【実施例】
【0022】
図1に示すように、スーツケース10は、ケース本体11と、このケース本体11にヒンジ12で繋がれた蓋体13と、底に設けた4個の車輪14と、ケース本体11に設けた伸縮ハンドル15と、非伸縮形のハンドル16とを備えている。
【0023】
スーツケース10は、図から90°回転させて、ケース本体11を下にし、蓋体13を上にすることや、側面の脚17を床18に当てるようにすることができる。
本発明では、便宜上、
図1の状態で上下を定める。すなわち、車輪14側を「下」、ハンドル16側を「上」とする。
【0024】
ケース本体11の底又は蓋体13の底13aにボタン20が取付けられている。作図の都合で、ボタン20は、蓋体13の底13aに取付けたが、多くの利用者が伸縮ハンドル15又は非伸縮形のハンドル16に手を添えて、スーツケース10を押し下げることを考えると、ボタン20は、ケース本体11の底に設けることが推奨される。しかし、ボタン20を蓋体13側に設けることは差し支えない。
【0025】
ボタン20を収納するケース22の断面を、
図2(a)で説明する。
図2(a)に示すように、ボタン20は、蓋21に取付けられている。この蓋21は、変換機構30を収納するケース22を塞ぐ部材である。
ボタン20は、ボタン戻しばね23で押し下げられる。ボタン20は、鍔24を備え、この鍔24が蓋21の上面に当たることで、下限位置が規定される。
【0026】
図3に示すように、ワイヤ26の総数は4本である。この4本のワイヤ26に対し、場所を区別する必要があるときには、左手前を示すLf、左奥を示すLr、右手前を示すRf、右奥を示すRrを符号26に添える。
【0027】
変換機構30は、ボタン20の上向き動作を、ワイヤ26の引き動作に変換する機構であり、左手前のワイヤ26Lfと左奥のワイヤ26Lrとの一端が嵌められる左L字部材31Lと、この左L字部材31Lからボタン20の上まで延びる左コ字部材32Lと、右手前のワイヤ26Rfと右奥のワイヤ26Rrとの一端が嵌められる右L字部材31Rと、この右L字部材31Rからボタン20の上まで延びる右コ字部材32Rとからなる。
すなわち、1個のボタン20で4本のワイヤ26を操作することができる。
なお、左コ字部材32L及び右コ字部材32Rに各々軸33が備えられ、これらの軸33がケース(
図2(a)、符号22)に回転自在に支持される。
【0028】
図2(a)にて、ボタン20が床で押し上げられると、左コ字部材32Lが軸33を中心にして図面反時計方向に回転し、右コ字部材32Rが軸33を中心にして図面時計方向に回転する。
図2(b)に示すように、左手前のワイヤ26Lf及び左奥のワイヤ26Lrが、距離L1だけ引かれる。右手前のワイヤ26Rf及び右奥のワイヤ26Rrも同様に引かれる。ボタン20が床から離れると、ボタン戻しばね23の付勢力でボタン20は
図2(a)の位置へ戻る。
【0029】
ところで、ワイヤ26は、信頼性が高く且つ安価な伝動部品であるが、圧縮すると簡単に曲がって伝動性を発揮し得ないため、引っ張りのみで使用される。
そこで、変換機構30は、ボタン20の上昇動作を、ワイヤ26の引き動作に変換する役割を果たす。
なお、変換機構30は、ボタン20の上昇動作を、ワイヤ26の引き動作に変換する機能を発揮する機構であればよく、
図2(a)、(b)に示す構造に限定されるものではない。
【0030】
次に、本発明の主要部品である車輪ホルダー40の構造例を、
図4(a)、(b)に基づいて説明する。
図4(a)に示すように、スーツケース10の下部に車輪ホルダー40を収納する凹部19が設けられている。
車輪ホルダー40は、車輪14を支える車輪支持片41と、この車輪支持片41を昇降自在に支える支持筒42と、車輪支持片41を下方へ付勢するホッピングばね43と、支持筒42に水平移動可能に取付けられ車輪14が凹部19に収納される収納位置と車輪14が凹部19から突出する突出位置とを各々位置決めする位置決め片44と、ワイヤ26の下端に連結され位置決め片44を水平移動させる位置決め片移動機構50とからなる。
【0031】
車輪14は、自在車輪ではない単なる回転輪であってもよいが、方向変化に良好に追従する自在車輪が推奨される。また、車輪14は、実施例では双輪タイプであるが、単輪タイプであってもよい。
自在車輪は、キャスターとも呼ばれ、車輪支持片41に上から下へ鉛直に差し込まれたキャスター軸45と、このキャスター軸45周りに旋回する旋回片46と、この旋回片46に水平に取付けた車軸47と、この車軸47に取付けた車輪14からなる。
