(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
電気車(車両)を駆動する電動機を制御する電気車制御装置の一例として、演算により電動機の回転速度を求めて、電動機のトルク制御を行う電気車制御装置が特許文献1に開示されている。このような電気車制御装置によれば、速度センサを用いずに、トルク指令Tqrに従って電動機を制御することができる。電動機のトルクが車両の車輪軸に伝えられることにより、車両を加減速させることができる。
【0003】
図8は、上述したような、演算により電動機の回転速度を求めて電動機の制御を行う電気車制御装置10の構成例を示す図である。
【0004】
図8に示す電気車制御装置10は、電力変換器11と、電流検出器12と、速度演算部13と、すべり周波数指令生成部14aと、加算器15と、電流指令生成部16aと、トルク制御部17aとを備える。
【0005】
トルク指令Tqrと磁束指令Ifrとが、すべり周波数指令生成部14aおよび電流指令生成部16aに入力される。
【0006】
電力変換器11は、トルク制御部17aから入力された、電動機1への出力電圧を指示する電圧指令V
*を増幅し、増幅した電圧指令V
*に応じた電圧vを電動機1に印加する。
【0007】
電流検出器12は、電動機1に流れる電流iを検出し、検出結果を速度演算部13およびトルク制御部17aに出力する。
【0008】
速度演算部13は、トルク制御部17aから入力された電圧指令V
*と電流検出器12により検出された電流iとに基づき、以下の式(1)〜(5)に従い、電動機1の回転速度(演算速度ωmc)を演算する。
【0009】
【数1】
【0010】
ここで、R1,R2はそれぞれ電動機1の一次抵抗、二次抵抗であり、L1,L2はそれぞれ電動機1の一次自己インダクタンス、二次自己インダクタンスであり、Mは相互インダクタンスである。また、FAおよびFBは、式(1)で求められる誘導機磁束φのa軸成分およびb軸成分である。なお、電圧指令V
*の代わりに、電動機1に印加する電圧vを用いてもよい。
【0011】
速度演算部13は、演算した演算速度ωmcを加算器15に出力する。
【0012】
すべり周波数指令生成部14aは、トルク指令Tqrと磁束指令Ifrとに基づき、以下の式(6)に従いすべり周波数指令ωsrを生成し、加算器15に出力する。
【0013】
【数2】
【0014】
加算器15は、速度演算部13から入力された演算速度ωmcとすべり周波数指令生成部14aから入力されたすべり周波数指令ωsrとを加算して、電動機1に印加する電圧の周波数を指示する周波数指令ωiを生成し、トルク制御部17aに出力する。
【0015】
電流指令生成部16aは、トルク指令Tqrと磁束指令Ifrとに基づき、以下の式(7)および式(8)に従い、電動機1の磁束を磁束指令Ifrに従って制御するために電動機1に流す電流を指示する磁束分電流指令Id、および、電動機1のトルクをトルク指令Tqrに従って制御するために電動機1に流す電流を指示するトルク分電流指令Iqを生成し、トルク制御部17aに出力する。
【0016】
【数3】
【0017】
トルク制御部17aは、電流指令生成部16aから入力された磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqと、電流検出器12により検出された電流iと、加算器15から入力された周波数指令ωiとに基づき電圧指令V
*を生成し、電力変換器11および速度演算部13に出力する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
図8に示す電気車制御装置10においては、電動機1の温度変動により一次抵抗R1が変動すると、式(1)に従い求められる誘導機磁束φの誤差が生じ、その結果、演算速度ωmcにも誤差が生じる。特に、低速走行時には、誘導機磁束φや演算速度ωmcに大きな誤差が生じやすい。演算速度ωmcに誤差が生じると、電動機1のトルクをトルク指令Tqrに従って制御することができなくなる。その結果、車両を想定通りに加減速させることができず、車両の低速走行時(停止時を含む)に、所望の進行方向に対して車両が逆方向に移動してしまう(後退してしまう)ことがある。
【0020】
なお、電動機1の正転時には周波数指令ωiを正値で下限制限し、電動機1の逆転時には、周波数指令ωiを負値で上限制限した制限周波数指令ωiLを用いて電圧指令V
*を生成することも考えられる。制限周波数指令ωiLを用いて電圧指令V
*を生成することで、演算速度ωmcに誤差が生じても、電動機1の回転方向指令と逆方向のトルクを電動機1に出力させる電圧指令V
*が生成されることが無くなるため、所望の進行方向に対して車両が逆方向に移動する(後退する)ことを抑制することができる。
【0021】
しかしながら、周波数指令ωiの周波数制限を行った場合、車両が停止した停止状態または車両が後退する後退状態から電動機1を駆動すると、制限周波数指令ωiL以上のすべりが電動機1に発生することがある。電動機1に発生したすべりがすべり周波数指令ωsrより大きいと、電動機1のトルクがトルク指令Tqrより低下してしまう。
【0022】
