特許第6703951号(P6703951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703951
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】パワーステアリングを管理する方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20200525BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20200525BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20200525BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D113:00
   B62D137:00
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-555307(P2016-555307)
(86)(22)【出願日】2015年2月27日
(65)【公表番号】特表2017-508660(P2017-508660A)
(43)【公表日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】FR2015050473
(87)【国際公開番号】WO2015132509
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2018年1月9日
(31)【優先権主張番号】14/51682
(32)【優先日】2014年3月3日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブードゥレ セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ムレール パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ラヴィエ クリストフ
【審査官】 神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−161065(JP,A)
【文献】 特開平09−039809(JP,A)
【文献】 特開2006−044284(JP,A)
【文献】 特開2012−062028(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0041645(US,A1)
【文献】 特開2007−230360(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00 − 6/10
B62D 5/00 − 5/06
B62D 5/07 − 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング機構にアシスト力又はトルク(Cassist)を与える少なくとも1つのアシストモータ(2)を有するパワーステアリング(1)を管理する方法であって、
前記アシストモータ(2)によって提供されるアシスト力又はトルク(Cassist)を表すモータトルク信号(CMot)の時間微分(∂CMot/∂t)を所定周期ごとに求め、前記時間微分が変動閾値(Speak)を超えたときに、微分ピークが検出されたと判断し、さらに、微分ピークが検出され続ける保持継続期間(dpeak)が最小継続期間閾値(d0)以上であるときに、ステアリングリバーサルが検出されたと判断する検出ステップ(a)
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記検出ステップ(a)に使用される前記モータトルク信号は、前記アシストモータ(2)に適用される、力若しくはトルクの設定値(CMot)、又は前記アシストモータ(2)によって実際に再生される力若しくはトルクの測定値(Cassistによって構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
運転者及び前記アシストモータ(2)によって前記パワーステアリングに共同で与えられる総操作力を表す操作力信号(Caction)のうち、前記検出ステップ(a)で検出されたステアリングリバーサル(4)の前と後の操作力信号を取得し、両者の差(ΔCaction)から、前記パワーステアリングのステアリング動作に対抗する摩擦力(F)を求める、摩擦力取得ステップ(b)
を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記操作力信号(Caction)は、前記運転者によってステアリングホイールに与えられるステアリングホイールトルク(Csteering wheel)を表すステアリングホイールトルク信号と、前記モータトルク信号(CMot)との和によって、構成される
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記摩擦力取得ステップ(b)は、
前記モータトルク信号の前記時間微分(∂CMot/∂t)が前記変動閾値(Speak)を上回る時点に対応するピーク開始時間(tstart)を識別し、
前記モータトルク信号の前記時間微分(∂CMot/∂t)が前記変動閾値(Speak)より下に再び低下する時点に対応するピーク終了時間(tend)を識別し、
ステアリングリバーサル前の操作力値なる、前記ピーク開始時間(tstart)以前の第1参照時間(t1)において前記操作力信号によって取られた値(Caction(t1))が何であったかを求め、
ステアリングリバーサル後の操作力値なる、前記ピーク終了時間(tend)以降の第2参照時間(t2)において前記操作力信号によって取られた値(Caction(t2))が何であったかを求め、
前記ステアリングリバーサル後の前記操作力値(Caction(t2))と前記ステアリングリバーサル前の前記操作力値(Caction(t1))との間の差(ΔCaction)の計算から、前記摩擦力(F)を求める
ことを含むことを特徴とする請求項又はに記載の方法。
【請求項6】
前記第1参照時間(t1)は前記ピーク開始時間(tstart)より厳密に前で選択され、前記第1参照時間は、前記ピーク開始時間より、20msと100msとの間に含まれる進み値(δ1)だけ先行していること、及び、
前記第2参照時間(t2)は前記ピーク終了時間(tend)より厳密に後で選択され、前記第2参照時間は、前記ピーク終了時間より、20msと100msとの間に含まれる遅れ値(δ2)だけ遅れていること、
のうちの少なくとも一方が満たされる
ことを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項7】
ステアリングホイールの回転速度
が所定のステアリングホイール速度閾値以下である、
ステアリングホイールの角加速度
が所定のステアリングホイール加速度閾値以下である、
