特許第6704050号(P6704050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704050水素を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704050
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】水素を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20200525BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200525BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20200525BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A61K33/00
   A61P25/28
   A61P43/00 111
   A23L33/10
   A23L2/00 F
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-527666(P2018-527666)
(86)(22)【出願日】2017年7月13日
(86)【国際出願番号】JP2017025575
(87)【国際公開番号】WO2018012596
(87)【国際公開日】20180118
【審査請求日】2019年1月11日
(31)【優先権主張番号】特願2016-138793(P2016-138793)
(32)【優先日】2016年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507363370
【氏名又は名称】株式会社マイトス
(73)【特許権者】
【識別番号】516211569
【氏名又は名称】医療法人社団創知会
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝田 隆
(72)【発明者】
【氏名】太田 成男
【審査官】 新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−114084(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/081026(WO,A1)
【文献】 特開2013−253036(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/111834(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/143447(WO,A2)
【文献】 太田成男,水素水は体によいか?悪いか?水素水の生体への効果,アンチ・エイジング医学,2008年,Vol.4 No.6,pp.778-784
【文献】 永田和史他,水素水が拘束モデルマウスの認知機能に及ぼす影響,生化学,2007年,抄録CD,p.3P-1048
【文献】 太田成男,認知症予防への研究紹介:水素によって認知症を予防できるか?,街ぐるみ認知症相談センターニュースレター,2010年,Vol.1,4pages,p.3,URL,http://www2.nms.ac.jp/ig/soudan/sub20.html
【文献】 GU, Yeunhwa et al.,Drinking Hydrogen Water Ameliorated Cognitive Impairment in Senescence-Accelerated Mice,J. Clin. Biochem. Nutr.,2010年,Vol.46,pp.269-276
【文献】 LI, Jian et al.,Hydrogen-rich saline improves memory function in a rat model of amyloid-be-ta-induced Alzheimer's di,Brain Res.,2010年,Vol.1328,pp.152-161
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A23L 2/00− 2/84
A23L 33/00−33/29
A61P 25/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ApoEε4対立遺伝子保有者に用いるための、水素を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項2】
組成物が水素を含む液体である、請求項1記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項3】
水素分子が飽和状態で含まれる、請求項2記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項4】
組成物が水素ガスである、請求項1記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項5】
水素ガスを1〜4%(v/v)の濃度で含む、請求項4記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項6】
組成物が水素を吸蔵し保持している、あるいは水素を発生させる金属又は金属合金の微粒子である、請求項1記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項7】
