特許第6703947号(P6703947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703947
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】がん転移の阻害
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20200525BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20200525BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20200525BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20200525BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61K39/395 V
   A61K31/7088
   A61K48/00
   A61P35/04
   C12N15/113 110
   C12Q1/68ZNA
   G01N33/574 A
【請求項の数】12
【全頁数】63
(21)【出願番号】特願2016-543993(P2016-543993)
(86)(22)【出願日】2014年9月18日
(65)【公表番号】特表2016-533388(P2016-533388A)
(43)【公表日】2016年10月27日
(86)【国際出願番号】US2014056379
(87)【国際公開番号】WO2015042303
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2017年9月19日
(31)【優先権主張番号】61/879,514
(32)【優先日】2013年9月18日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】マッサーグ, ジョアン
(72)【発明者】
【氏名】バリエンテ, マニュエル
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 Cancer Res.,2013年 2月,73(3 Supplement),Abstract A29,DOI:10.1158/1538-7445.TIM2013-A29
【文献】 Genome Biology,2006年 5月30日,7,216,doi:10.1186/gb-2006-7-5-216
【文献】 Clin Cancer Res.,2012年 4月 1日,18(7),p.1914-1924
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 39/00
A61K 31/7105
A61K 48/00
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における脳または骨へのがんの転移拡散を阻害するための組成物であって、該組成物は、免疫グロブリンまたは干渉RNAからなる群より選択される治療量のL1CAM阻害剤を含み、該対象における該がんの細胞がセルピンを過剰発現していると決定されていることを特徴とし、該セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2であり、該L1CAM阻害剤が、血管のL1CAM媒介性利用、L1CAMと内皮細胞の相互作用、L1CAM媒介性腫瘍成長、L1CAM二量体化、および、ERK、MAPK、AKTもしくはFAKのL1CAM媒介性リン酸化を阻害する組成物。
【請求項2】
前記がんが乳がんである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記がんが肺がんである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
セルピンの発現を、がんに罹患している対象の処置のための指標とする方法であって、該セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2であり、該がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するステップを含み、該セルピンの過剰発現は、該対象の、該がんの転移拡散のリスクがより高いことを示し、該セルピンの過剰発現は、転移の成長または発生を阻害し、それにより、該がんの転移拡散の該リスクを低下させる、免疫グロブリンまたは干渉RNAからなる群より選択される治療量のL1CAM阻害剤が実施または推奨されることを示すことを特徴とし、該リスクが対象の脳または骨への転移拡散のリスクであり、該L1CAM阻害剤が、血管のL1CAM媒介性利用、L1CAMと内皮細胞の相互作用、L1CAM媒介性腫瘍成長、L1CAM二量体化、および、ERK、MAPK、AKTもしくはFAKのL1CAM媒介性リン酸化を阻害する方法。
【請求項5】
前記がんが乳がんである、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記がんが肺がんである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
セルピンの発現を、対象のがんの転移拡散のリスクが高いかどうかの指標とする方法であって、該セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2であり、該がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するステップを含み、該セルピンの過剰発現が、該対象の、該がんの転移拡散のリスクが高いこと、そして、免疫グロブリンまたは干渉RNAからなる群より選択されるL1CAM阻害剤が該がんの転移拡散を阻害する可能性が高いことを示し、該対象または医療従事者に決定の結果および関連するリスクが通知されることを特徴とし、該リスクが対象の脳または骨への転移拡散のリスクであり、該L1CAM阻害剤が、血管のL1CAM媒介性利用、L1CAMと内皮細胞の相互作用、L1CAM媒介性腫瘍成長、L1CAM二量体化、および、ERK、MAPK、AKTもしくはFAKのL1CAM媒介性リン酸化を阻害する方法。
【請求項8】
前記がんが乳がんである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記がんが肺がんである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
がんを有する対象において、脳または骨への該がんの転移拡散を阻害するための組成物であって、該組成物は、免疫グロブリンまたは干渉RNAからなる群より選択される治療量のL1CAM阻害剤を含み、該対象における該がんの細胞が、(i)セルピンを過剰発現しており、該セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2であり、(ii)L1CAMを発現していると決定されていることを特徴とし、該L1CAM阻害剤が、血管のL1CAM媒介性利用、L1CAMと内皮細胞の相互作用、L1CAM媒介性腫瘍成長、L1CAM二量体化、および、ERK、MAPK、AKTもしくはFAKのL1CAM媒介性リン酸化を阻害する組成物。
【請求項11】
前記がんが乳がんである、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記がんが肺がんである、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、その内容の全体が明細書に参考として援用される2013年9月18日に出願された米国仮出願第61/879514号に対する優先権を主張する。
【0002】
助成金情報
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)により認定された助成金番号CA163167−02およびCA129243−07の下で政府支援によりなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
1.序論
本発明は、対象におけるがんの転移拡散を阻害するための方法および組成物に関する。特定の実施形態では、本発明は、がん患者の、がんの転移拡散が発生するリスクが高いかどうかを決定するため、および、その場合に、患者を、転移拡散のリスクが低下するように治療するための方法および材料を提供する。
【背景技術】
【0004】
2.発明の背景
転移はがんによる死亡の主要な原因であるが、生物学的には、転移はどちらかというと非効率的なプロセスである。固形腫瘍を離れた大多数のがん細胞は消滅し、この減少の大半は、循環がん細胞が遠隔器官に浸潤すると起こる(Chambersら、2002年;Fidler、2003年;Nguyenら、2009年a;Schreiberら、2011年;ValastyanおよびWeinberg、2011年)。転移開始活性を実験的に富化させた細胞株でさえ、それらが浸潤した器官において大きな減少にさらされる。宿主実質における生存シグナルの欠如、がん幹細胞を支持する間質の欠乏、および自然免疫への過剰曝露が、播種性がん細胞の排除の原因であると仮定される。最近の研究により、腫瘍細胞の分散の初期のステップの機構およびマクロ転移増大の後期の機構が明らかになったが(ValastyanおよびWeinberg、2011年;VanharantaおよびMassague、2013年)、生命維持に必要な器官における播種性がん細胞の生存および適応を決定する因子が何であるかは依然として不明である。
【0005】
これらの因子を同定することは、脳転移の場合に特に重要である。脳での再発は最も大きな被害を及ぼすがんの合併症であり、典型的な特質として、急性神経性窮迫および高い死亡率を伴う(GavrilovicおよびPosner、2005年;Lutterbachら、2002年)。脳転移の発生率は全ての原発性脳腫瘍を合わせた発生率の10倍であり、今も上昇している(Maherら、2009年)。肺がんおよび乳がんは脳転移の上位の出所であり、合わせると症例のほぼ3分の2を占める。黒色腫、結腸直腸がんおよび腎細胞癌が残りの大部分を占める(Barnholtz−Sloanら、2004年;Schoutenら、2002年)。しかし、実験モデルにおいて示された通り、浸潤性がん細胞の減少速度が特に高いのは脳内である(Heynら、2006年;Kienastら、2010年;Pereraら、2012年;Steegら、2011年)。
【0006】
この現象と一致して、脳転移は、診療所におけるがんの後期合併症になる傾向があり(Feldら、1984年;Karrisonら、1999年;Schmidt−Kittlerら、2003年)、他の器官に容易に転移する遺伝子操作された腫瘍を有するマウスにおいては稀である(Franciaら、2011年;Meuwissenら、2003年;Moodyら、2002年;Regalesら、2009年;Siegelら、2003年;Winslowら、2011年)。脳転移が最終的に出現した場合、病変は高度に侵攻性であり、療法に対して抵抗性である。この点はHER2+乳がんの脳転移の発生率が現在上昇していることにより劇的に例示され、該疾患は、HER2腫瘍タンパク質を標的とする抗体が頭蓋外疾患の制御には有効であるが脳転移に対しては有効でないものである(Leyland−Jones、2009年;LinおよびWiner、2007年;Palmieriら、2007年;Sledge、2011年;Stemmlerら、2006年)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
脳における転移細胞の大きな減少および診療所における脳転移の後期の出現により、循環がん細胞がこの器官におけるコロニー形成において主要なハードルに面することが立証される。1つの障害は、脳毛細血管壁の緊密性、血液脳関門(BBB)である。がん細胞はBBBを渡るために特別な機構を必要とし、このプロセスの分子メディエーターが最近同定された(Bosら、2009年;Liら、2013年)。しかし、細胞増殖を支持する間質シグナルおよび細胞自律活性が存在するにもかかわらず(Kimら、2011年;Nguyenら、2009年a;Qianら、2011年;Seikeら、2011年)、BBBを通過する大多数のがん細胞は死滅する(Heynら、2006年;Kienastら、2010年;Pereraら、2012年;Steegら、2011年)。興味深いことに、脳への浸潤に成功したがん細胞は、脳毛細血管の表面に接着し、血管周囲に溝として成長する顕著な特徴を示す。このように脈管構造を利用することができないがん細胞はまた、よく育つことができない(Kienastら、2010年)。BBBを通過する大多数のがん細胞を死滅させるものは何か、および生存する少数の細胞が脈管構造を利用することを可能にするものは何かが生物学的および臨床的関心に関する問題である。
【0008】
3.発明の概要
本発明は、がん患者の、がんの転移拡散が発生するリスクが高いかどうかを決定するため、および、患者のリスクが高い場合に、患者を、転移のリスクが低下するように治療するための方法および組成物に関する。本発明は、少なくとも一部において、がん細胞によるセルピンの過剰発現およびセルピン分泌ならびにL1CAM媒介性血管利用(cooption)が肺がんおよび乳がんの脳への転移を促進するという発見、およびセルピンまたはL1CAMの拮抗作用が転移を減少させるという発見に基づく。
【0009】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、がんを有する対象の、がんの転移を有するまたはそれが発生するリスクが高いかどうかを決定するための方法および組成物であって、がんの細胞がセルピンを過剰発現し、かつ/または分泌するかどうかを決定するステップを含む方法および組成物を提供し、ここで、がん細胞がセルピンを過剰発現し、かつ/または分泌している場合、対象の、がんの転移を有するまたはそれが発生するリスクが高い。ある特定の非限定的な実施形態では、前記対象は、脳への転移を有するまたはそれが発生するリスクが高い。
【0010】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、セルピンを過剰発現し、かつ/または分泌するがんを有する対象を処置するための方法および組成物を提供する。ある特定の非限定的な実施形態では、血管利用に関連する細胞接着分子の活性が阻害される。例えば、L1CAMの活性が阻害される。他の非限定的な実施形態では、セルピン自体が阻害される。
【0011】
ある特定の非限定的な実施形態として、以下が挙げられる。
がんを有する対象において、がんの転移拡散を阻害する方法であって、がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するステップと、細胞がセルピンを過剰発現している場合に、対象を治療量のL1CAM阻害剤を用いて処置するステップとを含む方法。
【0012】
−セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、上記の方法。
【0013】
−がんが乳がんである、上記の方法。
【0014】
−がんが肺がんである、上記の方法。
【0015】
−L1CAM阻害剤が免疫グロブリンである、上記の方法。
【0016】
−L1CAM阻害剤が干渉RNAである、上記の方法。
【0017】
−阻害される転移が脳への転移である、上記の方法。
【0018】
−阻害される転移が肺への転移である、上記の方法。
【0019】
−阻害される転移が肝臓への転移である、上記の方法。
【0020】
−阻害される転移が骨への転移である、上記の方法。
【0021】
がんに罹患している対象を処置する方法であって、(i)対象の、がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定するステップであって、がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定することを含み、セルピンの過剰発現が、対象の、がんの転移拡散のリスクがより高いことを示すステップと、(ii)対象の転移拡散のリスクが高い場合に、転移の成長または発生を阻害し、それにより、がんの転移拡散のリスクを低下させる治療モダリティを実施または推奨するステップとを含む方法。
【0022】
−セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、上記の方法。
【0023】
−がんが乳がんである、上記の方法。
【0024】
−がんが肺がんである、上記の方法。
【0025】
−リスクが脳への転移のリスクである、上記の方法。
【0026】
−リスクが肺への転移のリスクである、上記の方法。
【0027】
−リスクが肝臓への転移のリスクである、上記の方法。
【0028】
−リスクが骨への転移のリスクである、上記の方法。
【0029】
対象の、がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定する方法であって、がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するステップであって、セルピンの過剰発現が、対象の、がんの転移拡散のリスクがより高いことを示すステップと、対象または医療従事者に決定の結果および関連するリスクを通知するステップとを含む方法。
【0030】
−セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、上記の方法。
【0031】
−がんが乳がんである、上記の方法。
【0032】
−がんが肺がんである、上記の方法。
【0033】
−リスクが脳への転移のリスクである、上記の方法。
【0034】
−リスクが肺への転移のリスクである、上記の方法。
【0035】
−リスクが肝臓への転移のリスクである、上記の方法。
【0036】
−リスクが骨への転移のリスクである、上記の方法。
【0037】
がんを有する対象の、がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定するためのキットであって、がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための手段と、セルピンの過剰発現が、対象の、がんの転移拡散のリスクがより高いことを示すことを示す使用説明書とを含むキット。
【0038】
−セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、上記のキット。
【0039】
