【実施例】
【0116】
6.実施例
6.1材料および方法
脳転移細胞の単離および培養。ヒト脳転移細胞株は以前に記載されている(Bosら、2009年;Nguyenら、2009年b)。ErbB2−P細胞株を、マウスにおけるMMTV駆動NeuNTトランスジェニック乳房腫瘍から樹立した(Mullerら、1988年)。ErbB2−P細胞を心臓内に注射して脳転移性誘導体を得た。簡単に述べると、体積100μl中、TKGFP−ルシフェラーゼ(TGL)構築物を発現するErbB2−P細胞10
5個を含有する細胞浮遊液を、麻酔した4〜6週齢FVB/NCrマウスの左心室に注射した。以前に記載されている通り、XenogenのIVIS−200イメージングシステムを使用した週に1回の生物発光イメージングによって腫瘍の発生をモニターした。ex vivo生物発光イメージングによって脳病変の場所を特定し、滅菌条件下で切除した。組織を細かく刻み、0.125%コラゲナーゼIIIおよび0.1%ヒアルロニダーゼを補充した、DMEM/ハムF12の1:1混合物を含有する培養培地に入れた。試料を室温で4〜5時間、穏やかに揺らしながらインキュベートした。コラゲナーゼ処理後、細胞を短時間遠心分離し、0.25%トリプシンに再浮遊させ、37℃のウォーターバス中でさらに15分インキュベートした。細胞を培養培地に再浮遊させ、10cmの皿上で集密になるまで成長させた。GFP+細胞を培養物中での繁殖またはマウスへの接種のために選別した。
【0117】
MDA231−BrM2、ErbB2−BrM2、373N1、393N1、482N1、2691N1を、10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100IU/mlのペニシリン/ストレプトマイシンおよび1£gg/mlのアンホテリシンBを補充したDME培地で培養した。CN34−BrM2を、2.5%ウシ胎児血清(FBS)、10μg/mlのインスリン、0.5μg/mlのヒドロコルチゾン、20ng/mlのEGF、100ng/mlのコレラ毒素、1μg/mlのアンホテリシンB、および100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシンを補充したM199培地で培養した。H2030−BrM3およびPC9−BrM3を、10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100IU/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、および1μg/mlのアンホテリシンBを補充したRPMI1640培地で培養した。レトロウイルスおよびレンチウイルス産生のために、それぞれGPG29および293T細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100IU/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、および1μg/mlのアンホテリシンBを補充したDME培地で培養した。さらに、GPG29培地は、0.3mg/mlのG418、20ng/mlのドキシサイクリンおよび2μg/mlのピューロマイシンを含有した。MDA231−BrM2 SCPを以前に示されている通り段階希釈によって調製し(Kangら、2003年)、10%ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100IU/mlのペニシリン/ストレプトマイシン、および1μg/mlのアンホテリシンBを補充したDME培地で培養した。マウス小膠細胞はATCCで取得した(CRL−2467)。マウスアストロサイトは、2日齢の仔から得た(Schildgeら、2013年)。簡単に述べると、脳を機械的に分離し、100μmのフィルターを通して濾過し、細胞浮遊液を、ペトリ皿中、通常条件下でその後の10日間培養した。10日目に、皿を37℃で一晩、穏やかに振とうしながらインキュベートした。次の日に培地を交換し、アストロサイトの富化を、細胞の90%超がGFAPについて陽性に染色されたことで確認した。
【0118】
動物研究。動物を使用する実験は全て、MSKCC Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により認可されたプロトコールに従って行った。4〜6週齢の胸腺欠損NCR nu/nu(NCI−Frederick)、Cr:NIH bg−nu−xid(NCI−Frederick)、FVB/NCr(NCIFrederick)、およびB6129SF1/J(Jackson Laboratory)雌マウスを動物実験のために使用した。脳コロニー形成アッセイを以前に記載されている通り実施した(Bosら、2009年;Nguyenら、2009年b)。簡単に述べると、MDA231−BrM2a、CN34BrM−2c、H2030−BrM3、PC9−BrM3を50,000個(長期実験用)または500,000個(短期実験用)、および同系の細胞株373N1、393N1、482N1、2691N1、ErbB2−BrM2細胞については100,000個を100μlのPBSに再浮遊させ、左心室に注射した。脳コロニー形成をin−vivoおよびex−vivoにおいて生物発光イメージング(BLI)によって分析した。麻酔したマウス(100mg/kgのケタミン/10mg/kgのキシラジン)をD−ルシフェリン(150mg/kg)と一緒に後眼窩に注射し、IVIS Spectrum Xenogen machine(Caliper Life Sciences)を用いてイメージングした。Living Image software、version 2.50を使用して生物発光分析を実施した。
【0119】
遺伝子発現解析。RNAeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して全RNAを細胞から単離した。Transcriptor First Strand cDNA synthesis kit(Roche)を使用してcDNAを生成するために1000ngのRNAを使用した。Taqman gene expression assays(Applied Biosystems)を使用して遺伝子発現を解析した。アッセイをヒト遺伝子:FADD(Hs04187499_m1)、FASL(Hs00181225_m1)、L1CAM(Hs01109748_m1)、SERPINB2(Hs00234032_m1)、SERPIND1(Hs00164821_m1)、SERPINE1(Hs01126604_m1)、SERPINE2(Hs00385730_m1)、SERPINI1プローブ#1(Hs01115397_m1)、SERPINI1プローブ#2(Hs01115400_m1)に対して使用した。アッセイをマウス遺伝子:fasL(Mm00438864_m1)、セルピンb2(Mm00440905_m1)、セルピンd1(Mm00433939_m1)、セルピンe2(Mm00436753_m1)、セルピンI1(Mm00436740_m1)に対して使用した。相対的な遺伝子発現を、「ハウスキーピング」遺伝子、すなわちβ2M(Hs99999907_m1)およびβ2m(Mm00437762_m1)に対して標準化した。ABI 7900HT Fast Real−Time PCR systemで定量的PCR反応を実施し、software SDS2.2.2(Applied Biosystems)を使用して解析した。
【0120】
