特許第6703973号(P6703973)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703973
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】β2mタンパク質の治療的使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20200525BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A61K38/16
   A61P37/02
   A61P29/00 101
   A61P19/02
   A61P17/00
   A61P21/00
   A61P5/14
   A61P3/10
   A61P1/04
   A61P25/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-250624(P2017-250624)
(22)【出願日】2017年12月27日
(62)【分割の表示】特願2016-20393(P2016-20393)の分割
【原出願日】2011年4月6日
(65)【公開番号】特開2018-76356(P2018-76356A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2018年1月25日
(31)【優先権主張番号】61/346,617
(32)【優先日】2010年5月20日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10290188.1
(32)【優先日】2010年4月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512259248
【氏名又は名称】ベータ・イノブ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルセル・メルセル
(72)【発明者】
【氏名】クロビス・ラコトアリブロ
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 臨床免疫・アレルギー科,2007年,Vol.47, No.2, ,p.170-173
【文献】 Biochimica et Biophysica Acta, 2007, vol.1772, p.1258-1269
【文献】 FEBS Letters, 2004, vol.575, p.1-8
【文献】 Clinica Chimica Acta, 1995, vol.233, p.101-104
【文献】 Clinical rheumatology, 1997, vol.16, No.2, p.149-153
【文献】 Arthritis & Rheumatism, [online], 2010.11,,[2016年11月22日],URL,http://www.blackwellpublishing.com/acrmeeting/abstract.asp?MeetingID=774&id=90095
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61P 1/04
A61P 3/10
A61P 5/14
A61P 17/00
A61P 19/02
A61P 21/00
A61P 25/00
A61P 29/00
A61P 37/02
A61P 43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β2−ミクログロブリンまたはヒトβ2−ミクログロブリンタンパク質のポリペプチド配列と少なくとも95%の同一性を示す該タンパク質の機能変異体を活性成分として含む、自己免疫疾患の治療のための医薬品であって、
該活性成分は食塩水形態で調製し、投与前に、治療しようとする患者の血液または血清と前もってエキソビボで接触させてインキュベートする、医薬品
【請求項2】
活性成分はヒトβ2−ミクログロブリンタンパク質である請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
治療を受ける自己免疫疾患はリウマチ性多発性関節炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強皮症、線維筋痛、筋炎、強直性脊椎炎、I型インスリン依存性糖尿病、橋本甲状腺炎、アジソン病、クローン病、セリアック病、多発性硬化症または筋萎縮性側索硬化症である請求項1または2に記載の医薬品。
【請求項4】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療のための請求項1または2に記載の医薬品。
【請求項5】
多発性硬化症の治療のための請求項1または2に記載の医薬品。
【請求項6】
クローン病の治療のための請求項1または2に記載の医薬品。
【請求項7】
リウマチ性多発性関節炎の治療のための請求項1または2に記載の医薬品。
【請求項8】
I型インスリン依存性糖尿病の治療のための請求項1または2に記載の医薬品。
【請求項9】
自己免疫疾患を患っている患者における血液β2−ミクログロブリンの比を2.5〜12mg/lの間の濃度に上昇させるための請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項10】
自己免疫疾患を患っている患者における膜MHC−I複合体内の正常なHC/β2−ミクログロブリンモル比を戻すための請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項11】
自己免疫疾患を患っている患者においてMHC−I複合体中のβ2−ミクログロブリン欠乏が生ずるのを予防するための請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項12】
自己免疫疾患を罹患している患者において、血液β2−ミクログロブリン比を、3mg/l〜8mg/lの間の濃度に上昇させるための、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項13】
自己免疫疾患を罹患している患者において、血液β2−ミクログロブリン比を、3mg/l〜5mg/lの間の濃度に上昇させるための、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項14】
請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬品を含む、自己免疫疾患の治療のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は医学分野、特に自己免疫疾患の治療の医学分野に関する。
【0002】
本発明は、より詳しくはβ2−ミクログロブリンタンパク質(β2m)の特に自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症またはクローン病)の治療のために意図される医薬組成物中の活性成分としての使用に関する。
【背景技術】
【0003】
β2mタンパク質は、通常99アミノ酸から形成される約11.6kDaの平均分子量を有し、主要組織適合遺伝子複合体(MHC IまたはHLA I)を構成する[Cunningham B.A.ら,The complete amino acid sequence of beta−2−microglobulin(1973),Biochemistry,12:4811−4821]。
【0004】
MHC I組織適合遺伝子複合体が免疫系による「自己」及び「非自己」の認識において重要な役割を発揮することを思い出されたい。これらの複合体は、赤血球を除く多くのヒト細胞の表面上に存在している。その表面上には多数の抗原が存在しており、その抗原に基づいてTリンパ球(CD8)は個人の細胞を異物である、病的であるまたは腫瘍変換プロセスを受けている細胞から区別することができる。
【0005】
MHC I複合体は、約44kDaのグリコシル化重鎖(HC)及び重鎖の細胞外ドメインと非共有的に会合している軽鎖のβ2mから構成される。MHC Iのα鎖は、図1Aに示すように3つの細胞外ドメイン(α1、α2及びα3)及び膜貫通セグメントから構成されている。β2mは、HC中のα1ドメインの末端及びα3ドメインの始めが近接しているゾーン中に位置するアミノ酸配列に会合する[Gussov,D.ら(1987),The human beta−2−microglobulin gene:primary structure and definition of transcriptional unit(1987),Journal of Immunology,139:3132−3138]。MHC I分子をコードする遺伝子はその発見順に番号が付与され、群(A、B及びC)及び複合体(D、H及びG)に分類されている。
【0006】
抗原提示細胞(APC)は、免疫系のT細胞(CD8)に対する抗原プレゼンターとしてMHC Iタイプの複合体を使用する。MHC Iにより提示される抗原は、通常内因性タンパク質のプロテアソームによる開裂により生ずる8〜10アミノ酸を有する各種ポリペプチドにより構成されている。これらの抗原は、小胞体内で形成されている間MHC I複合体のサブユニット(HC及びβ2m)の表面上に存在するペプチド腔に負荷される。抗原が負荷されると、MHC複合体は細胞の表面に運ばれる。次いで、α3ドメインに位置する重鎖の膜貫通ドメインにより、MHC I複合体は血漿膜に固定される。
【0007】
β2mタンパク質により形成されるサブユニットは、配列が事実上不変であり、そのポリペプチド鎖がグリコシル化されていない点で重鎖と区別される。
【0008】
