【実施例】
【0089】
以下の実施例は、我々の発明の特定の実施形態を記載するものであって、我々の発明の範囲を限定することを意図するものではない。実施例において別途記載のない限り、「毒素」または「ボツリヌス毒素」とは、約900kDaの分子量のA型ボツリヌス毒素複合体を意味する。約900kDaの分子量のA型ボツリヌス毒素複合体を精製するための本明細書に開示されるシステムおよび方法は、約150kDa、約300kDa、約500kDaおよび他の分子量の毒素、複合体、ボツリヌス毒素の血清型、およびボツリヌス毒素の神経毒成分の精製への容易な適用性を有する。
【0090】
実施例1
ボツリヌス毒素を得るための非APF(Schantz)プロセス
この実施例では、ボツリヌス神経毒素を得るための従来技術であるSchantz法について記載する。このプロセスは、動物由来培地および試薬を使用する非APFプロセスである(すなわち、培養のためのウシ血液寒天プレート、発酵培地中のカゼイン、ボツリヌス神経毒素の精製のためのRNaseおよびDNase酵素の使用)。
図1Aは、Schantz法の主なステップを示すフロー図である。Schantz法は、約16〜20の主なステップを有し、生産規模の作業には115L発酵槽を使用し、完了するまで約3週間かかる。Schantz法は、非APFであるクロストリジウム・ボツリナムのマスターセルバンク(MCB)バイアルを室温まで解凍し、続いて4つの培養ステップを行うことによって開始される。最初に、好適な形態のコロニーを選択するために、予め還元したコロンビア血液寒天(CBA)プレート上に、解凍したMCBバイアルからのアリコートを画線塗抹し、34℃±1℃で30〜48時間嫌気的にインキュベートした。2番目に、選択したコロニーを、カゼイン増殖培地を含有する9mL試験管に34℃で6〜12時間接種した。次いで、最も急激な増殖および最高密度(増殖選択ステップ)を有する9mL管の内容物を、2段階漸増した嫌気性インキュベーション(第3および第4の培養ステップ)によりさらに培養した:600mL〜1Lの種培養瓶内にて、34℃で12〜30時間のインキュベーション、その後、カゼイン増殖培地を含有する15L〜25Lの種発酵槽中、35℃で6〜16時間の培養。これらの2段階漸増による培養は、pH7.3の水中、2%カゼイン加水分解物(カゼイン[乳タンパク質]消化物)、1%酵母エキスおよび1%グルコース(デキストロース)を含有する栄養培地中で行った。
【0091】
漸増による培養後、商業規模(すなわち115L)の発酵槽中、制御された嫌気性雰囲気下、カゼイン含有培地にて、35℃で60〜96時間さらにインキュベーションを行った。菌の増殖は、通常24〜36時間後に完了し、約65〜約72時間行われる発酵ステップの間に、ほとんどの細胞が溶解し、ボツリヌス神経毒素を放出する。毒素は、細胞溶解によって遊離させられ、培養液中に存在するプロテアーゼによって活性化されると考えられる。培養培地の濾液は、全不純物(すなわち全細胞および破裂した細胞)を除去するための単層の深層フィルタを用いて、清澄化培養物と称される透明な溶液を得ることによって調製することができる。清澄化培養物からのボツリヌス神経毒素の収集は、3M硫酸で清澄化培養物のpHを3.5まで低下させ、粗毒素を20℃で沈殿させる(酸性化沈殿)ことにより達成される。次いで、粗ボツリヌス神経毒素を超限外濾過(精密濾過)(MFまたはUFと称される)によって濃縮し(体積の減少を達成するため)、続いてダイアフィルトレーション(DF)を行った。精密濾過には0.1μmフィルタを使用した。
【0092】
採取した未精製毒素または粗毒素を、次いで消化用容器に移し、プロテアーゼ阻害剤であるベンズアミジン塩酸塩の添加によって安定化した。DNaseおよびRNaseを加え、核酸を消化(加水分解)した。次いで、加水分解した核酸および低分子量の不純物をさらなるUFおよびDFステップにより除去した。次いで、pH6.0リン酸緩衝液で毒素を抽出し、清澄化により細胞残屑を除去した。次に、3つの連続的な沈殿ステップ(冷エタノール、塩酸、および硫酸アンモニウムによる沈殿)を行った。精製したボツリヌス神経毒素複合体(バルク毒素)を、リン酸ナトリウム/硫酸アンモニウム緩衝液中、2℃〜8℃で懸濁液として保存した。
【0093】
採取および精製ステップを含む、この実施例1のSchantz(非APF)法の完了には約1〜3週間かかる。結果として生じたバルクのボツリヌス神経毒素は、
>2×10
7U/mgの特異的な効力、0.6未満のA
260/A
278、およびゲル電気泳動における特徴的なバンドパターンを有し、ボツリヌス毒素医薬組成物の配合に使用するのに好適な、クロストリジウム・ボツリナムのホールA菌株から作製された900kDaのA型ボツリヌス毒素複合体の高品質懸濁液であった。
【0094】
ボツリヌス神経毒素はまた、米国特許第7,452,697号の実施例7に記載されるように、APF非クロマトグラフィープロセスから得ることもでき、完全APF非クロマトグラフィープロセス(培養の開始から全ての精製および処理ステップまで)は、完了するまで2〜3週間かかる。代替として、ボツリヌス神経毒素は、米国特許第7,452,697号の実施例16に記載されるように、APFクロマトグラフィープロセスから得ることもでき、APFクロマトグラフィープロセス(培養の開始から全ての精製および処理ステップまで)は、完了するまで1週間以上かかる。
【0095】
実施例2
ボツリヌス神経毒素を得るためのAPF、2カラムおよび3カラムクロマトグラフィーシステムおよびプロセス
我々は、高収率、高純度のボツリヌス神経毒素を得るための、迅速な、APF陰イオン‐陽イオンクロマトグラフィーに基づくシステムおよびプロセスを開発した。この実施例2のプロセスは、わずか8〜10個の主なステップを有し、生産のために(つまり、最終的なボツリヌス神経毒素のグラム量を得るために)20Lの発酵容器を使用し、培養の開始から最終的な精製および毒素の保存まで、プロセスの全ステップを完了するためにわずか4〜7日、好ましくは約4〜約6日かかる。本明細書に開示されるシステムにおいて用いられる装置について以下に考察する。2カラムクロマトグラフィー媒体プロセスおよび3カラムクロマトグラフィー媒体プロセスの両方が開発され、本明細書に記載される。2媒体プロセスは、陰イオン交換クロマトグラフィーの後に陽イオン交換クロマトグラフィーを使用した。3媒体プロセスは、陰イオン交換クロマトグラフィーの後に陽イオン交換クロマトグラフィー、その後に疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を使用した。HICにより、49kDaの不純物等の不純物をさらに除去した(後に考察されるように、それは宿主細胞のグルコースリン酸イソメラーゼであった)。
【0096】
ワーキングセルバンクの調製
我々は、コロンビア血液寒天プレートを使用しない、新しいクロストリジウム・ボツリナムのセルバンク(培養ステップを開始するために使用するため)を開発し、それによって培養前のコロニー選択の必要性を排除し、またShantz法の漸増的な試験管培養および複数の播種(培養)ステップを行う必要性をも排除した。
【0097】
この目的のために、以前に確立されたSchantzマスターセルバンク(MCB)を使用してAPFリサーチセルバンク(RCB)を作製し、そこから新しいAPFマスターセルバンク(MCB)およびそれに続くワーキングセルバンク(WCB)を作製した。リサーチセルバンク(RCB)は、Schantz(NAPF)MCBに由来するコロニーから作製した。MCBバイアルから動物由来タンパク質を除去するために、2%w/vSPTII(Soy Peptone Type II)、1%w/v酵母エキス、および1%w/vグルコースを含有するAPF培地中で細胞を2回洗浄した。モジュール式雰囲気制御型システム(MACS)の嫌気性チャンバを使用した厳重な嫌気性条件下で、細胞をAPF培地にプレーティングした。単離したコロニーをさらに増殖させ、約20%グリセロールを含有するAPF培地に−135℃未満で保存した。
【0098】
酸素を含まないAPF培地(200mL、最低12時間嫌気性チャンバ内で還元した)中にRCBを増殖させることにより、GMP条件下でAPF−MCBを作製し、MACS嫌気性チャンバ中、34.5℃±1℃(60rpmで撹拌)で培養物のOD
540が2.5±1.0AUに達するまで培養した。結果として得られた培養物に、最終濃度が約20%になるまで滅菌グリセロールを加え、その後、混合物を1mL/バイアル(APF−MCBバイアル)でクライオバイアルに移した。液体窒素中でバイアルを瞬間冷凍し、次いで−135℃未満で保存した。APF−WCBは、上記のように増殖させることによりGMP条件下で作製した。結果として得られたAPFセルバンクを、同一性、精度、生存率、および遺伝的安定性について特徴付けを行った。
【0099】
