特許第6704058号(P6704058)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704058プロテアーゼ阻害剤の長時間作用性医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704058
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】プロテアーゼ阻害剤の長時間作用性医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/63 20060101AFI20200525BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20200525BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20200525BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A61K31/63
   A61K9/10
   A61K47/22
   A61K47/10
   A61K47/26
   A61K47/24
   A61P31/18
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-544210(P2018-544210)
(86)(22)【出願日】2016年5月31日
(65)【公表番号】特表2019-510002(P2019-510002A)
(43)【公表日】2019年4月11日
(86)【国際出願番号】US2016035029
(87)【国際公開番号】WO2017209732
(87)【国際公開日】20171207
【審査請求日】2018年8月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】518293413
【氏名又は名称】タイメド・バイオロジクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TaiMed Biologics Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ・ニエンユエン・チャン
(72)【発明者】
【氏名】リアン・シャン−ファ
(72)【発明者】
【氏名】チェン・メン−シン
(72)【発明者】
【氏名】クオ・クエイ−リン
(72)【発明者】
【氏名】リ・アン−チー
【審査官】 藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0287316(US,A1)
【文献】 国際公開第1998/057648(WO,A1)
【文献】 特表2009−541271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
A61K 31/63
A61K 9/10
A61K 47/10
A61K 47/22
A61K 47/24
A61K 47/26
A61P 31/18
・DB
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/
BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(IIB):
で示されるリジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩、表面改質剤および薬学的に許容される担体の懸濁液を含む、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染を治療または予防するための長時間作用性医薬組成物であって、当該リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩が、500nm未満の平均有効粒径を有する医薬組成物。
【請求項2】
リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩の平均有効粒径が300nm未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩の平均有効粒径が200nm未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩の平均有効粒径が100nm〜200nmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
表面改質剤が、ポロキサマー、α-トコフェリルポリエチレングリコールスクシネート、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびリン脂質からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
表面改質剤が、ポロキサマー188、ポロキサマー407、d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(単純に、TPGSまたはビタミンE TPGS)、Tween80およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリ(エチレングリコール)(DSPE-PEG)からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
筋肉内または皮下注射による投与のために用いられる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
