(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704465
(24)【登録日】2020年5月14日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】エネルギー貯蔵装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20200525BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20200525BHJP
H01M 10/04 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/04 Z
【請求項の数】12
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-546903(P2018-546903)
(86)(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公表番号】特表2019-511811(P2019-511811A)
(43)【公表日】2019年4月25日
(86)【国際出願番号】GB2017050550
(87)【国際公開番号】WO2017158319
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2018年9月6日
(31)【優先権主張番号】1604351.5
(32)【優先日】2016年3月15日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500024469
【氏名又は名称】ダイソン・テクノロジー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・レンドール
【審査官】
松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−501388(JP,A)
【文献】
特開平04−269721(JP,A)
【文献】
特表2009−544141(JP,A)
【文献】
特開2003−226955(JP,A)
【文献】
特開平01−021870(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0263855(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/00−10/04
H01M 10/06−10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1電極層と、第1集電層と、前記第1電極層と前記第1集電層との間に配置された電解質層とを含むスタックを形成するステップと、
前記第1電極層及び前記電解質層を貫通して前記スタックに第1の溝を形成し、それにより前記第1電極層及び前記電解質層の露出した縁部を形成するステップと、
前記第1の溝の少なくとも一部を電気絶縁材料で充填し、それにより前記第1電極層及び前記電解質層の露出した縁部を前記絶縁材料で覆うステップと、
前記第1集電層の露出した縁部を形成するために、前記第1の溝の少なくとも一部に沿って前記絶縁材料及び前記第1集電層を切断するステップと
を含む、エネルギー貯蔵装置の製造方法。
【請求項2】
前記スタックは、前記第1電極層と連結された第2集電層をさらに含み、前記第1電極層及び前記電解質層は、前記第1及び第2集電層の間に配置され、前記第1の溝は、前記第2集電層を貫通して前記スタックに形成され、それにより前記第2集電層の露出した縁部を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気絶縁材料は、前記第2集電層の露出した縁部を覆う、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1集電層、前記電解質層及び前記第1電極層を貫通して前記スタックに第2の溝を形成し、それにより前記第1集電層、前記電解質層及び前記第1電極層の露出した縁部を形成するステップと、
前記第2の溝の少なくとも一部を電気絶縁材料で充填し、それにより前記第1集電層、前記電解質層及び前記第1電極層の露出した縁部を覆うステップと、
前記第2集電層の露出した縁部を形成するために、前記第2の溝の少なくとも一部に沿って前記絶縁材料及び前記第2集電層を切断するステップと
をさらに含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1集電層は第2電極層を形成する、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記スタックは、前記第1集電層と前記電解質層との間に配置された第2電極層をさらに含み、前記第1の溝は、前記第2電極層を貫通して形成される、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の溝は、レーザー切断作業によって形成される、請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
