特許第6703922号(P6703922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703922
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】芳香組成物
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/00 20060101AFI20200525BHJP
   A61L 9/12 20060101ALI20200525BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C11B9/00 Z
   A61L9/12
   A61L9/01 V
   A61L9/01 Q
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-193496(P2016-193496)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-53174(P2018-53174A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 厚
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼畑 美怜
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−179064(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0095097(US,A1)
【文献】 国際公開第01/062308(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 9/
A61L 9/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香料と溶剤とを含有する芳香組成物であって、
溶剤が、イソパラフィン系炭化水素、ジプロピレングリコールジメチルエーテルおよび3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールであり、
芳香組成物におけるイソパラフィン系炭化水素の含有量が60〜90質量%であり、ジプロピレングリコールジメチルエーテルの含有量が5〜20質量%であり、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの含有量が10質量%以下である、
ことを特徴とする芳香組成物。
【請求項2】
香料が油性香料である請求項1記載の芳香組成物。
【請求項3】
溶液状である請求項1または2記載の芳香組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の芳香組成物と、開口部を有する容器と、スティック状の揮散部材とを含んで構成され、
前記容器に、前記芳香組成物が入れられ、
前記揮散部材の少なくとも一部が前記芳香組成物に浸漬され、かつ前記揮散部材の少なくとも一部が前記開口部から空気中に露出可能に設置されている揮散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香組成物に関し、更に詳細には、多種の香料成分を可溶化するとともに、白濁や分離が生じず、透明で均一な溶液状態を維持できる芳香組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から使用されている液状の芳香剤は、香料を油性溶剤中に溶解したものと香料を界面活性剤を用いて水性溶剤中に分散させたものに大別できる。このうち、油性溶剤を用いる場合に多用されている溶剤としては、イソパラフィン系炭化水素を用いた技術が知られている(例えば、特許文献1)。イソパラフィン系炭化水素は、揮散速度において香料成分と大きく異なることなく、また、香料成分の多くを溶解することができるという長所を持つ。
【0003】
しかし、香料成分としては数十から数百種類の単品香料を調合した調合香料が用いられており、単品香料は極性の高いものから極性の低いものまで種々あり、香りの種類や調合により調合香料の極性自体が大きく変わる。イソパラフィン系溶剤は極性が低いことから、比較的極性の高い香料成分を溶解させることができず、このような香料成分を用いて芳香剤を調製した際に白濁や分離が生じるため、提供可能な香調が限定される場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開パンフレット第WO2009/107814号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明の課題は、イソパラフィン系溶剤を用いた場合であっても、多種の香料成分を可溶化するとともに、白濁や分離を生じず、透明で均一な溶液状態を維持できる芳香組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意探索を行っていたところ、イソパラフィン系炭化水素と、特定の構造の化合物を併用して芳香組成物とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は香料と溶剤とを含有する芳香組成物であって、
溶剤が、イソパラフィン系炭化水素と、下記の化学式(I)
【化1】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、低級アルキル基またはフェニル基
を示し、Rは炭素数1〜5の分岐していても良いアルキレン基を示し、nは1〜3の