医薬組成物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項8】
健康食品である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項9】
健康食品が水素水である、請求項8記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項10】
軽度認知障害の被験体の認知機能を改善するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項11】
軽度認知障害の認知症への進行を予防する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【請求項12】
作業記憶(ワーキングメモリー)の低下を抑制する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment)は認知症へ移行する前段階であり、MCIを放置すると、認知機能の低下が続き、5年間で約50%の人は認知症へとステージが進行すると言われている。軽度認知障害およびアルツハイマー型認知症の危険因子は、アポリポ蛋白E遺伝子のApoEε4遺伝子多型である(非特許文献1を参照)。ApoEε2とApoEε3遺伝子産物の112番目のアミノ酸はシステインであるのに対し、ApoEε4遺伝子産物では112番目のアミノ酸がアルギニンである。ApoEε4遺伝子のヘテロの保有者のアルツハイマー型認知症のオッズ比は、3.2倍、ホモのオッズ比は、11.6倍である。同時に、ApoEε4遺伝子多型は、動脈硬化の危険因子でもある。
【0003】
一方、水素は従来の抗酸化能に加えて最近、多種の作用を有することが明らかになり、加えて、その効果や安全性についてもすでに多くの報告がなされている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO2007/021034公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Cosentino et al., Neurology May 6, 2008 vol. 70 no. 19 Part 2 1842-1849
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、水素を認知障害、特に軽度認知障害又は認知症に対する効果について鋭意検討を行った。具体的には、軽度認知障害と診断された被験体に水素水を1年間にわたって摂取し、軽度認知障害がどのように推移するかを検討した。この際、被験体がApoEε4対立遺伝子保有者(ApoEε4遺伝子多型保有者)であるか否かを測定し、ApoEε4対立遺伝子保有者と非保有者の間で効果が違うかについても検討を行った。
【0008】
その結果、水素水が軽度認知障害又は認知症を予防又は治療し得ることを見出し、特にApoEε4対立遺伝子保有者に有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 水素を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[2] 組成物が水素を含む液体である、[1]の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[3] 水素分子が飽和状態で含まれる、[2]の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[4] 組成物が水素ガスである、[1]の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[5] 水素ガスを1〜4%(v/v)の濃度で含む、[4]の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[6] 組成物が水素を吸蔵し保持している、あるいは水素を発生させる金属又は金属合金の微粒子である、[1]の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[7] 医薬組成物である、[1]〜[6]のいずれかの軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[8] 健康食品である、[1]〜[3]のいずれかの軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[9] 健康食品が水素水である、[8]の軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[10] 軽度認知障害の被験体の認知機能を改善するための、[1]〜[9]のいずれかの軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[11] 軽度認知障害の認知症への進行を予防する、[1]〜[10]のいずれかの軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[12] 作業記憶(ワーキングメモリー)の低下を抑制する、[1]〜[9]のいずれかの軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
[13] ApoEε4対立遺伝子保有者に用いるための、[1]〜[12]のいずれかの軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物。