電動機1のトルクがトルク指令Tqrより低下すると、登り勾配で停止状態の車両の電動機1を駆動した際に、電動機1のトルクによる車両の推進力が登り勾配による重力に負け、車両が後退してしまうことがある。また、登り勾配で後退状態の車両の電動機1を駆動した際に、電動機1のトルクによる推進力が登り勾配に負け、車両の後退量が増加してしまうことがある。
【0023】
本発明の目的は、上述した課題を解決し、登り勾配での駆動時にも、車両の後退が生じる可能性を低減し、後退が生じた場合にも後退量の抑制を図ることができる電気車制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置は、電気車を駆動する電動機を制御する電気車制御装置であって、前記電動機に流れる電流を検出する電流検出器と、前記電流検出器により検出された電流と、前記電動機への出力電圧を指示する電圧指令とに基づき前記電動機の回転速度を演算する速度演算部と、前記速度演算部により演算された回転速度に基づき、前記電気車の後退を検知したか否かを示す後退検知信号を生成する車両後退検知部と、前記電動機のすべり周波数指令を生成するすべり周波数指令生成部と、前記速度演算部により演算された回転速度と、前記すべり周波数指令生成部により生成されたすべり周波数指令とを加算した周波数指令を生成する加算器と、前記電動機の回転方向に応じて、前記加算器により生成された周波数指令を周波数制限した制限周波数指令を生成する周波数制限部と、前記後退検知信号が後退未検知を示す場合には、トルク指令および磁束指令に基づき、所定の演算に従いトルク分電流指令および磁束分電流指令を生成し、前記後退検知信号が後退検知を示す場合には、前記所定の演算に従い生成されるトルク分電流指令および磁束分電流指令よりも前記電動機に流れる電流が増加するようなトルク分電流指令および磁束分電流指令を生成する電流指令制御部と、前記周波数制限部により生成された制限周波数指令と、前記電流検出器により検出された電流と、前記電流指令制御部により生成されたトルク分電流指令および磁束分電流指令とに基づき、前記電圧指令を生成するトルク制御部と、を備える。
【0025】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置において、制御量ゲインとして、前記後退検知信号が後退未検知を示す場合には1を出力し、前記後退検知信号が後退検知を示す場合には、1よりも大きい所定値を出力するゲイン生成部をさらに備え、前記電流指令制御部は、前記ゲイン生成部から出力された制御量ゲインに応じて、前記トルク分電流指令を大きくすることが望ましい。
【0026】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置において、前記電流指令制御部は、前記トルク指令に前記ゲイン生成部から出力された制御量ゲインを乗算する乗算器と、前記制御量ゲインが乗算されたトルク指令および前記磁束指令に基づき、前記トルク分電流指令を生成する電流指令生成部と、を備えることが望ましい。
【0027】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置において、前記電流指令制御部は、前記磁束指令および前記トルク指令に基づき、前記所定の演算に従い前記トルク分電流指令および前記磁束分電流指令を生成する電流指令生成部と、前記電流指令生成部により生成されたトルク分電流指令に前記ゲイン生成部から出力された制御量ゲインを乗算して、前記トルク制御部に出力する乗算器と、を備えることが望ましい。
【0028】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置において、制御量ゲインとして、前記後退検知信号が後退未検知を示す場合には1を出力し、前記後退検知信号が後退検知を示す場合には、1よりも大きい所定値を出力するゲイン生成部をさらに備え、前記電流指令制御部は、前記ゲイン生成部から出力された制御量ゲインに応じて、前記磁束分電流指令を小さくするが望ましい。
【0029】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置において、前記電流指令制御部は、前記磁束指令を前記ゲイン生成部から出力された制御量ゲインで除算する除算器と、前記制御量ゲインで除算された磁束指令に基づき、前記磁束分電流指令を生成する電流指令生成部と、を備えることが望ましい。
【0030】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置において、前記ゲイン生成部は、前記後退検知信号に応じて、前記制御量ゲインとしての出力値を1と前記所定値とで切り替える切替器を備えることが望ましい。
【0031】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置において、前記ゲイン生成部は、前記後退検知信号に応じて、出力値を1と前記所定値とで切り替える切替器と、前記制御量ゲインを前記切替器の出力値まで変化させる時間である緩衝時間を決定する緩衝時間決定部と、前記切替器の出力値が入力されると、前記緩衝時間決定部により決定された緩衝時間をかけて、前記制御量ゲインを前記切替器の出力値まで連続的に変化させる緩衝部と、を備えることが望ましい。