臨床的な試料および免疫組織化学的検査。肺がん脳転移および乳がん脳転移からそれぞれ33および123症例を、MSKCCのBrain Tumor Center and the Department of Pathologyから得た。乳がんおよび肺がんから得た脳転移由来のパラフィン包埋組織マイクロアレイを、MSKCC Department of Pathologyから、MSKCC Institutional Review Board(IRB)によって認可されたプロトコールに従って得た。Immunohistochemistry for Neuroserpin(Abcam、ab16171−100、ロット番号158358、1:250)およびSerpinB2(Santa Cruz、sc−25745、ロット番号L1406、5μg/ml)は、MSKCC Molecular Cytology Core Facilityにより、標準化した自動プロトコールを使用して実施された。免疫反応性染色を臨床病理医が盲検式で評価し、スコアリングした。42の乳がん由来脳転移試料を原発腫瘍型に対してアノテートし、これは、ニューロセルピンについて陽性が27症例、およびセルピンB2について陽性が12症例に対応する。SERPINB2およびSERPINI1の発現の解析を、MSKCCデータセット#1(Nguyenら、2009年b)を使用することによって実施し、このデータセットは107の試料を含み、そのうちの106について臨床情報が入手可能であった。SERPINI1およびSERPINB2の平均値のハザード比を、Rにおいて「coxph」コマンドによって実行されるコックス比例ハザードモデルに基づいて計算した。
【0121】
脳切片アッセイ。成体マウス脳由来の器官型切片培養物を、以前に記載された方法(PolleuxおよびGhosh、2002年)を適合させて調製した。脳(4〜6週齢の胸腺欠損NCR nu/nuマウス)を、HEPES(pH7.4)(2.5mM)、D−グルコース(30mM)、CaCl2(1mM)、MgSO
4(1mM)、NaHCO
3(4mM)を補充したハンクス平衡塩類溶液(HBSS)中で解剖し、42℃で予め加熱した低融点アガロース(Lonza)に包埋した。包埋した脳を、ビブラトーム(Leica)を使用して250μmの切片に切断した。脳切片(bregma−1mm〜+3mm)を、平らなへらを用いて、切片培養培地(HBSS、FBS5%、L−グルタミン(1mM)、100IU/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを補充したDMEM)中の0.8μmのポア膜(Millipore)の上部に置いた。脳切片を37℃、5%CO2で1時間インキュベートし、次いで、培養培地2μLに浮遊させたがん細胞3×10
4個を切片の表面上に置き、48〜72時間インキュベートした。脳切片は、これらの条件下で5日間まで、組織構造の明らかな変更を伴わずに維持することができた。α2−抗プラスミン(Molecular Innovations、2.5μg/ml)、ニューロセルピンおよびセルピンB2(Peprotech、各0.5μg/ml)を培地に添加した。sFasL(Peprotech、500ng/ml)またはFasL遮断抗体(BD、12.5μg/ml)を培地に添加し、切片を24時間プレインキュベートした後にがん細胞を添加した。脳切片を4%PFA中、一晩にわたって固定し、次いで、GFP(Aves lab、ref.GFP−1020、1:1000)、切断カスパーゼ−3(Cell Signaling、ref.9661、1:500)、IV型コラーゲン(Millipore、ref.AB756P、1:500)について浮動性免疫蛍光を実施した。核をビス−ベンズアミド(SIGMA、1£gg/ml)で染色した。切片にProLong Gold anti fade reagent(Invitrogen)を乗せた。
【0122】
プラスミド、組換えタンパク質およびin vitro実験。ヒトニューロセルピンcDNA(Open Biosystems)をpBABE−puroレトロウイルス発現ベクターにサブクローニングした。部位特異的変異誘発(Stratagene)を実施して、以前に特徴付けられたΔloop変異体を生成した(Takeharaら、2009年)。この研究において使用するshRNAのTRC番号は、ニューロセルピン(TRCN0000052356およびTRCN0000052355)、SERPINB2(TRCN0000052278)、SERPINE2(TRCN0000052317)、L1CAM(TRCN0000063916)である。shRNAは全て、ヒト遺伝子に特異的であり、ピューロマイシン、ハイグロマイシンまたはネオマイシン(G418)耐性遺伝子を有するpLKO.1−shRNAベクター(Open Biosystems)において発現するものであった。ST6GalNaC5 shRNAは以前に記載されている(Bosら、2009年)。FADD−DD構築物(Andrew M.Thornburn)をpLVX−hygroレンチウイルス発現ベクターにサブクローニングした。ニューロセルピンELISAを製造者の指示書に従って実施した(Peprotech)。DVL−K発色アッセイを、24ウェルプレートに細胞5×10
4個をプレーティングし、DMEM FBS0.25%中、一晩にわたって飢餓状態にすることによって実施した。プラスミノーゲン(Molecular innovations、0.125μM)を、DVL−K発色アッセイの前に24時間インキュベートしたがん細胞に添加した。D−VLK発色基質(Molecular Innovations)を製造者の指示書に従って調製した。DVLKを細胞に添加し、405nmにおける吸収の変化をモニターした。(3−(4,5−ジメチルチアゾリル−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)細胞増殖アッセイ用に細胞5×10
2個を96ウェルプレートにプレーティングし、切断カスパーゼ−3用に細胞25×10
3個を24ウェルプレートにプレーティングし、sFasL(Peprotech、100〜500ng/ml)の存在下または不在下で0.25%FBSを用いて一晩にわたって飢餓状態にし、示されている期間にわたってインキュベートした。細胞のプラスミン(Molecular Innovations)処理を1.6U/mlで4時間にわたって行った。
【0123】
免疫蛍光法。免疫蛍光用の組織を、PFA4%を用いて4℃で一晩固定した後に得た。ビブラトーム(Leica)または滑走式ミクロトーム(Fisher)を使用することによって脳の切片作製を行った。両方の型の脳切片(それぞれ250μmおよび80μm)をPBS中10%NGS、2%BSA、0.25%Triton中、室温(RT)で2時間にわたってブロッキングした。一次抗体をブロッキング溶液中、4℃で一晩インキュベートし、翌日にRTで30分インキュベートした。0.25%PBSTriton中で広範に洗浄した後、二次抗体をブロッキング溶液に添加し、2時間インキュベートした。0.25%PBS−Triton中で広範に洗浄した後、ビス−ベンズアミドを用い、RTで7分にわたって核を染色した。一次抗体:GFP(Aves Labs、ref.GFP−1020、1:1000)、プラスミノーゲン(Santa Cruz、ref.sc−25546、1:100)、tPA(Molecular Innovations、ref.ASMTPA−GF、1:50)、uPA(Molecular Innovations、ref.ASMUPA−GF、1:50)、GFAP(Dako、ref.Z0334、およびMillipore、ref.MAB360、両方とも1:1000)、IbaI(Wako、ref.019−19741、1:500)、Col.IV(Millipore、ref.AB756P、1:500)、NeuN(Millipore、ref.MAB377、1:500)、ニューロセルピン(Abcam、ref.ab16171、1:250)、FasL(Santa Cruz、ref.sc−834およびsc−6237、1:100)、L1CAM(Millipore、ref.CBL275、1:200およびCovance、ref.SIG−3911、1£gg/ml)。二次抗体:Alexa−Fluor抗ニワトリ488、抗ウサギ555、抗マウス555、抗マウス633(Invitrogen)。
