【文献】
Atsuchi Unemoto et al.,Complex Hydrides for Electrochemical Energy Strorage,Adv. Funct. Mater.,2014年,Vol.24,p.2267-2279
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性多孔質基材に充填された活物質粒子の平均粒子径が、前記導電性多孔質基材のストレートポアの開孔径に対して、4%以下の大きさである請求項2に記載の全固体リチウム二次電池。
前記水素化物系固体電解質は、粒子状の形態を有し、前記水素化物系固体電解質の平均粒子径が、前記絶縁性多孔質基材のストレートポアの開孔径に対して、4%以下の大きさである請求項5に記載の全固体リチウム二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(本発明の全固体リチウム二次電池)
本発明の全固体リチウム二次電池は、正極と、負極と、上記正極と上記負極との間に配置された固体電解質層とを備え、上記固体電解質層は、水素化物系固体電解質を含み、上記正極及び上記負極の少なくとも一方は、導電性多孔質基材と、上記導電性多孔質基材に充填された活物質粒子とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の全固体リチウム二次電池では、活物質粒子が導電性多孔質基材に充填されて形成された正極又は負極を備えているので、固体電解質層を保持する電極の強度が向上し、固体電解質層の大面積化が可能である。より具体的には、上記固体電解質層の主面の大きさを1.0cm
2以上とすることができる。これにより、高容量・高エネルギー密度の全固体リチウム二次電池を提供できる。
【0019】
また、上記固体電解質層は、水素化物系固体電解質を含んでいるため、水素化物系固体電解質が水分を含む外気と接触しても毒性ガスが発生しない。
【0020】
また、上記導電性多孔質基材は、ストレートポアを有することが好ましい。これにより、活物質粒子の導電性多孔質基材への充填性が向上する。
【0021】
また、本発明の全固体リチウム二次電池では、上記固体電解質層は、絶縁性多孔質基材を更に含み、上記水素化物系固体電解質が、上記絶縁性多孔質基材に充填されていることが好ましい。これにより、固体電解質層の強度が向上し、固体電解質層の更なる大面積化が可能となる。
【0022】
また、上記絶縁性多孔質基材は、ストレートポアを有することが好ましい。これにより、水素化物系固体電解質の絶縁性多孔質基材への充填性が向上する。
【0023】
以下、本発明の全固体リチウム二次電池の実施形態について説明する。下記実施形態の固体電解質層では、絶縁性多孔質基材に固体電解質を充填した形態を示したが、正極及び負極の少なくとも一方が、活物質粒子を充填した導電性多孔質基材を備えていれば、固体電解質層が絶縁性多孔質基材を備えていなくてもよい。この場合、固体電解質層が、イオン伝導の障害となる絶縁性多孔質基材を含まないため、電池の負荷特性を向上させることができる。一方、固体電解質層の強度を高め、電池の信頼性をより向上させるためには、正極及び負極の少なくとも一方に導電性多孔質基材を用い、且つ固体電解質層に絶縁性多孔質基材を用いることが好ましい。
【0024】
<固体電解質層>
図1は、本発明に用いる固体電解質層の一例を示す平面図であり、
図2は、本発明に用いる固体電解質層の他の例を示す平面図である。
【0025】
図1において、固体電解質層10は、絶縁性多孔質基材11と、絶縁性多孔質基材11の正方形の開孔部を有するストレートポア11aに充填された固体電解質12とを備えている。
【0026】
固体電解質12は、水素化物系固体電解質から形成されており、上記水素化物系固体電解質は、絶縁性多孔質基材11のストレートポア11aに、押圧されることにより充填され、ストレートポア11a内に固定されている。このため、固体電解質層10の機械的強度を向上でき、固体電解質層10を大面積化しても固体電解質12が破損することはなく、また、絶縁性多孔質基材11から固体電解質12が脱落することも防止できる。また、固体電解質層10を正極と負極との間に配置することにより、正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を保持しながら、正極と負極との短絡を防止できる。
【0027】
また、
図2において、固体電解質層20は、絶縁性多孔質基材21と、絶縁性多孔質基材21の円形の開孔部を有するストレートポア21aに充填された固体電解質22とを備えている。固体電解質22も、水素化物系固体電解質から形成されており、上記水素化物系固体電解質は、絶縁性多孔質基材21のストレートポア21aに、押圧されることにより充填され、ストレートポア21a内に固定されている。
図2に示した固体電解質層20も、
図1に示した固体電解質層10と同様の作用・効果を発揮できる。
【0028】
上記水素化物系固体電解質としては、リチウムイオン伝導性を有していれば特に限定されず、例えば、LiBH
4、LiAlH
4、Li
3AlH
6、LiBH(Et)
3、LiBH(s−Bu)
3、LiNH
2、Li
2NH、Li〔OC(CH
3)
3〕
3AlH、Li(OCH
3)
3AlH、Li(OC
2H
5)
3H、LiBH
4とLiIとのモル比が1:1〜20:1の固体電解質(LiBH
4:LiI=3:1、LiBH
4:LiI=7:1など)、Li
2B
12H
