特許第6704370号(P6704370)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704370水切り部材、水切り部材の設置システム、および水切り部材の設置方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704370
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】水切り部材、水切り部材の設置システム、および水切り部材の設置方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/08 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   E01D19/08
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-66040(P2017-66040)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-168582(P2018-168582A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2018年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】592090555
【氏名又は名称】パシフィックコンサルタンツ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000100986
【氏名又は名称】アオイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 久矢
(72)【発明者】
【氏名】塩本 崇公
【審査官】 田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−121039(JP,A)
【文献】 特開平08−165721(JP,A)
【文献】 実用新案登録第2602548(JP,Y2)
【文献】 実開平06−065522(JP,U)
【文献】 特開2002−225980(JP,A)
【文献】 特開2014−181463(JP,A)
【文献】 特開平09−013327(JP,A)
【文献】 米国特許第04925339(US,A)
【文献】 実公平06−036097(JP,Y2)
【文献】 特開2000−199306(JP,A)
【文献】 特開2005−299345(JP,A)
【文献】 特開平09−025668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/00−19/16
E04B 1/62−1/686
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する発泡体を線条体に成形してなり、構造物の下面に設置されて、前記構造物の下面を伝って流れようとする雨水を止めて下方に落下させる水切り部材であって、
前記構造物の下面に接合される接合面を有する基部と、該基部から前記接合面に対して断面における中心線が鉛直に延びる壁部とを含み、
前記基部は、所定の厚さを有し、前記構造物の下面を流れる雨水を止めて下方へ落下させる前記接合面に対して鋭角に傾斜する側壁を有しており、
前記壁部は、
前記基部の側壁から角部を介して連続しその先端部に向かって厚みが次第に減少する断面が所定の曲率で形成された曲部と、
該曲部から連続し前記先端部に向かって直線状に延び断面が一定の厚さで形成された直線部と、を含み、
前記壁部の先端が、前記基部の側壁を仮想上で延長させた仮想延長線よりも下方に位置することを特徴とする水切り部材。
【請求項2】
前記壁部の曲部は、前記壁部の全体の高さの50〜70%の寸法の曲率半径で形成されていることを特徴とする請求項に記載の水切り部材。
【請求項3】
前記接合面は、その断面における幅方向中央に、開口部が狭く形成された主溝と、側縁と前記主溝との間に前記主溝よりも小さい断面積を有する副溝とが形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の水切り部材。
【請求項4】
