(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、ヘキサアルミネート型酸化物を、白金族元素化合物を含む溶液に浸漬し、前記ヘキサアルミネート型酸化物を溶液から取り出して150〜400℃に加熱する工程を、1回或いは複数回繰り返して行なう、請求項4または請求項5に記載のHAN系推進薬分解触媒の製造方法。
【背景技術】
【0002】
衛星の姿勢・推進制御用の小型の推進器(以下、「スラスタ」という。)は、従来より推進薬として用いられているヒドラジンを、スラスタ内に充填されている触媒によって分解し高温ガスを発生することで推進力を発生する装置である。
【0003】
スラスタは、推進薬を供給する推進薬弁、ガス発生部、熱制御機器(ヒータ、温度センサ等)およびヒドラジン分解触媒から構成される。
ここで、ヒドラジンは、ロケット等の推進力装置に用いる単一推進燃料として有用である。ヒドラジンは分解触媒で分解され、その分解に際し高温の分解ガスを発生することから、ロケットや人工衛星の姿勢制御用ジェットの作動に用いられる他、火力発電プラントの防錆剤などに用いられてきた。
【0004】
また、ヒドラジンの分解触媒としては、主として白金族元素の触媒が用いられていた。この分解触媒を推進力発生装置やガス発生装置に使用する場合には、活性が高く、しかも触媒としての有効期間の長い特性を有する触媒が必要とされる。特にロケットエンジンにおいて自発的に点火させ、ロケットを安定して制御するには、触媒活性の経時変化が少なく安定した活性を維持できる触媒が必要とされる。
【0005】
加えてヒドラジンが分解すると800℃以上の高温に達するから、何度も再点火する性能を持たせようとするならば、耐熱性も有する必要がある。
【0006】
このような課題に対応するため、極めて活性が高くかつ優れた安定性を有する触媒として、比表面積が大きいアルミナ(Al
2O
3)にIr(イリジウム)等の貴金属を担持させたヒドラジン分解用触媒が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
ヒドラジン分解触媒としては、一般に、Irは高活性ゆえに用いられ、具体的にIrをアルミナに担持した触媒が使用される。
ヒドラジンの分解反応は、次の式(i)、(ii)で表される。
2N
2H
4 →2NH
3+N
2+H
2 (i)
2NH
3 →N
2+3H
2 (ii)
【0008】
しかし、推進薬であるヒドラジンは毒性が高いため、より毒性が低く、環境負荷が低減でき、製造、取扱いの容易な推進薬の開発が進められてきた。HAN系推進薬は毒性が低いためにヒドラジンの有力な代替候補として、現在、内外で研究が進められている。
【0009】
HANが触媒に供給されると次の式(iii)〜(vi)で表される反応が進行する。この反応は、発熱反応であり、体積増加型の反応である。
NH
3OHNO
3(aq)→2H
2O(l)+N
2(g)+O
2(g) (iii)
NH
3OHNO
3(aq)→2H
2O(l)+1/2N
2(g)+NO
2(g又はl) (iv)
NH
3OHNO
3(aq)→2H
2O(l)+2NO(g) (v)
NH
3OHNO
3(aq)→2H
2O(l)+N
2O(g)+1/2O
2(g) (vi)
(式(iii)〜(vi)中、aqは水溶液、gはガス、lは液体を示す。)
【0010】
HAN系推進薬は、毒性は低いものの一般的には反応性も低い。このため、液体のHAN系推進薬の触媒による分解反応を安定して進行させるためには、適切な触媒を選別する必要があった。また、HAN系推進薬は高温ガス発生に伴う触媒の温度上昇が激しく、触媒の劣化や損耗が大きくなるという課題があった。
【0011】
そこで、HAN系推進薬向けの触媒には、従来のヒドラジン推進薬向けのIrを担持したアルミナ触媒よりも活性を安定して維持できる触媒が求められていた。
