特許第6704074号(P6704074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6704074-ウイルス様粒子の精製方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704074
(24)【登録日】2020年5月13日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ウイルス様粒子の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/02 20060101AFI20200525BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20200525BHJP
   C07K 14/08 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C12N7/02ZNA
   C07K1/16
   C07K14/08
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-17987(P2019-17987)
(22)【出願日】2019年2月4日
(62)【分割の表示】特願2013-146240(P2013-146240)の分割
【原出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2019-110904(P2019-110904A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】513178850
【氏名又は名称】株式会社UMNファーマ
(73)【特許権者】
【識別番号】513092361
【氏名又は名称】ヴェシカリ ティモ
(73)【特許権者】
【識別番号】513092372
【氏名又は名称】ブラジェヴィッチ ヴェスナ
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 聖裕
(72)【発明者】
【氏名】向井 明子
(72)【発明者】
【氏名】西野 智則
(72)【発明者】
【氏名】有信 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 衛
【審査官】 松浦 安紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−530734(JP,A)
【文献】 特表2003−520188(JP,A)
【文献】 特表2000−501418(JP,A)
【文献】 特表2007−532477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00−7/08
C07K 1/00−1/36
C07K 14/00−14/825
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノロウイルスのウイルス様粒子を含む溶液を、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー用担体と接触させ、前記ウイルス様粒子を前記担体に結合させ、その後、バッファで前記担体を洗浄し、次いで、リン酸塩を含むバッファで前記担体から前記ウイルス様粒子を溶出させることにより、前記ウイルス様粒子を精製する方法であって、前記溶出に用いたバッファのリン酸塩濃度が10mM未満であり、かつ前記溶出に用いたバッファのpHが7.0〜8.0であることを特徴とするノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
【請求項2】
溶出に用いたバッファのリン酸塩濃度が3〜7mMであることを特徴とする請求項1に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
【請求項3】
洗浄に用いたバッファがリン酸塩を含むバッファであり、そのリン酸塩濃度が10mM未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
【請求項4】
洗浄に用いたバッファのリン酸塩濃度が3〜7mMであることを特徴とする請求項3に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
【請求項5】
ノロウイルスのウイルス様粒子を含む溶液が、ノロウイルスの核酸配列を発現する微生物又は細胞の培養上清であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
【請求項6】
ノロウイルスのウイルス様粒子を含む溶液が、ノロウイルスの核酸配列を発現する昆虫細胞の培養上清であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
【請求項7】
ノロウイルスの核酸配列が、構造タンパク質VP1をコードする核酸配列であることを特徴とする請求項5又は6に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノロウイルスのウイルス様粒子を精製する方法に関するものであり、より詳細には、低濃度のリン酸バッファを用いて、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーによりノロウイルスのウイルス様粒子を精製する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、ヒトに対して嘔吐、下痢などの急性胃腸炎を引き起こすウイルスであり、カキなどの摂食による食中毒の原因になるほか、ヒトの糞便や吐瀉物などを介して経口的に感染する。