【0010】
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2016-138793号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水素を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物により、軽度認知障害又は認知症になることを予防し、軽度認知障害又は認知症になった被験体の治療を行うことができる。特に、軽度認知障害又は認知症になるリスクが高いとされるApoEε4対立遺伝子保有者(ApoEε4遺伝子多型保有者)に投与し、あるいは摂取させることにより軽度認知障害又は認知症になることを予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ApoEε4遺伝子多型保有者の一人一人の水素水摂取前後の単語再生能力スコア及びADAS-cogの合計スコアの変化を示す図である。
図2】ApoEε4遺伝子多型保有者及び非保有者における単語再生能力スコア及びADAS-cogの合計スコアの1年間の変化を示す図である。
図3】水素ガスを患者に投与する装置を示す図である。
図4】APOE遺伝子欠損マウスにおける分子状水素による空間作業記憶の改善を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は水素を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物である。
【0015】
本発明の水素を含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用は、液体であっても気体であってもよい。
【0016】
認知症とは、病気により脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態をいい、認知症が進行すると理解力及び判断力が低下し、社会生活や日常生活に支障が出てくるようになる。本発明における認知症には、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症等が含まれる。
【0017】
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)とは、認知症へ移行する前段階であり、MCIを放置すると、認知機能の低下が続き、5年間で約50%の人は認知症へとステージが進行すると言われている。軽度認知障害は、認知機能(記憶、決定、理由づけ、実行など)のうち1つの機能に問題が生じてはいるが、日常生活には支障がない。軽度認知障害は以下の5項目で定義される。
1.記憶障害の訴えが本人または家族から認められている。
2.日常生活動作は正常。
3.全般的認知機能は正常。
4.年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する。
5.認知症ではない。
【0018】
アポリポ蛋白E遺伝子のApoEε4遺伝子多型が、軽度認知障害及びアルツハイマー型認知症の危険因子として報告されている。ApoE蛋白は299のアミノ酸からなる34kDaのタンパク質であり、ApoE2、ApoE3及びApoE4の主要な3つのアイソフォームが存在し、それぞれは3つの対立遺伝子ε2、ε3及びε4の遺伝子産物である。ApoE2、ApoE3及びApoE4のアイソフォームの相違点は112番目と158番目のアミノ酸が1個ずつ異なることにより生じる。ApoEε2はCys/Cys、ApoEε3はCys/Arg、ApoEε4はArg/Argである。
【0019】
このように、ApoE遺伝子型には、ApoEε2、ApoEε3及びApoEε4が存在し、このうちApoEε4を多く保有しているほど、APOE遺伝子型APOEε2とAPOEε3だけを保有するのと比べて軽度認知障害及びアルツハイマー型認知症の発症リスクが高まる。APOE遺伝子型には、ApoEε4を持たない遺伝子型であるApoEε2/ApoEε2遺伝子型、ApoEε2/ApoEε3遺伝子型、ApoEε3/ApoEε3遺伝子型、日本人の10%に存在するApoEε2/ApoEε4遺伝子型、ApoEε3/ApoEε4遺伝子型及び日本人の2%に存在するApoEε4/ApoEε4遺伝子型がある。ApoEε4対立遺伝子保有者(ApoEε4遺伝子多型保有者)すなわち、ApoEε2/ApoEε4ヘテロ接合性遺伝子型、ApoEε3/ApoEε4ヘテロ接合性遺伝子型及びApoEε4/ApoEε4ホモ接合性遺伝子型を有する者(ApoEε2/ApoEε4ヘテロ接合体、ApoEε3/ApoEε4ヘテロ接合体及びApoEε4/ApoEε4ホモ接合体)は軽度認知障害及びアルツハイマー型認知症のリスクが高まる。
【0020】
被験体のApoE遺伝子の遺伝子型は、例えば、被験体の血液から血液細胞を採取し、DNAを抽出し、通常の遺伝子多型解析方法によって行うことができる。例えば、ジデオキシ法やMaxam-Gilbert法等の公知の方法により直接配列決定するシークエンス解析による解析法、遺伝子多型に特異的なプローブや該プローブを固定化したマイクロアレイ(DNAチップ)などを用いるハイブリダイゼーション法、遺伝子多型に特異的なプライマーを用いる種々の方法があげられ、さらに具体的に、PCR法、NASBA法、LCR法、SDA法、LAMP法、制限断片長多型(RFLP)を利用する方法、変性勾配ゲル電気泳動法(DGGE)、ミスマッチ部位の化学的切断を利用した方法(CCM)、プライマー伸長法(TaqMan(登録商標)法)、PCR-SSCP法、一本鎖コンフォメーション多型解析(SSCP;single strand conformation polymorphism)、Invader法、シングルヌクレオチドプライマー法、SNaPshot法、MassArray法、Pyrosequncing法、SNP-IT法、BeadArray法、Scorpion法、MADI-TOF/MS法等が挙げられる。
