特許第6703950号(P6703950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6703950アクリル酸を生成するための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703950
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】アクリル酸を生成するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/44 20060101AFI20200525BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20200525BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20200525BHJP
   C07C 57/07 20060101ALI20200525BHJP
   C07C 51/377 20060101ALI20200525BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C07C51/44
   C07C57/055 A
   C07C57/055 B
   C07C57/05
   C07C57/07
   C07C51/377
   C07C51/235
【請求項の数】25
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-553438(P2016-553438)
(86)(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公表番号】特表2017-509613(P2017-509613A)
(43)【公表日】2017年4月6日
(86)【国際出願番号】US2015015520
(87)【国際公開番号】WO2015126704
(87)【国際公開日】20150827
【審査請求日】2018年2月9日
(31)【優先権主張番号】61/942,261
(32)【優先日】2014年2月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・エス・デコルシー
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−503692(JP,A)
【文献】 特表2012−504618(JP,A)
【文献】 特開2005−179352(JP,A)
【文献】 特開2000−351749(JP,A)
【文献】 特開2000−344711(JP,A)
【文献】 特表平10−507782(JP,A)
【文献】 米国特許第03314220(US,A)
【文献】 特開平10−204030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸の回収のための方法であって、
A.(メタ)アクリル酸を含むガス状反応混合物を、脱水カラム中で脱水して、脱水カラム塔頂流及び脱水カラム塔底流を生成する工程と;
B.前記脱水カラム塔底流の少なくとも一部を、仕上げカラムの上半分に送る工程と;
C.前記仕上げカラムに送られた前記塔底流の一部を、前記仕上げカラム内で、大気圧未満で蒸留にかけて、少なくとも仕上げカラム塔頂流及び仕上げカラム塔底流を生成する工程と;
D.前記仕上げカラム塔頂流を吸引する少なくとも1つの液体噴射エダクターと、前記少なくとも1つの液体噴射エダクターから排出された流れが供給される少なくとも1つの気液分離容器と、前記少なくとも1つの気液分離容器で分離された液体流が供給される少なくとも1つの凝縮物冷却器とを備える塔頂吸引直接接触(ADC)凝縮器システムを用いて、前記仕上げカラム塔頂流を少なくとも部分的に凝縮して、仕上げカラム塔頂凝縮物を形成し、前記仕上げカラム塔頂凝縮物を冷却し、前記冷却仕上げカラム塔頂凝縮物の少なくとも一部を、前記脱水カラムに送ると共に、前記仕上げカラム塔頂流を吸引するために前記少なくとも1つの液体噴射エダクターに供給する工程と;
E.前記仕上げカラムから(メタ)アクリル酸を回収する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記仕上げカラムが、100mmHg以下の圧力で運転される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記気液分離容器が遠心分離機である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの凝縮物冷却器が、シェルアンドチューブ熱交換器、スパイラル式熱交換器、モノリシックブロック交換器、ジャケット管、及びプレートフレーム式熱交換器からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記凝縮物冷却器中の前記仕上げカラム塔頂凝縮物を、50℃以下の温度に冷却する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記塔頂吸引直接接触凝縮器システム内の1つ又は複数の地点で、(メタ)アクリル酸の重合を防止又は抑制するための阻害剤を導入する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記阻害剤が、4−ヒドロキシTEMPO(4HT)、可溶性マンガンイオン、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンのモノメチルエーテル(MeHQ)、及びフェノチアジン(PTZ)のうちの1つ又は複数を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記仕上げカラムからサイドドロー生成物流れを回収する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記サイドドロー生成物流れが、気相サイドドロー生成物流れであり、サイドドロー吸引直接接触凝縮器システムを用いて、前記仕上げカラムからの前記気相サイドドロー生成物流れを少なくとも部分的に凝縮する工程をさらに含み、前記サイドドロー吸引直接接触凝縮器システムが、
A.少なくとも1つの液体噴射エダクターと;
B.少なくとも1つの気液分離容器と;
C.少なくとも1つの凝縮物冷却器と
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
