(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
粘膜面は、外部の雰囲気に曝されている空洞を含む、生体における様々な空洞を覆う。粘膜面は、化合物の体内への吸収に関与する。その結果として、生理活性薬剤を体内に導入する有用な方法は、生理活性薬剤を含有する組成物を粘膜面に適用することである。そのような組成物を粘膜面に適用するとき、組成物が比較的長時間、粘膜面上に滞留することが望ましい。また、組成物は、生理活性薬剤が生体の組織及び/または血流に入ることができるように、生理活性薬剤が容易に粘膜面に透過することを可能にすることが望ましい。しばしば、生理活性薬剤を含有する組成物は、また、「賦形剤」と称される1つ以上の追加の化合物を含有する。賦形剤は、組成物の滞留時間を改善し、及び/または生理活性薬剤の粘膜面への透過を改善することが望ましい。生理活性薬剤の導入のための、人体における重要な粘膜面は、鼻腔内の粘膜面である。
【0002】
US3,472,840は、ある特定のカチオン性多糖ポリマーを記載している。US3,472,840によって記載されているカチオン性多糖ポリマーと比較して、粘膜面への改善された透過を提供するカチオン性多糖ポリマーを提供することが望まれる。これまで、キトサンが賦形剤として使用されている。キトサンは、天然産物に由来し、そのため、質及び特質のばらつきを被り、また、キトサンの有用性は、キトサンが、ある望ましいpH値で可溶性ではないため、望ましくなく制限される。賦形剤としてよく機能し、望ましい広範囲のpH値にわたって可溶性である合成ポリマーを提供することが望まれる。
【0003】
以下は、本発明を記述したものである。
【0004】
本発明の第1の態様は、水中に溶解されたカチオン性ポリマーを含む水溶液であり、該カチオン性ポリマーは、ヒドロキシエチルセルロースポリマー骨格に共有結合している疎水性第4級アンモニウム基を含む。
【0005】
本発明の第2の態様は、薬物を生体の粘膜面に送達する方法であり、該方法は、第1の態様の水溶液を該粘膜面に適用することを含み、第1の態様の該水溶液は、該薬物を含む。
【0006】
以下は、本発明の詳述である。
【0007】
本明細書で使用される場合、以下の用語は、文脈が明確に示さない限り、指定された定義を有する。
【0008】
粘膜面は、動物及びヒトの生体に見られる。粘膜面は、上皮を含有し、それは、粘膜を生成し、分泌する。粘膜面の例は、鼻腔、口、眼、耳、膣、食道、胃、腸、及び体の他の部分で見られる。
【0009】
化合物は、本明細書において、正電荷を持つ原子または化学基が化合物に共有結合している場合、カチオン性であるとみなされる。カチオン性官能基は、正電荷を持つ原子または化学基である。カチオン性官能基は、4〜11の範囲を含む範囲にわたるすべてのpH値で正電荷を持つ。
【0010】
ポリマーの量は、本明細書において、その量のポリマー及び水の混合物が、25℃で均質であり、25℃でポリマーの水からの相分離を示さない組成物を形成する場合、水中に溶解されるとみなされる。
【0011】
本明細書で使用される場合、薬物は、個体、典型的に哺乳類、特にヒト個体に投与されたとき、有益な予防的及び/または治療特性を有する化合物である。
【0012】
本明細書で使用される場合、疎水性基は、8個以上の炭素原子の基を含有する化学基であり、これらの炭素原子は、直鎖状、環状、分枝状、またはそれらの組み合わせである様式で互いに結合し、疎水性基中の原子のみが、炭素及び水素である。
【0013】
本明細書で使用される場合、疎水性第4級アンモニウム基は、構造Iを有する化学基であり、
【0014】
【化1】
【0015】
式中、−R
2及び−R
3は、それぞれが1つ以上の炭素原子を含有する置換または非置換炭化水素基であり、−R
4は、1つ以上の疎水性基を含有する。非疎水性第4級アンモニウム基は、構造Iを有する化学基であり、ここで−R
2、−R
3、及び−R
4のいずれも疎水性基を有しない。
【0016】
本発明は、ヒドロキシエチルセルロースポリマー骨格に結合しているカチオン性官能基を含有するカチオン性ポリマーに関する。すなわち、カチオン性ポリマーは、ヒドロキシエチルセルロースポリマー(「骨格」ポリマー)の分子が、ヒドロキシエチルセルロースポリマー上のヒドロキシル基のうちの1つ以上をカチオン性官能基と置換するための1つ以上の化学反応に供される場合に生じる構造を有する。カチオン性ポリマーを作製する方法にかかわらず、カチオン性ポリマーは、骨格ポリマーの特性によって特徴付けられることができる。
【0017】
ヒドロキシエチルセルロース(HEC)ポリマーは、構造IIの繰り返し単位を有する。
【0018】
【化2】
