特許第6704372号(P6704372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704372
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】圧縮機および圧縮機を搭載した機器
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/21 20160101AFI20200525BHJP
   F04B 49/02 20060101ALI20200525BHJP
   H02P 6/24 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   H02P6/21
   F04B49/02 331B
   F04B49/02 331F
   H02P6/24
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-69573(P2017-69573)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-174602(P2018-174602A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2018年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智允
(72)【発明者】
【氏名】小池 進太郎
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−189176(JP,A)
【文献】 特開平09−247982(JP,A)
【文献】 特開2014−079041(JP,A)
【文献】 特開2007−092686(JP,A)
【文献】 特開平10−285984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/21
F04B 49/02
H02P 6/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、固定子と、を有し、120度通電方式による駆動が可能なモータを有する圧縮機であって、
当該圧縮機を起動させる場合、
前記回転子の停止位置情報を利用して運転初期条件を決定し、
当該圧縮機を停止させる前に180度通電方式で駆動し、
当該圧縮機を停止させる場合、
前記回転子の回転数を減少させていき、
前記180度通電方式から前記120度通電方式に通電方式を切替えて開放相に現れる磁気飽和起電圧の測定結果の情報を利用して前記回転子の停止位置情報を保存することを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
当該圧縮機を停止させる場合、
前記回転子の回転数を減少させていき、
前記120度通電方式を実行させて磁気飽和起電圧をを或る程度の時間に亘って測定し続け
前記回転子を停止させる指令を出力し、
該測定した磁気飽和起電圧の情報を利用して前記回転子の停止位置情報を保存し、
当該圧縮機を次回起動させる場合、前記停止位置情報を利用して運転初期条件を決定することを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧縮機を有することを特徴とする機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機および圧縮機を搭載した機器に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用エアコンや冷蔵庫に使用されているセンサレス制御方式の圧縮機は、一定値の電流を一定時間強制的に印加してロータ位置を固定する「位置決め運転」をしたうえでロータ位置を定めてから、同期運転・センサレス運転へと遷移していく方法が知られている。この位置決め運転に要するモータ電流は、例えば180度通電方式の家庭向け冷蔵庫などに搭載する圧縮機では、3A以上に達する場合があり、製品の消費電力量を増大させる要因となる。
【0003】
特許文献1は、180度通電運転において圧縮機1の停止が指示された場合は、モータの回転数を下げて行き、十分回転数が低下したら、回転子22が所定の位置になったときにインバータ7への転流パルスの供給を停止させてピストン24を停止させることで、固定子を予め定められた位置に停止させるとしている(0025,0031)。また、起動時には低い周波数の回転磁界を発生させて固定子20と回転子22の相を一致させる相固定運転を行う(0026)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−92686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、予め定められた位置にピストンや固定子を停止させる方法を具体的に開示していない。また、仮にその具体的手段が当業者に明らかな程度に示唆されているとしても、モータ回転制御およびロータ位置検出のために、三相の電流値および電圧値を検出する電流検出機構および電圧検出機構を有し、両検出値から圧縮機停止直前のピストン位置を検出し、常に一定の位置で停止させるには、ロータ位置推定のための専用制御部や複数のセンサを追加で実装する必要が生じると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記事情に鑑みてなされた本発明は、
