特許第6704449号(P6704449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704449
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】硬化性フルオロエラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20200525BHJP
   C08K 5/30 20060101ALI20200525BHJP
   C08K 5/33 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C08L27/12
   C08K5/30
   C08K5/33
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-522579(P2018-522579)
(86)(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公表番号】特表2018-532030(P2018-532030A)
(43)【公表日】2018年11月1日
(86)【国際出願番号】US2015058090
(87)【国際公開番号】WO2017074395
(87)【国際公開日】20170504
【審査請求日】2018年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390023674
【氏名又は名称】イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アミヤ ラタン トリパシー
(72)【発明者】
【氏名】ピーター エー.モーケン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ジェイ.ビッシュ
【審査官】 岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−509690(JP,A)
【文献】 特表2011−516693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/16
C08K 3/00 −13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性組成物であって、
A)ニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合した単位を含むフルオロエラストマー;及び
B)一般式R1(C=NY)n2(式中、n=1又は2であり、Y=OH又はNH2であり、R1はアリール、アルキル、パーフルオロアルキル、ベンジル、又はヘテロ環であり、R2はアリール又はヘテロ環である)のヒドラゾン又はオキシム;
を含むが、但し、前記一般式R1(C=NY)n2のオキシムはジベンゾイルジオキシムではない、硬化性組成物。
【請求項2】
nが1であり;R1がアリールであり、R2がアリールであり、YがNH2である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
nが1であり;R1がアリールであり、R2がアリールであり、YがOHである、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
nが1であり;R1がアリール又はヘテロ環であり、R2がアリールであり、YがNH2である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
n=2であり、前記ヒドラゾンがC65(C=NNH2265である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
1及びR2がアリールであり、互いに縮合してフルオレニルを形成しており、YがNH2である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
適切な量のヒドラゾン又はオキシムが、前記硬化性組成物の最大のムービングダイレオメータ(MDR)トルク及び最小のムーニースコーチの発現に必要とされる時間によって選択される、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項8】
カルボニル基が前記ヒドラゾン又はオキシムと隣接していない、請求項7に記載の硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1の組成物から製造される硬化した物品。
【請求項10】
請求項8の組成物から製造される硬化した物品。
【請求項11】
硬化性組成物であって、
A)ニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合した単位を含むフルオロエラストマー;及び
B)一般式R1(C=NNH2n2(式中、n=1又は2であり、R1は、アリール、アルキル、パーフルオロアルキル、又はヘテロ環であり、R2はアリール又はヘテロ環である)のヒドラゾン;