前記接合面の幅方向中央を通る中心線に対して対称に成形されていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の水切り部材。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の水切り部材と、前記水切り部材の前記接合面に接着剤を塗布して、前記構造物の下面に接合させるための設置用治具とを備えた水切り部材の設置システムであって、
前記設置用治具は、前記接合面が上方に向くよう前記水切り部材を保持する保持具と、該保持具を着脱可能に支持する支持台とを備えたことを特徴とする水切り部材の設置システム。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の水切り部材の前記接合面に接着剤を塗布して、前記構造物の下面に接合させるための設置用治具を用いて、前記水切り部材を前記構造物の下面に接合する水切り部材の設置方法であって、
前記設置用治具は、前記接合面が上方に向くよう前記水切り部材を保持する保持具と、該保持具を着脱可能に支持する支持台とを備えており、
前記保持具を前記支持台に支持させると共に、前記保持具に前記水切り部材を保持させた状態で、前記接合面に接着剤を塗布する工程と、
前記接合面に接着剤が塗布された水切り部材を保持した状態の前記保持具を前記支持台からはずして把持し、前記保持具を介して前記接合面を前記構造物の下面に押し付けて、前記構造物の下面に前記水切り部材の前記接合面を接合する工程と、
を含むことを特徴とする水切り部材の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水切り部材、水切り部材の設置システム、および水切り部材の設置方法に関するものである。特に、たとえば橋梁や建物などの構造物の下面を伝って流れようとする雨水を止めて重力方向に案内し落下させるための水切り部材と、この水切り部材を構造物の下面に設置するためのシステム、および水切り部材を構造物の下面に設置するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物としてたとえば、橋梁の橋脚等の下部構造や、主桁、床版は、一般に鉄筋コンクリートなどにより構成されている。これ等の表面を雨水が流れることによって、表面に露出したコンクリートが腐食し、また内部の鉄筋等の金属構造材の酸化を促進する。そのため、これらの構造物の表面の特に張り出し部の下面を伝って流れようとする雨水を止めて重力方向に案内し落下させる水切り部材を構造物の下面に設置することが従来から行われている。水切り部材に関連する従来の技術として、たとえば特許文献1、2が知られている。
【0003】
特許文献1には、コンクリート製屋根や橋梁等の張出し部の裏面に、これを伝って流下する雨水と交差するように三角柱状の水切部材を接合した水切装置において、上記水切部材を可撓性材料から形成し、該水切部材の上記張出し部の裏面に対する接合面を幅方向中央が最も深くなるように内方にスムーズに抉って形成し、該接合面に開口部が狭く奥が広く形成された溝を長手方向に沿って設け、該溝および抉られた接合面に接着剤を充填しその接着剤を介して水切部材を張出し部の裏面に押し付け、抉られた接合面を可撓変形させて裏面との間に区画された接着材充填空間に真空密着作用を生じさせ、もって水切部材を接着剤を介して裏面に接合し、該接着剤の硬化後に上記溝内に嵌まり込んだ接着剤をアンカー部材としたことを特徴とするコンクリート製屋根あるいは橋梁等の水切装置が開示されている。そして、特許文献1には、水切り部材は、各側面(接合面、雨水案内面、および水切面)が内方にえぐれた三角柱形状に成形されていること、さらに、雨水案内面および水切面は、共に半径20mm程度の円弧状の抉れ面となっており、互いに対称に成形されていることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、上記露出面と係止手段を有して上記コンクリート部材に埋め込まれる本体部分と、上記本体部分がコンクリート部材に埋め込まれた後に上記露出面に取り付けられ、上記コンクリート部材の表面から突出する線状の突起物で形成された水切り手段とを備えることを特徴とする水切り部材が開示されている。そして、特許文献2には、水切り部材の水切り突起は、三角形の断面を有する線状の突起物であることが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献2には、コンクリート部材を形成する型枠の内側面に、上記コンクリート部材の表面と同一平面を成して露出する平面により形成された露出面と、上記コンクリート部材に埋め込まれる埋設部分に設けられてコンクリートに係止する係止手段とを有して樹脂で形成された水切り部材を、上記露出面が型枠の内側面に接するように、この露出面を型枠の内側面に直接固定する型枠設置工程と、上記型枠の内側にコンクリートを打設する打設工程と、上記型枠をコンクリート部材から除去する脱型工程とを備えることを特徴とする水切り構造の施工方法が開示されている。そして、特許文献2の段落0046、図6(c)には、床板の下側面から露出した本体部分の取付溝に対して、治具を用いて水切り部材の水切り突起の連結部を挿入し床板側に押し込み、連結部の嵌合突起を取付溝の嵌合溝に嵌合させ、水切り突起を本体部分に固定すると、水切り構造が完成することが記載されている。