【0032】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る電気車制御装置において、前記緩衝時間決定部は、前記後退検知信号に応じて、前記緩衝時間を決定することが望ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る電気車制御装置によれば、登り勾配での駆動時にも、電気車の後退が生じる可能性を低減し、後退が生じた場合にも後退量の抑制を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0036】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電気車制御装置100の構成例を示す図である。
図1において、
図8と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0037】
図1に示す電気車制御装置100は、
図8に示す電気車制御装置10と比較して、周波数制限部110、車両後退検知部120、ゲイン生成部130および乗算器140を追加した点と、すべり周波数指令生成部14a、電流指令生成部16a、トルク制御部17aをそれぞれ、すべり周波数指令生成部14、電流指令生成部16、トルク制御部17に変更した点とが異なる。乗算器140および電流指令生成部16は、電流指令制御部170を構成する。
【0038】
周波数制限部110は、電動機1の回転方向を示す回転方向指令FRが入力され、回転方向指令FRが示す電動機1の回転方向に応じて、加算器15から出力された周波数指令ωiを周波数制限した制限周波数指令ωiLを生成し、トルク制御部17に出力する。
【0039】
具体的には、周波数制限部110は、電動機1の正転時には、周波数指令ωiが所定の制限周波数ωi1(>0)以下である場合には、制限周波数ωi1を制限周波数指令ωiLとして出力し、周波数指令ωiが制限周波数ωi1より大きい場合には、周波数指令ωiを制限周波数指令ωiLとして出力する。
【0040】
また、周波数制限部110は、電動機1の逆転時には、周波数指令ωiが所定の制限周波数ωi2(<0)以上である場合には、制限周波数ωi2を制限周波数指令ωiLとして出力し、周波数指令ωiが制限周波数ωi2より小さい場合には、周波数指令ωiを制限周波数指令ωiLとして出力する。
【0041】
車両後退検知部120は、速度演算部13から演算速度ωmc(電動機1の回転速度)が入力され、入力された演算速度ωmcに基づき、電動機1により駆動される車両が進行方向と反対方向に移動する後退を起こしている否かを検知(車両後退検知)する。車両後退検知部120は、車両後退検知の結果を示す(車両の後退を検知したか否かを示す)後退検知信号BKをゲイン生成部130に出力する。
【0042】
図2は、車両後退検知部120の構成例を示す図である。
【0043】
図2に示す車両後退検知部120は、時素ゲイン演算部121と、積分器122と、時素比較器123とを備える。
【0044】
時素ゲイン演算部121は、演算速度ωmcが入力され、入力された演算速度ωmcに応じて、無次元の係数である時素ゲインGTを積分器122に出力する。時素ゲイン演算部121は、演算速度ωmcが負値である場合、車両後退側(マイナス側)に演算速度ωmcが大きくなるにつれて、時素ゲインGTを正方向に大きくする。
【0045】
積分器122は、時素ゲイン演算部121から入力された時素ゲインGTを時間積分して得られる演算時素TCを時素比較器123に出力する。演算時素TCは、無次元の係数である時素ゲインGTを時間積分したものであるため時間量となる。積分器122は、例えば、演算時素TCが0未満の値になる場合には、演算時素TCとして0を出力してもよい(下限を0に制限してもよい)。
【0046】
時素比較器123は、積分器122から入力された演算時素TCと時素基準値T0とを比較することで、車両が後退しているか否かを判定する。時素基準値T0は、時間量であり、車両後退検知の基準となる時間(基準判定時間)を示すものであるとともに、演算時素TCと比較する際の閾値となる。なお、
図2においては、時素比較器123に時素基準値T0が入力される例を示しているが、時素比較器123自体が時素基準値T0を算出してもよい。時素基準値T0は、例えば、時素ゲインGT=1の場合の車両後退検知までの時素として算出することができる。
【0047】
時素比較器123は、演算時素TCが時素基準値T0を超える場合、車両が後退していると判定し、車両の後退を検知した旨(後退検知)を示す後退検知信号BKを出力する。また、時素比較器123は、演算時素TCが時素基準値T0を下回る場合、車両が後退していないと判定し、車両の後退を検知していない旨(後退未検知)を示す後退検知信号BKを出力する。演算時素TCと時素基準値T0とが等しい場合には、時素比較器123は、車両が後退していると判定してもよいし、車両が後退していないと判定してもよい。
【0048】