上流ステップ(培養および発酵)
我々の実施例2のプロセスは、概して上流段階および下流段階の2段階を有していた。上流段階は、清澄化した、採取済みの培養物(次いで濃縮および希釈される)を提供するための、出発細胞株の増殖(実質的にAPFである培養培地中でのクロストリジウム・ボツリナム菌の増殖および再生産)、発酵、採取(細胞残屑の除去)を含む。したがって、この例において、我々の2カラムプロセスにおける9つのステップは、培養、発酵、採取濾過、濃縮、初期精製(陰イオン)クロマトグラフィー、最終精製(陽イオン)クロマトグラフィー、緩衝液の交換、バイオバーデンの減少、およびバイアルの充填である。
【0100】
上流段階は、400mLの(嫌気性チャンバ内で)還元したAPF種培養培地(2%w/vSPTII、1%w/v酵母エキス(オートクレーブ前に1N水酸化ナトリウムおよび/または1N塩酸でpH7.3に調整した))、培養培地のオートクレーブ後に加えられた1%w/v滅菌グルコース)を含有する1L瓶内での培養培地の使用を含んでいた。培養(種)培地に、400μLの解凍したクロストリジウム・ボツリナムWCBを接種した。インキュベーション/培養は、嫌気性チャンバ内で34.5℃±1.0℃、150rpmで撹拌して行った。
【0101】
540nmでの培養培地の光学密度が1.8±1.0AUになったとき、1L瓶の全内容物(約400mL)を、1N水酸化ナトリウムおよび/または1N塩酸による蒸気滅菌後にpH7.3に調整したAPF発酵培地と、3.25%w/vSPTII、1.2%w/v酵母エキス、1.5%w/v滅菌グルコース(滅菌(例えば、約122℃で0.5時間の滅菌)後に加えられた)からなる発酵培地とを含有する20L生産発酵槽に移した。温度および撹拌は、それぞれ35℃±1℃および70rpmで制御した。窒素オーバーレイを12slpmに設定し、ヘッドスペース圧力を5psigに設定して、細胞増殖のための嫌気性環境を維持した。発酵のpHおよび細胞密度は、それぞれpHプローブおよびオンライン濁度プローブによりモニタリングした。生産発酵の3相は、指数関数的成長相、定常相、および自己融解相を含む。35時間目から発酵の終了時にかけて、培養培地中に活性BoNT/A複合体を放出する細胞の自己融解が一貫して起こるのが観察された。発酵終了時に、採取のために培養物を25℃に冷却した。
【0102】
発酵培地を25℃に冷却してから、ライセートを含有するA型ボツリヌス神経毒素複合体から深層濾過により細胞残屑を分離した:最初に、名目上の保持率勾配5-0.9μmの前置フィルタを通して細胞残屑を除去し、次いで、正電荷を帯びた名目上の保持率勾配0.8-0.2μによりDNAを除去した(約80%まで除去)。使用前に、両方のフィルタを20Lの注射用水(WFI)で一緒にすすいだ。さらなる処理には最低15Lの濾液が必要であり、インプロセスでのサンプル採取終了後、あらゆる余分な材料を除染した。濾液を限外濾過によりすぐに処理しない場合は、4℃で保存した。
【0103】
バイオセーフティキャビネット
(BSC)内で、採取ステップからの濾液を中空ファイバ、GE Healthcare社製接線流濾過(TFF)膜を使用して15Lから5±0.5Lに濃縮した。次いで、限外濾過した材料を10mMリン酸ナトリウムのpH6.5緩衝液で最終体積20Lまで希釈した。この材料を2カラム(陰イオン、次いで陽イオン)または3カラムクロマトグラフィーカラム(陰イオン、陽イオン、次いで疎水性相互作用)のいずれかを使用して精製した。希釈した、限外濾過した採取材料をすぐに精製によって処理しない場合は4℃で保存した。
【0104】
Schantz法では、時間および培養増殖の目視観測に基づいて培養ステップを終了し、発酵ステップを開始する。対照的に、我々の実施例2のプロセスでは、培養ステップをいつ終了するかの決定は培養液の光学密度の分析に基づいており、それによって、培養物が発酵ステップの開始時に対数増殖期にあることを確実にし、培養ステップの期間を約8時間〜約14時間に削減することを可能にする。我々のODパラメータによって終了した培養ステップは、培養細胞の健康を最大化し、発酵ステップから頑強かつ豊富なボツリヌス毒素が得られるのを助長した。培養終了時の培養培地の平均光学密度(540nmでの)は1.8AUであった。発酵ステップの平均期間は72時間、発酵ステップ終了時の発酵培地の平均最終濁度(A
890)は0.15AUであった。発酵ステップの終了時に20L発酵培地(全部ロス)中に存在したA型ボツリヌス毒素複合体の平均量(ELISAにより判定した)は、A型ボツリヌス毒素複合体約64μg/発酵培地1mLであった。
【0105】
採取ステップは、細胞残屑および核酸を除去するために深層濾過を使用し、その後、限外濾過および希釈によりプロセスの次のステップのために発酵培地を調製した。この採取/細胞残屑の除去は、さらなる処理のための調製において濃縮および緩衝液を交換するために、酸性化による沈殿、その後に精密濾過およびダイアフィルトレーションを使用するSchantzの採取プロセスとは根本的に異なる。
【0106】
下流ステップ(精製)
下流ステップは、陰イオン交換カラム上でのボツリヌス神経毒素の捕捉;陽イオン交換カラム上での最終精製による、カラムからの溶出および不純物のさらなる分離;そして好ましくは(3カラムプロセスにおいて)、所望のボツリヌス神経毒素を含有する溶離液の第3カラム、好ましくは疎水性相互作用カラムの通過(例えばクロマトグラフィー);その後の接線流濾過(TFF)を用いた濃縮および緩衝液の交換;冷却保存、好ましくは冷凍のために最適化された最終的なA型ボツリヌス神経毒素複合体になるまでのバイオバーデンの減少(例えば、0.2μmフィルタを使用したさらなる濾過による);ならびにA型ボツリヌス神経毒素複合体医薬組成物への最終的な配合を含んでいた。クロマトグラフィーおよび濾過の段階の手順は、より安定した原体を提供するために、生成物およびプロセスに関連する不純物を除去すること、潜在的な外来性物質を除去すること、ならびにA型ボツリヌス神経毒素複合体の濃度および最終的なA型ボツリヌス神経毒素の緩衝液マトリックスを制御することを目的とするものであった。
【0107】
実行した3カラム下流プロセスのより具体的な実施形態は以下の通りである。清澄化された(希釈された)限外濾過した材料(上に開示するように20L)をPOROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂に通過させ、捕捉されたボツリヌス神経毒素を陰イオン交換カラムから溶出し、次いでPOROS(登録商標)20HS陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂に流し、そこからの溶離液をPhenyl Sepharose HPクロマトグラフィー樹脂に流した。HICカラムからの溶離液を100kDa接線流濾過、続いて0.2μm濾過に供した。得られたA型ボツリヌス神経毒素複合体を保存のために冷凍した。
【0108】
この実施例では、我々は、下流プロセスの第1のクロマトグラフィーステップにおいて、内径約8cmおよびカラム高さ約15cmのカラムに充填したPOROS(登録商標)50HQ陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂を使用した。全部のPOROS(登録商標)50HQカラムの操作を周囲温度で完了し、流れは下向き方向であった。核酸(例えばDNAおよびRNA)ならびに他の宿主細胞タンパク質等のより負電荷を帯びた成分が陰イオン交換カラムに結合したままになっている陰イオンカラムから、pHの段階的変化を用いてA型ボツリヌス神経毒素複合体を溶出した。
【0109】
陰イオン交換ステップの詳細:0.1N水酸化ナトリウム(少なくとも約3カラム体積、230cm/時)を最短接触時間の30分間使用した、POROS(登録商標)50HQカラムの使用。次いで、50mMリン酸ナトリウム、pH6.5緩衝液(少なくとも5カラム体積)でカラムを平衡化した。次に、清澄化した限外濾過および希釈した材料(すなわち処理したライセートのAPF発酵材料)を230cm/時でPOROS(登録商標)50HQ陰イオン交換カラムに投入し、その後、280nmでのカラム流出液の吸高度が0.10AUに減少するまで、少なくとも約20カラム体積の50mMリン酸ナトリウム、pH6.5を用いて230cm/時で洗浄し、その後、50mM酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて230cm/時で溶出した。280nmでの吸高度(A
280)が少なくとも約0.15AUに増加し、ピーク最大値を経て立ち下がり区間で約0.2AU以下になったときに生成物プールを収集し、1カラム体積の50mM酢酸ナトリウム、pH4.8を含有する容器に入れた。この溶出プールを約2℃〜約8℃で48時間保存した。
【0110】
