特許第6703982号(P6703982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6703982
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】脂質およびリポソームの安定な製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20200525BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A61K9/127
   A61K47/24
   A61K47/18
   A61K31/7088
   A61K31/711
   A61K31/7105
   A61K48/00
【請求項の数】17
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2017-516418(P2017-516418)
(86)(22)【出願日】2015年9月17日
(65)【公表番号】特表2017-532322(P2017-532322A)
(43)【公表日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】EP2015071344
(87)【国際公開番号】WO2016046060
(87)【国際公開日】20160331
【審査請求日】2018年7月11日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2014/070503
(32)【優先日】2014年9月25日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515145032
【氏名又は名称】バイオエヌテック エールエヌアー ファーマシューティカルズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】BIONTECH RNA PHARMACEUTICALS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】ハース, ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】エスパルザ ボルケス, イサーク エルマン
【審査官】 伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−535730(JP,A)
【文献】 VERNOOIJ, E.A.A.M. et al.,J Control Release,2002年,Vol.79,p.299-303
【文献】 GRIT, M. et al.,Int J Pharm,1989年,Vol.50,p.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 31/00
A61K 48/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)−1,2−ジ−(9Z−オクタデセノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)と、1,2−ジ−O−オクタデセニル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)を含むリポソームと、ならびに
−少なくとも1つのpH調整剤と、
を含む水性リポソーム分散液であって、2〜5.5のpHを有する水性リポソーム分散液と、
(ii)別の容器中の、医薬的に活性な核酸であって、6〜8のpHを有する緩衝液中で提供される医薬的に活性な核酸、
を含むキット
【請求項2】
前記リポソームが生理的pHでカチオン性である、請求項1に記載のキット
【請求項3】
前記水性リポソーム分散液は2〜5、好ましくは2.5〜5、より好ましくは3〜4.5、さらに好ましくは3〜4、およびさらにより好ましくは3.5〜4のpHを有する、請求項1または2に記載のキット
【請求項4】
DOTMA対DOPEのモル比が1:4〜4:1、好ましくは1:2〜4:1である、請求項1から3のいずれかに記載のキット
【請求項5】
前記少なくとも1つのpH調整剤が酸および/または酸性緩衝液を含む、請求項1から4のいずれかに記載のキット
【請求項6】
前記酸が、線状、分枝または環状C1−C28、好ましくはC1−C22カルボン酸である、請求項5に記載のキット
【請求項7】
前記酸が、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、塩酸、リン酸、分枝または非分枝、飽和、一価不飽和または多価不飽和C12−C28脂肪酸、好ましくはC12−C22脂肪酸(例えばオレイン酸)から成る群より選択される、請求項5または6に記載のキット
【請求項8】
前記酸性緩衝液が、請求項6または7で定義された酸に基づく、請求項5に記載のキット
【請求項9】
前記酸性緩衝液が、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液および炭酸緩衝液から成る群より選択される、請求項5または8に記載のキット
【請求項10】
前記少なくとも1つのpH調整剤が酢酸および/または酢酸緩衝液を含む、請求項1から9のいずれかに記載のキット
【請求項11】
前記少なくとも1つのpH調整剤が、全脂質対前記少なくとも1つのpH調整剤のモル比が100:1を超えない量で存在する、請求項1から10のいずれかに記載のキット
【請求項12】
前記少なくとも1つのpH調整剤が、全脂質対前記少なくとも1つのpH調整剤のモル比が10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5、より好ましくは2:1〜1:2、さらに好ましくは1.5:1〜1:1.5、さらにより好ましくは約1:1である量で存在する、請求項11に記載のキット
【請求項13】
DOPEの加水分解速度が、6〜7のpHでのその加水分解速度に比べて低下している、請求項1から12のいずれかに記載のキット
【請求項14】
前記少なくとも1つのpH調整剤が前記リポソームと会合している、請求項1から13のいずれかに記載のキット
【請求項15】
記医薬的に活性な核が、DNAまたはRNAである、請求項1から14のいずれかに記載のキット。
【請求項16】
医薬組成物を調製する方法であって、
−請求項1から1のいずれかで定義される水性リポソーム分散液を提供すること;および
−前記水性リポソーム分散液を医薬的に活性な核酸と混合すること
を含み、前記医薬的に活性な核酸は、6〜8のpHを有する緩衝液中で提供される、方法。
【請求項17】
前記医薬的に活性な核が、DNAまたはRNAである、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増大した化学的安定性を有する水性脂質および/またはリポソーム製剤、そのような水性製剤を調製する方法ならびにそれらを含むキットに関する。本発明はさらに、脂質ベースの医薬組成物を調製する方法、そのような方法によって調製される医薬組成物ならびに水性脂質製剤および/またはリポソーム製剤を化学的に安定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中の脂質は、しばしばリオトロピック脂質相と称される、種々の形態のラメラまたは非ラメラ(例えば立方もしくは六方)相に存在し得る。例えばリポソームは、水に分散した単層または多層自己閉鎖性脂質二重層から成る。より一般的な言い方をすれば、それらは、脂質がラメラ形態に組織化されているコロイド系とみなし得る。リオトロピック脂質相を含むこれらの系の多くは、薬物送達または他の適用のための医薬製剤として興味深い。そのような脂質ベースの医薬製品を臨床の場に持ち込むために求められることの1つは、製造後に十分な保存可能期間を提供できることである。ここで、他の基準に加えて、リポソーム形成脂質の化学的安定性が制限因子であり得る。リポソームは、典型的にはリン脂質または関連化合物から構築される。リン脂質は、エステル結合によってトリグリセリド骨格に連結された脂肪酸から成る。これらのエステル結合は化学的加水分解を受けやすく、この加水分解は酸性または塩基性条件下で加速される(酸性または塩基性エステル加水分解)。リポソームまたはリオトロピック脂質相として存在する他の系が水相中で数か月または数年間保存される場合、エステル加水分解は保存可能期間の安定性にとって制限因子となり得る。
【0003】
酸性または塩基性条件下でのエステル加水分解の加速を考慮して、脂質に関する最良の安定性または最も低い加水分解速度は、通常6〜7のpH範囲にあると予想される。加水分解を防ぐ他の選択肢は、リポソームの凍結および/または凍結乾燥である(Chen et al., 2010;van Winden and Crommelin, 1999;Stark et al., 2010)。リポソームの凍結および凍結乾燥のためのプロトコルは文献に報告されている。しかし、これらの付加的な技術工程は、同時に製造をより複雑でより費用のかかるものにする。多くの場合、凍結保護物質を添加する必要があるが、これはある種の製品に関しては不可能であるかまたは望ましくないと考えられる。例えば、凍結保護物質の存在および/または凍結/凍結乾燥自体が、望ましくない方法で製品特性に影響を及ぼし得る。それゆえ、液体リポソーム調製物の長期安定化はまだ満たされていない要求である。これに関連して、リポソームまたは、より一般的に言えば、液(水)相中のコロイド的に分散した脂質の加水分解を最小限に抑える技術にはかなりの関心が寄せられている。これは、リポソームが医薬製品としての使用を意図される場合に殊に当てはまり、というのは、その場合安定化方法がそのような製品に対する規制上の要件および技術的要件を満たしていなければならないからである。これに関連する最大の課題は非経口(例えば静脈内)投与用の製品であり、これらの製品では、とりわけ、無菌性、賦形剤の選択、イオンおよびpH条件または微粒子組成に関する一定の基準を満たさねばならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水性製剤に製剤された脂質および/またはリポソームの安定性、殊に化学的安定性を増大させ、それによりこれらの製剤の保存期間の安定性を高める方法および手段を提供することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0005】
最初の態様では、本発明は、
−エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質、ならびに
−少なくとも1つのpH調整剤
を含み、2〜5.5のpHを有する水性製剤に関する。
【0006】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質の少なくとも1つはカチオン性脂質である。1つの実施形態では、カチオン性脂質は、本明細書で定義されるカチオン性脂質である。
【0007】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質の全体的な正味電荷は正である。
【0008】
1つの実施形態では、水性製剤は、2〜5、好ましくは2.5〜5、より好ましくは3〜4.5、さらに好ましくは3〜4、さらにより好ましくは3.5〜4のpHを有する。
【0009】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質は、グリセロ脂質および/またはグリセロリン脂質を含む。
【0010】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質は、カチオン性脂質および/または非カチオン性脂質を含む。
【0011】
1つの実施形態では、カチオン性脂質は、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2−ジオレオイルオキシ−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)および異なる組成のアシル鎖部分を有するこれらの分子の類似体から成る群より選択される。
【0012】
1つの実施形態では、非カチオン性脂質は中性脂質であり、ここで、好ましくは、中性脂質は、1,2−ジ−(9Z−オクタデセノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)、ホスファチジルコリン(PC)およびジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)から成る群より選択される。
【0013】
1つの実施形態では、非カチオン性脂質はアニオン性脂質であり、ここで、好ましくは、アニオン性脂質は、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(phosphatidylglyerol)(PG)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)から成る群より選択される。
【0014】
1つの実施形態では、水性製剤は、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質をさらに含む。
【0015】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質は、カチオン性脂質および/または非カチオン性脂質を含む。
【0016】
1つの実施形態では、カチオン性脂質は、1,2−ジ−O−オクタデセニル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、1,2−ジオレイルオキシ−N,N−ジメチルアミノプロパン(DODMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウム(DODA(Br)/DDAB)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−1,3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)および異なる組成のアシル鎖部分を有するこれらの分子の類似体から成る群より選択される。
【0017】
1つの実施形態では、非カチオン性脂質は中性脂質であり、ここで、好ましくは、中性脂質はコレステロール(Chol)およびスフィンゴミエリン(SM)から成る群より選択される。
【0018】
1つの実施形態では、非カチオン性脂質はアニオン性脂質である。
【0019】
1つの実施形態では、水性製剤は、少なくとも1つのカチオン性脂質および少なくとも1つの非カチオン性脂質を含む。
【0020】
1つの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質対少なくとも1つの非カチオン性脂質のモル比は1:4〜4:1、好ましくは1:2〜4:1である。
【0021】
1つの実施形態では、全脂質に対する少なくとも1つのカチオン性脂質のモル分率は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%である。
【0022】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は酸および/または酸性緩衝液を含む。
【0023】
1つの実施形態では、酸は、線状、分枝または環状C1−C28、好ましくはC1−C22カルボン酸である。
【0024】
1つの実施形態では、酸は、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、塩酸、リン酸、分枝または非分枝、飽和、一価不飽和または多価不飽和C12−C28脂肪酸、好ましくはC12−C22脂肪酸(例えばオレイン酸)から成る群より選択される。