【0124】
免疫ブロッティング。細胞ペレットをRIPA緩衝液を用いて溶解させ、タンパク質の濃度をBSA Protein Assay Kit(Pierce)によって決定した。タンパク質をSDS−PAGEによって分離し、ニトロセルロースメンブレンまたはPVDFメンブレンに転写した。メンブレンを、FAS(Santa Cruz、ref.sc−715、1:100)、FasL(Santa Cruz、ref.sc−834およびsc−6237 1:100)、L1CAM(Millipore、ref.CBL275、eBioscience、ref.14−1719、およびAbcam、ref.ab24345、1:200〜1000)、FLAG(Sigma、1:2000)、セルピンB2(Abcam、ref.47742、1:500)、チューブリン(Cell signaling、1:2000)に対する抗体を用いて免疫ブロットした。
【0125】
共焦点顕微鏡法および画像解析。Leica SP5縦型共焦点顕微鏡10×、20×、40×および63×対物レンズを用いて画像を取得し、ImageJ、ImarisおよびMetamorphソフトウェアを用いて画像を解析した。脳切片アッセイにおいて、表面上に残っている細胞クラスターを避けるために、切片の表面から40μm超の場所にあるGFP+細胞体を解析の考慮に入れた。ImageJを使用して、共焦点像を使用して閾値0.45でラウンドフィルターを適用することによって拡散細胞指数を決定した。
【0126】
in vitro血液脳関門アッセイ。このアッセイを以前に記載されている通り実施した(Bosら、2009年)。簡単に述べると、初代ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC、ScienCell)をポリリシン処理し、ゼラチンでコーティングした組織培養トランスウェルインサートの反対側でヒト初代アストロサイト(ScienCell)と3日間共培養した。簡単に述べると、3μm孔のPET組織培養インサート(Fisher)を、ポリリシン(1μg/ml、Millipore)を用いて一晩処理し、4回洗浄し、0.2%ゼラチン(Sigma)を用いて最低30分にわたってコーティングした。インサートを15cmのプレートに上下逆にして置き、初代ヒトアストロサイト10
5個をメンブレン表面にプレーティングした。アストロサイトを15分ごとに5時間にわたり供給し、次いで、インサートを反転させ、24ウェルプレートに入れた。内皮細胞5×10
5個をインサートの上のチャンバーにプレーティングし、培養物をさらに動かすことなくインキュベーターに入れた。BBB遊出アッセイのために、細胞5×10
5個を上のチャンバーに播種し、14〜18時間インキュベートした。インサートをPBSで洗浄し、4%PFAを用いて20分にわたって固定した。メンブレンをプラスチックインサートから取り出し、GFPに対する免疫蛍光法を実施し、顕微鏡スライドに乗せた。実験当たり5〜8個のインサートからの多数の視野の像を取得し、遊出した細胞の数を計数した。
【0127】
フローサイトメトリー。1mMのEDTAを使用して接着細胞の単層を剥離し、単一細胞浮遊液に再浮遊させ、蛍光色素とコンジュゲートしたヒトL1CAMのモノクローナル抗体(eBioscience、ref.12−1719−42)と一緒にインキュベートした。L1CAMの細胞表面での発現をFACSCaliburフローサイトメーター(BD Biosciences)によって解析した。
【0128】
細胞接着アッセイ。HBMECまたは腫瘍細胞を、2ウェル培養スライド(BD Falcon)にプレーティングし、90%超の集密になるまで成長させた。腫瘍細胞をCellTracker.Green CMFDA(5−クロロメチルフルオレセインジアセテート)(Molecular Probes)で標識した。予め標識した腫瘍細胞7.2×10
4個をがん細胞の単層に20分にわたって接着させた。非接着細胞を洗い流した後、スライドを、1%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、DAPI(Vector Labs)を伴う封入剤を用いて封入した。接着細胞(緑色)および総細胞の核(青色)を蛍光顕微鏡法によってスコアリングした。各ウェルの底部を覆うHBMECまたはがん細胞に接着したGFP+がん細胞の数を算出した。
6.2結果
【0129】
PA阻害性セルピンと脳転移表現型の関連性。共有される脳転移のメディエーターを同定するために、リンパ節由来ヒト肺腺癌細胞株H2030およびPC9(Nguyenら、2009年b)から単離した脳転移性亜集団(BrM)、ならびに胸水由来乳がん細胞株MDA−MB−231(略してMDA231)およびCN34(Bosら、2009年)から単離した脳転移性亜集団(BrM)のトランスクリプトームサインを解析した(
図1A)。4つのモデルのうち少なくとも3つにおいて、7種の遺伝子が脳転移細胞において供給源である親系統と比較して上方制御された(
図8A)。これらの遺伝子の中で、LEF1は以前に肺腺癌細胞の脳転移におけるWNTシグナル伝達メディエーターとして定義されている(Nguyenら、2009年b)。SERPINI1(以下を参照されたい)はヒト原発腫瘍における脳での再発に関連したが、他の遺伝子はいずれも関連しなかった。ニューロセルピン(NS)をコードするSERPINI1はまた、その発現が通常はニューロンに制限され、そこでPA関連細胞傷害性から保護されるので、興味深いものであった(FabbroおよびSeeds、2009年;Yepesら、2000年)。
【0130】
ヒトにおけるセルピンファミリーは、集合的に18種のプロテアーゼを標的とする36種のメンバーを含む(Irvingら、2000年)。これらのセルピンのうちの4種−ニューロセルピン、ならびにセルピンB2、E1、およびE2は、PAを選択的に阻害する(Lawら、2006年)。qRT−PCRを使用した遺伝子発現解析により、抗PAセルピンのうちの3種が脳転移細胞においてmRNAレベルで3倍超に上方制御されることが示された(
図1A)。他の唯一のセルピン、SERPIND1も上方制御された(
図1A)。セルピンD1は、大脳傷害においてプラスミノーゲンと協同するトロンビンを阻害する(Fujimotoら、2008年)。骨転移性誘導体(MDA231−BoM)(Kangら、2003年)および肺転移性誘導体(MDA231−LM2)(Minnら、2005年)はMDA231−BrM2との比較のために利用可能であり、それらは、セルピンのわずかな上方制御を示すか(BoM)またはセルピンの上方制御を示さなかった(LM2)(
図1B)。
【0131】
