(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704298
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】DC/DCコンバータおよびその制御回路、制御方法、電子機器
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
H02M3/155 C
H02M3/155 W
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-112952(P2016-112952)
(22)【出願日】2016年6月6日
(65)【公開番号】特開2017-221006(P2017-221006A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 紗織
(72)【発明者】
【氏名】坂本 忠之
【審査官】
木村 励
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−219184(JP,A)
【文献】
特開2001−103753(JP,A)
【文献】
特開2015−128352(JP,A)
【文献】
特開2012−50207(JP,A)
【文献】
特開2013−126335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数チャンネルを有するマルチフェーズのDC/DCコンバータの制御回路であって、
前記DC/DCコンバータの出力電圧に応じたフィードバック信号とその目標値の誤差を増幅し、誤差信号を生成するエラーアンプと、
前記誤差信号にもとづいて、複数チャンネルのパルス信号を生成するパルス変調回路と、
複数チャンネルに対応し、それぞれが対応するパルス信号にもとづいて、対応するスイッチングトランジスタを駆動する複数のドライバと、
複数チャンネルそれぞれのスイッチングトランジスタのゲート信号の積分値または平均値に応じた複数の第1検出信号にもとづいて、異常を検出する異常検出部と、
を備えることを特徴とする制御回路。
【請求項2】
前記異常検出部は、
複数チャンネルに対応し、それぞれが、対応するスイッチングトランジスタのゲート信号の積分値または平均値に応じた前記第1検出信号を生成する複数の第1検出信号生成部と、
前記複数チャンネルについて得られる複数の第1検出信号を比較する比較部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の制御回路。
【請求項3】
前記第1検出信号生成部は、アナログの積分器を含むことを特徴とする請求項2に記載の制御回路。
【請求項4】
前記第1検出信号生成部は、アナログのローパスフィルタを含むことを特徴とする請求項2に記載の制御回路。
【請求項5】
前記異常検出部は、各第1検出信号を、少なくとも別の2つの第1検出信号と比較することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の制御回路。
【請求項6】
前記異常検出部は、複数の第1検出信号から選ばれる2個のすべての組み合わせを比較することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の制御回路。
【請求項7】
前記DC/DCコンバータは同期整流型であり、
前記異常検出部は、
複数チャンネルそれぞれの同期整流トランジスタのゲート信号の積分値または平均値に応じた複数の第2検出信号を比較することにより、異常の生じているチャンネルを判定することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の制御回路。
【請求項8】
前記異常検出部は、
複数チャンネルに対応し、それぞれが、対応する同期整流トランジスタのゲート信号の積分値または平均値に応じた第2検出信号を生成する複数の第2検出信号生成部を含むことを特徴とする請求項7に記載の制御回路。
【請求項9】
あるチャンネルにおいて異常が判定されたとき、当該異常チャンネルの動作を停止し、残りの正常チャンネルを継続動作させることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の制御回路。
【請求項10】
残りの正常チャンネルの個数に応じて、位相差を変更することを特徴とする請求項9に記載の制御回路。
【請求項11】
異常と判定されたとき、外部に通知する通知部をさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の制御回路。
【請求項12】
