(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素質材料とを含むリチウムイオン電池用負極材であって、前記のケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素質材料はその少なくとも一部が複合化している複合粒子であり、
前記ケイ素含有粒子は、粒子表面にSiOx層(0<x≦2)を有するケイ素粒子であって、酸素含有率が1.0質量%以上18.0質量%以下であり、200nm以下の一次粒子径を有する粒子を主成分とするものであり、
前記人造黒鉛粒子は、レーザー回折法による体積基準累積粒度分布における50%累積時の粒子径D50が1.0μm以上15.0μm以下の非鱗片状人造黒鉛粒子である、リチウムイオン電池用負極材。
前記人造黒鉛粒子は、レーザー回折法による体積基準累積粒度分布における50%累積時の粒子径D50が10.0μm以下である、請求項1または2に記載のリチウムイオン電池用負極材。
前記ケイ素含有粒子の含有量が、前記人造黒鉛粒子を100質量部としたとき5.0質量部以上30.0質量部以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極材。
前記炭素質材料の量が、前記のケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素質材料との合計に対し2.0質量%以上40.0質量%以下である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極材。
前記リチウムイオン電池用負極材は、レーザー回折法による体積基準累積粒度分布における50%累積時の粒子径D50が2.0μm以上18.0μm以下である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極材。
前記リチウムイオン電池用負極材は、X線回折法による前記黒鉛粒子の(002)面の平均面間隔d002が0.3360nm以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極材。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ケイ素含有粒子)
ケイ素含有粒子は、粒子表層がSiOx(0<x≦2)を含有するものである。表層以外の部分(コア)は、元素状ケイ素からなっていてもよいし、SiOx(0<x≦2)からなっていてもよい。SiOxを含有する表層の平均厚さは0.5nm以上10.0nm以下が好ましい。SiOxを含有する表層の平均厚さが0.5nm以上であると、空気や酸化性ガスによる酸化を抑制することができる。また、SiOxを含有する表層の平均厚さが10.0nm以下であると、初期サイクル時の不可逆容量の増加を抑制することができる。この平均厚さはTEM写真により測定することができる。
【0011】
ケイ素含有粒子は、酸素含有率が、好ましくは1.0質量%以上18.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以上10.0質量%以下である。この範囲内であれば、初期サイクル時の不可逆容量の増加を抑制することができる。酸素含有率は、例えば、酸素窒素同時分析装置(不活性ガス融解−赤外線吸収法)により定量することができる。
【0012】
ケイ素含有粒子は、200nm以下の一次粒子径を有する粒子を主成分とすることが好ましい。具体的には、一次粒子径の数基準累積分布において90%径が200nm以下であることが好ましい。一次粒子径はSEMやTEM等の顕微鏡による観察で測定することができる。また、複合化してなるケイ素含有粒子の一次粒子径は、倍率10万倍の透過電子顕微鏡にて観察される球状粒子の像を画像解析することによって算出できる。
【0013】
ケイ素含有粒子は、下式によって定義される直径Davが、好ましくは20nm以上150nm以下、より好ましくは30nm以上120nm以下である。
Dav=6/(ρ×Ssa)
Dav:粒子が稠密な球であると仮定したときの直径
Ssa:ケイ素含有粒子のBET比表面積(m
2/g)
ρ:ケイ素の真密度(理論値としての2.33g/cm
3)
直径Davがこの範囲にあることにより、Si結晶相へのLiの挿入に伴う体積歪を緩和することができ、Siを負極活物質に用いたときの最大の欠点である充放電に伴う膨張収縮を抑制することができる。
【0014】
ケイ素含有粒子は、ケイ素以外に、他の金属元素及び半金属元素(炭素元素など)から選択される元素Mを粒子中に含むことができる。具体的に元素Mとしては、例えば、ニッケル、銅、鉄、スズ、アルミニウム、コバルト等が挙げられる。元素Mの含有量は、ケイ素の作用を大きく阻害しない範囲であれば特に制限はなく、例えばケイ素原子1モルに対して1モル以下である。
【0015】
ケイ素含有粒子は、その製法によって特に制限されない。例えば、WO2012/000858A1に開示されている方法により製造することができる。
【0016】
負極材に含まれるケイ素含有粒子の量は、人造黒鉛粒子100質量部に対して、好ましくは5.0質量部以上30.0質量部以下、より好ましくは7.0質量部以上25.0質量部以下である。ケイ素含有粒子の量が少ない場合は、当該粒子を添加することによる電池容量の向上の効果が乏しい傾向がある。ケイ素含有粒子の量が多い場合は、リチウムイオンの挿入、脱離に伴う体積変化が大きくなる傾向がある。
【0017】
(人造黒鉛粒子)
黒鉛粒子は、組織が入り組んでいると硬いため、電極密度を向上させるためには大きな組織を持つ黒鉛粒子とすることが好ましい。黒鉛粒子中に観察される組織としては、結晶が発達し黒鉛網面が整うことにより光学的異方性を示す組織と、結晶が未発達もしくはハードカーボンのような結晶の乱れが大きいことにより光学的等方性を示す組織があることは古くから知られている。これら組織の観察について、X線回折法を使用して、結晶子のサイズを測ることも可能であるが、例えば“最新の炭素材料実験技術(分析・解析偏)炭素材料学会偏(2001年),出版:サイペック株式会社,1〜8頁”等に記載されている偏光顕微鏡観察法により観察することができる。本明細書においては、偏光顕微鏡のクロスニコル状態で試料を観察した場合に黒色以外の色(鋭敏色検板を使用している場合は鋭敏色以外の色)が観察される個々の領域(ドメイン)を光学組織と呼ぶ。
【0018】
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子は、光学組織の大きさ及び形状が特定の範囲にあり、さらに適切な黒鉛化度を有することにより、電極材料としてのつぶれ特性と電池特性がともに優れた材料となる。
【0019】
光学組織の大きさ及び形状に関し、本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子は以下の式を満足する。
1.5≦AROP≦6.0 および
0.2×D50≦(SOP×AROP)
1/2<2×D50
【0020】
SOPとは、前記人造黒鉛粒子の成形体断面において偏光顕微鏡を使用して観察される光学組織について、面積の小さな組織から面積を累積し、その累計面積が全光学組織面積の60%の面積となるときの光学組織の面積を表す。AROPとは、同様の観察において、アスペクト比の小さな組織から組織の数を数え組織全体の数の60%番目の組織におけるアスペクト比を表す。D50は、レーザー回折法による体積基準累積粒度分布における50%累積時の粒子径である。
【0021】
炭素材料中の光学組織は流れながら硬化するため、帯状をしていることが多く、炭素材料の断面を観察したときに光学組織の形状は概ね矩形となっており、その面積は光学組織の短径と長径を掛けたものと推定できる。また、短径は長径/アスペクト比である。面積SOPの対象となる光学組織とアスペクト比AROPの対象となる光学組織が同じものであると仮定すると、その光学組織における長径は(SOP×AROP)
1/2となる。すなわち、(SOP×AROP)
1/2は特定の大きさの光学組織の長径を仮定したものであり、それとD50との比により、光学組織がある程度以上の大きさを有することを上記数式にて規定している。
【0022】
光学組織の長径を仮定した(SOP×AROP)
1/2は、通常、D50よりも小さくなるが、(SOP×AROP)
