特許第6704210号(P6704210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704210歯科インプラント用アバットメントベース群
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704210
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】歯科インプラント用アバットメントベース群
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   A61C8/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-183165(P2015-183165)
(22)【出願日】2015年9月16日
(65)【公開番号】特開2017-55982(P2017-55982A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】松井 則裕
(72)【発明者】
【氏名】日浦 拓也
【審査官】 寺川 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−515960(JP,A)
【文献】 特開2009−247740(JP,A)
【文献】 特開2001−054525(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0196290(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0173864(US,A1)
【文献】 特表2002−528169(JP,A)
【文献】 特開2014−155610(JP,A)
【文献】 特表2011−511687(JP,A)
【文献】 特開2010−187884(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0196852(US,A1)
【文献】 特表2012−517861(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102006018726(DE,A1)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側アバットメント(9)を装着し、他端では任意の人工歯根(11)上に装着される複数形状の歯科インプラント用アバットメントベース(1)からなるアバットメントベース群であって、
前記アバットメントベース(1)が、前記人工歯根(11)に装着される部位である嵌合部(2)、前記嵌合部(2)から滑らかに広がる歯肉縁下部(3)、前記歯肉縁下部(3)の他端に、長軸を中心とした円形であるマージンライン(4)、前記マージンライン(4)の上部に繋がり外側アバットメント(9)が装着される円筒形状のベース部(5)、前記ベース部(5)には外側アバットメント(9)の装着される方向を限定するための一つ以上の回転防止機構(6)及び、アバットメントベース(1)を人工歯根(11)に装着するための固定具が挿入されるアクセスホール(7)を有し、
前記マージンライン(4)の直径をマージンライン直径(A)、前記マージンライン(4)からベース部(5)の天面までの高さをベース部高さ(B)、前記嵌合部(2)からマージンライン(4)までの高さを歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部の肉厚をベース部厚さ(D)とすると、
-前記マージンライン直径(A)は、3〜10mmの範囲であり、かつ0.25〜2.0mmの間隔で択でき、
-前記ベース部高さ(B)は、2〜10mmの範囲であり、かつ0.25〜2.0mmの間隔で択でき、
-前記歯肉縁下部高さ(C)は、0.1〜10mmの範囲であり、かつ0.25〜2.0mmの間隔で択でき、
-前記ベース部厚さ(D)は、0.2〜1.0mmの範囲であり、かつ0.05〜0.5mmの間隔で択でき、当該アバットメントベースは下記(式1)および(式2)
(式1)嵌合部(2)直径 > マージンライン直径(A)
(式2)ベース部(5)直径 > マージンライン直径(A)
に該当する形状を含まないことを特徴とするアバットメントベース群。
【請求項2】
請求項1に記載のアバットメントベース群から、前記マージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部厚さ(D)の値を定することによりアバットメントベース形状を選択することを特徴とするアバットメントベース選択方法。
【請求項3】
請求項1に記載のアバットメントベース群から、前記マージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部厚さ(D)の値を定することにより選択されることを特徴とするアバットメントベース。