【0003】
ノロウイルスゲノムの構造タンパク質領域をバキュロウイルスベクターに組み込み、昆虫細胞で発現させると、ウイルス様粒子(VLP)と呼ばれるウイルス粒子と類似した粒子が形成されることが知られている。VLPはウイルス粒子と外観上類似しているが内部にはウイルスゲノムを持たず、感染性を示さない。
【0004】
最近、このVLPを抗原としたノロウイルスワクチンが開発され、特許出願も行われている(特表2010-505766号公報、特表2011-530295号公報)。このようなノロウイルスワクチンの製造には、培養物からVLPを精製することが必要である。ノロウイルスのVLPの精製方法としては、特許文献1に開示されている方法が知られている。
【0005】
特許文献1には、多段階クロマトグラフィープロセスを用いてノロウイルスのVLPを精製する方法が開示されており(例えば、請求項1)、そのクロマトグラフィーの一例としてハイドロキシアパタイトを用いたクロマトグラフィーが挙げられている(例えば、請求項37)。また、特許文献1には、10〜1000mMという高濃度のリン酸塩を含むバッファを使用することが記載されており(例えば、請求項59)、特に、ハイドロキシアパタイト支持体に結合したVLPを選択的に溶出させるため、100〜200mMの高濃度のリン酸塩を含むバッファが必要であることが記載されている(段落[0107])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010-530734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
VLPを抗原としたノロウイルスワクチンの製造には、高純度のVLPが必要である。本発明は、このような技術的背景の下、ノロウイルスのVLPの新規な精製手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、特許文献1に記載されているような高濃度のリン酸バッファでVLPの溶出を行うと夾雑タンパク質が混入することを見出し、また、このような問題は特許文献1に記載されているリン酸バッファよりもはるかに低い濃度のリン酸バッファを使用することにより解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供するものである。
(1)ノロウイルスのウイルス様粒子を含む溶液を、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー用担体と接触させ、前記ウイルス様粒子を前記担体に結合させ、その後、バッファで前記担体を洗浄し、次いで、リン酸塩を含むバッファで前記担体から前記ウイルス様粒子を溶出させることにより、前記ウイルス様粒子を精製する方法であって、前記溶出に用いたバッファのリン酸塩濃度が10mM未満であることを特徴とするノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
(2)溶出に用いたバッファのリン酸塩濃度が3〜7mMであることを特徴とする(1)に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
(3)洗浄に用いたバッファがリン酸塩を含むバッファであり、そのリン酸塩濃度が10mM未満であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
(4)洗浄に用いたバッファのリン酸塩濃度が3〜7mMであることを特徴とする(3)に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
(5)ノロウイルスのウイルス様粒子を含む溶液が、ノロウイルスの核酸配列を発現する微生物又は細胞の培養上清であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
(6)ノロウイルスのウイルス様粒子を含む溶液が、ノロウイルスの核酸配列を発現する昆虫細胞の培養上清であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
(7)ノロウイルスの核酸配列が、構造タンパク質VP1をコードする核酸配列であることを特徴とする(5)又は(6)に記載のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の精製方法により、高純度のノロウイルスVLPを得ることが可能になるので、VLPを抗原としたノロウイルスワクチンを効率的に生産できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各精製段階のサンプルの電気泳動の結果を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明のノロウイルスのウイルス様粒子の精製方法は、ノロウイルスのウイルス様粒子を含む溶液を、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー用担体と接触させ、前記ウイルス様粒子を前記担体に結合させ、その後、バッファで前記担体を洗浄し、次いで、リン酸塩を含むバッファで前記担体から前記ウイルス様粒子を溶出させることにより、前記ウイルス様粒子を精製する方法であって、前記溶出に用いたバッファのリン酸塩濃度が10mM未満であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明においてノロウイルスとは、カリシウイルス科ノロウイルス属に属するウイルスを意味する。現在、ノロウイルス属に属するウイルスは、ノーウォークウイルス(Norwalk virus)だけであるが、今後、この属に属するウイルスが新たに見つかれば、そのウイルスも本発明における「ノロウイルス」に含まれる。