時素ゲイン演算部121は、時素ゲインGTを演算速度ωmcの非線形関数で定める。例えば、時素ゲイン演算部121は、演算速度ωmcが負値である場合、車両後退側(マイナス側)に演算速度ωmcが大きくなるにつれて、時素ゲインGTを正方向に大きくし、演算速度ωmcが正値である場合、時素ゲインGT=0とする。
【0049】
この場合、演算速度ωmcが小さいほど、すなわち、車両の後退速度が大きくなるほど、時素ゲインGTは大きくなる。時素ゲインGTが大きい場合、時素ゲインGTを積分して得られる演算時素TCは短時間で大きくなる。そのため、演算時素TCが短時間で時素基準値T0を超え、車両の後退が速やかに検知される。
【0050】
一方、演算速度ωmcが0を超える場合、時素ゲインGTは0のままであり、演算時素TCも大きくなることはない。そのため、車両が後退していない場合には、演算時素TCが時素基準値T0を超えることはなく、車両の後退のみを正しく検知することができる。
【0051】
図1を再び参照すると、ゲイン生成部130は、車両後退検知部120から入力された後退検知信号BKに応じて制御量ゲインGtを生成し、乗算器140に出力する。
【0052】
図3は、ゲイン生成部130の構成例を示す図である。
【0053】
図3に示すゲイン生成部130は、切替器131を備える。
【0054】
切替器131は、後退検知信号BKが入力され、入力された後退検知信号BKに応じて、定数値1と1より大きい所定値GtAとを切り替えて制御量ゲインGtとして出力する。具体的には、切替器131は、制御量ゲインGtとして、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合には、定数値1を出力し、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、所定値GtAを出力する。
【0055】
図1を再び参照すると、乗算器140は、トルク指令Tqrとゲイン生成部130から入力された制御量ゲインGtとを乗算し、制御量ゲインGtを乗算したトルク指令Tqrを増量トルク指令TqUとしてすべり周波数指令生成部14および電流指令生成部16に出力する。
【0056】
すべり周波数指令生成部14は、磁束指令Ifrと、乗算器140から入力された増量トルク指令TqUとに基づき、すべり周波数指令ωsrを生成する。具体的には、すべり周波数指令生成部14は、上述した式(6)において、トルク指令Tqrを増量トルク指令TqU(=トルク指令Tqr×制御量ゲインGt)に置き換えて、すべり周波数指令ωsrを算出する。
【0057】
電流指令生成部16は、磁束指令Ifrと、乗算器140から入力された増量トルク指令TqUとに基づき、磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqを生成する。具体的には、電流指令生成部16は、上述した式(7)に従い、磁束分電流指令Idを生成する。また、電流指令生成部16は、上述した式(8)において、トルク指令Tqrを増量トルク指令TqU(=トルク指令Tqr×制御量ゲインGt)に置き換えて、トルク分電流指令Iqを生成する。
【0058】
上述したように、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合には、制御量ゲインGtは定数値1であるため、増量トルク指令TqU=トルク指令Tqrである。そのため、増量トルク指令TqUおよび磁束指令Ifrに基づき算出されるトルク分電流指令Iqは、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき式(8)に従い算出されるトルク分電流指令Iqと同じである。
【0059】
一方、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、制御量ゲインGtは1よりも大きい所定値GtAであるため、増量トルク指令TqUはトルク指令Tqrよりも大きい。そのため、増量トルク指令TqUおよび磁束指令Ifrに基づき算出されるトルク分電流指令Iq(式(8)において、トルク指令Tqrを増量トルク指令TqUに置き換えて算出されるトルク分電流指令Iq)は、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき式(8)に従い算出されるトルク分電流指令Iqよりも、制御量ゲインGtに応じて大きくなる。トルク分電流指令Iqが大きくなると、このトルク分電流指令Iqを用いて生成される電圧指令V
*により電動機1に流れる電流は増加する。
【0060】
