(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記計算式を構築する際に、前記複数の推定値の平均値に基づいて導かれる第1係数を適用した第1計算式と、前記複数の推定値の最大値に基づいて導かれる第2係数を適用した第2計算式とを構築し、
前記応力の評価をする際に、
前記第1計算式と前記第2計算式とによって計算されるそれぞれの理論値を比較し、大きい値の前記理論値を選択し前記板状構造部材の応力を評価する、
請求項3に記載の構造部材の応力評価方法。
前記第1係数は、前記板状構造部材の降伏点近傍の複数の前記推定値に基づいて最も大きくなるよう選択され、前記第2係数は、前記板状構造部材の降伏点近傍の前記複数の推定値の最大値に基づいて最も大きくなるよう選択される、
請求項4に記載の構造部材の応力評価方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存の構造物を診断する実際の現場では、計測対象物の劣化が既に進行していること、作業者によって穿孔にばらつきがあること、現場で使用されるドリルが例えば3000rpm程度の低速回転でありドリルの穿孔によって残留応力が発生すること、等の複数の不確定要素があり精密な計測ができない。従って、非特許文献1から3に記載された穿孔法を既存の構造物を診断する現場レベルで適用することは困難であるという課題がある。
【0005】
本発明は、応力状態にある構造部材に穿孔し、生成された孔に生じる歪から応力を定量的に推定する構造部材の応力評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る構造部材の応力評価方法は、現場構造物を構成する板状構造部材の引張状態の部位における応力状態を評価する構造部材の応力評価方法であって、
前記構造部材の応力評価を行う箇所に複数の孔を穿孔する穿孔工程と、
穿孔後の孔の周囲の歪を計測する歪計測工程と、
前記歪計測工程で計測した歪に基づいて穿孔法によって応力を演算する応力演算工程と、
前記応力演算工程で演算した応力に対して、前記穿孔法で規定された穿孔条件と前記現場構造物に対して前記穿孔工程で穿孔する穿孔条件に基づいて予め得られた係数によって補正して補正応力を求める補正応力演算工程とを備え、
前記補正応力に基づいて構造部材に発生する応力を評価するものである。
【0007】
本発明はこのような構成により、引張応力状態の現場構造物を構成する板状構造部材に穿孔法により孔を穿孔し、穿孔法で規定された条件で得られる値と現場レベルの穿孔条件で得られる値から予め得られた係数によって現場で計測した歪に基づいて穿孔法により求められる応力を補正して補正応力を求めることにより、現場レベルで発生する誤差要因を補正して求める補正応力に基づいて構造部材に発生する応力を評価することができる。
【0008】
また、本発明は、前記構造部材が鉄筋コンクリート構造物における引張鉄筋であり、
前記引張鉄筋を被覆するコンクリートを除去する除去工程を備え、
前記穿孔工程では前記除去工程で露出した前記引張鉄筋に対して穿孔するようにしてもよい。
【0009】
また、本発明は、前記穿孔工程では、前記板状構造部材の引張状態の前記部位に対して複数箇所に穿孔し、
計測された複数の前記歪に基づいて前記板状構造部材に加わる応力の複数の推定値を算出し、
前記補正応力を求めるための複数の前記係数を算出し、
複数の前記係数の中から安全側に評価される1つの前記係数を選択し前記1つの係数を適用した計算式を構築し、
前記計算式に基づいて前記板状構造部材の応力を評価するようにしてもよい。
【0010】
また、本発明は、前記計算式を構築する際に、前記複数の推定値の平均値に基づいて導かれる第1係数を適用した第1計算式と、前記複数の推定値の最大値に基づいて導かれる第2係数を適用した第2計算式とを構築し、
前記応力の評価をする際に、
前記第1計算式と前記第2計算式とによって計算されるそれぞれの前記理論値を比較し、大きい値の前記理論値を選択し前記板状構造部材の応力を評価するようにしてもよい。