HIV感染の長期間治療または予防用の医薬組成物であって、それを必要とする対象に、その治療有効量を、筋肉内または皮下注射によって、1週間に1回〜1ヶ月に1回投与するための、請求項1〜7のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【請求項9】
懸濁液の用量が、対象の体重1kgあたり5〜65mgである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
1週間に1回〜1ヶ月に1回の筋肉内または皮下注射によるHIV感染の治療または予防のための医薬の製造のための、下式(IIB);
で表されるリジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩、表面改質剤、および薬学的に許容される担体の懸濁液の使用であって、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩が、500nm未満の平均有効粒径を有する使用。
【請求項11】
懸濁液が、請求項2〜7のいずれか1つに記載の懸濁液である、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIV治療における新しいアプローチを開発するために有利に使用される、HIVアスパルチルプロテアーゼの活性の阻害において長期作用を提供するプロテアーゼ阻害剤の新規医薬組成物に関する。本発明はまた、一般に、HIVを治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、CD4受容体を保有する免疫系の特殊化細胞の感染を介して後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こす。HIVレトロウイルスは、これらの細胞、特にいわゆるヘルパーT細胞中で増殖し、その過程でそれらを死滅させる。身体は、Tヘルパー細胞をある程度まで再生成する能力を有するが、何年もにわたるHIVによる連続的な細胞破壊と免疫システムによる反撃の後、最終的にはウイルスが戦いの勝者として出現する。Tヘルパー細胞の進行性破壊は、免疫系の弱化をもたらし、これは、次に日和見病原体への扉を開く。これが起こると、HIVに感染した人々は臨床症状を示すようになる。未確認のまま放置されると、HIV感染は、数年のうちに死をもたらす。
【0003】
感染細胞で増殖するためには、HIVは、ウイルス粒子内に運ばれる3つの主要な酵素を必要とする。したがって、これらの3つの酵素、逆転写酵素、プロテアーゼおよびインテグラーゼは、抗ウイルス療法の理想的な標的である。これらのうち、逆転写酵素は、製薬産業によって標的とされた最初の酵素であった。ウイルスプロテアーゼの阻害剤は、ごく最近開発され、エイズ治療薬としての使用は1996年に始まったばかりである。逆転写酵素およびプロテアーゼ阻害剤の開発は、HIV感染患者の生存期間および生活の質を著しく改善したが、それらの使用は、貧血、神経毒性、骨髄抑制および脂肪異栄養症などの望ましくない副作用を引き起こす。現在入手可能な抗プロテアーゼ剤の大部分は、血液脳関門を通過する能力が限られた大きな分子である。
【0004】
HIV感染を治療し、耐性ウイルス株と戦うために、これらの欠点のないいくつかの新規化合物が開発されている。WO02/064551号の下に公開されたPCT国際特許出願 PCT/CA02/00190(Stranixら)は、アミノ酸誘導体に基づくプロテアーゼ阻害剤を開示した。より詳細には、この特許出願は、アスパルチルプロテアーゼ阻害特性を有するN-アミノ酸置換L-リジン誘導体(および類似体)を含む。このような特性を有するいくつかの代替化合物も提供された。たとえば、米国特許第6,632,816号B1は、アスパルチルプロテアーゼ阻害特性を有する新規クラスの芳香族誘導体、およびHIV感染の治療におけるそれらの生物学的適用を開示した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、長時間作用性抗レトロウイルス薬が、慢性HIV感染の治療のために開発中である。長時間作用性の医薬品は、抗HIV治療の生涯に直面しているHIV患者にとって魅力的な選択肢を提供する可能性がある。これらの薬剤は、より便利で潜在的に患者の順守を改善するという利点を有する。しかしながら、以前の研究のいずれも、HIV感染を治療するためのプロテアーゼ阻害剤の良好な長時間作用性医薬組成物を提供していない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概略
本発明は、HIV感染の治療または予防のための新規なアプローチを提供する。本発明のさまざまな実施態様では、プロテアーゼインヒビターの新規な長時間作用性医薬組成物および長時間作用性医薬組成物によるHIV感染を治療するための方法が提供される。
【0007】
1つの態様では、本発明は、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩、表面改質剤、および薬学的に許容される担体の懸濁液を含む医薬組成物を提供する;ここで、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩は、約500nm未満の平均有効粒径を有する。
【0008】
本発明のいくつかの好ましい実施態様では、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩の平均有効粒径は、好ましくは約300nm未満、より好ましくは約200nm未満、最も好ましくは約100nm〜約200nmである。
【0009】