その生理学的役割はまだ十分に解明されていなくとも、β2mタンパク質は、抗原結合部位のコンホメーションが維持できるように[Ljunggren,H−G.(1990),Empty MHC class I molecules come out in the cold,Nature,346,476−480]、β2mタンパク質がTAP−1タンパク質に特異的に結合している[Corrら,1992,Endogenous peptides of a soluble major histocompatibility complex class I molecule H−2Lds:sequence motif,quantitative binding and molecular modeling of the complex,JEM,176(6):1981−92]MHC I/抗原複合体の構築時に[Androlewicz MJ.ら(1994),MHC class I/β2−microglobulin complexes associate with TAP transporters before peptide binding,Nature,368,864−867]、他方ではMHC I/抗原複合体が細胞表面に運ばれるときに、MHC I複合体を形成する他のタンパク質に対して重要な役割を発揮する。β2mは重鎖のフォールディングに関与し、抗原のT細胞(CD8)への提示に関与していることも知見されている。β2mはMHC−I/抗原複合体の安定性にも寄与する[Neefjes,F.F.ら(1993),Selective and ATP−dependent translocation of peptides by MHC−encoded transporter,Science,261(5122):769−771]。
【0009】
β2mを欠くトランスジェニック動物は生存可能であるが、弱化した免疫応答を呈し、ウイルスや寄生虫感染に対してより感受性となる。これらの動物における免疫応答の低下は、細胞がMHC I複合体に対して非常に少数の抗原しか提示せず、そのTリンパ球の大部分は機能的でないという事実と相関しているようである[Pereira P.ら(1992),Blockade of transgenic gamma delta T cell development in beta 2−microglobulin deficient mice,EMBO Journal,11:25−31]。
【0010】
β2mタンパク質はゴルジ装置における重鎖のグリコシル化に関与するとも記載されている[Segeら(1981),Role of beta2−microglobulin in the intracellular processing of HLA antigens,Biochemistry,20(16),p.4523−4530]。
【0011】
β2mタンパク質は他の現象、例えば細胞内シグナリングの調節及び細胞中の鉄の流れを調節するHFE(ヒトヘモクロマトーシスタンパク質)のような主要タンパク質の正しいフォールディングにも関与している。
【0012】
1980年代の終わりから、β2mが抗原応答を有利に改善し得、Tリンパ球(CD8)にリンクしている免疫応答を刺激するためのワクチンアジュバントとして使用され得ることも立証されている。
【0013】
多数の文献が、β2mを免疫反応を誘導させる仕事を有する分子(例えば、特定ウイルスまたは腫瘍抗原)と組み合わせてワクチン組成物中に配合し得ることを示している。
【0014】
前記ワクチン組成物において、β2mは精製または組換体の各種形態で存在し得る。インビボで特定免疫反応を引き出すべく融合タンパク質を発現させる目的でβ2mをコードする遺伝子を免疫原性ペプチドをコードする遺伝配列に融合させている遺伝的構築が記載されている[WO 99/64957]。
【0015】
β2mタンパク質はグリコシル化されていないのでそれ自体の免疫原性は非常に弱い。このために、β2mは上記ワクチン組成物中で活性成分としてではなく、常にアジュバントとして使用されている。
【0016】
このことは、今まで医薬組成物中の使用を正当化できるβ2mの治療効果が観察されていなかったという事実のために確かである。
【0017】
ワクチン接種とは別に、いくつかの従来技術文献は治療用組成物中の不活化または修飾形態のβ2mタンパク質を示している。
【0018】
国際出願WO 02/102840は、もはやCD8 Tリンパ球を活性化し得ない不活性MHC I複合体を形成すべくβ2mを非機能性とすることを記載している。こうして形成されたMHC複合体は免疫抑制効果を得ることを目的として免疫系に対する「ルアー」として使用される。
【0019】
別の国際出願WO 02/24929は、β2mが薬物(組成物の活性成分)を細胞内コンパートメントにデリバリーするためのベクターとしてHFEタンパク質にコンジュゲートされている治療用組成物を記載している。
【0020】
これらの種類の出願では、β2mタンパク質を活性成分としての野生型機能形態ではなく、MHCに対してではない活性成分の存在下で医薬支持体またはベクターとして使用されていることに注目すべきである。
【0021】
更に、治療用途とは対照的に、β2mタンパク質はしばしば各種病理に対するマーカーとして、特に診断手段として使用されている。
【0022】
例えば、HIVに感染してから何年か後にAIDS病の免疫不全症候群が明らかになる前に、血液中のβ2m濃度が急に上昇する。
【0023】
いくつかの刊行物[Wu C.H.ら(2001),Oncogene,20:7006−20]は、β2m濃度の上昇はいくつかの癌、特に骨癌及び前立腺癌の発症と相関しており、多分関与している[Gross M.ら(2007),Clin.Cancer Res.,13:1979−1986]ことを強調している。結腸癌のような他の癌の場合には、β2m血清濃度の低下が観察される[Kaklamanis L.ら(1992),Int.J.Cancer,57:379−385]。
【0024】
β2mの血液(より具体的には、血液血清)、脳脊髄液または唾液中の量がある感染性または寄生虫疾患の診断において頻繁に使用されているだけでなく、腎臓またはリンパ系の特定疾患、リウマチ、炎症性疾患及び神経系疾患(例えば、アルツハイマー型及び前頭側頭型認知症)の診断のために主に使用されている[Davidsson P.ら(2002),Proteome analysis of cerebrospinal fluid proteins in Alzheimer patients,Clinical Neuroscience and Pathology,13:611−615;Hansson S.F.ら(2004),Validation of a prefractionation method followed by two−dimensional electrophoresis−Applied to cerebrospinal fluid protein from frontotemporal dementia patients,Proteome Science,2:1−11]。
【0025】
健康であると見なされている人の場合、β2mの血液中の平均濃度は比較的一定のままであり、2mg/l以下であり、濃度が4.0mg/lくらい高い値に達し得る上記疾患の場合にはそうではない。
【0026】
いくつかの病理の場合、血清β2mの上昇はβ2mの高い「シェディング」(細胞表面タンパク質の放出)により引き起こされ得る[Bellotti V.ら(1999),Cell.Mol.Life Sci.,55−977−991]。
【0027】
血液中を循環している血漿β2mは通常腎臓において糸球体により濾過され、その後細管において再吸収され、異化される。
【0028】
研究で、毎日再生される血漿β2m(遊離形態のβ2m)の半分はより特にMHC−I複合体の再循環に由来することが判明している。この再生はそれ自体平均サイズの人の場合約150mg/24時間という血清β2mの高い産生に寄与するようである。しかしながら、「代謝回転」は血清濃度を2mg/lで安定化させるようである。
【0029】
β2mが腎臓により排泄されない透析中の患者の場合、β2mが体液中を循環すると有害な結果をもたらす。特に、ある結合組織(神経及び関節)中にアミロイドプラークを形成することにより関節症及び神経症を誘発させる[Ohshi K.ら,Pathogenesis of beta2−microglobulin amyloidosis(2001),Pathol.Int.,51:1−10]。
【0030】
変形性関節症(関節症)では、β2mは軟骨細胞の増殖に対して抑制作用を有し、その結果軟骨の破壊を助長すると記載されている[WO 2004/020586]。
【0031】
いくつかの自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症(MS))の場合、炎症エピソードの発症を予測するため患者におけるβ2m濃度の変化をモニターすることが一般的である[Bagnato,F.(2003),beta−2 microglobulin and neopterin as markers of disease activity in multiple sclerosis,Neurol.Sci.,24:51301−51304]。この場合、血液中のβ2m濃度は非常に変わりやすいと見られているので脳脊髄液中のβ2m濃度を測定することが好ましい[Caudie C.ら(2005),Valeurs usuelles et utilite diagnostique de la β2−microglobuline dans le liquide cephalorachidien,Ann.Biol.Clin.,63(6):631−637;Ryu O.H.ら(2006),Rheumatology,45:1077−1086]。
【0032】
自己免疫疾患におけるβ2mの関与は不確かなままであり、更なる研究に値する。
【0033】
自己免疫疾患は、自己抗体が存在しても存在しなくてもその症状が体内に通常存在する物質または組織に対する免疫系の機能亢進に起因し得る多くの疾患を形成している。
