【文献】
Rafael Ballesteros-Garrido et al.,Tunability by alkali metal cations of photoinduced charge separation in azacrown functionalized graphene,Chemical Communications,2013年 4月21日,Vol.49, No.31,pp.3236-3238
【文献】
Yoshiyuki NONOGUCHI et al.,Systematic Conversion of Single Walled Carbon Nanotubes into n-type Thermoelectric Materials by Molecular Dopants,Scientific Reports,2013年11月26日,Volume 3,Article number 3344
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記成型工程において、カーボンナノチューブを分散させる溶媒は、o−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1−クロロナフタレン、2−クロロナフタレンまたはシクロヘキサノンであることを特徴とする請求項3に記載のカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法。
上記接触工程において、上記フィルムを、上記ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液に浸漬させることによって、上記カーボンナノチューブと上記ドーパント組成物とを接触させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法。
上記接触工程において、上記ドーパント組成物を溶解させる溶媒は、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはN−メチルピロリドンであることを特徴とする請求項5に記載のカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法。
カーボンナノチューブが集積したフィルムと、上記カーボンナノチューブのゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物とを含有したカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体であって、
上記ドーパント組成物は、アニオンと、カチオンと、当該カチオンを捕捉する捕捉剤とを含み、
上記カチオンは、金属イオンであり、
上記捕捉剤は、クラウンエーテルであり、
上記クラウンエーテルは、アリーレン基を有することを特徴とするカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のような従来技術(特に非特許文献1および2に記載の技術)は、そのゼーベック係数が正の値であることからもわかるようにp型導電性を示す材料である。通常、上記分野では、p型導電性を示す材料(p型材料)およびn型導電性を示す材料(n型材料)の両方を備えた双極型素子を用いることが好ましい。例えば、熱電変換素子は、温度差によって物質内に生じる電位差を利用することによって発電を行う熱電発電に用いられる素子である。熱電変換素子においては、p型材料またはn型材料のいずれか一方のみを備えた熱電変換素子では、高温側の端子から熱が逃げるため、発電効率が良くない。
図1はn型材料とp型材料とを用いた双極型熱電変換素子を示す模式図である。双極型熱電変換素子であれば、n型材料とp型材料とを直列につなぐことにより、効率的に発電することができる。
【0008】
このような双極型素子を作製するためには、従来技術に開示されているようなp型材料だけではなく、当該p型材料と組み合わせる対象となるn型材料が必要である。しかしながら、上記p型材料に匹敵する出力を示すn型材料は知られていない。なお、n型導電性ポリマーは不安定であることが知られており(D.M. de Leeuw et al., Synthetic Metals87, 51-59, 1997)、このことから、安定したn型材料を得ることは困難であるということが当該分野の技術常識であった。
【0009】
また、上述のような熱電変換素子を、蒸着またはアニーリングを経る製造プロセスにて各種の機器に搭載する場合、100℃を超える温度に対する耐熱性が要求される。さらに、熱電変換素子を医療機器に利用する場合は、殺菌のために高温に曝される。また、熱電変換素子を自動車のエンジンルームに搭載することも想定されるが、この場合も同様に高温に曝される。しかしながら、100℃を超えるような高温下において優れた耐熱性を示すn型材料はこれまで知られていなかった。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、優れた耐熱性を備え、且つ、高出力のn型カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、まずカーボンナノチューブが集積したフィルムを成型し、その後、アニオンと、カチオンと、当該カチオンを捕捉する捕捉剤とを含んでいるドーパント組成物をフィルムに対して接触させることによって、安定したドーピングが可能であることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法は、カーボンナノチューブが集積したフィルムを成型する成型工程と、上記フィルムに対して、上記カーボンナノチューブのゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物を、溶媒中にて接触させる接触工程と、を含み、上記ドーパント組成物は、アニオンと、カチオンと、当該カチオンを捕捉する捕捉剤とを含んでいることを特徴としている。
