(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記架線着霜判定式は、架線着霜発生の予測対象日の前日の夕刻の水蒸気濃度が、予測対象日の早朝の予想最低架線温度に対応する飽和水蒸気濃度より大きいか否かを判定する式であり、
前記第1の閾値は、前記早朝に霜が発生する予想最低気温の上限値であり、前記第2の閾値は、前記早朝の予想最低気温と予想最低架線温度との差を表す値である請求項2に記載の架線着霜予測方法。
前記予測の空振り率は、予測結果が霜発生であったのに実測結果が霜非発生であった場合の確率であり、前記予測の見逃し率は、予測結果が霜非発生であったのに実測結果が霜発生であった場合の確率である請求項2に記載の架線着霜予測方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の技術では、気象予報を参考にしてはいるものの、経験に頼って霜取り列車の運行を判断していたので、霜取り列車を走行させたにも拘わらずトロリ線に着霜していなかったという事象である空振りが発生したり、トロリ線に着霜していたにも拘わらず霜取り列車を走行させなかったという事象である見逃しが発生したりすることがあった。
【0007】
ここでは、前記従来の技術の問題点を解決して、架線着霜発生の予測結果及び実測結果を比較して比較結果をフィードバックすることによって、予測精度を向上させ、架線着霜発生を適確に予測し、確実に霜取り列車の運行判断等を行うことができる架線着霜予測方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、
架線着霜予測装置によって実行される架線着霜予測方法においては、予測対象地域の気象予報データを用い、架線着霜判定式に従って、前記予測対象地域における架線着霜発生の予測を行う工程と、前記予測対象地域における架線着霜発生の予測結果及び実測結果を用いて、予測精度を計算する工程と、前記架線着霜判定式に含まれる閾値を所定の範囲で変化させて、前記予測精度が最高となる閾値を求める工程と、求めた閾値によって、前記架線着霜判定式に含まれる閾値を更新する工程と、を含む。
【0009】
他の架線着霜予測方法においては、さらに、前記予測精度は予測の空振り率及び予測の見逃し率を含み、前記閾値は予測の空振り率に影響する第1の閾値及び予測の見逃し率に影響する第2の閾値を含み、前記予測精度が最高となる閾値を求める工程においては、第1の閾値を変化させて予測の空振り率が最低となる第1の閾値を求めるとともに、第2の閾値を変化させて予測の見逃し率が最低となる第2の閾値を求める。
【0010】
更に他の架線着霜予測方法においては、さらに、前記架線着霜判定式は、架線着霜発生の予測対象日の前日の夕刻の水蒸気濃度が、予測対象日の早朝の予想最低架線温度に対応する飽和水蒸気濃度より大きいか否かを判定する式であり、前記第1の閾値は、前記早朝に霜が発生する予想最低気温の上限値であり、前記第2の閾値は、前記早朝の予想最低気温と予想最低架線温度との差を表す値である。
【0011】
更に他の架線着霜予測方法においては、さらに、前記予測の空振り率は、予測結果が霜発生であったのに実測結果が霜非発生であった場合の確率であり、前記予測の見逃し率は、予測結果が霜非発生であったのに実測結果が霜発生であった場合の確率である。
【0012】
架線着霜予測装置においては、予測対象地域の気象予報データを用い、架線着霜判定式に従って、前記予測対象地域における架線着霜発生の予測を行う架線着霜発生予測部と、前記予測対象地域における架線着霜発生の予測結果及び実測結果を用いて、予測精度を計算する適中率計算部と、前記架線着霜判定式に含まれる閾値を所定の範囲で変化させて、前記予測精度が最高となる閾値を求める適中率向上判定部と、求めた閾値によって、前記架線着霜判定式に含まれる閾値を更新する閾値決定部と、を備える。
【0013】