1/2とD50の値が近い場合には炭素材料中の粒子はより少ない数の光学組織からなっていることを意味し、D50に対して(SOP×AROP)
1/2が小さい場合には炭素材料中の粒子は多数の光学組織を含むことを意味する。(SOP×AROP)
1/2の値が0.2×D50以上であると、光学組織の境界が少なく、リチウムイオンの拡散にとって都合がよく、そのため高速度で充放電できる。またその値が大きくなれば保持できるリチウムイオンがより多くなる。その値は、好ましくは0.25×D50以上であり、より好ましくは0.28×D50以上であり、さらに好ましくは0.35×D50以上である。上限は2×D50未満であるが、好ましくは1×D50以下である。
【0023】
D50はレーザー回折式粒度分布計において体積基準で測定された50%累積時の径を表し、粒子の外見上の径を示す。レーザー回折式粒度分布計としては、例えばマルバーン製マスターサイザー(Mastersizer;登録商標)等が利用できる。
【0024】
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子のD50は、1μm以上15μm以下である。好ましくは1μm以上10μm以下であり、より好ましくは1μm以上7μm以下である。D50を1μm未満とするには粉砕時に特殊な機器により粉砕することが必要であり、エネルギーもより多く必要となる。また凝集や塗工性低下などハンドリングが難しくなり、比表面積が過度に大きくなり初期充放電効率が低下する。一方、D50が大きすぎると、負極材中のリチウム拡散に時間がかかることになり入出力特性が低下したり、人造黒鉛粒子の表面にケイ素含有粒子が均一に複合化しにくくなることからサイクル特性が低下する。つまり、前記範囲のD50とすることで、経済性よく、初期充放電効率と入出力特性とサイクル特性が良好な負極材を得ることができる。
【0025】
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子のアスペクト比AROPは、1.5以上6.0以下である。より好ましくは2.0以上4.0以下、さらに好ましくは2.0以上2.3以下である。AROPが上記下限値よりも大きいと、組織同士がすべることにより、高密度な電極が得られ易いため好ましく、上限値以下であると、原料を合成するために必要なエネルギーが小さく好ましい。
【0026】
光学組織の観察及び解析方法は以下の通りである。
[偏光顕微鏡観察試料作製]
本発明における「炭素材料の断面」は以下のようにして作製する。
内容積30cm
3のプラスチック製サンプル容器の底に両面テープを貼り、その上にスパチュラ2杯ほど(2g程度)の観察用サンプルを乗せる。冷間埋込樹脂(商品名:冷間埋込樹脂#105、製造会社:ジャパンコンポジット(株)、販売会社:丸本ストルアス(株))に硬化剤(商品名:硬化剤(M剤)、製造会社:日本油脂(株)、販売会社:丸本ストルアス(株))を加え、30秒練る。得られた混合物(5ml程度)を前記サンプル容器に高さ約1cmになるまでゆっくりと流し入れ、1日静置して凝固させる。次に凝固したサンプルを取り出し、両面テープを剥がす。そして、研磨板回転式の研磨機を用いて、測定する面を研磨する。
【0027】
研磨は、回転面に研磨面を押し付けるように行う。研磨板の回転は1000rpmで行う。研磨板の番手は、#500、#1000、#2000の順に行い、最後はアルミナ(商品名:バイカロックス(Baikalox;登録商標) タイプ0.3CR、粒子径0.3μm、製造会社:バイコウスキー、販売会社:バイコウスキージャパン)を用いて鏡面研磨する。
【0028】
研磨したサンプルをプレパラート上に粘土で固定し、偏光顕微鏡(OLYMPUS社製、BX51)を用いて観察を行う。
【0029】
[偏光顕微鏡像解析方法]
観察は200倍で行う。偏光顕微鏡で観察した画像は、OLYMPUS製CAMEDIA(登録商標) C−5050 ZOOMデジタルカメラをアタッチメントで偏光顕微鏡に接続し、撮影する。シャッタータイムは1.6秒で行う。撮影データのうち、1200ピクセル×1600ピクセルの画像を解析対象とする。これは480μm×640μmの視野に相当する。解析に使用する画像は多いほど好ましく、40枚以上で測定誤差が小さくなる。画像解析はImageJ(アメリカ国立衛生研究所製)を用いて,青色部,黄色部,赤色部,黒色部を判定した。
各色のImageJ使用時に各色を定義したパラメーターは以下の通りである。
【0030】
検出された組織に対する統計処理は外部マクロを使って行う。黒色部、すなわち、光学組織ではなく樹脂部分に相当するものは、統計対象から除外し、青色、黄色、赤色のそれぞれの光学組織について、各組織の面積及びアスペクト比を算出する。
【0031】
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子は、非鱗片状の人造黒鉛粒子からなる。これは、その負極材を用いた電極作製時の炭素網面層の配向を防ぐためである。鱗片度の評価の指標としては配向性を用いる。すなわち、本発明の好ましい実施形態に係る人造黒鉛粒子は、粉末X線回折測定から得られるXRDパターンにおいて黒鉛結晶の(110)面のピーク強度I
110と(004)面のピーク強度I
004の比I
110/I
004が0.10以上0.35以下である。前記比は、好ましくは0.18以上0.30以下であり、さらに好ましくは0.21以上0.30以下である。前記比が0.1より低い値を有する人造黒鉛粒子では配向性が高すぎるため、負極材中のSiや黒鉛へのリチウムイオンの挿入・脱離(吸蔵・放出)に伴う膨張収縮により、電極の集電体面に対して垂直方向への電極膨張が起こりやすく、サイクル寿命において不利である。また炭素網面が電極面と並行になるためLiの挿入が起こりにくく急速充放電特性が悪くなる。前記比が0.35より高い値を有する人造黒鉛粒子では配向性が低すぎるため、その負極材を用いた電極作製時のプレスを行う際に電極密度が上がりにくくなる。
また、鱗片状になると嵩密度が小さくなるので扱いにくくなり、電極作製のためにスラリーにする際に溶媒との親和性が低く、電極の剥離強度が弱くなることもある。
この粒子の配向性は、先述の光学組織とも関わりがある。
【0032】
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子は、平均円形度が0.80〜0.95である。先述のように粒子が鱗片状である場合や形状が歪な場合は平均円形度が小さくなるが、鱗片状である場合は先述の通り、負極材を用いた電極の膨張が起こりやすくサイクル寿命や急速充放電性が低下し、歪である場合は電極作製時に粒子間の空隙が大きくなるので電極密度が上がりにくい。逆に平均円形度が高すぎると電極を作製した際に粒子間の接点が小さくなり、抵抗が高く入出力特性が悪くなる。好ましくは0.83〜0.93であり、より好ましくは0.85〜0.90である。
なお、平均円形度はFPIA−3000(シスメックス社製)を用いてLPFモードで10000個以上の粒子に対して解析された円形度の頻度分布により算出される。ここで円形度とは、観測された粒子像の面積と同面積を有する円の周長を粒子像の周長で割ったものであり、1に近い程真円に近い。粒子像の面積をS、周長をLとすると、以下の式で表すことができる。
円形度=(4πS)
1/2/L
【0033】
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子は、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.3360nm以下である。これにより負極材中の人造黒鉛粒子自身も質量あたりのリチウム挿入、脱離量が多く、すなわち負極材としても重量エネルギー密度が高くなる。また、負極材としてのSiへのリチウム挿入、脱離に伴う膨張収縮を緩和しやすくなりサイクル寿命が良くなる。
人造黒鉛粒子の結晶子のC軸方向の厚みLcとしては50nm以上1000nm以下が、重量エネルギー密度やつぶれ性の観点から好ましい。
d002及びLcは、既知の方法により粉末X線回折(XRD)法を用いて測定することができる(野田稲吉、稲垣道夫、日本学術振興会、第117委員会試料、117−71−A−1(1963)、稲垣道夫他、日本学術振興会、第117委員会試料、117−121−C−5(1972)、稲垣道夫、「炭素」、1963、No.36、25−34頁参照)。
