特許第6704319号(P6704319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704319
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】鋼管の拡管方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 41/02 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   B21D41/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-172417(P2016-172417)
(22)【出願日】2016年9月5日
(65)【公開番号】特開2018-39014(P2018-39014A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】515239722
【氏名又は名称】SRDホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000229612
【氏名又は名称】日鉄鋼管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 純
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】穴井 功
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−073986(JP,A)
【文献】 特開2001−179368(JP,A)
【文献】 特開2002−346664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 41/02
B21D 39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の外周を拘束することなく、鋼管の管端に先端がテーパ状のパンチを押し込んで管端を段階的に拡管する鋼管の拡管方法であって、先端角度が35°〜55°のパンチを用い、外金型を用いずに最初の拡管を行ない、2回目以降は先端角度が1回目に使用したパンチよりも小さい先端角度を有したパンチを用い、外金型を用いずに拡管することを特徴とする鋼管の拡管方法。
【請求項2】
最初の拡管は、(D1−d)/dとして定義される拡管率(D1は最初の拡管後の直径、dは拡管前の直径)が45〜55%となるように行うことを特徴とする請求項1に記載の鋼管の拡管方法。
【請求項3】
前記したパンチの押し込みを、パンチの直径を順次大きくしながら、4段階で行うことを特徴とする請求項1に記載の鋼管の拡管方法。
【請求項4】
2回目以降の拡管率を10〜20%としたことを特徴とする請求項2または3に記載の鋼管の拡管方法。
【請求項5】
拡管後の鋼管の肉厚Tと拡管前の鋼管の肉厚tとの比(T/t)として定義される減肉率を、各工程において18%未満としたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の鋼管の拡管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の管端にパンチを押し込んで段階的に拡管する鋼管の拡管方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃料を給油口から燃料タンクまで導く給油管は、鋼管の給油口側の管端を拡管して製造されている。この場合、管端を素材鋼管の直径の2倍程度にまで拡管する必要がある。しかし一度に急激な拡管を行なうと、鋼管に亀裂が発生したり、座屈が生じたりするおそれがある。このため従来は先端角度を20°〜25°としたパンチを用い、6段階(6工程)で徐々に管端を拡管していた。
【0003】
しかしこのような拡管方法では、工程中の鋼管端部の減肉率が20〜22%程度と大きくなり、亀裂などの拡管不良が発生することがあった。また工程数が多く6種類のパンチが必要となるため、拡管コストも高くなるという問題があった。なお上記の減肉率は、拡管後の鋼管の肉厚Tと拡管前の鋼管の肉厚tとの比(T/t)として定義される値である。
【0004】
このような問題を解決するために、外金型を用いて鋼管の外周を拘束しながら、先端角度を30°から60°としたパンチを用いて1工程で拡管する方法(特許文献1)が提案されている。しかしこの方法では外金型が必要となるため、設備構成が複雑化するという問題があった。また急激な拡管を行なうために、管端部に座屈が発生するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4442973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、設備構成を複雑化させることなく、また亀裂などの拡管不良を発生させることなく、鋼管の管端を低コストで拡管することができる鋼管の拡管方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の鋼管の拡管方法は、鋼管の外周を拘束することなく、鋼管の管端に先端がテーパ状のパンチを押し込んで管端を段階的に拡管する鋼管の拡管方法であって、先端角度が35°〜55°のパンチを用い、外金型を用いずに最初の拡管を行ない、2回目以降は先端角度が1回目に使用したパンチよりも小さい先端角度を有したパンチを用い、外金型を用いずに拡管することを特徴とするものである。
【0008】