−細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための手段が、免疫グロブリンまたはその断片を含む、上記のキット。
【0040】
−細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための手段が、PCRプライマーの対を含む、上記のキット。
【0041】
がんを有する対象において、がんの転移拡散を阻害する方法であって、がんの細胞が、(i)セルピンを過剰発現しているかどうか、および(ii)L1CAMを発現しているかどうかを決定するステップと、細胞がセルピンを過剰発現しており、かつL1CAMを発現している場合に、対象を治療量のL1CAM阻害剤を用いて処置するステップとを含む方法。
【0042】
−セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、上記の方法。
【0043】
−がんが乳がんである、上記の方法。
【0044】
−がんが肺がんである、上記の方法。
【0045】
−L1CAM阻害剤が免疫グロブリンである、上記の方法。
【0046】
−L1CAM阻害剤が干渉RNAである、上記の方法。
【0047】
−阻害される転移が脳への転移である、上記の方法。
【0048】
−阻害される転移が肺への転移である、上記の方法。
【0049】
−阻害される転移が肝臓への転移である、上記の方法。
【0050】
−阻害される転移が骨への転移である、上記の方法。
【0051】
がんを有する対象の、がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定するためのキットであって、がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための手段と、セルピンの過剰発現が、対象の、がんの転移拡散のリスクがより高いことを示すことを示す使用説明書とを含むキット。
【0052】
−セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、上記のキット。
【0053】
−細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための手段が、免疫グロブリンまたはその断片を含む、上記のキット。
【0054】
−細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための手段が、PCRプライマーの対を含む、上記のキット。
【0055】
−使用説明書が、対象のがん細胞がセルピンを過剰発現している場合にはL1CAM阻害剤を用いて対象を処置するべきであるという推奨を含む、上記のキット。
【0056】
がんを有する対象の、がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定するためのキットであって、がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうか、およびL1CAMを発現しているかどうかを決定するための手段と、セルピンの過剰発現が、対象の、がんの転移拡散のリスクがより高いことを示し、L1CAMの発現が、リスクがより高い対象にL1CAM阻害剤療法から利益を受け得ることを示すことを示す使用説明書とを含むキット。
【0057】
−セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、上記のキット。
【0058】
−細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための手段が、免疫グロブリンまたはその断片を含む、上記のキット。
【0059】
−細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための手段が、PCRプライマーの対を含む、上記のキット。
【0060】
−細胞がL1CAMを発現しているかどうかを決定するための手段が、免疫グロブリンまたはその断片を含む、上記のキット。
【0061】
−細胞がL1CAMを発現しているかどうかを決定するための手段が、PCRプライマーの対を含む、上記のキット。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
対象におけるがんの転移拡散を阻害する方法であって、該がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するステップと、該細胞が該セルピンを過剰発現している場合に、該対象を治療量のL1CAM阻害剤を用いて処置するステップとを含む方法。
(項目2)
前記セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記がんが乳がんである、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記がんが肺がんである、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記L1CAM阻害剤が免疫グロブリンである、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記L1CAM阻害剤が干渉RNAである、項目1に記載の方法。
(項目7)
阻害される前記転移が脳への転移である、項目1に記載の方法。
(項目8)
阻害される前記転移が肺への転移である、項目1に記載の方法。
(項目9)
阻害される前記転移が肝臓への転移である、項目1に記載の方法。
(項目10)
阻害される前記転移が骨への転移である、項目1に記載の方法。
(項目11)
がんに罹患している対象を処置する方法であって、(i)該対象の、該がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定するステップであって、該がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定することを含み、該セルピンの過剰発現が、該対象の、該がんの転移拡散のリスクがより高いことを示すステップと、(ii)該対象の転移拡散のリスクが高い場合に、転移の成長または発生を阻害し、それにより、該がんの転移拡散の該リスクを低下させる治療モダリティを実施または推奨するステップとを含む方法。
(項目12)
前記セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記がんが乳がんである、項目11に記載の方法。
(項目14)
前記がんが肺がんである、項目11に記載の方法。
(項目15)
前記リスクが、脳への転移のリスクである、項目11に記載の方法。
(項目16)
前記リスクが、肺への転移のリスクである、項目11に記載の方法。
(項目17)
前記リスクが、肝臓への転移のリスクである、項目11に記載の方法。
(項目18)
前記リスクが、骨への転移のリスクである、項目11に記載の方法。
(項目19)
対象の、がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定する方法であって、該がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するステップであって、該セルピンの過剰発現が、該対象の、該がんの転移拡散のリスクが高いことを示すステップと、該対象または医療従事者に決定の結果および関連するリスクを通知するステップとを含む方法。
(項目20)
前記セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記がんが乳がんである、項目19に記載の方法。
(項目22)
前記がんが肺がんである、項目19に記載の方法。
(項目23)
前記リスクが、脳への転移のリスクである、項目19に記載の方法。
(項目24)
前記リスクが、肺への転移のリスクである、項目19に記載の方法。
(項目25)
前記リスクが、肝臓への転移のリスクである、項目19に記載の方法。
(項目26)
前記リスクが、骨への転移のリスクである、項目19に記載の方法。
(項目27)
がんを有する対象において、該がんの転移拡散を阻害する方法であって、該がんの細胞が、(i)セルピンを過剰発現しているかどうか、および(ii)L1CAMを発現しているかどうかを決定するステップと、該細胞が該セルピンを過剰発現しており、かつL1CAMを発現している場合に、該対象を治療量のL1CAM阻害剤を用いて処置するステップとを含む方法。
(項目28)
前記セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、項目27に記載の方法。
(項目29)
前記がんが乳がんである、項目27に記載の方法。
(項目30)
前記がんが肺がんである、項目27に記載の方法。
(項目31)
前記L1CAM阻害剤が免疫グロブリンである、項目27に記載の方法。
(項目32)
前記L1CAM阻害剤が干渉RNAである、項目27に記載の方法。
(項目33)
阻害される前記転移が脳への転移である、項目27に記載の方法。
(項目34)
阻害される前記転移が肺への転移である、項目27に記載の方法。
(項目35)
阻害される前記転移が肝臓への転移である、項目27に記載の方法。
(項目36)
阻害される前記転移が骨への転移である、項目27に記載の方法。
(項目37)
がんを有する対象の、該がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定するためのキットであって、該がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための手段と、該セルピンの過剰発現が、該対象の、該がんの転移拡散のリスクがより高いことを示すことを示す使用説明書とを含むキット。
(項目38)
前記セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、項目37に記載のキット。
(項目39)
細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための前記手段が、免疫グロブリンまたはその断片を含む、項目37に記載のキット。
(項目40)
細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための前記手段が、PCRプライマーの対を含む、項目37に記載のキット。
(項目41)
前記使用説明書が、前記対象の前記がん細胞がセルピンを過剰発現している場合にはL1CAM阻害剤を用いて該対象を処置するべきであるという推奨を含む、項目37に記載のキット。
(項目42)
がんを有する対象の、該がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定するためのキットであって、該がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうか、およびL1CAMを発現しているかどうかを決定するための手段と、該セルピンの過剰発現が、該対象の、該がんの転移拡散のリスクがより高いことを示し、L1CAMの発現が、リスクがより高い対象がL1CAM阻害剤療法から利益を受け得ることを示すことを示す使用説明書とを含むキット。
(項目43)
前記セルピンがニューロセルピン、セルピンB2、セルピンD1またはセルピンE2である、項目42に記載のキット。
(項目44)
細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための前記手段が、免疫グロブリンまたはその断片を含む、項目42に記載のキット。
(項目45)
細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定するための前記手段が、PCRプライマーの対を含む、項目42に記載のキット。
(項目46)
細胞がL1CAMを発現しているかどうかを決定するための前記手段が、免疫グロブリンまたはその断片を含む、項目42に記載のキット。
(項目47)
細胞がL1CAMを発現しているかどうかを決定するための前記手段が、PCRプライマーの対を含む、項目42に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1A図1A〜Iは、PA阻害性セルピンと脳転移表現型の関連性を示す図である。(A)脳転移性ではない対応物におけるレベルと比較した脳転移細胞株におけるセルピンmRNAレベルを示す。qRT−PCR値は、少なくとも3つの独立した反応の平均である。転移細胞の供給源が示されている。TN、トリプルネガティブ乳がん;ER−、エストロゲン受容体陰性、PR−、プロゲステロン受容体陰性。(B)親MDA231細胞株および骨、肺、または脳への転移性トロピズムを有する誘導体における、示されているセルピンのqRT−PCR分析を示す。各グラフ内の棒は、左から右に、親、骨転移、肺転移、および脳転移である。エラーバー、95%信頼区間。(C)異なるKrasG12D;p53−/−マウス肺がん細胞株を接種した免疫適格性マウス由来の脳の代表的なex vivo生物発光(BLI)画像を示す。脳転移が発生しているマウスの百分率および平均BLI光子束シグナルが示されている。n=10。(D)qRTPCR分析に基づいた、KrasG12D;p53−/−誘導体におけるセルピンmRNA発現のヒートマップを示す。(E)セルピン−PA−プラスミンカスケードの要約を示す。(F)示されている細胞株の細胞培養上清によるプラスミノーゲンのプラスミンへの変換の阻害を示す。プラスミン活性を発色アッセイによって決定した。データは、3連の実験からの平均±SEMである。(G)原発腫瘍におけるSERPINB2 mRNAレベルおよびSERPINI1 mRNAレベルに基づいて分類された肺腺癌106症例における無脳転移生存期間のカプラン・マイヤー解析を示す。P値はコックス比例ハザードモデルから算出し、SERPINB2およびSERPINI1発現を連続変数として扱った。(H)ニューロセルピンまたはセルピンB2に対する抗体で染色した肺がんおよび乳がん由来の代表的なヒト脳転移試料を示す。(I)非小細胞肺癌33症例および乳癌123症例における、ニューロセルピン免疫染色(赤色)またはセルピンB2免疫染色(オレンジ色)について陽性とスコアリングされた転移試料の割合を示す。乳がんセットの小さな図は、当該情報が入手可能であったセルピン陽性試料の原発腫瘍サブタイプ(TN、トリプルネガティブ;HER2、HER2+;ER/PR、ホルモン受容体陽性;TP、トリプルポジティブ)を表す。両方のセルピンに対して陽性とスコアリングされた脳転移は、肺がんおよび乳がん症例のそれぞれ42%および34%を構成する。陽性とスコアリングされた試料は>80%の、陽性反応性を示す新生細胞を有した。スケールバー:100μm。
図1BCD】同上
図1EFG】同上
図1HI】同上
【0063】
図2ABCD図2A〜Oは、血管利用、増大、および間質プラスミン作用の回避を示す図である。(A)転移細胞の脳毛細血管との相互作用を示す。MDA231−BrM2細胞(緑色)は、血管外遊出完了後に脳毛細血管(赤色)に結合したままである。(B)血管外遊出ステップの共焦点分析を示し、脳毛細血管において血管内に留まっているMDA231−BrM2細胞、毛細血管壁を通過する細胞、および反管腔側毛細血管表面にわたって拡散している、血管外遊出した細胞が示されている。(C)脳毛細血管周囲に溝を形成する血管外遊出したMDA231−BrM2細胞のクラスターを示す。血管外遊出した細胞は全て、最初にこのように成長した。赤色またはマゼンタ色、脈管構造内のIV型コラーゲン。緑色、GFP。青色、ビス−ベンズアミドを用いた核染色。(D)脳の転移コロニー形成の間の最初のステップおよび相互作用を表す模式図である。(E)がん細胞を循環中に接種した後の異なる時点での、脳実質における転移性H2030−BrM3細胞のGFAP+反応性アストロサイト(矢じり)への曝露を示す。3日目:赤色、IV型コラーゲン;白色、GFAP;緑色、GFP+がん細胞。7日目以降:赤色、GFAP;緑色、GFP;青色、核染色。(F、G)GFP+H2030−BrM3細胞(緑色)を有するマウス脳におけるGFAP+アストロサイト(青色)に関連するtPAおよびuPA免疫蛍光染色(赤色、矢じり)を示す。(H)プラスミノーゲン免疫蛍光染色(白色、矢じり)は、マウス脳におけるGFP+転移細胞のクラスター(緑色)の近くのNeuN+ニューロン体(赤色)に関連する。青色、核染色。(I)脳切片器官型培養の模式図である。切片の表面上に置いたがん細胞は組織内に遊走し、微小毛細血管(microcapillary)を探す。(J)まだ脳毛細血管を巡回している浸潤したH2030−BrM3細胞(白抜きの矢じり)またはすでに脳毛細血管を越えて拡散した浸潤したH2030−BrM3細胞(黒塗りの矢じり)を有する脳切片の代表的な画像である。(K)示されているがん細胞が浸潤した脳切片組織の代表的な共焦点像を示す。α2−抗プラスミンを示されている培養物に添加した。BrM3細胞またはα2−抗プラスミンを用いた親細胞の伸びた形態と比較して親細胞の密度が低く、様相が乱れていることに注意されたい。(L)パネルKの実験におけるGFP+がん細胞の数量化を示す。視野(FOV)当たりの細胞の数は、平均±SEMである。n=6〜10の脳切片、少なくとも2回の独立した実験において切片当たり少なくとも2視野をスコアリング。(M)示されている細胞および添加物を有する脳切片における切断カスパーゼ−3免疫蛍光染色を示す。(N)パネルMの実験における切断カスパーゼ−3陽性がん細胞の数量化を示す。値は、H2030−BrM3に対して標準化したものであり、平均±SEMである。n=6〜10の脳切片、少なくとも2回の独立した実験から切片当たり少なくとも2視野をスコアリング。(O)それぞれプラスミノーゲンおよびPAの供給源としてのニューロンおよびアストロサイト、ならびに生じたプラスミンの浸潤性がん細胞に対する致死効果を示す概略図である。P値は全てスチューデントのt検定によるものである。スケールバー:25μm(A)、5μm(B〜C)、5μm(3日目)、15μm(7日目)、25μm(14日目)、70μm(微小転移)、100μm(マクロ転移)(D)、10μm(F〜H)、100μm(K)、5μm(M)。
図2E】同上
図2FGHIJ】同上
図2KLM】同上
図2NO】同上
【0064】
