(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
自局のセルよりも広い移動型の他の基地局のセル内に前記他の基地局と同一の周波数帯域が用いられる自局のセルが配置され、前記他の基地局との間で、自局のセル及び前記他の基地局のセルの少なくとも一方の下りリンク無線通信フレーム中の複数のサブフレームの一部について少なくともデータ信号の送信を停止する干渉制御が適用される基地局であって、
前記他の基地局が移動しているときに自局と前記他の基地局との間の距離における電波の伝搬時間分だけ前記他の基地局から遅れるように自局と前記他の基地局との間の時間同期を動的に行う時間同期手段と、
自局のセルの半径に基づいて、自局のセルにおける下りリンク無線通信フレームについて、前記移動している他の基地局から遅れるように動的に行われた自局の時間同期に基づき設定された送信タイミングを早めるように補正する補正手段と、を備えることを特徴とする基地局。
第1の基地局のセルよりも広い移動型の第2の基地局のセル内に前記第2の基地局と同一の周波数帯域が用いられる前記第1の基地局のセルが配置され、前記第1の基地局と前記第2の基地局との間で、前記第1の基地局のセル及び前記第2の基地局のセルの少なくとも一方の下りリンク無線通信フレーム中の複数のサブフレームの一部について少なくともデータ信号の送信を停止するセル間の干渉制御方法であって、
前記第2の基地局が移動しているときに前記第1の基地局と前記第2の基地局との間の距離における電波の伝搬時間分だけ前記第2の基地局から遅れるように前記第1の基地局と前記第2の基地局との間の時間同期を動的に行うことと、
前記第1の基地局のセルの半径に基づいて、前記第1の基地局のセルにおける下りリンク無線通信フレームについて、前記移動している第2の基地局から遅れるように動的に行われた第1の基地局の時間同期に基づき設定された送信タイミングを早めるように補正すること、とを含むことを特徴とする干渉制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ここでは、LTE/LTE−Advancedへの適用を前提に本発明の実施形態を説明するが、類似のセル構成、物理チャネル構成を用いるシステムであれば、本発明の概念はどのようなシステムにも適用可能である。
【0015】
まず、本発明を適用可能な移動通信システムの全体構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る大ゾーンセル15A内に複数の地上セル10Aが配置されたオーバレイセル構成を有する移動通信システムの概略構成の一例を示す説明図である。災害や圏外解消への対策として、上空を移動可能な飛行体に基地局が組み込まれた空中浮揚型の通信中継装置15から地上又は水上に向かって形成される大きなサイズの大ゾーンセル15Aの展開が有効である。この大ゾーンセル15Aにおいて急増する移動通信のトラフィックへの対策として、大ゾーンセル15A内に複数の地上セル10Aが重畳するオーバレイセル構成の適用が有効である。このオーバレイセル構成では、大ゾーンセル15Aと地上セル10Aとの間で同一周波数帯域を利用することにより周波数利用効率を拡大できるとともに、移動局であるユーザ端末装置(以下「UE」ともいう。)30,31における通信品質(例えばスループット)を増大させることができる。
【0016】
図1において、本実施形態の移動通信システムは、LTE(Long Term Evolution)/LTE−Advanced又は第5世代などの次世代の標準仕様に準拠した通信システムであり、通信中継装置15に搭載された第2の基地局(他の基地局)としての移動型の大ゾーンセル基地局150と、その大ゾーンセル基地局150の無線通信エリアであるセル(以下「大ゾーンセル」という。)15A内に固定配置された複数の第1の基地局としての地上セル基地局10とを備える。地上セル基地局10は、例えば、通常のマクロセル基地局又はスモールセル基地局である。地上セル基地局10の無線通信エリアであるセル(以下、適宜「地上セル」という。)10Aは、大ゾーンセル基地局150の大ゾーンセル15Aの内側に含まれている。大ゾーンセル15A内に配置されている地上セルの数は1〜4個でもよいし、6個以上であってもよい。また、大ゾーンセル15A内に位置する第1の基地局は、マクロセルよりも更に小さなスモールセルを形成するスモールセル基地局であってもよい。
【0017】
大ゾーンセル基地局150は、上空を移動可能な飛行体からなる空中浮揚型の通信中継装置15に搭載された移動型の中継通信局としての基地局(例えば、eNodeB、gNodeB)であり、移動通信網側のフィーダリンクFLの無線通信と移動局側のサービスリンクSLの無線通信とを中継することができる。
【0018】
なお、
図1では、大ゾーンセル基地局150を搭載する通信中継装置15が上空を移動可能な飛行体としての飛行船である例を示しているが、通信中継装置15は、上空を移動するように飛行可能な航空機、ソーラープレーン、ドローンなどの他の飛行体であってもよい。飛行体は、自律制御又は外部から制御により、地面、海面、又は川若しくは湖などの水面から100[km]以下の高高度の空域を飛行して位置するように制御されてもよい。また、飛行体の飛行空域は、高度が11[km]以上及び50[km]以下の成層圏の空域であってもよい。更に、飛行体の飛行空域は、気象条件が比較的安定している高度15[km]以上25[km]以下の空域であってもよく、特に高度がほぼ20[km]の空域であってもよい。
【0019】
また、大ゾーンセル基地局150は、地上セル基地局10などの第1の基地局よりも高い位置(大気圏内の位置、及び、その外側の宇宙空間の位置を含む)に設置された基地局であってもよい。
【0020】