【請求項4】
請求項1記載のアバットメントベース群であって、
アバットメントベース群に含まれる前記アバットメントベースは目印(8)を有しており、
前記目印(8)は、ベース部(5)に一定の配列で付与されたアバットメントベース長軸に対する周方向の凹凸形状またはマーキングであり、この配列はマージンライン(4)から1.0〜3.0mm離れた位置を基準とし、そこから0.5〜2.0mmの間隔で並ぶことを特徴とするアバットメントベース群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側アバットメントを装着し、他端では人工歯根上に装着される複数形状の歯科インプラント用アバットメントベースからなるアバットメントベース群に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラント治療は、歯をウ蝕や歯周病、または外傷などによって全顎または部分的に喪失した際の治療手段として、広く普及している歯科治療の一つである。
【0003】
歯科用インプラントは、人工歯根・アバットメント・歯科補綴装置の3つの基本要素から構成される。人工歯根(フィクスチャーまたはインプラントとも称する)は、歯を喪失した部分の顎骨(歯槽骨)に埋入して当該歯槽骨に結合する。アバットメントは、前記人工歯根に挿入または接触して固定され、口腔内側で歯科補綴装置(上部構造体とも称する)を保持する支台として機能する。歯科補綴装置は前記アバットメントに装着され、歯牙形状を模擬した形態をしており、審美性・機能性の回復を担う。
【0004】
前記人工歯根は、強度と生体親和性に優れるチタンなどの金属材料で作製されることが多い。また、人工歯根と直接的に接触・固定されるアバットメントも、強度や親和性から同質のチタンなど金属材料で作製されることが多い。歯科用インプラントの普及に伴い審美性への要求が高まっているが、アバットメントが金属材料である場合、歯科補綴装置のみでの審美性回復には限界があった。
【0005】
そこで審美性の向上を目指し、アバットメントの中には、特許文献1に記載のように審美性と強度の両立を求め、歯科補綴装置の支台となる部分(特許文献1では、「外側アバットメント」と記載されている。)と、人工歯根と接合し外側アバットメントの台座となる部分(特許文献1では、「インレー」と記載されている。本明細書中では、「アバットメントベース」と称する。)の二つの部品から構成・接合される形態が存在する。本形態は外側アバットメント部分を歯科用セラミックス材料などの審美性に優れる材料で、アバットメントベースをチタンなどの強度と生体親和性に優れる金属材料で作製し、この二つを歯科用接着材などで接合したアバットメント(本明細書中では、2パーツアバットメントと称する。)とすることで、口腔内側に金属部分が露呈することなく強度を有するアバットメント形状を作製することが可能となる。
【0006】
この2パーツアバットメントを口腔内で使用する場合は、外側アバットメントの上部を被覆する形で歯科補綴装置が装着される。つまり、人工歯根から口腔内側に向けて、アバットメントベース、外側アバットメント、歯科補綴装置の順に構成要素が配置される。
【0007】
しかし、このアバットメントベースは画一された形状であり、術者が任意に形状を選択することが出来なかった。そのため2パーツアバットメントで患者個々の適応部位の形状を再現する場合、外側アバットメントの形状変更のみで対応する必要がある。これにより、極端に外側アバットメントが細長くなったり、薄くなったりして、破折するなどの問題があった。また、外側アバットメントとアバットメントベースの接着形状・接着面積は一定であるため、咬合圧の大きい症例へ適応した場合、外側アバットメントが脱離するなど、2パーツアバットメントの適応範囲は狭かった。
【0008】
例えば、2パーツアバットメントを歯槽骨の吸収が生じている前歯部に適応しようとした場合、外側アバットメントが極端に細長くなるため、破折やチッピングの恐れがあった。また、2パーツアバットメントを臼歯部のように、外側アバットメントが長軸に対して幅広な形状となる部位に適応する場合、咬合圧が負荷された際にアバットメントベース部を中心とした回転モーメントが大きくなり、アバットメントベースとの接着を維持できなくなり外側アバットメントが脱離する恐れがあった。つまり、2パーツアバットメントでは、アバットメントベースの形状も、患者個々の適応部位の形状を再現するために適宜形状が変更できることが求められていた。
【0009】