この実施例2の下流プロセスにおける第2のクロマトグラフィーステップは、内径8cmおよびカラム高さ5cmのカラムに充填したPOROS(登録商標)20HS陽イオン交換クロマトグラフィー樹脂を使用した。全部のPOROS(登録商標)20HSカラムの操作を周囲温度で完了し、流れは下向き方向であった。A型ボツリヌス神経毒素複合体はPOROS(登録商標)20HSカラム樹脂に結合する。次いで、塩の段階的変化を用いてA型ボツリヌス神経毒素複合体をカラムから溶出した。生成物に関連する不純物を、洗浄緩衝液および除染溶液で溶出した。
【0111】
陽イオン交換ステップの詳細:0.1N水酸化ナトリウム溶液(少なくとも約3カラム体積、230cm/時)を最短接触時間の用いた、30分間使用した、POROS(登録商標)20HSカラムの使用。次いで、50mM酢酸ナトリウム、pH4.8緩衝液(少なくとも5カラム体積)でカラムを平衡化した。次に、POROS(登録商標)50HQ生成物プール(上記のように収集されたか、新しいか、または冷蔵していたもの)をPOROS(登録商標)20HSカラムに投入した。次いで、50mM酢酸ナトリウム、pH4.8緩衝液(少なくとも約3カラム体積)でカラムを洗浄し、次いで50mM酢酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、pH4.8緩衝液で再度洗浄した。A型ボツリヌス神経毒素複合体を、50mM酢酸ナトリウム、250mM塩化ナトリウム、pH4.8緩衝液を用いて200mL/分でPOROS(登録商標)20HSカラムから溶出し、A
280が約
>0.1AUに増加してピーク最大値を迎え、溶出ピークの立ち下がり区間のA
280が立ち下がり値約
<0.1AUまで減少したときに、溶出液をバイオプロセス収集袋(1カラム体積の50mM NaH
3C
2O
2、pH4.8を含有する)に誘導した。POROS(登録商標)20HS生成物プールを、周囲温度で最長約6時間、収集袋内に保存した。
【0112】
この実施例2の3カラムクロマトグラフィー媒体プロセスにおいて、第2の(陽イオン交換)カラムからの溶離液をHICカラムに通過させた。使用したHICカラムは、内径約8cmおよびカラム高さ約5cmのカラムに充填したPhenyl Sepharose HP疎水性相互作用クロマトグラフィー樹脂であった。全部のPhenyl Sepharose HPカラムの操作を周囲温度で完了し、流れは下向き方向であった。減少する塩の段階的変化を用いて、A型ボツリヌス神経毒素複合体をカラムから溶出した。投入する間に、洗浄緩衝液および除染溶液で不純物を溶出した。
【0113】
疎水性相互作用クロマトグラフィーステップの詳細:
最初に、Phenyl Sepharose HPカラムを0.1N水酸化ナトリウム溶液で最短接触時間の30分間(少なくとも約3カラム体積の0.1N水酸化ナトリウム溶液を用いて200cm/時で)殺菌した。次いで、少なくとも約5カラム体積の50mM酢酸ナトリウム、0.4M硫酸アンモニウム、pH4.8緩衝液でカラムを平衡化した。次に、POROS(登録商標)20HS(陽イオン交換カラム)生成物プール(上記の)を1:1で50mM酢酸ナトリウム、0.8M硫酸アンモニウム、pH4.8緩衝液と合わせ、Phenyl Sepharose HPカラムに投入した。最初にカラムを少なくとも約3カラム体積の50mM酢酸ナトリウム、0.4M硫酸アンモニウム、pH4.8緩衝液で洗浄し、次いで50mMリン酸ナトリウム、0.4M硫酸アンモニウム、pH6.5緩衝液で洗浄した。A型ボツリヌス神経毒素複合体を10mMリン酸ナトリウム、0.14M硫酸アンモニウム、pH6.5緩衝液でカラムから溶出した。A
280が
>0.05AUまで増加したときに、溶出液をバイオプロセス収集袋に誘導した。溶出ピークの立ち下がり区間のA
280が
<0.05AUの値に減少するまで溶出液を収集した。Phenyl Sepharose HP生成物プールを、周囲温度で最長約6時間、収集袋内に保存した。
【0114】
接線流濾過システムを使用して、Phenyl Sepharose HPクロマトグラフィーステップの生成物プールを原体調合緩衝液中に濃縮およびダイアフィルトレーションした。濃縮およびダイアフィルトレーションステップには、分子量100kDaのカットオフ膜を有するPall(登録商標)Filtron Minimateカセットを使用した。次いで調合した材料をPall Mini Kleenpak(登録商標)0.2μmフィルタに通過させて潜在的なバイオバーデンを減少させた。前述したように、UF/DFステップでPhenyl Sepharose HP生成物プール(HICカラムの溶離液)を0.7g/Lの濃度のBoNT/A複合体に濃縮し、濃縮した材料を10mMクエン酸カリウム、pH6.5緩衝液でダイアフィルトレーションした。
【0115】
使用した限外濾過/ダイアフィルトレーションプロセスの詳細は次の通りである。UF/DFユニットおよびPall製100kDaポリエーテルスルホン膜を、最初に最低5Lの注射用水(WFI)でフラッシュして充填溶液を除去し、再循環条件下で最低10分間、好ましくは少なくとも30分間、最低200mLの1N水酸化ナトリウム溶液で殺菌して、UF/DFユニットを殺菌した。次に、十分な体積の10mMクエン酸カリウム、pH6.5製剤緩衝液で、透過液および保持液のpHがpH6.5になるまで膜およびUF/DFシステムを平衡化した。その後、Phenyl Sepharose HP生成物プールをMinimate(登録商標)接線流濾過カセットに投入し、HIC溶出液を0.7g/Lに濃縮した。濃縮ステップの後、保持液プールを、透過膜圧7.5psig(毎平方インチ当たりポンド)で、最低5ダイアフィルトレーション体積の原体調合緩衝液(10mMクエン酸カリウム、pH6.5)に対してダイアフィルトレーションした。次いで、透過液出口を閉じ、UF/DFシステムを少なくとも2分間稼動させ、50mLの10mMクエン酸カリウム、pH6.5調合緩衝液でシステムをすすいだ。すすぎの後、オフラインのA
278を測定することおよびA
278の読み取り値に基づいて保持液中のBoNT/A複合体の濃度を決定し、10mMクエン酸カリウム、pH6.5緩衝液で保持液プールの濃度を0.5g/Lに調整した。濃度を調整した保持液プールを、今度はPall Mini Kleenpak0.2μmフィルタに通過させて、潜在的バイオバーデンを減少させた。濾過した濃度調整済の保持液プールを、2℃〜8℃で最長2日間、収集袋内に保存した。
【0116】
得られた最終的な精製A型ボツリヌス神経毒素複合体を、1mLのNunc(登録商標)クライオバイアルにバイアル当たり700μLで充填し、冷凍保存した。充填操作は、クラス100バイオセーフティキャビネット内において周囲温度で行った。
【0117】
下流プロセス(2つまたは3つのクロマトグラフィーカラムの使用を含む)は、わずか1〜3日で完了し、得られたA型ボツリヌス神経毒素複合体を、クエン酸カリウム、pH6.5緩衝液中、濃度0.5g/Lの溶液として冷凍保存した。それに引き換え、従来技術であるSchantzの下流(毒素精製)プロセスは、A型ボツリヌス神経毒素複合体を精製するために複数の濾過、沈殿、抽出、および遠心分離ステップを用い、下流ステップだけで完了するのに1〜2週間を必要とし、結果として得られた原体(回収されたボツリヌス神経毒素)は、約2.7g/Lの濃度の硫酸アンモニウム懸濁液として冷蔵される。沈殿に代わるクロマトグラフィーの使用と処理時間の短縮により、本明細書に開示されるように、有意に改良された、一貫性のある下流プロセスをもたらした。
【0118】
一態様によれば、大豆由来成分等の植物由来成分の濃縮物は、培養および発酵培地中のSoy Peptone Type II、Hy−Soy(登録商標)またはSE50MK(コーシャー対応大豆ペプトン)であってもよい。種培養培地中のHy−Soy(登録商標)は、10〜200g/Lの範囲であってもよい。好ましくは、種培地中のHy−Soy(登録商標)の濃度は、15〜150g/Lの範囲である。最も好ましくは、種培地中のHy−Soy(登録商標)の濃度は、約20〜30g/L、またはその間の量である。種培地中のグルコースの濃度は、0.1g/L〜20g/Lの範囲であってもよい。好ましくは、グルコースの濃度は、0.5〜15g/Lの範囲である。最も好ましくは、培養培地中のグルコースの濃度は、約10g/Lである。酵母エキスの量は、約5〜20g/L、より好ましくは約10〜15g/L、またはその間の量であってもよい。例えば、クロストリジウム・ボツリナム増殖前の培養培地のpHは、約pH7.0〜7.5、またはその間、好ましくはpH7.3であってもよい。
【0119】
