特許第6704302号(P6704302)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704302
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20200525BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20200525BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20200525BHJP
【FI】
   F16C33/78 Z
   F16C19/38
   F16J15/3204 201
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-122521(P2016-122521)
(22)【出願日】2016年6月21日
(65)【公開番号】特開2017-227239(P2017-227239A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】上野 正典
【審査官】 前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−173505(JP,A)
【文献】 実開昭57−94755(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/00
F16C 19/00
F16J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に軌道面を有する外輪と、外周に軌道面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面の間に配置された転動体と、外輪と内輪の間の軸受内部空間をシールするシール部材と、シール部材の基端側を支持する支持部材とを具備し、シール部材が、支持部材と対向して配置された芯金と、芯金の少なくとも先端部を被覆するリップ部とを有し、リップ部に一対のリップが設けられ、一対のリップ間に他所から隔絶されたリップ間空間が形成された転がり軸受装置において、
シール部材にリップ間空間に開口する開口部を設け、該開口部を、シール部材を貫通する第一通気路と、芯金と支持部材との対向領域に形成された第二通気路とを介して大気空間に連通させたことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記第一通気路が芯金とリップ部の間に形成されている請求項1記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
芯金に形成した凹部で前記第一通気路を形成した請求項2記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
芯金に形成した凹部で前記第二通気路を形成した請求項1〜3何れか1項に記載の転がり軸受装置。
【請求項5】
支持部材に形成した凹部で前記第二通気路を形成した請求項1〜4何れか1項に記載の転がり軸受装置。
【請求項6】
前記リップ間空間を、前記一対のリップと摺接する摺接部材で他所から隔絶し、かつ摺接部材に、前記軸受内部空間と大気空間を連通する第三通気路を設けた請求項1〜5何れか1項に記載の転がり軸受装置。
【請求項7】
前記第三通気路に、通常時は閉鎖し、差圧発生時に開放する差圧弁を設けた請求項6記載の転がり軸受装置。
【請求項8】
鉄道車両車軸に使用される請求項1〜7何れか1項に記載の転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール部材を備える転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受装置には、例えば特許文献1に示されるような鉄道車両の車軸支持に使用されるものがあり、この種の軸受装置を図8に例示する。
【0003】
この軸受装置は、軸受100と、シール装置150とを具備する。軸受100は、転がり軸受の1種の複列の円すいころ軸受であり、内周に軌道面を有する外輪110と、外周に軌道面を有する内輪120と、転動体としての円すいころ130とを備える。円すいころ130は、外輪110の軌道面と内輪120の軌道面との間に複列に配置されている。
【0004】
シール装置150は、外輪110の内周面の軸方向両端部に嵌合固定されたシールケース152と、各シールケース152の内周に固定されたシール部材154と、内輪120の軸方向両側に配された油切り161,後ろ蓋162を有する。このシール部材154は、油切り161,後ろ蓋162との間で接触シールを構成する。この構成により、シール装置150は、外輪110と内輪120との間の空間(軸受内部空間)を軸方向両端においてシールする。