また、単一構成のアバットメントや外側アバットメントにおいては、患者個々の適応部位の形状を再現するため、特許文献2−3に記載のようにCAD/CAM等のデジタル技術を用いてアバットメントの大きさや角度などの形状を個々に調整して設計する手法が開示されている。さらなる簡便さを求めて特許文献4ではデジタル技術を使用せずにアバットメントを設計する手法も開示されている。また、特許文献5では、患者個々で理想的な形態を要求されるアバットメント形状の範囲も開示されているようにアバットメント形状の設計方法やアバットメント形状の範囲は広く知られているが、2パーツアバットメントの構成要素の一つであるアバットメントベースに関する設計方法や形状範囲は明示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5343093号公報
【特許文献2】特開2002-224142号公報
【特許文献3】特開2009-101135号公報
【特許文献4】特開2014-155610号公報
【特許文献5】特表2010-519995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
アバットメントベースは画一された形状であり、術者が任意に形状を選択することが出来なった。そのため2パーツアバットメントを作製する場合、外側アバットメントの形状のみを変更することで、患者個々の適応部位の形状を再現する必要がある。これにより、極端に外側アバットメントが細長くなったり、薄くなったりして、破折するなどの問題があった。また、外側アバットメントとアバットメントベースの接着形状・接着面積は一定であるため、咬合圧の大きい症例へ適応した場合、外側アバットメントが脱離するなど、2パーツアバットメントの適応範囲は狭かった。つまり、2パーツアバットメントでは、アバットメントベースの形状も、患者個々の適応部位の形状を再現するために適宜形状が変更できることが求められていた。
【0012】
そこで本発明は、費用・手間・時間をかけずに患者個々の適応部位の形状に応じた歯科インプラント用アバットメントベースを簡易に提供できるようにするため、幅広い患者個々の適応部位の形状を再現できる上限値・下限値の範囲設定と、その範囲内における適切な間隔を有するマージンライン直径、ベース部高さ、歯肉縁下部高さ、およびベース部厚さの値の組合せから構成されるアバットメントベース群を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、本発明について説明する。ここでは分かりやすさのため、図面に付した参照番号を括弧書きで併せて記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】
本発明は、外側アバットメント(9)を装着し、他端では任意の人工歯根(11)上に装着される複数形状の歯科インプラント用アバットメントベース(1)からなるアバットメントベース群であって、前記アバットメントベース(1)が、前記人工歯根(11)に装着される部位である嵌合部(2)、前記嵌合部(2)から滑らかに広がる歯肉縁下部(3)、前記歯肉縁下部(3)の他端に、長軸を中心とした円形であるマージンライン(4)、前記マージンライン(4)の上部に繋がり外側アバットメント(9)が装着される円筒形状のベース部(5)、前記ベース部(5)には外側アバットメント(9)の装着される方向を限定するための一つ以上の回転防止機構(6)及び、アバットメントベース(1)を人工歯根(11)に装着するための固定具が挿入されるアクセスホール(7)を有し、前記マージンライン(4)の直径をマージンライン直径(A)、前記マージンライン(4)からベース部(5)の天面までの高さをベース部高さ(B)、前記嵌合部(2)からマージンライン(4)までの高さを歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部の肉厚をベース部厚さ(D)とし、この4つの値で択できるアバットメントベースを含むアバットメントベース群である。
【0015】
本発明のアバットメントベース群は、
マージンライン直径(A)は、3〜10mmの範囲であり、かつ0.25〜2.0mmの間隔で選択される。好ましくは0.5〜1.0mmの間隔、更に好ましくは0.5mmまたは1.0mmの間隔で選択される。
ベース部高さ(B)は、2〜10mmの範囲であり、かつ0.25〜2.0mmの間隔で選択される。好ましくは0.5〜1.0mmの間隔、更に好ましくは0.5mmまたは1.0mmの間隔で選択される。
歯肉縁下部高さ(C)は、0.1〜10mmの範囲であり、かつ0.25〜2.0mmの間隔で選択される。好ましくは0.5〜1.0mmの間隔、更に好ましくは0.5mmまたは1.0mmの間隔で選択される。
ベース部厚さ(D)は、0.2〜1.0mmの範囲であり、かつ0.05〜0.5mmの間隔で選択される。好ましくは0.1mmまたは0.2mmの間隔で選択される。
上記の範囲にすることで、幅広い患者個々の適応部位の形状を再現できるようになり、かつ上記の間隔で選択できるようにすることで簡易にアバットメントベース群から必要なアバットメントベースを選択できることが可能になる。
【0016】