【0012】
一方、触媒の担体として使用されるアルミナを熱処理した場合、一般的にその比表面積は1000℃以上で著しく低下するため、触媒性能も低下する傾向にある(例えば、非特許文献1参照)。
【0013】
従って、ヒドラジン系推進薬に比べ反応性が低いHAN系推進薬を衛星の姿勢・推進制御用スラスタの推進薬として使用するには、触媒活性の経時変化が少なく安定しており、スラスタの制御が容易となる触媒が求められていた。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る、ヘキサアルミネート型酸化物、HAN系推進薬分解触媒とその製造方法、このHAN系推進薬分解触媒を備えた一液スラスタについて説明する。
【0028】
<ヘキサアルミネート型酸化物>
本発明のHAN系推進薬分解触媒は、白金族元素を構成元素として含有するヘキサアルミネート型酸化物からなる。すなわち、ヘキサアルミネート型構造を有する酸化物の製造に際し、その構成元素を含む化合物を出発物質とする。この出発物質をもとに沈殿を生成させ、洗浄、乾燥、焼成の工程を経て、本発明のHAN系推進薬分解触媒を得ることができる。
【0029】
出発物質として、例えばIr含有ヘキサアルミネート触媒BaIr
0.2Fe
0.8Al
11O
19を製造する場合、構成元素であるBa、Ir、Fe、Al、O(酸素)を含む化合物を原料とすればよい。この場合は、一般式(1):R
1−xZ
xM
yAl
12−yO
19をもとにすれば、BaIr
0.2Fe
0.8Al
11O
19ではR=Ba、M=IrとFeの場合となる。
【0030】
従って、出発物質としては、例えばBa(NO
3)
2、H
2IrCl
6、Al(NO
3)
3・9H
2O、Fe(NO
3)
3・9H
2Oを使用して製造することが挙げられる。なお、これらの出発物質は、これらの硝酸塩に限られることはなく、硫酸塩、塩化物など出発物質が相互に混合でき、後述するように沈殿を生成できるものであればよい。また水和物であっても無水物であってもよい。
【0031】
なお、特にIr等の白金族元素を含有する化合物としては、例えばIrであれば塩化イリジウム(IV)酸水和物(H
2IrCl
6・nH
2O)、塩化イリジウム(III)酸水和物(IrCl
3・nH
2O)、塩化イリジウム(IV)酸アンモニウム((NH
4)
2IrCl
6、塩化イリジウム(IV)酸カリウム(K
2IrCl
6)などを挙げることができる。またIr以外の白金族元素としては、Pt(白金)の場合には、塩化白金(IV)酸水和物(H
2PtCl
6・nH
2O)、塩化白金(IV)酸アンモニウム((NH
4)
2PtCl
6)などを挙げることができる。Pd(パラジウム)の場合には、塩化パラジウム(II)(PdCl
2)などを挙げることができる。Ph(ロジウム)の場合には、塩化ロジウム(III)(PhCl
3)、硝酸ロジウム(III)(Ph(NO
3)
3などを挙げることができる。Ru(ルテニウム)の場合には、塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl
3・nH
2O)、ルテニウム(VI)酸ナトリウム(Na
2RuO
4)、ルテニウム(VI)酸カリウム(K
2RuO
4)などを挙げることができる。
【0032】
以上の出発物質については、水等への溶解の度合いを高めるため、必要に応じて加熱して溶解させてもよく、例えば60℃程度で溶解後、酸化物の製造を行なうことができる。出発物質を溶解する条件は適宜変更でき、公知の条件を随時組み入れることでよい。
【0033】
出発物質は混合されるが、混合の方法は一度にすべての出発物質を溶解して混ぜ合わせても、また各々の出発物質の溶解後に、任意の順序で液体状態にて混ぜ合わせることでも良い。
【0034】
