらずバイパス流路41を開いた状態とする切換位置に電磁弁42’を保持するように構成することで,電空比例弁23が故障などした場合,以後の吸気制御をバイパス流路41に設けた圧力調整弁44によって行うことができ消費側に対する圧縮気体の供給を継続することが可能となる。
【0051】
この構成では,圧力調整弁44による定格圧力の設定は,可変設定可能な最低の圧力となっているため,圧力異常の判定前における定格圧力の設定が低圧,中圧,高圧のいずれの場合であったとしても,バイパス流路41と圧力調整弁44による吸気制御への移行後,消費側に接続された空圧機器の許容圧力を超える圧力の圧縮気体が供給されることがなく,接続されている空圧機器の破損を防止できる。
【0052】
このようにバイパス流路41と圧力調整弁44による吸気制御に移行した後の圧縮機1において,中圧や高圧の空圧機器に対する圧縮気体の供給を行う場合,オペレータは,使用する空圧機器の圧力仕様に合わせて圧力調整弁44の圧力設定を調整すれば良く,これにより,低圧の空圧機器のみならず,中圧や高圧の空圧機器に対する圧縮気体の供給を継続することができる。
【0053】
なお,圧力調整弁44は,予め可変設定可能な定格圧力として設定した定格圧力に対応した作動圧力に調整しておいても良い。この場合,オペレータは,定格圧力の設定を変更する毎に圧力調整弁44の設定についても変更することが必要となるが,圧力異常の判定によってバイパス流路41と圧力調整弁44による吸気制御に移行した後も,設定された定格圧力に対応した圧力の圧縮気体を消費側に接続された空圧機器に対し継続して供給することが可能となる。
【0054】
なお,図1に示した構成では,消費側に接続された接続機器に対する保護装置として,前述したバイパス流路41や開閉弁42,及び開閉弁制御手段43からなる保護装置40のみを設ける構成を示したが,これに加え,更に,図2及び図3に示すように,制御流路22や電空比例弁23側に目詰まりや故障等の不具合が生じた場合のみならず,バイパス流路41や電磁弁42,42’側に目詰まりや故障等の不具合が生じた場合であっても消費側に接続された接続機器に対し許容圧力を超える過大な圧力が供給されることを防止するための,非常停止装置50を設けるものとしても良い。
【0055】
このような非常停止装置50として,図2及び図3の可変容量型圧縮機1は,吸気制御弁21の閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力を検知する第2の圧力センサ51と,第2の圧力センサ51の検知信号に基づいて閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力を監視すると共に,監視結果に基づきエンジン3のECU32に非常停止信号を出力する非常停止手段52を設けている。
【0056】
本実施形態において,この非常停止手段52は前述の圧力制御ユニット6により実現されており,非常停止手段52は,前述した保護装置40の電磁弁制御手段43がレシーバタンク4の圧力異常を判定してバイパス流路41を開く制御信号を電磁弁42,42’に対し出力している状態にあるときに,第2の圧力センサ51が検知した閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力の測定値と,吸気制御弁21を全閉とするために必要な閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力として設定した設定値とを比較し,測定値が設定値未満であるとき,前述した非常停止信号を出力してエンジンを非常停止させる。
【0057】
〔電子制御系〕
(1)全体構成
以上で説明した電空比例弁制御手段24,速度制御手段31,電磁弁制御手段43,及び非常停止手段52は,いずれもマイクロプロセッサやMPU(Micro Processing Unit)等を備えた電子制御装置が所定のプログラムを実行することにより実現されるもので,本実施形態では,これらの各手段を,可変容量型圧縮機1の動作を統括的に制御するための電子制御装置である,圧縮機制御ユニット6により実現している。
