特許第6704027号(P6704027)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704027
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】光起電力吸収層用コアシェル型ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0749 20120101AFI20200525BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20200525BHJP
   C01B 19/04 20060101ALI20200525BHJP
   C01G 15/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   H01L31/06 460
   H01L31/04 422
   C01B19/04 AZNM
   C01G15/00 Z
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-198891(P2018-198891)
(22)【出願日】2018年10月23日
(62)【分割の表示】特願2016-536660(P2016-536660)の分割
【原出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2019-54251(P2019-54251A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2018年11月8日
(31)【優先権主張番号】61/912,916
(32)【優先日】2013年12月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509295262
【氏名又は名称】ナノコ テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニューマン,クリストパー
【審査官】 佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−537886(JP,A)
【文献】 特表2011−515867(JP,A)
【文献】 特表2013−518932(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/115248(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/112821(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0062902(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/078、31/18−31/20
H02S 10/00−10/40、30/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を有する光起電力デバイスにおける吸収層を形成する方法において、
基板にインクの膜をコーティングする工程であって、当該インクは、
各々がCu、In、Ga及びSeを含むコアと、CuSを含むシェルとを備えている複数の第1の種類のナノ粒子と、
各々がCu、In、Ga及びSeを含むコアと、InSを含むシェルとを備えている複数の第2の種類のナノ粒子と、
を含んでいる、工程と、
インクの膜から揮発性有機物を除去するのに十分な温度と時間で、コーティングされた基板をアニールする工程と、
コーティングされた基板を冷却する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
コーティングする工程、アニールする工程及び冷却する工程が繰り返されて、吸収層内に複数の層が形成される、請求項に記載の方法。
【請求項3】
吸収層における少なくとも1つの層の化学量論組成は、隣接する層とは異なっている、請求項に記載の方法。
【請求項4】
吸収層を加熱して、セレン含有ガスに曝す工程を更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
