特許第6704297号(P6704297)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704297有害物質分解除去装置、室内空気浄化装置及び治療用隔離チャンバー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704297
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】有害物質分解除去装置、室内空気浄化装置及び治療用隔離チャンバー
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20200525BHJP
   A61G 10/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   A61G10/00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-112918(P2016-112918)
(22)【出願日】2016年6月6日
(65)【公開番号】特開2017-1026(P2017-1026A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-114716(P2015-114716)
(32)【優先日】2015年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598081425
【氏名又は名称】ジェット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101605
【弁理士】
【氏名又は名称】盛田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】片山 伊勢雄
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−094061(JP,A)
【文献】 特開2000−107276(JP,A)
【文献】 特開2006−281043(JP,A)
【文献】 特開平11−290840(JP,A)
【文献】 特開2000−152964(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/018949(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90,53/94−53/96
A61G 10/00
A61L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維を交絡させて形成されたシート状多孔質体の少なくとも表面近傍に光触媒を保持させた光触媒担持体と、上記光触媒担持体に所要の光を照射する光源と、上記光触媒担持体の表面に沿って設けられたガス流路とを備え、上記光触媒を用いて空気中の揮発性有機化合物及び/又は有害微生物を除去する有害物質分解除去装置であって、
上記光触媒担持体は、上記ガス流路を構成する所定の隙間を開けるとともに、上記光源を囲むようにして、上下方向に同心円筒状に配置された外側光触媒担持体及び内側光触媒担持体を備えて構成されているとともに、
上記光触媒担持体及び上記ガス流路の上方を覆うとともに、略円錐状に形成されて上方に空気排出口を設けた上壁部と、
上記光触媒担持体の外周にガス流路を構成する所定の隙間を開けて設けられた円筒状の光反射板とを備えて構成されており、
上記光源は、上記光触媒担持体の内方面を照射できるように側壁部に設けた発光素子と、上記上壁部の内面を照射できるように頂部に設けた発光素子とを備える円筒状に形成されており、
上記光触媒担持体は、所定の光反射率と光透過率とを有し、また、光を通過させる開口部を備えるとともに、各光触媒担持体を透過及び通過した光、及び各光触媒担持体の表面で反射された光が、これらに対向する上記光触媒担持体、上記上壁部及び上記光反射板の表面に照射されており、
上記光反射板及び上記上壁部は、繊維を交絡させて形成された所定の光反射率を有するシート状多孔質体から形成されており、
上記光反射板の内側表面において反射された光が対向する上記光触媒担持体に照射されるように構成されているとともに、
上記頂部に設けた発光素子から照射されて上記上壁部の内面で反射された光が、上方から上記光触媒担持体及び上記ガス流路に照射されるように構成されており、
上記光反射板の内側表面に、上記光触媒が保持されている、有害物質分解除去装置。
【請求項2】
上記光触媒担持体は、少なくとも可視光線域の波長の光に対して、5%〜80%の光透過率を有する、請求項1に記載の有害物質分解除去装置。
【請求項3】
上記各光触媒担持体の表面は、少なくとも可視光線域の波長の光に対して、20%〜95%の光反射率を有する、請求項1又は請求項2に記載の有害物質分解除去装置。
【請求項4】
一の光触媒担持体を通過して、これに対向する光触媒担持体表面に照射される光の照度が、5000ルクス以上となるように、上記光源の光強度及び上記光触媒担持体の光透過率が設定されている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の有害物質分解除去装置。
【請求項5】
上記有害物質分解除去装置を構成する上記光触媒担持体及び上記光反射板全表面における照度が5000ルクス以上になるように構成されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の有害物質分解除去装置。
【請求項6】
上記光触媒担持体は、一の光触媒担持体の表面に沿って流れるガスを、一方の側面から他方の側面に流動させるガス通過孔を備える、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の有害物質分解除去装置。
【請求項7】
上記光触媒担持体に、揮発性有機化合物及び/又は有害微生物を吸着する吸着成分を含ませた、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の有害物質分解除去装置。
【請求項8】
上記ガス流路を流動するガスは、上記光源から発せられる熱及び/又は上記光源からの光による上記光触媒担持体の温度上昇による熱によって流動させられる、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の有害物質分解除去装置。