【0058】
従って,本発明の容量可変型圧縮機における圧縮機制御ユニット6は,電空比例弁制御手段24や速度制御手段31を元々備えている既知の容量可変型圧縮機1の圧縮機制御ユニット6に,前述した電磁弁制御手段43や,非常停止手段52を実現するためのプログラムを追加して書き込むことで得ることができる。
【0059】
図4に示すように,この圧縮機制御ユニット6には,ユーザが定格圧力の設定操作を行うための操作パネルやスイッチ類によって構成される入力部80,エンジン3(エンジン3のECU32や回転速度検知手段),レシーバタンク4内の圧力を検知する圧力センサ7,吸気制御弁21の閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力を検知する第2の圧力センサ51,電空比例弁23や電磁弁42,42’と接続されて電子制御系を構成し,圧縮機制御ユニット6が,入力部80やECU32,回転速度検知手段,及び圧力センサ(7,51)より受信した各部の状態に応じて,電空比例弁23,電磁開閉弁42,42’,及びECU32に対し制御信号を出力して,各部を制御することができるように構成されている。
【0060】
なお,本実施形態において圧縮機制御ユニット6は,前述したようにエンジン駆動型の可変容量型圧縮機の動作を統括的に制御するものとして設けたものであることから,圧縮機制御ユニット6には,前述した電空比例弁制御手段24,速度制御手段31,電磁弁制御手段43,非常停止手段52の他に,エンジンの始動,停止,各種の設定や警告等の表示,その他の必要な制御を行うための手段が実現されているが,以下の説明では,本発明と関連する手段についてのみ説明し,その他の手段についての説明は省略する。
【0061】
(2)入力部
定格圧力の設定を変更可能とするために,本発明の可変容量型圧縮機1には,ユーザが定格圧力の設定のための入力を行う入力部80が設けられている。
【0062】
この入力部80は,本実施形態では,図7に示すように操作パネルに設けた定格圧力設定用のスイッチ類(82〜86)と,操作パネルとは離れた位置に設けた,設定禁止スイッチ81により構成されている。
【0063】
このうちの設定禁止スイッチ81は,「許可」位置と「禁止」位置を切替可能に構成されており,設定禁止スイッチ81を「禁止」の位置とした状態では,操作パネルに設けた定格圧力設定用のスイッチ類(82〜86)を操作しても,設定圧力の変更を行うことができないように構成し,誤操作等によって意図せず定格圧力の設定が変更されることがないようにしている。
【0064】
操作パネルには,定格圧力設定用のスイッチ類として,本実施形態では「低圧(0.5〜0.75MPa)」「中圧(0.76〜1.08MPa)」「高圧(1.09〜1.45MPa)」の中から定格圧力の設定範囲を選択する,設定範囲選択スイッチ(82,83,84)と,設定範囲選択スイッチ(82,83,84)で選択した圧力範囲内の圧力値を選択するための「UP」及び「DOWN」スイッチ(84,85;図示の例において,UPスイッチは,高圧選択スイッチ84と共用),設定完了後,設定内容を確認すると共に完了させる「設定/確定」スイッチ86を設けている。
【0065】
このような入力部80を介して,ユーザは,定格圧力の設定を変更する際,先ず,設定禁止スイッチ81を「許可」の位置に切り換え,その後,設定範囲選択スイッチから設定したい圧力範囲のスイッチ(例えば,低圧スイッチ82)を長押しして,このスイッチに設けたランプ82aを点滅させ,表示部87に表示された吐出圧力の設定値を,UPスイッチ84又はDOWNスイッチ85の操作によって設定したい数値とした後,設定/確定スイッチ86を押すと,後述する圧縮機制御ユニット6の記憶部に記憶された定格圧力の設定が書き換えられる。
【0066】
その後,ユーザは,設定禁止スイッチ81を「禁止」の位置に戻し,定格圧力の設定作業が終了する。
【0067】
(3)圧縮機制御ユニット
(3-1) 圧縮機制御ユニットの全体構成