【0025】
1つの実施形態では、酸性緩衝液は上記で定義された酸に基づく。
【0026】
1つの実施形態では、酸性緩衝液は、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液および炭酸緩衝液から成る群より選択される。
【0027】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は酢酸および/または酢酸緩衝液を含む。
【0028】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は、全脂質対少なくとも1つのpH調整剤のモル比が100:1を超えない量で存在する。
【0029】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は、全脂質対少なくとも1つのpH調整剤のモル比が10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5、より好ましくは2:1〜1:2、さらに好ましくは1.5:1〜1:1.5、さらにより好ましくは約1:1である量で存在する。
【0030】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質の加水分解速度は、6〜7のpHでのその加水分解速度に比べて低下している。
【0031】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質はリポソームを形成する。
【0032】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤はリポソームと会合している。
【0033】
さらなる態様では、本発明は、上記で定義された水性製剤を調製する方法であって、
−少なくとも1つのpH調整剤を含み、および2〜5.5のpHを有する水溶液中でリポソームを形成すること、または
−リポソームを含む水溶液に、水溶液のpHを2〜5.5のpHに調整するために少なくとも1つのpH調整剤を添加すること
を含む方法に関する。
【0034】
別の態様では、本発明は、上記で定義された水性製剤を含むキットに関する。
【0035】
1つの実施形態では、キットはさらに、別の容器中に、医薬的に活性な化合物を含み、ここで、好ましくは、医薬的に活性な化合物は核酸、好ましくはDNAまたはRNAを含む。
【0036】
1つの実施形態では、核酸は、6〜8のpHを有する緩衝液中で提供される。
【0037】
さらに別の態様では、本発明は、医薬組成物を調製する方法であって、
−上記で定義された水性製剤を提供すること;および
−水性製剤を医薬的に活性な化合物と混合すること
を含む方法に関する。
【0038】
1つの実施形態では、医薬的に活性な化合物は、核酸、好ましくはDNAまたはRNAを含み、ここで、好ましくは、核酸は6〜8のpHを有する緩衝液中で提供される。
【0039】
さらなる態様では、本発明は、上記で定義された方法によって調製される医薬組成物に関する。
【0040】
別の態様では、本発明は、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質を含む水性製剤を化学的に安定化する方法であって、
−水性製剤のpHを2〜5.5のpHに調整すること
を含む方法に関する。
【0041】
1つの実施形態では、化学的安定化は、エステル結合、チオエステル結合および/またはアミド結合の加水分解の阻害によって生じる。
【0042】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質の少なくとも1つはカチオン性脂質である。1つの実施形態では、カチオン性脂質は上記で定義されたとおりである。
【0043】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質の全体的な正味電荷は正である。
【0044】
1つの実施形態では、pHを、2〜5、好ましくは2.5〜5、より好ましくは3〜4.5、さらに好ましくは3〜4、さらにより好ましくは3.5〜4のpHに調整する。
【0045】
1つの実施形態では、水性脂質製剤のpHを、少なくとも1つのpH調整剤、好ましくは上記で定義された少なくとも1つのpH調整剤を添加することによって調整する。
【0046】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質は、上記で定義されたとおりである。
【0047】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質はリポソームを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1は、異なるpH値を有する分散溶液中で調製したDOTMA/DOPEリポソーム分散液から回収されたDOPEのパーセンテージを示す。リポソーム分散液を37℃で保存し、様々な時点で試料を採取した。
図2図2は、酢酸(HAc)または様々な濃度の酢酸緩衝液(AcB)の存在下で調製した異なるpH値を有するDOTMA/DOPEリポソーム分散液から回収されたDOPEのパーセンテージを示す。分散液を40℃で5週間保存した。
図3図3は、pH値の関数としての、ストレスを与えたDOTMA/DOPEリポソーム分散液から5または6週間後に回収されたDOPEのパーセンテージを示す。3つの独立した実験からの結果を示す。
図4図4は、pH値の関数としての、40℃で2週間後のDOTAP/DOPEリポソームからの脂質回収のパーセンテージを示す。
図5図5は、5℃、25℃または40℃で3か月間保存した後の5mM酢酸(HAc)を含むまたは含まない注射用水中のDOTMA/DOPEリポソームからのDOPE回収のパーセンテージを示す。
図6図6は、pH安定化リポソームまたは非pH安定化リポソーム(標準品)を用いて調製した、ルシフェラーゼをコードするRNAリポプレックスを注射したマウスにおける生物発光シグナルを示す。
図7A図7は、5℃(A)、25℃(B)または40℃(C)での、注射用水中(L1)または5mM酢酸を含む注射用水中(L2)のDOTMA/DOPEリポソームにおけるDOPEの安定性を示す。リポソームはGMP条件下またはGMP様条件下で調製した。
図7B図7は、5℃(A)、25℃(B)または40℃(C)での、注射用水中(L1)または5mM酢酸を含む注射用水中(L2)のDOTMA/DOPEリポソームにおけるDOPEの安定性を示す。リポソームはGMP条件下またはGMP様条件下で調製した。
図7C図7は、5℃(A)、25℃(B)または40℃(C)での、注射用水中(L1)または5mM酢酸を含む注射用水中(L2)のDOTMA/DOPEリポソームにおけるDOPEの安定性を示す。リポソームはGMP条件下またはGMP様条件下で調製した。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明を以下で詳細に説明するが、本発明は本明細書で述べる特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することだけを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図せず、本発明の範囲は付属の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および学術用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0050】
以下において、本発明の要素を説明する。これらの要素を具体的な実施形態と共に列挙するが、それらを任意の方法および任意の数で組み合わせて付加的な実施形態を創製し得ることが理解されるべきである。様々に説明される実施例および好ましい実施形態は、本発明を明確に説明される実施形態だけに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明確に説明される実施形態を多数の開示される要素および/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を裏付け、包含することが理解されるべきである。さらに、本出願で述べるすべての要素の任意の置換および組合せは、文脈上特段示されない限り、本出願の説明によって開示されているとみなされるべきである。
【0051】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、"A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)", H.G.W.Leuenberger, B.Nagel, and H.Koelbl, Eds., Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland, (1995) に記載されているように定義される。
【0052】
本発明の実施は、特段指示されない限り、当分野の文献(例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, J.Sambrook et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor 1989参照)中で説明される化学、生化学、細胞生物学、免疫学および組換えDNA技術の従来の方法を用いる。
【0053】
本明細書および以下の特許請求の範囲全体を通して、文脈上特に必要とされない限り、「含む」という語および「含むこと」などの変形は、記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含を意味するが、いかなる他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の排除も意味しないと理解され、しかし一部の実施形態では、そのような他の成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群が排除され得る、すなわち主題が記述される成員、整数もしくは工程または成員、整数もしくは工程の群の包含に存する。本発明を説明することに関連して(特に特許請求の範囲に関連して)使用される「1つの」および「その」という用語および同様の言及は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書中の値の範囲の列挙は、単にその範囲内に含まれる各々別々の値を個別に言及することの簡略化された方法であることを意図する。本明細書で特に指示されない限り、各個別の値は、本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。本明細書で述べるすべての方法は、本明細書で特に指示されない限りまたは文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的な言語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、特許請求される本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、本発明の実施に必須の特許請求されない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0054】
いくつかの資料が本明細書の本文全体にわたって引用される。上記または下記で、本明細書において引用される資料(すべての特許、特許出願、学術出版物、製造者の仕様書、指示書等を含む)の各々は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先行発明を理由にそのような開示に先行する権利を有さないことの承認と解釈されるべきではない。
【0055】
本発明は、
−エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合、好ましくはエステル結合を有する少なくとも1つの脂質、ならびに
−少なくとも1つのpH調整剤
を含み、2〜5.5のpHを有する水性製剤を提供する。
【0056】
本発明に従う水性製剤(水性脂質分散液とも称され得る。)は、増大した化学的安定性、より特定すると、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合、好ましくはエステル結合を有する少なくとも1つの脂質の増大した化学的安定性を特徴とする。1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合、好ましくはエステル結合を有する少なくとも1つの脂質の加水分解速度は、6〜7のpHでのその加水分解速度に比べて低下している。1つの実施形態では、加水分解速度は少なくとも1.5の倍数、好ましくは少なくとも2の倍数、より好ましくは少なくとも3の倍数、さらに好ましくは少なくとも4の倍数で低下している。
【0057】
1つの実施形態では、水性製剤は、2〜5、好ましくは2.5〜5、より好ましくは3〜4.5、さらに好ましくは3〜4、さらにより好ましくは3.5〜4のpHを有する。さらなる好ましい実施形態では、水性製剤は3.1〜3.9のpHを有する。
【0058】
「脂質」という用語は、本明細書で使用される場合、親水性部分(例えば極性頭部基)および親油性または疎水性部分を含む両親媒性分子を指すことが意図されている。親油性または疎水性部分は、少なくとも1つの分枝または線状、飽和または不飽和脂肪酸部分またはその誘導体もしくは類似体(例えばフルオロカーボン)を含み得る。脂肪酸部分は、基本的には炭化水素部分/鎖、殊にアシル鎖から成る。好ましくは、脂肪酸部分またはその誘導体もしくは類似体は、10〜30個、より好ましくは12〜25個、さらに好ましくは14〜22個の炭素原子の長さを有する。脂質が1より多い、例えば2または3の脂肪酸部分またはその誘導体もしくは類似体を含む場合、これらの脂肪酸部分またはその誘導体もしくは類似体は同じであってもよくまたは異なっていてもよい。「脂質」という用語は、カチオン性脂質および非カチオン性脂質、すなわち中性またはアニオン性脂質を含む。脂質は、リン脂質もしくはその誘導体、グリセロ脂質もしくはその誘導体、スフィンゴ脂質(例えばスフィンゴミエリン)もしくはその誘導体、またはステロール脂質(例えばコレステロール)もしくはその誘導体を包含し得る。グリセロ脂質は、脂肪酸部分と一、二または三置換されたグリセロールで構成される。親水性部分がリン酸基を含むリン脂質は、グリセロリン脂質であり得る。好ましくは、本発明に従って使用される脂質は二重層形成脂質である。脂質はまた、例えば(オリゴ)ペプチド、ポリマー(例えばPEG)または他の官能基で官能基化/修飾され得る。水性媒質中で、脂質はさらに、例えば脂質ベースの粒子またはリオトロピック相の形態、例えば単層から成るリポソーム、ラメラ相、六方または逆六方相、立方相、ミセルおよび逆ミセルなどの形態に、超分子的に組織化され得る。本発明による安定化作用は、すべての種類の超分子的脂質組織化に適用される。好ましくは、本発明に従って使用される脂質は医薬的に許容可能であり、例えば賦形剤として、薬物送達製剤の成分としておよび/または細胞への核酸のトランスフェクションにおける使用に適する。
【0059】