ステアリングホイールの方向角(θsteering wheel)の関数としての、車両のヨーレート
又は車両の横加速度(γ)の変遷が実質的に線形領域にある、
という条件のうちの1つ以上の実施条件が満たされているかが検査される検査ステップ(c)を含む
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記変動閾値(Speak)、及び前記最小継続期間閾値(d0)、請求項に従属する場合にはこれらに加えて前記進み値(δ1)と前記遅れ値(δ2)との組合せ、のうちの少なくとも1つが、ステアリングホイールの角加速度
に応じて調整される
ことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
パワーステアリングを制御するコンピュータに、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法を構成する各ステップを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーステアリング管理方法を装備する車両の分野全体に関し、特に自動車に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、パワーステアリング機構における摩擦力を考慮することに関する。
【背景技術】
【0003】
いくつかのパワーステアリング管理方法において、より一般的には車両の進路を制御する方法において、ステアリングリバーサル、すなわち、車両のドライバーの動作の下でステアリングホイールの回転方向が変化することを検出することは、有用又は必須ですらあり得る。
【0004】
この目的で、回転速度の符号(signe)の変化を検出するために、ステアリングホイールの回転角速度をモニターすることが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、そのような方法によってステアリングリバーサルの十分に信頼できる検出を行うためには、より詳細には、例えばステアリングホイールのわずかな振動によって引き起こされる「偽陽性」の発生を防ぐためには、ステアリングリバーサルポイントに隣接する2つの反対の回転方向のそれぞれにおいて、前記ステアリングリバーサルによって生じる角変位の振幅が、所定の比較的高い検出閾値より確実に大きいことが必要である。
【0006】
しかし、ステアリングホイールがそのような検出閾値に達し、これを横切るのに要する時間は、比較的長いかもしれず、それがステアリングリバーサル検出方法の精度及び反応性を制限する傾向がある。
【0007】
更に、例えば前記ステアリングホイールの角位置の測定からステアリングホイールの角速度を知る必要があるということは、状況によっては、専用のセンサの追加を強いるかもしれず、このことはステアリングシステムのサイズ及び重量、並びにその製造コストを増加させる。
【0008】
本発明の目的は、したがって、前述の不利な点を克服し、簡単かつ実現するのに費用が高くなく、ステアリングリバーサルの迅速で信頼できる検出を可能にする新たなパワーステアリング管理方法を提供することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、アシスト力を出力するための少なくとも1つのアシストモータを有するパワーステアリングの管理方法によって達成される。前記方法は、前記アシストモータによって出力されるアシスト力を表す、モータトルク信号なる信号を取得し、前記モータトルク信号の時間微分を求め、前記モータトルク信号の前記時間微分を、前記パワーステアリングのステアリング方向の反転を示す、所定の変動閾値より大きい微分ピークを検出するために、変動閾値と比較する、ステアリングリバーサルを検出するステップ(a)を有する。
【0010】
有利なことに、アシストモータによって提供されるアシスト力を表す信号、例えば前記アシストモータに適用されるトルク設定値又は前記アシストモータのシャフトによってステアリング機構に与えられるトルクの実際の測定値に対応する信号をモニターすること、より詳しくは、そのような信号の時間微分によって取られる瞬時値をモニターすることによって、ステアリングホイールの角変位の振幅に関する制限的な検出閾値の使用にかかわらず、どのようなステアリングリバーサルもすばやく確実に検出することが可能になる。
【0011】
本発明者は、実に、ステアリングリバーサルの間、すなわち、運転者が左へ、次に右へ(又はその反対)進路を連続して変えるときに、アシストモータによって出力されるアシスト(トルク)力の非常に速くほとんど瞬間的な低下(絶対値で)が観測され、前記低下は前記アシスト(トルク)力を表す信号の時間微分のピークに帰する、ということを発見した。
【0012】
アシスト力のこの突然の大きな振幅の変化は、ステアリングシステム、より詳しくはアシストモータが、ステアリング部材の変位の(局所的な)極値にあって(すなわち、ステアリングリバーサルが生じていて)、アシストモータがステアリング操作を第1の方向(例えば左)にアシストする第1アシスト状態からアシストモータがステアリング操作を反対の第2の方向(前述の例では右)にアシストする第2アシスト状態への遷移を行うときに、ステアリング部材の変位方向の切り換え(反転)が必ず観察される、という事実に起因する。
【0013】
ここで、実際には、内部摩擦による、ステアリング機構への抵抗力は、ステアリング操作に対抗する傾向にあるのだが、ステアリング部材の変位の符号(より詳しくは変位速度の符号)とは反対の符号を有する。
【0014】
アシスト力は、それに関する限り、要するに、駆動機能を有する。すなわち、前記アシスト力は、ステアリング部材を、内部摩擦による力を含む抵抗力に抗して、運転者によって望まれた、考慮されたステアリング方向に変位するように駆動するのに役立つ。
【0015】
いずれにせよ、ステアリング角の操作方向の切り換え、よってステアリング部材の変位方向の切換えは、ほとんど同時に、一方では、ステアリングリバーサル前に第1方向(慣習によると左)へのステアリング部材の変位に抗する摩擦に起因する第1抵抗力成分を消失させ、他方では、今度はステアリングリバーサル後に第1方向とは反対の第2方向(右)へのステアリング部材の変位に抗する摩擦に起因するが第1抵抗力成分とは符号が反対の新たな(第2)抵抗力成分を発生させる。
【0016】
摩擦の存在、より詳しくはステアリング方向を反転させるときの摩擦の作用方向の反転は、ステアリング方向の反転の間に、抵抗力の(絶対値での)低下として、従って前記抵抗力に逆らう(打ち勝つ)ためにアシストモータによって出力されるアシスト力の低下として現れるヒステリシス現象に帰する。
【0017】
実際には、前記低下は、より正確には第1抵抗力成分(第1摩擦力成分)と前述の第2抵抗力成分(第2摩擦力成分)との累積(反対の符号を考慮することによる代数的累積)に対応する。
【0018】
よって有利なことに、モータトルク信号の時間微分の計算によると、ステアリングリバーサルに起因するモータトルク信号のいかなる急速な低下も強調することができ、その結果、前記ステアリングリバーサルを検出することができる。