インクは、第2の種類のナノ粒子よりも第1の種類のナノ粒子を多く有する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
吸収層が、CuInSSeのマトリックスとして形成され、当該マトリックスにCuInGaSeの結晶がある、請求項に記載の方法。
【請求項7】
インクは、各々がCu、In、Ga及びSeを含むコアと、GaSを含むシェルとを備える複数の第3の種類のナノ粒子を更に含んでいる、請求項に記載の方法。
【請求項8】
吸収層が、CuInGaSSeのマトリックスとして形成され、当該マトリックスにCuInGaSeの結晶がある、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2013年12月6日に出願された米国仮出願第61/912,916号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、概して半導体ナノ粒子に関する。より具体的には、本発明は、銅インジウムガリウムジセレニド/ジスルフィド(CIGS)を用いた薄膜光起電デバイスに使用するためのコアシェル型ナノ粒子を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
幅広く受け入れられるために、光起電力セル(「PVセル」。太陽電池又はPVデバイスとしても知られている)は、通常、化石燃料を用いて生成される電力に対して競争力のあるコストで電力を生成する必要がある。太陽電池の材料コストと製造コストは低く、光電変換効率は大きいことが好ましい。薄い活性層(約2乃至4μm)における材料の量は少ないので、薄膜の材料コストは本質的に低い。故に、高効率の薄膜太陽電池を開発するために相当な努力がなされてきた。研究された様々な薄い材料の中で、黄銅鉱(chalcopyrite)を用いたデバイス(Cu(In及び/又はGa)(Se及び随意選択的にS)、本明細書では総称して「CIGS」と呼ばれる)は、かなりの将来性を示しており、相当な関心を持たれている。CIGS材料を用いた光起電力デバイスは効率的である。なぜならば、CuInS(1.5eV)及びCuInSe(1.1eV)のバンドギャップは、太陽スペクトルに良く合っているからである。
【0004】
CIGS材料は安価であるが、CIGS薄膜の従来の製造方法は、コストが高い気相又は蒸発技術を含んでいる。コストが低い解決法の一つは、液相堆積技術を用いてCIGS成分の粒子を基板に堆積させて、その後、粒子を融解又は溶解させることで、薄膜を形成することである。理想的には、ナノ粒子が一体化して、グレインが大きい薄膜が形成される。液相堆積は、成分金属の酸化粒子を用いてなされて、その後、Hで還元され、セレンを含むガス(例えば、HSe)で反応焼結される。或いは、液相堆積は、予め作製されたCIGS粒子を用いてなされてもよい。
【0005】
CIGS型ナノ粒子(即ち、CIGS又は同様な材料)は、グレインが大きい薄膜を形成可能とする幾つかの特徴を持っているのが好ましい。例えば、ナノ粒子は小さくて、材料が同じであるより大きな粒子とは異なる物理的、電気的及び光学的特性を有しているのが好ましい。このようなより小さい粒子はより密接に固まるので、融解すると、粒子の凝集が促進される。また、ナノ粒子のサイズ分布は狭いことが好ましい。狭いサイズ分布は、融解温度を均一にすることを促進する。これは、ナノ粒子の融点が粒子サイズに直接関係するからである。均一な融解は、一様で高質な(電気的特性が良い)膜を与える。
【0006】