一例として、生産発酵培地におけるHy−Soy(登録商標)の量は、10〜200g/Lの範囲であってもよい。好ましくは、発酵培地におけるHy−Soy(登録商標)の濃度は、15〜150g/Lの範囲である。最も好ましくは、発酵培地におけるHy−Soy(登録商標)の濃度は、約20〜40g/L、またはその間の量である。発酵培地におけるグルコースの濃度は、0.1g/L〜20g/Lの範囲であってもよい。好ましくは、グルコースの濃度は、0.5〜15g/Lの範囲であるか、またはその間の量であってもよい。必ずしも必要ではないが、上記のように、グルコースは、発酵培地の他の成分と一緒にオートクレーブすることにより滅菌されてもよい。増殖前の発酵培地のpHレベルはpH7.0〜7.8、好ましくは約7.0〜7.5、またはその間、より好ましくはpH7.3であってもよい。
【0120】
図1の右側によって示されるように、生物学的に活性なボツリヌス神経毒素複合体を得るためにこの実施例2で用いられる2カラムAPFプロセスは、以下のステップを含んでいた:(a)APF WCBバイアルからのクロストリジウム・ボツリナム菌等の菌を種/培養瓶内で培養するステップと、(b)次いで、細胞株を増殖させるためにAPF発酵培地を有する発酵槽(毒素生産発酵槽)においてクロストリジウム・ボツリナム菌を発酵させ、所望の細胞溶解段階に到達するまで発酵およびボツリヌス毒素の生産を進めるステップ。次に、(c)APF発酵培地を採取(例えば、濾過による清澄化)して、採取済みの発酵培地を得るステップと、(d)濃縮および希釈を進め、希釈された採取済みの発酵培地をもたらすステップであって、それを(e)不純物を除去するために初期精製カラムに通過させる、ステップと、(f)初期精製カラムからの溶離液を、最終精製カラムと、また任意選択で第2の最終精製カラムと接触させ、さらに不純物を除去するステップと、(g)最終精製カラムの溶離液の濃縮および緩衝液交換、ならびにその後の(h)バイオバーデン減少濾過および(i)バイアルを充填するステップ。
【0121】
一例において、発酵体積は20Lであり、全部のステップの処理時間合計はわずか4〜6日であり、ボツリヌス神経毒素の高い収率が得られた。
【0122】
以下に、我々の発明の範囲内である特定の実施形態のさらなる詳細を提供する。発酵ステップは、30Lステンレススチール発酵槽を使用してAPF培地において行った。
【0123】
以下のこの実施例では、はるかに少ない体積の発酵培地を使用しながら、なおも効力の高いA型ボツリヌス神経毒素複合体の高い収率を提供する。以下のプロトコルを用いることにより、商業的に有用な量のボツリヌス神経毒素を生産するために必要とされていた、従来の典型的により大きな体積(例えば115L)の発酵培地の代わりに、例えば、わずか20L以下のAPF発酵培地が必要になる。
【0124】
エアロック付きMACS嫌気性ワークステーション(Don Whitley)により、嫌気性微生物を操作するための、酸素が欠乏した環境が提供された。チャンバへのアクセスおよびそこからの脱出は、内側および外側のドアからなるポートホールシステムを介して行った。このユニットは、チャンバ内のユーザ設定を維持するよう温度制御されていた。恒湿器で制御された凝縮液プレートにより、チャンバ内の過剰水分を効果的に除去することを確実にした。チャンバは、作業者の使用のため、ならびにガス圧低下、持続的ガス流、および電力条件損失の警報のために点灯された。チャンバは、嫌気性チャンバ内の生存可能および生存不可能な微粒子レベルを減少させるためのHEPAフィルタを備えていた。「Anotox」およびPalladium Deoxo「D」Catalyst大気洗浄システムを用いて嫌気性条件を維持した。凝縮液プレートから凝縮水を収集し、外部貯蔵容器に配管して除去した。
【0125】
上で開示したように、APF WCBの調製のためにAPFプロセスを使用し、セルバンクのバイアルを−135℃未満で保存した。APF WCBセルバンクのバイアルは、培養培地への接種前に約15分間室温で解凍し、その後、上記開示した単一培養ステップにより「種」培養物を確立した。これは、バイオバーデンを最小限に抑えるために、終始、無菌技術を用いてモジュール式雰囲気制御型システムにおいて行った。APF WCBバイアルの内容物とともに完成した種培養バイアルの接種を行う前に、モジュール式雰囲気制御型システムを洗浄した。培養培地は、1N塩酸および1N水酸化ナトリウム(pH調整用)、D(+)グルコース、Anhydrous(Mallinckrodt Baker、カタログ番号7730、4.00g)、Soy Peptone Type II(SPTII)(Marcor、カタログ番号1130、8.00g)、注射用水(WFI)400.0mL、および酵母エキス(YE)(BDカタログ番号212730、4.00g)を使用して調製した。500mLメスシリンダーで300mLのWFIを測定することによりSoy Peptone Type IIおよび酵母エキス溶液を作製し、種培養瓶に注いだ。種培養瓶をスターラーに乗せてスターラーを作動させた。種培養瓶にSPTII8.00gおよび酵母エキス4.00を加え、溶解するまで混合した。混合後に溶解が完了していなかったときは、混合物を低温設定で加熱した。pHを測定し、約7.30±0.05に調整した。WFIを用いて培地溶液を約360mLにした。適切に種培養瓶の通気を行い、蒸気とガスの移動を可能にした。100mLメスシリンダーで約30mLのWFIを測定することにより10%グルコース溶液(w/v)を調製し、予め構築されたグルコース添加瓶に入れ、スターラーに乗せてスターラーを作動させた。グルコース添加瓶に約4.00gのグルコースを加え、溶解するまで(溶解するまで必要に応じて低温を用いた)、および40mLのqs(十分な量)になるまで、グルコース溶液をWFIと混合した。次いで、通気キャップでグルコース添加に緩く蓋をした。グルコース瓶および種培養瓶の両方を、滅菌のために123℃で30分間オートクレーブした。滅菌後、両方のアイテムをオートクレーブから取り出し、バイオセーフティキャビネット内で放置冷却した。無菌的に冷却した後、グルコース溶液の10%を酵母エキスおよびSoy Peptone II溶液を含有する種培養瓶に移して混合し、それによって完成した種培養瓶を提供する。
【0126】
この完成した種培養瓶を予め洗浄した(調製済みの嫌気性インジケータが置かれた)MACSに入れた。完成した種培養瓶のキャップを緩めた。次いで、完成した種培養瓶をMACS内の撹拌プレートに置き(撹拌プレートは約150rpmで作動)、MACS内で、完成した種培養瓶内の培地を最低12時間、約34.5℃+/−1℃で還元し、その後、1mLの培地ブランクを光学密度測定(540nmでのバイオマス測定のため)のためにサンプル採取した。その後、完成した種培養瓶を(嫌気性)MACS内で接種した。冷凍セルバンクからAPF WCB培養バイアルを得、MACS内に入れた。約10〜15分間バイアルを解凍し、その後、完成した種培養瓶内の培地にバイアル内容物約400μLを直接入れた。完成した種培養瓶上のキャップを完全に緩め、キャップを瓶の頂上部に載置し、撹拌速度を150rpmに設定した。MACS内で少なくとも約11時間インキュベーションした後、下に記載するように発酵生産を行った。
【0127】
プローブ(例えば、Broadley JamesおよびOptek社製の、例えば、酸化還元プローブ、pHプローブ、濁度プローブ)および発酵槽(30Lステンレススチール発酵槽等)の手順構成を確認して調整し、それら各々の発酵槽ポートに挿入し、所定の位置で締めた。例えば、発酵槽は、体積30Lの発酵槽容器、撹拌機駆動システム、ユーティリティ接続のための配管アセンブリ(CIP、清潔な蒸気、CDA、窒素、酸素、プロセス冷却水、バイオ廃棄物、および工場の蒸気)、計装(pH、温度、圧力、酸化還元、光学密度、およびマスフロー)、ならびに4つの蠕動ポンプからなる、ABEC30L(VT)発酵槽システムであってもよい。下方に取り付けた撹拌機の速度は、Allen−Bradley可変周波数駆動(VFD)を使用して制御した。システムの半自動および自動制御は、Allen−Bradley ControlLogix PLCをプログラミングして対応した。システムは、発酵操作中に培養温度、圧力、pH、および酸化還元の閉ループPID(比例・積分・微分)制御を提供するように設計した。スキッド上のデバイスおよびセンサを用いた制御および通信のためにAllen−Bradley DeviceNet(登録商標)(オープンデバイスレベルネットワーク)を用いた。
【0128】
滅菌保持、平衡化、実行、および採取モードのために、以下の設定点で撹拌、温度、圧力、および窒素オーバーレイを操作する。
【0129】
滅菌保持および平衡化モード
【表1】
実行モード
【表2】
採取モード
【表3】
【0130】