免疫適格性モデル、および乳がんの異なるサブタイプを調査するために、変異体ErbB2導入遺伝子(Mullerら、1988年)によって駆動されるマウス乳房腫瘍から細胞株ErbB2−Pを樹立し、次いで、コンジェニックマウスにおけるErbB2−Pのin vivo選択によって脳転移性誘導体(ErbB2−BrM2)を単離した。ErbB2−BrM2細胞は親系統と比較してセルピンB2およびD1の強力な上方制御を示した(
図1A)。遺伝子操作されたKras
G12D;p53
−/−マウス肺腺癌のリンパ節転移に由来する4つの細胞株もスクリーニングした(Winslowら、2011年)。4つの株の全てが内臓に高度に転移したが、脳転移活性が広範であった(
図1C、S1B);脳転移は、セルピンI1、B2、E2および/またはD1の高発現と関連した(
図1C、D)。
【0132】
脳転移細胞におけるニューロセルピンおよびセルピンB2の上方制御がタンパク質レベルで確認された(
図8C、D)。さらに、脳転移細胞株からの馴化培地では、発色プラスミン活性アッセイを使用して決定された通り、プラスミノーゲンからプラスミンへの変換が阻害された(Baiら、2011年)(
図1E、Fおよび8E)。唯一の例外がPC9−BrM3であり、この細胞株はH2030−BrM3と比較して脳転移における侵攻性が低く(Nguyenら、2009年b)、抗PAセルピンが上方制御されなかった(
図1A、8C、D)。
【0133】
ヒト脳転移組織におけるニューロセルピンおよびセルピンB2。これらのモデルにおいて最も頻繁に上方制御された2種の抗PAセルピン、ニューロセルピンおよびセルピンB2に焦点を当てて、10
6の、再発アノテーションを伴う原発肺腺癌からの遺伝子発現データを照会した(Nguyenら、2009年b)。腫瘍におけるSERPINI1およびSERPINB2の発現レベルは、個々の遺伝子として(データは示していない)および組み合わせての両方で脳での再発と関連した(p=0.018、ハザード比=2.33+/−0.3;
図1G)。2種の遺伝子の発現は、骨または肺への転移とは有意には関連しなかった(p=0.89、ハザード比=0.91+/−0.33;p=0.36、ハザード比=0.76+/−0.27;
図8F、G)。原発性乳腺腫瘍におけるSERPINI1およびSERPINB2発現は脳転移の予測因子ではないが(p=0.21、ハザード比=0.96+/−0.16;
図8H)、これらの場合の大部分で脳での再発が後期事象であった。
【0134】
ヒト脳転移組織におけるニューロセルピンおよびセルピンB2の免疫組織化学的分析を、参照脳としてマウスにおいてセルピン発現ヒトがん細胞によって形成された病変を使用して実施した(
図8I)。33の、非小細胞肺癌の脳転移のうち、45%がニューロセルピンについて陽性にスコアリングされ、94%がセルピンB2について陽性にスコアリングされた。種々のサブタイプの乳がんからの123の中では、77%がニューロセルピンについて陽性にスコアリングされ、34%がセルピンB2について陽性にスコアリングされた(
図1H、Iおよび8I、J)。免疫反応性は癌腫細胞の細胞質内に拡散的に分布し、最低限のみがわずかな細胞外間質に分布した。腫瘍周囲の炎症性浸潤ではニューロセルピンおよびセルピンB2についての陽性が限定された。
【0135】
プラスミンは、脳実質に浸潤するがん細胞に対して致死的なものである。MDA231−BrM2またはH2030−BrM3モデルは、同所性腫瘍からも動脈循環からも脳に転移する(Bosら、2009年;Nguyenら、2009年b)。これらの細胞を免疫不全マウスの動脈循環に、左心室から接種し、組織を固定して、脳毛細血管ネットワーク内に留まったがん細胞を異なる時点で計数した(
図2A〜C、9A)。接種の1日後、単離した、脳毛細血管内に捕捉されたがん細胞を観察した(
図2B、およびH2030−BrM3)。接種の2日後から7日後の間に、BBBを通過する細胞が観察された(
図2B、9B)。7日目に毛細血管内に残っていた全ての細胞はアポトーシスマーカーである切断カスパーゼ−3について陽性に染色され(
図9C、D)、その後消失した。親MDA231では、血管外遊出した細胞の数は5日目以降に急激に減少し、めったに回復しなかった(
図9B)。以前の報告と一致して(Carbonellら、2009年;Chambers、2000年;Kienastら、2010年;LorgerおよびFelding−Habermann、2010年)、脳に侵入したがん細胞の90%超が数日以内に消失した。MDA231−BrM2では、血管外遊出した細胞の数は7日目まで増加し、10日目までに急激に減少したが、16日目までに回復した。生存細胞は、脳毛細血管の反管腔側の表面に結合し、その上に広がった(
図2A、B)。増大は利用された血管上で主に起こった(
図2C、
図2Dに要約されている)。
【0136】
脳では、転移細胞はアストロサイト(
図2E、9E、F)、小膠細胞およびニューロン(
図9G〜J)の極めて近傍にあった。GFAP過剰発現および星状の形態によって同定される反応性アストロサイトは血管外遊出の直後(3日目)からそれ以降、がん細胞と関連した(
図2E、9E、F)。反応性アストロサイトは脳傷害におけるPAの主要な供給源であるので(Adhamiら、2008年;FabbroおよびSeeds、2009年;GaneshおよびChintala、2011年)、これらの細胞が脳転移におけるPAの供給源であるかどうかを調査した。転移細胞を有するマウス脳切片はアストロサイトに関連するtPAおよびuPA免疫反応性を示した(
図2F、G)。培養物中のマウスアストロサイトは、プラスミノーゲンからプラスミンへの変換において小膠細胞よりも優れていた(
図9K)。ニューロンは、神経突起およびシナプス形成のためにプラスミノーゲンを産生することが公知である(Gutierrez−Fernandezら、2009年;Hoover−Plowら、2001年)。マウス脳におけるプラスミノーゲン免疫反応性とNeuN+ニューロン周囲の転移細胞の関連性を確認した(
図2H)。したがって、脳転移微小環境は、プラスミン産生に必要な成分を含有する。
【0137】
脳実質内のプラスミンが転移細胞に対して有害であるかどうかを決定するために、培養物中のマウス脳切片を使用した(
図2I)。脳切片の上部に置くと、H2030−BrM3細胞は組織内に遊走し、毛細血管を標的とし、血管の表面上に拡散した(
図2J)。H2030−BrM3細胞はこれらの条件下で生き残り、増殖したが(
図2K、L)、親H2030は増殖せず(
図2K、L)、アポトーシスを受けた(
図2M、N)。MDA231細胞を用いて同様の結果が得られた(
図9M)。がん細胞とアストロサイトおよび小膠細胞の共培養物では、プラスミノーゲンの添加により、親H2030ではアポトーシスが誘発されたが、H2030−BrM3ではアポトーシスは誘発されなかった(
図9L)。脳組織切片は内在性プラスミン活性を含有し、プラスミン阻害剤であるα2−抗プラスミン(Bajouら、2008年)の添加により、この活性が阻害された(
図9N、O)。α2−抗プラスミンの添加により、脳切片における親H2030細胞の生存が増加した(
図2K〜N)。留意点として、がん細胞単層培養物へのプラスミンの添加によりアポトーシスは誘発されなかった(
図9P)。これらの結果により、脳微小環境において未知の基質を通じて作用するプラスミンにより、浸潤性がん細胞が死滅するが、高転移性の細胞はこの脅威から遮蔽されることが示唆された(
図2O)。
【0138】
ニューロセルピンは、転移細胞をプラスミン媒介性減少から保護する。脳転移におけるニューロセルピンの役割を調査するために、まず、このセルピンのみが上方制御されるH2030−BrM3モデルを使用した(