【0013】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記アニオンは、OH
−、CH
3O
−、CH
3CH
2O
−、i−PrO
−、t−BuO
−、SH
−、CH
3S
−、C
2H
5S
−、CN
−、I
−、Br
−、Cl
−、BH
4−およびCH
3COO
−からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0014】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記カチオンは、金属イオンであり、上記捕捉剤は、有機配位子であってもよい。
【0015】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記有機配位子は、クラウンエーテルであってもよい。
【0016】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記クラウンエーテルは、アリーレン基を有していてもよい。
【0017】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記成型工程において、カーボンナノチューブを分散させた溶媒を濾過することによって、フィルムを成型してもよい。
【0018】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記成型工程において、カーボンナノチューブを分散させる溶媒は、o−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1−クロロナフタレン、2−クロロナフタレンまたはシクロヘキサノンであってもよい。
【0019】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記接触工程において、上記フィルムを、上記ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液に浸漬させることによって、上記カーボンナノチューブと上記ドーパント組成物とを接触させてもよい。
【0020】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記接触工程において、上記ドーパント組成物を溶解させる溶媒は、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはN−メチルピロリドンであってもよい。
【0021】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記カーボンナノチューブの外径は0.7〜200nmであってもよい。
【0022】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法では、上記ドーパント組成物は、n型ドーパントであってもよい。
【0023】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体は、本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法によって製造されたことを特徴としている。
【0024】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体は、カーボンナノチューブが集積したフィルムと、上記カーボンナノチューブのゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物とを含有したカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体であって、上記ドーパント組成物は、アニオンと、カチオンと、当該カチオンを捕捉する捕捉剤とを含有していることを特徴としている。
【0025】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体では、上記アニオンは、OH
−、CH
3O
−、CH
3CH
2O
−、i−PrO
−、t−BuO
−、SH
−、CH
3S
−、C
2H
5S
−、CN
−、I
−、Br
−、Cl
−、BH
4−およびCH
3COO
−からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0026】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体では、上記カチオンは、金属イオンであり、上記捕捉剤は、有機配位子であってもよい。
【0027】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体では、上記有機配位子は、クラウンエーテルであってもよい。
【0028】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体では、上記クラウンエーテルは、アリーレン基を有していてもよい。
【0029】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体では、上記カーボンナノチューブの外径は0.7〜200nmであってもよい。
【0030】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体では、120℃以上にて200時間以上、ゼーベック係数が負の値に保たれてもよい。
【0031】
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体では、出力因子が310Kにて100μW/mK
