特許第6704404号(P6704404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704404ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを検出するためのセンサー、方法及びキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704404
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを検出するためのセンサー、方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/26 20060101AFI20200525BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20200525BHJP
   G01N 33/542 20060101ALI20200525BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
   C12Q1/26
   C12N9/02ZNA
   G01N33/542 A
   !C07K14/00
【請求項の数】33
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2017-542854(P2017-542854)
(86)(22)【出願日】2016年2月16日
(65)【公表番号】特表2018-506285(P2018-506285A)
(43)【公表日】2018年3月8日
(86)【国際出願番号】EP2016053280
(87)【国際公開番号】WO2016131833
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2019年1月8日
(31)【優先権主張番号】15155272.6
(32)【優先日】2015年2月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】301033396
【氏名又は名称】マックス−プランク−ゲゼルシャフト ツール フォーデルング デル ヴィッセンシャフテン エー.ヴェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・サラン
(72)【発明者】
【氏名】リュック・レモン
(72)【発明者】
【氏名】カイ・ペーター・ジョンソン
【審査官】 松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】 HARUKI, H. et al.,Tetrahydrobiopterin Biosynthesis as an Off-Targete of Sulfa Drugs,Science,2013年,Vol.340,pp.987-991
【文献】 BRUN, M. A. et al.,Semisynthetic Fluorescent Sensor Proteins Based on Self-Labeling Protein Tags,J.AM.CHEM.SOC.,2009年,Vol.131,pp.5873-5884
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 9/00− 9/99
C07K 1/00−19/00
G01N 33/00−33/98
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の蛍光又は発光に基づいた検出のためのセンサー分子であって、前記センサーが、
(i)セピアプテリン還元酵素(SPR)である、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体に対する結合タンパク質(BP)であって、
前記SPRが、配列番号4のヒトセピアプテリン還元酵素(hSPR)、配列番号3のラットセピアプテリン還元酵素、配列番号2のマウスセピアプテリン還元酵素、あるいは配列番号4、配列番号3、または配列番号2に少なくとも95%の配列同一性を有するそれらのバリアントであり、ただし前記バリアントは、hSPRにおけるSer157、Tyr170、Lys174及びAsp257に対応する残基を含む、結合タンパク質(BP)と、
(ii)前記検体の酸化型の存在下で前記BPと分子内結合することができ、ベンゼンスルホンアミドに基づくSPRリガンド(SPR-L)と、
(iii)少なくとも1つのフルオロフォアと
を含む、センサー分子。
【請求項2】
共鳴エネルギー移動(RET)に基づいた検体検出のための請求項1に記載のセンサー分子であって、前記センサーが、リンカーを介してセグメントBに接続されたセグメントAを含み、セグメントA及びセグメントBの各々が、ドナー部分及びアクセプター部分を含むRET対のメンバーを含み、更に、
(i)セグメントAが前記BPを含み、
(ii)セグメントBが前記SPR-Lを含み、
それにより、前記ドナー部分及び前記アクセプター部分が、SPR-LがBPと結合すると、RETシグナルを生じるように適切に並び、検体によって誘発されたSPR-LのBPとの結合の変化が、RET効率の変化をもたらすことを特徴とする、センサー分子。
【請求項3】
NADP+に結合することができるBPを含む、NADP+又はNADPH/NADP+比を検出するための、請求項1または2に記載のセンサー分子。
【請求項4】
BPがSPRを含み、前記hSPR配列(配列番号4)の17位及び42位に対応する残基が塩基性残基であ、請求項に記載のセンサー分子。
【請求項5】
前記hSPR配列(配列番号4)の17位及び42位に対応する残基がArgである、請求項4に記載のセンサー分子。
【請求項6】
前記BPが野生型SPRを含む、請求項4または5に記載のセンサー分子。
【請求項7】
NAD+に結合することができるBPを含む、NAD+又はNADH/NAD+比を検出するための、請求項1または2に記載のセンサー分子。
【請求項8】
BPが変異型SPRを含み、前記hSPR配列(配列番号4)の41位に対応する残基がAspであり、及び/又は前記hSPR配列の42位に対応する残基がVal、Ile、又はTrpである、請求項に記載のセンサー分子。
【請求項9】
前記SPR-Lが、スルファサラジン、スルファチアゾール、スルファメトキサゾール、スルファメチゾール、フタリルスルファチアゾール、スルファピリジン、スルファジアジン、スルファメラジン、スルファクロロピリダジン、スルファメーター、クロルプロパミド、グリベンクラミド、及びトルブタミドからなる群から選択されるベンゼンスルホンアミドである、請求項1〜のいずれか一項に記載のセンサー分子。
【請求項10】
前記SPR-Lが6未満又は9超のpKaを有するスルホンアミドである、請求項1〜のいずれか一項に記載のセンサー分子。
【請求項11】
前記RET対がFRET対である、請求項2〜10のいずれか一項に記載のセンサー分子。
【請求項12】
前記FRET対が、
(i)蛍光タンパク質、及びフルオロフォアを含有する合成分子と連結した自己標識化タグ(例えばSNAP-タグ、CLIP-タグ、又はHalo-タグ)、
(ii)一方はドナー部分を含有する合成分子の結合のため、他方はアクセプター部分フルオロフォアと結合するための、2つの直交自己標識化タグ(例えばSPR-Halo-p30-SNAP又はSNAP-p30-CLIP-SPR)、
(iii)2つの蛍光タンパク質
から選択される、請求項11に記載のセンサー分子。
【請求項13】
前記RET対がBRET対であ、請求項12のいずれか一項に記載のセンサー分子。
【請求項14】
前記BRET対がルシフェラーゼ及び蛍光アクセプターを含む、請求項13に記載のセンサー分子。
【請求項15】
前記ルシフェラーゼが、そのC末端において円順列変異させたジヒドロ葉酸還元酵素(cpDHFR)を備えるNanoLuc(商標)(NLuc)ルシフェラーゼである、請求項14に記載のセンサー分子。
【請求項16】
前記リンカーが、タンパク質のリンカーである、請求項2〜15のいずれか一項に記載のセンサー分子。
【請求項17】
固体担体に固定又は吸収されている、請求項1〜16のいずれか一項に記載のセンサー分子。
【請求項18】
固体担体が、ガラス、透明プラスチック、金表面、紙、又はゲルである、請求項17に記載のセンサー分子。
【請求項19】
固体担体が、クロマトグラフィー又は濾紙である、請求項17または18に記載のセンサー分子。
【請求項20】
試料中のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の濃度の蛍光又は発光に基づいたin vitro検出のための方法であって、
(a)前記SPR-LのSPR又はSPR変異体への検体依存的結合が、前記フルオロフォアの分光学的特性又は前記センサー分子の発光スペクトルを調節することを可能にする条件下で、前記試料を請求項1〜19のいずれか一項に記載のセンサー分子と接触させる工程と、
(b)前記フルオロフォアの分光学的特性又は前記センサー分子の発光スペクトルの調節によって生成したシグナルの変化を分析し、前記シグナルの変化を前記試料中のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の濃度と関連付ける工程と
を含む、方法。
【請求項21】
試料中のNAD+、NADP+の濃度並びに/又はNAD+/NADH及びNADP+/NADPHの濃度比を検出するための、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記試料が、生物試料又はその画分である、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記試料が、細胞溶解物又は体液である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記試料が、血液、血清、唾液、尿、髄液、膿、汗、涙、母乳からなる群から選択される、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記試料が、
(i)未知の濃度のNAD+、NADP+、NADH、
(ii)未知の濃度比のNAD+/NADH若しくはNADP+/NADPH、及び/又は
(iii)NADP+若しくはNAD+を生成若しくは消費する未知の濃度の酵素
を含む、請求項2024のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1〜19のいずれか一項に記載のセンサー分子と固体担体とを含むパーツのキット。
【請求項27】
前記固体担体が、紙又は透明物体である、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記固体担体が、クロマトグラフィー又は濾紙、ガラス、又は透明プラスチックである、請求項26または27に記載のキット。
【請求項29】
BRETに基づいたセンサーを含み、ルシフェラーゼ基質を更に含む、請求項26〜28のいずれか一項に記載のキット。
【請求項30】
ルシフェラーゼ基質が、セレンテラジン、フリマジン、又はそれらの誘導体である、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の蛍光又は発光に基づいた検出のための、請求項1〜19のいずれか一項に記載のセンサー分子の使用。
【請求項32】
NAD+、NADP+の濃度並びに/又はNAD+/NADH及びNADP+/NADPHの濃度比を検出するための、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
以下:
(i) ex vivo臨床又は診断試験、
(ii)NADP+又はNAD+の形成又は消費が関与するex vivo酵素アッセイ、
(iii)細胞中でNADP(H)若しくはNAD(H)を調節することができる化合物の、又は治療薬剤の毒性プロファイルの検証のための、ex vivoハイスループットスクリーニング、
(iv)生細胞測定
の1つ以上における請求項1〜19及び26〜30のいずれか一項に記載のセンサー分子及び/又はキットの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、メタボロミクス、分子生物学、細胞生物学及びバイオセンサーの分野に関する。より具体的には、本発明は、補因子ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)のin vitro及びin cellulo検出に関する。
【背景技術】
【0002】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(還元型、NADH;酸化型、NAD+)及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(還元型、NADPH;酸化型、NADP+)は、細胞代謝を調節する多数の酸化還元反応に関与する重要な遍在的補因子である。NAD(H)及びNADP(H)は類似の高酸化還元電位を有するが、それらの構造的相違により、同じ細胞区画内に酸化還元担体の2つの別々のプールの形成及び特定の機能の発生が可能となる。遊離[NADH]/[NAD+]及び[NADPH]/[NADP+]の比はそれぞれ低い(<1)及び高い(>10)。これらの遊離比は、それらが細胞酸化還元恒常性を調節するので高い生理学的重要性を有し、したがって細胞代謝の読み出しとみなすことができる(Linら Curr Opin Cell Biol. 2003年4月;15(2):241〜6頁)。これらの正反対の比は、NAD+が、解糖及びクエン酸回路を酸化的リン酸化に関連付けることに関与する酸化的生合成のために主に使用されるという理由を説明する。したがって、NADPHは還元的生合成(脂質、アミノ酸及びDNA合成)及び細胞酸化防御系の供給に関与する。酵素的変換におけるそれらの役割に加えて、それらの補因子は、ごく最近、重要なシグナル伝達分子及び遺伝子発現調節因子として記載された。また、NADPH/NADP+及びNADH/NAD+の比の不均衡は、がん、糖尿病、心臓血管及び神経変性疾患等の多数の病理と相関していることにも留意すべきである。Yingら Antioxid Redox Signal. 2008年2月;10(2):179〜206頁及びBergerら Trends Biochem Sci. 2004年3月;29(3):111〜8頁を参照のこと。
【0003】
NAD(P)は多くの重要な酵素についての補因子であるので、その消費もまた、多くの場合、酵素活性を定量するか、又は選択された代謝産物の濃度を定量することを目的としてin vitro酵素アッセイにおいてモニターされる。NAD(P)濃度及び比を測定するための異なる方法が存在する。ピリジンヌクレオチドの定量化のために多くの場合使用される1つの方法は、還元型補因子NADH、NADPH(λ=340nm)の特定の吸光度特性に依存する。しかしながら、このようなアッセイは補因子の低い吸光係数に起因してあまり感受性ではなく、また、この波長で吸収する他の分子の存在に対しても感受性である。補因子はまた、最初にそれらをHPLCによって分離し、質量分析(LC/MS)による識別によって定量されうる。Sportyら J Sep Sci. 2008年10月;31(18):3202〜11頁を参照のこと。別の可能性は、酸化補因子が、その基質の存在下で特定の脱水素酵素によって還元される、酵素サイクリングアッセイを使用することである(Veechら Biochem J. 1969年12月;115(4):609〜19頁)。しかしながら、このようなアッセイは補因子濃度及び比の直接測定ではない。簡単な吸光度アッセイに関して述べられているように、サイクリングアッセイもまた、光を吸収するか、又は蛍光を発する分子によって干渉を受ける傾向があり、測定誤差の原因となる。最近、発光アッセイに加えてこの原理を使用したアッセイが開発された(Vidugirieneら Assay Drug Dev Technol. 2014年12月1日;12(9〜10):514〜526頁)。このアッセイにおいて、還元補因子(NADH又はNADPH)は還元酵素の作用を介してプロルシフェリン(proluciferin)基質をルシフェリンに変換するために使用され、還元補因子は別の酵素の作用を介して再生される。生成したルシフェリンはルシフェラーゼによって触媒される反応によって光子を発生する。この方法は吸収性の分子の干渉の問題を低減させるが、それは、総NAD又はNADP濃度のみが測定されるという別の欠点を被る。補因子の比、又は還元若しくは酸化種のみの濃度の測定は追加の工程を必要とする。これらの工程は、通常、塩基性又は酸性条件下で試料を加熱することを含み、信頼性のない結果を生じる傾向がある。また、これらの方法は、臨床試験において多くの場合行われるようなNAD/NADP依存性脱水素酵素、例えば、乳酸脱水素酵素、又はグルコース-6-リン酸脱水素酵素の酵素活性を直接測定するために使用することができない。
【0004】
米国特許出願公開第2014/329718号は、環境NADHに対して感受性であるポリペプチド、及びそのスペクトル特性の変化によって環境NADHを示すセグメントを含む、NADHについての遺伝的にコードされた蛍光センサーであって、NADHに対して感受性であるポリペプチドが、
(1)NADH結合特性を有するRossmanドメインを含むポリペプチド、及び/或いは
(2)転写調節因子RexファミリーのNADH感受性タンパク質に由来するポリペプチド、又はその機能的断片若しくはNADH結合ドメインであり、