図1A参照)。マウスにおいてH2030−BrM3細胞によって形成された脳病変は強力なニューロセルピン免疫反応性を示した(
図10A)。ニューロセルピンの発現および分泌を85%超減少させた2種のshRNA(
図10B、C)は、培養物中のH2030−BrM3細胞の成長に影響を及ぼさなかった(
図10D)が、マーカーであるルシフェラーゼの生物発光イメージング(BLI)in−vivo(
図3A〜D)、BLI ex−vivo(
図3B)、および脳切片における、マーカーである緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現(
図3E)によって示される通り、これらの細胞の転移活性を阻害した。H2030−BrM3におけるニューロセルピン枯渇により、脳病変の数およびサイズの有意な減少が引き起こされ(
図3F、10E)、脳腫瘍量の全体的な減少は90%超であった(
図3G)。発生したわずかな肉眼で見える病変ではニューロセルピンが豊富であり(
図10F)、これにより、これらの病変がノックダウンを免れた細胞から成長したものであることが示される。
【0139】
ニューロセルピンノックダウンにより、H2030−BrM3細胞の脳実質内への血管外遊出は阻害されなかった(
図10G)。ニューロセルピンノックダウンはまた、これらの細胞の、in vitroにおいて内皮/アストロサイトBBB様関門を渡る能力にも影響を及ぼさなかったが、BBB血管外遊出のメディエーターであるST6GalNaC5(Bosら、2009年)のノックダウンは当該能力に影響を及ぼした(
図10H、I)。脳切片アッセイにおいて、H2030−BrM3細胞におけるニューロセルピンノックダウンにより、浸潤細胞の数が減少し(
図3H、I)、アポトーシスが増加したが(
図3H、J)、親H2030およびMDA231細胞におけるニューロセルピンの過剰発現は逆の影響を及ぼした(
図3K、L)。要するに、がん細胞におけるニューロセルピン発現により、それらのがん細胞の脳実質における生存および増大が支持された。
【0140】
ニューロセルピンのPA阻害機能によって媒介される脳転移。in vivoにおいてニューロセルピンにより肺がん細胞の脳転移活性が増大し得るかどうかを決定するために、PC9−BrM3モデルを使用した。PC9−BrM3細胞は、脳に浸潤することができるが、H2030−BrM3よりも侵攻性が低く(Nguyenら、2009年b)、抗PAセルピンの上方制御を示さない(
図1A、8C、D参照)。PC9−BrM3細胞に、野生型ニューロセルピンまたはPA阻害機能を欠く変異体(ニューロセルピンΔloop)をコードするベクターを用いて安定に形質導入した(Takeharaら、2009年)(
図10J〜L)。野生型ニューロセルピンによりPC9−BrM3細胞の脳転移活性が有意に増大したが、変異体ニューロセルピンでは当該活性が増大せず(
図3M、N)、培養物中のこれらの細胞の増殖の増加は伴わなかった(
図10M)。PC9−BrM3細胞はまた、骨への転移性を有するが(Nguyenら、2009年b)、ニューロセルピン過剰発現はこの活性に著しい影響を及ぼさなかった(
図3M、N)。ニューロセルピンΔloopは親H2030およびMDA231細胞の脳組織におけるアポトーシスからの保護にも効力がなかった(
図3K、L)。これらの結果により、ニューロセルピンが、PAを阻害することによって、がん細胞における脳転移活性を媒介することが示唆される。
【0141】
脳転移性乳がん細胞における抗PAセルピンの役割。H2030−BrM3細胞とは異なり、他の大多数の脳転移モデルおよびヒト脳転移組織の大部分は、1種ではなく多数の抗PAセルピンを過剰発現した(
図1A、I参照)。MDA231−BrM2では、3種の過剰発現セルピン−セルピンB2、D1およびニューロセルピンの三重ノックダウン(
図11A〜C)により、個々のセルピンのいずれかのノックダウンによるものよりも大きく、細胞の脳転移活性が阻害された(
図4A、B、11G、H)。セルピンB2のノックダウン(
図11D、E)により、MDA231−BrM2の脳転移活性が部分的に阻害され、失われた活性は、ニューロセルピンを強制的に過剰発現させることによってレスキューすることができた(
図4A、B、11F)。MDA231−BrM2集団から10クローン細胞株を単離し、各細胞株におけるニューロセルピン、セルピンB2およびセルピンD1の発現レベルを決定した。セルピン発現のクローンによる不均一性が明らかであり、個々のクローンが1種、2種、または3種全てのセルピンを過剰発現した。親MDA231集団と比較して、ニューロセルピンはクローンの9/10において上方制御され、セルピンB2はクローンの5/10において上方制御され、セルピンD1はクローンの8/10において上方制御された(
図4C、11I)。傾向として、3種のセルピンを過剰発現するクローンは、より少ないセルピンを過剰発現するクローンよりも脳への転移性が高かった(
図4D、11J)。ニューロセルピンおよびセルピンD1を過剰発現したクローンでは、ニューロセルピンshRNAを用いて形質導入すると脳転移活性が失われた(
図4E)。ErbB2−BrM2モデルでは、セルピンB2は、唯一上方制御された抗PAセルピンであった(
図1A参照)。これらの細胞におけるセルピンB2ノックダウンにより、免疫適格性マウスにおけるそれらの脳転移活性が強力に低下した(
図4F〜H)。要するに、証拠により、1種または複数種の抗PAセルピンの発現により、肺がんおよび乳がん細胞に脳転移の形成における重大な利点がもたらされることが示された。
転移細胞は脳においてFasLに面する。プラスミンによる切断が脳転移と関連する可能性があるタンパク質について、プラスミン基質データベース(MEROPS、CutDB)を検索した。線維素溶解カスケードにおけるフィブリンの切断に加えて、プラスミンは、ある特定のサイトカイン、膜タンパク質、および細胞外マトリックスの成分を切断することができる(Bajouら、2008年;ChenおよびStrickland、1997年;Nayeemら、1999年;Pangら、2004年)。プラスミンによる切断が脳内の転移細胞に対して有害である可能性のあるタンパク質として、まずFasLに焦点を当てた。FasLは、受容体Fasに結合する膜アンカー型ホモ三量体タンパク質であり、アダプタータンパク質FADDを通じてアポトーシス促進性カスパーゼを活性化する(AshkenaziおよびDixit、1998年)。
【0142】
FasLは、虚血、脳外傷、アルツハイマー病、脳脊髄炎および多発性硬化症において、反応性アストロサイトに高度に発現する(ChoiおよびBenveniste、2004年;Dietrichら、2003年)。アストロサイトは、実験的な脳脊髄炎における侵入性T細胞へのFasLの主要な供給源である(Wangら、2013年)。プラスミンは膜アンカー型FasLをArg144において切断し、それにより、可溶性アポトーシス促進性断片(sFasL)が放出される(Bajouら、2008年;Fangら、2012年)。したがって、抗PAセルピンは、プラスミンに動員されるsFasLの致死作用からがん細胞を遮蔽するという仮説を試験した(
図5A)。
【0143】
H2030−BrM3病変を有する脳切片の免疫蛍光染色により、FasLが病変内の反応性アストロサイト上に主に発現することが確認された(
図5B、12A)。ヒトおよびマウスアストロサイトも培養物中でFasLを発現した(
図5C、12B)。これらの培養物にプラスミノーゲンを添加することにより、FasLの細胞外ドメインに対する抗体を用いた免疫染色およびウエスタンブロッティングによって決定された通り、上清中の切断産物を増加させる細胞関連FasLのレベルが低下した(