からなる、硬化性組成物。
【請求項12】
少なくとも168時間、225℃の水に曝した後にASTM D1414に準拠して測定される、1%未満の体積膨潤;及び、ASTM D395に準拠して測定される、70%未満の圧縮永久歪み(300℃、70時間、15%の圧縮);を有する請求項11に記載の組成物から製造される、硬化した物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性フルオロエラストマー組成物に関し、より詳しくは、硬化剤としての特定のヒドラゾン又はオキシムを含有するフルオロエラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロエラストマーは、顕著な商業的成功を収めており、過酷な環境に遭遇する幅広い用途、特には高温及び反応性の高い薬品への曝露が生じる最終用途で使用されている。例えば、これらのポリマーは、多くの場合、航空機のエンジン用シールの中で、油井掘削装置の中で、及び高温で作動する工業機器用のシーリング部材の中で、使用される。
【0003】
フルオロエラストマーの極めて優れた特性は、主にこれらの組成物中のポリマー主鎖の大部分を占める共重合したフッ素化されたモノマー単位の安定性及び不活性により生じる。そのようなモノマーとしては、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、及びパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルが挙げられる。 エラストマー特性を完全に発現させるためには、フルオロエラストマーは典型的には架橋される。すなわち加硫される。この目的のために、わずかな割合の硬化部位モノマーがフッ化モノマー単位と共重合される。例えばパーフルオロ−8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテンなどの少なくとも1つのニトリル基を含む硬化部位モノマーが特に好ましい。そのような組成物は、米国特許第4,281,092号明細書;米国特許第4,394,489号明細書;米国特許第5,789,489号明細書;及び米国特許第5,789,509号明細書の中に記載されている。
【0004】
ビスアミドオキシム(米国特許第5,668,221号明細書)及びビスアミドラゾン(米国特許第5,605,973号明細書;米国特許第5,637,648号明細書)は、ニトリル基硬化部位を有するフルオロエラストマーのための加硫剤として使用されてきた。これらの硬化はスコーチを生じやすい場合がある。つまり、組成物の最終成形前に架橋が開始する場合がある。また、硬化剤は高価な出発物質からの複雑な多段階合成を必要とする。
【0005】
ニトリル基硬化部位を有するフルオロエラストマーを架橋するために、他の窒素含有求核性化合物が用いられてきた(米国特許第6,638,999B2号明細書)。これらの硬化剤の中にはスコーチを生じやすいものがある一方で、ゴム練り温度で揮発するものもある。
【0006】
ペンダント型のアミドラゾン又はアミドキシム基を有するフルオロポリマーも公知である(米国特許第7,300,985B2号明細書)。これらのポリマーは、架橋を形成するために追加的なポリマー修飾工程を必要とする。
【0007】
窒素−窒素結合の近位にカルボニル基を有するアゾ系及びアミド系の組成物が米国特許第9,169,339号明細書(ダイキン工業株式会社)の中で示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多様な環境の中の非常に高い温度で圧縮永久歪みを与える、硬化性組成物が依然として産業界で必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ニトリル基硬化部位を有するフルオロエラストマーと、硬化剤としての特定のヒドラゾン又はオキシムとを含む、硬化性フルオロエラストマー組成物に関する。より詳しくは、本発明は、
A)ニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合した単位を含むフルオロエラストマー;及び
B)一般式R1(C=NY)n2 (式中、n=1又は2であり、Y=OH又はNH2であり、R1はアリール、アルキル、ベンジル、パーフルオロアルキル、又はヘテロ環であり、R2はアリール又はヘテロ環である)のヒドラゾン又はオキシム硬化剤;
を含む、硬化性組成物に関する。
【0010】
本発明のもう1つの態様は、上の組成物から製造される硬化した物品である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中では、本明細書に記載のコンパウンド中の硬化剤が記述される。また、本明細書中では、そのようなコンパウンドを含む、硬化した物品及び硬化前の物品も記述される。また、本明細書中では、本明細書に記載のコンパウンドを硬化させるための方法も記述される。
【0012】