発酵培地を調製するために必要であった材料は、D(+)グルコース、Anhydrous(Mallinckrodt Baker、カタログ番号7730、300.0g)、Soy Peptone Type II(SPTII)(Marcor、カタログ番号1130、650.0g)、注射用水(WFI、13L)、および酵母エキス(YE)(BDカタログ番号212730、240.0g)、ならびに標準的な天秤、カーボーイ(例えば20L)、ガラス瓶(5L)、メスシリンダー、撹拌棒、およびスターラーを含む。約10LのWFIを撹拌棒とともにカーボーイに加えた。カーボーイをスターラーに乗せてスターラーを作動させ、その後、約240.00gのYEとともに約650.0gのSoy Peptone Type IIを加えた。発酵培地は、WFIで13Lまでq.s.(十分な量)であり、カーボーイに蓋をした。次いで、約2LのWFIを5Lガラス瓶(中に撹拌棒を有する)に加えることにより10%グルコース溶液(w/v)を調製した。スターラーに乗せ、撹拌棒を回転させながら、約300.00gのグルコースを瓶に加え、溶解するまで混合した。グルコース溶液は、WFIで3Lまでq.s.であり、瓶に蓋をし、それによって10%グルコース溶液が得られた。
【0131】
カーボーイ内の発酵培地を発酵槽に加え、所定の位置で発酵槽に予め蒸気を当て、体積を記録し、発酵操作手順を開始した。SIP(所定の位置での蒸気)(122℃、+/−1℃)の終了時に、SIP後の発酵槽の体積を記録した。管を有する容器、直列0.2μmフィルタ(PALL Corp.)、および蠕動ポンプを備えるグルコース添加アセンブリを発酵槽に接続し、ラインをSIPに供し、冷却した。添加バルブポートを開放し、約3Lのグルコース(濾過滅菌済み)を加え、発酵槽の全体積を20Lまでq.sにするために適量であるWFI(濾過滅菌済み)をグルコース添加瓶に加え、同じグルコース濾過ラインを通して発酵槽にポンプで送り込んだ。添加バルブポートを閉鎖した。その後、必要に応じて、添加ラインのSIPを用いて、滅菌1N水酸化ナトリウムまたは1N塩酸で生産発酵培地のpHを約pH7.3+/−0.05に調整した。その後、滅菌保持のためのパラメータを設定し、接種前に約12時間維持した。代謝物分析器を使用して培地の出発グルコース濃度を測定し、グルコース濃度を記録した。
【0132】
上述したように、種培養インキュベーション(約11±1時間)の終了時に、光学密度(OD)測定のために1mLのサンプルを採取した。分光光度計を使用して540nmでのODをオフラインで測定し、適切な範囲内であればOD値を記録し、培養物を発酵に使用した。発酵槽濁度プローブは、それに応じてゼロにした。嫌気性チャンバからの種菌瓶を発酵槽の上に配置し、発酵槽のバルブを種菌移動アセンブリ(その中にAPF培養培地を含む種容器であり、該容器はPALL Corp.またはMilliporeから入手可能な滅菌Kleenpak(商標)Connectorアセンブリを含む培養種菌移動ラインを有する)と交換し、ポンプ1への管を固定した。発酵槽の圧力を2psigに低下させ、種菌瓶の全体積を発酵槽内にポンプで送り込んだ。接種の最後に、発酵槽からのオンライン吸高度単位(AU)を記録し、発酵槽のパラメータを「実行」モードに設定し、時間を記録した。
【0133】
次いで発酵を進め(発酵の実行は、約60時間〜約80時間、好ましくは約68時間〜約76時間、最も好ましくは約72時間であってもよい)、例えば、24および48時間後に、無菌条件を維持しながら発酵槽からサンプルを採取した。発酵中に採取した少なくとも1つのサンプルに対して行った試験は、例えば、オフライン光学密度測定、グルコース測定、ELISA、SDS−PAGE、ウエスタンブロットを含むが、これらに限定されない。発酵終了時(発酵終了時のブロス体積は、例えば約18〜19Lである)にサンプルを採取してもよい(例えば、オフライン光学密度測定、グルコース測定、ELISA、SDS−PAGE、ウエスタンブロット、およびDNA/RNA定量化による試験のため)。
【0134】
発酵終了時に、オンライン光学密度、EFT(所要発酵時間)、および発酵終了時刻、また撹拌(rpm)、温度(℃)、圧力(psig)、ならびに窒素オーバーレイ(slpm)および酸化還元(mV)を記録した。次に、生産発酵ブロスを採取に供した、すなわち、生産発酵ブロスを濾過により清澄化し、例えば、約15Lの濾液を収集した。発酵パラメータを採取用に設定し、前置フィルタ、深層フィルタ、および少なくとも1つの圧力ゲージを含む清澄化のためのフィルタアセンブリ(CUNO、3M濾過)を調製した。約20Lの水で前置フィルタおよび深層フィルタを注射のためにフラッシュした。フラッシング後、濾過アセンブリを発酵槽の採取/排水ポートに取り付けた。発酵温度を約25℃に下げ、その後、発酵ブロスの清澄化を開始した(清澄化開始時刻、初期オンラインOD、初期pH、初期温度、および発酵槽の初期体積を記録)。濾過の間、発酵槽内の圧力を約10分ごとに約1psi(毎平方インチ当たりポンド)の割合で、圧力が約6psiに達するまで増加させ、その時点で、採取終了時まで圧力を維持した。このフィルタは、APF発酵培地中のRNA/DNAを約80%除去し(残りは、後のクロマトグラフィーステップの間に本質的に除去される(後に考察する))、したがって、発酵ブロスからそのような成分を除去するための従来の依存性/RNaseおよび/またはDNaseの使用を排除する。前置フィルタ入り口圧力、深層フィルタ入り口圧力、発酵槽圧力、撹拌、および濾液体積等のプロセスパラメータを、2Lの濾液が収集されるごとにモニタリングし、最後に、清澄化終了時刻および収集された濾液の体積を記録した。採取ステップ完了後、システムを除染および洗浄した。
【0135】
濾液の入ったカーボーイをサンプル採取のためにBSC内に入れ、オフラインOD測定および他の分析(例えば、ELISA、SDS−PAGE、DNA/RNA、およびウエスタンブロット)のために、そこから約
<10mLの濾液をサンプル採取した。
【0136】
次いで、フィルタを限外濾過/希釈に供した。接線流濾過(TFF)ユニットアセンブリを組み立てた。1分当たり約2Lの好ましい速度で、TFFユニットをWFIで約90分間すすぎ、次いで、0.1N水酸化ナトリウムを(再循環させて)約60分間流すことによりTFFユニットを殺菌し、その後、1Lの10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5を流し、続いてWFIで約30分間すすいだ。次いで、採取ステップからの濾液(約15L)をTFFに通過させ(バイオセーフティキャビネット内で行われる)、約5L+/−0.5Lまで濾液を濃縮した(濃縮ステップは、1分当たり約2L、透過膜圧力約5psigで進行する)。透過液のサンプルを採取し、例えば、ELISA、dsDNA、SDS−PAGE、およびウエスタンブロット試験に供してもよい。約5L+/−0.5Lまで濃縮してから、1分当たり約2Lの速度で、約15Lの滅菌濾過した10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.5をTFFに通し、保持液プールを約20Lまで希釈した。次いで、再度サンプルを採取し、例えば、ELISA、DNA/RNA、SDS−PAGE、およびウエスタンブロット試験に供してもよい。限外濾過/希釈材料(保持液)を4℃で保存した。
【0137】
使用後は、1N水酸化ナトリウムまたは滅菌(蒸気)温度のいずれかを使用して、全てのシステムを除染および洗浄した。
【0138】
精製されたA型ボツリヌス神経毒素複合体を得るために、例示的なプロセス、つまり実施例2のプロセスによって得られた発酵培地の精製において使用するための、後に記載する溶液、緩衝液等を作製するために、以下の材料、設備、および手順を使用した。用いた例示的な緩衝液は(0.2ミクロン真空フィルタを通して濾過し、記録のためにそれらの伝導率をmS/cmで測定した)、10mMリン酸ナトリウム、pH6.5;50mMリン酸ナトリウム、pH6.5;50mM酢酸ナトリウム、pH4.8;50mM酢酸ナトリウム、170mM塩化ナトリウム、pH4.8;50mM酢酸ナトリウム、250mM塩化ナトリウム、pH4.8;50、mM酢酸ナトリウム、1M塩化ナトリウム、pH4.8;50mM酢酸ナトリウム、pH4.0、および10Mmクエン酸塩、pH6.5を含む。
【0139】