すなわち、本実施形態においては、乗算器140および電流指令生成部16から構成される電流指令制御部170の動作は、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合にはトルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき、所定の演算(式(7),(8))に従いトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成するものとなる。一方、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、電流指令制御部170の動作は、所定の演算に従い生成されるトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idよりも電動機1に流れる電流が増加するようなトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成するものとなる。具体的には、電流指令制御部170は、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき式(8)に従い生成されるトルク分電流指令Iqよりも大きなトルク分電流指令Iqを生成する。
【0061】
トルク制御部17は、周波数制限部110から出力される制限周波数指令ωiLと、電流検出器12により検出された電流iと、電流指令生成部16から入力されたトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idとに基づき電動機1の出力電圧を指示する電圧指令V
*を生成し、電力変換器11および速度演算部13に出力する。
【0062】
ここで、上述したように、後退検知信号BKが後退検知を示す場合に生成されるトルク分電流指令Iqは、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合に、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき式(8)に従い算出されるトルク分電流指令Iqよりも、制御量ゲインGtに応じて大きい。そのため、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrが同じであっても、後退検知信号BKが後退検知を示す場合に電動機1に流れる電流は増加する。
【0063】
電動機1に流れる電流が増加すると、電動機1のトルクも増加する。そのため、周波数制限により大きくなった電動機1で発生するすべりによるトルクの低下を、トルク分電流指令Iqを大きくする(電動機1に流れる電流が増加するようなトルク分電流指令Iqを生成する)ことによる電動機1のトルクの増加で補償することができ、車両の後退量の抑制を図ることができる。
【0064】
このように本実施形態においては、電気車制御装置100は、電動機1に流れる電流iを検出する電流検出器12と、検出された電流iと電圧指令V
*とに基づき電動機1の回転速度(演算速度ωmc)を演算する速度演算部13と、演算速度ωmcに基づき、後退検知信号BKを生成する車両後退検知部120と、すべり周波数指令ωsrを生成するすべり周波数指令生成部14と、演算速度ωmcとすべり周波数指令ωsrとを加算した周波数指令ωiを生成する加算器15と、電動機1の回転方向に応じて、周波数指令ωiを周波数制限した制限周波数指令ωiLを生成する周波数制限部110と、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合には、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき、所定の演算(式(7),(8))に従いトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成し、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、所定の演算に従い生成されるトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idよりも電動機1に流れる電流が増加するようなトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成する電流指令制御部170と、制限周波数指令ωiLと、電流iと、トルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idとに基づき、電圧指令V
*を生成するトルク制御部17とを備える。
【0065】
電動機1の回転方向に応じて周波数指令ωiを周波数制限することで、電動機1の正転時には、制限周波数指令ωiLに示される周波数を常に正値とし、電動機1の逆転時には、制限周波数指令ωiLに示される周波数を常に負値とすることができる。したがって、電動機1の回転方向が回転方向指令FRに示される方向と反対方向とならないようにすることができる。そのため、演算速度ωmcに誤差が生じたとしても、回転方向指令FRと逆方向のトルクを電動機1に出力させる電圧指令V
*が生成されることが無くなるので、後退が生じる可能性を低減することができる。
【0066】
また、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合に、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき所定の演算(式(7),(8))に従い生成されるトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idよりも電動機1に流れる電流が増加するようなトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成する。電動機1に流れる電流が増加することで、電動機1のトルクも増加するので、周波数制限により大きくなった電動機1で発生するすべりによるトルクの低下を補償することができ、車両の後退量の抑制を図ることができる。