架線着霜予測プログラムにおいては、架線着霜予測のためにコンピュータを、予測対象地域の気象予報データを用い、架線着霜判定式に従って、前記予測対象地域における架線着霜発生の予測を行う架線着霜発生予測部、前記予測対象地域における架線着霜発生の予測結果及び実測結果を用いて、予測精度を計算する適中率計算部、前記架線着霜判定式に含まれる閾値を所定の範囲で変化させて、前記予測精度が最高となる閾値を求める適中率向上判定部、及び、求めた閾値によって、前記架線着霜判定式に含まれる閾値を更新する閾値決定部として機能させる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、架線着霜発生の予測結果及び実測結果を比較して比較結果をフィードバックする。これにより、予測精度を向上させ、架線着霜発生を適確に予測し、確実に霜取り列車の運行判断等を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は本実施の形態における架線着霜予測装置の機能構成を示すブロック図である。
【0018】
図において、10は、本実施の形態における架線着霜予測装置であって、架線着霜予測方法を実行して架線としてのトロリ線の着霜を予測し、着霜が予測されたトロリ線の霜取りを行うために使用される一種のコンピュータシステムである。なお、前記架線着霜予測装置10は、CPU、MPU等の演算装置、磁気ディスク、半導体メモリ等の記憶装置、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力装置、CRT、液晶ディスプレイ等の表示装置、通信インターフェイス等を備えるコンピュータ内に構築されたコンピュータシステムである。そして、前記コンピュータは、例えば、パーソナルコンピュータ、ワークステーション、サーバ、タブレットコンピュータ等であるが、記憶装置にインストールされたアプリケーションソフトウェア等のプログラムに従って動作するコンピュータであればいかなる種類のものであってもよく、また、単独のコンピュータであってもよいし、複数台のコンピュータをネットワークで通信可能に接続したコンピュータ群であってもよい。
【0019】
前記架線着霜予測装置10は、機能の観点から、データ入力部11と、架線着霜発生予測部12と、予測結果表示部13と、予測精度計算部としての適中率計算部14と、閾値算出部としての適中率向上判定部15と、閾値更新部としての閾値決定部16とを備える。
【0020】
また、前記架線着霜予測装置10は、ネットワーク21を介して、気象データ収集部22及び実測データ収集部23と通信可能に接続されている。なお、前記ネットワーク21は、例えば、インターネット、イントラネット、LAN、WAN等であるが、データ通信可能な有線又は無線の通信回線又は通信回線網であれば、いかなる種類のものであってもよい。前記気象データ収集部22は、気象庁、各地域の気象台又は気象観測所、気象予報会社等が提供する実測された気象データや気象予報データを収集して蓄積する一種のデータベースである。前記実測データ収集部23は、各地域の電気鉄道の各レール区間におけるトロリ線での着霜の有無、アーク放電の発生の有無等、着霜及び着霜に関連する事象の実測データや、事前に行われた実験のデータを収集して蓄積する一種のデータベースである。なお、前記気象データ収集部22及び実測データ収集部23は、必ずしも架線着霜予測装置10と別個に構成され、ネットワーク21を介して架線着霜予測装置10に接続されたものである必要はなく、架線着霜予測装置10と一体的に構成されたものであってもよい。
【0021】
前記データ入力部11は、各種データを取得して入力する。例えば、現在の日時等のデータや、外部データとして、気象データ収集部22及び実測データ収集部23に収集されたデータを選択的に取得して入力する。具体的には、日時、予測開始時刻(例えば、夕刻)における気温及び湿度、予測希望時刻(例えば、早朝等)の予想天気及び予想最低気温が入力される。
【0022】
前記架線着霜発生予測部12は、後述される架線着霜発生予測動作を実行し、予測対象地域の気象予報データを用い、架線着霜判定式に従って、架線着霜発生、すなわち、トロリ線に着霜が発生するか否かを予測する。例えば、予測対象日の予想天気が晴れ又は曇りであり、予想最低気温が霜が発生する温度である閾値を下回り、過飽和水蒸気濃度が正である場合には、トロリ線に着霜が発生すると予測する。