キャスター軸45は、回転軸、固定軸の何れであってもよく、要は、旋回片46が旋回すればよい。
【0032】
車輪支持片41は、下へ開口するリテーナ収納凹部41aを有する。このリテーナ収納凹部41aにクッションばね48が収納され、このクッションばね48の下端がリテーナ49で支持され、このリテーナ49がリテーナ収納凹部41aに上下動可能に嵌められている。リテーナ49は、旋回片46に載っており、この旋回片46と一緒に上下に移動する。
【0033】
床18上の凹凸などにより、車輪14に上向き力が加わると、キャスター軸45が車輪支持片41に対して上昇し、クッションばね48が縮む。クッションばね48で外力が吸収され、衝撃が緩和される。外力が消失すると、クッションばね48が伸びて、
図4(a)に戻る。
【0034】
また、車輪支持片41は、側面に上部切欠き51と、下部切欠き52とを有する。
上部切欠き51は、位置決め片44の先端の高さhの1.5倍〜2.5倍程度の長さの底面51aと、この底面51aの下端から延びる斜面51bとを有する。
下部切欠き52も同様に縦長とされる。
【0035】
縁石など大きな障害物に、車輪14が乗り上げた場合、クッションばね48が大きく縮む。クッションばね48のばね反力が一定以上になると、以降は、ホッピングばね43を縮めつつ車輪支持片41が上昇する。
クッションばね48とホッピングばね43との協同作用により、車輪14に加わる小さな外力から大きな外力までに、対応させることができる。
【0036】
好ましくは、クッションばね48は、ホッピングばね43より、ばね常数が小さくする。ばね常数は、線径を小さくすると、小さくなる。
ばね特性が異なる2つのばね43、48により、大きな衝撃吸収作用又は緩和作用が発揮される。特に、車輪14が凹凸に衝突するときに衝突音が発生するが、衝突音を軽減することができ、車輪の静音化を強化することができる。
【0037】
図4(b)は、
図4(a)のb部拡大図である。
図4(b)に示すように、車輪支持片41に、横に延びるピン63を貫通させる。このピン63の一端は、下部切欠き52に、出没させるようにする。ピン63は途中に鍔状のフランジ64を備えている。このようなピン63をリテーナ49側から車輪支持片41へ挿入し、フランジ64に当たるように第3圧縮ばね65を取付け、ナット66を車輪支持片41にねじ込む。
図4(b)では、ピン63がリテーナ49に嵌っていないため、リテーナ49の上下動は自在である。
【0038】
仮に、下部切欠き52に位置決め片44が嵌ると、この位置決め片44で車輪支持片41の上下動が制限されると共に、
図4(b)に示すピン63が図面左へ移動してリテーナ49側の穴49aに嵌り、リテーナ49の上下動が制限される。
よって、
図4(a)の構造であれば、下部切欠き52に位置決め片44が嵌った時点で、ばね43、48の伸びが制限される。
【0039】
図5(a)に示すように、位置決め片移動機構50は、例えば、ワイヤ26で吊られる吊り籠53と、この吊り籠53を下方へ付勢する第1圧縮ばね54と、吊り籠53の側面に設けられたカム溝55とからなる。
カム溝55は、横に延びる横溝56と、この横溝56の一端(車輪支持片(
図4(a)、符号41)側の一端)から下へ延びる湾曲溝57とからなる。この湾曲溝57の下部は、横溝56の他端のほぼ真下に位置する。
【0040】
位置決め片44は、横長の棒形状を呈し、カム溝55に嵌るピン44aを有する。位置決め片44は、第2圧縮ばね58で、車輪支持片(
図4(a)、符号41)側へ付勢される。
【0041】
図4(a)において、利用者がスーツケース10の上面(又は側面上部)を押す。
すると、車輪支持片41に対して、支持筒42及び位置決め片44が下がる。位置決め片44は、上部切欠き51の斜面51bを通過するときに、第2圧縮ばね58が縮む方向へ移動する。
すなわち、
図5(b)に示すように、横溝56をピン44aが進むため、位置決め片44の後退移動が可能となる。ワイヤ26が引かれていなく、吊り籠53が下位位置にある場合には、位置決め片44は横溝56に沿って前進/後退が可能となる。
【0042】
図4(a)にて、利用者がスーツケース10を押し下げると、位置決め片44は、上部切欠き51から下部切欠き52へ移る。
図6に示すように、下部切欠き52に位置決め片44が移ったことにより、車輪14が収納位置に保たれる。このとき、位置決め片44はピン63を前進させる。前進したピン63はリテーナ49に嵌る。結果、リテーナ49と共に車輪14の下への移動が阻止される。