12等の水素化リチウム系固体電解質を使用できる。これらの中でも、LiBH
4とLiIとのモル比が1:1〜20:1の固体電解質を使用することが望ましく、特に、リチウムイオン伝導性の高い、LiBH
4とLiIとのモル比が3:1の固体電解質を使用することが望ましい。なお、LiBH
4とLiIとのモル比が1:1〜20:1の固体電解質は、LiBH
4とLiIとを混合し、得られた混合物を50℃以上、好ましくは150℃以上、特に好ましくは250℃以上に加熱して溶融又は焼結させ、その後、冷却することにより製造することができる。
【0029】
上記水素化物系固体電解質は、1種を単独で用いることができるが、2種以上を併用することもできる。上記水素化物系固体電解質の形態は、絶縁性多孔質基材への充填性の観点から、粒子状が好ましいが、粒子状以外の形態であってもよい。また、上記水素化物系固体電解質を2種以上併用する場合は、それぞれの固体電解質を粒子状の形態で混合してもよいし、それぞれの固体電解質を分子レベルで混合してもよく、また、それぞれの固体電解質を層状に積層して使用してもよい。
【0030】
上記絶縁性多孔質基材のストレートポアの開孔部の形状は、正方形、円形に限定されず、例えば、長方形、ひし形、長円形等の形状とすることもできる。上記絶縁性多孔質基材の形態も特に限定されず、絶縁性の薄板や薄膜に多数の開孔部を設けた基材を用いてもよく、また、上記薄板に切れ目を入れて両側に引っ張ってエキスパンド状とした基材を用いてもよいが、充填物の充填性の向上の観点から、網状基材を用いることが好ましい。上記網状基材を用いる場合、網の線径は、10〜300μmとすることができ、網状基材の強度向上の観点からは、20〜200μmとすることが好ましい。
【0031】
また、上記ストレートポアの開孔径は、40μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上250μm以下がより好ましい。上記開孔径が大きすぎると、固体電解質層の強度が低下する傾向にあり、また、上記開孔径が小さすぎると、水素化物系固体電解質の絶縁性多孔質基材への充填性が低下する傾向にある。本発明では、上記ストレートポアを厚さ方向から平面視し、その開孔部に内接する円の最大直径を上記ストレートポアの開孔径であると定義する。例えば、ストレートポアの開孔部の形状が正方形の場合には、その正方形の1辺の長さが、そのストレートポアの開孔径となる。
【0032】
上記絶縁性多孔質基材の材質としては、リチウム金属と反応せず、絶縁性を有していれば特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアリレート、ポリアミドイミド等の樹脂材料を用いることができる。
【0033】
上記絶縁性多孔質基材の厚さは特に限定されず、例えば、10μm以上100μm以下とすることができ、上記絶縁性多孔質基材の機械的強度の確保と基材の電気抵抗の増加防止とのバランスを図る観点からは、20μm以上50μm以下が好ましい。
【0034】
上記水素化物系固体電解質を粒子状として使用する場合、その平均粒子径は、上記絶縁性多孔質基材のストレートポアの開孔径に対して、4%以下の大きさであることが好ましい。これにより、水素化物系固体電解質の絶縁性多孔質基材への充填性と、固体電解質層の成形性とが向上する。上記水素化物系固体電解質の平均粒子径の下限値は特に限定されないが、上記絶縁性多孔質基材のストレートポアの開孔径に対して、0.07%以上とすればよい。
【0035】
図1及び
図2では、ストレートポアを有する絶縁性多孔質基材を用いたが、絶縁性多孔質基材は水素化物系固体電解質を充填できるものであれば、ストレートポアを有するものに限定されず、他の多孔質構造基材を使用することもできる。
【0036】
本発明に用いる固体電解質層は、その機械的強度が大きいため、その主面の大きさを1.0cm
2以上とすることができ、また、上記固体電解質層の厚さは、通常、上記絶縁性多孔質基材の厚さと同じとなる。これにより高容量・高エネルギー密度の全固体リチウム二次電池を提供できる。
【0037】
<正極>
上記正極としては、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられている正極、即ち、Liイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する正極であれば特に制限はない。例えば、正極活物質としては、LiM
xMn
2-xO
4(但し、Mは、Li、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Sn、Sb、In、Nb、Mo、W、Y、Ru及びRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.01≦x≦0.5)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、Li
xMn
(1-y-x)Ni
yM
zO
(2-k)F
l(但し、Mは、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、Sr及びWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.8≦x≦1.2、0<y<0.5、0≦z≦0.5、k+l<1、−0.1≦k≦0.2、0≦l≦0.1)で表される層状化合物、LiCo
1-xM
xO