スペクトル特性の変化によって環境NADHを示すセグメントが、蛍光タンパク質配列又はその誘導体である、蛍光センサーを開示している。しかしながら、このセンサーはNADHを測定するだけであり、NADP(H)又はNAD(P)+濃度の測定を可能にしていない。それはまた、遅い動態を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/329718号
【特許文献2】WO2015/007317
【特許文献3】米国特許第5,229,285号
【特許文献4】米国特許第5,219,737号
【特許文献5】米国特許第5,843,746号
【特許文献6】米国特許第5,196,524号
【特許文献7】米国特許第5,670,356号
【特許文献8】WO2012/061530
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Linら Curr Opin Cell Biol. 2003年4月;15(2):241〜6頁
【非特許文献2】Yingら Antioxid Redox Signal. 2008年2月;10(2):179〜206頁
【非特許文献3】Bergerら Trends Biochem Sci. 2004年3月;29(3):111〜8頁
【非特許文献4】Sportyら J Sep Sci. 2008年10月;31(18):3202〜11頁
【非特許文献5】Veechら Biochem J. 1969年12月;115(4):609〜19頁
【非特許文献6】Vidugirieneら Assay Drug Dev Technol. 2014年12月1日;12(9〜10):514〜526頁
【非特許文献7】Tanakaら Structure. 1996年1月15日;4(1):33〜45頁
【非特許文献8】Harukiら Science 2013年5月24日;340(6135):987〜91頁
【非特許文献9】Harukiら Science 2013年5月24日;340 6135に対する補充資料(1〜20頁)
【非特許文献10】EMBO J. 1997年12月15日;16(24):7219〜30頁
【非特許文献11】Supangatら、J Biol Chem. 2006年1月27日;281(4):2249〜56頁
【非特許文献12】Bellamacinaら FASEB J. 1996年9月;10(11):1257〜69頁
【非特許文献13】Bottomsら Protein Sci. 2002年9月;11(9):2125〜37頁
【非特許文献14】Brunら J Am Chem Soc 131、5873〜5884頁、2009年
【非特許文献15】Hallら ACS Chem Biol. 2012年;7(11):1848〜57頁
【非特許文献16】M. Brunら J Am Chem Soc 131、5873頁(2009年4月29日)
【非特許文献17】Chiarugiら Nat Rev Cancer. 2012年11月;12(11):741〜52頁
【非特許文献18】Masharinaら、J Am Chem Soc. 2012年11月21日;134(46):19026〜34頁
【非特許文献19】Kepplerら Nat Biotechnol. 2003年1月;21(1):86〜9頁
【非特許文献20】Brunら J Am Chem Soc. 2011年;133(40):16235〜42頁
【非特許文献21】Lukinaviciusら、Nat Chem. 2013年2月;5(2):132〜9頁
【非特許文献22】Hedeskovら、Biochem J. 1987年1月1日;241(1):161〜167頁
【非特許文献23】Srikunら、J Am Chem Soc. 2010年3月31日;132(12):4455〜65頁
【非特許文献24】Bachら FEBS J. 2007年2月;274(3):783〜90頁
【非特許文献25】Grissら Nature Chemical Biology、2014年10(7):598〜603頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明者らは、生物試料のような複合試料中のNAD+、NADP+の濃度並びに/又はNAD+/NADH及びNADP+/NADPHの濃度比を確実に測定するために簡単な1工程アッセイにおいて使用できるセンサーを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、酵素であるセピアプテリン還元酵素(SPR)に基づいたセンサーが、複合試料中の補因子NAD+、及びNADP+並びにNAD+/NADH及びNADP+/NADPHの濃度比を検出するために有利に使用されることを見出した。より特には、SPR及びSPRに対するリガンドであって、SPRの活性部位と分子内結合できるリガンドを含むセンサーを開発した。重要なことには、リガンド結合は、それがニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの酸化された酸化還元型の存在下でのみ本質的に結合するという意味で高い補因子依存性/特異性を示した。リガンドは、他の酸化還元型の存在下、又は補因子の非存在下では結合しない。更に、リガンドのSPRへの結合はセンサー分子の分光学的特性を変化させ、その変化は、例えば、蛍光異方性の変化、又はRET(FRET、BRET)の変化によって容易に検出できる。
【0009】
野生型SPRはNADP(H)に特異的であるが、補因子結合部位のいくつかの変異が、その特異性をNAD(H)に切り替え、この補因子に対するその親和性を更に増加させることを可能にすることが見出された。これにより、NADPH/NADP+及びNADH/NAD+の両方の比についてのセンサーの生成が可能となった。
【0010】
数回の最適化により、高い感受性、高い特異性、pH非依存性であり、ハイスループットスクリーニングに対する適合性があり、良好な動態を有するNADP(H)及びNAD(H)についてのセンサーを得た。とりわけ、これらのセンサーは、光吸収試料(例えば、溶解物、血清)、酵素アッセイ、臨床試験及び生細胞における補因子の比又は変化の測定等の複数の用途において使用できる。
【0011】
したがって、一実施形態において、本発明は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の蛍光又は発光に基づいた検出のための、特にNAD+、NADP+の濃度並びにNAD+/NADH及びNADP+/NADPHの濃度比を検出するためのセンサー分子であって、センサーが、(i)セピアプテリン還元酵素(SPR;EC 1.1.1.153)に由来する、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体に対する結合タンパク質(BP)と、(ii)前記検体の酸化型の存在下で前記BPと分子内結合できるSPRリガンド(SPR-L)と、(iii)少なくとも1つのフルオロフォアとを含む、センサー分子を提供する。
【0012】
例えば、NADP+の濃度及び/又はNADP+/NADPHの濃度比の蛍光又は発光に基づいた検出のためのセンサー分子であって、センサーが、
(i)所望の補因子結合特性を示す、野生型セピアプテリン還元酵素(SPR;EC1.1.1.153)又はその機能的相同体、断片、誘導体若しくはバリアントである、NADP+に対する結合タンパク質(BP)と、
(ii)前記検体の酸化型の存在下で前記BPと分子内結合できるSPRリガンド(SPR-L)と、
(iii)少なくとも1つのフルオロフォアと
を含む、センサー分子が提供される。
【0013】
別の例として、NAD+の濃度、及び/又はNAD+/NADHの濃度比の蛍光又は発光に基づいた検出のためのセンサー分子であって、センサーが、
(i)所望の補因子結合特性を示す、変異型セピアプテリン還元酵素(SPR;EC 1.1.1.153)又はその機能的相同体、断片、誘導体若しくはバリアントである、NAD+に対する結合タンパク質(BP)と、
(ii)前記検体の酸化型の存在下で前記BPと分子内結合できるSPRリガンド(SPR-L)と、
(iii)少なくとも1つのフルオロフォアと
を含む、センサー分子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】結合タンパク質としてのヒトセピアプテリン還元酵素に基づいたNADP特異的FRETセンサーの構造及び検知機構の概略図である。
図1B】SNAP-タグ標識化のために使用した合成分子BG-TMR-C6-SPY(1)及びBG-TMR-C6-SMX(2)の化学構造(SPY:スルファピリジン;SMX:スルファメトキサゾール)の図である。SNAP-タグのためのO6-ベンジルグアニン部分、テトラメチルローダミンフルオロフォア及びSPRリガンドが、それぞれ緑色、赤色及び青色で表現される。
図1C】NADP+で滴定したセンサー(BG-TMR-C6-SMXで標識したSNAP-p30-EGFP-SPR)の応答曲線である。このセンサーのFRET比の変化はその閉鎖状態と開放状態との間で1.8倍である。
図1D】NADPH/NADP+の比で滴定したセンサー(BG-TMR-C6-SPYで標識したSNAP-p30-EGFP-SPR)の応答曲線である。その結果はpH感受性応答を示す。
図1E】NADPH/NADP+の比で滴定したセンサー(BG-TMR-C6-SMXで標識したSNAP-p30-EGFR-SPR)の応答曲線である。分子内リガンドとしてスルファメトキサゾールを使用することにより、pH変化に感受性でないセンサーが生成する。
図2A】最初にNADP+で滴定したセンサー(BG-TMR-C6-SMXで標識したSPR-EGFP-p30-SNAP)の応答曲線であり、次いでNADP+はNADPHに酵素的に変換され、観測された比により示されるように、リガンドはNADPHの存在下で結合できないが、NADP+の存在下でのみ結合できる。このセンサーのFRET比の変化はその閉鎖状態と開放状態との間で2.8倍である。
図2B】10μM NADP+の存在下でスルファメトキサゾールで滴定したBG-TMR-C6-SMXで標識したセンサー(SPR-EGFP-p30-SNAP)の応答曲線である。
図2C】NADP+及びNAD+で滴定したセンサーの応答曲線であり、NAD+と比較してNADP+に対するセンサーの高い特異性を示す。
図2D】異なる構造的に近いヌクレオチド(NADH、ATP、ADP、GTP)によるセンサーの滴定であり、センサーの高い特異性を確認する。
図3A】NADP特異的FRETに基づいたセンサー(SPR-Halo-p30-SNAP)の最適化型の構造の概略図である。セピアプテリン還元酵素を、リガンド結合部位に近接している、そのC末端によって、そのN末端に近いその結合部位を有するHalo-タグに結合させることによって、2つのFRET対は閉鎖状態において近接する。加えて、より赤色にシフトしたFRET対が、光吸収試料中のセンサーの信頼性を増加させるのに使用されうる。
図3B】Halo-タグと特異的に反応するクロロアルカン部分を含有する、SiR-Haloの構造である。
図3C】NADP+で滴定したSPR-Halo-p30-SNAP(BG-TMR-C6-SMX及びSiR-Haloで標識した)の応答曲線である。このセンサーのFRET比の変化はその閉鎖状態と開放状態との間で8.0倍であり、これは以前の型より有意に高い。
図3D】滴定の間のセンサーの発光スペクトルの変化のグラフである。
図4】(A)部位特異的変異誘発法によって開発した操作したSPR変異体を使用した、NAD特異的センサー(BG-TMR-C6-SMXで標識したSPR(D41W42)-Halo-p30-SNAP)の応答曲線である。観測されうるように、73μMの測定した見かけのKdでSPRの天然の特異性が完全に切り替わる。非常に高い濃度のNADP+(10mM)がセンサーの閉鎖を開始するのにも必要である。
図5A】濃縮したHEK293溶解物中のSPR-Halo-p30-SNAP(BG-TMR-C6-SMXで標識した)について測定した発光スペクトルである。測定したTMR/SiRの比は1.06である。
図5B】規定された比のNADPH/NADP+により緩衝液中でセンサーを滴定することによって作成した較正曲線である。総補因子濃度は100μMに維持する。これらのデータを溶解物中の測定値と相関させることにより、本発明者らは溶解物中の遊離NADPH/NADP+の比が約40であることを算出することができる。
図6A】生細胞中でのSNAP-タグの標識化のために使用した合成分子(CP-TMR-C6-SMX)の構造である。SNAP-タグのためのO4-ベンジル-2-クロロ-6-アミノピリミジン(CP)部分、テトラメチルローダミンフルオロフォア及びSPRリガンドとしてのスルファメトキサゾールは、それぞれ緑色、赤色及び青色で表現される。
図6B】サイトゾルで発現されたセンサー(CP-TMR-C6-SMXで標識したSPR-Halo-p30-SNAP)の標識化後、生U2OS細胞で行われた灌流実験の時間分解トレースである。t=2分にて、2mMのスルファピリジンがフローチャンバーに入れられた細胞上で灌流される。スルファピリジンは分子内スルファメトキサゾールと直接競合しうる。結果として、それはTMR/SiRの増加した比において観測されるようにセンサーを開放する。t=7分にて、HBSSは加えられたスルファピリジンを洗い流すために灌流され、結果としてセンサーはその基礎レベルに戻る。t=15分にて、100μMのH2O2が灌流され、それにより、細胞の酸化的ストレスが顕著に増加し、それらのNADPHを枯渇させ、次いでセンサーの閉鎖が減少したNADPH/NADP+比と相関する。t=25分にて、HBSSのみが灌流され、細胞はそれらの基礎NADPH/NADP+レベルに回復する(灌流事象及びそれらの長さは赤色のバーで示される)。
図6C】灌流実験のために使用したU2OS細胞の画像である。示される異なる画像は、TMR(TMR励起/発光フィルター)、FRET(TMR励起、Cy5発光フィルター)、TMR及びFRETチャネルのマージ(統合)並びにBF(透過チャネル)である。センサーは適切な細胞質局在性を有する。経時的実験のために、TMR及びFRETチャネルのみが、より速い時点を有し、光退色を回避するようにモニターされる。
図7A】2つの蛍光タンパク質(SPR-TagGFP2-p30-SNAP-TagRFP);FP1:TagGFP2、FP2:TagRFPに基づいたNADP特異的FRETセンサーの構造の概略図である。
図7B】SNAP-タグ標識化のために使用した合成分子BG-Suc-C6-SMX(SMX:スルファメトキサゾール、Suc:コハク酸リンカー)の化学構造である。SNAP-タグのためのO6-ベンジルグアニン部分及びSPRリガンドは、それぞれ緑色及び青色で表現される。
図7C】NADP+で滴定したセンサー(BG-Suc-C6-SMXで標識したSPR-TagGFP2-p30-SNAP-TagRFP)の応答曲線である。このセンサーのFRET比の変化はその閉鎖状態と開放状態との間で1.5倍である。
図8図8Aは、例示的なSPR-L分子BG-Peg11-Cy3-スルファメトキサゾールの概略図である。図8Bは、BG-Peg11-Cy3-スルファメトキサゾールで標識したNAD特異的センサーSNAP_P30_hSPR(D41W42)_NLuc_cpDHFRの応答曲線である。NAD+の測定した見かけのKdは19μMである。図8Cは、乳酸脱水素酵素活性についてのアッセイにおいて測定した経時的なセンサー比の変化である。図8Dは、吸光度アッセイによって得られた結果に対するセンサープロットによって測定したLDHレベルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
WO2015/007317は、BRETを使用して試料中の目的の検体を検出するためのセンサー分子であって、センサーが合成調節分子と連結したタンパク質部分を含み、(i)タンパク質部分が、目的の検体に結合できる結合タンパク質(BP)と結合したルシフェラーゼ酵素(Luc)を含み、(ii)合成調節分子が、BPと分子内結合できるリガンド(L)と、適切なLuc基質の存在下で共鳴エネルギー移動を介してLucからエネルギーを受け取ることができる蛍光アクセプターとを含み、(iii)検体のBPとの結合が、Lの、BRETセンサー分子のBPとの分子内結合の程度を変化させ、それによってBRET効率の変化をもたらす、センサー分子を開示している。いくつかの特異的L-BP対が記載されているが、当該技術では、SPR-L及び/又はSPRの使用について記載されていない。
【0016】
本発明のセンサーは、とりわけ、それが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体に対する結合タンパク質として酵素であるセピアプテリン還元酵素(SPR;EC 1.1.1.153)又はその変異体に由来するか、又は基づくポリペプチドを含むことを特徴とする。SPRは、短鎖脱水素酵素/還元酵素(SDR)ファミリーに属する261残基のホモ二量体NADPH依存性酸化還元酵素であり、補因子テトラヒドロビオプテリン(BH4)のde novo生合成の最終工程において6-ピルボイルテトラヒドロプテリンの還元を触媒する。SPRは特徴的なRossmannジヌクレオチド結合ドメインを保有する。野生型ヒトSPRは、NADPHに対して1μMのKD及びNADP+に対して10μMのKDを有する。NAD(H)を上回るNADP(H)の特異性は、NADP(H)に見出される更なる2'-リン酸についての保存された塩基性残基(Arg42、Arg17)との特異的相互作用に起因する。Tanakaら Structure. 1996年1月15日;4(1):33〜45頁を参照のこと。
【0017】