CIGSの液相堆積は、薄膜を作製する安価な方策であるが、今なお欠点がある。例えば、薄膜は、通常、背面PVセル接触子(例えば、モリブデン電極)に成長する。グレインの成長中、カリウム粒子には、一方の膜面に向けて移動する傾向があり、その結果、ガリウムの分布が不均一になる。故に、完成した薄膜には、ガリウム濃度の勾配があり得る。当該勾配は、背面のPVセル接触子に向かって増加し、薄膜の上面に向かって減少する。薄膜の上面付近における不十分なガリウム濃度は、バンドギャップの拡張を通じて、所望の電圧を得る能力を低下させる。その技術のもう一つの問題は、銅の濃度に関連している。銅リッチな環境は、グレイン成長に適した状況をもたらすが、In+Gaリッチな環境は、電気的な性能を最も良くする。この難点に対する答えの一つは、銅リッチな材料を用いて大きなグレインを成長させて、その後、KCN溶液を用いて膜をエッチングすることによって、望ましくない銅副生成物を除去することである。しかしながら、KCNは、毒性が非常に高い化合物である。もう一つの難点は、堆積させたナノ粒子をセレン化して、より優れたグレイン成長のために適切な体積膨張を得ることである。体積膨張は、(イオン半径が)比較的小さい硫化物を、より大きなセレン化物と反応させる(例えば、セレン雰囲気と硫化物を反応させる)ことで得られる。このプロセスは、荒々しくて高価であり、意図せずにPVセル接触子をセレン化して、その電気的性能を損なう可能性がある。
【0007】
故に、当該分野において、CIGSナノ粒子の液相堆積を改善する要求がある。より具体的には、当該分野において、大きなグレインを成長させて、In+Gaリッチな薄膜を形成するようなCIGSナノ粒子を調製する要求がある。更に、当該分野において、グレイン成長中のガリウム移動を妨げ、体積膨張を得るために激しいセレン化プロセスを必要としないようなCIGSナノ粒子を調製する要求がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は概して、CIGS型コアシェルナノ粒子の調製に関する。ある実施形態では、コアシェルナノ粒子は、四元又は三元金属カルコゲン化物コアを含んでいる。別の実施形態では、コアは、二元金属カルコゲン化物のシェルで実質的に囲まれている。更に別の実施形態では、コアシェルナノ粒子は、液相堆積によって背面PVセル接触子(例えば、モリブデン電極)上に堆積されてよい。堆積した粒子は、その後、融解又は溶解して薄い吸収膜になってよい。
【0009】
本発明の第1形態は、コアシェルナノ粒子をもたらす。当該コアシェルナノ粒子は、式AB1−xB’2−yC’を有しており、ここで、AはCu、Zn、Ag又はCdであり、B及びB’は夫々、Al、In又はGaであり、C及びC’は夫々、S、Se又はTeであり、0≦x≦1及び0≦y≦2である金属カルコゲン化物を含んでいるコアと、コアを実質的に囲んでいるシェルとを備えている。シェルは、式Mを有しており、Mは金属であり、Eはカルコゲンである二元金属カルコゲン化物を含んでいる。
【0010】
本発明の第1形態は、複数のコアシェルナノ粒子をもたらすものであり、当該コアシェルナノ粒子は、CuInSe、CuInGa1−xSe、CuGaSe、ZnInSe、ZnInGa1−xSe、ZnGaSe、AgInSe、AgInGa1−xSe、AgGaSe、CuInSe2−y、CuInGa1−xSe2−y、CuGaSe2−y、ZnInSe2−y、ZnInGa1−xSe2−y、ZnGaSe2−y、AgInSe2−y、AgInGa1−xSe2−y、及びAgGaSe2−yからなり、0≦x≦1及び0≦y≦2である群から選択される1又は複数のコアを有している。複数のコアシェルナノ粒子では、コアは、二元金属カルコゲン化物のシェルに実質的に包まれてよい。二元金属カルコゲン化物は、式Mを有してよく、Mは金属であり、Eはカルコゲンである。二元金属カルコゲン化物は、Cu、In、及びGaからなる群から選択されてよく、ここで、0≦x≦2及び0≦y≦3である。
【0011】
本発明の第3形態は、Cu、In、Ga及びSeを含むコアと、CuSを含むシェルとを有するコアシェルナノ粒子をもたらす。
【0012】
本発明の第4形態は、Cu、In、Ga及びSeを含むコアと、InSを含むシェルとを有するコアシェルナノ粒子をもたらす。
【0013】
