特許第6704562号(P6704562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704562赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704562
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/10 20110101AFI20200525BHJP
   A01K 61/60 20170101ALI20200525BHJP
   C02F 1/30 20060101ALI20200525BHJP
   C02F 1/32 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   A01M29/10
   A01K61/60
   C02F1/30
   C02F1/32
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-264782(P2014-264782)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-123288(P2016-123288A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】501168814
【氏名又は名称】国立研究開発法人水産研究・教育機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591224788
【氏名又は名称】大分県
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】紫加田 知幸
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 剛
(72)【発明者】
【氏名】松永 茂
(72)【発明者】
【氏名】西山 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】宮村 和良
【審査官】 川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−157379(JP,A)
【文献】 特開平10−103896(JP,A)
【文献】 特開2014−168409(JP,A)
【文献】 特開2007−068419(JP,A)
【文献】 特開平05−146234(JP,A)
【文献】 岡本忍、豊嶋功一、石川依久子,らん藻Spirulinaの光驚動反応,藻類,日本,日本藻類学会,1996年 3月10日,第44巻 第1号,55頁
【文献】 MARWAN, Wolfgang,Single Photon Detection by an Archaebacterium,J Mol Biol,1988年 2月20日,Vol.199 No.4,Page.663-664
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00−61/65
A01K 61/80−63/10
A01M 1/00−99/00
C02F 1/20− 1/26
C02F 1/30− 1/38
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
320nm〜440nm(UV−B〜青色領域)および/または640nm〜680nm(赤色領域)の波長の光を照射することにより、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、さらに、480〜560nm(緑色領域)の波長の光をカットすることにより、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法。
【請求項3】
光の照射が上方向および/または左右方向からの照射である、請求項1または2に記載の赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導することにより赤潮の被害を軽減する方法。
【請求項5】
赤潮原因ラフィド藻類がシャットネラ・アンティカ(Chattonella antiqu)である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
320nm〜440nm(UV−B〜青色領域)および/または640nm〜680nm(赤色領域)の波長の光を照射する手段を含む、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する装置。
【請求項7】
請求項6に記載の装置であって、さらに、480〜560nm(緑色領域)の波長の光をカットする手段を含む、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する装置。
【請求項8】
光の照射が上方向および/または左右方向からである、請求項6または7に記載の赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する装置。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の装置であって、生簀あるいは海水濾過機構またはこれらの近傍にセットする手段を含む、赤潮の被害を軽減するための装置。
【請求項10】
赤潮原因ラフィド藻類がシャットネラ・アンティカ(Chattonella antiqua)である請求項6〜9のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法に関する。さらに詳しくは、赤潮原因ラフィド藻類に対して一定領域の波長の光を照射するあるいは除くことにより、光逃避行動を誘導する方法に関する。本発明はさらに、該方法を利用した赤潮の被害を軽減する方法や装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、魚介類の養殖産業等において、赤潮の発生による被害が問題となっていた。近年では、西日本の沿岸域において鞭毛藻類による有害赤潮が頻発しており、養殖業への被害総額は2009年および2010年には八代海でそれぞれ33億円および55億円、2012年には豊後水道で15億円と報告されている。