本発明の組成物中で用いられ得るフルオロエラストマーは、部分的にフッ素化されていても完全にフッ素化されていてもよい。フルオロエラストマーは、好ましくは、フルオロエラストマーの総重量基準で25〜70重量%の、フッ化ビニリデン(VF2)又はテトラフルオロエチレン(TFE)であってもよい第1のモノマーの共重合した単位を含む。フルオロエラストマー中の残りの単位は、フルオロモノマー、炭化水素オレフィン、及びこれらの混合物からなる群から選択される、前記第1のモノマーとは異なる1種以上の追加的な共重合したモノマーから構成される。フルオロモノマーとしては、フッ素含有オレフィン及びフッ素含有ビニルエーテルが挙げられる。
【0013】
フルオロエラストマーを製造するために用いられ得るフッ素含有オレフィンとしては、限定するものではないが、フッ化ビニリデン(VF2)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(1−HPFP)、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(2−HPFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、及びフッ化ビニルが挙げられる。
【0014】
フルオロエラストマーを製造するために用いられ得るフッ素含有ビニルエーテルとしては、限定するものではないが、パーフルオロ(アルキルビニル)エーテルが挙げられる。モノマーとしての使用に好適なパーフルオロ(アルキルビニル)エーテル(PAVE)としては、次の式のものが挙げられる
CF2=CFO(Rf’O)n(Rf”O)mf (I)
(式中、Rf’及びRf”は、2〜6個の炭素原子の異なる直鎖又は分岐のパーフルオロアルキレン基であり、m及びnは、独立に0〜10であり、Rfは、1〜6個の炭素原子のパーフルオロアルキル基である)。
【0015】
好ましい分類のパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルとしては、次式の組成物が挙げられる
CF2=CFO(CF2CFXO)nf (II)
(式中、XはF又はCF3であり、nは0〜5であり、Rfは1〜6個の炭素原子のパーフルオロアルキル基である)。
【0016】
最も好ましい分類のパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルとしては、nが0又は1でありRfが1〜3個の炭素原子を含むエーテルが挙げられる。そのようなパーフルオロ化エーテルの例としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、及びパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が挙げられる。他の有用なモノマーとしては、次式のものが挙げられる
CF2=CFO[(CF2mCF2CFZO]nf (III)
(式中、Rfは1〜6個の炭素原子を有するパーフルオロアルキル基であり、
m=0又は1であり、n=0〜5であり、Z=F又はCF3である)。この分類のうちの好ましい構成要素は、RfがC37であり、m=0であり、n=1であるものである。
【0017】
追加的なパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルモノマーとしては、次式の化合物が挙げられる
CF2=CFO[(CF2CF{CF3}O)n(CF2CF2CF2O)m(CF2p]Cx2x+1 (IV)
(式中、m及びnは独立に=0〜10であり、p=0〜3であり、x=1〜5である)。この分類のうちの好ましい構成要素としては、n=0〜1であり、m=0〜1であり、x=1である化合物が挙げられる。
【0018】
有用なパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)の他の例としては、
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1 (V)
(式中、n=1〜5であり、m=1〜3であり、好ましくはn=1である)が挙げられる。
【0019】
PAVEの共重合した単位が本発明で用いられるフルオロエラストマー中に存在する場合、PAVEの含有量は、通常、フルオロエラストマーの総重量基準で25〜75重量%の範囲である。パーフルオロ(メチルビニルエーテル)が使用される場合、フルオロエラストマーは、好ましくは30〜65重量%の共重合したPMVE単位を含む。
【0020】
本発明の中で用いられるフルオロエラストマー中で有用な炭化水素オレフィンとしては、限定するものではないが、エチレン及びプロピレンが挙げられる。炭化水素オレフィンの共重合した単位がフルオロエラストマー中に存在する場合、炭化水素オレフィンの含有量は、通常、4〜30重量%である。
【0021】