【0005】
詳述すれば、図9に示すように、シール部材154は、メインリップ157aとダストリップ157bと、これらのリップ157a,157bが設けられた芯金156とを具備する。各リップ157a,157bが軸方向に離隔した2箇所で後ろ蓋162と接触する。これにより、軸受内部空間からのグリース等の潤滑剤の漏洩や、内部空間への塵埃や水等の浸入を防止する。
【0006】
メインリップ157a,ダストリップ157b等のシールリップは、その用途、使用条件に合わせて、適正な緊迫力を発揮するようにその形状、剛性等が設定される。しかしながら、車軸の回転中には、軸受の昇温により、シール部材154で密閉された軸受内部空間の圧力(軸受内圧)が増大する。また、油切り161や後ろ蓋162の回転によるメインリップ157aの吸い込み作用でメインリップ157aとダストリップ157b間の空間Sの圧力が低下して負圧の状態となる。軸受内圧が大きくなる、若しくは、リップ間空間Sが負圧となると、メインリップ157aが摺動面に押し付けられて緊迫力が増大することにより、トルクが増すと共に、発熱が助長される。加えて、シールリップが、その変形により、摺動面と適正な接触状態を維持できなくなり、シールリップの先端の摩耗が促進され密封性能が低下する虞がある。
【0007】
軸受内圧の上昇に伴うシールリップの緊迫力の増加を回避するための発明としては、例えば、特許文献2に開示されたものがある。当該発明は、軸受装置の内圧上昇時、内気を軸受装置の外部へ排出させる内圧調整機構(ベント)と、軸受配設空間からシール配設空間へ内気を流動させる内気流動機構とが設けられた軸受装置用密封装置に関するものである。内気流動機構がグリース膜によって塞がれても、圧力差によってグリース膜を開孔させることが可能なように、内気流動機構として、仕切り板の内周部の径を部分的に拡大させる切欠き若しくは貫通孔が形成されていることを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−255599号公報
【特許文献2】特許第4811194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2の構成では、内圧調整機構(ベント)を付加する必要があるため、高コスト化する。また、シールリップの緊迫力は、軸受内圧の変動以外の要因によっても変化する。例えば、メインリップ157a、ダストリップ157b、後ろ蓋162(油切り161)で囲まれた空間(リップ間空間S)は、車軸回転中に昇温するため、リップ間空間Sの圧力が増大する。リップ間空間S内の圧力が限度を超えると、ダストリップ157bの先端が後ろ蓋162(油切り161)から離反し、リップ間空間S内の空気が大気に放出され、その後のダストリップ157bの弾性変形でリップ間空間Sが元の密閉状態に戻る。この状態で車軸の回転を停止すると、温度の低下に伴ってリップ間空間Sの圧力が低下し、リップ間空間Sが負圧の状態となって、メインリップ157aやダストリップ157bが後ろ蓋162(油切り161)の表面に吸着し、シールリップの緊迫力が増大する。また、後ろ蓋162(油切り161)の回転によるメインリップ157aの吸い込み作用によってリップ間空間Sの圧力が低下し、リップ間空間Sが負圧の状態となって、シールリップの緊迫力が増大する。この状態から車軸を再度回転させれば、各リップ157a,157bの摩耗が進行することになる。特許文献2の構成では、このようなシールリップの吸着による緊迫力の増大には対処できない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、シールリップの緊迫力の増大に伴うトルクロス、温度上昇、シールリップの異常摩耗等を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために創案された本発明に係る転がり軸受装置は、内周に軌道面を有する外輪と、外周に軌道面を有する内輪と、外輪の軌道面と内輪の軌道面の間に配置された転動体と、外輪と内輪の間の軸受内部空間をシールするシール部材と、シール部材の基端側を支持する支持部材とを具備し、シール部材が、支持部材と対向して配置された芯金と、芯金の少なくとも先端部を被覆するリップ部とを有し、リップ部に一対のリップが設けられ、一対のリップ間に他所から隔絶されたリップ間空間が形成された転がり軸受装置において、シール部材にリップ間空間に開口する開口部を設け、該開口部を、シール部材を貫通する第一通気路と、芯金と支持部材との対向領域に形成された第二通気路とを介して大気空間に連通させたことを特徴とする。
【0012】