【0003】
赤潮による被害を防ぐために、長年、様々な技術が考案されており、例えば、有害鞭毛藻類の赤潮駆除法として、化学物質(過酸化水素、水酸化マグネシウムなど)や生物(赤潮藻類感染ウイルス、殺藻細菌など)を散布する方法が考案されてきた。
このような技術のひとつとして、有害な赤潮の原因となるプランクトンの一種であるシャットネラ・アンティカ(Chattonella antiqua)に対して効力を有する、アミンを有効成分として含有する殺藻剤等も開発されている(特許文献1、参照)。
しかし、これらの化学物質や生物の散布には、赤潮発生時毎に莫大なコストが必要であり、適用範囲も狭く、環境や赤潮の原因となる生物以外の生物への負荷が大きい等の問題により、実用化には至っていないのが現状である。
【0004】
一般に実用化されている技術としては、赤潮発生前に餌止めによる赤潮耐性を向上させる手法があるが、赤潮発生を高率で予知する手法が構築されておらず、魚体に対するダメージや出荷遅延など漁業者の経営に大きな悪影響を及ぼすことなどの弱点がある。
また、生簀の周辺をビニールシート等で囲う等により、赤潮の原因となる生物と養殖魚介類との接触頻度を減じることにより、赤潮による被害を軽減する手法も考案されているが、生簀に対して水平方向から流れてくる赤潮は防げても、日周鉛直移動などにより上昇してくる赤潮には対応できず、実用化にあたり十分な効果があるとはいえない。
【0005】
さらに、特許文献2において、特定領域の波長の光を照射することにより、赤潮の原因となる藻類の増殖を抑制する方法が開示されている。この技術では、550〜720nmのうち、特定の波長の光を照射することによりヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)、カレニア・ミキモトイ(Karenia mikimotoi)、コックロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrichoides)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)等の増殖が抑制されたことを確認している。この技術により、光の照射によって赤潮の原因となる有害な藻類の増殖を抑制したり、有用な藻類の増殖を促進したりすることで藻類の増殖調節が可能となるが、既にその場に存在している有害な藻類を除去することはできない。そのため、室内の小規模実験系等の閉鎖空間においては赤潮の原因となる藻類の増殖を調節できるが、赤潮の原因となる藻類が常時流入し得る、湖沼や海等の広大な規模において発生する赤潮については、その被害増大を防ぐ上では十分な技術とはいえず、実用化できない。
【0006】
上述のように、長年様々な赤潮防除技術が考案されてきたが、実用化され、また、赤潮の被害を大きく軽減できた技術は皆無であった。そのため、現在においても、赤潮の発生による被害を抑制できる画期的な方策の構築や、駆除技術の開発が急務とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開7−242508号公報
【特許文献2】特開2007−68419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、湖沼や海等の広大な規模において発生する赤潮の被害の軽減においても有効で、かつ、生物や環境への負荷が少ない画期的な赤潮発生防止策の方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、多くの有害赤潮原因藻類が鞭毛運動を行って遊泳し、昼間定位する層の深度が光環境によって変化することを野外調査などによって見出した。
本発明者らのこの研究成果を受けて、一定領域の波長の光を照射することにより、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動が誘導できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明ではさらに、この赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導することにより、養殖生簀等の赤潮の発生を防ぎたい場所からこれらの藻類を除去したり、外部からの流入を防御したりすることで赤潮の被害を軽減することが可能となる。
このような本発明の方法は、短時間の照射やフィルターなどの光学部品の設置によって赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導することができる上、養殖生簀内で適用し得るものであるため、赤潮被害の軽減においても、他の生物や環境への負荷が少なく、実用的な方法である。
【0010】
すなわち、本発明は次の(1)〜(10)に記載の赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法等に関する。
(1)320nm〜440nm(UV−B〜青色領域)および/または640nm〜680nm(赤色領域)の波長の光を照射することにより、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法。
(2)上記(1)に記載の方法であって、さらに、480〜560nm(緑色領域)の波長の光をカットすることにより、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法。