【0019】
モータトルク信号の時間微分をモニターすることは、ステアリングリバーサルの迅速な検出を可能にするのみならず、以下で詳細に説明されるように、モータトルク信号の品質に影響を与えるノイズに起因する偽陽性のリスクを排除することを可能にするフィルタリング動作を促進するということにも、有利なことに気付かれるであろう。
【0020】
最後に、モータトルク信号は、系統立って利用可能な、全てのパワーステアリングシステムにおいて容易に利用され得る信号を、例えば、アシスト則によって策定され、アシストモータに適用される設定値の形で、有利なことに構成し、それによって本発明の実施を簡単にする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の他の目的、特徴及び有利な点は、単に説明として非限定的なやり方で提供された、添付の図面に加えて以下の説明を読むとすぐに、更に詳細に明らかになるであろう。
図1図1は、ステアリングホイールの角位置の変遷(言い換えると、駆動機構の減速比を考慮するなら、アシストモータのシャフトの角位置の変遷)を、連続するステアリングリバーサル中のモータトルク信号の変遷とともに、タイムチャートで示す。
図2図2は、図1のモータトルク信号の時間微分が取る値をタイムチャート上に示す。
図3図3は、ステアリングリバーサルによって引き起こされる(絶対値での)トルクの低下(chute)時における、図1のトルク信号を表す曲線の拡大図を、タイムチャートで示す。
図4図4は、本発明による方法の実施をブロック図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、パワーステアリング1の管理に関する。
【0023】
前記パワーステアリング1は、アシスト力Cassistを出力するための少なくとも1つのアシストモータ2を有している。
【0024】
いかなるタイプのアシストモータ2、より詳しくはいかなるタイプの双方向アシストモータの採用をも、こだわりなく考えることが可能である。
【0025】
特に、本発明は、トラクション又は圧縮タイプのアシスト力Cassistを作用させるためのリニアアシストモータ2と同様に、トルクタイプのアシスト力Cassistを作用させるためのロータリーアシストモータ2に適用されてもよい。
【0026】
更に、前記アシストモータ2は、例えば液圧式、又は好ましくは電気式であってもよい(電気式モータを用いると、特に、有用な信号の生成及び管理に加えて、前記モータの据え付け及び実装が容易になる)。
【0027】
特に好ましい方法においては、アシストモータ2は、例えば「ブラシレス」タイプの、ロータリータイプ電気モータであろう。
【0028】
更に、パワーステアリング1は、ステアリングホイールを、それ自体知られているやり方で(図示しないが)好ましくは有し、このステアリングホイールは、これによって車両の運転者が、車両のシャシーに固定されたステアリングケーシングにスライドするように取り付けられたステアリングラックに、ピニオンによって係合するステアリングコラムを、回転させることができるものである。
【0029】
ステアリングケーシング内におけるラックの並進運動の変位がステアードホイールのステアリング角を(すなわち、ヨー方向に)変化させるように、ステアリングラックの両端は、好ましくはそれぞれヨー方向に可動のスタブアクスルに接続され、これには、車両のステアードホイール(好ましくは駆動輪)が取り付けられる。
【0030】
アシストモータ2は、例えばウォームホイール及びウォーム減速装置を通してステアリングコラムに係合してもよく、又はボールスクリュータイプの駆動機構によって、若しくはステアリングコラムのピニオンから独立したドライビングピニオンを経由して、ステアリングラックに直接係合してもよい(このようにして「デュアルピニオンメカニズム」と呼ばれるステアリングメカニズムを形成する)。
【0031】
図4に示されているように、ステアリングシステム1を操作している運転者をアシストモータ2がアシストするようにモータ2に与えられる、力の設定値(より好ましくはトルクの設定値)CMotは、計算機(ここではアシスト則3の適用モジュール)の不揮発性メモリに格納された所定のアシスト則に依存し、前記アシスト則は、前記力の設定値CMotを、運転者によってステアリングホイールに与えられるステアリングホイールトルクCsteering wheel、車両の(前後方向の)速度Vvehic、ステアリングホイールの角位置θsteering wheel等のようなさまざまなパラメータに応じて調整し得る。
【0032】
本発明によると、本方法は、ステアリングリバーサル検出ステップ(a)を有する。
【0033】
このステアリングリバーサル検出ステップ(a)によると、ステアリングリバーサル4、すなわち、車両の運転者がステアリングホイールを(自発的に)動かす方向の変化の検出が可能になる。この変化は、ステアリングホイールを左に引く力を運転者が与える、左へ操舵する状況から、ステアリングホイールを右に引く力を運転者が与える、右へ操舵する状況への切り換え、又はその反対を意図しており、そのような結果が得られる。
【0034】
そのような連続したステアリングリバーサル4は、図1において明確に認識できる。点線の曲線は、図1においてステアリングホイールの角位置θsteering wheelの時間に伴う変遷を示しており、運転者がステアリングホイールを右に、次に左に、次に再び右に等、連続して操舵するときに、前記ステアリングホイールの回転方向が交互に変化することが見えるようにする(これは、ステアリングホイールの角位置を表す曲線が、ここでは正弦曲線に類似する形を有する、ということを説明する)。
【0035】
図1の好適な例において、ステアリング角の相対的配置(configuration)を表す、ステアリングホイールの角位置θsteering wheelは、アシストモータ2のシャフト5の角位置から等価的に実際には表される、ということに気付くであろう。
【0036】
もっとも、ステアリング角の空間的配置を表す位置の、従ってステアリングホイールの角位置の、どのような測定も、本発明の説明及び実装の目的に適し得る。
【0037】
この場合、アシストモータのシャフト5をステアリングホイールに接続するリンク機構の機械的な減速比は、アシストモータのシャフトの角位置とステアリングホイールの角位置との間の関係を規定する。
【0038】
図1の例において、減速比は約26であり、縦座標の角度目盛りはドライブシャフトの機械的なキロ度(10度)に対応しており、ドライブシャフトの前後の動きは、ステアリングホイールの約+/−139度の角変位に対応するおおよそ−3600度(ドライブシャフト角)から+3600度(ドライブシャフト角)の間で交互に変化する。
【0039】
それ自体知られているやり方で、アシストモータ2のシャフト5の角位置情報は、「レゾルバ」タイプの、ここでは有利なことにアシストモータ2に直列に組み込まれた、相対位置センサによって提供され得る、ということに気付くであろう。