かかる構成によれば、リップ間空間が、第一通気路、第二通気路を介して、大気空間に連通する。従って、リップ間空間が大気圧となり、リップ間空間に負圧が生じる事態を回避できる。そのため、リップ間空間に生じた負圧に起因して一対のリップが摺接部材に吸着することを防止でき、一対のリップの緊迫力が増大することを抑制することができる。
【0013】
上記構成において、前記第一通気路が芯金とリップ部の間に形成されていてもよい。
【0014】
この構成によれば、容易に第一通気路を形成することができる。この構成において、芯金に形成した凹部で前記第一通気路を形成してもよい。
【0015】
上記構成において、芯金に形成した凹部で前記第二通気路を形成してもよく、また、支持部材に形成した凹部で前記第二通気路を形成してもよい。
【0016】
上記構成において、前記リップ間空間を、前記一対のリップと摺接する摺接部材で他所から隔絶し、かつ摺接部材に、前記軸受内部空間と大気空間を連通する第三通気路を設けてもよい。
【0017】
この構成によれば、軸受の運転による昇温によって、軸受内部空間の圧力が増大することを防止できる。これにより、軸受内部側のリップが摺動面に押し付けられることが抑制でき、軸受内部側のリップの緊迫力の増大を抑制できる。この構成において、更に、前記第三通気路に、通常時は閉鎖し、差圧発生時に開放する差圧弁を設ければ、差圧弁が通常時は閉鎖しているので、軸受内部への塵埃や水等の浸入を抑制できる。
【0018】
以上に述べた軸受装置は、鉄道車両車軸に使用するのが好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シールリップの緊迫力の増大に伴うトルクロスの増大、発熱、シールリップの異常摩耗等の問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受装置の軸方向断面図である。
図2図1のB部分の拡大図である。
図3図2のC部分の拡大図である。
図4】本発明の変形例に係る転がり軸受装置の要部拡大軸方向断面図である。
図5】本発明の変形例に係る転がり軸受装置の要部拡大軸方向断面図である。
図6】本発明の参考例に係る転がり軸受装置の軸方向断面図である。
図7】本発明の参考例に係る転がり軸受装置の軸方向断面図である。
図8】従来の転がり軸受装置の軸方向断面図である。
図9図8のA部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
【0022】
図1に、本発明の実施形態に係る転がり軸受装置を示す。この軸受装置は、鉄道車両の車軸支持用として使用されるものであり、軸受1と、シール装置50とを具備する。軸受1は、転がり軸受の1種である複列の円すいころ軸受であり、外輪10と、二つの内輪20と、転動体としての複数の円すいころ30と、保持器40とを備える。
【0023】
外輪10は、内周に複列に配置された円すい状の軌道面12を有し、内輪20は、外周に円すい状の軌道面22を有する。二つの内輪20は、それらの小径側端部が間座23を介して対向するように配置しており、これにより、複列の軌道面22が形成される。なお、二つの内輪20は、それらの小径側端部を直接突き合わせて配置してもよい。外輪10の軌道面12と内輪20の軌道面22との間には、複列に配置した円すいころ30を介在させる。保持器40は、各列の円すいころ30を円周方向等間隔に保持する。外輪10と内輪20との間に形成される空間(軸受内部空間Sa)にはグリース等の潤滑剤が封入され、この空間を軸方向両端部においてシール装置50がシールしている。
【0024】
外輪10は、外周面を鉄道車両の軸箱(図示省略)の内周面に嵌合し軸方向端面を軸方向に固定することで当該軸箱に固定される。二つの内輪20の軸受外部側には、それぞれ摺接部材としての油切り61,後ろ蓋62が配される。車軸2の軸端には蓋部材64がボルト66で固定され、この蓋部材64と車軸2の肩部との間で、車軸2の外周に嵌合した油切り61、内輪20及び後ろ蓋62が挟持固定される。
【0025】
次に、図1の右側のシール装置50の構成について説明する。なお、図1の左側のシール装置50については、後ろ蓋62の代わりに油切り61を採用している点以外は、同様の構成である。
【0026】
図2に拡大して示すように、シール装置50は、段付き円筒状を成したシールケース52と、シール部材54と、断面L字型の仕切り板55と、後ろ蓋62とで構成される。シールケース52は、シール部材54の基端側を支持する支持部材として機能する。シールケース52は、その軸方向一端部(軸受内部側の端部)が、外輪10の軸方向両端の開口部内周に圧入固定される。シールケース52は、その軸方向他端部(軸受外部側の端部)は、後ろ蓋62の端面に形成された凹部62aに挿入され、これにより非接触シールを構成している。また、シール部材54は、後ろ蓋62との間で接触シールを構成する。この構成により、シール装置50は、軸受内部空間Saを接触シールでシールする。