圧縮機制御ユニット6は,前述した方法でユーザが設定した定格圧力や各種プログラムを記憶した記憶部6aと,エンジン3(エンジンのECU32や回転速度検知手段)や圧力センサ7,51から受信したデータを,前記記憶部6aに記憶したプログラムに従い演算処理すると共に,この演算処理に基づいて得た制御信号をエンジン3のECU32,電空比例弁23,及び電磁弁42,42’に対し出力する演算処理部6bを有する。
【0068】
(3-2) 演算処理部
前述した速度制御手段31,電空比例弁制御手段24,電磁弁制御手段43,及び非常停止手段52は,前述した演算処理部6bが,記憶部6aに記憶された所定のプログラムを実行することにより実現される。
【0069】
このうちの速度制御手段31は,予め設定した対応関係に従い,定格圧力の設定値と圧力センサ7が検知したレシーバタンク4内の圧力に基づいてエンジン3の回転速度を算出し,エンジン3の回転速度を,算出した回転速度と成すよう,エンジン3のECU32に対し速度制御信号を出力する。
【0070】
また,電空比例弁制御手段24は,予め設定した対応関係に従い,制御流路22に設けた電空比例弁23が,ユーザによって設定された定格圧力の設定値と圧力センサ7が検知したレシーバタンク4内の圧力により特定される所定の開度となるよう,電空比例弁23に対し制御信号を出力する。
【0071】
更に,前述の電磁弁制御手段43は,予め設定した対応関係に従い,ユーザが設定した定格圧力の設定値に基づいて上限圧力を算出し,圧力センサ7が検知したレシーバタンク4内の圧力の測定値を前記上限圧力と比較して,前記測定値が前記上限圧力以上になると,レシーバタンクの圧力異常を判定して,前記バイパス流路41を開く制御信号を前記電磁弁42,42’に対し出力する。
【0072】
更に,演算処理部6bに設けた非常停止手段52は,図2及び図3に示したように吸気制御弁21の閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力を検知する第2の圧力センサ51を設けた構成を採用した際に設ける手段であり,電磁弁制御手段43がレシーバタンク4内の圧力異常を判定してバイパス流路41を開く制御信号を電磁弁42,42’に出力した状態にあるとき,第2の圧力センサ51が検知した吸気制御弁21の閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力を,予め求めておいた算出値または実測値等に基づいて吸気制御弁を全閉とするために必要な圧力として記憶部に記憶させておいた設定値と比較し,第2の圧力センサ51が検知した閉弁受圧室21aに供給される圧縮気体の圧力が,この設定値未満である場合,エンジン3のECU32に,エンジン3を非常停止させる非常停止信号を出力する。
【0073】
なお,図示は省略するが,前述の演算処理部6bに,エンジン3の回転速度を検知する回転速度検知手段からの検知信号,エンジン3に設けたオルタネータなどの発電装置の発電電圧や電流の検出値,エンジン3の油圧の検出値,及びタイマによるカウント時間等に基づいて,エンジンの運転状態(停止,始動,始動後安定運転への移行)を判定する運転状態判定手段を設けるものとしても良い。
【0074】
この場合,運転状態判定手段の判定結果に基づいてエンジン3の始動時,あるいは,始動から安定運転に移行する迄の間,圧力センサ7が検知したレシーバタンク4内の圧力に関わりなく,図1及び図2に示した装置構成では電磁弁制御手段43に,バイパス流路41を開く制御信号を電磁弁42に対し出力させるように構成しても良く,図3に示した装置構成では電磁弁制御手段43に,制御流路22を開くと共にバイパス流路41を閉じる制御信号を電磁弁(三方電磁弁)42’に出力させ,且つ,電空比例弁制御手段24に,電空比例弁23を全開とする制御信号を出力させるように構成しても良い。
【0075】
このように構成することで,エンジン3の始動時,吸気制御弁21の閉弁受圧室21aがレシーバタンク4と連通しており,圧縮機本体2の回転によってレシーバタンク4内に導入された圧縮気体は,直ちに吸気制御弁21の閉弁受圧室21aに導入されて圧縮機本体2の吸入口2aを閉じて無負荷運転となることから,前述したバイパス流路41や制御流路22,電磁弁42,42’や電空比例弁23に,始動直後の不安定な運転状態にあるエンジンの負荷を軽減させる,始動負荷軽減装置としての機能を持たせることもできる。