出発物質が混合された後、例えば希HNO
3水溶液などの無機酸や、有機酸などの酸を用いて混合液のpHを調整する。設定pHについては概ね1程度とすればよく、混合する出発物質によってはこの値を変動させるよう、加える酸の量を調節してもよい。
【0035】
混合液のpHが調整された後、混合液は飽和炭酸アンモニウム((NH
4)
2CO
3)水溶液と接触させるなど、出発物質に含まれる元素が沈殿を生成する条件におかれる。出発物質が混合された混合液と飽和炭酸アンモニウム水溶液との接触の際、均一に分散させるために、混合液を撹拌されている飽和炭酸アンモニウム水溶液中に添加するとよい。
【0036】
炭酸アンモニウム((NH
4)
2CO
3)水溶液との接触による共沈法について具体的には実施例の記載を例示できる。
【0037】
またクエン酸を用いる方法としては次の処方を例示できる。
ヘキサアルミネートの構成成分の硝酸塩を純水に溶解する。この時、各元素のモル分率は、最終的なヘキサアルミネートの組成比になるようにする。混合硝酸塩水容液を、クエン酸水溶液にゆっくりと添加し、その後、過剰な水を除去するために撹拌しながら60℃程度に加熱する。過剰な水が除去されるとガラス状のゲルが生成する。ゲルを110℃程度で、一晩乾燥した後、500℃、2時間(hr)程度仮焼し、最終的に1100℃以上で8時間(hr)程度焼成して、ヘキサアルミネートを得る。
【0038】
またアルコキシドを用いる方法としては次の処方を例示できる。
ヘキサアルミネートの構成成分のアルコキシドを2−プロパノールに添加する。例えば、Alの場合はAl[OCH(CH
3)
2]
3が使用できる。その後混合物を、大気中の水蒸気と接触しないように、80℃程度で、N
2気流中で撹拌する。Feおよび白金族元素(Ru、Pt、Pd、Rh、Ir)については硝酸塩水溶液を、バリウムとアルミニウムのアルコキシドの混合溶液に添加する。その結果得られた沈殿物は、120℃程度で、8時間(hr)程度乾燥し、500℃、1時間(hr)程度の条件で仮焼成する。最終的な焼成条件は、1100℃以上、空気中にて焼成し,ヘキサアルミネートを得る。
【0039】
沈殿を生成させる条件については、溶液の温度、混合液の用量など公知の範囲において適宜設定すればよい。ただし、沈殿が一定の正常を有するように、混合液を飽和炭酸アンモニウム水溶液と接触させる際には、飽和炭酸アンモニウム水溶液を激しく撹拌するとよく、撹拌に用いる装置等は適宜公知の器具、装置を用いることでよい。撹拌しながら混合することで沈殿が生成されるが、その時間、温度などは適宜設定すればよく、概ね沈殿生成が飽和に達したところで停止すればよい。沈殿生成時のpHは概ね中性から弱アルカリ側となっており、例えばpH7.5〜8.0とするとよい。
【0040】
得られた沈殿物はその後エージングするために数時間、例えば3時間程度撹拌を継続するとよい。エージング後は純水、あるいはイオン交換水等で洗浄する。洗浄方法は例えば純水等を沈殿物に加え、遠心分離、ろ過等の公知の方法により分別して行なうことでよい。
【0041】
次いで洗浄後の沈殿物を乾燥する。乾燥条件は沈殿物の性状が変わらない程度で行ない、例えば120℃にて8hr(時間)程度行えばよく、公知の装置、温度、時間など適宜変更してもよい。
【0042】
乾燥された沈殿物は仮焼成、例えば500℃で2hr程度、空気中で仮焼成するとよい。さらに1200℃で3hr程度、空気中で焼成するとよい。仮焼成、焼成の温度、時間等は、乾燥物が過度に焼成されすぎないように留意すればよく、公知の装置、温度、時間など適宜変更してもよい。
【0043】
以上のようにして得られるヘキサアルミネート型酸化物であるが、ヘキサアルミネート型構造としては、