図3ABC図3A〜Nは、ニューロセルピンが脳転移を媒介することを示す図である。(A)実験計画の模式図である。マウスにおいて、がん細胞を動脈循環中に接種した後、脳転移が発生する。脳病変を、がん細胞におけるホタルルシフェラーゼの発現に基づく生物発光イメージング(BLI)、およびGFPの発現に基づく免疫蛍光法(IF)によって分析する。(B)対照shRNAまたはニューロセルピンshRNA(shNS)を用いて形質導入したH2030−BrM3細胞を接種した5週間後の、全身BLIおよび脳ex vivo BLIの代表的な画像である。(C)パネルBの実験における無脳転移生存期間のカプラン・マイヤープロットを示す。対照(n=20)および2つの異なるshNS[shNS(1)、n=11;shNS(2)、n=13]を解析した。ログランクマンテル・コックス検定を用いてP値を得た。(D)パネルBからの脳におけるex vivo BLIの数量化を示す。(E)H2030−BrM3細胞をマウスに接種した21日後または35日後にGFP IFについて分析した冠状脳切片の代表的な画像を示す。病変の輪郭が顕著である。(F)パネルEにおける21日目の時点でのサイズに応じた脳病変の数量化を示す。対照n=5の脳、shNS n=6の脳。P値はサイズ分布を指す。病変の総数について、p<0.05。(G)パネルEの実験における脳腫瘍量の数量化を示す。対照n=5、shNS n=6。(H)脳切片アッセイにおける対照およびニューロセルピン枯渇H2030−BrM3細胞の代表的な画像を示す。挿入図は切断カスパーゼ−3免疫蛍光を示す。(I)パネルHの実験におけるGFP+細胞の数量化を示す。データは平均±SEMである。n=6〜10の切片、少なくとも2回の独立した実験において切片当たり少なくとも2視野をスコアリング。(J)パネルHの実験において切断カスパーゼ−3について陽性であった細胞の数量化を示す。値を対照群に対して標準化した。データは平均±SEMである。n=6〜10の切片、少なくとも2回の独立した実験から切片当たり少なくとも2視野をスコアリング。(K、L)親およびBrM細胞株と比較した、切断カスパーゼ−3について陽性であった細胞の数量化、およびニューロセルピン野生型または変異体型の過剰発現の効果では親細胞株H2030(K)およびMDA231(L)においてPA(NSΔloop)を標的とすることができないことを示す。値を対応するBrM細胞株に対して標準化した。データは平均±SEMである。n=6〜10の切片、少なくとも2回の独立した実験から切片当たり少なくとも2視野をスコアリング。(M)PC9−BrM3を接種した21日後のマウスの脳および後肢の代表的なex vivo BLI画像である。細胞に、空ベクター(n=5)または野生型ニューロセルピンをコードするベクター(n=7)または£Gloopニューロセルピン変異体をコードするベクター(n=8)を用いて形質導入した。(N)パネルMの実験における、脳における光子束と骨における光子束の比を示す。ex vivoにおける脳平均BLI値も示されている。P値は、パネルC以外は全てスチューデントのt検定によって算出した。スケールバー:250μm(E)、100μm、5μm(挿入図)(H)。
図3DEFGH】同上
図3IJKL】同上
図3MN】同上
【0065】
図4ABC図4A〜Hは、抗PAセルピンが乳がん細胞の脳転移を媒介することを示す図である。(A、B)対照ベクター、ニューロセルピン、SERPINB2およびSERPIND1を標的とするshRNAベクター(三重K/D)、SERPINB2 shRNA(shSB2)、またはshSB2+ニューロセルピン発現ベクターを用いて形質導入したMDA231−BrM2細胞を免疫不全マウスの動脈循環に接種した。脳転移量をex vivo脳BLIによって可視化し(A)、定量化した(B)。対照n=22;三重K/D n=9、shSB2 n=14;shSB2およびニューロセルピンn=8。(C)MDA213−BrM2集団から単離した10のクローン細胞株の中で、示されているセルピンの1つ、2つまたは3つを過剰発現しているクローン(単一細胞後代VSCP−)の分布を示す。(D)注射した異なるMDA231−BrM2 SCPからのex vivo脳BLI数量化を示す。赤色ドットのSCP(全てのセルピンが高レベル)、n=8;淡緑色ドットのSCP(セルピンB2が低レベル)、n=11;青色ドットのSCP(セルピンB2およびD1が低レベル)、n=8;濃緑色ドットのSCP(セルピンB2およびニューロセルピンが低レベル)、n=5。P値はスチューデントのt検定によって決定した。(E)ニューロセルピンおよびセルピンD1が高レベルであるSCPをニューロセルピンノックダウンに供し、脳転移活性について試験した。21日後に転移量をex vivo脳BLIによって定量化した。(F)コンジェニック親ErbB2−P細胞を接種した免疫適格性マウス(n=9)または脳転移性誘導体であるErbB2−BrM1を接種した免疫適格性マウス(n=7)およびErbB2−BrM2を接種した免疫適格性マウス(n=5)における無脳転移生存期間についてのカプラン・マイヤー生存曲線を示す。ログランクマンテル・コックス検定を使用して生存曲線を比較した。ErbB2−P対ErbB2−BrM1、P=0.0045、およびErbB2−P対ErbB2−BrM2、P=0.0053。(G)ErbB2−BrM2またはセルピンB2 shRNAを発現するこれらの細胞によって形成された転移病変の代表的な全身BLI画像を示す。(H)パネルGの実験における脳BLI光子束の数量化を示す。対照ErbB2−BrM2細胞(n=10)、および2つの異なるセルピンB2 shRNA、shSB2(1)、n=10;shSB2(2)、n=6を発現するErbB2−BrM2細胞を分析した。データは平均±SEMである。P値は、パネルG以外は全てスチューデントのt検定によって決定した。
図4DEFGH】同上
【0066】
図5ABCDE図5A〜Oは、ニューロセルピンが、がん細胞をFasL死滅シグナルから遮蔽することを示す図である。(A)FasL、およびFasLの、Fas−FADDシグナル伝達を通じたアポトーシスの拡散性トリガーであるsFasLへのプラスミンによる変換の模式図である。TMD、膜貫通ドメイン;SA、三量体自己組織化ドメイン;THD、腫瘍壊死因子−相同性ドメイン。赤い十字記号、アポトーシス細胞。a、アストロサイト。c、がん細胞。(B)H2030−BrM3を動脈に接種した21日後の、転移細胞を有するマウス脳における、GFPに対する抗体(がん細胞、緑色)、GFAPに対する抗体(反応性アストロサイト、青色)およびFasLに対する抗体(マゼンタ色)を用いた免疫蛍光法を示す。(C)外因性プラスミノーゲン(1μM)と一緒に、または添加を伴わずにインキュベートしたアストロサイト培養物の画像である。FasLの細胞外ドメイン(ECD)または細胞内ドメイン(ICD)に対する抗体を用いて免疫蛍光染色を実施した。(D)抗FasL ECD抗体を使用した、パネルCに示されている培養物の上清のウエスタン免疫ブロッティングを示す。チューブリンをローディング対照として使用した。(E)マウス脳切片を、α2−抗プラスミンと一緒に、ニューロセルピンおよびセルピンB2と一緒に、または添加を伴わずにインキュベートした。組織溶解物中のsFasLを、抗FasL ECD抗体を用いたウエスタン免疫ブロッティング分析によって検出した。(F)GFP+H2030−BrM3細胞(緑色)を、sFasLを添加した培地または添加を伴わない培地中の脳切片に浸潤させた。sFasLを伴うと、がん細胞はアポトーシスマーカーである切断カスパーゼ−3について陽性にスコアリングされた(挿入図の赤色)。(G、H)パネルFの実験(オレンジ色の棒)およびパネルIの実験(緑色の棒)における、GFP+細胞の総数(G)およびアポトーシスGFP+細胞(H)の数量化を示す。データは平均±SEMである。n=6〜10の切片、少なくとも2回の独立した実験から切片当たり少なくとも2視野をスコアリング。(I)GFP+H2030細胞(緑色)を、抗FasL遮断抗体を含有する培地または添加を伴わない培地中の脳切片に浸潤させた。抗FasLは、内在性シグナルがカスパーゼ−3活性化を誘発するのを妨げた(挿入図の赤色)。(J)がん細胞におけるアポトーシス促進性Fasシグナル伝達を抑制するためのFADD−DD過剰発現(黄色の形)の描写である。(K)示されている通り、FADD−DDベクター、ニューロセルピンshRNAベクター、または空ベクターを用いて形質導入したH2030−BrM3におけるFADD発現のqRT−PCR分析を示す。(L)示されているベクターを用いて形質導入したH2030−BrM3細胞にsFasLを添加した後のアポトーシス細胞の数量化を示す。(M、N)示されているGFP+H2030−BrM3トランスフェクタントおよび/または添加物を有する脳切片における、総GFP+細胞(M)およびアポトーシスGFP+細胞(N)の数量化を示す。データは平均±SEMである。n=5〜8の切片、少なくとも2回の独立した実験から切片当たり少なくとも2視野をスコアリング。(O)示されているベクターを用いて形質導入し、マウスの動脈循環中に接種したH2030−BrM3細胞の脳転移活性を示す。対照shRNA(n=11)、FADD−DD(n=4)、ニューロセルピンshRNA(n=14)、またはこのshRNAおよびFADD−DD(n=12)を用いて形質導入した細胞においてBLI光子束を定量化した。P値は全てスチューデントのt検定によって決定した。スケールバー:25μm(B)、200μm(C)、100μm(F、I)、5μm(F、Iの挿入図)。
図5FGH】同上
図5IJKL】同上
図5MNO】同上
【0067】
図6ABCD図6A〜Nは、プラスミンが、L1CAMにより媒介される脳転移細胞による血管利用を標的とすることを示す図である。(A)同種親和性細胞接着相互作用のメディエーターおよび異種親和性細胞接着相互作用のメディエーター(例えば、インテグリン)としてのL1CAM、ならびに、L1CAMの接着欠損断片へのプラスミンによる変換の模式図である。免疫グロブリン様(Ig)およびフィブロネクチンIII型(FNIII)ドメインリピート、細胞内ドメイン(ICD)、およびインテグリン結合性RGD配列が示されている。(B)GFP+H2030−BrM3細胞の浮遊液をヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)の単層の上部に置き、20分後に、HBMECと結合したがん細胞を、GFP、L1CAM免疫染色、およびビス−ベンズアミドを用いた核染色についてイメージングした。L1CAMはがん細胞において高度に発現し、HBMECではより低いレベルで発現する。(C、D)HBMEC単層(C)またはH2030−BrM3単層(D)へのH2030−BrM3の結合の分析、およびL1CAMノックダウンの影響を示す。データは平均±SEMである。n=5、カバーガラス当たり少なくとも10視野をスコアリング。(E)無処理対照と比較した、示されている、L1CAM shRNAを発現している脳細胞またはプラスミンと一緒にインキュベートした脳細胞における細胞表面L1CAMのフローサイトメトリー分析を示す。(F)プラスミンと一緒に、またはプラスミンを伴わずにインキュベートした後の細胞および培養上清の抗L1CAMウエスタン免疫ブロッティング分析を示す。(G、H)がん細胞をプラスミンで処理し、HBMEC接着アッセイに供した。データは平均±SEMである。n=3、カバーガラス当たり少なくとも5視野をスコアリング。(I)脳組織切片への浸潤後の対照またはL1CAM枯渇H2030−BrM3細胞を示す。2日後にGFP+がん細胞(緑色)および脈管構造(IV型コラーゲン免疫染色、赤色)を可視化した。条件ごとに2つの代表的な画像が示されている。下のパネル、高拡大率。(J、K)パネルIの実験における、毛細血管上に拡散した細胞(J)およびKi67+細胞上に拡散した細胞(K)の数量化を示す。データは平均±SEMである。n=6の切片、2回の独立した実験から、切片当たり少なくとも3視野をスコアリング。(L)ニューロセルピン過剰発現およびL1CAM枯渇の、PC9−BrM3細胞と脳切片内の毛細血管の相互作用に対する影響を示す。(M、N)パネルLの実験において、毛細血管上に拡散した細胞(M)およびKi67+細胞上に拡散した細胞(N)の数量化を示す。データは平均±SEMである。n=6の切片、2回の独立した実験から切片当たり少なくとも3視野をスコアリング。P値は全てスチューデントのt検定によるものである。スケールバー:10μm(B)、50μm(I、L)。
図6EFGH】同上
図6IJK】同上
図6LMN】同上
【0068】
図7ABCDE図7A〜Iは、L1CAMが脳における転移増大を媒介することを示す図である。(A)H2030−BrM3によって形成された初発脳コロニーの、抗L1CAM抗体を用いた免疫組織化学的染色およびH&E対比染色を示す。がん細胞(cc、淡青色の核)は互いに接近したままで、内皮細胞(e、濃青色の核)と相互作用する。挿入図は、細胞間接触領域について拡大率を上げたものである。(B)示されているH2030−BrM3細胞を動脈に接種したマウスの代表的な脳のex vivo BLIを示す。(C)パネルBの実験における、ex vivoにおける脳光子束の数量化を示す。対照shRNA、n=9;shL1CAM、n=6。(D)示されているMDA231−BrM2細胞を動脈に接種したマウスの脳のex vivo BLIの数量化を示す。対照shRNA、n=9;shL1CAM、n=10。(E)心臓内注射の7日後に脳に浸潤しているH2030−BrM3細胞、およびL1CAM枯渇の影響を示す。(F)パネルCの脳からのGFP+転移病変の代表的な画像である。(G)パネルCに示されている脳における、微小転移に対するマクロ転移の相対的な存在量(図3Fにおいて定義されている)を示す。病変の数:対照=283.2±84.8、shL1CAM=69.8±11.5。データは平均±SEMである。n=3の脳。(H)示されているPC9−BrM3細胞を動脈に接種したマウスの脳のex vivo BLI光子束の数量化を示す(n=5〜7)。P値は全てスチューデントのt検定によって決定した。スケールバー:25μm(A)、30μm(E)、200μm(F)。(I)脳に浸潤するがん細胞に対する間質PA−プラスミン系の作用のモデル、および間質PA−プラスミンからの脳転移細胞の保護における抗PAセルピンの役割を示す。反応性アストロサイトは血管外遊出したがん細胞の存在下でPAを産生する。PAがニューロン由来プラスミノーゲンからプラスミンを生成し、プラスミンがアストロサイトからFasLを動員してがん細胞を死滅させると、転移は失敗する(左側)。さらに、プラスミンは、がん細胞が血管利用のために発現する細胞接着分子であるL1CAMを切断し、不活化する。脳転移細胞が、プラスミンの生成ならびにがん細胞の生存および血管への付着に対するプラスミンの有害作用を妨げる抗PAセルピンを発現すると、転移が進行する(右側)。
図7FGHI】同上
【0069】
図8ABC図8A〜Jは、脳転移モデルおよび臨床的な試料において高度に発現する遺伝子を示す図である(図1A〜Iに関連する)。(A)以前に2つの肺腺癌脳転移モデル(H2030−BrM3およびPC9−BrM3;Nguyenら、2009年)において、または2つの乳がん脳転移モデル(MDA231−BrM2およびCN34−BrM2;Bosら、2009年)において脳転移活性と関連付けられ、これらのモデルの中で共有されることが見いだされた遺伝子を示す。値は、GeneChip転写データセット(Nguyenら、2009年、Bosら、2009年)内の非脳転移対応物と比較した、BrM細胞におけるこれらの遺伝子の発現の増加倍率を示す。(B)遺伝子操作されたKrasG12D;p53−/−マウス肺腫瘍に由来する細胞株(373N1、393N1、482N1、2691N1)を、同系のマウスの動脈循環からの全体的な転移活性について試験した。無転移生存期間のカプラン・マイヤープロット、細胞株当たりn=10のマウス。以前に記載されている通り、全ての細胞株は多器官転移活性を示したが(Winslowら、2011年)、脳転移活性は異なった。(C)ELISAによって決定した、低血清細胞培養上清におけるニューロセルピン(NS)タンパク質レベルを示す。(D)ウエスタン免疫ブロッティングによって決定した、細胞溶解物におけるセルピンB2(SB2)タンパク質レベルを示す。(E)示されている細胞株からの細胞培養上清により、プラスミノーゲンのプラスミンへの変換が異なる程度に阻害されたことを示す。プラスミン活性を発色アッセイによって決定した。P値はスチューデントのt検定によって決定した。*P<0.05、***P<0.001。(F、G)原発腫瘍におけるSERPINB2 mRNAレベルおよびSERPINI1 mRNAレベルに基づいて分類された肺腺癌106症例における無骨転移生存期間および対側無肺転移生存期間のカプラン・マイヤー解析を示す。P値はコックス比例ハザードモデルによって算出し、SERPINB2およびSERPINI1発現を連続変数として扱った。(H)原発腫瘍におけるSERPINB2 mRNAレベルおよびSERPINI1 mRNAレベルに基づいて分類された乳腺癌615症例(EMC−MSKデータセット)における無脳転移生存期間のカプラン・マイヤー解析を示す。P値はコックス比例ハザードモデルから算出し、SERPINB2およびSERPINI1発現を連続変数として扱った。(I)示されている細胞株を心臓内に接種したマウスの脳におけるNSおよびSB2に対する免疫組織化学的検査を示す。(J)ニューロセルピンまたはセルピンB2抗体を用いて染色した代表的な脳転移組織マイクロアレイコアを示す。スケールバー:100μm。
図8DEF】同上
図8GHIJ】同上
【0070】
図9AB】転移細胞と脳実質の相互作用を示す図である(図2A〜Oに関連する)。(A)循環がん細胞によって形成された脳転移コロニーの分析についての実験計画を示す。(B)マウスの動脈循環中に接種した後の、示されている時点での脳における親MDA231(P)およびMDA231−BrM2(BrM)細胞の数量化を示す。データは、2つの脳における多数の視野の平均±SEMである。P値は、7日目前後の親集団および脳転移集団における血管外遊出した細胞を比較して、スチューデントのt検定によって決定した。(C、D)接種の7日後に脳毛細血管(IV型コラーゲン陽性)の内腔に留まった細胞(ビメンチン+、緑色)が切断カスパーゼ−3免疫蛍光について陽性にスコアリングされたことを示す(赤色、Dの矢じり)。(E、F)関与しない領域に位置する非反応性アストロサイト(E)、および転移細胞を含有する領域内の反応性アストロサイト(F)を、毛細血管との相互作用の改変、ならびに肥厚および細胞プロセスの数の低下を含めた劇的な形態学的変化に基づいて区別することができることを示す。(G〜J)H2030−BrM3細胞と、顕性転移による血管外遊出に由来する反応性小膠細胞(Iba1+)およびニューロン(NeuN+)を含めた脳微小環境の異なる成分の相互作用を示す。(K)D−VLK発色プラスミン基質アッセイを使用して、マウス小膠細胞またはアストロサイトの培養上清に関連するプラスミン活性を比較した。(L)プラスミノーゲンを添加したグリア細胞との共培養物における切断カスパーゼ−3陽性がん細胞の数量化を示す。値は、プラスミノーゲンを伴わないH2030−BrM3に対して標準化したものであり、平均±SEMである。条件ごとにn=6〜9の共培養物、3回の独立した実験からの、共培養物当たり多数の視野をスコアリング。(M)脳切片アッセイにおける切断カスパーゼ−3陽性がん細胞の数量化を示す。値は、MDA231−BrM2に対して標準化したものであり、平均±SEMである。n=6〜10の脳切片、2回の独立した実験から。(N)脳切片におけるプラスミン活性を分析するための実験計画の模式図である。(O)脳切片におけるプラスミンのα2−抗プラスミン阻害を示す。(P)単層培養物中のH2030細胞へのプラスミン添加では細胞死が誘導されないことを示す。P値は全てスチューデントのt検定によって決定した。スケールバー:10μm(C)、50μm(E、F)、20μm(G、I)、500μm(H、J)。