本開示が正電荷、負電荷もしくは中性電荷などの電荷またはカチオン性化合物、負の化合物もしくは中性化合物に言及する場合、これは一般に、言及される電荷が選択されたpHで、例えば生理的pHで存在することを意味する。例えば「カチオン性脂質」という用語は、選択されたpHで、例えば生理的pHで正の正味電荷を有する脂質を指す。「中性脂質」という用語は、正または負の正味電荷のいずれも有さない脂質を指し、これは、選択されたpHで、例えば生理的pHで無電荷分子または中性の両性(または双性イオン性)分子の形態で存在することができる。本明細書では「生理的pH」とは、6〜8、好ましくは6.5〜8、より好ましくは約7.5のpHを意味する。
【0060】
カチオン性脂質は、好ましくはカチオン性頭部基を含む。カチオン性脂質の極性頭部基は、好ましくはアミン誘導体、例えば第一級、第二級および/もしくは第三級アミン、第四級アンモニウム、アミンの様々な組合せ、アミジニウム塩、またはグアニジンおよび/もしくはイミダゾール基、ならびにピリジニウム、ピペリジンおよびアミノ酸頭部基、例えばリシン、アルギニン、オルニチンおよび/またはトリプトファンを含む。より好ましくは、カチオン性脂質の極性頭部基はアミン誘導体を含む。最も好ましくは、カチオン性脂質の極性頭部基は第四級アンモニウムを含む。カチオン性脂質の頭部基は、単一のカチオン電荷または複数のカチオン電荷を含み得る。
【0061】
アニオン性脂質は、好ましくはリン酸基などのアニオン性頭部基を含む。アニオン性脂質の頭部基は、単一のアニオン電荷または複数のアニオン電荷を含み得る。
【0062】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質の少なくとも1つは、カチオン性脂質、好ましくは本明細書で定義されるカチオン性脂質である。
【0063】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質の全体的な正味電荷は正である。
【0064】
「全体的な正味電荷」という用語は、本明細書で使用される場合、水性製剤中に存在するすべての脂質の正味電荷の合計を指すことが意図されている。
【0065】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質は、グリセロ脂質および/またはグリセロリン脂質を含む。
【0066】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質はグリセロ脂質である。別の実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質はグリセロリン脂質である。さらに別の実施形態では、水性製剤は、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも2つの脂質を含み、ここで少なくとも2つの脂質は、グリセロ脂質およびグリセロリン脂質を含む。
【0067】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質は、カチオン性脂質および/または非カチオン性脂質を含む。
【0068】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質はカチオン性脂質である。別の実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質は非カチオン性脂質である。さらに別の実施形態では、水性製剤は、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも2つの脂質を含み、ここで少なくとも2つの脂質は、カチオン性脂質および非カチオン性脂質を含む。
【0069】
1つの実施形態では、カチオン性脂質は、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2−ジオレオイルオキシ−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)および異なる組成のアシル鎖部分を有するこれらの分子の類似体から成る群より選択される。
【0070】
1つの実施形態では、非カチオン性脂質は中性脂質であり、ここで、好ましくは、中性脂質は、1,2−ジ−(9Z−オクタデセノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)、ホスファチジルコリン(PC)およびジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)から成る群より選択される。
【0071】
1つの実施形態では、非カチオン性脂質はアニオン性脂質であり、ここで、好ましくは、アニオン性脂質は、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)から成る群より選択される。
【0072】
1つの実施形態では、水性製剤は、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質をさらに含む。1つの実施形態では、水性製剤は、エステル結合を全く有さない少なくとも1つの脂質をさらに含む。
【0073】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質は、グリセロ脂質および/またはグリセロリン脂質を含む。
【0074】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質はグリセロ脂質である。別の実施形態では、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質はグリセロリン脂質である。さらに別の実施形態では、水性製剤は、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも2つの脂質を含み、ここで少なくとも2つの脂質は、グリセロ脂質およびグリセロリン脂質を含む。
【0075】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質は、カチオン性脂質および/または非カチオン性脂質を含む。
【0076】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質はカチオン性脂質である。別の実施形態では、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質は非カチオン性脂質である。さらに別の実施形態では、水性製剤は、エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも2つの脂質を含み、ここで少なくとも2つの脂質は、カチオン性脂質および非カチオン性脂質を含む。
【0077】
1つの実施形態では、カチオン性脂質は、1,2−ジ−O−オクタデセニル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、1,2−ジオレイルオキシ−N,N−ジメチルアミノプロパン(DODMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウム(DODA(Br)/DDAB)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−1,3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)および異なる組成のアシル鎖部分を有するこれらの分子の類似体から成る群より選択される。
【0078】
1つの実施形態では、非カチオン性脂質は中性脂質であり、ここで、好ましくは、中性脂質はコレステロール(Chol)およびスフィンゴミエリン(SM)から成る群より選択される。
【0079】
1つの実施形態では、非カチオン性脂質はアニオン性脂質である。
【0080】
1つの実施形態では、水性製剤は、少なくとも1つのカチオン性脂質および少なくとも1つの非カチオン性脂質、好ましくは少なくとも1つのカチオン性脂質および少なくとも1つの中性脂質を含む。
【0081】
1つの実施形態では、水性製剤はDOTMAおよびDOPEを含む。別の実施形態では、水性製剤はDOTAPおよびDOPEを含む。
【0082】
1つの実施形態では、非カチオン性、すなわち中性またはアニオン性、好ましくは中性の脂質は、「ヘルパー脂質」として機能する。「ヘルパー脂質」という用語は、標的、好ましくは細胞への脂質ベースの粒子(例えばリポソーム)の送達の有効性を増大させることができる脂質を指す。
【0083】
1つの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質対少なくとも1つの非カチオン性脂質のモル比は4:1〜1:4、好ましくは1:2〜4:1である。
【0084】
1つの実施形態では、全脂質に対する少なくとも1つのカチオン性脂質のモル分率は、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%である。
【0085】
「pH調整剤」という用語は、本明細書で使用される場合、(水性)溶液のpH値を改変するのに使用できる任意のpH活性剤を指すことが意図されており、酸性化剤およびアルキル化剤を包含する。酸性化剤はpHを低下させるのに使用され、アルキル化剤はpHを高めるのに使用される。好ましくは、本発明に従うpH調整剤は酸性化剤である。
【0086】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は酸および/または酸性緩衝液を含む。
【0087】
1つの実施形態では、酸は、線状、分枝または環状C1−C28、好ましくはC1−C22カルボン酸である。
【0088】
1つの実施形態では、酸は、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、塩酸、リン酸、分枝または非分枝、飽和、一価不飽和または多価不飽和C12−C28脂肪酸、好ましくはC12−C22脂肪酸(例えばオレイン酸)から成る群より選択される。
【0089】
1つの実施形態では、酸性緩衝液は上記で定義された酸に基づく。
【0090】
1つの実施形態では、酸性緩衝液は、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液および炭酸緩衝液から成る群より選択される。
【0091】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は酢酸および/または酢酸緩衝液を含む。
【0092】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は、全脂質対少なくとも1つのpH調整剤のモル比が100:1を超えない量で存在する。
【0093】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は、全脂質対少なくとも1つのpH調整剤のモル比が10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5、より好ましくは2:1〜1:2、さらに好ましくは1.5:1〜1:1.5、さらにより好ましくは約1:1である量で存在する。
【0094】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は1mM〜10mMの濃度で存在する。
【0095】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質は、脂質ベースの粒子、例えばリポソームを形成する。したがって、1つの実施形態では、水性製剤は水性リポソーム分散液である。1つの実施形態では、リポソームを形成する脂質の全体的な正味電荷は正である。1つの実施形態では、リポソームはカチオン性リポソームである。
【0096】
「リポソーム」という用語は、本明細書で使用される場合、しばしば小胞形成脂質、例えばリン脂質の1つ以上の二重層を有し、および薬物を封入することができる、微視的脂質小胞を指すことが意図されている。種々のタイプのリポソームを本発明に関連して使用してよく、例えば、限定されることなく、多層小胞(MLV)、小型単層小胞(SUV)、大型単層小胞(LUV)、立体的に安定化されたリポソーム(SSL)、多小胞性小胞(MV)および大型多小胞性小胞(LMV)ならびに当分野で公知の他の二重層形態が含まれる。リポソームのサイズおよび層数(lamellarity)は、調製の方法に依存する。1つの実施形態では、リポソームは、約50nm〜約1000nm、好ましくは約100nm〜約800nm、好ましくは約200nm〜約600nm、例えば約300nm〜約500nmの範囲の平均直径を有する。
【0097】
リポソームは、標準的な方法、例えば逆蒸発法(REV)、エタノール注入法、脱水−再水和法(DRV)、超音波処理または他の適切な方法を用いて形成し得る。好ましくは、エタノール注入法を用いてリポソームを形成する。
【0098】
「エタノール注入法」という用語は、脂質を含有するエタノール溶液を、針を介して水溶液中に迅速に滴下する工程を指す。この動作は脂質を溶液全体に分散させ、脂質−粒子形成、例えばリポソーム形成を促進する。
【0099】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤は脂質ベースの粒子、好ましくはリポソームと会合している。本発明によれば、「会合して」という用語は、pH調整剤が脂質ベースの粒子、好ましくはリポソームと、例えば脂質二重層の膜に組み込まれる/挿入されることによって、結合しているまたは脂質ベースの粒子の一部を形成していることを意味する。1つの実施形態では、リポソームと会合しているpH調整剤は、カルボン酸、好ましくは上記で定義されたカルボン酸である。1つの実施形態では、カルボン酸は、分枝または非分枝C12−C28、好ましくはC12−C22カルボン酸である。1つの実施形態では、カルボン酸は、分枝または非分枝、飽和、一価不飽和または多価不飽和C12−C28脂肪酸、好ましくはC12−C22脂肪酸(例えばオレイン酸)である。1つの実施形態では、脂質ベースの粒子、好ましくはリポソームは、1〜10%のpH調整剤を含む。
【0100】
1つの実施形態では、脂質ベースの粒子、好ましくはリポソームは医薬的に活性な化合物を含み(例えば封入し)、ここで、好ましくは、医薬的に活性な化合物は核酸、好ましくはDNAまたはRNAを含む。
【0101】
本発明はまた、上記で定義された水性製剤を調製する方法であって、
−少なくとも1つのpH調整剤を含み、および2〜5.5のpHを有する水溶液中でリポソームを形成すること、または
−リポソームを含む水溶液に、水溶液のpHを2〜5.5のpHに調整するために少なくとも1つのpH調整剤を添加すること
を含む方法も提供する。
【0102】
本発明はまた、上記で定義された水性製剤を含むキットも提供する。
【0103】
1つの実施形態では、キットはさらに、別の容器中に、医薬的に活性な化合物を含み、ここで、好ましくは、医薬的に活性な化合物は核酸、好ましくはDNAまたはRNAを含む。
【0104】
1つの実施形態では、核酸は、6〜8のpHを有する緩衝液中で提供される。そのような緩衝液中で使用するための適切な緩衝物質には、Tris、HEPES、MOPSおよびMESが含まれる。
【0105】
本明細書で使用される場合、「キット」という用語は、1つ以上の容器および、場合によりデータ媒体を含む製品を指す。前記1つ以上の容器は、上記で挙げた手段または試薬の1つ以上で満たされ得る。例えば希釈剤、緩衝液およびさらなる試薬を含む付加的な容器がキットに含まれてもよい。前記データ媒体は、非電子データ媒体、例えば図形データ媒体、例えば情報リーフレット、情報シート、バーコードもしくはアクセスコード、または電子データ媒体、例えばフロッピーディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタル多用途ディスク(DVD)、マイクロチップもしくは別の半導体ベースの電子データ媒体であり得る。アクセスコードは、データベース、例えばインターネットデータベース、集中または分散データベースへのアクセスを可能にし得る。前記データ媒体は、本発明の方法におけるキットの使用のための指示を含み得る。加えて、データ媒体は、本発明の方法をいかにして実施するかに関する情報または指示を含み得る。