サルファ薬剤は、SPRを阻害する、すなわち、活性部位残基(Ser157、Tyr170、Asp257)との特異的相互作用を介するSPRの基質結合部位との結合によってSPRを阻害することが示されている。Harukiら Science 2013年5月24日;340(6135):987〜91頁を参照のこと。Harukiら(Science 2013年5月24日;340 6135に対する補充資料(1〜20頁))は、テルビウムクリプテートで標識されたFRETドナー分子SPR及びSNAP-タグを介してEGFPにコンジュゲートしたFRETアクセプターSPR-リガンドスルファサラジンによって形成されるFRET対に基づいたSNAPに基づいた競合アッセイを開示している。当該技術において記載されている結合したサルファ薬剤を有するSPRの結晶構造は、いずれの様式においてもNADP+に対する特異性の程度を予測しておらず、NADPHの存在下での薬剤の結合の欠如について言及してもいない。また、補因子の非存在下でのリガンドの親和性の欠如は報告されておらず、それを予測することもできていない。更に、HarukiらはNAD(P)+及びNAD(P)+/NAD(P)Hを測定することに関連していない。Harukiらによって提案されているセンサーは、SPRとの結合についてスルファサラジン(sulfalazine)と競合する候補阻害剤の能力を決定することによる新しいSPR阻害剤についてのスクリーニングに関して議論されているだけである。このような結合は補因子として既知の濃度のNADPH及びNADP+の存在下で実施されるが、このことは、(遊離)NADP+の濃度を検出するためのFRET対の使用を全く示唆していない。
【0018】
NADPH又は補因子の不在を上回るNADP+に対する(連結した)リガンドの驚くべき選択性のみにより、NADP+又はNADP+/NADPH比についてのセンサーの生成が可能になる。したがって、サルファ薬剤の連結した誘導体は酸化ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD(P)+)と結合したSPRと分子内で独占的に結合するが、遊離SPR又は還元補因子と結合したSPRと結合しないという現在の発見は全く予想外であった。
【0019】
一実施形態において、バイオセンサーは、BPとしてヒトセピアプテリン還元酵素(hSPR;UniprotKB受託番号P35270)又はその機能的相同体、断片、誘導体若しくはバリアント、例えば、所望の補因子結合特性を示すオルソログ又は変異型SPR配列を含む。様々な生物由来のSPRは、ほぼ全体の構造並びに保存された基質結合及び触媒機構(例えば、hSPR Ser157、Tyr170、Lys174、Asp257について)に関して文献に記載されている。適切な哺乳動物オルソログには、マウス(mSPR;UniprotKB受託番号Q64105)及びラット(rSPR;UniprotKB受託番号P18297)由来のSPRが含まれ、両方がhSPRと比較して74%の配列同一性を有する(EMBO J. 1997年12月15日;16(24):7219〜30頁)。実際に、マウス及びラットの両方のSPRはNADP+結合状態においてのみ分子内で連結したスルホンアミドに特異的に結合することが見出された。ヒト(配列番号1)、マウス(配列番号2)及びラットSPR(配列番号3)の配列の配列比較の結果、以下の配列アラインメントが得られ、機能的に保存された(黒色のハイライト)及び半保存的(灰色のハイライト)アミノ酸残基が示される。アスタリスクで印を付けた3つの残基はいわゆる触媒三残基を示す。
【0020】
【表1】
【0021】
しかしながら、哺乳動物起源に加えて、非哺乳動物源由来のSPRもまた、使用されてもよい。一例は、hSPRと比較して35%の配列同一性を有するカイコ(ボムビークス・モリー(Bombyx mori);BmSPR UniprotKB受託番号C0STP5)由来のSPRである。別の例は、クロロビウム・テピダム(Chlorobium tepidium)(BmSPR UniprotKB受託番号Q8KES3)、嫌気性光栄養好熱性細菌由来のSPRであり、その結晶学的データにより、28%のみの配列同一性であるが、ヒト及びマウスSPRと比較して相対的に近い構造的折り畳みが明らかになった(PDB:2BDO;Supangatら、J Biol Chem. 2006年1月27日;281(4):2249〜56頁)。
【0022】
それ故、一実施形態において、センサーは、(i)ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体に対する結合タンパク質としてセピアプテリン還元酵素(SPR;EC 1.1.1.153)又はその変異体と、(ii)SPR又はSPR変異体の前記活性部位と分子内結合できるSPRリガンド(SPR-L)であって、前記結合が前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の酸化型の存在下でのみ選択的に発生する、SPRリガンド(SPR-L)と、(iii)少なくとも1つのフルオロフォアとを含む。前記SPR-LのSPR又はSPR変異体との検体依存性結合は、フルオロフォアの分光学的特性又はセンサー分子の発光スペクトルを調節する。より特には、SPR-Lは、前記検体の酸化型の存在下、すなわち、NADP+又はNAD+の存在下でSPR又はSPR変異体の活性部位と選択的に結合し、検体の還元型(NADPH、NADH)はSPR又はSPR変異体からNADP+又はNAD+を移動させることができ、それによって分子内リガンドの結合を無効にする。前記検体の酸化型(NADP+又はNAD+の存在)の非存在下で、分子内リガンドの結合は観測されない。
【0023】
「機能的断片」、「誘導体」及び「類似体」という用語は、本発明における天然SPRタンパク質の実質的に同じ生物機能又は活性を保持するタンパク質を意味する。本発明におけるSPRの機能的断片、誘導体又は類似体は、(i)1つ若しくは複数の保存的若しくは非保存的アミノ酸置換(好ましくは保存的)を有するタンパク質であって、置換アミノ酸残基が遺伝子コードによってコードされるものであってもよいか、若しくはなくてもよい、タンパク質、又は(ii)置換基を有する1つ若しくは複数のアミノ酸残基の置換を含有するタンパク質、又は(iii)別の化合物(タンパク質の半減期を延ばす化合物、例えば、ポリエチレングリコール等)と融合した成熟タンパク質を有して形成されるタンパク質、又は(iv)更なるアミノ酸配列(リーダー配列若しくは分泌配列、又はタンパク質若しくは前駆タンパク質配列を精製するために使用される配列、又は抗原IgGの断片と共に形成される融合タンパク質等)と融合した前記タンパク質を有することによって形成されるタンパク質であってもよい。本明細書に提供される教示によって、これらの機能的断片、誘導体及び類似体は当業者に周知である。
【0024】
それ故、SPRポリペプチド又はタンパク質を参照する場合、これは、同じ機能を有するが、配列が異なるポリペプチド又はタンパク質のバリアントを含む。これらのバリアント、例えば、配列番号1、2又は3のバリアントには、これらに限定されないが、ポリペプチド又はタンパク質の配列内の1つ又は複数(典型的には1〜30、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10、最も好ましくは1〜5)のアミノ酸を欠失、挿入及び/又は置換することによって、並びに1つ又は複数(通常20未満、好ましくは10未満、より好ましくは5以内)のアミノ酸をそのC末端及び/又はN末端に付加することによって得られる配列が含まれる。例えば、当該技術分野において、同等又は類似の特性のアミノ酸による置換は、通常、ポリペプチド又はタンパク質の機能を変化させない。類似の特性を有するアミノ酸は、通常、類似の側鎖を有するアミノ酸のファミリーを指し、当該技術分野において明確に定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。
【0025】
別の例として、1つ又は複数のアミノ酸をC末端及び/又はN末端に付加することは、通常、ポリペプチド又はタンパク質のいずれの機能も変化させない。当業者に知られているように、遺伝子クローニングプロセスは、多くの場合、適切なエンドヌクレアーゼ部位の設計を必要とし、そのプロセスは、最終的に1つ又は複数の無関係の残基を、発現されるポリペプチド又はタンパク質の末端に導入するが、これは標的ポリペプチド又はタンパク質の活性に影響を与えない。別の例に関して、融合タンパク質を構築するため、組換えタンパク質の発現を促進するため、宿主細胞の細胞外環境内にそれ自体を分泌できる組換えタンパク質を得るため、又は組換えタンパク質の精製を容易にするために、多くの場合、例えば、これらに限定されないが、適切な連結ペプチド、シグナルペプチド、リーダーペプチド、末端伸張、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースE結合タンパク質、プロテインA、6His若しくはFlag等のタグ、又はプロテアーゼ切断部位、例えば、第Xa因子若しくはトロンビン又はTEVプロテアーゼ若しくはエンテロキナーゼプロテアーゼ切断部位を含む、いくつかのアミノ酸が付加されたタンパク質のN末端、C末端、又は他の適切な領域を有することが望まれる。SPRのバリアントには、相同配列、保存的バリアント、対立遺伝子バリアント、自然変異体、誘発変異体、高い又は低いストリンジェントな条件下でポリペプチド又はタンパク質についてのDNAとハイブリダイズできるDNAによってコードされる前記ポリペプチド又はタンパク質、及びポリペプチド又はタンパク質に対する抗血清に由来する前記ポリペプチド又はタンパク質が含まれうる。これらのバリアントはまた、その配列が、配列番号1、2又は3によるポリペプチドと少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、又は100%の配列同一性である、ポリペプチド又はタンパク質を含んでもよい。
【0026】
好ましくは、本発明のセンサーに使用するためのSPRは、ヒトSPR(配列番号4)におけるSer157、Tyr170、Lys174、Asp257に対応する残基を含む。好ましくは、SPRは、βαβαβの2つのリピートによって形成され、グリシンリッチピロリン酸塩結合ループ配列(GX1-3GX1-3G)を含有する十分に特徴付けられた折り畳み(構造モチーフ)である、Rossmannジヌクレオチド結合ドメインを含む。Bellamacinaら FASEB J. 1996年9月;10(11):1257〜69頁、又はBottomsら Protein Sci. 2002年9月;11(9):2125〜37頁を参照のこと。
【0027】
一実施形態において、SPRは、上記の哺乳動物SPR配列(配列番号1、2又は3)の1つ、特にヒトSPR(配列番号4)と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を示す。SPRは、好ましくは、既知(哺乳動物)のSPRの配列比較に基づいて識別された保存された残基と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を含む。
【0028】
本発明のセンサーに使用するためのニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに対するBP感受性は以下の特性を有しうる:
(1)配列
MEGGLGRAVCLLTGASRGFGRTLAPLLASLLSPGSVLVLSARNDEALRQLEAELGAERSGLRVVRVPADLGAEAGLQQLLGALRELPRPKGLQRLLLINNAGSLGDVSKGFVDLSDSTQVNNYWALNLTSMLCLTSSVLKAFPDSPGLNRTVVNISSLCALQPFKGWALYCAGKAARDMLFQVLALEEPNVRVLNYAPGPLDTDMQQLARETSVDPDMRKGLQELKAKGKLVDCKVSAQKLLSLLEKDEFKSGAHVDFYDK(配列番号4)
によってコードされうる、ヒトSPRに由来するポリペプチドを含有する、
(2)少なくとも85アミノ酸残基において(1)に記載される配列と95%同一である相同又は非相同配列、
(3)少なくとも85アミノ酸残基において(1)に記載される配列と90%同一である任意の相同又は非相同配列、
(4)少なくとも85アミノ酸残基において(1)に記載される配列と70%同一である任意の相同又は非相同配列、
(5)少なくとも85アミノ酸残基において(1)に記載される配列と50%同一である任意の相同又は非相同配列、
(6)少なくとも85アミノ酸残基において(1)に記載される配列と40%同一である任意の相同又は非相同配列、又は
(7)少なくとも85アミノ酸残基において(1)に記載される配列と35%同一である任意の相同又は非相同配列。
【0029】
本発明のセンサーは、検体の酸化型の存在下で前記BPと選択的に分子内結合できる(連結した)SPRリガンド(SPR-L)を含む。一実施形態において、SPR-Lは、SPRのNAD(P)Hとの複合体又はいかなる補因子も結合していないSPRの複合体より少なくとも20倍高い親和性でSPRのNAD(P)+との複合体に結合する任意の部分である。図2Aに見ることができるように、連結リガンドとしてスルファメトキサゾールを有するセンサーは約100nMのNADP+の濃度にて閉鎖するが、一方でそれは10μMのみ又はそれ以上のNADPH濃度にて閉鎖する。NADP+と比較してNADPHに対するSPRの10倍高い親和性を考慮すると、SPR-NAD(P)Hと比較してSPR-NAD(P)+に対する連結スルファメトキサゾール又はスルファピリジンの親和性の差は、したがって少なくとも2桁である。更に、本発明者らのデータは、SPR-NADP+複合体について、連結リガンドは、100:1で開放状態(分子内リガンドが結合していない)より閉鎖状態(分子内リガンドが結合した)を優先するが、一方で、補因子の非存在下で開放状態が優先され、連結リガンドは結合しないことを示す。したがって、遊離SPRと比較してSPR-NAD(P)+に対する連結SPR-Lの親和性の差は少なくとも2桁である。
【0030】
例えば、SPR-Lが、NADP+又はNAD+の存在下で(変異型)SPRの活性部位と選択的に結合し、検体の還元型(NADPH、NADH)が、(変異型)SPRからNADP+又はNAD+を移動させることができ、それにより分子内リガンドの結合を無効にする、センサーが提供される。更に、前記検体の酸化型(NADP+又はNAD+の存在)の非存在下で、分子内リガンドの結合は観測されない。
【0031】
本明細書以下に例示されるように、酸化還元対NAD+/NADH又は酸化還元対NADP+/NADPHのいずれかについての本発明のセンサーの結合特異性は、SPRを調節することによって調節されうる。
【0032】
一実施形態において、本発明は、蛍光又は発光に基づいた検体検出のためのセンサー分子であって、検体検出が、NADP+の濃度又はNADPH/NADP+比を検出する工程を含み、センサーがNADP+と結合できるセピアプテリン還元酵素を含む、センサー分子を提供する。前記SPRは、好ましくは、配列番号4のヒト配列に基づいて17位及び42位において塩基性残基を含有する。より好ましくは、NADP+又はNADPH/NADP+比を検出するためのセンサーは、SPRに基づくか、又は由来する配列を含み、その配列において17位及び42位はArgである。特定の態様において、NADP+センサーは、野生型SPR、好ましくは配列番号4のアミノ酸配列を含む。
【0033】
別の実施形態において、本発明は、蛍光又は発光に基づいた検体検出のためのセンサー分子であって、検体検出が、NAD+の濃度又はNADH/NAD+比を検出する工程を含み、センサーがNAD+と結合できるセピアプテリン還元酵素を含む、センサー分子を提供する。前記SPRは、好ましくは、41位(配列番号4のヒトSPR配列に基づいた番号付け)においてAsp及び/又は42位においてVal、Ile若しくはTrp等の疎水性残基を含有する。より好ましくは、センサーは、Asp41及び42位においてVal、Ile又はTrpを含む。例えば、特定の実施形態において、センサーは41位においてAsp及び42位においてTrpを有する変異型SPR(SPR(D41W42))を含む。
【0034】
検体の酸化型のみの存在下でSPRの活性部位と選択的に結合できる任意のSPRリガンドは、好適には本発明のセンサーにおいて使用されうる。リガンドは、タンパク質であってもよいか、又は非タンパク質であってもよい。リガンドは、非タンパク質SPR阻害剤であってもよいか、又はそれに基づいてもよく、すなわち阻害剤は、他のセンサー要素との部位特異的共有結合を可能にするように、例えばタンパク質自己標識化タグによって官能化されてもよいか、又は修飾されてもよい。SNAP-タグ、CLIP-タグ又はHalo-タグ等の自己標識化タンパク質タグは当該技術分野において公知である。非天然アミノ酸又はシステイン残基に基づいた方法等のSPR-Lをタンパク質に部位特異的に結合する他の方法は当業者に公知である。
【0035】
一態様において、SPR-Lはベンゼンスルホンアミド又はその類似体であり(に基づき)、好ましくは以下の1つから選択される:
【0036】
【化1】
【0037】
リンカー(L)は、例えば、SNAP-タグ標識化及びフルオロフォアのためのO6-ベンジルグアニン(BG)又はO4-ベンジル-2-クロロ-6-アミノピリミジン(CP)部分を含有する。本発明のセンサーに使用するための特に有用なSPRリガンドは、NADP+に対して高い特異性でSPRと結合することが示されるベンゼンスルホンアミド部分に基づくものである。これらには、スルファサラジン、スルファチアゾール、スルファメトキサゾール、スルファメチゾール、フタリルスルファチアゾール、スルファピリジン、スルファジアジン、スルファメラジン、スルファクロロピリダジン、スルファメーター、クロルプロパミド、グリベンクラミド、トルブタミドが含まれる。好ましいSPR-リガンドには、スルファピリジン及びスルファメトキサゾールが含まれる。