図9CDEFGHIJ】同上
図9KLMNOP】同上
【0071】
図10ABCD図10A〜Mは、ニューロセルピンが肺がん細胞の脳転移を媒介することを示す図である。図3A〜Nに関連する。(A)GFP+H2030−BrM3転移(緑色)を有する脳におけるニューロセルピンIF(赤色)を示す。挿入図はニューロセルピンとGFP+がん細胞の共局在(黄色)を示す。(B)ニューロセルピンshRNAを用いて形質導入したH2030−BrM3および誘導体におけるqRT−PCRによって決定されたニューロセルピンmRNAレベルを示す。(C)示されているH2030誘導体の培養上清に対してニューロセルピンELISAを実施した。(D)対照またはNS shRNAを用いて形質導入したH2030−BrM3細胞のMTT細胞増殖アッセイを示す。(E)図3Dの動物の脳における転移病変の追跡およびサイズ分布を示す。全ての実験条件についての各サイズ群の相対的な存在量が示されている。(F)ニューロセルピン枯渇H2030−BrM3細胞によって形成されたわずかなマクロ転移はニューロセルピンIFについて陽性にスコアリングされたが(左側のパネル)、微小転移はニューロセルピンについて陰性にスコアリングされた(右側のパネル)。(G)H2030−BrM3におけるニューロセルピンノックダウンによって接種の7日後の血管外遊出した細胞の数は変化しなかった。データは3つの脳からの平均±SEMである。(H)実験的な血液脳関門(BBB)を通るがん細胞遊出についてのアッセイの模式図を示す(Bosら、2009年)。HUVEC、初代ヒト臍帯静脈内皮細胞。(I)H2030−BrM3対照細胞に対して標準化した、この実験的BBBを通って遊走した細胞の数量化を示す。脳血管外遊出メディエーターST6GalNaC5を標的とするshRNA(Bosら、2009年)は陽性対照としての機能を果たした(shNS対shST6GalNaC5、P<0.001)。各条件について少なくとも5回の独立した遊走アッセイを実施した。(J)示されているflagエピトープタグを付けたニューロセルピン構築物をトランスフェクトしたPC9−BrM3細胞におけるニューロセルピンmRNAレベルのqRT−PCR分析を示す。PCRプライマーセット#1は野生型ニューロセルピンmRNAのみを認識し、セット#2は野生型とΔloop変異体型の両方を認識する。(K)PC9−BrM3またはニューロセルピンcDNAを発現するこの細胞株の培養上清に対してニューロセルピンELISAを実施した。(L)示されているニューロセルピン構築物を発現するPC9−BrM3細胞からの培養上清の抗flagウエスタン免疫ブロッティングを示す。チューブリン免疫ブロッティングをローディング対照として使用した。(M)対照およびニューロセルピン過剰発現PC9−BrM3細胞の増殖アッセイを示す。P値は全てスチューデントのt検定によるものである。スケールバー:200μm(A、F)、100μm(A、挿入図)、250μm(E)。
図10EF】同上
図10GHIJKLM】同上
【0072】
図11ABCDEF図11A〜Jは、MDA231−BrM2細胞において多重同時発現させたセルピンの分析を示す図である。図4A〜Hに関連する。(A)3種の示されているセルピンを標的とするshRNAを発現するMDA231−BrM2のqRT−PCRを示す。(B)示されている細胞株からの低血清培養上清におけるニューロセルピンELISAを示す。(C)示されている細胞株からの溶解物の抗セルピンB2(SB2)ウエスタン免疫ブロッティングを示す。(D)shSB2 MDA231−BrM2形質導入細胞株の増殖アッセイを示す。(E)示されている細胞株からの溶解物の抗セルピンB2ウエスタン免疫ブロッティングを示す。BrM2−SCPHIGHおよびBrM2−SCPLOWは、図4Dに示されているMDA231−BrM2由来のクローン株に対応する。(F)示されている細胞株からの培養上清のニューロセルピンELISAを示す。(G)MDA231−BrM2対照(n=5)とshNS(1)(n=9)を比較した、無脳転移生存期間のカプラン・マイヤープロットを示す。P値はログランクマンテル・コックス検定によるものである。(H)CN34−BrM2対照(n=12)とshSERPINE2(1)(n=5)を比較した、無脳転移生存期間のカプラン・マイヤープロットを解析した。P値はログランクマンテル・コックス検定によるものである。(I)MDA231−BrM2細胞株から単離した単一細胞後代(SCP)におけるセルピン発現のqRT−PCR分析を示す。黒色、クローン株;青色、親集団;オレンジ色、BrM集団。(J)図4Dにおいて数量化した、示されているセルピンを発現するMDA231−BrM2 SCPの転移アッセイからの代表的な脳のex vivo BLI画像を示す。
図11GH】同上
図11IJ】同上
【0073】
図12ABCDEF図12A〜Lは、sFasLが脳転移細胞のアポトーシスを誘発することを示す図である。図5A〜Oに関連する。(A)H2030−BrM3細胞によって形成された脳病変における、抗GFAPおよび抗FasL抗体を用いて染色したアストロサイトの拡大率を上げたものである。(B)マウスアストロサイトおよび小膠細胞の初代培養物におけるFasL mRNAレベルのqRT−PCR分析を示す。データは3連の平均±SEMである。(C)使用した種々の抗FasL抗体を示す模式図である。(D、E)図5CにおけるFasL ECDおよびICD免疫蛍光シグナルの数量化を示す。(F)示されている細胞溶解物の抗Fasウエスタン免疫ブロッティングを示す。チューブリン免疫ブロッティングをローディング対照として使用した。(G)sFasL(500ng/ml)と一緒に、または添加を伴わずにインキュベートした、乳房(CN34−BrM2)および肺(H2030−BrM3)脳転移細胞単層における切断カスパーゼ−3 IF(赤色)を示す。青色、核染色。(H)示されているsFasLの濃度での、パネルGに示されている実験の数量化を示す。データは3回の独立した実験の平均±SEMである。対照との差異は全て、スチューデントのt検定によって決定してP<0.01であった。(I)sFasL(500ng/ml)の添加を伴うまたは伴わない、示されている細胞株の細胞増殖アッセイを示す。データは3連の平均±SEMである。P値は6日目における差異についてスチューデントのt検定によって決定した。(J)添加したα2−抗プラスミン、α2−抗プラスミンおよびsFasLを用いて処理した、または添加を伴わない、脳切片における切断カスパーゼ−3陽性H2030がん細胞の数量化を示す。値は、H2030+α2−抗プラスミンに対して標準化したものであり、平均±SEMである。n=5〜8の脳切片、少なくとも2回の独立した実験から切片当たり少なくとも2視野をスコアリング。(K)示されているFADD−DDおよびニューロセルピンshRNAベクターを用いて形質導入したH2030−BrM3細胞におけるニューロセルピンmRNAレベルのqRT−PCR分析を示す。(L)脳切片における切断カスパーゼ−3陽性MDA231−BrM2がん細胞の数量化を示す。MDA231−BrM2細胞に、対照ベクター、セルピンB2(SB2)shRNA、またはこのshRNA+FADD−DD発現ベクターを用いて形質導入した。値は、MDA231−BrM2対照に対して標準化したものであり、平均±SEMである。n=6〜10の脳切片、少なくとも2回の独立した実験から切片当たり少なくとも2視野をスコアリング。P値は全てスチューデントのt検定によるものである。スケールバー:1μm(A)、100μm(G)。
図12GH】同上
図12I】同上
図12JKL】同上
【0074】
図13ABCD図13A〜Iは、プラスミンの標的および脳転移のメディエーターとしてのL1CAMを示す図である。図6A〜Nに関連する。(A)示されている細胞株によって形成された病変を有する脳からの代表的なGFP IF画像である。スケールバー:100μm、25μm(挿入図)。(B、C)示されているヒト肺がん細胞株または乳がん細胞株(B)およびマウス肺がん細胞株または乳がん細胞株(C)についての細胞溶解物の抗L1CAMウエスタン免疫ブロッティングを示す。(D)対照およびL1CAM枯渇H2030−BrM3細胞のMTT増殖アッセイを示す。(E)図6Iの実験において、脳毛細血管と接触していたが、必ずしも拡散していなかったGFP+がん細胞の数量化を示す。条件ごとに10視野(>180個の個々の細胞)をスコアリングした。データは平均±SEMである。(F)脳切片アッセイにおけるアポトーシス性野生型またはL1CAM枯渇H2030−BrM3細胞の数量化を示す。データは平均±SEMである。2回の独立した実験から、n=5〜8の切片、切片当たり少なくとも2視野をスコアリングした。(G)毛細血管上に拡散したMDA231−BrM2対照またはshL1CAM形質導入細胞の数量化を示す。データは平均±SEMである。2回の独立した実験から、n=6の切片、切片当たり少なくとも3視野をスコアリング。(H、I)示されているニューロセルピン発現ベクターおよび/またはL1CAM shRNAベクターを用いて形質導入したPC9−BrM3細胞におけるL1CAM mRNAレベル(H)およびニューロセルピンmRNAレベル(I)のqRT−PCR分析を示す。
図13EFGHI】同上
【0075】
図14図14A〜Cは、(A)脳(がん細胞は肺腺癌のものである)、(B)骨および(C)肺(どちらの場合も、がん細胞は低クローディントリプルネガティブ乳腺癌のものである)における、GFPを有する腫瘍細胞によって開始される転移における血管利用を示す図である。
【0076】
図15AB図15A〜Fは、RNAi媒介性L1CAM枯渇により、胸腺欠損マウスにおいて心臓内注射後にMDA231乳がん細胞からの(A)骨転移および(B)肺転移の形成;(C)H2030肺がん細胞の同所性肺注射の部位における腫瘍の成長または(D)対側肺への転移;(E)MDA231細胞の乳房脂肪パッド注射の部位における腫瘍の成長または(F)肺もしくは肝臓への転移が阻害されることを示す図である。
図15CD】同上
図15EF】同上
【0077】
図16図16A〜Bは、L1CAM枯渇により、定義済みの無接着条件で成長させた(左)肺がん細胞または(右)乳がん細胞に由来する細胞間相互作用富化腫瘍球(oncosphere)凝集体の成長が阻害されることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
5.発明を実施するための形態
説明を明瞭にするために、また、限定するものではなく、発明を実施するための形態を以下の小節に分ける:
(i)転移関連セルピン;
(ii)リスクを評価するための方法およびキット;ならびに
(iii)
(a)L1CAMの阻害;および
(b)セルピンの阻害
を含めた治療方法。
【0079】
5.1転移関連セルピン
本発明に従って使用することができるセルピンとしては、ヒトまたは非ヒト対象、例えば、これらに限定されないが、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、またはクジラ目の動物に由来するセルピンが挙げられる。
【0080】
ある特定の非限定的な実施形態では、転移のリスクの上昇に関連するヒトセルピンは、ニューロセルピン、セルピンB2、セルピンE1、セルピンE2、またはセルピンD1であってよい。特定の非限定的な例では、ニューロセルピンは、GenBank受託番号AAG01089に記載されているアミノ酸配列を有し、かつ/またはGenBank受託番号AF248244、AF248245および/またはAF248246に記載されている配列を有する核酸によってコードされるヒトニューロセルピンであってよい。特定の非限定的な例では、セルピンB2は、NCBI受託番号NP_001137290に記載されているアミノ酸配列を有し、かつ/またはNCBI受託番号NM_001143818に記載されている配列を有する核酸によってコードされるヒトセルピンB2であってよい。特定の非限定的な例では、セルピンE1は、UniProtKB受託番号P05121に記載されているアミノ酸配列を有し、かつ/またはGenBank受託番号M14083に記載されている配列を有する核酸によってコードされるヒトセルピンE1であってよい。特定の非限定的な例では、セルピンE2は、UniProtKB受託番号P07093に記載されているアミノ酸配列を有し、かつ/またはGenBank受託番号NM_006216;NM_001136528.1、またはNM_001136530.1に記載されている配列を有する核酸によってコードされるヒトセルピンE2であってよい。特定の非限定的な例では、セルピンD1は、UniProtKB受託番号P05546もしくはNCBI受託番号NM_000185に記載されているアミノ酸配列を有し、かつ/またはGenBank受託番号M12849およびM19241および/もしくはNCBI受託番号NM_000185に記載されている配列を有する核酸によってコードされるヒトセルピンD1であってよい。非ヒト種由来のこれらのセルピンの変型が公知であり、それらのアミノ酸および核酸配列は公的に入手可能である。
【0081】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明に従って使用することができるセルピンは、プラスミノーゲン活性化因子を選択的に阻害するセルピンである。上に列挙されているものに追加して、本発明に従って使用することができるセルピンは、プラスミノーゲン活性化因子を阻害するそれらの能力に基づいて同定することができる。
5.2リスクを評価するための方法およびキット
【0082】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、がんを有する対象の、がんの転移を有するまたはそれが発生するリスクが高いかどうかを決定するための方法および組成物であって、がんの細胞が上の節に記載されているセルピンを過剰発現し、かつ/または分泌するかどうかを決定するステップを含む方法および組成物を提供し、ここで、がん細胞がセルピンを過剰発現し、かつ/または分泌している場合、対象の、がんの転移、例えば、脳への転移を有するまたはそれが発生するリスクが高い。リスクの上昇に関して転移の部位になり得る他の器官の非限定的な例としては、肺、肝臓、および骨が挙げられる。
【0083】
転移とは、がんの元の場所と物理的に連続していない場所にあるがん細胞の集団である。
【0084】
対象は、ヒトまたは非ヒト対象、例えば、これらに限定されないが、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、またはクジラ目の動物であり得る。
【0085】
リスクの上昇とは、プラスミノーゲン活性化因子阻害性セルピンを過剰発現および/または分泌しないがんを有する対象のリスクよりもリスクが大きいことである。
【0086】
過剰発現とは、原発組織の非悪性細胞において起こるものよりも発現が有意に多いこと、例えば、乳管腺癌における発現が非悪性乳管細胞と比較してより多いことを意味する。非限定的な例では、過剰発現は、同等の正常細胞における発現よりも少なくとも20パーセント多い、または少なくとも50パーセント多いものであり得る。
【0087】
発現は、当技術分野で公知の任意の方法によって測定することができる。非限定的な例では、セルピンタンパク質の発現は、免疫グロブリン媒介性技法、例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫組織化学的検査、免疫蛍光法、および/または免疫ブロッティング(例えば、下記の実施例を参照されたい)を使用して、プラスミノーゲン活性化因子阻害活性を測定することによって、または当技術分野で公知の他の技法を使用して測定することができる。他の非限定的な例では、セルピンの発現は、例えば、qPCR、ノーザンブロット、ドットブロットなどの技法、または当技術分野で公知の他の技法を使用して、mRNA発現によって測定することができる。
【0088】
当該方法は、対象または医療従事者に決定の結果および関連するリスクを通知するステップをさらに含み得る。
【0089】
当該方法は、リスクの上昇が示されている場合に、追加的な診断手順、例えば、対象が検出可能な転移性疾患を有するかどうかを決定するためのイメージング研究を推奨または実施するステップをさらに含み得る。イメージングモダリティの非限定的な例としては、磁気共鳴画像法、コンピュータ化された断層撮影法および陽電子放出断層撮影法が挙げられる。
【0090】
ある特定の実施形態では、本発明は、がんを有する対象の、がんの転移を有するまたはそれが発生するリスクが高いかどうかを決定するためのキットを提供する。
【0091】
キットの型の非限定的な例としては、これらに限定されないが、1種または複数種のセルピンを検出するための1種または複数種のプライマー、プローブ、抗体、または他の検出試薬を含有し得るアレイ/マイクロアレイ、セルピン特異的抗体およびビーズが挙げられる。
【0092】
非限定的な実施形態では、本発明は、がんを有する対象の、がんの転移、例えば、これに限定されないが、脳転移を有するまたはそれが発生するリスクが高いかどうかを決定するためのキットであって、セルピン、例えば、ニューロセルピン、セルピンB2、セルピンE1、セルピンE2および/またはセルピンD1のタンパク質レベルを検出するための手段を含むキットを提供する。
【0093】