【0019】
構造IIでは、繰り返し単位が括弧内に示されている。重合度(n)は、10以上であり、構造IIはポリマーであるほど十分に大きく、すなわち、nが十分に大きい場合、HECの2%標準溶液粘度(以下に定義される通り)は、10mPa*s以上である。−R
a、−R
b、及び−R
cは、それぞれが−[CH
2CH
2O]
x−Hであり、各xは、0、1、2、3、または4から選択される。−R
a、−R
b、及び−R
cの選択は、各繰り返し単位において同じであり得るか、または異なる繰り返し単位は、−R
a、−R
b、及び−R
cの異なる選択を有し得る。1つ以上の繰り返し単位が、−R
a、−R
b、及び−R
cのうちの1つ以上を有し、ここでxは、1〜4である。
【0020】
本発明のカチオン性ポリマーは、構造IIの繰り返し単位を有し、ここで−R
a、−R
b、及び−R
cのうちの1つ以上が、構造−[CH
2CH
2O]
x−R
1を有し、R
1は、構造IIIを有し、
【0021】
【化3】
【0022】
式中、−R
d−は、2価の有機基であり、−R
eは、水素原子またはヒドロキシル基のいずれかである。好ましくは、−R
d−は、0〜8個の炭素原子、より好ましくは1〜2個の炭素原子、より好ましくは1個の炭素原子を有する炭化水素基である。好ましくは、−R
eは、ヒドロキシル基である。−R
2、−R
3、及び−R
4は、それぞれが独立して、置換または非置換炭化水素基である。好ましくは、−R
2及び−R
3は、非置換炭化水素基であり、より好ましくは、−R
2及び−R
3は、アルキル基である。好ましくは、−R
2及び−R
3は、それぞれが独立して、3個以下の炭素原子を有するアルキル基、より好ましくは2個以下の炭素原子を有するアルキル基、より好ましくはメチル基である。−R
4は、疎水性基を含有する化学基である。好ましくは、−R
4は、アルキル基である。好ましくは、−R
4は、10個以上の炭素原子、より好ましくは、12個以上の炭素原子を有する。好ましくは、−R
4は、18個以下の炭素原子、より好ましくは16個以下の炭素原子、より好ましくは14個以下の炭素原子、より好ましくは12個以下の炭素原子を有する。好ましくは、1つ以上の−R
bまたは−R
c基が構造IIを有する。X
−vは、vの価数のアニオンである。vが1より大きい場合、構造IIIのv基は、vの価数の各アニオンと関連するということが意図される。好ましいアニオンは、ハロゲン化物イオンであり、より好ましくは塩化物イオンである。
【0023】
好ましくは、本発明のカチオン性ポリマーは、非疎水性第4級アンモニウム基を有しないか、あるいは、たとえ非疎水性第4級アンモニウム基が存在するとしても、非疎水性第4級アンモニウム基は極めて少ないか、のいずれかである。特に、非疎水性第4級アンモニウム基の疎水性第4級アンモニウム基に対するモル比は、0:1〜0.1:1、より好ましくは0:1〜0.01:1、より好ましくは0:1であることが好ましい。
【0024】
本発明のカチオン性ポリマーは、25℃の水中でのカチオン性ポリマーの1重量%または2重量%のいずれかの溶液の粘度によって特徴付けられ得る。その粘度は、ステンレス製の円錐平板センサー(直径60mm及び0.5°の円錐角)または同心円筒カップとボブセンサーのいずれかを備えるTA InstrumentsのDHR−3レオメータを使用して、25.0℃及び6.31秒
−1のせん断速度で測定される。2%溶液の粘度が18,000mPa*sより大きい場合、水中でのカチオン性ポリマーの1重量%の溶液が作製され、25℃で同じ方法によって試験される。この粘度試験の結果は、「標準溶液粘度」として本明細書に報告される。
【0025】
好ましくは、2重量%溶液中の本発明のカチオン性ポリマーの標準溶液粘度は、50mPa*s以上、より好ましくは100mPa*s以上である。好ましくは、1重量%溶液中の本発明のカチオン性ポリマーの標準溶液粘度は、30,000mPa*s以下である。好ましくは、2重量%溶液中の本発明のカチオン性ポリマーの標準溶液粘度は、18,000mPa*s以下、より好ましくは10,000mPa*s以下である。
【0026】
本発明のカチオン性ポリマーは、重量平均分子量(Mw)によって特徴付けられてもよく、それは、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定される。好ましくは、Mwは、50,000以上、より好ましくは100,000以上、より好ましくは200,000以上である。好ましくは、Mwは、1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。
【0027】