【0021】
水素分子を含む液体は、水溶液からなることを特徴とする。本発明において、水素を含む液体を水素水と呼ぶことがある。この水溶液を形成する媒体としては、純水、イオン交換水、蒸留水、生理食塩水等を使用し得る。さらに、前記媒体として純水、イオン交換水あるいは蒸留水を使用し、得られた生体内の有害なフリーラジカル除去剤を一般的な水性飲料品、例えば、ミネラルウォーター、ジュース、コーヒー、お茶等に添加して飲用するようにしてもよい。ここで、飲料品は、飲料用の健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品、栄養機能食品等を含む。ここで、特定保健用食品とは、食生活において特定の保健の目的で摂取をし、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品をいう。これらの飲料品には、例えば認知機能改善のために用いられるものである旨の表示や軽度認知症に罹るリスクを低減するために用いられるものである旨の表示が付されていてもよい。
【0022】
水素分子は飽和状態であっても水又は水溶液中にある程度の時間溶けていることができる。このような水素分子が飽和状態の水又は水溶液は、加圧下において水素ガスを水又は水溶液に溶解させた後に圧力を取り除くことにより簡単に製造し得る。例えば、水溶液を0.4MPa以上の水素ガス圧下に数時間、好ましくは1〜3時間おけばよい。あるいは大量に水素水を製造する装置で短時間で製造してもよい。水溶液形態の水素水は、飲用として用いることもでき、生理食塩水の形で静注用として用いることもできる。この場合、投与はカテーテルを用いた投与や注射による投与が可能である。注入後は生体内に摂取された水素は生体にほとんど吸収され、血液を介して全身に行き渡り、効果を発揮し、その後呼気と一緒に排出される。
【0023】
水素1気圧、室温条件で水素は水1L当たり約17.5mL溶存し得る(約1.6ppm、約0.8 mM)。本発明の水素分子を含む液体組成物は、水溶液1L当たり、10mL以上、好ましくは15mL以上、特に好ましくは17.5mL以上の水素分子を含む。また、本発明の水素分子を含む液体組成物は、0.8ppm以上、好ましくは1ppm以上、さらに好ましくは1.1ppm以上、さらに好ましくは1.2ppm以上の水素分子を含む。また、本発明の水素分子を含む液体組成物は、0.1mM以上、好ましくは0.4mM以上、さらに好ましくは0.6mM、特に好ましくは0.8mM以上の水素を含む。
【0024】
また、本発明の水素分子を含む液体組成物は、酸素分子を含んでいてもよい。水溶液中に水素分子と酸素分子とが共存することとなるが、水素分子と酸素分子とが混合状態であっても、ただちに反応することはなく、両者とも安定に共存し得る。ただし、水溶液が多量の酸素分子を含む場合においては安全性を確保するために水素含有量は全気体の4%(v/v)未満となるようにすることが好ましい。安全性に問題がない使用環境下においては、水素含有量は可能な限り高濃度であることが好ましい。酸素を含む液体組成物も、飲用又は生理食塩水の形で静注用として使用し得るが、注射による投与の場合には、酸素分子がない場合に比すると、生体内が局部的に酸素不足の状態となることがないため、生体組織に損傷を与えることが少なくなる。
【0025】
本発明の液体組成物は、好ましくはアルミニウム等の水素を透過できない素材でできた容器中に保存するのが好ましい。また、低温である程、より多くの水素が溶存するので、低温で保存するのが好ましい。
【0026】
本発明の液体組成物は、1日当たり100〜5000mL、好ましくは150〜2000mL、さらに好ましくは150〜1000mL、さらに好ましくは200〜750mLを数日から数年、好ましくは数ヶ月〜数年、さらに好ましくは6ヶ月〜2年、さらに好ましくは6ヶ月〜1年摂取すればよい。
【0027】
水素分子を含む気体組成物は水素ガスを含む。本発明の気体組成物に含まれる水素ガスの濃度は、1〜4%(v/v)、好ましくは2.5〜3.5%(v/v)、さらに好ましくは約3%である。水素ガス含有量は安全性確保のために約4%(v/v)未満であることが望ましいが、密閉条件下で静電気が発生しないように配慮された安全な条件下であれば水素ガス含有量をより高くすることもできる。本発明の水素ガスを有効成分として含む気体組成物は、さらに酸素ガス及び/又は他の不活性ガスを含んでいてもよい。酸素ガスを含む場合、水素ガスと酸素ガスの混合ガスからなる。酸素ガスは呼吸のために消費される。不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等を使用し得るが、安価な窒素ガスが望ましい。この不活性ガスの含有量は、多すぎない範囲で当業者が任意に設定できるが、呼吸用の酸素ガス濃度を考慮すると80%(v/v)以下が好ましい。さらに、本発明の水素ガスを有効成分として含む組成物は、水素ガスと空気の混合ガスであってもよい。このような混合ガスは、空気に水素ガスを適宜混合することにより簡単に製造し得る。さらに、本発明の水素ガスを有効成分として含む気体組成物は、麻酔用ガスを含んでいてもよい。この場合、水素ガスを有効成分として含む気体組成物は、水素ガスと麻酔ガスの混合ガスからなる。麻酔ガスとしては、笑気ガス等が挙げられる。