【0106】
「医薬的に活性な化合物」(または「治療薬」)という用語は、本明細書で使用される場合、治療有効量で被験体に投与した場合、被験体の状態または疾患状態に有益なまたは好都合な作用を及ぼす任意の化合物を指す。好ましくは、医薬的に活性な化合物は治癒的または緩和的特性を有し、疾患または障害の1つ以上の症状を改善する、軽減する、緩和する、逆転させる、その発症を遅延させるまたはその重症度を低減するために投与され得る。医薬的に活性な化合物は予防特性を有してもよく、疾患の発症を遅延させるまたはそのような疾患もしくは病的状態の重症度を低減するために使用され得る。
【0107】
医薬的に活性な化合物には、医薬的に活性なペプチドまたはタンパク質、医薬的に活性な核酸、例えばDNAまたはRNA、および他の医薬的に活性な有機または無機分子、例えば低分子化合物(すなわち900ダルトン未満の分子量を有する生物活性有機化合物)が含まれる。
【0108】
「ペプチド」という用語は、本明細書で使用される場合、天然または非天然に存在するオリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合によって共有結合的に連結された2個以上、好ましくは3個以上、好ましくは4個以上、好ましくは6個以上、好ましくは8個以上、好ましくは10個以上、好ましくは13個以上、好ましくは16個以上、好ましくは21個以上、および好ましくは8、10、20、30、40または50個まで、特に100個までのアミノ酸(例えば10〜100個、10〜50個、10〜40個、20〜100個、20〜50個または20〜40個のアミノ酸)を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、選択的に大きなペプチド、好ましくは100個より多いアミノ酸残基を有するペプチドを指すが、一般に「ペプチド」と「タンパク質」という用語は同義語であり、本明細書では交換可能に使用される。
【0109】
「医薬的に活性なペプチドまたはタンパク質」という用語は、タンパク質またはポリペプチド全体を包含し、医薬的に活性なそのフラグメントを指すこともできる。この用語はまた、ペプチドまたはタンパク質の医薬的に活性な類似体も包含し得る。「医薬的に活性なペプチドまたはタンパク質」という用語はさらに、抗原であるペプチドおよびタンパク質、すなわち被験体へのペプチドまたはタンパク質の投与が被験体において治療的または部分的もしくは完全に保護的であり得る免疫応答を惹起するペプチドおよびタンパク質を包含する。
【0110】
医薬的に活性なタンパク質の例には、サイトカインおよび免疫系タンパク質、例えば免疫学的に活性な化合物(例えばインターロイキン、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン、インテグリン、アドレシン、セレチン、ホーミング受容体、T細胞受容体、免疫グロブリン、可溶性主要組織適合遺伝子複合体抗原、免疫学的に活性な抗原、例えば細菌、寄生生物またはウイルス抗原、アレルゲン、自己抗原、抗体)、ホルモン(インスリン、甲状腺ホルモン、カテコールアミン、ゴナドトロピン、刺激ホルモン、プロラクチン、オキシトシン、ドーパミン、ウシソマトトロピン、レプチン等)、成長ホルモン(例えばヒト成長ホルモン)、増殖因子(例えば上皮増殖因子、神経成長因子、インスリン様増殖因子等)、増殖因子受容体、酵素(組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ、コレステロール生合成または分解性酵素、ステロイド産生酵素、キナーゼ、ホスホジエステラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、デヒドロゲナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アロマターゼ、シトクロム、アデニル酸またはグアニル酸シクラーゼ、ノイラミニダーゼ等)、受容体(ステロイドホルモン受容体、ペプチド受容体)、結合タンパク質(成長ホルモンまたは成長因子結合タンパク質等)、転写因子および翻訳因子、腫瘍成長抑制タンパク質(例えば血管新生を阻害するタンパク質)、構造タンパク質(例えばコラーゲン、フィブロイン、フィブリノーゲン、エラスチン、チューブリン、アクチンおよびミオシン)、血液タンパク質(トロンビン、血清アルブミン、第VII因子、第VIII因子、インスリン、第IX因子、第X因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、プロテインC、フォンビルブランド因子、アンチトロンビンIII、グルコセレブロシダーゼ、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)または改変第VIII因子、抗凝固因子等が含まれるが、これらに限定されない。
【0111】
1つの実施形態では、本発明による医薬的に活性なタンパク質は、リンパ球ホメオスタシスを調節することに関与するサイトカイン、好ましくは、T細胞の発生、プライミング、増殖、分化および/または生存に関与し、および好ましくはこれを誘導するまたは増強するサイトカインである。1つの実施形態では、サイトカインはインターロイキンである。1つの実施形態では、本発明による医薬的に活性なタンパク質は、IL−2、IL−7、IL−12、IL−15およびIL−21から成る群より選択されるインターロイキンである。
【0112】
「免疫学的に活性な化合物」という用語は、好ましくは免疫細胞の成熟を誘導するおよび/もしくは抑制することによって、免疫応答を改変する、サイトカイン生合成を誘導するおよび/もしくは抑制する、ならびに/またはB細胞による抗体産生を刺激することによって体液性免疫を改変する任意の化合物に関する。免疫学的に活性な化合物は、抗ウイルスおよび抗腫瘍活性を含むがこれらに限定されない強力な免疫刺激活性を有し、また免疫応答の他の態様を下方調節することもでき、例えば免疫応答をTH2免疫応答からシフトさせることができ、これは広範囲のTH2媒介性疾患を処置するのに有用である。免疫学的に活性な化合物はワクチンアジュバントとして有用であり得る。
【0113】
核酸は、本発明によれば、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、より好ましくはRNA、最も好ましくはインビトロ転写RNA(IVT RNA)または合成RNAである。核酸は、本発明によれば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産された分子および化学合成された分子を包含する。核酸は、本発明によれば、一本鎖または二本鎖の、直鎖状または共有結合閉環状の分子の形態であり得る。
【0114】
核酸はまた、ベクター中に含まれてもよい。本明細書で使用される「ベクター」という用語は、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、例えばλファージ、ウイルスベクター、例えばアデノウイルスもしくはバキュロウイルスベクター、または人工染色体ベクター、例えば細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)もしくはP1人工染色体(PAC)を含む、当業者に公知の任意のベクターを包含する。前記ベクターには、発現ベクターならびにクローニングベクターが含まれる。発現ベクターは、プラスミドならびにウイルスベクターを含み、一般に所望のコード配列および特定の宿主生物(例えば細菌、酵母、植物、昆虫もしくは哺乳動物)またはインビトロ発現系における作動可能に連結されたコード配列の発現のために必要な適切なDNA配列を含有する。クローニングベクターは、一般に特定の所望DNAフラグメントを操作し、増幅するために使用され、所望DNAフラグメントの発現に必要な機能的配列を欠如し得る。
【0115】
本発明に関連して、「DNA」という用語は、デオキシリボヌクレオチド残基を含み、および好ましくは、完全にまたは実質的にデオキシリボヌクレオチド残基から成る分子に関する。「デオキシリボヌクレオチド」は、β,D−リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有さないヌクレオチドに関する。「DNA」という用語は、単離されたDNA、例えば部分的または完全に精製されたDNA、基本的に純粋なDNA、合成DNAおよび組換え生成されたDNAを含み、ならびに1個以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または変化によって天然に存在するDNAとは異なる修飾されたDNAを包含する。そのような変化には、DNAの末端または内部などへの、例えばDNAの1個以上のヌクレオチドにおける、非ヌクレオチド物質の付加が含まれ得る。DNA分子中のヌクレオチドはまた、非標準ヌクレオチド、例えば天然には存在しないヌクレオチドまたは化学合成されたヌクレオチドも含み得る。これらの変化したDNAは、類似体または天然に存在するDNAの類似体と称され得る。
【0116】
本発明に関連して、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、および好ましくは、完全にまたは実質的にリボヌクレオチド残基から成る分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β,D−リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、単離されたRNA、例えば部分的または完全に精製されたRNA、基本的に純粋なRNA、合成RNAおよび組換え生成されたRNAを含み、ならびに1個以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または変化によって天然に存在するRNAとは異なる修飾されたRNAを包含する。そのような変化には、RNAの末端または内部などへの、例えばRNAの1個以上のヌクレオチドにおける、非ヌクレオチド物質の付加が含まれ得る。RNA分子中のヌクレオチドは、非標準ヌクレオチド、例えば天然には存在しないヌクレオチドまたは化学合成されたヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチドも含み得る。これらの変化したRNAは、類似体または天然に存在するRNAの類似体と称され得る。
【0117】
「医薬的に活性な核酸」という用語は、生物学的活性、例えばタンパク質発現、遺伝子発現への干渉または免疫刺激を有する核酸を指すことが意図されている。そのような核酸は、それゆえ、遺伝子発現に干渉する(例えばアンチセンスRNAもしくはsiRNA)、タンパク質活性を修飾する(例えばDNAアプタマーもしくはRNAアプタマー)または免疫を活性化する(例えばisRNAもしくはDNAワクチンもしくはmRNAワクチン)ために有用である。「医薬的に活性な核酸(pharmaceutically active nucleic)」はまた、医薬的に活性なペプチドもしくはタンパク質をコードするまたはそれ自体が医薬的に活性である核酸であってもよく、例えば、医薬的に活性な核酸は、医薬的に活性なタンパク質に関して述べたような1つ以上の医薬的活性を有する。
【0118】
本発明によれば、「ペプチドまたはタンパク質をコードする核酸」という用語は、核酸が、適切な環境、好ましくは細胞内に存在する場合、翻訳過程の間にペプチドまたはタンパク質を産生するようにアミノ酸のアセンブリを指令できることを意味する。好ましくは、本発明による核酸は、ペプチドまたはタンパク質の翻訳を可能にする細胞翻訳機構と相互作用することができる。
【0119】
1つの実施形態では、核酸はRNAである。
【0120】
本発明によれば、「RNA」とは、一本鎖RNAまたは二本鎖RNAを指し、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、低分子阻害性RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンチセンスRNA、免疫刺激性RNA(isRNA)およびRNAアプタマーを包含する。好ましい実施形態では、RNAは、mRNA、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、isRNAおよびRNAアプタマーから成る群より選択される。
【0121】
RNAは、RNAの一部が折りたたまれ、それ自体と対合して二重らせんを形成することを可能にする自己相補的配列を含み得る。本発明によれば、6〜100、好ましくは10〜50、殊に15〜30もしくは15〜20ヌクレオチドの合成オリゴヌクレオチド、または50より多いヌクレオチド、好ましくは50〜10,000、好ましくは100〜5000、殊に200〜3000ヌクレオチドのメッセンジャーRNA(mRNA)がRNAとして好ましい。
【0122】
本発明によれば、「メッセンジャーRNA(mRNA)」という用語は、DNA鋳型を使用することによって生成され得、およびペプチドまたはタンパク質をコードし得る「転写産物」に関する。典型的には、mRNAは、5'非翻訳領域、タンパク質コード領域および3'非翻訳領域を含む。本発明に関連して、mRNAは、DNA鋳型からインビトロ転写によって生成され得る。インビトロ転写の方法論は当業者に公知である。例えば、様々なインビトロ転写キットが市販されている。
【0123】
本発明によれば、「低分子阻害性RNA(siRNA)」という用語は、RNA干渉(RNAi)と称される機構である、siRNAの1本の鎖による標的の認識を介して標的mRNAの破壊を誘導するのに使用できる、二本鎖の短い(典型的には19〜23、好ましくは21ヌクレオチド長)オリゴヌクレオチドに関する。
【0124】
「低分子ヘアピンRNA(shRNA)」という用語は、密なヘアピンターンを作り出し、RNAiによって標的遺伝子発現を抑制するのに使用できるRNAの配列に関する。
【0125】
「マイクロRNA」または「miRNA」という用語は、遺伝子発現の転写調節および転写後調節において機能する、小さな非コードRNA分子(典型的には19〜25ヌクレオチド長)に関する。
【0126】
本発明によれば、「アンチセンスRNA」という用語は、一本鎖RNA、通常は、標的細胞mRNAと塩基対合し、それにより翻訳過程を物理的に阻害して、最終的に標的mRNAの破壊を誘導するように設計された合成オリゴヌクレオチドに関する。
【0127】
本発明によれば、「免疫刺激性RNA(isRNA)」は、先天性免疫受容体、例えばエンドプラズミックTLR−3、7および8またはサイトゾルタンパク質RIG−1などを活性化することができるRNAに関する。1つの実施形態では、isRNAは1個以上のウリジン(U)ヌクレオチドを含む。
【0128】
本発明によれば、「RNAアプタマー」という用語は、その正確な三次元構造を介して抗体として使用できる、すなわち決定された構造体に特異的に結合し、それにより生物学的機構を活性化するまたはブロックするように作製され得るRNAに関する。
【0129】
本発明によれば、RNAは修飾されていてもよい。例えばRNAは、RNAに安定化作用を及ぼす1つ以上の修飾によって安定化され得る。
【0130】
本発明に従って使用されるRNAに関連して「修飾」という用語は、前記RNA中に天然では存在しないRNAの任意の修飾を包含する。
【0131】