【0038】
SPR-Lの定義の文脈において「基づいた」という表現は、センサーの一部になると、構造の一部がセンサー分子内への共有結合性の組込みに関与するので、ベンゼンスルホンアミド構造がその全体で存在しないことを示すことを意図する。
【0039】
生理的pH範囲(6.8〜8.0)でのセンサーの適用を可能にするために、SPR-Lが6未満又は9超のpKaを有するスルホンアミドであることが好ましい。一実施形態において、スルホンアミドは6未満のpKaを有し、例えばスルファメトキサゾールは約5.6のpKaを有する。
【0040】
好ましい実施形態において、センサーは、SPR-L及びフルオロフォアを含む合成分子が結合される、自己標識化タンパク質タグを含む。合成分子は、適切な反応基を介してセンサーの残部、例えばSPR又はその変異体及び蛍光タンパク質を含むタンパク質部分に連結されうる。一実施形態において、自己標識化タンパク質タグは、合成分子がヒトO6-アルキルグアニン-DNA-アルキルトランスフェラーゼ(hAGT)についての反応基を介して連結される、hAGTに基づく。例えば、タンパク質タグはSNAP-タグ又はCLIP-タグである。好ましくは、反応基は、O6-ベンジルグアニン(BG)、O4-ベンジル-2-クロロ-6-アミノピリミジン(CP)又はO2-ベンジルシトシン(BC)誘導体である。別の実施形態において、自己標識化タンパク質タグは、合成分子がクロロアルカンを介して連結される、修飾されたハロアルカンデハロゲナーゼに基づく(Halo-タグ)。
【0041】
本発明のセンサーは、とりわけ、前記SPR-LのBPとの検体依存性結合が、フルオロフォアの分光学的特性又はセンサー分子の発光スペクトルを調節することを特徴とする。この調節の結果、検出可能なシグナル又は検出可能なシグナルの変化がもたらされる。
【0042】
例えば、一実施形態において、例えば蛍光異方性を含む、フルオロフォアセンサーの分光学的特性が調節される。そのために、センサーは、リガンドをセンサーに連結する構造の一部として合成フルオロフォアを含有しうる(Brunら J Am Chem Soc 131、5873〜5884頁、2009年も参照のこと)。好ましいフルオロフォアは、ローダミン誘導体、Alexa染料誘導体、Bodipy誘導体又は当業者に公知の他のフルオロフォアである。
【0043】
別の実施形態において、センサー分子の発光スペクトルは調節される。例えば、センサーは共鳴エネルギー移動(RET)に基づいた検体検出を提供する。好ましい態様において、RETセンサーはリンカーを介してセグメントBに接続されたセグメントAを含み、セグメントA及びセグメントBの各々は、ドナー部分及びアクセプター部分を含むRET対(ペア)のメンバーを含み、更に、(i)セグメントAがBPを含み、(ii)セグメントBがSPR-Lを含み、それにより、ドナー部分及びアクセプター部分は、SPR-LがBPと結合すると、RETシグナルを生じるように適切に並び、BPとのSPR-L結合における検体によって誘発された変化がRET効率の変化をもたらすことを特徴とする。
【0044】
したがって、SPR-Lは前記ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の酸化型の存在下でのみ本質的にBPと分子内結合でき、それにより、ドナー部分及びアクセプター部分は、酸化型の存在下でSPR-LがBPと結合すると、RETシグナルを生じるように適切に並ぶ。十分な濃度の酸化型の非存在、又は酸化型の還元型による置き換えにより、BPとの前記SPR-L結合が変化し、それによりドナーとアクセプター部分との間でRETを調節するのに十分なセンサーの立体配座変化を誘導し、したがってその結果、RETシグナルの変化がもたらされる。
【0045】
特定の態様において、センサーは蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づいた検体検出を提供する。FRETは2つの染料分子の電子的励起状態の間で距離依存性相互作用であり、励起は光子を放出せずにドナー分子からアクセプター分子へ移動する。FRETの効率は分子間分離の6乗の逆数に依存し、本発明のセンサー分子における検体誘発性立体配座変化をモニターすることが有益になる。大部分の用途において、FRETは、アクセプターの感作蛍光の出現によって、又はドナー蛍光のクエンチングによって検出されうる。FRETについての最重要な条件は、ドナー及びアクセプター分子が近接していなければならず(典型的に10〜100Å)、アクセプターの吸収スペクトルがドナーの蛍光発光スペクトルと重複しなければならないことである。加えて、ドナー及びアクセプター遷移双極子配向はほぼ平行でなければならない。例えば、Aセグメントが蛍光アクセプターを含み、Bセグメントが蛍光ドナーを含むか、又はその逆である、センサーが提供される。当該技術分野で公知の任意のFRET対が使用されうる。適切なFRET対を選択するための基準は、ドナーの発光スペクトルとアクセプターの励起スペクトルとの間のスペクトル重複の存在及び良好な分光学的特性(例えば、輝度、光安定性)である。FRETフルオロフォアはタンパク質又は化学的フルオロフォアであってもよい。FRETに基づいたセンサーにおいて使用するための蛍光タンパク質は、オワンクラゲ(Aequorea)に基づいたファミリーのウミシイタケ(Renilla reniformis)又は花虫網(Anthozoa)に基づいた蛍光タンパク質ファミリーのメンバーに由来する緑色蛍光タンパク質(GFP)及びGFPバリアントのように当該技術分野において周知である。
【0046】
例示的な化学的フルオロフォアは、Alexafluor、ローダミン、BODIPY、テトラメチルローダミン、シアニン染料、フルオレセイン、量子ドット、IR染料、FM染料、ATTO染料を含む。公知のフルオロフォアのFRET対はそれらの光励起及び発光プロファイルに基づいて確立されうる。例示的な有用なFRET対は、テトラメチルローダミン誘導体(TMR)/シリコン-ローダミン(SiR);カルボピロニン誘導体(CPY)/SiR;Cy3/Cy5;フルオレセイン/TMR;Alexa488/TMR;Alexa488/Alexa546;Alexa488/Alexa594;ATTO488/ATTO565;TTO565/ATTO647N;ATTO594/ATTO647N;CFP/YFP;EGFP/TMR;TagGFP2/TagRFP;mNeonGreen/mRuby2である。
【0047】
一実施形態において、FRET対は、(i)蛍光タンパク質及び部位特異的に結合しているフルオロフォアを含有する合成分子;(ii)部位特異的に結合している第1のフルオロフォア及び第1のフルオロフォアとFRET対を形成し、第1のフルオロフォアが結合している部位と異なる部位と部位特異的に結合している第2のフルオロフォアを含有する合成分子;(iii)2つの蛍光タンパク質から選択される。
【0048】
特定の態様において、FRET対は、(i)蛍光タンパク質及びフルオロフォアを含有する合成分子と連結した自己標識化タグ(例えば、SNAP-タグ、CLIP-タグ又はHalo-タグ);(ii)一方はドナー部分を含有する合成分子の結合のためであり、他方はアクセプター部分フルオロフォアと結合するためである、2つの直交(オルソゴナルな(orthogonal))自己標識化タグ(例えば、SPR-Halo-p30-SNAP又はSNAP-p30-CLIP-SPR);並びに(iii)2つの蛍光タンパク質から選択される。
【0049】
特定の実施形態において、本発明は、(i)補因子結合タンパク質としてのSPR又はSPRの変異体、(ii)蛍光タンパク質又は直交自己標識化タグ及び(iii)SPR阻害剤スルファピリジン及びフルオロフォアを含有する合成分子が結合しているSNAP-タグを含む融合タンパク質で構成される、NAD(H)及びNADP(H)に対するレシオメトリックセンサーを提供する。注目すべきことに、分子内SPRリガンドスルファピリジンは、FRET比の変化によってモニターすると、酸化補因子(NAD+又はNADP+)の存在下でのみSPRの活性部位に結合し、還元補因子(NADH、NADPH)の存在下、又は補因子の非存在下では結合しない(図2A)。図2Bに示される遊離スルファメトキサゾールによる滴定の結果、補因子の非存在下でのセンサーと同じFRET比の変化を示すセンサーが得られ、補因子の非存在下でセンサーは閉鎖しないことが更に実証される。更に、還元及び酸化補因子はSPR上の同じ補因子結合部位を競合するので、センサーはNADPH/NADP+又はNADH/NAD+の比を直接プローブすることができる。
【0050】
FRETの制限が蛍光移動を開始するために外部照射に要求され、これは、アクセプターの直接励起からの結果におけるバックグラウンドノイズ又は光退色を引き起こす可能性がある。この欠点を回避するために、本発明のセンサーは生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)に基づきうる。BRETにおいて、FRET対のドナーフルオロフォアは、基質の存在下で、FRETと同じ共鳴エネルギー移動機構を介してアクセプターフルオロフォアを励起する生物発光ドナータンパク質(BDP)と置き換えられる。
【0051】
したがって、一実施形態において、本発明は、セグメントA及びBの各々が、その両方が当該技術分野において周知である生物発光ドナータンパク質(BDP)及び蛍光アクセプターを含むBRET対のメンバーを含む、BRETに基づいたセンサーを提供する。一般に、BDPはルシフェラーゼ、例えばウミシイタケ由来のルシフェラーゼである。本発明において利用されうる代替のBDPは、発光シグナルを生成するように適切な基質に対して作用できる酵素である。そのような酵素の具体的な例は、ベータ-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータ-グルクロニダーゼ及びベータ-グルコシダーゼである。これらの酵素についての合成発光基質は当該技術分野において周知であり、Tropix Inc.社(ベッドフォード、MA、USA)等の会社から市販されている。
【0052】
好ましい実施形態において、BDPはルシフェラーゼ活性を有する。ルシフェラーゼ及びそれらをコードする核酸構築物は、様々な供給源から、又は様々な手段によって入手可能である。ルシフェラーゼ活性を有する生物発光タンパク質の例は、米国特許第5,229,285号;同第5,219,737号;同第5,843,746号;同第5,196,524号;又は同第5,670,356号において見出されうる。好ましいルシフェラーゼには、NanoLucルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、ホタルルシフェラーゼ及びGaussiaルシフェラーゼが含まれる。天然に存在しないルシフェラーゼ、例えば変異ルシフェラーゼも包含される。
【0053】
特定の実施形態において、本発明のセンサーは、高強度のグロー型(glow-type)の発光を生じるように新規基質を利用する19.1kDaの単量体のATP非依存性酵素である、以前に記載されているNanoLuc(商標)ルシフェラーゼ(Nluc)を含む。WO2012/061530及びHallら ACS Chem Biol. 2012年;7(11):1848〜57頁を参照のこと。酵素は、深海のエビルシフェラーゼから指向性進化を使用して生成し、ホタル(フォチナス・ピラリス(Photinus pyralis))及びウミシイタケの両方を含む、他の形態のルシフェラーゼよりはるかに明るいルシフェラーゼを作り出した。低い自己発光(autoluminescence)のフリマジン基質と組み合わせたNanoLuc酵素の高強度発光により、低レベルのルシフェラーゼの高感度の検出が可能になる。特定の態様において、追加のタンパク質ドメインが、他の分子、例えば生物試料中に存在する生体分子とのNanoLucの非特異的相互作用を減少させるためにNanoLucのC末端に結合する。例えば、元のN及びC末端を(グリシン)5リンカーと融合し、Asn23とLeu24との間で分割することによって野生型大腸菌(E.coli)DHFRに由来する、円順列変異させた(circular-permutated)ジヒドロ葉酸還元酵素(cpDHFR)と結合させることで非常に良好な結果が得られる。別の実施形態において、追加のタンパク質はCLIP-タグである。
【0054】
他のBRET対メンバー、すなわち蛍光アクセプターは、上述のような合成フルオロフォア又は蛍光タンパク質であってもよい。好ましいBRET蛍光アクセプターには、Cy3、TMR、Alexa488、Alexa546、ATTO488、ATTO565が含まれる。NAD+レベル又はNAD+消費酵素を検出する際の代表的なBRET-センサー及びその使用については、本明細書以下の実施例8を参照のこと。一実施形態において、BRET対はCy3及びNanoLucによって形成される。
【0055】
当業者は、多くの異なるセンサー形状が、本発明の機能的センサー、すなわち検体の酸化された酸化還元型と結合したBPに対するSPR-Lの驚くべき特異性に依存するセンサーを獲得するのに可能であることを理解する。センサー形状は必要に応じて最適化されうる。好ましくは、形状は、閉鎖状態でRET対メンバーの距離を最小化し、開放状態でRET対メンバーの距離を最大化するものである。これを達成するための様々な方法が存在する。一実施形態において、SPR-L及びBPの各々はセンサーの反対側の末端に位置する。この形状は典型的に、両側で他のセンサー要素と隣接した「内部」要素としてSPR-L及び/又はBPを含むセンサーと比較してフルオロフォアの分光学的特性又はセンサー分子の発光スペクトルの検体誘発性調節を向上させる。
【0056】
セグメントA及びBを接続するリンカーは、SPR-Lの(変異型)SPRとの分子内結合における検体によって誘発された変化が、センサーの立体配座状態の十分な変化を引き起こすことを確保するように設計される。それはタンパク質又は非タンパク質のリンカーであってもよい。好ましい態様において、それは、人工ポリペプチド配列又は天然に存在するタンパク質等のタンパク質のリンカーである。ポリ-L-プロリンリンカーは、水溶液中の1つの残基当たり3.1Åのピッチを有する安定及び剛性の螺旋構造(ポリプロリンIIヘリックス)を形成するそれらの明確に定義された特性に起因して正確な分子定規として使用されうる。したがって、リンカー部分は、好ましくはプロリンリッチな螺旋リンカーであり、これにより、構造的剛性及び結合したルシフェラーゼからの合成調節分子の単離が導かれる。非常に良好な結果が、少なくとも15のPro残基、例えばPro15、又はPro30又は更にそれ以上からなるポリ-L-プロリンリンカーで得られた。Brunら(2011)は、従来のSNIFIT-センサーにおいてSNAP-タグとCLIP-タグとの間に挿入された様々な長さ(0、6、9、12、15、30、60)のポリプロリンリンカーを調査した。30又は60のプロリン残基の長さにより、センサーの改善された最大の比の変化が生じることが見出された。したがって、一実施形態において、リンカー部分は、少なくとも15、好ましくは少なくとも20、より好ましくは少なくとも30の残基を含むポリ-L-Proリンカーからなる。
【0057】
センサー分子は、細胞小器官ターゲティング手段、好ましくはセンサーをミトコンドリア、核、細胞膜又はERにターゲティングするためのターゲティング手段を更に含んでもよい。一実施形態において、センサーは、核輸送によって細胞核内へ輸送するためのセンサーを「タグ付けする」核局在化シグナル又は配列(NLS)を含む。典型的に、このシグナルは、タンパク質表面上に露出された正に帯電したリジン又はアルギニンの1つ又は複数の短配列からなる。例えば、それは、遍在する二分節(bipartite)シグナル配列KR[PAATKKAGQA]KKKK(配列番号5)、又は単一分節(monopartite)NLSについてのコンセンサス配列K-K/R-X-K/R(配列番号6)の原型を含む。ERターゲティングは、ヒトカルレティキュリンERターゲティングシグナル(N末端において)又はKDEL(配列番号7)ER保持ペプチド(C末端において)を使用することによって達成されうる。ヒトCoX8Aの25個の最初のアミノ酸(又はこの配列のタンデムリピート)は、好適には、ミトコンドリアターゲティングのために使用される。
【0058】
本発明はまた、本発明のセンサー分子を準備する方法に関する。タンパク質部分は当業者に周知の標準的な組換えDNA技術を使用して調製されうる。例えば、SPRコード配列又はその機能的部分は、蛍光タンパク質コード配列を含む細菌発現ベクターの複数のクローニング部位内に遺伝子組換えにより導入されうる。タンパク質標識化タグ及び/又はリンカー配列のような他のタンパク質成分もまた、標準的な技術を使用して組み込まれうる。本発明のセンサーのタンパク質部分の様々な構造のためのDNA構築物は、その産生のために適切な細胞株(真核細胞又は原核細胞)においてトランスフェクト/形質転換されうる。次いで細胞中で産生される融合タンパク質の様々な構造はトランスフェクト/形質転換細胞から精製又は半精製される。タンパク質部分を精製するための簡便な手順は、例えばDNA構築物中で操作されるHis-タグ及び/又はStrep-タグを使用するアフィニティークロマトグラフィーによる。標準的な生化学的技術もまた、単独で、又は様々な融合タンパク質を様々なレベルまで精製するためのアフィニティークロマトグラフィーと組み合わせて使用されてもよい。
