特許第6704582号(P6704582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704582
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】ボルト回転装置
(51)【国際特許分類】
   E01B 29/28 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
   E01B29/28
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-161212(P2016-161212)
(22)【出願日】2016年8月19日
(65)【公開番号】特開2018-28234(P2018-28234A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2019年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593206986
【氏名又は名称】株式会社関ヶ原製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000201467
【氏名又は名称】TONE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山崎 誠幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 友基
(72)【発明者】
【氏名】小林 雄介
(72)【発明者】
【氏名】南口 眞人
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 隆
(72)【発明者】
【氏名】山中 義樹
(72)【発明者】
【氏名】鷹澤 翼
(72)【発明者】
【氏名】坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】立入 健一
【審査官】 中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−346403(JP,A)
【文献】 特開2005−177940(JP,A)
【文献】 特開2000−190247(JP,A)
【文献】 中国実用新案第2665196(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 29/28
B25B 21/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール上を走行可能な車輪を有する台車と、
その台車上に支持され、モータによって回転される作動軸と、
その作動軸の中心を中心として回転可能で、同作動軸とは別体の支持部材と、
その支持部材の先端に設けられ、同支持部材の回転により向きが変更されるクランク部と、
前記支持部材の回転位置を調節するための操作部と、
前記クランク部の先端部に回転可能に設けられ、ボルトの頭部に係合可能にした係合部と、
前記作動軸の回転を前記係合部に伝達するための伝達機構と
を備えたボルト回転装置。
【請求項2】
前記台車は、前記車輪を有する下部フレームと、その下部フレーム上において上下に回転可能に支持された上部フレームとを有し、前記作動軸,支持部材,クランク部,操作部,係合部及び伝達機構を前記上部フレームに備えた請求項1に記載のボルト回転装置。
【請求項3】
前記支持部材の回転を許容する状態と、支持部材の回転をロックする状態とに切り換えるための切換機構を備えた請求項2に記載のボルト回転装置。
【請求項4】
前記上部フレームは、上下動操作可能な操作ハンドルを備え、その操作ハンドルと前記支持部材との間に連結部材を備えた請求項2または3に記載のボルト回転装置。
【請求項5】
前記操作ハンドルは、単独で横方向に回転可能である請求項4に記載のボルト回転装置。
【請求項6】
前記係合部の下方位置に向かってオイルを噴射するための噴射装置を備えた請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のボルト回転装置。
【請求項7】
前記ボルトを回転させた検査結果を記憶するための記憶装置を設けた請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のボルト回転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道レールにおいて、レールを固定した状態のボルトを緩めて、再度締め付け状態に戻す作業を行うことにより、ボルトの固定状態を検査するようにしたボルト回転装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のボルト回転装置が特許文献1に開示されている。
この特許文献1に記載のボルト回転装置においては、ハンドルが下降されることにより、ソケットが下降されてボルトの頭部に外嵌され、その状態でソケットが回転されることにより、ボルトが緩められたり、締め付けられたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−15733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、昨今、鉄道レール,特に高速鉄道のレールにおいては、車輪の脱線を防止するための脱線防止ガードが前記レールに対して近接した状態で並設されている。そして、脱線防止ガードが前記ボルトの頭部を覆うように、同頭部の上方に臨んでいるため、この脱線防止ガードが邪魔になって、ボルトを回転させる作業が困難なものとなっていた。