地上セル基地局10は、例えば、通常のマクロセル基地局又はスモールセル基地局である。マクロセル基地局は、移動体通信網において屋外に設置されている通常の半径数百m乃至数km程度の広域エリアである地上セルをカバーする大出力の基地局である。マクロセル基地局は、他の基地局と例えば有線の通信回線で接続され、所定の通信インターフェースで通信可能になっている。また、マクロセル基地局は、回線終端装置及び専用回線などの通信回線を介して移動体通信網のコアネットワークに接続され、コアネットワーク上のサーバなどの各種ノードとの間で所定の通信インターフェースにより通信可能になっている。スモールセル基地局は、広域のマクロセル基地局とは異なり、無線通信可能距離が数m乃至数百m程度であり、一般家庭、店舗、オフィス等の建物の内部にも設置することができる小出力の基地局である。スモールセル基地局についても、回線終端装置及びADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)回線や光回線等のブロードバンド公衆通信回線などの通信回線を介して移動体通信網のコアネットワークに接続され、コアネットワーク上のサーバ装置などの各種ノードとの間で所定の通信インターフェースにより通信可能になっている。
【0021】
なお、大ゾーンセル15A内の第1の基地局は、地上又は水上に設置された基地局でもよいし、ドローン、気球などの低高度の飛翔体に設置された基地局であってもよい。
【0022】
図1において、第1の移動局であるUE30は、大ゾーンセル基地局150のセル15Aに在圏して大ゾーンセル基地局150に接続されたユーザ端末装置(MUE)であり、大ゾーンセル基地局150を介して電話やデータ通信などのための無線通信が可能な状態にある。UE30は、大ゾーンセル15Aと地上セル10Aとの境界部に近い位置に在圏しているため、地上セル10Aからの干渉を受けやすい状況にある。
【0023】
第2の移動局であるUE31は、地上セル基地局10のセル10Aの外縁部に在圏して地上セル基地局10に接続されたユーザ端末装置(SUE)であり、地上セル基地局10を介して電話やデータ通信などのための無線通信が可能な状態にある。UE31は、地上セル10Aと大ゾーンセル15Aとの境界部に近い位置に在圏しているため、大ゾーンセル15Aからの干渉を受けやすい状況にある。
【0024】
UE30、31は、大ゾーンセル15Aや地上セル10Aに在圏するときに、その在圏するセルに対応するマクロセル基地局やスモールセル基地局と間で所定の通信方式及び無線通信リソースを用いて無線通信することができる。UE30、31は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、コアネットワークに対する外部通信インターフェース部、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより基地局10,15等との間の無線通信等を行うことができる。
【0025】
本実施形態において、大ゾーンセル基地局150及び地上セル基地局10はそれぞれ、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、コアネットワークに対する外部通信インターフェース部、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより、後述の干渉を抑制するための各種処理を実行したり、所定の通信方式及び無線通信リソースを用いてUE30、31との間の無線通信を行ったりすることができる。
【0026】
各基地局10、15は、移動局であるUEに対してOFDM(直交周波数分割多重)方式の下りリンクの無線通信可能な基地局である。基地局10、15は、例えば、アンテナ、無線信号経路切り換え部、送受共用器(DUP:Duplexer)、下り無線受信部とOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)復調部、上り無線受信部、SC−FDMA(Single-Carrier Frequency-Division Multiple Access)復調部など備える。更に、各基地局10、15は、OFDM変調部、下り無線送信部、制御部等を備える。
【0027】
SC−FDMA復調部は、上り無線受信部で受信した受信信号に対してSC−FDMA方式の復調処理を実行し、復調されたデータを制御部に渡す。OFDM変調部は、制御部から受けた自局のセルに在圏しているUEに向けて送信する下り信号のデータを、所定の電力で送信されるように、OFDM方式で変調する。また、基地局が例えばサーバから送信停止対象のサブフレームの情報を受信した場合、OFDM変調部は、無線通信フレーム中の特定のサブフレームについてのみ下り送信を停止するように制御される。下り無線送信部は、OFDM変調部で変調した送信信号を、送受共用器、無線信号経路切り換え部及びアンテナを介して送信する。
【0028】
基地局10、15の制御部は、例えばコンピュータ装置で構成され、所定のプログラムが読み込まれて実行されることにより、各部を制御したり各種処理を実行したりする。また、制御部は、コアネットワークに対する外部通信インターフェース部と協働して、送信停止対象のサブフレームの情報であるABSパターン情報をサーバから受信する手段としても機能する。また、制御部は、サーバから受信した送信停止対象のサブフレームの情報(ABSパターン情報)に基づいて、特定の送信停止対象のサブフレームにおける下り送信を停止するように制御する手段としても機能する。
【0029】
地上セル基地局10の制御部は、その地上セル基地局10の下りリンク無線通信フレーム中の複数のサブフレームのうち、大ゾーンセル基地局150から送信される同期信号の送信タイミングに対応するサブフレームについて、地上セル基地局10から送信される信号のうち少なくともPDSCH(物理データ共有チャネル)のデータ信号の送信を停止する手段としても機能する。