【0011】
また、本発明は、前記第1係数が、前記推定値に対して1.3倍の前記理論値となるように選択し、
前記第2係数が、前記推定値に対して1.1倍の前記理論値となるように選択するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明は、前記第1係数が、前記板状構造部材の降伏点近傍の複数の前記推定値に基づいて最も大きくなるよう選択され、前記第2係数が、前記板状構造部材の降伏点近傍の前記複数の推定値の最大値に基づいて最も大きくなるよう選択されるようにしてもよい。
【0013】
また、本発明はこのような構成により、引張応力状態の板状構造部材に孔を複数個所に穿孔して複数の箇所から複数の歪を計測するという統計的手法により、計測データを取得する際のデータのばらつきから生じる推定結果のばらつきを安全側に評価してデータを選択するため、構造部材に加わっている応力を安全側に評価すると共に応力状態に応じた補強対策を適切に行うことができる。
【0014】
また、本発明は、無応力状態の板状構造部材に孔を穿孔し、
穿孔終了時から十分な時間が経過した状態において前記板状構造部材に残留している残留歪を計測し、
前記残留歪に基づいて前記推定値を補償するようにしてもよい。
【0015】
本発明はこのような構成により、穿孔法の穿孔時に発生する穿孔熱で生じる残留歪を計測することにより、応力の推定値を補償し、計測対象物に加わっている応力の推定値をより正確に算出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る構造部材の応力評価方法によると、応力状態にある構造部材に穿孔し、生成された孔に生じる歪から応力を定量的に推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る構造部材の応力評価方法について説明する。
【0019】
[第1実施形態]
図1及び
図2に示されるように、計測対象物は、例えばシールドトンネル10に用いられるセグメント1である。セグメント1は、円形断面のトンネル壁の一部となる湾曲したブロックである。セグメント1は、鉄筋Sがコンクリートで被覆され補強された鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete:RC)構造を有している。セグメント1の鉄筋Sは、セグメント1に加わる主荷重を受け持つ主鉄筋S1と荷重を分散する配力鉄筋S2とを有する。主鉄筋S1は、帯状の平鋼(フラットバー:FB)である。主鉄筋S1は、引張鉄筋となる板状構造部材である。配力鉄筋S2は、鋼棒である。
【0020】
主鉄筋S1は、例えば厚さが数mm程度で、幅が数センチ程度の湾曲した帯状の板状体である。セグメント1は、並置された複数の主鉄筋S1と、複数の主鉄筋S1に対して格子状になるように配筋された複数の配力鉄筋S2とからなる鉄筋Sをコンクリート部2で被覆されることで生成される。即ちセグメント1は、主鉄筋S1がフラットバーのFBセグメントである。
【0021】
シールドトンネル10は、断面が円形のトンネルを掘削するシールドマシンが穿孔した孔に予め製造されたセグメント1を順次嵌め込むことで、トンネル壁が構築されて完成する。主鉄筋が平鋼であるセグメント1が使用されたシールドトンネルは、70年代から80年代に建設されたものがある。セグメント1の中には、地中の環境において経年的に劣化が進行し、補修が必要な時期が来ているものがある。一部のシールドトンネルでは、セグメント1に変形や腐食が発生している事例があり、将来的にシールドトンネルの構造物全体の耐力が低下する虞がある。そこで、既存の構造物に対して劣化度合いに応じた補強の必要性を判定する。
【0022】