酸素含有ガスを、前記仕上げカラムに加える工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記塔頂吸引直接接触凝縮器システムが、塔頂吸引直接接触凝縮器システム非凝縮物ベント流を形成し、前記塔頂吸引直接接触凝縮器システム非凝縮物ベント流の少なくとも一部が、前記脱水カラムに移送される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記塔頂吸引直接接触凝縮器システムが、塔頂吸引直接接触凝縮器システム非凝縮物ベント流を形成し、前記塔頂吸引直接接触凝縮器システム非凝縮物ベント流の少なくとも一部が、熱酸化機に移送される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記塔頂吸引直接接触凝縮器システムが、塔頂吸引直接接触凝縮器システム非凝縮物ベント流を形成し、前記塔頂吸引直接接触凝縮器システム非凝縮物ベント流の少なくとも一部が、前記仕上げカラム内の圧力を調節するために、前記少なくとも1つの液体噴射エダクターの蒸気吸引ポートに移送される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
(メタ)アクリル酸を生成するための方法であって、
A.少なくとも1つの(メタ)アクリル酸前駆体の気相酸化によって、(メタ)アクリル酸を含むガス状反応混合物を形成する工程と;
B.前記ガス状反応混合物を冷却する工程と;
C.前記冷却されたガス状反応混合物を、脱水カラム中で脱水して、脱水カラム塔頂流及び脱水カラム塔底流を生成する工程であって、前記脱水が、共沸溶媒を用いずに行われる工程と;
D.前記脱水カラム塔頂流を少なくとも部分的に凝縮して、凝縮物を形成し、前記凝縮物の少なくとも一部を、還流として前記脱水カラムに戻す工程と;
E.前記脱水カラム塔底流を、少なくとも第1及び第2の脱水カラム塔底流に分け、前記第1及び第2の脱水カラム塔底流の一方の少なくとも一部を、脱水カラム加熱器/リボイラーに送り、他方の脱水カラム塔底流の少なくとも一部を、仕上げカラムの上半分に送る工程と;
F.前記仕上げカラムに送られた前記塔底流の一部を、前記仕上げカラム内で、大気圧未満で蒸留にかけて、少なくとも仕上げカラム塔頂流及び重質成分を含む仕上げカラム塔底流を生成する工程と;
G.前記仕上げカラム塔頂流を吸引する少なくとも1つの液体噴射エダクターと、前記少なくとも1つの液体噴射エダクターから排出された流れが供給される少なくとも1つの気液分離容器と、前記少なくとも1つの気液分離容器で分離された液体流が供給される少なくとも1つの凝縮物冷却器とを備える塔頂吸引直接接触(ADC)凝縮器システムを用いて、前記仕上げカラム塔頂流を少なくとも部分的に凝縮して、仕上げカラム塔頂凝縮物及び塔頂吸引直接接触凝縮器システム非凝縮物ベント流を形成し、前記仕上げカラム塔頂凝縮物を冷却し、前記冷却仕上げカラム塔頂凝縮物の少なくとも一部を、前記脱水カラム加熱器/リボイラーに送ると共に前記仕上げカラム塔頂流を吸引するために前記少なくとも1つの液体噴射エダクターに供給する工程と;
H.前記仕上げカラム塔底流の少なくとも一部を、仕上げカラム加熱器/リボイラーに送る工程と
を含む方法。
【請求項15】
少なくとも1つの(メタ)アクリル酸前駆体の気相酸化によって、(メタ)アクリル酸を含むガス状反応混合物を形成する工程が、アクロレインの触媒酸化を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アクロレインの少なくとも一部が、プロピレンの酸化によって生成される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記アクロレインの少なくとも一部が、プロパンのオキシ脱水素化によって生成される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1つの(メタ)アクリル酸前駆体の気相酸化によって、(メタ)アクリル酸を含むガス状反応混合物を形成する工程が、メタクロレインの触媒酸化を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記メタクロレインの少なくとも一部が、イソブチレン及び/又はtert−ブタノールの酸化によって生成される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記メタクロレインの少なくとも一部が、ブタン及び/又はイソブタンのオキシ脱水素化によって生成される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの(メタ)アクリル酸前駆体の気相酸化によって、(メタ)アクリル酸を含むガス状反応混合物を形成する工程が、少なくとも1つの生物由来材料の触媒脱水を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの生物由来材料が、グリセロール、3−ヒドロキシプロピオン酸、及び2−ヒドロキシプロパン酸から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
(メタ)アクリル酸を生成するための装置であって、
A.脱水カラムと;
B.仕上げカラムであって、脱水カラム塔底流の少なくとも一部を、前記仕上げカラムに送るために、脱水カラムが、前記仕上げカラムと流体連通している仕上げカラムと;
C.仕上げカラム塔頂流及び仕上げカラム塔側流から選択される流れを凝縮するために、前記仕上げカラムに連結された少なくとも1つの吸引直接接触凝縮器システムと
を含む装置であって、前記少なくとも1つの吸引直接接触凝縮器システムが、少なくとも1つの液体噴射エダクターと、少なくとも1つの気液分離容器と、少なくとも1つの凝縮物冷却器とを含み、ここで、前記少なくとも1つの液体噴射エダクターが、前記仕上げカラム塔頂流を吸引し、前記少なくとも1つの気液分離容器が、前記少なくとも1つの液体噴射エダクターから排出された流れを受け入れ、前記少なくとも1つの凝縮物冷却器が前記少なくとも1つの液体噴射エダクターと流体連通し、前記少なくとも1つの気液分離容器で分離された液体流を受け入れる、装置。
【請求項24】
前記少なくとも1つの吸引直接接触凝縮器システムが、前記仕上げカラム塔頂流を凝縮するために前記仕上げカラムに連結された第1の吸引直接接触凝縮器システムと、前記仕上げカラム塔側流を凝縮するために前記仕上げカラムに連結された第2の吸引直接接触凝縮器システムとを含む、請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記少なくとも1つの吸引直接接触凝縮器システムが、並列又は直列に連結された複数の液体噴射エダクターを含む、請求項23に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
商業的に生成されるアクリル酸の大部分は、プロピレンの触媒的二段階気相酸化によって調製される。第1の段階では、プロピレンが、空気で酸化されて、アクロレインになり、次に、第2の段階に直接供給され、ここで、アクロレインは、空気でさらに酸化されて、アクリル酸になる。2つの段階に使用される触媒は、それぞれの化学反応のために最適化された混合金属酸化物である。第1の段階の触媒は、いくつかの他の金属とともに主にモリブデン及びビスマス酸化物から構成される。第2の段階の触媒も、複合混合金属酸化物触媒であり、ここで、用いられる酸化物は、主に、モリブデン及びバナジウムから構成される。いくつかの他の成分が、活性及び選択性を最適化するために触媒に組み込まれてきた。プロピレンからの80〜90%のアクリル酸の収率が、これらの商業的な触媒系では実現されている。