【請求項9】
上記光源を、LED発光素子を備えて構成するとともに、
上記ガス流路を流れるガスが、上記LED発光素子に接触するのを阻止する透光性の隔離シートを設けた、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の有害物質分解除去装置。
【請求項10】
上記光触媒担持体を、上記隔離シートを備えて構成するとともに、上記光触媒担持体を上記隔離シートとともに交換できるように構成した、請求項9に記載の有害物質分解除去装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の上記有害物質分解除去装置を備える、室内空気浄化装置。
【請求項12】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載された有害物質分解除去装置を備える治療用隔離チャンバーであって、
上記隔離チャンバー内の空気を循環させつつ、上記隔離チャンバー内の所定の揮発性有機化合物の総揮発性有機化合濃度を0.005ppm以下に設定できる、治療用隔離チャンバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、有害物質分解除去装置、揮発性有機化合物の除去方法、これを用いた治療用隔離チャンバー等に関する。詳しくは、有害な揮発性有機化合物を分解除去できる有害物質分解除去装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シックハウス症候群(Sick Building Syndrome)が問題となっている。シックハウス症候群は、新築の住居等において、主として住宅室内の空気質に関する問題が原因として発生する体調不良を指す場合が多い。たとえば、室内空気が汚染された結果、その空気を居住者が吸引することにより発生するとされている。
【0003】
室内空気の汚染源の一つとして、家屋など建物を構成する建材や、家具等に利用される接着剤や塗料などに含まれるホルムアルデヒド等の有機溶剤や、木材を昆虫や白蟻から守る防腐剤等から発生する揮発性有機化合物(Voltile Organic Compounds:以下、VOCという。)が知られている。
【0004】
厚生労働省は、シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会を設置し、住宅内の空気質調査を元に、住宅内に多く見られた物質を中心として、物質の人体に対する影響を考慮して、13種類の揮発性有機化合物について、濃度指針値を示している。この濃度指針等について、平成12年〜平成14年にかけて、中間報告が発表されている。
【0005】
また、多くのVOCは、上記シックハウス症候群を引き起こすのみならず、腎臓や肝臓等の内臓疾患を引き起こすことが知られている。国立行政法人産業技術研究所は、種々のVOCに関して、ヒト健康リスク等に関する評価書を作成している。
【0006】
一方、病院等における院内感染の問題が多発している。院内感染は接触感染のみならず、微小粒子に細菌やウイルスが付着して空気中を漂うことにより発生すること(空気感染)が知られている。
【0007】
接触感染を防止するのは比較的容易であるが、空気感染を防止するのは非常に困難である。従来の技術として、高性能なヘパフィルター等を用いて患者の所在する空間を隔離する手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−337436号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】平成21年度 独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構環境技術開発部委託業務報告書「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト 可視光応答型光触媒の性能評価試験方法に関する標準化事業」平成22年3月 社団法人日本ファインセラミックス協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記厚生労働省によって作成された濃度指針は、「現時点で入手可能な毒性に係る科学的見地から、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を算出したもの。」とされる。
【0011】
しかしながら、上記濃度指針は「現時点」における暫定的なものであり、日本のみならず世界各国において、上記濃度指針以下の濃度で健康被害が生じるというデータも多く出ている。たとえば、上記濃度指針では、ホルムアルデヒドの基準値が0.08ppmとなっているが、小児喘息を減少させるには、0.016ppm以下にする必要があるとの報告があるとされている(かもがわ出版、「化学物質過敏症」石川哲、宮田幹夫著)。
【0012】
また、シックハウス症候群を引き起こす揮発性有機化合物は多岐にわたり、これら種々の物質に対して、適正な濃度指針を作成するのは困難である。さらに、揮発性有機化合物に対する薬物過敏性を獲得した患者では、上記濃度指針以下の濃度の有機物を摂取し、あるいは接触した場合でも、アレルギー反応を発症する可能性が高くなることは明らかである。また、上記薬物過敏性を獲得した患者は、特定の揮発性有機化合物のみならず、種々の揮発性有機化合物に対して過敏反応が生じることが知られている。
【0013】
また、人体に悪影響を与える揮発性有機化合物は、上記濃度指針に記載されたものに限られず、また、今後、毒性のある新たな揮発性有機化合物が生成される可能性もある。
【0014】
また、平成14年の中間報告では、「特殊な発生源がない限り全ての室内空間が対象となる」と記載されている。しかしながら、室内を構成する建材の全体から均一に揮発性有機化合物が発散し、室内全体が同じ濃度にあることはなく、特定の建材や家具等から発散することが多い。このため、それらの近傍では、上記濃度指針以上の濃度となっている場合が多い。また、複数種類の揮発性有機化合物が複合されている場合も多い。
【0015】
したがって、上記濃度指針は一応の安全基準として利用できるものの、有害物質分解除去装置に要求される性能は、たとえばホルムアルデヒド等の建材等に広く用いられ、上記濃度指針に規定された濃度が高いものについては、少なくとも上記基準の2分の1以下の濃度を達成できる必要があると考えられる。