【0027】
シールケース52は、円筒状の大径部52aと、円筒状の小径部52bと、これらと接続して径方向に延びる平板状の接続部52cを有する。仕切り板55は、シールケース52の大径部52aの内周側に圧入固定され、軸方向一端部がシールケース52の接続部52cに隙間を介して対向する平板状の固定部55aと、固定部55aの軸方向他端部に設けられ、内径側に延びる平板状の仕切り部55bとを有する。
【0028】
仕切り板55の仕切り部55bの内径端は、後ろ蓋62の外周面に近接して非接触シールを構成する。この仕切り板55は、軸受1の軸受内部空間Saに充填されたグリース等の潤滑剤が直接シール部材54に押し寄せる事態を防止する。
【0029】
仕切り板55の内周にシール部材54が圧入固定される。シール部材54は所謂オイルシールであり、芯金56と、芯金56に固定された弾性材料からなるリップ部57と、ガータスプリング58とを具備する。芯金56、リップ部57、およびガータスプリング58は何れも環状に形成されている。
【0030】
図3に拡大して示すように、芯金56は、仕切り板55の固定部55aの内周に圧入固定され、軸方向一端部が仕切り板55の仕切り部55bに当接する円筒状の当接部56aと、当接部56aの軸方向他端部に設けられ、内径側に延びると共にシールケース52の接続部52cに当接する平板状の径方向部56bと、径方向部56bの内径端部から軸受内部側ほど内径側に変位するように傾斜した円すい状の傾斜部56cとを一体に有する。芯金56の径方向部56bの一部領域が、シールケース52の接続部52cの一部領域と対向して配置されている。
【0031】
リップ部57は、少なくとも芯金56の内径側の先端部を被覆する。また、リップ部57には、後ろ蓋62と接触させた一対のリップ(メインリップ57a、ダストリップ57b)が設けられている。詳述すれば、リップ部57は、芯金56に固定され、芯金56の軸受内部側を被覆する被覆部57cと、芯金56に固定され、被覆部57cに接続する基部57dと、基部57dから軸受内部側に向けて延びるメインリップ57aと、基部57dから軸受外部側に向けて延びるダストリップ57bとを有する。
【0032】
リップ部57は、例えばニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム等のゴム材料で形成される。このリップ部57は、例えば加硫接着等の手段で芯金56に固定されている。リップ部57は、樹脂で形成することもできる。
【0033】
両リップ57a,57bは、何れも後ろ蓋62の外周面(摺動面)に対して締め代を持って接触している。ガータスプリング58は、メインリップ57aの外周に装着されている。ガータスプリング58の縮径方向の弾性力と締め代との協働で、メインリップ57aの先端部に所定の大きさの緊迫力が与えられる。
【0034】
両リップ57a,57bの間に他所から隔絶された第一空間S1(リップ間空間)が形成される。詳述すれば、第一空間S1は、両リップ57a,57b及び基部57dと、後ろ蓋62の外周面とで形成される。また、シールケース52の大径部52aと接続部52cと、仕切り板55の固定部55aと、芯金56の当接部56aと径方向部56bとで、他所から隔絶された第二空間S2が形成される。また、後ろ蓋62とシール部材54とシールケース52の小径部52bとで、他所に対して区画された第三空間S3が形成される。第三空間S3は、シールケース52の先端部と、後ろ蓋62の凹部62aとの隙間を介して、大気空間に繋がっている。
【0035】
シール部材54には、第一空間S1に開口する開口部54aが設けられている。この開口部54aは、シール部材54を貫通する第一通気路R1と、芯金56とシールケース52との対向領域に形成された第二通気路R2と、第三空間S3とを介して、大気空間に連通する。第一通気路R1は、第一空間S1と第二空間S2を連通し、第二通気路R2は、第二空間S2と第三空間S3を連通する。また、第二通気路R2は、シールケース52の接続部52cと芯金56の径方向部56bとの間に設けられている。
【0036】
第一通気路R1は、周方向に1箇所設けられてもよいし、周方向に複数個所設けられてもよい。第二通気路R2も同様である。また、第一通気路R1と第二通気路R2は、同数でもよいし、異なる数でもよい。第一通気路R1と第二通気路R2は、周方向の同位置であってもよいし、周方向の異なる位置であってもよい。
【0037】
第一通気路R1は、基部57d内に形成された貫通孔57fで形成された第一部R1aと、リップ部57の被覆部57cに形成された凹部57eと、芯金56の径方向部56bと傾斜部56cにおける平坦部との間に設けられた第二部R1bと、芯金56の当接部56aに形成された径方向の貫通孔56dで形成された第三部R1cとを備える。
【0038】