【0002】
酸化反応器の下流で、さらなる処理工程が、反応器出口のガス流中に存在するアクリル酸を冷却し、回収し、精製するのに用いられる。当初のアクリル酸プロセスでは、希釈剤として水を使用しており、これは、クエンチ塔又は吸収塔中の非凝縮性ガスのクエンチ及び分離の際に、反応器生成物が、約35%のアクリル酸水溶液を生じたことを意味する。この低い濃度の、水中のアクリル酸は、工業グレードのアクリル酸を生成するために、溶媒に基づく抽出(solvent based extraction)、続いていくつかの蒸留工程によって回収される必要があった。工業グレードのアクリル酸は、高純度の精アクリル酸を調製するか又はアクリレート、すなわち、アクリル酸のエステルを調製するのに使用される。再循環ガス技術が導入されたとき、クエンチ塔で得られたアクリル酸水溶液を約65%に濃縮し、それにより、水を除去するための溶媒に基づく共沸蒸留の使用を可能にした。次に、水除去後の粗アクリル酸を、いくつかの蒸留工程にかけて、工業グレードのアクリル酸を得た。65%のアクリル酸水溶液の回収のための代替的な技術は、高沸点の溶媒をクエンチ塔に導入して、溶媒交換(solvent swap)によってアクリル酸を吸収することを含む。クエンチ塔の基部では、水の代わりにこの高沸点の溶媒に溶解されたアクリル酸が生成される。次に、アクリル酸は、工業グレードのアクリル酸を得るために、高沸点の溶媒からの回収のためにさらなる蒸留工程にかけられる。
【0003】
米国特許第6,596,129号明細書には、(メタ)アクリル酸蒸留プロセスにおける直列に連結された(in series)2つの凝縮器の使用が教示されている。
【0004】
米国特許第6,878,239号明細書には、ポリマー形成を防ぐための、蒸気噴射エジェクター凝縮物、表面凝縮器、及び液封(「ナッシュ」)真空ポンプへの阻害剤の添加が教示されている。真空部は、塔頂凝縮器からの分離システムである。
【0005】
米国特許第5,980,698号明細書には、分離器に入る冷却された生成物流れを用いた分離プロセスにおいて真空軽油を生成するための蒸留カラムが開示されている。
【0006】
米国特許第6,019,820号明細書には、ガス出口圧力を増加させるために高圧液体が供給されるガス圧縮システムとしての液体噴射エダクターの使用が教示されている。
【0007】
アクリル酸を生成するための従来の方法では、一般に、溶媒を蒸留カラム又は凝縮器中に加える。さらに、蒸気の形態の水が、多くの場合、蒸気噴射エジェクターの使用によって導入され、蒸気噴射エジェクターは、蒸留カラム内の動作圧力を低下させるのを助ける。例えば、米国特許第7,288,169号明細書には、アクリル酸蒸留カラムのための蒸気噴射エジェクターに基づく真空システムの使用が教示されている。米国特許第7,288,169号明細書によって開示されているシステムは、垂直シェルアンドチューブ表面凝縮器と、蒸気噴射エジェクターと、蒸気噴射凝縮物を回収し、再利用するのに使用される蒸気噴射凝縮物回収タンクとを含む。
【0008】
米国特許第6,677,482号明細書には、凝縮された蒸気を再利用して分離プロセスに戻すことによる、蒸気噴射エジェクター及び表面凝縮器の使用の改良が教示されている。
【0009】
シェルアンドチューブ凝縮器及び蒸気噴射エジェクターが仕上げカラム(finishing column)の塔頂生成物を凝縮する先行技術の構成の概略的なプロセスフローシートが、図2に示される。図2において、仕上げカラム塔頂流(overhead stream)8が、蒸気として仕上げカラム17から取り出され、少なくとも1つの垂直シェルアンドチューブ表面凝縮器19に通されて、仕上げカラム塔頂凝縮物流が形成され、その少なくとも一部が、管路4を介して、脱水カラム加熱器/リボイラー12に送られる。
【0010】
仕上げカラム17内の低下した動作圧力が、一般的な多段蒸気噴射エジェクター真空システム50の使用によって、この先行技術のプロセスにおいて維持される。このような真空システムは、当該技術分野において周知であり、複数の蒸気噴射エジェクターと、関連した中間噴射凝縮器とを含む。図2に示されるように、蒸気が、第1の噴射エジェクター51に供給され、第1の噴射エジェクター51は、管路25を介して、凝縮器19から有機蒸気及び非凝縮性ガスを取り出す。有機蒸気及び蒸気は、シェルアンドチューブ表面凝縮器52中に放出され、シェルアンドチューブ表面凝縮器52において、それらは、少なくとも部分的に凝縮されて、凝縮された有機物をさらに含む第1の水性蒸気凝縮物流54が形成される。蒸気は、第2の噴射エジェクター55にも供給され、第2の噴射エジェクター55は、管路53を介して、凝縮器52から残留有機蒸気及び非凝縮性ガスを取り出す。残留有機蒸気及び蒸気は、シェルアンドチューブ表面凝縮器56中に放出され、シェルアンドチューブ表面凝縮器56において、それらは、少なくとも部分的に凝縮されて、凝縮された有機物をさらに含む第2の水性蒸気凝縮物流58が形成される。非凝縮性ガス及び一切の残留する凝縮されていない有機蒸気が、通気管路57を介して真空システムから排出される。蒸気凝縮物流54及び58は、凝縮物受器59中に回収される。受器59中の蒸気凝縮物は、凝縮された有機物を含むため、水性流れ60は、環境に直接排出されることができないため、さらなる処理を必要とする。場合によっては、水性流れ60を別の分離システムに移すことが可能であり得る。しかしながら、他の実施形態において、このような「再利用」の選択肢は、経済的に正当化されず、流れ60は、代わりに、廃棄のために水性廃水処理システムあるいは熱酸化機に移送される。
【0011】
アクリル酸を生成するための改良された方法が、全体が参照により本明細書に援用される米国特許第8,242,308号明細書に開示されている。米国特許第8,242,308号明細書には、蒸留カラムに共沸溶媒又は他の溶媒を加えることを必要とせず、ひいてはアクリル酸生成物流れのさらなる精製の必要性をなくしたプロセスが開示されている。国際公開第2009/123872号パンフレットには、米国特許第8,242,308号明細書に開示されているタイプの(メタ)アクリル酸生成プロセスを開始するための方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
水性廃棄物流の生成をなくすか又は最小限に抑え、及び/又は資本コスト及び運転コストを削減するアクリル酸生成プロセスを有することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、アクリル酸の生成のための無溶媒蒸留システムを含む、アクリル酸ならびにメタクリル酸に適用可能なこのような回収システムである。少なくとも1つの実施形態によれば、回収システムは、水性廃棄物流を生成しない。