図3に示されるように、鋼板Bの残留応力を計測するための穿孔法がある。穿孔法は、ドリルDで鋼板Bに小径の孔Hを空け、穿孔前後の孔Hの周囲に生じる歪を計測し、歪を応力に換算することで鋼板Bに加わっている応力を推定するものである。図示するように応力状態にある鋼板Bに孔Hを空けると、孔Hに加わっている応力が解放され、応力が加わっている方向に孔Hが引っ張られて孔Hが歪む。孔H周辺に生じる歪を計測し、応力に換算することで、孔Hの位置に加わっている応力を推定することができる。応力の換算方法は、非特許文献1〜3に記載された穿孔法における応力と歪の関係を示す弾性理論による。
【0023】
非特許文献1から3に記載のASTM規格E837−08の穿孔法では、穿孔ひずみゲージ法による残留応力計測のための標準試験法が記載されている。ASTM規格E837−08では、8段階の等しい深さステップで穿孔し、各段階で計測ひずみと計測穴深さを記録することを推奨している。これは、残留応力が深さ方向に本質的に均一かどうかを判断し、正確なデータを得る目的で行うものである。ASTM規格E837−08の穿孔法において穿孔に用いるドリルは、50,000rpm〜400,000rpmの高速エアタービンまたは電気モーターで駆動されるカーバイド製ドリルまたはエンドミルを使用している。
【0024】
穿孔法によるドリルは、位置調整自在な固定治具に固定され、固定治具は、後述するロゼットゲージ30の円と±0.004D以内の同芯度で穿孔できる能力を有している必要がある。また、穴の深さは±0.004D以内で制御できるものでなければならない。そしてドリルとロゼッタゲージ30とは、顕微鏡をセットして配置関係のアライメントが調整される。このように一般的に穿孔法は、実験室環境で計測対象物を精密に計測する場合に用いられる。
【0025】
しかし、既存の構造物を実際の現場で診断する際には、計測対象物の劣化が既に進行していること、作業者によって穿孔にばらつきがあること、様々な向きで設置された計測対象物に対して穿孔する必要があること、現場で使用されるドリルが例えば3000rpm程度の低速回転でありドリルの穿孔によって穿孔熱に基づく残留応力やドリルの押しつけによる残留応力が発生すること等の複数の不確定要素があり、精密な計測ができない。
【0026】
即ち実際の現場構造物に穿孔して計測された歪に基づいて計算された応力の値は、上記の不確定要素の影響によって実際に生じている応力の値よりも低い傾向がある。そこで、穿孔法で規定された穿孔条件で計測された歪値に基づいて計算された応力値と現場構造物に対して穿孔する穿孔条件に基づいて計測された歪に基づいて計算された応力値を予め得られた係数によって補正して補正応力を求める。
【0027】
上記補正応力を求める基準を定めるために、計測対象物である主鉄筋S1に複数の孔を穿孔して複数の歪値を計測し、得られた複数の応力推定値から統計的手法を用いて主鉄筋S1に加わっている応力を評価する手法を用いる。穿孔法は、引張側に応力が加わっている状態の計測対象物に対して適用される。セグメント1に加わっている引張側の応力を推定するために、セグメント1内部の主鉄筋S1に加わっている応力を穿孔によって推定する。
【0028】
セグメント1の主鉄筋S1に引張側の応力が加わっている状態で主鉄筋S1に穿孔する。これは、セグメント1の外側から力が加わり、セグメント1にセグメント1を広げる方向に曲げモーメントが加わっている状態である。セグメント1に加わる曲げモーメントは、主にシールドトンネルの周囲からの土圧によって発生する。計測対象となるセグメント1は、主に最も大きな曲げモーメントが加わると想定されるシールドトンネル10の天板側に位置するものである。
【0029】
現場における穿孔によって得られるデータから主鉄筋S1に加わっている応力を評価するために、先ず補正応力を計算するための基準となる指標を構築する。以下、指標を構築するために事前に行われる試験について説明する。
【0030】
図4に示されるように、試験用のセグメント1に荷重Pを与え、主鉄筋S1に引張方向の応力σtを発生させる。主鉄筋S1の下側のコンクリート部2にも引張方向の応力が発生する。主鉄筋S1は、セグメント1のコンクリート部2で覆われているので、コンクリート部2を引張応力が作用する側から除去し、主鉄筋S1の表面を露出させる。鉄筋コンクリート構造において引張方向に応力が発生しているコンクリートに生じる応力は無視される。そのため、コンクリート部2を除去して主鉄筋S1の表面を露出させた場合に、主鉄筋S1の応力状態は変化しないものと考える。
