【実施例】
【0055】
[第1実施例]
第1実施例として、実施形態の変性ポリグリコール酸製造の実施例を示す。
【0056】
<変性ポリグリコール酸の製造装置>
図7は、本実施例に係る変性ポリグリコール酸の製造装置700の構成を示す図である。
【0057】
変性ポリグリコール酸の製造装置700は、反応容器701と蓋702からなる耐圧容器と、攪拌装置704と、減圧装置(真空ポンプ)713と、マイクロウェーブ照射装置(マイクロ波発信器)705と、を備える。さらに、変性ポリグリコール酸の製造装置700は、温度調整装置(熱媒油供給部)714と、制御装置720と、排気凝縮装置(熱交換器)707と、凝縮水貯留装置708と、を備える。
【0058】
耐圧容器は、原料としてグリコール酸が投入され、生成された変性ポリグリコール酸が取り出される。攪拌装置704は、耐圧容器の内容物を撹拌する。減圧装置(真空ポンプ)713は、耐圧容器内を負圧にする。マイクロウェーブ照射装置(マイクロ波発信器)705は、内容物にマイクロウェーブを照射する。なお、マイクロウェーブ照射装置705からの導波管には、耐圧容器内の圧力を保全するガラス板706が設けられている。温度調整装置(熱媒油供給部)714は、熱媒油703による媒熱加熱方式により内容物の温度を調整する。制御装置720は、内容物の温度の監視制御、耐圧容器内の圧力の監視制御、および、攪拌装置704による撹拌回転速度の制御などを行う。排気凝縮装置(熱交換器)707は、減圧装置713による吸気に従う耐圧容器からの排気を熱交換して凝縮水を生成する。凝縮水貯留装置708は、凝縮水を分離して貯留し、外部に排出する。
【0059】
耐圧容器は、グリコール酸(GA)が投入される原料投入口710と、グリコール酸オリゴマーの生成に用いられる触媒、および、変性ポリグリコール酸の生成に用いられる添加剤としてバナジウム化合物が投入される触媒および添加剤投入口712と、を有する。耐圧容器は、さらに、変性ポリグリコール酸(GPA)が取り出される取出し口711と、耐圧容器内の汚れを防止する窒素ガスが導入される窒素ガス曝気口709と、を有する。また、耐圧容器は、図示しない、耐圧容器の内容物の状態を監視するための内部目視窓と、耐圧容器内を照明する内部照明と、を有する。
【0060】
制御装置720は、内容物の温度を監視し、熱媒油供給部714による熱媒油703の調整により、内容物を製造工程に対応する適切な温度に制御する内容物温度制御部721を有する。また、制御装置720は、耐圧容器内の圧力を監視し、減圧装置713による耐圧容器内の圧力を制御する容器内圧力制御部722を有する。また、制御装置720は、攪拌装置704により内容物を製造工程に対応して適切に撹拌する内容物撹拌制御部723を有する。また、制御装置720は、変性ポリグリコール酸の製造工程に対応して各処理時間を制御する処理時間制御部724を有する。なお、
図7には4つの制御部721〜724を図示したが、他の制御部を追加してもよい。一方、制御装置720の各制御部721〜724のいずれかはオペレータの手動に任せてもよい。制御装置720は、さらに、外部コンピュータ730により状態表示や操作入力が行われてよい。また、制御装置720と外部コンピュータ730は一体であってもよい。
【0061】
(変性ポリグリコール酸の製造)
図8Aは、上記変性ポリグリコール酸の製造装置700を用いた、本実施例に係る変性ポリグリコール酸の製造工程を示すフローチャートである。
図8Aには、変性ポリグリコール酸の製造工程に従った内容物の温度プロファイル800も図示されている。温度プロファイル800におけるステップ番号は、フローチャートのステップ番号に対応する。
【0062】
ステップS801(グリコール酸の投入):変性ポリグリコール酸の製造装置700の耐圧容器にある原料投入口710からグリコール酸を投入する。
【0063】