【0034】
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子は、BET比表面積が1.0m
2/g以上9.0m
2/g以下であり、3.0m
2/g以上7.5m
2/g以下がより好ましい。人造黒鉛粒子のBET比表面積が1.0m
2/g未満では、ケイ素含有粒子、及び炭素質材料の前駆体であるピッチが、人造黒鉛粒子に複合化されにくくサイクル寿命の改善が不十分である。また、人造黒鉛粒子のBET比表面積が9.0m
2/gを超えて大きいと、負極材としてのBET比表面積も大きくなり、活物質表面での不可逆な副反応が生じたり、結着剤を過剰に使用することが必要になる。さらに、人造黒鉛粒子のBET比表面積が上述の範囲にあると、負極材として不可逆な副反応を抑制しつつ電解液と接触する面積を大きく確保できるので入出力特性が向上する。
【0035】
なお、BET比表面積は、単位質量あたりのガスの吸着脱離量の計測という一般的な手法によって測定する。測定装置としては、例えばNOVA−1200を用いることができる。
【0036】
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子は、液体窒素冷却下における窒素ガス吸着法による直径0.4μm以下の細孔の全細孔容積が5.0μL/g以上40.0μL/g以下である。さらに好ましくは25.0μL/g以上40.0μL/g以下である。適度な酸化処理を施すことにより、細孔の生成及び拡大が起こり、全細孔容積が前記の範囲となる人造黒鉛粒子を作製することができる。全細孔容積が5.0μL/g以上であると、ケイ素含有粒子、及び炭素質材料の前駆体であるピッチが、人造黒鉛粒子に複合化されやすくなりサイクル寿命の改善の点で好ましい。X線回折法で測定されるLcが100nm以上の炭素材料において、前記全細孔容積が40.0μL/g以下であると、充放電時の黒鉛層の異方的な膨張収縮に起因する構造の不可逆変化が起こりにくく、負極材としてのサイクル特性もさらに向上する。また、人造黒鉛粒子の全細孔容積がこの範囲のとき、その負極材を活物質として用いた際でも電解液が浸透しやすくなるので急速充放電特性の点でも好ましい。
【0037】
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子は、ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm
-1の範囲にある非晶質成分由来のピークの強度(ピークの高さ)I
Dと1580〜1620cm
-1の範囲にある黒鉛成分由来のピークの強度(ピークの高さ)I
Gとの比I
D/I
G(R値)が0.04以上0.18以下が好ましく、0.08以上0.16以下がさらに好ましい。R値が0.04未満の場合は黒鉛結晶性が高すぎるため急速充放電特性が低下する傾向がある。R値が0.18を超える場合は多くの欠陥の存在により充放電時に副反応が生じやすくなり、サイクル特性が低下する傾向がある。
ラマンスペクトルは、例えば日本分光社製NRS−5100を用いて、付属の顕微鏡で観察しながら、観察することによって、測定することが可能である。
【0038】
(人造黒鉛粒子の製造方法)
本発明の好ましい実施態様における人造黒鉛粒子は、熱履歴が1000℃以下のコークスを粉砕した粒子を加熱することにより製造することができる。
コークスの原料としては、例えば、石油ピッチ、石炭ピッチ、石炭ピッチコークス、石油コークス及びこれらの混合物を用いることができる。これらの中でも、特定の条件下でディレイドコーキングを行ったものが望ましい。
【0039】
ディレイドコーカーに通す原料としては、原油精製時の重質溜分に対して、流動床接触分解を行った後に触媒を除去したデカントオイルや、瀝青炭等から抽出されたコールタールを200℃以上の温度で蒸留し、得られたタールを100℃以上に昇温することによって十分に流動性を持たせたものが挙げられる。ディレイドコーキングプロセス中、少なくともドラム内入り口においては、これらの液体が450℃以上、さらには500℃、よりさらには510℃以上に昇温されていることが好ましく、それにより後工程での熱処理時に残炭率が高くなり、収率が向上する。また、ドラム内での圧力は好ましくは常圧以上、より好ましくは300kPa以上、さらに好ましくは400kPa以上に維持する。これにより負極としての容量がより高まる。以上の通り、通常よりも過酷な条件においてコーキングを行うことにより、液体をより反応させ、より重合度の高いコークスを得ることができる。
【0040】
得られたコークスをドラム内からジェット水流により切り出し、得られた塊を5cm程度まで金槌等で粗粉砕する。粗粉砕には、二軸ロールクラッシャーやジョークラッシャーを用いることもできるが、好ましくは1mm篩上が90質量%以上となるように粉砕する。粒径1mm以下の微粉が大量に発生する程度にまで過粉砕を行うと、以降の加熱の工程等において、乾燥後、コークス粉が舞い上がったり、焼損が増えてしまったりするなどの不都合が生じるおそれがある。
【0041】
コークスは、特定の光学組織の面積及びアスペクト比が特定の範囲にあることが好ましい。光学組織の面積及びアスペクト比に関しては、先述の方法により算出することも可能であるが、コークスを数cm大の塊状物として得た場合には、それをそのまま樹脂に埋設し、鏡面加工等してその断面を偏光顕微鏡により観察し、光学組織の面積及びアスペクト比を算出する。
【0042】
コークス断面の480μm×640μmの矩形の視野において偏光顕微鏡により観察される光学組織において、面積の小さな組織から面積を累積し、その累計面積が全光学組織面積の60%の面積となるときの光学組織の面積が50μm
2以上5000μm
2以下であることが好ましく、100μm
2以上3000μm
2以下であることがより好ましく、100μm
2以上160μm
2以下であることが最も好ましい。上記の範囲にあるコークスを粉砕し黒鉛化すると、先述のような光学組織を有する炭素材料を得ることができ、十分に発達した結晶組織を有することになるためリチウムイオンをより高い密度で保持することが可能となる。また、結晶がよりそろった形で発達し、結晶面破断による滑りにより、電極をプレスする際に粒子形状の自由度が高く充填性が高まりより好ましい。
【0043】
また、上記と同様にコークスの光学組織において、アスペクト比の小さな組織から組織の数を数え組織全体の数の60%番目の組織におけるアスペクト比が1.5以上6以下であることが好ましく、2.0以上3.0以下であることがより好ましく、2.3以上2.6以下であることが最も好ましい。
【0044】
次にコークスを粉砕する。
乾式で粉砕を行う場合、粉砕時にコークスに水が含まれていると粉砕性が著しく低下するので、100〜1000℃程度で乾燥させることが好ましい。より好ましくは100〜500℃である。コークスが高い熱履歴を有していると圧砕強度が強くなり粉砕性が悪くなり、また結晶の異方性が発達してしまうので劈開性が強くなり鱗片状の粉末になり易くなる。粉砕する手法に特に制限はなく、公知のジェットミル、ハンマーミル、ローラーミル、ピンミル、振動ミル等が用いて行うことができる。
粉砕は、D50が1.0μm以上15.0μm以下となるように行うことが好ましい。より好ましくは1.0μm以上10.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以上7.0μm以下となるように粉砕する。
【0045】
黒鉛化は、好ましくは2400℃以上、より好ましくは2800℃以上、さらに好ましくは3050℃以上、最も好ましくは3150℃以上の温度で行う。より高い温度で処理すると、より黒鉛結晶が成長し、リチウムイオンをより高容量で蓄えることが可能な電極を得ることができる。一方、温度が高すぎると黒鉛粉が昇華するのを防ぐことが困難であり、必要とされるエネルギーも余りにも大きくなるため、黒鉛化温度は3600℃以下であることが好ましい。
【0046】
これらの温度を達成するためには電気エネルギーを用いることが好ましい。電気エネルギーは他の熱源と比べると高価であり、特に2000℃以上を達成するためには、極めて大きな電力を消費する。そのため、黒鉛化以外に電気エネルギーは消費されないほうが好ましく、黒鉛化に先んじて炭素原料は焼成され、有機揮発分が除去された状態、すなわち固定炭素分が95%以上、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上となっていることが好ましい。この焼成は例えば700〜1500℃で加熱することにより行うことができる。焼成により黒鉛化時の質量減少が低減するため、黒鉛化処理装置で一度の処理量を高めることができる。