(3)光の照射が上方向および/または左右方向からの照射である、上記(1)または(2)に記載の赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法により、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導することにより赤潮の被害を軽減する方法。
(5)赤潮原因ラフィド藻類がシャットネラ・アンティカ(Chattonella antiqu)である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)320nm〜440nm(UV−B〜青色領域)および/または640nm〜680nm(赤色領域)の波長の光を照射する手段を含む、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する装置。
(7)上記(6)に記載の装置であって、さらに、480〜560nm(緑色領域)の波長の光をカットする手段を含む、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する装置。
(8)光の照射が上方向および/または左右方向からである、上記(6)または(7)に記載の赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する装置。
(9)上記(6)〜(8)のいずれかに記載の装置であって、生簀あるいは海水濾過機構またはこれらの近傍にセットする手段を含む、赤潮の被害を軽減するための装置。
(10)赤潮原因ラフィド藻類がシャットネラ・アンティカ(Chattonella antiqua)である上記(6)〜(9)のいずれかに記載の装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法の提供により、赤潮の被害を軽減するにあたり、有効でかつ、小規模で生物や環境への負荷が少ない画期的な赤潮発生防止策の提供が可能となる。また、本発明により、特定の波長の光を照射するあるいはフィルター等の光学部品を設置することにより、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導し、赤潮の被害を軽減するための装置の提供も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】光逃避行動の作用スペクトルの検討結果を示した図である(実施例1)。
図2】光逃避行動を誘導する光強度および照射時間の検討結果を示した図である(実施例2)。
図3】緑色光による光逃避行動の阻害効果の検討結果を示した図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の「赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法」は、320nm〜440nm(UV−B〜青色領域)および/または640nm〜680nm(赤色領域)の波長の光を照射する、あるいは緑色領域(520nm付近)のみを除去することで、赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導できる方法であればよい。
このような方法であれば、赤潮原因ラフィド藻類が存在する養殖生簀において320nm〜440nm(UV−B〜青色領域)の波長または640nm〜680nm(赤色領域)の波長のいずれかの光を照射してもよく、これらの両方の光を照射してもよい。さらに、緑色領域(520nm付近)のみを除去してもよい。
【0014】
本発明における「光逃避行動」とは、光を照射すると赤潮原因ラフィド藻類が下方向あるいは光量の少ない方向に移動することをいう。例えば、上記波長の光を上方から下方に照射した場合は、赤潮原因ラフィド藻類は下方に移動することになる。
【0015】
本発明の「赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法」では、さらに、520nm付近(緑色領域)の波長の光が照射されるのをカットすることが好ましい。
このような緑色光をカットする方法としては、バンドパスフィルターなど各種光学部品を用いることになる。
【0016】
本発明の「赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法」では、赤潮原因ラフィド藻類が存在する環境に対して、赤潮原因ラフィド藻類を走行させたい方向とは逆の方向から上記の特定の波長の光を照射することが好ましい。
このような光の照射の方向としては、上方向や左右方向からの照射が効果的であり、上方向からの照射と左右方向からの照射を組み合わせて同時に照射したり、交互に照射したり、一定のリズムで照射してもよい。
【0017】
本発明のこのような「赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法」は、光環境を人為的に変化させて生物の行動を操る、集魚灯漁法(サンマ漁・イカ釣り等)のように水産の現場で実際に活用されている方法と同様の方法であることから、赤潮被害の軽減等への活用においても、他の生物や環境への負荷が少なく、実用的な方法であるといえる。
特に本発明において照射する青色領域の光は、海水中に最も透過しやすい光であるため、海水等への適応において効果的である。
【0018】
本発明における「赤潮原因ラフィド藻類」とは、赤潮の原因となる鞭毛を有する藻類のことをいう。赤潮原因ラフィド藻類(raphidophytes)のうち、本発明の光逃避行動を誘導する藻類として、特にシャットネラ・アンティカ(Chattonella antiqua)やヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)などのラフィド藻を対象とすることが好ましい。
【0019】
本発明の「赤潮の被害を軽減する方法」は、上記の特定の波長の光を照射することによる「赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法」により、赤潮原因ラフィド藻類の存在する環境におけるこれらの比率を低減させることで、赤潮の被害を軽減できる方法であれば良い。