【0031】
荷重Pを与える位置、セグメント1の長さL、セグメント1の厚さtの関係に基づいてセグメント1の周方向に沿った位置におけるモーメントMが算出され、主鉄筋S1の周方向に沿った位置における応力の理論値σtが力学的関係により算出される。
【0032】
図5に示されるように、セグメント1の引張応力が作用する側からコンクリート部2を除去し、主鉄筋S1を露出させる。コンクリート部2には、例えばコア抜き用の工具を用いて、2か所の孔を連続させて長孔3を生成する。主鉄筋S1の表面を露出させた後、主鉄筋S1の表面に予め定められた所定の間隔W(例えば5cm)毎に歪を計測する後述のロゼットゲージ30を貼り付ける。ロゼットゲージ30は、例えば主鉄筋S1の中心軸Lに沿って貼り付ける。ロゼットゲージ30を貼り付けた箇所に従って主鉄筋S1の複数の箇所に孔を空ける。計測される歪値は、上記の理由によってばらつきが生じるため、孔を設ける箇所は例えば3点以上とする。
【0033】
このとき主鉄筋S1は、引張状態であるので、その後、孔が設けられることによって生じる歪を計測する。計測された歪値から主鉄筋S1に加わる応力を推定する。推定方法については以下に詳述する。
【0034】
図6に示されるように、歪ゲージには2次元平面内の3軸方向に単軸ゲージが配置されたロゼットゲージ30が用いられる。ロゼットゲージ30は、穿孔法専用に用いられる歪ゲージである。ロゼットゲージ30は、Yの字状に放射状に配置された3個の単軸ゲージ31〜33を有する。単軸ゲージ31はX方向の歪を計測するよう配置されている。単軸ゲージ32は、X方向に直交するY方向の歪を計測するよう配置されている。単軸ゲージ33は、X方向及びY方向に対して135°の方向をなす歪を計測するよう配置されている。
【0035】
単軸ゲージ31〜33の中心に対してドリルDで孔Hを空け、穿孔後の孔Hの周囲に生じる歪を計測する。ドリルDは、一般的な3000回転程度のものが用いられる。孔Hは、所定の穿孔速度V(mm/秒)で穿孔される。穿孔には所定の径K(mm)のドリルビットが使用される。穿孔速度Vとドリルビットの径Kは、主鉄筋S1の厚さ、材質等に基づいて試験的なデータに基づいて決定される。
【0036】
次に穿孔法で規定された応力の算出方法について説明する。穿孔法による応力の推定値σの算出は、弾性体の解放応力理論に従う。まず穿孔して生成された孔によって生じる歪値ε
mを計測する。計測された歪値ε
mから穿孔によって生じる後述の加工残留歪値ε´を減じて純歪値ε
rを算出する。加工残留歪値ε´については後に詳述する。算出された純歪値ε
rから弾性体に関する解放応力の理論に基づいて以下の式(1)に従って応力の推定値σに換算する。
【数1】
ただし、Eは、主鉄筋S1のヤング係数(N/mm
2)であり、K´
rNは、
図7に示す中心からの距離によって変化する係数で、添字Nはゲージ方向(X,Y,Z)であり、ε
rNは、主鉄筋S1の純歪で、添字Nはゲージ方向である。
【0037】
セグメント1に荷重Pを与え1箇所について複数の位置に穿孔するという応力解放試験を荷重Pの値を変更して行う。そして、計測された複数の歪値のデータから式(1)に基づいて複数の応力の推定値σを算出する。
図8及び
図9に示されるように、算出された推定値σと理論値σtとに基づいて相関関係を示す相関図を導く。
図8には、3回の穿孔の位置に対する3個の応力の推定値σがそれぞれの理論値σtに対応してプロットされている。
図9には、3回の穿孔の順番に対する3個の応力の推定値σがそれぞれの理論値σtに対応してプロットされている。
【0038】