ステップS803(加熱脱水):投入された原料グリコール酸は約10%の水を含む(濃度が90%)ので、減圧環境で脱水濃縮する。耐圧容器内に窒素ガスを流しながら180℃に調整して1〜2時間脱水する。脱水状況は熱交換器から排出される凝縮水の液量から推測する。
【0064】
ステップS805(冷却):内容物の温度を60℃まで下げる。高温状態で触媒を添加すると急激に反応して部分的な酸化が進行して好ましくないためである。
【0065】
ステップS807(触媒添加):触媒を添加する。触媒はオクチル酸スズとドデシルアルコール(重合開始剤)とを同量混合したものを用いた。添加量は内容物量の0.2wt%が好適である。触媒は一度に全量投入するのは好ましくなく、数回に分けて少しずつ投入した。全量投入し終わったら1〜2時間、内容物の攪拌を続ける。
【0066】
ステップS809(脱水縮重合):温度を170℃に設定し、内容物が設定温度に達したら6〜8時間重合をする。この間の窒素流量は毎分10リットル、容器内圧力は0.1Atmを維持する。重合の進度は内容物の数平均分子量を計測して判断する。数平均分子量が5,000以上10,000以下に達したら重合を終了する。なお、その後、220℃に設定して1〜2時間継続して、未反応物を蒸発させて系外に除去するのがよい。
【0067】
上記ステップS803〜S809までが、
図1のステップ101(脱水縮重合)に相当する。すなわち、本実施例においては、できるだけ単時間で分子量が均一なグリコール酸オリゴマーの製造を目指した。
【0068】
ステップS811(冷却):内容物の温度を90℃に下げる。
【0069】
ステップS813(添加剤添加):添加剤(バナジン酸アミン:内容物の1〜10%)を触媒および添加剤投入口712から投入する。添加剤は一度に全量投入せず、数回に分けて少しずつ投入する。
【0070】
上記ステップS811とS813とが、
図1のステップ103(バナジン酸アミンの添加)に相当する。
【0071】
ステップS815(マイクロウェーブによるバナジウムの結合):添加剤(バナジン酸アミン)を全量投入し終ったら内容物温度を170℃に上げ、マイクロウェーブ照射装置(マイクロ波発信器)705を作動させる。照射時間は2〜4時間とする。このマイクロウェーブによるバナジウムの結合は、バナジン酸アミンをグリコール酸オリゴマー分子の所定位置(酸素の二重結合部)に結合させることを目的とする。すなわち、バナジウムを二重結合の酸素と置換する。この反応はγ線などの放射線照射でも可能であるが一般的ではなく、マイクロウェーブ照射による結合(すなわち置換)以外の方法では実現しにくい。マイクロウェーブの出力は内容物10Kgあたり0.1〜1KWとする。なお、マイクロウェーブは、
図7のように、ガラス板706を嵌めた導波管を通じて容器内に導入する。ガラス板706は耐圧容器内の圧力を保全することを目的に使用する。また、導波管内には窒素ガスを流して管内の汚れを防止する。
【0072】
ステップS105(終了操作、変性PGAの取り出し):変性ポリグリコール酸の製造作業が終わったので、内容物の温度を120℃以下に下げてから内容物を取出し口711から取り出す。高温状態で取り出すとやけどなどの危険が増したり、変性ポリグリコール酸が酸化したりすることもあるので好ましくないためである。
【0073】