ひとつの半導体基板に一体集積化されることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の制御回路。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の制御回路を備えることを特徴とするDC/DCコンバータ。
【請求項14】
請求項13に記載のDC/DCコンバータを備えることを特徴とする電子機器。
【請求項15】
複数チャンネルを有するマルチフェーズのDC/DCコンバータの制御方法であって、
前記DC/DCコンバータの出力電圧に応じたフィードバック信号とその目標値の誤差を増幅し、誤差信号を生成するステップと、
各チャンネルにおいて、前記誤差信号にもとづいてパルス信号を生成するステップと、
各チャンネルにおいて、対応するパルス信号にもとづいて、対応するスイッチングトランジスタを駆動するステップと、
各チャンネルにおいて、対応するスイッチングトランジスタのゲート信号の積分値または平均値に応じた第1検出信号を生成するステップと、
前記複数チャンネルに対して得られる複数の第1検出信号を比較することにより、異常の生じているチャンネルを判定するステップと、
を備えることを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DC/DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな電子機器において、ある電圧値の直流電圧を別の電圧値の直流電圧に変換するDC/DCコンバータが使用される。DC/DCコンバータの入力電流のリップルを抑制するために、マルチフェーズのDC/DCコンバータが用いられる。
図1は、マルチフェーズの降圧(Buck)DC/DCコンバータ(単にDC/DCコンバータと称する)900の回路図である。DC/DCコンバータ900は、入力ライン902に直流入力電圧V
INを受け、出力ライン904に降圧された出力電圧V
OUTを発生する。DC/DCコンバータ900は、Mチャンネル(Mは2以上の整数)で構成される。DC/DCコンバータ900はチャンネルごとに、スイッチングトランジスタM1、同期整流トランジスタM2、インダクタL1を有し、全Mチャンネルに共通の出力キャパシタC1を有する。なお、本明細書において必要に応じてチャンネル番号を添え字で示す。
【0003】
コントローラ910は、Mチャンネルで共通のエラーアンプ912と、チャンネルごとに設けられたパルス変調器914_1〜914_Mと、チャンネルごとに設けられたドライバ922_1〜922_Mと、を備える。抵抗R11、R12は、出力電圧V
OUTを分圧し、出力電圧V
OUTに応じたフィードバック信号V
FBを生成する。エラーアンプ912は、フィードバック信号V
FBとその目標値である基準電圧V
REFの誤差を増幅し、誤差に応じた誤差信号V
ERRを生成する。誤差信号V
ERRは、複数チャンネルのパルス変調器914_1〜914_Mに供給される。
【0004】
各チャンネルのパルス変調器914は、誤差信号V
ERRに応じたデューティ比を有するパルス信号S
PWMを生成する。
【0005】
図1のDC/DCコンバータ900をマルチフェーズ動作させるとき、複数チャンネルのパルス変調器914_1〜914_Mは、異なる位相で動作する。たとえばMフェーズで動作する場合、パルス変調器914_1〜914_Mの位相差は、360°/Mとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−126335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
正常に動作するDC/DCコンバータ900では、複数チャンネルのインダクタL1それぞれに、均等に電流が流れることとなる。ところが、いずれかのチャンネルにおいて異常が発生していると、あるチャンネルに電流が偏り、そのチャンネルの回路素子の負担が大きくなるおそれがある。あるいは電流の偏りによって、入力電流のリップルが大きくなり、マルチフェーズの利点が失われてしまう。
【0008】
このような問題は降圧DC/DCコンバータのみでなく、昇圧(Boost)DC/DCコンバータ、あるいは昇降圧コンバータにおいても生じうる。
【0009】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、異常を自己診断可能なマルチフェーズDC/DCコンバータおよびその制御回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様は、複数チャンネルを有するマルチフェーズのDC/DCコンバータの制御回路に関する。制御回路は、DC/DCコンバータの出力電圧に応じたフィードバック信号とその目標値の誤差を増幅し、誤差信号を生成するエラーアンプと、誤差信号にもとづいて、複数チャンネルのパルス信号を生成するパルス変調器と、複数チャンネルに対応し、それぞれが対応するパルス信号にもとづいて、対応するスイッチングトランジスタを駆動する複数のドライバと、複数チャンネルそれぞれのスイッチングトランジスタのゲート信号の積分値または平均値に応じた複数の第1検出信号にもとづいて異常を検出する異常検出部と、を備える。