【0023】
前記予測結果表示部13は、架線着霜発生予測部12が予測した結果を、架線着霜予測装置10が備える表示装置に表示したり、架線着霜予測装置10に接続された図示されないプリンタ等によって印刷されたりすることにより、表示する。例えば、トロリ線の着霜の発生又は非発生を予測の日付とともに表示したり、トロリ線の着霜の発生が予測された場合には電車のパンタグラフがトロリ線から離れる離線の可能性を表示したりする。また、実測データ収集部23から、トロリ線での着霜の有無及びアーク放電の発生の有無のデータを取得し、日付、予測及び実測について、データを記録する機能を有する。
【0024】
前記適中率計算部14は、予測対象地域における架線着霜発生の予測結果及び実測結果を用いて、予測精度を計算する。具体的には、予測結果表示部13が記録したデータを複数(例えば、10個以上)使用し、予測と実測との組み合わせから、予測の適中率、見逃し率及び空振り率を算出する。
【0025】
前記適中率向上判定部15は、架線着霜判定式に含まれる閾値を所定の範囲で変化させて、予測精度が最高となる閾値を求める。具体的には、予測結果表示部13が記録したデータを複数(例えば、10個以上)使用し、気温とトロリ線の温度との差を表す閾値、及び、霜が発生する気温を表す閾値を変化させ、見逃し率及び空振り率が最低となる閾値を求める。
【0026】
前記閾値決定部16は、求めた閾値によって、架線着霜判定式に含まれる閾値を更新する。具体的には、適中率向上判定部15が求めた閾値の値を、架線着霜発生予測部12が実行する架線着霜発生予測動作において使用される閾値の新たな値として設定する。
【0027】
次に、前記構成の架線着霜予測装置10の動作について説明する。まず、架線着霜発生予測部12が実行する架線着霜発生予測動作について説明する。
【0028】
図2は本実施の形態における架線着霜予測動作の概略を示す図、
図3は本実施の形態における架線着霜予測動作を示すフローチャートである。
【0029】
架線着霜発生予測部12は、
図2に示されるような架線着霜発生予測動作を実行することによって、予測対象地域において予測対象日に架線着霜が発生するか否かを予測する。つまり、予測対象日の早朝の天気が「晴れまたはくもり」と予想される場合には、トロリ線に着霜が発生する可能性があるので、予想最低気温Taが第1の閾値α(αは、霜が発生する気温を表す閾値であって、予測対象日の早朝に霜が発生する予想最低気温の上限値である。)以下であるか否かを判断し、第1の閾値α以下であると過飽和水蒸気濃度の計算を行う。
【0030】
この場合、一方で、夕刻の気温及び湿度から夕刻の水蒸気濃度a
1 を算出し、他方で、予想最低架線温度Ta−β(βは、第2の閾値であって、予想最低気温と予想最低架線温度との差を表す値である。)から飽和水蒸気濃度a
2 を算出する。
【0031】
水蒸気濃度a
1 〔g/m
3 〕は、まず、以下の式(1)で温度T〔K〕のときの水蒸気圧e〔Pa〕を求めた後に、以下の式(2)で求めることができる。
e=e
SAT ×RH÷100 ・・・式(1)
a
1 =2.167×(e/T) ・・・式(2)
ここで、e
SAT 〔Pa〕は、温度T〔K〕のときの飽和水蒸気圧であり、既存の飽和水蒸気圧表から求めることができる。また、RH〔%〕は湿度である。
【0032】
また、飽和水蒸気濃度a
2 〔g/m
3 〕は、以下の式(3)で求めることができる。
a
2 =2.167×(e
SAT /(Ta−β)) ・・・式(3)
ここで、e
SAT 〔Pa〕は温度Ta−β〔K〕のときの飽和水蒸気圧である。
【0033】
そして、過飽和水蒸気濃度の計算を行い、架線着霜判定式である以下の式(4)が成立するか否かを判断し、成立する場合には、着霜が発生すると判定し、その他の場合には着霜が発生しないと判定する。
a
1 −a
2 >0 ・・・式(4)
【0034】
具体的には、架線着霜発生予測部12は、
図3に示されるような架線着霜発生予測動作を行う。
【0035】