本発明の第5形態は、光起電力デバイスをもたらす。当該光起電力デバイスは、支持体と、支持体上の基板層と、基板層上にあって、コアシェルナノ粒子を用いて形成された吸収層とを、備えている。コアシェルナノ粒子は、式AB1−xB’2−yC’を有しており、ここで、AはCu、Zn、Ag又はCdであり、B及びB’は夫々、Al、In又はGaであり、C及びC’は夫々、S、Se又はTeであり、0≦x≦1及び0≦y≦2である金属カルコゲン化物を含んでいるコアと、コアを実質的に囲んでいるシェルとを備えている。シェルは、式Mを有しており、ここで、Mは金属であり、Eはカルコゲンである二元金属カルコゲン化物を含んでいる。光起電力デバイスは更に、吸収層の上に硫化カドミウムを含む層を備えてよい。光起電力デバイスは更に、硫化カドミウム層の上に、アルミニウム酸化亜鉛(aluminum zinc oxide)又は酸化インジウムスズを含む層を備えてよい。光起電力デバイスは更に、アルミニウム、ニッケル、及びアルミニウムとニッケルの合金からなる群から選択された金属を含む電極層を備えてよい。光起電力デバイスでは、支持体は、ガラス、シリコン及び有機ポリマーからなる群から選択されてよい。光起電力デバイスでは、化学量論比が、吸収層内にて深さに応じて変化してよい。光起電力デバイスでは、In対Gaの比が、吸収層内にて深さに応じて変化してよい。
【0014】
本発明の第6の形態は、基板を有する光起電力デバイスにおける吸収層を形成する方法をもたらす。当該方法は、基板にインクの膜をコーティングする工程を含む。インクは、CIGS型コアシェルナノ粒子を含んでいる。当該コアシェルナノ粒子は、式AB1−xB’2−yC’を有しており、ここで、AはCu、Zn、Ag又はCdであり、B及びB’は夫々、Al、In又はGaであり、C及びC’は夫々、S、Se又はTeであり、0≦x≦1及び0≦y≦2である金属カルコゲン化物を含んでいるコアと、コアを実質的に囲んでいるシェルとを備えている。シェルは、式Mを有しており、ここで、Mは金属であり、Eはカルコゲンである二元金属カルコゲン化物を含んでいる。当該方法は、インクの膜から揮発性有機物をほとんど除去するのに十分な温度と時間で、コーティングされた基板をアニールする工程と、コーティングされた基板を冷却する工程とを含む。この方法では、コーティング工程、アニール工程及び冷却工程が繰り返されて、吸収層内に複数の層が形成されてよい。吸収層における少なくとも1つの層の化学量論組成は、隣接する層とは異なっていてもよい。この方法では、インクは、CuInGaSeコアとCuS、InS、及びGaSシェルを備えており、大量のCuInGaSeを伴うCuInGaSSeマトリクスが形成されてよい。この方法は更に、吸収層を加熱して、セレン含有ガスに曝す工程を含んでよい。この方法では、インクは、銅を用いたシェルを有するコアシェルナノ粒子を、インジウムを用いたコアシェルを有するナノ粒子よりも多く有してよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
上記の概要に加えて、以下の詳細な説明は、添付の図面を併せて読まれることで理解されるであろう。説明を目的としてのみ、幾つかの実施形態が図面に示される。しかしながら、本明細書に開示されている発明概念は、図に示されている詳細な配置と手段には限定されない。
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に基づいたコアシェルナノ粒子の模式的な断面図である。
【0017】
図2図2は、本発明の実施形態に基づいた光起電力デバイスの層である。
【0018】
図3図3は、本発明の実施形態に基づいて、CIGS型ナノ粒子インクを用いて基板にCIGS材料の層を形成する典型的な工程を含むフローチャートである。
【0019】
図4図4は、本発明の実施形態に基づいて、コアシェルナノ粒子化合物を加熱及びセレン化してCIGS薄膜を形成する工程を示す。
【0020】
図5図5は、本発明の実施形態に基づいて、UV−可視光スペクトルと光ルミネセンススペクトルとについて、CIGS/InSコアシェルナノ粒子に対してシェルがないCIGSナノ粒子を比較したものである。
【0021】
図6図6は、本発明の実施形態に基づいて、ICP/OES元素分析について、CIGS/InSコアシェルナノ粒子に対してシェルがないCIGSナノ粒子を比較したものである。
【0022】