【0016】
上記種々の揮発性有機化合物を精度高く除去するには、大掛かりな装置が必要である。また、高い濃度の揮発性有機化合物に暴露されるのは、一般家庭の室内である場合が多い。従来の空気清浄機は、埃や細菌を除去する能力は高いが、揮発性有機化合物を精度高く除去するのは困難である。また、特許文献1に記載されているような、従来の揮発性有機化合物を除去できるとされる空気清浄機では、充分な効果を得ることができないことは明らかである。
【0017】
また、非特許文献1に記載されているように、光触媒の有用性、特に揮発性有機化合物や、細菌ウイルスに対する除去性能は実証されているが、実効性のある製品化技術について、十分な知見が得られていない。
【0018】
本願発明は、室内における揮発性有機化合物や、浮遊細菌・ウイルスを、精度高く低減させることができる有害物質分解除去装置を提供するとともに、有機化合物過敏症に到った患者や、感染症患者に対して、治療環境を提供できる隔離チャンバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明は、繊維を交絡させて形成されたシート状多孔質体の少なくとも表面近傍に光触媒を保持させた光触媒担持体と、上記光触媒担持体に所要の光を照射する光源と、上記光触媒担持体の表面に沿って設けられたガス流路とを備え、上記光触媒を用いて空気中の揮発性有機化合物及び/又は有害微生物を除去する有害物質分解除去装置である。上記光触媒担持体は、上記ガス流路を構成する所定の隙間を開けるとともに、上記光源を囲むようにして、上下方向に同心円筒状に配置された外側光触媒担持体及び内側光触媒担持体を備えて構成されている。また上記光触媒担持体及び上記ガス流路の上方を覆うとともに、略円錐状に形成されて上方に空気排出口を設けた上壁部と上記光触媒担持体の外周にガス流路を構成する所定の隙間を開けて設けられた円筒状の光反射板とを備えて構成されている。上記光源は、上記光触媒担持体の内方面を照射できるように側壁部に設けた発光素子と、上記上壁部の内面を照射できるように頂部に設けた発光素子とを備える円筒状に形成されている。上記光触媒担持体は、所定の光反射率と光透過率とを有し、また、光を通過させる開口部を備えるとともに、各光触媒担持体を透過及び通過した光、及び各光触媒担持体の表面で反射された光が、これらに対向する上記光触媒担持体、上記上壁部及び上記光反射板の各表面に照射されるように構成されている。上記光反射板及び上記上壁部は、繊維を交絡させて形成された所定の光反射率を有するシート状多孔質体から形成されている。上記光反射板の内側表面において反射された光が対向する上記光触媒担持体に照射されるように構成されているとともに、上記頂部に設けた発光素子から照射されて上記上壁部の内面で反射された光が、上方から上記光触媒担持体及び上記ガス流路に照射されるように構成されている。上記光反射板の内側表面に、上記光触媒が保持されている。
【0020】
上述したように、光触媒を用いて種々のVOCや、細菌・ウイルスを分解除去できることが知られている。しかし、光触媒を用いてVOC等を精度高く分解するには、光触媒に対して高いエネルギーを持った光を照射する必要がある。また、光触媒の反応面積を大きく設定するとともに、揮発性有機化合物等の有害物質を含むガスを、上記光触媒の近傍を通過させる必要がある。
【0021】
本願発明に係る上記光触媒担持体は、繊維を交絡させて形成されたシート状多孔質体から形成されているとともに、上記光源から放射された光が所定量通過できるように構成されている。このため、一のシート状光触媒担持体を通過した光を、光の照射方向に対して上記一のシート状光触媒担持体の後方に位置する他の光触媒担持体に照射することが可能となる。このため、一の光触媒担持体の光源に対する背面側にも、空気等を流動させるガス流路を設けることが可能となり、分解対象となる空気等のガスの処理量を増加させることができる。また、一のシート状光触媒担持体における上記光源と反対側の表面に担持された光触媒に光を照射することもできる。このため、光を照射できる光触媒担持体の表面積をこれまでになく大きく設定することが可能となる。
【0022】
また、光源に対して背面側にもガス流路を設けることができるため、光触媒担持体間の隙間を小さく設定してもガス流路の断面を確保することが可能となり、大量のガスを光触媒担持体の表面近傍で流動させることが可能となる。このため、光触媒による揮発性有機化合物等の分解効率や除去精度が高まる。
【0023】
光が通過できる光触媒担持体を構成する手法は特に限定されることはない。シート状多孔質体内を光が通過できるように構成することができる。上記光触媒担持体を、少なくとも可視光線域の波長の光に対して、5%〜80%の光透過率、より好ましくは、10〜50の光透過率を有するように構成するのが望ましい。光触媒担持体自体に光透過性を持たせることにより、上記光触媒担持体内を透過する光を、上記光触媒担持体の内部及び/又は上記光源側と反対側の表面近傍に担持させた光触媒に照射するように構成することができる。この構成を採用することにより、装置内に配置される光触媒担持体の表面の全域に、所要の強さの光を照射することが可能となる。このため、上記ガス流路を流れるガス中の揮発性有機化合物を効率よく分解できるのみならず、光源から照射される光を効率よく利用することが可能となる。
【0024】
しかも、光触媒担持体に担持された光触媒のほぼすべてに光を照射することが可能となり、有機化合物分解性能を格段に高めることができる。特に、上記光源と反対側の表面近傍に担持された光触媒にも光が照射されるため、光源の光を極めて有効に利用することができる。
【0025】
上記光触媒担持体に光を通過させる手法として、上記光触媒担持体自体に光の透過性を持たせることができる。上記光透過率は、シートの厚みを調整することにより、所要の値に設定できる。また、上記光触媒担持体に、上記光源からの光を通過させる開口部を設けることができる。上記開口部を通過した光を、ガス流路を構成する上記隙間を介して配置された他の光触媒担持体の表面に照射し、上記他の光触媒担持体で反射される光を対向する光触媒担持体の表面に照射できるように構成することができる。
【0026】