【0076】
(3-3) 記憶部
前述の記憶部には,入力部80を介してユーザが入力すると共に設定した定格圧力が記憶されていると共に,この定格圧力に対応して,レシーバタンク4内の圧力変化に応じたエンジンの速度制御,圧縮機本体の吸気制御,及び,バイパス流路41の開閉やエンジン3の非常停止の制御を行うことができるよう,前述した速度制御手段31,電空比例弁制御手段24,電磁弁制御手段43,及び非常停止手段52を実現するためのプログラムが記憶されている。
【0077】
定格圧力の設定変更に対応して,エンジン3の回転速度制御や圧縮機本体2の吸気制御の動作パターンを変更可能とするために,予め,設定可能な数値範囲における定格圧力の変化に対し,レシーバタンク4内の圧力とエンジン3の回転速度,及び電空比例弁23の開度との関係が如何に変化するかの対応関係を求めておき,この対応関係に基づいて,エンジン3のECU32に出力する速度制御信号,及び電空比例弁23に出力する制御信号を発生させるプログラムを記憶部6aに記憶させておくことで,ユーザが定格圧力の設定を変更すると,設定された定格圧力に対応した速度制御や吸気制御を速度制御手段31や電空比例弁制御手段24が実行できるように構成している。
【0078】
また,保護装置40に設けた電磁弁42,42’の開閉制御を可能とするために,圧縮機制御ユニット6の記憶部6aには,定格圧力と上限圧力の対応関係が記憶されており,電磁弁制御手段43に,この対応関係に基づいてユーザが設定した定格圧力に基づいて上限圧力を算出させ,圧力センサが検知したレシーバタンク内の圧力と算出した上限圧力を比較させて,レシーバタンク内の圧力が上限圧力以上になるとバイパス流路41を開く制御信号を出力するプログラムを記憶させておく。
【0079】
ここで吸気制御弁21は,レシーバタンク4内の圧力がユーザが設定した定格圧力に近付くように吸気制御を行っているものの,吸気制御弁21はレシーバタンク4内の圧力が定格圧力を超えたときに圧縮機本体2の吸入口2aを絞り始め,その後,レシーバタンク4内の圧力が更に上昇した状態で吸入口2aを全閉として無負荷運転に移行するため,無負荷運転移行時におけるレシーバタンク4内の圧力は定格圧力を越え,前述した無負荷最高圧力まで上昇している。
【0080】
そこで,本実施形態では,実測値等に基づき,設定可能な定格圧力毎に,正常に吸気制御がされている圧縮機本体の吐出側圧力(レシーバタンク4内の圧力)が取り得る前述の無負荷最高圧力を求めておき,この無負荷最高圧力よりも所定値β以上高い圧力であって,且つ,設定された定格圧力に対応する常用圧力の空圧機器における許容圧力以下となるよう,上限圧力を設定し,この上限圧力に基づいた制御プログラムを記憶部6aに記憶させている。
【0081】
ここで,可変容量型圧縮機1の消費側に接続され,圧縮気体により作業を行う空圧機器は、使用する圧縮気体の常用圧力および使用に耐え得る許容圧力が予め定められており,このような空圧機器の常用圧力は,一例として0.7MPa(低圧),1.03MPa(中圧),1.4MPa(高圧)というように用途によって予め区分されており,許容圧力も圧力区分毎に予め設定されている(図5図6参照)。
【0082】
従って,各定格圧力毎の前記無負荷最高圧力は、例えば低圧,中圧,及び高圧のそれぞれにおける任意の定格圧力に対して前記無負荷最高圧力を実測し,実測データから図5中に破線で示す右上がりの直線を作図し,かつ,この直線の関係式を図から読み取り,又は計算する等して予め求め,可変設定される定格圧力毎の前記上限圧力を,前記無負荷最高圧力に許容値βを加えて,前記上限圧力が前述の低圧,中圧,高圧の各圧力における空圧機器の許容圧力以下となるよう設定する。
【0083】
この許容値βは,これを定数として設定し,上限圧力を図5中に点線で表したように,無段階に右上がりに変化する直線として設定するものとしても良い。
【0084】