図1(エイチ・アライら(H.Arai et al)、アプライド カタリシス エイ:ジェネラル(Applied Catalysis A:General),138,pp161−176,1996年、より)に見られるように、マグネトプランバイト(Magnetoplumbite)型とβ−アルミナ型の2種が挙げられている。
【0044】
一般に、ヘキサアルミネート型酸化物は、一般式RAl
12O
19で表わされる。Rとしては、Ba、Sr、Caなどのアルカリ土類金属の他、La、Ce、Prなどのランタノイド元素が挙げられる。本発明のヘキサアルミネート型酸化物においては、RやAlは以下で示すように、部分的に別の元素で置換することができる。
【0045】
そこで本発明のHAN系推進薬分解触媒における担体となるヘキサアルミネート型酸化物を具体的に示せば、下記一般式(1)で表される。
R
1−xZ
xM
yAl
12−yO
19 (1)
【0046】
ここで一般式(1)中、Rで示される元素としてはBa、Sr、Caなどのアルカリ土類金属元素の他、La、Ce、Prなどのランタノイド元素が挙げられる。Rはその一部を別の元素(Zで示される)へと置換できる。Zとしてはアルカリ土類金属元素またはランタノイド元素の中で、Rと異なる元素である。
【0047】
上記の通り一般式(1)におけるRはZに置換でき、一般式(1)中、xはRを置換したZの割合を示し、通常0〜1である。なお一般式(1)中、x=0とはRで示される元素のZへの置換がないことを示し、x=1とはRがすべてZへ置換したことを示す。なお、実施例においては、RがBa(バリウム)である酸化物を挙げている。
【0048】
上記一般式(1)で表される酸化物の構成元素中、Al(アルミニウム)に対し、その一部をIr、Pt、Pd、Ru、Rhなどの白金族元素に置換することで本発明のHAN系推進薬分解触媒となる。これらの白金族元素は、HAN系推進薬を分解する反応を触媒する作用を有する。
【0049】
さらに一般式(1)におけるAlは白金族元素とは別の元素に置換することができる。ただし、当該元素に置換するには、白金族元素がHAN系推進薬を分解する反応を触媒する作用を担っており、白金族元素と共に置換する必要がある。従って、一般式(1)においては、Mで示される元素はAlの一部と置換できる単一もしくは複数種の元素であり、少なくとも白金族元素を含むこととなる。Mとしてはヘキサアルミネート型構造を維持できる元素であればよく、例えばFeを挙げることができる。
【0050】
一般式(1)におけるAlはMに置換でき、一般式(1)中、yはAlを置換したMの割合を示し、通常0〜2である。なお一般式(1)中、y=0はMへの置換がないことを示し、y=2とは12のAl原子の内、2原子がMへ置換したことを示す。なお、実施例においては、AlがIr(イリジウム)とFe(鉄)に置換した酸化物を挙げている。
【0051】
以上の通り、一般式(1)で示されるヘキサアルミネート型酸化物の元素組成を示したが、これらの元素組成は例示であり、ヘキサアルミネート型構造をとる酸化物であれば制限なく用いることができる。後述する実施例では、BaIr
0.2Fe
0.8Al
11O
19(一般式(1)において、R=Ba、M=Ir(0.2原子比)とFe(0.8原子比)、x=0、y=1.0)が挙げられており、本発明の効果を奏することが示されている。
【0052】
<HAN系推進薬分解触媒>
本発明のHAN系推進薬分解触媒の製造方法においては、ヘキサアルミネート型酸化物の原料粉末を用い、これを成形、焼成することで白金族元素を担体に担持する前の担体を得ることができる。
【0053】
本発明のHAN系推進薬分解触媒は、原料粉末のヘキサアルミネート型構造を、成形、焼成後も保持しており、比較的高い比表面積と共に、耐熱性も有している。本発明のHAN系推進薬分解触媒はスラスタとして宇宙空間に長期に渡って滞在するとともに、軌道制御を適正に行うために、本発明のHAN系推進薬により、安定した反応を行なわせ、スラスタの軌道制御を適正に行うことができる。このため、反応直後から安定して分解反応が進行できるような触媒を選定する必要があり、本発明のヘキサアルミネート型酸化物からなる触媒は好適である。