本発明は、前記アバットメントベース群から、前記マージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部厚さ(D)の値を実質的に決定することによりアバットメントベース形状を選択することを特徴とするアバットメントベースの選択方法である。
4つの値のみでアバットメントベース形状を選択可能な方法であるため、その選択された形状を簡易に伝達することが可能となる。情報量の膨大になる図面や三次元データが不要となり、FAXや電子メールなどの一般的な情報伝達手法を用いての形状選択が可能となる。
【0017】
本発明のアバットメントベース群は、前記マージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部厚さ(D)とは異なる部位の値の選択からも構成・決定することが可能である。つまり、前記4つの値と異なる部位の値であっても、前記4つの値を算出することが可能な場合、前記マージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部厚さ(D)とは異なる部位の値からアバットメントベースを選択することが可能である。
【0018】
本発明のアバットメントベース群に含まれる前記アバットメントベースは、目印(8)を有している。前記目印(8)は、ベース部(5)に一定の配列で付与されたアバットメントベース長軸に対して周方向の凹凸形状またはマーキングであり、この配列はマージンライン(4)から1.0〜3.0mm離れた位置を基準とし、そこから0.5〜2.0mmの間隔で並ぶことを特徴とする。
目印(8)が凹凸形状の場合は、マシニングセンタなどの機械加工によって付与してもよく、マーキングの場合はレーザー印字などで付与しても良い。
【0019】
本発明のアバットメントベース群は、ベース部(5)に外側アバットメントの装着される方向を限定するための一つ以上の回転防止機構(6)を有しており、この回転防止機構としては支台部(5)に、アバットメントベース長軸方向に凹凸を設けたり、溝を設けたりすることが可能である。
【0020】
本発明のアバットメントベース群は、チタンやコバルトクロムといった生体親和性の高い金属材料や、ジルコニアなどのセラミックス材料、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの樹脂材料をはじめとする、公知の歯科材料から作製されたアバットメントベースを含む。
【0021】
本発明のアバットメントベース群のアバットメントベースには、ジルコニアなどのセラミックス材料、ハイブリッドセラミックスなどの樹脂材料をはじめとする公知の歯科材料から作製された外側アバットメントを装着することが出来る。
【0022】
本発明のアバットメントベース群のアバットメントベースからなる2パーツアバットメントには、ジルコニアなどのセラミックス材料、ハイブリッドセラミックスなどの樹脂材料をはじめとする公知の歯科材料から作製された歯冠形態を有する歯科補綴装置を装着することが出来る。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、幅広い患者個々の適応部位の形状に対応したアバットメントベース群を用意することで、費用・手間・時間をかけずに必要とするアバットメントベースを選択・使用することが可能になる。
また、選択される値の上限値・下限値の範囲およびその範囲内における間隔を適切に決定することで、簡易にアバットメントベース形状を選択することが可能になる。
アバットメントベース群のアバットメントベースには、回転防止機構を付与することにより外側アバットメントの挿入時に外側アバットメントが回転するのを抑制または防止し、正確な装着が可能となる。また、ベース部には目印を付与することで、ベース部高さを簡易に視認でき、ベース部高さの形態修整を行う際は作業性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の上記した作用および利得は、次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。ただし、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0025】
図1・2は、アバットメントベース群に含まれる一つの形態のアバットメントベースである。アバットメントベースは、嵌合部(2)、歯肉縁下部(3)、マージンライン(4)、ベース部(5)を有する。ベース部(5)には、外側アバットメント(9)の装着される方向を限定するための一つ以上の回転防止機構(6)が存在する。
【0026】
アバットメントベースの中心には、アバットメントベースを人工歯根(11)に装着するための固定具が挿入されるアクセスホール(7)を有しており、このアクセスホールに固定具を挿入・締結することで嵌合部(2)と人工歯根(11)が固定される。ここでは、公知の人工歯根や固定具を用いることができる。