【0030】
また、地上セル基地局10の制御部は、後述するように、セル間干渉制御技術(eICIC)を適用した場合の干渉抑制機能を高めるために、内部クロックを有し、大ゾーンセル基地局150と自局との間の基地局間距離における電波の伝搬時間分だけ大ゾーンセル基地局150から遅れるように自局と大ゾーンセル基地局150との間の時間同期を行う時間同期手段としても機能する。この時間同期は、後述のGNSS方法を用いて行うことができる。ここで、GNSS方法を用いて絶対時間同期を行う場合は、その絶対時間同期の結果に対して、地上セル基地局10と大ゾーンセル基地局150との間の距離における電波の伝搬時間分だけ遅らせる基地局間距離補正用のオフセット値を適用する。
【0031】
更に、地上セル基地局10の制御部は、後述するように、セル間干渉制御技術(eICIC)を適用した場合の干渉抑制機能を高めるために、大ゾーンセル基地局150の現在位置情報に基づいて、地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームについて前記時間同期に基づいて設定された送信タイミングを、地上セル10Aの半径に応じて補正する補正手段としても機能する。
【0032】
なお、本実施形態では、前記送信タイミングを地上セル10Aの半径に応じて早めるように補正する例を示している。また、地上セル10Aの半径は、地上セル基地局10の下りリンク信号の送信電力から推定してもよいし、また、大ゾーンセル基地局150からの下りリンク信号の地上セル10Aでの受信電力と地上セル基地局10の下りリンク信号の送信電力とに基づいて推定してもよい。
【0033】
また、地上セル基地局10の制御部は、前記補正後の送信タイミングに地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームを送信するように制御する制御手段としても機能する。
【0034】
次に、上記オーバレイセル構成の移動通信システムにおけるセル間干渉制御について説明する。前述のように大ゾーンセル15Aで急増する移動通信のトラフィックへの対策として大ゾーンセル15A内に地上セル10Aを重畳するオーバレイセル構成の適用が有効である。しかし、オーバレイセル構成で大ゾーンセル15Aと地上セル10Aが同一周波数帯域を使用する場合、大ゾーンセル15Aと地上セル10Aとの間の干渉が生じる。例えば、大ゾーンセル15Aの地上セル10Aとの境界部に近い位置に在圏しているUE30は、地上セル10Aからの干渉を受けやすい。また、
図2に示すように、地上セル10Aの大ゾーンセル15Aとの境界部に近い位置に在圏しているUE31は、大ゾーンセル15Aからの干渉を受けやすい状況にある。そこで、上記オーバレイセル構成の適用効果を最大化するためには干渉を制御することが必要となる。干渉制御方法としては、LTE−Advanced標準のeICIC技術が有効である。
【0035】
図3は、LTE下りリンクの無線通信フレームの時間軸方向のフォーマットの一例を示す説明図である。
図4は、LTE下りリンクの無線通信フレームの時間軸及び周波数軸方向のフォーマットの一例を示す説明図である。
図3に示すように、LTE下りリンクの信号の1単位である所定長(図示の例では10[ms])の無線通信フレーム100は、所定個数(図示の例では10個)の所定長(図示の例では1.0[ms])のサブフレーム110で構成される。LTE下りリンクのスケジューリングの最小時間単位であるTTI(Transmission Time Interval)は1サブフレームであるので、サブフレームごとに、スケジューリングされたUEへ無線リソースの最小単位であるリソースブロック(RB)が割り当てられる。各サブフレーム110は、後述のように制御チャネル領域110Aとデータチャネル領域110Bとを有する。
【0036】
また、
図4に示すように、各サブフレーム110では、周波数軸方向に最大で100個のリソースブロック(RB)が割り当てられる。先頭から第1番目(♯0)及び第6番目(♯5)のサブフレームの周波数軸方向における中央部の6RBには、後述のように、プライマリー同期信号(PSS)121及びセカンダリー同期信号(SSS)122が配置されている。
【0037】
図5は、無線通信フレームを構成するサブフレームの一部のフォーマットの一例を示す説明図である。
図5において、各サブフレーム110は、例えば周波数軸方向に8サブキャリア(15[kHz])、時間軸方向に14OFDMシンボルの計112個のRE(Resource Element)で構成される。なお、Extended Cyclic Prefixが用いられる場合は、1サブフレーム内に12OFDMシンボルが送信される。ここで、「シンボル」とは、無線通信で伝送される情報の一単位である。また、一つのシンボルは伝送対象の情報の1回の変調で生成され、1シンボルの情報量(ビット数)は変調方式によって決まる。1サブフレーム毎に各UEがどの周波数/時間リソースマッピングされているのか、各UEへのデータ信号がどのような変調フォーマット(変調方式、符号化率)を使用するか等のスケジューリングを行い、その結果がUEへ通知される。
【0038】
図5に示すように、各サブフレーム110は、下りリンクL1/L2制御チャネル信号のREがマッピングされる先頭部分の制御チャネル領域110Aと、データチャネル信号や上位制御チャネル信号のREがマッピングされるデータチャネル領域110Bとを有する。なお、制御チャネル領域110Aはサブフレームの先頭の1〜3のOFDMシンボル(
図5の例では2OFDMシンボル)を割り当てることができる。
【0039】