フルオロエラストマーは、少なくとも1種の硬化部位モノマーの共重合した単位を、通常は0.1〜5モルパーセントの量で更に含む。範囲は好ましくは0.3〜1.5モルパーセントである。1種より多い硬化部位モノマーが存在していてもよいものの、最も一般的には1種の硬化部位モノマーが使用され、これは少なくとも1つのニトリル置換基を含む。好適な硬化部位モノマーとしては、ニトリル含有フッ化オレフィン及びニトリル含有フッ化ビニルエーテルが挙げられる。有用なニトリル含有硬化部位モノマーとしては、下に示す式のものが挙げられる。
CF2=CF−O(CF2n−CN (VI)
(式中、n=2〜12であり、好ましくは2〜6である);
CF2=CF−O[CF2−CFCF3−O]n−CF2−CFCF3−CN (VII)
(式中、n=0〜4であり、好ましくは0〜2である);
CF2=CF−[OCF2CFCF3x−O−(CF2n−CN (VIII)
(式中、x=1〜2であり、n=1〜4である);及び
CF2=CF−O−(CF2n−O−CF(CF3)CN (IX)
(式中、n=2〜4である)。
式(VIII)のものが好ましい。特に好ましい硬化部位モノマーは、ニトリル基とトリフルオロビニルエーテル基とを有するパーフルオロポリエーテルである。最も好ましい硬化部位モノマーは、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN (X)
、すなわち、パーフルオロ(8−シアノ−5−メチル−3,6−ジオキサ−1−オクテン)又は8−CNVEである。
【0022】
本発明の第1の態様は、ニトリル含有フッ化オレフィンとニトリル含有フッ化ビニルエーテルとからなる群の中から選択される硬化部位モノマーの共重合した単位を含むフルオロエラストマー;及び特定のヒドラゾン又はオキシム;を含む、硬化性組成物である。ヒドラゾン又はオキシムは、モノ−又はジ−の、ヒドラゾン又はオキシムであってもよく、硬化剤として含まれていてもよい。
【0023】
ヒドラゾン又はオキシムは、一般式R1(C=NY)n2(式中、n=1又は2であり、Y=OH又はNH2であり、R1は、アリール、アルキル、パーフルオロアルキル、又はヘテロ環であり、R2はアリール又はヘテロ環である)のものである。R1とR2の両方がアリールである場合、これらはフルオニル基(本明細書の実施例3を参照)のように縮合していてもよい。アルキル、アリール、ベンジル、パーフルロアキル(perfluroakyl)、又はヘテロ環基は、限定するものではないが、ハロゲン、エーテル、又はアミド基などの追加的な官能基を含んでいてもよい。パーフルオロアルキル基は、フッ素によって置換された少なくとも1つの水素原子を有する。分解してこれらのヒドラゾン又はオキシムのうちの一つを形成する化合物も、本発明の組成物の中で用いることができる。ヒドラゾン又はオキシムは、例えば塩酸塩などの塩であってもよい。
【0024】
好ましいヒドラゾン又はオキシムとしては、nが1であり;R1がアリールであり、R2がアリールであるものが挙げられる。最も好ましい硬化性組成物はn=2である硬化剤を含み、硬化剤はC65(C=NNH2265である。
【0025】
本発明のこれらのヒドラゾンは、ポリマー鎖と結合しているニトリル基の二量化を生じさせて1,2,4−トリアゾール環を形成することにより硬化剤として作用し、その結果フルオロエラストマーが架橋されるとの理論が立てられる。本発明のヒドラゾンは、ヒドラジン又はカルバジン酸t−ブチルなどの硬化剤よりも揮発性が小さく、このため硬化剤が混合工程及び成形工程時に逃げにくい。
【0026】
これらのフルオロエラストマーの主成分として、あるいは硬化剤のみとしてのいずれかで有用であるためには、ヒドラゾン又はオキシムの量は、フルオロエラストマー100部当たり約0.05〜7部のヒドラゾン又はオキシム、好ましくはフルオロエラストマー100部当たり約0.1〜3部のヒドラゾン又はオキシム、最も好ましくはフルオロエラストマー100部当たり約0.5〜2部のヒドラゾン又はオキシムである必要がある。本明細書において、別段の指示がない限り、「部」は重量部のことをいう。
【0027】
適切な量のヒドラゾン又はオキシムは、例えば硬化性組成物の最大のムービングダイレオメータ(MDR)トルク及び最小のムーニースコーチの発現までの時間などの、硬化特性を考慮することによって選択することができる。最適な量は、フルオロエラストマーとヒドラゾン又はオキシムとの具体的な組み合わせに依存するであろう。
【0028】
任意選択的には、ヒドラゾン又はオキシム硬化剤と組み合わせて、例えば硬化温度でアンモニアを放出する化合物などの硬化促進剤を使用してもよい。硬化温度で分解してアンモニアを放出する化合物の例としては、米国特許第6,281,296B1号明細書及び米国特許出願公開第2011/0009569号明細書に開示されているものが挙げられる。
【0029】
任意選択的には、ヒドラゾン又はオキシムに加えて、ニトリル基硬化部位を有するフルオロエラストマーを架橋するために一般的に用いられる別の硬化剤を使用してもよい。そのような他の硬化剤の例としては、限定するものではないが、ジアミノビスフェノールAF、2,2−ビス(3−アミノ−4−アニリノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、モノ−若しくはビス−アミジン、モノ−若しくはビス−アミドラゾン、モノ−若しくはビス−アミドキシム、又は有機過酸化物プラス助剤が挙げられる。