自然数を示す)
で示される化合物を含有することを特徴とする芳香組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の芳香組成物は、多種の香料成分を可溶化するとともに、白濁や分離を生じず、透明で均一な溶液状態を維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の芳香組成物に用いられるイソパラフィン系炭化水素は、側鎖のあるヘプタン、オクタン、ノナン、ナフサ等の炭化水素の1種または2種以上が混合された溶剤である。このイソパラフィン系炭化水素の物性は特に限定されるものではないが、例えば、最終沸点が100〜360℃、好ましくは150〜200℃である。このようなイソパラフィン系炭化水素としては、例えば、アイソパー(ISOPAR)シリーズ(エクソンモービル社製)、IPソルベント(出光興産株式会社製)等として市販されている。これらイソパラフィン系炭化水素は、1種または2種以上を混合して使用しても良い。
【0010】
本発明の芳香組成物におけるイソパラフィン系炭化水素の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、50〜90質量%(以下、単に「%」という)が好ましく、特に60〜90%が好ましい。含有量が50%よりも少ないと、極性の低い成分が溶解することができない場合があり、90%よりも多いと香料に含まれる極性の高い成分を溶解することができず、組成物が白濁する場合がある。
【0011】
また、本発明において用いられる化学式(I)
【化2】
で示される化合物は、グリコールエーテル系溶剤であり比較的極性の高い溶剤である。この化学式(I)中、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を示す。RおよびRの低級アルキル基としては、分岐していても良い炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を挙げることができる。Rは炭素数1〜5の分岐していても良いアルキレン基を示す。Rにおける炭素数1ないし5のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等を挙げることができる。nは1〜3の自然数を示す。
【0012】
上記化学式(I)で示される具体的な化合物の例としては、プロピレングリコールジメチルエーテル(R、R=メチル基、R=プロピレン、n=1)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(R、R=メチル基、R=プロピレン、n=2)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(R=メチル基、R=エチレン、R=ブチル基、n=2)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(R、R=メチル基、R=プロピレン、n=3)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(R、R=ブチル基、R=エチレン、n=2)エチレングリコールモノフェニルエーテル(R=フェニル基、R=エチレン、R=H、n=1)等を挙げることができる。これらのうち、蒸気圧やにおいの点でも特に好ましいものとして、ジプロピレングリコールジメチルエーテルを挙げることができる。
【0013】
本発明の芳香組成物における化学式(I)で示される化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、1〜30%が好ましく、特に5〜20%が好ましい。含有量が1%よりも少ないと香料に含まれる極性の高い成分を溶解することができない場合があり、30%よりも多いと香料に含まれる極性の低い成分を溶解することができない場合があり、組成物が白濁する場合がある。
【0014】
また、本発明の芳香組成物に用いられる香料としては、特に限定されるものではないが、例えば、麝香、霊猫香、竜延香等の動物性香料、アビエス油、アクジョン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ページル油、ベルガモット油、パーチ油、ボアバローズ油、カヤブチ油、ガナンガ油、カプシカム油、キャラウェー油、カルダモン油、カシア油、セロリー油、シナモン油、シトロネラ油、コニャック油、コリアンダー油、クミン油、樟脳油、ジル油、エストゴラン油、ユーカリ油、フェンネル油、ガーリック油、ジンジャー油、グレープフルーツ油、ホップ油、レモン油、レモングラス油、ナツメグ油、マンダリン油、ハッカ油、オレンジ油、セージ油、スターアニス油、テレピン油等の植物性香料を挙げることができる。この香料として、合成香料又は抽出香料等の人工香料を用いることもでき、例えば、ピネン、リモネン等の炭化水素系香料、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、メントール、ボルネオール、ベンジルアルコール、アニスアルコール、βフェネチルアルコール等のアルコール系香料、アネトール、オイゲノール等のフェノール系香料、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド等のアルデヒド系香料、カルボン、メントン、樟脳、アセトフェノン、イオノン等のケトン系香料、γ―ブチルラクトン、クマリン、シネオール等のラクトン系香料、オクチルアセテート、ベンジルアセテート、シンナミルアセテート、プロピオン酸ブチル、安息香酸メチル等のエステル系香料等が挙げられる。これらの香料の中でも油性香料が好ましく、特に極性の高い香料成分を含有する油性香料が好ましい。また、これら香料は、2種以上を混合しても良い。