2以上であってもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、カーボンナノチューブが集積したフィルムを成型する成型工程の後に、上記フィルムに対して、特定のドーパント組成物を接触させる接触工程を有しているため、優れた耐熱性を備え、且つ、高出力のn型カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0035】
〔1.カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の性能に関する指標〕
本発明の実施の形態の説明に当たり、まず、カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の性能に関する指標について説明する。当該指標としては出力因子(パワーファクター)が挙げられる。出力因子は、以下の式(1)によって求められる。
【0036】
P=S
2σ (1)
式(1)中で、Pは出力因子、Sはゼーベック係数、σは電気伝導率を示す。本発明においては、例えば、出力因子が310Kにて100μW/mK
2以上であることが好ましく、200μW/mK
2以上であることがより好ましく、400μW/mK
2以上であることが特に好ましい。出力因子が310Kにて100μW/mK
2以上であれば、従来型のp型材料と同等またはそれを上回る値であるため、好ましい。
【0037】
ゼーベック係数とは、ゼーベック効果を示す回路の、高温接合点と低温接合点の間の温度差に対する、開放回路電圧の比をいう(「マグローヒル科学技術用語大辞典 第3版」より)。ゼーベック係数は、例えば、後述する実施例で用いたゼーベック効果測定装置(MMR Technologies社製)等を用いて測定することができる。ゼーベック係数の絶対値が大きいほど、熱起電力が大きいことを表す。
【0038】
また、ゼーベック係数は、カーボンナノチューブ等の電子材料の極性を判別するための指標となり得る。具体的には、例えば、ゼーベック係数が正の値を示す電子材料は、p型導電性を有しているといえる。これに対して、ゼーベック係数が負の値を示す電子材料は、n型導電性を有しているといえる。
【0039】
電気伝導率は、例えば、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP)を用いた4探針法により測定することができる。
【0040】
さらに、カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の性能に関する指標としては、耐熱性が挙げられる。本明細書において、耐熱性とは、高温下にて一定時間以上、ゼーベック係数が負の値に保たれることを意味する。本発明においては、120℃以上にて200時間以上、ゼーベック係数が負の値に保たれることが好ましい。この場合、殺菌処理または自動車のエンジンルーム等の高温下においても、n型材料としての特性を保つことができるため、好ましい。
【0041】
〔2.カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法〕
本発明に係るカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法(以下では、「本発明の製造方法」ともいう)は、カーボンナノチューブが集積したフィルムを成型する成型工程と、上記フィルムに対して、上記カーボンナノチューブのゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物を、溶媒中にて接触させる接触工程と、を含み、上記ドーパント組成物は、アニオンと、カチオンと、当該カチオンを捕捉する捕捉剤とを含んでいる。
【0042】
<カーボンナノチューブ>
上記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであってもよく、多層カーボンナノチューブであってもよい。本明細書においては、単層カーボンナノチューブをSWNT(single-wall carbon nanotube)、多層カーボンナノチューブをMWNT(multi-wall carbon nanotube)と称する場合もある。
【0043】
上記カーボンナノチューブのサイズは特に限定されず、例えば、外径が0.7〜200nmであってもよいが、1.0〜20nmであることがより好ましく、1.3〜10nmであることがさらに好ましく、1.4〜10nmであることが特に好ましく、1.5〜10nmであることが最も好ましい。外径が1.0〜20nmであれば、より耐久性に優れるため好ましい。その理由としては、曲率の小さな大直径のカーボンナノチューブが負電荷の非局在化に有利であることが考えられる。
【0044】
<フィルム>
本明細書において、フィルムとは、シートまたは膜とも言い換えられる。フィルムとは、カーボンナノチューブを1μm〜1000μmの厚みの膜に成型することが意図される。フィルムの密度は特に限定されないが、0.05〜1.0g/cm
3であってもよく、0.1〜0.5g/cm
3であってもよい。
【0045】
本発明の製造方法では、上記フィルムはカーボンナノチューブを集積させたものである。つまり、上記フィルムにおいては、カーボンナノチューブ同士が互いに絡み合うように不織布状の構造を形成している。そのため、上記フィルムは軽量であり、且つ、柔軟性を有している。
【0046】
<成型工程>
本発明の製造方法は、カーボンナノチューブが集積したフィルムを成型する成型工程を含む。当該成型工程により、ドーピング前に、カーボンナノチューブをフィルム状に成型することができる。
【0047】
フィルムを成型する方法としては、特に限定されないが、例えば、カーボンナノチューブを分散させた溶媒を濾過することによってフィルムを成型する方法が挙げられる。また、濾過には、メンブレンフィルターを用いる方法が挙げられる。具体的には、カーボンナノチューブの分散液を、0.1〜2μm孔のメンブレンフィルターを用いて吸引濾過を行い、得られた膜を、50〜150℃にて、1〜24時間、減圧乾燥させることにより、フィルムを成型することができる。