【0067】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る電気車制御装置100Aの構成例を示す図である。
図4において、
図1と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0068】
図4に示す電気車制御装置100Aは、
図1に示す電気車制御装置100と比較して、電流指令制御部170を電流指令制御部170Aに変更した点と、すべり周波数指令生成部14をすべり周波数指令生成部14aに変更した点とが異なる。
【0069】
電流指令制御部170Aは、電流指令制御部170と比較して、乗算器140を削除した点と、電流指令生成部16を電流指令生成部16Aに変更した点と、乗算器180を追加した点とが異なる。
【0070】
本実施形態においては、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrが、電流指令生成部16Aおよびすべり周波数指令生成部14aに入力される。
【0071】
すべり周波数指令生成部14aは、
図8と同様に、式(6)に従い、すべり周波数指令ωsrを生成し、加算器15に出力する。
【0072】
電流指令生成部16Aは、入力されたトルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき、式(7)に従い磁束分電流指令Idを生成し、式(8)に従いトルク分電流指令Iqを生成する。電流指令生成部16Aは、生成した磁束分電流指令Idをトルク制御部17に出力し、生成したトルク分電流指令Iqを乗算器180に出力する。
【0073】
乗算器180は、ゲイン生成部130から制御量ゲインGtが入力され、電流指令生成部16Aから入力されたトルク分電流指令Iqに制御量ゲインGtを乗算し、制御量ゲインGtが乗算されたトルク分電流指令Iqを増量トルク分電流指令IqUとしてトルク制御部17に出力する。増量トルク分電流指令IqUと磁束分電流指令Idとに基づき、トルク制御部17により電圧指令V
*が生成される。
【0074】
上述したように、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合には、制御量ゲインGtは定数値1であるため、増量トルク分電流指令IqUは、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき、式(8)に従い算出されるトルク分電流指令Iqと同じである。
【0075】
一方、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、制御量ゲインGtは1よりも大きい所定値GtAであるため、増量トルク分電流指令IqUは、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき、式(8)に従い算出されるトルク分電流指令Iqよりも、制御量ゲインGtに応じて大きくなる。そのため、増量トルク分電流指令IqUを用いて生成される電圧指令V
*により電動機1に流れる電流は増加する。
【0076】
すなわち、本実施形態においては、電流指令生成部16Aおよび乗算器180から構成される電流指令制御部170Aの動作は、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合には、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき、所定の演算(式(7),(8))に従いトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成するものとなる。一方、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、電流指令制御部170Aの動作は、所定の演算に従い生成されるトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idよりも電動機1に流れる電流が増加するようなトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成するものとなる。具体的には、電流指令制御部170Aは、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき式(8)に従い生成されるトルク分電流指令Iqよりも制御量ゲインGtに応じて大きなトルク分電流指令Iqを生成する。
【0077】
そのため、第1の実施形態と同様に、車両の後退が検知された場合、周波数制限により大きくなった電動機1で発生するすべりによるトルクの低下を、トルク分電流指令Iqを大きくする(電動機1に流れる電流が増加するようなトルク分電流指令Iqを生成する)ことによる電動機1のトルクの増加で補償することができ、車両の後退量の抑制を図ることができる。