【0030】
フルオロエラストマーの混錬で典型的に使用される、カーボンブラック、フルオロポリマー微細粉末、安定化剤、可塑剤、潤滑剤、フィラー、及び加工助剤などの添加剤は、これらが意図される使用条件のための十分な安定性を有している限り、本発明の組成物の中に組み込むことができる。
【0031】
本発明の硬化性組成物は、標準的なゴム混錬手順を使用して、フルオロエラストマー、ヒドラゾン又はオキシム、及び他の成分を混合することにより調製することができる。例えば、成分は、ゴム用二本ロールミル上で、例えばバンバリー(登録商標)インターナルミキサーなどのインターナルミキサーの中で、又は押出機の中で混合することができる。硬化性組成物は、その後、熱及び/又は圧力をかけることによって架橋(すなわち硬化)させることができる。圧縮成形が利用される場合、通常はプレス硬化サイクルの後に、プレス硬化された組成物を300℃を超える高温で数時間加熱する間に後硬化サイクルが行われる。
【0032】
本発明のヒドラゾン硬化性組成物は、ガスケット、チューブ、及びシールなどの硬化物品の製造において有用である。硬化した物品は、通常、様々な添加剤を有する硬化性組成物の混錬した配合物を、加圧下で成型し、パーツを硬化させ、その後これに対して後硬化サイクルを行うことによって、製造することができる。硬化した組成物は、非常に優れた熱安定性、蒸気及び薬品に対する耐性を有する。少なくとも168時間、好ましくは少なくとも336時間、225℃の水に曝した後の体積膨潤(ASTM D1414)は、1%未満である。同様に、圧縮永久歪み、300℃、70時間、15%の圧縮(ASTM D395)は、70%未満である。硬化した組成物は、半導体デバイスの製造のためのシール及びガスケットなどの用途において、並びに高温での自動車用途のためのシールにおいて、特に有用である。
【0033】
フルオロプラスチックなどの、ニトリル硬化部位を含む他のフルオロポリマーが、本発明の組成物中のフルオロエラストマーの代用とされてもよい。
【0034】
ここで本発明を特定の実施形態によって説明するが、特段の記載がない限り、この中の全ての部は重量基準である。
【実施例】
【0035】
試験方法
硬化特性
硬化特性は、次の条件でMonsanto MDR 2000装置を使用して測定した:
ムービングダイ周波数:1.66Hz
振幅振動:±0.5度
温度:別段の記載がない限り190℃
試料の大きさ:直径1.5インチ(38mm)のディスク
試験時間:30分
次の硬化パラメータを記録した:
H:最大トルクレベル、dN・m単位
L:最小トルクレベル、dN・m単位
Tc90:最大トルクの90%までの時間、分
【0036】
試験片は、下の実施例に列挙されている配合の中で記載されている通り、適切な添加剤と共に混錬したエラストマーから作製した。混錬はゴムミル上で行った。圧延した組成物をシート状に成形し、10gの試料をディスク形状に打ち抜いて試験片を形成した。
【0037】
O−リング試料の圧縮永久歪みは、ASTM D395に準拠して決定した。平均値が報告される。
【0038】
水中での体積膨潤は、ASTM D1414に準拠して表中で示されている時間225℃で測定した。
【0039】
実施例では次のフルオロエラストマーポリマーを使用した:
FFKM−61.8モル%のTFE単位、37.4モル%のPMVE単位、及び0.80モル%の8−CNVE単位を含むターポリマーは、米国特許第5,789,489号明細書に記載の一般的な方法に従って調製した。
【0040】
実施例1〜3
本発明の硬化性組成物は、表Iに示されている割合でゴム用二本ロールミル上で混錬した。混錬した組成物は、表I中で、実施例1(ベンジルジヒドラゾン、CAS#4702−78−7、Sigma−Aldrichから入手可能)、実施例2(ベンゾフェノンヒドラゾン、CAS#5350−57−2、Sigma−Aldrichから入手可能)、及び実施例3(9−フルオレノンヒドラゾン、CAS#13629−22−6、Alfa−Aesarから入手可能)と表示されている。混錬された組成物の硬化特性も表1中に示されている。O−リングは、Tc90+5分間、190℃の温度で硬化性組成物を加圧硬化した後、室温から徐々に昇温させた後に305℃の温度で26時間、窒素雰囲気中で後硬化させることによって製造した。圧縮永久歪み及び体積膨潤の値も表I中に示されている。
【0041】
【表1】
【0042】
比較例1及び2
本発明の組成物は、表IIに示されている割合でゴム用二本ロールミル上で混錬した。混錬した組成物は、ラベル付けされている比較例1及び2(ベンジルモノヒドラゾン、CAS#5344−88−7、Acros Organicsから入手可能)であり、混錬された組成物の硬化特性も表II中に示されている。
【0043】
【表2】
【0044】
比較例1及び2によって示されているように、ヒドラゾン基に隣接してカルボニル基を有する硬化剤は、表II中の非常に低いMH(dN・m)値からから明らかなように、有効な架橋剤ではない。