非限定的な実施形態では、キットは、同定しようとするセルピン(複数可)を免疫検出するための少なくとも1種の抗体を含んでよい。セルピンに特異的な抗体可変領域またはその小領域を含む分子を含めた、ポリクローナルおよびモノクローナルの両方の抗体は、当業者には公知の従来の免疫技法を使用して調製することができる。キットの免疫検出試薬は、所与の抗体または抗原自体に付随する、または連結した検出可能な標識を含んでよい。そのような検出可能な標識としては、例えば、化学発光または蛍光分子(ローダミン、フルオレセイン、緑色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、Cy3、Cy5、またはROX)、放射標識(3H、35S、32P、14C、131I)または酵素(アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ)が挙げられる。あるいは、検出可能部分は、第1の抗体または抗体断片(前記第1の抗体または抗体断片はセルピンを特異的に認識する)に選択的に結合する二次抗体または抗体断片に含めることもできる。
【0094】
さらなる非限定的な実施形態では、セルピン特異的抗体は、カラムマトリックス、アレイ、またはマイクロタイタープレートのウェルなどの固体支持体に結合させてもたらすことができる。あるいは、支持体は、キットの別々の要素としてもたらすこともできる。
【0095】
ある特定の実施形態では、キットの型としては、これに限定されないが、包装されたプローブおよびプライマーセット(例えば、TaqManプローブ/プライマーセット)が挙げられ、これは、1種または複数種のセルピン、例えば、ニューロセルピン、セルピンB2、セルピンE1、セルピンE2またはセルピンD1を検出するための1種または複数種のプローブ、プライマー、または他の検出試薬をさらに含有してよい。
【0096】
特定の非限定的な実施形態では、キットは、同定しようとするセルピン(複数可)を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または核酸配列決定に適したオリゴヌクレオチドプライマーの対を含んでよい。プライマー対は、上記のセルピンと相補的なヌクレオチド配列を含んでよく、前記セルピンと選択的にハイブリダイズするために十分な長さであってよい。複数のセルピンを同時にアッセイするために多数のセルピン特異的プライマーをキットに含めることができる。キットは、1つまたは複数のポリメラーゼ、逆転写酵素、およびヌクレオチド塩基も含んでよく、ヌクレオチド塩基はさらに検出可能に標識されていてもよい。
【0097】
非限定的な実施形態では、プライマーは、少なくとも約10ヌクレオチドもしくは少なくとも約15ヌクレオチドもしくは少なくとも約20ヌクレオチドの長さおよび/または最大で約200ヌクレオチドもしくは最大で約150ヌクレオチドもしくは最大で約100ヌクレオチドもしくは最大で約75ヌクレオチドもしくは最大で約50ヌクレオチドの長さであってよい。
【0098】
さらなる非限定的な実施形態では、オリゴヌクレオチドプライマーを、固体表面または支持体上、例えば、核酸マイクロアレイ上に固定化することができ、場合によって、固体表面または支持体に結合させた各オリゴヌクレオチドプライマーの位置は既知であり、同定可能である。
【0099】
特定の非限定的な実施形態では、キットは、同定しようとするセルピンを検出するためのin situハイブリダイゼーションまたは蛍光in situハイブリダイゼーションに適した少なくとも1種の核酸プローブを含んでよい。
【0100】
特定の非限定的な一実施形態では、キットは、1種または複数種のセルピン、例えば、ニューロセルピン、セルピンB2、セルピンE1、セルピンE2および/またはセルピンD1を検出するために適したプローブ、プライマー、マイクロアレイ、抗体または抗体断片のうちの1つまたは複数を含んでよい。
【0101】
ある特定の非限定的な実施形態では、キットは、バイオマーカーの発現レベルを決定するためのアッセイまたは反応を行うために必要な1種または複数種の検出試薬および他の成分(例えば、緩衝液、アルカリホスファターゼなどの酵素、抗体など)を含んでよい。
【0102】
ある特定の実施形態では、キットは、プラスミノーゲン活性化因子の阻害を検出および/または測定するための手段を含んでよい。そのようなキットは、プラスミノーゲン活性化因子、プラスミノーゲン、および場合によってプラスミノーゲンのプラスミンへの切断を検出するための手段を含んでよい。
【0103】
ある特定の実施形態では、キットは、上記のセルピン発現を検出および/または測定するための手段に加えて、L1CAMの発現を検出および/または測定するための手段をさらに含んでよく、したがって、L1CAM発現を検出するために適したプローブ、プライマー、マイクロアレイ、抗体または抗体断片を含んでよい。そのような決定は、L1CAMの拮抗作用を用いる療法が意図される場合に有用であり得る。
【0104】
キットは、キットを使用するための指示書をさらに含んでよい。前記指示書は、がん細胞がセルピン(例えば、ニューロセルピン、セルピンB2、セルピンE1、セルピンE2またはセルピンD1)を過剰発現し、かつ/または分泌している場合には、対象の、がんの転移、例えば、これに限定されないが、脳への転移を有するまたはそれが発生するリスクが高いという開示を含んでよい。L1CAM検出用要素が含まれる場合には、前記指示書は、セルピンならびにL1CAMを発現するがん細胞がL1CAM拮抗作用から利益を受け得るという開示をさらに含んでよい。ある特定の実施形態では、指示書により、対象のがん細胞においてセルピンの過剰発現が検出された場合、特にがん細胞がL1CAMも発現しているまたはその正常な対応物と比較してL1CAMを過剰発現している場合に、対象がL1CAMの阻害から利益を受け得ることが推奨され得る。
5.3治療方法
【0105】
ある特定の実施形態では、本発明は、がんに罹患している対象を処置する方法であって、(i)対象の、がんの転移拡散のリスクが高いかどうかを決定するステップであって、がんの細胞がセルピンを過剰発現しているかどうかを決定することを含み、セルピンの過剰発現が、対象の、がんの転移拡散のリスクがより高いことを示すステップと、(ii)対象の転移拡散のリスクが高い場合に、転移の成長または発生を阻害する治療モダリティを実施または推奨するステップとを含む方法を提供する。
【0106】
治療モダリティは、標準の化学療法または放射線療法および/または下の節に記載されている本発明による療法を含んでよい。
5.3.1L1CAMの阻害
【0107】
ある特定の非限定的な実施形態では、転移の成長または発生を阻害するための治療モダリティは、血管のL1CAM媒介性利用を、例えば、上記のリスクがあると同定された対象にL1CAM阻害剤を投与することによって阻害するための手段を含む。L1CAM阻害剤は、L1CAMの血管を利用する能力を低下させ、かつ/またはL1CAMの腫瘍の成長を促進する能力を低下させる薬剤である。L1CAM阻害剤は、例として、また限定するものではなく、がん細胞におけるL1CAMの発現を低下させること、またはL1CAMをがん細胞表面から除去すること、またはL1CAMに結合し、したがって内皮細胞に結合するL1CAMの能力を低下させることによって、例えば内皮細胞との結合に利用可能なL1CAMの量を減少させることによって、または物理的な阻害によって、作用し得る。
【0108】
ある特定の非限定的な実施形態では、そのような治療を、がんの細胞がセルピンとL1CAMの両方を発現しているがんを有する対象に施す。ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、がんを有する対象において、がんの転移拡散を阻害する方法であって、がんの細胞が、(i)セルピンを過剰発現しているかどうか、および(ii)L1CAMを発現しているかどうかを決定するステップと、細胞がセルピンを過剰発現しており、かつL1CAMを発現している場合に、対象を治療量のL1CAM阻害剤を用いて処置するステップとを含む方法を提供する。
【0109】
対象がヒトである非限定的な実施形態では、阻害されるL1CAMは、UniProtKB受託番号P32004および/またはNCBI受託番号NM_000425バージョンNM_000425.4および/またはNM_001278116バージョンNM_001278116.1に記載されているアミノ酸配列を有するヒトL1CAMである。
【0110】
非限定的な実施形態では、L1CAM阻害剤は、L1CAMに特異的に結合する抗体または抗体断片または単鎖抗体であってよい。そのような抗体の非限定的な例は、米国特許第8,138,313号、国際特許出願公開第WO2007114550号、および国際特許出願公開第WO2008151819号に開示されており、ならびにこれらの引用に記載されている抗体とL1CAMとの結合について競合する抗体である。ある特定の非限定的な実施形態では、抗L1CAM抗体または抗体断片を使用して、本発明に従って使用するための、L1CAMに対して特異的であるヒト、ヒト化、または他のキメラ抗体を調製することができる。ある特定の非限定的な実施形態では、L1CAM抗体、抗体断片、または単鎖抗体は、生理的条件下、例えば、in vitroまたはin vivoにおいて、L1CAMの内皮細胞または毛細血管への結合を阻害し得る。
【0111】
非限定的な実施形態では、L1CAM阻害剤は、L1CAM mRNAと相同な領域を含む核酸、例えば、低分子ヘアピン型、干渉、アンチセンス、またはリボザイム核酸であってよい。例えば、そのような核酸は、約15から約50の間または約15から30の間または約20から30ヌクレオチドの間の長さであり、生理的条件下でL1CAM mRNAとハイブリダイズすることができるものであってよい。L1CAMを阻害する低分子ヘアピン型(sh)RNAの非限定的な例は、下記の実施例に記載されている。非限定的な実施形態では、核酸であるL1CAM阻害剤は、前記がん細胞に選択的にターゲティングすることができ、かつ/または、腫瘍細胞において選択的に活性であるプロモーターもしくは特定の非限定的な実施形態ではセルピンプロモーターによってL1CAM阻害核酸の発現を導くことができるベクター、例えば、レンチウイルスを介してL1CAM発現がん細胞にもたらすことができる。L1CAM mRNAの核酸配列の非限定的な例としては、NCBI受託番号NM_000425バージョンNM_000425.4および/またはNM_001278116バージョンNM_001278116.1に記載されている配列が挙げられる。特定の非限定的な一実施形態では、L1CAM阻害剤は、ヘアピン配列5’−CCGGACGGGCAACAACAGCAACTTTCTCGAGAAAGTTGCTGTTGTTGCCCGTTTTTTG(配列番号1)
および標的配列ACGGGCAACAACAGCAACTTT(配列番号2);
またはヘアピン配列5’−CCGGCCACTTGTTTAAGGAGAGGATCTCGAGATCCTCTCCTTAAACAAGTGGTTTTTG(配列番号3)
および標的配列CCACTTGTTTAAGGAGAGGAT(配列番号4);
またはヘアピン配列5’−CCGGGCCAATGCCTACATCTACGTTCTCGAGAACGTAGATGTAGGCATTGGCTTTTTG(配列番号5)
および標的配列GCCAATGCCTACATCTACGTT(配列番号6)を有するRNAiTRCN0000063916(The RNAi Consortium、Public TRC Portal)である
5.3.2セルピンの阻害
【0112】
ある特定の非限定的な実施形態では、転移の成長または発生を阻害するための治療モダリティは、セルピン、例えば、限定するものではないが、ニューロセルピン、セルピンB2、セルピンE1、セルピンE2もしくはセルピンD1、またはより詳細にはヒトニューロセルピン、ヒトセルピンB2、ヒトセルピンE1、ヒトセルピンE2もしくはヒトセルピンD1を阻害するための手段を含む。セルピン阻害剤は、プラスミノーゲン活性化因子を阻害するセルピンの能力を低下させる薬剤である。セルピン阻害剤は、例として、また限定するものではなく、がん細胞におけるセルピンの発現を低下させる、またはセルピンに結合し、したがってプラスミノーゲン活性化因子を阻害するセルピンの能力を低下させることによって作用し得る。
【0113】
ある特定の非限定的な実施形態では、本発明は、対象におけるがんの転移を阻害する方法であって、対象に、有効量のセルピン阻害剤、例えば、プラスミノーゲン活性化因子を阻害するセルピン、例えば、これらに限定されないが、ニューロセルピン、セルピンB2、セルピンE1、セルピンE2、および/またはセルピンD1の阻害剤を投与するステップを含む方法を提供する。
【0114】
非限定的な実施形態では、セルピン阻害剤は、セルピンに特異的に結合する抗体または抗体断片または単鎖抗体であってよい。そのような抗体の非限定的な例は、Irving, J.A.ら、Methods Enzymol. 2011年;501巻;421〜466頁;Boncela、J.ら、J. Bio. Chem. 2011年;286巻;43164〜43171頁;およびVan De Craen, B.ら、Throm. Res.2012年;129巻(4号):e126〜133頁に開示されている。ある特定の非限定的な実施形態では、抗セルピン抗体または抗体断片を使用して、本発明に従って使用するための、セルピンに対して特異的であるヒト、ヒト化、または他のキメラ抗体を調製することができる。
【0115】
非限定的な実施形態では、セルピン阻害剤は、セルピンmRNAと相同な領域を含む核酸、例えば、低分子ヘアピン型、干渉、アンチセンス、またはリボザイム核酸であってよい。例えば、そのような核酸は、約15から50の間または約15から30の間または約20から30ヌクレオチドの間の長さであり、生理的条件下でセルピンmRNAとハイブリダイズすることができるものであってよい。セルピンを阻害する低分子ヘアピン型(sh)RNAの非限定的な例は、下記の実施例に記載されている。非限定的な実施形態では、核酸であるセルピン阻害剤は、前記がん細胞に選択的にターゲティングすることができ、かつ/または腫瘍細胞において選択的に活性であるプロモーターによってセルピン阻害核酸の発現を導くことができるベクター、例えば、レンチウイルスを介してセルピン発現がん細胞にもたらすことができる。
【実施例】
【0116】
6.実施例
6.1材料および方法
脳転移細胞の単離および培養。ヒト脳転移細胞株は以前に記載されている(Bosら、2009年;Nguyenら、2009年b)。ErbB2−P細胞株を、マウスにおけるMMTV駆動NeuNTトランスジェニック乳房腫瘍から樹立した(Mullerら、1988年)。ErbB2−P細胞を心臓内に注射して脳転移性誘導体を得た。簡単に述べると、体積100μl中、TKGFP−ルシフェラーゼ(TGL)構築物を発現するErbB2−P細胞10個を含有する細胞浮遊液を、麻酔した4〜6週齢FVB/NCrマウスの左心室に注射した。以前に記載されている通り、XenogenのIVIS−200イメージングシステムを使用した週に1回の生物発光イメージングによって腫瘍の発生をモニターした。ex vivo生物発光イメージングによって脳病変の場所を特定し、滅菌条件下で切除した。組織を細かく刻み、0.125%コラゲナーゼIIIおよび0.1%ヒアルロニダーゼを補充した、DMEM/ハムF12の1:1混合物を含有する培養培地に入れた。試料を室温で4〜5時間、穏やかに揺らしながらインキュベートした。コラゲナーゼ処理後、細胞を短時間遠心分離し、0.25%トリプシンに再浮遊させ、37℃のウォーターバス中でさらに15分インキュベートした。細胞を培養培地に再浮遊させ、10cmの皿上で集密になるまで成長させた。GFP+細胞を培養物中での繁殖またはマウスへの接種のために選別した。
【0117】
MDA231−BrM2、ErbB2−BrM2、373N1、393N1、482N1、2691N1を、10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100IU/mlのペニシリン/ストレプトマイシンおよび1£gg/mlのアンホテリシンBを補充したDME培地で培養した。CN34−BrM2を、2.5%ウシ胎児血清(FBS)、10μg/mlのインスリン、0.5μg/mlのヒドロコルチゾン、20ng/mlのEGF、100ng/mlのコレラ毒素、1μg/mlのアンホテリシンB、および100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシンを補充したM199培地で培養した。H2030−BrM3およびPC9−BrM3を、10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100IU/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、および1μg/mlのアンホテリシンBを補充したRPMI1640培地で培養した。レトロウイルスおよびレンチウイルス産生のために、それぞれGPG29および293T細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100IU/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、および1μg/mlのアンホテリシンBを補充したDME培地で培養した。さらに、GPG29培地は、0.3mg/mlのG418、20ng/mlのドキシサイクリンおよび2μg/mlのピューロマイシンを含有した。MDA231−BrM2 SCPを以前に示されている通り段階希釈によって調製し(Kangら、2003年)、10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100IU/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、および1μg/mlのアンホテリシンBを補充したDME培地で培養した。マウス小膠細胞はATCCで取得した(CRL−2467)。マウスアストロサイトは、2日齢の仔から得た(Schildgeら、2013年)。簡単に述べると、脳を機械的に分離し、100μmのフィルターを通して濾過し、細胞浮遊液を、ペトリ皿中、通常条件下でその後の10日間培養した。10日目に、皿を37℃で一晩、穏やかに振とうしながらインキュベートした。次の日に培地を交換し、アストロサイトの富化を、細胞の90%超がGFAPについて陽性に染色されたことで確認した。
【0118】