【0047】
黒鉛化後は粉砕処理を行わないことが望ましい。ただし、黒鉛化後に粒子が粉砕しない程度に解砕することはできる。
黒鉛化後に粉砕されていない黒鉛粒子を活物質として用いて電極を作製すると、電極圧縮時に電極内部で活物質が均一に分布しやすくなり、また隣接する粒子との接触も安定し、よって繰り返し充放電に一層優れた電池とすることができる。
【0048】
(炭素質材料)
本発明の好ましい実施態様における炭素質材料は、前記人造黒鉛粒子とは異なるものであって、炭素原子により形成される結晶の発達が低い炭素材料であり、ラマン散乱による1360cm
-1近傍にピークを持つ。
炭素質材料は、例えば、炭素前駆体を炭素化することによって製造することができる。前記炭素前駆体は、特に限定されないが、熱重質油、熱分解油、ストレートアスファルト、ブローンアスファルト、エチレン製造時に副生するタールまたは石油ピッチなどの石油由来物質、石炭乾留時に生成するコールタール、コールタールの低沸点成分を蒸留除去した重質成分、コールタールピッチ(石炭ピッチ)などの石炭由来物質が好ましく、特に石油系ピッチまたは石炭系ピッチが好ましい。ピッチは複数の多環芳香族化合物の混合物である。ピッチを用いると、高い炭素化率で、不純物の少ない炭素質材料を製造できる。ピッチは酸素含有率が少ないので、ケイ素含有粒子を炭素質材料で被覆する際に、ケイ素含有粒子が酸化されにくい。
【0049】
炭素質材料の前駆体としてのピッチは、軟化点が、好ましくは80℃以上300℃以下である。低すぎる軟化点を有するピッチは、それを構成する多環芳香族化合物の平均分子量が小さく且つ揮発分が多いので、炭素化率が低くなったり、製造コストが上がったりし、さらに細孔を多く含んだ比表面積の大きい炭素質材料が得られやすい。高すぎる軟化点を有するピッチは、粘度が高いので、ケイ素含有粒子と均一に混ぜ合わせ難い傾向がある。ピッチの軟化点はASTM−D3104−77に記載のメトラー法で測定することができる。
【0050】
炭素質材料の前駆体としてのピッチは、残炭率が、好ましくは20質量%以上70質量%以下、より好ましくは25質量%以上60質量%以下である。残炭率の低いピッチを用いると、製造コストが上がり、比表面積の大きい炭素質材料が得られやすい。残炭率の高いピッチは、一般に粘度が高いので、ケイ素含有粒子とを均一に混合させ難い傾向がある。
残炭率は以下の方法で決定される。固体状のピッチを乳鉢等で粉砕し、粉砕物を窒素ガス流通下で質量熱分析する。1100℃における質量の仕込み質量に対する割合を残炭率と定義する。残炭率はJIS K2425において炭化温度1100℃にて測定される固定炭素量に相当する。
【0051】
本発明に用いられるピッチは、QI(キノリン不溶分)含量が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下、さらに好ましくは2.0質量%以下である。ピッチのQI含量はフリーカーボン量に対応する値である。フリーカーボンを多く含むピッチを熱処理すると、メソフェーズ球体が出現してくる過程で、フリーカーボンが球体表面に付着し三次元ネットワークを形成して、球体の成長を妨げるため、モザイク状の組織となりやすい。一方、フリーカーボンが少ないピッチを熱処理すると、メソフェーズ球体が大きく成長してニードルコークスを生成しやすい。QI含量が上記の範囲にあることにより、電極特性が一層良好になる。
【0052】
また、本発明に用いられるピッチは、TI(トルエン不溶分)含量が、好ましくは10.0質量%以上70.0質量%以下である。TI含量が低いピッチは、それを構成する多環芳香族化合物の平均分子量が小さく、揮発分が多いので、炭素化率が低くなり製造コストが上昇し、細孔を多く含んだ比表面積が大きい炭素質材料が得られやすい。TI含量が高いピッチは、それを構成する多環芳香族化合物の平均分子量が大きいので炭素化率が高くなるが、TI含量の高いピッチは粘度が高いので、ケイ素含有粒子と均一に混合させ難い傾向がある。TI含量が上記範囲にあることによりピッチとその他の成分とを均一に混合でき、かつ、電池用活物質として好適な特性を示す負極材を得ることができる。
【0053】
本発明に用いられるピッチのQI含量及びTI含量はJIS K2425に記載されている方法またはそれに準じた方法により測定することができる。
【0054】
炭素質材料の量は、前記のケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素質材料との合計に対し、好ましくは2.0質量%以上40.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以上30.0質量%以下である。
炭素質材料の量が2.0質量%未満であると、ケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子との結合が十分でなく、また、ケイ素含有粒子の表面を炭素質材料で覆うことができないため、Siに導電性が付与されにくくなったり、Siの表面反応性を抑制する効果や膨張収縮を緩和する効果が低くサイクル特性が低下する傾向がある。一方、40.0質量%を超えると、炭素質材料量に依存して初期効率が低くなる傾向がある。
【0055】
(リチウムイオン電池用負極材)
本発明の一実施形態に係る負極材は、ケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素質材料とを含んでなり、前記のケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素質材料は少なくともその一部が互いに複合化して複合粒子を形成していることが好ましい。複合化とは、例えば、ケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子とが炭素質材料により固定されて結合して複合粒子を形成している状態や、あるいはケイ素含有粒子及び/または人造黒鉛粒子が炭素質材料により被覆されて複合粒子を形成している状態を挙げることができる。本発明においてはケイ素含有粒子が炭素質材料によって完全に被覆され、Siが露出していない状態となっていることが好ましく、その中でもケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子とが炭素質材料を介して連結し、その全体が炭素質材料により被覆されて複合粒子を形成している状態、及びケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子とが直接接触し、その全体が炭素質材料により被覆されて複合粒子を形成している状態が好ましい。負極材として電池に用いた際に、ケイ素含有粒子の表面が露出しないことにより電解液分解反応が抑制されクーロン効率を高く維持することができ、炭素質材料を介して人造黒鉛粒子及びケイ素含有粒子が連結することによりそれぞれの間の導電性を高めることができ、またケイ素含有粒子が炭素質材料により被覆されることによりその膨張及び収縮に伴う体積変化を緩衝することができる。
【0056】
本発明の一実施形態に係る負極材には、複合化されていない、人造黒鉛粒子、炭素質材料またはケイ素含有粒子が単独で含まれていてもよい。複合化されずに単独で含まれている人造黒鉛粒子、炭素質材料、またはケイ素含有粒子の量は少ない方が好ましく、具体的に、負極材の質量に対して、好ましくは10質量%以下である。
【0057】
本発明に係る負極材において、レーザー回折法による体積基準累積粒度分布における50%累積時の粒子径D50は、2.0μm以上18.0μm以下が好ましい。より好ましくは4.0μm以上10.0μm以下である。D50が2.0μm未満では、負極材製造における経済性に劣り、また塗工性低下などハンドリングが難しくなり、電極作製にバインダーを多く必要としたり、電極密度が上がり難くなったり、比表面積が過度に大きくなり電解液との副反応により初期充放電効率が低下する。一方、D50が18.0μmを超えて大きい場合は、入出力特性が低下したり、電極中での均一分布性が低下しサイクル特性が低下したりする。つまり、前記範囲のD50とすることで、経済性よく製造することが可能であり、初期充放電効率と入出力特性とサイクル特性が良好になる。
