特許第6703913号(P6703913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋電機製造株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6703913-蓄電装置 図000002
  • 特許6703913-蓄電装置 図000003
  • 特許6703913-蓄電装置 図000004
  • 特許6703913-蓄電装置 図000005
  • 特許6703913-蓄電装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703913
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   B60M 3/02 20060101AFI20200525BHJP
   B60M 3/06 20060101ALI20200525BHJP
   B60L 7/10 20060101ALI20200525BHJP
   H02M 3/00 20060101ALI20200525BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   B60M3/02 D
   B60M3/06 B
   B60L7/10
   H02M3/00 H
   H02J7/34 E
   H02J7/34 F
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-145543(P2016-145543)
(22)【出願日】2016年7月25日
(65)【公開番号】特開2018-16108(P2018-16108A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】天野 哲生
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−152629(JP,A)
【文献】 特開2009−268343(JP,A)
【文献】 特開2014−184911(JP,A)
【文献】 特開昭53−124809(JP,A)
【文献】 特開平06−328972(JP,A)
【文献】 特開2008−035588(JP,A)
【文献】 特開2011−155716(JP,A)
【文献】 実開平06−078058(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 3/00 − 3/06
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
B60L 50/00 − 58/40
H02P 7/34
H02M 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受電した交流電力を直流電力に変換して電気車に供給する変電所で用いられる蓄電装置であって、
蓄電池と、
前記直流電力を用いて前記蓄電池を充電する第1のチョッパ回路部と、
前記蓄電池の電力を変換する第2のチョッパ回路部と、
充放電制御部と、を備え、
前記変電所は、
第1の端子がき電線に電気的に接続され、第2の端子が開閉器を介して帰線に電気的に接続される整流器と、
前記開閉器に並列に設けられ、前記第2のチョッパ回路部によって変換された前記蓄電池の電力によって充電されるコンデンサと、を備え、
前記充放電制御部は、
前記開閉器を導通状態または非導通状態にし、前記第1のチョッパ回路部および前記第2のチョッパ回路部の動作を制御する、蓄電装置。
【請求項2】
前記き電線は分岐点で複数に分岐して、複数の電気車に前記直流電力を供給でき、
前記充放電制御部は、分岐した複数のき電線のそれぞれを流れる電流のうち少なくとも1つが電気車から前記分岐点に向かう場合に、前記開閉器を導通状態とする、請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記充放電制御部は、更に電気車から前記分岐点に向かう電流の大きさが第1の閾値以上である場合に、前記開閉器を導通状態とする、請求項2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
前記充放電制御部は、分岐した複数のき電線を流れる電流が電気車から前記分岐点に向かわない場合に、前記開閉器を非導通状態として前記第2のチョッパ回路部を動作させる、請求項2または3に記載の蓄電装置。
【請求項5】
前記充放電制御部は、更に前記き電線を流れる電流の大きさが第2の閾値以上である場合に、前記開閉器を非導通状態として前記第2のチョッパ回路部を動作させる、請求項4に記載の蓄電装置。