ガス状モノマーがレーザー切断作業中に前記第1及び/又は第2の溝の領域に供給され、その結果、ガス状ポリマーが前記溝内でレーザー切断作業によって重合して前記電気絶縁材料を形成する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の溝の少なくとも一部を電気絶縁材料で充填するステップは、前記溝の少なくとも一部を液体で充填するステップを含む、請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記液体は、有機懸濁液体材料を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記液体は、前記溝内で硬化される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記エネルギー貯蔵装置は電気化学セルである、請求項1から11の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵装置の製造方法に関し、特に、限定はしないが、固体電解質を有する薄膜セルを含むエネルギー貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電極、電解質及び集電体の層を含む固体状態の薄膜セルは、典型的に、基板上に形成された第1集電層と、電極層と、電解質層と、第2電極層と、第2集電層とを含むスタックを最初に形成することによって製造される。次いで、スタックを別個のセクションに切断して、個々のセルを形成する。各セルはそして、層の不動態化及び可能性のある短絡を防止するために保護層で被覆することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
セルとの電気的接続を形成するために、例えば、積み重ねられた複数のセルの集電体を電気的に接続するために、保護層の一部を、例えばエッチングによって除去する。代替的に、各集電体の一部が露出した状態のまま残ることを保証するために、コーティングプロセスの前にマスクを適用することができる。それぞれの場合において、マスキング又はエッチングの追加のステップは、複雑さを加え、製造プロセスの費用が高くかかる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、少なくとも第1電極層と、第1集電層と、前記第1電極層と前記第1集電層との間に配置された電解質層とを含むスタックを形成するステップと、前記第1電極層及び前記電解質層を貫通して前記スタックに第1の溝を形成し、それにより前記第1電極層及び前記電解質層の露出した縁部を形成するステップと、前記第1の溝の少なくとも一部を電気絶縁材料で充填し、それにより前記第1電極層及び前記電解質層の露出した縁部を前記絶縁材料で覆うステップと、前記第1集電層の露出した縁部を形成するために、前記第1の溝の少なくとも一部に沿って前記絶縁材料及び前記第1集電層を切断するステップと、を含むエネルギー貯蔵装置の製造方法が提供される。
【0005】
本発明は、セルスタックの一部を形成する他のセルに容易に電気的に接続することができる露出した集電体を有する固体セル(solid−state cell)を製造する簡単で高速かつ低鋳造(low cast)の方法を提供する。
【0006】
前記スタックは、前記第1電極層と連結された第2集電層をさらに含むことができ、前記第1電極層及び前記電解質層は前記第1及び第2集電層の間に配置される。前記第1の溝は、前記第2集電層を貫通して前記スタックに形成され、それにより前記第2集電層の露出した縁部を形成することができる。
【0007】
前記電気絶縁材料は、前記第2集電層の露出した縁部を覆ってもよい。
【0008】
本方法は、前記第1集電層、前記電解質層及び前記第1電極層を貫通して前記スタックに第2の溝を形成し、それにより前記第1集電層、前記電解質層及び前記第1電極層の露出した縁部を形成するステップと、前記第2の溝の少なくとも一部を電気絶縁材料で充填し、それにより前記第1集電層、前記電解質層及び前記第1電極層の露出した縁部を覆うステップと、前記第2集電層の露出した縁部を形成するために、前記第2の溝の少なくとも一部に沿って前記絶縁材料及び前記第2集電層を切断するステップと、をさらに含んでもよい。
【0009】
前記第1集電層は第2電極層を形成することができる。代替的に又は追加的に、前記スタックは、前記第1集電層と前記電解質層との間に配置された第2電極層をさらに含んでもよく、前記第1の溝はさらに、前記第2電極層を貫通して形成される。
【0010】