【0059】
実施例に例示されるように、タンパク質部分及びSPR-Lを含む合成分子(又はその前駆体)を含むセンサーの要素は典型的に別個の実体として産生され、その後、合成分子は適切なカップリング反応を使用してタンパク質分子と連結される。最終的に、これらの精製された融合タンパク質はまた、それらが合成調節分子に連結する前に化学的又は酵素的に修飾されてもよい。別の実施形態において、タンパク質部分はin vivo及びin vitro方法の組合せによって産生される。最初に融合タンパク質は遺伝子操作され、組換え技術を使用して細胞中で発現される。次いで融合タンパク質は、更なるタンパク質要素、例えば抗体等の結合タンパク質として役立ちうる要素に化学的又は酵素的に結合することによって修飾される前に精製又は半精製される。更なる要素の結合はペプチドに基づいてもよいし、又は化学的に基づいてもよい。
【0060】
本発明の別の特定の態様は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の濃度を検出するための、特にセンサーの発光波長において光を吸収する複合試料、例えば細胞溶解物、血清又は他の体液中のNAD+、NADP+の濃度並びに/又はNAD+/NADH及びNADP+/NADPHの濃度比を検出するためのレシオメトリックRETセンサーの使用に関する。このような試料の分析は人為的結果になる傾向があり、多くの場合、信頼できないアッセイ結果を導く。内部光源(すなわちBRET)としてルシフェラーゼに基づくセンサーは、蛍光バックグラウンド問題を理論的に減少させ、感受性を増加させる可能性があるが、光吸収試料中の検体の定量のために好適に使用されるレシオメトリックBRETに基づいたセンサーはまだ導入されていない。
【0061】
驚くべきことに、紙等の固体担体に本発明のBRETに基づいたセンサーを吸収することによって、又は測定前にBRETセンサーをガラス面等の固体担体に固定することによって、センサーの発光波長における試料の吸光度からの干渉が最小化されることが見出された。そしてこのことにより、血清のような複合試料の分析が可能となる。
【0062】
特定の態様において、センサー分子は、固体担体、好ましくはガラス、透明プラスチック、金表面、紙又はゲル、より好ましくはクロマトグラフィー又は濾紙に固定又は吸収される。本発明によるセンサー分子を含む分析デバイスであって、センサー分子が、デバイスが試料中の目的の検体を検出するために使用中の場合、センサー分子から放出され、検出器によって回収される光子が、330μmより短い距離について試料を通過するように配置される、分析デバイスもまた、提供される。例えば、センサー分子は、固体担体、好ましくはガラス又は透明プラスチックに固定又は吸収される。一態様において、センサー分子は、紙担体又はゲル、好ましくはクロマトグラフィー又は濾紙に吸収される。別の態様において、センサー分子は、薄いフィルム内に含まれるか、又はチューブ、毛細管若しくは(微小流体)チャンバー内に収容される。
【0063】
本明細書において、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の濃度の蛍光又は発光に基づいたin vitro(ex vivo)検出のための、特に試料中のNAD+、NADP+の濃度並びにNAD+/NADH及びNADP+/NADPHの濃度比を検出するための方法であって、
(a)前記SPR-LのBP(例えばSPR又は変異型SPRを含む)との検体依存性結合が、フルオロフォアの分光学的特性又はセンサー分子の発光スペクトルを調節することを可能にする条件下で試料を本発明によるセンサー分子と接触させる工程と、
(b)フルオロフォアの分光学的特性又はセンサー分子の発光スペクトルの調節によって発生するシグナルの変化を分析する工程とを含み、任意選択にシグナル変化を試料中のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の濃度と関連付ける工程を更に含む、方法もまた、提供される。
【0064】
例えば、試料は、生物試料又はその画分、好ましくは体液であり、より好ましくは血液、血清、唾液、尿、髄液、膿、汗、涙、母乳からなる群から選択される。典型的に、本発明による方法において分析される試料は、(i)未知の濃度のNAD+、NADP+、NADH;(ii)未知の濃度比のNAD+/NADH若しくはNADP+/NADPH、及び/又は(iii)NADP+若しくはNAD+を生成若しくは消費する未知の濃度の酵素を含む。
【0065】
好ましくは、センサー分子は、デバイスが試料中の目的の検体を検出するために使用中の場合、センサー分子から放出され、検出器によって回収される光子が330μmより短い距離について試料を通過するように配置される。
【0066】
本明細書において、本発明によるセンサー分子及び固体担体を含むパーツのキットであって、好ましくは前記固体担体が紙又は透明物体、より好ましくはクロマトグラフィー又は濾紙、ガラス又は透明プラスチックである、キットもまた、提供される。一実施形態において、キットは、BRETに基づいたセンサーを含み、ルシフェラーゼ基質、好ましくはセレンテラジン、フリマジン又はそれらの誘導体を更に含む。
【0067】
当業者は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の濃度を検出するための本発明のセンサー、方法又はキットが、科学研究及び薬剤開発から臨床分析及び診断試験に及ぶ広範な用途を有することを理解するであろう。例示的な用途には、NADP(H)又はNAD(H)の検出、生理学的状態におけるNADP(H)又はNAD(H)の検出、細胞内レベルでのNADP(H)又はNAD(H)の検出、NADP(H)又はNAD(H)のin situ検出、薬剤のスクリーニング、NADP(H)又はNAD(H)レベルと関連する疾患の診断が含まれる。
【0068】
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド検体の蛍光又は発光に基づいた検出のための、例えばNAD+、NADP+の濃度並びに/又はNAD+/NADH及びNADP+/NADPHの濃度比を検出するための本発明によるセンサー分子の使用が提供される。
【0069】
それ故、本発明はまた、以下:(i)好ましくは血清又は体液中で実施されるex vivo臨床又は診断試験;(ii)NADP+又はNAD+の形成又は消費に関与するex vivo酵素アッセイ;(iii)好ましくは細胞中でNADP(H)若しくはNAD(H)を調節できる化合物のための、又は治療薬剤の毒性プロファイルの検証(バリデーション)のためのex vivoハイスループットスクリーニング;(iv)好ましくは適切な励起及び発光フィルターを備える広視野蛍光顕微鏡、共焦点蛍光顕微鏡又は蛍光寿命イメージング顕微鏡(FLIM)システムの使用を含む、ex vivo生細胞測定の1つ又は複数における本発明によるセンサー、方法及び/又はキットの使用に関する。一実施形態において、センサーは、乳酸脱水素酵素(LDH又はLD)等の脱水素酵素のex vivo活性を検出するために使用される。LDHはほぼ全ての生細胞(動物、植物及び原核生物)において見出される酵素である。LDHは、NADHをNAD+に変換し、及びその逆に変換するので、乳酸塩のピルビン酸への変換及びその逆の変換を触媒する。LDHは、血液細胞及び心筋等の体内組織において広範に見出されるので医学的に重要である。それは組織損傷の間に放出されるので、それは一般的な障害及び心不全等の疾患のマーカーである。
【0070】
発明の詳細な説明
細胞代謝及びin vitroアッセイにおけるニコチンアミドアデニンヌクレオチドの多くの機能並びにin vitro及び生細胞においてそれらを定量するための信頼でき、正確な方法の欠如が、本発明者らが、確立されたSNIFIT設計原理(M. Brunら J Am Chem Soc 131、5873頁(2009年4月29日))を利用してレシオメトリックNADP(H)バイオセンサーを開発する動機になった。
【0071】
ヒトセピアプテリン還元酵素(SPR)が、異なる阻害剤のその構造及び記述に関する利用可能な情報を利用して、センサーを生成するための特異的NADP結合タンパク質として選択された。自己標識化タンパク質(SNAP-タグ)、蛍光タンパク質(EGFP)及びNADP(H)-結合タンパク質としてのセピアプテリン還元酵素(SPR)を有する融合タンパク質からなる初期のセンサーは、SPRリガンド及びフルオロフォア(テトラメチルローダミン、TMR)を含有する分子で標識される(図1A)。結合したリガンドのSPRとの分子内結合により、フルオロフォア及び蛍光タンパク質が近接し、高いフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)効率を生じる。反対に、リガンドがSPRと結合しない場合、FRET対はより大きな距離で分離され、低いFRET効率を生じる。
【0072】
本発明者らは、ここで驚くべきことに、この融合タンパク質が、SPRリガンドスルファピリジン及びフルオロフォア(テトラメチルローダミン、TMR)を含有する分子で標識されると、結合したリガンドがNADP+の存在下でのみSPRと結合し、フルオロフォア及び蛍光タンパク質を近接させ、それにより高いフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)効率を生じることを見出した(図1A)。反対に、NADP+の非存在下で、リガンドはSPRと結合できず、FRET対の間でより大きな距離を引き起こし、低いFRET効率を生じる。更に、NADPHのみの存在下で、リガンドはSPRと結合できず、FRET対の間でより大きな距離を引き起こし、低いFRET効率を生じる。更に、両方の補因子の存在下であるが、NADP+の濃度よりはるかに高いNADPHの濃度にて、リガンドはSPRと結合できず、FRET対の間でより大きな距離を引き起こし、低いFRET効率を生じる。したがって、NADP+濃度及びNADP+/NADPH比のためのセンサーを構築することを可能にするのは、SPR-NADPHを上回り、及び遊離SPRを上回るSPR-NADP+に対するリガンドの驚くべき特異性である。
【0073】
他のSNIFITについて以前に示されるように、センサーの開放状態においてFRET効率を減少させ、それによりセンサーの観測された全体の比(ration)の変化を増加させるために、比較的安定及び剛性の螺旋構造(ポリプロリンIIヘリックス)を形成するポリ-L-プロリンリンカーが、フルオロフォア間の距離を増加させるためにSNAP-タグとEGFPとの間で融合タンパク質中に配置された。この結果、以下のタンパク質が得られた:SNAP-p30-EGFP-SPR;p30は30個のプロリン残基で構成されるポリプロリンリンカーである。機能的センサーを形成するために、SNAP-タグとの特異的共有結合のためのO6-ベンジルグアニン(BG)部分、テトラメチルローダミン(TMR)誘導体及びSPRリガンドとしてのスルファピリジン(SPY)を含有する合成分子が合成された(BG-TMR-C6-SPY)(図1B、スキーム1を参照のこと)。
【0074】
上記のように、標識されたSNAP-p30-EGFP-SPRの滴定実験をNADP+及びNADPHを用いて実施することによって(図1)、分子内リガンド(例えばスルファピリジン)は、FRET比の変化によって決定されるように、酸化された補因子(NADP+)と一緒にSPRのみと結合することが見出された。反対に、NADPHの高濃度(100μM)でさえ、分子内リガンドは、未変化のFRET比によって決定されるように、SPRと結合しない(図2A)。更に、高濃度の遊離SPRリガンドが、分子内リガンドと競合し、開放立体配座にセンサーを完全に切り替えるために一定濃度のNADP+の存在下で加えられる場合、類似のFRET比が得られる(図2B)。したがって、測定したFRET比は溶液中のNADPH及びNADP+の比と相関する(図1A図3A)。加えて、NADP+の存在下でSPRに対するリガンドの親和性は、生理学的範囲のNADPH/NADP+比(1〜100)(例えば溶解物又は生細胞中)をモニターするのに適していることが見出された。
【0075】
pH感受性
しかしながら、分子内リガンドとしてスルファピリジン(SPY)を使用するセンサー応答は、補因子定量についてのその有用性を減少させるpH変化(6.8〜8.0)による影響を受けることが見出された(図1D)。例えば、サイトゾル及びミトコンドリア内の補因子比をモニターするために同じセンサーを使用することは、これらの細胞小器官が異なるpH、それぞれ7.2〜7.4及び8.0を有するので可能ではない。本発明者らは、分子内リガンドの親和性の見かけの変化がスルホンアミド部分のpKaに起因しうると仮定した。スルファピリジンについて、スルホンアミドプロトンのpKaは、スルホンアミドのアニオン型に対して、より高い親和性を有する8.4である。6未満のpKaを有する別のスルホンアミドを使用することは、生理学的pH範囲(6.8〜8.0)におけるセンサーのpH感受性を解決すると予想される。本発明者らは、スルファメトキサゾール(SMX)が約5.6のスルホンアミドpKa及び比較的類似の親和性を有するので、それを選択した。BG-TMR-C6-SMXで標識されたセンサーのNADPH/NADP+による滴定はpH非依存性の応答を示した(図1E)。
【0076】
センサー特異性
センサーの特異性は、いくつかのヌクレオチドがNADP(H)に構造的に近接し、センサーの応答に潜在的に影響を与える可能性のある複合試料(例えば溶解物、血清)中又は細胞中の重要なパラメーターである。特異性を試験するために、センサーを公知及び構造的に近いヌクレオチドを用いて生理学的に関連する(又は更により高い)濃度まで滴定した:NAD+、NADH、ADP、GTP及びATP(図2C図2D)。全体的に、センサーは、NAD+等の非常に近い相対物と比較したとしてもNADP+に対して高い特異性を示す。NAD+のみが最も高い濃度(1mM)にてセンサーをわずかに閉鎖することができた。しかしながら、この濃度はin vitroアッセイ及び細胞において存在するには高すぎ、更にNAD+はNADP+と競合することはできない。
【0077】
FRET比の変化の最適化
初期のセンサーSNAP-p30-EGFP-SPRは開放状態と閉鎖状態との間で1.8の最大のFRET比の変化を示した(図1C)。FRET比の変化を最大化し、in vitro及び細胞適用のために改善された感受性を有するセンサーを得るためにセンサーの形状を最適化した。このストラテジーは、分子内リガンドの結合部位に近いSPRのC末端に蛍光タンパク質を直接連結することによって閉鎖状態において2つのFRET対の間の距離を減少させることであった。この目的のために、2つの異なる構築物SPR-EGFP-p30-SNAP及びSNAP-p30-SPR-EGFPをクローニングし、大腸菌中で発現させ、精製した。分子内リガンド(BG-TMR-C6-SMX)での構築物の標識化後、FRET比の変化を定量するためにNADP+を用いて滴定実験を実施した(図2C)。この結果により、閉鎖状態においてFRET効率を増加させることによって新しいセンサーのFRET比の変化の有意な改善が示された(ΔRmax:それぞれ2.8及び3.5)。
【0078】
血清又は溶解物等の複合光吸収試料中のNADPH/NADP+比を測定するために使用されうるセンサーを有することは、酵素アッセイ(例えば慣用の臨床試験)における信頼でき、感度の高い測定に必要である。しかしながら、GFP/TMR FRET対はこの波長での多様な代謝産物(例えばビリルビン、フラビン等)の吸光度及び自己蛍光に起因して理想的ではないことが決定されている。この問題を解決し、NADP-センサーのFRET比の変化を更に最適化するために、本発明者らはEGFPをHalo-タグ(SPR-Halo-p30-SNAP)に置き換えることを選択した(図3A)。Halo-タグは、クロロアルカン(chloroalcane)誘導体化分子の特異的共有結合を可能にする別の自己標識化タグである。Halo-タグの結合部位はそのN末端により近いので、本発明者らは閉鎖状態においてフルオロフォアの距離を更に減少させることができた。Halo-タグは、より赤色にシフトしたFRET対を提供し、それにより血清又は溶解物中でより感受性になるクロロアルカン部分(SiR-Halo)で官能化したシリコン-ローダミン(SiR)フルオロフォアで標識した。Halo-タグを使用することは、速い標識化動態、構築物の改善された形状及び誘導体化フルオロフォアの高い細胞透過性等のいくつかの有益な特徴を有する。センサーSPR-Halo-p30-SNAPは閉鎖状態と開放状態との間で高いFRET比の変化を示す滴定において十分に機能した(ΔRmax:8.0)(図3C)。
【0079】
感受性を増加させ、複合試料中の干渉を回避するための代替として、最適なセンサーの生物発光型が、Halo-タグをルシフェラーゼ(例えばNanoLuc;SPR-NLuc-p30-SNAP)に置き換えることによって生成されうる。LUCIDと同様に、次いでセンサーは、試料を通る光路を低減させ、発光比に対する効果を低減させるために紙片等の固体支持体上に配置されうる。
【0080】
NAD-センサー