【0014】
本発明の第1の態様は、(メタ)アクリル酸の回収のための方法であって、
A.(メタ)アクリル酸を含むガス状反応混合物を、脱水カラム中で脱水して、脱水カラム塔頂流及び脱水カラム塔底流(bottoms stream)を生成する工程と;
B.脱水カラム塔底流の少なくとも一部を、仕上げカラムの上半分に送る工程と;
C.仕上げカラムに送られた塔底流の一部を、仕上げカラム内で、大気圧未満で蒸留にかけて、少なくとも仕上げカラム塔頂流及び仕上げカラム塔底流を生成する工程と;
D.塔頂吸引直接接触(ADC)凝縮器システムを用いて、仕上げカラム塔頂流を少なくとも部分的に凝縮して、仕上げカラム塔頂凝縮物を形成し、仕上げカラム塔頂凝縮物の少なくとも一部を、脱水カラムに送る工程と;
E.仕上げカラムから(メタ)アクリル酸を回収する工程と
を含む方法に関する。
【0015】
少なくとも1つの実施形態において、気相サイドドロー(side draw)生成物流れが、仕上げカラムから回収される。少なくとも1つのさらなる実施形態において、気相サイドドロー生成物流れは、吸引直接接触(ADC)凝縮器システムによって少なくとも部分的に凝縮される。
【0016】
本発明の別の態様は、
A.少なくとも1つの(メタ)アクリル酸前駆体の気相酸化によって、(メタ)アクリル酸を含むガス状反応混合物を形成する工程と;
B.ガス状反応混合物を冷却する工程と;
C.冷却されたガス混合物を、脱水カラム中で脱水して、脱水カラム塔頂流及び脱水カラム塔底流を生成する工程であって、脱水が、共沸溶媒を用いずに行われる工程と;
D.脱水カラム塔頂流を少なくとも部分的に凝縮して、凝縮物を形成し、凝縮物の少なくとも一部を、還流として脱水カラムに戻す工程と;
E.脱水カラム塔底流を、少なくとも第1及び第2の脱水カラム塔底流に分け、第1及び第2の脱水カラム塔底流の一方の少なくとも一部を、脱水カラム加熱器/リボイラーに送り、他方の脱水カラム塔底流の少なくとも一部を、仕上げカラムの上半分に送る工程と;
F.仕上げカラムに送られた塔底流の一部を、仕上げカラム内で、大気圧未満で蒸留にかけて、少なくとも仕上げカラム塔頂流及び重質成分を含む仕上げカラム塔底流を生成する工程と;
G.塔頂吸引直接接触(ADC)凝縮器システムを用いて、仕上げカラム塔頂流を少なくとも部分的に凝縮して、仕上げカラム塔頂凝縮物及び塔頂吸引直接接触凝縮器システム非凝縮物ベント流(vent stream)を形成し、仕上げカラム塔頂凝縮物の少なくとも一部を、脱水カラム加熱器/リボイラーに送る工程と;
H.仕上げカラム塔底流の少なくとも一部を、仕上げカラム加熱器/リボイラーに送る工程と
を含む方法に関する。
【0017】
本発明の別の態様において、(メタ)アクリル酸を生成するための装置であって、
A.脱水カラムと;
B.仕上げカラムであって、脱水カラムが、仕上げカラムと流体連通し、脱水カラム塔底流の少なくとも一部が、脱水カラムから取り出されて、仕上げカラムに送られる仕上げカラムと;
C.仕上げカラム塔頂流及び仕上げカラム塔側流(side stream)から選択される流れを凝縮するために、仕上げカラムに連結された少なくとも1つの吸引直接接触凝縮器システムと
を含む装置が提供される。
【0018】
意外なことに、本発明の方法は、廃水流を生成せずに工業グレードのアクリル酸を生成することができる。廃水流がなくなることにより、資本支出が減少され、運転コストが削減される。有利には、本発明の方法は、溶媒を必要とせず、このことも運転コストの削減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】吸引直接接触凝縮システムが仕上げカラムの塔頂流を凝縮する構成を示す概略的なプロセスフローシートである。
図2】シェルアンドチューブ表面凝縮器及び蒸気噴射エジェクターが仕上げカラムの塔頂流を凝縮する先行技術の構成を示す概略的なプロセスフローシートである。
図3】アクリル酸を生成し、回収するための方法を示す概略的なプロセスフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示における数値範囲は、任意の下限値と任意の上限値との間が少なくとも2単位離れている場合、1単位刻みで、下限値及び上限値を含め下限値から上限値までの全ての値を含む。例として、例えば、分子量、粘度、メルトインデックスなどの、組成的、物理的又は他の特性が、100〜1,000である場合、100、101、102などの全ての個別の値、ならびに100〜144、155〜170、197〜200などの部分範囲が、明示的に列挙されることが意図される。1未満の値を含むか又は小数を含む1より大きい数字(例えば、1.1、1.5など)を含む範囲では、1単位が、必要に応じて、0.0001、0.001、0.01又は0.1であると考えられる。10未満の1桁の数字(例えば、1〜5)を含む範囲の場合、1単位が、典型的に、0.1であると考えられる。これらは、特に意図されていることの例に過ぎず、列挙される下限値と上限値との間の数値の全ての可能な組合せが、本開示において明示的に記載されているものと考えられるべきである。数値範囲は、本開示において、特に、温度、圧力、機器のサイズ、混合物及び/又はブレンド中の成分の相対量などに与えられる。
【0021】
「(メタ)」という用語は、メチル置換された化合物がこの用語に含まれることを示す。例えば、(メタ)アクリル酸という用語は、アクリル酸又はメタクリル酸のいずれかを表す。同様に、「(メタ)アクロレイン」という用語は、アクロレイン又はメタクロレインのいずれかを示す。
【0022】
本発明の趣旨では、「軽質物(light)」及び「軽質化合物」という用語ならびにそれらの複数形が、所望の生成物の沸点より低い沸点を有する1つ又は複数の化合物を指す。例えば、所望の生成物がアクリル酸である場合、水が、軽質化合物の例である。軽質流れは、少なくとも1つの軽質化合物を含有する。
【0023】
同様に、本発明の趣旨での「重質物(heavies)」という用語は、所望の生成物の沸点を超える沸点を有する化合物を意味する。所望の生成物がアクリル酸である場合、アクリル酸のオリゴマー及び周知のマイケル付加生成物が、重質物の例である。
【0024】
「分離システム」という用語は、本明細書に記載されるように、本発明の方法に使用される、脱水カラム及び第2のカラムを含む機器を指す。
【0025】
「工業グレードのアクリル酸」という用語は、少なくとも98.5重量%のアクリル酸を含有し、好ましくは、少なくとも99%のアクリル酸、より好ましくは、少なくとも99.5%のアクリル酸を含有するアクリル酸を指す。さらに、アクリル酸は、0.5%未満の水及び0.4%未満の酢酸を含有し、好ましくは、0.3%未満の水及び0.2%未満の酢酸を含有し、より好ましくは、0.15%未満の水及び0.075%未満の酢酸を含有する。