この手法を採用することにより、光源からの光の強度を低下させることなく、一の光触媒担持体の背面側に配置した複数の光触媒担持体の表面に照射することが可能となる。上記光触媒担持体を、光透過性のある材料で形成するとともに、上記開口部を備えて構成するのが望ましい。これにより、光源から離れて位置する光触媒担持体に所要の光を照射することが可能となり、有害物質の分解効率を高めることができる。
【0027】
さらに、上記各光触媒担持体の表面を、少なくとも可視光線域の波長の光に対して、20〜95%の光反射率、より好ましくは、60〜95%の光反射率を備えるように構成し、各光触媒担持体の表面で反射した光を対向する光触媒担持体の表面に照射するように構成するのが好ましい。これにより、上記ガス流路を構成する光触媒担持体の表面で光が散乱して、光触媒担持体表面に光をくまなく照射することが可能となる。これにより、光触媒担持体表面に照射される光の強度が均一化されて、上記光触媒担持体間を流れるガスに含まれるVOCや細菌・ウイルスを精度高く分解することが可能となる。上記範囲の反射率以下では、光が十分に散乱せず、装置内を所要の照度に保持することが困難になる。
【0028】
また、光触媒担持体の形態に応じて、上記光通過性と上記光反射率を組み合わせて調整することにより、光触媒担持体の表面に対して、均一な光を照射することが可能となる。
【0029】
上記光触媒担持体の配置形態は特に限定されることはない。たとえば、光触媒担持体を、上記ガス流路を構成する所定の隙間を開けて同心円筒状に配置された外側光触媒担持体と内側光触媒担持体とを備えて構成し、中央部に設けた光源から、上記内側光触媒担持体の内面に光を照射し、上記内側光触媒担持体を通過した光を、上記ガス流路を介して対向する外側光触媒担持体の内面に照射するとともに、上記外側光触媒担持体の内面で反射された光を、上記内側光触媒担持体の外面に照射するように構成することができる。
【0030】
上記構成を採用すると、光源から光が放射状に照射されるため、光源からの光を効率よく利用することができる。このため、装置の容積に比して、分解効率の高い装置を構成できる。
【0031】
また、上記光触媒担持体を、上記ガス流路を構成する所定の隙間を開けて平行状に配置された第1の光触媒担持体と第2の光触媒担持体とを備えて構成し、第1の光触媒担持体の一側に設けた光源から、上記第1の光触媒担持体の一方の面に光を照射し、上記第1の光触媒担持体を通過した光を、上記ガス流路を介して対向する第2の光触媒担持体の一方の面に照射するとともに、上記第2の光触媒担持体の一方の面で反射された光を、上記第1の光触媒担持体の他方の面に照射するように構成することができる。
【0032】
上記構成を採用すると、厚みの小さい装置を構成することが可能となる。このため、室内の壁面に取り付けて用いることができる有害物質分解除去装置を提供できる。
【0033】
上記光触媒担持体の外側に、ガス流路を介して光反射板を設け、上記光反射板に反射した光を対向する光触媒担持体の表面に照射するように構成することができる。光反射板を構成する材料は特に限定されることはない。上記光反射板は光を透過させる必要がなく、反射率の高いものを採用できる。また、上記光反射板の表面に光触媒を担持させるのが好ましい。また、上記各光触媒担持体の上方に、略円錐状に形成されるとともに、上方に空気排出口が形成された上壁部を設けるのが好ましい。上記上壁部も上記光反射板と同様の材料から形成することができる。
【0034】
揮発性有機化合物や、細菌ウイルスを所要の程度まで低下させるには、光源から発せられた光が一の光触媒担持体を通過し、これに対向する光触媒担持体表面に照射される光の照度が、5000ルクス以上となるように構成するのが望ましい。さらに、上記光触媒担持体の全表面における照度が5000ルクス以上になるように構成するのが望ましい。本願発明では、光触媒担持体に光通過性及び光反射性を持たせているため、装置を構成する光触媒担持体の全表面を5000ルクス以上の照度に設定することが可能となる。
【0035】
上記光触媒担持体のすべての表面に5000ルクス以上の光が照射されるように、上記光源の光強度、上記光触媒担持体の光透過率、上記開口部の形状、配置等を設定するのが好ましい。
【0036】
繊維を交絡させて形成されたシート状多孔質体であれば、上記光触媒担持体を構成する材料は特に限定されることはない。たとえば、上記光触媒担持体を、セルロース繊維を用いたパルプモールド法によって形成することができる。上記光触媒担持体の表面の、少なくとも可視光線領域の波長の光に対する反射率が、20〜95%となるように、上記セルロース繊維を漂白して光触媒担持体の白色度や表面粗さ等を設定するのが好ましい。
【0037】
上記光触媒担持体を、表面に凹凸を備えて構成するのが好ましい。上記凹凸を設けることにより、光触媒担持体の表面積を増加させることができる。たとえば、椀状、あるいはカップ状の凹凸を設けることができる。上記凹凸の底部あるいは頂部に上記開口部を設けることができる。
【0038】
上記ガス流路を流動する揮発性有機化合物や、細菌・ウイルスを上記光触媒担持体の表面に吸着させてから分解するように構成することができる。すなわち、上記光触媒担持体の吸着性能を高め、上記分解機能と吸着機能とを組み合わせて、有害な有機化合物を分解除去することができる。上記光触媒担持体の吸着性能を高めるため、揮発性有機化合物等を吸着する吸着成分を含ませることができる。たとえば、二酸化珪素等の粉体を、光触媒担持体に担持させることにより、揮発性有機化合物の吸着性能を高めることが可能となる。上記二酸化珪素は光によって変質せず、吸着した揮発性有機化合物を光触媒の近傍に留めることができる。このため、分解途中の中間生成物を吸着させて分解を促進することができる。
【0039】
また、細菌等が付着した微粒子を補足するために、上記光触媒担持体に静電気を帯びるように構成することもできる。
【0040】
上記光源の種類も限定されることはなく、光触媒反応を生じさせる光であればよい。たとえば、上記光源を、LED発光素子を備えて構成することができる。また、紫外線を照射できる光源を採用してもよい。また、本願発明では、上記光触媒担持体及び上記ガス流路の上方を覆うとともに、略円錐状に形成されて上方に空気排出口を設けた上壁部を備えて構成される。上記上壁部は、光を反射する材料で形成されている。そして、上記光源として、円筒状の壁部の外周のみならず、頂部に多数の発光素子を配列して構成したものを採用することにより、上記上壁部の内面で反射された光を、上記光触媒担持体及び上記ガス流路の上方から照射することが可能となり、光触媒担持体に担持された光触媒の作用をより高めることができる。