【請求項6】
前記充放電制御部は、前記コンデンサの端子間に所定の電圧を生じさせるように、前記第2のチョッパ回路部の動作を制御する、請求項4または5に記載の蓄電装置。
【請求項7】
前記充放電制御部は、前記コンデンサの端子間に前記き電線を流れる電流の大きさに応じた電圧を生じさせるように、前記第2のチョッパ回路部の動作を制御する、請求項4または5に記載の蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置、特に直流電気車用の蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電気車用の変電所の電力変換回路として、例えば変圧器とダイオード整流器を用いたものが知られている。ダイオード整流器を用いた変電所は、一般に変電所出力電流が増加するほど変電所送出電圧が低下し、一次関数で近似される電圧電流特性を有する。変電所の無負荷時送出電圧は、例えば変圧器の一次側タップ電圧の切替えによって調整可能である。
【0003】
変電所の無負荷時送出電圧を高く設定するほど、変電所から電力供給を受ける電気車の力行時間を短くできる。つまり、変電所の無負荷時送出電圧を高く設定するほど、電気車の惰行時間を長くすることができ、必要な力行エネルギーを減少させることができる。しかし、変電所の無負荷時送出電圧を高く設定するほど回生電流が流れにくくなる。そのため、回生車と力行車との間で回生電力の融通(回生車から力行車への電力の供給)がし辛く、回生電力の有効利用が困難になることが知られている。一方、変電所の無負荷時送出電圧を低く設定するほど、回生電流が流れ易くなり、回生電力の融通がし易くなる。しかし、電気車の力行エネルギーが増加することが知られている。
【0004】
また、直流電気車において、変電所の整流器と並列に蓄電装置を設置する技術が知られている。蓄電装置は、例えば回生車の回生電力吸収、変電所出力電流のピークカット、き電線の電圧降下抑制を目的に使用される。ここで、特許文献1には、蓄電装置を変電所または路線に沿って設置し、電気車の力行時の架線電圧を上昇させ、力行時間を低減することで惰行時間を拡大し、省エネ効果を高めることが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−004914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるように、き電線とレール(帰線)との間に蓄電装置を接続する構成を採用する場合、変電所からの送出電圧を昇圧させるには、蓄電装置の出力電圧を整流器の出力電圧以上とする必要があった。ここで、整流器の出力電圧は一般に高圧であるため、蓄電装置の放電エネルギーが増大するという課題があった。
【0007】
かかる観点に鑑みてなされた本発明の目的は、放電エネルギーの増大を抑えつつ、変電所送出電圧を調整可能な蓄電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の実施形態に係る蓄電装置は、受電した交流電力を直流電力に変換して電気車に供給する変電所で用いられる蓄電装置であって、蓄電池と、前記直流電力を用いて前記蓄電池を充電する第1のチョッパ回路部と、前記蓄電池の電力を変換する第2のチョッパ回路部と、充放電制御部と、を備え、前記変電所は、第1の端子がき電線に電気的に接続され、第2の端子が開閉器を介して帰線に電気的に接続される整流器と、前記開閉器に並列に設けられ、前記第2のチョッパ回路部によって変換された前記蓄電池の電力によって充電されるコンデンサと、を備え、前記充放電制御部は、前記開閉器を導通状態または非導通状態にし、前記第1のチョッパ回路部および前記第2のチョッパ回路部の動作を制御する。
【0009】
また、好ましくは、前記き電線は分岐点で複数に分岐して、複数の電気車に前記直流電力を供給でき、前記充放電制御部は、分岐した複数のき電線のそれぞれを流れる電流のうち少なくとも1つが電気車から前記分岐点に向かう場合に、前記開閉器を導通状態とする。
【0010】
また、好ましくは、前記充放電制御部は、更に電気車から前記分岐点に向かう電流の大きさが第1の閾値以上である場合に、前記開閉器を導通状態とする。
【0011】
また、好ましくは、前記充放電制御部は、分岐した複数のき電線を流れる電流が電気車から前記分岐点に向かわない場合に、前記開閉器を非導通状態として前記第2のチョッパ回路部を動作させる。
【0012】