動物研究。動物を使用する実験は全て、MSKCC Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により認可されたプロトコールに従って行った。4〜6週齢の胸腺欠損NCR nu/nu(NCI−Frederick)、Cr:NIH bg−nu−xid(NCI−Frederick)、FVB/NCr(NCIFrederick)、およびB6129SF1/J(Jackson Laboratory)雌マウスを動物実験のために使用した。脳コロニー形成アッセイを以前に記載されている通り実施した(Bosら、2009年;Nguyenら、2009年b)。簡単に述べると、MDA231−BrM2a、CN34BrM−2c、H2030−BrM3、PC9−BrM3を50,000個(長期実験用)または500,000個(短期実験用)、および同系の細胞株373N1、393N1、482N1、2691N1、ErbB2−BrM2細胞については100,000個を100μlのPBSに再浮遊させ、左心室に注射した。脳コロニー形成をin−vivoおよびex−vivoにおいて生物発光イメージング(BLI)によって分析した。麻酔したマウス(100mg/kgのケタミン/10mg/kgのキシラジン)をD−ルシフェリン(150mg/kg)と一緒に後眼窩に注射し、IVIS Spectrum Xenogen machine(Caliper Life Sciences)を用いてイメージングした。Living Image software、version 2.50を使用して生物発光分析を実施した。
【0119】
遺伝子発現解析。RNAeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して全RNAを細胞から単離した。Transcriptor First Strand cDNA synthesis kit(Roche)を使用してcDNAを生成するために1000ngのRNAを使用した。Taqman gene expression assays(Applied Biosystems)を使用して遺伝子発現を解析した。アッセイをヒト遺伝子:FADD(Hs04187499_m1)、FASL(Hs00181225_m1)、L1CAM(Hs01109748_m1)、SERPINB2(Hs00234032_m1)、SERPIND1(Hs00164821_m1)、SERPINE1(Hs01126604_m1)、SERPINE2(Hs00385730_m1)、SERPINI1プローブ#1(Hs01115397_m1)、SERPINI1プローブ#2(Hs01115400_m1)に対して使用した。アッセイをマウス遺伝子:fasL(Mm00438864_m1)、セルピンb2(Mm00440905_m1)、セルピンd1(Mm00433939_m1)、セルピンe2(Mm00436753_m1)、セルピンI1(Mm00436740_m1)に対して使用した。相対的な遺伝子発現を、「ハウスキーピング」遺伝子、すなわちβ2M(Hs99999907_m1)およびβ2m(Mm00437762_m1)に対して標準化した。ABI 7900HT Fast Real−Time PCR systemで定量的PCR反応を実施し、software SDS2.2.2(Applied Biosystems)を使用して解析した。
【0120】
臨床的な試料および免疫組織化学的検査。肺がん脳転移および乳がん脳転移からそれぞれ33および123症例を、MSKCCのBrain Tumor Center and the Department of Pathologyから得た。乳がんおよび肺がんから得た脳転移由来のパラフィン包埋組織マイクロアレイを、MSKCC Department of Pathologyから、MSKCC Institutional Review Board(IRB)によって認可されたプロトコールに従って得た。Immunohistochemistry for Neuroserpin(Abcam、ab16171−100、ロット番号158358、1:250)およびSerpinB2(Santa Cruz、sc−25745、ロット番号L1406、5μg/ml)は、MSKCC Molecular Cytology Core Facilityにより、標準化した自動プロトコールを使用して実施された。免疫反応性染色を臨床病理医が盲検式で評価し、スコアリングした。42の乳がん由来脳転移試料を原発腫瘍型に対してアノテートし、これは、ニューロセルピンについて陽性が27症例、およびセルピンB2について陽性が12症例に対応する。SERPINB2およびSERPINI1の発現の解析を、MSKCCデータセット#1(Nguyenら、2009年b)を使用することによって実施し、このデータセットは107の試料を含み、そのうちの106について臨床情報が入手可能であった。SERPINI1およびSERPINB2の平均値のハザード比を、Rにおいて「coxph」コマンドによって実行されるコックス比例ハザードモデルに基づいて計算した。
【0121】
脳切片アッセイ。成体マウス脳由来の器官型切片培養物を、以前に記載された方法(PolleuxおよびGhosh、2002年)を適合させて調製した。脳(4〜6週齢の胸腺欠損NCR nu/nuマウス)を、HEPES(pH7.4)(2.5mM)、D−グルコース(30mM)、CaCl2(1mM)、MgSO(1mM)、NaHCO(4mM)を補充したハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中で解剖し、42℃で予め加熱した低融点アガロース(Lonza)に包埋した。包埋した脳を、ビブラトーム(Leica)を使用して250μmの切片に切断した。脳切片(bregma−1mm〜+3mm)を、平らなへらを用いて、切片培養培地(HBSS、FBS5%、L−グルタミン(1mM)、100IU/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを補充したDMEM)中の0.8μmのポア膜(Millipore)の上部に置いた。脳切片を37℃、5%CO2で1時間インキュベートし、次いで、培養培地2μLに浮遊させたがん細胞3×10個を切片の表面上に置き、48〜72時間インキュベートした。脳切片は、これらの条件下で5日間まで、組織構造の明らかな変更を伴わずに維持することができた。α2−抗プラスミン(Molecular Innovations、2.5μg/ml)、ニューロセルピンおよびセルピンB2(Peprotech、各0.5μg/ml)を培地に添加した。sFasL(Peprotech、500ng/ml)またはFasL遮断抗体(BD、12.5μg/ml)を培地に添加し、切片を24時間プレインキュベートした後にがん細胞を添加した。脳切片を4%PFA中、一晩にわたって固定し、次いで、GFP(Aves lab、ref.GFP−1020、1:1000)、切断カスパーゼ−3(Cell Signaling、ref.9661、1:500)、IV型コラーゲン(Millipore、ref.AB756P、1:500)について浮動性免疫蛍光を実施した。核をビス−ベンズアミド(SIGMA、1£gg/ml)で染色した。切片にProLong Gold anti fade reagent(Invitrogen)を乗せた。
【0122】
プラスミド、組換えタンパク質およびin vitro実験。ヒトニューロセルピンcDNA(Open Biosystems)をpBABE−puroレトロウイルス発現ベクターにサブクローニングした。部位特異的変異誘発(Stratagene)を実施して、以前に特徴付けられたΔloop変異体を生成した(Takeharaら、2009年)。この研究において使用するshRNAのTRC番号は、ニューロセルピン(TRCN0000052356およびTRCN0000052355)、SERPINB2(TRCN0000052278)、SERPINE2(TRCN0000052317)、L1CAM(TRCN0000063916)である。shRNAは全て、ヒト遺伝子に特異的であり、ピューロマイシン、ハイグロマイシンまたはネオマイシン(G418)耐性遺伝子を有するpLKO.1−shRNAベクター(Open Biosystems)において発現するものであった。ST6GalNaC5 shRNAは以前に記載されている(Bosら、2009年)。FADD−DD構築物(Andrew M.Thornburn)をpLVX−hygroレンチウイルス発現ベクターにサブクローニングした。ニューロセルピンELISAを製造者の指示書に従って実施した(Peprotech)。DVL−K発色アッセイを、24ウェルプレートに細胞5×10個をプレーティングし、DMEM FBS0.25%中、一晩にわたって飢餓状態にすることによって実施した。プラスミノーゲン(Molecular innovations、0.125μM)を、DVL−K発色アッセイの前に24時間インキュベートしたがん細胞に添加した。D−VLK発色基質(Molecular Innovations)を製造者の指示書に従って調製した。DVLKを細胞に添加し、405nmにおける吸収の変化をモニターした。(3−(4,5−ジメチルチアゾリル−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)細胞増殖アッセイ用に細胞5×10個を96ウェルプレートにプレーティングし、切断カスパーゼ−3用に細胞25×10個を24ウェルプレートにプレーティングし、sFasL(Peprotech、100〜500ng/ml)の存在下または不在下で0.25%FBSを用いて一晩にわたって飢餓状態にし、示されている期間にわたってインキュベートした。細胞のプラスミン(Molecular Innovations)処理を1.6U/mlで4時間にわたって行った。
【0123】
免疫蛍光法。免疫蛍光用の組織を、PFA4%を用いて4℃で一晩固定した後に得た。ビブラトーム(Leica)または滑走式ミクロトーム(Fisher)を使用することによって脳の切片作製を行った。両方の型の脳切片(それぞれ250μmおよび80μm)をPBS中10%NGS、2%BSA、0.25%Triton中、室温(RT)で2時間にわたってブロッキングした。一次抗体をブロッキング溶液中、4℃で一晩インキュベートし、翌日にRTで30分インキュベートした。0.25%PBSTriton中で広範に洗浄した後、二次抗体をブロッキング溶液に添加し、2時間インキュベートした。0.25%PBS−Triton中で広範に洗浄した後、ビス−ベンズアミドを用い、RTで7分にわたって核を染色した。一次抗体:GFP(Aves Labs、ref.GFP−1020、1:1000)、プラスミノーゲン(Santa Cruz、ref.sc−25546、1:100)、tPA(Molecular Innovations、ref.ASMTPA−GF、1:50)、uPA(Molecular Innovations、ref.ASMUPA−GF、1:50)、GFAP(Dako、ref.Z0334、およびMillipore、ref.MAB360、両方とも1:1000)、IbaI(Wako、ref.019−19741、1:500)、Col.IV(Millipore、ref.AB756P、1:500)、NeuN(Millipore、ref.MAB377、1:500)、ニューロセルピン(Abcam、ref.ab16171、1:250)、FasL(Santa Cruz、ref.sc−834およびsc−6237、1:100)、L1CAM(Millipore、ref.CBL275、1:200およびCovance、ref.SIG−3911、1£gg/ml)。二次抗体:Alexa−Fluor抗ニワトリ488、抗ウサギ555、抗マウス555、抗マウス633(Invitrogen)。
【0124】
免疫ブロッティング。細胞ペレットをRIPA緩衝液を用いて溶解させ、タンパク質の濃度をBSA Protein Assay Kit(Pierce)によって決定した。タンパク質をSDS−PAGEによって分離し、ニトロセルロースメンブレンまたはPVDFメンブレンに転写した。メンブレンを、FAS(Santa Cruz、ref.sc−715、1:100)、FasL(Santa Cruz、ref.sc−834およびsc−6237 1:100)、L1CAM(Millipore、ref.CBL275、eBioscience、ref.14−1719、およびAbcam、ref.ab24345、1:200〜1000)、FLAG(Sigma、1:2000)、セルピンB2(Abcam、ref.47742、1:500)、チューブリン(Cell signaling、1:2000)に対する抗体を用いて免疫ブロットした。
【0125】
共焦点顕微鏡法および画像解析。Leica SP5縦型共焦点顕微鏡10×、20×、40×および63×対物レンズを用いて画像を取得し、ImageJ、ImarisおよびMetamorphソフトウェアを用いて画像を解析した。脳切片アッセイにおいて、表面上に残っている細胞クラスターを避けるために、切片の表面から40μm超の場所にあるGFP+細胞体を解析の考慮に入れた。ImageJを使用して、共焦点像を使用して閾値0.45でラウンドフィルターを適用することによって拡散細胞指数を決定した。
【0126】
in vitro血液脳関門アッセイ。このアッセイを以前に記載されている通り実施した(Bosら、2009年)。簡単に述べると、初代ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC、ScienCell)をポリリシン処理し、ゼラチンでコーティングした組織培養トランスウェルインサートの反対側でヒト初代アストロサイト(ScienCell)と3日間共培養した。簡単に述べると、3μm孔のPET組織培養インサート(Fisher)を、ポリリシン(1μg/ml、Millipore)を用いて一晩処理し、4回洗浄し、0.2%ゼラチン(Sigma)を用いて最低30分にわたってコーティングした。インサートを15cmのプレートに上下逆にして置き、初代ヒトアストロサイト10個をメンブレン表面にプレーティングした。アストロサイトを15分ごとに5時間にわたり供給し、次いで、インサートを反転させ、24ウェルプレートに入れた。内皮細胞5×10個をインサートの上のチャンバーにプレーティングし、培養物をさらに動かすことなくインキュベーターに入れた。BBB遊出アッセイのために、細胞5×10個を上のチャンバーに播種し、14〜18時間インキュベートした。インサートをPBSで洗浄し、4%PFAを用いて20分にわたって固定した。メンブレンをプラスチックインサートから取り出し、GFPに対する免疫蛍光法を実施し、顕微鏡スライドに乗せた。実験当たり5〜8個のインサートからの多数の視野の像を取得し、遊出した細胞の数を計数した。
【0127】
フローサイトメトリー。1mMのEDTAを使用して接着細胞の単層を剥離し、単一細胞浮遊液に再浮遊させ、蛍光色素とコンジュゲートしたヒトL1CAMのモノクローナル抗体(eBioscience、ref.12−1719−42)と一緒にインキュベートした。L1CAMの細胞表面での発現をFACSCaliburフローサイトメーター(BD Biosciences)によって解析した。
【0128】
細胞接着アッセイ。HBMECまたは腫瘍細胞を、2ウェル培養スライド(BD Falcon)にプレーティングし、90%超の集密になるまで成長させた。腫瘍細胞をCellTracker.Green CMFDA(5−クロロメチルフルオレセインジアセテート)(Molecular Probes)で標識した。予め標識した腫瘍細胞7.2×10個をがん細胞の単層に20分にわたって接着させた。非接着細胞を洗い流した後、スライドを、1%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、DAPI(Vector Labs)を伴う封入剤を用いて封入した。接着細胞(緑色)および総細胞の核(青色)を蛍光顕微鏡法によってスコアリングした。各ウェルの底部を覆うHBMECまたはがん細胞に接着したGFP+がん細胞の数を算出した。
6.2結果
【0129】
PA阻害性セルピンと脳転移表現型の関連性。共有される脳転移のメディエーターを同定するために、リンパ節由来ヒト肺腺癌細胞株H2030およびPC9(Nguyenら、2009年b)から単離した脳転移性亜集団(BrM)、ならびに胸水由来乳がん細胞株MDA−MB−231(略してMDA231)およびCN34(Bosら、2009年)から単離した脳転移性亜集団(BrM)のトランスクリプトームサインを解析した(図1A)。4つのモデルのうち少なくとも3つにおいて、7種の遺伝子が脳転移細胞において供給源である親系統と比較して上方制御された(図8A)。これらの遺伝子の中で、LEF1は以前に肺腺癌細胞の脳転移におけるWNTシグナル伝達メディエーターとして定義されている(Nguyenら、2009年b)。SERPINI1(以下を参照されたい)はヒト原発腫瘍における脳での再発に関連したが、他の遺伝子はいずれも関連しなかった。ニューロセルピン(NS)をコードするSERPINI1はまた、その発現が通常はニューロンに制限され、そこでPA関連細胞傷害性から保護されるので、興味深いものであった(FabbroおよびSeeds、2009年;Yepesら、2000年)。
【0130】
ヒトにおけるセルピンファミリーは、集合的に18種のプロテアーゼを標的とする36種のメンバーを含む(Irvingら、2000年)。これらのセルピンのうちの4種−ニューロセルピン、ならびにセルピンB2、E1、およびE2は、PAを選択的に阻害する(Lawら、2006年)。qRT−PCRを使用した遺伝子発現解析により、抗PAセルピンのうちの3種が脳転移細胞においてmRNAレベルで3倍超に上方制御されることが示された(図1A)。他の唯一のセルピン、SERPIND1も上方制御された(図1A)。セルピンD1は、大脳傷害においてプラスミノーゲンと協同するトロンビンを阻害する(Fujimotoら、2008年)。骨転移性誘導体(MDA231−BoM)(Kangら、2003年)および肺転移性誘導体(MDA231−LM2)(Minnら、2005年)はMDA231−BrM2との比較のために利用可能であり、それらは、セルピンのわずかな上方制御を示すか(BoM)またはセルピンの上方制御を示さなかった(LM2)(図1B)。
【0131】
免疫適格性モデル、および乳がんの異なるサブタイプを調査するために、変異体ErbB2導入遺伝子(Mullerら、1988年)によって駆動されるマウス乳房腫瘍から細胞株ErbB2−Pを樹立し、次いで、コンジェニックマウスにおけるErbB2−Pのin vivo選択によって脳転移性誘導体(ErbB2−BrM2)を単離した。ErbB2−BrM2細胞は親系統と比較してセルピンB2およびD1の強力な上方制御を示した(図1A)。遺伝子操作されたKrasG12D;p53−/−マウス肺腺癌のリンパ節転移に由来する4つの細胞株もスクリーニングした(Winslowら、2011年)。4つの株の全てが内臓に高度に転移したが、脳転移活性が広範であった(図1C、S1B);脳転移は、セルピンI1、B2、E2および/またはD1の高発現と関連した(図1C、D)。
【0132】