2(但し、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb及びBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNi
1-xM
xO
2(但し、Mは、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb及びBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiM
1-xN
xPO
4(但し、Mは、Fe、Mn及びCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、Sb及びBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦x≦0.5)で表されるオリビン型複合酸化物、Li
4Ti
5O
12で表されるリチウムチタン複合酸化物等が挙げられ、これらのうちの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記正極には、上記正極活物質と、導電助剤やバインダとを含有する正極合剤層を、集電体の片面又は両面に形成した構造のものを使用することができる。
【0039】
上記正極のバインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等が使用でき、また、上記正極の導電助剤としては、例えば、カーボンブラック等の炭素材料等が使用できるが、固体電解質を用いてもよい。
【0040】
また、上記正極の集電体としては、アルミニウム等の金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル等を用い得るが、本発明では特に網状構造基材等の導電性多孔質基材を用いることが好ましい。
【0041】
より具体的には、上記正極は、上記導電性多孔質基材と、上記導電性多孔質基材に充填された正極活物質粒子とを備えていることが好ましい。これにより、前述の固体電解質層を保持する正極の強度が向上し、固体電解質層の大面積化が可能となる。更に、上記導電性多孔質基材は、ストレートポアを有することが好ましい。これにより、上記正極活物質粒子の導電性多孔質基材への充填性が向上する。
【0042】
上記導電性多孔質基材のストレートポアの開孔部の形状は特に限定されず、例えば、正方形、円形、長方形、ひし形、長円形等の形状とするができる。
【0043】
また、上記ストレートポアの開孔径は、40μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上250μm以下がより好ましい。上記開孔径が大きすぎると、正極の強度が低下する傾向にあり、また、上記開孔径が小さすぎると、正極活物質粒子の導電性多孔質基材への充填性が低下する傾向にある。上記ストレートポアの開孔径の定義は、前述のとおりである。
【0044】
上記導電性多孔質基材の材質としては、ある程度強度があり、導電性を有していれば特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼等の金属材料を用いることができる。
【0045】
上記導電性多孔質基材の厚さは特に限定されず、例えば、10μm以上300μm以下とすることができ、上記導電性多孔質基材の機械的強度の確保と基材の電気抵抗の増加防止とのバランスを図る観点からは、20μm以上200μm以下が好ましい。
【0046】
上記正極活物質粒子の平均粒子径は、上記導電性多孔質基材のストレートポアの開孔径に対して、4%以下の大きさであることが好ましい。これにより、正極活物質粒子の導電性多孔質基材への充填性と、正極の成形性とが向上する。上記正極活物質粒子の平均粒子径の下限値は特に限定されないが、上記導電性多孔質基材のストレートポアの開孔径に対して、0.07%以上とすればよい。
【0047】
上記正極は、その機械的強度が大きいため、その主面の大きさを1.0cm
2以上とすることができ、これにより高容量・高エネルギー密度の全固体リチウム二次電池を提供できる。
【0048】
<負極>
上記負極としては、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられている負極、即ち、Liイオンを吸蔵・放出可能な活物質を含有する負極であれば特に制限はない。例えば、負極活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維等のリチウムを吸蔵・放出可能な炭素系材料の1種又は2種以上の混合物が用いられる。また、Si、Sn、Ge、Bi、Sb、In等の元素を含む単体、化合物及びその合金、リチウム含有窒化物又はリチウム含有酸化物等のリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物、若しくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金も負極活物質として用いることができる。
【0049】
上記負極には、上記負極活物質に導電助剤(カーボンブラック等の炭素材料、固体電解質等)やPVDF等のバインダ等を適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体(負極合剤層)に仕上げたもの、又は上記の各種合金やリチウム金属の箔を単独、若しくは集電体上に負極剤層として積層したものなどが用いられる。
【0050】