また,この上限圧力は,図6に示すように,例えば低圧,中圧,高圧の各圧力範囲における設定可能な任意の圧力(例えば0.70MPa,1.05MPa,1.40MPa)における無負荷最高圧力の上限値に対し許容値βを加えた値,従って,各圧力範囲に対し1つの上限圧力(計3つの上限圧力)を設定し,この上限圧力が,空圧機器の許容圧力よりも低圧となるように設定してもよい。
【0085】
このようにして求めた各設定圧力と上限圧力との関係に基づき,電磁弁制御手段43は記憶部6aに記憶した定格圧力の設定値に基づき,この定格圧力に対応する上限圧力を算出し,圧力センサ7が検知したレシーバタンク4内の圧力と算出した上限圧力とを比較して,レシーバタンク4内の圧力が前記上限圧力以上となると,バイパス流路41を開く。
【0086】
なお,図5及び図6において,最上部に記載された二点鎖線のグラフは安全弁の吹出し圧力を示し,可変設定可能な定格圧力の最大値における無負荷最高圧力に対し,前記許容値βよりも大きい所定の許容値αを加えて設定されている。
【0087】
図示の例では,この安全弁吹出圧力を高圧機器許容圧力よりも高い圧力に設定しているが,安全弁吹出圧力を高圧機器許容圧力と同圧に設定するものとしても良い。
【0088】
〔動作等〕
以上のように構成された本発明の可変容量型圧縮機1において,ユーザが入力部80に設けたスイッチ類を操作して定格圧力の入力及び設定を完了した後,エンジン3を始動して圧縮機本体2を回転させて,圧縮気体の生成を開始すると,圧縮機本体2の回転により生成された圧縮気体は,レシーバタンク4内に導入される。
【0089】
消費側に接続された接続機器において圧縮気体が消費されている状態では,レシーバタンク4内の圧力は,設定された定格圧力以下の圧力にあり,圧力センサ7の検知信号を受信した速度制御手段31は,エンジン3を全負荷運転速度とする速度制御信号を出力すると共に,電空比例弁制御手段24は,電空比例弁23を全閉とする制御信号を出力して吸気制御弁21を全開とした全負荷運転を行う。
【0090】
空圧機器の使用停止により,圧縮気体の消費が減少あるいは停止して,レシーバタンク4内の圧力が定格圧力を超えると,圧力センサ7の検知信号を受信した速度制御手段31は,エンジン3の速度を減速させる速度制御信号をエンジン3のECU32に出力すると共に,電空比例弁制御手段24は,電空比例弁23を絞る制御信号を電空比例弁23に出力し,圧力センサ7が検知したレシーバタンク4内の圧力が更に上昇すると速度制御手段31はエンジンを無負荷運転に減速する速度制御信号を出力すると共に,電空比例弁制御手段24は電空比例弁23を全開とする制御信号を出力して吸気制御弁を閉じ,圧縮機は無負荷運転に移行する処理が行われ,制御流路22や電空比例弁23が正常に機能している状態では,上記のような速度制御と吸気制御が繰り返される。
【0091】
一方,制御流路22や電空比例弁23に異常が生じ,圧力センサ7が検知したレシーバタンク4内の圧力が,ユーザが設定した定格圧力を超えており,電空比例弁制御手段24が電空比例弁23に対し開弁信号を出力しているにもかかわらず,圧縮機本体2の吸気が絞られず,また,圧縮機本体2が無負荷運転に移行せずにレシーバタンク4内の圧力が上昇して,設定された定格圧力に対応する上限圧力に達すると,電磁弁制御手段43は,レシーバタンク4内の圧力異常を判定して,バイパス流路41に設けた電磁弁42,42’に対しバイパス流路41を開く制御信号を出力し,電空比例弁23をバイパスさせて,レシーバタンク4と吸気制御弁21の閉弁受圧室21a間を連通させる。
【0092】
これにより,レシーバタンク4内の圧縮気体が吸気制御弁21の閉弁受圧室21aに導入されて,吸気制御弁21が圧縮機本体2の吸入口2aを閉じて無負荷運転に移行し,圧縮機本体2による圧縮気体の生成が停止し,レシーバタンク4の圧力上昇が停止することで,消費側に接続された空圧機器に対し,許容圧力を超える圧縮気体が導入されることが防止される。
【0093】
また,この上限圧力は安全弁吹き出し圧力に対し低い圧力に設定されているために,レシーバタンク内の圧力が安全弁吹出し圧力を超えて上昇することがなく、安全弁の噴気を防止できる。