前記第1及び/又は第2の溝は、レーザー切断作業によって形成されてもよい。ガス状モノマーがレーザー切断作業中に前記第1及び/又は第2の溝の領域に供給されてもよく、その結果、ガス状ポリマーが前記溝内でレーザー切断作業によって重合して前記電気絶縁材料を形成する。前記第1の溝の少なくとも一部を電気絶縁材料で充填するステップは、前記溝の少なくとも一部を液体で充填するステップを含んでもよい。前記液体は、有機懸濁液体材料を含むことができる。前記液体は、前記溝内で硬化されてもよい。前記エネルギー貯蔵装置は電気化学セル又はキャパシタであってもよい。
【0011】
本発明をより良く理解し、本発明がどのように実施されるかをより明確に示すために、本発明を以下の図面を参照して例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】複数のセルを含むエネルギー貯蔵装置の概略図である。
【
図2】セルが電気的に接続されている
図1に示すエネルギー貯蔵装置の概略図である。
【
図3a】
図1に示すエネルギー貯蔵装置のセルの製造方法を説明する図である。
【
図3b】
図1に示すエネルギー貯蔵装置のセルの製造方法を説明する図である。
【
図3c】
図1に示すエネルギー貯蔵装置のセルの製造方法を説明する図である。
【
図3d】
図1に示すエネルギー貯蔵装置のセルの製造方法を説明する図である。
【
図3e】
図1に示すエネルギー貯蔵装置のセルの製造方法を説明する図である。
【
図3f】
図1に示すエネルギー貯蔵装置のセルの製造方法を説明する図である。
【
図3g】
図1に示すエネルギー貯蔵装置のセルの製造方法を説明する図である。
【
図3h】
図1に示すエネルギー貯蔵装置のセルの製造方法を説明する図である。
【
図4】
図3a〜
図3hで説明する方法の変形例の概略図である。
【
図5】破線で囲んだ領域内の
図4の部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、第2電気化学セル4の上に配置された第1電気化学セル2を含むエネルギー貯蔵装置1を示す。第1及び第2セル2,4は同一である。しかしながら、第1セル2は反転されている。各セル2,4は、(セル2,4の放電中にアノードとなる)負極層を形成する負の集電層6と、電解質層8と、(セル2,4の放電の際にカソードとなる)正極層10と、正の集電層12とを有するスタックを含む。各セル2,4は、絶縁材料14,16によって対向する側面(opposite sides)に沿って境界が定められている。
【0014】
(
図1に示すように)各セル2,4の左側では、絶縁材料14が、電解質層8、正極層10及び正の集電層12の縁部を覆っている。各セル2,4の左側における負の集電層/負極層6の縁部は、露出している。
【0015】
(
図1に示すように)各セルの右側では、絶縁材料16が、負の集電層/負極層6、電解質層8及び正極層10の縁部を覆っている。各セル2,4の右側における正の集電層12の縁部は、露出している。
【0016】
エネルギー貯蔵装置1の利点は、
図2に示すように、2つのセル2,4の対向する側面に沿って電気コネクタ18,20を設けることができ、その結果、左側の電気コネクタ18は各セル2,4の負の集電層6と接触するが、絶縁材料14によって他の層との接触が防止され、右側の電気コネクタ20は正の集電層12と接触するが、絶縁材料16によって他の層との接触が防止されることである。従って、絶縁材料14,16は、集電層6,12と各セル2,4内の他の層との間の短絡を防止する。電気コネクタ18,20は、例えば、スパッタリングによってスタックの縁部に塗布された金属材料であってもよい。従って、セル2,4は、簡単かつ容易に並列に接合することができる。
【0017】
次に、
図1及び
図2に示すセルの製造方法を、
図3a〜
図3hを参照して説明する。
【0018】
図3aは、ニッケル箔を含む正の集電層12を示しているが、アルミニウム、銅又は鋼などの適切な金属、又はポリエチレンテレフタレート(PET)上のアルミニウムのような金属化プラスチックを含む金属化材料を使用できることを理解されたい。第1正極層10は、例えば、
図3bに示すように、フラッド堆積(flood deposition)又は蒸着によって、集電層12上に堆積される。正極層10は、放電中にカソードを形成し、リチウムコバルト酸化物又はリン酸鉄リチウム又はアルカリ金属ポリスルフィド塩のような安定した化学反応によりリチウムイオンを貯蔵するのに適した材料を含むことができる。
図3cに示すように、電解質層8が正極層10の上に堆積される。電気化学セルの場合、電解質層は、イオン伝導性であるが電気絶縁体でもあるリン酸リチウムオキシナイトライド(LiPON)などの任意の適切な材料を含むことができる。スタックの組み立てを完了する