【0040】
角位置についてのこの測定の選択は、本発明の思想に対して限定的ではなく、必要ならば、前記角位置を、「機械角」ではなく、レゾルバのステータの極数を考慮する「電気角」タイプの単位で、最初に表現することも可能であるということを説明する。
【0041】
本発明によると、ステアリングリバーサル検出ステップ(a)の間に、アシストモータ2によって出力されるアシスト力Cassistを表す(より詳しくは、トルク、この場合は前記アシストモータによって提供される電磁トルク、を表す)、「モータトルク信号」と呼ばれる信号を取得する。
【0042】
好ましくは、ステアリングリバーサル検出ステップ(a)に用いられるモータトルク信号は、アシストモータ2に与えられる力又はトルクの設定値CMotによって、又はアシストモータ2によって実際に出力される力又はトルクCassistの測定値によって、構成される。
【0043】
実際には、車両に考えられる実際の状況において、アシストモータ2に与えられる設定値CMotの値、及び前記アシストモータ2によって実際に提供されるアシスト力Cassistの値は、非常に近く、等しくさえあるので、これらの2つの信号は本発明の枠組みの中で同等に使用され得る。
【0044】
そこで、好ましくは、そして説明の便宜上、以下では、モータトルク信号を、アシストモータ2に与えられる、力の設定値(トルク設定値)CMotに、一致させることが可能である。
【0045】
更に、力の設定値CMotの信号、及び/又はモータによって実際に出力されたアシスト力Cassistの測定値の信号は、利用可能であるという利点があり、パワーステアリングに容易に利用され得る。
【0046】
特に、アシストモータ2に与えられることが意図される、力の設定値CMotの信号は、パワーステアリングのアシスト則の適用モジュール3からの出力データを一貫して構成するので、必然的に永久に知られる。
【0047】
したがって、この設定値信号CMotを利用するには、非常に簡単な実装しか必要がない。
【0048】
もし、前記アシストモータに、力センサ、より詳しくは適切な電磁トルクセンサが、直列に装備されていれば、実際にアシストモータ2によって出力されるアシスト力(又はトルク)Cassistの測定に関する情報は、必要であれば、それに関する限り、前記アシストモータ2自身によって(より詳しくは、前記モータに組み込まれたコントローラによって)与えられる。
【0049】
アシスト力Cassistの測定値は、もちろん、代替として、アシストモータ2のシャフト5に取り付けられたトルクセンサのような、他のいかなる適切な外力(又はトルク)センサによって得られてもよい。
【0050】
本方法の実施のあり得る変形例によると、ステアリングラックに(前記ラックの並進運動の軸に沿って長手方向に)与えられた引っ張り力又は圧縮力を、アシストモータ2によって出力されたアシスト力Cassistを表す「モータトルク信号」として考えることが可能であろう。
【0051】
そのような信号は、例えば、ラックの変形を測定するひずみゲージによって、又はいかなる他の適切な力センサによっても、提供され得る。
【0052】
一般に、本発明によるステアリングリバーサルの(単なる)検出のために、「モータトルク信号」として、その値が摩擦の反転に敏感ないかなる信号、すなわち、ステアリングリバーサル中に(従って前記摩擦の反転中に)前記信号が知覚可能な変動(ここでは低下)を受けるように、その値が、ステアリングシステムに与えられる(内部)摩擦の全部又は一部によって影響を受けるいかなる信号をも利用することが実際は可能である。
【0053】
更に、アシストモータ2とステアリングラックとの間の駆動比を考慮すると、本発明の全体の思想を改変することなく、モータトルク信号CMotをモータトルク又はラックの等価な直線力の形で普通に表現することが可能である、ということに気付くであろう。
【0054】
よって、例として、図1のモータトルク信号CMotは、図1におけるトルク(N.mで表されている)と同種のものであるが、図2及び図3に見られるように、表現の便宜のため及び表現の単なる習慣により、ニュートン、より正確にはキロニュートンで表現された等価な直線力の形に変換されてもよい。
【0055】
アナログ信号、及び特にアナログモータトルク信号CMotを扱うことを除外しているわけではないが、更に、1つ以上のデジタル信号、及び特にデジタルモータトルク信号CMotを好適に使用することができる。
【0056】
本発明によると、モータトルク信号CMotの取得後、前記モータトルク信号CMotの時間微分∂CMot/∂tの値が(ここでは、図4における微分モジュール6によって)求められる。
【0057】
実際には、単位時間あたりの、この場合は所定の十分に限定された時間間隔(サンプリング周期)だけ離れた2つの時点の間の、モータトルク信号CMotの変動(すなわち、前記信号を表す曲線の傾き)を求めることを可能にするいかなる微分方法をも、この目的のために適用することが可能である。
【0058】
参考までに、前記サンプリング周期(「サンプリング間隔」とも呼ばれる)は、0.5msと10msとの間に含まれ得る。
【0059】
モータトルク信号の時間微分を求めた後、所定の変動閾値Speakより大きく、ステアリング角の方向の反転を示す、微分ピーク7を検出するために、モータトルク信号の前記時間微分∂CMot/∂tが、ここでは比較モジュール8によって、前記変動閾値Speakと比較される。
【0060】
前述したように、また図1に明確に示されているように、ここではステアリングリバーサル4は、摩擦には反転が付きものであるという事実が理由で、モータトルク信号CMotの変動、この場合は絶対値での(零に近づく値の)低下として現れる。
【0061】
前記低下は、比較的大きな高さH(図1の例においてはモータトルクの2.5N.mの値域にある)と、比較的短い期間(典型的には2分の1秒より短く、例えば100msと300msとの間である)を有する。
【0062】
図1において明確に見え、よってモータトルク信号の時間微分∂CMot/∂tの値の、大幅な急な増加として、図2に示されているような微分ピーク7の形で現れるので、前記低下は、したがってモータトルク信号CMotの急峻な傾きの後退(へこみ)によって区別可能である。
【0063】
よって本発明者は、ステアリングリバーサル4が、微分ピーク7によって示されるということを発見した。微分ピーク7は、「変動閾値」Speakと呼ばれる傾きの閾値より大きな値を有するので、識別され得る。すなわち、前記ピーク7は、
∂CMot/∂t ≧Speak
を満たす。
【0064】
典型的には、特に図2において検討された例において、ステアリングリバーサル4の特徴であるモータトルク信号の時間微分のピーク7(より詳しくは、ラックに与えられた等価力の時間微分のピーク)は、30kN/sより大きい、この場合は30kN/sから65kN/sまで、より詳しくは35kN/sから50kN/sまでの範囲である「ピークレンジ」と呼ばれる値域に含まれていた。
【0065】