【0058】
本発明に係る負極材において、BET比表面積は、2.0m
2/g以上10.0m
2/g以下が好ましい。より好ましくは4.0m
2/g以上8.0m
2/g以下である。BET比表面積が2.0m
2/g未満では、入出力特性が低下したり、電極中での均一分布性が低下しサイクル特性が低下したりする。BET比表面積が10.0m
2/gを超えると、塗工性低下などハンドリングが難しくなり、電極作製にバインダーを多く必要としたり、電極密度が上がり難くなり、電解液との副反応により初期充放電効率が低下する。さらには、複合化しているものを過度に解砕してSi表面が露出すると、ケイ素含有粒子の表面反応性を抑制する効果や膨張収縮を緩和する効果が低くなるためにサイクル特性が劣化しやすい。
【0059】
本発明に係る負極材において、X線回折法による黒鉛粒子の(002)面の平均面間隔d002が0.3360nm以下が好ましい。これにより負極材中の人造黒鉛粒子自身も質量あたりのリチウム挿入、脱離量が多く、すなわち負極材としても重量エネルギー密度が高くなる。また、負極材として、Siへのリチウム挿入・脱離に伴う膨張収縮を緩和しやすくなりサイクル寿命が良くなる。
【0060】
本発明に係る負極材において、顕微ラマン分光測定器で複合粒子を測定した際ラマン分光スペクトルで測定される1300〜1400cm
-1の範囲にあるピークのピーク強度(ピーク高さ)I
Dと1580〜1620cm
-1の範囲にあるピークのピーク強度(ピーク高さ)I
Gとの比I
D/I
G(R値)が0.15以上1.00以下が好ましい。より好ましくは、0.20以上1.00以下、さらに好ましくは0.40以上1.00以下である。R値が小さ過ぎることは、人造黒鉛粒子の表面がケイ素含有粒子を内包した炭素質材料による被覆層で十分覆われていないことを表す。よって、R値が0.15未満では、人造黒鉛粒子とケイ素含有粒子との結合が十分でなく、ケイ素含有粒子に導電性を付与する効果が得られにくく、また、炭素質材料の被覆層によるケイ素含有粒子の表面反応性を抑制する効果や膨張収縮を緩和する効果が低くなるためにサイクル特性が劣化しやすい。一方、R値が大きすぎることは、初期不可逆容量の大きな非晶質炭素を多量に含み人造黒鉛粒子の表面を覆っていることを表す。よって、R値が1.00を超えて大きい場合では、初期放電効率が低くなりやすい。
【0061】
(負極材の製造方法)
本発明の一実施形態に係る負極材は、ケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素質材料とを含んでなり、前記のケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素質材料はその少なくとも一部が複合化している複合粒子を形成していることが好ましい。このような構成を有する負極材は公知の方法に従って製造することができる。
例えば、ケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素質材料の前駆体とを混ぜ合わせ、得られた混合物を熱処理して前記前駆体を炭素質材料に成すことを含む方法によって負極材を得ることができる。
ケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子と炭素前駆体との混合物は、例えば、炭素前駆体の一つであるピッチを溶融させ、該溶融ピッチとケイ素含有粒子とを不活性雰囲気にて混合し、該混合物を粉砕し、該粉砕物を人造黒鉛粒子と混合することによって;ケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子とを混合し、次いでケイ素含有粒子及び人造黒鉛粒子の混合物と炭素前駆体とを混合してメカノケミカル処理を行うことによって;または炭素前駆体を溶媒により溶解し、該液相にてケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子を添加混合し、次いで粉砕することによって;得ることができる。メカノケミカル処理は、例えば、奈良機械製ハイブリダイザー(登録商標)などの公知の装置を用いることができる。
【0062】
粉砕や混合のために、ボールミル、ジェットミル、ロッドミル、ピンミル、ロータリーカッターミル、ハンマーミル、アトマイザー、乳鉢等の公知の装置を用いることができるが、ケイ素含有粒子の酸化度合いが高くならないような方法を採用することが好ましく、一般的に酸化は比表面積の大きい小粒径粒子ほど進みやすいと考えられるため、大粒径粒子の粉砕が優先的に進行し、小粒径粒子の粉砕はあまり進まない装置が好ましい。例えば、ロッドミル、ハンマーミルなどのような、主に衝撃によって粉砕する手段は、衝撃力が大粒径粒子に優先的に伝わり、小粒径粒子にあまり多く伝わらない傾向がある。ピンミル、ロータリーカッターミルなどのような、主に衝撃とせん断によって粉砕する手段は、せん断力が大粒径粒子に優先的に伝わり、小粒径粒子にあまり多く伝わらない傾向がある。このような装置を使用し、ケイ素含有粒子の酸化を進ませずに、粉砕や混合することによって、本発明に係る負極材を得ることができる。
【0063】
また、Siの酸化進行を抑えるために、前記の粉砕・混合時は非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気としては、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスを充満させた雰囲気が挙げられる。
【0064】
炭素前駆体を炭素質材料に成すための熱処理は、好ましくは200℃以上2000℃以下、より好ましくは500℃以上1500℃以下、特に好ましくは600℃以上1200℃以下の温度で行う。この熱処理によって、炭素質材料がケイ素含有粒子及び/または人造黒鉛粒子を被覆し、また炭素質材料が、ケイ素含有粒子相互の間、人造黒鉛粒子相互の間、及びケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子との間に入り込み連結した形態にすることができる。熱処理温度が低すぎると炭素前駆体の炭素化が十分に終了せず、負極材中に水素や酸素が残留し、それらが電池特性に悪影響を及ぼすことがある。逆に熱処理温度が高すぎると結晶化が進みすぎて充電特性が低下したり、ケイ素と炭素とが結合してLiイオンに対し不活性な状態を生じさせることがある。熱処理は、非酸化性雰囲気で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気としては、アルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスを充満させた雰囲気が挙げられる。熱処理による融着で塊になっていることがあるので、熱処理品を電極活物質として用いるために、解砕することが好ましい。解砕方法としては、ハンマーなどの衝撃力を利用したパルベライザー、被解砕物同士の衝突を利用したジェットミルなどが好ましい。
【0065】
(負極用ペースト)
本発明の一実施形態に係る負極用ペーストは、前記負極材とバインダーと溶媒と必要に応じて導電助剤などを含むものである。この負極用ペーストは、例えば、前記負極材とバインダーと溶媒と必要に応じて導電助剤などを混練することによって得られる。負極用ペーストは、シート状、ペレット状などの形状に成形することができる。
【0066】
バインダーとしては特に制限は無く、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、イオン伝導率の大きな高分子化合物などが挙げられる。イオン伝導率の大きな高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリファスファゼン、ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。バインダーの量は、負極材100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上100質量部以下である。
【0067】