1つの態様では、本発明は、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩、表面改質剤、および薬学的に許容される担体の懸濁液を含む、筋肉内または皮下注射による投与のための医薬組成物を提供する;ここで、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩は、約500nm未満の平均有効粒径を有する。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、HIV感染を長期間治療または予防する方法を提供する。該方法は、それを必要とする対象に、本発明の医薬組成物の治療有効量を筋肉内または皮下注射によって、1週間に1回〜1ヶ月に1回投与することを含む。
【0011】
1つ以上の実施態様では、懸濁液の用量は、対象の体重1kgあたり約5〜約65mgである。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、1週間に1回〜1ヶ月に1回の筋肉内または皮下注射によるHIV感染の治療または予防のための医薬の製造のための、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩、表面改質剤、および薬学的に許容される担体の懸濁液の使用を提供する;ここで、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩は、約500nm未満の平均有効粒径を有する。
【0013】
1つ以上の実施態様では、医薬は、1ヶ月に1回投与される。
【0014】
本発明の上記の概要ならびに以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことにより、よりよく理解されるであろう。本発明を例示する目的のために、図面には現在好ましい実施態様が示されている。しかしながら、本発明は、該実施態様に限定されないことが理解されるべきである。
図面では:
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】TMB-657を経口投与したヒトにおけるTMB-607のPKプロファイルを示す。
図2】TMB-607を、それぞれマイクロ粒子(2470nm)およびナノ懸濁液(240nm)の形態で投与したラットにおけるTMB-607のPKプロファイルを示す。
図3】TMB-607を、それぞれ皮下(SC)および筋肉内(IM)注射した後のビーグル犬におけるTMB-607の血漿レベルを示す。
図4】異なる粒径(240nmおよび113nm)のナノ懸濁液の形態でTMB-607を投与したサルにおけるTMB-607の血漿レベルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な記載
本発明は、筋肉内または皮下注射による投与のための長時間作用性医薬組成物によるHIV感染を予防または治療するための新しいアプローチを初めて示した。
【0017】
したがって、本発明は、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩、表面改質剤および薬学的に許容される担体の懸濁液を含む、HIV感染を治療または予防するための長時間作用性医薬組成物を提供する;ここで、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩は、約500nm未満、好ましくは約300nm未満、より好ましくは約200nm未満、最も好ましくは約100nm〜約200nmの平均有効粒径を有する。
【0018】
リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤
Ambrilia Biopharma Inc.は、米国特許第6,632,816号(全体を参照することにより本願に組み込まれる)に記載されているように、HIV-1プロテアーゼ阻害剤の活性を有するリジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤を開発している。
【0019】
米国特許第6,632,816号に開示されるように、該化合物は、式(I):
【化1】
[式中、
nは、3または4であり、
XおよびYは、同一もしくは異なって、H、1〜6個の炭素原子の直鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子の分枝鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子のシクロアルキル基、F、Cl、Br、I、-CF3、-OCF3、-CN、-NO2、-NR4R5、-NHCOR4、-OR4、-SR4、-COOR4、-COR4、and -CH2OHからなる群から選択されるか、またはXおよびYは、一緒になって、式:-OCH2O-のメチレンジオキシ基および式:-OCH2CH2O-のエチレンジオキシ基からなる群から選択されるアルキレンジオキシ基を規定し、
R1は、1〜6個の炭素原子の直鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子の分枝鎖アルキル基、そのシクロアルキル部分において3〜6個の炭素原子およびそのアルキル部分において1〜3個の炭素原子を有するシクロアルキル基からなる群から選択され、
