【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1特徴構成は電着塗装設備に係り、その特徴は、
電着槽における槽内の塗料液中に被塗物を浸漬させるとともに、複数のノズルにより前記電着槽の槽内に前記塗料液を噴出する電着塗装設備であって、
複数の前記ノズルは、前記槽内の塗料液中に浸漬させた前記被塗物の各部に対して前記塗料液を吹き付ける状態に分散させて配置し、
前記被塗物の横向き外面部分における被塗物表面に沿う方向での前記被塗物に対する前記塗料液の相対速度と、その横向き外面部分に形成される塗膜の平滑性との相関、
及び、前記被塗物の上向き外面部分における被塗物表面に沿う方向での前記被塗物に対する前記塗料液の相対速度と、その上向き外面部分に形成される塗膜の平滑性との相関において、
前記横向き外面部分で得られる前記平滑性と前記上向き外面部分で得られる前記平滑性とが同等になる共通の前記相対速度が存在することに対し、
その共通の相対速度の30%減〜
10%増の範囲を目標範囲として、前記横向き外面部分における前記相対速度、及び、前記上向き外面部分における前記相対速度がともに前記目標範囲内になる状態に、前記ノズル夫々の配置又は前記ノズル夫々の塗料液噴出圧力を設定してある点にある。
【0010】
つまり、この第1特徴構成では、前記した特許文献1に示される提案技術のように、電着槽の槽内における塗料液の全体を一様な流速で一方向に流動させるだけでは、被塗物表面に沿う方向での被塗物に対する塗料液の相対速度(以下、単に相対速度Vと言う)を被塗物の各部について個別に最適化するのは難しいことから、複数のノズルは、槽内の塗料液中に浸漬させた被塗物の各部に対して塗料液を吹き付ける状態に分散させて配置し、これにより、各ノズルの配置や各ノズルの塗料液噴出圧力を調整することで、上記相対速度Vを被塗物の各部について個別に最適化できるようにする。
【0011】
一方、上記相対速度Vと被塗物の各部に形成される塗膜の平滑性との相関について研究した結果、一般的な電着用塗料液を用いた場合、被塗物の横向き外面部分については、
図3における◆印のグラフで示されるように、相対速度Vが変化しても塗膜の平滑性がそれほど変化しないのに対し、被塗物の上向き外面部分については、同
図3における■印のグラフで示されるように、相対速度Vが大きくなると塗膜の平滑性が大きく向上する。
(注:
図3の縦軸では塗膜の粗さで塗膜の平滑性を表現しているため、縦軸の下側ほど、塗膜粗さが小さくなって塗膜の平滑性が高くなることを示している。)
【0012】
この傾向は、横向き外面部分では、横向き外面部分に沿って下方へ沈降してしまう顔料粒子が元々多くて、相対速度Vが変化したとしても、主成分樹脂粒子とともに横向き外面部分に定着する顔料粒子の量はそれほど変化しないのに対し、上向き外面部分では、相対速度Vが大きくなると、顔料粒子の上向き外面部分への沈降堆積が阻害されて、主成分樹脂粒子とともに上向き外面部分に定着する顔料粒子の量が大きく減少するためと考えられる。
【0013】
また、このような傾向があることで、横向き外面部分についての上記相関を示す◆印のグラフと、上向き外面部分についての上記相関を示す■印のグラフとは交点を有し、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性と上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性とが同等になる共通の相対速度Vxが存在する。
【0014】
そして、これらのグラフから分かるように、横向き外面部分における相対速度V及び上向き外面部分における相対速度Vがいずれも、上記共通の相対速度Vx(この例では、≒45cm/秒)の30%減〜
10%増の範囲内にある状況(0.7Vx≦V≦
1.1Vx)では、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性と上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性との差の最大値(即ち、塗膜粗さの差の最大値)は、0.05μm(=0.26μm−0.21μm)程度になる。
【0015】
これに対し、横向き外面部分及び上向き外面部分の夫々における相対速度Vがともに、前記特許文献1で示された25cm/秒であるとすると、同
図3において、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性と上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性との差は、0.08μm(=0.29μm−0.21μm)程度になる。
【0016】
即ち、横向き外面部分及び上向き外面部分の夫々における相対速度Vがともに、上記共通の相対速度Vxの30%減〜