導電助剤は電極に対し導電性及び電極安定性(リチウムイオンの挿入・脱離における体積変化に対する緩衝作用)を付与する役目を果たすものであれば特に限定されない。例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相法炭素繊維(例えば、「VGCF(登録商標)」昭和電工社製)、導電性カーボン(例えば、「デンカブラック(登録商標)」電気化学工業社製、「Super C65」TIMCAL社製、「Super C45」TIMCAL社製、「KS6L」TIMCAL社製)などが挙げられる。導電助剤の量は、負極材100質量部に対して、好ましくは10質量部以上100質量部以下である。
【0068】
溶媒は、特に制限はなく、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、イソプロパノール、水などが挙げられる。溶媒として水を使用するバインダーの場合は、増粘剤を併用することが好ましい。溶媒の量はペーストが集電体に塗布しやすいような粘度となるように調整される。
【0069】
(負極シート)
本発明の一実施形態に係る負極シートは、集電体と、該集電体を被覆する電極層とを有するものである。
集電体としては、例えば、ニッケル箔、銅箔、ニッケルメッシュまたは銅メッシュなどが挙げられる。
電極層は、バインダーと前記の負極材とを含有するものである。電極層は、例えば、前記のペーストを塗布し乾燥させることによって得ることができる。ペーストの塗布方法は特に制限されない。電極層の厚さは、通常、50〜200μmである。電極層が厚くなりすぎると、規格化された電池容器に負極シートを収容できなくなることがある。電極層の厚さは、ペーストの塗布量によって調整できる。また、ペーストを乾燥させた後、加圧成形することによっても調整することができる。加圧成形法としては、ロール加圧、プレス加圧などの成形法が挙げられる。プレス成形するときの圧力は、好ましくは(1〜5ton/cm
2程度)である。
負極シートの電極密度は次のようにして計算することができる。すなわち、プレス後の負極シートを直径16mmの円形状に打ち抜き、その質量を測定する。また、電極の厚みを測定する。そこから別途測定しておいた集電箔の質量と厚みを引き算すれば電極層の質量と厚みを知ることができ、その値を元に電極密度を計算する。
【0070】
(リチウムイオン電池)
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池は、非水系電解液及び非水系ポリマー電解質からなる群から選ばれる少なくとも一つ、正極シート、及び前記負極シートを有するものである。
本発明に用いられる正極シートには、リチウムイオン電池に従来から使われていたもの、具体的には正極活物質を含んでなるシートを用いることができる。正極活物質としては、LiNiO
2、LiCoO
2、LiMn
2O
4、LiNi
0.34Mn
0.33Co
0.33O
2、LiFePO
4などが挙げられる。
【0071】
リチウムイオン電池に用いられる非水系電解液及び非水系ポリマー電解質は特に制限されない。例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSO
3CF
3、CH
3SO
3Li、CF
3SO
3Liなどのリチウム塩を、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、アセトニトリル、プロピロニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトンなどの非水系溶媒に溶かしてなる有機電解液や;ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビリニデン、及びポリメチルメタクリレートなどを含有するゲル状のポリマー電解質や;エチレンオキシド結合を有するポリマーなどを含有する固体状のポリマー電解質が挙げられる。
【0072】
また、電解液には、リチウムイオン電池の初回充電時に分解反応が起きる物質を少量添加してもよい。該物質としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ビフェニール、プロパンスルトン(PS)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンサルトン(ES)などが挙げられる。添加量としては0.01質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0073】
本発明のリチウムイオン電池には正極シートと負極シートとの間にセパレータを設けることができる。セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムまたはそれらを組み合わせたものなどが挙げられる。
【0074】
本発明のリチウムイオン電池は、携帯電話、携帯パソコン、携帯情報端末などの電子機器の電源;電動ドリル、電気掃除機、電動自動車などの電動機の電源;燃料電池、太陽光発電、風力発電などによって得られた電力の貯蔵などに用いることができる。
【実施例】
【0075】
以下に本発明について代表的な例を示し、さらに具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
【0076】
下記の例で使用した材料は以下の通りである。
(1)ケイ素含有粒子
下式によって定義される直径Dav:50nm
d
av=6/(ρ×BET)
微粒子が平均直径d
avの稠密な球であると仮定
BET:窒素吸着によるBET比表面積(51.5m
2/g)
ρ:ケイ素粒子の真密度(理論値としての2.33g/cm
3);
ICP(誘導結合プラズマ)により定量したSi微粒子に含まれる酸素含有率:5.8質量%;
また、電子顕微鏡にて倍率10万倍により観察し、任意に一次粒子200個を抽出して画像解析により定量化した結果、数基準累積分布において50%径は48nmであり、90%径は182nmであった。
(2)ピッチ
石油ピッチ(軟化点220℃)。この石油ピッチについて、窒素ガス流通下の熱分析により1100℃における残炭率を測定したところ、52%であった。
また、JIS K2425に記載されている方法またはそれに準じた方法で測定した石油ピッチのQI含量は0.62%、TI含量は48.9%であった。
【0077】
本例においては以下の方法で各種の物性を測定した。
(粒子径)
粉体を極小型スパーテル2杯分、及び非イオン性界面活性剤(TRITON(登録商標)−X;Roche Applied Science製)2滴を水50mlに添加し、3分間超音波分散させた。この分散液をセイシン企業社製レーザー回折式粒度分布測定器(LMS−2000e)に投入し、体積基準累積粒度分布を測定した。
【0078】
(ラマンR値)
日本分光株式会社製レーザーラマン分光測定装置(NRS−3100)を用いて、励起波長532nm、入射スリット幅200μm、露光時間15秒、積算回数2回、回折格子600本/mmの条件で測定を行った。測定されたスペクトルから1360cm
-1付近のピークの強度I
D(非晶質成分由来)と1580cm
-1付近のピークの強度I
G(黒鉛成分由来)の比I
D/I
Gを算出した。それをR値として黒鉛化度合いの指標とした。
【0079】
(比表面積)
Quantachrome製Surface Area & Pore Size Analyzer/NOVA 4200eにより、窒素ガスをプローブとして相対圧0.1、0.2、及び0.3のBET多点法により測定した。
【0080】
(粉末XRD測定)
炭素粉末試料をガラス製試料板(試料板窓18×20mm、深さ0.2mm)に充填し、以下のような条件で測定を行った。
XRD装置:Rigaku製SmartLab
X線種:Cu−Kα線
Kβ線除去方法:Niフィルター
X線出力:45kV、200mA
測定範囲:5.0〜10.0deg.
スキャンスピード:10.0deg./min.
得られた波形に対し、平滑化、バックグラウンド除去、Kα2除去を行い、プロファイルフィッティングを行った。
粉末X線回折における002回折線から、面間隔d002及び結晶子のc軸方向の大きさLcを求めた。
また、(004)面のピーク強度I
004と(110)面のピーク強度I
110から配向性の指標となる強度比I
110/I
004を算出した。なお、各面のピークは以下の範囲のうち最大の強度のものをそれぞれのピークとして選択した。
(004)面:54.0〜55.0deg.