なお、上記グリコール酸を原料に変性ポリグリコール酸を製造する製造工程における温度調整などの条件は一例であって、以下のような範囲での処理あれば製造が可能である。例えば、脱水工程は105〜110℃まで大気圧で加熱して水分を蒸散させる。その後、減圧環境(概ね1/10気圧程度)、170〜180℃で2時間程度脱水する。この温度が高すぎると内容物が蒸散して歩留まりが悪くなる。また温度が160℃以下ですと脱水時間が余計にかかる。また、触媒(バナジン酸アミド)を混合するときの温度が高いと部分的に反応してしまい不都合な結果が生じるので、概ね40〜70℃で混合する。実施例では60℃で2時間ほど攪拌する。また、脱水縮重合の温度は真空度との兼ね合いもあるが、内容物の不要な蒸散を避けるため、160〜170℃で行う。容器内は1/10気圧程度の減圧環境で窒素ガスを導流しながら15〜20時間攪拌を続ける。そして、内容物の数平均分子量が3000以上になったら内容物温度を170〜190℃にし、同時に容器内圧力を1/15気圧程度に下げる。ここで温度を上げなければ、高分子量にはならず、オリゴマーに留まる。生分解性プラスチック(樹脂)として使用する高分子製品とするには、温度を200℃付近まで上げて重合を続けるが、電池材料とする場合は高分子化させず、オリゴマー状態で終了する。未反応物蒸散用加熱工程では220〜250℃まで一時的に温度を上げるが、この工程を省いても問題はない。
【0074】
また、添加剤(バナジン酸アミン)を加えるときは急激な反応を起こさせないように内容物温度を120℃以下に下げて行う。実施例では90℃としている。また、マイクロウェーブ照射による結合工程では、照射部分の温度が他の部分に比べて若干高くなる。これは、添加剤が電磁波を吸収して高温になるためで、グリコール酸オリゴマーの樹脂骨格の分子との温度差が生じ、水素結合部位にバナジウムが結合する。温度差は光ファイバー温度計で計測すると、概ね50〜100℃程度の温度差が生じている。すなわち、添加剤分子のバナジウム原子が活性化してポリグリコール酸の分子中の水素と置換する。マイクロウェーブの出力が大きすぎたり小さすぎたりするとこの反応が起きない。このため内容物温度は160〜180℃の間に調整し、マイクロウェーブの出力も10Kg/Kw程度とする。
【0075】
変性ポリグリコール酸の製造装置700を用いた、本実施例に係る変性ポリグリコール酸の製造工程により、変性ポリグリコール酸が製造された。製造された変性ポリグリコール酸は、ポリグリコール酸に4価の原子価を有するバナジウムを結合した構造を有する変性ポリグリコール酸と、ポリグリコール酸に3価の原子価を有するバナジウムを結合した構造を有する変性ポリグリコール酸と、を同量含む。なお、製造された変性ポリグリコール酸においては、ポリグリコール酸の炭素鎖に二重結合した酸素原子が4価のバナジウム原子あるいは3価のバナジウム原子に置換されている。
【0076】
(変性ポリグリコール酸のバナジウムの価数検証)
次の手順で、変性ポリグリコール酸に含まれるバナジウムの酸化数を試験することにより、本実施例で製造された変性ポリグリコール酸のバナジウムの価数を検証した。
【0077】
(1)試料(変性PGA)をよく磨いた銅板(厚さ3mm)に20μm塗布する。塗布時の試料の温度は130℃とし、銅板もあらかじめ130℃に予熱しておく。
(2)試料が塗布された銅板は自然放冷で冷却する。
(3)銅板と同じサイズにカットしたグラファイトを塗布面に置き圧接する。グラファイトを圧接したまま資料を90℃にゆっくり加熱し、その後自然放冷する。
(4)銅板とグラファイトを電極とするCV測定を行う。
【0078】
試験条件は以下のとおりである。
・正極:グラファイト
・負極:銅板
・掃引電圧:0〜2V
・ステップ電圧:10mV
・ステップ時間:0.1sec
【0079】
図8Bに、本実施例により製造された変性ポリグリコール酸のバナジウムの酸化数の試験結果である、電流−電位特性のグラフ810を示す。
【0080】
図8Bにおいて、4価のバナジウムが結合された変性ポリグリコール酸と、3価のバナジウムが結合された変性ポリグリコール酸と、がほぼ等量含まれている場合は、上記CV測定において実線のような電流−電位曲線811となる。一方、3価のバナジウムが結合された変性ポリグリコール酸が、4価のバナジウムが結合された変性ポリグリコール酸より多い場合は、上記CV測定において破線のような電流−電位曲線812となる。4価のバナジウムが結合された変性ポリグリコール酸が、3価のバナジウムが結合された変性ポリグリコール酸より多い場合は、上記CV測定において一点鎖線のような電流−電位曲線813となる。