また、好ましくは、前記充放電制御部は、更に前記き電線を流れる電流の大きさが第2の閾値以上である場合に、前記開閉器を非導通状態として前記第2のチョッパ回路部を動作させる。
【0013】
また、好ましくは、前記充放電制御部は、前記コンデンサの端子間に所定の電圧を生じさせるように、前記第2のチョッパ回路部の動作を制御する。
【0014】
また、好ましくは、前記充放電制御部は、前記コンデンサの端子間に前記き電線を流れる電流の大きさに応じた電圧を生じさせるように、前記第2のチョッパ回路部の動作を制御する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放電エネルギーの増大を抑えつつ、変電所送出電圧を調整可能な蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係る蓄電装置を備える直流電気車用蓄電システムの構成を示す図である。
図2】充放電制御部の処理を示すフローチャートである。
図3】変電所送出電圧の昇圧について説明する図である。
図4】比較例の直流電気車用蓄電システムの構成を示す図である。
図5】比較例の直流電気車用蓄電システムの変電所の電圧電流特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
【0018】
(直流電気車用蓄電システムの構成)
図1は、一実施形態に係る蓄電装置20を備える直流電気車用蓄電システム1の構成を示す。直流電気車用蓄電システム1は、変電所2と、三相交流電源3と、き電線9a,9b,9c,9dと、レール12と、電気車13a,13b,13c,13dと、を備える。
【0019】
き電線9a,9b,9c,9dは、変電所2から、それぞれ電気車13a,13b,13c,13dに電力を供給するための電線である。き電線9a,9b,9c,9dは、本発明の分岐した複数のき電線のそれぞれに対応する。
【0020】
レール12は、電気車13a,13b,13c,13dが走行するための走行路であり、接地されている。また、レール12は本発明の帰線に対応する。
【0021】
電気車13a,13b,13c,13dは、本実施形態において電気鉄道である。電気車13a,13b,13c,13dは、変電所2から電力を供給されて、レール12の上を走行する。
【0022】
変電所2は、変圧器4と、整流器5と、分岐点6と、き電線7a,7b,7c,7dと、開閉器8a,8b,8c,8dと、開閉器10と、コンデンサ11と、電圧センサ50と、電流センサ51a,51b,51c,51dと、蓄電装置20と、を備える。また、変電所2は、き電線9a,9b,9c,9dを引き込んでいる。そのため、変電所2は、き電線9a,9b,9c,9dの一部を含む。
【0023】
変電所2は、三相交流電源3から三相交流電力(以下、単に交流電力とする。)を受電して直流電圧に変換し、き電線9a,9b,9c,9dを介して電気車13a,13b,13c,13dに電力を供給できる。変電所2は、例えば電気車13a,13b,13c,13dの線路の近くに複数配置され得る。
【0024】
変圧器4は、三相交流電源3からの交流電力を受電して電圧変換を行う。より具体的には、変圧器4は交流電力を降圧し、降圧した交流電力を整流器5に出力する。変圧器4は、例えば負荷時タップ切換用変圧器等の公知の装置を用いることができる。
【0025】
整流器5は、変圧器4から出力された交流電力を受け取って交流直流変換を行う。整流器5は、例えばダイオードを用いるブリッジ整流器等の公知の回路で構成されていてもよい。整流器5は、直流電圧を供給する出力端子である第1の端子と第2の端子とを備える。第1の端子はき電線9a,9b,9c,9dに電気的に接続され、第2の端子は開閉器10を介してレール12(帰線)に電気的に接続される。
【0026】
分岐点6は、整流器5の第1の端子と、き電線7a,7b,7c,7dと、を接続する。第1の端子に接続される1本のき電線は、分岐点6で複数(4本)のき電線7a,7b,7c,7dに分岐している。ここで、き電線を流れる電流を変電所出力電流Ioとする。整流器5の第1の端子から分岐点6に向かって(分岐点6からき電線7a,7b,7c,7dに向かって)流れる場合を、変電所出力電流Ioの正方向とする。ここで、本発明において単に「き電線」という場合には、分岐点6で複数に分岐される前の1本の「き電線」を指す場合がある。一方、本発明において「(分岐した)複数のき電線」という場合には、分岐点6で複数に分岐されたき電線7a,7b,7c,7d、または、き電線9a,9b,9c,9dが対応する。
【0027】
き電線7a,7b,7c,7dは、分岐点6で分岐した複数(4本)のき電線である。き電線7a,7b,7c,7dは、それぞれ開閉器8a,8b,8c,8dを介して、それぞれき電線9a,9b,9c,9dと電気的に接続される。