【0034】
自己免疫疾患における「自己」に対する免疫応答はMHC系を介するTリンパ球の活性化により生じ、幾つかのメカニズムがこれを引き起こし得ることは確かであるる
・免疫系では:
−自己抗体により公知の抗原を提示することによりT細胞を用いて自己抗体を誘導することによる。これは全身性エリテマトーデス(SLE)、橋本甲状腺炎、多発性硬化症(MS)、インスリン依存性糖尿病(I型)等の症例である。
・細胞では:
−ウイルス抗原に対して特異的なT細胞を活性化することによる自己免疫応答の誘導;
−APC−MHC−I/TcR(T細胞受容体)認識及び活性化Tリンパ球のシグナリングカスケードに対する改変;
−APCにおけるMHC−I系の成分の不適切な構築;
−調節細胞の操作における欠陥。
・分子レベルでは:
−分子模倣または寛容;
−自己抗原としてのMHC I。
【0035】
自己免疫疾患は通常、身体がそれ自身の抗原に対する免疫反応を発現している間遺伝的素質及び感染性エピソードに関連して生ずると考えられている。しかしながら、これらの疾患の正確な原因は正確に同定されていない。
【0036】
最も一般的な自己免疫疾患はリウマチ性多発性関節炎、シェーグレン症候群、橋本甲状腺炎、アジソン病、全身性エリテマトーデス、強皮症、線維筋痛、筋炎、強直性脊椎炎、I型インスリン依存性糖尿病、クローン病、セリアック病及び多発性硬化症(MS)である。
【0037】
「オーファン」疾患と称されている疾患の中には、自己免疫疾患であるとも疑われている多数の他の疾患がある。筋萎縮性側索硬化症(ALS)はこうした疾患の1つであり、このため有効な治療は現在ない。
【0038】
2つのタイプの自己免疫疾患、すなわち特異性自己免疫疾患及び非特異性自己免疫疾患は区別されなければならない。
【0039】
非特異性疾患の場合、異なる臓器が冒され、これにより関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群及び強皮症のような全身性疾患が生ずる。
【0040】
特異的疾患は特にいくつかの臓器に限定される。最も一般的な疾患はインスリン依存性糖尿病、甲状腺疾患、アジソン病、腎臓、肺、消化器の少数の疾患、及び特に多発性硬化症である。
【0041】
現在の治療法は、抗炎症療法から代謝拮抗物質及び抗癌剤を用いる免疫抑制療法までの広範囲のアプローチを含む。例として、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、グルココルチコイド、代謝拮抗薬(メトトレキサート、アザチオプリン)、シクロホスファミド、スルファサラジン、金塩、シクロスポリンA、ミコフェノレート及びレフルノミドが使用されている。
【0042】
最近では、インターフェロンβがMSに対して推奨されており、(マラリアに対して使用されている)クロロキンの誘導体がエリテマトーデス及びリウマチ性多発性関節炎の治療のために推奨されている。
【0043】
他の疾患を治療するために使用されている上記治療はうまく適応されておらず、特に長期間使用したときに多数の望ましくない副作用を有している。更に、上記治療は疾患の症状を少なくとも部分的に弱め得るが、疾患の寛解を得ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0044】
【特許文献1】国際公開第99/64957号
【特許文献2】国際公開第2002/102840号
【特許文献3】国際公開第2002/24929号
【特許文献4】国際公開第2004/020586号
【非特許文献】
【0045】
【非特許文献1】Cunningham B.A.ら,The complete amino acid sequence of beta−2−microglobulin(1973),Biochemistry,12:4811−4821
【非特許文献2】Gussov,D.ら(1987),The human beta−2−microglobulin gene:primary structure and definition of transcriptional unit(1987),Journal of Immunology,139:3132−3138
【非特許文献3】Androlewicz MJ.ら(1994),MHC class I/β2−microglobulin complexes associate with TAP transporters before peptide binding,Nature,368,864−867
【非特許文献4】Corrら,1992,Endogenous peptides of a soluble major histocompatibility complex class I molecule H−2Lds:sequence motif,quantitative binding and molecular modeling of the complex,JEM,176(6):1981−92
【非特許文献5】Ljunggren,H−G.(1990),Empty MHC class I molecules come out in the cold,Nature,346,476−480
【非特許文献6】Neefjes,F.F.ら(1993),Selective and ATP−dependent translocation of peptides by MHC−encoded transporter,Science,261(5122):769−771
【非特許文献7】Pereira P.ら(1992),Blockade of transgenic gamma delta T cell development in beta 2−microglobulin deficient mice,EMBO Journal,11:25−31
【非特許文献8】Segeら(1981),Role of beta2−microglobulin in the intracellular processing of HLA antigens,Biochemistry,20(16),p.4523−4530
【非特許文献9】Wu C.H.ら(2001),Oncogene,20:7006−20
【非特許文献10】Gross M.ら(2007),Clin.Cancer Res.,13:1979−1986
【非特許文献11】Kaklamanis L.ら(1992),Int.J.Cancer,57:379−385
【非特許文献12】Davidsson P.ら(2002),Proteome analysis of cerebrospinal fluid proteins in Alzheimer patients,Clinical Neuroscience and Pathology,13:611−615
【非特許文献13】Hansson S.F.ら(2004),Validation of a prefractionation method followed by two−dimensional electrophoresis−Applied to cerebrospinal fluid protein from frontotemporal dementia patients,Proteome Science,2:1−11
【非特許文献14】Bellotti V.ら(1999),Cell.Mol.Life Sci.,55−977−991
【非特許文献15】Ohshi K.ら,Pathogenesis of beta2−microglobulin amyloidosis(2001),Pathol.Int.,51:1−10
【非特許文献16】Bagnato,F.(2003),beta−2 microglobulin and neopterin as markers of disease activity in multiple sclerosis,Neurol.Sci.,24:51301−51304
【非特許文献17】Caudie C.ら(2005),Valeurs usuelles et utilite diagnostique de la β2−microglobuline dans le liquide cephalorachidien,Ann.Biol.Clin.,63(6):631−637
【非特許文献18】Ryu O.H.ら(2006),Rheumatology,45:1077−1086
【発明の概要】
【0046】
本出願の発明者らは、明らかに異なる自己免疫疾患を患っている4人の患者の状況に特に興味を持った:
−非特異的自己免疫疾患を患っている、すなわち特定の臓器が冒されていないが、橋本甲状腺炎及び原発性シェーグレン症候群を患っている第1の患者(P1);
−元々MSであり、その後十二指腸リンパ球浸潤を伴っている第2の患者(P2);
−セリアック病を患っている第3の患者(P3);
−橋本甲状腺炎及びセリアック病を患っている第4の患者(P4)。
【0047】
これらの患者について、患者の血液から単離したリンパ球に由来する量HC(MHC−ABC)/β2mの比を以下に示す一般的方法を用いて算定しようと試みた。
【0048】
驚くことに、血清β2m濃度は平均でP1の場合約1.9mg/l、P2の場合1.8mg/l、P3の場合1.1mg/l、P4の場合1.1mg/lであるのに対して、HC/β2m比が4人の患者では対照ドナーのHC/β2m比に比べて上昇していることが明らかとなった(表1を参照されたい)。
【0049】
【表1】
HC:MHC Iの重鎖
(a)β2mの濃度(mg/l);
(b)全リンパ球タンパク質から計算したHC/β2m;
(c)精製したリンパ球分画から単離した血漿膜について計算したHC/β2m。
【0050】
上表1の結果はHC/β2m比のアンバランスを示している。これらの結果は、血液中の遊離β2mの濃度は上昇していないが、4人の患者中に存在するMHC−I膜複合体では明らかにHC濃度に比べてβ2mが有意に欠乏しているという予期せぬ状況を明らかにした。