【0081】
本実施例では、マイクロウェーブの照射時間を制御することによって、電流−電位曲線811となるように調整した。その結果、4価のバナジウムが結合された変性ポリグリコール酸と、3価のバナジウムが結合された変性ポリグリコール酸と、がほぼ等量含まれている変性ポリグリコール酸を得ることができた。
【0082】
(グリコール酸オリゴマーの製造手順)
図9は、本実施例に係るグリコール酸オリゴマーの製造手順を詳細に示す図である。
図9は、
図1のステップS101(脱水縮重合)に相当する。なお、
図9において、
図8と同様のステップには同じステップ番号を付している。
【0083】
ステップS803(加熱脱水):原料となるグリコール酸を重合用の耐圧容器内にて加熱脱水することにより、濃縮されたグリコール酸およびグリコール酸の二量体であるグリコリド911が得られる。以下、この生成物を濃縮グリコール酸901と呼ぶ。
【0084】
ステップS809(脱水縮重合):グリコリド911を含む濃縮グリコール酸901に触媒を加えて、減圧環境下にて数平均分子量を監視しながら脱水縮重合を行うことによりグリコール酸オリゴマー102が得られる。触媒にはオクチル酸スズが好適であり、重合開始剤としてドデシルアルコールを用いる。
【0085】
(バナジン酸アミンの製造装置)
図10Aは、本実施例に係るバナジン酸アミンの製造装置1000の構成を示す図である。なお、バナジン酸アミンの製造装置1000は内容物の電気分解を行う無隔膜電解装置であり、
図2のグリコール酸の製造工程において、食塩水から無隔膜電解によって次亜塩素酸と水酸化ナトリウムとを生成する工程においても兼用可能である。
【0086】
バナジン酸アミンの製造装置1000は、反応容器1001と蓋1002からなる容器と、攪拌装置1003と、2つの電極端子1004および1005と、2つの電極1006および1007と、制御装置1010と、を備える。容器には、原料としてバナジン酸アンモニウムが投入され、生成されたマナジン酸アミンが取り出される。なお、2つの電極1006および1007は、白金(Pt)をコートしたチタン電極が望ましい。
【0087】
制御装置1010は、電解電源供給部1011と、電解モード設定部1012と、電解電流検出部1013と、電解電圧検出部1014と、を有する。電解電源供給部1011は、電解モード設定部1012が定電圧モードを設定した場合は2つの電極1006および1007間を定電圧に調整する。一方、電解電源供給部1011は、電解モード設定部1012が定電流モードを設定した場合は2つの電極1006および1007間を定電流に調整し、電解電圧検出部1014からの所定電解電圧閾値(1.5V)の検出信号に基づいて電解の終了を判定する。電解モード設定部1012は、初期は定電圧モードを設定し、電解電流検出部1013が所定電解電流(20mA/cm
2)に達したことを検出したら、定電圧モードを定電流モードに切り換える。電解電流検出部1013は、電解電流を検出して電解電流を監視すると共に、定電圧モードにおいて所定電解電流(20mA/cm
2)に達したことを電解モード設定部1012に通知する。電解電圧検出部1014は、電解電圧を検出して電解電圧を監視すると共に、定電流モードにおいて所定電解電圧閾値(1.5V)に電解電圧が下がったら、電解の終了を通知する。
【0088】
(バナジン酸アミンの製造工程)
図10Bは、上記バナジン酸アミンの製造装置1000を用いた、本実施例に係るバナジン酸アミンの製造工程を示すフローチャートである。
【0089】