【0026】
「連結された蒸留カラム」という用語は、第1のカラムからの尾部流れ(tails stream)が、第2のカラムの塔頂に直接又は間接的に送られる一方、第2のカラムの塔頂流が、第1のカラムの基部に直接又は間接的に送られるように連結された2つの蒸留カラムを指す。「間接的に」は、流れが、まず、少なくとも1つの他の容器、例えば、サージタンク及び/又は熱交換器を通過してから、第1又は第2のカラムに入ることを意味する。
【0027】
「露点」という用語は、液体の最初の滴が蒸気流から凝縮する、大気圧で測定される温度を指す。
【0028】
同義語「非凝縮性ガス」及び「非凝縮物」は、0℃未満(32°F未満)の露点を有するガスを意味する。非凝縮性ガスの例としては、限定はされないが、窒素、酸素、及びアルゴンが挙げられる。このような非凝縮性ガスは、カラム内の重合を阻害するために酸素含有ガスを仕上げカラムに加えた結果として、プロセス中に存在し得る。
【0029】
「過冷却(subcooling)」という用語は、液体流を、その露点より少なくとも0.5℃(0.9°F)低い温度に冷却することを指す。同様に、「過冷却器(subcooler)」という用語は、それを通過する液体流の過冷却を提供する熱交換器を示す。
【0030】
「直接接触凝縮器」という用語は、冷却液流が、蒸気流と緊密に混合されて、前記蒸気流の少なくとも一部の凝縮を引き起こす凝縮器を指す。
【0031】
「表面凝縮器」という用語は、冷却液流が、中間表面を冷却するのに使用され、次に、前記冷却された中間表面が、蒸気流の少なくとも一部の凝縮を引き起こすのに使用される凝縮器を指し;このような凝縮器において、中間表面は、典型的に、冷却液が蒸気流と緊密に混合されるのを防ぐ。シェルアンドチューブ熱交換器が、表面凝縮器の一般的な例であり、シェルアンドチューブ熱交換器内のチューブは、中間表面である。
【0032】
本開示の一態様は、アクリル酸を生成するための方法における吸引直接接触(ADC)凝縮器の使用に関する。少なくとも1つの実施形態によれば、ADC凝縮器は、後述されかつ図3に概略的に示される米国特許第8,242,308号明細書に開示されているものなどの無溶媒プロセスに使用される。
【0033】
本発明の方法への供給流は、好ましくは、(メタ)アクリル酸を含むガス状反応混合物である。好ましくは、この混合物は、アクリル酸の場合のプロピレン又はメタクリル酸の場合のイソブチレンなどの、少なくとも1つの(メタ)アクリル酸前駆体の二工程の触媒気相酸化から得られる。酸化プロセスの第2の工程は、典型的に、(メタ)アクロレインなどの中間体を、最終生成物に転化する。高温ガス状反応混合物の組成の説明については、教示内容が参照により本明細書に援用される米国特許第6,646,161B1号明細書を参照されたい。あるいは、アクリル酸は、プロパンの触媒気相オキシ脱水素化により、アクロレインを形成し、次に、それを酸化して、アクリル酸を形成することによって生成され得る。
【0034】
メタクリル酸が、同様に生成され得る。例えば、メタクロレインは、イソブチレン及び/又はtert−ブタノールの酸化によって、又はブタン及び/又はイソブタンのオキシ脱水素化によって生成され得る。次に、メタクロレインは、酸化されて、メタクリル酸が形成され得る。
【0035】
あるいは、ガス状反応混合物は、例えば、グリセロール、3−ヒドロキシプロピオン酸(3−HP)、及び2−ヒドロキシプロパン酸(乳酸)などの、再生可能な材料又は生物由来材料の脱水によって生成され得る。例えば、グリセロールは、触媒により脱水されて、アクロレインが形成され得、アクロレインは、続いて酸化されて、アクリル酸が形成される。グリセロールから生物由来のアクリル酸を生成するための一方法が、参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2012/0108767号明細書に開示されている。(メタ)アクリル酸を生成するための別の方法が、全体が参照により本明細書に援用される、2014年2月19日に出願された仏国特許出願第1451315号明細書(Arkema Ref:AM 3243 FR)に開示されている。
【0036】
本発明の方法において、ガス状反応混合物は、脱水カラム又は脱水塔として公知の第1のカラム中で脱水される。脱水カラムは、流入するガス状反応混合物から水の大部分を除去する働きをする。有利には、脱水カラムは、塔底流及び塔頂流が存在するように動作される。好ましくは、塔頂流の少なくとも一部が、凝縮され、還流液体として脱水カラムに戻される。
【0037】
好ましくは、脱水カラム中の圧力が、流入するガス状反応混合物の圧力以下である。脱水カラムからの塔底流の温度が約120℃未満であることも好ましい。脱水カラムからの塔頂流の温度は、好ましくは、少なくとも約40℃である。本発明の一実施形態において、本質的に全ての非凝縮物及び軽質物が、塔頂流中で脱水カラムを出る。アクリル酸の生成中に存在する非凝縮物の例としては、例えば、窒素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、ならびにプロパン及びプロピレンなどの未反応炭化水素が挙げられる。有利には、全塔頂流が、凝縮器中に導入され、軽質物の少なくとも一部が、凝縮され、還流として脱水カラムに戻される。
【0038】
少なくとも1つの実施形態によれば、共沸溶媒が、脱水カラムに加えられない。
【0039】
脱水カラムからの塔底流は、この流れの一部が、ガス状反応混合物を冷却するのに用いられ得ることを除いて、有利には、第2のカラム(仕上げカラム又は仕上げ塔とも呼ばれる)に送られる。本発明の一実施形態において、脱水カラムからの塔底流の一部が、リボイラーであり得る熱交換器に送られる。しかしながら、このプロセスはまた、プロセス設計が加熱又は冷却を必要とするかどうかに応じて、熱交換器が冷却器であるような条件下で運転され得ることが留意される。本発明の好ましい実施形態において、脱水カラムからの塔底流の一部が、仕上げカラムに送られる。有利には、供給点は、仕上げカラムの塔頂である。仕上げカラムは、好ましくは、蒸留カラムであり、リボイラー及び凝縮器とともに使用される。
【0040】
仕上げカラムは、塔頂流及び2つの生成物流れ、すなわち、塔側流及び残留物流れを有する。これらの流れの違いは、重質留分(heavy end)含量である。これらの流れ中の2つの主な重質留分成分は、アクリル酸二量体、すなわち、マイケル付加生成物、及びマレイン酸/無水物である。残留物流れに対する塔側流の取出し比率(take−off ratio)が増加するにつれ、これらの重質留分は、塔側流と比べて残留物流れ中に濃縮される。残留物流れ(エステルグレードのアクリル酸と呼ばれることもある)は、典型的に、高い二量体、阻害剤及びマレイン酸/無水物含量のため、溶融晶析装置(melt crystallizer)、すなわち、精アクリル酸ユニットへの原料として適していない。
【0041】