サブフレーム110の制御チャネル領域110Aには、L1/L2制御チャネルであるPDCCH(Physical Downlink Control Channel)が設定される。PDCCHは、上下リンクのスケジューリングの決定や上りリンクの電力制御コマンドなどの制御情報(DCI:Downlink Control Information)の伝送に用いられる。DCIには、PDSCHリソース指示、伝送フォーマット、HARQ情報、および空間多重に関する制御情報を含む下りリンクスケジューリング割当てが含まれる。また、DCIには、PUSCHリソース指示、伝送フォーマット、HARQ関連情報、上りリンクのスケジューリング情報である上りリンクグラントも含まれる。
【0040】
また、サブフレーム110のデータチャネル領域110Bには、物理共有チャネル(PDSCH:Physical Downlink Shared Channel)が設定される。PDSCHは、下りリンクデータを送信する物理チャネルであり、MIMO伝送方式としてMIMOダイバーシティに加え、LTEでは最大4レイヤのMIMO多重、LTE−Advancedでは最大8レイヤのMIMO多重に対応する。また、MIB以外の報知情報であるSIBや着信時の呼び出しであるページング情報、その他上位レイヤの制御メッセージ、例えばRRC(Radio Resource Control protocol)レイヤの制御情報もPDSCHで送信される。UEは、PDCCHから取得した無線リソース割当位置、変調方式、データサイズ(TB:Transport Block size)等の情報に基づいてPDSCHを復号する。
【0041】
また、LTEにおいてサブフレーム110内の時間領域で14OFDMシンボルのうち、第1、5、8、12OFDMシンボル内にセル固有の参照信号(CRS)が分散して規則的に配置される。このセル参照信号CRSは、UEにおけるチャネル品質情報(CSI:Channel State Information)の測定用の基準信号及びデータ復調用の基準信号という2つの役割を担っている。セル参照信号CRSはセルIDによって、異なるスクランブリングとマッピングされるサブキャリア位置の周波数シフトが適用される。なお、
図5の例では、2本のアンテナを用いたMIMOの場合に用いられる、第1のアンテナ#0に対するセル参照信号CRSと、第2のアンテナ#1に対するセル参照信号CRSとを示している。
【0042】
図6は、セル間干渉制御技術(eICIC)で採用されているABSによるサブフレームにおける送信停止の様子の一例を示す説明図である。eICICでは、例えば
図6に示すように、大ゾーンセル15Aの一部のサブフレーム(図示の例では♯1,#3,#6,#8のサブフレーム)でABSを設定することで、データチャネル領域の信号送信を停止し、地上セル10Aに接続しているUE31におけるデータチャネルの干渉を低減することができる。また、例えば
図6に示すように、地上セル10Aの一部のサブフレーム(図示の例では♯0,#2,#4,#5,#7,#9のサブフレーム)で同様にABSを設定することにより、大ゾーンセル15Aに接続しているUE30におけるデータチャネルの干渉を低減することができる。
【0043】
しかしながら、従来のセル間干渉制御技術(eICIC)を適用した場合には以下に説明するような課題がある。
【0044】
eICICでは、一部のサブフレームの送信停止により時間軸上で干渉回避を行うことから、大ゾーンセル15Aと地上セル10Aとの間で時間同期(位相同期)を確立する。時間同期を実現する方法としては、GNSS(Global Navigation Satellite System)方法、IEEE(The Institute of Electrical and Electronic Engineers)1588v2規格を用いた方法、ネットワークリスニング方法などがある。本実施形態では、地上に固定配置された地上セル基地局10と上空を移動する大ゾーンセル基地局150との時間同期に適するGNSS方法を用いている。GNSS方法は、各基地局10、15がGPS(Global Positioning System)衛星等の人工衛星から受信した信号に基づいて同期処理を行う方法である。
【0045】
IEEE1588v2規格を用いた方法は、同規格で定義されたPTP(Precision Time Protocol)、NTP又はSNTPなどの所定の時間同期プロトコルを用いてバックホールネットワーク経由で高精度な時刻サーバと同期する方法である。しかしながら、上空を移動可能な浮揚型の通信中継装置15に組み込まれた大ゾーンセル基地局150は、バックホール回線が無線区間を含むため、時刻サーバとの間の高精度な同期が難しい。
【0046】
また、ネットワークリスニング方法は、大ゾーンセル基地局150からの下りリンク信号を受信することで地上セル基地局10が時間同期を確立する方法である。ネットワークリスニング方法は、バックホールネットワークの時間ゆらぎ等によりIEEE1588v2規格を用いた方法では高い時間同期精度が得られない場合に特に有効な同期方法である。しかしながら、大ゾーンセル基地局150が上空を移動するため、大ゾーンセル基地局150からの下りリンク信号の到来方向が不定であり、下りリンク信号を精度よく受信することができず、高い時間同期精度が得られない。
【0047】
前述のeICICでは、時間同期が各セル10A,15Aの中心に位置する基地局10,15で確立される。そのため、下記の
図7、8に示すように、大ゾーンセル15Aと地上セル10Aとの間の基地局間距離や地上セル10Aの半径に応じて、大ゾーンセル15Aから受信する大ゾーンセル信号と地上セル10Aから受信する地上セル信号に受信タイミング差が生じ、その受信タイミング差により前後のサブフレームからの同一周波数帯域の干渉を受け、通信品質(例えばスループット)が低下するおそれがある。
【0048】
図7(a)及び(b)は、GNSS方法で時間同期を行うときに発生する大ゾーンセル信号と地上セル信号との間の受信タイミング差の一例を示す説明図である。