【0048】
カーボンナノチューブを分散させる溶媒としては、水であってもよく有機溶媒であってもよい。当該溶媒は、好ましくは有機溶媒であり、より好ましくはo−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1−クロロナフタレン、2−クロロナフタレンまたはシクロヘキサノンである。これらの溶媒であれば、カーボンナノチューブを効率的に分散させることができる。
【0049】
カーボンナノチューブの分散液を作る方法も特に限定されないが、均質化装置を用いてもよい。均質化装置を用いてカーボンナノチューブを溶媒中に分散させることによって均質な分散液を作ることができ、その結果、均質なフィルムを成型することができる。また、フィルムが均質になれば、後述のドーパント組成物を均一に接触させることができる。
【0050】
上記均質化装置としては、カーボンナノチューブを溶媒中で均質に分散させることができる装置であれば特に限定されないが、例えば、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧湿式微粒化装置等の公知の手段を用いることができる。なお、本明細書中において、単に「ホモジナイザー」と表記した場合は、「撹拌ホモジナイザー」が意図される。
【0051】
均質化装置の運転条件としては、カーボンナノチューブを溶媒中に分散させることができる条件であれば特に限定されないが、均質化装置として、例えば、ホモジナイザーを用いる場合は、カーボンナノチューブを加えた溶媒を、ホモジナイザーの撹拌速度(回転数)20000rpmにて、室温(23℃)にて10分間懸濁することによって、カーボンナノチューブを溶媒中に分散させることができる。
【0052】
<ドーパント組成物>
本明細書において、ドーパント組成物とは、ドーパントを含有する組成物を意図している。また、本明細書において、ドーパントとは、ドープされる対象となる材料のゼーベック係数を変化させる物質を意図している。そして、本発明の製造方法において、ドープされる対象となる材料とは、上述のカーボンナノチューブである。
【0053】
本明細書において、「ゼーベック係数を変化させる」とは、ゼーベック係数の値を減少させること、または、ゼーベック係数を正の値から負の値に変化させることを意図する。よって、「カーボンナノチューブのゼーベック係数を変化させるドーパント(またはドーパント組成物)」とは、かかるドーパント(またはドーパント組成物)を用いてドープされたカーボンナノチューブにおけるゼーベック係数の値を、ドーピング前と比較して減少させ得るドーパント(またはドーパント組成物)、または、かかるドーパント(またはドーパント組成物)を用いてドープされたカーボンナノチューブにおけるゼーベック係数を正の値から負の値に変化させ得るドーパント(またはドーパント組成物)が意図される。
【0054】
本明細書では、カーボンナノチューブにおけるゼーベック係数を正の値から負の値に変化させ得るドーパントを特にn型ドーパントと称する場合がある。ドーパントがn型ドーパントであれば、本発明の製造方法によって得られたナノ材料−ドーパント組成物複合体をn型導電性とすることができる。カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体がn型導電性を有していれば、双極型素子において、当該カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体をn型材料として使用することができるため、好ましい。
【0055】
上記ドーパント組成物は、ドーパントとしてアニオンを含有している。アニオンは、ナノ材料のキャリアを正孔から電子へと変化させる。従って、上記ドーパント組成物は、ナノ材料のゼーベック係数を変化させる。アニオンの例としては、ヒドロキシイオン(OH
−)、アルコキシイオン(CH
3O
−、CH
3CH
2O
−、i−PrO
−、t−BuO
−等)、チオイオン(SH
−)、アルキルチオイオン(CH
3S
−、C
2H
5S
−等)、シアヌルイオン(CN
−)、I
−、Br
−、Cl
−、BH
4−、カルボキシイオン(CH
3COO
−等)、NO
3−、BF
4−、ClO
4−、TfO
−およびTos
−等が挙げられる。なかでも、アニオンは、OH
−、CH
3O
−、CH
3CH
3O
−、i−PrO
−、t−BuO
−、SH
−、CH
3S
−、C
2H
5S
−、CN
−、I
−、Br
−、Cl
−、BH
4−、およびCH
3COO
−からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、OH
−およびCH
3O
−のうち少なくとも一方であることがより好ましい。上記アニオンによれば、効率よくカーボンナノチューブのゼーベック係数を変化させることができる。
【0056】
アニオンがドーパントとして作用する理由の一つとしては、アニオンが非共有電子対を有していることが考えられる。アニオンは、その非共有電子対に基づいて、ドーピングの対象となるカーボンナノチューブと相互作用するか、または化学反応を誘起すると推測される。また、ドーピングの効率においては、ドーパントのルイス塩基性、分子間力および解離性が重要であると考えられる。本明細書において、「ルイス塩基性」とは、電子対を供与する性質を意図している。ルイス塩基性の強いドーパントは、ゼーベック係数の変化に対して、より大きな影響を与えると考えられる。また、ドーパントの分子間力も、カーボンナノチューブ等に対するドーパントの吸着性に関連していると考えられる。ドーパントの分子間力としては、水素結合、CH−π相互作用、π−π相互作用等が挙げられる。ドーパントの解離性については後述する。
【0057】