ステップS1001(初期設定):製造装置1000の反応容器1001に水を500ml注入する。そして、攪拌装置1003を作動させ、2つの電極1006および1007間に直流12Vを印加する。通電モードは定電圧モードとする。
【0090】
ステップS1003(バナジン酸アンモニウム投入):バナジン酸アンモニウムを0.1mol(約11.7g)計り取り、反応容器1001の底に溜まらないように少しずつ投入する。電解電流が微増して、反応容器1001内部の液の色が僅かに黄変することを確認する。
【0091】
ステップS1005(電解電流の監視と調整):製造装置1000における限界電流(本例では、5mA/cm
2)の3〜5倍程度(15mA/cm
2〜25mA/cm
2)の範囲でゆっくり電解する。電解電流が過大であると(>30mA/cm
2)、硝酸化合物や亜硝酸化合物が生成するので注意を要する。かかる反応については、
図3を参照して既に説明した。
【0092】
ステップS1007(電解電流の判定):電解電流が20mA/cm
2に達したか否かを判定する。
【0093】
ステップS1009(定電流モード):電解電流が20mA/cm
2に達したら通電モードを定電流モードに設定する。
【0094】
ステップS1011(電解電圧の監視と判定):電解電圧が1.5Vまで下がったか否かを判定する。
【0095】
ステップS1013(電解終了):電解電圧が1.5Vまで下がったら電解を終了する。反応容器1001内部の液の色は透明な黄橙色となる。内容物である生成したバナジン酸アミンを密封して冷暗所で保存する。
【0096】
かかる製造工程によって、グリコール酸オリゴマーから変性ポリグリコール酸を生成するための添加剤として必須である、バナジン酸アミンが安定的に製造できた。
【0097】
以上の製造工程を実行することによって、本実施例の変性ポリグリコール酸が製造された。製造された変性ポリグリコール酸は、ポリグリコール酸に4価の原子価を有するバナジウムを結合した構造を有する変性ポリグリコール酸と、ポリグリコール酸に3価の原子価を有するバナジウムを結合した構造を有する変性ポリグリコール酸と、を同量含む。
【0098】
本実施例に示した工程により、簡潔な方法で安定的に各材料、生成物、製造物を得ることができた。
【0099】
[第2実施例]
第2実施例として、第1実施例で製造された変性ポリグリコール酸を用いた二次電池製造の実施例を示す。
【0100】
<変性ポリグリコール酸を用いた二次電池の製造工程>
図11Aは、本実施例に係る、変性ポリグリコール酸を用いた二次電池の製造工程を示すフローチャートである。以下、前出の
図4を参照しながら、二次電池の製造工程を説明する。
【0101】
ステップS1101(変性ポリグリコール酸の塗布):2枚の集電体411および412に変性ポリグリコール酸103を塗布する。2枚の集電体として、20μm厚の正極用銅板表面と20μm厚の負極用アルミニウム板表面とのそれぞれに、第1実施例で製造された変性ポリグリコール酸103を20μm厚塗布する。すなわち、正極生成と負極生成とを行う。なお、集電体が同じ導電体である場合は、いずれか正極になりいずれが負極になるかは、初期化における電位の上下により決定される。
【0102】
ステップS1103(集電体の貼り合わせ):10μm厚の酢酸セルロースからなるセパレータ413を挟んで、変性ポリグリコール酸103を塗布した2枚の電極を貼り合わせる。
【0103】
ステップS1105(圧接):90℃に加熱して、2枚の集電体411および412間の距離が10μm以上30μm以下となるまで圧接する。
【0104】
この工程により、組み立てた時(原型)の二次電池401が提供された。この二次電池401は、分極していない安定した変性ポリグリコール酸103のみを有する電池なので、長時間の保管によっても性能の劣化がない。使用時に、初期充電工程を実行すればよい。
【0105】
<変性ポリグリコール酸を用いた二次電池の初期充電工程>