回転子と、固定子と、を有し、120度通電方式による駆動が可能なモータを有する圧縮機であって、
当該圧縮機を起動させる場合、
前記回転子の停止位置情報を利用して運転初期条件を決定し、
当該圧縮機を停止させる場合、
前記回転子の回転数を減少させていき、
前記120度通電方式を実行させて開放相に現れる磁気飽和起電圧の測定結果の情報を利用して前記回転子の停止位置情報を保存することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の冷蔵庫の概略図
図2】実施例1の密閉型圧縮機の縦断面図
図3】実施例1の一般的圧縮機起動時の制御フロー
図4】実施例1の圧縮機停止時の圧縮機回転数の変化と磁気飽和起電圧検出範囲をあらわすグラフ
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は実施例1の冷蔵庫の概略図である。圧縮機を有する機器の一例としての冷蔵庫は、食品を収納する筐体1と、冷媒を圧縮する圧縮機2と、冷媒を循環させる循環部3と、制御部4と、圧縮機2の運転を制御する圧縮機制御部5と、圧縮機2へ通電するインバータ回路部6と、圧縮機モータ8の3相(U相、V相、W相)の磁気飽和起電圧を検出する磁気飽和起電圧検出部7と、を備え、圧縮機2回転中の開放相に現れる磁気飽和起電圧を検出する機能を有する。
【0010】
図2は圧縮機の一例として示す本実施例の密閉型圧縮機100の縦断面図である。密閉型圧縮機100は、密閉容器15内に潤滑油20を貯留すると共に、主に気相の冷媒が充填されている。密閉型圧縮機100は、圧縮要素としてシリンダ16を備えるフレーム14、シリンダ16内を往復自在に嵌入されたピストン13、及びフレーム14の主軸受に軸支されて回転するクランクシャフト18を密閉容器15(上側容器15a、下側容器15b)内に有している。
【0011】
クランクシャフト18は、主軸受内で回転する主軸部18bと、主軸部18bと一体で、主軸部18bの回転軸周りを公転する偏心部18aとを有している。クランクシャフト18の主軸受はフレーム14に固設、或いはフレーム14と一体に形成されている。偏心部18aの公転運動は、コネクティングロッド28を介してピストン13の往復運動に変換される。コネクティングロッド28は、一端がピストン13に連結し、他端が偏心部18aに連結している。
【0012】
密閉型圧縮機100はフレーム14の下方に圧縮機モータ8を有している。圧縮機モータ8はクランクシャフト18に回転力を付与する機構であり、インバータ回路部6の指令に応じて電流が流れるコイルが設けられた固定子11と、永久磁石を内蔵し主軸部18bに取付られた回転子25とから構成される。固定子11のコイルに電流が流れることで発生する磁束が回転子25を回転させ、これに伴い主軸部18bが回転する。圧縮機モータ8は、120度通電方式及び180度通電方式による3相駆動を選択的に切り替えることができる。
【0013】
主軸部18bを起点として、主軸部18bの回転軸に直交する方向(径方向)には、順に、回転子25、固定子11、防振バネ30が設けられている。防振バネ30の一端は、固定子11のコイル110よりも径方向外側でフレーム14に接続している。また、防振バネ30の他端は、潤滑油20の液面より上方に位置している。
【0014】
圧縮機2、圧縮機制御部5、インバータ回路部6、及び磁気飽和起電圧検出部7は電気的に接続されている。圧縮機制御部5が圧縮機モータ8の3相9(U相、V相、W相)の各相に印加する電圧出力を制御することで、圧縮機モータ8を駆動させる。
【0015】
モータ駆動制御として120度通電方式においては、通電は(瞬間的には)2相のみになされ、残りの1相(開放相)には通電されない。この開放相に現れる磁気飽和起電圧には、ロータ(回転子)の位置による特性の変化が現れる。120度通電方式による圧縮機制御では、この磁気飽和起電圧を検出することができ、モータ8駆動中のロータの位置を推定することができる。
【0016】
本実施例では、この磁気飽和起電圧の検出を、圧縮機2の定常運転中だけでなく、停止時のロータ位置推定にも用いる。
【0017】
図3は、圧縮機2の起動制御フローである。制御部4が冷蔵庫筐体内の温度を監視し、冷却運転の必要に応じて圧縮機2を運転させる指令を出力するよう圧縮機制御部5に指示する。圧縮機起動要求を受け取った圧縮機制御部5は(ステップS1,Yes)、前回の圧縮機停止制御の過程で保存したロータ位置情報を呼び出させる(ステップS1,Yes、ステップS2)。ロータ位置情報は、圧縮機の停止制御を未だしたことがない場合、すなわち、圧縮機2の製造後初めての起動をする場合は、呼び出しができないことがある。この場合は、圧縮機2の製造工程においてロータ位置の初期情報を記憶させるようにしておいてもよいし、初めての起動についてはロータ位置情報を呼び出させずに、公知の位置決め運転を実行させるようにしても良い。
【0018】
呼び出したロータ位置情報、又は位置決め運転によりロータ位置が既知となるので、これに基づいて圧縮機2は運転初期条件を決定する(ステップS3)。具体的には、ロータ位置によって変化する、ロータの回転に必要な電流磁束方向を決める通電パターン(一般的な三相インバータ回路であれば、六つあるスイッチング素子への通電パターン)を、既知のロータ位置に合わせて決定する。このような通電パターンは周知である。