【0006】
上記特許文献1、2には、水切り部材をポリ塩化ビニル(PVC)、あるいは天然ゴム等の樹脂により構成することが開示されている。そして、特許文献2には、樹脂で形成された水切り部材が従来のコンクリート製の水切りブロックよりも軽量であることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第2602548号公報
【特許文献2】特許第5973369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載されているように、従来のコンクリート製の水切りブロックよりも軽量である樹脂で形成された水切り部材を採用しても、かかる水切り部材を構成する樹脂が、内部に気泡を有しない中実の非発泡体であれば、発泡体により構成された水切り部材と比較して、重くなる。そのため、水切り部材をより軽量化するため、水切り部材を発泡体により構成することが考えられる。しかしながら、上記特許文献1、2に記載されているように断面三角形状に成形する水切り部材は、各角部の厚さが薄い形状となる。特に、特許文献1においては、各側面が内方に抉れた三角柱形状に成形されているため、各側面の側縁となる角部近傍の厚みが薄くなる。一方、内部に気泡を有する発泡体は、内部に気泡を有しない中実の非発泡体と比較して、一般に強度が低下する傾向にある。そのため、ただ単に、断面三角形状に成形する水切り部材を発泡体により構成すると、構造物の張り出し部の下面を伝って流れようとする雨水の流れや風などによって破損し易くなる。したがって、上記特許文献1、2に記載されているように断面三角形状に成形する水切り部材を発泡体により構成することが困難であることから、従来の技術では強度を低下させることなく水切り部材のさらなる軽量化を図ることができないという問題があった。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたもので、強度を低下させることなく非発泡体と比較して軽量である発泡体により構成することができ、もってさらに軽量化を図ることができる水切り部材を提供することを目的とする。
また本発明は、上述した課題に鑑みてなされたもので、水切り部材の接合面に接着剤を容易に塗布することができるとともに、構造物の張り出し部の下面に水切り部材を容易に接合させ設置することができるシステム、および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の水切り部材に係る発明は、上記目的を達成するため、可撓性を有する発泡体を線条体に成形してなり、構造物の下面に設置されて、前記構造物の下面を伝って流れようとする雨水を止めて下方に落下させる水切り部材であって、前記構造物の下面に接合される接合面を有する基部と、該基部から前記接合面に対して断面における中心線が鉛直に延びる壁部とを含み、前記基部は、所定の厚さを有し、前記構造物の下面を流れる雨水を止めて下方へ落下させる前記接合面に対して鋭角に傾斜する側壁を有しており、前記壁部は、前記基部の側壁から角部を介して連続しその先端部に向かって厚みが次第に減少する断面が所定の曲率で形成された曲部と、該曲部から連続し前記先端部に向かって直線状に延び断面が一定の厚さで形成された直線部と、を含み、
前記壁部の先端が、前記基部の側壁を仮想上で延長させた仮想延長線よりも下方に位置することを特徴とする。
請求項の水切り部材に係る発明は、上記目的を達成するため、請求項に記載の発明において、前記壁部の曲部は、前記壁部の全体の高さの50〜70%の寸法の曲率半径で形成されていることを特徴とする。
請求項の水切り部材に係る発明は、上記目的を達成するため、請求項1又は2に記載の発明において、前記接合面は、その断面における幅方向中央に、開口部が狭く形成された主溝と、側縁と前記主溝との間に前記主溝よりも小さい断面積を有する副溝とが形成されていることを特徴とする。