嵌合部(2)・アクセスホール(7)・固定具の形状は、装着される任意の人工歯根(11)の形態によって決まる。
【0027】
口腔内での装着状態において、アバットメントベースの歯肉縁下部(3)は歯肉内に埋設され、歯肉と隣接する部位となる。マージンライン(4)は歯肉との境界線に位置し、ベース部(5)には外側アバットメント(9)が挿入され、歯科用の接着材等を用いて固定される。外側アバットメントは、歯科補綴装置が装着される支台部となる。歯科補綴装置は、例えば人工歯冠のように歯列の欠損部を実質的に補う部材であり、歯牙を模した形状を有しており、歯牙の形状及び質感が再現されている。このような外側アバットメント・歯科補綴装置や歯科用接着材には公知のものを用いることができる。
【0028】
図3は、アバットメントベース群に含まれるアバットメントベースは目印(8)を有していることを示している。前記目印(8)は、ベース部(5)に一定の配列で付与されたアバットメントベース長軸に対する周方向の凹凸形状またはマーキングであり、この配列はマージンライン(4)から1.0〜3.0mm離れた位置を基準とし、そこから0.5〜2.0mmの間隔で並ぶことを特徴とする。図2・3の例で示すように、目印(8)はマージンライン(4)から2.0mm離れた位置を基準とし、1.0mmの間隔で配列されることが好ましい。目印(8)が凹凸形状の場合は、マシニングセンタなどの機械加工によって付与してもよく、マーキングの場合はレーザー印字などで付与しても良い。
【0029】
この目印(8)を付与することで、簡易にアバットメントベースのベース部高さを視認することが出来るようになる。測定器具を用いずとも異なるベース部高さのアバットメントベースと識別可能となり、誤使用を回避できる。また、外側アバットメントを作製する段階でベース部高さが長すぎて、外側アバットメントの長軸方向厚さが不足すると判断された際は、この目印(8)を目印として、ベース部高さを削減することが出来る。
【0030】
以上のようなアバットメントベース(1)は後述する値の決定により簡易に選択することができる。
【0031】
図4は、アバットメントベース群に含まれる一つの形態のアバットメントベースの選択される寸法の位置関係を示している。マージンライン(4)の直径をマージンライン直径(A)、マージンライン(4)からベース部の天面までの高さをベース部高さ(B)、嵌合部(2)からマージンライン(4)までの高さを歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部の肉厚をベース部厚さ(D)とする。この4つの値が選択できるアバットメントベースを含むアバットメントベース群を用意することで、これらの値の選択によりアバットメントベースを簡易に選択することが出来ようになる。具体的には図4はマージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)、ベース部厚さ(D)をそれぞれ、6.0mm、6.5mm、2.0mm、0.4mmと決定することで選択されたアバットメントベースである。
【0032】
マージンライン直径(A)は、3〜10mmの範囲である。アバットメントベース形状のマージンライン直径(A)の値の範囲はこれまで開示されていない。関連する値として、特許文献5には人工歯根の最大直径は約3〜6mmの値とある。アバットメントベース形状では、人工歯根との嵌合部(2)からマージンライン(4)へと直径が拡大する形状が好ましいため、前記約3〜6mmの範囲よりも大きなマージンライン(4)を有する形状を選択できるようマージン直径(A)の範囲を決定した。これにより、公知の人工歯根上との組合せが成立し、アバットメントベースを任意に選択可能となる。
【0033】
マージンライン直径(A)は、上記範囲の中から0.25〜2.0mmの間隔で選択される。好ましくは0.5〜1.0mmの間隔、更に好ましくは0.5mmまたは1.0mmの間隔で選択される。この間隔は、0.25mm以下の間隔では間隔ごとの形状差異が小さくなりすぎ、2.0mm以上では選択可能な形状が少なくなりすぎることから設定した。更に0.5mmまたは1.0mmの間隔とすることで、一般的な定規などを用いて計測・認識することや、直感的に大きさを把握することが可能となる。また、上記の間隔で選択できるようにすることで、アバットメントベース群を構成するアバットメントベースの数が不必要に増大することを抑制し、簡易にアバットメントベース群からアバットメントベースを選択できることが可能になる。
【0034】
具体的には、小径の人工歯根を埋入し、隣在する天然歯または歯科補綴装置との距離が近い場合が多い前歯部への症例の範囲であれば、より細かな直径値の選択が必要となり0.5mm間隔が必要となる。一方、人工歯根が大きな径となり、隣在する天然歯または歯科補綴装置との距離が大きくなる臼歯部等の症例の範囲であればその間隔は1.0mmでも十分である。