R2は、H、1〜6個の炭素原子の直鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子の分枝鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子のシクロアルキル基、および式:R2A-CO-の基(ここで、R2Aは、1〜6個の炭素原子の直鎖もしくは分枝鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子を有するシクロアルキル基、そのシクロアルキル部分において3〜6個の炭素原子およびそのアルキル部分において1〜3個の炭素原子を有するシクロアルキルアルキル基、1〜6個の炭素原子のアルキルオキシ基、テトラヒドロ-3-フラニルオキシ、-CH2OH、-CF3、-CH2CF3、-CH2CH2CF3、ピロリジニル、ピペリジニル、4-モルホリニル、CH3O2C-、CH3O2CCH2-、Acetyl-OCH2CH2-、HO2CCH2-、3-ヒドロキシフェニル、4-ヒドロキシフェニル、4-CH3OC6H4CH2-、CH3NH-、(CH3)2N-、(CH3CH2)2N-、(CH3CH2CH2)2N-、HOCH2CH2NH-、CH3OCH2O-、CH3OCH2CH2O-、C6H5CH2O-、2-ピロリル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル-、2-ピラジニル、2-キノリル、3-キノリル、4-キノリル、1-イソキノリル、3-イソキノリル、2-キノキサリニル、
式:
【化2】
のフェニル基、
【化3】
からなる群から選択されるピコリル基、
【化4】
からなる群から選択されるピコリルオキシ基、
【化5】
からなる群から選択される置換ピリジル基、
【化6】
からなる群から選択される基、
(ここで、X’およびY’は、同一もしくは異なって、H、1〜6個の炭素原子の直鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子の分枝鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子のシクロアルキル基、F、Cl、Br、I、-CF3、-NO2、-NR4R5、-NHCOR4、-OR4、-SR4、-COOR4、-COR4 およびCH2OHからなる群から選択される(ここで、R4およびR5は、同一もしくは異なって、H、1〜6個の炭素原子の直鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子の分枝鎖アルキル基、3〜6個の炭素原子のシクロアルキル基からなる群から選択される))からなる群から選択され、
R3は、
式(IV):
【化7】
のジフェニルメチル基、
式(V):
【化8】
のナフチル-1-CH2-基、
式(VI):
【化9】
のナフチル-2-CH2-基、
式(VII):
【化10】
のビフェニルメチル基、および
式(VIII):
【化11】
のアントリル-9-CH2-基からなる群から選択される]
で示される構造を有し、式(I)で示される化合物が、アミノ基を含む場合、その医薬的に許容されるアンモニウム塩が包含される。
【0020】
米国特許第6,632,816号に記載されるように、該化合物の1つの特定の態様は、式(IIa):
【化12】
の化合物である。
【0021】
式(IIa)の化合物のうち、式(IIb):
IIb
【化13】
の構造を有する、PL-100と呼ばれる化合物(以下、TMB-607と称する)が、HIV-1プロテアーゼの阻害において効果的かつ選択的であり、良好な交差耐性プロファイルを有することが確認された。
【0022】
抗ウイルス研究では、TMB-607がHIV-1プロテアーゼを阻害するのに有効かつ選択的であることが確認された。63個のPI耐性株に対する交差耐性試験において、TMB-607が、認可されたプロテアーゼ阻害剤(PI)のいずれよりも低いレベルの感受性の低下を示すことも確認され、経験豊富な患者の治療における既存のPI耐性ウイルスに対する良好な活性の可能性を示している。実験室適応ウイルスに対するTMB-607の濃度をインビトロで増加させることにより、48週間の耐性選択試験を行った。プロテアーゼのオープンリーディングフレームにおける4つの突然変異が選択された。部位特異的突然変異誘発研究は、単一突然変異がインビトロでTMB-607に有意な耐性をもたらさなかったことを示す。
【0023】
しかしながら、TMB-607は溶解性が乏しく、ヒトの医薬品には適さない。したがって、改善された溶解度および薬物動態学的特性を有するTMB-657(元PPL-100と称された)と呼ばれるそのリン酸化プロドラッグが開発された。
【0024】
本発明では、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩、特にTMB-607の新規な医薬組成物が、HIV感染の治療または予防に長時間作用する効果を提供するために開発され、該医薬組成物は、1週間に1回投与することができ、1ヶ月に1回の投与でさえも可能である。
【0025】
医薬組成物
「薬学的に有効な量」という用語は、患者におけるHIV感染の治療に有効な量を示す。本明細書において、「薬学的に有効な量」とは、用量で、または任意の用量で、または経路で、または単独で、または他の治療剤と組み合わせて所望の治療効果を与える量として解釈され得る。本発明の場合、「薬学的に有効な量」は、HIV(HIV-1およびHIV-2、ならびに関連するウイルス(たとえば、HTLV-IおよびHTLV-II、ならびにサル免疫不全ウイルス))感染サイクルにおける阻害効果(たとえば、複製、再感染、成熟、出芽などの阻害)、およびライフサイクルに対してアスパルチルプロテアーゼに依存する任意の生物における阻害効果を有する量として理解され得る。
【0026】
さらに、本発明は、L-リジンまたはL-リジン誘導体(ならびにそのより低い同族体(すなわち、オルニチン))に由来する式I、式IIaおよびIIbの新規化合物を使用して、HIVアスパルチルプロテアーなどのアスパルチルプロテアーゼを阻害する医薬組成物を提供することによって、HIV感染からの保護を提供する。
【0027】