(110)面:76.5〜78.0deg
【0081】
(平均円形度測定)
炭素材料を106μmのフィルターに通して微細なゴミを取り除いて精製し、その試料0.1gを20mlのイオン交換水中に添加し、界面活性剤0.1〜0.5質量%加えることによって均一に分散させ、測定用試料溶液を調製した。分散は超音波洗浄機UT−105S(シャープマニファクチャリングシステム社製)を用い、5分間処理することにより行った。
得られた測定用試料溶液をフロー式粒子像分析装置FPIA−3000(シスメックス社製)に投入し、LPFモードで10000個の粒子に対して粒子の画像解析を行い、得られた各々の粒子の円形度の中央値を平均円形度とした。
【0082】
(細孔容積の測定)
炭素材料約5gをガラス製セルに秤量し、1kPa以下の減圧下300℃で約3時間乾燥して、水分等の吸着成分を除去した後、炭素材料の質量を測定した。その後、液体窒素冷却下における乾燥後の炭素材料の窒素ガスの吸着等温線をカンタクローム(Quantachrome)社製Autosorb−1で測定した。得られた吸着等温線のP/P0=0.992〜0.995での測定点における窒素吸着量と乾燥後の炭素材料の質量から直径0.4μm以下の全細孔容積を求めた。
【0083】
(正極シートの製造)
LiCoO
2を90gと導電助剤としてカーボンブラック(TIMCAL社製)5g、及び結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)5gにN−メチル−ピロリドンを適宜加えながら攪拌・混合し、スラリー状の正極用ペーストを得た。
前記の正極用ペーストを厚さ20μmのアルミ箔上にロールコーターにより塗布し、乾燥させて正極用シートを得た。乾燥した電極はロールプレスにより密度を3.6g/cm
3とし、電池評価用正極シートを得た。
【0084】
(負極シートの製造)
バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。具体的には、固形分比40%のSBRを分散した水溶液、及び、固形分CMC粉末を溶解した水溶液を得た。
導電助剤としてカーボンブラック及び気相成長法炭素繊維(VGCF(登録商標)−H,昭和電工株式会社製)を用意し、両者を3:2(質量比)で混合したものを混合導電助剤とした。
実施例及び比較例で製造した複合材料90質量部、混合導電助剤5質量部、CMC固形分2.5質量部となるようにCMC水溶液、SBR固形分2.5質量部となるようにSBR水溶液を混合し、これに粘度調整のための水を適量加え、自転・公転ミキサーにて混練し負極用ペーストを得た。
前記の負極用ペーストを厚み20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて厚さ150μmとなるよう均一に塗布し、ホットプレートにて乾燥後、真空乾燥させて負極シートを得た。乾燥した電極は3ton/cm
2の圧力にて一軸プレス機によりプレスして電池評価用負極シートを得た。
【0085】
(正負極容量比)
正極シートと負極シートを対向させてリチウムイオン電池を作製する際、両者の容量バランスを考慮する必要がある。すなわち、リチウムイオンを受け入れる側の負極が少な過ぎれば過剰なLiが負極側に析出してサイクル劣化の原因となり、逆に負極が多過ぎればサイクル特性は向上するものの負荷の小さい状態での充放電となるためエネルギー密度は低下する。これを防ぐため、正極シートは同一のものを使用しつつ、負極シートは対極Liのハーフセルにて事前に活物質重量当たりの放電量を評価しておき、正極シートの容量(Q
C)に対する負極シートの容量(Q
A)の比が1.2で一定値となるよう負極シートの容量を微調整した。
【0086】
(評価用電池の作製)
露点−80℃以下の乾燥アルゴンガス雰囲気に保ったグローブボックス内で下記の操作を実施した。
[二極セル]
上記負極シート及び正極シートを打ち抜いて面積20cm
2の負極片及び正極片を得た。正極片のAl箔にAlタブを、負極片のCu箔にNiタブをそれぞれ取り付けた。ポリプロピレン製フィルム微多孔膜を負極片と正極片との間に挟み入れ、その状態でアルミラミネートにパックした。そして、それに電解液を注液した。その後、開口部を熱融着によって封止して評価用の電池を作製した。なお、電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートが体積比で3:5:2の割合で混合した溶媒にビニレンカーボネート(VC)を1質量%、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を30質量%混合し、さらにこれに電解質LiPF
6を1mol/Lの濃度になるように溶解させて得られた液である。
[対極リチウムセル]
ポリプロピレン製のねじ込み式フタつきのセル(内径約18mm)内において、上記負極2と16mmφに打ち抜いた金属リチウム箔をセパレータ(ポリプロピレン製マイクロポーラスフィルム(セルガード2400))で挟み込んで積層し、電解液を加えて試験用セルとした。なお、電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートが体積比で3:5:2の割合で混合した溶媒にフルオロエチレンカーボネート(FEC)を1質量%混合し、さらにこれに電解質LiPF
6を1mol/Lの濃度になるように溶解させて得られた液である。
【0087】
(初期放電容量、初期クーロン効率の測定試験)
対極リチウムセルを用いて試験を行った。レストポテンシャルから0.005Vまで電流値0.1CでCC(コンスタントカレント:定電流)充電を行った。次に0.005VでCV(コンスタントボルト:定電圧)充電に切り替え、カットオフ電流値0.005Cで充電を行った。
上限電圧1.5VとしてCCモードで電流値0.1Cで放電を行った。
試験は25℃に設定した恒温槽内で行った。この際、初回放電時の容量を初期放電容量とした。また初回充放電時の電気量の比率、すなわち放電電気量/充電電気量を百分率で表した結果を初期クーロン効率とした。
【0088】
(充放電サイクル試験)
二極セルを用いて試験を行った。0.2Cの電流値で5回の充放電を繰り返すエージングを行った後、次の方法で充放電サイクル試験を行った。
充電は、上限電圧4.2Vとして電流値1CのCC(コンスタントカレント)モード及びカットオフ電流0.05CのCV(コンスタントボルテージ)モードで行った。
放電は、下限電圧2.8Vとして電流値1CのCCモードで行った。
この充放電操作を1サイクルとして100サイクル行い、Nサイクル目の放電量維持率を次式で定義して計算した。
(Nサイクル後放電量維持率(%))=
(Nサイクル時放電容量)/(初回放電容量)×100
【0089】
実施例1:
中国遼寧省産原油(API28、ワックス含有率17質量%、硫黄含有率0.66質量%)を常圧蒸留し、重質溜分に対して、十分な量のY型ゼオライト触媒を用い、510℃、常圧で流動床接触分解を行った。得られたオイルが澄明となるまで触媒等の固形分を遠心分離し、デカントオイルを得た。このオイルを小型ディレイドコーキングプロセスに投入した。ドラム入り口温度は505℃、ドラム内圧は600kPa(6kgf/cm
2)に10時間維持した後、水冷して黒色塊を得た。得られた黒色塊を最大5cm程度になるように金槌で粉砕した後キルンにて200℃で乾燥を行った。これをコークス1とした。
このコークス1をホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕し、その後45μmの目開きの篩を用いて粗粉をカットした。この粉砕後のコークス1をさらにセイシン企業製ジェットミルで粉砕した。次に、日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーTC−15Nで気流分級し、粒径が1.0μm以下の粒子を実質的に含まない粉末コークス1(D50=6.3μm)を得た。
この粉末コークス1を黒鉛るつぼに充填し、アチソン炉にて最高到達温度が約3300℃となるように1週間かけて加熱処理を行い、非鱗片状の人造黒鉛粒子(B1)を得た。このとき、黒鉛るつぼには複数の通気孔が設けられている。得られた非鱗片状の人造黒鉛粒子(B1)の各種物性を表1に示す。D50が6.4μm、BET比表面積が6.1m
2/g、d002が0.3357nm、Lcが104nm全細孔容積が32.0μL/g、平均円形度が0.88、配向性I
110/I
004が0.28であった。
次に、前記のケイ素含有粒子10.0質量部と前記の石油ピッチ11.5質量部をセパラブルフラスコに投入した。窒素ガスを流通させて不活性雰囲気を保ち、250℃まで昇温した。ミキサーを500rpmで回転させて撹拌し、ピッチとケイ素含有粒子とを均一に混合させた。これを冷却し固化させて混合物を得た。