【0011】
正常動作するマルチフェーズDC/DCコンバータでは、各チャンネルのスイッチングトランジスタは、実質的に同一デューティ比で、所定の位相差を維持しながらスイッチングする。したがって、正常状態では、各スイッチングトランジスタのゲート信号の積分値あるいは平均値である第1検出信号は、実質的に等しくなる。反対にいずれかのチャンネルにおいて異常が生じていると、第1検出信号が他のチャンネルと異なる電圧レベルとなる。この態様によれば、複数チャンネルの第1検出信号を比較することで、異常を自己診断できる。
【0012】
異常検出部は、複数チャンネルに対応し、それぞれが、対応するスイッチングトランジスタのゲート信号の積分値または平均値に応じた前記第1検出信号を生成する複数の第1検出信号生成部と、複数チャンネルについて得られる複数の第1検出信号を比較する比較部と、を含んでもよい。
【0013】
第1検出信号生成部は、アナログの積分器を含んでもよい。第1検出信号生成部は、アナログのローパスフィルタを含んでもよい。
【0014】
異常検出部は、各第1検出信号を、少なくとも別の2つの第1検出信号と比較してもよい。これにより異常チャンネルを特定することが可能となる。
【0015】
異常検出部は、複数の第1検出信号から選ばれる2個のすべての組み合わせを比較してもよい。これにより高精度な異常検出が実現できる。
【0016】
DC/DCコンバータは同期整流型であってもよい。異常検出部は、複数チャンネルそれぞれの同期整流トランジスタのゲート信号の積分値または平均値を示す複数の第2検出信号を比較することにより、異常の生じているチャンネルを判定してもよい。
スイッチングトランジスタに加えて、同期整流トランジスタのスイッチング状態も監視することにより、異常検出の精度を高めることができる。
【0017】
異常検出部は、複数チャンネルに対応し、それぞれが、対応する同期整流トランジスタのゲート信号の積分値または平均値に応じた第2検出信号を生成する複数の第2検出信号生成部をさらに含んでもよい。
【0018】
あるチャンネルにおいて異常が判定されたとき、当該異常チャンネルの動作を停止し、残りの正常チャンネルを継続動作させてもよい。これにより異常状態においても、負荷を駆動し続けることができる。
【0019】
残りの正常チャンネルの個数に応じて、位相差を変更してもよい。これにより系の安定性を高めることができる。
【0020】
制御回路は、異常と判定されたとき、外部に通知する通知部をさらに備えてもよい。
【0021】
制御回路は、ひとつの半導体基板に一体集積化されてもよい。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。
【0022】
本発明の別の態様はDC/DCコンバータに関する。DC/DCコンバータは上述のいずれかの制御回路を備える。
【0023】
本発明の別の態様は、電子機器に関する。電子機器は、上述のDC/DCコンバータを備えてもよい。
【0024】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のある態様によれば、マルチフェーズコンバータの異常を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】マルチフェーズの降圧DC/DCコンバータの回路図である。
【
図2】実施の形態に係る制御回路を備えるDC/DCコンバータの回路図である。
【
図3】
図2のDC/DCコンバータの正常時の動作波形図である。
【
図4】
図2のDC/DCコンバータの異常時の動作波形図である。
【
図5】
図5(a)は、異常検出部の構成例を示すブロック図であり、
図5(b)は、第1比較部の構成例を示す回路図である。
【
図6】実施の形態に係るDC/DCコンバータを備える電子機器の一例を示す図である。
【
図7】第4変形例に係る異常検出部の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0028】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0029】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0030】