用語「HIVプロテアーゼ」および「HIVアスパルチルプロテアーゼ」は交換可能に使用され、ヒト免疫不全ウイルス1型または2型によってコードされるアスパルチルプロテアーゼを示す。本発明の好ましい実施態様では、これらの用語は、ヒト免疫不全ウイルス1型アスパルチルプロテアーゼを示す。
【0028】
用語「治療有効量」は、対象または患者におけるHIV感染を治療または予防するのに有効な量を示す。
【0029】
「薬学的に許容される担体」という用語は、本発明の化合物と共に患者に投与することができ、その薬理学的活性を破壊しない非毒性担体またはアジュバントを示す。
【0030】
本発明の化合物は、式Iの化合物(ならびに式II、IIa、IIbおよびIIcの化合物)の薬学的に許容される誘導体および適用可能な薬学的に許容されるその塩を含む。
【0031】
本明細書で使用される「薬学的に許容される誘導体」という用語は、本発明の化合物またはレシピエントへの投与の際に、本発明の化合物または抗ウイルス活性のある代謝産物またはその残基を(直接的または間接的に)提供することができる任意の他の化合物の薬学的に許容される塩、エステル、このようなエステルの塩を示す。
【0032】
本発明によれば、本発明の化合物の薬学的に許容される塩には、薬学的に許容される無機および有機の酸および塩基に由来するものが含まれる。このような酸塩の例として、以下が挙げられる:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸水素塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフチルスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過塩素酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、およびウンデカン酸塩。
【0033】
炭素原子の数に関しては、1〜6個の炭素原子の範囲の記載は、本明細書において、あらゆる個々の炭素原子の数、ならびにたとえば1個の炭素原子、3個の炭素原子、4〜6個の炭素原子などの副次的な範囲を組み込むものとして理解されるべきである。
【0034】
本発明によれば、長時間作用性医薬組成物は、適切な粒径のリジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩を、適切な表面改質剤、および1つ以上の適切な薬学的に許容される担体と混合することによって、任意の一般に使用される公知の方法によって調製されうる。
【0035】
本発明では、表面改質剤は、ポロキサマー、α-トコフェリルポリエチレングリコールスクシネート、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびリン脂質からなる群から選択される。好ましくは、表面改質剤は、表1に示す実施例によって支持されている、ポロキサマー188、ポロキサマー407、d-α-トコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩(単純に、TPGSまたはビタミンE TPGS)、Tween80およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ポリ(エチレングリコール)(DSPE-PEG)からなる群から選択される。
【0036】
治療と予防の方法
本発明によれば、本明細書に開示される長時間作用性医薬組成物は、対象におけるHIV感染の治療および/または予防ならびにHIV伝染の予防のために使用される。
【0037】
HIV感染の「治療」という用語は、発症を遅らせる、進行を遅くする、ウイルス負荷を低減する、および/またはHIV感染によって引き起こされる症状を改善するような、HIV感染の効果的な阻害を指す。
【0038】
HIV感染の「予防」という用語は、HIV感染の発症が遅れ、および/またはHIV感染の発生率または可能性が低減または排除されることを意味する。
【0039】
HIV伝染の「予防」という用語は、HIVが、ある個人から別の人に伝染する発生率または可能性(たとえば、妊娠、陣痛もしくは分娩、または母乳育児中に、HIV陽性女性から子供へ;またはHIV陽性対象からHIV陰性のパートナーへ)が軽減または排除されることを意味する。
【0040】
「対象」または「患者」という用語は、ヒトおよび非ヒト対象(たとえば、アカゲザル対象)を含む任意の霊長類対象を示す。
【0041】
HIV感染を治療および/または予防するために、本明細書に開示される医薬組成物の治療量を、必要とされる対象に投与する。
【0042】
用語「治療有効量」は、HIV感染を治療および/または予防するためにHIV感染の阻害を達成するために必要な用量を意味する。抗体の投与量は、疾患状態および、たとえば、対象の体重および状態、治療に対する対象の応答などの他の臨床的要因に依存する。治療的に有効であり、有害でない正確な用量は、当業者によって決定されうる。本発明の1つの実施態様では、成人への筋肉内または皮下投与のための長時間作用性医薬組成物の適切な用量は、1週間に1回、または1ヶ月に1回、約5〜約65mg/対象の体重kgの範囲である。
【0043】
本発明の医薬組成物の長時間作用効果
本発明によれば、実施例では、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤の一例であるTMB-607、表面改質剤および薬学的に許容される担体の懸濁液は、長時間作用効果を提供することが確認されており、ここで、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩は、約500nm未満の平均有効粒径を有する。実施例3に示されるように、皮下投与によるナノ懸濁液(247nm)の形態のTMB-607で処置されたグループのTMB-607の血漿レベルは、微小粒子(2470nm)の形態のTMB-607で処理されたグループと比較して、14日間以上持続した(図2参照)。これは、ナノサイズのTMB-607が、タンパク質結合調節EC50を上回る血漿レベルを14日間延長し得るが、TMB-607微粒子はそうではなかったことを示していた。