【0005】
本発明の目的は、脱線防止ガードが設置されていても、ボルトの回転作業を容易に行うことができるボルト回転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明においては、レール上を走行可能な車輪を有する台車と、その台車に支持され、モータによって回転される回転軸と、その回転軸を中心に回転可能にした支持部材と、その支持部材の先端に設けられ、前記支持部材の回転により旋回されるクランク部と、その支持部材を回転させるための操作部と、そのクランク部の先端部に回転可能に設けられ、ボルトの頭部に係合可能にした係合部を有する作動軸と、前記回転軸の回転を前記作動軸に伝達する伝達機構と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
以上の構成においては、台車がレール上に載置された状態において、クランク部がレールと脱線防止ガードとの間の隙間から脱線防止ガードの下側に進入される。そして、この進入位置において、クランブが旋回されることにより、係合部がレールを固定するボルトの頭部と対向する。このため、係合部をボルトの頭部に係合させて、モータにより係合部を回転させれば、ボルトを緩めたり、締め付けたりすることができる。従って、係合部と脱線防止ガードとの干渉を回避でき、脱線防止ガードが存在しても、ボルトを支障なく回転させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、脱線防止ガードが存在しても、ボルトの回転作業を支障なく行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ボルト回転装置の斜視図。
図2】ボルト回転装置の側面図。
図3】上部フレームを上方傾斜位置に配置した状態を示すボルト回転装置の側面図。
図4】ボルト回転装置の平面図。
図5】ボルト回転装置の正面図。
図6】駆動ユニットを示す断面図。
図7】オフセットアダプタの向きを調節する機構の部分を示す断面図。
図8】橋架アームの分離状態を示す平面図。
図9図7の9−9線における断面図。
図10】(a)は、ボルトを緩めた状態、(b)は、ソケットをボルト間において移動させる状態を示す一部側面図。
図11】ボルト回転装置の電気的構成を示すブロック図。
図12】ボルト回転装置の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体化したボルト回転装置の実施形態を図面に従って説明する。
鉄道レール(以下、単にレールという)101は、ボルト103により押さえ板106を介して枕木107に固定されている。本実施形態のボルト回転装置は、このボルト103がレール101を正常に締結している状態か、否かを検査するためのものである。すなわち、本実施形態のボルト回転装置は、列車の運行が停止される夜間等に用いられ、ボルト103をあらかじめ定められた所定回数(例えば、3回転)だけ緩めて、元の状態に締め直すことにより、レール101に対するボルト103の締結状態を検査するためのものである。このボルト回転装置をレール101上において人力によって移動させながら、各ボルト103を順次検査することができる。
【0011】
図1図4に示すように、ボルト回転装置の台車11は、下部フレーム111と、上部フレーム112とにより構成されている。下部フレーム111は、一方のレール101上を転動する前後一対の車輪12を備えるとともに、側部に橋架アーム13を備え、この橋架アーム13には他方のレール101上を転動する車輪14が支持されている。従って、台車11は、両レール101上をその延長方向に沿って移動される。なお、橋架アーム13の途中には、左右のレール101間の電流を遮断するための絶縁体15が介在されている。
【0012】
図4及び図5に示すように、橋架アーム13は、台車11に固定された基部131と、その基部131の先端に着脱可能に連結された延長部132とよりなり、この延長部132の先端に前記車輪14が支持されている。そして、図5及び図8に示すように、延長部132は、抜き差し可能な連結ピン133によって基部131に対する連結状態に維持され、連結ピン133を抜き取ることにより、基部131から分離できる。前記橋架アーム13の延長部132上には、発電機20を載置支持するための載置台134が設置されており、この載置台134上の発電機20によって発電された電力がボルト回転装置の後述するモータ23等の電気系統に供給される。
【0013】
図2及び図3に示すように、下部フレーム111の上面には下部スタンド16が固定され、この下部スタンド16の軸部161には受承部材162が水平面内において回転可能に支持されている。受承部材162には軸17により前記上部フレーム112がその端部において上下方向に回転可能に支持されている。下部スタンド16にはひとつの孔163が形成されるとともに、上部フレーム112には一対の孔181,182が形成され、孔163と、選択された孔181または182との間にピン19が抜き差し可能に支持される。そして、上部フレーム112の上下方向の回転にともない、孔163と対応した孔181または182との間に位置決めピン19が挿入されることにより、上部フレーム112は、図2に示す下方の水平位置と、図3に示す上方の傾斜位置との2位置とに保持される。