本発明の1つの実施形態では、本発明に従って使用されるRNAは、非キャップ5'−三リン酸を有さない。そのような非キャップ5'−三リン酸の除去は、RNAをホスファターゼで処理することによって達成され得る。
【0132】
本発明によるRNAは、その安定性を高めるおよび/または細胞毒性を低減するおよび/またはその免疫刺激能を調節するために、修飾された天然に存在するまたは非天然に存在する(合成)リボヌクレオチドを有し得る。例えば1つの実施形態では、本発明に従って使用されるRNAでは、ウリジンが部分的または完全に、好ましくは完全に、プソイドウリジンによって置換されている。
【0133】
1つの実施形態では、「修飾」という用語は、RNAに5'キャップまたは5'キャップ類似体を与えることに関する。「5'キャップ」という用語は、mRNA分子の5'末端に認められるキャップ構造を指し、一般に独特の5'−5'三リン酸結合によってmRNAに連結されたグアノシンヌクレオチドから成る。1つの実施形態では、このグアノシンは7位でメチル化されている。「従来の5'キャップ」という用語は、天然に存在するRNAの5'キャップ、好ましくは7−メチルグアノシンキャップ(m7G)を指す。本発明に関連して、「5'キャップ」という用語は、RNAキャップ構造に類似し、好ましくはインビボおよび/または細胞中で、RNAに結合した場合RNAを安定化する能力を有するように修飾されている5'キャップ類似体を包含する。RNAに5'キャップまたは5'キャップ類似体を与えることは、前記5'キャップまたは5'キャップ類似体の存在下でのDNA鋳型のインビトロ転写によって達成することができ、この場合前記5'キャップは生成されたRNA鎖に共転写的に組み込まれ、またはRNAは、例えばインビトロ転写によって生成してもよく、5'キャップは、キャッピング酵素、例えばワクシニアウイルスのキャッピング酵素を用いて転写後に生成し得る。
【0134】
RNAはさらなる修飾を含んでもよい。例えば、本発明で使用されるmRNAの修飾は、天然に存在するポリ(A)尾部の伸長または末端切断であり得る。
【0135】
RNAの「安定性」という用語は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」は、分子の活性、量または数の半分を除去するのに必要とされる時間に関する。本発明に関連して、RNAの半減期は前記RNAの安定性の指標である。
【0136】
本発明によれば、RNAの安定性を低下させることが望ましい場合、RNAの安定性を高める上述した要素の機能を妨げるようにRNAを修飾することも可能である。
【0137】
本発明によれば、RNAは化学合成によってまたは適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって入手し得る。本発明に関連して、「転写」という用語は、DNA配列中の遺伝暗号がRNAに転写される過程に関する。その後、RNAはタンパク質に翻訳され得る。本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、ここで「インビトロ転写」という用語は、RNA、殊にmRNAが、好ましくは適切な細胞抽出物を使用して、無細胞系においてインビトロ合成される過程に関する。好ましくは、クローニングベクターが転写産物の生成に適用される。これらのクローニングベクターは一般に転写ベクターと称され、本発明によれば「ベクター」という用語に包含される。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼの任意のプロモーターであり得る。RNAポリメラーゼの特定の例は、T7、T3およびSP6 RNAポリメラーゼである。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、殊にcDNAのクローニング、およびそれをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって入手し得る。cDNAはRNAの逆転写によって入手し得る。好ましくは、クローニングベクターは転写産物を生成するために使用され、一般に転写ベクターと称される。
【0138】
本発明による「翻訳」という用語は、細胞のリボソームにおける過程に関するものであり、アミノ酸の配列のアセンブリがペプチドまたはタンパク質を産生するようメッセンジャーRNAの1本の鎖が命令する。
【0139】
「遺伝子発現の阻害」という用語は、RNAオリゴヌクレオチド(例えば一本鎖アンチセンスまたは二本鎖siRNA)が、標的mRNAの分解および/または翻訳の遮断のいずれかを誘導する特定のmRNA配列に結合するように使用することができる過程に関する。
【0140】
1つの実施形態では、医薬的に活性な化合物は、抗原または抗原もしくはそのフラグメントをコードする核酸、例えば疾患関連抗原である。
【0141】
「疾患」という用語は、個体の身体を侵す異常な状態を指す。疾患はしばしば、特定の症状および徴候と関連する医学的状態とみなされる。疾患は、感染性疾患などの、もともと外部起源からの因子によって引き起こされ得るか、または自己免疫疾患などの、内部機能不全によって引き起こされ得る。
【0142】
本発明によれば、「疾患」という用語は癌疾患も指す。「癌疾患」または「癌」(医学用語:悪性新生物)という用語は、細胞の群が制御されない増殖(正常限界を超える分裂)、浸潤(隣接組織への侵入およびその破壊)ならびに時として転移(リンパまたは血液を介した体内の他の場所への拡大)を示す疾患のクラスを指す。癌のこれら3つの悪性特性は癌を良性腫瘍と区別し、良性腫瘍は自己限定的であり、浸潤または転移することがない。大部分の癌は腫瘍、すなわち細胞(新生細胞または腫瘍細胞と呼ばれる)の異常増殖によって形成される腫脹または病変を形成するが、白血病のような一部の癌は腫瘍を形成しない。癌の例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、グリオーマおよび白血病が含まれるが、これらに限定されない。より特定すると、そのような癌の例には、骨癌、血液癌、肺癌、肝癌、膵癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内悪性黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、性器および生殖器の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織の肉腫、膀胱癌、腎癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉癌、脊髄軸腫瘍、グリオーマ、髄膜腫ならびに下垂体腺腫が含まれる。本発明による「癌」という用語は癌転移も含む。
【0143】
悪性黒色腫は重篤な皮膚癌である。これは、メラノサイトと呼ばれる色素細胞の制御されない増殖に起因する。
【0144】
本発明によれば、「癌腫」は、上皮細胞に由来する悪性腫瘍である。この群は、一般的な形態の乳癌、前立腺癌、肺癌および結腸癌を含む、最も一般的な癌である。
【0145】
リンパ腫および白血病は、造血(血液形成)細胞に由来する悪性疾患である。
【0146】
肉腫は、胚子中胚葉から発生する多くの組織の1つにおいて形質転換細胞から生じる癌である。したがって、肉腫には、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管および造血組織の腫瘍が含まれる。
【0147】
芽球腫または芽細胞腫は、未熟な組織または胚組織に類似する腫瘍(通常は悪性)である。これらの腫瘍の多くは小児において最も一般的である。
【0148】
グリオーマは、脳または脊椎から始まる腫瘍の種類である。これは、グリア細胞から生じるためグリオーマと呼ばれる。グリオーマの最も一般的な部位は脳である。
【0149】
「転移」とは、癌細胞がそのもとの部位から身体の別の部分に拡大することを意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発性腫瘍からの悪性細胞の分離、細胞外マトリックスの侵襲、体腔および脈管に侵入するための内皮基底膜の貫通、ならびに次に、血液によって運ばれた後、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位における新たな腫瘍、すなわち続発性腫瘍または転移性腫瘍の成長は血管新生に依存する。腫瘍転移はしばしば原発性腫瘍の除去後でも起こり、というのは、腫瘍細胞または腫瘍成分が残存し、転移能を発現し得るからである。1つの実施形態では、本発明による「転移」という用語は「遠隔転移」に関し、これは、原発性腫瘍および所属リンパ節系から遠く離れた転移に関する。
【0150】
「感染性疾患」という用語は、個体から個体へまたは生物から生物へと伝播され得る、および微生物因子によって引き起こされる任意の疾患(例えば普通の風邪)を指す。感染性疾患の例には、ウイルス感染症、例えばAIDS(HIV)、A型、B型もしくはC型肝炎、疱疹、帯状疱疹(水痘)、風疹(風疹ウイルス)、黄熱病、デング熱等、フラビウイルス、インフルエンザウイルス、出血性感染症(マールブルグウイルスもしくはエボラウイルス)および重症急性呼吸器症候群(SARS)、細菌感染症、例えばレジオネラ病(レジオネラ属(Legionella))、性感染症(例えばクラミジアもしくは淋病)、胃潰瘍(ヘリコバクター属(Helicobacter))、コレラ(ビブリオ属(Vibrio))、結核、ジフテリア、大腸菌(E.coli)、ブドウ球菌属(Staphylococci)、サルモネラ属(Salmonella)もしくは連鎖球菌属(Streptococci)による感染(破傷風);原生動物病原体による感染、例えばマラリア、睡眠病、リーシュマニア症;トキソプラスマ症、すなわちプラスモディウム属(Plasmodium)、トリパノソーマ属(Trypanosoma)、リーシュマニア属(Leishmania)およびトキソプラスマ属(Toxoplasma)による感染;または真菌感染症、例えばクリプトコックス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ヒストプラスマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)、ブラストミセス・デルマチチディス(Blastomyces dermatitidis)もしくはカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)によって引き起こされる真菌感染症が含まれる。
【0151】
「自己免疫疾患」という用語は、身体が自らの組織の何らかの成分に対して免疫原性(すなわち免疫系)応答を生じる任意の疾患を指す。言い換えると、免疫系は、体内の何らかの組織または系を自己として認識するその能力を喪失しており、それが異物であるかのごとくに標的とし、攻撃する。自己免疫疾患は、主として1つの器官が侵されるもの(例えば溶血性貧血および自己免疫性甲状腺炎(anti-immune thyroiditis))、ならびに自己免疫疾患の過程が多くの組織を介して拡散するもの(例えば全身性エリテマトーデス)に分類することができる。例えば多発性硬化症は、脳および脊髄の神経線維を取り囲む鞘を攻撃するT細胞によって引き起こされると考えられている。これは、協調の喪失、衰弱および視朦をもたらす。自己免疫疾患は当分野で公知であり、これには、例えば橋本甲状腺炎、グレーヴズ病、狼瘡、多発性硬化症、関節リウマチ、溶血性貧血、自己免疫性甲状腺炎、全身性エリテマトーデス、セリアック病、クローン病、大腸炎、糖尿病、強皮症、乾癬等が含まれる。
【0152】
「抗原」という用語は、それに対して免疫応答が引き起こされるエピトープを含有する作用物質に関する。「抗原」という用語は、特定のタンパク質、ペプチド、多糖、核酸、殊にRNAおよびDNA、ならびにヌクレオチドを包含する。「抗原」という用語はまた、形質転換を通してのみ抗原性になる−および感作される−(例えば分子中で中間的にまたは体タンパク質で完全に)作用物質も包含する。抗原は、好ましくは免疫系の細胞によって、例えば樹状細胞またはマクロファージのような抗原提示細胞によって提示可能である。加えて、抗原またはそのプロセシング産物は、好ましくはTもしくはB細胞受容体によって、または抗体などの免疫グロブリン分子によって認識可能である。好ましい実施形態では、抗原は疾患関連抗原、例えば腫瘍関連抗原、ウイルス抗原または細菌抗原である。
【0153】
「疾患関連抗原」という用語は、疾患に関連する任意の抗原を表すためにその最も広い意味で使用される。疾患関連抗原は、宿主の免疫系を刺激して、疾患に対する細胞性抗原特異的免疫応答および/または体液性抗体応答を生じさせるエピトープを含む分子である。疾患関連抗原は、それゆえ、治療目的に使用され得る。疾患関連抗原は、好ましくは微生物、典型的には微生物抗原による感染に関連するか、または癌、典型的には腫瘍に関連する。
【0154】
「抗原に関わる疾患」という用語は、抗原が関与する任意の疾患、例えば抗原の存在を特徴とする疾患を指す。抗原に関わる疾患は、感染性疾患、自己免疫疾患、または癌疾患もしくは単に癌であり得る。上記で言及したように、抗原は疾患関連抗原、例えば腫瘍関連抗原、ウイルス抗原または細菌抗原であり得る。
【0155】
1つの実施形態では、疾患関連抗原は腫瘍関連抗原である。好ましくは、罹患器官または組織は、疾患関連抗原を発現するおよび/またはその表面と疾患関連抗原の会合を特徴とする癌細胞などの異常細胞を特徴とする。インタクトまたは実質的にインタクトの腫瘍関連抗原またはそのフラグメント、例えばMHCクラスIおよびクラスIIペプチドまたはそのような抗原もしくはフラグメントをコードする核酸、殊にmRNAでの免疫化は、MHCクラスIおよび/またはクラスII型応答を誘発し、したがって、癌細胞を溶解することができるCD8+細胞傷害性Tリンパ球および/またはCD4+T細胞などのT細胞を刺激することを可能にする。そのような免疫化はまた、腫瘍関連抗原に対する抗体の産生をもたらす体液性免疫応答(B細胞応答)も誘発し得る。さらに、樹状細胞(DC)などの抗原提示細胞(APC)に、インビトロで腫瘍抗原をコードする核酸でのトランスフェクションによってMHCクラスI提示ペプチドを負荷し、患者に投与することができる。1つの実施形態では、「腫瘍関連抗原」という用語は、細胞質、細胞表面および細胞核に由来し得る癌細胞の成分を指す。殊に、この用語は、腫瘍細胞の細胞内でまたは腫瘍細胞上に表面抗原として、好ましくは大量に、産生される抗原を指す。腫瘍抗原の例には、HER2、EGFR、VEGF、CAMPATH1抗原、CD22、CA−125、HLA−DR、ホジキンリンパ腫またはムチン1が含まれるが、これらに限定されない。
【0156】
本発明によれば、腫瘍関連抗原は、好ましくは、腫瘍または癌に特徴的であり、ならびに型および/または発現レベルに関して腫瘍細胞または癌細胞に特徴的である任意の抗原を含む。1つの実施形態では、「瘍関連抗原」という用語は、正常条件下では、すなわち健常被験体では、限られた数の器官および/もしくは組織においてまたは特定の発生段階で特異的に発現されるタンパク質に関し、例えば腫瘍関連抗原は、正常条件下では胃組織、好ましくは胃粘膜において、生殖器官、例えば精巣において、栄養膜組織、例えば胎盤において、または生殖系列細胞において特異的に発現され得、および1つ以上の腫瘍または癌組織で発現されるまたは異常発現される。これに関連して、「限られた数」とは、好ましくは3以下、より好ましくは2以下または1を意味する。本発明に関連して腫瘍関連抗原には、例えば分化抗原、好ましくは細胞型特異的分化抗原、すなわち正常条件下では特定の分化段階で特定の細胞型において特異的に発現されるタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち正常条件下では精巣においておよび時として胎盤において特異的に発現されるタンパク質、ならびに生殖細胞特異抗原が含まれる。本発明に関連して、腫瘍関連抗原は、好ましくは正常組織では発現されないもしくはごくまれにしか発現されないかまたは腫瘍細胞では変異している。好ましくは、腫瘍関連抗原または腫瘍関連抗原の異常発現は癌細胞を同定する。本発明に関連して、被験体、例えば癌疾患に罹患している患者において癌細胞によって発現される腫瘍関連抗原は、好ましくは前記被験体における自己タンパク質である。好ましい実施形態では、本発明に関連して腫瘍関連抗原は、正常条件下では、必須ではない組織もしくは器官、すなわち免疫系によって損傷された場合に被験体の死をもたらさない組織もしくは器官において、または免疫系がアクセスできないもしくはほとんどアクセスできない身体の器官もしくは構造体において特異的に発現される。好ましくは、腫瘍関連抗原は、それが発現されている癌細胞によってMHC分子に関連して提示される。