【0054】
本発明のHAN系推進薬分解触媒は、スラスタ装置の触媒充填層に充填されるため、一定の粒径を有した成形体であることが好ましい。
【0055】
Ir等の白金族元素を担持させる前の触媒(酸化物成形体)の成形方法としては、通常この分野において用いられる方法であれば特に制限されることはなく、例えば転動造粒、押出造粒、噴霧造粒、流動造粒、圧縮造粒等の方法が用いられる。造粒にあたり必要に応じて、バインダー、造粒助剤を添加し、さらに水を加え、これらを充分混練した後、造粒機等を用いて成形すればよい。
【0056】
成形体の粒子径としては、スラスタ装置に充填できる形状、粒子径であれば制限はなく、作業の効率性やスラスタに備えられるメッシュ(メッシュ状の隔壁部)の空隙または網目の広さ等から、0.1〜5mmの粒子径が好ましく、さらに0.5〜2mmの粒子径が好ましく、通常は1mm程度の粒子径である。
【0057】
本発明のHAN系推進薬分解触媒においては、上記の構成元素として白金族元素がAlと置換して組み込まれたヘキサアルミネート型酸化物として機能するが、さらに白金族元素をヘキサアルミネート型酸化物の表面部分に3〜20重量%含有することが好ましい。
【0058】
このように、ヘキサアルミネート型酸化物の表面部分にさらに白金族元素を含有させる方法について、以下に説明する。
【0059】
上記の処方により得たヘキサアルミネート型酸化物成形体の表面部分に白金族元素を担持させる。
【0060】
より具体的には、Ir、Pt、Pd、Ru、Rh等の白金族元素の化合物を含む溶液、例えばIrであれば塩化イリジウム(IV)酸水和物(H
2IrCl
6・nH
2O)、塩化イリジウム(III)酸水和物(IrCl
3・nH
2O)、塩化イリジウム(IV)酸アンモニウム((NH
4)
2IrCl
6、塩化イリジウム(IV)酸カリウム(K
2IrCl
6)などの溶液に浸漬し、さらに溶液から酸化物成形体を取り出して150〜400℃に加熱するという工程を、1回あるいは複数回繰り返して行なうことで、Ir等の白金族元素が酸化物成形体に担持され、本発明のHAN系推進薬分解触媒を得ることができる。
【0061】
なお前述の通りIr(イリジウム)を担体へ担持する場合について記載したが、他の白金族元素の場合も同様である。Pt(白金)の場合には、塩化白金(IV)酸水和物(H
2PtCl
6・nH
2O)、塩化白金(IV)酸アンモニウム((NH
4)
2PtCl
6)などの溶液に浸漬する。Pd(パラジウム)の場合には、塩化パラジウム(II)(PdCl
2)などの溶液に浸漬する。Ph(ロジウム)の場合には、塩化ロジウム(III)(PhCl
3)、硝酸ロジウム(III)(Ph(NO
3)
3などの溶液に浸漬する。Ru(ルテニウム)の場合には、塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl
3・nH
2O)、ルテニウム(VI)酸ナトリウム(Na
2RuO
4)、ルテニウム(VI)酸カリウム(K
2RuO
4)などの溶液に浸漬する。
【0062】
成形された触媒担体にIr等の白金族元素を担持させる方法としては、通常この分野において用いられる方法であれば特に制限されることはなく、例えば前記したように、白金族元素の化合物の溶液に成形体である触媒担体を浸漬して白金族元素を含浸させることが挙げられる。白金族元素の化合物の溶液への浸漬時間も適宜選択すればよく、例えば数分以上浸漬すればよい。特に、減圧下で浸漬することで、担体の内部まで均一にIr等の白金族元素を担持することができる。
【0063】