また、「信号A(電圧、電流)が信号B(電圧、電流)に応じている」とは、信号Aが信号Bと相関を有することを意味し、具体的には、(i)信号Aが信号Bである場合、(ii)信号Aが信号Bに比例する場合、(iii)信号Aが信号Bをレベルシフトして得られる場合、(iv)信号Aが信号Bを増幅して得られる場合、(v)信号Aが信号Bを反転して得られる場合、(vi)あるいはそれらの任意の組み合わせ、等を意味する。「応じて」の範囲は、信号A、Bの種類、用途に応じて定まることが当業者には理解される。
【0031】
図2は、実施の形態に係る制御回路200を備えるDC/DCコンバータ100の回路図である。DC/DCコンバータ100は、
図1と同様に、マルチチャンネル、マルチフェーズの降圧コンバータ(Buck Converter)であり、入力ライン102に直流入力電圧V
INを受け、それ降圧して所定の目標電圧V
OUT(REF)に安定化された出力電圧V
OUTを生成し、出力ライン104に接続された負荷(不図示)に供給する。
【0032】
DC/DCコンバータ100は、Mチャンネル(Mは2以上の整数)で構成される。チャンネル数Mは任意であり、2チャンネル、3チャンネル、4チャンネル、6チャンネル、8チャンネル、12チャンネル、16チャンネルなど、DC/DCコンバータ100の用途に応じて決めればよい。本実施の形態ではM=4とする。
【0033】
DC/DCコンバータ100は、出力回路110および制御回路200を備える。出力回路110は、チャンネルごとに、スイッチングトランジスタM1、同期整流トランジスタM2、インダクタL1を有し、Mチャンネルに共通の出力キャパシタC1および抵抗R11,R12を有する。本実施の形態において、スイッチングトランジスタM1、同期整流トランジスタM2および抵抗R11,R12は、制御回路200に集積化されているが、外付けのディスクリート素子、チップ部品を用いてもよい。
【0034】
制御回路200は、単一の半導体基板に集積化された機能IC(Integrated Circuit)である。制御回路200には、チャンネルごとに、入力(VIN)端子、スイッチング(LX)端子、接地(GND)端子が設けられ、また全チャンネルに共通のフィードバック(FB)端子が設けられる。FB端子には、出力電圧V
OUTに応じた電圧がフィードバックされる。制御回路200は、出力電圧V
OUTに応じたフィードバック信号V
FBがその目標値V
REFに近づくように、複数チャンネルCH1〜CHMのスイッチングトランジスタM1および同期整流トランジスタM2を駆動する。
【0035】
制御回路200は、エラーアンプ202、パルス変調回路203、ドライバ206_1〜206_M、メインロジック210、異常検出部220を備える。エラーアンプ202は、出力電圧V
OUTに応じたフィードバック信号V
FBとその目標値V
REFの誤差を増幅し、誤差信号V
ERRを生成する。
【0036】
パルス変調回路203は、誤差信号V
ERRにもとづいて複数チャンネルCH1〜CHMのパルス信号S
PWM1〜S
PWMMを生成する。たとえばパルス変調回路203は、複数チャンネルCH1〜CHMに対応するパルス変調器204_1〜204_Mを含む。各チャンネルのパルス変調器204_iは、誤差信号V
ERRに応じたデューティ比(あるいは周波数)を有するパルス信号S
PWMiを生成する。パルス変調器204の構成、変調方式は特に限定されないが、たとえばピーク電流モードのパルス幅変調器を用いることができる。
【0037】
複数のドライバ206は、複数チャンネルに対応する。各チャンネルのドライバ206_iは、対応するパルス信号S
PWMiに応じて、対応するスイッチングトランジスタM1および同期整流トランジスタM2を駆動する。
【0038】
メインロジック210は、制御回路200を統合的に制御するロジック回路であり、起動シーケンスの制御や、複数チャンネルの位相差などを制御する。
【0039】
異常検出部220は、複数チャンネルCH1〜CHMそれぞれのスイッチングトランジスタM1のゲート信号HG
1〜HG
Mを受ける。異常検出部220は、各チャンネルのゲート信号HGの積分値または平均値に応じた第1検出信号を比較することにより、DC/DCコンバータ100の異常の有無を判定する。
【0040】
異常検出部220にはさらに、複数チャンネルCH1〜CHMそれぞれの同期整流トランジスタM2のゲート信号LG
1〜LG
Mを受ける。異常検出部220は、各チャンネルのゲート信号LGの積分値または平均値に応じた第2検出信号を比較することにより、異常の生じているチャンネルを判定する。異常検出部220は、異常を検出すると、異常検出信号S11をアサート(たとえばハイレベル)する。メインロジック210は、異常検出信号S11のアサートに応答して、所定の保護処理を実行する。通知部212は、異常検出信号S11のアサートに応答して、外部の回路に、異常の発生を通知してもよい。通知部212は、ピン214を介してI