以下は、実施例2のプロセスからA型ボツリヌス神経毒素を精製するためおよび得るための操作の例である。全ての生成物接触部品は、それらが非反応性および非吸収性であることを確実にするように設計および構築される。また、全ての設備は、単回使用使い捨てシステムの利用を可能にするように設計したか、または実証および確認済みの方法にしたがって殺菌、洗浄、および除染を促進するように設計および構築した。システムまたはスキッドを生成物に接触しないように設計したのに対し、クロマトグラフィーカラムおよび全ての関連する管を含む流路は、単回使用使い捨てであるように設計した。クロマトグラフィーコンポーネントはAlphaBioから調達し、UF/DFコンポーネントはScilog Inc.から調達した。使用したクロマトグラフィーの設定は、可変速度駆動による溶液送達のための蠕動ポンプ、5つの入り口を有する入り口バルブマニホールド、3つの自動化バルブのアレイを有するカラムバルブマニホールド、3つの出口を有する出口バルブマニホールド、pH、伝導性、およびUVを含むカラム排水のモニタリング、UV吸光度に基づくピーク分取、ならびに精製操作を完了するために必要な計装および制御を含んでいた。制御システムは、精製プロセスを制御するように設計されたソフトウェアおよびハードウェアの両方を有していた。コマンドおよびデータは、HMI(Human Machine Interface)端末を介して入力した。操作者は、HMIにおけるコマンドにより全ての自動化プロセス機能を開始し、供給量速度、圧力、伝導率、pH、UV吸光度、および個々のバルブ位置等のプロセスパラメータをモニタリングし、調整した。
【0140】
UF/DFシステムは、再循環ポンプ、ダイアフィルトレーションポンプ、2つの天秤、接線流フィルタ(TFF)ホルダを含んだ。再循環ポンプは、3つの使い捨て圧力センサおよび天秤のうちの1つ(透過液貯蔵容器の下に位置する)と連結して、透過膜圧力を維持するために流速を制御し、透過液貯蔵容器の重量に基づいて停止する。ダイアフィルトレーションポンプは、第2の天秤(透過液貯蔵容器の下に位置する)と連結して、透過液貯蔵容器の一定重量を維持することに基づいて稼動および停止する。
【0141】
採取ステップ(動物性タンパク質を含まない発酵培地の採取)からの保持液材料の濃縮および希釈後、該材料を陰イオン交換カラムに投入した。以下は、実施例2の2カラムプロセスにおいて有用な陰イオン交換カラムを充填および試験するために使用される手順である。
【0142】
予め充填したカラムを3つ全てのクロマトグラフィーステップに使用した。最初に、供給材料(限外濾過/希釈に供した採取済みのAPF培地)を陰イオン交換カラム(上記のようにABI社製Poros50HQ)に通過させた。少なくとも5カラム体積(CV)の50mMリン酸ナトリウム、pH6.5を用いて、陰イオン交換カラム(この例では捕捉カラム)を平衡化した。
【0143】
平衡化の後に投入ステップを行い、供給材料(例えば約20Lの発酵ブロスを採取した、採取ステップ後)を、例えば約200cm/時の速度で陰イオン交換カラムに投入した。0.5カラム体積の投入材料が陰イオン交換カラムを通過してから、素通り画分(FT)プールをポリエーテルスルホン容器等の受容器に収集する一方で、毒素複合体が陰イオン交換カラム材料に結合する。その後に洗浄ステップが続き、少なくとも約15カラム体積の洗浄緩衝液(例えばpH6.5の50mMリン酸ナトリウム)を陰イオン交換カラムに通過させた。リアルタイムでカラム出口で測定したUVが約80mAU以下に減少したときに洗浄ステップを停止した。洗浄緩衝液の体積および素通り画分/洗浄プールの体積を記録し、素通り画分/洗浄プールのサンプル1mLを採取し、例えば、毒素の濃度、核酸内容物、全細胞タンパク質、SDS−PAGE、qPCR、2D LC、およびELISAについて試験を行った。
【0144】
次のステップは溶出ステップであり、溶出緩衝液(例えば50mM酢酸ナトリウム、pH4.8)をポンプで陰イオン交換カラムに送った。カラム出口でのリアルタイムのUV読み取り値が約150mAU以上に増加したときに、1CVの溶出緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、pH4.8)で予め充填した容器内への溶出液の収集を開始した。UV読み取り値が約200mAU以下に減少したときに溶出液プールの収集を停止した(この時点で収集された体積は約1〜約2CV)。次いでクロマトグラフィーシステムを除染し、1N水酸化ナトリウムを使用して洗浄した。
【0145】
次いで、陰イオン交換カラムからの溶出液プールを、陽イオン交換カラムに添加するために調製した。陰イオン交換溶出液の体積、pH、伝導率、および供給温度を記録し、陰イオン交換カラムからの溶出液プールを1CVの50mM酢酸ナトリウム、pH4.8で希釈した。
【0146】
陰イオン交換カラムに流過させた後、陽イオン交換クロマトグラフィー操作を行った。陽イオン交換カラム(例えばPoros(登録商標)20HS)は、最低5CVの平衡化緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、pH4.8)で平衡化した。平衡化後、陰イオン交換カラムからの希釈した溶出液プールを陽イオン交換カラムに投入し、合計投入体積を記録した。0.5カラム体積の投入した希釈溶出液プールが陽イオン交換カラムを通過してから、素通り画分(FT)プールを収集した。陽イオン交換カラムの第1の洗浄を行い、約3〜5CVの50mM酢酸ナトリウム、pH4.8を陽イオン交換カラム(用いた第1の洗浄緩衝液の体積を記録した)に通過させた。第2の洗浄を行い、約3CVの170mM塩化ナトリウム、50mM酢酸ナトリウム、pH4.8をポンプでカラムに通し、この溶出液を「WASH 2 Peak」と表記した新しい容器に収集した。UV読み取り値が50mAU以上に増加したときに収集を開始した。1CVを収集し、用いた第2の洗浄緩衝液の体積を記録した。
【0147】
ポンプで陽イオン交換カラムに送った溶出緩衝液(例えば、50mM酢酸ナトリウム中の250mM塩化ナトリウム、pH4.8)を用いて、陽イオン交換カラムからバルク毒素複合体の溶出を行った。溶出のUV読み取り値が少なくとも約100mAUに達したときに、希釈緩衝液(40mLの100mMリン酸カリウム、pH6.8、および60mLの10mMクエン酸カリウム、pH6.5)で予め充填した容器内への溶出液の収集を開始した。UV読み取り値が約100mAU以下に減少するまで陽イオン交換カラムからの溶出液の収集を続けた。希釈後の溶離液の合計体積を記録した。次いで、陽イオン交換クロマトグラフィーシステムを除染および洗浄した。
【0148】
陽イオン交換カラムからの溶出後、溶出液を濾過に供した。一方の上に他方が重なった3つの100K MWCO膜(Sartorius AG、Goettingen,Germany)を使用して、接線流濾過(TFF)システムを用いた。陽イオン交換溶出液プールの初期体積、ならびにダイアフィルトレーション/平衡化および殺菌溶液の詳細を記録した。例えば、ダイアフィルトレーション溶液は10mMクエン酸カリウム、pH6.5であってもよく、殺菌溶液は0.1N水酸化ナトリウムであってもよい。システム設定は、陽イオンカラム(IAPF)またはHICカラム(FAPF)のいずれかからの溶出液(溶出液はボツリヌス毒素を含有する)を含有する貯蔵容器から、1本の管を、限外濾過ポンプヘッドを通って接線流濾過膜の入り口に接続することにより進行した。接線流濾過膜の透過液出口からの第2の管を、限外濾過(UF)透過液容器に接続した。接線流濾過膜の保持液出口から保持液貯蔵容器への管を固定し、ダイアフィルトレーション(DF)緩衝液からダイアフィルトレーションポンプヘッドを通って保持液貯蔵容器へと入り込む第4の管もまた固定した。膜と同様に、保持液を廃棄しながら、少なくとも約720mLの注射用水(WFI)で膜をフラッシュすることにより、システムの保存緩衝液をフラッシュし、その後、保持液を貯蔵容器に再循環させながら、少なくとも約4200mLの注射用水で膜をさらにフラッシュした。この後、保持液を廃棄しながら、少なくとも約200mLの1N水酸化ナトリウムで膜をフラッシュし、続いて、最低30分間保持液を貯蔵容器に再循環させながら、少なくとも約200mLの1N NaOHで膜をフラッシュすることにより、膜の殺菌を行った(必要である場合)。次いで、保持液および透過液のpHが平衡化緩衝液のpHの+/−0.2単位以内(例えば、pH6.5の+/−0.2ユニット以内)になるまで、平衡化緩衝液(10mMクエン酸カリウム、pH6.5)で膜をフラッシュすることにより平衡化を行った。
【0149】
材料(陽イオン交換カラムからの溶出液(生成物プール))の濃度を測定し、希釈または濃縮(例示的な処理)が適切であったかどうかを確認した(例示的な標的濃度は約0.7mg/mLであってもよい)。10mMクエン酸カリウム、pH6.5を用いて希釈を達成した。例えば、生成物濃度0.7mg/mLに対して標的体積を決定した(標的体積=(出発濃度/出発体積)/0.7mg/mL)。
【0150】