この「赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法」のみを活用する方法であっても良く、従来知られているその他の赤潮の被害を軽減するための方法と組み合わせても良い。
【0020】
本発明の「赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する装置」としては、本発明の320nm〜440nm(UV−B〜青色領域)および/または640nm〜680nm(赤色領域)の波長の光の照射が可能な装置であればよく、これらの光源やそれらを含む装置であることが好ましい。
さらに、520nm付近(緑色領域)の波長の光をカットできる光学フィルター等を有する装置であることが好ましい。
これらの装置は、例えば養殖魚類を育成するための生簀にセットできる装置や、海岸から海水をくみ上げて使用している種苗保存施設や実験施設等における海水濾過過程(貯水槽など)において出水口からの有害赤潮藻類の侵入を防ぐことが可能な装置であることが好ましい。
【0021】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
特に断りがない限り、本発明の実施例では、次のように調整した赤潮原因ラフィド藻類を用い、次の条件で試験、解析を行った。
1.赤潮原因ラフィド藻類
赤潮原因ラフィド藻類として、25℃、300μmolm−2−1(白色蛍光灯)、12時間明:12時間暗の明暗周期(6:00〜18:00)で継代培養した、有害赤潮原因ラフィド藻シャットネラ・アンティカ(Chattonella antiqua)を用いた。
試験前日に、細胞密度が5000cells/mLになるように新鮮な培地と培養液を混合して角型水槽(水深5cm)に入れ、明期の光強度を20μmolm−2−1に下げて培養した後、試験に供した。
【0023】
2.試験・解析条件
試験はシャットネラ・アンティカが日周鉛直移動により、表層に集積する時間帯である8:30〜15:00に実施した。
シャットネラ・アンティカの遊泳行動は赤外線(850nm)を観察光としてCCDカメラ(CFW、Scion Corporation、Frederick、MD、USA)で観察し、その後Image J(http://rsb.info.nih.gov/ij/)を用いて画像解析を施すことで表層の細胞密度を定量した。
【0024】
〔実施例1〕
光逃避行動の作用スペクトルの検討
岡崎大型スペクトログラフ(基礎生物学研究所)により、シャットネラ・アンティカに320〜680nmの40nm間隔、50μmolm−2−1の単色光を上方向から照射し、遊泳行動を経時的に観察した。図1に光照射3分後の表層における細胞の減少量を照射開始時の相対値(%)として示した。
その結果、図1に示されるように、320〜480nmおよび640〜680nmの単色光下で、表層の細胞密度が経時的に低下した。3分後の表層細胞密度の減少量は440nm(青色光)で最大値、520nm(緑色光)で最低値となった。
従って、この結果より、シャットネラ・アンティカの光逃避行動を誘導するには、320nm〜440nm(UV−B〜青色領域)または640nm〜680nm(赤色領域)、特に440nm(青紫色)の単色光照射することが有用であることが確認できた。
なお、本実施例は、大型スペクトログラフを用いたものであり、現在市販されている他の波長も多少混ざっているLED光源では成し得ないものである。
【0025】
〔実施例2〕
光逃避行動を誘導する光強度および照射時間の検討
LED光源(ホロライトHL01型455nm、パイホトニクス社製)により、異なる光強度(10、30、100、150μmolm−2−1)の青色光(455nm)をシャットネラに照射し、遊泳行動を経時的に観察した。
図2に表層における細胞の減少量を照射開始時の相対値(%)として示した。図2に示されるように、30μmolm−2−1、100μmolm−2−1または150μmolm−2−1の青色光を照射した場合には、照射開始後3分以内に表層細胞密度の低下が観察された。また、100μmolm−2−1および150μmolm−2−1の青色光を照射した場合には、照射開始後3分以内に表層細胞密度の減少量が飽和し、光強度を上げても該密度が減少しないことが確認された。
従って、この結果より、シャットネラ・アンティカの光逃避行動を光照射開始後3分以内に誘導するために必要な青色光(455nm)の光強度の閾値は10〜30μmolm−2−1であることが確認できた。
【0026】
〔実施例3〕
緑色光による光逃避行動の阻害効果の検討
LED光源(ISL−150X150−HGB45、CCS株式会社)により、シャットネラに青色光(450nm、50μmolm−2−1)または緑色光(525nm、50μmolm−2−1)を単独で照射した。また、同じ強度の青色光および緑色光を同時に照射し、照射直前と3分後の細胞の表層細胞密度を比較した。
【0027】
図3に表層における細胞の減少量を照射開始時の相対値(%)として示した。図3の暗条件とは光を何も照射していない条件を示す。図3に示されるように、青色光を単独で照射した場合のみ、表層細胞密度の低下が観察された。
従って、この結果より、50μmolm−2−1の青色光(450nm)を照射した場合、緑色領域の光(525nm)を青色光と同じ以上の強度で同時に照射するとシャットネラの光逃避行動の誘導が阻害されるため、実環境中では太陽光から緑色領域の光をカットすることによっても光逃避行動を誘導することができることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の特定の波長の光を照射する赤潮原因ラフィド藻類の光逃避行動を誘導する方法を活用することにより、赤潮の被害を軽減するための装置の提供等が可能となる。
図1
図2
図3