上記の穿孔法で規定された精密な穿孔条件によれば、計測された歪に基づいて応力を演算すると、推定値σは理論値σtに近い値となる。しかし、図示するように、現場レベルの3個の穿孔による応力解放試験の結果には、ばらつきがある。試験結果より、応力の推定値σは、理論値σtより小さい値になる傾向がある。この理由として、現場レベルの上記不確定要素に加え、コンクリート部2をコア抜きしていない部分によって主鉄筋S1が拘束されること、主鉄筋S1の裏面がコンクリート部2の付着によって拘束されること等の要因が挙げられる。
【0039】
特に、主鉄筋S1に使用されているSS400材の降伏応力245N/mm
2以上の領域では、塑性領域となっているため、プロットされる応力解放試験の結果は降伏応力付近に集中している。ここで、補強が必要と判断される対象となる主鉄筋S1は、降伏応力付近のものであるので、試験の結果、降伏応力が算出された主鉄筋S1については、特に注意が必要となる。上記のように推定値σは、理論値σtより小さい値になる傾向があるので、推定値σから理論値σtを補正するために推定値σに乗算される係数が必要である。即ち、演算した応力の推定値σに対して、穿孔法で規定された穿孔条件と現場構造物に対して穿孔工程で穿孔する穿孔条件に基づいて予め得られた係数によって補正して補正応力を求める。
【0040】
図10に示されるように、3回の穿孔を行って得られた3個の応力の推定値σの平均値σvを求める。3個の応力の推定値σの平均値σvを求めることによって、上述した不確定要素によるばらつきが低減される。図示するように、算出された推定値σの平均値σvと理論値σtとの相関図が得られる。推定値σの平均値σvに乗算されて理論値σtを算出する係数a(割線勾配)が算出される。そして、推定値σの平均値σvと理論値σtとの関係式
σt=a×σv (2)
が導かれる。係数aは、算出される複数の値の中から安全側に評価される1つの値が選択される。即ち、なるべく大きい推定値σを導く係数aを選択するのが望ましい。この計算式は一例であり、推定値σと理論値σtとの関係が導かれればどのような計算式を用いてもよい。
【0041】
係数aは、主鉄筋S1の降伏点245N/mm
2付近で得られた推定値σの平均値に基づいて算出される。降伏点近傍の平均値データから、複数の係数a=1、a=1.2、a=1.3が算出される。係数aは、試験全体の結果に基づくとa=1.4と算出される。しかし、係数aを1.4とすると、降伏応力付近の主鉄筋S1に対して必要以上に安全側に評価することになる。
【0042】
そこで、降伏点近傍の試験結果に基づいて、安全側に評価し、この中で推定値σの平均値σvに対する最も大きい理論値の値を導くa=1.3を第1係数として選択する。これにより、推定値σの平均値σvから理論値σtを算出するための第1計算式
σt=1.3×σv (3)
が得られる。
【0043】
また、3回の穿孔を行って得られた3個の応力の推定値σのうち最大値に着目し、最大値に基づいた評価も行う。
図11に示されるように、3回の穿孔を行って得られた3個の応力の推定値σの最大値σmを求める。図示するように、算出された推定値σの最大値σmと理論値σtとの相関図が得られる。推定値σに乗算されて理論値σtを算出する第2係数aが算出される。図示するように、最大値σmに基づくグラフでは、降伏点付近の点はσt=σの割線上に集中していることがわかる。しかし、ここでは安全側に判断して降伏点付近で最も勾配が大きくなるa=1.1を第2係数として選択する。これにより、推定値σの最大値σmから理論値σtを算出するための第2計算式
σt=1.1×σm (4)
が得られる。そして、1.3σvと1.1σmとを比較して、安全側に判断して大きい方の値を主鉄筋S1に生じている応力と評価する。
【0044】
次に現場のシールドトンネル10において、天板側のセグメント1の主鉄筋S1に対して穿孔法による以下の計測を上記基準に従って行う。主鉄筋S1の応力評価を行う箇所に複数の孔を穿孔する穿孔工程を行う。穿孔後の孔Hの周囲の歪を計測する歪計測工程を行う。歪計測工程で計測した歪に基づいて穿孔法によって応力を演算する応力演算工程を行う。そして、応力演算工程で演算した応力に対して、穿孔法で規定された穿孔条件と主鉄筋S1に対して穿孔工程で穿孔する穿孔条件に基づいて予め得られた係数によって補正して補正応力を求める補正応力演算工程を行って補正応力に基づいて構造物の応力を評価する。