以上のことから、上記アニオンのなかでも、弱い水素結合を与えるアニオンが好ましい。弱い水素結合を与えるアニオンとしては、例えば、OH
−、CH
3O
−、CH
3CH
2O
−、i−PrO
−、t−BuO
−が挙げられる。また、アニオンは、π−π相互作用を与えるアニオンであることが好ましい。π−π相互作用を与えるアニオンとしては、例えば、CH
3COO
−が挙げられる。
【0058】
本発明の製造方法では、ドーパント組成物は、アニオンと、カチオンと、当該カチオンを捕捉する捕捉剤とを含有している。そのため、捕捉剤がカチオンを捕捉することによって、アニオンを解離させることができる。そして、溶媒中にて、当該アニオンをドーパントとして、カーボンナノチューブに効率的にドープすることができる。なお、ドーパント組成物は、アニオンおよびカチオンを含有する化合物を含有していてもよい。
【0059】
また、上記ドーパント組成物が、カチオンを含んでいるため、安定的なドーピングを行うことができる。この理由の一つとしては、以下の理由が考えられる。アニオンがドープされたカーボンナノチューブは、負に帯電しているが、不安定である。これはアニオンが注入された付近の炭素原子が共役していない状態に近づくためであると考えられる。この負に帯電したカーボンナノチューブに対してカチオンが作用することにより、静電的に安定化することができる。
【0060】
さらに、上記ドーパント組成物が捕捉剤を含んでいるため、より安定的なドーピングを行うことができる。その理由としては、以下の理由が考えられる。カチオンが酸化されると正の電荷が失われ、電荷分離状態となるため、好ましくない。本発明の製造方法では、カチオンが捕捉剤に捕捉されるため、電荷分離状態を防ぐことができ、より安定的なドーピングを行うことができる。
【0061】
また、負に帯電したカーボンナノチューブは、負の電荷が非局在化した状態となっており、軟らかい塩基(soft base)となっていると考えられる。軟らかい塩基に対しては、軟らかい酸(soft acid)を作用させることで安定化することができる。しかしながら、カチオンは通常、硬い酸(hard acid)である場合が多い。カチオンを捕捉剤によって捕捉することにより(すなわち、カチオンと捕捉剤との錯体を形成させることにより)、正の電荷が非局在化した軟らかい酸とすることができる。なお、軟らかい酸および塩基、ならびに硬い酸および塩基の定義は、HSAB理論に基づく(R. G. Pearson, J. Am. Chem. Soc. 85 (22), 3533-3539, 1963)。
【0062】
以上のことから、本発明の製造方法では、カーボンナノチューブに対して、捕捉剤に捕捉されたカチオンを作用させることにより、フィルムを静電的に安定化させることができる。これにより、本発明の製造方法では、優れた耐熱性を備え、且つ、高出力のカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体を提供することができる。
【0063】
上記カチオンとしては、例えば、金属イオン等が挙げられる。金属イオンとしては、典型金属イオン、遷移金属イオン等が挙げられる。上記金属イオンは、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、フランシウムイオン、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオン、スカンジウムイオン等であってもよい。
【0064】
捕捉剤としては、カチオンを取り込む能力を有する物質を用いることができ、特に限定されないが、例えば、一般的なイオン吸着剤が使用できる。イオン吸着剤としては、カチオンが金属イオンである場合、有機配位子等が挙げられる。本明細書において、「有機配位子」とは、金属イオンと配位結合を形成する化合物を意図する。換言すれば、有機配位子は、金属イオンに対する配位ユニットを有する化合物である。有機配位子は、配位原子として、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。有機配位子は、単座の有機配位子(すなわち、1つの配位ユニットを有する化合物)であってもよく、多座の有機配位子(すなわち、2つ以上の配位ユニットを有する化合物)であってもよい。より効率よく金属イオンを取り込むことができるという観点からは、有機配位子は、多座の有機配位子であることが好ましい。多座の有機配位子としては、シクロデキストリン、クラウンエーテル、ベンゾクラウンエーテル、ジベンゾクラウンエーテル、アザクラウンエーテル、エチレンジアミン四酢酸、カリックスアレーン、ポルフィリン、フタロシアニン、サレン、クリプタンドおよびそれらの誘導体、ならびにN,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジリデン)エチレンジアミン(別名:H
2salen)およびその誘導体(例えばN,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−フェニレンジアミン)等が挙げられる。なかでも、水溶液中においてはエチレンジアミン四酢酸を用いることが好ましく、有機溶媒中においてはクラウンエーテル、ベンゾクラウンエーテル、ジベンゾクラウンエーテルを用いることが好ましい。なお、クラウンエーテルは酸素上の非共有電子対を通じてカチオンを溶媒和できる。このとき、対イオンであるアニオンはかさ高いクラウンエーテルにより正電荷と遮蔽されているため不安定であり、反応性が高い。このことを利用して、アニオンによる還元反応、すなわち、カーボンナノチューブへの電子注入が行われると考えられる。
【0065】
クラウンエーテルとしては、例えば、下記一般式(I)で表されるクラウンエーテルが挙げられる。
【0067】
式(I)中、nは1以上の整数である。
【0068】