図5C、D、12C〜E)。活性なプラスミンを含有するマウス脳切片(
図2K、9O参照)もsFasLを含有した。抗PAセルピンまたは抗プラスミンの添加により、これらの組織におけるsFasLのレベルが低下した(
図5E)。これらの結果により、PA−プラスミン系の、脳において間質FasLを動員する能力が示唆された。
【0144】
次に、脳に浸潤するがん細胞がFasL媒介性死滅を受けやすいかどうかを調査した。H2030、PC9、MDA231およびCN34は、それらのBrM誘導体と同様にFasを発現した(
図12F)。sFasLをBrM細胞単層に添加することにより、アポトーシスが引き起こされた(
図12G〜I)。H2030−BrM3を有する脳切片へのsFasLの添加(
図5F〜H)、α2−抗プラスミン(
図2N参照)が培養物中に存在する場合でさえ(
図S5J)。逆に、抗FasL遮断抗体を添加することにより、親H2030細胞がアポトーシスから保護された(
図5G〜I)。したがって、脳転移細胞は、脳実質においてFasLに曝露すると、アポトーシスを非常に受けやすい。
【0145】
ニューロセルピンは、脳転移細胞をFas媒介性死滅から遮蔽する。Fasシグナル伝達により、脳に浸潤したがん細胞の死滅が引き起こされるかどうかを決定するために、デスエフェクタードメインを欠き(FADD−DD構築物)、Fasシグナル伝達のドミナントネガティブ阻害剤として作用するFADD切断変異体を使用した(Chinnaiyanら、1996年)(
図5J)。FADD−DDをH2030−BrM3細胞株に形質導入することにより(
図5K)、sFasLによるカスパーゼ3の活性化が妨げられた(
図5L)。抗PAセルピン枯渇H2030−BrM3またはMDA231−BrM2細胞が脳組織において受けるアポトーシス(
図3H〜J、12L参照)は、抗FasL遮断抗体を組織培養物に添加すること、ならびに細胞においてFADD−DDの発現を強制することによって妨げることができた(
図5M、N、12L)。さらに、FADD−DDにより、ニューロセルピン枯渇H2030−BrM3細胞の脳内に転移する能力が部分的にレスキューされた(
図5O)。集合的に、これらの結果により、脳に浸潤するがん細胞はFasシグナル伝達により死滅し、抗PAセルピン活性により転移細胞がFasL攻撃から遮蔽され得ることが示された。
【0146】
プラスミンは、L1CAMにより媒介されるがん細胞の脳内皮細胞への拡散を標的とする。FADD−DDを用いたFasシグナル伝達の阻害により、ニューロセルピン枯渇がん細胞が脳における死滅から明白に保護されたが、これらの細胞の転移活性は野生型H2030−BrM3細胞の転移活性と比較して、完全には回復しなかった(
図5O)。ニューロセルピン枯渇FADD−DD発現H2030−BrM3細胞は、脳内の毛細血管の横に十分に組織化されていないより小さな病変を形成した(
図13A)。したがって、抗PAセルピンは、単にFasL作用を妨げる以上のことを行うことによって脳転移を促進すると仮定した。
【0147】
いくつかの糸口に導かれ、L1細胞接着分子(L1CAM)をセルピン−PA−プラスミン系の下流の追加的な脳転移のメディエーターとして検討した。L1CAMは、神経組織および腫瘍において主に発現する(SchaferおよびAltevogt、2010年)。L1CAMは、6つの免疫グロブリン様(Ig)ドメイン、5つのフィブロネクチン様(FN)ドメイン、膜貫通領域、および細胞内ドメインからなる(
図6A)。L1CAM Ig様リピートは、脳の発生中の軸索誘導のための同種親和性相互作用および異種親和性相互作用を媒介する(ManessおよびSchachner、2007年)。L1CAMは、それ自体にも、βインテグリン(Felding−Habermannら、1997年)および他のタンパク質(Castellaniら、2002年;Donierら、2012年;Kulahinら、2008年)にも結合し、シグナル伝達および細胞骨格リモデリングを誘発する(Herronら、2009年)。遺伝性L1CAM変異によりL1神経症候群が引き起こされるが(Demyanenkoら、1999年;ManessおよびSchachner、2007年;VosおよびHofstra、2010年)、腫瘍におけるL1CAM発現は、予後不良を伴う(Booら、2007年;Fogelら、2003年;Haiら、2012年;Thiesら、2002年;Tsutsumiら、2011年;Zhuら、2010年)。L1CAMは細胞浸潤に関係付けられているが(Vouraら、2001年)、がんにおけるその役割に関してはほとんど分かっていない。プラスミンによりL1CAMが二塩基モチーフ(Lys860/Lys863)において切断され、細胞間接着の能力が妨害される(Nayeemら、1999年;Sillettiら、2000年)(
図6A)。
【0148】
L1CAMは、種または起源の腫瘍型にかかわらず、調査したほとんどの親系統および全ての脳転移性誘導体で発現した(
図13B、C)。L1CAMの、H2030−BrM3細胞とヒト脳微小血管内皮細胞(HBMEC)の単層の間の異型相互作用およびH2030−BrM3細胞の単層間の同型相互作用のメディエーターとしての役割を調査した。H2030−BrM3細胞は、HBMEC単層に容易に接着した(
図6B)。特に、L1CAMのRNAi媒介性ノックダウン(
図13B)により、H2030−BrM3細胞のHBMEC(
図6C)またはH2030−BrM3単層(
図6D)に結合する能力が阻害された。
【0149】
H2030−BrM3、MDA231−BrM2およびPC9−BrM3の単層にプラスミンを添加することにより、抗L1CAMフローサイトメトリー(
図6E)および上清中の150kDaのL1CAM断片の蓄積(
図6F)によって示される通り、細胞に付随する220kDaのL1CAMレベルの低下が引き起こされた(Mechtersheimerら、2001年)。さらに、プラスミン処理したH2030−BrM3細胞はHBMEC単層に結合する能力を失った(
図6G、H)。
【0150】
L1CAMは血管利用および転移増大を媒介する。がん細胞による血管利用に関する分子基盤は依然として不明である。L1CAMの、脳転移細胞のHBMECへの接着を媒介する能力を考慮して、がん細胞L1CAMが脳における血管利用に関与するかどうかを調査した。野生型およびL1CAM枯渇H2030−BrM3は培養物中で同様の増殖速度(
図13D)、および、同様の、脳組織に浸潤し、脳毛細血管を探す能力(
図6I、13E)を示した。しかし、L1CAM枯渇により、H2030−BrM3およびMDA231−BrM2細胞の脳毛細血管の反管腔側の表面上に拡散する能力が有意に低下した(
図6I、J、13G)。特に、L1CAM枯渇には、血管に付随するがん細胞(
図6K)における増殖マーカーであるKi67の顕著な減少が伴ったが、アポトーシスマーカーは変化しなかった(
図13F)。
【0151】
PC9−BrM3細胞は内在性抗PAセルピンを過剰発現しない。興味深いことに、脳切片アッセイにおいて、ほんの小さな割合のPC9−BrM3細胞のみが毛細血管上に拡散する(
図6L、M)。これらの細胞の転移活性を強化するニューロセルピンをPC9−BrM3細胞において強制的に発現させることにより(
図3N参照)、脳毛細血管へのそれらの拡散(
図6L、M)および利用された血管でのそれらの増殖(
図6N)が有意に増加した。重要なことに、ニューロセルピン過剰発現PC9−BrM3細胞におけるL1CAM枯渇(