【0035】
ベース部高さ(B)は、2〜10mmの範囲である。これは、アバットメント形状の範囲としては、アバットメント高さの範囲が1.5〜15mmが良いという値が特許文献5に開示されている。これを参考とし、この範囲を網羅できるアバットメントベース形状となるように後記歯肉縁下部高さ(C)との関係から設定した。例えば、ベース部高さ(B)を8.0mm、歯肉縁下部(C)を8.0mmとすると、アバットメントベース部の全高は16.0mmとなり、歯槽骨の吸収が生じている患者への適応に対しても対応することができるようになる。
【0036】
ベース部高さ(B)は、上記範囲の中から、0.25〜2.0mmの間隔で選択される。好ましくは0.5〜1.0mmの間隔、更に好ましくは0.5mmまたは1.0mmの間隔で設定される。この間隔は、0.25mm以下の間隔では間隔ごとの形状差異が小さくなりすぎ、2.0mm以上では選択可能な形状が少なくなりすぎることから設定した。更に0.5mmまたは1.0mmの間隔とすることで、一般的な定規などを用いて計測・認識することや、直感的に大きさを把握することが可能となる。また、上記の間隔で選択できるようにすることで、アバットメントベース群を構成するアバットメントベースの数が不必要に増大することを抑制し、簡易にアバットメントベース群からアバットメントベースを選択できることが可能になる。
【0037】
具体的には、外側アバットメントの高さが小さくなる臼歯部への症例の範囲では、より細かなアバットメント高さの選択が必要となり0.5mm間隔が必要となる。一方、外側アバットメントの高さが大きくなる前歯部への症例の範囲であればその間隔は1.0mmでも十分である。
【0038】
歯肉縁下部高さ(C)は、0.1〜10mmの範囲である。これは、アバットメント形状の範囲として、歯肉縁下部高さ(C)の範囲が0.5〜5mmが良いという値が特許文献5に開示されている。この値よりも歯肉縁下部高さのある形状を選択できる範囲とすることで歯肉退縮が生じて歯冠長の長い患者への適応に対してもアバットメントベース形状として対応することができるようになる。
【0039】
歯肉縁下部高さ(C)は、上記範囲の中から、0.25〜2.0mmの間隔で選択される。好ましくは0.5〜1.0mmの間隔、更に好ましくは0.5mmまたは1.0mmの間隔で設定される。この間隔は、0.25mm以下の間隔では間隔ごとの形状差異が小さくなりすぎ、2.0mm以上では選択可能な形状が少なくなりすぎることから設定した。更に0.5mmまたは1.0mmの間隔とすることで、一般的な定規などを用いて計測・認識することや、直感的に大きさを把握することが可能となる。また、上記の間隔で選択できるようにすることで、アバットメントベース群を構成するアバットメントベースの数が不必要に増大することを抑制し、簡易にアバットメントベース群からアバットメントベースを選択できることが可能になる。
【0040】
具体的には、人工歯根の埋入された位置から歯肉までの距離が短い症例の範囲の場合、歯肉縁下部高さの値は小さな値となり、より細かな歯肉縁下部高さの選択が必要となるため0.5mm間隔が必要となる。一方、歯肉退縮が生じている症例の範囲であれば歯肉縁下部高さの値は大きな値となりその間隔は1.0mmでも十分である。
【0041】
ベース部厚さ(D)は、0.2〜1.0mmの範囲である。これは、0.2mm以下となると薄すぎてベース部の強度が担保出来ないためである。また、1.0mm以上では、マージンライン直径(A)に対してベース部が太い形状となる。このような形状は、従来のアバットメント形状と差異がなく、審美性に優れるアバットメントベース形状としての要望を満たさないため範囲外とした。また、1.0mm以上を含むと後記(式2)のように、ベース部の直径がマージンライン直径(A)よりも大きくなることが増加し、アバットメントベースとして成立しない形状が増え、アバットメントベース群からの簡易な選択を阻害するため、この範囲に設定した。
【0042】
ベース部厚さ(D)は、上記範囲の中から、0.05〜0.5mmの間隔で選択される。好ましくは0.1mmまたは0.2mmの間隔で設定される。この間隔は、0.05mm以下の間隔では間隔ごとの形状差異が小さくなりすぎ、0.2mm以上では選択可能な形状が少なくなりすぎることから設定した。更に0.1mmまたは0.2mmの間隔とすることで、一般的なノギスなどを用いて計測・認識することが可能となる。また、上記の間隔で選択できるようにすることで、アバットメントベース群を構成するアバットメントベースの数が不必要に増大することを抑制し、簡易にアバットメントベース群からアバットメントベースを選択できることが可能になる。
【0043】
また、ベース部は円筒形状に近似できる。同じ孔径を有する円筒形状であれば、肉厚を増やすことで強度と表面積が増えることは公知の通りである。また、接着力は、接着表面積に比例することも公知の通りである。よって、ベース部厚さを選択することで審美性・強度・外側アバットメントとの接着強度を適応部位に応じて調整することが出来る。