まず、架線着霜発生予測部12は、架線着霜発生予測動作を開始すると、ステップS1で、気象予報データを取得する。具体的には、架線着霜発生予測部12は、気象データ収集部22から予測対象地域の予測対象日の早朝の気象予報データを取得する。また、予測対象地域の予測対象日前日の気象データも取得する。
【0036】
次に、ステップS2で、架線着霜発生予測部12は、ステップS1で取得した予測対象日の早朝、すなわち、翌朝の気象予報データから、翌朝の天気が晴れまたはくもりであるか否かを判断する。そして、翌朝の天気が晴れまたはくもりである場合には、予測対象地域で架線着霜が発生する可能性があるので、ステップS3に進み、そうでない場合には、架線着霜が発生する可能性がないので、ステップS11に進む。
【0037】
ステップS3で、架線着霜発生予測部12は、予想最低気温Taが第1の閾値αであるか否か、すなわち、Ta≦αであるか否かを判断する。なお、予想最低気温Taは翌朝の気象予報データも含まれている。また、第1の閾値αは、所定の範囲、例えば、0〜4〔℃〕の範囲で、0.1〔℃〕刻みで、変更可能に設定される。そして、Ta≦αである場合には、予測対象地域で架線着霜が発生する可能性があるので、ステップS4及びS6に進み、そうでない場合には、架線着霜が発生する可能性がないので、ステップS11に進む。
【0038】
ステップS4で、架線着霜発生予測部12は、夕刻の気温及び湿度を取得する。具体的には、予測対象日前日の夕刻における気温T〔K〕及び湿度RH〔%〕を取得する。
【0039】
次に、ステップS5で、架線着霜発生予測部12は、夕刻の水蒸気濃度を算出する。具体的には、前記式(1)及び(2)を使用して、ステップS4で取得した夕刻の気温T〔K〕及び湿度RH〔%〕から、本日の夕刻における水蒸気濃度a
1 〔g/m
3 〕を算出する。
【0040】
また、ステップS6で、架線着霜発生予測部12は、予想最低架線温度を求める。具体的には、予想最低気温Taから第2の閾値βを減じた値であるTa−βを予想最低架線温度とする。なお、第2の閾値βは、所定の範囲、例えば、0〜5〔℃〕の範囲で、0.1〔℃〕刻みで、変更可能に設定される。
【0041】
次に、ステップS7で、架線着霜発生予測部12は、飽和水蒸気濃度を算出する。具体的には、前記式(3)を使用して、ステップS6で求めた予想最低架線温度Ta−βから、該予想最低架線温度Ta−βに対応する飽和水蒸気濃度a
2 〔g/m
3 〕を算出する。
【0042】
そして、ステップS8で、架線着霜発生予測部12は、過飽和水蒸気濃度の計算を行う。具体的には、ステップS5及びS7で算出した水蒸気濃度a
1 及び飽和水蒸気濃度a
2 から、過飽和水蒸気濃度a
1 −a
2 の値を計算する。
【0043】
次に、ステップS9で、架線着霜発生予測部12は、架線着霜判定式である前記式(4)が成立するか否か、換言すると、過飽和水蒸気濃度の値が正であるか否か、すなわち、a
1 −a
2 >0であるか否かを判断する。そして、a
1 −a
2 >0である場合には、予測対象地域で架線着霜が発生すると判断することができるので、ステップS10に進み、そうでない場合には、架線着霜が発生しないと判断することができるので、ステップS11に進む。
【0044】
ステップS10で、架線着霜発生予測部12は、霜発生、すなわち、予測対象地域で架線着霜が発生する旨の予測を出力して、処理を終了する。すると、予測結果表示部13は、表示装置等に、架線着霜が発生する旨を予測の日付とともに表示する。
【0045】
また、ステップS11で、架線着霜発生予測部12は、霜非発生、すなわち、予測対象地域で架線着霜が発生しない旨の予測を出力して、処理を終了する。すると、予測結果表示部13は、表示装置等に、架線着霜が発生しない旨を予測の日付とともに表示する。
【0046】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1 気象予報データを取得する。
ステップS2 取得した予測対象日の早朝、すなわち、翌朝の気象予報データから、翌朝の天気が晴れまたはくもりであるか否かを判断する。翌朝の天気が晴れまたはくもりである場合はステップS3に進み、翌朝の天気が晴れまたはくもりでない場合はステップS11に進む。