【0028】
開閉器8a,8b,8c,8dはスイッチである。開閉器8a,8b,8c,8dは、通常(電気車13a,13b,13c,13dが正常に運行している時)、導通状態である。開閉器8a,8b,8c,8dは、例えば異常が発生して電気車13a,13b,13c,13dへの電力供給を遮断する場合等に、非導通状態となり得る。なお、開閉器8a,8b,8c,8dの導通状態、非導通状態は、蓄電装置20の充放電制御部24によって制御されてもよい。
【0029】
電流センサ51a,51b,51c,51dは、それぞれき電線9a,9b,9c,9dを流れる電流を検出する装置である。き電線9a,9b,9c,9dを流れる電流を、それぞれき電線電流Ia,Ib,Ic,Idとする。例えば、電気車13a,13b,13c,13dからの回生電流がゼロである場合には、き電線電流Ia,Ib,Ic,Idの合計は変電所出力電流Ioに等しい。
【0030】
開閉器10はスイッチである。開閉器10は、整流器5の第2の端子と、レール12(帰線)との間に設けられる。開閉器10の導通状態または非導通状態は、蓄電装置20の充放電制御部24からの開閉指令Rによって制御される。制御の詳細については後述する。
【0031】
コンデンサ11は、開閉器10に並列に設けられる。コンデンサ11は、蓄電装置20の第2のチョッパ回路部22とも接続され、第2のチョッパ回路部22によって変換された蓄電装置20の蓄電池23の電力によって充電される。
【0032】
電圧センサ50は、整流器5の第1の端子と第2の端子との間に接続されて、整流器5の直流出力電圧である整流器出力電圧Vrを検出する。電圧センサ50は、検出した整流器出力電圧Vrを蓄電装置20の充放電制御部24に出力する。ここで、き電線とレール12(帰線)との間の電圧を変電所送出電圧Voとする。変電所送出電圧Voは、電気車13a,13b,13c,13dに供給される電圧である。本実施形態においては、後述するように、変電所送出電圧Voを整流器出力電圧Vrと異ならせることが可能である。
【0033】
蓄電装置20は、第1のチョッパ回路部21と、第2のチョッパ回路部22と、蓄電池23と、充放電制御部24と、を備える。
【0034】
第1のチョッパ回路部21は整流器5の第1の端子および第2の端子と接続される。また、第1のチョッパ回路部21は蓄電池23と接続される。第1のチョッパ回路部21は、整流器5側の直流電力と蓄電池23の直流電力とを相互に変換する。例えば、第1のチョッパ回路部21は整流器5の直流電力を用いて蓄電池23を充電してもよい。また、例えば、第1のチョッパ回路部21は回生車からの回生電力を用いて蓄電池23を充電してもよい。第1のチョッパ回路部21としては、例えば、公知の双方向チョッパ、DC−DCコンバータ等を用いることができる。
【0035】
第2のチョッパ回路部22は、開閉器10およびコンデンサ11と接続される。また、第2のチョッパ回路部22は蓄電池23と接続される。第2のチョッパ回路部22は、蓄電池23の直流電力を変換して、開閉器10側(およびコンデンサ11側)に直流電力を供給する。第2のチョッパ回路部22としては、例えば、公知の双方向チョッパ、DC−DCコンバータ等を用いることができる。
【0036】
蓄電池23は直流電力を蓄電する。本実施形態において、蓄電池23の正極、負極は、それぞれ第1のチョッパ回路部21の蓄電池23側の正極、負極に接続される。また、蓄電池23の正極、負極は、それぞれ第2のチョッパ回路部22の蓄電池23側の正極、負極にも接続される。蓄電池23としては、例えば、公知のバッテリ、電気二重層キャパシタなどを用いることができる。また、蓄電池23は、異なる種類の蓄電池の組み合わせで構成されていてもよい。
【0037】
充放電制御部24は、第1のチョッパ回路部21および第2のチョッパ回路部22の動作を制御する。充放電制御部24は、充放電電流指令Iによって、第1のチョッパ回路部21に入出力される蓄電池23の充放電電流を制御する。充放電制御部24は、例えば充放電電流指令Iを0とすることで、第1のチョッパ回路部21の動作を停止させる(すなわち、蓄電池23を充放電させない)ことができる。また、充放電制御部24は、放電電圧指令Vによって、第2のチョッパ回路部22が出力する電圧(開閉器10およびコンデンサ11の端子間電圧に対応)を制御する。充放電制御部24は、例えば放電電圧指令Vを0とすることで、第2のチョッパ回路部22の動作を停止させる(すなわち、開閉器10側に電圧を出力させない)ことができる。