仕上げカラム中の温度及び圧力は、特に重要でなく、当業者に周知の設計検討にしたがって決定され得る。好ましくは、仕上げカラムは、脱水カラムの動作圧力未満で動作される。好ましくは、仕上げカラムは、減圧条件で動作される。これは、仕上げカラムがより低い温度で動作するのを可能にし、それによって、望ましくない二量体、オリゴマー及び/又はポリマー形成を最小限に抑えるという利点を有する。有利には、仕上げカラムを出るときの塔頂流の温度は、アクリル酸を生成し、約40〜約500mm Hgの上部圧力で仕上げカラムを動作させるとき、約40〜約90℃である。少なくとも1つの実施形態において、仕上げカラムは、100mm Hg以下の圧力で動作される。仕上げカラムからの塔底流の温度は、有利には、アクリル酸を生成するとき、約60〜約120℃である。
【0042】
本発明の仕上げカラムは、少なくとも1つの吸引直接接触(ADC)凝縮器システムを含む。好ましい実施形態において、仕上げカラムからの塔頂流は、ADC凝縮器システムに送られる。ADC凝縮器システムは、液体噴射エダクターを用いて、液体の流れをノズルに通すことによって真空を生成し、ノズルは、蒸気吸引ポートを介して蒸気流を吸引する。液体及び蒸気は、吸引ポート内で混合され、蒸気は、拡径部(expansion section)中で少なくとも部分的に凝縮される。したがって、ADCは、脱水カラムの塔底流から軽質留分(light end)を除去するために、減圧を提供することができる。
【0043】
有利には、アクリル酸生成物流れが、サイドドロー流として仕上げカラムから回収される。第2のカラムにおけるサイドドローの位置は、設計の好みの問題であり、当業者に周知の設計技術を用いて決定され得る。アクリル酸生成物は、蒸留塔の側部から、主に、蒸気又は液体として取り出される。本発明の少なくとも1つの実施形態において、仕上げカラムサイドドロー流は、蒸気を含む。少なくとも1つの実施形態によれば、ADC凝縮器システムは、第2のカラムからの蒸気サイドドローを取り出すのに使用され得る。さらなる実施形態において、仕上げカラムは、塔頂ADC凝縮器システム及び側部ADC凝縮器システムを含み得る。
【0044】
サイドドロー対塔底流の重量比は、好ましくは、75:25、又はより好ましくは、95:5である。しかしながら、有利には、サイドドロー対塔底流の重量比はまた、25:75あるいは5:95であるように当業者によって設計され得る。さらなる実施形態において、サイドドローが取られず、全てのアクリル酸生成物が、塔底流に取り込まれる。実際問題として、塔側流は、典型的に、尾部より良好な品質を有し、すなわち、塔側流は、尾部より軽質の成分を含有する。
【0045】
本方法の1つの意外な利点は、生成物流れが、共沸溶媒又は他の溶媒を必要としないプロセスによって高純度で生成されることである。例えば、生成物流れは、有利には、少なくとも約98.5重量%のアクリル酸を含有し、好ましくは、少なくとも約99%のアクリル酸、より好ましくは、少なくとも約99.5%のアクリル酸を含有する。有利には、生成物流れは、約0.5%未満の水及び約0.4%未満の酢酸を含有し、好ましくは、約0.3%未満の水及び約0.2%未満の酢酸を含有し、より好ましくは、約0.15%未満の水及び約0.075%未満の酢酸を含有する。本発明の方法は、好ましくは、さらなる分離処理なしで工業グレードのアクリル酸として使用可能な生成物流れを生成することができる。
【0046】
1つ又は複数の近赤外線(NIR)分光計が、流れの組成(例えば、塔頂流、サイドドロー流、塔底流)を監視し、及び/又はプロセスの運転を制御するのに使用され得る。このようなNIR分光計は、当該技術分野において公知であり、例えば、参照により本明細書に援用される米国特許出願公開第2011/172462号明細書に開示されている。少なくとも1つの実施形態において、NIR分光計が、仕上げカラムの塔頂流を監視する。
【0047】
少なくとも1つの実施形態によれば、阻害剤が、アクリル酸の反応を阻害するのに使用される。好ましい阻害剤の例としては、可溶性マンガンイオン、可溶性銅イオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)ならびに4−ヒドロキシTEMPO(4HT)、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンのモノメチルエーテル(MeHQ)、及びフェノチアジン(PTZ)などの関連する化合物が挙げられる。阻害剤の組合せを用いることができる。本発明の好ましい実施形態において、酢酸マンガン、及び4−ヒドロキシTEMPOなどの、可溶性マンガンイオンの供給源の混合物が、阻害剤として脱水カラム中で用いられる。4−ヒドロキシTEMPO/酢酸マンガンはまた、仕上げカラムの好ましい阻害剤である。両方のカラムに使用され得る代替的な阻害剤系は、ヒドロキノン/酢酸マンガンである。酸素も阻害剤であることが知られているため、当該技術分野において周知であるように、酸素分子又は空気を仕上げカラムに用いることも好ましい。阻害剤は、当業者に周知であるように、アクリル酸の重合を防止又は抑制するのに十分な量で用いられる。本発明の場合、脱水器に供給された反応ガスが、阻害剤系のために十分な量の酸素を既に含有するため、空気の注入は仕上げカラムのみに必要とされる。典型的に、酸素が、カラム中の蒸気の量に対して、少なくとも0.1体積パーセントの量でカラム中に存在するように、十分な空気が注入される。
【0048】
温度、圧力、流量、カラムの高さ及び直径を含む機器の寸法、構成材料の選択、熱交換器及びポンプなどの補助機器の配置及びそのタイプの選択、カラム内部の選択及び配置、及び取出し流れ(take−off stream)を含むパイプの位置などの、脱水カラム及び仕上げカラムの動作条件を含む、脱水カラム及び仕上げカラムの設計の詳細が、周知の設計検討にしたがって当業者によって容易に決定され得る。
【0049】
本発明にしたがって使用され得るアクリル酸生成システムの一実施形態が、図3に示される。図3を参照すると、アクリル酸を含有する高温反応ガス混合物供給流1が、脱水カラム(又は塔)10の下側領域中に導入される。脱水カラムに入るとき、反応ガス混合物は、熱交換器12から供給される液体11と接触し、液体11によって冷却され、熱交換器12は、冷却器又は加熱器であり得るが、好ましくは、リボイラーである。接触は、高温の反応ガス混合物が通って上昇する蒸留トレー又はパッキン(packing)に、冷却液を噴霧すること、供給すること、又はこれらの組合せを含み得る。部分的に冷却されたガス混合物は、当業者に周知であるように、任意の構成のトレー又はパッキンであり得る内部(図示せず)を通って脱水カラムを上向きに流れる。冷却されたガス混合物が上向きに流れるにつれ、それは、凝縮器13からの凝縮された軽質物7を含む還流液体と接触される。凝縮器13中で凝縮されていないガス及び蒸気が、凝縮器塔頂流2を介して凝縮器を出て、次に、凝縮器塔頂流2は、再利用ガス流14及びベント流15に分割される。したがって、脱水カラムは、反応ガス混合物供給流1からのアクリル酸の大部分を取り出し、さらなる処理のために塔底流16を介して回収されたアクリル酸を送る働きをする。全体が参照により本明細書に援用される、2013年7月25日に出願された仏国特許出願番号FR1357332号明細書に開示されているものなどの脱水カラムの代替的な構成も使用され得る。