【0045】
このとき、3回の穿孔を行って得られた3個の応力の推定値σの平均値σvを第1係数で1.3倍として主鉄筋S1に生じている応力を1.3σvと補正する。次に、3個の応力の推定値σの最大値σmを第2係数で1.1倍として主鉄筋S1に生じている応力を1.1σmと補正する。そして、1.3σvと1.1σmとを比較して、安全側に判断して大きい方の値を主鉄筋S1に生じている応力と評価する。これによりセグメント1の応力を評価することができる。
【0046】
この評価方法により、主鉄筋S1に生じている応力が降伏点付近であると判断された場合、計測対象となったセグメント1に対して補強対策を行う。また、主鉄筋S1に生じている応力が降伏点付近にないと評価されても劣化の進行具合に応じて計測対象となったセグメント1に対して補強対策を行う。
【0047】
上述した構造部材の応力評価方法によると、既存の構造物の構造部材に加わっている応力を穿孔法によって評価することができる。この構造部材の応力評価方法は、穿孔時の作業、孔の位置、ドリルの性能等の不確定要素で生じる計測データのばらつきを統計的手法の適用により低減することができる。また、構造部材の応力評価方法によると、構造部材に加わっている応力を計測データの平均値及び計測データの最大値の両方に基づいて評価し、より安全性が高い値を採用することにより、評価結果の安全性を高めることができる。
【0048】
[第2実施形態]
第1実施形態では、計測対象物に孔を設けて孔の周囲に生じる歪を計測することによって計測対象物に加わっている応力を評価する穿孔法を提案した。第2実施形態では、ドリルDで孔を穿孔する際に生じる穿孔熱の影響によって発生する残留応力を補償する評価方法を提供する。
【0049】
計測対象物における穿孔時の温度変化の影響を計測するため、計測対象物の試験片に応力が加わっていない無応力状態で試験を行う。試験片は、厚さ数mmの主鉄筋S1に用いられる鋼板である。ドリルDの径K及び穿孔速度Vは、第1実施形態と同じ条件であり、試験的なデータに基づいて決定される。ドリルDによって穿孔すると摩擦熱(穿孔熱)が発生する。
【0050】
図12に示されるように、試験片S5に穿孔される孔Hの近傍に1対の単軸ゲージ35,36と1対の熱電対T1,T2を設ける。1対の熱電対T1,T2でドリルDによる穿孔開始から経時的な温度変化を計測する。1対の単軸ゲージ35,36でドリルDによる穿孔開始から経時的な歪値(加工残留歪値ε´)の変化を計測する。
【0051】
図13に示されるように、ドリルDによる穿孔開始から経時的な温度変化に比例して歪が発生する。穿孔終了時から時間が十分に経過すると試験片が冷えて初期の一定の温度になる。この状態では、穿孔前には無かった一定量の加工残留歪値ε´が残留する。第1実施形態で計測される歪値ε
mから加工残留歪値ε´を引いて補償する。1対の単軸ゲージ35,36で計測される加工残留歪値ε´は、b:温度係数、T:温度とすると、
ε´=b×T (5)
の関係が得られる。温度係数bは、試験的なデータに基づいて決定される。上記加工残留歪値ε´は、単軸ゲージ35,36による計測例を示したが、ロゼットゲージ30を用いる場合にも同様に、加工残留歪値ε´が試験的なデータに基づいて決定される。
【0052】
第2実施形態に係る構造部材の応力評価方法によると、計測対象物に加わっている応力の推定値σをより正確に算出することができる。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0054】
例えば、上記実施形態では、板状構造部材としてフラットバーを例示したが、上記の構造部材の応力評価方法は他の板状構造部材の応力評価にも適用できる。他の板状構造部材は、例えばH鋼のウェブ部分としてもよい。その他、上記の応力評価方法は、応力状態にある板状構造部材であればどのようなものに適用してもよい。