【0041】
上記光源の表面近傍にも揮発性有機化合物や細菌等が付着した塵等が流動するため、これら物質が光源の表面に付着して、光の照射効率が低下する恐れがある。たとえば、上記LED発光素子を採用した場合、LED発光素子の表面に沿ってガスが流動するため、揮発性有機化合物が、上記LED発光素子の表面に吸着されて光の照射量が減少し、揮発性有機化合物の分解効率が低下する恐れがある。上記不都合を回避するため、上記ガス流路を流れるガスが、上記LED発光素子に接触するのを阻止する透光性の隔離シートを設けることができる。
【0042】
上記透光性の隔離シートは、種々の材料から形成することができる。たとえば、光によって劣化しにくい透光性の樹脂フィルムを採用することができる。上記隔離シートは、光源側に設けることもできるし、光触媒担持体の側に設けることもできる。上記光触媒担持体を、上記隔離シートを備えて形成し、これら部材を一体的に交換できるように構成することもできる。
【0043】
上記隔離シートの形態は、光源の形態及び光触媒担持体の形態に応じて形成することができる。たとえば、円筒状の光源の周囲に円筒状の光触媒担持体を配置して構成される装置においては、上記光源を囲む円筒状の隔離シートを設けることができる。一方、平板状の光源と平板状の光触媒担持体を配置して構成される装置においては、上記光源と上記光触媒担持体の間に、平板状の隔離シートを配置することができる。
【0044】
分解効率を高めるには、揮発性有機化合物等を含むガスをできるだけ光触媒担持体の表面近傍で流動させるのが効果的である。このため、一の光触媒担持体の表面に沿って流動するガスを、一方の側面から他方の側面に流動させるガス通過孔を設けることができる。
【0045】
上記ガス通過孔の形態は限定されることはないが、一方向に流れるガスを一の側面から他の側面に誘導するため、光触媒担持体に凸部を設け、この凸部におけるガスの流動方向と反対側に開口する通過孔を設けるのが好ましい。また、光触媒担持体に凹凸を設け、上記凹凸の側面に、ガスの流れに対向する向きに開口する通過孔を設けることができる。
【0046】
上記ガスを流動させる手法は特に限定されることはない。たとえば、光源から発せられる熱による対流現象を利用して、上記ガス流路の下方から上方に向けてガスを流動させることができる。また、電動ファン等を利用して強制的に流動させることもできる。
【0047】
上記有害物質分解除去装置は、単独で、あるいは種々の空気清浄機構と組み合わせて、室内空気浄化装置として構成できる。たとえば、塵を除去するフィルター等を設けることもできる。なお、本願発明に係る有害物質分解除去装置は、光触媒の作用によって高い殺菌性能を備えており、上述したように空気感染を防止する目的で使用することもできる。
【0048】
また、本願発明に係る有害物質分解除去装置は、有機化合物の分解性能が高いため、空気中の揮発性有機化合物の濃度を非常に低く保持することができる。このため、揮発性有機化合物によって発症する疾病、たとえば、所定物質の過敏性(アレルギー)に対する治療装置を構成できる。特に、治療装置として用いる場合、少なくとも患者の存在空間における総有機化合物濃度を0.005ppm以下に設定できるように構成するのが望ましい。上記濃度は、一般的なガス検知管の検出限度であり、主な揮発性有機化合物の濃度を上記の濃度以下にすることにより、所要の効果を期待できる。
【0049】
また、上記治療装置の一形態として、揮発性有機化合物に対しての過敏性を獲得した患者を収容できる隔離チャンバーを設け、この隔離チャンバー内に上記有害物質分解除去装置を設けて、上記隔離チャンバー内の空気を循環させつつ、上記隔離チャンバー内の所定の揮発性有機化合物の濃度を0.005ppm以下まで減少させるように構成することもできる。上記隔離チャンバーの形態は特に限定されることはなく、たとえば、患者の周囲の空間を通気性のないシート等で区画して構成することもできる。これにより、患者の病状を改善することが可能となる。
【0050】
また、本願発明に係る有害物質分解除去装置は、細菌・ウイルスの除去性能も高い。このため、感染症の患者を隔離する目的で、本願発明に係る上記有害物資分解除去装置及び上記隔離チャンバーを用いることができる。
【0051】
さらに、介護が必要な老人は感染症にかかりやすい。すなわち、健康な人が保有する細菌等によっても、感染症を引き起こす危険性がある。本願発明に係る有害物質分解除去装置は居室等に容易に設置できるものであるため、老人等の居室に設置して、家庭内の感染症を防止する手段として用いることもできる。
【発明の効果】
【0052】
室内における揮発性有機化合物の濃度を精度高く低減させることができるとともに、空気中を浮遊する細菌ウイルスを低減させることができる、有害物質分解除去装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本願発明の第1の実施形態に係る有害物質分解除去装置の断面図である。
図2図1に示す有害物質分解除去装置の分解図である。
図3図1におけるIII−III線に沿う平面図である。
図4図1におけるIV−IV線に沿う断面図である。
図5図4の要部拡大図であり、光の進路を説明するための断面図である。
図6図5におけるVI−VI線に沿う断面図である。
図7】本願発明に係る光触媒担持体の構造を模式的に示す拡大断面図である。
図8】本願発明に係る第2の実施形態に係る有害物質分解除去装置の作用を模式的に示す断面図である。
図9】本願発明に係る第3の実施形態に係る有害物質分解除去装置の作用を模式的に示す断面図である。
図10】本願発明に係る有害物質分解除去装置の第4の実施形態を示す断面図である。
図11】本願発明に係る有害物質分解除去装置の第5の実施形態を示す断面図である。
図12】本願発明に係る有害物質分解除去装置を用いて構成される治療用チャンバーの概略図である。
図13】本願発明に係る有害物質分解除去装置の性能を示す図である。
図14】本願発明に係る有害物質分解除去装置の性能を示す図である。
図15】本願発明に係る有害物質分解除去装置の性能を示す図である。
図16】第1の実施形態に用いた光触媒担持体の光透過率のグラフである。
図17】第1の実施形態に用いた光触媒担持体の光反射率のグラフである。
図18図16に示す光触媒担持体の光触媒を担持していない場合の光透過率のグラフである。