含浸工程についても通常この分野において用いられる方法、回数であれば特に制限されることはなく、浸漬、乾燥、焼成(仮焼成を含み、「焼成」及び「仮焼成」は対象物を加熱することを意味する)等の一連の工程を一回又は複数回繰り返して行えばよい。
【0064】
さらに原料に由来する塩素等が残留していることがあるため、50〜60℃の温水にて洗浄し、乾燥してもよい。
【0065】
Ir等の白金族元素を担持させた触媒を利用する際、水素(H
2)ガス等の還元性ガスの気流中で、例えば500℃程度の温度下にて、1分〜数時間通気することもできる。
【0066】
上記のようにして得られるHAN系推進薬分解触媒は、BET比表面積が20〜40m
2/gであり、この比較的高い比表面積を十分な期間維持できるため、HAN系推進薬の分解活性も安定したものとすることができる。
【0067】
本発明のHAN系推進薬分解触媒は、原料粉末のヘキサアルミネート型構造を、成形、焼成後も保持しており、比較的高い比表面積と共に、耐熱性も有している。本発明のHAN系推進薬分解触媒はスラスタとして宇宙空間に長期に渡って滞在するとともに、軌道制御を適正に行うために、本発明のHAN系推進薬により、安定した反応を行なわせ、スラスタの軌道制御を適正に行うことができる。このため、反応直後から安定して分解反応が進行できるような触媒を選定する必要があり、本発明のヘキサアルミネート型酸化物からなる触媒は好適である。
【0068】
本発明のHAN系推進薬分解触媒は、スラスタ装置の触媒充填層に充填されるため、一定の粒径を有した成形体であることが好ましい。
【0069】
<一液スラスタ>
図2に示すように、この一液スラスタ1は、HAN系推進薬を収容したタンク2と、インジェクタ(HAN系推進薬導入部)3を具備しかつこのインジェクタ3を通してタンク2から供給されるHAN系推進薬を分解して分解ガスを生じさせる触媒層4を充填したチャンバ5と、このチャンバ5で生じた分解ガスを噴出させて推進力を得るノズル6とから主として成っており、チャンバ5のタンク2側に位置する支持棒3aとともにインジェクタ3を構成するフィードチューブ3bと、タンク2との間には、電磁弁7が配置してある。
【0070】
チャンバ5において、インジェクタ3に隣接して配置したHAN系推進薬分散用の上流側メッシュ(メッシュ状の隔壁部)8とノズル6寄りの部分に配置した下流側メッシュ9との間の空間を触媒層収容部5Aとしている。一方、下流側メッシュ9とノズル6との間の空間は、分解ガスチャンバ5Bとしてある。
【0071】
触媒層4は、ヘキサアルミネート型酸化物粒子にIr等の白金族元素を構成元素として含有しており、粒径1mm程度の触媒粒子を充填させた層としている。
【0072】
一液スラスタ1では、タンク2から供給されるHAN系推進薬を電磁弁7の開弁作動によってインジェクタ3及び上流側メッシュ8を介してチャンバ5内にパルス状に導入すると、HAN系推進薬は触媒層4と接触して分解反応が起き、チャンバ5内が定常状態となった時点で前記の反応式(iii)〜(vi)の分解反応が生じ、高温の窒素、酸素、酸化窒素(N
2O、NO、NO
2)の各ガス及び水蒸気に分解され、分解ガスチャンバ5Bで高圧に保持されたこれらの分解ガスをノズル6から噴射することで推進力を得るものとなっている。
【0073】
本発明の一液スラスタはHAN系推進薬を用いるものであり、従来のヒドラジン推進薬よりも低毒性であることから取り扱いが容易であり、従来の推進薬と同程度の推進力を維持できるという優れた性能を有する。
【0074】
この実施形態に係る一液スラスタ1では、インジェクタ3を構成する一本のフィードチューブ3bの先端からHAN系推進薬を拡散供給するようにしているが、これに限定されるものではなく、フィードチューブ3bの先端にシャワーヘッドを装着してHAN系推進薬を複数個所から分けて供給するようにしてもよい。またフィードチューブを複数本備える構成としてもよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこの実施例により限定して解釈されるものではない。