10%増の範囲内にある場合では、それら相対速度Vがともに25cm/秒である場合に比べ、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性と上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性との均一性が、少なくとも37%(=100×[0.08μm−0.05μm]/0.08μm)以上ほどは向上する。
【0017】
したがって、上記第1特徴構成によれば、塗料液種などの条件によって多少の差はあるにしても、従前に比べ、電着塗装で被塗物の各部に形成される塗膜の平滑性を効果的に均一化することができ、これにより、塗装品質を効果的に高めることができる。
【0018】
また、上記第1特徴構成によれば、このように効果的に塗膜の平滑性を均一化できることで、電着槽における塗料液を槽内の全体にわたらせる形態で流動させることを不要ないし軽微
にすることができて、塗料液の給送に要するポンプ動力を削減することができ、この点で、ランニングコストの低減も可能になる。
【0019】
そしてまた、被塗物が、外部に対して制限された状態で連通する内部空間を有する構造である場合、被塗物の外面側は内面側に比べ槽内電極よる電流効果が及び易いなどのことで塗膜の厚さが大きくなる傾向があるが、上記第1特徴構成によれば、被塗物に対する上記相対速度の影響が内面側に比べ外面側の方が大きいことで、被塗物の外面側における塗膜厚さの過大化傾向も抑制して、被塗物の外面側と内面側との塗膜厚さの均一性(所謂つきまわり性)も高めることでき、また、そのことで、被塗物外面側での塗膜厚さの過大化による塗料の浪費を抑制して、塗料コストも安価にすることができる。
【0020】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記共通の相対速度の20%減〜
10%増の範囲を前記目標範囲にしてある点にある。
【0021】
つまり、
図3のグラフでは、横向き外面部分及び上向き外面部分の夫々における相対速度Vがいずれも、前記共通の相対速度Vxの20%減〜
10%増の範囲内にある状況(=0.8Vx≦V≦
1.1Vx)では、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性と上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性との差の最大値は、0.03μm(=0.24μm−0.21μm)程度になる。
【0022】
即ち、横向き外面部分及び上向き外面部分の夫々における相対速度Vがともに、前記特許文献1で示された25cm/秒である場合、前述の如く、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性と上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性との差は0.08μm(=0.29μm−0.21μm)程度になるから、これに比べ、横向き外面部分及び上向き外面部分の夫々における相対速度Vがともに、共通の相対速度Vxの20%減〜
10%増の範囲内にある場合、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性と上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性との均一性は、少なくとも62%(=100×[0.08μm−0.03μm]/0,08μm)以上ほども向上する。
【0023】
したがって、上記第2特徴構成によれば、第1特徴構成と同様、塗料液種などの条件によって多少の差はあるにしても、電着塗装で被塗物に形成される塗膜の平滑性を一層効果的に均一化することができる。
【0024】
なお、上記した第1又は第2特徴構成の実施
においては、
塗料液を平行状態で同じ向きに噴出する隣り合う前記ノズルどうしの間の間隔を、それら隣り合うノズル夫々の被塗物表面上におけるノズル対向点どうしの間のいずれの箇所においても、前記目標範囲内の前記相対速度が得られる間隔に設定
するのが望ましい。
【0025】
つまり、塗料液を平行状態で同じ向きに噴出するノズルを隣り合わせに配置することで、被塗物の表面上における塗料液の吹付面積を大きく確保するのに、それら隣り合うノズルどうしの間の間隔が過大であると、それらノズルの被塗物表面上におけるノズル対向点夫々の近傍では、前記目標範囲内の相対速度Vが得られるとしても、被塗物表面上におけるノズル対向点どうしの間の中央部では、塗料液の吹付け作用が十分に及ばず、前記目標範囲内の相対速度Vが得られなくなる。
【0026】
これに対し、それら隣り合うノズルどうしの間の間隔をある程度まで小さくすると、それらノズルの夫々から噴出した塗料液流の各々による誘因作用の相乗効果で、それら噴出した塗料液流どうしの間に塗料液の強い誘引流を生じさせることができ、この強い誘因流により、それらノズル夫々の被塗物表面上におけるノズル対向点どうしの間の中央部にも塗料液の吹付け作用が十分に及ぶようにすることができる。
【0027】
したがって、上記