請求項の水切り部材に係る発明は、上記目的を達成するため、請求項1〜のいずれか1項に記載の発明において、前記接合面の幅方向中央を通る中心線に対して対称に成形されていることを特徴とする。
また、請求項の水切り部材の設置システムに係る発明は、上記目的を達成するため、請求項1〜のいずれか1項に記載の水切り部材と、前記水切り部材の前記接合面に接着剤を塗布して、前記構造物の下面に接合させるための設置用治具とを備えた水切り部材の設置システムであって、前記設置用治具は、前記接合面が上方に向くよう前記水切り部材を保持する保持具と、該保持具を着脱可能に支持する支持台とを備えたことを特徴とする。
さらに、請求項の水切り部材の設置方法に係る発明は、上記目的を達成するため、請求項1〜のいずれか1項に記載の水切り部材の前記接合面に接着剤を塗布して、前記構造物の下面に接合させるための設置用治具を用いて、前記水切り部材を前記構造物の下面に接合する水切り部材の設置方法であって、前記設置用治具は、前記接合面が上方に向くよう前記水切り部材を保持する保持具と、該保持具を着脱可能に支持する支持台とを備えており、前記保持具を前記支持台に支持させると共に、前記保持具に前記水切り部材を保持させた状態で、前記接合面に接着剤を塗布する工程と、前記接合面に接着剤が塗布された水切り部材を保持した状態の前記保持具を前記支持台からはずして把持し、前記保持具を介して前記接合面を前記構造物の下面に押し付けて、前記構造物の下面に前記水切り部材の前記接合面を接合する工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
請求項1の発明に係る水切り部材では、基部が所定の厚さを有し、基部から断面における中心線が接合面に対して鉛直に延びる壁部の直線部が、基部の厚さ方向と直交する方向に所定の厚さを有し、基部の側壁と壁部の直線部との間が、基部の側壁から先端部に向かって厚みが次第に減少する、断面が所定の曲率で形成された曲部を有している。そのため、可撓性を有する発泡体により構成しても、水切り部材が雨水の流れに耐え得る強度を備える。そして、所定の厚さを有する基部の側壁がその接合面に対して鋭角に傾斜していることにより、構造物の下面における雨水の流れの方向を側壁により重力方向(下方)に変更させる。そのため、構造物の下面における雨水の流れを止めて下方に落下させる。また、雨水が構造物の下面を勢いよく流れて側壁の傾斜により跳ねる場合であっても、その跳ねた雨水の方向を壁部の曲部により変更して下方に落下させる。
また、壁部の先端が、基部の側壁を仮想上で延長させた仮想延長線よりも下方に位置することにより、雨水が構造物の下面を勢いよく流れて側壁の傾斜により跳ねる場合であっても、かかる跳ねた雨水の流れを壁部が確実に止めて重力方向に落下させる。
請求項の発明では、請求項に記載の発明において、壁部の曲部を、壁部の全体の高さの50〜70%の寸法の曲率半径で形成することにより、発泡体で構成される水切り部材の強度を低下させることなく、雨水を基部の側壁から壁部の直線部に適切に雨水の流れを導いて下方に落下させる。
請求項の発明では、請求項1又は2に記載の発明において、接合面の断面における幅方向中央に、開口部が狭い断面形状の主溝を形成し、また、接合面の側縁と主溝との間に、主溝よりも小さい断面積を有する副溝を形成することにより、接合面に接着剤を塗布した際に、かかる接着剤が主溝と副溝にそれぞれ充填される。そして、この各溝に充填された接着剤は、水切り材を構造物の下面に設置する際に、固化していない状態でも接合面を構造物の下面に吸着させるよう作用し、水切り材の接合面を構造物の下面に食い付かせて保持する。そして、接着剤が固化すると、水切り材は構造物の下面に強固に接合される。
請求項の発明では、請求項1〜のいずれか1項に記載の発明において、接合面の幅方向中央を通る中心線に対して対称に成形することにより、雨水の流れて来る方向にいずれの側の側壁および壁部が向くよう水切り部材を配置しても、雨水の流れが確実に止められる。
請求項の発明では、請求項1〜のいずれか1項に記載の水切り部材の接合面が上方に向くよう保持した保持具を、支持台に支持させる。そのため、接合面に接着剤を容易に安定して塗布することができる。また、水切り材を構造物の下面に設置する際には、接合面に接着剤が塗布された水切り材を保持具に保持させた状態で、かかる保持具を支持台から取り外し、保持具を介して水切り部材の接合面を下方に押し付け接合させる。可撓性を有する発泡体により構成された水切り部材は、保持具に保持されているので、構造物の下面の任意の場所に確実に安定して設置される。