【0014】
図2図6及び図7に示すように、前記上部フレーム112上には駆動ユニット21が搭載され、その駆動ユニット21のユニットフレーム22の一端部には正逆回転可能なモータ23が支持されている。ユニットフレーム22の他端部には出力歯車24が回転可能に支持され、この出力歯車24と前記モータ23との間には複数の歯車よりなる歯車群25が介在されており、モータ23の回転が減速されて歯車群25の最終段の前記出力歯車24に伝達される。前記歯車群25内には切換機構18が介在され、この切換機構18の切換動作により、モータ23と出力歯車24との間の減速比が2段階に変更される。そして、通常時において、切換機構18は、減速比が低い側に保持されて、出力歯車24が高回転,低トルクで回転される。
【0015】
図1に示すように、上部フレーム112上にはカバー26が設けられ、前記駆動ユニット21の大半の部分がこのカバー26によって覆われている。前記切換機構18を切換動作させるための操作ノブ28は、メインカバー26の外側に設けられている。
【0016】
図7に示すように、前記出力歯車24の中心孔には作動軸27がスプライン29を介して一体回転可能に、かつ軸方向(上下方向)移動可能に挿通されている。
図7及び図8に示すように、前記ユニットフレーム22の下面には保持スリーブ31が固定されるとともに、その保持スリーブ31の内周側には円筒状の調節部材32が回転可能に配置されている。図7及び図9に示すように、保持スリーブ31には、複数の収容孔311が透設され、この収容孔311にはボール33が収容されている。収容孔311と対応する位置において、調節部材32の外周には、複数の凹部321が形成されている。本実施形態においては、凹部321は、8度間隔で配置されている。
【0017】
図7及び図9に示すように、前記保持スリーブ31の外周側には、ガイドロッド34を介して操作部としての操作リング35が上下動可能に設けられており、その操作リング35は、スプリング36により上方に向かって付勢されている。操作リング35の内周には、高部371と、低部372とを有するカム面37が形成されている。そして、スプリング36の付勢力により、操作リング35が上方位置にあるときには、カム面37の高部371が前記ボール33に係合して、そのボール33が前記凹部321内に入り込み、調節部材32の回転が阻止されて、調節部材32が同位置で保持される。また、スプリング36の付勢力に抗して操作リング35が引き下げ操作されたときには、カム面37の低部372がボール33に対向して、ボール33の外方への移動が許容され、調節部材32が回転可能な状態になる。従って、調節部材32は、凹部321の配置間隔である8度ごとに保持位置を調節可能である。
【0018】
前記調節部材32の下部内周には、スプライン38を介して支持部材としての支持筒39が一体回転可能に、かつ軸方向移動可能に連結されている。支持筒39は、スプライン38の内外部分の下端部どうしの係合により、下降端が規制されて、図7の位置からの下方移動が阻止される。支持筒39の下端には、クランク部としてのオフセットアダプタ40が固定されている。従って、前記調節部材32及び支持筒39の回転によりオフセットアダプタ40の横方向の向きが変更される。調節部材32及び支持筒39の内部には前記作動軸27の下部軸271が挿通されている。調節部材32及び支持筒39は、作動軸27とは関わりなく、作動軸27の中心位置を中心として一体回転される。
【0019】
オフセットアダプタ40内において、前記作動軸27の下部軸271の下端には駆動歯車43が固定されている。オフセットアダプタ40の先端部においてその内部には被動歯車44が支持され、両歯車44,43には中間歯車45が噛合されている。駆動歯車43,被動歯車44及び中間歯車45により伝達機構が構成されている。
【0020】
前記被動歯車44の下面において同歯車44の軸部には係合部材としてのソケット46が固定されている。従って、前記モータ23の正逆回転により、前記作動軸27,歯車43,45,45よりなる伝達機構を介してソケット46が正逆回転される。ソケット46には、ボルト103の頭部104と凹凸の関係で対応するとともに、下方に向かって開放された嵌合凹部47が形成されている。従って、嵌合凹部47内にボルト103の頭部104が嵌合されて、ボルト103が緊締方向及び緩解方向に回転される。
【0021】
前記歯車群25の動力伝達系の一部にはトルクセンサ48が介在されており、このトルクセンサ48により、ボルト103の回転時において、ソケット46に作用するトルクが検出される。
【0022】
前記ユニットフレーム22の上面には筒状の案内ガード51が固定され、その内部に前記作動軸27の上部軸272が挿通されている。上部軸272の上端にはボールベアリング53を介して接続部材54が相対回転可能に連結されている。
【0023】