【0078】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態に係る電気車制御装置100Bの構成例を示す図である。
図5において、
図1と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0079】
図5に示す電気車制御装置100Bは、
図1に示す電気車制御装置100と比較して、電流指令制御部170を電流指令制御部170Bに変更した点と、すべり周波数指令生成部14をすべり周波数指令生成部14Bに変更した点とが異なる。
【0080】
電流指令制御部170Bは、電流指令制御部170と比較して、乗算器140を削除した点と、除算器190を追加した点と、電流指令生成部16を電流指令生成部16Bに変更した点とが異なる。
【0081】
本実施形態においては、トルク指令Tqrがすべり周波数指令生成部14Bおよび電流指令生成部16Bに入力され、磁束指令Ifrが除算器190に入力される。
【0082】
除算器190は、ゲイン生成部130から制御量ゲインGtが入力され、入力された磁束指令Ifrを制御量ゲインGtで除算する。除算器190は、制御量ゲインGtで除算された磁束指令Ifrを減衰磁束指令IfrDとしてすべり周波数指令生成部14Bおよび電流指令生成部16Bに出力する。
【0083】
すべり周波数指令生成部14Bは、トルク指令Tqrと、除算器190から入力された減衰磁束指令IfrDとに基づき、すべり周波数指令ωsrを生成する。具体的には、すべり周波数指令生成部14Bは、上述した式(6)において、磁束指令Ifrを減衰磁束指令IfrD(=磁束指令Ifr÷制御量ゲインGt)に置き換えて、すべり周波数指令ωsrを算出する。
【0084】
電流指令生成部16Bは、トルク指令Tqrと除算器190から入力された減衰磁束指令IfrDとに基づき、磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqを生成する。具体的には、電流指令生成部16Bは、上述した式(7)、(8)において、磁束指令Ifrを減衰磁束指令IfrD(=磁束指令Ifr÷制御量ゲインGt)に置き換えて、磁束分電流指令Idおよびトルク分電流指令Iqを算出する。
【0085】
上述したように、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合には、制御量ゲインGtは定数値1であるため、減衰磁束指令IfrD=磁束指令Ifrである。そのため、トルク指令Tqrおよび減衰磁束指令IfrDに基づき算出されるトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idは、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき式(7),(8)に従い算出されるトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idと同じである。
【0086】
一方、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、制御量ゲインGtは1よりも大きい所定値GtAであるため、減衰磁束指令IfrDは磁束指令Ifrよりも小さくなる。そのため、トルク指令Tqrおよび減衰磁束指令IfrDに基づき生成されるトルク分電流指令Iqは、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき式(8)に従い算出されるトルク指令Tqよりも、制御量ゲインGtに応じて大きくなり、減衰磁束指令IfrDに基づき生成される磁束分電流指令Idは、磁束指令Ifrに基づき式(7)に従い算出される磁束分電流指令Idよりも小さくなる。トルク分電流指令Iqが大きくなり、磁束分電流指令Idが小さくなると、トルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを用いて生成される電圧指令V
*により電動機1に流れる電流は大きくなる。
【0087】
すなわち、本実施形態においては、電流指令生成部16Bおよび除算器190から構成される電流指令制御部170Bの動作は、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合には、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき、所定の演算(式(7),(8))に従いトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成するものとなる。一方、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、電流指令制御部170Bの動作は、所定の演算に従い生成されるトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idよりも電動機1に流れる電流が増加するようなトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成するものとなる。具体的には、電流指令制御部170Bは、トルク指令Tqrおよび磁束指令Ifrに基づき式(8)に従い生成されるトルク分電流指令Iqよりも大きなトルク分電流指令Iqを生成し、磁束指令Ifrに基づき式(7)に従い生成される磁束分電流指令Idよりも小さな磁束分電流指令Idを生成する。