【0019】
その後、圧縮機2は同期運転を開始する(ステップS4)。同期運転では、センサレス運転に必要な電流値の情報が得られる回転数まで、モータの回転数を加速させる。電流値の検出が可能になった場合(ステップS5,Yes)、モータ負荷にあわせた電圧制御を開始し、センサレス運転に移行する(ステップS6)。
【0020】
センサレス運転中、圧縮機2の停止指令を受取った場合(ステップS7,Yes)、圧縮機制御部5はモータ8への電圧出力を停止し、圧縮機2の駆動を停止させる制御を開始する。
【0021】
図4は圧縮機2停止時の圧縮機2回転数の変化と磁気飽和起電圧検出範囲をあらわすグラフである。180度通電方式又は120度通電方式でモータへの電圧出力を行っている(例えば電圧制御を行っている)状態で、ステップS7で制御部4から圧縮機2の停止指令を受取った圧縮機制御部5は、即座にモータへの電圧出力を停止するのではなく、ロータの回転数を徐々に低下させる(ステップS8、「減速開始」)。圧縮機2の運転の安定性の観点からは、この間の通電方式は180度通電方式が好ましい。
【0022】
回転数を減速させていき、第1の閾値、例えば1500min−1に到達したら、制御部4は、駆動方式を120度通電方式に切り替えるように指令を出す(ステップS9、「120度通電方式に切替え」)。元々120度通電方式で駆動していた場合は、その通電方式を維持する。これにより、開放相が生じることとなり、磁気飽和起電圧の観測が可能になる。
【0023】
しかし、120度通電方式に切り替える指令を出した直後は、通電方式の切り替えに伴い電圧が乱れているため、直ちには磁気飽和起電圧の観測を開始しない方が好ましい。このため、さらに回転数が低下して、第2の閾値、例えば1000min−1を下回ったら、磁気飽和起電圧検出部7は磁気飽和起電圧の検出を開始し(ステップS10、「磁気飽和起電圧測定区間」)、圧縮機2のロータ位置推定を行う。ロータ位置推定の精度を確保するために、或る程度の時間に亘って測定を行うことが好ましい。本実施例では概ね10秒以上測定を行うようにしている。
【0024】
圧縮機2には、駆動を維持可能な最低回転数があり、回転数が低下していきこれに到達すると、急激に回転数が低下して停止する。第2の閾値は、この最低回転数よりも高い回転数であり、制御部4が圧縮機2の回転数を低下させていく際、この最低回転数に至らせる10秒以上前、好ましくは15秒以上前から磁気飽和起電圧を観測できるように設定することが好ましい。
【0025】
回転数の減速を開始してから第1の閾値に至るまで(ステップS8開始からステップS9実行まで)、第1の閾値から第2の閾値に至るまで(ステップS9開始からステップS10実行まで)、第2の閾値から後述する電圧印加を停止するまで(ステップS10開始からステップS11実行まで)、のそれぞれの間、回転数の減速速度は略一定にすることが好ましい。本実施例では、これらすべての間を通じて一定の減速速度に設定している。これにより、停止制御を滑らかに行うことができるとともに、磁気飽和起電圧の検出精度を好適にすることができる。
【0026】
なお、本実施例のように第2の閾値前後で減速速度を略一定にしても良いが、例えば磁気飽和起電圧の検出を開始してからは、圧縮機2の回転数の減速速度を制御して、ロータの停止位置を制御してもよい。これにより、ロータ停止位置を、圧縮機2の下死点を避ける、上死点を避ける又は上死点に設定させるようにすることもできる。下死点を避ける場合、圧縮機2の起動直後、すなわち低速時の運転で流体の圧縮を行う必要が低減できるので、起動を容易に行いやすくなる。
【0027】
モータの回転数が十分に低下して、圧縮機2の最低回転数又はこの近傍の回転数である第3の閾値、例えば100min−1に到達したら、制御部4はモータへの電圧の印加を停止する(ステップS11)。磁気飽和起電圧検出部7が観測していた磁気飽和起電圧の情報に基づいて、圧縮機制御部5は停止時のロータ位置を推定する。圧縮機2は、この推定した位置情報を保存する(ステップS12)。この情報の保存は、圧縮機2内部または外部の記憶装置に保存させることで実行できる。
【0028】
その後、再び圧縮機運転の開始要求があった場合(ステップS1,Yes)、保存した位置情報を呼び出す(ステップS2)。これにより、効果的な運転初期条件の決定(ステップS3)を行うことができる。
【0029】
なお、120度通電方式への切替え回転数(第1の閾値)、および磁気飽和起電圧検出開始の回転数(第2の閾値)、モータへの電圧の印加を停止する時の回転数(第3の閾値)は、前述の数値に限られるものではない。
【0030】
以上の動作により、圧縮機制御部5は停止中の圧縮機のロータ位置を把握することができるから、起動時に改めてロータを所定の位置に合せる必要性が低減又はなくなるため、消費電力量を低減した圧縮機、および圧縮機を搭載した機器を提供することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 筐体
2 圧縮機
3 冷媒循環部
4 制御部
5 圧縮機制御部
6 インバータ回路部
7 磁気飽和起電圧検出部
8 モータ
9 三相(U相、V相、W相)
図1
図2
図3
図4