請求項の発明では、請求項1〜のいずれか1項に記載の水切り部材の前記接合面に接着剤を塗布して、前記構造物の下面に接合させるための設置用治具は、接合面が上方に向くよう前記水切り部材を保持する保持具と、該保持具を着脱可能に支持する支持台とを備えている。水切り部材を構造物の下面に設置する際には、保持具を支持台に支持させると共に、保持具に水切り部材を保持させ、上方に向いた水切り部材の接合面に接着剤を塗布する工程を行う。そして、接合面に接着剤が塗布された水切り部材を保持した状態の保持具を支持台からはずし、保持具の上辺により水切り部材の基部または壁部の曲部を押圧して、構造物の下面に水切り部材の接合面を接着し接合する工程を行う。可撓性を有する発泡体により構成された水切り部材を保持具の上辺でその長さ方向にわたって保持した状態で押圧するので、水切り部材を構造物の下面に確実に安定して設置することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強度を低下させることなく軽量化を図ることが可能な水切り部材を提供することができる。
また本発明によれば、可撓性を有する水切り部材の接合面に接着剤を容易に塗布することができるとともに、構造物の下面に水切り部材を容易に接合させ設置するためのシステム、および方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の水切り部材を設置する構造物の一例として示した橋梁の断面図である。
図2】本発明の水切り部材の実施の一形態を示した断面図である。
図3図2に示した水切り部材を設置するための治具の実施の一形態を示した側面図である。
図4図3に示した治具の保持具の一部と一方の支持台を示した側面図である。
図5】水切り部材の接合面に接着剤を塗布する工程を説明するために示した斜視図である。
図6】水切り部材を構造物の下面に押圧する工程を示す説明図である。
図7】本発明の水切り部材を構造物の張り出し部の下面に設置した状態を説明するために一部を断面で示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず最初に、本発明の水切り部材10を設置する構造物の一例として、橋梁の概略の構造を図1に基づいて説明する。
【0015】
図1に示した橋梁は、床版1の側縁が橋脚2から張り出しており、かかる張り出し部3の下面は、床版1の端縁から橋脚2に向かって下降するように傾斜している。本実施の形態では、床版1の張り出し部3の下面に、線条体に成形された水切り部材10を床版1の側縁に沿って設置する。なお、本発明において水切り部材10を設置する対象は、橋梁の床版1の張り出し部3の下面に特に限定されることはなく、主桁、横桁、橋台あるいは橋脚の梁等の張り出し部や、橋梁以外のたとえば建物の張り出し部の下面にも設置することができる。また、水切り部材を設置する対象の材質も特に限定されることはなく、鉄筋コンクリートやPCコンクリート以外のたとえば鋼材等の張り出し部の下面にも設置することができる。
【0016】
水切り部材10は、可撓性を有する発泡体を線条体に成形してなるもので、表面全体が内部の気泡を露出させることなく、平滑となっている。図2に断面図で示すように、水切り部材10は、張り出し部3の下面に接合される接合面20を有する基部11と、基部11から接合面20に対して鉛直に延びる壁部12とを含んでいる。そして、本実施の形態における水切り部材10は、基部11の接合面20の幅方向(図2の左右方向)中央を通る中心線C−Cに対して対称に成形されている。このように線条体の水切り部材10を中心線C−Cに対して対称に成形することにより、水切り部材10の向きを考慮する必要がなく設置することができる。しかしながら、水切り部材10を設置する場所等により水切り部材10の向きを考慮する必要がなければ、中心線C−Cに対して対称に成形しなくてもよい場合もある。
【0017】
基部11は、その接合面20に対して直交する方向に所定の厚さTaを有しており、その両側縁には側壁21がそれぞれ形成されている。側壁21は、接合面20との間のなす角が鋭角となるよう傾斜している。基部11が厚さTaを有しており、側壁21が接合面20に対して鋭角となるなす角で傾斜していることにより、張り出し部3の下面を橋脚2に向かって流れる雨水を基部11の側壁21で止めて下方(重力方向)に落下させることができる。また、基部11の接合面20は、その幅方向中央に主溝22が形成されており、主溝22は、その開口部の幅Waが狭く、底部の幅Wbが開口部の幅Waよりも広く形成されている。主溝22の接合面20から底部までの深さをDaとし、幅Waが狭い開口部の深さをDbとする。主溝22と接合面20の両側縁との間には、それぞれ副溝23が形成されている。副溝23は、主溝22と比較して幅Wcが狭く、且つ主溝22の開口部の深さDbよりも深さDcが浅く形成されており、その結果、副溝23の断面積は主溝22の断面積と比較して小さくなっている。
