(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
突条の突出量をe、ホース内周側における縦壁同士の隙間の大きさをL、突条が小径部から半径方向外側に離間する距離をgとした際に、0.25≦g/L≦0.35との関係、及び、0.25≦e/L≦0.5との関係を満たす請求項1に記載の電気掃除機用ホース。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を参照しながら、家庭用電気掃除機を例として、本発明の電気掃除機用ホースの実施形態について説明する。発明は以下に示す個別の実施形態に限定されるものではなく、その形態を変更して実施することもできる。
【0013】
図8は電気掃除機の全体の外観を示し、電気掃除機用ホース1は、掃除機本体99に設けられた吸気口に接続管(口元部材)95を介して電気掃除機用ホース1の一端で接続され、電気掃除機用ホース1の他端は手元操作部98に接続され、手元操作部98に連続して延長管97、続いて床用ノズル96が接続されて電気掃除機が構成されている。
【0014】
図1に、第1実施形態の電気掃除機用ホース1の構造を示す。
図1では、上側半分を断面図で、下側半分を外観で示している。電気掃除機用ホース1は、可撓性を有する合成樹脂によって略円筒状に形成された可撓性のホース壁2を有する。
【0015】
ホース壁2は凹凸波型状に形成されている。本実施形態では、らせん状の凹凸波型状に形成されている。螺旋の条数は、1条であってもよいし、必要に応じて、2条もしくはそれ以上の条数であってもよい。本実施形態では、1条のらせん状に、ホース壁の凹凸波型形状が形成されている。
【0016】
凹凸波型状のホース壁2は、小径部21、大径部22、および2つの縦壁部23,24を有する。小径部21は、ホース壁がホース内側に凹入した部分である。大径部22は、ホース壁がホース外側に突出した部分である。小径部21及び大径部22は、ホース中心線lとほぼ平行に延在している。小径部21及び大径部22は、その断面が直線状になるよう形成されていてもよいし、その断面が円弧のような湾曲形状となるよう形成されていてもよい。縦壁部23,24は、大径部と小径部の間を接続する部分である。縦壁部23,24はホースの略半径方向に延在している。小径部21、大径部22、および2つの縦壁部23,24はそれぞれがらせん状に設けられていて、互いに接続されることにより、凹凸波型状のホース壁2を構成している。そして、ホース壁2の内側に、大径部22と2つの縦壁部23,24で囲まれた襞状の空間が形成されている。
【0017】
ホース壁2の内側には、らせん状に突条4が設けられている。典型的には、突条4はホース壁に一体成形されている。突条4は、縦壁部23のホース内側に、小径部21から半径方向外側に所定距離gだけ離間した位置に、ホースの周方向に延在するよう、らせん状に立設されている。
【0018】
突条4は、その先端が、小径部21よりも半径方向外側に位置するように設けられている。本実施形態においては、突条がホース中心線lとほぼ平行な方向に突出して設けられているが、突条4が突出する方向はホース中心線lに対し傾いていてもよい。
なお、ホース壁の凹凸波型の襞の内側の空間、即ち大径部22と縦壁部23,24で囲まれる空間は、突条4によって、ホース中央部の空間と隔離されてはおらず、襞の内側の空間とホース中央部の空間とは互いに連通している。
そして、突条4は、ホース中心線lの側から見て露出している。
【0019】
本実施形態においては、突条4は2つの縦壁部23,24のうち、一方の縦壁部23にのみ設けられている。後述する実施形態のように、2つの縦壁部の両方に突条4を設けてもよい。また、本実施形態においては、ホース内を流れる気流に対し、小径部21よりも上流側の縦壁部23に突条4が設けられている。
図1では、図の左側から右側に向けて気流が流れ、小径部21の左側(上流側)に位置する縦壁部23に突条4が設けられている。
【0020】
突条4の好ましい形態は以下のとおりである。突条4が縦壁部23から突き出す寸法、即ち突条の突出量をeとし、ホース内周側における縦壁23,24同士の隙間の大きさをLとし、突条4が小径部21から半径方向外側に離間する距離をgとした際に、これら寸法e,L,gが、0.25≦g/L≦0.35との関係、及び、0.25≦e/L≦0.5との関係を満たすことが好ましい。さらに、0.28≦g/L≦0.32との関係、及び、0.3≦e/L≦0.4との関係を満たすことが特に好ましい。