図11Bは、本実施例に係る、変性ポリグリコール酸を用いた二次電池の初期充電工程を示すフローチャートである。
【0106】
ステップS1107(初期充電開始):2枚の集電体411および412間に2V定電圧を印加して、初期充電をする。電流が僅かに流れ、時間の経過とともに増加してゆく状況が観測された。
【0107】
ステップS1109(初期充電終了):約5mAをピークに電流が減少し、0.01mAになったところで初期充電を終了した。このときの解放電圧は1.4Vであり、バナジウムの酸化還元電位と等しいことが確認された。
【0108】
この工程により、初期化充電後の二次電池402、すなわち、初期化工程と充電工程とが完了した二次電池402が提供される。この二次電池402は、既に充電工程が完了した充電テスト済みの電池であり、欠陥の少ない二次電池402が提供できる。
【0109】
(二次電池の試作電池とその試験状態)
図11Cは、本実施例に係る、変性ポリグリコール酸を用いた二次電池の試作電池1100とその試験状態を説明する図である。
【0110】
二次電池の試作電池1100は次のように製造した。まず、0.1mm厚のアルミシートから40×50mmの2つの電極1101と1102とをカットした。一方の電極1102をアクリル板1104に貼り付けた。そして、2つの電極1101と1102とのそれぞれ活物質として変性ポリグリコール酸1103を塗布し、酢酸セルロースシート(セパレータ:図示なし)を挟んで貼り合わせた。
【0111】
試作電池1100の2つの電極間に2.5Vの直流電流を掛けて5分間イニシャライズした後、2Vで10分間充電した。30分放置した後に、電圧計1120で無負荷電圧を計測した。無負荷電圧は、1.45Vであった(1121参照)。100mAの電子負荷で定電流放電させたときの起電力は1.25Vであり、端子電圧が0.7Vになるまで放電させたときの持続時間は約15分であった。この試作電池1100の放電容量は、次の計算で、0.1(A)×15(分)÷60(分)=0.025Ah(=25mAh)であった。
【0112】
(二次電池の初期化における初期充電特性)
図12は、本実施例に係る二次電池の初期化における初期充電特性1200を示す図である。初期充電特性1200は、
図4の二次電池401から二次電池402に
図11Bにしたがって初期充電した時の特性である。電極対に2Vの直流電源を接続した場合の電流の流れを観測したものである。
【0113】
最初はセパレータ413近傍における、正極側の4価のバナジウムの3価のバナジウムへの価数変化と、負極側の3価のバナジウムの4価のバナジウムへの価数変化とであり、電流はほとんど流れない。次第にセパレータ413から離れた集電体411および412の近傍でも価数変化が起こり初め、僅かな電流から時間の経過とともに増加してゆく状況が観測された。
【0114】
そして、初期化時間から充電時間に入ると、正極側の4価のバナジウムの5価のバナジウムへの価数変化と、負極側の3価のバナジウムの2価のバナジウムへの価数変化とが起こり、約5mAをピークに電流が減少する。正極側が5価のバナジウムとなり、負極側が2価のバナジウムとなり0.01mAになったところで、初期充電を終了した。このときの解放電圧は1.4Vであり、バナジウムの酸化還元電位と等しいことが確認された。
【0115】
なお、
図12における初期充電特性における初期化時間とは、変性ポリグリコール酸に含まれる4価のバナジウムおよび3価のバナジウムが、初期化により正極側の全てのバナジウムが4価のバナジウムに変化するのに必要な時間である。また、変性ポリグリコール酸に含まれる4価のバナジウムおよび3価のバナジウムが、初期化により負極側の全てのバナジウムが3価のバナジウムに変化するのに必要な時間である。この反応が終了しないと電池として機能しない。また、本実施例で試作した二次電池は、初期化時間が充電時間の1.5倍ほどかかったが、一度初期化すると次回以降は初期化時間が無いため充電時間は短くなる。