【0018】
壁部12は、基部11の側壁21から角部13を介して連続し先端部12aに向かって厚みが次第に減少するよう断面が所定の曲率で形成された曲部30と、曲部30から連続し先端部12aに向かって断面が一定の厚さTbで延びるよう直線状に形成される直線部31と、を含んでいる。ここで、壁部12の角部13と先端部12aとの間の中心線C−Cと平行な長さ(壁部12全体の高さ)をHaとする。曲部30の曲率半径Rは、壁部の全体の高さの50〜70%の寸法に設定することができる。このように曲部30の曲率半径Rを設定することにより、壁部12の厚さTbと相まって、発泡体からなる水切り部材の強度を低下させることなく、基部11の側壁21から角部13を超えて流れる雨水を壁部12の直線部31に適切に導いて下方(重力方向)に落下させることができる。また、壁部12の全体の高さHaは、基部11の傾斜した側壁21を仮想上で延長させた仮想延長線Vよりも下方に先端部12a位置するよう設定されている。このように壁部12の全体の高さHaを設定することにより、基部11の側壁21に衝突して跳ねた雨水が橋脚2側に向かって側壁部12を超えるのを防止することができる。
【0019】
ここで、水切り部材10の各寸法の一例を述べる。水切り部材10の長手方向の長さは1000mmとし、基部11の接合面20の幅方向の寸法Wは25mmで、厚さTaが5mmに設定されている。また、主溝22の開口部の幅Waは3mmで、底部の幅Wbは6mmで形成されている。側壁21と接合面20との間のなす角は、59〜61°で、この実施の形態では60°に設定されている。主溝22の接合面20から底部までの深さDaは4mmで、幅Waが狭くなっている開口部の深さDbは2mmである。副溝23の深さDcは1mmである。また、壁部12の直線部31の厚さTbは3mmである。水切り部材10の全体の高さ、すなわち接合面20から壁部12の先端部12aまでの中心線C−Cに沿った長さHは20mmであり、壁部12全体の高さHaは15mmである。そして、壁部12の曲部30の曲率半径は、壁部12全体の高さHaの50〜70%が7.5〜10.5mmとなり、本実施の形態では9mmに設定されている。
【0020】
本発明の水切り部材10は、可撓性を有する発泡体からなり、線条体に成形することができるものであれば、特に限定されることはなく、素材としてたとえば合成樹脂からなる発泡体や発泡ゴム(ゴムスポンジ)を採用することができる。そして、たとえば、合成樹脂の素材は、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンの他に、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルを用いることができ、また、発泡ゴムの素材は、天然ゴムや、EPDM等の合成ゴムを用いることができる。また、水切り部材10は、保持具51の上辺51a(後述する)で押圧した際に、弾性変形し得るものでもよく、また、硬質ものであってもよい。
【0021】
次に、本発明の、上述したように構成された水切り部材10を橋梁等の構造物の張り出し部3の下面に設置するためのシステムを構成する設置用治具50の実施の一形態を、図3図4に基づいて説明する。
【0022】
本発明の水切り部材10の設置用治具50は、基部11の接合面20を上方に向けて保持する保持具51と、保持具51を着脱可能に支持する支持台52とを備えている。
【0023】