【0044】
また、実施例4において、ナノ懸濁液の形態のTMB-607の単回筋肉内または皮下注射で処置された後の動物は、TMB-607の血漿レベルが延長されたことが確認された(図3参照)。さらに、実施例5において、214nmおよび113nmの粒径の両方が血漿レベルを延長することができ、TMB-607(113nm)のより小さいサイズはより高い血漿レベルおよびより長い有効期間を有したことが実証された。
【実施例】
【0045】
実施例1
TMB-607のナノ懸濁液の調製
湿式ボールミル処理によってナノ懸濁液を調製するために、TMB-607を1:1〜7:1の薬物対ポリマー比(D/P比、w/w)を有する水性ポリマー溶液に添加した。次いで、懸濁液混合物を粉砕室中の0.1〜3mmのZrO2粉砕ビーズで部分的に充填したDelta Vita 15-300(DV-15、Netzsch Premier Technologies、USA-Exton、PA)に注いだ。懸濁液混合物をさまざまな速度で、平均粒径がサブミクロン範囲に達するまで約6時間〜7日間粉砕した。湿式ボールミル処理が完了した時点で、ナノ化された懸濁液混合物の薬物濃度をWFIによって調整した。濃度調整後、懸濁液混合物の浸透圧を300mOsm/kgに調整するために等張化剤を添加した。注射用懸濁液DPのためのTMB-607の最終濃度は、20mg/ml〜400mg/mlの範囲であった。動的光散乱装置(Zetasizer Nano S、Malvern)によって分析されたさまざまな配合物の粒径は、約100nm〜500nmであった。得られたTMB-607のナノ懸濁液の処方を以下の表1にまとめた。
表1:TMB-607のナノ懸濁液の組成、濃度および粒径
【表1】
【0046】
実施例2
経口剤形TMB-657の薬物動態試験
経口製剤TMB-657のヒト初回投与の単回用量漸増試験を、300、600および1200mgの用量で行った。6人の対象が、TMB-657の単回投与を受けた。TMB-607の臨床薬物動態プロファイルが、そのタンパク質結合調節抗ウイルス活性(EC50=23ng/ml)に関連して、TMB-657の単回用量漸増患者において得られた。図1に示されるように、経口TMB-657単回投与は、TMB-607血漿レベルを効果レベル(タンパク質結合EC50、23ng/ml)以上に24時間維持することができた。[Kazmierski、Antiviral drugs:from basic discovery through clinical trials、Chapter 2 Page 19、John Wiley & Sons、Inc、2011.]
【0047】
実施例3
微粒子およびナノ懸濁液の形態でのTMB-607の薬物動態学的研究
この研究は、ナノ化TMB-607の注射可能な製剤が、長期間(1ヶ月以上)安定した血漿レベルをもたらすことを実証した。ラットの研究では、微粒子(2470nm)およびナノ(240nm)懸濁液の形態のTMB-607を、それぞれ16.7および23.5mg/kgの用量で皮下投与した。結果は、図2に示されるが、ナノサイズのTMB-607は、14日間、タンパク質結合調節EC50よりも血漿レベルを延長し得るが、TMB-607微粒子は、血漿レベルを延長し得ないことが示された。さらに、劇的な高Cmaxは、初期時間に微小粒子の形態のTMB-607で処置されたグループで観察され、人体に重大な副作用を引き起こすであろう。対照的に、ナノ懸濁液の形態のTMB-607は、研究期間中に持続放出プロファイルを示した。
【0048】
実施例4
筋肉内と皮下注射との比較
ナノ懸濁液の単回筋肉内または皮下注射後のTMB-607の薬物動態を比較するために、イヌの研究を行った。各処置グループは、60mg/kgの用量における3匹の雄のビーグル犬から構成された。この研究に用いられた粒径は、約150nmであり、TMB-607の血漿レベルは、6週間モニターされた。図3に示されるように、2つの投与経路(皮下および筋肉内投与)により60mg/kgのTMB-607で処置されたイヌ間で、AUC0-t値には有意差は認められなかったが、筋肉内投与経路のCmax値は、皮下投与経路のCmax値よりも高かった。

【0049】
実施例5
異なる粒径のナノ懸濁液を投与されたサルにおけるTMB-607の血漿レベル
サルの薬物動態学的研究において、214nmおよび113nmの異なる粒径のTMB-607のナノ懸濁液を、それぞれ、サルに注射した。各処置グループは、60mg/kgの用量における3匹のサルから構成された。図5は、4週間モニターされたTMB-607の血漿レベルを示す。60mg/kgでの異なる粒径のTMB-607の投与を比較すると、TMB-607ナノ懸濁液の粒径が減少すると同時に、AUC0-tおよびt1/2の両方が一般に増加した。結果は図4に示され、TMB-607粒子のより小さいサイズは、より高い血漿レベルおよびより長い有効期間を有することが示される。
【0050】
結論
本発明は、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩、表面改質剤、および薬学的に許容される担体の懸濁液を提供する;ここで、リジンベースのアスパルチルプロテアーゼ阻害剤またはその塩は、約500nm未満の平均有効粒径を有し、HIV感染の治療または予防のための長時間作用性医薬組成物に発展されうる。
図1
図2
図3
図4