【0157】
腫瘍免疫療法、殊に腫瘍ワクチン接種における標的構造体として本発明によって企図される腫瘍関連抗原の基準を理想的に満たす分化抗原の例は、クローディンファミリー、例えばCLDN6およびCLDN18.2などの細胞表面タンパク質である。これらの分化抗原は様々な起源の腫瘍で発現され、それらの選択的発現(毒性に関わる正常組織では発現されない)および形質膜への局在化により、抗体媒介性癌免疫療法に関連する標的構造体としてことさら適する。
【0158】
本発明において有用であり得る抗原のさらなる例は、p53、ART−4、BAGE、β−カテニン/m、Bcr−abL CAMEL、CAP−1、CASP−8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン12、c−MYC、CT、Cyp−B、DAM、ELF2M、ETV6−AML1、G250、GAGE、GnT−V、Gap100、HAGE、HER−2/neu、HPV−E7、HPV−E6、HAST−2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE−A、好ましくはMAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A5、MAGE−A6、MAGE−A7、MAGE−A8、MAGE−A9、MAGE−A10、MAGE−A11またはMAGE−A12、MAGE−B、MAGE−C、MART−1/メランA、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM−1、−2、−3、NA88−A、NF1、NY−ESO−1、NY−BR−1、p190マイナーBCR−abL、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART−1またはSART−3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP−1、TRP−2、TRP−2/INT2、TPTEおよびWT、好ましくはWT−1である。
【0159】
「ウイルス抗原」という用語は、抗原性を有する、すなわち個体において免疫応答を誘発することができる任意のウイルス成分を指す。ウイルス抗原は、ウイルスリボ核タンパク質またはエンベロープタンパク質であり得る。
【0160】
「細菌抗原」という用語は、抗原性を有する、すなわち個体において免疫応答を誘発することができる任意の細菌成分を指す。細菌抗原は、細菌の細胞壁または細胞質膜に由来し得る。
【0161】
「免疫応答」という用語は、本明細書で使用される場合、細菌またはウイルスなどの免疫原性生物、細胞または物質などに対する免疫系の反応に関する。「免疫応答」という用語は、先天性免疫応答および適応免疫応答を包含する。好ましくは、免疫応答は、免疫細胞の活性化、サイトカイン生合成の誘導および/または抗体産生に関連する。
【0162】
本発明によれば、「疾患の処置」という用語は、疾患またはその症状を治癒する、期間を短縮する、改善する、進行または悪化を遅らせるまたは阻止することを包含する。
【0163】
「免疫療法」という用語は、好ましくは特定の免疫反応および/または免疫エフェクター機能を含む処置に関する。
【0164】
「免疫化」または「ワクチン接種」という用語は、治療的または予防的理由で被験体を処置する工程を表す。
【0165】
「被験体」という用語は、本明細書で使用される場合、好ましくは哺乳動物に関する。例えば、本発明に関連して哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、家畜、例えばイヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ等、実験動物、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット等、ならびに捕らわれている動物、例えば動物園の動物である。好ましい実施形態では、被験体はヒトである。
【0166】
本発明はまた、医薬組成物を調製する方法であって、
−上記で定義された水性製剤を提供すること;および
−水性製剤を医薬的に活性な化合物と混合すること
を含む方法も提供する。
【0167】
1つの実施形態では、医薬的に活性な化合物は核酸を含み、ここで、好ましくは、核酸は6〜8のpHを有する緩衝液中で提供される。
【0168】
本発明はまた、上記で定義された方法によって調製される医薬組成物も提供する。
【0169】
1つの実施形態では、医薬組成物は、医薬的に活性な化合物が充填されたリポソームを含む。
【0170】
1つの実施形態では、医薬組成物は核酸リポプレックスを含む。
【0171】
「核酸リポプレックス」または「リポプレックス」という用語は、本明細書で使用される場合、脂質と核酸、例えばDNAまたはRNA、好ましくはRNAとの複合体を指す。リポプレックスは、カチオン性脂質(例えば、しばしば中性ヘルパー脂質も含む、カチオン性リポソームの形態)、カチオン性ポリマーおよび正電荷を有する他の物質が核酸と混合された場合、自然発生的に形成され、核酸を細胞に送達することが示されている。1つの実施形態では、リポプレックスは、約50nm〜約1000nm、好ましくは約100nm〜約800nm、好ましくは約200nm〜約600nm、例えば約300nm〜約500nmの範囲の平均直径を有する。
【0172】
本明細書で述べる脂質ベースの粒子(例えばリポソームまたはリポプレックス)の平均「直径」または「サイズ」は、一般に、確立された工程に従って調製された脂質ベースの粒子の「設計サイズ」または意図されるサイズである。サイズは、直接測定された寸法、例えば平均直径もしくは最大直径であり得るか、または間接的なアッセイ、例えばろ過スクリーニングアッセイによって決定され得る。粒子サイズの直接測定は、典型的には動的光散乱法によって実施される。しばしば、動的光散乱測定法からの結果はZ平均(平均サイズの尺度)および多分散指数、PIまたはPDI(多分散性の尺度)の単位で表される。サイズの小さな変動が製造工程の間に生じるので、規定された測定値の40%までの変動は許容され、規定サイズ内であるとみなされる。あるいは、サイズはろ過スクリーニングアッセイによって決定されてもよい。例えば、粒子調製物は、粒子の少なくとも97%が規定サイズの「スクリーン型」フィルタを通過する場合、規定サイズ未満である。
【0173】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤はリポソームおよび/またはリポプレックスと会合している。
【0174】
本発明の医薬組成物は、好ましくは無菌であり、有効量の脂質または脂質ベースの粒子(例えばリポソームまたはリポプレックス)を含む。医薬組成物はまた、本明細書で論じるさらなる作用物質、例えば付加的な治療薬または抗原も含み得る。本発明の医薬組成物は、1つ以上の医薬的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤をさらに含み得る。本発明の医薬組成物は、少なくとも1つのアジュバントをさらに含み得る。
【0175】
「有効量」とは、単独でまたはさらなる投与物と共に所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患または特定の状態の処置の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の経過の阻止に関する。これは、疾患の進行を遅らせることおよび、殊に疾患の進行を妨げるまたは逆転させることを含む。疾患または状態の処置における所望の反応はまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の防止であり得る。有効量は、処置される状態、疾患の重症度、患者の年齢、生理的状態、大きさおよび体重を含む患者の個別パラメータ、処置の期間、併用療法の種類(存在する場合)、特定の投与経路ならびに同様の因子に依存する。したがって、投与される用量はそのような様々なパラメータに依存し得る。患者における反応が初期用量で不十分である場合は、より高用量(または異なる、より限局された投与経路によって達成される効果的により高い用量)を使用し得る。
【0176】
本明細書で述べる医薬組成物は、任意の従来の経路によって投与し得る。1つの実施形態では、医薬組成物は全身投与用に製剤される。本発明によれば、全身投与は、好ましくは注射または注入を含む非経口投与、例えば静脈内、動脈内、皮下、リンパ節内、皮内または筋肉内経路による。
【0177】
非経口投与に適する組成物は、通常、好ましくは受容者の血液と等張である、活性化合物の滅菌水性または非水性調製物を含む。適合性担体および希釈剤/溶媒の例は、滅菌水(例えば注射用水)、リンガー液および等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、通常は滅菌の、固定油が溶液または懸濁液媒質として使用される。
【0178】
「医薬的に許容され得る」という用語は、本明細書で使用される場合、好ましくは医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質の非毒性を指す。
【0179】
本明細書で使用される場合の「賦形剤」という用語は、本発明の医薬組成物中に存在してもよく、および活性成分ではないすべての物質、例えば担体、結合剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、乳化剤、緩衝剤、着香剤または着色剤を指示することが意図されている。
【0180】
「アジュバント」という用語は、免疫応答を延長させるまたは増強するまたは促進する化合物に関する。様々な種類のアジュバントに依存して、様々な機構がこれに関して可能である。例えば、DCの成熟を可能にする化合物、例えばリポ多糖類またはCD40リガンドは、適切なアジュバントの最初のクラスを形成する。一般に、「危険シグナル」のタイプの免疫系に影響を及ぼす任意の作用物質(LPS、GP96、dsRNA等)またはGM−CSFなどのサイトカインは、制御された方法で免疫応答を強化するおよび/または免疫応答に影響を及ぼすことを可能にするアジュバントとして使用できる。CpGオリゴデオキシヌクレオチドも、場合によりこれに関連して使用できるが、上記で説明したように、特定の状況下で起こるその副作用を考慮すべきである。ことさら好ましいアジュバントは、サイトカイン、例えばモノカイン、リンホカイン、インターロイキンもしくはケモカイン、例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、INFα、INF−γ、GM−CSF、LT−α、または増殖因子、例えばhGHである。さらなる公知のアジュバントは、水酸化アルミニウム、フロイントアジュバントまたはMontanide(登録商標)などの油であり、Montanide(登録商標)ISA51が最も好ましい。Pam3Cysなどのリポペプチドも、本発明の医薬組成物中のアジュバントとしての使用に適する。
【0181】
本発明の医薬組成物はまた、別の治療薬と共に使用することもでき、別の治療薬は、本発明の医薬組成物の投与の前、投与と同時に、または投与後に投与することができる。そのような治療薬は、免疫刺激性または免疫抑制性であり得る免疫調節剤、癌患者のための化学療法剤、例えばゲムシタビン、エトポホス、シスプラチン、カルボプラチン、抗ウイルス薬、抗寄生生物薬または抗菌薬を含み、同時に投与する場合は、本発明の医薬組成物中に存在し得る。
【0182】
本発明の医薬組成物は、免疫応答、殊に疾患関連抗原または疾患関連抗原を発現する細胞に対する免疫応答、例えば癌に対する免疫応答を誘導するために使用し得る。したがって、医薬組成物は、疾患関連抗原または疾患関連抗原を発現する細胞に関わる疾患、例えば癌の予防的および/または治療的処置のために使用し得る。好ましくは、前記免疫応答はT細胞応答である。1つの実施形態では、疾患関連抗原は腫瘍抗原である。
【0183】
本発明はまた、疾患の処置もしくは予防の方法における使用のためまたは免疫刺激の方法における使用のための、本明細書で定義された医薬組成物またはキットも提供する。
【0184】
本発明はまた、疾患の処置もしくは予防のためまたは免疫刺激の方法における使用のための薬剤の製造における、本明細書で定義された医薬組成物またはキットの使用に関する。
【0185】
本発明はさらに、疾患の処置もしくは予防の方法または免疫刺激の方法を提供し、前記方法は、本明細書で定義された医薬組成物を、それを必要とする被験体に投与する工程を含む。
【0186】
最後に、本発明は、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合、好ましくはエステル結合を有する少なくとも1つの脂質を含む水性製剤を化学的に安定化する方法であって、
−水性製剤のpHを2〜5.5のpHに調整すること
を含む方法を提供する。
【0187】
1つの実施形態では、化学的安定化は、エステル結合、チオエステル結合および/またはアミド結合の加水分解、好ましくはエステル結合の加水分解の阻害によって生じる。
【0188】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質の少なくとも1つは、カチオン性脂質、好ましくは上記で定義されたカチオン性脂質である。
【0189】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質の全体的な正味電荷は正である。
【0190】
1つの実施形態では、pHを、2〜5、好ましくは2.5〜5、より好ましくは3〜4.5、さらに好ましくは3〜4、さらにより好ましくは3.5〜4のpHに調整する。さらなる好ましい実施形態では、水性製剤は3.1〜3.9のpHを有する。
【0191】
1つの実施形態では、水性脂質製剤のpHを、少なくとも1つのpH調整剤、好ましくは上記で定義された少なくとも1つのpH調整剤を添加することによって調整する。
【0192】
1つの実施形態では、エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質は、上記で定義されたとおりである。
【0193】
1つの実施形態では、水性製剤中に存在する脂質はリポソームを形成する。
【0194】
1つの実施形態では、少なくとも1つのpH調整剤はリポソームと会合している。
【0195】
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0196】
実験材料
・(R)−N,N,N−トリメチル−2,3−ジオレオイルオキシ−1−1プロパナミナムクロリド(R−DOTMA)、Merck & Cie.