また、充放電制御部24は、開閉指令Rによって、開閉器10の開閉状態(導通状態または非導通状態)を制御する。また、充放電制御部24は、電圧センサ50が検出した整流器出力電圧Vrと、電流センサ51a,51b,51c,51dのそれぞれが検出したき電線電流Ia,Ib,Ic,Idと、蓄電池23の充電量を示す充電量SOCと、を取得する。また、充放電制御部24は、後述する第1の閾値Ith1および第2の閾値Ith2を取得してもよい。ここで、第1の閾値Ith1および第2の閾値Ith2は、例えば蓄電装置20が備える記憶装置から読み出されてもよいし、蓄電装置20の外部から指定されてもよい。充放電制御部24は、第1の閾値Ith1および第2の閾値Ith2をアクセス可能な記憶装置から取得するが、記憶装置に記憶されていない場合または値の更新があった場合に記憶装置以外から取得するようにしてもよい。
【0038】
(充放電制御部の処理)
図2は充放電制御部24の処理を示すフローチャートである。以下、充放電制御部24の処理について説明する。
【0039】
まず、充放電制御部24は、開閉指令Rによって開閉器10を導通状態とする(ステップS1)。
【0040】
充放電制御部24は、第1のチョッパ回路部21、第2のチョッパ回路部22、および開閉器10の制御に必要な検出値等を取得する(ステップS2)。本実施形態において、検出値等は、具体的には整流器出力電圧Vr、き電線電流Ia,Ib,Ic,Id、充電量SOCである。また、充放電制御部24は、検出値等として更に第1の閾値Ith1および第2の閾値Ith2を取得してもよい。ここで、第1の閾値Ith1は、回生車が存在するか否かの判定に用いられる電流閾値である。また、第2の閾値Ith2は、力行車に供給する変電所送出電圧Voの調整が必要か否かの判定に用いられる電流閾値である。
【0041】
充放電制御部24は、き電線電流Ia,Ib,Ic,Idに基づいて、分岐した複数のき電線9a,9b,9c,9dの少なくとも1つに負の電流(電気車13a,13b,13c,13dから分岐点6に向かう電流)が流れているか否かを判定する(ステップS3)。充放電制御部24は、負の電流が流れていると判定した場合にはステップS4に進み、そうでなければステップS5に進む。
【0042】
充放電制御部24は、ステップS3で負の電流が流れていると判定した場合(ステップS3のYes)には、負の電流の大きさは第1の閾値Ith1以上か否かを判定する(ステップS4)。第1の閾値Ith1は、例えば電流センサ51a,51b,51c,51dの検出誤差によって負の電流であると誤検出されることを回避するのに十分な大きさの値に設定される。本実施形態において、充放電制御部24は、負の電流の大きさが第1の閾値Ith1以上の場合に(ステップS4のYes)、力行車に対して電力回生可能な回生車が存在すると判定する。充放電制御部24は、回生車が存在すると判定した場合にはステップS7に進み、そうでなければステップS5に進む。
【0043】
充放電制御部24は、ステップS3で負の電流が流れていないと判定した場合(ステップS3のNo)、および、ステップS4で負の電流の大きさが第1の閾値Ith1未満の場合(ステップS4のNo)には、き電線を流れる電流の大きさが第2の閾値Ith2以上か否かを判定する(ステップS5)。ここで、負の電流が流れていないとは、電気車13a,13b,13c,13dから分岐点6に向かう電流がないことをいう。また、き電線を流れる電流の大きさとは、変電所2からの変電所出力電流Ioの大きさである。充放電制御部24は、き電線電流Ia,Ib,Ic,Idの大きさを合計することにより、変電所出力電流Ioの大きさを把握できる。そして、充放電制御部24は、き電線を流れる電流の大きさが第2の閾値Ith2以上の場合に(ステップS5のYes)、変電所2から電力供給すべき力行車が存在すると判定する。ここで、第2の閾値Ith2は、力行車が存在しない場合に充放電制御部24が誤って力行車が存在すると誤判定することを回避するのに十分な大きさの値に設定される。例えば、第2の閾値Ith2は、電気車13a,13b,13c,13dのうちの少なくとも1台が力行運転する場合に、少なくとも流れると考えられる電流値の大きさに設定される。充放電制御部24は、力行車が存在すると判定した場合にはステップS6に進み、そうでなければステップS7に進む。
【0044】