【0051】
これらの所見は、1に近いHC/β2m比を示す健康な対照と比較される。対照的に、β2mは自己免疫疾患に冒されている患者の細胞内コンパートメント中では隔離されているようである。
【0052】
これらの結果は本発明者らを驚かし、本発明者らは4人の自己免疫疾患を患っている患者では共通原因として膜MHC−I複合体中のβ2mが欠乏しているという仮説をまとめた。より一般的には、MHC複合体中のHC/β2mアンバランスは多数の自己免疫疾患で経験する障害の発現の原因となっているようである。
【0053】
以下に記述するこの仮説によれば、4人の患者が患っている自己免疫反応は病変の関係で明らかに血液中の遊離β2mの一般的な上昇の結果ではなく、逆にT細胞(CD8)に対する抗原提示が変化しがちである膜MHC−I複合体中の局所的β2m欠乏に起因する。
【0054】
この仮説は、従来技術に記載されていたようなTリンパ球の活性化及び炎症プロセスにおけるβ2mの関与を決して排除していないことを留意すべきである。
【0055】
これらの第1の所見を考えて、本発明者らはMSまたはクローン病を患っている他の患者中に存在する全リンパ球タンパク質中のHC/β2mの分析を実施し、これらの患者のリンパ球に由来するHC/β2m比も対照患者のHC/β2m比よりも高いことを知見し得た。
【0056】
これらの結果に基づいて、本発明者らは、主な活性成分が機能形態のβ2mタンパク質である医薬組成物を開発した。
【0057】
これらの組成物の目的は、自己免疫疾患に冒されている患者における膜MHC−I複合体中のβ2mの欠乏を軽減することである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】I型のMHC複合体の平面(A)及び空間(B)での略図。重鎖(HC)は3つの細胞外ドメイン(α1、α2及びα3)及び1つの膜貫通ドメインにより構成されている。細胞外である軽鎖(β2m)は膜と重鎖のα1及びα3が近接している位置との間に入っている。図Bは重鎖により提示されるペプチド(抗原)の位置を示している。
図2】本発明に従うリポソームと接触して配置されているリンパ球の写真(×630)。リポソームは実施例2に記載されている透析方法に従って作成した。リポソーム(明るいスポット)はリンパ球(HLA−ABC)の膜に吸着されている。細胞核はもとのままである(灰色)。
図3】本発明に従うアルブミンを含有しているリポソームと接触して配置されているリンパ球の写真(×630)。タンパク質(アルブミン)をDAPIで蛍光性とする。免疫蛍光法により検出されるより暗いスポットを形成し、このスポットにはより明るいリンパ球(HLA−ABC陽性)が貫通している。
図4】抽出方法(緑色)を用いて作成し、蛍光β2m(TRITC)を含有しているリポソームの写真(×630)。A:リポソーム中に含有されている蛍光脂質NBD−PC−オレイルより放出される蛍光。B:β2mにカップリングさせた蛍光団(ローダミンBイソチオシアネート)より放出される蛍光。C:2つの蛍光A及びBの重置。
図5】患者(P1)から精製し、抽出方法に従って作成し且つ蛍光β2m(TRITC)を含有しているリポソームとインキュベートしたリンパ球の写真(×630)。A:リンパ球の核を青色に着色するHoechst 33342マーカーより放出される蛍光。B:β2mにカップリングさせた蛍光団(ローダミンBイソチオシアネート)より放出される蛍光。このマーキングは色が赤になることでβ2mのリンパ球への取り込みを示す。C:リポソーム中に含有されている緑色蛍光脂質NBD−PC−オレイルより放出される蛍光。このマーキングはリポソームのリンパ球との会合を示す。D:B及びCマーキングの重置(黄色)。スケールバー:10μm。
図6】2つの異なる温度(25℃及び37℃)で30日間保存後のアルブミン(TRITC)を含有しているリポソームの蛍光による顕微鏡検査。観察により、作成及び保存の異なるタイプ間の大きな差異を区別できない。A及びB:バッチ30(30mg タンパク質/150ml)。C及びD:バッチ60(60mg タンパク質/150ml)。下部:リポソーム中に含有されている蛍光脂質NBD−PC−オレイルより放出される蛍光。上部:アルブミンにカップリングさせた蛍光団(ローダミンBイソチオシアネート)より放出される蛍光。スケールバー:200nm。倍率:×630。
図7】アルブミンを含有しているリポソーム(<50nm,50〜100nm,>100nm)の時間(2、30及び60日間)及び保存温度(25℃及び37℃)に応じたサイズ分布(%)。A及びB:バッチ30(30mg タンパク質/150ml)。C及びD:バッチ60(30mg タンパク質/150ml)。
図8】高濃度のβ2m(バッチ80mg タンパク質/150ml)を含有しているリポソーム(<50nm,50〜100nm,>100nm)の25℃での6及び40時間の保存に応じたサイズ分布(%)。
図9】患者または健康なドナーの血清による純粋またはリポソーム被覆β2mについての経時的分解プロフィール。A及びB:β2mの純粋/リポソーム調製物(血清患者1:橋本病を患っている51才の女性)。C及びD:β2mの純粋/リポソーム調製物(血清患者2:リウマチ性多発性関節炎を患っている73才の女性)。E及びF:対照患者,健康な62才の男性。
図10】β2m(リポソーム調製物)と患者から精製したリンパ球の細胞表面上のMHC−Iの重鎖間の会合を示すタンパク質の電気泳動ゲル。A:グルタルアルデヒドの存在下で、HLA−β2m複合体は55kDaで見られ、遊離β2mは12kDaで見られる。グルタルアルデヒドなしのトラックの12kDaでのバンドは細胞β2m(レーン3)に相当する。B:β2mの膜発現の定量化。この対照により、HLA−β2m複合体を作成するためのグルタルアルデヒドの使用を実証することができる。C:多発性硬化症を患っている患者(39才の女性)及び健康なドナー(67才の男性)からのリンパ球のβ2mのリポソーム調製物と90分間インキューベートした後の比較。リポソーム中に含有されているβ2mは(グルタルアルデヒドの存在下で)対照中よりも患者由来のリンパ球上により多く結合する。
図11】ヒト肝臓及び腎臓細胞に対する遊離またはリポソーム形態のβ2mの「インビトロ」毒性アッセイ。A、C及びE:24、48及び72時間暴露後のHH肝臓細胞に対するアッセイ。B、D及びF:24、48及び72時間暴露後のHREpic腎臓細胞。1.対照;2.対照及び非負荷リポソーム;3.3μgの遊離β2m;4.3μgのリポソーム形態のβ2m(バッチ66μg/150ml);5.6μgの遊離β2m;6.6μgのリポソーム形態のβ2m(バッチ132μg/150ml)。全タンパク質含量はBCA方法により推定した。
図12】ヒト肝臓及び腎臓細胞に対する遊離またはリポソーム形態のβ2mの「インビトロ」毒性アッセイ。ラベルは図11と同じ。生存度についてはMTTアッセイの結果。
【発明を実施するための形態】
【0059】
よって、本発明は、β2mタンパク質の特に薬剤を製造するための活性成分としての使用に関する。
【0060】
β2mタンパク質は、好ましくは精製または組換体のタンパク質のヒト形態であり、その参照ポリペプチド配列及び遺伝子決定基はGENEBANKデーターベースに寄託番号CAG33347で記載されている。
【0061】
精製されているならば、β2mは健康なドナーの血清から得ることができる。
【0062】
タンパク質は非グリコシル化形態で使用され得るので、化学合成に頼ることも予想され得る。
【0063】
本発明のβ2mの治療的使用は、野生型タンパク質と同一の機能性を有する、すなわち本明細書に記載されているのと同じ治療効果を有するが、効果が野生型タンパク質に比してその強度が低いまたは高いことがあり得る該タンパク質の機能変異体、すなわちそのイソフォーム、該タンパク質の変異コピーまたは断片に及ぶ。
【0064】
機能変異体は、より詳しくは細胞の表面上に存在するMHC複合体と会合し得るポリペプチドを意味し、そのポリペプチド配列はヒトβ2mタンパク質のポリペプチド配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、更により好ましくは少なくとも95%同一である(配列の比較は、例えばClustalWソフトウェアアプリケーションを用いてなされる)。
【0065】
β2mの機能変異体は、好ましくは同じ治療効果または同じ生理活性を示すβ2mタンパク質の断片から構成される。
【0066】
このような機能変異体は、発現ベクターまたは遺伝子治療ベクターにクローン化したヌクレオチド配列を発現させることによっても生じ得る。
【0067】
複数の刊行物が、例えば齧歯類[Goding J.W. and Walker I.D.,Allelic forms of β2−microglobulin in mouse(1980),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:7395−7399]及びヒト[Davidsson P.ら,Proteome analysis of cerebrospinal fluid proteins in Alzheimer patients(2002),Clinical Neuroscience and Pathology,13:611−615;Hansson S.F.ら,Validation of a prefractionation method followed by two−dimensional electrophoresis−Applied to cerebrospinal fluid protein from frontotemporal dementia patients(2004),Proteome Science,2:1−11]におけるβ2mのイソフォームの存在を記載している。等電点(pI)が異なることにより特に区別されるこれらのイソフォームはβ2mの機能変異体と見なされる。
【0068】