図19図17に示す光触媒担持体の光触媒を担持していない場合の光反射率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本願発明の実施形態を図に基づいて具体的に説明する。
【0055】
図1は、本願発明の第1の実施形態に係る有害物質分解除去装置1の内部構造を示す断面図であり、図2は、図1に示す有害物質分解除去装置1の部材構成を示す分解図である。
【0056】
本願発明に係る有害物質分解除去装置1は、円筒状の壁部2aの外周及び頂部に多数のLED発光素子2bを配列して構成された光源2と、この光源2を囲むように配置された円筒状の内側光触媒担持体3aと、上記内側光触媒担持体3aを囲むように配置された外側光触媒担持体3bと、上記外側光触媒担持体3bを囲むように形成された円筒状の光反射板4と、上記光反射板4を支持するとともに、上記各部材を収容する外壁部5とを備える。また、上記各光触媒担持体3a,3bの上方には、略円錐状に形成されるとともに、上方に空気排出口10aが形成された上壁部10が設けられている。上記上壁部10も上記光触媒担持体3a,3bと同様の材料から形成されている。
【0057】
図5及び図6に示すように、上記光源2と上記内側光触媒担持体3aとの間には第1のガス流路6が、上記内側光触媒担持体3aと上記外側光触媒担持体との間には第2のガス流路7が、上記外側光触媒担持体3bと上記光反射板4との間には第3のガス流路8が設けられている。
【0058】
上記光源2の下方には、上記各部材を所定の高さ位置で保持するスタンド9が設けられている。上記スタンド9の内部には、上記光源2に電力を供給する電気配線が内蔵されており、電源コード11が延出されている。上記スタンド9の頂部には上記光源2が接続されたソケット9aが設けられている。また、スタンド9の上方側部から半径方向外方へ放射状に延びるとともに上記外壁部5に連結された支持部材12が設けられており、上記内側光触媒担持体3aと上記外側光触媒担持体3bが、上記ガス流路6,7,8を構成する隙間を介して所定位置に位置決め保持されている。なお、第1の実施形態では、上記外壁部5を円筒状の部材で形成したが、骨組みのみで形成することもできる。また、上記光反射板4を、上記光触媒担持体3a,3bと同じ材料から形成し、光の一部を装置の外部に洩らして照明装置として機能させることもできる。
【0059】
図7は、光触媒担持体の構造を模式的に示す拡大断面図である。
【0060】
図7に示すように、上記光触媒担持体3a(3b)は、セルロース繊維を主成分とする繊維材料15をパルプモールド法よって、厚さ1.5mm〜2.0mmに一体成形することによりシート状多孔質体が形成されている。また、上記繊維材料15は、所要の透光性を有する密度で交絡成形されている。
【0061】
図5及び図6に示すように、上記光触媒担持体3a(3b)は、上記光源2に向かって突出する中空凸部20が、所定の配列で形成されている。上記中空凸部20は、上記光源2に向かって断面積が減少するカップ状に形成されており、上記中空凸部20の頂部には、光源からの光を通過させる開口部21が形成されている。そして、上記中空凸部20が縦横に配列形成された板状部材を、湾曲させて端縁を接合することにより、円筒状の上記光触媒担持体3a(3b)が形成されている。
【0062】
図16及び図17に示すように、本実施形態に係る光触媒担持体3a(3b)は、波長450nm以上の可視光線域における波長の光の透過率の平均が、5%以上であるとともに、表面での光反射率が、ほぼ90%となるように形成されている(島津製作所ソリッドスペック3700を用いて、拡散反射率及び全光線透過率を計測:参考 JISP8148、JISP8149、JISP8152)。上記光透過率は、厚みを調整することにより、5〜80%の範囲に設定できる。また、上記光反射率は、上記繊維材料15の交絡密度及び各繊維の白色度等を調整することにより設定できる。本願発明に係る光触媒は、接着剤等を用いることなく、各繊維の表面に保持される。このため、上記繊維表面の反射率を高めることにより、上記光触媒の反応効率をより高めることができる。また、繊維表面の反射率を大きく設定することにより、繊維の劣化速度を低減させることもできる。
【0063】
上記光触媒担持体の表面には、光触媒16として粉体状の二酸化チタンが担持されている。上記二酸化チタンとして、アナターゼ型結晶構造を有する、平均粒度が0.01〜0.05μmの二酸化チタンを採用するのが好ましい。また、上記二酸化チタンの比表面積も特に限定されることはなく、50〜300平方メートル/gのものを採用することができる。さらに、本実施形態では、上記二酸化チタンに加え、銀粒子等の他の光触媒粒子を担持させることができる。
【0064】
図7に示すように、粉体状の二酸化チタンからなる光触媒16は、上記光触媒担持体3a(3b)の少なくとも表面近傍に担持させられている。上記光触媒16を担持させる手法は特に限定されることはない。また、上記光触媒の担持部位も限定されることはない。たとえば、光触媒を水に分散させた溶液を、上記光触媒担持体の表面にスプレイすることにより、光触媒16を、光触媒担持体の表面からある深さ範囲に保持させることができる。また、バインダ等の光触媒を担持させるための添加剤を用いることなく、光触媒の粒子を交絡させた繊維間あるいは繊維の表面に担持させることができる。これにより、上記光触媒担持体の表面近傍を流れる空気中の揮発性有機化合物に対して、光触媒を効果的に作用させることができる。また、光触媒粒子を分散させた溶液中に光触媒担持体3a(3b)を浸漬することにより、光触媒担持体の厚み方向中央部まで光触媒を担持させることができる。
【0065】
本実施形態では、上記光触媒担持体3a(3b)は、光透過性を有しているため、光源からの光が直接照射される半径方向内面に担持された光触媒のみならず、光源と反対側の半径方向外面に担持された光触媒にも光が照射される。このため、上記光触媒担持体3a(3b)の表裏両面に沿って流れる空気中の揮発性有機化合物を効率よく分解することが可能となる。
【0066】
さらに、図5に示すように、本実施形態に係る上記光触媒担持体3a,3bに設けた上記中空凸部20の頂部には、上記光源2からの光を直接通過させる円形の開口部21が設けられている。上記内側光触媒担持体3aと上記外側光触媒担持体3bの上記開口部21は、上記光源2からの光の一部を通して通過させることができるように、所定量ずらして配置されている。この構成によって、上記光源2からの光を上記外側光触媒担持体3bの内面及び上記光反射板4の表面(内面)に直接照射することが可能となる。また、上記各光触媒担持体の表面の光反射率が90%であるため、対向する光触媒担持体間で光が乱反射されて、光触媒担持体表面の光の強度を均一化することが可能となる。