充放電制御部24は、力行車が存在すると判定した場合(ステップS5のNo)には、ステップS6の制御を実行する。つまり、充放電制御部24は開閉指令Rによって開閉器10を非導通状態とする。また、充放電制御部24は充放電電流指令Iを0として、第1のチョッパ回路部21の動作を停止させる(すなわち、蓄電池23を充放電させない)。また、充放電制御部24は、整流器出力電圧Vrと充電量SOCに基づいて、放電電圧指令Vを設定する(ステップS6)。ステップS6の制御によって、コンデンサ11が充電されて端子間に電圧が生じる。変電所送出電圧Voは、整流器5の直流出力電圧である整流器出力電圧Vrに、コンデンサ11の端子間電圧(換言すると、開閉器10の端子間電圧または第2のチョッパ回路部22の出力電圧)を加算したものとなる。つまり、蓄電装置20の充放電制御部24は、ステップS6の制御によって、変電所送出電圧Voを昇圧することができる。ここで、充放電制御部24は、放電電圧指令Vによって第2のチョッパ回路部22の出力電圧を調整可能である。つまり、充放電制御部24は、放電電圧指令Vを適切に設定することによって変電所送出電圧Voを所望の電圧値に昇圧可能である。
【0045】
充放電制御部24は、ステップS4で回生車が存在すると判定した場合(ステップS4のYes)、および、ステップS5で力行車が存在すると判定しなかった場合(ステップS5のNo)には、ステップS7の制御を実行する。つまり、充放電制御部24は開閉指令Rによって開閉器10を導通状態とする。また、充放電制御部24は放電電圧指令Vを0として、第2のチョッパ回路部22の動作を停止させる(すなわち、開閉器10側に電圧を出力させない)。また、充放電制御部24は、整流器出力電圧Vrと充電量SOCに基づいて、充放電電流指令Iを設定する(ステップS7)。このとき、充放電制御部24は、分岐した複数のき電線を回生電流が流れやすい状態にすることができる。また、充放電制御部24は、充放電電流指令Iによって蓄電池23を充放電させて変電所送出電圧Voを調整可能である。つまり、蓄電装置20の充放電制御部24は、ステップS7の制御によって、回生電流が流れやすい変電所送出電圧Voの電圧レベルを保つことができる。蓄電装置20の充放電制御部24は、例えば電気車13a,13b,13c,13dにおいて回生絞り込みが発生し、変電所送出電圧Voが上昇した場合に、蓄電池23を充電させることで変電所送出電圧Voの急激な変動を回避することが可能である。
【0046】
充放電制御部24は、蓄電装置20を停止する場合(ステップS8のYes)には一連の処理を終了する。また、充放電制御部24は、蓄電装置20を停止しない場合(ステップS8のNo)にはステップS2へ戻る(ステップS8のNo)。
【0047】
(変電所送出電圧の昇圧)
図3は、上記の充放電制御部24のステップ6の制御に対応する変電所送出電圧Voの昇圧について説明する図である。
【0048】
図3は、変電所2から電気車13a,13b,13c,13dに供給される電力を示し、縦軸が供給電圧、横軸が供給電流(変電所出力電流Io)を示す。縦軸のVo0を初期値として一次関数で近似される電圧電流特性(以下、初期電圧電流特性という)は、昇圧を実行しない場合における変電所2からの供給電力を示す。充放電制御部24がステップ6の制御を実行しない場合には、直流電気車用蓄電システム1の変電所2からの供給電力は初期電圧電流特性に従う。
【0049】
一方、充放電制御部24がステップ6の制御を実行した場合には、変電所送出電圧Voは第2のチョッパ回路部22が出力する電圧の分だけ昇圧する。本実施形態において、第2のチョッパ回路部22は変電所出力電流Ioによらず所定の電圧を出力する。したがって、変電所2からの供給電力は、図3の縦軸のVoを初期値として一次関数で近似される電圧電流特性に従うように昇圧される。本実施形態においては、蓄電装置20の充放電制御部24がステップ6の制御を実行するか否かによって、変電所2からの供給電力が従う電圧電流特性を容易に切り替えることが可能である。
【0050】
(比較例)
以上のように、本実施形態の蓄電装置20について説明したが、図4および図5を参照して、比較例の蓄電装置93を示しながら、本実施形態の蓄電装置20の効果について説明する。なお、図4および図5では、図1図3と同じ要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0051】
図4は、比較例の蓄電装置93を備える直流電気車用蓄電システム91の構成を示す。直流電気車用蓄電システム91の変電所92は、開閉器10、コンデンサ11および電流センサ51a,51b,51c,51dを備えない。また、比較例の蓄電装置93は、第2のチョッパ回路部22を備えない。変電所92では、変電所送出電圧Voと整流器出力電圧Vrとは、蓄電池23への充放電がなければ同じである。つまり、変電所92からの供給電力は図5に示される電圧電流特性に従うと考えることができる。