本発明のカチオン性ポリマーは、カチオン置換度(CDS)によって特徴付けられてもよく、それは、構造IIIを有する繰り返し無水グルコース単位の、総繰り返し無水グルコース単位に対するモル比として定義される。CDSは、測定され、ケルダール窒素分析から計算される。好ましくは、カチオン置換度は、0.01以上、より好ましくは0.02以上、より好ましくは0.05以上である。
【0028】
カチオン性ポリマーを作製する好ましい方法は、ヒドロキシエチルセルロースポリマーを、構造IV、V、またはVIの化合物と反応させることであり、
【0029】
【化4】
【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
式中、R
d、R
2、R
3、R
4、X、及びvは、上記に定義される。
【0033】
本発明は、水中で溶解されるカチオン性ポリマーを含有する水溶液に関する。好ましくは、溶液中の水の量は、溶液中の揮発性成分の総重量に基づいて、50重量%以上、より好ましくは75重量%以上、より好ましくは90重量%以上である。
【0034】
溶液中のカチオン性ポリマーの量は、好ましくは、溶液中の重量に基づいて、0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上である。溶液中のポリマーの量は、好ましくは、溶液の重量に基づいて、10重量%以下、5重量%以下、より好ましくは、2重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
【0035】
溶液は、任意で、例えば、界面活性剤、増粘剤、緩衝剤、pH調整剤、防腐剤、及びそれらの混合物等の追加の成分を含有する。
【0036】
好ましくは、水溶液は、無機塩類を含有する緩衝液である。1つの好ましい緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であり、それは、塩化ナトリウム、及びリン含有アニオンのナトリウム塩、ならびに任意で、塩化カリウム、及びリン含有アニオンのカリウム塩も含有する。
【0037】
水溶液は、液体、ゲル、ローション、クリーム、または別の形態であってもよい。好ましいのは、液体である。好ましくは、溶液の粘度は、25℃、10秒
−1で円錐平板を使用する安定したせん断粘度測定によって測定される場合、1,000mPa−s以下、より好ましくは300mPa−s以下、より好ましくは100mPa−s以下、より好ましくは30mPa−s以下、より好ましくは10mPa−s以下である。
【0038】
好ましい粘膜面は、鼻腔、口、眼、耳、膣、食道、胃、腸、及びそれらの組み合わせの粘膜面であり、より好ましくは、鼻腔の粘膜面である。
【0039】
好ましくは、本発明の組成物は、1つ以上の生理活性薬剤、好ましくは、以下から選択される1つ以上の生理活性薬剤を含有する。1つ以上の薬物、1つ以上の診断用薬剤、または1つ以上の精油、または美容もしくは栄養に関する目的で有用な1つ以上の生理活性薬剤。好ましい生理活性薬剤は、薬物である。好ましい薬物は、治療上有用である濃度で、15℃〜40℃の水に可溶性または分散性である。効果的な賦形剤が存在しない場合、粘膜面を通る体への、望ましくないほど低い吸収能を有する好ましい薬物。
【0040】
鼻腔内からの送達に有用な生理活性薬剤は、当技術分野で既知である。いくつかの生理活性薬剤及び鼻腔内からの送達のいくつかの方法は、WO2015/009799に記載される。
【0041】
本発明の組成物は、アレルギー性の鼻炎、鼻閉、及び感染症に対する療法に、糖尿病、片頭痛、嘔気、禁煙、急性疼痛の緩和、夜尿症、骨粗しょう症、ビタミンB12欠乏症の治療に使用される薬物等、1つ以上の生理活性薬剤の鼻腔内からの送達、または鼻腔内にある粘膜を通る送達、及び例えば、インフルエンザワクチン等の鼻腔内ワクチンを投与するために特に有益であるが、しかしながら、生理活性薬剤は、これらの例に限定されない。特に好ましい薬物は、アセトアミノフェン、塩酸アゼラスチン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン一水和物、コハク酸スマトリプタン(SS)、メシル酸ジヒドロエルゴタミン、プロピオン酸フルチカゾン、トリアムシノロンアセトニド、ブデソニド、クエン酸フェンタニル、酒石酸ブトルファノール、ゾルミトリプタン、酢酸デスモプレシン水和物、サケカルシトニン、酢酸ナファレリン、酢酸ブセレリン、エルカトニン、オキシトシン、インスリン、フロン酸モメタゾン、エストラジオール、メトクロプラミド、塩酸キシロメタゾリン、臭化イプラトロピウム水和物、塩酸オロパタジン、塩酸オキシメタゾリン、デクスパンテノール、ヒドロコルチゾン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、マレイン酸メピラミン、塩酸フェニレフリン、クロモグリク酸ナトリウム、レボカバスチン塩酸塩、ビタミンB12、メタスルホ安息香酸プレドニゾロンナトリウム、硝酸ナファゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩化ベンゼトニウム、フマル酸ケトチフェン、ヒスタミン二塩酸塩、フサファンギン、またはこれらの組み合わせである。精油の例は、メントール、サリチル酸メチル、チモール、ユーカリ油、ショウノウ、アニス、スイートオレンジ、またはそれらの組み合わせである。