生成物プール(陽イオン交換カラムからの(しかるべく処理された、または処理されていない)溶出液)を膜に投入し、システム(TFFシステム)の再循環(透過液出口を閉じた状態で)を背圧なしで少なくとも2分間行い、その後、約7psigの透過圧を標的として保持液の背圧弁を調節しながら、透過液弁を徐々に開放した。希釈のために、10mMクエン酸カリウム、pH6.5を標的体積まで加え、限外濾過を行わずにダイアフィルトレーションに移行し、濃縮のために限外濾過を開始した。ダイアフィルトレーション:透過廃液を新しい容器(標的ダイアフィルトレーション体積は5×ダイアフィルトレーション体積)に収集し、少なくとも5ダイアフィルトレーション体積の10mMクエン酸カリウム、pH6.5でダイアフィルトレーションを行った。最短10分間隔でダイアフィルトレーションプロセスのデータを収集した(透過液重量g/vol mL、入り口圧力(psig)、保持液圧力(psig)、透過液圧力(psig)、および透過膜圧力(psig))。再循環/およびすすぎ:透過液出口フィルタを閉じた状態で、背圧なしで少なくとも2分間システムを再循環/稼動させ、少なくとも20mLの10mMクエン酸カリウム、pH6.5でシステムをすすいだ。生成物プールは、保持液およびすすぎ液を含む。生成物プールからサンプルを採取し、検証分析(例えば、278nmでのUV、SDS−Page、LcHPLC、SE−HPLC、qPCR、RP−HPLC、Native−Page、AUC、カブトガニアメーバ様細胞溶解物、ウエスタンブロットおよびELISA試験を含む)に供してもよい。使用後の洗浄のために、1N水酸化ナトリウムでシステムをフラッシュし、少なくとも10分間再循環させ、その後システムをフラッシュし、その中に0.1N水酸化ナトリウムを入れて保存した。
【0151】
次いで、バルク神経毒を保存および分割するために滅菌濾過および充填を行った。すすぎ後のサンプルの毒素濃度を約0.5mg/mLに調整するために、10mMクエン酸カリウム、pH6.5を用いて濃度調整を行った。毒素濃度が約0.5mg/mLである場合は、濃度調整は必要ではない。
滅菌ピペットを使用して、15mL/1.5mL滅菌サンプル管の各々に10mL/0.75mLを含まれるアリコートを作製した。生成物の入った容器を手で穏やかに撹拌し、必要量の溶液(バルク原体、すなわち、バルクのボツリヌス毒素を含有する)を各バイアルに移した。サンプルは、最長5日間、2℃〜8℃の冷蔵庫に保存するか、または0.75mLの濾液生成物プールをクライオバイアルに移した。クライオバイアルを−70℃+/−5℃で保存した。
【0152】
実施例3
配合方法
患者への投与に好適な医薬組成物は、実施例2のプロセスから得られたボツリヌス神経毒素を1つ以上の賦形剤と配合することによって作製することができる。賦形剤は、配合プロセスおよびその後の使用前の保存期間の間にボツリヌス毒素を安定化する役割を果たすことができる。賦形剤はまた、増量剤として、および/または医薬組成物にある程度の浸透圧を与えるために作用することもできる。配合は、実施例2のプロセスから得られたボツリヌス神経毒素を何倍にも希釈すること、1つ以上の賦形剤(アルブミン[ヒト血清アルブミンまたは組換えヒトアルブミン等]および塩化ナトリウム等)と混合し、それによって毒素組成物を形成すること、該組成物を凍結乾燥、フリーズドライ、または真空乾燥することにより、毒素組成物の保存および輸送用の安定した形態を調製することを必要とする。したがって、約1.5〜1.9ngの実施例2で得られたA型ボツリヌス毒素複合体は、約0.5ミリグラムの組換えヒトアルブミン(Delta Biotechnologies)および約0.9ミリグラムの塩化ナトリウムと(これらの3つの成分を一緒に混合し、その後真空乾燥することによって)配合される。真空乾燥は、約20℃〜約25℃で、約80mmHgの圧力で約5時間行われてもよく、その時点で、その中にこれらの成分が真空乾燥されたバイアルが真空下で密封されて蓋をされ、それによって約100単位のA型ボツリヌス神経毒素複合体を含むバイアルが得られる。得られた固体(粉末状)の真空乾燥生成物は、使用時に標準的な(0.9%)生理食塩水で再構成され、頸部ジストニアおよび多汗症等の種々の適応症に罹患する患者を治療するために使用される。凍結乾燥、真空乾燥またはフリーズドライにより、配合されたボツリヌス神経毒素の保存および輸送用の安定した形態を調製する。
【0153】
別の例において、約1.5〜1.9ngのバルクA型ボツリヌス毒素が、約0.5ミリグラムのヒト血清アルブミン(Baxter/Immuno、OctapharmaおよびPharmacia&Upjohn)ならびに約0.9ミリグラムの塩化ナトリウムと(これらの3つの成分を一緒に混合し、その後真空乾燥することによって)配合される。例示的な真空乾燥は、約20℃〜約25℃で、約80μm Hgの圧力で約5時間行われてもよく、その時点で、これらの成分が真空乾燥されたバイアルが真空下で密封されて蓋をされ、それによって約100単位のボツリヌス毒素を含むバイアルが得られる。得られた固体(粉末状)の真空乾燥生成物は、使用時に標準的な(0.9%)生理食塩水で再構成され、頸部ジストニアおよび多汗症等の種々の適応症に罹患する患者を治療するために使用される。さらに、医薬品としてのボツリヌス毒素組成物は、例えば、ヒト血清アルブミンおよび/またはラクトースを含有することができる。一例において、約1.5〜1.9ngのA型ボツリヌス毒素が、例えば、約125マイクログラムのヒト血清アルブミンおよび2.5ミリグラムのラクトースと配合され、保存安定性のために真空乾燥、凍結乾燥、およびフリーズドライされてもよい。さらに別の例において、本明細書に開示されるプロセスによって得られた約1.5〜1.9ngのボツリヌス神経毒素が、約10mgのトレハロースおよび約0.5mgの血清アルブミン(天然または組換えヒト血清アルブミン等)と、また任意で約1ミリグラムのメチオニンと配合されて、約100単位のボツリヌス毒素の乾燥生成物を提供してもよい。この組成物は、例えば、凍結乾燥されて、約1mLの滅菌蒸留水または滅菌した保存剤を含まない生理食塩水(注射用の0.9%塩化ナトリウム)で、後に、使用前に再構成されてもよい。特定の例において、医薬品としてのボツリヌス毒素組成物は、ヒト血清アルブミン20%およびスクロースと組み合わされた、本明細書に開示されるプロセスによって得られた約1.5〜1.9ngのボツリヌス神経毒素を有する例示的な製剤のように、スクロースを含むことができ、同様に、約100単位のA型ボツリヌス毒素を提供するように凍結乾燥して、後に、保存剤を含まない生理食塩水(例えば、約0.5mL〜約8.0mLの体積)で再構成することができる。特定の例において、200単位のボツリヌス神経毒素は、1mL当たり約10mgのスクロースおよび2mgのヒト血清アルブミンと組み合わされてもよく、結果として得られた組成物は、後に、使用前に生理食塩水で再構成するように、バイアルに入れてフリーズドライしてもよい。
【0154】
また、配合には、本明細書に開示されるIAPFプロセスによって得られたA型ボツリヌス毒素複合体の神経毒成分(すなわち、複合体形成タンパク質を含まない、A型ボツリヌス毒素複合体の約150kDaの成分)を用いることもできる。関連する非毒性タンパク質(例えば、HA、NTNH)から約150kDaの神経毒成分を精製するある方法において、Tse et al.(1982)(Goodnough,M.C.,1994,Thesis,UW,Wis.)の方法の改良例を用いて、複合体の関連する非毒性タンパク質からA型神経毒が生成される。我々のIAPFプロセス(上で考察したように、2カラム陰イオン‐陽イオンHICステップ、または3カラム陰イオン‐陽イオンHICステップのいずれかを利用する)によって得られたボツリヌス神経毒素複合体を、DEAE−Sephadex A50(Sigma Chemical Co.、St.Louis,Mo.)カラム(pH5.5)から回収し、39gの固形硫酸アンモニウム/100mLの添加によって沈殿させる。沈殿した毒素複合体を遠心分離により収集し、25mMのリン酸ナトリウム(pH7.9)に対して透析し、同じ緩衝液で平衡化したDEAE−Sephadex A50カラムに適用する。複合体の非毒性タンパク質から神経毒成分を分離し、直線勾配0〜0.5Mの塩化ナトリウムでカラムから溶出する。部分的に精製された神経毒成分をDEAE−Sephadex A50カラム(pH7.9)から回収し、25mMリン酸ナトリウム、pH7.0に対して透析する。透析した毒素を25mMリン酸ナトリウム(pH7.0)中のSP−Sephadex C50(Sigma Chemical Co.)に適用する。これらの条件下では、汚染物質はカラムに結合しない。純粋な神経毒(約150kDaの成分)を直線勾配0〜0.25Mの塩化ナトリウムで溶出する。約150kDaの純粋な神経毒は、金属アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過、または他のタンパク質のクロマトグラフィーの方法によってさらに精製することができる。上記のように、この純粋な神経毒(ボツリヌス毒素複合体の約150kDaの神経毒成分)は、上述した種々の賦形剤(例えば、血清アルブミン、スクロース、ラクトース、塩化ナトリウム、トレハロース等)を用いて凍結乾燥、真空乾燥、またはフリーズドライすることができる。