図7図7は、本発明の実施形態に基づいて、XRD分析について、コアシェルCIGS/InSナノ粒子に対してシェルがないCIGSナノ粒子を比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本明細書に述べられた発明概念は、それらの適用において、以下の説明に述べられた又は図面に図示された構造上の詳細又は構成要素の配置に限定されないことは理解されるべきである。更に、本明細書で使用される表現や術語は、単に説明を目的としており、限定するものと認められるべきではないことが理解されるべきである。
【0024】
更に、記載された特徴の任意の一つは、その他の特徴と別個に、又は組み合わせて使用されてよいことは理解されるべきである。発明に係るその他の表現、方法、特徴、及び利点は、図面と詳細な説明を検討した当業者には明らかであり、又は明らかとなるであろう。このような更なる表現、方法、特徴、及び利点の全ては、添付の特許請求の範囲によって保護されることが意図される。
【0025】
本明細書で引用されている全ての文献は、引用を以てそれらの全体が、本明細書の一部となる。
【0026】
本明細書で使用されているように、「CIGS」、「CIS」及び「CIGS型」は、互換的に使用されており、各々は、式AB1−xB’2−yC’で表現される物質に言及しており、AはCu、Zn、Ag又はCdであり、B及びB’は夫々、Al、In又はGaであり、C及びC’は夫々、S、Se又はTeであり、0≦x≦1及び0≦y≦2である。物質の例としては、CuInSe、CuInGa1−xSe、CuGaSe、ZnInSe、ZnInGa1−xSe、ZnGaSe、AgInSe、AgInGa1−xSe、AgGaSe、CuInSe2−y、CuInGa1−xSe2−y、CuGaSe2−y、ZnInSe2−y、ZnInGa1−xSe2−y、ZnGaSe2−y、AgInSe2−y、AgInGa1−xSe2−y、及びAgGaSe2−yがあり、ここで、0≦x≦1及び0≦y≦2である。
【0027】
本発明は概して、CIGS型コアシェルナノ粒子の調製に関する。ある実施形態では、コアシェルナノ粒子は、四元又は三元金属カルコゲン化物コアを含んでいる。別の実施形態では、コアは、二元金属カルコゲン化物のシェルで実質的に囲まれている。更に別の実施形態では、コアシェルナノ粒子は、液相堆積によって背面PVセル接触子(例えば、モリブデン電極)上に堆積されてよい。堆積した粒子は、その後、融解又は溶解して薄い吸収膜になってよい。
【0028】
図1は、例示だけを目的として、実施形態であるコアシェルナノ粒子101の断面を図示している。コアシェルナノ粒子は、コア102を含んでいる。コア102は、式AB1−xB’2−yC’で表現される任意の金属カルコゲン化物に言及しており、AはCu、Zn、Ag又はCdであり、B及びB’は夫々、Al、In又はGaであり、C及びC’は夫々、S、Se又はTeであり、0≦x≦1及び0≦y≦2である。ある実施形態では、ナノ粒子のコア102は、四元金属カルコゲン化物であってよい。限定ではなく、四元金属カルコゲン化物は、CuInGa1−xSe、ZnInGa1−xSe、AgInGa1−xSe、CuInSe2−y、CuInGa1−xSe2−y、CuGaSe2−y、ZnInSe2−y、ZnGaSe2−y、AgInSe2−y、及びAgGaSe2−yであってよく、ここで、0≦x≦1及び0≦y≦2である。別の実施形態では、四元金属カルコゲン化物は、Gaの代わりにZnを含んでよく、例えば式CuInZnSを有するコアであるが、これに限定されない。別の実施形態では、ナノ粒子のコア102は、三元金属カルコゲン化物であってよい。限定ではなく、三元金属カルコゲン化物は、CuInSe、CuGaSe、ZnInSe、ZnGaSe、AgInSe、及びAgGaSeであってよい。
【0029】
ある実施形態では、ナノ粒子のコア102は、金属カルコゲン化物のシェル103で実質的に囲まれている。ある実施形態では、シェル103は、式Mを有する二元金属カルコゲン化物を含んでよく、ここで、Mは金属であり、Eはカルコゲンである。限定ではなく、二元金属カルコゲン化物は、Cu、In、及びGaであってよく、ここで、0≦x≦2及び0≦y≦3である。
【0030】
ある実施形態では、コアシェルナノ粒子101は、Cu、In、Ga及びSeで作られたコア102(即ち、「CIGSe」コア)を含んでいる。CIGSeコア102は、CuS又はInSで作られたシェル103で実質的に囲まれてよい。