【0067】
しかも、上述したように、上記各光触媒担持体3a,3bは、所定の光透過性を有しているため、上記各光触媒担持体3a,3bを透過した光も、対向する光触媒担持体に照射されることになる。
【0068】
加えて、各光触媒担持体3a,3b及び光反射板4は、所定の光反射率を備え、表面において光を乱反射させることかできるように構成されている。このため、各光触媒担持体3a,3b、及び光反射板4の表面で反射された光は、対向する光触媒担持体に光を照射される。この結果、上記光源2から照射される光を、上記光触媒担持体の表裏全面、及び光反射板の全面にくまなく照射することが可能となる。これにより、各光触媒担持体3a,3b及び光反射板4の表面に担持された光触媒に効率よく光を照射することが可能となる。
【0069】
上記光触媒担持体3a,3b及び光反射板4の表面において、揮発性有機化合物を精度高く分解し、あるいは細菌やウイルスを分解するには、各部材の表面に照射される光の強度が5000ルクス以上となるように設定するのが好ましい。本実施形態に係る上記光源2は、内側光触媒担持体3aの内面に対して70000ルクスの照度を発揮できるように構成されており、上記光触媒担持体3a,3bの光透過率及び光反射率、及び上記光反射板4の光反射率によって、これら部材の表面全域に照射される光の強度が5000ルクス以上となるように設定されている。
【0070】
上記構成の有害物質分解除去装置1においては、光触媒担持体3a,3bの表面全域に、強度の高い光を照射することができる。このため、上記光触媒担持体3a,3bの表面に担持された光触媒の活性が高められて、その近傍を流れる揮発性有機化合物や、細菌・ウイルスを効率よく分解除去することが可能となる。
【0071】
図6に示すように、上記内側光触媒担持体3aと上記外側光触媒担持体3bにおける上記中空凸部20は、上下方向にも所定量ずらして配列されている。このため、図6に示すように、光源2からの光は、図5に示す場合と同様に、内側光触媒担持体3a及び外側光触媒担持体3bの内面及び外面にくまなく照射される。
【0072】
図6に示すように、上記光源2から放射される熱によって、上記各光触媒担持体及び光反射板4の温度が上昇し、空気が下方から上方にむかって対流させられる。また、上記中空凸部20の頂部に設けた開口部21から空気が各ガス流路に出入りさせられる。さらに、上記ガス流路6,7,8から流出した空気は、上記上壁部10の円錐状の内面に沿って流動させられ、上記排気口10aから搬出される。
【0073】
上記実施例においては、空気は光源から放射される熱によって対流させられるように構成したが、装置の上部あるいは下部にファンを設けて、上記各ガス流路のガスを強制的に流動させるように構成することもできる。
【0074】
図8は、本願発明に係る第2の実施形態に係る有害物質分解除去装置51の内部構造を模式的に表したものである。第2の実施形態では、第1の光触媒担持体53aと第2の光触媒担持体53bを平板状に形成するとともに、ガス流路56,57を構成する所定の隙間を介して平行状に配置し、光源52から光を照射できるように構成している。本実施形態では、上記光触媒担持体53aに開口部は設けられておらず、光触媒を透過する光によって、上記第2の光触媒担持体53bの内面に光が照射されるように構成されている。
【0075】
上記光源52の形態は特に限定されることはないが、上記光触媒担持体53a,53bとほぼ同じ平坦面にLED発光素子を配列した面状の光源を採用するのが好ましい。また、本実施形態では、第1の光触媒担持体53aに光を直接通過させる開口部が設けられていないため、上記第1の実施形態に係る光触媒担持体より、光透過性の高いものを採用するのが好ましい。たとえば、光透過率が50%以上のものを採用するのが好ましい。上記光透過率は、光源52に近い方の光触媒担持体53aの厚みを低減させることにより得ることができる。
【0076】
図9に示す第3の実施形態のように、上記平板状に形成した第1の光触媒担持体53aの表面に所定間隔で所定の開口部21を設けることができる。この場合、第1の実施形態と同様に、光源52からの光の一部が、上記第1の光触媒担持体53aの内部を透過させられるとともに、上記開口部21を通過した光が、上記第2の光触媒担持体53bの内面に直接照射される。
【0077】
図8及び図9に示した実施形態では、装置の全体を厚みが小さい矩形状に形成することができるため、壁掛け型の装置を構成できる。上記第2の光触媒担持体53bを、光透過性を備えて構成することもできるし、光透過性がないように構成することもできる。この場合、光反射率を80%以上に設定するのが好ましい。これにより、光をガス流路内で乱反射させて、対向する光触媒担持体53a,53bの表面に、所要の強度の光を照射することができる。
【0078】
図10に、本願発明の第4の実施形態を示す。
【0079】
図10に示す有害物質分解除去装置101は、平板状の基板102aにLED発光素子102bを配列した面状の光源102と、上記光源102に第1のガス流路106を構成する隙間を介して平行状に配置された第1の光触媒担持体103aと、上記第1の光触媒担持体103aに第2のガス流路107を構成する隙間を介して平行状に配置された第2の光触媒担持体103aと、上記第2の光触媒担持体103bに第3のガス流路108を構成する隙間を介して平行状に配置された平板状の光反射板104とを備えて構成されている。
【0080】
上記各光触媒担持体103a,103bは、第1の実施形態と同様に、所定の光透過性を備えるとともに、所定の配列で開口部121が設けられている。そして、第1の実施形態と同様に、光源102からの光の一部が各光触媒担持体103a,103bの内部を透過するとともに、一部の光が上記開口部121を通過するように構成されている。
【0081】
本実施形態では、上記各光触媒担持体103a、103bに、下方に開口する空気流通孔131を備える中空凸部120が、所定の配列で形成されている。上記空気流通孔131は、下方に向けて開口しているため、各光触媒担持体103a,103bの表裏の表面近傍を上方に向かって流れる空気を、一方の表面から他方の表面に流動させることが可能となる。