上記機能変異体は、精製ヒトタンパク質に対する生成物またはその処方物の有効性(溶解度、より高い安定性、少ないタンパク質分解)の点である利点を有し得る。
【0069】
本発明は、β2mまたはβ2mの機能変異体の1つを活性成分として含む医薬組成物に関する。
【0070】
好ましくは、β2mまたはその機能変異体は前記組成物の単一活性成分を形成する。
【0071】
本発明の意味の範囲内で、活性成分は薬剤の組成物に含まれ、その薬力学的または治療特性に関与し得る物質である。本発明の意味の範囲内で、アジュバントは活性成分と見なされない。
【0072】
より好ましくは、本発明は、医薬的に許容され得る担体またはビヒクル中に含まれているβ2mまたはβ2mの機能変異体から構成される医薬組成物に関し、前記した医薬的に許容され得る担体またはビヒトルは好ましくはリポソームである。
【0073】
本発明の好ましい態様によれば、β2mは規制推奨及び要件に従って医薬的に許容され得る担体または生理学的溶液と共に投与される。
【0074】
本発明によれば、β2mは患者における膜MHC−I複合体内のHC/β2m比を正常に戻す能力を有しているためにより特に使用される。
【0075】
HC/β2m比は、好ましくはリンパ球、特にB細胞に関して論じられる。HC/β2m比は精製MHC I複合体中のHC及びβ2mサブユニットのモル比に相当する。
【0076】
好ましくは、この比は病気を患っていない患者のレベルに匹敵するレベルに戻される。より好ましくは、β2mは1に近いモル比を達成するために患者におけるHC/β2m比を低下させる目的で使用される。
【0077】
本発明は、より特に自己免疫疾患を患っている患者におけるMHC−I複合体中のβ2mの欠乏が生ずるのを防止することに関する。
【0078】
よって、本発明に従うβ2mの使用は自己免疫疾患の治療のためにより特に意図されている。
【0079】
本発明者らは、自己免疫疾患を患っているいくつかの患者では細胞内または膜β2mの欠乏によりHC/β2m比は1以上、または2以上にもなることを確認することができた。よって、本発明は、HC/β2m比を生理学的値に近い値、すなわち好ましくは2未満、より好ましくは1.5未満、更により好ましくは1.2未満に戻すことに関する。
【0080】
勿論、本発明は自己免疫疾患以外のMHC I複合体中のHC/β2m比のアンバランスにリンクしている疾患に適用される。
【0081】
本発明の意味の範囲内で、臓器移植片または移植片拒絶にリンクする病変は自己免疫疾患とも、免疫系による「非自己」の認識の欠陥に起因する疾患とも見なされない。正確に言うと、ここでは移植片拒絶は免疫系による「非自己」の認識により生じると見なされ、「自己」の認識の欠陥とは見なされない。
【0082】
本発明者らがいろいろな患者において実施した分析は、全リンパ球タンパク質に基づいて計算して1.2超のHC/β2m比が少なくとも以下の疾患、すなわちリウマチ性多発性関節炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、強皮症、線維筋痛、筋炎、強直性脊椎炎、I型インスリン依存性糖尿病、橋本甲状腺炎、アジソン病、クローン病、セリアック病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び多発性硬化症(MS)で観察され得ることを示している。科学界でなお論争中の問題であるが、ALSは得られた結果にてらして自己免疫疾患に似ている。
【0083】
本発明は、より特に膜MHC−I複合体のHC/β2m欠乏を軽減するために血液β2mの比を2.5〜12mg/lの間、好ましくは3〜8mg/lの間、より好ましくは3〜5mg/lの間の濃度に上昇させるための薬剤の開発に関する。
【0084】
下記するように、本明細書の実験部分では、本発明の薬剤はβ2mまたはその機能変異体を含むリポソーム調製物から構成され得る。リポソームは、本明細書の実施例の欄に例示されているような当業者に公知の各種技術を用いて製造され得る。リポソームを構成する各種脂質を使用し得る[Medical Application of Liposomes(1986),Kunio Yagi編,Japan Scientific Societies Press,Tokyo,Karger]。
【0085】
この点で、本発明の好ましい薬剤はβ2mを負荷したリポソームから構成される。
【0086】
好ましくは、β2mまたは該タンパク質の機能変異体が上記リポソーム調製物中に含有される唯一の活性成分を構成する。
【0087】
β2mを起こり得るタンパク質分解攻撃から保護でき、また特に細胞膜を構成するリン脂質とリポソームの融合によりMHC−I複合体を標的とするようにβ2mをデリバリーできるので、本発明に従うリポソームは薬剤として使用することが有利である。
【0088】
本発明の別の態様によれば、β2mまたはその機能変異体の1つをコードする遺伝子治療ベクターはインビボで、好ましくはMHC複合体の環境でタンパク質を合成するために使用される。このような遺伝子治療ベクターはリポソーム中に含有され得る。
【0089】
よって、本発明は、β2mまたはその機能変異体を活性成分としてインビボまたはエキソビボで発現させるステップを含む遺伝子治療方法にも関する。この目的のためにβ2mタンパク質を発現させるべく文献に記載されている各種タイプのウイルスまたは非ウイルスベクターが改変され得る[Urnovら(2005),Highly efficient endogenous human gene correction using designed zinc−finger nucleases,Nature,435:577−579]。好ましくは、本発明に従う遺伝子治療ベクターにより、他の活性成分、好ましくは他のポリペプチドを除くβ2mタンパク質(またはその機能変異体)をヒト体内で発現させることができる。
【0090】
本発明の態様によれば、患者はβ2mまたは該タンパク質を発現するベクターを含有するリポソームの溶液を潅流させることにより、または前もってβ2mと接触させた患者のリンパ球を輸注することにより治療され得る。この接触配置は同一患者から予め採取した血液のサンプルから抽出したリンパ球をエキソビでインキュベートすることにより実施され得る。
【0091】
本発明の好ましい態様によれば、β2mを含む薬剤は食塩水形態で調製される。薬剤を製造するための好ましい方法は、食塩水形態のβ2mを薬物治療しようとする患者の血清と接触させてエキソビボでインキュベートすることからなる。
【0092】
本発明に従う上記した医薬組成物は、経口投与、注射、輸注または吸入のために当業者に公知の適切な形態をとり得る。
【0093】
本発明の別の態様は、MHC I複合体のHC/β2m比をインビボまたはインビトロで測定することによる自己免疫疾患の診断、より特に上に挙げた疾患の診断に関する。
【0094】
本発明に従う診断方法は、好ましくは
i)自己免疫疾患をスクリーニングしようとする患者から細胞、好ましくはリンパ球を採取する;
ii)これらの細胞からMHC I複合体を抽出する;及び所要により
iii)複合体中に含有されているHC及びβ2mのそれぞれの量を測定する;
iv)HC/β2mモル比を算定する;及び
v)得られたHC/β2m比を予め他の患者から得た結果と比較する;
から構成されるステップの1つ以上を含む。
【0095】
HC/β2m比は、細胞の全体(HC/β2m細胞比)、または好ましくは膜(膜MHC I複合体のHC/β2m比)について算定され得る。好ましくは、本発明に従う診断方法は、HC/β2m比を対照のものと比較する、または患者のモニターに関連しては他の前もって求めた比と比較するステップを含む。
【0096】
HC及びβ2mのタンパク質のそれぞれの量は当業者に公知の方法に従って、例えば定量的免疫検出(例えば、ELISA、イムノブロット、「ウェスタンブロット」、自己抗原マイクロアレー等)により標準方式で測定され得る。MHC−I複合体の抽出は細胞及び膜タンパク質を抽出する公知プロトコルに従って実施する。
【0097】
本発明に従う診断方法は、各種自己免疫疾患を患っている患者の治療モニタリングに関連して実行され得る。
【0098】
下記実施例は、本発明の範囲を限定することなく本発明の説明を補足するために意図されている。
【実施例】
【0099】
1−自己免疫疾患を患っている患者におけるリンパ球のHLA−I膜複合体の成分の分析
理論に束縛されないが、本発明者らはHC/β2m比が上昇すると自己免疫タイプの反応が生じる恐れがあるという作業仮説を展開した。特に、本発明者らはMHC−I複合体のレベルでのHCの過剰及び/またはβ2mの低下によりTcRに対する「自己」の露出過度の現象が生じ得ると考えた。β2mはHCのある領域を保護し、CD 8 T−細胞に対する「非自己」の提示を特異的に決定することに注目されたい[Hill,D.M.ら(2003),A dominant negative mutant β2−microgobulin blocks the extracellular folding of major histocompatibility complex class I heavy chain,JBC,278:5630−5638]。
【0100】
この仮説を確かめるために、4人の患者のリンパ球から抽出したMHC I複合体中のHC及びβ2mのモル量を測定する第1の分析を行った。これらの分析の結果を表1に示し、注釈を加えた。
【0101】