【0050】
脱水カラムからの塔底流16の一部が、第2のカラム供給流3を介して第2のカラム(又は仕上げカラム)17の塔頂の近くの地点に送られる。塔底流16の別の部分が、熱交換器供給流20を介して熱交換器12に送られ、したがって、脱水カラムへと再循環され、流入する高温反応ガス混合物を冷却するのに用いられる。第2のカラム供給流3からの液体は、第2のカラム中で下向きに流れ、第2のカラムにおいて、この液体は、リボイラー18から上昇する蒸気と接触される。第2のカラムは、好ましくは、蒸留カラムである。蒸留カラムの構成は、特に重要でなく、カラムは、当業者に周知の基準を用いて設計され得る。第2のカラムからの気相塔頂流8は、凝縮器19中に導入され、凝縮器19において、塔頂流の大部分が凝縮される。非凝縮物の小さいパージ流(図示せず)が、ベント流として凝縮器19を出て、ベント流は、廃棄されるか、再利用されるか、又は他の方法で処理され得る。凝縮器19からの凝縮された液体は、凝縮された液体流4を介して熱交換器12に送られ、次に、流れ1のガス状反応混合物を冷却するために、冷却液流11を介して脱水カラムに送られる。第2のカラム塔底流9の一部が、リボイラー18を介して第2のカラムに再循環される。塔底流9の残りが、さらなる処理、廃棄、又はこれらの組合せのために、残留流れ6を介して流れる。例えば、残留流れ6は、エステルユニット、分解ユニット、又はこれらの組合せに送られ得る。
【0051】
アクリル酸生成物流れ5が、第2のカラムからサイドドローとして取られる。流れは、好ましくは、蒸気流であるが、液体流であり得る。
【0052】
少なくとも1つの実施形態によれば、凝縮器19は、図1に示されるように、ADCシステムを含む。仕上げカラム塔頂ADC凝縮器システムは、少なくとも1つの液体噴射エダクター(構成要素47a、47b、及び47cを含む)、少なくとも1つの気液分離容器40、及び少なくとも1つの凝縮物過冷却器42を含む。一実施形態において、気液分離容器40は遠心分離機である。
【0053】
少なくとも1つの実施形態において、塔頂ADC凝縮器システムは、少なくとも1つの液体噴射エダクター、少なくとも1つの気液分離容器、及び少なくとも1つの凝縮物冷却器を含み得る。少なくとも1つのさらなる実施形態において、塔頂ADC凝縮器システムは、複数の液体噴射エダクター、複数の気液分離容器、及び/又は複数の凝縮物冷却器を含み得る。塔頂ADC凝縮器システムが、複数の液体噴射エダクター、複数の気液分離容器、及び/又は複数の凝縮物冷却器を含む実施形態において、これらの構成要素は、並列又は直列に連結され得る。
【0054】
少なくとも1つの実施形態において、塔頂ADC凝縮器システムは、並列に連結されて(in parallel)運転される複数の液体噴射エダクターを含む。複数の液体噴射エダクターのそれぞれが、同じ地点で仕上げカラム17において吸引し(draw suction)、同じ分離容器40中に排出し得る。並列に連結された複数の液体噴射エダクターは、より多い体積流量を可能にし得る。したがって、より高いスループットを有するより大きいカラムでは、複数の液体噴射エダクターが、仕上げカラムを通して十分な体積流量を提供するのに使用され得る。
【0055】
少なくとも1つの実施形態によれば、塔頂ADC凝縮器システムは、直列に連結されて(in series)運転される複数の液体噴射エダクターを含み得る。例えば、第1の液体噴射エダクターは、仕上げカラム17において蒸気を吸引し、分離容器40中に排出してもよく、第2の液体噴射エダクターは、容器40から吸引し、第2の分離容器中に排出し得る。さらなる凝縮物冷却器も、液体噴射エダクター及び分離容器とともに使用されてもよい。さらなる液体噴射エダクターが、同じように直列に連結され得る。直列に連結された液体噴射エダクターの使用により、より高い真空が仕上げカラム17に引かれることが可能になり得る。ADCシステムは、先行技術のシステムより少ない個数のプロセス機器を使用するため、資本投資コストも削減され得る。
【0056】
少なくとも1つの実施形態において、ADC凝縮器システムは、1つ又は複数のポンプをさらに含んでいてもよく、ポンプは、任意選択的に、管路41、43、44、45、及び4のうちの1つ又は複数に配置され得る。少なくとも1つの実施形態において、少なくとも1つの可変速遠心ポンプが、管路41に配置される。ガス緩衝ポンプシール(gas−buffered pump seal)が、用いられてもよく、シールガスは、酸素を含み得る。
【0057】
仕上げカラム塔頂ADC凝縮器システム内で、過冷却された仕上げカラム塔頂凝縮物を含む液体流45が、液体噴射エダクターノズル47aに供給される。液体噴射エダクターノズル47aを通る過冷却された凝縮物の流れが、蒸気吸引ポート47bを通して仕上げカラム塔頂流8を吸引する。ポート47b及び拡径部47c内の過冷却された凝縮物及び仕上げカラム塔頂流の緊密な混合によって、仕上げカラム塔頂流8は、少なくとも部分的に凝縮される。過冷却された凝縮物、仕上げカラム塔頂流の液体及び蒸気留分ならびに任意選択的に酸素含有ガスの得られた混合物が、分離容器40に排出されて、仕上げカラム塔頂凝縮物流41及び塔頂ADC凝縮器システム非凝縮物ベント流46が形成される。ある実施形態において、非凝縮物ベント流46の流量は、分離容器40内の圧力を調節するために、任意選択的な制御弁(図示せず)を用いて調整され得る。
【0058】
少なくとも1つの実施形態において、非凝縮物ベント流46の少なくとも一部が、脱水カラム10(図示せず)に移送される。少なくとも1つの実施形態において、非凝縮物ベント流46の少なくとも一部が、熱酸化機、火炎、又は触媒燃焼ユニット(図示せず)に移送され得る。任意選択的に、非凝縮物ベント流46のための移送パイプは、例えば、火炎防止器、組成分析器、及び圧力軽減装置などのプロセス安全機器も含み得る。
【0059】
少なくとも1つの実施形態によれば、非凝縮物ベント流46の少なくとも一部が、仕上げカラム17内の圧力を調節するために、蒸気吸引ポート47bに移送される。代替的な実施形態において、例えば大気又は混合ガス(例えば、窒素と5〜10%の酸素とを含むブレンド)などの酸素含有ガスの制御された流れが、仕上げカラム17内の圧力を調節するために、蒸気吸引ポート47bに供給され得る。
【0060】