【0028】
本発明の水素ガスを有効成分として含む気体組成物は、例えばガスボンベ等の耐圧性の容器中に入れられる。本発明は、水素ガスを有効成分として含む気体組成物を含む容器をも包含する。
【0029】
本発明の気体状の水素ガスを有効成分として含む気体組成物は、被験体に吸引させることができる。吸引は吸引手段を用いて行うことができ、水素ガスを有効成分として含む気体組成物を含む容器から配管を通して吸引手段を介して吸引させればよい。吸引手段は限定されないが、例えば、吸引マスクが挙げられ該マスクは好ましくは患者の口及び鼻を同時に覆うことができる。さらに、吸引手段として密閉された小密閉室がある、該小室は患者がその中に入り込める程度の大きさを有し、該小室に患者が入った状態で、小室内に本発明の水素ガスを有効成分として含む気体組成物を供給することにより、患者に吸引させることができる。このような小室の一例として、密閉されたベッドが挙げられる。患者はベッドに横臥した状態で本発明の水素ガスを有効成分として含む気体組成物を吸引することができる。
【0030】
さらに、本発明は水素ガスを有効成分として含む気体組成物を含む容器、ガス吸引用手段並びに前記容器中のガスを吸引用手段に供給する供給配管を備えている、水素ガスを有効成分として含む気体組成物を被験体に供給するための装置を包含する。容器は例えば、水素ガスボンベである。また、ガス吸引手段として前述のように、吸引マスク、密閉した小室が挙げられる。該装置は、さらに、酸素ガス、不活性ガス、空気及び麻酔ガスからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含む容器を備えていてもよく、この場合、水素ガスを有効成分として含む気体組成物と酸素ガス、不活性ガス及び空気からなる群から選択される少なくとも1種のガスを別々に或いは混合した後にガス吸引用手段に供給すればよい。例えば、吸引マスクに水素ガスが含まれるガス吸引バックを直結し、このガス吸引バックに水素ガスを含むガスボンベから水素ガスを供給すればよい。図3に本発明の装置の概略図を示す。該図は、ガス吸引用手段1、水素ガスを有効成分として含む急性期脳梗塞の治療剤を含む容器2、酸素ガス、不活性ガス、空気及び麻酔ガスからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含む容器3並びに配管4を備え、ガスが配管を通してガス吸引用手段に供給され、患者に投与される。
【0031】
水素ガスを有効成分として含む気体組成物の投与は、1回0.1時間〜5時間、好ましくは0.5時間から2時間、さらに好ましくは1時間行い、1日当たり1〜5回、好ましくは1〜3回、さらに好ましくは2回を、数日から数年、好ましくは数か月〜数年、さらに好ましくは6ヶ月〜2年、さらに好ましくは6ヶ月〜1年摂取すればよい。水素ガスを投与するときの吸引スピードは、例えば、1時間当たり数L、好ましくは約6Lである。
【0032】
さらに、本発明の組成物は水素原子を吸蔵し保持している、あるいは水素を発生させる物質を有効成分として含む組成物も含む。水素原子を吸蔵し保持している、あるいは水素を発生させる物質として、水素を吸蔵し保持している、あるいは水素を発生させる金属又は金属合金の微粒子である。本発明において、水素という場合、原子状水素及び分子状水素を含む。
【0033】
水素吸蔵金属として、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バナジウム(V)、ランタン(La)等が挙げられる。本発明において、水素吸蔵金属又は金属合金とは、水素と化合して水素化物となることにより、水素を吸蔵し得る上記金属及びその合金を含む。この中でも、マグネシウム又はその合金が望ましい。水素を吸蔵した金属化合物を水素化金属化合物といい、例えば、水素を吸蔵したマグネシウムを水素化マグネシウム(MgH2)という。
【0034】
水素化マグネシウムの場合は、水分と反応し、分子状水素を発生し、残りはMg(OH)2となるので、安全である。
【0035】
MgH2から発生した原子状水素は接触した酸化物質(例えば以下の化学式ではXで示す)を以下の式により還元する。
MgH2+2X→Mg+2H+2X→Mg+2XH
【0036】
残ったMgはH2Oと反応し、Mg(OH)2となる。
【0037】
本発明の水素吸蔵金属又は金属合金の微粒子のサイズは、平均粒径が0.5μm〜10μm、好ましくは1μm〜5μm、さらに好ましくは1μm〜3μmである。
【0038】
さらに、微粒子をより細粉化(ナノ化)し、ナノメートルサイズのナノ粒子として利用することもできる。ナノ粒子のサイズは、平均粒径5〜500nm、好ましくは10〜100nmである。
【0039】
目的によって異なる粒径をもつ微粒子を配合することによって、両者の効果を発揮させることが可能である。サイズが大きな微粒子の場合は、ゆっくりと水素を発生し、サイズが小さな微粒子は表面積が大きいので早く水素を発生する。従って、サイズの小さな微粒子とサイズの大きな微粒子を混合させると、速やかに水素を発生し、かつ長時間にわたって水素を発生し続けることが可能になる。
【0040】
水素吸蔵金属又は金属合金は、金属に水素を結合させることにより製造することができ、公知の方法により製造可能である。例えば、金属と水素の存在下で加圧すればよい。得られた水素吸蔵金属又は金属合金を粉末の衝突等により、細粉化すればよい。
【0041】