NAD(H)のためのセンサーは部位特異的変異誘発法によってSPRの特異性を切り替えることにより開発された。SPRについて、2つのアルギニン(ヒトSPR配列におけるArg17及びArg42)は、それらが更なる2'-リン酸と直接相互作用するので、NADP(H)の特異性に不可欠である。短鎖脱水素酵素/還元酵素ファミリーの全てのNADP依存性酵素は、高度に保存されたアルギニン(Arg42)及び別の保存されたアルギニン又はリジン(Arg17又はLys17)を有する。しかしながら、同じファミリーのNAD依存性酵素は42位又は17位において保存された残基を有さないが、高度に保存されたアスパラギン酸(Asp41)を有する。結晶構造からの情報により、この特定のアスパラギン酸塩が二座様式でNAD(H)の2'-ヒドロキシル基に結合できることが示された。加えて、アスパラギン酸塩の負電荷は潜在的なリン酸塩の負電荷と反発し、NADP(H)を上回るNAD(H)に対する高い特異性を生じる。最初の試行として、Asp41及びAla42を有するSPR変異体は、低い親和性であるが、NAD+に対する高い特異性を有するセンサーをもたらす。補因子の親和性を増加させるために、42位において、バリン、イソロイシン又はトリプトファンのような疎水性残基の存在が、それらがアデニン部分と疎水性相互作用をすることができるので一般的であることが見出された。Trp42の存在はアデニンとの効果的なπスタッキングを形成することによってNADの親和性を増加させるように見える。したがって、本発明者らは部位特異的変異誘発法によってSPR(D41W42)-Halo-p30-SNAPを生成し、BG-TMR-C6-SMXでの標識化後、NADP+及びNAD+を用いてセンサーを滴定した。本発明者らは、野生型と比較して変異センサーの特異性の完全な切り替え及び以前のSPR変異体と比較してNAD+に対する増加した親和性を観測できた(図2C図4A)。この場合、NADに基づいたFRETセンサーはHalo-タグをルシフェラーゼ(例えばNanoLuc;SPR(D41W42)-NLuc-p30-SNAP)と交換することによって容易にBRETセンサーに変換されうる。
【0081】
いくつかのストラテジーが検体に対するセンサーの親和性を調節するために利用されうる。1つの可能性は、センサー親和性を変化させるために補因子結合部位又はリガンド結合部位において変異を実施することである。別の可能性は適切な親和性のスルホンアミドリガンドを使用することである。
【0082】
センサー動態
センサー動態は比較的速い。NADPHが存在せずにNADP+(5mM)の添加によって観測されるセンサー(SPR-Halo-p30-SNAP)の閉鎖動態は約1秒(又は未満)の半減期(t1/2)を示した。しかしながら、開放速度を測定するために、センサーは低濃度のNADP+(20μM)で最初に閉鎖され、高濃度のNADPH(5mM)が測定の開始時に注入される。加えられたNADPHはSPRの補因子結合部位と競合し、約5秒の半減期でセンサーを開放する。本発明者らは、センサーが、慣用の臨床試験(例えば乳酸脱水素酵素)において測定された酵素活性に従う十分に速い動態を有するはずであると結論付けることができる。
【0083】
FRET及びBRETのための異なるセンサー
上記に示されるように、異なるFRET及びBRET対を含むセンサーが生成されうる。FRETに基づいたNAD(P)H及びNAD(H)センサーについて、FRET対は以下の組合せによって構成されうる:(i)蛍光タンパク質並びにフルオロフォア及びリガンドを含有する合成分子と連結された自己標識化タグ(例えばSNAP-タグ、CLIP-タグ又はHalo-タグ)(例えばSPR-EGFP-p30-SNAP)、(ii)一方はフルオロフォア及びリガンドを含有する合成分子の結合のためであり、他方は第2のフルオロフォアに結合するためである、2つの直交自己標識化タグ(例えばSPR-Halo-p30-SNAP又はSNAP-p30-CLIP-SPR)、(iii)2つの蛍光タンパク質;その場合、自己標識化タグは、フルオロフォアを含有しない分子内リガンドと結合させるためだけに使用される(例えばSPR-TagGFP2-p30-SNAP-TagRFP)。一般に、タンパク質の部位特異的標識化(非天然アミノ酸、システイン標識化、酵素によって標識されたペプチド)を可能にする任意の方法が適切なセンサーを構築するために利用されうる。BRETに基づいたNAD(P)H及びNAD(H)センサーについて、BRET対はルシフェラーゼ及び蛍光アクセプターから構成されなければならない。とりわけ、使用されるルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、Gaussiaルシフェラーゼ又はNanoLuc(商標)(NLuc)ルシフェラーゼが他のルシフェラーゼより明るく、より長いシグナル半減期を有するので、好ましくはNanoLuc(商標)(NLuc)ルシフェラーゼであってもよい。蛍光アクセプターは合成フルオロフォア又は蛍光タンパク質であってもよい。
【0084】
適切なFRET又はBRET対を選択するための基準は、ドナーの発光スペクトルとアクセプターの励起スペクトルとの間のスペクトル重複の存在及び良好な分光学的特性(例えば輝度、光安定性)である。FRETについて、とりわけ良好なFRET対は、テトラメチルローダミン誘導体(TMR)/シリコン-ローダミン(SiR);カルボピロニン誘導体(CPY)/SiR;Cy3/Cy5;フルオレセイン/TMR;Alexa488/TMR;Alexa488/Alexa546;Alexa488/Alexa594;ATTO488/ATTO565;ATTO565/ATTO647N;ATTO594/ATTO647N;EGFP/TMR;TagGFP2/TagRFP;mNeonGreen/mRuby2である。適切なBRET蛍光アクセプターは、とりわけ、Cy3、TMR、Alexa488、Alexa546、ATTO488、ATTO565であってもよい。
【0085】
用途
A.酵素アッセイ
NADP(H)及びNAD(H)のための開発されたセンサーは、酵素活性を特徴付けるために340nmにおける吸光度によって一般にNADPH又はNADHの形成又は消費の後に続く任意の酵素アッセイにおいて実質的に使用されうる。これにより、研究分野(例えば多数の酵素活性の直接又は間接的な特徴付け)における用途に有用なだけでなく、多様な酵素、代謝産物又は他の分子の活性が診断目的のために測定される、慣用の臨床試験においても有用である。例として、吸光度によってNADPH又はNADHの濃度変化を測定する以下の酵素活性アッセイが、臨床検査室において血清又は他の体液中で慣用的に実施される:乳酸脱水素酵素LDH(肝機能、癌腫、心筋梗塞、髄膜炎/脳炎、急性膵炎)、クレアチンキナーゼCK(筋炎、横紋筋融解症、心臓発作)、クレアチンキナーゼの画分MB CK-MB(心臓発作)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼAST(肝障害)、アラニンアミノトランスフェラーゼALT(肝障害)、グルコース-6-リン酸脱水素酵素(薬剤誘発性溶血性貧血、巨赤芽球性貧血)。以下の分子もまた、臨床検査室におけるNADPH又はNADH吸光度に依存する酵素カップリングアッセイによって血清又は他の体液(尿及びLCR)中で慣用的に測定される:グルコース(糖尿病(diabetis))、尿素(腎疾患又は障害)、アンモニア(肝障害、ライ症候群、肝性脳症)、エタノール(エタノール中毒症又はエタノール中毒)。
【0086】
B.ハイスループットスクリーニング
開発されたセンサーは、NADP+、NADPH、NAD+、NADH又はそれらの比を測定するハイスループットスクリーニングにおいて使用されるのに十分な感受性、信頼性及び安定性を有する。試料は一般的に細胞溶解物、血清又は他の体液に由来しうる。例として、センサーは、細胞中のNADP(H)又はNAD(H)を調節することが知られている治療を見出すために化合物のラージライブラリーのハイスループットスクリーニングのために使用されうる。治療薬剤を用いてNAD代謝をターゲティングすることは、最近、がん治療のための新しいストラテジーとみなされている。その合成の阻害によって引き起こされるNAD+の減少した利用可能性は、NAD+依存性シグナル伝達経路の活性(例えばDNA修復)を妨げ、更に、増殖のためのエネルギー資源を使い尽くすことが知られている。このことが、NAD+の生合成に関与する(ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ及びモノヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼのような)酵素の特異的阻害剤の開発及び使用が、がん療法におけるそれらの可能性を評価するために調査中である理由である(Chiarugiら Nat Rev Cancer. 2012年11月;12(11):741〜52頁)。別の例において、センサーは、治療薬剤の毒性プロファイルの検証のためのハイスループットスクリーニングにおいて使用されうる。NAD(H)又はNADP(H)のレベルを顕著に変化させる治療薬剤は、副作用として、重度の細胞毒性を有する場合がある。
【0087】
C.生細胞測定
これらのセンサーの別の関心を引く特徴は、異なる合成分子が細胞透過性であり、それにより(単離した)生細胞においてNADP/NAD-センサーの使用を可能にすることである。適切なベクターによる細胞トランスフェクション後、融合タンパク質構築物(例えばSPR-EGFP-p30-SNAP、SPR-Halo-p30-SNAP又はSPR-TagGFP2-p30-SNAP-TagRFP)は一般的な細胞培養物(例えばHEK293、U2OS)中で発現されうる。培養培地中への合成分子の簡単な添加により、活性センサーを形成する融合タンパク質の細胞内標識化が可能になる。次いでTMR/SiRの比が、TMR及びSiRについての適切な励起及び発光フィルターを備える広視野蛍光顕微鏡、共焦点蛍光顕微鏡又はFLIMシステムを使用して測定されうる。例として、試薬(例えばH2O2)の灌流がNADPH/NADP+の細胞間比を変化させるために加えられる、いくつかの実験が実施され、化合物が除去され、洗い流された場合、細胞がそれらのNADPH/NADP+の基礎レベルを回復した(図6B)。補因子比に対する変化はリアルタイムで測定されうる。加えて、適切な局在配列を構築物に加えることによって、融合タンパク質は、生細胞においてそれらのNADPH/NADP+及びNADH/NAD+の特定の比を測定するためにミトコンドリア、核、小胞体のような異なる細胞内区画に標的化されうる。
【0088】
キット
センサーは、有利には、in vitro用途のための市販のキットとして提供される。例示的なキットは、以下:緩衝液中で凍結乾燥若しくは溶解されたセンサー分子並びに比、すなわちNAD(P)/NAD(P)+の異なる比を定量するための適切な標準物及び/又はNADP+若しくはNAD+を有する溶液を含有しうる。生細胞用途について、キットは、好ましくは、哺乳動物発現のための(一過性及び/又は安定なトランスフェクションのための)適切なプラスミド、選択された細胞内局在(サイトゾル、ミトコンドリア、核、小胞体)及び/又は細胞内標識化のための異なる合成分子も含有する。異なる細胞透過性合成分子が、望まれる異なるFRET対に応じて提供されてもよい。
【0089】
実験の章
以下の実施例は、NADP(H)及びNAD(H)のための異なるSPRに基づいたセンサーの設計及び構築物を記載した。
【0090】
合成のための全ての化学試薬及び乾燥溶媒は、商業的供給源(Sigma-Aldrich社、Fluka社、Acros社、Calbiochem社)から購入し、更に精製又は蒸留せずに使用した。ペプチドカップリングは、室温にて無水ジメチルスルホキシド(DMSO)中の塩基としてN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の存在下で、N,N,N',N'-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムテトラフルオロボレート(TSTU)又はN,N,N',N'-テトラメチル-O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)でのそれぞれのカルボン酸の活性化によって実施した。分取HPLCは、Waters 600制御装置上で、SunFire(商標)Prep C18 OBD(商標)5μm 19×150mmカラムを使用したWaters 2487デュアル吸収検出器を用いて実施した。
【実施例1】
【0091】
SNAP-p30-EGFP-SPR
この実施例は、NADP(H)の濃度を検知できる初期のFRETに基づいたセンサーの設計及び構築物を記載する。センサーは、NADP(H)特異的結合タンパク質としてヒトセピアプテリン還元酵素(SPR)及び分子内リガンドとしてスルファピリジン又はスルファメトキサゾールを含む。EGFP及びTMRはそれぞれFRETドナー及びアクセプターを形成する(図1A図1B)。
【0092】
SNAP-タグの特異的標識化のためのO6-ベンジルグアニン(BG)部分、フルオロフォアテトラメチルローダミン(TMR)及び分子内SPRリガンドとしてスルファピリジン(SPY)を含有する合成分子をスキーム1に従って合成した。
【0093】
【化2】
【0094】
6-アミノ-N-[4-(ピリジン-2-イルスルファモイル)フェニル]ヘキサンアミド(i-2)
Fmoc-6-アミノヘキサン酸(100mg、0.28mmol、1当量)の乾燥DMSO(1.0mL、280mM)中溶液に、DIPEA(52μL、0.31mmol、1.1当量)及びスルファピリジン(i-1)(200mg、0.8mmol、2.9当量)を加えた。HBTU(130mg、0.34mmol、1.2当量)を反応混合物に加え、室温にて2時間撹拌した。次いで、200μLのH2Oを反応混合物に加え、30分間撹拌した。最後に、反応物を80μLのAcOHでクエンチし、HPLCによって精製し、凍結乾燥させて白色固体(64.6mg、39%)を得た。
【0095】
fmoc保護生成物を、アセトニトリル中のピペリジン20%の溶液混合物1mL中に溶解した。反応混合物を室温にて1時間撹拌し、0.2mLのAcOHでクエンチし、減圧下で蒸発させ、分取HPLCによって精製し、凍結乾燥させて白色固体(39.8mg、定量的)を得た。TMR(6)-COOMe(i-3)を以前に記載されている手順(Masharinaら、J Am Chem Soc. 2012年11月21日;134(46):19026〜34頁)に従って合成した。BG-NH2(i-4)を以前に記載された手順(Kepplerら Nat Biotechnol. 2003年1月;21(1):86〜9頁)に従って合成した。
【0096】
BG-TMR(6)-COOH(i-5)
TMR(6-異性体)-COOMe(i-3)(6.1mg、11.8μmol、1当量)の乾燥DMSO(200μL)中溶液に、DIPEA(20μL、115μmol、10当量)及びHBTU(5.2mg、13.6μmol、1.15当量)を加えた。5分後、BG-NH2(i-4)を反応混合物に加えた。反応物を室温にて15分撹拌した。次いで、200μLの1M NaOHを加え、反応物を更に15分間撹拌した。50μLのAcOHを加え、反応物をHPLCによって精製し、凍結乾燥させて赤色固体(4mg、45%)を得た。
【0097】
BG-TMR-C6-SPY(i-6)
BG-TMR(6)-COOH1当量の乾燥DMSO中溶液に、10当量のDIPEA及び1.2当量のTSTUを連続して加えた。活性化をTLC(80/20 v/v ACN/H2O)によって確認した。約5分の活性化後、i-2を加え、反応物を室温にて1時間撹拌させた。反応混合物をH2O(100μL)で処理し、更に20分間撹拌して、残存しているNHSエステルを加水分解した。次いで、反応物をAcOHでクエンチし、HPLCによって精製し、凍結乾燥させて赤色の固体を得た。SNAP-タグの特異的標識化のためのO6-ベンジルグアニン(BG)部分、フルオロフォア(flurophore)テトラメチルローダミン(TMR)及び分子内SPRリガンドとしてスルファメトキサゾール(SMX)を含有する合成分子をスキーム2に従って合成した。
【0098】
【化3】
【0099】
i-3、i-4及びi-5の合成は上述の実施例において既に記載している。
【0100】
6-アミノ-N-{4-[(5-メチル-1,2-オキサゾール-3-イル)スルファモイル]フェニル}ヘキサンアミド(ii-2)
Fmoc-6-アミノヘキサン酸(100mg、0.28mmol、1当量)の乾燥DMSO(1.0mL、280mM)中溶液に、DIPEA(52μL、0.31mmol、1.1当量)及びスルファメトキサゾール(215mg、0.85mmol、3当量)を加えた。HBTU(130mg、0.34mmol、1.2当量)を加え、反応物を室温にて2時間撹拌した。次いで、200μLのH2Oを反応混合物に加え、30分間撹拌した。最後に、反応物を80μLのAcOHでクエンチし、HPLCによって精製し、凍結乾燥させて白色固体(54mg、33%)を得た。fmoc保護生成物を、アセトニトリル中のピペリジン20%の溶液混合物1mL中に溶解した。反応混合物を室温にて1時間撹拌し、0.2mLのAcOHでクエンチし、減圧下で蒸発させ、分取HPLCによって精製し、凍結乾燥させて白色固体(33.5mg、定量的)を得た。
【0101】
BG-TMR-C6-SMX(ii-6)
BG-TMR(6)-COOH(220μL、0.58μmol、1当量)の乾燥DMSO(2.9mM)中溶液に、DIPEA(4μL、12μmol、41当量)及びTSTU(7μL、0.7μmol、1.2当量)を連続して加えた。活性化をTLC(80/20 v/v ACN/H2O)によって確認した。約5分の活性化後、ii-2(34μL、2.32μmol、4当量)を加え、反応物を室温にて1時間撹拌させた。反応混合物をH2O(100μL)で処理し、更に20分間撹拌してNHSエステルを加水分解した。次いで、反応物を20μLのAcOHの添加によりクエンチし、HPLCにより精製し、凍結乾燥させて赤色固体(0.4μmol、70%)を得た。