上記負極に集電体を用いる場合には、その集電体としては、銅製やニッケル製の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル等を用い得るが、本発明では特に網状構造基材等の導電性多孔質基材を用いることが好ましい。
【0051】
より具体的には、上記負極は、上記導電性多孔質基材と、上記導電性多孔質基材に充填された負極活物質粒子とを備えていることが好ましい。これにより、前述の固体電解質層を保持する負極の強度が向上し、固体電解質層の大面積化が可能となる。更に、上記導電性多孔質基材は、ストレートポアを有することが好ましい。これにより、上記負極活物質粒子の導電性多孔質基材への充填性が向上する。
【0052】
上記導電性多孔質基材のストレートポアの開孔部の形状は特に限定されず、例えば、正方形、円形、長方形、ひし形、長円形等の形状とするができる。
【0053】
また、上記ストレートポアの開孔径は、40μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上250μm以下がより好ましい。上記開孔径が大きすぎると、負極の強度が低下する傾向にあり、また、上記開孔径が小さすぎると、負極活物質粒子の導電性多孔質基材への充填性が低下する傾向にある。上記ストレートポアの開孔径の定義は、前述のとおりである。
【0054】
上記導電性多孔質基材の材質としては、ある程度強度があり、導電性を有していれば特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼等の金属材料を用いることができる。
【0055】
上記導電性多孔質基材の厚さは特に限定されず、例えば、10μm以上300μm以下とすることができ、上記導電性多孔質基材の機械的強度の確保と基材の電気抵抗の増加防止とのバランスを図る観点からは、20μm以上200μm以下が好ましい。
【0056】
上記負極活物質粒子の平均粒子径は、上記導電性多孔質基材のストレートポアの開孔径に対して、4%以下の大きさであることが好ましい。これにより、負極活物質粒子の導電性多孔質基材への充填性と、負極の成形性とが向上する。上記負極活物質粒子の平均粒子径の下限値は特に限定されないが、上記導電性多孔質基材のストレートポアの開孔径に対して、0.07%以上とすればよい。
【0057】
上記負極は、その機械的強度が大きいため、その主面の大きさを1.0cm
2以上とすることができ、これにより高容量・高エネルギー密度の全固体リチウム二次電池を提供できる。
【0058】
<電極体>
上記正極と上記負極とは、前述の本発明の固体電解質層を介して積層した積層電極体や、更にこの積層電極体を巻回した巻回電極体の形態で用いることができる。
【0059】
(本発明の全固体リチウム二次電池の製造方法)
次に、本発明の全固体リチウム二次電池の製造方法について説明する。本発明の全固体リチウム二次電池の製造方法の好適な態様は、電極の製造方法として、活物質粒子を乾式で導電性多孔質基材に充填する工程を備えている。これにより固体電解質層を保持する電極の強度が向上し、固体電解質層の大面積化が可能となる。上記活物質粒子を上記導電性多孔質基材に乾式で充填する具体的方法は特に限定されず、例えば、上記導電性多孔質基材の開孔部に上記活物質粒子を投入して加圧成形する方法等が挙げられる。なお、本発明の全固体リチウム二次電池の製造方法は、上記の方法に限定されず、上記導電性多孔質基材の開孔部に上記活物質粒子のスラリーを流し込み、乾燥後に加圧成形する方法等であってもよい。
【0060】
また、上記電極の製造方法では、上記活物質粒子と共に、水素化物系固体電解質を上記導電性多孔質基材に充填することが好ましい。これにより、電極の導電性を向上できる。
【0061】
次に、本発明で用いる正極の製造方法をより具体的に説明する。本発明で用いる正極の製造方法は特に限定されず、例えば、正極活物質、バインダ及び導電助剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の溶剤に分散させた正極合剤含有ペースト又はスラリーを調製し、これを集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理を施す工程を経て製造することができる。また、上記集電体に上記導電性多孔質基材を用いる場合には、正極活物質を導電性多孔質基材に乾式で充填する工程を備えていることが望ましい。上記正極活物質を上記導電性多孔質基材に乾式で充填する具体的方法は特に限定されない。
【0062】
次に、本発明で用いる負極の製造方法をより具体的に説明する。本発明で用いる負極の製造方法も特に限定されず、例えば、負極活物質及びバインダ、更には必要に応じて導電助剤を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や水等の溶剤に分散させた負極合剤含有ペースト又はスラリーを調製し、これを集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理を施す工程を経て製造することができる。また、上記集電体に前述の導電性多孔質基材を用いる場合には、負極活物質を導電性多孔質基材に乾式で充填する工程を備えていることが望ましい。上記負極活物質を上記導電性多孔質基材に乾式で充填する具体的方法は特に限定されない。
【0063】
上記正極及び上記負極は、固体電解質層と共に積層して一体に加圧成形することが電極体の機械的強度向上の観点から好ましい。
【0064】