図7(a)において、UE31nは、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局150からの下りリンク無線信号が最も早く到来する側のセル境界である大ゾーンセル基地局150側のセル境界(以下「大ゾーンセル基地局寄りのセル境界」という。)に位置するユーザ端末装置である。UE31fは、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局150からの下りリンク無線信号が最も遅く到来する側のセル境界である、大ゾーンセル基地局150側とは反対側のセル境界(以下「反対側のセル境界」という。)に位置するユーザ端末装置である。
【0049】
図7(a)に示すように、GNSS方法で絶対時間同期処理を行った場合、大ゾーンセル基地局150からの送信タイミングTt1と地上セル基地局10からの送信タイミングTt2とが同期する。このため、UE31における大ゾーンセル信号と地上セル信号との受信タイミング差が発生する。
【0050】
大ゾーンセル基地局寄りのセル境界に位置するUE31fでは、大ゾーンセル15Aと地上セル10Aとの基地局間距離d
MS[m]や地上セル10Aの半径r
S[m]に応じた伝搬遅延の影響により、次の式(1)に示す受信タイミング差τ
N[s]が発生する。
【0052】
ここで、式(1)中の「c」は電波の伝搬速度(=3.0×10
8[m/s])である。また、受信タイミング差τ
Nは、地上セル信号が大ゾーンセル信号よりも早く受信される場合は負になり、地上セル信号が大ゾーンセル信号よりも遅く受信される場合は正になる。下記反対側のセル境界での受信タイミング差τ
Fについても同様である。
【0053】
大ゾーンセル基地局寄りのセル境界では、上記式(1)に示すように基地局間距離d
MSが大きくなるにつれて大ゾーンセル信号が遅れて受信され、地上セル信号のサブフレームの先頭部分が大ゾーンセル信号から干渉を受ける。地上セル10Aの半径r
Sに比例して地上セル信号は遅れて受信されるようになる。一般的にはd
MS>r
Sとなるため、総合的には地上セル信号が早く受信される。
【0054】
一方、反対側のセル境界では、地上セル基地局10から反対側のセル境界までの電波の伝搬時間(遅延時間)はr
S/cで地上セル10A及び大ゾーンセル15Aで同一となる。従って、反対側のセル境界に位置するUE31fでは、大ゾーンセル15Aと地上セル10Aの基地局間距離d
MS[m]のみに応じた伝搬遅延の影響により、大ゾーンセル信号の受信タイミングTrf1と地上セル信号の受信タイミングTrf2との間に、次の式(2)に示す受信タイミング差τ
F[s]が発生する。
【0056】
上記受信タイミング差τ
Fが発生して地上セル信号が早く受信されると、ABSを設定したeICICを適用したとしても、
図7(b)に示すように地上セル信号のサブフレームの先頭部分が大ゾーンセル信号から同一周波数帯域の干渉を受ける。このため、地上セル10AにおけるPDCCH及びCRSが影響を受け、通信品質(例えばスループット)が低下する。
【0057】
図8(a)及び(b)は、ネットワークリスニング方法で時間同期を行うときの大ゾーンセル信号と地上セル信号との受信タイミング差の一例を示す説明図である。
図8(a)に示すように、ネットワークリスニング方法で時間同期処理を行う場合、地上セル基地局10では、大ゾーンセル基地局150からの下りリンク信号を受信したタイミングに、その送信タイミングTt2を同期させることが一般的である。この場合、大ゾーンセル基地局寄りのセル境界に位置するUE31nでは、地上セル10Aの半径r
S[m]のみに応じた伝搬遅延の影響により、大ゾーンセル信号の受信タイミングTrn1と地上セル信号の受信タイミングTrn2との間に、次の式(1’)に示す受信タイミング差τ
N[s]が発生する。
【数3】
【0058】
上記受信タイミング差τ
Nが発生して大ゾーンセル信号が早く受信されると、ABSを設定したeICICを適用したとしても、
図8(b)に示すように地上セル信号のサブフレームの後部が大ゾーンセル信号から同一周波数帯域の干渉を受ける。このため、地上セル10AにおけるPDSCHが大きな影響を受け、通信品質(例えばスループット)が低下する。
【0059】
一方、反対側のセル境界に位置するUE31fでは、GNSS又はIEEE1588v2規格を用いた方法で絶対時間同期処理を行った場合とは異なり、大ゾーンセル15Aと地上セル10Aとの間の基地局間距離d
MSに応じた伝搬遅延の影響は回避できる。従って、次の式(2’)に示すように、大ゾーンセル信号の受信タイミングTrf1と地上セル信号の受信タイミングTrf2との間に受信タイミング差τ
F[s]は発生しない。
【0061】
本実施形態では、上記大ゾーンセル信号と地上セル信号との受信タイミング差τ
F、τ
Nに伴う通信品質(例えばスループット)の低下を改善するため、時間同期方法の種類に応じて、通信中継装置15の大ゾーンセル基地局150の現在位置情報に基づいて計算されるマクロセル・スモールセルの基地局間距離d
MSと、地上セル10Aの半径r
Sとを考慮して地上セル基地局10の送信タイミングを補正する制御を行っている。
【0062】
〔送信タイミングの制御例1〕
図9は、本実施形態に係る大ゾーンセル基地局150の移動前の地上セル基地局10における送信タイミングの制御例を示す説明図である。
図9の制御例1では、次の手順(1)、(2)及び(3)に示すように地上セル基地局10において予め設定された送信タイミングを補正している。
【0063】
まず、手順(1)では、地上セル基地局10と大ゾーンセル基地局150との間の基地局間距離d