【0116】
(二次電池の放電時における放電特性)
図13は、本実施例に係る二次電池の放電時における放電特性1300を示す図である。放電特性1300は、
図4の二次電池402から二次電池403に放電した時の特性である。
【0117】
正極と負極に電子負荷を接続し、放電を終了する終止電圧を0.5Vに設定して10mAで放電させたところ、電極面積1cm
2当たり1mAhの放電出力が得られた。
【0118】
放電が進み端子電圧が0.1Vを下回っても、電池の機能は失われず、再度充電することができた。また、複数回充放電を繰り返しても特性の大きな変化は認められず、本実施例の変性ポリグリコール酸が、二次電池の活物質として使用可能であることがわかった。
【0119】
さらに具体的には、放電特性は以下のようであった。
・試作電池の、初期充電直後の無負荷起電力は1.4Vであり、1時間放置後の無負荷起電力は1.35Vであった。
・10mAの電子負荷を接続したときの電圧は1.3Vである。終止電圧を0.5Vに設定して定電流放電試験を行った結果、約10時間放電を持続した。その後、10Ωの抵抗器を接続して0.1Vまで下がる時間を計測したら、約1時間であった。
・また、端子電圧が1Vになるまでの時間は約8時間であり、この時間が試作電池の実用時間であると考えられる。
・以上の結果から、0.5Vまで放電の1cm
2当たりの電流容量は1mAhであり、1Vまでの放電の1cm
2当たりの電流容量は0.8mAhであった。
【0120】
本実施例によれば、以下のような特筆すべき効果が得られる。
・過放電を気にする必要がない。すなわち、端子電圧が0.1Vまで下がっても充放電が可能である。
・充電は定電圧充電でよい。変性ポリグリコール酸の分子構造が破壊されない電圧範囲(1.5〜2V)であれば、特に電流制限の必要がない。
・初期化に多少の時間がかかるが、その後は一般のリチウムイオン電池より速い速度で充電できる。
・活物質である変性ポリグリコール酸の酸化還元により充放電するので、電池の電気的性能は電極材料に依存しにくい。電極における酸化やOH化が発生しない。したがって、大電流で比較的軽量の電池を提供できる。
・原材料が安く、製造工程も乾燥室(乾燥は条件でない)や高度なクリーンルームなどを必要としないため、廉価で製造できる。
・変性ポリグリコール酸の製造工程が一貫しており単純なので、他の製造工程では数日かかる製造がほぼ1日で完了する。
・主原料が地球環境に優しい生分解性プラスチックであり、生体に無害である。
・材質そのものが燃えにくく、有毒なガスの発生や爆発などの危険性がない。
・製造に当たって、有毒な化学物質を使用しない。
【0121】
[他の実施例]
図14は、変性ポリグリコール酸を用いた他の実施例を示す図である。
図14は、メモリ1400として応用した例を示す。
【0122】
図14のように、正極1401と負極1402に、本実施例の変性ポリグリコール酸1403をスリット状に印刷する。そして、両電極1401と1402とを直交するように貼り付けたマトリックスは、メモリとして動作できる。すなわち、正極アドレス1411と負極アドレス1421との所定電圧を掛けて初期化することにより、その接点部分は4価と3価のバナジウムに分離してメモリ素子となり、他の部分は4価と3価とが同量の不活性部分となる。その後、マトリックスは正極アドレス1411と負極アドレス1421とによりメモリとして動作する。本実施例のメモリは、大電流を取り扱えるのでいろいろなものに応用できる。
【0123】
なお、本実施例の変性ポリグリコール酸が、4価のバナジウムと3価のバナジウムとをほぼ同量もった活物質として製造されることは、その初期化工程を有することをさらに利用した様々な分野への適用が可能となり、著しい効果を奏することになる。