第二部R1bは、図4に示すように、被覆部57cの内部に設けられた貫通孔57gで形成されてもよい。また、第二部R1bは、図5に示すように、芯金56の径方向部56bと傾斜部56cにおける軸受内部側に設けられた第一凹部56eと、被覆部57cの平坦部との間に設けられてもよい。また、図示は省略するが、第二部R1bは、芯金56の第一凹部56eと、被覆部57cの凹部57eとの間に設けられてもよい。
【0039】
図3に示すように、第二通気路R2は、芯金56の径方向部56bにおける軸受外部側に形成された第二凹部56fと、シールケース52の接続部52cにおける軸受内部側に形成された第三凹部52dとの間に設けられている。
【0040】
勿論、第二通気路R2は、芯金56の第二凹部56fと、シールケース52の接続部52cにおける平坦部との間に設けられてもよいし、芯金56の径方向部56bにおける平坦部と、シールケース52の第三凹部52dとの間に設けられてもよい。
【0041】
図1の左側に示すように、転がり軸受装置には、軸受内部空間Saと大気空間とを連通する第三通気路R3が設けられている。第三通気路R3は、周方向に1箇所設けられてもよいし、周方向に複数個所設けられてもよい。
【0042】
第三通気路R3は、油切り61に形成された軸方向の貫通孔61aで形成されている。貫通孔61aは、小径部61a1と大径部61a2とを有する段付き孔である。貫通孔61aの一端(小径部61a1側の端部)が、油切り61の端面61bと内輪20の端面20aとの間の隙間に開口している。この隙間は、軸受内部空間Saに繋がっている。貫通孔61aの他端(大径部61a2側の端部)が、油切り61の内周面61cと蓋部材64の外周面64aとの間の第四空間S4に開口している。第四空間S4は、大気空間に繋がっている。
【0043】
大径部61a2には、通常時は閉鎖し、差圧発生時に開放する差圧弁(ベント67)が配設されている。ベント67はゴム等の弾性材料からなり、大径部61a2の内周に嵌合固定した筒部67aと、筒部67aから第四空間S4側に突出した弁部67bとを有する。弁部67bの頂部に切れ込み(不図示)が形成されている。軸受内部空間Saと第四空間S4との間に一定以上の差圧を生じると、弁部67bの弾性変形により切れ込みが開いて軸受内部空間Saと第四空間S4とを連通させる一方で、差圧がない若しくは小さい状態では、弁部67bの弾性復帰により切れ込みが閉じて軸受内部空間Saと第四空間S4を隔絶させる。
【0044】
従って、軸受の運転に伴って軸受内部空間Saの圧力が上昇すると、ベント67が開いて軸受内部空間Saを大気空間に開放する。そのため、軸受内部空間Saを軸受の運転状態を問わず大気圧と同等程度に保持することができる。また、軸受内部空間Saと第四空間S4の間の差圧が小さい時は、ベント67が閉じているため、軸受内部空間Saからの潤滑剤の漏洩や軸受内部空間Saへの塵埃や水等の浸入を抑制できる。
【0045】
以上に述べた構成であれば、第一空間S1が、第一通気路R1、第二空間S2、第二通気路R2、第三空間S3を介して、大気空間に連通する。従って、第一空間S1が大気圧となり、第一空間S1に負圧が生じる事態を回避できる。そのため、第一空間S1に生じた負圧に起因してメインリップ57aとダストリップ57bが後ろ蓋62(油切り61)に吸着することを防止でき、メインリップ57aとダストリップ57bの緊迫力が増大することを抑制することができる。従って、本実施形態の転がり軸受装置によれば、メインリップ57aやダストリップ57bの緊迫力の増大に伴うトルクロスの増大、発熱、リップの異常摩耗等の問題を回避することができる。
【0046】
また、第三空間S3は、シールケース52の小径部52bの内周側であるため、小径部52bにより、外界からの第三空間S3への塵埃や水等の浸入を防止できる。そして、第一通気路R1、第二空間S2、第二通気路R2は、第二空間S2で屈曲した径路となるため、第三空間S3からの第一空間S1への塵埃や水等の浸入を防止できる。従って、外界からの第一空間S1への塵埃や水等の浸入を防止できる。
【0047】
なお、第一通気路R1の第一空間S1側の第一部R1aは、径方向に沿ってストレートに延びており、横断面が円形である。従って、第一通気路R1の第一空間S1に対する開口部54aは、径方向に沿って見た場合に円形であり、この円形の直径をdとする。
【0048】
第一空間S1内のグリース等の潤滑剤によって第一通気路R1が塞がることを避けるために、直径dは大きい方が好ましく、具体的には1.5mm以上が好ましく、2.0mm以上がより好ましく、2.5mm以上が最も好ましい。一方、第一空間S1内のグリース等の潤滑剤が、第一通気路R1を経由して漏出することを避けるために、第一通気路R1の第一空間に対する開口部54aの径は、5.5mm以下が好ましく、5.0mm以下がより好ましく、4.5mm以下が最も好ましい。