図13H、I)により、血管利用および細胞増殖のニューロセルピン依存性の増加が抑止された(
図6L〜N)。これらの結果により、L1CAMが脳内の転移細胞の血管利用および増大を媒介することが示された。
【0152】
L1CAMは、ニューロセルピンの下流の転移開始を支持する。L1CAMのin vivoでの脳転移における役割を調査した。H2030−BrM3微小転移のL1CAMの免疫組織化学的分析により、この分子が内皮細胞との境界面(小さな、平らな形態の核および強いH−E染色により同定される)および隣接するがん細胞との境界面に局在化することが示された(
図7A)。H2030−BrM3およびMDA231−BrM2におけるL1CAMノックダウンにより、マウスにおけるこれらの細胞の転移活性が著しく低下した(
図7B〜D)。7日目の組織学的分析により、L1CAM枯渇した細胞は脳内に血管外遊出した後、毛細血管ネットワーク上に拡散しないことが示された(
図7E)。21日後、これらのコロニーは微小転移性段階で失速した(
図3Fにおいて定義されている通り)(
図7F、G)。野生型細胞は毛細血管ネットワークにわたって容易に拡大増殖し、大きなコロニーを形成したが、L1CAM枯渇した細胞は大部分が毛細血管に不十分に結合した単一細胞または小さなクラスターのままであった(
図7F、G)。さらに、PC9−BrM3における、ニューロセルピンを強制的に過剰発現させることによって与えられる転移活性の獲得は、これらの細胞におけるL1CAMノックダウンによって抑止された(
図7H)。これらの結果により、転移細胞におけるL1CAM発現が、ニューロセルピンの下流で脳毛細血管の利用および転移増大を媒介するように作用することが立証された。
6.3考察
【0153】
脳転移の発生率が増していることにより、この条件の基礎をなす分子機構のよりよい理解が保証される。我々の知見は、脳の転移コロニー形成に関する2つの重大な要件、すなわち、浸潤性がん細胞が反応性間質からの致死的シグナルによる死滅を免れること、および、生存がん細胞の、転移性拡大増殖の間に脳毛細血管を利用する著しい能力を解明するものである。我々は、間質PA−プラスミン経路および癌腫由来抗PAセルピンによるその阻害により、肺がんからの脳転移および乳がんからの脳転移の両方におけるこれらのプロセスが制御されることを示し、これにより、脳の転移コロニー形成のための統合された機構が示唆される。
【0154】
脳転移の共通のメディエーターとしての抗PAセルピン。脳転移には、がん細胞と脳毛細血管および反応性アストロサイトの密接かつ持続的な相互作用が必要とされる。以前の研究(Kienastら、2010年;LorgerおよびFelding−Habermann、2010年)および我々自身のデータにより、脳毛細血管内の循環がん細胞が、血管外遊出の間だけでなく、その後も同様に、利用された血管に沿った溝として転移増大するために反管腔側の表面に付着することによってBBB内皮と相互作用することが示される。がん細胞はまた、血管周囲の空間に存在し、内皮と接触してBBBを形成するアストロサイトにすぐに曝露される(Abbottら、2006年)。我々は、アストロサイトが、侵入細胞を寄せつけないための有害なシグナルの供給源として作用することを示す。アストロサイトは、最終的に、増殖因子(Seikeら、2011年)およびGAP結合(Lin、2010年)をもたらすことによって脳転移の成長を支持し得る。しかし、これらの栄養インプットから利益を受けるためには、がん細胞はまず反応性間質の有害作用を妨げなければならない。
【0155】
がん細胞における抗PAセルピンの発現により、そのような遮蔽がもたらされる。我々は、ヒトまたはマウス起源の脳転移性肺がん細胞および脳転移性乳がん細胞が、脳への転移性が低い対応物と比較して高レベルの抗PAセルピンを発現することを示す。公知の抗PAセルピン4種のうちの3種、およびセルピンD1は、我々が調査した6つの実験モデルにおいて発現する。これらのモデルにおける最も顕著な抗PAセルピンであるニューロセルピンおよびセルピンB2は、我々が調査した肺がんおよび乳がん患者由来のヒト脳転移試料の大多数においても発現する。機能アッセイでは、これらのセルピンおよびそれらのPA阻害活性は脳の転移コロニー形成を限定するものである。
【0156】
PA−プラスミン系は、血餅溶解におけるその役割と関連してよく特徴付けられている。しかし、がんでは、PA−プラスミン系は、腫瘍抑制と腫瘍の進行の両方に逆説的に関係する。プラスミンは、がん細胞の増殖および浸潤を、増殖因子前駆体および細胞外マトリックスの成分を切断することによって促進すると考えられている(McMahonおよびKwaan、2008年)。しかし、腫瘍中および血液中の抗PAセルピンE1は、肺がん、乳がん、および胃腸がんの臨床転帰不良に関連する(Allgayerら、1997年;Berger、2002年;Foekensら、1995年;Harbeckら、1999年)。肺がん中のセルピンB2についても同じことが当てはまる(Moritaら、1998年)。したがって、腫瘍の進行におけるPAおよびプラスミンの役割は不明瞭なままである。本明細書において、我々は、抗PAセルピンが転移細胞を脳におけるPA−プラスミンから遮蔽し、明らかな転移促進利点を伴うことを示す。
【0157】
脳におけるFas死滅シグナルからのがん細胞の遮蔽。我々の結果により、FasLを通じて作用するPA−プラスミン系により、脳における浸潤性がん細胞に非常に適さない環境が創出されることが示唆される。FasLは免疫恒常性において重要な役割を果たし(Krammer、2000年)、腫瘍内に存在するが(Baldiniら、2009年)、その発現は反応性アストロサイトにおいて特に急性のものである(Beerら、2000年)。アストロサイトは、浸潤性白血球に応答したFasL、および脳傷害に応答したPAの主要な供給源である(Adhamiら、2008年;Bechmannら、2002年;GaneshおよびChintala、2011年;Teesaluら、2001年)。アストロサイト由来FasLは、脳に侵入してくる自己免疫性T細胞を寄せつけないことにおいて中心的な役割を果たす(Wangら、2013年)。我々は、転移関連アストロサイトがPAとFasLの両方を発現すること、プラスミンが膜に結合したFasLをアストロサイトから放出させること、および脳組織におけるsFasLレベルがプラスミンに依存することを認めた。抗PAセルピン、抗プラスミンセルピン、またはFasL−遮断抗体を脳組織に添加することにより、浸潤性がん細胞が保護される。さらに、肺がんまたは乳がん由来の脳転移細胞はsFasLに誘導されるアポトーシスに対する感受性が高く、抗PAセルピンを発現しなければ、脳におけるFas依存性死滅を受ける。我々は、脳における浸潤性がん細胞の減少がFasシグナル伝達によって媒介され、抗PAセルピンによって妨害されると結論づける。したがって、抗PAセルピンを発現するがん細胞は、PAが豊富な脳の微小環境において強力な利点を有する。
【0158】
転移増大のためのL1CAM媒介性血管利用。FasL媒介性死滅の回避は抗PAセルピンによってもたらされる唯一の転移促進利益ではない。我々は、ニューロセルピンがさらに血管利用−脈管構造上へのがん細胞の拡散を促進することを示す。この効果は、がん細胞におけるプラスミン不安定分子L1CAMの発現に依存する。L1CAM発現は通常ニューロンに制限され、そこで成長円錐と周囲の成分の相互作用を通じて軸索誘導を媒介する(Castellaniら、2002年;Wiencken−Bargerら、2004年)。我々は、がん細胞におけるL1CAM発現により、培養物中の脳内皮細胞および脳内の毛細血管へのがん細胞の接着および拡散が媒介されることを示す。L1CAMはさらにがん細胞間の相互作用を媒介する。プラスミンはL1CAMを切断し、これらの結合活性を不活化する。L1CAMを枯渇させると、脳転移細胞は脳毛細血管を利用できず、転移増大が失速する。この証拠により、ニューロセルピンにより脳転移細胞におけるL1CAMのプラスミン媒介性破壊が妨げられ、これらの細胞による血管利用が促進され、転移がさらに増強されることが示唆される。