【0102】
SNAP-タグ、30-プロリンリンカー、EGFP及びセピアプテリン(sepiaterin)還元酵素(SPR)で構成される融合タンパク質を、最初に、標準的なクローニング技術を使用して、以前に記載されているセンサーSNAP-p30-CLIP-HCA(Brunら J Am Chem Soc. 2011年;133(40):16235〜42頁)におけるHCAのコード配列をSPRのコード配列と置き換えることによって構築し、SNAP-p30-CLIP-SPRを得た。第2のクローニング工程において、CLIP-タグを標準的なクローニング技術を使用してEGFPのコード配列と置き換え、SNAP-p30-EGFR-SPRを得た。融合タンパク質を大腸菌株Rosetta-gami(商標)2(DE3)pLysS(Novagen社、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)中で発現させ、C末端His-タグ及びN末端Strep-タグIIを使用して精製して完全な構築物を得た。
【0103】
精製した融合タンパク質SNAP-p30-EGFP-SPR(5μM)を、室温にて1時間、緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5)中の2当量のBG-TMR-C6-SPY又はBG-TMR-C6-SMX(10μM)で標識した。インキュベーション後、過剰なリガンドを、50kDaのカットオフ膜(Amicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)を有する遠心濾過器スピンカラムを使用して上述の緩衝液により3回の洗浄工程(3×400μL)によって除去した。次いで精製したセンサーを、HEPES緩衝液中(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5中)で5μMの濃度に希釈する。
【0104】
センサーの性能を評価するために、異なる濃度のNADP+を用いて滴定実験を実施した。標識したセンサーを、ブラック非結合96ウェルプレート(Greiner Bio-One社、クレムスミュンスター、オーストリア)において規定濃度のNADP+及びNADPHを含有する100μLのHEPES緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、0.5mg/mL BSA、pH7.5)中で50nMの濃度に希釈した。溶液を室温にて少なくとも15分間インキュベートして、センサーが確実に平衡に達するようにした。蛍光測定をInfinite M1000蛍光光度計(TECAN)で行った。励起を10nmの帯域幅で450nmにて実施し、スペクトルを1nmのステップサイズ及び10nmの帯域幅を使用して480から610nmまで記録した。
【0105】
図1Cに示されるように、センサーは、閉鎖立体配座(低いNADP+濃度)と開放立体配座(高いNADP+濃度)との間で1.8の全体のFRET比の変化でNADP+濃度の変化をモニターすることができる。加えて、センサーの測定した見かけのKdはNADP+の存在下で33±6nMである。実際に、親和性は非常に強いので、本発明者らはセンサー濃度(約50nM)を直接測定する。したがって、このようなセンサーは、NADP+のみよりも補因子の比を直接測定するのにより有用である。
【0106】
標識したセンサーを、一定の総補因子濃度(100μM)及びセンサー応答を調整するために競合SPRリガンドとして一定のN-アセチルセロトニンの濃度を用いて異なる比のNADPH/NADP+を含有する緩衝液中で希釈した、上述の手順を使用して別の滴定を実施した。本発明者らは、センサーが、NADPH/NADP+の比を測定するために効果的に使用できるが、分子内リガンドとしてスルファピリジンで標識した場合、センサーはpH変化に対して感受性であることを観測した(図1D)。適切なpKaを有する、分子内リガンドとしてスルファメトキサゾールで標識した同じ融合タンパク質を使用することにより、本発明者らはpH感受性を解決することができる(図1E)。
【実施例2】
【0107】
SPR-EGFP-p30-SNAP
この実施例は、以前に記載されているFRETセンサーの代替の最適化された形状を記載する。
【0108】
以前のように、センサーは同じFRET対(EGFP及びTMR)を含有する。SNAP-タグを以前に記載されている合成分子BG-TMR-C6-SMXで標識する。SPR、EGFP、30-プロリンリンカー及びSNAP-タグで構成される融合タンパク質を、最初に、標準的なクローニング技術を使用して、以前のプラスミドSPR-RLuc8-SNAPにおけるRLuc8のコード配列を、EGFPのコード配列と置き換えることによって構築し、SPR-EGFP-SNAPを得た。第2のクローニング工程において、アニールした30-プロリンオリゴヌクレオチドを、標準的なクローニング技術を使用してEGFPとSNAPとの間に挿入し、SPR-EGFP-p30-SNAPを得た。融合タンパク質を大腸菌株Rosetta-gami(商標)2(DE3)pLysS(Novagen社、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)中で発現させ、C末端His-タグ及びN末端Strep-タグIIを使用して精製して完全な構築物を得た。
【0109】
精製した融合タンパク質SPR-EGFP-p30-SNAP(5μM)を、室温にて1時間、緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5)中の2当量のBG-TMR-C6-SMX又はBG-TMR-C6-SPY(10μM)で標識した。インキュベーション後、過剰なリガンドを、50kDaのカットオフ膜(Amicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)を有する遠心濾過器スピンカラムを使用して上述の緩衝液により3回の洗浄工程(3×400μL)によって除去した。次いで精製したセンサーをHEPES緩衝液中(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5中)で5μMの濃度に希釈する。
【0110】
センサーの性能を評価するために、酵素グルコース-6-リン酸脱水素酵素(パン酵母(Baker yeast)、IX型、Sigma社)及びその基質グルコース-6-リン酸を使用して異なる濃度のNADP+及びNADPHで滴定実験を実施して、96ウェルプレート内で測定したNADP+をNADPHに変換した。この酵素サイクリング法は、溶液中に残存NADP+がほとんど存在しないが、NADPHのみ存在することを保証するために実施した。実際に、市販のNADPHは最大で2%の微量のNADP+を含有することが見出された。標識したセンサーを、ブラック非結合96ウェルプレート(Greiner Bio-One社、クレムスミュンスター、オーストリア)において規定濃度のNADP+を含有する100μLのHEPES緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、0.5mg/mL BSA、pH7.5及び1mMグルコース-6-リン酸)中で50nMの濃度に希釈した。溶液を室温にて少なくとも15分間インキュベートして、センサーが確実に平衡に達するようにした。蛍光測定をInfinite M1000蛍光光度計(TECAN)で行った。励起を10nmの帯域幅で450nmにて実施し、スペクトルを1nmのステップサイズ及び10nmの帯域幅を使用して480から610nmまで記録した。この最初の測定後、パン酵母(IX型、Sigma社)からの1μLのグルコース-6-リン酸脱水素酵素は26nMの最終濃度に達した。溶液を室温にて1時間インキュベートして、NADP+のNADPHへの最大変換を確実にした。この結果により、分子内リガンドが、NADP+の存在下でSPRのみと結合でき、NADPHの存在下では結合できないことが明確に示される(図2A)。
【0111】
最も高い濃度の補因子におけるFRET比のわずかな減少は高濃度のNADPHによるグルコース-6-リン酸脱水素酵素の阻害に起因し、これは完全な変換を達成できない(図2C)。更に、滴定曲線により、本発明者らは、FRET比が、SNAP-p30-EGFP-SPRについて1.8からSPR-EGFP-p30-SNAPについて2.8まで改善するようにセンサーの形状を最適化できることを示した。
【0112】
別の滴定において、標識したセンサーを、NADP+:NAD+、NADH、ATP、ADP、GTPと構造的に近い規定濃度の異なるヌクレオチドを含有する100μLのHEPES緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、0.5mg/mL BSA、pH7.5)中で50nMの濃度に希釈することによってセンサーの特異性を試験した(図2D)。観測されうるように、センサーはNADP+に対して高度に特異性であり、他のヌクレオチドで閉鎖できない。最も高い濃度のNAD+においてのみ、センサーのわずかな閉鎖が観測されうる。しかしながら、これらの値は生理学的範囲外であり、NADP+とNAD+との間の親和性の非常に大きな差(104倍の差)に起因し、NAD+はNADP+と競合できない。
【実施例3】
【0113】
SPR-Halo-p30-SNAP
この実施例は、NADP(H)の濃度を検知できる最適化されたFRETに基づいたセンサーの設計及び構築物を記載する。センサーは、NADP(H)特異的結合タンパク質としてヒトセピアプテリン還元酵素(SPR)及び分子内リガンドとしてスルファメトキサゾールを含む。Halo-タグ、別の自己標識化タグをフルオロフォアSiRの特異的標識化のために使用する(図3A)。TMR及びSiRはそれぞれFRETドナー及びアクセプターを形成する。SNAP-タグを以前に記載されている合成分子BG-TMR-C6-SMXで標識する(図1B、スキーム2を参照のこと)。
【0114】
Halo-タグの標識化のために、フルオロフォアシリコン-ローダミンに結合したクロロアルカン基を含有する分子を記載されている手順(Lukinaviciusら、Nat Chem. 2013年2月;5(2):132〜9頁)に従って合成した(図3B)。SPR、Halo-タグ、30-プロリンリンカー及びSNAP-タグで構成される融合タンパク質を、標準的なクローニング技術を使用して以前の構築物SPR-EGFP-p30-SNAPにおけるEGFPのコード配列をHalo-タグのコード配列(Promega社、フィッチバーグ、WI)と置き換えることによって構築し、SPR-Halo-p30-SNAPを得た。融合タンパク質を大腸菌株Rosetta-gami(商標)2(DE3)pLysS(Novagen社、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)中で発現させ、C末端His-タグ及びN末端Strep-タグIIを使用して精製して完全な構築物を得た。精製した融合タンパク質SPR-Halo-p30-SNAP(5μM)を、室温にて1時間、緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5)中の2当量のBG-TMR-C6-SMX(10μM)で標識した。インキュベーション後、過剰なリガンドを、50kDaのカットオフ膜(Amicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)を有する遠心濾過器スピンカラムを使用して上述の緩衝液により3回の洗浄工程(3×400μL)によって除去した。次いで精製したセンサーを、HEPES緩衝液中(50mM HEPES pH、150mM NaCl、pH7.5中)で5μMの濃度に希釈する。
【0115】
センサーの性能を評価するために、異なる濃度のNADP+を用いて滴定実験を実施した。標識したセンサーを、ブラック非結合96ウェルプレート(Greiner Bio-One社、クレムスミュンスター、オーストリア)において規定濃度のNADP+を含有する100μLのHEPES緩衝液(50mM HEPE、150mM NaCl、0.5mg/mL BSA、pH7.5)中で50nMの濃度に希釈した。溶液を室温にて少なくとも15分間インキュベートして、センサーが確実に平衡に達するようにした。蛍光測定をInfinite M1000蛍光光度計(TECAN)で行った。励起を10nmの帯域幅で520nmにて実施し、スペクトルを1nmのステップサイズ及び10nmの帯域幅を使用して540から740nmまで記録した。図3C図3Dに見られるように、FRET比の変化(8.0倍)は以前のセンサーの型を有意に上回る。更に、より赤色にシフトしたFRET対を使用すると、このセンサーは高度の感受性を有し、したがって溶解物又は血清測定において、より信頼性がある(図5A図5B)。
【実施例4】
【0116】
SPR(D41W42)-Halo-p30-SNAP
この実施例は、NAD(H)の濃度を検知できる最適化されたFRETに基づいたセンサーの設計及び構築物を記載する。センサーは、NAD(H)特異的結合タンパク質としてSPRの変異体及びSPR-Lとしてスルファメトキサゾールを含む。Halo-タグ、別の自己標識化タグをフルオロフォアSiRの特異的標識化のために使用する。TMR及びSiRはそれぞれFRETドナー及びアクセプター対を形成する。SNAP-タグを以前に記載されている合成分子BG-TMR-C6-SMXで標識し、SiR-HaloをHalo-タグの特異的標識化のために使用する。2つの塩基を変化させるために、複数の点変異(すなわち、以下の変異A41D及びR42W)を行うための設計されたプライマーを用いたPCR部位特異的変異誘発法を使用することによって、SPR(D41W42)、Halo-タグ、30-プロリンリンカー及びSNAP-タグの変異体からなる融合タンパク質を構築し、SPR(D41W42)-Halo-p30-SNAPを得た。融合タンパク質を大腸菌株Rosetta-gami(商標)2(DE3)pLysS(Novagen社、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)中で発現させ、C末端His-タグ及びN末端Strep-タグIIを使用して精製して完全な構築物を得た。
【0117】
精製した融合タンパク質SPR(D41W42)-Halo-p30-SNAP(5μM)を、室温にて1時間、緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5)中の2当量のBG-TMR-C6-SMX(10μM)で標識した。インキュベーション後、過剰なリガンドを、50kDaのカットオフ膜(Amicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)を有する遠心分離器スピンカラムを使用して上述の緩衝液により3回の洗浄工程(3×400μL)によって除去した。次いで精製したセンサーを、HEPES緩衝液中(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5中)で5μMの濃度に希釈する。
【0118】
これらの変異体が、NADP(H)からNAD(H)までのSPRの補因子結合部位の特異性を完全に切り替えるのに十分であったことを評価するために、本発明者らは、本明細書において説明した類似の手順(実施例3)に従って滴定実験を準備した。標識したセンサーを、規定濃度のNAD+及びNADP+を含有する緩衝溶液中で希釈し、蛍光光度計(TECAN)を用いて測定した(図4A)。
【0119】
滴定曲線により、SPR変異体が、野生型について見られるように完全な可逆的補因子特異性を有することが明らかになった(野生型SPRを表す図2Cとの比較により図4Aを参照のこと)。しかしながら、センサーの見かけのKdはNAD+について73±13μMであり、NADP+について初期のSPRと比較して有意な低い親和性を示す。必要であれば、異なるストラテジーがセンサーを調整するために使用されてもよい。例えば、補因子結合部位は、適切な特異性を維持しながら、NAD+に対する親和性を増加させるために更に操作(変異)されてもよい。同様に、SPRのリガンド結合部位が、2つの酸化還元状態のうちの1つに対して高い特異性を維持しながらSPRに対してその親和性を増加させるように変異されてもよい。代替の手法は、NAD(P)+の存在下でSPRに対して、より高い親和性を有するスルホンアミド足場(スキャフォールド)に基づいたSPR阻害剤を使用することである。
【実施例5】
【0120】
溶解物測定
溶解物中での測定のために、SPR-Halo-p30-SNAPを、実施例3に記載されるようにBG-TMR-C6-SMX及びSiR-Haloで標識した。懸濁液中のHEK293細胞を、GlutaMaxを補足した15mLのEx-cell 293培地中で4日間増殖させ(37℃、5%CO2、100rpm)、典型的に2×106細胞/mL、97%超の生存率(トリパンブルー試験)で3×107総細胞に到達させた。細胞を遠心分離(5分、750rpm、4℃)によってペレットにした。上清を除去し、細胞を1mLの冷PBS中に再懸濁した。細胞を凍結融解サイクルによって溶解させ(液体N2中で2分、37℃にて水浴中で2分)、短時間でボルテックスした。細胞残屑を13,000rpm、5分、4℃にて遠心分離し、上清を、10kDaのカットオフ膜(Amicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)を有する遠心濾過器スピンカラムによって濾過した。次いで標識したセンサーを100μLの溶解物中で50nMに希釈し、実施例3に記載されている同じパラメーターを使用して蛍光光度計(TECAN)により比(ration)を測定した。並行して、規定の比のNADPH/NADP+を含有する溶液中の標識したセンサーの滴定を較正(総補因子濃度:100μM)として実施した。更に、溶解物もまた、UV-Vis分光光度計において測定して、180〜270μMの濃度に相関した340nm(l=1cm、ε=6,220M-1 cm-1)にて吸光度1.1〜1.7を示す[NADPH]+[NADH]の濃度のおおよその推定値を得た。したがって溶解物は信頼できるセンサー測定のために十分に濃縮されている。