脳転移細胞におけるニューロセルピンおよびセルピンB2の上方制御がタンパク質レベルで確認された(図8C、D)。さらに、脳転移細胞株からの馴化培地では、発色プラスミン活性アッセイを使用して決定された通り、プラスミノーゲンからプラスミンへの変換が阻害された(Baiら、2011年)(図1E、Fおよび8E)。唯一の例外がPC9−BrM3であり、この細胞株はH2030−BrM3と比較して脳転移における侵攻性が低く(Nguyenら、2009年b)、抗PAセルピンが上方制御されなかった(図1A、8C、D)。
【0133】
ヒト脳転移組織におけるニューロセルピンおよびセルピンB2。これらのモデルにおいて最も頻繁に上方制御された2種の抗PAセルピン、ニューロセルピンおよびセルピンB2に焦点を当てて、10の、再発アノテーションを伴う原発肺腺癌からの遺伝子発現データを照会した(Nguyenら、2009年b)。腫瘍におけるSERPINI1およびSERPINB2の発現レベルは、個々の遺伝子として(データは示していない)および組み合わせての両方で脳での再発と関連した(p=0.018、ハザード比=2.33+/−0.3;図1G)。2種の遺伝子の発現は、骨または肺への転移とは有意には関連しなかった(p=0.89、ハザード比=0.91+/−0.33;p=0.36、ハザード比=0.76+/−0.27;図8F、G)。原発性乳腺腫瘍におけるSERPINI1およびSERPINB2発現は脳転移の予測因子ではないが(p=0.21、ハザード比=0.96+/−0.16;図8H)、これらの場合の大部分で脳での再発が後期事象であった。
【0134】
ヒト脳転移組織におけるニューロセルピンおよびセルピンB2の免疫組織化学的分析を、参照脳としてマウスにおいてセルピン発現ヒトがん細胞によって形成された病変を使用して実施した(図8I)。33の、非小細胞肺癌の脳転移のうち、45%がニューロセルピンについて陽性にスコアリングされ、94%がセルピンB2について陽性にスコアリングされた。種々のサブタイプの乳がんからの123の中では、77%がニューロセルピンについて陽性にスコアリングされ、34%がセルピンB2について陽性にスコアリングされた(図1H、Iおよび8I、J)。免疫反応性は癌腫細胞の細胞質内に拡散的に分布し、最低限のみがわずかな細胞外間質に分布した。腫瘍周囲の炎症性浸潤ではニューロセルピンおよびセルピンB2についての陽性が限定された。
【0135】
プラスミンは、脳実質に浸潤するがん細胞に対して致死的なものである。MDA231−BrM2またはH2030−BrM3モデルは、同所性腫瘍からも動脈循環からも脳に転移する(Bosら、2009年;Nguyenら、2009年b)。これらの細胞を免疫不全マウスの動脈循環に、左心室から接種し、組織を固定して、脳毛細血管ネットワーク内に留まったがん細胞を異なる時点で計数した(図2A〜C、9A)。接種の1日後、単離した、脳毛細血管内に捕捉されたがん細胞を観察した(図2B、およびH2030−BrM3)。接種の2日後から7日後の間に、BBBを通過する細胞が観察された(図2B、9B)。7日目に毛細血管内に残っていた全ての細胞はアポトーシスマーカーである切断カスパーゼ−3について陽性に染色され(図9C、D)、その後消失した。親MDA231では、血管外遊出した細胞の数は5日目以降に急激に減少し、めったに回復しなかった(図9B)。以前の報告と一致して(Carbonellら、2009年;Chambers、2000年;Kienastら、2010年;LorgerおよびFelding−Habermann、2010年)、脳に侵入したがん細胞の90%超が数日以内に消失した。MDA231−BrM2では、血管外遊出した細胞の数は7日目まで増加し、10日目までに急激に減少したが、16日目までに回復した。生存細胞は、脳毛細血管の反管腔側の表面に結合し、その上に広がった(図2A、B)。増大は利用された血管上で主に起こった(図2C図2Dに要約されている)。
【0136】
脳では、転移細胞はアストロサイト(図2E、9E、F)、小膠細胞およびニューロン(図9G〜J)の極めて近傍にあった。GFAP過剰発現および星状の形態によって同定される反応性アストロサイトは血管外遊出の直後(3日目)からそれ以降、がん細胞と関連した(図2E、9E、F)。反応性アストロサイトは脳傷害におけるPAの主要な供給源であるので(Adhamiら、2008年;FabbroおよびSeeds、2009年;GaneshおよびChintala、2011年)、これらの細胞が脳転移におけるPAの供給源であるかどうかを調査した。転移細胞を有するマウス脳切片はアストロサイトに関連するtPAおよびuPA免疫反応性を示した(図2F、G)。培養物中のマウスアストロサイトは、プラスミノーゲンからプラスミンへの変換において小膠細胞よりも優れていた(図9K)。ニューロンは、神経突起およびシナプス形成のためにプラスミノーゲンを産生することが公知である(Gutierrez−Fernandezら、2009年;Hoover−Plowら、2001年)。マウス脳におけるプラスミノーゲン免疫反応性とNeuN+ニューロン周囲の転移細胞の関連性を確認した(図2H)。したがって、脳転移微小環境は、プラスミン産生に必要な成分を含有する。
【0137】
脳実質内のプラスミンが転移細胞に対して有害であるかどうかを決定するために、培養物中のマウス脳切片を使用した(図2I)。脳切片の上部に置くと、H2030−BrM3細胞は組織内に遊走し、毛細血管を標的とし、血管の表面上に拡散した(図2J)。H2030−BrM3細胞はこれらの条件下で生き残り、増殖したが(図2K、L)、親H2030は増殖せず(図2K、L)、アポトーシスを受けた(図2M、N)。MDA231細胞を用いて同様の結果が得られた(図9M)。がん細胞とアストロサイトおよび小膠細胞の共培養物では、プラスミノーゲンの添加により、親H2030ではアポトーシスが誘発されたが、H2030−BrM3ではアポトーシスは誘発されなかった(図9L)。脳組織切片は内在性プラスミン活性を含有し、プラスミン阻害剤であるα2−抗プラスミン(Bajouら、2008年)の添加により、この活性が阻害された(図9N、O)。α2−抗プラスミンの添加により、脳切片における親H2030細胞の生存が増加した(図2K〜N)。留意点として、がん細胞単層培養物へのプラスミンの添加によりアポトーシスは誘発されなかった(図9P)。これらの結果により、脳微小環境において未知の基質を通じて作用するプラスミンにより、浸潤性がん細胞が死滅するが、高転移性の細胞はこの脅威から遮蔽されることが示唆された(図2O)。
【0138】
ニューロセルピンは、転移細胞をプラスミン媒介性減少から保護する。脳転移におけるニューロセルピンの役割を調査するために、まず、このセルピンのみが上方制御されるH2030−BrM3モデルを使用した(図1A参照)。マウスにおいてH2030−BrM3細胞によって形成された脳病変は強力なニューロセルピン免疫反応性を示した(図10A)。ニューロセルピンの発現および分泌を85%超減少させた2種のshRNA(図10B、C)は、培養物中のH2030−BrM3細胞の成長に影響を及ぼさなかった(図10D)が、マーカーであるルシフェラーゼの生物発光イメージング(BLI)in−vivo(図3A〜D)、BLI ex−vivo(図3B)、および脳切片における、マーカーである緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現(図3E)によって示される通り、これらの細胞の転移活性を阻害した。H2030−BrM3におけるニューロセルピン枯渇により、脳病変の数およびサイズの有意な減少が引き起こされ(図3F、10E)、脳腫瘍量の全体的な減少は90%超であった(図3G)。発生したわずかな肉眼で見える病変ではニューロセルピンが豊富であり(図10F)、これにより、これらの病変がノックダウンを免れた細胞から成長したものであることが示される。
【0139】
ニューロセルピンノックダウンにより、H2030−BrM3細胞の脳実質内への血管外遊出は阻害されなかった(図10G)。ニューロセルピンノックダウンはまた、これらの細胞の、in vitroにおいて内皮/アストロサイトBBB様関門を渡る能力にも影響を及ぼさなかったが、BBB血管外遊出のメディエーターであるST6GalNaC5(Bosら、2009年)のノックダウンは当該能力に影響を及ぼした(図10H、I)。脳切片アッセイにおいて、H2030−BrM3細胞におけるニューロセルピンノックダウンにより、浸潤細胞の数が減少し(図3H、I)、アポトーシスが増加したが(図3H、J)、親H2030およびMDA231細胞におけるニューロセルピンの過剰発現は逆の影響を及ぼした(図3K、L)。要するに、がん細胞におけるニューロセルピン発現により、それらのがん細胞の脳実質における生存および増大が支持された。
【0140】
ニューロセルピンのPA阻害機能によって媒介される脳転移。in vivoにおいてニューロセルピンにより肺がん細胞の脳転移活性が増大し得るかどうかを決定するために、PC9−BrM3モデルを使用した。PC9−BrM3細胞は、脳に浸潤することができるが、H2030−BrM3よりも侵攻性が低く(Nguyenら、2009年b)、抗PAセルピンの上方制御を示さない(図1A、8C、D参照)。PC9−BrM3細胞に、野生型ニューロセルピンまたはPA阻害機能を欠く変異体(ニューロセルピンΔloop)をコードするベクターを用いて安定に形質導入した(Takeharaら、2009年)(図10J〜L)。野生型ニューロセルピンによりPC9−BrM3細胞の脳転移活性が有意に増大したが、変異体ニューロセルピンでは当該活性が増大せず(図3M、N)、培養物中のこれらの細胞の増殖の増加は伴わなかった(図10M)。PC9−BrM3細胞はまた、骨への転移性を有するが(Nguyenら、2009年b)、ニューロセルピン過剰発現はこの活性に著しい影響を及ぼさなかった(図3M、N)。ニューロセルピンΔloopは親H2030およびMDA231細胞の脳組織におけるアポトーシスからの保護にも効力がなかった(図3K、L)。これらの結果により、ニューロセルピンが、PAを阻害することによって、がん細胞における脳転移活性を媒介することが示唆される。
【0141】
脳転移性乳がん細胞における抗PAセルピンの役割。H2030−BrM3細胞とは異なり、他の大多数の脳転移モデルおよびヒト脳転移組織の大部分は、1種ではなく多数の抗PAセルピンを過剰発現した(図1A、I参照)。MDA231−BrM2では、3種の過剰発現セルピン−セルピンB2、D1およびニューロセルピンの三重ノックダウン(図11A〜C)により、個々のセルピンのいずれかのノックダウンによるものよりも大きく、細胞の脳転移活性が阻害された(図4A、B、11G、H)。セルピンB2のノックダウン(図11D、E)により、MDA231−BrM2の脳転移活性が部分的に阻害され、失われた活性は、ニューロセルピンを強制的に過剰発現させることによってレスキューすることができた(図4A、B、11F)。MDA231−BrM2集団から10クローン細胞株を単離し、各細胞株におけるニューロセルピン、セルピンB2およびセルピンD1の発現レベルを決定した。セルピン発現のクローンによる不均一性が明らかであり、個々のクローンが1種、2種、または3種全てのセルピンを過剰発現した。親MDA231集団と比較して、ニューロセルピンはクローンの9/10において上方制御され、セルピンB2はクローンの5/10において上方制御され、セルピンD1はクローンの8/10において上方制御された(図4C、11I)。傾向として、3種のセルピンを過剰発現するクローンは、より少ないセルピンを過剰発現するクローンよりも脳への転移性が高かった(図4D、11J)。ニューロセルピンおよびセルピンD1を過剰発現したクローンでは、ニューロセルピンshRNAを用いて形質導入すると脳転移活性が失われた(図4E)。ErbB2−BrM2モデルでは、セルピンB2は、唯一上方制御された抗PAセルピンであった(図1A参照)。これらの細胞におけるセルピンB2ノックダウンにより、免疫適格性マウスにおけるそれらの脳転移活性が強力に低下した(図4F〜H)。要するに、証拠により、1種または複数種の抗PAセルピンの発現により、肺がんおよび乳がん細胞に脳転移の形成における重大な利点がもたらされることが示された。
転移細胞は脳においてFasLに面する。プラスミンによる切断が脳転移と関連する可能性があるタンパク質について、プラスミン基質データベース(MEROPS、CutDB)を検索した。線維素溶解カスケードにおけるフィブリンの切断に加えて、プラスミンは、ある特定のサイトカイン、膜タンパク質、および細胞外マトリックスの成分を切断することができる(Bajouら、2008年;ChenおよびStrickland、1997年;Nayeemら、1999年;Pangら、2004年)。プラスミンによる切断が脳内の転移細胞に対して有害である可能性のあるタンパク質として、まずFasLに焦点を当てた。FasLは、受容体Fasに結合する膜アンカー型ホモ三量体タンパク質であり、アダプタータンパク質FADDを通じてアポトーシス促進性カスパーゼを活性化する(AshkenaziおよびDixit、1998年)。
【0142】
FasLは、虚血、脳外傷、アルツハイマー病、脳脊髄炎および多発性硬化症において、反応性アストロサイトに高度に発現する(ChoiおよびBenveniste、2004年;Dietrichら、2003年)。アストロサイトは、実験的な脳脊髄炎における侵入性T細胞へのFasLの主要な供給源である(Wangら、2013年)。プラスミンは膜アンカー型FasLをArg144において切断し、それにより、可溶性アポトーシス促進性断片(sFasL)が放出される(Bajouら、2008年;Fangら、2012年)。したがって、抗PAセルピンは、プラスミンに動員されるsFasLの致死作用からがん細胞を遮蔽するという仮説を試験した(図5A)。
【0143】
H2030−BrM3病変を有する脳切片の免疫蛍光染色により、FasLが病変内の反応性アストロサイト上に主に発現することが確認された(図5B、12A)。ヒトおよびマウスアストロサイトも培養物中でFasLを発現した(図5C、12B)。これらの培養物にプラスミノーゲンを添加することにより、FasLの細胞外ドメインに対する抗体を用いた免疫染色およびウエスタンブロッティングによって決定された通り、上清中の切断産物を増加させる細胞関連FasLのレベルが低下した(図5C、D、12C〜E)。活性なプラスミンを含有するマウス脳切片(図2K、9O参照)もsFasLを含有した。抗PAセルピンまたは抗プラスミンの添加により、これらの組織におけるsFasLのレベルが低下した(図5E)。これらの結果により、PA−プラスミン系の、脳において間質FasLを動員する能力が示唆された。
【0144】
次に、脳に浸潤するがん細胞がFasL媒介性死滅を受けやすいかどうかを調査した。H2030、PC9、MDA231およびCN34は、それらのBrM誘導体と同様にFasを発現した(図12F)。sFasLをBrM細胞単層に添加することにより、アポトーシスが引き起こされた(図12G〜I)。H2030−BrM3を有する脳切片へのsFasLの添加(図5F〜H)、α2−抗プラスミン(図2N参照)が培養物中に存在する場合でさえ(図S5J)。逆に、抗FasL遮断抗体を添加することにより、親H2030細胞がアポトーシスから保護された(図5G〜I)。したがって、脳転移細胞は、脳実質においてFasLに曝露すると、アポトーシスを非常に受けやすい。
【0145】
ニューロセルピンは、脳転移細胞をFas媒介性死滅から遮蔽する。Fasシグナル伝達により、脳に浸潤したがん細胞の死滅が引き起こされるかどうかを決定するために、デスエフェクタードメインを欠き(FADD−DD構築物)、Fasシグナル伝達のドミナントネガティブ阻害剤として作用するFADD切断変異体を使用した(Chinnaiyanら、1996年)(図5J)。FADD−DDをH2030−BrM3細胞株に形質導入することにより(図5K)、sFasLによるカスパーゼ3の活性化が妨げられた(図5L)。抗PAセルピン枯渇H2030−BrM3またはMDA231−BrM2細胞が脳組織において受けるアポトーシス(図3H〜J、12L参照)は、抗FasL遮断抗体を組織培養物に添加すること、ならびに細胞においてFADD−DDの発現を強制することによって妨げることができた(図5M、N、12L)。さらに、FADD−DDにより、ニューロセルピン枯渇H2030−BrM3細胞の脳内に転移する能力が部分的にレスキューされた(図5O)。集合的に、これらの結果により、脳に浸潤するがん細胞はFasシグナル伝達により死滅し、抗PAセルピン活性により転移細胞がFasL攻撃から遮蔽され得ることが示された。
【0146】
プラスミンは、L1CAMにより媒介されるがん細胞の脳内皮細胞への拡散を標的とする。FADD−DDを用いたFasシグナル伝達の阻害により、ニューロセルピン枯渇がん細胞が脳における死滅から明白に保護されたが、これらの細胞の転移活性は野生型H2030−BrM3細胞の転移活性と比較して、完全には回復しなかった(図5O)。ニューロセルピン枯渇FADD−DD発現H2030−BrM3細胞は、脳内の毛細血管の横に十分に組織化されていないより小さな病変を形成した(図13A)。したがって、抗PAセルピンは、単にFasL作用を妨げる以上のことを行うことによって脳転移を促進すると仮定した。
【0147】
いくつかの糸口に導かれ、L1細胞接着分子(L1CAM)をセルピン−PA−プラスミン系の下流の追加的な脳転移のメディエーターとして検討した。L1CAMは、神経組織および腫瘍において主に発現する(SchaferおよびAltevogt、2010年)。L1CAMは、6つの免疫グロブリン様(Ig)ドメイン、5つのフィブロネクチン様(FN)ドメイン、膜貫通領域、および細胞内ドメインからなる(図6A)。L1CAM Ig様リピートは、脳の発生中の軸索誘導のための同種親和性相互作用および異種親和性相互作用を媒介する(ManessおよびSchachner、2007年)。L1CAMは、それ自体にも、βインテグリン(Felding−Habermannら、1997年)および他のタンパク質(Castellaniら、2002年;Donierら、2012年;Kulahinら、2008年)にも結合し、シグナル伝達および細胞骨格リモデリングを誘発する(Herronら、2009年)。遺伝性L1CAM変異によりL1神経症候群が引き起こされるが(Demyanenkoら、1999年;ManessおよびSchachner、2007年;VosおよびHofstra、2010年)、腫瘍におけるL1CAM発現は、予後不良を伴う(Booら、2007年;Fogelら、2003年;Haiら、2012年;Thiesら、2002年;Tsutsumiら、2011年;Zhuら、2010年)。L1CAMは細胞浸潤に関係付けられているが(Vouraら、2001年)、がんにおけるその役割に関してはほとんど分かっていない。プラスミンによりL1CAMが二塩基モチーフ(Lys860/Lys863)において切断され、細胞間接着の能力が妨害される(Nayeemら、1999年;Sillettiら、2000年)(図6A)。