【0052】
比較例の蓄電装置93を備える直流電気車用蓄電システム91では、変電所出力電流Ioの増加に伴い、変電所送出電圧Voは単調に減少する。回生電力の有効利用のために無負荷時送出電圧を低く設定したとすると、変電所92の送出電圧を昇圧させる必要が生じた場合には、蓄電装置93の蓄電池23の放電によって変電所送出電圧Voを昇圧する必要がある。
【0053】
しかし、変電所送出電圧Voを昇圧する場合、蓄電装置93の出力電圧を整流器5の出力電圧以上とする必要があった。ここで、蓄電池23の直流電圧が例えば600[V]程度であるのに対して、電気鉄道に供給される整流器5の出力電圧は一般に1500[V]程度である。そのため、蓄電装置93は、第1のチョッパ回路部21を用いて大きく昇圧する必要があり、放電エネルギーが増大するという課題が生じる。
【0054】
一方、本実施形態に係る蓄電装置20を備える直流電気車用蓄電システム1では、蓄電装置20の充放電制御部24がステップS6の制御を行うことで、変電所送出電圧Voを昇圧することができる。昇圧された変電所送出電圧Voは、整流器5の直流出力電圧である整流器出力電圧Vrに、コンデンサ11の端子間電圧を加算したものとなる。コンデンサ11の端子間電圧は、例えば100〜200[V]程度である。このとき、蓄電装置20は、蓄電池23の600[V]程度の直流電圧を第2のチョッパ回路部22で変換してコンデンサ11の端子間電圧を生成する。したがって、本実施形態に係る蓄電装置20は、放電エネルギーの増大を抑えつつ、変電所送出電圧Voを適切な値に調整(昇圧)することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る蓄電装置20では、変電所送出電圧Voの昇圧を必要な場合に容易に実行できる。つまり、充放電制御部24が変電所出力電流Ioの大きさが第2の閾値Ith2以上であると判定した場合に、直ちに変電所送出電圧Voを昇圧することが可能である(図2のステップS5およびS6)。そのため、変電所2の無負荷時送出電圧を低く設定することが可能である。
【0056】
本発明を諸図面や実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0057】
例えば、上記の実施形態では、電流センサ51a,51b,51c,51dによって、それぞれき電線9a,9b,9c,9dに流れる電流を検出する。しかし、電流センサ51a,51b,51c,51dがき電線7a,7b,7c,7dに流れる電流を検出してもよい。
【0058】
また、例えば分岐点6におけるき電線の分岐の本数は4本に限られない。また、上記の実施形態において、整流器5は1つ(1バンク)であったが、複数であって並列バンクを構成してもよい。また、蓄電装置20は、1つに限らず複数個が並列に接続していてもよい。
【0059】
また、上記の実施形態において、開閉器10および第2のチョッパ回路部22は、整流器5の第2の端子とレール12(帰線)との間に設けられているが、整流器5の第1の端子と分岐点6の間に設けられてもよい。
【0060】
また、上記の実施形態において、変電所送出電圧Voの昇圧の大きさは、変電所出力電流Ioの値によらず一定であった(図3参照)。しかし、変電所出力電流Ioに応じて、昇圧の大きさ(コンデンサ11の端子間電圧)を変化させてもよい。例えば、充放電制御部24は、放電電圧指令Vを変電所出力電流Ioの大きさに応じて変化させることによって、昇圧された変電所送出電圧Voが変電所出力電流Ioによらずに一定の電圧(無負荷時送出電圧)になるようにしてもよい。
【0061】
また、上記の実施形態において、充放電制御部24は、第1の閾値Ith1との比較処理(ステップS4)および第2の閾値Ith2との比較処理(ステップS5)の少なくとも一方を省略してもよい。例えば、充放電制御部24がステップS4およびステップS5を省略する場合には、充放電制御部24は、ステップS3で負の電流が流れていると判定した場合にはステップS7の処理を実行し、そうでない場合には、ステップS6の処理を実行する。
【符号の説明】
【0062】
1 直流電気車用蓄電システム
2 変電所
3 三相交流電源
4 変圧器
5 整流器
6 分岐点
7a,7b,7c,7d,9a,9b,9c,9d き電線
8a,8b,8c,8d,10 開閉器
11 コンデンサ
12 レール(帰線)
13a,13b,13c,13d 電気車
20 蓄電装置
21 第1のチョッパ回路部
22 第2のチョッパ回路部
23 蓄電池
24 充放電制御部
50 電圧センサ
51a,51b,51c,51d 電流センサ
図1
図2
図3
図4
図5