【0121】
本発明者らが、較正曲線を用いて溶解物測定により得た結果(比TMR/SIR=1.06)を比較して、本発明者らはNADPH/NADP+=40の比を得た(図5A図5B)。この値はグルコースの濃度(3mM〜20mM)に対して26.8〜57.8の遊離NADPH/NADP+の報告された比と一致する(Hedeskovら、Biochem J. 1987年1月1日;241(1):161〜167頁)。
【実施例6】
【0122】
生細胞測定
SPR-Halo-p30-SNAPをU2OS細胞中で発現させ、CP-TMR-C6-SMX及びSiR-Haloで標識した。CP-TMR-C6-SMX(図6A)を、CP-NH2で開始したことを除いて、BG-TMR-C6-SMXと同じ合成スキームに従って合成した。O4-ベンジル-2-クロロ-6-アミノピリミジン(CP)はSNAP-タグ標識化のための別の特異的反応部分であり、それは多くの細胞透過性化合物をもたらすことが見出されている。CP-NH2を以前に記載されている手順(Srikunら、J Am Chem Soc. 2010年3月31日;132(12):4455〜65頁)に従って合成した。
【0123】
新たにトリプシン処理した半安定U2OS(pEBTetベクターにおいてクローニングしたSPR-Halo-p30-SNAP;pEBTetの記載についてはBachら FEBS J. 2007年2月;274(3):783〜90頁を参照のこと)を、DMEM GlutaMax+10% FBS及び1μg/mLピューロマイシンで5倍希釈する。それらを12ウェルプレート(TPP)中の予め滅菌し、ポリ-L-オルニチンコートした(1時間インキュベーション)ガラスカバースリップ(20×20mm、VWR)にプレーティングする(2mL)。2日目に、発現を100ng/mLのドキシサイクリンによって約24時間誘導する。3日目に、細胞を10μM(+/-)-ベラパミルと共に1μM CP-TMR-C6-SMX及び1μM SiR-Haloで一晩標識する。4日目に、細胞を、フェノールレッドを有さないDMEM GlutaMax+10% FBSで3回洗浄する(各工程間で10分インキュベーション、37℃、5%CO2)。インキュベーションの30分後、細胞はすぐ画像化できる状態である。
【0124】
標識したU2OS細胞を有するガラスカバースリップをCytooチャンバー(44×34×10mm)に移した。チャンバーの重力送りの灌流を1mL/分の流速で実施した。63x plan Apochromat 1.40 NA油浸対物レンズを備えたLeica LAS AF 7000広視野顕微鏡を使用してセンサー画像化の時間経過実験を実施した。キセノンアークランプをU2OS細胞の画像化のために使用した。各フレームについて、2つのチャネル(ドナー及びFRET)を、2つの発光チャネルの間で10秒の間隔で連続して測定した。フィルターセットCy3/Cy5を、530/35での励起及び580/40(Cy3)での発光並びに635/30での励起及び700/72(Cy5)での発光によるFRET比画像化のために使用した。他に示されない限り、画像サイズは194μM×194μMであった。実験の間に灌流した試薬(H2O2、SPY)をHBSS(Lonza社)中に溶解した。実験の他の時点の間、HBSS溶液を連続して灌流した。
【0125】
センサー機能についての対照として、2mMのスルファピリジン(SPY)を細胞上で灌流する。スルファピリジンは、サイトゾルに進入すると、分子内リガンドスルファメトキサゾールと競合し、センサーを開放する。スルファピリジンの濃度はセンサーを完全に開放するのに十分であるので、NADPH/NADP+の変化を定量するための較正点を有する。次いで、スルファピリジンをHBSSによって洗い流し、本発明者らは、細胞内センサーがその初期の比(TMR/SiR)に戻ることを観測することができる。次いで、過酸化水素溶液を灌流し、結果として比の急激な減少をモニターすることができる。H2O2の添加により、細胞酸化系を活性化する酸化的ストレスが引き起こされた。この系は、グルタチオンを酸化して過酸化水素を分解する、グルタチオンペルオキシダーゼを含む。次いでグルタチオンの酸化したプールを、NADPHを欠いているグルタチオン還元酵素の活性によって低減させ、それによりNADPH/NADP+の比を減少させ、センサーを閉鎖する。興味深いことに、本発明者らは、H2O2の添加を止め、洗い流すと、細胞がそれらのNADPH/NADP+の基礎レベルに急速に戻ることができることを観測することができる。
【0126】
顕微鏡により、精製したセンサーは、開放立体配座と閉鎖立体配座との間でわずかに低減したFRET比の変化(ΔRmax=6)を有することに留意されなければならない。生細胞における比較的高い遊離NADPH/NADP+の比に起因して、センサーは完全に閉鎖された立体配座において見ることはできず、in vitro実験と比較して生細胞において観測された、より小さなFRET比の変化を明らかにしている。
【0127】
要約すると、センサーは生細胞画像化に非常に有用である。特に、それは異なる細胞内区画(サイトゾル、ミトコンドリア、核、小胞体)における異なるNADPH/NADP+の比を定量するために使用できる。
【実施例7】
【0128】
SPR-TagGFP2-p30-SNAP-TagRFP
この実施例は、NADP+の濃度及びNADPH/NADP+の比を検知できる2つの蛍光タンパク質を使用したFRETに基づいたセンサーの設計及び構築物を記載する。センサーは、NADP(H)特異的結合タンパク質としてヒトSPR及び分子内リガンドとしてスルファメトキサゾールを含む。TagGFP2及びTagRFPはそれぞれFRETドナー及びアクセプターを形成する(図7A)。SNAP-タグの特異的標識化のためのO6-ベンジルグアニン(BG)部分を含有する合成分子、アルキルリンカー及び分子内SPRリガンドとしてのスルファメトキサゾール(SMX)をスキーム3に従って合成した(図7B)。
【0129】
【化4】
【0130】
6-アミノ-N-{4-[(5-メチル-1,2-オキサゾール-3-イル)スルファモイル]フェニル}ヘキサンアミド(ii-2)
Boc-6-アミノヘキサン酸(150mg、0.65mmol、1当量)のDMF(2.0mL)中溶液に、EDC HCl(140mg、0.72mmol、1.1当量)及びHOBt(98mg、0.72mmol、1.1当量)を撹拌下で加えた。試薬の完全な溶解後、スルファメトキサゾール(494mg、1.9mmol、3当量)、続いてDIPEA(0.11mL、0.65mmol、1当量)を加えた。反応物を室温にて一晩撹拌した。最後に、反応物を酢酸(0.2mL)で酸性化し、HPLCによって精製し、凍結乾燥させて、白色固体(182.1mg、0.39mmol、59%)を得た。
【0131】
Boc保護生成物(60mg、0.128mmol、1当量)をTFA(0.5mL)中に溶解し、30分間撹拌した。次いでTFAを減圧下で蒸発させた。生成物を0.5mL DMSO中に溶解し、HPLCによって精製し、凍結乾燥させて白色固体(30.1mg、81.9μmol、64%)を得た。
【0132】
BG-NH2(i-4)を以前に記載されている手順(Kepplerら Nat Biotechnol. 2003年1月;21(1):86〜9頁)に従って合成した。
【0133】
4-[(4-{[(2-アミノ-9H-プリン-6-イル)オキシ]メチル}ベンジル)アミノ]-4-オキソブタン酸(iii-1)
BG-NH2(300mg、1.1mmol、1当量)の乾燥DMSO(6mL)中懸濁液に、撹拌下でDIPEA(0.4mL、2.4mmol、2.2当量)及び無水コハク酸(133mg、1.3、1.2当量)を加えた。反応のプロセスの間、反応混合物を清浄化した。1時間後、反応が完了したことが示された。1mLのH2Oを反応混合物に加えて無水コハク酸を加水分解した。最後に、反応物を0.5mLの酢酸でクエンチし、HPLCによって精製し、凍結乾燥させて白色固体(388mg、1.05mmol、95%)を得た。
【0134】
BG-Suc-C6-SMX(iii-2)
化合物iii-1(19.5mg、52.7μmol、1当量)の乾燥DMSO(0.6mL)中溶液に、200μLのDMSO中のDIPEA(17.5μL、105.4μmol、2当量)及びTSTU(23.8mg、79μmol、1.5当量)を加えた。5分後、NHS-エステルの形成をTLC(9/1 DCM/MeOH)及びLC-MSによって確認した。次いで、DIPEA(17.5μL、105.4μmol、2当量)と共にアミンii-2(300μl、63.2μmol、1.2当量)を加え、30分間撹拌した。最後に、反応物を最初に200μLのH2O(15分)、次いで50μLのAcOHでクエンチした。生成物をHPLCによって精製し、凍結乾燥させて白色固体(7.1mg、9.9μmol、19%)を得た。
【0135】
ヒトSPR、TagGFP2、30-プロリンリンカー、SNAP-タグ及びTagRFPで構成される融合タンパク質を、以前の構築物SPR-Halo-p30-SNAPにおけるHalo-タグのコード配列をTagGFP2(Evrogen社、モスクワ、ロシア)のコード配列と置き換え、Gibson Assembly(NEB社、イプスウィッチ、イギリス)を使用して構築物の端部にTagRFP(Evrogen社、モスクワ、ロシア)を挿入することによって構築して、SPR-TagGFP2-p30-SNAP-TagRFPを得た。融合タンパク質を大腸菌株Rosetta-gamiTM2(DE3)pLysS(Novagen社、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)中で発現させ、C末端His-タグ及びN末端Strep-タグIIを使用して精製して完全な構築物を得た。
【0136】
精製した融合タンパク質SPR-TagGFP2-p30-SNAP-TagRFP(5μM)を、室温にて1時間、緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5)中の2当量のBG-Suc-C6-SMX(10μM)で標識した。インキュベーション後、過剰なリガンドを、50kDaのカットオフ膜(Amicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)を有する遠心濾過器スピンカラムを使用して上述の緩衝液により3回の洗浄工程(3×400μL)によって除去した。次いで精製したセンサーをHEPES緩衝液中(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5中)で5μMの濃度に希釈する。
【0137】
センサーの性能を評価するために、滴定実験を異なる濃度のNADP+で実施した。標識したセンサーを、ブラック非結合96ウェルプレート(Greiner Bio-One社、クレムスミュンスター、オーストリア)中に規定濃度のNADP+を含有する100μLのHEPES緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、0.5mg/mL BSA、pH7.5)中で50nMの濃度に希釈した。溶液を室温にて少なくとも15分間インキュベートして、センサーが確実に平衡に達するようにした。蛍光測定をInfinite M1000蛍光光度計(TECAN)で行った。励起を10nmの帯域幅で450nmにて実施し、スペクトルを1nmのステップサイズ及び10nmの帯域幅を使用して480から610nmまで記録した。
【0138】
図7Cに示されるように、センサーは、閉鎖立体配座(低いNADP+濃度)と開放立体配座(高いNADP+濃度)との間で1.5の全体のFRET比の変化でNADP+濃度の変化をモニターすることができる。加えて、センサーの測定した見かけのKdはNADP+の存在下で337±59nMである。全体の変化は以前に記載されているセンサーと比較して有意に低いが、スペクトル重複(ドナーの発光とアクセプターの励起との間)及び輝度に関して、より効率的なFRET対を使用することにより、2つの蛍光タンパク質に基づいたセンサーの感受性が確実に改善する。
【0139】
2つの蛍光タンパク質に基づいたNADP及びNADのためのセンサーの1つの利点は、改善された細胞透過性を有する合成標識化分子(SPRリガンドを含有する)の使用である。なぜならそれは合成フルオロフォアを含有しないからである。更に、合成スキームは顕著に短縮され、簡略化される。O4-ベンジル-2-クロロ-6-アミノピリミジン(CP)で官能化した同じ分子もまた、SNAP-タグの標識化のために使用されてもよく、細胞透過性を更に改善できる。
【実施例8】
【0140】
SNAP_P30_hSPR(D41W42)_NLuc_cpDHFR
この実施例は、NAD+の濃度を検知できる最適化されたBRETに基づいたセンサーの設計及び構築物を記載する。センサーは、NAD(H)特異的結合タンパク質としてSPRの変異体及びSPR-LとしてBG-Peg11-Cy3-スルファメトキサゾールを含む。NanoLucを、Cy3とBRET対を形成するルシフェラーゼとして使用する。SNAP-タグを合成分子BG-Peg11-Cy3-スルファメトキサゾールで標識する(図8A)。
【0141】
SPR(D41W42)の変異体、NanoLuc(NLuc)、30-プロリンリンカー、SNAP-タグ及び円順列変異させたジヒドロ葉酸還元酵素(cpDHFR)で構成される融合タンパク質SNAP_P30_hSPR(D41W42)_NLuc_cpDHFRを、上記のような標準的な手順を使用して構築した。cpDHFRは、元のN及びC末端を(グリシン)5リンカーと融合し、Asn23とLeu24との間で分割することによる野生型大腸菌DHFRに由来する。追加のタンパク質ドメインの、NanoLucのC末端への結合は、NanoLucの他の分子との非特異的相互作用を減少させることが見出された。融合タンパク質を大腸菌株Rosetta-gami(商標)2(DE3)pLysS(Novagen社、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)中で発現させ、C末端His-タグ及びN末端Strep-タグIIを使用して精製して完全な構築物を得た。
【0142】
精製した融合タンパク質SPR(D41W42)-Halo-p30-SNAP(5μM)を、室温にて1時間、緩衝液(50mM HEPES、150mM NaCl、pH7.5)中の2当量のBG-Peg11-Cy3-スルファメトキサゾール(10μM)で標識した。インキュベーション後、過剰なリガンドを、50kDaのカットオフ膜(Amicon Ultra-0.5 Centrifugal Filter、Merck KGaA社、ダルムシュタット、ドイツ)を有する遠心濾過器スピンカラムを使用して上述の緩衝液により3回の洗浄工程(3×400μL)によって除去した。NAD+でのセンサーの滴定のために以下の条件を使用した:2.5nMのセンサーを、様々な濃度にてNAD+及び1000倍希釈したNanoLuc基質を含有する緩衝液(500mM HEPES、500mM NaCl、10mg/mL BSA、pH7.5)に加えた。486nmにて(NanoLucから)及び595nmにて(Cy3から)発光した光を記録し、2つの強度の比を算出することによってアッセイを分析した。測定はEn Vision Multilabel Reader(Perkin Elmer社)で行った。NAD+のためのセンサーの見かけのKdは19μMである。センサーの開放形態から閉鎖形態まで進んだ場合、観測された比の変化は5倍である(図8B)。
【0143】
センサーはまた、乳酸脱水素酵素(LDH)の活性を測定するために使用できる(図8C及び図8D)。LDHは、それがNADHをNAD+に変換し、及びその逆に変換するので、乳酸塩のピルビン酸への変換及びその逆の変換を触媒する。5nMのセンサーを、2mMのピルビン酸塩及び1mMのNADHを含有する50uLの緩衝液(500mM HEPES、500mM NaCl、10mg/mL BSA、pH7.5)中で調製した。500倍希釈したNanoLuc基質及び様々なレベルにてLDHを含有する別の50μLの緩衝液(500mM HEPES、500mM NaCl、10mg/mL BSA、pH7.5)を、測定を開始する前に加えた。発光を5分にわたって測定した(図8C)。図8Bに示される比及び滴定曲線に基づいて各時点におけるNAD+の濃度を算出することによってNAD+生成率を得た。試料中のLDHの単位を算出するために、以下の定義を使用した:1U/L LDHはNAD+生成率において1.67E-8M/sに対応する。センサーを使用して測定したLDHレベルを、同じ試料についての標準的な吸光度アッセイによって得た結果に対してプロットした(図8D)。上記のアッセイはまた、Grissら Nature Chemical Biology、2014年10(7):598〜603頁に記載されている濾紙で行うこともできる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8