【0042】
以下は、本発明の実施例である。「C」で始まる実施例の番号は、比較例を示す。
【0043】
以下の比較ポリマーを試験した。
【0044】
[表]
【0045】
以下の略称が使用される。
【0046】
[表]
【0047】
以下の実施例ポリマーを使用した。各実施例ポリマーは、上記の構造IIによって説明され、−R
a及び−R
bは、−Hであり、−R
cは、−[CH
2CH
2O]
x−R
1であり、いくつかの繰り返し単位は、x=1または2を有し、−R
1は、上記の構造IIIを有し、−R
dは、−CH
2−であり、−R
2及び−R
3は、メチルであり、−R
4は、アルキル疎水性基である。実施例ポリマーは、以下の通りであった。
【0048】
【表1】
【0049】
EpiAirway(商標)組織モデル、0.2%TRITON(商標)X−100界面活性剤、及び3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−臭化ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT)アッセイをMatTek Corporationから得た。組織(24個)を受け取った後、それらを寒天培地から取り出し、0.9mLの新しいアッセイ培地を含有する清潔な6ウェルプレートに移動し、製品情報に準じた無菌環境で一晩(18時間)培養した。アッセイ培地は、基本培地(ダルベッコ改変イーグル培地)、成長因子/ホルモン(上皮成長因子、インスリン、ヒドロコルチゾン、及び他の表皮分化の刺激剤)、抗生物質(ゲンタマイシン、5μg/mL)、及び抗真菌薬(アンフォテリシンB、0.25μg/mL)で構成した。
【0050】
組織をインキュベーター(37℃、5%CO
2)から取り出し、培地交換のために調製した。培地交換は、インキュベーターに戻す前にすべての組織に対して行った。1〜2時間の追加の培養後、12個の組織をインキュベーターから取り出し、培地を廃棄し、組織をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Dulbeccoから)ですすぎ、APIの透過の時間依存試験のために使用する前にTEERに対して試験した。TEER測定は、World Precision Instruments CompanyからのEVOM
2(商標)抵抗計に連結されたEndohmチャンバーを使用して行った。簡潔に、各組織をEndohmチャンバー内に配置し、電極が付いたカップで覆い、抵抗計上に示される表示数値を記録した。TEERに続き、組織を、各ウェルに250μLの新しい培地を含有する予めラベルが付いている清潔な24ウェルプレートに移動させた(完全な透過試験を可能にするため、1つのプレートにつき4または6個の組織)。残り12個の組織は、次の日のさらなる透過試験に使用するため、追加の24時間の培養のためにインキュベーターに残した。
【0051】
ドナー溶液を、使用する16〜20時間前に調製した。ドナー溶液は、以下の方法で調製した。既定の濃度/量の賦形剤(界面活性剤またはポリマー)を、50mLの円錐管に分析的に量り、適切な量のPBSで希釈し、室温(約23℃)で約4時間ロッキング撹拌器上に配置し、水和させた。水和後、ドナー溶液を、MilloporeからのSteriflip(登録商標)フィルターユニットを使用して無菌濾過し、使用するまで4℃で保管した。
【0052】
50mg/mLのSSを使用した比較例1を除き、すべてのドナー溶液は、2mg/mLのSSを有した。
【0053】
透過試験は、以下の方法で実行した。ドナー溶液(100μL)を、それらのそれぞれの組織の頂端表面上に注意深くピペットで取り、5分間、37℃、5%CO