そこで、所定の変動閾値Speakは、期待されるピークレンジ以下、特に前記レンジの下側の閾値に等しいか近い値として選択され得る。例えば、ピーク変動閾値Speakは、ここでは30kN/sに設定され得る。
【0066】
それ自身が発明を構成し得る好ましい実現可能性によると、ステアリングリバーサル検出ステップ(a)の間に、この場合は図4のフィルタリングモジュール9を使用して、ピーク選択的フィルタリングが、「ピークの保持継続期間」と呼ばれる継続期間(dpeak)を決めることによって、及びピークの保持継続期間が所定の最小継続期間閾値d0以上であればステアリングリバーサル4を示すことによって、行われる。変動閾値Speakを横切った後、ピークの保持継続期間中に、モータトルク信号の時間微分∂CMot/∂tは変動閾値Speakより大きく保たれる。
【0067】
言い換えると、一方では、変動閾値Speakを横切ること(すなわち、モータトルク信号の前記時間微分が上述のように最小勾配値より大きな値を有する)、他方では、少なくとも前述の継続期間閾値d0の間、前記変動閾値Speakより大きく保つこと、という二重の条件を、モータトルク信号の時間微分が満たすならば、ステアリングリバーサル4が存在すると結論づけられる。
【0068】
有利なことに、ステアリングリバーサルに正しく対応する微分ピーク7と、モータトルク信号CMotを妨害するバックグラウンドノイズによって引き起こされるノイズ微分ピーク10(図2)とを区別することを、前記フィルタリングが可能にする限り、フィルタリングは、ステアリングリバーサル4の識別における、更なる安全策である。
【0069】
もっとも、ノイズはモータトルク信号CMotにランダムで急速な変動を作り出すので、変動(傾き)を前記ノイズが時々前記信号に現れさせることは除外されていない。前記変動は、変動閾値Speakより大きいであろうし、よって時間微分を計算することによる第1の検出基準に基づくのみではステアリングリバーサルとして誤って解釈され得る。
【0070】
しかし、ノイズは、実質的に周期的な現象であり、モータトルク信号の低下期間より厳密に短い特性半周期を有するということを、本発明者は見い出した。
【0071】
ノイズによって引き起こされるノイズ微分ピークの継続期間は、前記ノイズの半周期(関係する変動の最小値と最大値との間でノイズが単調に増加、又は反対に単調に減少する半周期、又はその反対)に実質的に等しいので、第1基準を補完する第2基準に従って、そのようなステアリングリバーサル4の継続期間より厳密に短い継続期間を有する(ノイズ10の)微分ピークを除外することによって、実際のステアリングリバーサルを表す適切な微分ピーク7を分離することが可能である。
【0072】
この場合、最小継続期間閾値d0を30msと40msとの間の値に設定してもよく、これは観測されるノイズに典型的な最大半周期に相当する(ステアリングリバーサルによって引き起こされる低下の継続期間は、100ms以上であるのに対して)。
【0073】
具体的に言うと、フィルタリングモジュール9は、ピーク検出ラッチを含んでいてもよく、このラッチは、2つの累積的条件が組み合わされてステアリングリバーサルピーク7が存在することを確認するとすぐに前記ラッチが検出信号(ピーク識別信号)を返すように、一方では比較モジュール8に、他方では変動閾値Speakを横切ったことを前記比較モジュール8が検出した時点からの経過時間を計測するクロックに、二重に依存している。
【0074】
更に、それ自身が発明を構成し得る、好ましい実現可能性によると、ステアリングリバーサル検出ステップ(a)の本質にかかわらず、運転者及びアシストモータ2によってパワーステアリングに共同で与えられる総操作力を(より詳しくは総操作トルクを)表し、「操作力信号」と呼ばれる、信号Cactionを取得し、パワーステアリングのステアリング動作に対抗する摩擦力Fを、前記操作力信号Cactionによってステアリングリバーサル4の前と後とでそれぞれ取られる2つの値の間の差ΔCactionから摩擦評価モジュール11によって求める、摩擦評価ステップ(b)を、本発明による方法は含み得る。
【0075】
言い換えると、ステップ(a)によって検出されるステアリングリバーサルの間に生じる操作力信号Cactionの低下ΔCactionから摩擦が求められる摩擦評価ステップ(b)を、本方法は含む。
【0076】
正に、ステアリングリバーサルの場合におけるモータトルク信号CMotの低下Hを説明するために上記で詳述されたのと同じ理由で、ステアリングリバーサル4は、より一般的に、摩擦力の符号の反転に起因して、操作力信号Cactionの低下ΔCactionという結果にもなる。
【0077】
モータトルク信号CMotのみから(上述のように、前記信号が、モータに適用される設定値によって、又は、モータによって出力される電磁トルクによって、提供されるように)、より詳しくはステアリングリバーサルの前と後ろのそれぞれにおいて前記モータトルク信号CMotによって(総操作力信号Cactionによってではなく)取られる2つの値の差のみから、すなわち前述の低下Hの高さから、摩擦Fを求めることが、実質的に等価なやり方で、本発明の本質を変えることなく、絶対的に、更に可能であり得る。
【0078】
しかし、ステアリングシステムに影響を与える摩擦現象をより正確により完全に求めるためには、低下の高さの計算用に、できるだけ長く完全な、動的なリンク機構に対する摩擦効果を含む信号を、ステアリングシステム内で使用することが好ましく、これは、摩擦が生じ得るステアリングシステムの最大限可能な数のセグメントを考慮し、したがって最小限の内部摩擦源を無視するためである。
【0079】
言い換えると、ステアリングシステムの上流のアクチュエータエレメント(つまり、運転者及びアシストモータのそれぞれ)と、下流の実行部材(タイロッド及びステアードホイール)との間に含まれる動的なリンク機構のそれぞれのできるだけ上流に位置する領域において力の信号を収集することが好ましい。これは、これらの信号が、ステアリングシステムの操作に対抗する最大の摩擦を含むように、例えば、関係する1つ以上のアクチュエータの下流に位置する動的なリンク機構全体にわたって生じる全ての摩擦を含むようにするためである。
【0080】
更に、総操作力信号を考慮することも好ましい。この信号は、アシストモータ2の寄与のみではなく、運転者の人手による寄与も、考慮に入れる。
【0081】
正に、そのような操作力信号の(絶対値での)低下は、したがって、ステアリング機構の「モータ化」された部分(アシストモータ、リデューサ、ラック…)と、「運転者」部分(ステアリングホイール、ステアリングコラム、ピニオン/ラック連結…)とも呼ばれる、ステアリング機構の「人手による」部分(の全部又は一部)との両方において、ステアリング機構に影響を与える摩擦を表す。
【0082】
これらの理由から、操作力信号Cactionは、図4に示されているように、一方の、運転者によってステアリングホイールに与えられるステアリングホイールトルクCsteering wheelを表すステアリングホイールトルク信号と、他方の、モータトルク信号CMotとの和によって、好ましくは構成される。