2Cなどのバスと接続されるシリアルインタフェース回路であってもよい。あるいは通知部212は、異常の有無に応じて、ピン214の電気的状態を変化させてもよい。
【0041】
以上がDC/DCコンバータ100の構成である。続いてその動作を説明する。
図3は、
図2のDC/DCコンバータ100の正常時の動作波形図である。
【0042】
正常動作するマルチフェーズDC/DCコンバータ100では、パルス信号S
PWM1〜S
PMW4は実質的に同一のデューティ比を有し、360度/4=90度の位相差を有している。
【0043】
正常状態において、各チャンネルのハイサイドのスイッチングトランジスタM1は、実質的に同一デューティ比で、所定の位相差(90度)を維持しながらスイッチングすべきであり、複数チャンネルのゲート信号HGの積分値あるいは平均値である第1検出信号SA
1〜SA
4は、実質的に等しくなる。
【0044】
同様に各チャンネルのローサイドの同期整流トランジスタM2も、実質的に同一デューティ比で、所定の位相差(90度)を維持しながらスイッチングすべきであり、複数チャンネルのゲート信号LGの積分値あるいは平均値である第2検出信号SB
1〜SB
4は、実質的に等しくなる。
【0045】
図4は、
図2のDC/DCコンバータ100の異常時の動作波形図である。ここでは、第4チャンネルCH4のスイッチングトランジスタM1を駆動するハイサイドドライバに異常が生じており、ゲート信号HG4がハイレベルを維持しているものとする。つまりスイッチングトランジスタM1がオフのままスイッチングしない。
【0046】
このとき、第4チャンネルCH4の第1検出信号SA
4は、他の正常チャンネルCH1〜CH3の第1検出信号SA
1〜SA
3と異なる電圧レベルとなる。したがって異常検出部220は、複数の第1検出信号SA
1〜SA
4を比較することにより、第4チャンネルCH4に異常が生じていることを検出できる。
【0047】
以上がDC/DCコンバータ100の動作である。このDC/DCコンバータ100によれば、パルス変調器204の故障、ドライバ206のハイサイドドライバの故障、ローサイドドライバの故障、インダクタの外れ、配線の地絡、天絡などに起因するさまざまな異常を自己診断により検出できる。
【0048】
本発明は、
図2のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、回路に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や回路動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0049】
図5(a)は、異常検出部220の構成例を示すブロック図である。異常検出部220は、複数の第1検出信号生成部222、複数の第2検出信号生成部224、第1比較部226および第2比較部228を含む。第1検出信号生成部222は、ゲート信号HGを積分する積分器あるいはローパスフィルタを含む。第2検出信号生成部224も同様である。
【0050】
第1比較部226は、複数の第1検出信号SA
1〜SA
4を比較し、第1異常検出信号S12を生成する。第2比較部228は、複数の第2検出信号SB
1〜SB
4を比較し、第2異常検出信号S13を生成する。論理ゲート230は、異常検出信号S12とS13の論理和を生成する。
【0051】
図5(b)は、第1比較部226の構成例を示す回路図である。第1比較部226は、各第1検出信号SA
iを、少なくとも別の2つの第1検出信号SA
i−1およびSA
i+1と比較する。なおMチャンネルの場合、SA
0=SA
M、SA
M+1=SA
1とする。
【0052】
第1比較部226は、電圧コンパレータ232のアレイで構成することができる。電圧コンパレータ232の個数は、チャンネル数Mと等しくてよい。各電圧コンパレータ232は、2つの入力の差分(絶対値)が所定のしきい値を超えると、その出力をアサート(たとえばハイレベル)する。論理ゲート234は、複数の電圧コンパレータ232の出力SC
1〜SC
4の論理和を異常検出信号S12として出力する。第2比較部228は、第1比較部226と同様に構成される。
図5(a)の論理ゲート230と
図5(b)の論理ゲート234は、1個にまとめることが可能である。
【0053】
第1比較部226は、M個以上のコンパレータを含んでもよい。たとえば第1比較部226は、複数の第1検出信号SA
1〜SA