【0031】
ある実施形態では、上述のコアシェルナノ粒子が使用されて、PVセル吸収薄膜が作製されてよい。図2は、例示だけを目的として、典型的なPVデバイス200の層を図示している。PVデバイス200は、コアシェルナノ粒子から生じた吸収層を有している。例示した層は、支持体201に堆積されている。これらの層は、基板層202(典型的にはモリブデン)、コアシェルナノ粒子から生じた吸収層203、硫化カドミウム層204、アルミニウム酸化亜鉛層205、及びアルミニウム接触子層206である。当業者であれば、CIGSを用いたPVデバイスは、図2に示したものよりもより多くの層又はより少ない層を含んでいてもよいことは理解できるであろう。
【0032】
支持体201は、層202乃至206を支持できる堅い又は適度に堅い任意の種類の材料であってよい。例としては、ガラス、シリコン、そして、プラスチックのような伸ばすことのできる材料がある。基板層202は、支持層201の上に堆積されて、PVデバイスへの電気的接触をもたらし、コアシェルナノ粒子を用いた吸収層203を支持層への接合を促進する。
【0033】
吸収層203は、上記のコアシェルナノ粒子から生じており、Cuと、In及び/又はGaと、Se及び/又はSとを含有する1又は複数の層を含んでよい。コアシェルナノ粒子層の化学量論比は、その層を通じて一様であってよい。或いは、Cuと、In及び/又はGaと、Se及び/又はSの化学量論比は、吸収層203を通じて変化してよい。例えば、ある実施形態では、吸収層は、ガリウム含有量が変化する層を含んでよい。ある実施形態では、Gaに対するInの比は、層内の深さの関数として変化してよい。同様にして、Sに対するSeの比は、層内で変化してよい。更に別の実施形態では、コアシェルナノ粒子を用いた吸収層203は、p型半導体であってよい。それ故に、PVセル200内にn型半導体の層204を含むのが有利であろう。適切なn型半導体の例には、CdSがあるが、これに限定されない。
【0034】
上部電極205は、インジウムスズ酸化物(ITO)又はアルミニウム酸化亜鉛(AZO)のような透明な導体であってよい。上部電極205との接触は、金属接触子206によってもたらされてよい。金属接触子206は、基本的に任意の金属であってよく、アルミニウム、ニッケル、それらの合金を含むが、これらに限定されない。
【0035】
基板にCIGS層を堆積させる方法は、2008年11月26日に出願されて、米国特許出願公開US2009/0139574号として公開されている米国特許出願第12/324,354号に記載されている(以下、「‘354」出願と称する)。当該出願の内容の全体は、引用を以て本明細書の一部となる。当該方法が使用されて、本明細書に記載されているコアシェルナノ粒子が堆積されてよい。手短に言えば、CIGS層は、インク組成物にCIGS型コアシェルナノ粒子を分散させて、そのインク組成物を用いて基板上に膜を形成することで、基板上に形成されてよい。膜がその後、アニールされることで、CIGS材料の層が得られる。図3は、CIGS型コアシェルナノ粒子インクを用いて、基板にCIGS材料の層を形成する例示的なステップを示すフローチャートである。最初に(301)、CIGS型コアシェルナノ粒子を含むインクが用いられて、印刷、噴霧、スピンコーティング、ドクターブレード法などの技術を利用して、基板の上に膜がコーティングされる。典型的なインク組成物は、‘354出願に記載されている。
【0036】
1又は複数回のアニール/焼結工程(302、303)が通常、コーティング工程(301)の後に実行される。アニール工程は、インクの有機成分やその他の有機種、例えば、CIGS型ナノ粒子に存在し得るキャッピングリガンドを蒸発させてよい。アニール工程はまた、CIGS型ナノ粒子を融解させる。代替的又は付加的に、堆積したインク組成物は、Hで還元されて融解し、その後、HSeのようなセレン含有ガスを用いて反応焼結がなされる(305)。アニールの後、膜が冷却されて(304)、CIGS層が形成される。CIGS層は、CIGS材料の結晶で作られているのが好ましい。コーティング工程、アニール工程、及び冷却工程が複数回繰り返されて(306)、吸収層に複数の層が形成されてよい。各層の化学量論比は異なってよい。例えば、各層に使用されている最初のインク組成物におけるガリウム濃度を変化させることで、ガリウム濃度が異なる複数の層が形成されてよい。