【0083】
有利なことに、ステアリングホイールトルクCsteering wheelの信号及びモータトルク信号CMotは、ほとんどのパワーステアリングシステムにおいていつでも既に利用可能であり、このため容易に利用することができ、このことは本発明の実現をより簡単にするということに、気付かれるであろう。
【0084】
ステアリングホイールトルクCsteering wheelの信号は、ステアリングホイールとステアリングコラムとの間に位置するトーションバーの弾性変形を測定する磁気トルクセンサのような、適切なステアリングホイールトルクセンサによって得られるステアリングホイールトルクCsteering wheelの測定値に、例えば対応し得る。
【0085】
そのようなステアリングホイールトルクCsteering wheelの信号は、有利なことに、前記トーションバーの下流に現れる全摩擦、特に、ラックと、ステアリングコラムの下方のセグメントに固定されたピニオンとの間の連結に生じる摩擦を考慮に入れることを可能にするであろう。
【0086】
この応用に適合するモータトルク信号CMotは、それに関する限り、以上で説明されたいかなる適切な手段によっても取得され得る。
【0087】
よって、モータトルク信号CMotが、(検出ステップ(a)の間に)ステアリングリバーサルを検出することのみではなく、(摩擦評価ステップ(b)の間に)低下の高さを定量化することを意図するときに、前記モータトルク信号CMotが単独で又はステアリングホイールトルク信号と組み合わされて用いられて総操作力信号Cactionを構成するという事実にかかわらず、前記モータトルク信号CMotは、好ましくはアシストモータ2に対してできる限り上流で収集され、よって、上述されたように、前記アシストモータに適用される設定値、又は前記アシストモータによって出力される電磁トルクの測定値で好ましくは構成されるであろうということに、気付かれるであろう。
【0088】
更に、摩擦を定量化するのに用いられる信号(モータトルク信号CMot、又は好ましくは操作力信号Caction)にかかわらず、摩擦の評価には、ステアリングリバーサルの直前及び直後、すなわち、より詳しくは、微分ピーク7の直前及び直後に前記信号によって取られる値を前記信号から抽出することが必要であり、これは、前記2つの値の間の差(低下の高さ)を計算するためである。
【0089】
このため、ステアリングリバーサル4’に関係のある低下の期待される期間より長く選択されるであろう記録期間にわたって、摩擦を定量化するのに使用される信号(モータトルク信号CMot、又は好ましくは操作力信号Caction)によって連続的に取られる様々な値の履歴をメモリに格納することを可能にするデータベースを、本発明による方法は好ましくは使用するであろう。
【0090】
よって、微分ピーク7が識別された後、前記微分ピークの出現に先行する時点における前記信号の値を知るために、信号の履歴全体に戻ることが可能であり得る。
【0091】
有利なことに、メモリ空間の不必要な消費を避けるために、検討される時点における摩擦の計算を行うのに効果的に有用であり得る情報のみを、その検討される時点において保持するために、ローリング記録期間にわたって、データベースは絶えずリフレッシュされるであろう。
【0092】
参考のために言うと、記録期間は、0.5s(500ms)と1sとの間に含まれ得るものであり、好ましくは500msに等しくあり得る。
【0093】
好ましくは、図3及び4に図示されているように、摩擦評価ステップ(b)は、モータトルク信号の時間微分∂CMot/∂tが変動閾値Speakを上回る時点に対応するピーク開始時間tstartを識別し、モータトルク信号の時間微分∂CMot/∂tが前記変動閾値Speakより下に再び低下する時点に対応するピーク終了時間tendを識別し、「ステアリングリバーサル前の操作力値」と呼ばれる、ピーク開始時間tstart以前の第1参照時間t1において操作力信号によって取られた値Caction(t1)が何であったかを求め、「ステアリングリバーサル後の操作力値」と呼ばれる、ピーク終了時間tend以降の第2参照時間t2において操作力信号によって取られた値Caction(t2)が何であったかを求め、ステアリングリバーサル後の操作力値Caction(t2)とステアリングリバーサル前の操作力値Caction(t1)との間の差の計算、すなわち、
ΔCaction = |Caction(t2)-Caction(t1)|
から、摩擦を求める。
【0094】
より詳しくは、検討される時点において(すなわち、検討されるステアリングリバーサル4の時において)ステアリング操作に影響を与える摩擦力Fの値は、前述のヒステリシス現象を考慮して、ステアリングリバーサルの後の操作力値とステアリングリバーサルの前の操作力値との差の半分、すなわち、F=ΔCaction/2に等しいと考えられ得る。
【0095】
有利なことに、適切な、モータトルク信号CMotの時間微分を、前記微分から識別される、微分ピーク7の開始時間tstart及び終了時間tendを参照する時間参照とともに用いることにより、ステアリングリバーサル4が生じた瞬間を正確に検出し、よって、操作力信号の低下の特徴の評価の信頼性及び精度を向上させることができる。
【0096】
ピーク開始時間及び終了時間から計算され、実際のステアリングリバーサル4(したがって操作力信号の低下)をできるだけ近くで囲む、参照時間t1,t2における操作力を測定することによって、本発明は、前記ステアリングリバーサルの直前及び直後における操作力Cactionの正確な値が何であったかを正確に求めることを、可能にする。
【0097】
測定におけるいかなる遅延又は近似も、そうでなければ前記低下から時間的に遠すぎる測定点において測定されるので低下の実際の高さを表していない操作信号の値を考慮することにつながり得るが、このようにして避けられる。
【0098】
よって本発明は、ステアリングホイールの角位置をモニターすることに基づく摩擦推定方法をこれまでは害していた、誤差及び遅延の源をかなり削減するので、摩擦Fを受動的かつ信頼できるやり方で求めることを可能にする。
【0099】
実装の1つの可能性によると、第1参照時間t1をピーク開始時間tstartに一致させる(すなわち、t1=tstartに設定する)ことに任意に決定し、及び/又は、相補的に又は代替として、第2参照時間t2をピーク終了時間tendに一致させる(すなわち、t2=tendに設定する)ことに決定してもよい。
【0100】
しかし、第2の可能性によると、第1参照時間t1はピーク開始時間tstartより厳密に前で好ましくは選択され(t1<tstart)、前記第1参照時間は前記ピーク開始時間より進み値δ1だけ先行しており(すなわち、t1=tstart-δ1)、及び/又は、第2参照時間t2はピーク終了時間より厳密に後で選択され(t2>tend)、前記第2参照時間は前記ピーク終了時間より遅れ値δ2だけ遅れている(すなわち、t2=tend+δ2)。