【0015】
本発明の芳香組成物における香料の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1〜30%が好ましく、特に1〜15%が好ましい。
【0016】
本発明の芳香組成物には、香料の選択性が広がるため、更に3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを10%以下、好ましくは0.1〜5%で含有させても良い。本発明の芳香組成物において、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールの含有量が10%より多いと3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールが空気中の水分を取り込んでしまうため白濁や分離をするため好ましくない。
【0017】
更に、本発明の芳香組成物においては、本発明の効果を妨げない範囲で、上記成分の他に、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等の溶剤、安定化剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、pH調整剤、色素等を適宜含有させても良い。
【0018】
本発明の芳香組成物は、上記各成分を常法に従い混合し、攪拌することにより製造できる。
【0019】
斯くして得られる本発明の芳香組成物は、極性の高い調合香料から極性の低い調合香料まで多種の香料成分を可溶化することができ、香調の選択性が広がるとともに、白濁や分離が生じず、透明で均一な溶液状態を維持できるものである。なお、香料成分が可溶化したかどうかは、香料成分をイソパラフィン系炭化水素、化学式(I)で示される化合物等と混合して本発明の芳香組成物を調製した際に、例えば、目視で白濁や分離が生じず、透明で均一な溶液状態となっていることを確認することにより判断できる。
【0020】
本発明の芳香組成物は、上記性質を有するため、芳香剤、消臭剤、防虫剤、忌避剤等の用途に使用することができる。
【0021】
また、本発明の芳香組成物は、白濁や分離が生じず、透明で均一な溶液状態を維持でき、香料を均一に揮散できるため、特に室内、玄関用の芳香剤に用いることが好ましい。本発明の芳香組成物を室内、玄関用の芳香剤とするためには、例えば、本発明の芳香組成物と、開口部を有する容器と、スティック状の揮散部材とを含んで構成され、前記容器に前記芳香組成物が入れられ、前記揮散部材の少なくとも一部が前記芳香組成物に浸漬され、かつ前記揮散部材の少なくとも一部が前記開口部から空気中に露出可能に設置されている揮散装置等を利用することができる。開口部を有する容器としては、例えば、ガラス製、樹脂製の瓶、皿等が挙げられる。容器の色は特に限定されないが、芳香組成物の量や色が容器の外からも確認できるため透明が好ましい。スティック状の揮散部材としては、あし製、ラタン製、繊維製等の棒、板等が挙げられる。
【0022】
この室内、玄関用の芳香剤は、これに用いられる本発明の芳香組成物が、白濁や分離が生じず、透明で均一な溶液状態を維持できるため、芳香の揮散が良く、見た目の変化もなく、長期間使用することができる。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0024】
実 施 例 1
揮散装置の作製:
表1に示す配合割合で各成分を容器に入れ、10分程度攪拌して、芳香組成物を調製した。得られた芳香組成物の65mlを上部が開口した容量95mlのガラス製容器に注ぎ、次に、容器口部からスティック状の揮散部材(合成繊維製:直径2.5mm、長さ85mm)を5本挿入し、揮散装置を得た。これを温度40度、湿度90%の状況下で静置し、芳香組成物の調製直後および揮散装置使用中(1日後、3日後)の容器内の芳香組成物について目視による外観観察を行った。結果を合わせて表1に示した。
【0025】
[外観評価]
(評価) (内容)
◎ : 透明で均一な溶液である
○ : 溶液が多少白濁している
× : 溶液が2層に分離している
【0026】
【表1】
※1:ISOPAR G(最終沸点177℃)、エクソンモービル社製
※2:ムスク系調合香料(油性)、日本フィルメニッヒ(株)製
※3:ムスク系調合香料(油性)、日本フィルメニッヒ(株)製
※4:ムスク系調合香料(油性)、日本フィルメニッヒ(株)製
【0027】
表1の結果の通り、本発明の揮散装置に入れられた本発明品の芳香組成物は、使用期間中も均一な溶液を保つことができた。一方、比較品のように、イソパラフィン系炭化水素のみを用いた芳香組成物や単に、香料の溶剤として知られている3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールのみを用いた芳香組成物では、油性香料を完全に溶解することができず、組成物には調製直後から分離や白濁が見られた。本発明品は比較品に比べ香料の選択制が高いことが示された。特にさらに3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールを加えた本発明品4から6については今回試したすべての香料で白濁、分離がなくさらに香料の選択性が高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の芳香組成物は、多種の香料成分を可溶化するとともに、白濁や分離を生じず、透明で均一な溶液状態を維持できるため、芳香剤、消臭剤、防虫剤、忌避剤等として有利に利用しうるものである。
以 上