【0148】
L1CAMは、種または起源の腫瘍型にかかわらず、調査したほとんどの親系統および全ての脳転移性誘導体で発現した(図13B、C)。L1CAMの、H2030−BrM3細胞とヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)の単層の間の異型相互作用およびH2030−BrM3細胞の単層間の同型相互作用のメディエーターとしての役割を調査した。H2030−BrM3細胞は、HBMEC単層に容易に接着した(図6B)。特に、L1CAMのRNAi媒介性ノックダウン(図13B)により、H2030−BrM3細胞のHBMEC(図6C)またはH2030−BrM3単層(図6D)に結合する能力が阻害された。
【0149】
H2030−BrM3、MDA231−BrM2およびPC9−BrM3の単層にプラスミンを添加することにより、抗L1CAMフローサイトメトリー(図6E)および上清中の150kDaのL1CAM断片の蓄積(図6F)によって示される通り、細胞に付随する220kDaのL1CAMレベルの低下が引き起こされた(Mechtersheimerら、2001年)。さらに、プラスミン処理したH2030−BrM3細胞はHBMEC単層に結合する能力を失った(図6G、H)。
【0150】
L1CAMは血管利用および転移増大を媒介する。がん細胞による血管利用に関する分子基盤は依然として不明である。L1CAMの、脳転移細胞のHBMECへの接着を媒介する能力を考慮して、がん細胞L1CAMが脳における血管利用に関与するかどうかを調査した。野生型およびL1CAM枯渇H2030−BrM3は培養物中で同様の増殖速度(図13D)、および、同様の、脳組織に浸潤し、脳毛細血管を探す能力(図6I、13E)を示した。しかし、L1CAM枯渇により、H2030−BrM3およびMDA231−BrM2細胞の脳毛細血管の反管腔側の表面上に拡散する能力が有意に低下した(図6I、J、13G)。特に、L1CAM枯渇には、血管に付随するがん細胞(図6K)における増殖マーカーであるKi67の顕著な減少が伴ったが、アポトーシスマーカーは変化しなかった(図13F)。
【0151】
PC9−BrM3細胞は内在性抗PAセルピンを過剰発現しない。興味深いことに、脳切片アッセイにおいて、ほんの小さな割合のPC9−BrM3細胞のみが毛細血管上に拡散する(図6L、M)。これらの細胞の転移活性を強化するニューロセルピンをPC9−BrM3細胞において強制的に発現させることにより(図3N参照)、脳毛細血管へのそれらの拡散(図6L、M)および利用された血管でのそれらの増殖(図6N)が有意に増加した。重要なことに、ニューロセルピン過剰発現PC9−BrM3細胞におけるL1CAM枯渇(図13H、I)により、血管利用および細胞増殖のニューロセルピン依存性の増加が抑止された(図6L〜N)。これらの結果により、L1CAMが脳内の転移細胞の血管利用および増大を媒介することが示された。
【0152】
L1CAMは、ニューロセルピンの下流の転移開始を支持する。L1CAMのin vivoでの脳転移における役割を調査した。H2030−BrM3微小転移のL1CAMの免疫組織化学的分析により、この分子が内皮細胞との境界面(小さな、平らな形態の核および強いH−E染色により同定される)および隣接するがん細胞との境界面に局在化することが示された(図7A)。H2030−BrM3およびMDA231−BrM2におけるL1CAMノックダウンにより、マウスにおけるこれらの細胞の転移活性が著しく低下した(図7B〜D)。7日目の組織学的分析により、L1CAM枯渇した細胞は脳内に血管外遊出した後、毛細血管ネットワーク上に拡散しないことが示された(図7E)。21日後、これらのコロニーは微小転移性段階で失速した(図3Fにおいて定義されている通り)(図7F、G)。野生型細胞は毛細血管ネットワークにわたって容易に拡大増殖し、大きなコロニーを形成したが、L1CAM枯渇した細胞は大部分が毛細血管に不十分に結合した単一細胞または小さなクラスターのままであった(図7F、G)。さらに、PC9−BrM3における、ニューロセルピンを強制的に過剰発現させることによって与えられる転移活性の獲得は、これらの細胞におけるL1CAMノックダウンによって抑止された(図7H)。これらの結果により、転移細胞におけるL1CAM発現が、ニューロセルピンの下流で脳毛細血管の利用および転移増大を媒介するように作用することが立証された。
6.3考察
【0153】
脳転移の発生率が増していることにより、この条件の基礎をなす分子機構のよりよい理解が保証される。我々の知見は、脳の転移コロニー形成に関する2つの重大な要件、すなわち、浸潤性がん細胞が反応性間質からの致死的シグナルによる死滅を免れること、および、生存がん細胞の、転移性拡大増殖の間に脳毛細血管を利用する著しい能力を解明するものである。我々は、間質PA−プラスミン経路および癌腫由来抗PAセルピンによるその阻害により、肺がんからの脳転移および乳がんからの脳転移の両方におけるこれらのプロセスが制御されることを示し、これにより、脳の転移コロニー形成のための統合された機構が示唆される。
【0154】
脳転移の共通のメディエーターとしての抗PAセルピン。脳転移には、がん細胞と脳毛細血管および反応性アストロサイトの密接かつ持続的な相互作用が必要とされる。以前の研究(Kienastら、2010年;LorgerおよびFelding−Habermann、2010年)および我々自身のデータにより、脳毛細血管内の循環がん細胞が、血管外遊出の間だけでなく、その後も同様に、利用された血管に沿った溝として転移増大するために反管腔側の表面に付着することによってBBB内皮と相互作用することが示される。がん細胞はまた、血管周囲の空間に存在し、内皮と接触してBBBを形成するアストロサイトにすぐに曝露される(Abbottら、2006年)。我々は、アストロサイトが、侵入細胞を寄せつけないための有害なシグナルの供給源として作用することを示す。アストロサイトは、最終的に、増殖因子(Seikeら、2011年)およびGAP結合(Lin、2010年)をもたらすことによって脳転移の成長を支持し得る。しかし、これらの栄養インプットから利益を受けるためには、がん細胞はまず反応性間質の有害作用を妨げなければならない。
【0155】
がん細胞における抗PAセルピンの発現により、そのような遮蔽がもたらされる。我々は、ヒトまたはマウス起源の脳転移性肺がん細胞および脳転移性乳がん細胞が、脳への転移性が低い対応物と比較して高レベルの抗PAセルピンを発現することを示す。公知の抗PAセルピン4種のうちの3種、およびセルピンD1は、我々が調査した6つの実験モデルにおいて発現する。これらのモデルにおける最も顕著な抗PAセルピンであるニューロセルピンおよびセルピンB2は、我々が調査した肺がんおよび乳がん患者由来のヒト脳転移試料の大多数においても発現する。機能アッセイでは、これらのセルピンおよびそれらのPA阻害活性は脳の転移コロニー形成を限定するものである。
【0156】
PA−プラスミン系は、血餅溶解におけるその役割と関連してよく特徴付けられている。しかし、がんでは、PA−プラスミン系は、腫瘍抑制と腫瘍の進行の両方に逆説的に関係する。プラスミンは、がん細胞の増殖および浸潤を、増殖因子前駆体および細胞外マトリックスの成分を切断することによって促進すると考えられている(McMahonおよびKwaan、2008年)。しかし、腫瘍中および血液中の抗PAセルピンE1は、肺がん、乳がん、および胃腸がんの臨床転帰不良に関連する(Allgayerら、1997年;Berger、2002年;Foekensら、1995年;Harbeckら、1999年)。肺がん中のセルピンB2についても同じことが当てはまる(Moritaら、1998年)。したがって、腫瘍の進行におけるPAおよびプラスミンの役割は不明瞭なままである。本明細書において、我々は、抗PAセルピンが転移細胞を脳におけるPA−プラスミンから遮蔽し、明らかな転移促進利点を伴うことを示す。
【0157】
脳におけるFas死滅シグナルからのがん細胞の遮蔽。我々の結果により、FasLを通じて作用するPA−プラスミン系により、脳における浸潤性がん細胞に非常に適さない環境が創出されることが示唆される。FasLは免疫恒常性において重要な役割を果たし(Krammer、2000年)、腫瘍内に存在するが(Baldiniら、2009年)、その発現は反応性アストロサイトにおいて特に急性のものである(Beerら、2000年)。アストロサイトは、浸潤性白血球に応答したFasL、および脳傷害に応答したPAの主要な供給源である(Adhamiら、2008年;Bechmannら、2002年;GaneshおよびChintala、2011年;Teesaluら、2001年)。アストロサイト由来FasLは、脳に侵入してくる自己免疫性T細胞を寄せつけないことにおいて中心的な役割を果たす(Wangら、2013年)。我々は、転移関連アストロサイトがPAとFasLの両方を発現すること、プラスミンが膜に結合したFasLをアストロサイトから放出させること、および脳組織におけるsFasLレベルがプラスミンに依存することを認めた。抗PAセルピン、抗プラスミンセルピン、またはFasL−遮断抗体を脳組織に添加することにより、浸潤性がん細胞が保護される。さらに、肺がんまたは乳がん由来の脳転移細胞はsFasLに誘導されるアポトーシスに対する感受性が高く、抗PAセルピンを発現しなければ、脳におけるFas依存性死滅を受ける。我々は、脳における浸潤性がん細胞の減少がFasシグナル伝達によって媒介され、抗PAセルピンによって妨害されると結論づける。したがって、抗PAセルピンを発現するがん細胞は、PAが豊富な脳の微小環境において強力な利点を有する。
【0158】
転移増大のためのL1CAM媒介性血管利用。FasL媒介性死滅の回避は抗PAセルピンによってもたらされる唯一の転移促進利益ではない。我々は、ニューロセルピンがさらに血管利用−脈管構造上へのがん細胞の拡散を促進することを示す。この効果は、がん細胞におけるプラスミン不安定分子L1CAMの発現に依存する。L1CAM発現は通常ニューロンに制限され、そこで成長円錐と周囲の成分の相互作用を通じて軸索誘導を媒介する(Castellaniら、2002年;Wiencken−Bargerら、2004年)。我々は、がん細胞におけるL1CAM発現により、培養物中の脳内皮細胞および脳内の毛細血管へのがん細胞の接着および拡散が媒介されることを示す。L1CAMはさらにがん細胞間の相互作用を媒介する。プラスミンはL1CAMを切断し、これらの結合活性を不活化する。L1CAMを枯渇させると、脳転移細胞は脳毛細血管を利用できず、転移増大が失速する。この証拠により、ニューロセルピンにより脳転移細胞におけるL1CAMのプラスミン媒介性破壊が妨げられ、これらの細胞による血管利用が促進され、転移がさらに増強されることが示唆される。
【0159】
L1CAMが毛細血管上へのがん細胞拡散のメディエーターであるという知見により、がんにおける血管利用に関する分子基盤に関する予想外の洞察がもたらされる。脳転移の著しい特徴は、転移細胞の、血管外遊出後に毛細血管ネットワークに密接に付着し続ける能力である(Kienastら、2010年;LorgerおよびFelding−Habermann、2010年)。血管利用は、脳転移のために(Carbonellら、2009年)、および、がん細胞が療法に誘導される低酸素状態から免れるために(Leendersら、2004年)重要であると考えられている。がんにおける血管利用が重要である可能性にもかかわらず、このプロセスの分子基盤は分かっていない。L1CAMが転移性血管利用のメディエーターであることのこの同定により、このプロセスの機構的および機能的解明のきっかけがもたらされる。
【0160】
脳転移以上の意味。本明細書で同定される分子機構は、転移細胞を脳において特に急性である選択圧力から保護するものであるが、他の状況にも関連する可能性がある。遠隔器官に浸潤するがん細胞の高死滅率が一般に転移の特性であり(GuptaおよびMassague、2006年;ValastyanおよびWeinberg、2011年)、他の器官への転移における、および他の型のがんによる血管利用が観察されている(Blouwら、2003年;Leendersら、2002年;Leendersら、2004年)。脳微小環境はがん細胞における、脳特異的転移性形質を確実に選択することができるものである(Bosら、2009年;Nguyenら、2009年b)。しかし、死滅シグナルから逃れ、脈管構造と相互作用することが、脳だけではなく全ての器官において転移細胞にとって基本的に必要である。我々は、我々の脳転移モデルにおいて過剰発現するセルピンは、たとえ低いレベルであっても、他の器官に転移する対応物においても発現することに注目する(図1B参照)。さらに、原発腫瘍におけるL1CAM発現は、種々の型のがんにおける予後不良に関連する(Booら、2007年;Dobersteinら、2011年;Fogelら、2003年;Schroderら、2009年;Thiesら、2002年;Tischlerら、2011年;Tsutsumiら、2011年)。PA、プラスミン、およびFasLも他のがんにおける疾患の進行に関係付けられている(McMahonおよびKwaan、2008年;Timmerら、2002年)。反応性脳間質、ならびにPA−プラスミンおよびFasLを生成するその高い能力は、他の器官の間質よりも浸潤性がん細胞に対して攻撃的であり得る。結果として、脳は、他では一般的な転移性形質の顕著なバージョンを選択することができる。抗PAセルピン、プラスミン、FasLおよびL1CAMは以前には統合機構に結びつけられず、転移細胞の生存および血管利用にも関連付けられていないが、それらの予後不良との反復的な臨床的関連性は、転移におけるより広い役割を反映し得る。
7.実施例:転移開始における血管利用
【0161】
脳、骨および肺への転移の開始において血管利用が観察された。図14A〜Cは、GFP発現がん細胞の血管利用を示し、血管が赤色ColIV染色で示されている。一番左のパネルでは、がん細胞は肺腺癌、KRAS変異体(細胞株H2030−BrM3)である。中央のパネルでは、がん細胞は乳腺癌、サブタイプ低クローディントリプルネガティブ、細胞株MDA231−SCP6である。一番右のパネルでは、がん細胞は乳腺癌、サブタイプ低クローディントリプルネガティブ、細胞株MDA231−LM2である。
8.実施例:L1CAMの関与は、がん細胞の成長および散在に必要な一般的な機構である
【0162】
異常なL1CAM発現は、原発腫瘍の前縁において実証されており、また、肺癌、乳癌および結腸癌を含めた多くのヒトがんにおける浸潤、転移および予後不良に関連付けられている(Vouraら、2001年;Benら、2010年;Tsutsumiら、2011年;Schroderら、2009年;Tischlerら、2011年;Booら、2007年;Chenら、2013年;Fogelら、2003年a;Dobersteinら、2011年;Fogelら、2003年b;Kimら、2009年;Manessら、2007年)。これにより、L1CAM発現から得られる選択的利点は脳に制限されないことが示唆された。したがって、中枢神経系の外側への転移におけるL1CAMの役割を評価するために実験を実施した。
【0163】
がん細胞におけるL1CAM発現を、がん細胞にpLKO.1−shRNAベクターによって導入した、ヘアピン配列5’CGGACGGGCAACAACAGCAACTTTCTCGAGAAAGTTGCTGTTGTTGCCCGTTTTTTG(配列番号1)および標的配列ACGGGCAACAACAGCAACTTT(配列番号2)を有するRNAiを含めたRNAi((TRCN0000063916;The RNAi Consortium、Public TRC Portal)を使用して阻害した。ヒトMDA231乳がん細胞およびH2030ヒト肺がん細胞を、このようにL1CAMを枯渇させた(図において「shL1CAM」と示されている)。
【0164】
shL1CAM MDA231−BoM2(骨転移)もしくはMDA231−LM2(肺転移)細胞、または対照MDA231−BoM2もしくはMDA231−LM2(肺転移)細胞100,000個を、胸腺欠損マウスに心臓内注射(骨転移)または尾静脈注射(肺転移)によって導入し、21日後に生物発光イメージングを使用して骨および肺転移の量を決定した。図15AおよびBに示されている通り、それぞれ骨および肺における転移性疾患の程度は、L1CAM枯渇がん細胞を受けたマウスにおいて劇的に低下した。対照(非枯渇)またはshL1CAM H2030ヒト肺がん細胞5000個をマウス肺に注射したところ、同様の結果が観察された。図15Cは、4週間後の同所性肺注射の部位における腫瘍の成長を示す。図15Dは、4週間後の対側肺への転移を示す。図15Eは、対照またはshL1CAM MDA231−LM2がん細胞50,000個の乳房脂肪パッド注射部位における腫瘍体積を示し、図15Fは、9週間後のこれらの細胞の肺または肝臓への転移の程度を示す。これらの実験の全てにおいて、L1CAM枯渇(L1CAM阻害)により転移性疾患の進行が有意に低下した。
【0165】
さらに、図16A〜Bに示されている通り、L1CAM枯渇により、定義済みの無接着条件で成長させた(A)肺がん細胞(H2030−BrM3)または(B)乳がん細胞(Hcc1954−BrM1b)に由来する細胞間相互作用富化腫瘍球凝集体の成長が阻害されることが観察された。
【0166】
これらの実験結果により、内皮細胞に由来するものか腫瘍内細胞間接触に由来するものかにかかわらず、L1CAMの関与によってがん細胞に成長および生存の利点が付与されることが示される。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0167】
種々の刊行物が本明細書において引用されており、その内容全体がこれによって参照により組み込まれる。
図1A
図1BCD
図1EFG
図1HI
図2ABCD
図2E
図2FGHIJ
図2KLM
図2NO
図3ABC
図3DEFGH
図3IJKL
図3MN
図4ABC
図4DEFGH
図5ABCDE
図5FGH
図5IJKL
図5MNO
図6ABCD
図6EFGH
図6IJK
図6LMN
図7ABCDE
図7FGHI
図8ABC
図8DEF
図8GHIJ
図9AB
図9CDEFGHIJ
図9KLMNOP
図10ABCD
図10EF
図10GHIJKLM
図11ABCDEF
図11GH
図11IJ
図12ABCDEF
図12GH
図12I
図12JKL
図13ABCD
図13EFGHI
図14
図15AB
図15CD
図15EF
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]