【0101】
参考までに、進み値δ1は好ましくは20msと100msとの間に含まれ、例えば50ms(50ミリ秒)に実質的に等しい。
【0102】
参考までに、遅れ値δ2は好ましくは20msと100msとの間に含まれ、例えば50ms(50ミリ秒)に実質的に等しい。
【0103】
言い換えると、検討される信号(ここでは操作力信号)の低下の高さΔCactionが計算される時間間隔[t1; t2]は、好ましくは拡大され、これは、好ましくは進み側だけではなく遅れ側も含む両側において行われる。
【0104】
ピーク開始時間及び終了時間によって規定される総間隔に対してのこの測定間隔の拡大は、好ましくは少なくとも10ms(遅延に加えて進みにおいても)、好ましい例では50ms(遅延に加えて進みにおいても:δ1=δ2=50ms)であり、第1参照時間t1と第2参照時間t2との間の経過時間(つまり、t2-t1)が確実に、ステアリングリバーサルに起因する、従って摩擦に起因する信号の(完全な)低下の実際の長さ以上である(かつ、適切であれば、わずかに長い)ようにすることを可能にする。
【0105】
よって、本発明による方法によると、ステアリングリバーサルの特徴を示す、前記信号の低下の高さ全体に対応する操作力信号の両極端の値が、前記低下の一部分が切り取られることなく、うまく測定されることを保証することが可能になる。
【0106】
更に、しかし、進み値δ1及び遅れ値δ2は、第1参照時間t1及び第2参照時間t2がステアリングリバーサルによる遷移領域の時間的にすぐの近傍(低下の領域の近傍)、前記遷移の「境界」領域にとどまるように、選択された、所定の最大拡大閾値より比較的低いままである。境界領域において、関係する信号の値は、遷移の極限において前記信号によって取られる値に対してほとんど一定に保たれる(境界領域における前記値の変遷は、低下の高さの10%以下、5%以下、又は1%以下の振幅範囲にさえ、例えば含まれる)。
【0107】
ここで、摩擦の反転に起因する低下の領域の外側において、操作力信号Cactionだけではなくモータトルク信号CMotも、前記低下の期間中より遙かにゆっくり変動するという事実のため、提供される拡大が小さいことにより、(進みδ1及び遅れδ2は、典型的には200msより、又は100msより短くさえあり、好ましくはそれぞれ50msに等しい)、第1参照時間t1及び第2参照時間t2を低下の領域の時間的にすぐの近傍、前記低下の「境界」領域に保つことが可能になる。境界領域において、関係する信号の値は、低下の極限において前記信号によって取られる値に対してほとんど一定に保たれる。
【0108】
よって、第1参照時間t1及び第2参照時間t2、換言すると摩擦に起因する低下に対して早すぎでも遅すぎでもない時点、において取られる信号値の測定値は、前記低下の両極限において考慮される操作力Cactionの(又はモータトルクCMotの)実際の値を正確に反映する。
【0109】
結局、本発明による方法によると、摩擦に特有の寄与、そして他ならぬ摩擦に特有の寄与の全体に対応する低下の高さを実質的に測定することが従って可能になる。
【0110】
したがって、前記方法は、有利なことに、関心のある時点における、ステアリングシステムに影響を与える実際の摩擦Fの、信頼できる、正確な、定期的にアップデートされる測定値を、ほとんどリアルタイムで得ることを可能にするのに対し、既知の方法は、摩擦の非常に粗い近似に基づいていて、摩擦の前もって確立された理論的モデルから作られており、そのようなことはできなかった。
【0111】
本発明の実施の変形例によると、ピーク開始時間tstart及びピーク終了時間tendから第1参照時間t1及び第2参照時間t2をそれぞれ計算する代わりに、例えばピーク開始時間、ピーク終了時間、又は前記ピーク開始及び終了時間の中央に位置する平均時間に対応する、単一のピーク時間によって微分ピーク7を特徴付け、前記単一のピーク時間の両側に第1及び第2参照時間t1,t2を任意に設定することが、これはこのように定義された間隔において信号の低下の期待される特性継続期間を含むようにするためであるが、可能であり得るということに気付くであろう。例えば、第1参照時間が単一のピーク時間の100ms前に位置し、第2参照時間が前記単一のピーク時間の200ms後に位置すると考えることが可能であり得る。
【0112】
もちろん、参照時間t1,t2のこのような選択は、上述の摩擦の評価の一般原則には影響しない。
【0113】
操作力信号Caction(及び/又はモータトルク信号CMot)の記録期間は、検討される時点における摩擦の評価のために役立つ前記信号の値をメモリに一時的に保持することを可能にするが、第1及び第2参照時間t1,t2のために使用された定義にかかわらず、もちろん、第1及び第2参照時間t1,t2の間に含まれる時間間隔[t1; t2]の幅より大きく、より詳しくは、遅れδ2及び進みδ1によって拡大される低下の期待される最大期間より大きいであろう。
【0114】
更に、本発明による方法は、検査ステップ(c)を好ましくは含む。このステップでは、ここでは図4の検査モジュール12において、以下の条件、すなわち、ステアリングホイールの回転速度
が所定のステアリングホイール速度閾値
以下である、ステアリングホイールの角加速度
が所定のステアリングホイール加速度閾値
以下である、ステアリングホイールの方向角θsteering wheelの関数としての、車両のヨーレート
又は車両の横加速度γの変遷が実質的に線形領域にある、のうちの1つ以上の実施条件が満たされているかが、好ましくは累積的に、検査される。
【0115】
ステアリングホイールの回転速度
に関係する条件は、ゼロに近いステアリングホイール速度閾値
以下、例えば約5deg/sでなければならないが、推定されたステアリングリバーサルの時点においてステアリングホイールの角速度がゼロの近傍にあることを保証することによって、車両の実際の状況がステアリングリバーサルと矛盾しないことを立証することを可能にする。
【0116】
実のところ、実際のステアリングリバーサルの間に、ステアリングホイール速度は、ステアリングホイールのリバーサルポイント(先端)において必ずゼロになる。反対に、ステアリングホイールの速度のゼロクロスがないことは、ステアリングリバーサルの状態にはないことを示す。
【0117】
ステアリングホイールの角加速度に関係する条件は、それに関する限り、ステアリングホイールの加速度、従ってステアリング機構の部材の動きの加速度が小さい、例えば100deg/s2未満であるときにのみ、すなわち、慣性力が存在しないか無視できるときにのみ、摩擦の評価を行うことを可能にする。
【0118】
よって、ステアリング機構のストレス状態がモータトルクCMotを測定することにより及び/又は操作力Cactionを測定することにより認識され定量化されるように、摩擦の評価中に、ステアリング機構のストレス状態が、摩擦現象、しかも摩擦現象のみをよく表し、慣性力の出現によって歪曲されない、ということを確実にする。
【0119】