ステップS3 予想最低気温Taが第1の閾値αであるか否か、すなわち、Ta≦αであるか否かを判断する。Ta≦αである場合はステップS4及びS6に進み、Ta≦αでない場合はステップS11に進む。
ステップS4 夕刻の気温及び湿度を取得する。
ステップS5 夕刻の水蒸気濃度を算出する。
ステップS6 予想最低架線温度を求める。
ステップS7 飽和水蒸気濃度を算出する。
ステップS8 過飽和水蒸気濃度の計算を行う。
ステップS9 過飽和水蒸気濃度の値が正であるか否か、すなわち、a
1 −a
2 >0であるか否かを判断する。a
1 −a
2 >0である場合はステップS10に進み、a
1 −a
2 >0でない場合はステップS11に進む。
ステップS10 霜発生、すなわち、予測対象地域で架線着霜が発生する旨の予測を出力して、処理を終了する。
ステップS11 霜非発生、すなわち、予測対象地域で架線着霜が発生しない旨の予測を出力して、処理を終了する。
【0047】
次に、架線着霜発生予測の精度を向上させる動作について説明する。
【0048】
図4は本実施の形態における架線着霜時の気温と離線の割合との関係を示す図、
図5は本実施の形態における予測の適中率、見逃し率及び空振り率の算出方法を示す図、
図6は本実施の形態における架線着霜予測の精度を向上させる動作を示すフローチャートである。
【0049】
まず、ステップS21で、データ入力部11は、データ入力を行う。具体的には、データ入力部11は、気象データ収集部22及び実測データ収集部23に収集されたデータを選択的に取得して入力する。好ましくは、少なくとも、日時、予測開始時刻における予測対象地域の気温及び湿度、予測希望時刻(例えば、早朝等)における予測対象地域の予想天気及び予想最低気温の4つの項目が入力される。
【0050】
次に、ステップS22で、架線着霜発生予測部12は、架線着霜発生予測を行う。具体的には、架線着霜発生予測部12は、
図3に示されるフローチャートで説明したステップS1〜S11の動作を行い、予測対象地域で架線着霜が発生する旨、又は、架線着霜が発生しない旨の予測結果を出力する。
【0051】
次に、ステップS23で、予測結果表示部13は、予測結果表示を行う。具体的には、予測結果表示部13は、架線着霜発生予測部12が出力した予測対象地域で架線着霜が発生する旨、又は、架線着霜が発生しない旨の予測結果を、予測の日付とともに、表示装置に表示する。この場合、予測結果表示部13は、電車のパンタグラフがトロリ線から離れる事象である離線の危険度を表示装置に表示することもできる。
【0052】
図4に示されるグラフは、実験用に作成された模擬トロリ線と模擬パンタグラフとを使用し、模擬トロリ線の摺動面に人工的に着霜させた状態で模擬パンタグラフを摺動させて、該模擬パンタグラフが模擬トロリ線の摺動面から離れるか否かの実験を行った結果に基づいて作成されたものである。
図4において、横軸はトロリ線に着霜した時、すなわち、霜成長時の気温〔℃〕を示し、縦軸は離線が発生した割合、すなわち、離線試番数の割合〔%〕を示している。また、粗さは、トロリ線の摺動面の粗さの大きさを示している。
【0053】
予測結果表示部13は、
図4に示されるような気温と離線が発生する割合との関係に基づき、架線着霜が発生する旨の予測結果とともに、離線が発生する危険度を表示することができる。
【0054】
また、予測結果表示部13は、予測対象地域におけるトロリ線での着霜の有無やアーク放電の発生の有無の実測結果を取得し、日付、予測結果及び実測結果についてのデータを実測データ収集部23等に記録させる機能をも備えることが望ましい。
【0055】
次に、ステップS24で、適中率計算部14は、適中率を計算する。具体的には、適中率計算部14は、ステップS23で予測結果表示部13が記録した予測結果及び実測結果のデータを、例えば、10個以上使用し、
図5に示される算出方法に従って予測及び実測を組み合わせ、予測の適中率、見逃し率及び空振り率を算出する。
【0056】