リンパ球を健康なドナー及び患者の血液からHofman F.M.ら[Ann.J.Clin.Pathol.(1982),77:710−716]が改変したLightbody J.[Manual of Clinical Immunology,Rose NR.,Friedman H.編集者,American Society for Microbiology,Washington(DC),1976,p.851−857]の方法に従って単離した。MHC−I複合体を全リンパ球または少し改変したWarley A.ら[Biochim.Biophys−Acta(1973),323:55−66]の方法に従って作成した血漿膜上で検出する。MHC−Iのタンパク質成分の検出はLaemmli U.K.[Nature(1970),227:680−685]に従って電気泳動(SDS−PAGE系)することにより、次いでTowbin H.ら[Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1979),76:4350−4354]の方法に従ってPVDFの膜に電気伝達し、イムノブロッティングすることにより実施した。暴露はNBT−DCIP混合物を用いてアルカリホスファターゼにカップリングした二次抗体により実施した。
【0102】
血漿膜を単離し、後記するグルタルアルデヒドへの結合方法を使用することにより多くの重鎖が実際膜起源であることを確認した。
【0103】
先に示したように、MSの4つの他の症例及びクローン病の2つの症例はHC/β2m>1の細胞比を示す。これらの所見は、出願人に特にリポソームを使用することによりHC/β2m(MHC−I)のバランスを戻すことができる実験的アプローチを開発することを刺激した。
【0104】
2−β2mを負荷したリポソームの作成
2.1 患者にデリバリーしようとするβ2mの量の評価
リンパ球の表面上のβ2mを過剰とするためには、増殖の可能性を有する細胞上のシグナリングチャネルをトリガーしないように血液中のその濃度を「合理的」限界の範囲内で上昇させなければならない。
【0105】
β2mが膜から脱離して、血液及び腎臓系中を循環する能力を考えると、血液β2m濃度を3mg/l〜8mg/l(正常濃度は約2mg/l−血液で変わる)の範囲内としなければならない。このように上昇させると、β2mは細胞の表面に吸着する。
【0106】
I型の主要組織適合遺伝子複合体はモル/モルの重鎖(MW≒43kDa)及びβ2m(MW≒12kDa)から構成されていることに注目されたい。よって、複合体(MW≒55kDa)は重量基準で79%の重鎖及び21%の軽鎖から構成される。
【0107】
リンパ球の平均タンパク質含量は650×10−12gであり、その血漿膜のタンパク質含量はその全含量の1%のみ、すなわち6.5×10−12gに相当する。MHC−Iのみは静止期リンパ球の膜タンパク質の全含量の多くとも1%に相当し、よってβ2m含量は約1.4×10−14g/リンパ球であると考えられる。
【0108】
平均生理学的パラメーター2×10リンパ球/ml−血液及び5リッターの血液/個人を採用することにより、全MHC−I/個人(リンパ球に関して)の「重量」範囲は1.4×10−6g〜1.8×10−6gのリンパ球β2mである。これらの数字は、我々の最初の推定が優先的に患者において平均で0.2×10−9〜500×10−9gの範囲の値を示している最大数てある。血液中の平均量は10mgのβ2m/個人、すなわちリンパ球の表面上に存在するより非常に実質的に多い量であるので、正常な状態では実質的に1未満の比が既に膜β2mと血清β2m間で存在すると思われる。よって、β2mの膜欠乏を補うために血液循環中のβ2mの比を上昇させる(そのコロイド浸透分圧を高める)ことは合理的である。
【0109】
β2mの投与は2つの方法で実施し得る:
(1)β2mを負荷したリポソームの投与。このタイプの医薬担体はペプチド、抗体、遺伝物質等の投与のために流通している。リポソーム(「人工」または合成膜)を使用すると、細胞表面と活性成分間の接触が促進される;
(2)食塩水形態の活性成分を投与前に患者の血清とインキュベートする。このインキュベーションの目的は、血清のリポタンパク質をりポソームのようにベクターとして働かせることである。
【0110】
方法1または2による投与のためのβ2mのリンパ球への取り込みの程度を対照の投与と比較し得る。後者の場合、β2m食塩水潅注を0.10mg/ml(全容量150ml)で投与し、これにより3mgのβ2m/L−血液(“バッチ15”と称される15mgのβ2m/150mlのリポソーム溶液のバッチ)が与えられる。
【0111】
2.2 リポソームの製剤化
リポソーム(1mlの場合)を製造するために、成分を含有するジクロロメタン(CHCl)を窒素下で蒸発乾固させた後、場合によりコレステロールを添加して、場合によりスフィンゴミエリンを添加して、またはコレステロール及びスフィンゴミエリンを添加して、ホスファチジルコリンを含有するフィルムを形成する。3つの化合物(ホスファチジルコリン、コレステロール及びスフィンゴミエリン)について、割合はそれぞれ10M、2M及び1M、すなわち最終溶液1mlにつき7.60mg、0.76mg及び0.38mgである。このフィルムに対して2mgのβ2mを含有する食塩水溶液(PBS 10mM,pH=7.4;ハンクス,トリス/グリシンまたはDMEM)を1ml添加する。リポソームをホスファチジルコリン(10M)、ホスファチジルコリン(10M)及びコレステロール(2M)、ホスファチジルコリン(10M)及びスフィンゴミエリン(1M)から作成したならば、各化合物に対するモル濃度は同一のままである。しかしながら、脂質成分に対して他のモル濃度を使用してもよい。タンパク質の量は異なっていてもよく、pHはケースに応じて7.4超でもよい。脂質フィルムの分散は20〜37℃の間の温度で最長3時間撹拌することにより実施する。
【0112】
リポソームを所謂「洗浄剤/透析」方法により、または所謂「抽出」方法により形成する。後者の場合、溶液(Lipofast(登録商標),Sodexim S.A.,51140 ミュイゾン,フランス国)を69バールの圧力下でポリカーボネート中に100nmのフィルター膜を介して41回通す。得られたリポソームは均質なサイズを有している。この場合、リポソームを4℃で2日間保持し、リンパ球懸濁液(直径<100nm;図4)に添加する。より大規模では、溶液(3l/時;sodexim 2770;emulsifflex c3;sodexim s.a.)を450バールの圧力下で4回通して、SUV(単ラメラ小胞)を得る。
【0113】
「プレパイロット」アッセイでは、β2mのリポソームへの取り込み、リポソームの細胞表面への吸着及びタンパク質のリポソームから細胞の内部への移動を示すために、我々は蛍光リポソームを作成した。アッセイに従って、520nmまたは572nmで蛍光を発するリポソームを作成した。このために、脂質混合物に0.5MのNBD−PC(1−オレイル−2−(−6−(((7−ニトロ−2−1,3−ベンゾオキサジアゾル−4−イル)アミノ)ヘキサノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)(490nmで励起、520nmで放出)または0.5M Liss Rhod PE(1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン−N−(リサミンローダミンBスルホニル)(アンモニウム塩)(541nmで励起、572nmで放出)を添加した後、蒸発させ、脂質フイルムを得た(上記を参照されたい)。
【0114】
プレパイロット規模で、リポソームを洗浄剤/透析方法により作成した。この技術によっても、よく検定された安定なSUVが得られた。
【0115】
簡単に説明すると、20〜37℃の間の温度で最長3時間撹拌した後、ミセル懸濁液を微小透析装置においてβ2m及び4μΜ(0.8mg/ml)のn−ヘキシル−βD−グルコピラノシドを含有する食塩水溶液に対して4℃で12時間透析する。透析膜は3.5kDaのカットオフを有し、n−ヘキシル−βD−グルコピラノシド(洗浄剤)を最終溶液中最小1ppmまで希釈する。
【0116】
得られたリポソームは直径約200nmのサイズを有している。これらは周囲温度で少なくとも3ヶ月にわたり安定であり、少なくとも0.1mgのβ2m/ml−初期溶液を含有している。
【0117】
2.3 被験リポソームのエキソビボで培養維持したリンパ球に対する適用
リンパ球のMHC複合体を標的化する目的でβ2mタンパク質をリポソーム懸濁液の形態で製剤化する適切さを示すために、リンパ球を比較的簡単な技術を用いて蛍光により検出することができるタンパク質であるアルブミンを負荷したリポソームとインキュベートした。
【0118】
ホスファチジルコリンに基づいて上記したプロトコルに従って作成したリポソームへのタンパク質の取り込み及びリポソームの適用をLiss Rhod PEを用いてエキソビボで試験した。
【0119】
DAPI(ジアミノフェニルインドール;372nmで励起、456nmで放出)の蛍光に匹敵する蛍光を示す化合物であるフルオレスカミンでマーキングすることによりタンパク質を蛍光性とした。ウシ血清から結晶化したアルブミンを、Hames B.D.ら[Gel Electrophoresis of Proteins,a practical approach,Hames BD. and Rickwood D.編,The practical Approach Series,第2版,IRL Press,Oxford,New York,Tokyo,p.67]に記載されている方法を用いてタンパク質のN末端上にフルオレスカミンを共有結合により結合させることにより蛍光性とした。ただし、マーキングは洗浄剤(SDS)を含有していないトリス−HCl(25mM)/グリシン(192mM)(pH=8.3)緩衝液を用いて実施した。先に記載したように、形成されたリポソームは2mgの蛍光アルブミン/ml−リポソーム溶液を含有している。
【0120】
次いで、0.2mlの250000個のリンパ球を含有するリンパ球の懸濁液(ハンクス/0.5mM EDTA,pH=7.4)を0.2mlのアルブミン(緩衝液25mM トリス−HCl/192mM グリシン,pH=8.3)を含有する形成されたリポソームとCO(5%)を飽和させた湿潤雰囲気中で37℃で1時間インキュベートした。
【0121】