【0021】
ホース壁2及び突条4を構成する合成樹脂としては、例えばポリオレフィン系樹脂などの比較的軟質な合成樹脂材料が使用できる。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)などが例示される。軟質塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、や熱可塑性エラストマ(TPE)、ウレタン樹脂、ゴムなどをホース壁の樹脂として使用することもできる。ホース壁2を構成する樹脂材料として好ましい硬度は、50〜80(JIS ショアA)程度である。本実施形態では、ポリオレフィン系樹脂によってホース壁が構成されている。なお、ホース壁を構成する合成樹脂は、必要に応じて所定の色に着色される。
【0022】
上記電気掃除機用ホース1は、公知のホース製造方法により製造できる。すなわち、
図2に模式的に示すように、いわゆるホースのスパイラル成形法を応用し、らせん状の回転送り運動をするホース成形軸に対し、所定の断面形状で押し出された合成樹脂製条帯T2をらせん状に巻きつけ、合成樹脂製条帯T2の両側縁部を互いに接着一体化しながらホース壁2(突条4)となして、第1実施形態の電気掃除機用ホース1が製造できる。
【0023】
上記第1実施形態の電気掃除機用ホース1の作用及び効果について説明する。
上記第1実施形態の電気掃除機用ホース1では、縦壁部23に、小径部21から所定距離gだけ離れた位置に突条4が立設されているため、ピー音が発生しにくい。
【0024】
発明者らが検討したところによれば、突条4が設けられていない従来の凹凸波型状のホース壁を有するホースは、ホースが屈曲した状態でホース内を流れる気流の流速が高まると、ピーという高い周波数の騒音(いわゆるピー音)が発生しやすい傾向にある。また、このピー音は、ホースが小さな曲げRで屈曲した状態で発生しやすくなる場合がある。この騒音は耳障りであり、電気掃除機の通常の使用条件においては、ピー音が発生しないことが求められる。
【0025】
ピー音抑制効果を例証する。
(実施例1)
ホースの呼び径dが35mmで、ホース内周側における縦壁23,24同士の隙間の大きさLが1.7mm、突条4の突出量eが0.55mm、突条4が小径部21から半径方向外側に離間する距離gが0.51mmである、第1実施形態の電気掃除機用ホース1を製造し実施例1のホースとした。実施例1では、g/L=0.3、e/L=0.32である。
(実施例2)
また、ホースの呼び径dが35mmで、ホース内周側における縦壁23,24同士の隙間の大きさをLが1.7mm、突条4の突出量eが0.44mm、突条4が小径部21から半径方向外側に離間する距離gが0.56mmである、第1実施形態の電気掃除機用ホースを製造し実施例2のホースとした。実施例2では、g/L=0.33、e/L=0.26である。
(比較例1)
一方、突条4を備えない点を除いて他は実施例1のホースと同様の構成のホースを製造し、比較例1のホースとした。
【0026】
これらホースに対し、
図3に示すように、外径D=250mmの円となるように、ホースの一部を1周丸めて屈曲配置し、その状態で、ホースを通流させていく空気の流量Qを高めていき、ピー音の発生の有無を比較した。この試験では、ピー音が全く発生しないか、ピー音が発生するとしてもより流量が多くなったときにピー音が発生するほうが、ピー音の発生抑制効果に優れたホースであるといえる。
【0027】
比較例1の試験では、ホースに求められる定格の流量Q0の0.60倍の流量でピー音が発生してしまった。一方、実施例1および実施例2の電気掃除機用ホースにおいては、定格流量Q0まででは、ピー音の発生が見られず、定格流量Q0の1.1倍でもピー音の発生が見られなかった。すなわち、実施例1および実施例2の電気掃除機用ホースでは、比較例1のホースに対しピー音が発生しにくい。
また、定格流量Q0の1.1倍の流量を流した際に、実施例1の電気掃除機ホースでは、ホースを丸めた外径Dを180mmにしてもピー音の発生は見られなかったが、実施例2のホースでは、ホースを丸めた外径Dを180mmにするとピー音が発生した。すなわち、実施例1のホースでは特にピー音が発生しにくい。
【0028】
突条4を設けることによってピー音の発生が抑制されるメカニズムの詳細は不明であるが、発明者らは、以下のような原理で、ピー音の発生が抑制されるのではないかと推測している。