・1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)、Corden Pharma
・エタノール99.5%、欧州薬局方、Carl Roth
・酢酸、米国薬局方(USP)、AppliChem
・酢酸ナトリウム、USP、AppliChem
・HEPES緩衝液、Life Technologies
・注射用水、Baxter
・1mLシリンジ、inject−F、B.Braun
・0.9×40mm針、Microlance 3、BD
・R6 I型ガラスバイアル、Wheaton
・20mmアルミニウムシール、Wheaton
・20mmブチルストッパー、Wheaton
【0197】
実施例1:リポソームの調製
溶液およびリポソーム調製物と接触するすべての材料は滅菌であり、使い捨てであった。リポソームは、エタノール中に溶解した脂質を撹拌下で水相に注入する、いわゆるエタノール注入技術(Batzri and Korn, 1973)を用いて形成した。
【0198】
エタノール中の脂質比および脂質濃度は、所望の製剤および粒子サイズに依存して異なった。DOTMA/DOPEリポソームに関しては、エタノール溶液は、約330mMの総脂質濃度で、DOTMAとDOPEを2:1のモル比で含有した。DOTAP/DOPEリポソームに関しては、エタノール溶液は、約330mMの総脂質濃度で、DOTAPとDOPEを2:1のモル比で含有した。溶液は、0.2μm細孔径のフィルタ(Millipore Millex MP)を通したろ過によって滅菌した。
【0199】
エタノール中の滅菌脂質溶液を、次に、水相を含有する使い捨てスピナーフラスコに注入し、150rpmの速度で少なくとも1時間撹拌した。水相は、注射用水(wfi)もしくは25℃で1.3μS/cmの伝導率を有するMilli−Qろ過水のいずれかであるか、または指示されている緩衝塩および酸から作製した緩衝液であった。すべての材料は医薬品グレードであった。注入は、実験に依存して、5〜10mMの最終脂質濃度まで実施した。大部分の実験は、水相中6.6mMの最終総脂質濃度で実施した。
【0200】
生じたリポソーム調製物を、0.45μm細孔径の酢酸セルロースフィルタを通してろ過した。次にろ液調製物を分散溶液で所望の濃度に希釈し、バイオプロセスバッグ中で保存した。標準的な実験に関しては、4mMを最終濃度として選択した。pH安定性実験前の保存温度は2〜5℃であった。
【0201】
実施例2:pH値の関数としてのDOTMA/DOPEリポソームの安定性
pHをpH7からpH4の間の種々の値に調整した後、DOTMA/DOPEリポソーム中のDOPEの安定性を検討した。pH7に関しては、10mM HEPES緩衝液を使用した。すべてのより低いpH値については、酢酸緩衝液(すべて10mM)を使用した(表1参照)。R6 I型ガラスバイアルにリポソーム分散液2mLを満たし、安定性チャンバー内で37℃にて保存した。WTW pH−meter inoLab pH 7310、Weilheim,Germanyを使用して電位差測定法によってpH値を測定した。
【0202】
【表1】
【0203】
HPLCシステム(DADおよびELSD検出器を備えたAgilent Technologies 1200、Santa Clara,CA,USA)を使用してリポソーム調製物中の脂質濃度を測定することにより、リポソームの調製後6週間まで種々の時点で脂質安定性を試験した。
【0204】
結果を図1に示す。DOTMA/DOPEリポソームからのDOPEの標準化した回収率(パーセント)がプロットされている。DOPEだけを示しており、DOTMAに関しては、すべての条件下で分解の兆候が認められず、これは、DOTMAがエステル結合ではなくエーテル結合を含むという事実に起因する。最も低いpHであるpH4を有する水相中のリポソームは、6週間後に有意の分解がない最良の安定性を示した。これに対し、pH5では、初期値の80%だけの回収率で、既に有意の分解が観察された。pHが上昇すると共に安定性が低下し、pH6およびpH7(最良の安定性が予想された範囲)に関して最も高い分解が認められた。
【0205】
実施例3:リポソームの安定性への緩衝液濃度の影響
低いpH範囲でのDOTMA/DOPEリポソーム(2:1のモル比のDOTMA:DOPE)中のDOPEの安定性をさらに検討した。この実験では、純酢酸(10mM)を添加することによってさらにより低いpH値を試験した。酢酸緩衝液を3つの異なる濃度、すなわち1mM、5mMおよび10mMで添加した。試料に40℃で5週間ストレスを与えた。
【0206】
図2には、様々な条件についてのDOPEの回収率を示す。実施例2で述べた実験からの結果(図1)の確認として、pHを低下させることによって安定性が継続的に改善した。純酢酸(10mM;pH3.2)は、同じ濃度でpH3.5の酢酸緩衝液(AcB)と少なくとも同等かまたはより良好であるようにみえた。酸性緩衝液の安定化作用は、pH5および6で最も明らかに認められるように、濃度依存性であった。1つの傾向として、より高い緩衝液濃度は加水分解からのより良好な保護をもたらした。非常に低いpH値では、この作用はあまり顕著ではなかった。適切な濃度までの純酢酸の添加は、エステル加水分解に対するDOPEの安定化を得るための簡単で直接的な方法であり得ると結論することができる。
【0207】
実施例4:種々のストレス試験の結果の比較
図3では、いくつかの独立したストレス試験の結果を要約する。各々の場合に、DOTMA/DOPEリポソームに、40℃にて種々のpH値の酢酸および酢酸緩衝液(すべて10mM)中でストレスを与えた。5または6週間後の結果を示す(種々の充填の四角)。全般的な傾向を視覚化するために実線を引いた。
【0208】
脂質安定性とpH値の間の相関は容易に認識することができる。最大の安定性は4より低いpH範囲で得られ、pH4で保護作用がプラトーに達するようにみえる。より低いpH値またはより高い緩衝液/酸濃度は、加水分解からのさらにより良好な保護をもたらし得る。しかし、この点に関し、極端に高い緩衝液濃度または極端に低いpH値は望ましくなく、というのは、そのような厳しい条件は患者への投与用の製剤では使用されない場合があるからである。
【0209】
実施例5:pH値の関数としてのDOTAP/DOPEリポソームの安定性
この試験では、DOTMAの代わりにDOTAPを有するリポソームの安定性を検討した。DOTAPは、DOTMAと類似の構造を有するカチオン性脂質であるが、エーテル結合ではなくエステル結合を含む。それゆえ、DOTAPはDOPEと同じようにエステル加水分解を受けやすいはずである。DOTMAからDOTAPへの変更以外には、すべての他の条件は不変のままであった。
【0210】
図4には、水相の種々のpH条件に関して、40℃で2週間後の脂質回収率測定からの結果を示す。DOTAPおよびDOPEの両方の結果を示す。両方の脂質に関して加水分解が起こり、ここで全般的な挙動は同等であり、DOTMA/DOPEリポソーム中のDOPEに関する所見と同様であった。したがって、DOTAPの加水分解は、酸性緩衝液または酸、例えば酢酸の添加によってDOPEに関するのと同じように阻止することができた。
【0211】
実施例6:5mM酢酸を含むまたは含まない注射用水中のDOTMA/DOPEリポソームにおけるDOPE分解の比較
酢酸の添加を、純粋な注射用水(wfi)中であらかじめ製造しておいた、医薬用途のためのリポソームの安定化に関して試験した。図5では、酢酸を含むまたは含まないストレス試験からの結果を示す。安定化リポソームに関しては、リポソーム形成の前に5mM酢酸を水相に添加した。3つの異なる温度、5℃、25℃および40℃で3か月間の保存後のDOPE回収率測定からの結果を示す。3つの場合すべてにおいて、水相中に酢酸が存在する場合は回収率がより高かった。作用は、より高温(ストレス条件)でより顕著になり、40℃で最も明瞭に目に見え、回収率を約60%から約90%に改善することができた。
【0212】
異なる温度での安定性を比較した場合、5mM酢酸の添加は保存温度を15〜35℃低下させるのと同様の作用を及ぼした。温度を10℃低下させることは2の倍数で加水分解速度の低下をもたらすという経験則を考慮すると、これは、約4の倍数で所与の温度での安定性の増大(または加水分解速度の低下)に相当する(根拠として20℃の温度での低下に等しい作用を得る)。
【0213】
実施例7:リポプレックスの形成
pH安定化DOTMA/DOPEリポソームを使用して、pH安定化していないリポソームから作製したリポプレックスと比べて物理化学的性質に関して同等またはより良好な品質を有する静脈内注射用RNAリポプレックス製剤を形成した。
【0214】
RNAリポプレックスを以下のプロトコルに従って調製した:
1.0.9%NaCl溶液4mLのRNA 1.1mLへの添加;
2.リポソーム0.4mLのRNA/NaCl混合物への添加;および
3.室温での3分間の平衡
【0215】
表2には、リポソームおよびリポプレックスの物理化学的なキャラクタリゼーションの結果を示す。PSS−Nicomp 380 ZLS,Santa Barbara,CA,USAを用いて動的光散乱法によってリポソームの直径を測定した。酢酸を含むリポソームのサイズおよび多分散指数(PDI)は、酢酸を含まないものよりも若干小さかったが、リポプレックスの粒子サイズは酢酸を含まないものよりもいくぶん大きく、多分散指数はより小さかった。より大きなサイズは生物学的活性に関して有利と考えられ、一方より小さな多分散指数は品質要件の点で好ましい。目視で見えない粒子の数は、注射用製品中に一定の閾値を上回って存在してはならないが、リポプレックスの調製に安定化リポソームを使用した場合は有意により低かった。最終製剤のpH値は6より高く、それゆえ注射に良好に適していた。オスモル濃度は生理的条件に等しかった。
【0216】
【表2】
【0217】
実施例8:リポプレックスの生物学的評価
pH安定化リポソーム(酢酸の添加)から形成したリポプレックスの生物学的活性を生物発光測定によって検討した。製剤したホタルルシフェラーゼをコードするRNA(luc RNAリポプレックス)の取込みおよび翻訳を、Xenogen IVIS Spectrum imaging system(Caliper Life Sciences)を用いたインビボ生物発光イメージングによって評価した。簡単に述べると、luc RNAリポプレックス20μgの投与の6時間後にD−ルシフェリン(75mg/kg体重)(Caliper Life Sciences)の水溶液をマウスに腹腔内(i.p.)注射した。生存動物または抽出組織の放出光子を1分の暴露時間で10分後に定量化した。表示された画像から関心領域(ROI)を取り出し、IVIS Living Image 4.0ソフトウェアを用いて生物発光を平均放射輝度(光子/秒/cm2/sr、カラーバーによって表される)として定量化した。
【0218】
図6に示すように、pH安定化リポソームから形成したリポプレックス(表3参照)で得られたシグナルは、非pH安定化リポソームから形成したリポプレックスで得られたものよりもわずかだけ低かった。絶対数の非常に小さな低下は測定値の許容誤差より低く、それゆえ有意ではなかった。
【0219】
【表3】
【0220】
実施例9:注射用水または5mM酢酸を含む注射用水中でGMPまたはGMP様条件下で調製したDOTMA/DOPEリポソームにおけるDOPEの安定性