最後に、対照リポソーム(200μl)、対照リンパ球(200μl)、及びタンパク質を負荷したリポソームで処理したリンパ球(200μl)をRakotoarivelo C.ら[Receptors to steroid hormones and aromatase are expressed by cultured motoneurons but not by glial cells derived from rat embryo spinal cord(2004),Neuroendocrinology,80:284−297]に記載されている方法を用いて処理し、ポリリシン及びラミニンで被覆したカバーガラス上に載せた。
【0122】
調製物を落射蛍光顕微鏡(Axiovert;Zeiss,ドイツ国)により直接観察するか、または水中4%(plv)パラホルムアルデヒドの溶液で30分間固定し、カバーガラスをPBS(160mM,pH=7.2)で3回濯いだ。調製物をPBS中で調製した0.1% トリトンX−100(v/v)を用いて5分間で優しく透過性とした。
【0123】
細胞を一次抗HLA−ABC抗体によりマーキングした。ある例では、細胞核をHoechst(蛍光 450nm 青色放射,DAPI)でマーキングした。家兎で産生させた一次抗体は「ウェスタンブロット」のために使用したものと同一である。一次抗体を1/50に希釈し、ヤギにおいて産生させたFITC(緑色蛍光)に結合させた二次抗体を1/160に希釈する。抗体のインキュベーションは2% ウシ血清アルブミンを含有するPBS中で実施した。×63レンズの場合、カバーガラスにFluorsave(Calbiochem,米国)を載せた。
【0124】
図2及び3の写真は、リポソームがリンパ球の表面上に吸着されており、リポソーム中に含有されているマーキングしたタンパク質がリンパ球の膜表面上に沈着していることを示している。
【0125】
結果は、我々がHC/β2m膜平衡を戻すことを提案する実験アプローチの実現可能性を明らかに立証している。
【0126】
尿から精製したヒトβ2m(Sigma,米国)を0.6mg/mlの濃度で含有している緑色蛍光を有する他のリポソームを抽出方法に従っても作成した。β2mを赤色蛍光(励起:540nm;蛍光:625nm)を有するローダミンBイソチオシアネートでマーキングした。β2m−ローダミンB結合をRiggsら[(1958),Am.J.Pathol.,34:1081−1097]に記載されている方法を用いて形成した。結合後、タンパク質をセファデックスカラム(Pharmacia,スウェーデン国,G−10:床容量9ml;カラムの内径0.7mm)を用いて精製した。カラムをPBS(Bio−rad,10mM ホスフェート,150mM NaCl,pH=8.3)中で水和した。タンパク質をmilli−Q HOで1:1希釈したPBS中に溶離した(4.5〜7.0ml)。形成されたリポソーム(図4)を類似カラムを用いて精製し(2.5〜6.5ml)、回転蒸発器(Buchi,スイス国)を用いて2回濃縮した。患者P1の血液から単離したリンパ球を先に記載したように90分間インキュベートし、蛍光顕微鏡で観察した。結果はβ2mのリンパ球の89%への取り込みを示している(図5)。
【0127】
2.4 リポソームの安定性(図6〜8)
上で得たアルブミンを含有する「被験」リポソームを各種条件下で試験して、その経時的安定性を評価した。
【0128】
安定性は、バッチ30(150mlのリポソームにつき30mgのアルブミンに相当)及び60(150mlのリポソームにつき60mgのアルブミンに相当)について時間及びインキュベーション温度に対して試験した。
【0129】
リポソームを構成する脂質は636nmolのPC及び31.8nmolのNBD−PC−オレイルから構成した。窒素流下で蒸発乾固した後、脂質の混合物を1mlの200または400μgのアルブミン(Sigma,米国)を含有するPBS(pHを7.2に調節した)(それぞれ、バッチ30及び60)を1滴ずつ用いて強く撹拌しながら可溶化する。次いで、リポソファスト−塩基系(Sodexim,フランス国)を用いて機械的に抽出することによりリポソームを得た。次いで、各バッチをセファデックスG10カラムで精製した。設定した時間に、50μlの各バッチをポリ−D−リシン/ラミニンを被覆したカバーガラス上に載せ、37℃で12時間インキュベートした。次いで、生物材料を4℃でグルタルアルデヒドを30間用いることにより結合させた。画像(1ヶ月保存時の安定性,図6)をAxiovert 200(Zeiss)落射蛍光顕微鏡を用いて撮影し、Axion visionソフトウェアアプリケーションを用いて記録した。統計研究(図7)に関して、リポソームの直径はSerfソフトウェア(http://www.org/serf)を用いて測定した。各バッチの研究毎に、リポソーム集団を3つのクラス:直径<50、50〜100nm及び>100nmに分けた。バチャートの高さは各サイズの亜群を表す。37℃で保持したバッチ60は、60日間の保存で最高の安定性を示す:リポソームの95%が<100nmの直径を有しており、これは細胞表面へのタンパク質の移動のための理想的直径である。
【0130】
バッチ80(80mgのβ2m;図8)に関して、バッチ80を汚染及び蒸発を最小限とするために25℃で6及び40日間の保存について試験した。作成方法はバッチ30及び60(アルブミン)に関して上記した方法と同じであり、ただし非蛍光β2m(533μg/ml−PBS)を使用し、精製は透析カセット(20kDaカットオフの膜,Thermo Scientific,米国)により実施した。図8のバーチャートは、この段階の保存でβ2mのリンパ球への移動のためにリポソームの98%が理想的サイズ(すなわち、直径<100nm)を維持し、これは最長40日間維持されることを示している。
【0131】
2.5 リポソームにより付与される外因性β2mのヒト血清によるタンパク質分解に対する保護(図9
血清を健康なドナー及び自己免疫疾患(橋本甲状腺炎、リウマチ性多発性関節炎)を患っているドナーから採取した。これらの血清(90μl)を2μgの純粋なβ2m(Sigma−Aldrich,米国)またはリポソーム形態のβ2m(150mlのリポソームにつき30mgのβ2mに相当するバッチ30リポソーム)の存在下25℃で15日間インキュベートした。全反応容量は130μlであり、所要によりPBS(リン酸ナトリウム10mM,塩化ナトリウム150mM,pH=7.2)を補充した。6M 尿素を含有する変性緩衝液(SDS−PAGE,レムリ)で30μlとした反応培地から10μl(150ngに相当する)を0、1、2、3、6、10及び15日目に順次取り出した。サンプルを分析まで−20℃で保持した。
【0132】
すべてのサンプルを収集した後、これらを50℃で1時間インキュベートした。次いで、タンパク質を4M 尿素を含有する12% アクリルアミドゲル(%T=12,%C=2.6)を用いてSDS−PAGEにより分離した。
【0133】
ポリビニリデンジフロリド(PVDF)膜を用いて電気泳動溶出させた後、β2mの存在をイムノブロッティングにより検出し、対応するバンドの強度をImageJ(NIH,米国)を用いて定量した。標準曲線を用いることにより、得られたピクセルの数をβ2mのピコモル(10−12モル)に変換した。図9A〜Fに示すグラフは得られた結果の例を表し、β2mの量(単位ピコモル)を経時的に表す。自己免疫疾患を患っている人では血清に添加した遊離β2mが経時的に分解し、対照ではそうではないことが注目され得る。
【0134】
結論として、遊離β2mが自己免疫患者の血清により段階的に大きく分解するが、対照では見られない。他方、この分解はβ2mをリポソーム中にカプセル化したときには観察されない。正確に言うと、量の有意な減少が観察されなかったので、リポソームはβ2mを血清による分解から保護すると見られる。
【0135】
結論として、リポソームはβ2mを血清による分解から保護する。
【0136】
2.6 リポソーム中に含有されているβ2mの膜表面上に位置するHLA I重鎖との会合(図10
健康な人及び生理学的状態では、リンパ球表面上で発現させたβ2mの分子は1:1の比でHLA重鎖に対して非共有的に結合している。
【0137】
これらのタンパク質会合を観察し、定量するために、我々は上記タンパク質の中でHLA−β2mダイマーを一緒に共有的に連結できる技術を開発した。
【0138】
この技術の開発は、正確な膜HC/β2m比を計算し、リポソーム形態のβ2mの添加がHLA−Iの重鎖に特異的に会合することを示すために必要であった。
【0139】
このために、ジアルデヒドであるグルタルアルデヒドの2個のアルデヒド基によりタンパク質のアミノ基を結合させる能力を利用した。これらのアルデヒド基は、グルタルアルデヒドを2つの相互作用するタンパク質に由来する2個のアミノ基と統計的に架橋させ得る3つのメチレンの可変鎖により一緒に連結される(Sun、T.T.ら(1974),Protein−protein proximity in the association of ribosomal subunits of Escherichia coli:crosslinking of 30S protein S16 to 50S proteins by glutaraldehyde or formaldehyde,J.Mol.Biol.,87(3):509−22)。
【0140】
この手順に従って、MSLにより精製した500万個のリンパ球を可能性ある痕跡量の遊離アミンを除去するためにPBS(pH=7.2)で1回洗浄した後、10000gで10分間遠心することによりペレット化し、上清液体は除去した。次いで、細胞を0.25% グルタルアルデヒドを含有するPBS(1ml)中周囲温度で5分間インキュベートした。このインキュベーション中、管を数回ひっくり返した。
【0141】
トリス 1M(pH=7.2)(100μl)を添加することにより反応を停止し、過剰アミン基はグルタルアルデヒドを中和トリス緩衝液より与えられた。10000gで10分間遠心することによりリンパ球を回収した後、痕跡量のグルタルアルデヒドを除去するためにPBS(1ml)で洗浄した。遠心後、ペレットを4M 尿素を含有し、アンチプロテアーゼ(Roche Diagnostics GmBH,ドイツ国)及び5% β−メルカプトエタノールを含むレムリ緩衝液(400μl)中に回収し、分析するまで−20℃で保持した。