【0049】
以上の説明では、転がり軸受装置に第一通気路R1及び第二通気路R2を設けた構成を例示したが、以下の構成の転がり軸受装置でも、第一空間S1に負圧が生じる事態を回避できる。
【0050】
図6の左側に示すシール装置50では、第一空間S1と大気空間とを連通する第四通気路R4が油切り61に設けられている。油切り61に形成した径方向のストレートな貫通孔61dで第四通気路R4を形成している。貫通孔61dの外径端は、第一空間S1に開口しており、貫通孔61dの内径端は、第四空間S4に開口している。第四空間S4は大気空間に繋がっているので、第四通気路R4を介して、第一空間S1が大気圧となる。これにより、第一空間S1に負圧が生じる事態を回避できる。
【0051】
図6の右側に示すシール装置50では、後ろ蓋62に形成した貫通孔62bで第四通気路R4が設けられている。貫通孔62bは、小径径方向部62b1と、小径軸方向部62b2と、大径軸方向部62b3とを有する。貫通孔62bの一端(小径径方向部62b1側の端部)が、第一空間S1に開口しており、貫通孔62bの他端(大径軸方向部62b3側の端部)が、大気空間に開口している。大径軸方向部62b3には、ベント67が配設されている。ベント67を第一空間S1の圧力が大気圧より低下した時に作動するものとすることで、第一空間S1がほぼ大気圧になる。これにより、第一空間S1に負圧が生じる事態を回避できる。
【0052】
図7の左側に示すシール装置50では、第一空間S1と軸受内部空間Saとを連通する第五通気路R5が油切り61に設けられている。図示例では、油切り61に形成した貫通孔61eで第五通気路R5を形成している。貫通孔61eは、径方向部61e1と軸方向部61e2とからなる。貫通孔61eの一端(径方向部61e1側の端部)が、第一空間S1に開口しており、貫通孔61eの他端(軸方向部61e2側の端部)が、油切り61の端面61bと内輪20の端面20aとの間の隙間に開口している。この隙間は、軸受内部空間Saに繋がっている。
【0053】
図7の右側に示すシール装置50でも、左側に示すシール装置50の第五通気路R5と同様の構成の第五通気路R5が設けられている。右側に示すシール装置50の第五通気路R5は、後ろ蓋62に形成した貫通孔62cで形成されている。
【0054】
図7に示す第五通気路R5は、第一空間S1と軸受内部空間Saとを連通しているので、第一空間S1が軸受内部空間Saと同じ圧力となる。軸受内部空間Saは、ベント67を配設した第三通気路R3により、大気圧と同等程度に保持されているので、第一空間S1に負圧が生じる事態を回避できる。
【0055】
第四通気路R4と第五通気路R5の何れでも、第一空間S1に対する開口部の油切り61,後ろ蓋62上の位置は、軸受使用中の油切り61,後ろ蓋62とシール部材54の相対的な動きを考慮して、開口部が、メインリップ57aやダストリップ57bと重ならない位置とすることが好ましい。メインリップ57aやダストリップ57bが、第四通気路R4と第五通気路R5の開口部の縁に接触することにより、メインリップ57aやダストリップ57bの摩耗等を誘発することを防ぐためである。
【0056】
また、第四通気路R4と第五通気路R5の何れでも、第一空間S1に対する開口部も、径方向に沿って見た場合に円形であり、この円形の直径についての好ましい数値範囲やその理由は、上述の直径dと同様である。また、第四通気路R4と第五通気路R5の何れも、周方向に1箇所設けられてもよいし、周方向に複数個所設けられてもよい。
【0057】
本発明は上記実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内であれば、様々な変形が可能である。例えば、メインリップ57aやダストリップ57bと摺接する摺接部材は、油切り61や後ろ蓋62でなくてもよく、例えば、内輪20であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 軸受
10 外輪
12 軌道面
20 内輪
22 軌道面
52 シールケース(支持部材)
52a 大径部
52b 小径部
52c 接続部
52d 第三凹部
54 シール部材
54a 開口部
55 仕切り板
55a 固定部
55b 仕切り部
56 芯金
56a 当接部
56b 径方向部
56e 第一凹部
56f 第二凹部
57 リップ部
57a メインリップ
57b ダストリップ
57c 被覆部
61 油切り(摺接部材)
62 後ろ蓋(摺接部材)
67 ベント(差圧弁)
d 直径
R1 第一通気路
R1b 第二部
R2 第二通気路
R3 第三通気路
S1 第一空間(リップ間空間)
Sa 軸受内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9