のようにノズルどうしの間の間隔を設定すれば、被塗物表面上のノズル対向点どうしの間での塗膜平滑性のムラも解消することができ、この点で、電着塗装において被塗物の各部に形成される塗膜の平滑性の均一化を一層効果的に達成することができる。
【0028】
本発明
とは別の参考例として、
電着槽における槽内の塗料液中に被塗物を浸漬させるとともに、複数のノズルにより前記電着槽の槽内に前記塗料液を噴出する電着塗装設備であって、
複数の前記ノズルは、前記槽内の塗料液中に浸漬させた前記被塗物の各部に対して前記塗料液を吹き付ける状態に分散させて配置し、
前記被塗物の横向き外面部分における被塗物表面に沿う方向での前記被塗物に対する前記塗料液の相対速度と、その横向き外面部分に形成される塗膜の平滑性との相関、
及び、前記被塗物の上向き外面部分における被塗物表面に沿う方向での前記被塗物に対する前記塗料液の相対速度と、その上向き外面部分に形成される塗膜の平滑性との相関において、
前記横向き外面部分で得られる前記平滑性と前記上向き外面部分で得られる前記平滑性とが同等になる共通の前記相対速度が存在することに対し、
前記上向き外面部分における前記相対速度が、前記共通の相対速度以下で、かつ、前記横向き外面部分における前記相対速度より大きくなる状態に、前記ノズル夫々の配置又は前記ノズル夫々の塗料液噴出圧力を設定
するようにしてもよい。
【0029】
つまり、この
参考例においても、前記した特許文献1に示される提案技術のように、電着槽の槽内における塗料液の全体を一様な流速で一方向に流動させるだけでは、前記相対速度V(被塗物表面に沿う方向での被塗物に対する塗料液の相対速度)を被塗物の各部について個別に最適化するのは難しいことから、複数のノズルは、槽内の塗料液中に浸漬させた被塗物の各部に対して塗料液を吹き付ける状態に分散させて配置し、これにより、各ノズルの配置や各ノズルの塗料液噴出圧力を調整することで、上記相対速度Vを被塗物の各部について個別に最適化できるようにする。
【0030】
一方、前記した
図3における◆印のグラフ及び■印のグラフから分かるように、被塗物の横向き外面部分については、相対速度Vが変化しても塗膜の平滑性がそれほど変化しないのに対し、前記共通の相対速度Vx以下の速度範囲では、被塗物の上向き外面部分における相対速度Vが大きくなるほど、その上向き外面部分に形成される塗膜の平滑性は高くなる。
【0031】
即ち、共通の相対速度Vx以下の速度範囲では、上向き外面部分における相対速度Vが大きくなるほど、上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性は、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性に近付く。
【0032】
したがって、上記
参考例によれば、電着槽の槽内における塗料液の全体を一様な流速で一方向に流動させるだけの特許文献1の提案技術に比べ、電着塗装で被塗物の各部に形成される塗膜の平滑性を一層確実に均一化することができ、これにより、塗装品質の向上を一層確実に達成することができる。
また、上記
参考例によれば、このように確実に塗膜の平滑性を均一化することができて、電着槽における塗料液を槽内の全体にわたらせる形態で流動させることを不要ないし軽微し得ることで、そしてまた、横向き外面部分及び上向き外面部分の夫々における相対速度Vを前記共通の相対速度Vx以下で済ませられることで、塗料液の給送に要するポンプ動力を一層削減することができ、この点で、ランニングコストの一層の低減も可能になる。
【0033】
なお、上記参考例においては、
前記横向き外面部分における前記相対速度が、前記共通の相対速度の40%減以上で前記共通の相対速度より小さい範囲内
にあるようにするのが望ましい。
【0034】
つまり、
図3のグラフでは、被塗物の横向き外面部分における相対速度Vが、前記共通の相対速度Vxの40%減である状況(V=0.6Vx)では、横向き外面部分に形成される塗膜の平滑性と上向き外面部分に形成される塗膜の平滑性との差は、概ね0.07μm(=0.28μm−0.21μm)となる。
【0035】
これに対し、横向き外面部分及び上向き外面部分の夫々における相対速度Vがともに、前記特許文献1で示された25cm/秒であるとすると、同
図3において、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性と上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性との差は、0.08μm(=0.29μm−0.21μm)程度になる。
【0036】
即ち、前記
参考例において
上記のように横向き外面部分における相対速度が共通の相対速度の40%減以上で共通の相対速度より小さい範囲内にあるようにすれば、横向き外面部分で得られる塗膜の平滑性と上向き外面部分で得られる塗膜の平滑性との均一性を、少なくとも12%(=[0.08μm−0.07μm]/0,08μm)以上ほどは、確実に高めることができる。