【0037】
ある実施形態では、上記インク組成物に使用されるCIGS材料は、図1に関連して本明細書に記載されたコアシェルナノ粒子の1又は複数を含んでいる。例えば、インク組成物は、二元金属カルコゲン化物で実質的に囲まれた四元又は三元金属カルコゲン化物を含む1又は複数種のナノ粒子を含んでよい。
【0038】
ある実施形態では、CIGS層は、種類が異なるコアシェルナノ粒子の混合物から生じてよい。コアシェルナノ粒子のコアは、アニール/焼結プロセス中、互いに分離している/不活性であるものとして振る舞うが、シェルは、グレイン成長に影響する反応物質として働く。例示のみを目的として、図4を参照すると、インク組成物401は、GuInGaSe/GuSコアシェルナノ粒子402とCuInGaSe/InSコアシェルナノ粒子403の混合物を含んでよい。そのインク組成物は、PVセル接触子405上に堆積される(404)。堆積したナノ粒子はその後、加熱されて、さらに、セレン含有ガス406に曝されて、ナノ粒子シェル402とナノ粒子シェル403の間に反応が起きる。その結果、PVセル接触子405の上にCIGS層407ができる。ある実施形態では、完成した薄膜層407は、CuInSSeのマトリクス409中にCuInGaSe結晶408を含む。別の実施形態では、堆積したインク組成物は、CuInGaSeコアを有するCuSシェル、InSシェル、及びGaSシェルを含んでおり、多量のCuInGaSeを伴うCuInGaSSeのマトリクスを形成する。
【0039】
本明細書に開示された発明は、CIGSナノ粒子を固相堆積する従来方法を超える幾つかの利点をもたらす。第1に、ナノ粒子のシェル部分は、そのコアを表面から隔離する。その結果、シェルは、薄膜の処理中にて、ガリウムが反応して移動するのを防止できる。この結果、ガリウム含有量が高くなり、このことが、バンドギャップが高い材料に影響を与えて、VOCの増加を導き得る。第2に、本明細書に開示されたコアシェルナノ粒子は、二元金属カルコゲン化物のシェルを含んでいる。二元金属カルコゲン化物は、四元又は三元金属カルコゲン化物よりも優れたグレイン成長を示す。より大きなグレインが成長することで、電流(JSC)が高められる。加えて、二元金属カルコゲン化物は、コアシェルナノ粒子の体積において小さな部分を占めるだけである。このような設計により、二元金属カルコゲン化物からガリウム含有材料を形成する場合に通常見られるグレイン成長の制御の問題が避けられる。第3に、ある実施形態では、インク組成物は、In/Gaが入れられた過多なコアと共に、Cuを用いたシェルを、Inを用いたシェルを超えて含んでよい。この銅リッチなシェルの環境は、焼結中にてグレイン成長を大きくし得る。一方、In/Gaコアは、銅が不足した薄膜の化学量論比を最終的に導いてよく、これにより、最適な電子工学的要求を満たすことができる。第4に、別の実施形態では、コアシェルナノ粒子は、硫黄の代わりにセレンを含んでよい。このことは、体積膨張のために、薄膜の大部分において硫黄を置き換える必要がないことを意味する。各粒子の外側部分が、Sをアニオンとして作られる場合、硫黄がセレンで置き換えられることで、反応が最も利用しやすく、膨張が(ギャップ充填とグレイン境界の融合が望まれる表面にて)最大の利益を与えるような体積膨張をもたらすことができると考えられる。Seをアニオンとしてコアが構成されているので、均一性を達成して所望のバンドギャップを維持するために、反応ガスが、粒子深くまで入り混んで、遠くのSと置き換わる必要がない。これにより、Se反応物の濃度を下げることができ、及び/又は、処理時間を短くすることができ、及び/又は、ことによると処理温度も下げることができる。それ故に、より穏やかなセレン化プロセスを、例えばHSe又は元素セレンの濃度をより低くすることで実施できる。
【実施例】
【0040】
<実施例1:コアシェルナノ粒子の合成>