【0015】
本発明においてウイルス様粒子とは、ウイルスの外殻のみ持ち、内部にはウイルスゲノムを持たない中空の粒子をいう。
【0016】
溶出に用いるバッファ(溶出用バッファ)のリン酸塩濃度は10mM未満であればよいが、3mM〜7mMであることが好ましく、4mM〜6mMであることが更に好ましい。溶出用バッファは、リン酸塩以外の物質、例えば、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウムなどを含んでいてもよい。塩化ナトリウムを含む場合、その濃度は、100〜200mMであることが好ましく、120〜180mMであることが更に好ましく、140〜160mMであることが特に好ましい。溶出用バッファのpHは、7.0〜8.0であることが好ましく、7.2〜7.8であることが更に好ましく、7.4〜7.6であることが特に好ましい。
【0017】
上記の溶出用バッファ以外、本発明の精製方法は、公知の方法(例えば、特表2010-530734号公報記載の方法など)に従って行うことができる。
【0018】
ノロウイルスのウイルス様粒子を含む溶液としては、例えば、ノロウイルスの核酸配列を発現する微生物又は細胞の培養上清を用いることができる。このような培養上清は、例えば、以下のように調製することができる。まず、市販のベクターにノロウイルスのVP1をコードする核酸配列を組み込み、この組換えベクターを宿主(細胞又は微生物)に導入し、前記核酸配列を発現させる。次いで、宿主細胞等を一定期間培養し、必要に応じて細胞を破砕し、得られる培養物に対して遠心分離等を行うことにより、培養上清を得ることができる。
【0019】
ノロウイルスの核酸配列は、ノロウイルスのVP1をコードする核酸配列のほかにVP2をコードする核酸配列を発現させてもよい。ノロウイルスの各ウイルス株のVP1やVP2のアミノ酸配列やそれをコードする核酸配列は、GenBankなどのデータベース上で公表されている。例えば、ノーウォークウイルス株についてはM87661、サウザンプトンウイルス株についてはL07418、デザートシールドウイルス株についてはU04469、チバウイルス株についてはAB042808、ハワイウイルス株についてはU07611、スノーマウンテンウイルス株についてはU70059、メリーランドウイルス株についてはAY032605、セトウイルス株についてはAB031013、キャンバーウェル株についてはAF145896、ローズデールイルス株についてはX86557、グリムズビーウイルス株についてはAJ004864、メキシコウイルス株についてはU22498、ヒューストンウイルス株についてはAY502023、パリスアイランド株についてはAY652979などの番号で配列が登録されている。
【0020】
ベクター及びそれを導入する宿主(細胞又は微生物)はどのようなものでもよいが、バキュロウイルスベクター及び昆虫細胞を用いるのが好ましい。バキュロウイルスベクターとしては、例えば、pFastBacベクター(Invitrogen)、BD BaculoGold (BD Biosciences)などを用いることができ、昆虫細胞としては、例えば、Sf9細胞、HighFive細胞などを用いることができる。
【0021】
バキュロウイルスベクターを導入した昆虫細胞の培養期間は、通常、3日程度であるが(例えば、国際公開WO96/37624)、本発明においては、昆虫細胞の生存率が10%以下になるまで培養すること(例えば、5日間以上培養すること)が好ましい。このように昆虫細胞の生存率が低下するまで培養することにより、細胞の死滅により細胞の内容物が培養液中に放出されるので、細胞を破砕する処理が不要になるという利点がある。また、細胞の死滅により流出するタンパク質分解酵素が昆虫細胞由来のタンパク質を分解し、ノロウイルス由来のタンパク質の純度が向上するという利点もある。
【0022】
使用するハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー用担体は特に限定されず、市販のもの、例えば、セラミックハイドロアパタイト Type I 担体(BioRad)、セラミックハイドロアパタイト Type II 担体(BioRad)、フルオロアパタイト担体(BioRad)を使用することができる。
【0023】
ウイルス様粒子を含む溶液と担体との接触は、担体をカラムに充填し、そのカラムにウイルス様粒子を含む溶液を通せばよい。
【0024】
担体の洗浄は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、4〜8CV(カラム体積)程度のバッファを100〜200mL/min程度の流速で、担体を充填したカラムに流すことにより行うことができる。洗浄は、2種類以上のバッファを用いて、2回以上行ってもよい。
【0025】
洗浄に用いるバッファ(洗浄用バッファ)はウイルス様粒子を溶出させず、夾雑物を除去できるものであればどのようなものでもよく、例えば、MESバッファなどでもよいが、溶出用バッファと同様に、リン酸塩を含み、その濃度が10mM未満であるバッファが好ましい。
【0026】
洗浄用バッファのリン酸塩濃度は10mM未満であればよいが、3〜7mMであることが好ましく、4mM〜6mMであることが更に好ましい。溶出用バッファは、リン酸塩以外の物質、例えば、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウムなどを含んでいてもよい。塩化ナトリウムを含む場合、その濃度は、1〜100mMであることが好ましく、20〜80mMであることが更に好ましく、40〜60mMであることが特に好ましい。また、洗浄を2回行う場合は、塩化ナトリウムを含むバッファで洗浄する前に塩化ナトリウムを含まないバッファで洗浄することが好ましい。洗浄用バッファのpHは、6.0〜7.0であることが好ましく、6.2〜6.8であることが更に好ましく、6.4〜6.6であることが特に好ましい。