【0029】
ピー音の発生は、ホースの曲げと気流の流速に関係している。そこで、発明者らは、ピー音の発生という現象は、ホース内周が凹凸波型になっているために、その波型部分(襞の内側の空間)に気流や渦(小径部の下流側端部82で発生した渦)が出入りし、その出入りが下流に行くにしたがって増幅されて激しくなり、特定の流速以上になると激しく共鳴するに至って、ピー音が発生するのではないかと推測している。特に曲げRが小さくなるようにされると、ホース内の気流及び渦が、曲げRの外側に位置するホース壁の凹凸波型に吹き付けるようになって、襞の内側の空間に入り込みやすくなり、この現象が発生しやすくなるのではないかと推測している。
【0030】
比較例1のような、従来の凹凸波型のホース壁を備える電気掃除機用ホースにおいては、
図5に示すように、ホース内の気流が、ホース壁の小径部81と縦壁部83の角の部分にぶつかると、縦壁部83に沿うように、凹凸波型の間の襞状の空間に入り込むように流れ、この流れがホース内部の流れに作用して、襞状空間の壁面に周期的に衝突するようになって流れが乱れ、この乱れによってホース内部の流れが自励振動して、ホース内部の流れが襞状空間に出入りしやすくなる。このような自励振動的な流れが増幅されて、特定の流速になると、激しい共鳴現象(ピー音)になるのではないかと推測する。
【0031】
一方、上記実施例1のホースのように、突条4が縦壁部からに立設されていると、
図4に示すように、突条4の働きにより、縦壁部83に沿う流れをブロックできて、ホース内の気流が、凹凸波型の間の襞状の空間に入り込みにくくできる。そのため、比較例1(
図5)にあるような自励振動的な流れが起こりにくくなって、激しい共鳴現象(ピー音)の発生が抑制される。特に、突条4が、小径部21から半径方向外側に所定距離離間した位置に立設されており、突条4の先端部が小径部21よりも半径方向外側に位置するようにされていることにより、より効果的に、ホース内の気流が凹凸波型の間の襞状の空間に入り込みにくくなり、ピー音の抑制効果が高められるものと推測する。
【0032】
ピー音の発生を抑制するという観点から、突条4がホース中心線lとほぼ平行な方向に突出していることが好ましい。凹凸波型の間の襞状の空間に流れ込もうとする流れを確実にせきとめつつ、ホース内の気流の流れを妨げにくいからである。
【0033】
また、ピー音の発生をより確実に抑制するという観点からは、突条4が、ホース内を流れる気流に対し、小径部21よりも上流側の縦壁部23に設けられていることが好ましい。このような位置に突条4が設けられていれば、凹凸波型の間の襞状の空間に流れ込もうとする流れをより効果的にせきとめることができるからである。
【0034】
また、ピー音の発生を抑制するという観点からは、通常の電気掃除機用ホースにおいては、突条4の突出量をe、ホース内周側における縦壁23,24同士の隙間の大きさをL、突条4が小径部21から半径方向外側に離間する距離をgとした際に、0.25≦g/L≦0.35との関係、及び、0.25≦e/L≦0.5との関係を満たすことが好ましい。g/Lが0.25よりも小さいと、ピー音の発生抑制効果が低下する。また、g/Lが0.35よりも大きくても、襞状空間への気流の流れ込み抑制効果が低くなって、ピー音の発生抑制効果が低下する。また、e/Lが0.25よりも小さいと、襞状空間への気流の流れ込み抑制効果が低くなって、ピー音の発生抑制効果が低下する。また、e/Lが0.5よりも大きいと、ホースが伸縮・屈曲した際に、突条4の先端部が他方の縦壁部24に接触しやすくなって、ホースの伸縮性や屈曲性を低減させたり、異音を発生させたりすることがある。
【0035】
発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改変をして実施することができる。以下に発明の他の実施形態について説明するが、以下の説明においては、上記実施形態と異なる部分を中心に説明し、同様である部分についてはその詳細な説明を省略する。また、これら実施形態は、その一部を互いに組み合わせて、あるいは、その一部を置き換えて実施できる。
【0036】