図3に示すように、保持具51は、水切り部材10の壁部12を収容して、水切り部材10の長手方向に沿って基部11の下面または壁部12の曲部30に当接する上辺51aを有する断面コ字状に成形されたもので、線条体に成形された水切り部材10の長さとほぼ同じ長さを有している。このような形状の保持具51は、たとえば金属製板材を長手方向に沿って折り曲げるなどして成形することができる。一方、支持台52は、図4並びに図5に示すように、この実施の形態では略三角柱を横置きにした形状であり、頂縁部に切り欠き62が穿設されている。このような形状の支持台52を形成する場合、矩形の金属製板材の一方端に差し込み部60を形成すると共に、差し込み部60を差し込むことができる孔または凹部61を他方端近傍に形成し、また、後述するようにかかる板材を側面視で三角形状に折り曲げて孔または凹部61に差し込み部60を差し込んだときに頂縁となる部分に保持具51を着脱可能に嵌合することができる切り欠き62を形成しておく。そして、一対の支持台52を適当な間隔をおいて配置し、断面コの字状の保持具51をその開放部が上方に向く状態で各支持台52の切り欠き62に嵌合することで、設置用治具50は水切り部材10の受け入れ準備状態となる。
【0024】
次に、本発明の、上述したように構成された設置容治具50を用いて、上述したように構成された水切り部材10を橋梁等の構造物の張り出し部3の下面に設置するための方法の実施の一形態を、図3図7に基づいて説明する。
【0025】
水切り部材10を設置するに先立って、必要に応じて、構造物の張り出し部3の下面の、水切り部材10が設置される箇所の汚れをディスクサンダーやブラシ等により取り除く。また、構造物の張り出し部3の下面の水切り部材を設置する箇所に接着を阻害するような段差などがある場合には、必要に応じて、かかる段差を予め不陸調整しておく。そして、水切り部材を設置する構造物の張り出し部が乾燥状態であることを確認するか、または、乾燥状態とする。
【0026】
水切り部材10を設置するにあたり、最初に、図3および図4に示すように、保持具51を支持台52に支持させると共に、保持具51に水切り部材10を保持させる。支持台52は、水切り部材10を設置する現場の地面等に配置することができる。また、支持台52は、保持具51の端部近傍を支持するよう一対で配置することができる。水切り部材10は、接合面20が上方を向いた状態で保持具51に保持されている。この状態で、図5に示すようにカートリッジ70に入った接着剤71を接合面20に塗布する。接着剤71は、接合面20の表面に塗布されるだけでなく、主溝22や副溝23に充填される。接合面20が上方を向いた状態で保持されるため、容易に且つ確実に接着剤71を接合面20に塗布することができる。
【0027】
続いて、接着剤71が塗布された水切り部材10を保持した状態の保持具51を支持台52から取り外し、かかる保持具51を把持して、保持具51の上辺51aを全長にわたって水切り部材10の曲部30(基部11の下面)に当接させた状態で、張り出し部3の下面に対して水切り部材10の基部11の接合面20を押し当てる(図6の矢印Fを参照)。このとき、接着剤71が主溝22と副溝23に充填されているため、接着剤71が硬化していないときであっても、水切り部材10が落下しないように接合面20を構造物の張り出し部3の下面に吸着させるよう作用し、かかる下面に水切り材10の接合面20を食い付かせて保持する。そして、本発明の水切り部材10が発泡体により構成されており非常に軽いので、接着剤71が硬化するまで仮止をする必要がなく、直ぐに次の水切り部材を設置するための工程を行うことができる。その結果、短時間で水切り部材10を構造物の張り出し部3の下面に短時間で設置することができる。接着剤が硬化すると、図7に示すように、主溝22の開口部の幅Waが底部の幅Wbよりも狭く形成されており、しかも、主溝22の両側に副溝23が形成されているので、接合面20が構造物の張り出し部3の下面に確実かつ強固に接合される。
【0028】
そして、可撓性を有する発泡体で線条体に成形された水切り部材10を保持具51に保持した状態で把持するので、接合面20に塗布された接着剤71を構造物の張り出し部3の下面に容易に押し当て、設置することができる。接合面20を押し当てた後に保持具51を下げれば、接合面20に塗布された接着剤71が構造物の張り出し部3の下面に貼り付いた水切り部材10から保持具51が離れることとなる。
【0029】
なお、接着剤71は、特に限定されることはないが、エポキシ樹脂系のコーキング材を採用することができる。また、接着剤を塗布する量は、水切り部材1mあたり40〜45g程度とすることができる。
【符号の説明】
【0030】
3:張り出し部、 10:水切り部材、 11:基部、 12:壁部、 12a:先端部、 13:角部、 20:接合面、 21:側壁、 22:主溝、 23:副溝、 30:曲部、 31:直線部、 50:治具、 51:保持具、 52:支持台、 71:接着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7