2で培養した(5分の時点)。培養後、各組織を、新しい培地を有する新しいウェルに移動させた。前のウェルからのレシーバー溶液を収集し、ドライアイス上にある予めラベルが付いているWatersトータルリカバリーLC/GCバイアルに配置した。組織を、その後、追加の10分の培養期間のためにインキュベーターに戻した(15分の時点)。培養後、組織の次のウェルへの移動、透過したレシーバー溶液の収集、及び培養の工程を、240分までのさらなる時点に対して繰り返した。240分の実験期間に続き、組織の頂端表面上の残りのドナー溶液を収集し、ドライアイス上に配置し、組織をPBSですすぎ、最終TEER測定を行った。
【0054】
最終TEER測定に続き、MTTアッセイを使用して組織のパーセント生存率を測定した。このキットを使用して、570nmでホルマザンの光学密度を測定することによって、細胞により生成されるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の量を間接的に測定した。NADPHの量及び細胞生存率の正相関が知られている。PBS緩衝液のみで処理された細胞を100%に設定し、それをすべての他のサンプルの正規化に使用した。報告された結果(「生存率%」)は、同じ光路長で、サンプルに対する570nmでの光学密度を、PBS緩衝液のみのサンプルに対する570nmでの光学密度で割ることによって得られた割合である。
【0055】
ドナー及びレシーバー溶液サンプルを、−80℃の保管庫から取り出し、氷上で解凍し、コハク酸スマトリプタンに対して開発されたHPLC法を使用して分析した。Agilent1100シリアルバイナリ勾配液体クロマトグラフシステムを使用した。詳細は以下の通りである。
【0056】
[表]
【0057】
様々な時間で収集された溶液から、効果的な透過係数(Peff)を、
Peff=(TSS)/[(MA)*(DC)*(PT)]
によって計算した。
TSS=透過におけるSSの総量(mgの単位)
MA=膜面積(0.6cm
2と等しい)
DC=ドナー濃度(mg/cm
3の単位)
PT=透過時間(14400秒と等しい)
【0058】
比較例1:溶液中の様々な比較カチオン性ポリマーを伴う、PBS緩衝液中のコハク酸スマトリプタン(SS)の透過。結果は以下の通りである。
【0059】
【表2】
【0060】
試験した合成ポリマーのすべて(比較例C1〜C6)が、キトサン(比較例C7)よりはるかに劣る能力を示した。
【0061】
実施例2:2つの異なる組織サンプルに対して実施例ポリマーP7を使用したSSの透過。透過試験は、比較例1の通りに行った。結果は以下の通りである。
【0062】
【表3】
【0063】
実施例ポリマーP7は、比較ポリマーの比較1、比較2、及び比較3よりはるかに良い性能を示した。また、P7は、キトサンと同程度の性能を示した。
【0064】
実施例3:TEER試験
TEER試験は、上記の実施例2に報告されるサンプルに対して行った。抵抗は、透過前の初期値から透過試験の最後の最終値へ落下し、より大きい落下は、より高い透過性を示す。結果は以下の通りである。
【0065】
【表4】
【0066】
P7及びキトサンは、緩衝液のみよりはるかに大きい抵抗の落下(したがって、透過を援助するより大きい傾向)を示す。
【0067】
実施例4:組織生存率試験
上述のように透過試験を行った後、組織に上述の通りに生存試験を行った。サンプルは、SSを含有した。1つのサンプルは、0.2重量%のレベルでTriton(商標)X−100界面活性剤を有した。結果は以下の通りである。:
【0068】
【表5】
【0069】
界面活性剤を有するサンプルは、低い生存率を有した。界面活性剤は、透過を高めるが、細胞生存率の低下を引き起こす可能性があると考えられる。P7を有するサンプルは、良好な透過性(前の実施例において上記で実証した通り)及び良好な生存率を示した。
【0070】
実施例5:TEER法による膜の回復
サンプルは、また、TEER法での回復に対して試験した。サンプルは、2mg/LのSSを有した。結果は以下の通りである。
【0071】
【表6】
【0072】
実施例5では、ポリマーP7を有する実施例5−14のみが、(1)4時間の透過でのTEERの落下(良好な透過性を実証する)及び24時間後のTEERの良好な回復(膜が永久的な損傷を残さずに治療から回復することを実証する)の両方を示す。
【0073】
実施例6:実施例ポリマーP7を使用する製剤の透過試験
透過試験は、比較例1の通りに行った。P7−1及びP7−2のラベルが付いた、実施例ポリマーP7の2つの異なるバッチを使用した。結果は以下の通りである。
【0074】
【表7】
【0075】
実施例7:様々な実施例ポリマーの透過試験。さらなる透過試験を比較例1の通りに実施した。P7の2つのバッチ、P7−1及びP7−2を使用した。結果は以下の通りである。
【0076】
【表8】
【0077】
【表9】
【0078】
実施例ポリマーP1〜P8のすべてが、ポリマーを有しない対照サンプルに対して、透過性の有意な改善を示す。