【0027】
上記精製方法によって得られる溶出画分に対して、疎水性相互作用クロマグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、限外濾過などの精製を行うことにより、より純度の高いVLPを得ることができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)実験方法
1 機器及び試薬
本実施例で使用した機器、試薬等を下表に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
2 バッファ
2.1 CHT平衡化バッファ(CHT EQW) ; 5 mM リン酸バッファ, pH6.5
NaH2PO4・2H2O 3.12 gとNa2HPO4・12H2O 1.90 gとMilliQ (登録商標)5.0 kgを室温で5分間混合した。バッファのpHを測定し、pHが6.5であることを確認した。得られたバッファは、2-8℃で保管した。
【0031】
2.2 CHT洗浄バッファ(CHT WS) ; 50 mM NaCl, 5 mM リン酸バッファ, pH6.5
NaH2PO4・2H2O 2.73 gとNa2HPO4・12H2O 2.69 gとNaCl 14.61 gとMilliQ (登録商標)4.9 kgを室温で5分間混合した。バッファのpHを測定し、pHが6.5であることを確認した。得られたバッファは、2-8℃で保管した。
【0032】
2.3 CHT 溶出バッファ (CHT ELU) ; 150 mM NaCl, 5 mM リン酸バッファ, pH7.5
NaH2PO4・2H2O 0.59 gとNa2HPO4・12H2O 7.62 gと NaCl 43.8 gとMilliQ(登録商標) 4.9 kgを室温で5分間混合した。バッファのpHを測定し、pHが7.5であることを確認した。得られたバッファは、2-8℃で保管した。
【0033】
2.4 CHT ポスト洗浄バッファ (CHT POST WS) ; 250m M NaCl, 200 mM リン酸バッファ, pH6.7
NaH2PO4・2H2O 24.96 gとNa2HPO4・12H2O 85.95 gと NaCl 29.2 gとMilliQ(登録商標)2 kgを室温で5分間混合した。バッファのpHを測定し、pHが6.7であることを確認した。得られたバッファは、2-8℃で保管した。
【0034】
2.5 CHT 再生バッファ 1 (CHT REG1) ; 500 mM リン酸ナトリウムバッファ(中性)
NaH2PO4・2H2O 156 gとNa2HPO4・12H2O 537.5 gとMilliQ(登録商標) 4.3 kgを室温で5分間混合した。バッファのpHを測定し、pHが中性(例えば、pH6.7)であることを確認した。得られたバッファは、室温で保管した。
【0035】
2.6 CHT 再生バッファ 2 (CHT REG2) ; 1M NaCl, 6 M 尿素含有5 mM リン酸バッファ(中性)
尿素1802 gとNaH2PO4・2H2O 3.9 gとNa2HPO4・12H2O 8.95 gとNaCl 292.5 gとMilliQ(登録商標) 2.9 kgを室温で5分間混合した。バッファのpHを測定し、pHが中性(例えば、pH7.0)であることを確認した。得られたバッファは、室温で保管した。
【0036】
2.7 1N NaOH溶液
400 gのNaOH溶液とMilliQ(登録商標) 9.8 kgを室温で5分間混合した。得られた溶液は、室温で保管した。
【0037】
2.8 0.1 N NaOH溶液
40 gのNaOH溶液とMilliQ(登録商標) 10.0 kg を室温で5分間混合した。得られた溶液は、室温で保管した。
【0038】
3 方法
3.1 組換えバキュロウイルスの作製
GII-4に分類されるノロウイルスのウイルス株(タンペレ大学の入院患者から採取)のVP1(アミノ酸配列を配列番号1に示す。)をコードするcDNAをトランスファープラスミドpFastBac(Invitrogen)に組み込んだ。次にcDNAを組み込んだトランスファープラスミドを、バキュロウイルスゲノムDNAを保持する大腸菌であるDH10Bac(Invitrogen)に導入し、相同組換えによってノロウイルスVP1をコードするcDNAをバキュロウイルスゲノムDNAに組み込んだ。大腸菌からバキュロウイルスゲノムDNAを抽出精製し、昆虫細胞(expresSF+細胞、Protein Sciences)に導入して培養した。この培養上清から組換えバキュロウイルスを得た。
【0039】
3.2 GII-4 VP1発現のための培養
組換えバキュロウイルを昆虫細胞(expresSF+細胞)(1x106/mL)にMOI=1となるように加えた。その後、生存率が10%以下になるまで、5-6日間細胞の培養を行った。
【0040】
3.3 回収と精製
GII-4 VP1発現培養液(Lot. F1274)を連続式遠心分離機(MN1, KOKUSAN)にかけ(遠心力:5,000 x g、流速:約4 mL/sec)、上清を回収した。上清の濁度はおよそ80 NTUであった。回収した上清を流速約200 mL/min以上で濾過し、CHTカラムにかけた。
【0041】
3.4 カラムの調製