MSにおける電波の伝搬時間分だけ大ゾーンセル基地局150から遅れるように地上セル基地局10と大ゾーンセル基地局150との間の時間同期を行う。この時間同期された状態では、反対側のセル境界において地上セル10AからUE31fへの下りリンク無線通信フレームの受信タイミングTrf2’が、大ゾーンセル15AからUE31fへの下りリンク無線通信フレームの受信タイミングTrf1に一致する。これにより、大ゾーンセルと地上セルとの間の基地局間距離d
MSの影響が回避される。
【0064】
例えば、本実施形態では、GNSS方法を用いて大ゾーンセル15Aと地上セル10Aとの間の絶対時間同期を行っているので、その絶対時間同期の結果に対して、大ゾーンセル15Aと地上セル10Aとの間の基地局間距離d
MSにおける電波の伝搬時間分だけ遅らせる基地局間距離補正用のオフセットを与えることで、基地局間距離d
MSの影響を回避することができる。
【0065】
基地局間距離補正用のオフセットは、大ゾーンセル基地局150の現在位置(例えば、大ゾーンセル基地局150のGPS受信機で測定された緯度、経度及び高度)P15の情報に基づいて、地上セル基地局10と大ゾーンセル基地局150との間の基地局間距離d
MSを計算し、その計算結果に基づいて設定する。この基地局間距離補正用のオフセットは、例えば、各地上セル基地局の位置情報のデータベース(基地局DB)を有するネットワークセンターのサーバが設定して地上セル基地局10に配信して用いられる。
【0066】
また、基地局間距離補正用のオフセットは、地上セル基地局10がサーバから取得した大ゾーンセル基地局150の現在位置情報に基づいて、自局10と大ゾーンセル基地局150との間の基地局間距離d
MSを計算し、その計算結果に基づいて設定してもよい。
【0067】
ここで、大ゾーンセル基地局150の現在位置情報は、所定のタイミング(例えば所定の時間間隔で周期的に)で大ゾーンセル基地局150がGNSS方法で測定し、その測定結果をネットワークセンターのサーバや地上セル基地局10に送信(配信)してもよい。また、固定配置の地上セル基地局10の位置情報は、例えば基地局の設置住所情報などに基づいて、サーバの基地局DBに事前に格納したり、地上セル基地局10の制御部に対して事前に与えたりしておくことができる。
【0068】
上記所定の時間同期を行った状態において、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局寄りのセル境界及び反対側のセル境界に位置するUE31における受信タイミング差τ’
N[s]及びτ’
F[s]はそれぞれ、次の式(3)及び(4)で表される。
【0070】
上記手順(1)が終わった状態において、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局寄りのセル境界では、上記式(3)に示すように、基地局間距離d
MSに対応する時間成分が相殺され、地上セル10Aの半径r
Sのみ受信タイミング差τ’
Nに影響を与える。具体的には、地上セル10Aの半径r
Sに比例して地上セル信号が遅れて受信される。そのため、前述の
図8(b)に示したように、地上セル信号のサブフレームの後部が大ゾーンセル信号から干渉を受ける。一方、地上セル10Aの反対側のセル境界では、上記式(4)に示すように、大ゾーンセル信号と地上セル信号との間の受信タイミング差は生じない。
【0071】
地上セル信号のサブフレームの後部が干渉を受ける場合、データチャネル領域のPDSCHが直接干渉を受けることから、サブフレームの先頭部分が干渉を受ける場合と比較して通信品質(例えばスループット)の低下の影響がより顕著に現れる。
【0072】
次に、手順(2)において、地上セル10Aの半径r
Sに応じて、地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームについて予め設定された送信タイミングTt2’を早めるように補正する。例えば、送信タイミングTt2’を時間軸上の前方に所定のシフト量τ(r
S)だけシフトさせる補正を行う。この補正後の送信タイミングを、地上セル10Aにおける最終的な送信タイミングTt2として設定する。この送信タイミングTt2に同期させて地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームを送信するように制御される。
【0073】
ここで、本制御例における手順(1)及び(2)で地上セル10Aにおける最終的な送信タイミングTt2を設定した場合、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局寄りのセル境界及び反対側のセル境界に位置するUE31における受信タイミング差τ’’
N[s]及びτ’’
F[s]はそれぞれ、前方シフト量τ(r
S)を用いて次の式(5)及び(6)で表される。
【0075】
上記式(5)及び(6)に示すように、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局寄りのセル境界では、サブフレームの後部への干渉の影響が前方シフト量τ(r
S)に応じて緩和される。例えば、本制御例では、前方シフト量τ(r
S)として、地上セル10Aの直径2r
Sに対応する遅延時間(2r
S/c)を設定している。このため、地上セル10Aの最も通信品質(例えばスループット)が低下し得る大ゾーンセル基地局寄りのセル境界において、大ゾーンセル信号及び地上セル信号の受信タイミングを一致させることができる。
【0076】
図10は、
図9の位置P15から大ゾーンセル基地局15が移動したときの地上セル基地局における送信タイミングの一制御例を示す説明図である。なお、
図10において、前述の
図9と共通する部分については説明を省略する。
【0077】
大ゾーンセル基地局150は上空で移動しているので、
図10の制御例1では、大ゾーンセル基地局150の移動による基地局間距離d
MSの変化を考慮し、次の手順(1’)及び(2’)に示すように地上セル基地局10において予め設定された送信タイミングをダイナミックに補正している。