【0076】
1)BET比表面積の測定
BET比表面積の測定は、クオンタクローム インストルメント社製のオートソーブ iQ ステーション 1を用い、前処理として脱気温度200℃にて処理後、77K(絶対温度)で窒素(N
2)吸着法により行った。
【0077】
2)Irの定量
触媒調製後のIr担持量を、ICP(誘導結合プラズマ(Inductively coupled plasma)法)により分析した。
【0078】
[実施例1] ヘキサアルミネート型酸化物の製造(出発物質からの沈殿物生成)
Ir含有ヘキサアルミネート触媒BaIr
0.2Fe
0.8Al
11O
19の製造を目的とし、出発物質として、Ba(NO
3)
2、H
2IrCl
6、Al(NO
3)
3・9H
2O、Fe(NO
3)
3・9H
2Oを使用して合成した。
【0079】
これらの硝酸塩とイリジウム塩化物を、所定の割合(Ba:Ir:Fe:Al=1:0.2:0.8:11の原子比)で60℃のイオン交換水に溶解させ、その後、硝酸水溶液を用いてpHが1になるように調整した。
【0080】
その後、この混合液を、激しく攪拌した飽和炭酸アンモニウム水溶液(60℃)に添加し、ヘキサアルミネートの前駆体を得た。この間、水溶液のpHは7.5〜8.0であった。
【0081】
沈殿物は、攪拌しながら3hr(時間)エージングし、最終的にはイオン交換水でろ過した。回収した沈殿物は、120℃/8hrでの乾燥を経て500℃/2hr空気中で仮焼成した後、1200℃/3hr、空気中で焼成して、ヘキサアルミネート型酸化物を得た。
【0082】
次の推進薬分解試験は、得られたヘキサアルミネート型酸化物(触媒)の粉末をペレット状に成形した後、粉砕、分級(510〜700μm)したものを用いて行った。
【0083】
[実施例2] 推進薬分解試験(Fresh触媒を使用)
実施例1において製造された触媒を、
図3に示す推進薬分解試験のためのバッチ式小型反応装置11を用い、恒温槽温度、触媒温度および圧力にて評価した。
【0084】
図3に示すバッチ式小型反応装置11による試験は次のように行なった。すなわち、恒温槽15には金属密閉容器16が備えられており、金属密閉容器16の中に各種の触媒と推進薬が保持されている。この熱電対19は金属密閉容器16内部用として備えられ、他方の熱電対18は恒温槽15用として備えられ、これらの熱電対18,熱電対19は、ケーブル21を介して制御手段(コンピュータ)12に接続されている。
【0085】
また金属密閉容器16は、金属密閉容器側の管22を介してバルブ14に接続され、バルブ14より圧力計側の管23を介して圧力計13に繋がっている。圧力計13は、ケーブル20を介して制御手段(コンピュータ)12に接続されている。なおバルブ14は、排気側の管24を介してガス等を外部へ排気する。
【0086】
推進薬分解試験では、恒温槽15の温度を徐々に上昇させ、それと共に恒温槽15の内部の金属密閉容器16が、さらに金属密閉容器16の中の触媒と推進薬の温度も上昇する。これら、恒温槽15および金属密閉容器16の内部の温度は、恒温槽15用の熱電対18,金属密閉容器16内部用の熱電対19にて検知され、ケーブル(熱電対側)21を介して制御手段12へ送られ、記録される。また金属密閉容器16の内部に保持された触媒と推進薬17の温度が上昇し、ある温度において推進薬が分解し、分解して発生したガスにより圧力が上昇する。この圧力は圧力計13により経時的に検知され、ケーブル(圧力計側)20を介して制御手段12へ送られ、記録される。
【0087】
以上の操作を通じて、
図4a、
図4b、
図4cとして恒温槽温度、触媒温度および圧力の経時変化が示された。
図4aは熱処理を行なわなかったフレッシュ(Fresh)な触媒を、