また、本発明の全固体リチウム二次電池の製造方法は、固体電解質層の製造方法として、水素化物系固体電解質を乾式で絶縁性多孔質基材に充填する工程を更に備えることが好ましい。これにより、固体電解質層の強度が向上し、固体電解質層の更なる大面積化が可能となる。上記水素化物系固体電解質を上記絶縁性多孔質基材に乾式で充填する具体的方法は特に限定されず、例えば、上記絶縁性多孔質基材の開孔部に上記水素化物系固体電解質を投入して加圧成形する方法等が挙げられる。
【0065】
上記固体電解質層の製造方法としては、水素化物系固体電解質を含むスラリーを、絶縁性多孔質基材に流し込み、乾燥後に加圧成形する方法等であってもよい。上記スラリーの流し込み方法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、浸漬法等の塗工法を採用できる。上記スラリーは、上記水素化物系固体電解質を溶媒に投入して混合して作製する。但し、上記溶媒としては、水素化物系固体電解質を劣化させにくい溶媒を選択することが必要である。特に、水素化物系固体電解質は、微少水分による潮解が起こるため、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。また、三井・デュポンフロロケミカル社製の"バートレル"(登録商標)、日本ゼオン社製の"ゼオローラ"(登録商標)、住友3M社製の"ノベック"(登録商標)等のフッ素系溶媒、並びに、ジクロロメタン、ジエチルエーテル等の非水系有機溶媒を使用することができる。
【0066】
上記水素化物系固体電解質は、酸化物固体電解質に比べると比較的柔軟であり、粉体を加圧成形することで、容易にペレット成形が可能であり、その成形物を積層することも可能であるため、上記水素化物系固体電解質を上記絶縁性多孔質基材に充填する方法としては、上記水分による固体電解質の潮解を防ぐため、乾式の工程を用い、上記水素化物系固体電解質を上記絶縁性多孔質基材の開孔部に投入して加圧成形する方法がより好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0068】
(実施例1)
<正極層の作製>
先ず、正極活物質である平均粒子径が2μmのLi
4Ti
5O
12:31.7質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:7.0質量部と、320℃の加熱により合成された、LiBH
4とLiIとのモル比が3:1の水素化物系固体電解質:61.3質量部とを混合し、よく混練して正極混合粉末を調製した。
【0069】
次に、導電性多孔基材として、大和金属社製の円形ステンレスメッシュ(開孔径:400μm、厚さ:100μm、直径:16mm)を準備した。続いて、上記ステンレスメッシュを直径16mmの粉末成形金型に入れ、更に上記正極混合粉末を80.4mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、厚さ268μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の正極層を作製した。
【0070】
<固体電解質層の作製>
次に、上記粉末成形金型内の上記正極層の上に、太陽金網社製の円形ポリエステルメッシュ(開孔径:124μm、厚さ:72μm、直径:16mm)を乗せ、水素化物系固体電解質として、320℃の加熱により合成された、LiBH
4とLiIとのモル比が3:1の固体電解質を70mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記正極層の上に、厚さ200μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の固体電解質層を作製した。
【0071】
<負極層の作製>
次に、上記粉末成形金型内の上記固体電解質層の上に、直径16mm、厚さ0.2mmの円形Li金属を乗せ、更にその上に大和金属社製の円形ステンレスメッシュ(開孔径:400μm、厚さ:100μm、直径:16mm)を乗せ、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記固体電解質層の上に負極層を作製した。
【0072】
<電極・電解質積層体の作製>
最後に、上記プレス機を用いて圧力ゲージ表示値6000kgで更に加圧成型を行い、その後、140℃で2時間加熱して、各層を接合させ、上記正極層、上記固体電解質層、上記負極層の3層からなる主面の面積が2cm
2の電極・電解質積層体を作製した。
【0073】
<電池の組み立て>
得られた電極・電解質積層体をステンレス鋼製の2016型外装缶に挿入し、封止を行って、全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0074】
(実施例2)
<正極層の作製>
先ず、正極活物質である平均粒子径が2μmのLi
4Ti
5O
12:31.7質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:7.0質量部と、実施例1で用いた固体電解質:61.3質量部とを混合し、よく混練して正極混合粉末を調製した。
【0075】
次に、集電体として円形ステンレス箔(厚さ:50μm、直径:16mm)を準備した。続いて、上記ステンレス箔を直径16mmの粉末成形金型に入れ、更に上記正極混合粉末を80.4mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、厚さ268μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の正極層を作製した。