MgH2は金属Mgとは異なり短時間で空気中の酸素と反応することはないので、粒子間の衝突を繰り返すことによって、微粉化する。衝突速度と衝突頻度によって、特定の大きさの粒子を作製する。例えば、密閉容器内でMgH2微粒子を不活性な気体(例えば、窒素)をキャリアーガスとして、粒子同士の衝突や、壁面と衝突させる方式により、さらなる微粉化が可能である。この時、円周方向に向かうキャリアーガスの圧力、ガス流量及びMgH2粉体の投入量を制御することにより、目的とするサイズのMgH2微粒子が得られる。目的とする粒径以下になったMgH2微粒子はその見かけ比重による遠心力により、粒径が小さくなった物ほど中心部に集まる。そして、キャリアーガスに随伴されて、系外に排出される。つまり、粉砕対象物質をキャリアーガスで円周方向に運動するエネルギーを与えて、随所で乱流化させるガス流により目的物粒同士あるいは壁面や障害物に衝突させることにより水素吸蔵金属又は金属合金の微粒子をさらに細粉化することができる。
【0042】
水と反応させることによって以下の反応式にしたがって分子状水素を発生させることができる。
MgH2+2H2O→Mg(OH)2+2H2
【0043】
水素吸蔵金属又は金属合金の微粒子は樹脂中に含まれていてもよく、本発明は水素を吸蔵し保持している金属又は金属合金の微粒子を含む樹脂を有効成分として含む組成物も包含する。水素を吸蔵し保持している金属又は金属合金の微粒子を含む樹脂は、水素を発生し、外に放出することができる。また、本発明は水素を吸蔵し保持している金属又は金属合金の微粒子を含む樹脂を含む水素放出剤又は水素発生剤である。
【0044】
Mg(OH)2自体は生体にとって有害な物質ではないが、飲料水や食品に混入することは好ましくないので、本発明の水素吸蔵合金を含む樹脂においては、水素を発生してできたMg(OH)2は樹脂中に封じ込められ樹脂の外に出ることはない。
【0045】
水素吸蔵金属又は金属合金を含む樹脂として、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリメチルペンテン、スチロール、アクリル、ナイロン、フッ素樹脂等が挙げられる。用いる樹脂は、食品を入れる容器の材料になり、あるいは食品を包装するフィルムやシートの材料として用いることができる樹脂である。
【0046】
樹脂に水素吸蔵金属又は金属合金を含ませる方法として、例えば、樹脂をメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサン、トリクロロエチレン、ジクロロメタン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、トルエン、キシレン等の有機溶媒や熱により溶解あるいは軟化させ、可塑性を有する状態とし、その状態で樹脂に水素吸蔵金属又は金属合金を練り込むことにより樹脂中に水素吸蔵金属又は金属合金を均一に含ませることができる。例えば、有機溶媒にMgH2等の水素吸蔵金属又は金属合金を入れ、そこにポリスチレンやポリエチレン等の樹脂を添加し、溶解させ、溶解樹脂中に水素吸蔵金属又は金属合金が懸濁した状態とし、次いで有機溶媒を蒸発させることにより、水素吸蔵金属又は金属合金を含んだ樹脂を製造することができる。このようにして水素吸蔵金属又は金属合金を含む樹脂は任意の形状に加工することができる。例えば、粒子状、顆粒状、シート状、フィルム状に加工することができる。
【0047】
水素吸蔵金属又は金属合金を含む樹脂を水又は水溶液に入れるか、あるいは湿度が高い環境下に置くことにより、水が樹脂を透過浸入し水素吸蔵金属又は金属合金と接触し、水素が放出される。この際、Mg等の金属又は金属合金は樹脂中に保持されており、金属又は金属合金が樹脂から放出されることはない。この際、樹脂の水透過性及び樹脂に含ませる水素吸蔵金属又は金属合金の量を変動させることにより、樹脂からの水素放出期間を調節することができる。例えば、本発明の水素吸蔵金属又は金属合金を含む樹脂は1日以上、好ましくは3日以上、さらに好ましくは1週間以上、特に好ましくは2週間以上にわたって水素を放出し得る。
【0048】
水素吸蔵金属又は金属合金は高温、例えば270℃以上で水素を放出し得るが、常温常圧化で湿度が低くコントロールされた状態では、水素を放出することはない。また、樹脂は水を透過しにくいので、水素吸蔵金属又は金属合金を常温常圧で保存した場合、1年以上、好ましくは3年以上、さらに好ましくは5年以上、特に好ましくは10年以上は水素が放出されてなくなることはない。
【0049】
また、コップ等の容器に水を入れ、発明の水素吸蔵金属又は金属合金を含む樹脂を入れ水素を発生させて水素含有水を製造することができる。
【0050】
水素原子を吸蔵し保持している物質を有効成分として含む組成物は水素を発生させ、水素ガス又は水素水の状態にしてから、被験体に投与すればよい。
【0051】
本発明の水素分子を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物は軽度認知障害又は認知症を発症していると診断された被験体に投与し、あるいは摂取させてもよいし、軽度認知障害又は認知症になるリスクがある被験体又はアルツハイマー型認知症になるリスクがある被験体に投与し、あるいは摂取させてもよい。
【0052】
軽度認知障害又は認知症になるリスクがある被験体又はアルツハイマー型認知症になるリスクがある被験体としては、ApoEε4対立遺伝子保有者(ApoEε4遺伝子多型保有者)が挙げられる。
【0053】
本発明の水素分子を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物により、軽度認知障害又は認知症を治療することができ、又は軽度認知障害又は認知症になるのを予防し、若しくは軽度認知障害又は認知症の進行を遅らせることができる。