なお、上記一般式(I)で表されるクラウンエーテルが化合物中の金属イオンを取り込むことによって形成された錯体は、下記一般式(II)で表される。
【0070】
式(II)中、nは1以上の整数である。Zは上述の金属イオンである。X
−は上述のアニオンである。上記式(II)から、クラウンエーテルの使用により、アニオンを解離できることがわかる。
【0071】
クラウンエーテルの具体例としては、例えば下記式(a)〜(c)で表されるクラウンエーテルが挙げられる。
【0073】
上記式(a)は、12−クラウン−4−エーテルである。上記式(b)は、15−クラウン−5−エーテルである。上記式(c)は、18−クラウン−6−エーテルである。捕捉剤として使用するクラウンエーテルは、取り込む対象となる金属イオンのサイズに合わせて、選択すればよい。例えば金属イオンがカリウムイオンである場合は、18−クラウン−6−エーテルが好ましく、金属イオンがナトリウムイオンである場合は、15−クラウン−5−エーテルが好ましく、金属イオンがリチウムイオンである場合は、12−クラウン−4−エーテルが好ましい。クラウンエーテルが化合物中の金属イオンを取り込むことによって形成された錯体の例としては、下記式(d)〜(f)で表される錯体が挙げられる。
【0075】
上記式(d)は、12−クラウン−4−エーテルが水酸化リチウム由来のリチウムイオンを取り込むことによって形成された錯体である。上記式(e)は、15−クラウン−5−エーテルが水酸化ナトリウム由来のナトリウムイオンを取り込むことによって形成された錯体である。上記式(f)は、18−クラウン−6−エーテルが水酸化カリウム由来のカリウムイオンを取り込むことによって形成された錯体である。
【0076】
また、上記クラウンエーテルは、アリーレン基を有していることが好ましい。すなわち、芳香環が2価の基として、クラウンエーテルの環の中に組み込まれていることが好ましい。このようなクラウンエーテルの例としては、ベンゾクラウンエーテル、ジベンゾクラウンエーテルが挙げられる。アリーレン基を有するクラウンエーテルを用いれば、より耐久性に優れたカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体を製造することができる。その理由としては、アリーレン基とカーボンナノチューブの間に生じる相互作用により、クラウンエーテル錯体がより強固にカーボンナノチューブ上に固定化されることが考えられる。アリーレン基としては、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0077】
より効率的にアニオンを解離させるという観点からは、金属イオンとクラウンエーテルとのモル比が1:1になるように、クラウンエーテルを加えることが好ましい。
【0078】
上述のように、本発明の製造方法においては、ドーパントのルイス塩基性および分子間力に加えて、解離性が重要である。アニオンは、より多く解離することが好ましい。従って、アニオンおよびカチオンを含有する化合物の解離定数が重要である。例えば、当該化合物の解離定数pKaが7以上であることが好ましく、14以上であることがより好ましい。
【0079】
本発明のドーパント組成物には、必要に応じて、上述したアニオン、カチオン、捕捉剤以外の物質が含まれていてもよい。このような物質としては、ドーパントの働きを阻害しないものであれば特に限定されない。
【0080】
また、本発明のドーパント組成物には、複数の種類のドーパントが含有されていてもよい。
【0081】
<接触工程>
本発明の製造方法は、上記フィルムに対して、上記ドーパント組成物を、溶媒中にて接触させる接触工程を含む。本発明の製造方法によれば、既に成型されたフィルムと、ドーパント組成物とを接触させることができるため、簡便にドーピングを行うことができる。例えば、上記接触工程においては、上記フィルムを、上記ドーパント組成物を溶媒中に溶解させた溶液に浸漬させることによって、上記カーボンナノチューブと上記ドーパント組成物とを接触させることができる。
【0082】
ドーパント組成物を溶解させる溶媒は、水であってもよく有機溶媒であってもよい。当該溶媒は、好ましくは有機溶媒であり、より好ましくはメタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはN−メチルピロリドンである。これらの溶媒であれば、より効率的にドーピングすることができる。
【0083】
ドーパント組成物を溶解させる濃度としては、任意の濃度であってよい。例えば、溶媒中のドーパント組成物の濃度は0.001〜1mol/Lであってもよく、0.01〜0.1mol/Lであってもよい。
【0084】
〔3.カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体〕
本発明にかかるカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体(以下、「本発明の複合体」ともいう。)は、本発明の製造方法によって製造されたことを特徴としている。換言すれば、本発明の複合体は、カーボンナノチューブが集積したフィルムと、上記カーボンナノチューブのゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物とを含有しており、上記ドーパント組成物はアニオンと、カチオンと、当該カチオンを捕捉する捕捉剤とを含有している。すなわち、本発明の複合体は、カーボンナノチューブが集積したフィルムに上記カーボンナノチューブのゼーベック係数を変化させるためのドーパント組成物を含浸させた複合体であり、上記ドーパント組成物はアニオンと、カチオンと、当該カチオンを捕捉する捕捉剤とを含有しているとも言える。なお、上記〔1.カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の性能に関する指標〕および〔2.カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体の製造方法〕の項で既に説明した事項については、説明を省略する。