【0088】
そのため、第1の実施形態と同様に、車両の後退が検知された場合、周波数制限により大きくなった電動機1で発生するすべりによるトルクの低下を、トルク分電流指令Iqを大きくし、磁束分電流指令Idを小さくする(電動機1に流れる電流が増加するようなトルク分電流指令Iqおよび磁束分電流指令Idを生成する)ことによる電動機1のトルクの増加で補償することができ、車両の後退量の抑制を図ることができる。
【0089】
(第4の実施形態)
上述した第1から第3の実施形態においては、ゲイン生成部130は、制御量ゲインGtとして、後退検知信号BKが後退未検知を示す場合には、定数値1を出力し、後退検知信号BKが後退検知を示す場合には、所定値GtAを出力する例を説明した。すなわち、第1から第3の実施形態においては、制御量ゲインGtは、定数値1および所定値GtAの2値のうち、いずれか一方の値であったが、制御量ゲインGtを連続的に変化させてもよい。以下では、
図6を参照して、制御量ゲインGtを連続的に変化させるゲイン生成部130Cの構成例について説明する。なお、
図6において、
図3と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0090】
図6に示すゲイン生成部130Cは、
図3に示すゲイン生成部130と比較して、緩衝時間決定部132および緩衝部133を追加した点が異なる。
【0091】
緩衝時間決定部132は、後退検知信号BKが入力され、入力された後退検知信号BKに応じて緩衝時間FilTを決定し、緩衝部133に出力する。なお、緩衝時間FilTとは、後退検知信号BKの状態が遷移した際に、制御量ゲインGtを所定値GtAあるいは1まで変化させる時間である。
【0092】
緩衝部133は、切替器131の出力値GtB(1あるいは所定値GtA)が入力されると、緩衝時間決定部132から入力された緩衝時間FilTだけかけて、制御量ゲインGtとしての出力値を切替器131の出力値GtBまで(1から所定値GtAまで、あるいは、所定値GtAから1まで)連続的に変化させる。具体的には、緩衝部133は、例えば、後退検知信号BKの状態が後退未検知から後退検知に変化した場合、
図7に示すように、ランプ状あるいは1次遅れのフィルタ状の関数に従い、緩衝時間FilTだけかけて、制御量ゲインGtを1から所定値GtAまで連続的に変化させる。
【0093】
緩衝時間決定部132は、後退検知信号BKの状態が後退検知から後退未検知に変化した場合と、後退検知信号BKの状態が後退未検知から後退検知に変化した場合とで、緩衝時間FilTを変更してもよい。例えば、緩衝時間決定部132は、後退検知信号BKの状態が後退未検知から後退検知に変化した場合には、緩衝時間FilTを短くし、後退検知信号BKの状態が後退検知から後退未検知に変化した場合には、緩衝時間FilTを長くする。こうすることで、車両の後退が検知されると、急速にトルクを増やし、車両の後退が検知されなくなると、緩やかにトルクを減らすことができる。
【0094】
このように本実施形態においては、ゲイン生成部130Cは、制御量ゲインGtを変化させる時間である緩衝時間FilTを決定する緩衝時間決定部132と、切替器131の出力値が1と所定値GtAとの間で切り替わると、緩衝時間FilTをかけて、制御量ゲインGtを切替器131の出力値まで連続的に変化させる緩衝部133とを備える。
【0095】
そのため、トルク指令Tqr(第1の実施形態)、トルク分電流指令Iq(第2の実施形態)あるいは磁束指令Ifr(第3の実施形態)を、ステップ状ではなく緩やかに変化させることができるので、後退検知信号BKの状態の変化時のトルク衝動を抑制することができる。
【0096】
なお、上述した実施形態においては、電気車を駆動する電動機1を制御する電気車制御装置を例として説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、電動機による駆動対象が外力の影響を受けるシステムへの適用が可能である。例えば、本発明は、クレーンのように、重力に逆らって荷物を持ち上げるようなシステムに適用することも可能である。
【0097】
本発明を図面および実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形または修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形または修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各ブロックなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数のブロックを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。