【0159】
L1CAMが毛細血管上へのがん細胞拡散のメディエーターであるという知見により、がんにおける血管利用に関する分子基盤に関する予想外の洞察がもたらされる。脳転移の著しい特徴は、転移細胞の、血管外遊出後に毛細血管ネットワークに密接に付着し続ける能力である(Kienastら、2010年;LorgerおよびFelding−Habermann、2010年)。血管利用は、脳転移のために(Carbonellら、2009年)、および、がん細胞が療法に誘導される低酸素状態から免れるために(Leendersら、2004年)重要であると考えられている。がんにおける血管利用が重要である可能性にもかかわらず、このプロセスの分子基盤は分かっていない。L1CAMが転移性血管利用のメディエーターであることのこの同定により、このプロセスの機構的および機能的解明のきっかけがもたらされる。
【0160】
脳転移以上の意味。本明細書で同定される分子機構は、転移細胞を脳において特に急性である選択圧力から保護するものであるが、他の状況にも関連する可能性がある。遠隔器官に浸潤するがん細胞の高死滅率が一般に転移の特性であり(GuptaおよびMassague、2006年;ValastyanおよびWeinberg、2011年)、他の器官への転移における、および他の型のがんによる血管利用が観察されている(Blouwら、2003年;Leendersら、2002年;Leendersら、2004年)。脳微小環境はがん細胞における、脳特異的転移性形質を確実に選択することができるものである(Bosら、2009年;Nguyenら、2009年b)。しかし、死滅シグナルから逃れ、脈管構造と相互作用することが、脳だけではなく全ての器官において転移細胞にとって基本的に必要である。我々は、我々の脳転移モデルにおいて過剰発現するセルピンは、たとえ低いレベルであっても、他の器官に転移する対応物においても発現することに注目する(
図1B参照)。さらに、原発腫瘍におけるL1CAM発現は、種々の型のがんにおける予後不良に関連する(Booら、2007年;Dobersteinら、2011年;Fogelら、2003年;Schroderら、2009年;Thiesら、2002年;Tischlerら、2011年;Tsutsumiら、2011年)。PA、プラスミン、およびFasLも他のがんにおける疾患の進行に関係付けられている(McMahonおよびKwaan、2008年;Timmerら、2002年)。反応性脳間質、ならびにPA−プラスミンおよびFasLを生成するその高い能力は、他の器官の間質よりも浸潤性がん細胞に対して攻撃的であり得る。結果として、脳は、他では一般的な転移性形質の顕著なバージョンを選択することができる。抗PAセルピン、プラスミン、FasLおよびL1CAMは以前には統合機構に結びつけられず、転移細胞の生存および血管利用にも関連付けられていないが、それらの予後不良との反復的な臨床的関連性は、転移におけるより広い役割を反映し得る。
7.実施例:転移開始における血管利用
【0161】
脳、骨および肺への転移の開始において血管利用が観察された。
図14A〜Cは、GFP発現がん細胞の血管利用を示し、血管が赤色ColIV染色で示されている。一番左のパネルでは、がん細胞は肺腺癌、KRAS変異体(細胞株H2030−BrM3)である。中央のパネルでは、がん細胞は乳腺癌、サブタイプ低クローディントリプルネガティブ、細胞株MDA231−SCP6である。一番右のパネルでは、がん細胞は乳腺癌、サブタイプ低クローディントリプルネガティブ、細胞株MDA231−LM2である。
8.実施例:L1CAMの関与は、がん細胞の成長および散在に必要な一般的な機構である
【0162】
異常なL1CAM発現は、原発腫瘍の前縁において実証されており、また、肺癌、乳癌および結腸癌を含めた多くのヒトがんにおける浸潤、転移および予後不良に関連付けられている(Vouraら、2001年;Benら、2010年;Tsutsumiら、2011年;Schroderら、2009年;Tischlerら、2011年;Booら、2007年;Chenら、2013年;Fogelら、2003年a;Dobersteinら、2011年;Fogelら、2003年b;Kimら、2009年;Manessら、2007年)。これにより、L1CAM発現から得られる選択的利点は脳に制限されないことが示唆された。したがって、中枢神経系の外側への転移におけるL1CAMの役割を評価するために実験を実施した。
【0163】
がん細胞におけるL1CAM発現を、がん細胞にpLKO.1−shRNAベクターによって導入した、ヘアピン配列5’CGGACGGGCAACAACAGCAACTTTCTCGAGAAAGTTGCTGTTGTTGCCCGTTTTTTG(配列番号1)および標的配列ACGGGCAACAACAGCAACTTT(配列番号2)を有するRNAiを含めたRNAi((TRCN0000063916;The RNAi Consortium、Public TRC Portal)を使用して阻害した。ヒトMDA231乳がん細胞およびH2030ヒト肺がん細胞を、このようにL1CAMを枯渇させた(図において「shL1CAM」と示されている)。
【0164】
shL1CAM MDA231−BoM2(骨転移)もしくはMDA231−LM2(肺転移)細胞、または対照MDA231−BoM2もしくはMDA231−LM2(肺転移)細胞100,000個を、胸腺欠損マウスに心臓内注射(骨転移)または尾静脈注射(肺転移)によって導入し、21日後に生物発光イメージングを使用して骨および肺転移の量を決定した。
図15AおよびBに示されている通り、それぞれ骨および肺における転移性疾患の程度は、L1CAM枯渇がん細胞を受けたマウスにおいて劇的に低下した。対照(非枯渇)またはshL1CAM H2030ヒト肺がん細胞5000個をマウス肺に注射したところ、同様の結果が観察された。
図15Cは、4週間後の同所性肺注射の部位における腫瘍の成長を示す。
図15Dは、4週間後の対側肺への転移を示す。
図15Eは、対照またはshL1CAM MDA231−LM2がん細胞50,000個の乳房脂肪パッド注射部位における腫瘍体積を示し、
図15Fは、9週間後のこれらの細胞の肺または肝臓への転移の程度を示す。これらの実験の全てにおいて、L1CAM枯渇(L1CAM阻害)により転移性疾患の進行が有意に低下した。
【0165】
さらに、
図16A〜Bに示されている通り、L1CAM枯渇により、定義済みの無接着条件で成長させた(A)肺がん細胞(H2030−BrM3)または(B)乳がん細胞(Hcc1954−BrM1b)に由来する細胞間相互作用富化腫瘍球凝集体の成長が阻害されることが観察された。
【0166】
これらの実験結果により、内皮細胞に由来するものか腫瘍内細胞間接触に由来するものかにかかわらず、L1CAMの関与によってがん細胞に成長および生存の利点が付与されることが示される。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0167】
種々の刊行物が本明細書において引用されており、その内容全体がこれによって参照により組み込まれる。