【0085】
本発明の複合体は、その製造方法によって特定され得る。これは、出願時において当該物(本発明の複合体)をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、またはおよそ実際的でないという事情(不可能・非実際的事情)が存在するためである。本発明の複合体は、既に成型されたフィルムと、ドーパント組成物とを接触させることによって得られたものである。本発明の複合体は、後述の比較例2のようにドーパント組成物とカーボンナノチューブとを接触させた後にフィルムとして成型した場合に比べて、高出力のカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体となり得る。その理由としては、フィルム中のドーパント組成物の分布等の様々な要因が関連しているのではないかと推測される。しかしながら、様々な条件下で本発明の複合体を製造し、それぞれの条件下で得られた複合体におけるドーパント組成物の分布等を測定することは現実的ではない回数の実験等を行うことを要するものであって、著しく過大な経済的支出を伴う。また、フィルム中のドーパント組成物の分布等を包括的に表現することも困難である。
【0086】
本発明の複合体は、カーボンナノチューブが集積したフィルムを含んでいるため、軽量であり、且つ、柔軟性を示す。そのため、本発明の複合体は、ポータブルデバイス、ウェアラブルデバイス、フレキシブルデバイス等の小型機器の電源に利用することができる。
【0087】
また、本発明の複合体は、上述のようなドーパント組成物により、安定的にドーピングされている。従って、優れた耐熱性を備え、且つ、高出力である。そのため、殺菌処理または自動車のエンジンルーム等の高温下においても、性能を発揮することができるため、好ましい。
【0088】
本発明の複合体はn型導電性を示すことが好ましい。カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体がn型導電性を有していれば、双極型素子において、当該カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体をn型材料として使用することができる。
【0089】
本発明の複合体は、上記カーボンナノチューブおよび上記ドーパント組成物以外の物質が含まれていてもよく、上記以外の物質の種類は限定されない。
【0090】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
<実施例1>
5mgのSWNT(外径1.3nm、KH Chemicals社製、HPグレード)と20mLのo−ジクロロベンゼンとを混合し、微量超音波ホモジナイザー(QSONICA社製、Q125、125W)を用いて5分間超音波を照射した。得られた分散液を吸引濾過し、80℃にて減圧乾燥することにより、メンブレンフィルター(ミリポア社製、オムニポアメンブレンフィルター JGWP02500)上に不織布状のSWNTフィルムを得た。
【0093】
SWNTフィルムを、0.1mol/LのKOH(和光純薬工業社製、試薬特級)および0.1mol/Lの18−クラウン−6−エーテル(アルドリッチ社製)を含むエタノール溶液に5時間浸漬した。
【0094】
その後、SWNTフィルムを溶液から引き上げ、窒素ブローにより乾燥させ、さらに室温にて10時間減圧乾燥を行い、カーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体であるSWNTフィルムを得た。
【0095】
<実施例2>
SWNTとして名城ナノカーボン社製のeDIPS(外径2.0(±0.8)nm、品番:EC2.0)を用いたこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
【0096】
<実施例3>
SWNTとしてOCSiAl社製のTuball(外径1.8(±0.3)nm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
【0097】
<実施例4>
KOHの代わりにNaOHを用い、18−クラウン−6−エーテルの代わりに15−クラウン−5−エーテルを用いたこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
【0098】
<実施例5>
18−クラウン−6−エーテルの代わりにベンゾ−18−クラウン−6−エーテル(すなわち、フェニレン基を有する18−クラウン−6−エーテル)を用いたこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
【0099】
<実施例6>
15−クラウン−5−エーテルの代わりにベンゾ−15−クラウン−5−エーテル(すなわち、フェニレン基を有する15−クラウン−5−エーテル)を用いたこと以外は、実施例4と同様にSWNTフィルムを作製した。
【0100】
<実施例7>
実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
【0101】
<実施例8>
SWNTとして外径0.7nm以上〜1.3nm未満のSouthwest Nanotechnologies社製のカーボンナノチューブを使用したこと以外は、実施例1と同様にSWNTフィルムを作製した。
【0102】
<比較例1>
5mgのSWNT(外径1.3nm、KH Chemicals社製、HPグレード)と0.1重量%のポリエチレンイミンとを20mLのメタノールに加え、高速ホモジナイザー(ウルトラタラックス(登録商標)T25デジタル)を用いて、10分間、20000rpmにて撹拌した。得られた分散液をさらに10時間、1500rpmにて撹拌した。
【0103】