【0054】
特に、軽度認知障害の被験体が認知症へ進行するのを予防することができる。
【0055】
本発明の水素分子を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物が効果があったか否かは、認知機能を評価するための方法であるADAS-cog(Alzheimer's Disease Assessment Scale-cognitive subscale)(Rosen WG, Mohs RC, Davis KL (1984) A new rating scale for Alzheimer's disease. Am J Psychiatry 141, 1356-1364.)に基づいて評価すればよい。ADAS-cogは、単語再生、口頭言語能力、言語の聴覚的理解、自発話における喚語困難、口頭命令に従う、手指及び物品呼称、構成行為、観念運動、見当識、単語再認、テスト教示の再生能力の項目より評価し、点数化する。得点の範囲は0〜70点(正常→重度)である。
【0056】
例えば、軽度認知障害又は認知症と診断された被験体に本発明の水素分子を有効成分として含む軽度認知障害又は認知症の予防又は治療用組成物を投与するか、あるいは摂取させた場合、ADAS-cogの合計スコア又は単語再生能力スコアは、1点以上、好ましくは2点以上改善(低下)する。
【0057】
また、本発明の水素を有効成分として含む、組成物は空間作業記憶等の作業記憶(ワーキングメモリー)の低下を抑制することができる。
【0058】
さらに、本発明の水素を有効成分として含む組成物は、認知機能改善のために用いることができる。
【実施例】
【0059】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0060】
[実施例1] 水素水による認知機能の改善
利根プロジェクト(茨城県利根町の65歳以上の在住人を対象とし、認知症前駆状態、うつ状態の疫学調査を行うプロジェクト。気分状態、認知機能、身体機能などを評価し、認知症の危険因子を明らかにし、認知機能低下の防御可能性を検討し、認知症予防の可能性を検討することを目的としている。文献:Miyamoto M, Kodama C, Kinoshita T, Yamashita F, Hidaka S, Mizukami K, Kakuma T, Asada T (2009) Dementia and mild cognitive impairment among non-responders to a community survey. J Clin Neurosci 16, 270-276., Bun S, Ikejima C, Kida J, Yoshimura A, Lebowitz AJ, Kakuma T, Asada T (2015) A combination of supplements may reduce the risk of Alzheimer's disease in elderly Japanese with normal cognition. J Alzheimers Dis 45, 15-25.)において軽度認知障害と診断された73人を無作為に2群に分類した。35人には、一日500mLの水素水(1.2ppm)を38人には一日500mLのプラセボ水を与えた。プラセボ水は、水素を溶解する以前の水を用い、パッケージも水素水と同じくし、水素水とプラセボ水の区別がつかないようにして、二重盲検とした。飲まなかった水は回収し、一日平均の飲んだ量を推定した。その結果、水素水もプラセボ水も飲んだ量の一日平均は、300mLであった。
【0061】
AopEε4遺伝子多型は、対象者の血液からDNAを抽出しPCRにて増幅して既存の方法で判定した。AopEε4遺伝子多型は、水素水群では7名、プラセボ群では6名であった。
【0062】
認知機能は、Alzheimer's Disease Assessment Scale (ADAS-cog)の既存の方法(Rosen WG, Mohs RC, Davis KL (1984) A new rating scale for Alzheimer's disease. Am J Psychiatry 141, 1356-1364.)に基づいて判定した。単語再生、口頭言語能力、言語の聴覚的理解、自発話における喚語困難、口頭命令に従う、手指・物品呼称、構成行為、観念運動、見当識、単語再認、テスト教示の再生能力を既存の方法にしたがって、点数化した。この方法は、点数が高くなると悪化を意味する。
【0063】
1年間水素水またはプラセボ水を飲ませて、その前後のADAS-cogの前後の変化を表1に記す。さらに、t検定(Student t-test)の統計的解析で、統計的有意差を解析して、p値を求め、一般的に認められたp<0.05を統計的に有意な変化とした。
【表1】
【0064】
全体では、プラセボ群では平均1.06点改善したのに水素水群では平均2.04点改善し、水素水による改善効果がより大きい傾向があった。ApoEε4遺伝子多型非保有者群では、プラセボ群では平均1.32点改善したのに対し、水素水群では平均1.87点改善し、水素水群では、水素水による改善効果がより大きい傾向があった。
【0065】
ApoEε4遺伝子多型保有者では、単語再生(Word reproduction)とADAS-cogの全体集計値の1年後の差では、単語再生能力は、プラセボ群では、0.1点の改善であったが、水素水群では1.3点の改善を認めた。ADAS-cogでは、プラセボ群では0.29点の改善であったが、水素水では2.72点の改善を認めた。これらは、統計的に有意な変化であり、それぞれp=0.039とp=0.04であった。