【0044】
具体的には、より小径の人工歯根を埋入し、隣在する天然歯または歯科補綴装置との距離が近い場合が多い前歯部への症例の範囲であれば、より細かなベース部厚さの選択が必要となり0.1mm間隔が必要となる。また、審美性が要求される部位のため、ベース部厚さは0.4mmなどの値を選択し、ベース部が外側アバットメントの内側に遮蔽され目立たないような選択をする。
一方、人工歯根が大きな径となり、隣在する天然歯または歯科補綴装置との距離が大きくなる臼歯部等の症例の範囲であればその間隔は0.2mmでも十分である。また、アバットメントベース自体の強度と外側アバットメントとの接着強度が要求される部位のため、ベース部厚さは0.6mmなどの値を選択する。
【0045】
図5は、アバットメントベース群から4つの値を選択したアバットメントベースの実際の例を示す図である。図5(a)はマージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)、ベース部厚さ(D)をそれぞれ、4.0mm、5.0mm、0.5mm、0.4mmと決定することで選択されたアバットメントベース、図5(b)はマージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)、ベース部厚さをそれぞれ、7.0mm、5.0mm、3.0mm、0.6mmと決定することで選択されたアバットメントベース、図5(c)はマージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)、ベース部厚さ(D)をそれぞれ、5.0mm、8.0mm、8.0mm、0.6mmと決定することで選択されたアバットメントベースである。
【0046】
アバットメントベース群には、除外されるべきアバットメントベースの形態も存在する。下記の(式1)およびまたは(式2)に該当するようなアバットメントベース形状は含まない。
(式1)嵌合部(2)直径 > マージンライン直径(A)
(式2)ベース部(5)直径 > マージンライン直径(A)
【0047】
具体的には、嵌合部(2)の直径が6.0mmの時、マージンライン直径(A)が4.0mmとなるようなアバットメントベースは、アバットメントベース群には含まない。また、アクセスホール(7)の直径が3.0mm、ベース部厚さ(D)が1.0mmの時、ベース部(5)の直径は5.0mmとなるため、マージンライン直径(A)が4.0mmとなるようなアバットメントベースは、アバットメントベース群には含めない。
【0048】
本発明のアバットメントベース群は具体的には、嵌合部(2)の直径が3.0mmである時、
-マージンライン直径(A)を4.0〜8.0mmの範囲から、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0mmと選択し、
-ベース部高さ(B)を2〜10mmの範囲から、5.0、6.5、8.0mmと選択し、
-歯肉縁下高さ(C)を1〜8mmの範囲から、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、6.0、8.0mmと選択し
-ベース部厚さ(D)を0.2〜1.0mmの範囲から、0.4、0.6mmと選択した場合は、336形態のアバットメントベース形態を含むアバットメントベース群となる。
【0049】
本発明のアバットメントベース群は、前記マージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部厚さ(D)とは異なる部位の値の選択からも構成・決定することが可能である。つまり、前記4つの値と異なる部位の値であっても、前記4つの値を算出することが可能な場合、前記マージンライン直径(A)、ベース部高さ(B)、歯肉縁下部高さ(C)及び、ベース部厚さ(D)とは異なる部位の値からアバットメントベースを選択することが可能となる。
【0050】
具体的には、アバットメントベース全体の高さと歯肉縁下部高さ(C)の値を選択した場合、「アバットメントベース全体の高さ − 歯肉縁下部高さ(C)」の計算式で、ベース部高さ(B)の値を算出することが可能である。つまり、アバットメントベース全体の高さと歯肉縁下部高さ(C)の値の組合せからも、アバットメントベース形状が選択可能となる。また、ベース部の直径の値を選択した場合、「(ベース部の直径 − アクセスホールの直径)/ 2」の計算式でベース部厚さ(D)の値を算出することが可能であるため、ベース部直径の値の選択からも、アバットメントベース形状が選択可能となる。
【0051】