図3dに示すように、負極層6が電解質層8の上に堆積される。負極層6はまた、(放電中にアノードとして作用する)負の集電体を提供する。代替の実施形態では、負の集電体及び負極層は、別個の層であってもよい。負極層は、リチウム金属、グラファイト、シリコン又はインジウムスズ酸化物を含むことができる。負の集電体が別個の層である実施形態では、負の集電体はニッケル箔を含んでもよいが、アルミニウム、銅又は鋼などの適切な金属、又はポリエチレンテレフタレート(PET)上のアルミニウムのような金属化プラスチックを含む金属化材料を使用できることを理解されたい。各層は、フラッド堆積によって堆積することができ、これは、高度に均質な層を製造する簡単で効果的な方法を提供する。
【0019】
レーザー切断工具を使用して、
図3eに示すように、スタックの上部及び下部に平行な交互溝22,24を切断する。スタックの下部の溝22は、スタックの上部の溝24からオフセットされている。下部溝22と隣接する上部溝24との間のスタックの領域は、単一のセルに相当する。
【0020】
スタックの下部の各溝22は、集電層12、正極層10及び電解質層8を貫通して負極層6まで切断される。
【0021】
スタックの上部の各溝24は、負極層6、電解質層8及び正極層10を貫通して集電層12まで切断される。
【0022】
切断作業により、各溝内に露出した各層に沿った縁部が形成され、上部溝24内の集電層12の上面の一部及び下部溝22内の負極層6の下面の一部が露出される。各溝の深さは、所望の層のみを切断し、無傷のままであるべき層の除去を防止するか、又は少なくとも最小にするために、極めて正確でなければならないことを理解されたい。必要な精度を提供することが期待されるため、デュアルフォトンレーザー切断技術が好ましい切断プロセスである。しかしながら、他の適切な切断プロセス、例えば、溝を形成するため及び/又はセルを分離するために材料を除去するのに適した任意のプロセスなどを、各ステップに使用してもよい。溝を形成する各ステップ及びセルを分離するために異なる切断技術を使用することができ、例えば、超音波切断の後にガス噴射を行ってもよい。
【0023】
図示された実施形態において、切断作業は、切断プロセスによって形成された層の縁部及び集電層12の現れた(revealed)上面及び各溝の底部の負極層6の現れた下面において切断作業中に重合するガス状モノマーを含む環境で行われる。ポリマーは、
図3fに示すように、溝内の層の現れた縁部及び表面の露出した部分を覆う電気絶縁プラグ26,28を提供する。任意の適切なポリマー、エチレン、塩化ビニル又はテトラフルオロエチレンなどを使用することができる。代替の実施形態では、有機懸濁液体材料などの液体で溝を充填し、次いで溝内で液体を硬化させることによって、電気絶縁プラグを形成することができる。
【0024】
ポリマーが配置されたら、
図3gに破線で示すように、スタックを溝22,24に沿って切断し、
図3hに示すような別個のセルにする。切断作業は、レーザーを使用して再度行うことができる。各切断は、絶縁プラグ26,28の中心を通り、その結果、プラグ26,28は2つの部分に分割され、各部分は、それぞれのセル2,4に取り付けられて、縁部及び表面上に保護カバーを形成する。
【0025】
スタック全体の切断により、
図3hに示すように、第1及び第2セル2,4の正の集電層12及び負極層6の露出した縁部が形成される。
【0026】
第2セル4を反転させ、第1セル2の上に配置して、
図1に示すエネルギー貯蔵装置1を製造する。次いで、電気コネクタ18,20、例えば金属層を、事前に説明し
図2に示すように、エネルギー貯蔵装置1の一方の側の各セル2,4の正の集電層12と、エネルギー貯蔵装置1の対向する側の負極層/負の集電層6とを接続するために、エネルギー貯蔵装置1の各側面に沿ったスパッタリングによって形成する。
【0027】
図4及び
図5は、連続したスタックが、例えばロールから引き出されてもよい正の集電層12のシート上に構築されている上述の方法の変形例を示しており、そこから数百及び潜在的には数千のセルが切断され得る。形成されると、スタックは、
図4に示すように、それ自体の上に折り畳まれて、少なくとも十、好ましくは数百、潜在的には数千の層を有するz折り畳み構成を形成し、各絶縁プラグ26,28は、
図5に示すように整列されている。次いで、レーザー切断プロセスを使用し、整列されたプラグのセットのそれぞれに対して1回の切断作業で(
図5の破線で示す)全てのスタックを切断する。
【0028】
スタックは、スタック内での溝の切断の前及びスタックを別個のセルに切断する前に荷電状態となるように形成されてもよい。セルのエネルギー貯蔵構成要素を互いに分離する溝の切断及び/又はスタックを個々のセルに分離する後続の集電層の切断は、製造及び後続のハンドリングプロセスの安全性を向上させることができるが、なぜなら、大量のエネルギーを貯蔵する大きなスタックを取り扱う必要がないからである。
【符号の説明】
【0029】
1 エネルギー貯蔵装置
2 第1電気化学セル
4 第2電気化学セル
6 負の集電層/負極層
8 電解質層
10 正極層
12 正の集電層
14 絶縁材料
16 絶縁材料
18 電気コネクタ
20 電気コネクタ
22 第1の溝
24 第2の溝
26 電気絶縁プラグ
28 電気絶縁プラグ