ステアリングホイールの方向角θsteering wheelに依存する、車両のヨーレート
の変遷、言い換えると車両の横加速度γの変遷の線形性についての条件は、車両が粘着力を失った状態にはないこと、より詳しくはオーバーステア状態にもアンダーステア状態にもないことを保証することに等しい。
【0120】
実のところ、グリップ力の喪失(路面へのタイヤのグリップ力の喪失)は、車輪及びタイロッドがラックに、アシストモータに抗して与える抵抗力の低下を引き起こし、それはその結果アシストモータによって出力される力を対応して減少させる。この減少は、内部摩擦Fの働きとは関係がなく、よってそれらの摩擦Fの評価を歪曲し得る。
【0121】
線形性の条件を検査するためには、さまざまな実際の状況(乾燥した天気、ぬれた路面等)において、対応する最大許容ヨーレート又は対応する最大許容加速度をステアリングホイールの複数のさまざまな所定の角位置のうちのそれぞれの角位置に関連づける、テスト行動中に確立された経験則を用いることが、特に、可能であり得る。
【0122】
したがって、検討される時点において測定されたステアリングホイールの角位置(すなわち、アシストモータのシャフトの角位置)において、車両のヨーレート
又は横加速度γ(例えば電子スタビリティコントロールシステムESP、又はブレーキアシストシステムであるアンチロックブレーキシステムによって提供される)が最大許容値未満であれば、線形領域に、すなわち、摩擦の信頼できる評価を可能にする実際の状況にあると考えることができる。
【0123】
結局、本発明による摩擦の評価の効果的な実現には、有利なことに、いくつかの条件、この場合は例えば4つまでの(又はそれより多くの)条件、すなわち、最小の、微分ピークの保持継続期間dpeakに関する条件、ステアリングホイールの角速度
に関係する条件、ステアリングホイールの角加速度
に関係する条件、及び/又は横方向の動特性(ヨーレート
又は横加速度γ)の線形性に関係する条件に、同時に従わなければならないかもしれない。
【0124】
反対に、これらの条件のいずれかが実現されなければ、摩擦の評価は、考慮する時点での車両の実際の状態を鑑みると不適切であると考えられるので、禁止され得る。
【0125】
そのような検査の冗長性により、疑わしい場合を除外し、よって摩擦の信頼できる評価のみを保持することが可能になる。これは、影響を与え得るさまざまな不安定性を考慮すると、本発明による方法のロバストネスを大いに向上させる。
【0126】
更に、変動閾値Speak、及び/又は、適切な場合には、ピーク保持の最小継続期間閾値d0、及び/又は進み値δ1及び遅れ値δ2が、ステアリングホイールの角加速度
に応じて好ましくは調整される。
【0127】
言い換えると、本発明によると、ステアリングホイールの角加速度
のような様々なパラメータに応じて、ステアリングリバーサルの検出及び/又は摩擦の評価に用いられる設定を動的にアップデートすることが可能になり、これは本方法の信頼性及び反応性をそれぞれの場合において最適化するためである。
【0128】
実際、例えば、ステアリングホイールの操作が速いほど、モータトルク信号CMotの(操作力信号Cactionの)低下の期間は遙かに短くなり、その勾配(その時間微分)は遙かに大きくなるということが、容易に理解されるであろう。
【0129】
よって、例えば、速度ゼロ点の両側においてステアリングホイールの比較的大きな角加速度が生じるように、運転者がステアリング操作をすばやく行い、その直後に反対の方向にステアリング操作を行うときには、これはステアリングリバーサルに対応するのであるが、急峻な勾配を有する低下を検出する可能性を保ちながら、ノイズをより除去するために、変動閾値Speakの値を増加させることが可能である。
【0130】
代替として又は相補的に、ステアリングホイールの角加速度が増加するときに、比較的短いが、それでもステアリングリバーサルを表すであろうピークを除外する危険を冒さないように、ピーク保持の最小継続期間閾値d0を小さくすることも可能であるし、望ましくさえある。
【0131】
同様に、代替として又は相補的に、この状況において、第1及び第2参照時間t1,t2を規定するために用いられる、進みδ1及び/又は遅れδ2の値を減少させることを考えることも可能であり、低下の高さを推定することを可能にする操作力信号Cactionの極値が第1及び第2参照時間t1,t2において取得される。
【0132】
実際、ステアリングホイールの操作がより速いときには低下の期間がより短くなるので、低下の全体を、低下の高さを切り捨ててしまう危険を冒すことなく、より狭い時間領域の枠で囲むことが可能である。
【0133】
有利なことに、ピーク保持の最小継続期間閾値d0及び/又は進み値δ1及び/又は遅れ値δ2を減少させると、本方法の実行を促進し、よってその反応性を、その信頼性に悪影響を与えることなく、最適化することが可能になる。
【0134】
より一般的には、車両の実際の状況及び/又はステアリングホイールの力学に応じてステアリングリバーサルの検出及び/又は摩擦の評価をリアルタイムで適合させることにより、本方法の実行を最適化すること、及び摩擦の評価(後者)を特に応用のきくものにすることが可能になる。
【0135】
もちろん、本発明は、上述の特徴及び変形例のいずれか一方による方法の実行のために構成又はプログラムされたパワーステアリング管理モジュールのようなものにも関係する。
【0136】
前記管理モジュールは、上述のように、アシスト則3に利用するための、微分6の計算、フィルタリング9、摩擦評価11、条件の検査12のための、1つ及び/又は他の(ことによると全ての)モジュールを有し得るし、より詳しくはそれらを、ことによると同じ筐体に集約し得る。
【0137】
前述のモジュールのそれぞれは、電子回路、電子ボード、計算機(コンピュータ)、プログラマブルコンピュータ、又は他のいかなる等価な装置で構成されていてもよい。
【0138】
前述のモジュールのそれぞれは、その電子部品の配線の配置に基づいて、物理的制御構造を有していてもよいし、及び/又は、好ましくは、コンピュータプログラミングによって規定される仮想制御構造を有していてもよい。
【0139】
もちろん、本発明は、コンピュータによって読み取り可能であって、コンピュータによって読まれたときに、本発明による方法を実行することを可能にするコンピュータプログラムコード要素を収容するいかなるデータ媒体にも、関係する。
【0140】
最後に、本発明による方法は、パワーステアリングシステムにおいて一般的に利用可能な信号を利用するが、既に存在する多くのパワーステアリングシステムを、その計算機を単に再プログラムすることによって改良することを含め、全てのパワーステアリングシステムに容易に一般化され得るということに気付かれるであろう。
【0141】
もちろん、更に、本発明は上で説明された実施形態には限定されず、当業者は特に、前述の特徴のうち、いずれかを、他のものから分離したり、自由に組み合わせたり、それらの等価物に置き換えることすら可能である。
図1
図2
図3
図4