図4bは1000℃での熱処理を1hr行なった触媒を、
図4cは1000℃での熱処理を40hr行なった触媒を示す。触媒は全て水素還元後に試験に供した。
【0088】
図4中、反応時間(X軸、単位は秒)と、恒温槽温度(破線、Y軸左側に数値、単位は℃)、触媒温度(実線、Y軸左側に数値、単位は℃)および圧力の経時変化(点線、Y軸右側に数値、単位はMPaG)との関係を示す図である。
【0089】
推薬分解温度は、分解試験における温度、圧力上昇のプロファイルから、急激な圧力上昇が開始する温度として定義した。
図4aに示すようにフレッシュ触媒の推薬分解温度は161℃であった。1000℃での熱処理後は、熱処理時間1hr、40hrで、それぞれ166℃(
図4b)、167℃(
図4c)であった。
【0090】
図4より、フレッシュなBaIr
0.2Fe
0.8Al
11O
19触媒の推薬分解温度は161℃である。一方で、1000℃熱処理後の推薬分解温度は、1hr後で166℃、40hr後も167℃であり、熱処理による顕著な上昇が見られていない。すなわち、ヘキサアルミネート酸化物の結晶格子中にIrなどの活性金属を含んだ触媒を用いることは、耐熱性に優れる、高温で使用しても高い耐久性を示す触媒を提供することができる。
【0091】
[実施例3] 耐熱性評価試験
触媒の耐熱を評価するために、調製した触媒(Fresh)を1000℃、大気雰囲気下で熱処理した後、実施例2と同様にして推進薬分解試験を実施した。熱処理の時間は、1、5、20、40、100hr(時間)として、推進薬分解試験前に、H
2による還元処理を行った。但し、BaIr
0.2Fe
0.8Al
11O
19触媒については100hrの熱処理は行なわなかった。
【0092】
推進薬分解試験の結果、推進薬分解開始温度(反応開始温度)を
図5に示す。
図5は3種の触媒を用いて行なった耐熱性評価試験の結果として、1000℃での熱処理時間(X軸、単位は時間)と、反応開始温度(Y軸、単位は℃)との関係を示す図であり、図中、点線は比較対照とするIr/γ型アルミナ触媒(20重量%Irを含有し、「20%Ir/g−Al2O3」と表示)、実線は合成した本発明の触媒(構成元素としいてIrを含有し、組成がBaIr
0.2Fe
0.8Al
11O
19であり、「BaIr0.2Fe0.8Al11O19」と表示)、破線は比較対照とするShell405(登録商標)触媒による結果である。
【0093】
図5から分かるように、熱処理時間と推進薬の分解反応開始温度との関係が、試した触媒の種類によって大きく異なることが分かる。Shell405(登録商標)触媒はFreshでは低い反応開始温度であったが熱処理時間を経ることで反応開始温度が著しく高くなった。Ir/γ型アルミナ触媒では熱処理時間の初期(5時間まで)に反応開始温度が著しく高くなり、その後は徐々に高くなる傾向であった。これらに対し、合成した本発明の触媒は熱処理時間1時間まで反応開始温度が若干高くなったが、以降はほとんど変化せず、耐熱性が高いことが示された。
【0094】
以上の結果は、所定時間熱処理された触媒を用いた場合、その後の熱処理あるいは推進薬の分解に伴う温度上昇において、本発明のヘキサアルミネート型酸化物からなるHAN系推進薬分解触媒は一定の触媒活性を維持できることを意味している。このことは、本発明の触媒について、より安定した触媒、ひいてはスラスタの推進力制御を容易にできるという効果を発揮でき、有用な触媒となることを意味する。
【0095】
本発明の触媒は、ヘキサアルミネートの結晶中にIrを含むため、Irを活性元素として担持する必要がない。またIrは、安定なヘキサアルミネート結晶中に存在するのでシンタリング(焼結)などにより凝集することがなく、その結果、高温においても性能低下しにくいことにより裏付けられていると推定され、課題を解決できるものである。