【0076】
上記正極層を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0077】
(実施例3)
<正極層及び固体電解質層の作製>
実施例1と同様にして、正極層の上に固体電解質層を作製した。
【0078】
<負極層の作製>
次に、粉末成形金型内の上記固体電解質層の上に、直径16mm、厚さ0.2mmの円形Li金属を乗せ、更にその上に円形ステンレス箔(厚さ:50μm、直径:16mm)を乗せ、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記固体電解質層の上に負極層を作製した。
【0079】
上記正極層、上記固体電解質層、上記負極層を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0080】
(実施例4)
<正極層の作製>
実施例1と同様に正極層を作製した。
【0081】
<固体電解質層の作製>
次に、粉末成形金型内の上記正極層の上に、実施例1で用いた固体電解質を70mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記正極層の上に、厚さ200μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の固体電解質層を作製した。
【0082】
<負極層の作製>
実施例1と同様に負極層を作製した。
【0083】
上記正極層、上記固体電解質層、上記負極層を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0084】
(実施例5)
<正極層の作製>
先ず、正極活物質である平均粒子径が2μmのLi
4Ti
5O
12:31.7質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:7.0質量部と、実施例1で用いた固体電解質:61.3質量部とを混合し、よく混練して正極混合粉末を調製した。
【0085】
次に、集電体として円形ステンレス箔(厚さ:50μm、直径:16mm)を準備した。続いて、上記ステンレス箔を直径16mmの粉末成形金型に入れ、更に上記正極混合粉末を80.4mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、厚さ268μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の正極層を作製した。
【0086】
<固体電解質層の作製>
次に、上記粉末成形金型内の上記正極層の上に、実施例1で用いた固体電解質を70mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記正極層の上に、厚さ200μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の固体電解質層を作製した。
【0087】
<負極層の作製>
実施例1と同様に負極層を作製した。
【0088】
上記正極層、上記固体電解質層、上記負極層を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0089】
(実施例6)
<正極層の作製>
実施例1と同様に正極層を作製した。
【0090】
<固体電解質層の作製>
次に、粉末成形金型内の上記正極層の主面上に、大和金属社製の円形ステンレスメッシュ(開孔径:400μm、厚さ:100μm、直径:16mm)を乗せ、実施例1で用いた固体電解質を70mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記正極層の上に、厚さ200μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の固体電解質層を作製した。
【0091】
<負極層の作製>
実施例1と同様に負極層を作製した。
【0092】
上記正極層、上記固体電解質層、上記負極層を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0093】
(実施例7)
<正極層の作製>
実施例1と同様に正極層を作製した。
【0094】
<固体電解質層の作製>
次に、無機粒子である多面体形状のベーマイト合成品(アスペクト比:1.4、D50:0.63μm):40質量部と、実施例1で用いた固体電解質:60質量部とを混合し、よく混練して固体電解質混合粉末を調製した。続いて、粉末成形金型内の上記正極層の上に、上記固体電解質混合粉末を70mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記正極層の上に、厚さ200μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の固体電解質層を作製した。
【0095】
<負極層の作製>
実施例1と同様に負極層を作製した。
【0096】
上記正極層、上記固体電解質層、上記負極層を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0097】
(比較例1)
<正極層の作製>
先ず、正極活物質である平均粒子径が2μmのLi
4Ti
5O
12:31.7質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:7.0質量部と、硫化物系固体電解質である7Li
2S−3P