【0094】
なお,電磁弁制御手段43は,レシーバタンク4内の圧力異常を判定してバイパス流路41を開くと,例えばリセットスイッチの操作等の所定の操作が行われるまで,レシーバタンク4内の圧力変化に拘わらず,バイパス流路41を開いた状態に維持するように構成し,その後,消費側における圧縮気体の消費が行われる等してレシーバタンク4内の圧力が低下した場合であっても,圧縮機本体2の吸入口2aを閉じた状態に維持できるようにすることが好ましい。
【0095】
また,図1及び図2に示す構成では,電磁弁制御手段43がレシーバタンク4内の圧力異常を判定してバイパス流路41を開いた後は,速度制御手段31も,その後のレシーバタンク4内の圧力変化に拘わらず,エンジン3の回転速度を無負荷回転速度に固定する制御信号をエンジン3に対し出力するように構成することが好ましい。
【0096】
このように構成することで,制御流路22や電空比例弁23を使用した吸気制御に異常が生じた状態では,吸気制御弁21を全閉に維持するだけでなく,エンジン回転速度も無負荷回転速度に低下させた状態に維持することで、圧縮機本体2の回転速度を低下して吐出圧力の上昇を抑えることができ、さらに無負荷運転移行後における騒音低減,燃料消費量を低減できる。
【0097】
なお,図3に示した構成では,制御流路22とバイパス流路41のいずれか一方が選択的にレシーバタンク4と連通するように構成されていると共に,バイパス流路41に,可変設定可能な定格圧力の最低値に対応した作動圧力に調整した圧力調整弁44が設けられている。
【0098】
そのため,この構成では,圧力センサ7によって検知されたレシーバタンク4内の圧力が,上限圧力以上になり,電磁弁制御手段43がレシーバタンク4の圧力異常を判定して制御流路22を閉じると共にバイパス流路41を開き,以後,電磁弁制御手段43がレシーバタンク4内の圧力変化に拘わらず三方電磁弁42’がバイパス流路41を開いた切換位置を保持するように構成することで,圧力調整弁44による吸気制御を行うことが可能であり,これにより,可変容量型圧縮機1を継続して使用して,空圧機器に対する圧縮気体の供給を継続することが可能となる。
【0099】
そのため,図1及び図2を参照した説明では,レシーバタンク4内の圧力が上限圧力を超えて電磁弁制御手段43がレシーバタンク4の圧力異常を判定すると,速度制御手段31も,エンジン3の回転速度を無負荷回転速度に固定するように構成することが好ましい旨説明したが,図3に記載の構成では,電磁弁制御手段43が圧力異常を判定した後は,速度制御手段31が圧力センサ7が検知したレシーバタンク4内の圧力に応じて可変設定可能な定格圧力の最低値に対応した速度制御を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0100】
1 可変容量型圧縮機
1’ 圧縮機(固定容量型)
2 圧縮機本体
2a 吸入口
3 駆動源(エンジン)
4 レシーバタンク
4a 逆止弁
5 オイル配管
5a オイルクーラ
6 圧縮機制御ユニット
6a 記憶部
6b 演算処理部
7 圧力センサ
20 吸気制御装置
21 吸気制御弁
21a 閉弁受圧室
21b 逃がし流路
22 制御流路
23 電空比例弁
23’ 圧力調整弁
24 電空比例弁制御手段
30 速度制御装置
31 速度制御手段
32 エンジンコントロールユニット(ECU)
33 回転速度検出手段(回転速度センサ)
40 保護装置
41 バイパス流路
42 電磁弁(電磁開閉弁)
42’ 電磁弁(三方電磁弁)
43 電磁弁制御手段
44 圧力調整弁
50 非常停止装置
51 第2の圧力センサ
52 非常停止手段
80 入力部
81 設定禁止スイッチ
82 設定範囲選択スイッチ(低圧スイッチ)
83 設定範囲選択スイッチ(中圧スイッチ)
84 設定範囲選択スイッチ(高圧スイッチ)兼,UPスイッチ
82a,83a,84a ランプ
85 DOWNスイッチ
86 設定/確定スイッチ
87 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8