【0082】
上記構成を採用することにより、空気を光触媒担持体103a,103bの表面近傍に沿って流動させることが可能となり、流動する空気に光触媒を効果的に作用させることができる。
【0083】
図11に、本願発明の第5の実施形態に係る有害物質分解除去装置の断面を示
す。
【0084】
第5の実施形態では、断面波形に形成された光触媒担持体203a,203b,203cを、ガス流路207,208を構成する隙間を介して平行に配列するとともに、これら光触媒担持体203a,203b,203cの両側に、ガス流路206,209を構成する隙間を介して平板状の光源202,202を設けたものである。
【0085】
上記光触媒担持体203a,203b,203cは、第1の実施形態と同様に、所定の光透過性及び光反射率を備えて形成されている。また、上記開口部221は、上記光源202,202からの光が、上記3枚の光触媒担持体の表面に直接照射されるように配置されている。上記構成によって、光源202,202からの光を、3枚の光触媒担持体203a,203b,203cの表面のすべてに照射することができる。なお、他の構成や作用効果は、第1の実施形態と同様であるので説明は省略する。
【0086】
本実施形態では、各光触媒担持体203a,203b,203cの断面が波形に形成されているため、図11に示すように、各光触媒担持体203a,203b,203cの各間に設定されたガス流路206,207,208,209を流れる空気の一部が、上記開口部221を介して、一のガス流路から他のガス流路に流動させられる。すなわち、装置内を流れる空気が、ガス流路と直交する方向へ移動しながら流動させられる。このため、空気が各光触媒担持体203a,203b,203cの表面に近接する機会が多くなり、光触媒を効果的に作用させることができる。なお、上記波形形状は、紙面に直交する方向に同一の断面を備える必要はない。たとえば、膨出部が千鳥状に設けられた形態を採用することができる。
【0087】
図12に、本願発明に係る光触媒担持体を用いて構成した、治療用チャンバー400の概略図を示す。治療用チャンバー400は、病室等の一部をカーテン451等で仕切って形成することができる。上記チャンバー400の内部には、ベッド440が配置されており、ベッドの下方に、第1の実施形態に係る有害物質分解除去装置401aが設置されている。また、壁部400aには、図10図11に示す構造を備える有害物質分解除去装置401bが設置される。以下、上記有害物質分解除去装置401a、有害物質分解除去装置401bを、揮発性有機化合物分解除去装置として使用した場合を説明する。
【0088】
上記構成の治療用チャンバー400においては、チャンバー内の空気を、本願発明に係る有害物質分解除去装置401a、401bを用いて循環させながら空気中の有機化合物を分解除去することができる。また、ベッド、床面、カーテン等から揮発性有機化合物が発散している場合であっても、少なくとも患者450の周囲の空気中の揮発性有機化合物の濃度を低減させることができる。本願発明に係る有害物質分解除去装置は、ほとんどの有機化合物に対して所定の低減効果を期待できる。このため、揮発性有機化合物に対する過敏性を獲得した患者の治療空間を容易に提供することができる。
【0089】
図13から図15は、本願発明に係る有害物質分解除去装置の性能の試験結果を示すグラフである。これらの性能試験では、0.9m×0.9m×0.9mの空間内に、第1の実施形態に示す形態の有害物質分解除去装置を設置し、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アンモニアの各揮発性有機化合物のガスを上記空間に注入して、経過時間に対する各ガス成分の濃度を測定したものである。
【0090】
本性能試験に用いた有害物質分解除去装置における光触媒担持体は、第1の実施形態に示したものであり、約2m2 の表面積を備えて構成されている。また、約60ワットの可視光線形のLED発光装置が採用されている。
【0091】
各揮発性有機化合物ガスの濃度は、ガステック製のガス検地管式測定器を用いて測定した。ガス検地管式測定器のこれらガスに対する検出限度は、約0.005ppmである。なお、ガス検地管式測定器の測定方法は、JISK08048(JISZ8301)に規定されているので説明は省略する。
【0092】
図13及び図14に示すように、本願発明に係る有害物質分解除去装置を作動させると、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドの濃度が急激に低下し、炭酸ガスと水蒸気とに分解され、4時間後には測定限界(0.005ppm以下)に達していることが判る。一方、有害物質分解除去装置を設けていないものについては、ガス濃度の低下はほとんどなかった。
【0093】
図15は、高濃度のアンモニアガスに対して本願発明に係る有害物質分解除去装置の性能を示すグラフである。初期のアンモニア濃度は5ppmがであったが、4時間経過後は、窒素ガスと水蒸気とに分解され、初期の濃度の25分の1の濃度である0.2ppmまで減少させることができた。一方、有害物質分解除去装置を設けていないものについては、ガス濃度の低下はほとんどなかった。
【0094】
上記試験結果から、本願発明に係る有害物質分解除去装置を用いて、空気中の種々の揮発性有機化合物を効果的に除去できることが判る。
【0095】
なお、上記実施形態では、有害物質分解除去装置401a、401bを、揮発性有機化合物分解除去装置として用い、患者に治療空間を与えることを目的としたが、感染症の患者に用いて、ウイルス等が管理空間から漏れでないようにする隔離チャンバーとして用いることもできる。
【0096】
本願発明は、上記実施形態に限定されることはない。実施形態では、LED発光素子を用いた光源を用いたが、蛍光式の光源や、紫外線ランプを用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
空気中の揮発性有機化合物を効果的に除去する、有害物質分解除去装置を提供
できる。
【符号の説明】
【0098】
1 有害物質分解除去装置
2 光源
3a 光触媒担持体
3b 光触媒担持体
6 ガス流路
7 ガス流路
8 ガス流路
16 光触媒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19