2S
5:61.3質量部とを混合し、よく混練して正極混合粉末を調製した。
【0098】
次に、導電性多孔基材として、大和金属社製の円形ステンレスメッシュ(開孔径:400μm、厚さ:100μm、直径:16mm)を準備した。続いて、上記ステンレスメッシュを直径16mmの粉末成形金型に入れ、更に上記正極混合粉末を80.4mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、厚さ268μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の正極層を作製した。
【0099】
<固体電解質層の作製>
次に、上記粉末成形金型内の上記正極層の主面上に、太陽金網社製の円形ポリエステルメッシュ(開孔径:124μm、厚さ:72μm、直径:16mm)を乗せ、硫化物系固体電解質である7Li
2S−3P
2S
5を70mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記正極層の上に、厚さ200μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の固体電解質層を作製した。
【0100】
<負極層の作製>
実施例1と同様に負極層を作製した。
【0101】
上記正極層、上記固体電解質層、上記負極層を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0102】
(比較例2)
<正極層の作製>
先ず、正極活物質である平均粒子径が2μmのLi
4Ti
5O
12:31.7質量部と、導電助剤であるアセチレンブラック:7.0質量部と、実施例1で用いた固体電解質:61.3質量部とを混合し、よく混練して正極混合粉末を調製した。
【0103】
次に、集電体として円形ステンレス箔(厚さ:50μm、直径:16mm)を準備した。続いて、上記ステンレス箔を直径16mmの粉末成形金型に入れ、更に上記正極混合粉末を80.4mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、厚さ268μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の正極層を作製した。
【0104】
<固体電解質層の作製>
次に、上記粉末成形金型内の上記正極層の上に、実施例1で用いた固体電解質を70mg投入し、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記正極層の上に、厚さ200μm、面積2cm
2、密度1.5g/cm
3の固体電解質層を作製した。
【0105】
<負極層の作製>
次に、上記粉末成形金型内の上記固体電解質層の上に、直径16mm、厚さ0.2mmの円形Li金属を乗せ、更にその上に円形ステンレス箔(厚さ:50μm、直径:16mm)を乗せ、プレス機を用いて圧力ゲージ表示値1500kgで加圧成型を行い、上記固体電解質層の上に負極層を作製した。
【0106】
上記正極層、上記固体電解質層、上記負極層を用いた以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0107】
実施例1〜7及び比較例1〜2の電池を用いて下記試験を行い、電池特性を評価した。
【0108】
<充放電試験>
作製した電池を、120℃で、電池電圧が1.0Vに達するまで0.14mAの定電流で放電し、その後、0.14mAの定電流で電池電圧が2.0Vになるまで充電した。この一連の操作を1サイクルとして、2サイクルまで繰り返して、2サイクル目の放電容量を測定し、120℃での標準電池容量とした。但し、比較例2の電池は、上記条件での充放電を行うことができず、120℃での標準電池容量は0となった。
【0109】
<負荷特性試験>
実施例1〜7及び比較例1の電池を、120℃で、電池電圧が1.0Vに達するまで0.72mAの定電流で放電し、その後、0.72mAの定電流で電池電圧が2.0Vになるまで充電した。この一連の操作を1サイクルとして、2サイクルまで繰り返して、2サイクル目の放電容量を測定し、高率電池容量とした。また、充電後の電池を室温まで冷却し、室温で、電池電圧が1.0Vに達するまで1μAの定電流で放電して放電容量を測定し、室温電池容量とした。これらの容量から負荷特性を評価した。
【0110】
上記試験結果を、電極構成及び固体電解質構成と合わせて、表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1に示されるように、正極及び負極の少なくとも一方を、導電性多孔質基材を用いて構成した実施例1〜7の電池では、電極・電解質積層体の強度を充分に確保することができ、電池として充分な充放電機能を有することが確認できた。特に、固体電解質層において、イオン伝導を阻害する要因となる多孔質基材や絶縁性粒子を用いずに固体電解質層を構成した実施例4及び5の電池は、電極の活物質の利用率及び固体電解質層のイオン伝導性が向上し、上記多孔質基材や絶縁性粒子を用いて固体電解質層を構成した実施例1〜3、実施例6及び実施例7の電池に比べ、標準電池容量が大きく、負荷特性に優れた電池とすることができた。
【0113】
実施例1〜7及び比較例1〜2の電池を用いて更に下記試験を行い、電池特性を評価した。
【0114】
<落下試験>