【0043】
また、
図1においては、ボタン20は床18から十分に離れているが、
図6においては、ボタン20は下面が床18に接している。ボタン20の下面と床18との間に摩擦力が発生する。
仮に、床18が傾斜していると、車輪14が回転してスーツケース10が横に移動することが懸念される。しかし、ボタン20と床18との間に摩擦力が発生すれば、この摩擦力でスーツケース10の横移動が阻止される。
【0044】
下部切欠き52は、縦長になっており、
図6において、縦長の分だけ、更にスーツケース10を押し下げることができる。
そこで、スーツケース10を若干押し下げると、支持筒42、蓋21及びケース22が下がる。
【0045】
すると、
図7(a)に示すように、床18によりボタン20が押し上げられる。すると、
図2(a)、(b)で説明したように、ワイヤ26が引かれる。
ワイヤ26が引かれると、吊り籠53が上昇し、
図7(b)に示すように、ピン44aが湾曲溝57で案内されることにより、位置決め片44が後退する。後退により、位置決め片44が下部切欠き52から外れる。
位置決め片44が下部切欠き52から外れると、ホッピングばね43の付勢力で車輪支持片41が下がり、
図4(a)に戻る。
【0046】
すなわち、本発明によれば、
図4(a)に示すスーツケース10を利用者の手で押し下げることで、
図6に示すように、車輪14を収納状態にすることができる。
利用者がスーツケース10を再度押し下げると、
図7を経て、
図4(a)に戻すことができる。
図4(a)では車輪14は突出位置(使用位置)にあるため、車輪14を転がすことにより、スーツケース10を楽に横移動することができる。
利用者は、スーツケース10の上面(又は側面上部)を押し下げるだけであるから、楽な姿勢で車輪を収納位置から使用位置に戻すことができる。
【0047】
なお、スーツケース10は、4個の車輪14を備えるものと、2個の車輪14を備えるものとがある。
2個の車輪14を備えるスーツケース10においては、
図3において奥のワイヤ26Lr、26Rrが省かれ、1個のボタン20で、2本のワイヤ26Lf、26Rfを引くようにする。
したがって、本発明は、少なくとも2個の車輪14を備えるスーツケース10に適用される。
【0048】
次に、本発明に係る変更例を、
図8〜
図10に基づいて説明する。
この変更例では、
図4(a)のワイヤ26を廃止すると共に
図6に示す蓋21、ケース22などを廃止した。
代わりに、
図8に示すように、吊り籠53の真下に、下へ延びるロッド67を設け、このロッド67の下端をボタン20に当てるようにした。このロッド67を囲うようにしてボタン戻しばね23を配置し、このボタン戻しばね23でボタン20を下方へ付勢する。その他の構成は、
図4(a)の符号を流用し、詳細な説明は省略する。
【0049】
この実施例では、ボタン20とロッド67とを別体としたが、これらを一体にしてもよい。一体にしたときには、ボタン戻しばね23を省略することができる。
【0050】
図8では、車輪14が突出位置にある。スーツケース10を押し下げる。
すると、
図9に示すように、車輪支持片41に対して、支持筒42が下がり、下部切欠き52に位置決め片44が嵌り、ボタン20の下面が床18に接する。
【0051】
図9に示すように、車輪14が収納位置にある。収納位置において、ボタン20と床18との間に摩擦力が発生し、スーツケース10の横移動が防止される。
図9から更に、スーツケース10が押し上げられると、
図10に示すように、ボタン20及びロッド67により、吊り籠53が相対的押し上げられる。すると、カム溝55により、位置決め片44が後退し、下部切欠き52から外れる。
【0052】
図10において、ホッピングばね43が伸びることにより、
図8に戻る。
なお、この変更例では、ワイヤ26を省くことができるものの、1個の車輪14に1個のボタン20を備えるため、1個のスーツケース10に複数個(4個又は2個)のボタン20を備える必要がある。
【0053】
尚、スーツケース10は、トランクや旅行鞄や大型バッグを含み、狭義のスーツケースに限定されるものではない。
また、ボタン20の形状は任意であり、要は、床18に当たって上下する部材であればよく、円柱(楕円柱、長円柱を含む。)や角柱(三角柱、四角柱、五角柱以上の多角柱を含む。)であってもよい。