次に、ステップS25で、適中率向上判定部15は、適中率の向上を判定する。具体的には、適中率向上判定部15は、ステップS23で予測結果表示部13が記録した予測結果及び実測結果のデータを、例えば、10個以上使用し、架線着霜判定式に含まれる閾値を所定の範囲で変化させて、予測精度が最高となる閾値を求める。この場合、前記第2の閾値βの値を0〜5〔℃〕の範囲で0.1〔℃〕刻みで変化させ、ステップS24で説明した予測の見逃し率が最低となる第2の閾値βの値を求める。そして、該第2の閾値βの値が決定した後、適中率向上判定部15は、前記データを、例えば、10個以上使用し、前記第1の閾値αの値を0〜4〔℃〕の範囲で0.1〔℃〕刻みで変化させ、ステップS24で説明した予測の空振り率が最低となる第1の閾値αの値を求める。前記データを取得した期間の選択が可能であり、例えば、前記データが10個蓄積される毎に、適中率向上判定部15は、予測の見逃し率が最低となる第2の閾値βの値、及び、予測の空振り率が最低となる第1の閾値αの値を求めることができる。
【0057】
次に、ステップS26で、閾値決定部16は、閾値を決定し、ステップS22に戻る。具体的には、ステップS25で適中率向上判定部15が求めた最新の第1の閾値α及び第2の閾値βの値によって、第1の閾値α及び第2の閾値βの値を更新し、更新された第1の閾値α及び第2の閾値βの値を架線着霜発生予測部12にフィードバックして、ステップS22で行われる架線着霜発生予測において使用されるようにする。
【0058】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS21 データ入力部11は、データ入力を行う。
ステップS22 架線着霜発生予測部12は、架線着霜発生予測を行う。
ステップS23 予測結果表示部13は、予測結果表示を行う。
ステップS24 適中率計算部14は、適中率を計算する。
ステップS25 適中率向上判定部15は、適中率の向上を判定する。
ステップS26 閾値決定部16は、閾値を決定し、ステップS22に戻る。
【0059】
このように、本実施の形態において、架線着霜予測方法は、予測対象地域の気象予報データを用い、架線着霜判定式に従って、予測対象地域における架線着霜発生の予測を行う工程と、予測対象地域における架線着霜発生の予測結果及び実測結果を用いて、予測精度を計算する工程と、架線着霜判定式に含まれる閾値を所定の範囲で変化させて、予測精度が最高となる閾値を求める工程と、求めた閾値によって、架線着霜判定式に含まれる閾値を更新する工程と、を含んでいる。これにより、予測対象地域における架線着霜発生を適確に予測し、確実に霜取りを行うことができる。
【0060】
また、予測精度は予測の空振り率及び予測の見逃し率を含み、閾値は予測の空振り率に影響する第1の閾値及び予測の見逃し率に影響する第2の閾値を含み、予測精度が最高となる閾値を求める工程においては、第1の閾値を変化させて予測の空振り率が最低となる第1の閾値を求めるとともに、第2の閾値を変化させて予測の見逃し率が最低となる第2の閾値を求める。これにより、空振りや見逃しが発生することなく、架線着霜発生を適確に予測することができる。
【0061】
さらに、架線着霜判定式は、架線着霜発生の予測対象日の前日の夕刻の水蒸気濃度が、予測対象日の早朝の予想最低架線温度に対応する飽和水蒸気濃度より大きいか否かを判定する式であり、第1の閾値は、早朝に霜が発生する予想最低気温の上限値であり、第2の閾値は、早朝の予想最低気温と予想最低架線温度との差を表す値である。これにより、予測対象地域における架線着霜発生の予測を容易に、かつ、正確に行うことができる。
【0062】
さらに、予測の空振り率は、予測結果が霜発生であったのに実測結果が霜非発生であった場合の確率であり、予測の見逃し率は、予測結果が霜非発生であったのに実測結果が霜発生であった場合の確率である。
【0063】
なお、本明細書の開示は、好適で例示的な実施の形態に関する特徴を述べたものである。ここに添付された特許請求の範囲内及びその趣旨内における種々の他の実施の形態、修正及び変形は、当業者であれば、本明細書の開示を総覧することにより、当然に考え付くことである。