実施例1〜7及び比較例1の電池について、上記充放電試験を3サイクル行い、充電後の電池を1.6mの高さから30回コンクリート面に落下させ、その後、同様の条件で再度充放電を行い、トータル5サイクル目の放電容量を求めた。また、比較例2の電池については、0.14mAの定電流での充放電ができなかったため、充電及び放電の定電流の電流値を0.07mAに変更して充放電サイクルを行い、以下、上記と同様にして落下試験を行った。
【0115】
それぞれ10個ずつの電池について上記試験を行い、上記試験の結果、落下試験後の放電容量が、落下試験前の放電容量よりも0.5%以上低下したものを内部短絡が発生したと判断した。
【0116】
<圧壊試験>
作製した電池を、折れ曲がり潰れるまで押しつぶし、外装体を開裂させ、内部の固体電解質を空気に触れさせた。その際のH
2Sガス発生の有無をガス検知管で確認した。
【0117】
上記試験結果を表2に示す。落下試験については、内部短絡が発生した電池の個数が0個であった場合を◎、1〜4個であった場合を○、5〜8個であった場合を△、9〜10個であった場合を×で表した。
【0118】
【表2】
【0119】
表2から明らかなように、正極及び負極の少なくとも一方を、導電性多孔質基材を用いて構成した実施例1〜7の電池では、正極及び負極のいずれにも導電性多孔質基材を用いなかった比較例2の電池に比べて、短絡の発生を低減することができた。また、固体電解質層における固体電解質を、水素化物系固体電解質で構成することにより、H
2Sガスの発生は認められず、安全性の高い電池を構成することができた。特に、絶縁性多孔質基材を用いて固体電解質層を構成した実施例1〜3の電池では、電極・電解質積層体の強度がより向上し、短絡発生がなく、信頼性に優れた電池を構成することができた。但し、実施例6も実施例1〜3と同様に多孔質基材を用いて固体電解質層を構成しているものの、導電性を有するステンレスメッシュを用いたため、一部の電池で短絡が生じた。
【0120】
一方、比較例1では、固体電解質層における固体電解質を、硫化物系固体電解質で構成したため、圧壊試験においてH
2Sガスの発生が認められ、また、正極及び負極のいずれにも導電性多孔質基材を用いなかった比較例2では、電極・電解質積層体の強度が不足して、全数の電池で短絡が生じる結果となった。
【0121】
<充填物粒子の平均粒子径と多孔質基材の開孔径との関係の検討>
水素化物系固体電解質粒子、正極活物質粒子及び負極活物質粒子の平均粒子径と多孔質基材の開孔径との関係を検討した。以下では、上記3種の充填物粒子の中から正極活物質粒子を代表充填粒子として用いて上記関係を検討した。
【0122】
具体的には、ストレートポアとして正方形の開孔部(開孔径:0.3mm)を有するステンレス鋼製の網状シートを直径16mmの円形に打ち抜き、直径16mmの成形機の内部に静置して、その上から全量100mgの正極活物質(チタン酸リチウム:Li
4Ti
5O
12)の粉末を充填し、プレス圧を変化させて成形体を作製し、その成形体の厚みを測定して、充填物粒子の多孔質基材(網状シート)への充填性を評価した。また、成形機から上記成形体を取り出す際の欠けや割れ、変形等の発生状況から、成形体の強度や成形性を評価した。上記正極活物質粉末としては、平均粒子径が0.2μm、7μm、10μm、20μmの4種類の粒子を用いた。
【0123】
上記結果を
図3に示す。
図3は、成形体厚みとプレス圧との関係を示す図である。
図3から、プレス圧を上昇させると、成形体厚みが減少していき、網状シートへの正極活物質粒子の充填密度が上昇することが分かる。その後、更にプレス圧を上昇させると、網状シートが変形し、成形体厚みを薄くできなくなり、充填密度を上昇させることができなくなることが分かる。また、正極活物質粉末の平均粒子径が上昇するに伴い、充填密度が最高となると考えられる成形体厚みが300μm付近となるプレス圧の範囲が狭くなり、成形体の形成が困難となることが分かる。従って、
図3からは、充填物粒子の平均粒子径は、20μm未満であることが好ましいことが分かる。ここで、上記網状シートのストレートポアの開孔径に対する、上記充填物粒子の平均粒子径の大きさの割合(平均粒子径/開孔径比)を計算すると、平均粒子径が20μmでは6.7%、平均粒子径が10μmでは3.3%、平均粒子径が7μmでは2.3%、平均粒子径が0.2μmでは0.07%となる。この結果から、充填物粒子の平均粒子径は、多孔質基材のストレートポアの開孔径に対して、4%以下の大きさであることが好ましく、より好ましくは2%以下、最も好ましくは1%以下であることが分かる。
【0124】
<多孔質基材のストレートポアの開孔径の大きさの検討>
次に、上記と同様にして、開孔径が38μm〜1mmのステンレス鋼製の網状シートを用いて、平均粒子径が0.13μm〜7μmの正極活物質(チタン酸リチウム:Li
4Ti
5O
12)の粉末を充填して、成形性を下記のとおり評価した。その結果を表3に示す。表3では、下記成形性の評価と共に成形体の充填性を示す平均粒子径/開孔径比(%)も示した。
評価A:成形体の成形性が高い場合
評価B:成形体の成形性がやや劣る場合
評価C:成形体の成形性が低い場合
【0125】
【表3】
【0126】
表3から、開孔径が大きすぎると、充填物粒子の平均粒子径を小さくしても成形体の強度を高くすることができず、成形性は低下した。一方、開孔径が小さすぎると、充填物粒子の平均粒子径を小さくしても、充填物粒子を充填できなくなり、成形性が低下した。以上の結果から、多孔質基材のストレートポアの開孔径は、40μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上250μm以下がより好ましいことが分かる。