得られた分散液を吸引濾過し、80℃にて減圧乾燥することにより、メンブレンフィルター(ミリポア社製、オムニポアメンブレンフィルター JGWP02500)上に不織布状のSWNTフィルムを得た。
【0104】
<比較例2>
5mgのSWNT(外径1.3nm、KH Chemicals社製、HPグレード)を、0.1mol/LのKOH(和光純薬工業社製、試薬特級)および0.1mol/Lの18−クラウン−6−エーテル(アルドリッチ社製)を溶解させた20mLのメタノールに加え、高速ホモジナイザー(ウルトラタラックス(登録商標)T25デジタル)を用いて、10分間、20000rpmにて撹拌した。得られた分散液をさらに10時間、1500rpmにて撹拌した。
【0105】
得られた分散液を吸引濾過し、80℃にて減圧乾燥することにより、メンブレンフィルター(ミリポア社製、オムニポアメンブレンフィルター JGWP02500)上に不織布状のSWNTフィルムを得た。
【0106】
<参考例1>
SWNTフィルムを、KOHおよび18−クラウン−6−エーテルのエタノール溶液に浸漬する工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様にしてSWNTフィルムを作製した。
【0107】
<参考例2>
SWNTフィルムを、KOHおよび18−クラウン−6−エーテルのエタノール溶液に浸漬する工程を行わなかったこと以外は実施例2と同様にしてSWNTフィルムを作製した。
【0108】
<参考例3>
SWNTフィルムを、KOHおよび18−クラウン−6−エーテルのエタノール溶液に浸漬する工程を行わなかったこと以外は実施例3と同様にしてSWNTフィルムを作製した。
【0109】
<ドーピングの有無による出力の比較>
実施例1〜3および参考例1〜3にて得られたSWNTフィルムのゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置(MMR technologies社製、SB−200)を用いて測定した。評価は、310K(ゼーベック効果測定装置の表示温度)にて行った。また、SWNTフィルムの電気伝導率を、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP)を用いた4探針法により測定した。さらに、得られたゼーベック係数および電気伝導率から、上述の式(1)を用いて出力因子を算出した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
ゼーベック係数から、実施例1〜3はn型導電性を示し、参考例1〜3はp型導電性を示すことがわかる。また、実施例1〜3は、参考例1〜3と同等の出力因子を示した。よって、本発明の製造方法により、p型導電性材料に匹敵する出力因子を示すn型導電性材料を提供できることが確認できた。
【0112】
<耐熱性の確認>
実施例4および比較例1にて得られたSWNTフィルムのゼーベック係数を、空気中で室温にて測定した。結果を
図2に示す。
図2から、比較例1は徐々にゼーベック係数の絶対値が小さくなっていくのに対し、実施例4は変化がないことが確認できた。
【0113】
また、実施例1、4〜6および比較例1にて得られたSWNTフィルムのゼーベック係数を、空気中で120℃、135℃または150℃にて測定した。ゼーベック係数は、ゼーベック効果測定装置(MMR technologies社製、SB−200)を用いて測定した。結果を
図3〜5に示す。
【0114】
120℃以上の高温に曝された場合、比較例1ではゼーベック係数が徐々に正の値へと変化したのに対し、実施例1ではゼーベック係数の変化は小さく、正の値となることはなかった。具体的には、実施例1では、120℃にて200時間以上、135℃にて30時間以上、150℃にて10時間以上、ゼーベック係数が負の値に保たれた。このことから、本発明の製造方法により、優れた耐熱性を有するn型導電性材料を提供できることが確認できた。
【0115】
また、実施例1に比べて、フェニレン基を有するクラウンエーテルを用いた実施例5では、ゼーベック係数の絶対値が高く保たれたる時間が長くなっていた。同様に、実施例4に比べて、フェニレン基を有するクラウンエーテルを用いた実施例6では、ゼーベック係数が負の値に保たれたる時間が長くなっていた。このことから、アリーレン基を有するクラウンエーテルは、より耐熱性に優れることがわかった。
【0116】
さらに、実施例8にて得られたSWNTフィルムのゼーベック係数を、上述のゼーベック効果測定装置を用いて、空気中で150℃にて測定した。結果を
図6に示す。
【0117】
実施例8にて得られたSWNTフィルムは、比較例1に比べて安定性に優れているが、2〜3時間後から、顕著な変化が確認でき、劣化が開始していると考えられる。一方、外径が1.3nmであるSWNTを用いた実施例1は、
図5に示すように、10時間以上の安定性が確認され、大直径のカーボンナノチューブの優位性が認められる。
【0118】
<製造方法による出力の比較>
実施例7および比較例2にて得られたSWNTフィルムのゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置(MMR technologies社製、SB−200)を用いて測定した。評価は、310K(ゼーベック効果測定装置の表示温度)にて行った。また、SWNTフィルムの電気伝導率を、抵抗率計(三菱化学アナリテック社製、ロレスタGP)を用いた4探針法により測定した。さらに、得られたゼーベック係数および電気伝導率から、上述の式(1)を用いて出力因子を算出した。結果を表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
実施例7は、比較例2に比べて電気伝導率が高く、5倍もの出力因子を示した。この結果から、本発明の製造方法により、高出力のカーボンナノチューブ−ドーパント組成物複合体を提供できることが確認できた。