仕上げカラム塔頂凝縮物41は、分離容器40から取り出され、少なくとも1つの過冷却器42に通されて、過冷却された仕上げカラム塔頂凝縮物流43が形成され得る。過冷却器42は、シェルアンドチューブ熱交換器、スパイラル式熱交換器、モノリシックブロック(monolithic block)交換器、ジャケット管、及びプレートフレーム式熱交換器を含むリストから選択される少なくとも1つの熱交換器を含み得る。少なくとも1つの実施形態において、過冷却器42は、冷却媒体として約15℃〜35℃(59°F〜95°F)の温度で供給される冷却塔水を用いる少なくとも1つの熱交換器を含む。別の実施形態において、過冷却器42は、冷却媒体として約2℃〜10℃(35.5°F〜50°F)の温度で供給される冷却された水を用いる少なくとも1つの熱交換器を含む。仕上げカラム塔頂凝縮物流43は、好ましくは、50℃以下、より好ましくは、40℃以下の温度に維持される。
【0061】
過冷却された仕上げカラム塔頂凝縮物流43の少なくとも一部が、管路4を介して、脱水カラム加熱器/リボイラー12に送られる。過冷却された仕上げカラム塔頂凝縮物流43の一部が、任意選択的に、任意選択的な管路44を介して分離容器40に戻され得る。存在する場合、任意選択的な管路44は、流量制御弁をさらに含み得る。上述されるように、過冷却された仕上げカラム塔頂凝縮物流43の一部が、液体流45として液体噴射エダクターノズル47aに供給される。少なくとも1つの実施形態において、仕上げカラム塔頂流8は、145C以下の露点温度を有し、液体流45は、144.5℃以下の温度で液体噴射エダクターノズル47aに供給される。少なくとも1つの実施形態において、液体流45は、10℃〜100℃、好ましくは、20℃〜80℃の温度で液体噴射エダクターノズル47aに供給される。液体噴射エダクターを供給するのに凝縮物45を用いることによって、システムにおいて水の使用を避けることができ、廃水流を避けることができる。米国特許第8,242,308号明細書に開示されているプロセスなどの無溶媒アクリル酸生成プロセスに使用される場合、プロセス全体を通して水の添加を避けることができる。仕上げカラム17の塔頂パイプ及び機器におけるポリマー形成の可能性も、塔頂流8を冷却するのに凝縮物45を用いることによって最小限に抑えることができる。
【0062】
少なくとも1つの実施形態において、仕上げカラム17中の真空が、液体流45中の液体の体積を変化させることによって調節され得る。
【0063】
阻害剤パッケージが、仕上げカラム塔頂ADC凝縮器システム内の1つ又は複数の地点に加えられるのが好ましい。少なくとも1つの実施形態において、阻害剤パッケージは、分離容器40中に直接加えられる。他の実施形態において、阻害剤パッケージは、液体噴射エダクターノズル47aの上流の地点で液体流45に加えられ得る。加えられる場合、阻害剤パッケージは、4−ヒドロキシTEMPO(4HT)、可溶性マンガンイオン、可溶性銅イオン、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンのモノメチルエーテル(MeHQ)、及びフェノチアジン(PTZ)のうちの1つ又は複数を含み得る。
【0064】
少なくとも1つの実施形態において、仕上げカラム17は、蒸気側部生成物流れ5がそれを通して取り出され、凝縮される真空表面凝縮器(図示せず)をさらに含み得る。真空表面凝縮器蒸気出口は、仕上げカラム塔頂ADCシステム中の液体噴射エダクターの蒸気吸引ポート47bに連結され得る。
【0065】
少なくとも1つの代替的な実施形態において、仕上げカラム17は、蒸気サイドドロー生成物流れ5がそれを通して取り出され、凝縮されるサイドドローADC凝縮器システムを含み得る。本発明の様々な実施形態において、仕上げカラムは、塔頂ADC凝縮器システム、サイドドローADC凝縮器システム、又は塔頂ADC凝縮器システム及びサイドドローADC凝縮器システムの両方を含み得る。
【0066】
少なくとも1つの実施形態によれば、塔頂ADC凝縮器システムは、直列又は並列に連結されて運転される、複数の液体噴射エダクター、複数の気液分離容器、及び/又は複数の凝縮物冷却器を含み得る。
【0067】
ADC凝縮器システムは、2つのカラムの、無溶媒アクリル酸生成プロセス中で上述されているが、ADC凝縮器システムは、プロセスに使用される水及び蒸気の量を減少させ、ひいては生成される廃水の量を減少させるために、ガス状反応混合物を生成する他のプロセス中で使用され得る。したがって、本開示の別の態様は、吸引直接接触凝縮器システムを用いて、仕上げカラム塔頂流を少なくとも部分的に凝縮して、仕上げカラム塔頂凝縮物を形成する工程を含む、ガス状反応混合物からの(メタ)アクリル酸の回収のための方法の改良に関する。改良は、2つ又は3つのカラムを用いたプロセス、ならびに無溶媒プロセス及び共沸溶媒を含む溶媒を用いたプロセスに適用され得る。
【0068】
ADC凝縮器システムを用いた分離プロセスのための開始プロセスは、他のプロセスと異なる。全体が参照により援用される、国際特許出願番号、国際公開第2009/123872号パンフレットには、一般に、分離プロセスの開始が教示されている。最初に、仕上げカラム塔頂ADC凝縮器システムを含む分離プロセスを開始させるために、まず、初期の液体体積を分離容器40に提供する必要があるであろう。このような場合、初期の液体体積は、例えば、エステルグレードのアクリル酸生成物又は工業グレードのアクリル酸生成物などの、別の装置中で生成される実際のプロセス材料であり得る。あるいは、初期の液体体積は、アクリル酸と、任意選択的に、例えば、水、酢酸、及び重合阻害剤などの1つ又は複数のさらなる材料とを含む合成混合物であり得る。初期の液体体積が分離容器40に提供されると、分離容器40から液体噴射エダクターノズル47aへの液体の循環が開始され、それによって、仕上げカラム内の圧力を制御するためにさらに調節され得る仕上げカラム17における吸引(aspirating suction)を確立することができる。連続した循環が、塔頂分離容器40と液体噴射エダクターノズル47aとの間で確立され、仕上げカラム17内の所望の圧力が得られたとき、仕上げカラム17は、それが利用可能になったときに脱水塔底流3を導入する準備ができている。
【0069】
同様に、最初に開始される分離プロセスが、サイドドローADC凝縮システムを含む場合、アクリル酸を含む初期の液体体積が、好ましくは、前記サイドドローADC凝縮システムに提供され、サイドドロー分離容器とサイドドロー液体噴射エダクター入口ノズルとの間の前記初期の液体体積の循環が、それが利用可能になったときに仕上げカラム蒸気サイドドロー生成物流れ5に取り込まれるために確立されなければならない。
【0070】
本発明が、かなり詳細に上述されているが、この詳細は、例示のためのものである。以下の特許請求の範囲に記載される本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに、多くの変形及び変更を、本発明に行うことができる。特に、全ての米国特許、認められた特許出願、及び公開された米国特許出願を含む上で特定された全ての刊行物は、全体が参照により本明細書に援用される。
図1
図2
図3