【0078】
まず、手順(1’)では、地上セル基地局10と移動後の大ゾーンセル基地局150との間の基地局間距離d
MS’における電波の伝搬時間分だけ大ゾーンセル基地局150から遅れるように地上セル基地局10と大ゾーンセル基地局150との間の時間同期を行う。例えば、大ゾーンセル基地局150の移動後の現在位置P15’の情報に基づいて、地上セル基地局10と移動後の大ゾーンセル基地局150との間の基地局間距離d
MS’を計算する。この地上セル基地局10と移動後の大ゾーンセル基地局150との間の基地局間距離d
MS’に基づいて基地局間距離補正用のオフセットを再設定する。その再設定後のオフセットを、GNSS方法を用いた絶対時間同期の結果に適用することにより、大ゾーンセル基地局150の移動によって変化した基地局間距離d
MSの影響を回避することができる。
【0079】
次に、手順(2’)において、地上セル10Aの半径r
Sに応じて、地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームについて予め設定された送信タイミングTt2’’’を早めるように補正する。例えば、送信タイミングTt2’’’を時間軸上の前方に所定のシフト量τ(r
S)だけシフトさせる補正を行う。この補正後の送信タイミングを、地上セル10Aにおける最終的な送信タイミングTt2’’として設定する。この送信タイミングTt2’’に同期させて地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームを送信するように制御される。
【0080】
図10の制御例により、大ゾーンセル基地局150が上空で移動する場合も、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局寄りのセル境界では、サブフレームの後部への干渉の影響が前方シフト量τ(r
S)に応じて緩和される。このため、地上セル10Aの最も通信品質(例えばスループット)が低下し得る大ゾーンセル基地局寄りのセル境界において、大ゾーンセル信号及び地上セル信号の受信タイミングを一致させることができる。
【0081】
〔送信タイミングの制御例2〕
図11は、本実施形態に係る大ゾーンセル基地局150の移動前の地上セル基地局10における送信タイミングの他の制御例を示す説明図である。また、
図12は、
図11の位置から大ゾーンセル基地局150が移動した後の地上セル基地局10における送信タイミングの他の制御例を示す説明図である。なお、
図11及び
図12の制御例2において、前述の
図9及び
図10の制御例1と共通する部分については説明を省略する。
【0082】
図11の制御例2では、通信中継装置15の大ゾーンセル基地局150の現在位置情報に基づいて計算されるマクロセル・スモールセルの基地局間距離d
MSと、地上セル10Aの半径r
Sとに基づいて、地上セル10Aのマクロセル基地局側のセル境界に位置するUE31nにおける通信品質(例えばスループット)と反対側のセル境界に位置するUE31fにおける通信品質(例えばスループット)のうち最も悪い通信品質(最小のスループット)が最も高くなるように、地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームの送信タイミングを補正している。具体的には、例えば、前述の前方シフト量τ(r
S)を、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局寄りのセル境界及び反対側のセル境界それぞれのスループットのうち最小のスループットが最も高くなるように設定している。これにより、マクロセル基地局側のセル境界及び反対側のセル境界それぞれに位置するUE31のユーザ間の公正性を図るとともに、地上セル10Aの最もスループットが低下し得る大ゾーンセル基地局寄りのセル境界に位置するUE31における大ゾーンセル信号及び地上セル信号の受信タイミング差を抑制することができる。
【0083】
また、
図12に示すように大ゾーンセル基地局150が移動した後においても、移動後の大ゾーンセル基地局150の現在位置P15’の情報に基づいてマクロセル・スモールセルの基地局間距離d
MS’を計算して地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームの送信タイミングの補正に用いる。これにより、大ゾーンセル基地局150が上空で移動する場合も、マクロセル基地局側のセル境界及び反対側のセル境界それぞれに位置するUE31のユーザ間の公正性を図るとともに、地上セル10Aの最もスループットが低下し得る大ゾーンセル基地局寄りのセル境界に位置するUE31における大ゾーンセル信号及び地上セル信号の受信タイミング差を抑制することができる。
【0084】
〔送信タイミングの制御例3〕
図13は、本実施形態に係る大ゾーンセル基地局150の移動前の地上セル基地局10における送信タイミングの更に他の制御例を示す説明図である。また、
図14は、
図13の位置から大ゾーンセル基地局が移動した後の地上セル基地局における送信タイミングの更に他の制御例を示す説明図である。なお、
図13及び
図14の制御例3において、前述の
図9及び
図10の制御例1並びに
図11及び
図12の制御例2と共通する部分については説明を省略する。
【0085】
マクロセル基地局側のセル境界及び反対側のセル境界における大ゾーンセル信号及び地上セル信号の受信タイミング差は、内部クロックの出力変動等、前述の時間同期方法に起因した基地局間の同期誤差(±Δt)の影響を受ける。
【0086】
また、前述のように絶対値が同一の受信タイミング差であっても、その受信タイミング差の正負により通信品質(例えばスループット)が異なる。