図6には、第2実施形態の電気掃除機用ホース5のホース壁部分の断面図を示す。本実施形態においては、ホース壁そのものの構成は、第1実施形態と同様である。本実施形態の電気掃除機用ホース5では、2本の突条54、55が、互いに対向するように設けられている。すなわち、突条を、小径部51の上流側と下流側の両方に、2本設けてもよい。本実施形態では、第1の突条54は、第1実施形態における突条4と同様に、ホース壁の小径部51から所定距離離間した位置の縦壁部53に設けられている。第2の突条55は、小径部51をホース中心線に沿って延長するように、第1の突条54と互いに対向するように設けられている。
【0037】
第2実施形態の電気掃除機用ホース5であっても、第1の突条54や第2の突条55により、ホース壁の襞状の空間に気流が流れ込むことが抑制され、ピー音の発生抑制効果が発揮される。第2実施形態の電気掃除機用ホース5では、第1の突条54と第2の突条55とが、それぞれの先端部がホース軸方向でほぼ同じ位置となるように設けられている。換言すると、ホースの中心線側から見て、第1の突条54と第2の突条55とが共働してホース壁の襞状空間をふさいだようにされている。このようにされることで、ピー音の発生抑制効果が特に高められる。
【0038】
また、突条を、小径部51の上流側と下流側に、2本設ける場合には、本実施形態のように、第1の突条54と第2の突条55とを、両者がホース半径方向で異なる位置となるように配置することが好ましい。このようにすることで、ホースが伸縮・屈曲した際に、第1の突条54と第2の突条55とが接触することが回避され、ホースの伸縮性や屈曲性が低下したり、異音が生じたりすることが予防できる。なお、ピー音防止の観点からは、第1の突条54と第2の突条55とを、両者がホース半径方向で異なる位置となるように配置することは必須ではなく、両者は半径方向に同じ位置に配置されていてもよく、両者がホース半径方向で同じ位置であってもピー音発生抑制効果は得られる。
【0039】
図9には、ピー音発生測定試験の騒音測定の結果を示す。実施例や比較例の電気掃除機用ホースに対し、
図3のようなピー音発生試験を行い、定格流量Q0を流した際の騒音を測定した結果である。なお、騒音は、FFTによる周波数分析を行い、9000Hz〜20000Hzの周波数範囲を示している。比較例1では、10000Hz〜13000Hzおよび17000Hz〜19000Hzにおいて音圧レベルが高くなっており、これがピー音の発生を意味している。実施例1や実施例3では、そのような音圧レベルの高い部分は見られず、ピー音の発生が防止できている。また、実施例3では2つの突条が設けられていて、ホース内部の気流の乱れが発生しにくく、実施例1よりも音圧レベルが低い周波数領域が見られ、より静かであることがわかる。
【0040】
図7には、第3実施形態の電気掃除機用ホース6のホース壁部分の断面図を示す。本実施形態においては、らせん状の凹凸波型状に形成されたホース壁62の内周面に、樹脂被覆鋼線製のらせん状の補強体63が一体化されてホースが構成されており、ホース壁62の小径部よりも半径方向外側に位置する部位から突条64、65が突出形成されている。本実施形態では、2本の突条64,65は、上流側と下流側でホース半径方向に関し対称となるような形態で設けられている。このような形態とされていると、ホース内を流れる気流がいずれの向きであっても、同様のピー音発生抑制効果が得られる。
【0041】
本実施形態のように、本発明の電気掃除機用ホースは、らせん状の補強体を備えるものであってもよく、このような実施形態であってもピー音の発生抑制効果が得られる。また、突条は第1実施形態や第2実施形態のようにホース中心線と略平行に設けられていることが、ピー音発生抑制効果の観点で好ましいが、本実施形態のように、突条64、65がホース中心軸に対し傾いて設けられていてもよい。
【0042】
また、ホース壁の縦壁部から突出形成される突条の形態(断面形状)は、上記実施形態において図示したように矩形状であってもよいが、断面形状は特に限定されず、他の形態であってもよい。例えば突条は、その先端部が鋭角の三角形状であってもよい。あるいは、突条は、先端に円弧状のR(アール)がかけられた形状であってもよい。
【0043】
また、必須ではないが、本発明の電気掃除機用ホースは、複数本の導電線を備えていてもよい。導電線によって、電気掃除機の手元操作部98に設けられたスイッチの入力信号を掃除機本体99に伝達したり、床用ノズル96に内蔵されたブラシ駆動用モータに電力を供給したりできる。可能であれば、信号伝達用の導電線と電力供給用の導電線を共用しても良い。