【0142】
細胞を溶解させるために、サンプルに3回の凍結−融解サイクルを施し、強く回転させた。次いで、サンプルを95℃で5分間インキュベートし、不溶性残渣を除去するために4000gで10分間遠心した。タンパク質(125000個のリンパ球に相当する10μlのホモジネート)を定電圧(120V)下で4M 尿素を含有する10%(%T=10,%C=2.6)のアクリルアミドゲルを用いるSDS−PAGEにより分離した。こうして分離したタンパク質をトリス−グリシン緩衝液の存在下、13Vで前もってメタノールで活性化したPVDF膜上に半乾燥で40分間かけて移した。
【0143】
1/600に希釈した一次抗β2m抗体(DakoCytomation,デンマーク国)と周囲温度で1時間、次いでアルカリホスファターゼにカップリングさせ、1/20000に希釈した二次抗家兔抗体(Sigma−Aldrich,米国)と再び1時間インキュベートすることによりβ2mを検出した。得られたバンドの強度の定量はImageJソフトウェアアプリケーション(NIH,米国)を用いて実施した。
【0144】
図10Aは得られたゲルの写真を示す。グルタルアルデヒドの存在下で、12kDaの通常のバンドに加えて55kDaにバンドが見られる。この55kDaのバンドは、分子量がβ2m分子及び重鎖の分子量の付加:12+43kDa=55kDaに相当するHLA−β2m複合体に相当する。同一レーン上の12kDaのバンドは遊離非複合化β2mに相当する。各バンドの強度を定量した後、12及び55kDのこれらの2つのバンドの累積強度が「グルタルアルデヒドなしの」レーン中の12kDaのバンドの強度に相当し、全β2mに相当する。グルタルアルデヒドあり及びなしのいずれのレーンでも、同一数のリンパ球に相当する全タンパク質の同一量が沈着した。
【0145】
55kDaのバンドの定量が実際リンパ球表面上に存在するHLA−β2m複合体の量を与えるという証拠を得るために、平行してリンパ球から血漿膜を精製するための技術を使用した。この技術により、我々は明確にリンパ球血漿膜のタンパク質を研究できた。膜β2mの存在を調べ、定量した(図10Bを参照されたい)。得られた結果は55kDaのバンドの定量に匹敵し、このバンドが実際膜HLA−β2m複合体に相当することを確認する。更に、全β2mに対する膜β2mの割合(図10B)は55kDaバンド/全β2m 12kDaバンドの強度の比に等しい(図10A)。
【0146】
こうして確認されたグルタルアルデヒド技術を使用して、ヒト血液から単離したリンパ球へのリポソームにより運ばれるβ2mの取り込みの程度を調べ、定量した。
【0147】
対照として使用される一人の健康なドナー及び多発性硬化症を患っている他のドナーの2人のドナーを選択した。第2のドナーはHLA−Iの重鎖に比して膜β2mが欠乏しているために選択された。この患者は1.7に等しい膜HC/β2m比を有し、これはリンパ球膜がβ2mよりも重鎖を69%より多く含有していることを意味する。
【0148】
2人のドナー(25mlの血液)からのリンパ球を各4mlの2つのバッチに分離した。150mlにつき40mgの濃度でβ2mを含有している2mlのリポソーム(バッチ40)を4mlのリンパ球に添加した。Tリンパ球を直ちに集め、PBSで洗浄した。T90でサンプリングしたリンパ球をリポソームと37℃で90分間インキュベートした後、収集し、未反応の過剰のリポソームを除去するためにPBSで洗浄した。
【0149】
2つの条件の各々の下で、我々はグルタルアルデヒドで処理したまたは処理しなかったリンパ球の2つの集団を分析した(上述のプロトコルを参照されたい)。
【0150】
各条件下で、全タンパク質をSDS−PAGEにより分離し、ウェスタンブロットにより明らかにした。得られた結果を図10Cに示し、我々は定量後、対照とは対照的にグルタルアルデヒドの存在下で(HLA−β2m複合体を表す)55kDaバンドの強度がTに比してT90で55%増加することを知見した。
【0151】
この増加は、患者におけるリンパ球表面上に遊離HLA−1鎖を存在させるβ2mの欠乏と一致する。すなわち、重鎖は実際リポソームにより与えられる外因性β2mと会合している。
【0152】
実行した実験アプローチにより、本発明の治療概念を提供することを証明できた。すなわち、
・リンパ球表面にリポソーム形態の外因性β2mを付加することによりHLA−β2mバランスを再構築することができる。
・β2mが欠乏している患者はβ2mの取り込みを必要としない対照よりもより多くのβ2mを取り込むことができる。
・取り込まれたβ2mは実際遊離HLA分子と会合してHLA−β2mダイマーを形成する。
【0153】
要するに、得られた実験データから、β2mのリポソーム調製物を使用すると生理学的正常に近い、すなわち1に近似のHC/β2m比を再構築する目的で遊離重鎖(HC/β2m>1)を提示するリンパ球を標的することができることが確認される。
【0154】
3−β2mのリポソーム組成物の毒性分析
リポソーム形態のβ2mを、ヒト起源の肝臓、腎臓、骨格筋及び心臓細胞の培養物に対するその可能性ある毒性についてインビトロで試験した。
【0155】
3.1 被験細胞の型
被験細胞及び培地はSciencell Research Laboratories(6076 Corte Del Cedro,カリフォルニア州カールズバッド)から購入した。
【0156】
a.HCF:初代ヒト心臓線維芽細胞,バッチNo.2136
培地:FM(線維芽細胞培地),バッチNo.5673+線維芽細胞増殖溶液,バッチNo.5863+FBS 10%+ペニシリン溶液(100U/ml)−ストレプトマイシン(100μg/ml),バッチNo.5917
b.HREpiC:初代ヒト腎臓上皮細胞,バッチNo.0546
培地:上皮細胞培地,バッチNo.5967+上皮細胞増殖溶液,バッチNo.5855+FBS 10%+PS
c.HH:初代ヒト肝細胞,バッチNo.4607
培地:HM(肝細胞培地),バッチNo.5933+肝細胞増殖溶液,バッチNo.5722+FBS 10%+PS
d.HSkMC:初代ヒト骨格筋細胞,バッチNo.5606
培地:骨格筋細胞培地+SkMGS+FBS 10%+PS
培養フラスコまたは皿を37℃、5% CO及び飽和湿度のインキュベーター(Sanyo)中に置いた(バッチは0.22μm,Nanopure,Thermo−Fisherで濾過した超純水を含有している)。
【0157】
初代ヒト細胞のための培養基質は、インキュベーターにおいて2μg/cmのポリ−L−リシン(Clinisciences;Sciencell Research Laboratories,バッチNo.5826,溶液:10mg/ml)と一晩インキュベートし、接種前に滅菌超純水で2回濯いだ細胞培養処理プラスチック(TPP,スイス国)である。
【0158】
3.2 細胞層の脱離及び解離
作成した培地を培養フラスコから取り出し、層を滅菌PBS(SIGMA,バッチNo.088K2356)で濯ぎ、次いで0.05% トリプシン(SIGMA トリプシンRef T−1426,バッチNo.020M7354)、EDTA 0.2g、NaCl 8g、KCl 0.4g、NaHCO 0.58g、グルコース 1g(SIGMA)、1リッターまで超純水の溶液で処理することにより、細胞層の脱離を実施した。溶液は0.22μ孔径の膜濾過(PES),CML バッチNo.668919)により滅菌し、トリプシン溶液の容量をフラスコの種類に調節し(例えば、25cmのフラスコの場合1ml)、培養フラスコは37℃(Sanyoインキュベータ)で3〜4分間放置した。
【0159】
細胞をその基質から脱離させたら、脱離を培地の存在下で血清(トリプシンの酵素作用の阻害)をピペット(細胞型応じて5〜10ml)に出し入れしながら実施した。
【0160】
3.3 毒性試験
細胞を光学顕微鏡(Nikon)の下Thoma細胞(Thermo Fisher)を用いてカウントし、96ウェルの細胞培養処理プラスチック(NUNC,バッチNo.114754)の平底培養皿を用いて200μlのそれぞれの培地中に5000細胞/ウェルの量で接種し、作成後皿をインキュベーター中に24時間置いた。被験物質の各種希釈物を100μlの抗生物質なしの培地において3回濃縮し、抗生物質は処理のため200μlの各ウェルに添加した(全容量:300μl)。24時間、48時間及び72時間目に、処理ウェル及び対照ウェルを細胞毒性を評価するためにプロトコルに従ってMTT(ブルーテトラゾリウム臭化チアゾリル)[Liu Y.ら(1997),Mechanism of cellular MTT reduction,J.Neurochem.,69:581−593]及びタンパク質の量(Ref 23227、BCAタンパク質アッセイキット;Pierce)について調べた。
・最終濃度25μg/mLのためにMTT溶液の添加、
・37℃で1時間のインキュベーション
・培地の吸引、
・100μL(飽和DOならば200μL)のDMSOの添加、
・皿(Biorad)の490nmでの測定、
・Excelを用いるコンピューター処理、
・空ウェル(ブランク)を用いるバックグラウンドノイズの引き算、
・DO Xウェル/DO対照ウェルの比を決定する、
・前記比の薬物濃度に対する曲線をトレースする。
【0161】
毒性を治療の24時間及び48時間目、すなわちt+48h及びt+72hに調べた。
【0162】
図11及び12は、たとえ高量(バッチ132)でもリポソーム被覆β2mは、β2mに対して感受性である肝細胞及び腎細胞の生存率に悪影響を与えないことを明らかに示している。同じことが心臓起源の細胞及び骨格筋細胞(結果示さず)にも当てはまる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12