なお、最初の拡管は、(D1−d)/dとして定義される拡管率(D1は最初の拡管後の直径、dは拡管前の直径)が45〜55%となるように行うことが好ましい。また、前記したパンチの押し込みを、パンチの直径を順次大きくしながら、4段階で行うことが好ましい。また、2回目以降の拡管率を10〜20%とすることが好ましく、拡管後の鋼管の肉厚Tと拡管前の鋼管の肉厚tとの比(T/t)として定義される減肉率を、各工程において18%未満とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鋼管の拡管方法によれば、鋼管の外周を拘束することなく、先端角度が35°〜55°のパンチを用いて最初の拡管を行ない、その後は先端角度が1回目に使用したパンチよりも小さい先端角度を有したパンチを用いて拡管する。このように最初に先端角度が大きいパンチを鋼管の管端に押し込んで拡管率が45〜55%となるように拡管を行なうと、管端に軸線方向の大きい圧縮力が作用する。この圧縮力は、素材鋼管の長さを短縮するとともに、圧縮された分だけ管端部の肉厚を増加させる作用がある。このため、先端角度を20°〜25°程度としたパンチを用いた従来法では20〜22%程度であった最初の拡管工程における管端部の減肉率が、本発明によれば18%未満となる。また最初の拡管率を45〜55%と大きくしたので、その後の拡管工程における拡管率は10〜20%と小さくすることができ、減肉率を18%未満とすることができる。
【0010】
このため本発明によれば、亀裂などの拡管不良を発生させることなく、鋼管の管端を低コストで拡管することができる。また、本発明では鋼管の外周を拘束せずに拡管するため外金型は不要であり、設備構成を複雑化させることがない。しかも従来の6工程を4工程にまで工程数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の鋼管の拡管方法の工程説明図である。
図2】最初の拡管工程を説明する断面図である。
図3】拡管終了後の状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の鋼管の拡管方法の工程説明図である。(a)に示す素材鋼管は普通鋼からなる鋼管であり、その管端は(b)〜(e)の4工程で拡管される。なお素材鋼管は特に限定されるものではないが、本実施形態では引張強度が300N/mm級の電縫鋼管を用いている。
【0013】
図1の(b)に示す最初の拡管工程では、図2に示すように先端角度αが35°〜55°のテーパ状のパンチ1を管端に押し込んで拡管を行なう。このとき鋼管の外周は拘束されていない。管端はパンチ1の外形状に沿って塑性変形し、パンチ1の外径D1となるまで拡管される。最初の拡管は、(D1−d)/dとして定義される拡管率(D1は最初の拡管後の直径、dは拡管前の直径)が45〜55%となるように行うことが好ましい。拡管率はパンチ1の外径D1によって決定される。
【0014】
前記したように、従来は先端角度を20°〜25°程度としたパンチを用いていたのに対して、本発明では先端角度αが35°〜55°と2倍ほど大きいパンチ1を使用して拡管する。このため、鋼管の軸線方向に従来よりも大きい圧縮力が作用する。この圧縮力は鋼管を押し縮めると同時に、肉厚を増加させるように作用する。本発明では鋼管の外周は拘束されていないので、増肉が妨げられることはない。従って本発明によれば、直径が45〜55%増加したにも拘わらず、減肉率を18%未満に抑えることができる。
【0015】
最初の拡管で使用するパンチ1の先端角度が35°未満であると、軸方向の圧縮力が不足するため、増肉効果が減少し、減肉率を18%未満に抑えることができなくなる。逆にパンチ1の先端角度を55°より大きくすると、座屈が発生してうまく拡管が行なえなくなる。
【0016】
なお、電縫鋼管は電縫部に溶接ビードが存在し、かつ電縫部はその他の部分よりも硬度が高くなっているため、電縫部は減肉しにくく、電縫部から20°〜90°離れた位置の減肉率が最大となる傾向がある。このため本明細書においては減肉率の値として、電縫部から20°〜90°離れた位置の減肉率の平均値を用いている。
【0017】
このようにして最初の拡管を行なった後に、次に図1の(c)に示すように2回目の拡管を行なう。2回目の拡管は先端角度が25°未満のパンチ2を用いて行う。パンチ2の外径は、パンチ1よりも10〜20%大きく設定されている。
【0018】
以下同様に、外径を10〜20%順次大きくしたパンチ3、パンチ4を用いて図1の(d)、(e)に示す3回目、4回目の拡管を行なう。パンチ3、パンチ4も先端角度が25°未満のパンチ2を用いて行うものとする。これらの2回目から4回目の拡管工程の拡管率は10〜20%と小さいので、各工程の減肉率は18%未満に抑えられる。
【0019】
前記したように電縫鋼管は電縫部が硬化しているため、図3に示すように管端に突出部5が形成される。しかしこの部分は切断され、製品となる。
【0020】
上記したように、本発明によれば、拡管不良を発生させることなく、鋼管の管端を低コストで拡管することができる。以下に本発明の実施例を示す。
【実施例】
【0021】
外径が25.4mm、肉厚が0.8mmの電縫鋼管を素材鋼管とし、従来法と本発明法とによって外径が48.4mmとなるまで拡管を行なった。素材鋼管の材質は、STKM11Aである。
【0022】
従来例では、先端角度が25°のパンチを用いて前半の3工程の拡管を行ない、後半の3工程は先端角度が19°のパンチを用いた。各工程における拡管率と、加工結果の減肉率を表1に示した。このように従来法では減肉率が20%を超えていた。
【0023】
【表1】
【0024】
表2〜表4に示す実施例1〜実施例3は、最初の拡管に用いたパンチの先端角度を35°〜55°とした例である。何れも減肉率は低く、亀裂発生のおそれもない。表5に示す比較例は、最初の拡管に用いたパンチの先端角度を65°とした例であり、減肉率が20%を超え、また座屈が発生した。なお、何れも全体を4工程とした。
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
【表5】
【0029】
以上に説明したように、本発明によれば従来よりも工程数を削減しつつ、外金型を用いない簡単な設備構成によって、鋼管の管端を亀裂や座屈を発生させることなく、拡管することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 最初の拡管に用いられるパンチ
2 2回目の拡管に用いられるパンチ
3 3回目の拡管に用いられるパンチ
4 4回目の拡管に用いられるパンチ
5 突出部
図1
図2
図3