4から選択可能な2個のすべての組み合わせを比較してもよい。M個の検出信号SA
1〜SA
Mに対して、2個の組み合わせは、M×(M−1)/2通り存在する。したがって、第1比較部226は、M×(M−1)/2個のコンパレータを含んでもよい。M=4の場合、6個のコンパレータを用いればよい。
【0054】
メインロジック210は、複数の第1検出信号SA
1〜SA
Mの比較結果SC
1〜SC
Mにもとづいて、異常チャンネルCHjを特定してもよい。上述のように、各第1検出信号SA
iを、少なくとも別の2つの第1検出信号SA
i−1およびSA
i+1と比較した場合、異常チャンネルを特定することが可能である。すなわち、SA
jとSA
j−1の比較結果であるSC
jと、SA
jとSA
j+1の比較結果であるSC
j+1がアサートされており、そのほかの比較結果SCがネゲートであるとき、j番目のチャンネルに異常が生じているものと判定することができる。メインロジック210は、異常チャンネルCHjの動作を停止し、残りの正常チャンネルを継続動作させてもよい。これにより異常状態においても、負荷を駆動し続けることができる。
【0055】
この際に、残りの正常チャンネルの個数に応じて、位相差を変更してもよい。たとえばM=4チャンネルの構成において、1チャンネルに異常が認められた場合、残りの3チャンネルを360度/3=120度の位相差で制御してもよい。これにより系の安定性を高めることができる。
【0056】
(用途)
DC/DCコンバータ100は、タブレット端末、スマートホン、ノートPC、デジタルカメラなどの電池駆動型の電子機器に搭載することができる。
図6は、実施の形態に係るDC/DCコンバータ100を備える電子機器700の一例を示す図である。電子機器700は、筐体702、電池704、マイクロプロセッサ706およびDC/DCコンバータ100を備える。DC/DCコンバータ100は、その入力端子に電池704からの電池電圧V
BAT(=V
IN)を受け、出力端子に接続されるマイクロプロセッサ706に、出力電圧V
OUTを供給する。
【0057】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0058】
(第1変形例)
DC/DCコンバータ100は、ダイオード整流型であってもよい。また降圧コンバータには限定されず、昇圧型、あるいは昇降圧型にも本発明は適用可能である。またハイサイドのトランジスタは、NチャンネルMOSFETであってもよい。またスイッチングトランジスタM1や同期整流トランジスタM2として、MOSFETに代えてIGBTやバイポーラトランジスタを用いてもよい。
【0059】
(第2変形例)
単に異常を検出することで足りる場合、第1検出信号SA
1とSA
2、SA
3とSA
4、…、SA
M−1とSA
Mを比較してもよい。第2検出信号SBについても同様である。
【0060】
(第3変形例)
あるいは、全チャンネルの第1検出信号SA
1〜SA
4の平均値を演算により求め、各第1検出信号SA
iを平均値と比較してもよい。
【0061】
(第4変形例)
実施の形態では、チャンネルごとに第1検出信号生成部222や第2検出信号生成部224を設けたがそれに限定されない。
図7は、第4変形例に係る異常検出部220の回路図である。この変形例では、第1検出信号生成部222がチャンネル数Mより少ない個数(たとえば2個)設けられる。マルチプレクサ240は、複数のゲート信号HG
1〜HG
Mの1個HG
iを選択し、第1検出信号生成部222_1に出力する。マルチプレクサ240は、複数のゲート信号HG
1〜HG
Mの1個HG
j(j≠i)を選択し、第1検出信号生成部222_2に出力する。この変形例によれば、マルチプレクサ240、242を制御することで、少ないハードウェアで、複数のゲート信号の任意の組み合わせを比較できる。
【0062】
(第5変形例)
マルチフェーズのパルス信号S
PWM1〜S
PWMMの生成方法も特に限定されない。パルス変調回路230は、1個のPWM信号を生成し、それを位相シフトすることにより、複数のパルス信号S
PWM1〜S
PWMMを生成してもよい。
【0063】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0064】
100…DC/DCコンバータ、102…入力ライン、104…出力ライン、110…出力回路、M1…スイッチングトランジスタ、M2…同期整流トランジスタ、L1…インダクタ、C1…出力キャパシタ、200…制御回路、202…エラーアンプ、204…パルス変調器、206…ドライバ、210…メインロジック、220…異常検出部、222…第1検出信号生成部、224…第2検出信号生成部、226…第1比較部、228…第2比較部。