図6にアバットメントベース群から選択されたアバットメントベースを口腔内に適応した状態の模式図のある例を示す。ここでは、前歯部に埋入された人工歯根(11)にアバットメントベース(1)を適応する場合を想定している。アバットメントベース(1)の歯肉縁下部高さ(C)を高くした形状を選択すれば、アバットメントベース部に装着される外側アバットメント(9)が細長く・薄い形状になることを改善できる。これにより、外側アバットメントが破折やチッピングすることを回避することが出来る。
【0052】
2パーツアバットメント用のアバットメントベースではあるが、患者個々の適応部位の形状に応じた形状を選択できるため、外側アバットメントを装着することによる審美性の向上などを要求しない場合、従来のアバットメントと同様の使用も可能である。つまり、本発明のアバットメントベース群のアバットメントベースには、外側アバットメント(9)を装着せずに直接、歯科補綴装置(10)を装着する使用方法も可能である。
【0053】
図7にアバットメントベース群から選択されたアバットメントベースを口腔内に適応した状態の模式図の異なる例を示す。ここでは、前歯部に埋入された人工歯根(11)にアバットメントベース(1)を適応する場合を想定している。アバットメントベース(1)の歯肉縁下部高さ(C)・ベース部高さ(B)を高くした形状を選択すれば、外側アバットメント(9)を使用せずに直接、歯科補綴装置(10)をアバットメントベースに装着することも可能となる。本使用方法ではアバットメントベース自体が歯肉縁上に露出する可能性もあり、図6に示した2パーツアバットメントとして使用される場合よりも、審美性などは劣るが、口腔内に装着される部品点数が減少することにより、製造コストの低減や、各パーツ間の接着箇所が減少し、接着部位からの脱離や残留接着材による歯肉炎などの恐れを回避できる。
【0054】
アバットメントベース群に含まれるアバットメントベースには、ベース部(5)に挿入された外側アバットメントが回転するのを防止するための、少なくとも一つ以上の回転防止構造(6)を備えているアバットメントベースを含むことが出来る。回転防止機構としてはベース部(5)に、アバットメントベースの長軸方向に凹凸を設けたり、溝を設けたりすることが可能である。図3では、ベース部(5)の一部が凹んだ形状の回転防止機構(6)が示されている。これにより、外側アバットメントがアバットメントベースに対して回転するのを抑制または防止し、装着した際の外側アバットメントの向きを一方向に定義することが可能となる。
【0055】
本発明のアバットメントベース群は、チタンやコバルトクロムといった生体親和性の高い金属材料や、ジルコニアなどのセラミックス材料、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの樹脂材料をはじめとする、公知の歯科材料から作製されたアバットメントベースを含む。
【0056】
本発明のアバットメントベース群のアバットメントベースには、ジルコニアなどのセラミックス材料、ハイブリッドセラミックスなどの樹脂材料をはじめとする公知の歯科材料から作製された外側アバットメントを装着することが出来る。
【0057】
本発明のアバットメントベース群のアバットメントベースからなる2パーツアバットメントには、ジルコニアなどのセラミックス材料、ハイブリッドセラミックスなどの樹脂材料をはじめとする公知の歯科材料から作製された歯冠形態を有する歯科補綴装置を装着することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の歯科インプラント用アバットメントベース群は、幅広い患者個々の適応部位の形状に対応できるため臨床応用幅が広く汎用性が高い。従って、本発明は歯科用インプラントの分野に広く利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】アバットメントベースの構成を説明する図(正面図)。
図2】アバットメントベースの構成を説明する図(側面図)。
図3】アバットメントベースの構成を説明する図(斜視図)。
図4】アバットメントベースを選択する際に使用する値を説明する図。
図5】アバットメントベース群から選択された、マージンライン直径、ベース部高さ、歯肉縁下部高さ及び、ベース部厚さの値の組合せが異なるアバットメントベースの実際の例を示す図。
図6】アバットメントベース群から選択されたアバットメントベースを口腔内に適応した状態の模式図1
図7】アバットメントベース群から選択されたアバットメントベースを口腔内に適応した状態の模式図2
【符号の説明】
【0060】
1 アバットメントベース
2 嵌合部
3 歯肉縁下部
4 マージンライン
5 ベース部
6 回転防止機構
7 アクセスホール
8 目印
9 外側アバットメント
10 歯科補綴装置
11 人工歯根
12 歯肉
13 歯槽骨
A マージンライン直径
B ベース部高さ
C 歯肉縁下部高さ
D ベース部厚さ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7