【0155】
我々のIAPFプロセスによって得られたバルクのボツリヌス神経毒素複合体は、多くの様式で配合することができる。ボツリヌス毒素の種々の製剤を開示する例示的な特許、例えば、米国特許第6,087,327号(ゼラチンを用いて調合されるA型およびB型ボツリヌス毒素の組成物を開示);米国特許第5,512,547号(Johnson et al)、標題「Pharmaceutical Composition of Botulinum Neurotoxin and Method of Preparation」(1996年4月30日発行、37℃で保存可能なアルブミンおよびトレハロースを含む純粋なA型ボツリヌス製剤について請求);米国特許第5,756,468号(Johnson et al)(「Pharmaceutical Compositions of Botulinum Toxin or Botulinum Neurotoxin and Method of Preparation」)(1998年5月26日発行、25℃〜42℃で保存可能なチオアルキル、アルブミン、およびトレハロースを含む凍結乾燥ボツリヌス毒素製剤について請求);米国特許第5,696,077号(Johnson et al)、標題「Pharmaceutical Composition Containing Botulinum B 複合体」(1997年12月9日発行、B型複合体およびタンパク質賦形剤を含むB型ボツリヌス複合体のフリーズドライされた、塩化ナトリウムを含まない形態について請求);ならびに米国特許出願公開第2003 0118598号(Hunt)(ボツリヌス毒素を安定化するための組換えアルブミン、コラーゲン、または澱粉等の種々の賦形剤の使用を開示)(これらの米国特許出願または米国特許の全ては、参照により、それらの全体が本明細書に組み込まれる)は皆、我々のIAPFプロセスによって提供されるバルクのボツリヌス神経毒素を配合し、医薬組成物を提供するために使用されてもよい、種々の有用な製剤/賦形剤の例を提供する。
【0156】
得られたボツリヌス毒素複合体をpH7〜8の緩衝液中のイオン交換カラムから溶出し、ボツリヌス毒素分子から非毒素複合体タンパク質を解離させ、それによって(発酵させたクロストリジウム・ボツリナム菌の種類に応じて)約150kDaの分子量および1〜2×10
8LD
50U/mg以上の特異的な効力を有するA型ボツリヌス毒素の神経毒成分、または約156kDaの分子量および1〜2×10
8LD
50U/mg以上の特異的な効力を有する精製されたB型ボツリヌス毒素、または約155kDaの分子量および1〜2×10
7LD
50U/mg以上の特異的な効力を有する精製されたF型ボツリヌス毒素を提供する。
【0157】
我々の発明は多くの利益を提供する。まず、実施例2の2つおよび3つのカラムを用いるプロセスが、動物源の試薬および培地(例えば、カゼイン加水分解物およびコロンビア血液寒天プレート)の使用を排除し、したがって、患者がプリオン様物質または他の感染性病原体に曝露される理論上のリスクを著しく減少させる。2番目に、実施例2の2つおよび3つのカラムを用いたクロマトグラフィープロセス(ならびに関連するシステムおよび装置)は、バッチ間の優れた一貫性によって明らかなように、高度に再現可能である。この改良は、化合物を含有する市販のボツリヌス毒素を用いた治療を何年にもわたって繰り返し必要とする患者における、より一貫した臨床プロファイルを意味する。本明細書に開示されるIAPFプロセス(2つおよび3つのカラム)からの原体(ボツリヌス神経毒素)の分析的研究により、タンパク質および核酸不純物の負荷がより低くなることを明らかにした。このタンパク質不純物の負荷が低いということは、免疫原性(抗体産生)のリスクがより低いことを意味する。また、IPAFプロセスの純度の向上は、一般に生物学的薬剤と関連する非特異的症状(例えば、上咽頭炎、上気道の症状、筋骨格の症状、頭痛等)の発生率がより低いことを意味する。さらに、改良された小規模なこのプロセスは、研究室および製造施設の人員におけるBoNT/A曝露のリスクを低減する。
【0158】
本発明の例示的な利点は、例えば、以下を含む:
1.プロセスにおいて動物源(例えば、ヒトまたは動物)に由来する成分または物質が使用されず、DNaseおよびRNase、コロンビア血液寒天プレート、カゼインの使用が排除されるため、安全性が向上する(例えば、清澄化/採取ステップの間の帯電濾過および最新のクロマトグラフィー技術によって、ワーキングセルバンクからの細胞(つまり、以前に選択され、APF培地中で増殖/維持された細胞)を直接含む播種培養培地によって置き換えられ、ペプトン源として、培養瓶および発酵培地がSoy Peptone Type II (SPTII)によって置き換えられる)。
2.発酵培地10L当たり約50mg〜約200mgの高品質なA型ボツリヌス毒素複合体を得ることができる。
3.頑健な、一貫性のある、拡張可能、検証可能、およびcGMPに適合するプロセスから精製されたバルク毒素が得られる。頑健であるとは、プロセスが、プロセスパラメータのうちの1つ以上におけるたとえ約±10%の変化でも再現可能であることを意味する。検証可能であるとは、プロセスが、一貫した収率の精製毒素を再現可能に提供することを意味する。cGMP適合とは、プロセスが、FDAが要求する医薬品適正製造基準に準拠する製造プロセスに容易に変換され得ることを意味する。
4.最終的な精製ボツリヌス毒素複合体の効力は、Schantz法または改良されたSchantz法によって得られる精製ボツリヌス毒素複合体の効力(例えば、MLD50アッセイによって判定される)を満たすかまたはそれを超える。
5.精製プロセスの特異性を向上させる、バルクのボツリヌス毒素複合体を精製するためのクロマトグラフィーステップによる、任意の沈殿ステップの置き換え。
6.新しい改良プロセスは、規模の縮小を促進し、その結果、取扱いの改良および>95%の操作成功率の達成がもたらされる(例えば、典型的に用いられる発酵培地の体積が110L〜120Lの約10L〜約50Lまで、さらには約2L〜約30Lの発酵培地まで、またはその間の量まで減少された。原薬の典型的な現在の生産規模は、115Lの非APF発酵培地であるが、我々の発明の一態様として、20Lの発酵培地まで減少された。この規模の縮小は、BoNT/A複合体の合成および細胞放出、ならびに精製ステップを通じて全収率を最適化することによって可能となり、その結果、例えば、5×またはさらに多い発酵体積(例えば115L)を必要とする従来プロセスにおいて得られるのと同様の量の最終バルクボツリヌス毒素(原体)がもたらされる。この規模の縮小は、発酵作業体積の管理をより容易にし、したがって、作業者がBoNT/A複合体に曝露される潜在的リスクを最小限に留める:これは重要な操作および安全上の利点である。
7.潜在的に致死性であるBoNT/A複合体の性質のために、本明細書に開示される製造ステップを通してクローズドシステムが実装されてきた。従来技術の方法とは異なり、本発明の態様にしたがって生成される原体物質は、単位操作間の移動の間、環境に曝露されない:全ての作業者は完全に封じ込められる。
8.本明細書に開示されるバルクボツリヌス毒素の製造プロセスは、製造中の原体の同一性、品質、純度、または効力を犠牲にすることなく、全てのステップにおいて簡素化される。再設計されたIAPFプロセスでは、非APFプロセスにおいて用いられるステップ数が削減されるため、生産期間が、例えば21日から6日以内に短縮される。
9.冷凍液としてのバルクボツリヌス毒素の保存条件が、原体の安定性を大幅に向上させる。
【0159】
種々の刊行物、特許、および/または参考文献を本明細書に引用してきたが、参照により、それらの内容全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に開示される本発明の代替の要素または実施形態の分類は、限定として解釈されるべきではない。各グループの構成メンバーは、個別に、または本明細書に見出されるグループの他の構成メンバーまたは他の要素と任意に組み合わせて、言及および請求されてもよい。利便性および/または特許性の理由から、グループのうちの1つ以上の構成メンバーが、グループに含まれてもよいか、または削除されてもよいことが予測される。さらに、本明細書において別途記載のない限り、または文脈による明らかな矛盾のない限り、本明細書において別途記載のない限り、または文脈による明らかな矛盾のない限り、その全ての可能な変形例における上記要素の任意の組み合わせが本明細書に包含される。
【0160】
特定の好ましい方法に関連して本発明を詳細に記載してきたが、本発明の範囲内で他の実施形態、バージョン、および変更が可能である。したがって、以下の特許請求の範囲の主旨および範囲は、上述した特定の実施形態の説明に限定されるべきではない。