この実施例は、CIGSe/InSコアシェルナノ粒子を合成する一つの方法を説明する。しかしながら、同じ又は似たような方法が使用されて、適切な比で出発物質を単に置き換えることで、本明細書に記載の実施形態に基づいて説明されているその他の任意のコアシェルナノ粒子が作られてよい。例えば、コアの出発物質CIGSeは、式AB1−xB’2−yC’を有する任意の金属カルコゲン化物に置換でき、ここで、AはCu、Zn、Ag又はCdであり、B及びB’は夫々、Al、In又はGaであり、C及びC’は夫々、S、Se又はTeであり、0≦x≦1及び0≦y≦2である。加えて、シェルの出発物質、ジエチルジチオカルバミン酸インジウム(III)は、式Mを有する任意のカルコゲン化物で置換できる。
【0041】
ある実施形態にて、炉内乾燥された250ml丸底フラスコを、2.68gのCIGSeナノ粒子で満たして、その後、リービヒ冷却器を装着した。フラスコを十分にNでパージした。脱ガスした30mlのジベンジルエーテルをフラスコに加えて、混合物を150℃に加熱した。更に、N下のバイアルを、0.978gのジエチルジチオカルバミン酸インジウム(III)と、14mlのジベンジルエーテルと、6mlのトリオクチルホスフィンとで満たした。得られたバイアルの懸濁液をその後、CIGSe溶液に加えて、混合物を200℃に90分間加熱した。最後に、混合物を室温まで冷ました。
【0042】
冷却後、フラスコを大気に開放して、2700Gで5分間、混合物を回転させた。その後、上澄を取り除いて、残った固体を25mlのトルエンに分散させた。この分散物を2700Gで5分間回転させて、その後、上澄を分散物と組み合わせた。残った固体を更に15mlのトルエンに分散させて、2700Gで5分間、混合物を回転させた。上澄を再度分散物と組み合わせて、残っている残留物を廃棄した。250mlのメタノールを、一体にした上澄に加えて、2700Gで5分間、混合物を回転させた。無色の上澄を廃棄して得られた固体を、25mlジクロロメタン/200mlメタノールから再沈殿させた。沈殿物を遠心分離で単離して、真空下で乾燥させた(収量:2.218g)。
【0043】
例示のみを目的として、図5は、シェルがないCIGSeナノ粒子のUV−可視スペクトルとフォトルミネセンススペクトルを、CIGSe/InSコアシェルナノ粒子のものと比較している。ある実施形態では、CIGSe材料がジエチルジチオカルバミン酸インジウム(III)と反応してInシェルを形成すると、ピーク強度が増加する。このことは、バンドギャップがより高い材料がシェルとして使用されて、コアナノ粒子の表面が不動態化する場合にて予想される結果である。それは更に、ナノ粒子の分離形成又は既存のCIGSeナノ粒子へのIn及びSのドーピングと対して、シェルの形成を示している。
【0044】
例示のみを目的として、図6は、シェルのないCIGSeナノ粒子のICP/OES元素分析と、CIGSe/InSコアシェルナノ粒子のICP/OES元素分析との比較を示している。ある実施形態では、結果は、コアシェルナノ粒子におけるInとSの含有量の増加を示している。
【0045】
例示のみを目的として、図7は、シェルのないCIGSeナノ粒子のXRD分析と、コアシェルCIGSe/InSナノ粒子のXRD分析との比較を示す。CISナノ粒子とCGSナノ粒子の参照パターンは、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)のデータベースのものである。ある実施形態では、結果は、他の相又は物質からの余分なピークが、シェル形成で現れておらず、ドーピング又は分離成長に対してシェルの存在を示している。
【0046】
上記の説明は、本発明の思想を実施する、現在における特定の実施形態を示している。当業者であれば、本明細書に明記されていなくとも、本発明の思想を具現化し、本発明の範囲内である代替例や変形例を想起することが可能であろう。本発明の特定の実施形態を示して説明したが、それらは、本発明の範囲を限定することを意図していない。当業者であれば、特許請求の範囲が文言上及び均等として及び本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更や修正が行われてよいことが理解できるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7