2/1のモル比のDOTMA/DOPEから成るリポソームを、エタノール注入技術によって約4mM(総脂質)の濃度に製造した。水相として、注射用水(wfi)または5mM酢酸を含むwfiのいずれかを使用した。wfi中のリポソームをL1リポソームと称し、5mM酢酸を含む(3〜4のpH値を生じる)wfi中のリポソームをL2リポソームと称した。酢酸の存在または不在以外には、すべての他の製造条件は同じであった。GMPグレードの脂質を使用し、GMPまたはGMP様条件下で製造を実施した。数バッチのL1およびL2リポソームを製造し、ガラスバイアルに充填した後、以下の温度で安定性を試験した:
1.5℃(2〜8℃);
2.25℃(22〜28℃)=加速条件;
3.40℃(38〜42℃)=ストレス条件。
【0221】
L1およびL2リポソームに関する安定性データをそれぞれ25か月まで(L1)および9か月まで(L2)の期間にわたって収集した。安定性試験はまだ進行中である。図7A〜Cにおいて、異なる温度での種々のバッチのL1およびL2リポソームに関する安定性データを示す。すべての温度条件下でおよびすべての製造バッチに関して、L2リポソーム中のDOPEの安定性はL1リポソームにおけるものよりも実質的に良好であった。
【0222】
これは、水相への5mM酢酸の添加による酸性条件へのpH調整がリポソーム中のDOPEの安定性を有意に改善することを示す。リポソームの保存可能期間をおよそ4の倍数で増大させることができる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. −エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質、ならびに
−少なくとも1つのpH調整剤
を含む水性製剤であって、2〜5.5のpHを有する水性製剤。
2. 当該水性製剤中に存在する前記脂質の少なくとも1つがカチオン性脂質である、1.に記載の水性製剤。
3. 当該水性製剤中に存在する前記脂質の全体的な正味電荷が正である、1.または2.に記載の水性製剤。
4. 2〜5、好ましくは2.5〜5、より好ましくは3〜4.5、さらに好ましくは3〜4、およびさらにより好ましくは3.5〜4のpHを有する、1.から3.のいずれかに記載の水性製剤。
5. エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する前記少なくとも1つの脂質が、グリセロ脂質および/またはグリセロリン脂質を含む、1.から4.のいずれかに記載の水性製剤。
6. エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する前記少なくとも1つの脂質が、カチオン性脂質および/または非カチオン性脂質を含む、1.から5.のいずれかに記載の水性製剤。
7. 前記カチオン性脂質が、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2−ジオレオイルオキシ−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)および異なる組成のアシル鎖部分を有するこれらの分子の類似体から成る群より選択される、6.に記載の水性製剤。
8. 前記非カチオン性脂質が中性脂質であり、ここで、好ましくは、前記中性脂質が、1,2−ジ−(9Z−オクタデセノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC)、ホスファチジルコリン(PC)およびジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)から成る群より選択される、6.または7.に記載の水性製剤。
9. 前記非カチオン性脂質がアニオン性脂質であり、ここで、好ましくは、前記アニオン性脂質が、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジン酸(PA)、ホスファチジルグリセロール(PG)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)から成る群より選択される、6.または7.に記載の水性製剤。
10. エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない少なくとも1つの脂質をさらに含む、1.から9.のいずれかに記載の水性製剤。
11. エステル結合、チオエステル結合またはアミド結合のいずれも有さない前記少なくとも1つの脂質が、カチオン性脂質および/または非カチオン性脂質を含む、10.に記載の水性製剤。
12. 前記カチオン性脂質が、1,2−ジ−O−オクタデセニル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、1,2−ジオレイルオキシ−N,N−ジメチルアミノプロパン(DODMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウム(DODA(Br)/DDAB)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−1,3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)および異なる組成のアシル鎖部分を有するこれらの分子の類似体から成る群より選択される、11.に記載の水性製剤。
13. 前記非カチオン性脂質が中性脂質であり、ここで、好ましくは、前記中性脂質がコレステロール(Chol)およびスフィンゴミエリン(SM)から成る群より選択される、11.または12.に記載の水性製剤。
14. 前記非カチオン性脂質がアニオン性脂質である、11.または12.に記載の水性製剤。
15. 少なくとも1つのカチオン性脂質および少なくとも1つの非カチオン性脂質を含む、1.から14.のいずれかに記載の水性製剤。
16. 前記少なくとも1つのカチオン性脂質対前記少なくとも1つの非カチオン性脂質のモル比が1:4〜4:1、好ましくは1:2〜4:1である、15.に記載の水性製剤。
17. 前記少なくとも1つのpH調整剤が酸および/または酸性緩衝液を含む、1.から16.のいずれかに記載の水性製剤。
18. 前記酸が、線状、分枝または環状C1−C28、好ましくはC1−C22カルボン酸である、17.に記載の水性製剤。
19. 前記酸が、酢酸、アスコルビン酸、クエン酸、塩酸、リン酸、分枝または非分枝、飽和、一価不飽和または多価不飽和C12−C28脂肪酸、好ましくはC12−C22脂肪酸(例えばオレイン酸)から成る群より選択される、17.または18.に記載の水性製剤。
20. 前記酸性緩衝液が、17または18で定義された酸に基づく、17から19のいずれかに記載の水性製剤。
21. 前記酸性緩衝液が、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液および炭酸緩衝液から成る群より選択される、17.から20.のいずれかに記載の水性製剤。
22. 前記少なくとも1つのpH調整剤が酢酸および/または酢酸緩衝液を含む、1.から21.のいずれかに記載の水性製剤。
23. 前記少なくとも1つのpH調整剤が、全脂質対前記少なくとも1つのpH調整剤のモル比が100:1を超えない量で存在する、1.から22.のいずれかに記載の水性製剤。
24. 前記少なくとも1つのpH調整剤が、全脂質対前記少なくとも1つのpH調整剤のモル比が10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5、より好ましくは2:1〜1:2、さらに好ましくは1.5:1〜1:1.5、さらにより好ましくは約1:1である量で存在する、23.に記載の水性製剤。
25. エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する前記少なくとも1つの脂質の加水分解速度が、6〜7のpHでのその加水分解速度に比べて低下している、1.から24.のいずれかに記載の水性製剤。
26. 当該水性製剤中に存在する前記脂質がリポソームを形成する、1.から25のいずれかに記載の水性製剤。
27. 前記少なくとも1つのpH調整剤が前記リポソームと会合している、26.に記載の水性製剤。
28. 26.または27.に記載の水性製剤を調製する方法であって、
−前記少なくとも1つのpH調整剤を含み、および2〜5.5のpHを有する水溶液中で前記リポソームを形成すること、または
−リポソームを含む水溶液に、前記水溶液のpHを2〜5.5のpHに調整するために前記少なくとも1つのpH調整剤を添加すること
を含む方法。
29. 1.から27.のいずれかに記載の水性製剤を含むキット。
30. 別の容器中に、医薬的に活性な化合物をさらに含み、ここで、好ましくは、前記医薬的に活性な化合物が核酸、好ましくはDNAまたはRNAを含む、29.に記載のキット。
31. 前記核酸を、6〜8のpHを有する緩衝液中で提供する、30.に記載のキット。
32. 医薬組成物を調製する方法であって、
−1.から27.のいずれかに記載の水性製剤を提供すること;および
−前記水性製剤を医薬的に活性な化合物と混合すること
を含む方法。
33. 前記医薬的に活性な化合物が、核酸、好ましくはDNAまたはRNAを含み、ここで、好ましくは、前記核酸を、6〜8のpHを有する緩衝液中で提供する、32.に記載の方法。
34. 32.または33.に記載の方法によって調製される医薬組成物。
35. エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する少なくとも1つの脂質を含む水性製剤を化学的に安定化する方法であって、
−前記水性製剤のpHを2〜5.5のpHに調整すること
を含む方法。
36. 前記化学的安定化が、エステル結合、チオエステル結合および/またはアミド結合の加水分解の阻害によって生じる、35.に記載の方法。
37. 前記水性製剤中に存在する前記脂質の少なくとも1つがカチオン性脂質である、35.または36.に記載の方法。
38. 前記水性製剤中に存在する前記脂質の全体的な正味電荷が正である、35.から37.のいずれかに記載の方法。
39. 前記pHを、2〜5、好ましくは2.5〜5、より好ましくは3〜4.5、さらに好ましくは3〜4、およびさらにより好ましくは3.5〜4のpHに調整する、35.から38.のいずれかに記載の方法。
40. 前記水性脂質製剤の前記pHを、少なくとも1つのpH調整剤、好ましくは17.から24.のいずれかで定義された少なくとも1つのpH調整剤を添加することによって調整する、35.から39.のいずれかに記載の方法。
41. エステル結合、チオエステル結合およびアミド結合から成る群より選択される1つ以上の結合を有する前記少なくとも1つの脂質が、5.から9.のいずれかで定義されたとおりである、35.から40.のいずれかに記載の方法。
42. 前記水性製剤中に存在する前記脂質がリポソームを形成する、35.から41.のいずれかに記載の方法。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0223】
参考文献
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