この混合物に、前記の人造黒鉛粒子(B1)86.0質量部を加え、ロータリーカッターミルに投入し、窒素ガスを流通させて不活性雰囲気を保ちつつ25000rpmで高速撹拌し混合させた。
これを焼成炉に入れ、窒素ガス流通下で、150℃/hで1100℃まで上げ、1100℃にて1時間保持した。室温まで冷やし焼成炉から取り出しロータリーカッターミルで解砕後、45μm目開きの篩にて篩分した篩下を複合材料(1)として得た。
この複合材料(1)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0090】
実施例2:
実施例1記載のコークス1をホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕し、その後45μmの目開きの篩を用いて粗粉をカットした。この粉砕後のコークス1をさらにセイシン企業製ジェットミルで粉砕した。次に、日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーTC−15Nで気流分級し、粒径が1.0μm以下の粒子を実質的に含まない粉末コークス2(D50=12.0μm)を得た。
この粉末コークス2を黒鉛るつぼに充填し、アチソン炉にて最高到達温度が約3300℃となるように1週間かけて加熱処理を行い、粒子が非鱗片状の人造黒鉛粒子(B2)を得た。このとき、黒鉛るつぼには複数の通気孔が設けられている。得られた非鱗片状の人造黒鉛粒子(B2)の各種物性を表1に示す。D50が12.2μm、BET比表面積が2.5m
2/g、d002が0.3357nm、Lcが108nm、全細孔容積が10.5μL/g、平均円形度が0.89、配向性I
110/I
004が0.11であった。
その後、実施例1の人造黒鉛粒子(B1)に代えて、人造黒鉛粒子(B2)を用いた以外は実施例1と同様の方法により複合材料(2)を得た。
この複合材料(2)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0091】
実施例3:
実施例2記載の粉末コークス2を黒鉛るつぼに充填し、アチソン炉にて最高到達温度が約3300℃となるように1週間かけて加熱処理を行い、粒子が非鱗片状の人造黒鉛粒子(B3)を得た。この得られた非鱗片状の人造黒鉛粒子(B3)の各種物性を表1に示す。D50が12.2μm、BET比表面積が1.0m
2/g、d002が0.3357nm、Lcが108nm、全細孔容積が5.0μL/g、平均円形度が0.89、配向性I
110/I
004が0.11であった。
その後、実施例1の人造黒鉛粒子(B1)に代えて、人造黒鉛粒子(B3)を用いた以外は実施例1と同様の方法により複合材料(3)を得た。
この複合材料(3)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0092】
比較例1:
実施例1に記載のコークス1に対し、内筒中心部外壁温度を1450℃に設定したロータリーキルン(電気ヒーター外熱式、酸化アルミニウムSSA−S、φ120mm内筒管)を用い、滞留時間が15分となるようにフィード量及び傾斜角を調整し、加熱を行うことでコークスをか焼し、か焼コークス1を得た。
このか焼コークス1をホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕し、その後45μm目開きの篩を用いて粗粉をカットした。次に、日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーTC−15Nで気流分級し、粒径が1.0μm以下の粒子を実質的に含まない粉末か焼コークス1を得た。
この粉末か焼コークス1を黒鉛るつぼに充填し、アチソン炉にて最高到達温度が約3300℃となるように1週間かけて加熱処理を行い、粒子が鱗片状である人造黒鉛粒子(B4)を得た。このとき、黒鉛るつぼには複数の通気孔が設けられている。得られた鱗片状の人造黒鉛粒子(B4)の各種物性を測定した結果を表1に示す。D50が19.3μm、BET比表面積が2.1m
2/g、d002が0.3357nm、Lcが105nm、全細孔容積が9.2μL/g、平均円形度が0.83、配向性I
110/
I004が0.04であった。
その後、実施例1の人造黒鉛粒子(B1)に代えて、人造黒鉛粒子(B4)を用いた以外は実施例1と同様の方法により複合材料(4)を得た。
この複合材料(4)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0093】
比較例2:
黒鉛粒子として球状天然黒鉛(B5)の各種物性を測定した結果を表1に示す。D50が16.8μm、d002が0.3355nm、BET比表面積が1.8m
2/g、Lcが109nm、全細孔容積が0.13μL/g、平均円形度が0.92、配向性I
110/I
004が0.29であった。
実施例1の人造黒鉛粒子(B1)に代えて、球状天然黒鉛粒子(B5)を用いた以外は実施例1と同様の方法により複合材料(5)を得た。
この複合材料(5)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0094】
比較例3:
黒鉛粒子としてメソフェーズ球状黒鉛(B6)の各種物性を測定した結果を表1に示す。D50が16.2μm、d002が0.3365nm、BET比表面積が1.5m
2/g、Lcが60nm、全細孔容積が9.3μL/g、平均円形度が0.97、配向性I
110/I
004が0.65であった。
実施例1の人造黒鉛粒子(B1)に代えて、メソフェーズ球状黒鉛(B6)を用いた以外は実施例1と同様の方法により複合材料(6)を得た。
この複合材料(6)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0095】
比較例4:
黒鉛粒子として塊状黒鉛(B7)の各種物性を測定した結果を表1に示す。D50が3.0μm、d002が0.3365nm、BET比表面積が1.4m
2/g、Lcが65nm、全細孔容積が11.8μL/g、平均円形度が0.90、配向性I
110/I
004が0.38であった。
実施例1の人造黒鉛粒子(B1)に代えて、塊状黒鉛(B7)を用いた以外は実施例1と同様の方法により複合材料(7)を得た。
この複合材料(7)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0096】
比較例5:
黒鉛粒子として小粒径塊状黒鉛(B8)の各種物性を測定した結果を表1に示す。D50が6.2μm、d002が0.3363nm、BET比表面積が3.2m
2/g、Lcが65nm、全細孔容積が25.0μL/g、平均円形度が0.90、配向性I
110/I
004が0.48であった。
実施例1の人造黒鉛粒子(B1)に代えて、小粒径塊状黒鉛(B8)を用いた以外は実施例1と同様の方法により複合材料(8)を得た。
この複合材料(8)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0097】
比較例6:
実施例2のケイ素含有粒子に代えて、一次粒子径の数基準平均粒子径500nm、BET比表面積5.2m
2/g、ICP(誘導結合プラズマ)により定量したSi微粒子に含まれる酸素含有率2.6質量%であるケイ素含有粒子(A2)を用いた以外は実施例2と同様の方法により複合材料(9)を得た。
この複合材料(9)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0098】
比較例7:
実施例2において、石油ピッチを加えない、つまり、ケイ素含有粒子と人造黒鉛粒子(B2)を単純混合して混合材料(10)を得た。
この混合材料(10)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0099】
比較例8:
実施例2において、石油ピッチを24.0質量部にしてケイ素含有粒子と均一に加熱溶融混合させた混合物と人造黒鉛粒子(B2)78.0質量部を混合後に焼成した。焼成品をロータリーカッターミルで何度も繰り返して解砕して、篩下回収品の比表面積が10.1m
2/gになるまで解砕を繰り返すことで複合材料(11)とした。
この複合材料(11)について、粉体物性及び電池特性を評価した結果を表2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
本発明によって、質量当たりの放電量が大きい負極材を得ることができる。また、本発明における負極材を用いることで、大容量かつ初期効率と充放電サイクル特性に優れるリチウムイオン電池を製造することができる。