CHT Type I 樹脂 700 mL (1 mL (カラム体積) = 0.6 g (乾燥重量))をカラムBPG100/500 (GE) (Φ10 cm x bed height 8.9 cm)に0.1 N NaOH溶液を用いて充填し、0.1 N NaOH溶液で保管した。
【0042】
3.5 カラムクロマトグラフィー
3.5.1 予洗
3 CVのMilliQ(登録商標)を流速150 cm/h (196 mL/min)でカラム上にロードした。
【0043】
3.5.2 平衡化
5 CVの平衡化バッファ(CHT EQW ; 5mM リン酸バッファ (pH 6.5))を流速150 cm/h (196 mL/min)でカラム上にロードした。
【0044】
3.5.3 サンプルのロード
約14Lの濾過した培養液の上清を、流速115 cm/h (150 mL/min)で、平衡化したCHTカラム上にロードした。
【0045】
3.5.4 洗浄 1
6CVの平衡化バッファ(CHT EQW ; CHT EQW ; 5mM リン酸バッファ (pH 6.5))を流速160cm/h (122 mL/min)で流し、カラムを洗浄した。
【0046】
3.5.5 洗浄 2
6CVの平衡化バッファ(CHT WS ; 50 mM NaCl, 5 mM リン酸バッファ (pH6.5))を流速130cm/h (170 mL/min)で流し、カラムを洗浄した。
【0047】
3.5.6 溶出
溶出バッファ(CHT ELU ; 150 mM NaCl, 5 mM リン酸バッファ (pH7.5))を流速115 cm/h (150 mL/min)で流し、GII-4 VP1をカラムから溶出させた。
【0048】
3.5.7 ポスト洗浄
6CVのポスト洗浄バッファ(CHT POST WS ; 250m M NaCl, 200 mM リン酸バッファ (pH6.7))を流速115cm/h (150 mL/min)で流し、カラムを洗浄した。
【0049】
3.5.8 再生 1
6 CVの再生バッファ 1 (CHT REG1 ; 500 mM リン酸ナトリウムバッファ)を流速115 cm/h (150 mL/min)で流し、カラムを洗浄した。
【0050】
3.5.9 再生 2
3CVの再生バッファ 2 (CHT REG2 ; 1M NaCl, 6 M 尿素含有5 mM リン酸バッファ)を流速115 cm/h (150 mL/min)で流し、カラムを洗浄した。
【0051】
3.5.10 衛生化
カラムを1 N NaOH溶液で1時間衛生化した。2CVの1 N NaOH溶液を流速115 cm/h (150 mL/min)でカラムにアプライし、次いで、1CVの1 N NaOH溶液を流速31 cm/h (40 mL/min)でカラムにアプライした。
【0052】
3.5.11 保存
3CVの0.1 N NaOH溶液を流速115 cm/h (150 mL/min)で流し、カラムを洗浄し、その後保存した。
【0053】
3.6 フィルター濾過
溶出画分を0.45 + 0.2 μm フィルター(Sartopore 2 150, Sartorius)を用いて濾過した。
【0054】
3.7 電気泳動
各サンプル80μLに5×DB(300mmol/L Tris-HCl pH6.8, 50% glycerol, 10% SDS, 0.5% BromoPhenolBlue, 500mmol/L DTT)20μLを混合して95℃で5分間加熱した後、SDS-PAGEゲル各レーンに10μLアプライし、200V, 35分間電気泳動した。泳動後のゲルを固定液(25% Methanol, 10% 酢酸, 10% Trichrolo acetic acid(TCA))に浸して5分間振盪し、その後CBB染色液(0.1% CBB, 7.7mmol/L Ethanol, 1.75mmol/L Acetic acid)に浸して1時間振盪して染色した後、脱色液(10% 酢酸)で一晩脱色した。ゲル画像はスキャナを用いて取得した。分子量マーカーはSeeBlue prestained standard (Invitrogen)を使用した。
【0055】
(2)実験結果
各精製段階のサンプルの電気泳動の結果を図1に示す。各レーンの記号の意味は、以下の通りである。
AS (Applied Sample):精製前のカラムにロードするサンプル。
FT (Flow Through):カラムを素通りしたサンプル。カラム容積の24倍量(24CV)のASをロードし、約4倍量毎に少量サンプリングしたものがFT1からFT7である。FTを全量集めてプールしたものがFT poolである。
WS1, WS2 (Wash1, Wash2):洗浄1、洗浄2でカラムから溶出したサンプルを分取したもの。
ELU (Elution):カラムに吸着したGII-4 VP1を溶出させた画分。
Post WS (post wash):溶出後にカラム洗浄を実施した際にカラムから溶出したサンプル。
ELU1-1 whole:そのままのGII-4 VP1溶出画分。
ELU1-1 filtration:GII-4 VP1溶出画分に対してフィルターろ過を行った後のサンプル。
【0056】
図に示すように、培養液サンプル(AS)24CV分のGII-4 VP1が回収され、また、培地や宿主細胞由来の夾雑物の大部分は、ポスト洗浄工程で溶出され、GII-4 VP1溶出画分と分離できた。この結果は、上記の方法が有効なGII-4 VLPの精製方法であることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、ノロウイルスワクチンの生産に有用な技術なので、製薬などの産業分野において利用可能である。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]