【0066】
図1に、ApoEε4遺伝子多型保有者の一人一人の単語再生能力スコア及びADAS-cogの合計スコアの変化を示す。図に示すようにApoEε4遺伝子多型保有者のすべてにおいて、水素水を摂取した場合に、単語再生能力スコア及びADAS-cogの合計スコアが低下し、単語再生能力もトータルでみた認知機能も向上していることがわかった。
【0067】
図2に、ApoEε4遺伝子多型保有者及び非保有者における単語再生能力スコア及びADAS-cogの合計スコアの1年間の変化を95%(上の頂点)、75%(上のバー)、平均値(真ん中のバー)、25%(下のバー)、5%(下の頂点)にて示した。
【0068】
いずれも、ApoEε4遺伝子多型保有者への水素水の効果は明らかであった。
【0069】
[実施例2] APOE欠損マウスにおける空間作業記憶(ワーキングメモリー)
人間では、ApoE遺伝子には対立遺伝子がありApoE4が、動脈硬化やアルツハイマー型認知症のリスクになることが知られている。一方、マウスでは、APOE遺伝子の欠損が同様に認知症や動脈硬化のモデル動物として知られている(それぞれ、Ohsawa I. et al., J Neurosci. 2008;28:6239-6249、Ohsawa I. et al., Biochem Biophys Res Commun. 2008;377:1195-1198)。マウスの認知症モデルを用いて空間作業記憶(ワーキングメモリー)の測定を行った。さらに、分子状水素(H2)の摂取法として、水素水のみならず、水素ガス、および水素発生素材においても効果があるかどうか、マウスを用いて調べた。
【0070】
対象マウス
野生型はBALB/cCrSlc、APOE遺伝子欠損マウスとして、BALB/c.KOR/StmSlc-ApoeShlを用いた。このマウス系統は、自然発症ApoE欠損マウスである(http://www.jslc.co.jp/inform/shl_basic_data.pdf#search=%27C.KOR%2FStmSlcApoe+shl%27)。
【0071】
各々のグループのマウスは8週齢の6匹ずつに対し、分子状水素を投与し、10月齢時に、空間作業記憶を測定した。
【0072】
空間作業記憶(ワーキングメモリー)の測定
認知機能の程度は、Y迷路試験によって行った(Conrad CD. et al., Brain Res. 1997;759:76-83)。原理は以下の通りである。Y字型の3つのアームの中央に動物を置くと、しばらくしてから探索行動を行う。正常な動物は、いったん探索したアームに戻ることはあまりせず、迷路の外に見え目印を頼りに異なるアームを次々に探索していく。しかし、空間認知・記憶が弱くなったモデル動物では、同じところに何度も入ったり、1つ前に入ったアームに再度はいったりしてしまう。Y迷路試験では、動物が一定の時間に間にどのような順番でアームに入ったかどうかを計測し、3回連続した順番を見ていき、すべて異なるアームへ進入した数の割合(交替反応=percent alternation)を求め、空間認知・記憶の指標とする。
【0073】
分子状水素の投与法
(1)水素水の自由摂取
飽和水素水をガラス容器にいれボールベアリング2個をいれた飲み口から自由摂取させた。飲み口にボールベアリングを2個いれた飲み口からは、水素が容易に抜け出ないようになっている。対象として、水素を溶解する前の原水を同じ容器にいれ、自由摂取させた。水素水と対象水は、週に5回新鮮な水と交換した。
(2)MgH2含有食餌の自由摂取
MgH2は、水と反応すると水素を発生する(MgH2+2H2O→2H2+Mg(OH)2)。MF粉末飼料(オリエンタル酵母製)1 kgあたり0.1gのMgH2を含む粉末飼料を作製し、自由摂取させた。これは、100%MgH2として維持され、100%マウス体内で水素が発生すると仮定すると、水素水の10倍にあたる水素が摂取できる計算に基づく。対象飼料は、1 kgMF粉末飼料あたり0.22gのMg(OH)2を含む飼料とした。飼料は、週に5回新鮮な飼料と交換した。
(3)水素ガスの吸入
マウスを2%水素ガス、98%空気のチャンバーにいれ、週に5回、1時間放置することによって、水素ガスを1時間吸入させた。対象は、空気をいれたチャンバーに週に5回1時間いれた。
【0074】
解析結果
週齢8週間から水素又は対象物を摂取させ250日後(10月齢時)にY迷路により空間作業記憶(ワーキングメモリー)を調べた(図4)。APOE遺伝子欠損マウスでは、野生型マウスに比べ、空間作業記憶が低下していた。
【0075】
水素を摂取したAPOE遺伝子欠損マウスでは、水素水飲用、MgH2摂取、水素ガス吸入の方法によらず、いずれの方法でも、空間作業記憶の低下の程度が軽減しており、水素が空間作業記憶低下の抑制に効果があることが示された。
【0076】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の水素分子を有効成分として含む組成物は、軽度認知障害の予防又は治療に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 ガス吸引用手段
2 水素ガスを含む容器
3 酸素ガス、不活性ガス、空気及び麻酔ガスからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含む容器
4 配管
図1
図2
図3
図4