例えば、大ゾーンセル信号よりも地上セル信号が早く受信されると、スモールセルのサブフレームの先頭部分がマクロセルからの干渉を受けるが、PDSCH(データ信号)がマクロセルから直接受ける干渉が無いため、通信品質(例えばスループット)の低下は小さい。
一方、大ゾーンセル信号よりも地上セル信号が遅く受信されると、スモールセルのサブフレームの後部がマクロセルからの干渉を受ける。そのため、PDSCH(データ信号)がマクロセルから直接干渉を受け、通信品質(例えばスループット)特性が大きく劣化する。
従って、地上セル信号の受信タイミングが早いほうが通信品質(例えばスループット)が高くなる。
【0087】
そこで、本制御例3では、
図13及び
図14に示すように、基地局間の同期誤差(±Δt)の影響と、地上セル信号の受信タイミングと通信品質との関係とを考慮して、地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームの送信タイミングを更に補正している。
【0088】
図13中の地上セル10Aの送信タイミングTt2’は、前述の制御例1又は2で補正して設定された送信タイミングである。ここで、基地局間の時間同期の同期誤差(±Δt)があると、地上セル10Aの送信タイミングTt2’はTt2’−ΔtとTt2’+Δtとの範囲で変動する。この範囲内で最も遅い送信タイミングTt2’+Δtになると、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局寄りのセル境界において、地上セル信号の受信タイミングが大ゾーンセル信号よりも遅くなって通信品質が劣化してしまう。
【0089】
そこで、
図13及び
図14の制御例3では、基地局間の時間同期の同期誤差(±Δt)に応じて同期誤差補正用のオフセット値τ(Δt)を設定し、その同期誤差補正用のオフセット値τ(Δt)だけ地上セル10Aにおける下りリンク無線通信フレームの送信タイミングを早めるように、前記制御例1、2で補正した送信タイミングTt2’、Tt2’’’を更に補正している。
【0090】
例えば、前記制御例1において、地上セル基地局10と大ゾーンセル基地局150それぞれの時間同期の同期誤差を想定し、大ゾーンセル基地局150が最大で早まる時間と地上セル基地局10が最大で遅れる時間の和を同期誤差補正用のオフセット値τと定義し、その同期誤差補正用のオフセット値τだけ、地上セル10Aにおける送信タイミングを更に補正してもよい。
【0091】
また例えば、前記制御例2において、前述のマクロセル基地局側のセル境界及びその反対側のセル境界それぞれの通信品質(例えばスループット)を計算する際に、地上セル基地局10と大ゾーンセル基地局150それぞれに時間同期誤差が発生しているものと仮定して、前述の最も悪い通信品質(例えば最小のスループット)を計算してもよい。
【0092】
本制御例3によれば、通信中継装置15の大ゾーンセル基地局150が移動する場合でも、地上セル10Aの大ゾーンセル基地局寄りのセル境界において、基地局間の同期誤差(±Δt)によって通信品質(例えばスループット)が低下するのを回避することができる。
【0093】
以上、本実施形態によれば、互いに同一の周波数帯域が用いられるオーバレイセル構成の地上セル10A及び大ゾーンセル15Aの少なくとも一方のサブフレームの一部について少なくともデータ信号の送信を停止する干渉制御を適用する場合に、大ゾーンセル基地局150が移動して基地局間の距離d
MSが変化しても、大ゾーンセル基地局150及び地上セル基地局10からUE31への受信タイミング差による時間軸上のセル間干渉に起因した地上セル10Aにおける通信品質(例えばスループット)の低下を抑制することができる。
【0094】
なお、上記実施形態では、地上セル10A及び大ゾーンセル15Aのオーバレイ構成の場合について説明したが、この構成に限定されることなく、本発明は、互いにサイズが異なる複数のセルのオーバレイ構成について適用することができる。また、上記実施形態では、通信中継装置15の大ゾーンセル基地局150が移動する場合について説明したが、本発明は、大ゾーンセル15A内に位置するマクロセル基地局又はスモールセル基地局が移動する場合にも適用することができる。
【0095】
また、本実施形態では、LTE/LTE−Advancedへの適用を前提に説明したが、LTE/LTE−Advancedと類似のOFDM(直交周波数分割多重)方式の下りリンクの無線通信、無線通信フレーム、OFDMシンボルなどを用いるシステムであれば、本発明の概念はどのようなシステムにも適用可能であり、さらに本実施形態に示した送信機および受信機の構成に限定されない。
【0096】
また、本明細書で説明された処理工程並びに移動通信システム、大ゾーンセル基地局150、地上セル基地局10及びユーザ端末装置(移動局)30,31の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0097】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種無線通信装置、Node B、端末、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0098】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASHメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0099】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であれよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0100】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。