図1図3に示すように、前記受承部材162の上面には、上部スタンド166が固定されている。この上部スタンド166の上端には軸56により支持レバー57が上下方向に回転可能に支持されている。支持レバー57は、2本のアーム571と、その両アーム571の先端間に連結された連結バー572とを備えている。連結バー572の中間部に固定した突片573には、軸60を介して連結部材としてのリンクよりなる連結ロッド61が連結され、この連結ロッド61が前記接続部材54に連結されている。従って、支持レバー57の上下方向への回転により、連結ロッド61を介して作動軸27が上下動される。
【0024】
図1及び図4に示すように、前記アーム571の長さ方向の中間部にはそれぞれ操作レバー58が軸59を介して横方向にそれぞれ単独で回転可能に支持され、両操作レバー58間は、軸60を介して連結ロッド61により連結されている。操作レバー58と連結ロッド61とにより操作ハンドルが構成されている。この連結ロッド61には、クランパ62が設けられており、このクランパ62の緊緩レバー63の操作により、クランパ62により連結ロッド61が把持され、また、その把持が解除される。クランパ62の端部には、一対の二股部621が設けられている。この二股部621は、前記連結バー572の突片573の両側において、前記連結バー572を挟んでいる。
【0025】
従って、緊緩レバー63によりクランパ62の把持状態が解除されると、操作レバー58が連結バー572,すなわち、支持レバー57に対して左右に回転可能になる。この場合、クランパ62は二股部621によって連結バー572を挟んでいるのみであるため、操作レバー58の左右動にともなう連結ロッド61と連結バー572との間の接近離間方向への変位を許容できる。緊緩レバー63によりクランパ62を把持状態にすると、操作レバー58,すなわち操作ハンドルが支持レバー57に対して左右方向において固定される。
【0026】
図2に示すように、一方の操作レバー58には、前記モータ23を起動するための起動スイッチ72が設けられている。
図1図3に示すように、前記台車11の後部には注油タンク73が搭載されている。
【0027】
前記上部フレーム112の前端には、筒状の案内部材75が固定されている。案内部材75及び上部フレーム112の孔には、支持ロッド76が上下動可能に支持されている。支持ロッド76には上下位置調節可能なストッパ77がネジにより固定されており、このストッパ77は、前記案内部材75の上面に当接される。支持ロッド76の上端には別のストッパ761が設けられている。そのストッパ761の下側において、支持ロッド76には、前記接続部材54に固定した規制板79がその孔791において外嵌されている。この規制板79とその下方のバネ受けリング762との間において支持ロッド76にはスプリング78が巻装されている。そして、このスプリング78により支持ロッド76が下方に付勢されている。
【0028】
支持ロッド76の下端には、支持クランプ80が水平方向に相対回転可能に支持され、緊緩レバー801により支持ロッド76に固定される。支持クランプ80の先端には支持ロッド76が挟持され、この支持ロッド76の下端には、注油ノズル81が設けられている。そして、図11に示すポンプ84の作用により、前記注油タンク73内のオイルがこの注油ノズル81から前記ソケット46の下側である斜め下方に向かって噴射(噴霧を含む)される。
【0029】
注油ノズル81は、緊緩レバー801を緩めることにより、支持クランプ80が回転可能になって、支持ロッド76を中心として注油ノズル81の横方向の向きを調節できる。また、別の緊緩レバー802により支持クランプ80を緩めることにより、支持ロッド76が回転可能及び上下動可能になって、前記注油ノズル81の横方向の向き及び上下位置を調節できる。前記注油ノズル81,ポンプ84,注油タンク73等により、噴射装置が構成されている。
【0030】
図2に示すように、前記上部フレーム112の先端部の下面には照明ランプ82が配置され、この照明ランプ82によりボルト103の部分が照明される。
図1及び図11に示すように、前記メインカバー26の前面には情報表示機能を有するタッチパネル91が配置されている。
【0031】
メインカバー26内において、前記上部フレーム112上には図11に示す制御装置92が設けられている。この制御装置92には、前記タッチパネル91,後述のカードリーダライタ93,前記モータ23,照明ランプ82,ポンプ84,起動スイッチ72及びトルクセンサ48が電気接続されている。メインカバー26の外側の位置には、カードリーダライタ93が設けられ、このカードリーダライタ93にはメモリカード94が着脱可能にセットされる。カードリーダライタ93は、メモリカード94のデータを読み取ったり、メモリカード94にデータを書き込んだりするための記憶装置として機能する。制御装置92は、ボルト回転装置全体の動作を制御する制御部95と、図12のフローチャートの動作プログラムを格納した記憶部96とを備えている。
【0032】
次に、以上のように構成されたボルト回転装置の作用を説明する。
まず、橋架アーム13の基部131に延長部132を連結した組み立て状態で、台車11の車輪12を一方のレール101上に載せるとともに、橋架アーム13の車輪14を他方のレール101上に載せる。このとき、台車11の上部フレーム112を図3に示す上方の傾斜位置に配置して、ピン19により保持する。このようにすれば、ソケット46や注油ノズル81がレール101の上方に配置されるため、それら46,81とレール101との干渉を避けることができる。
【0033】
この姿勢で、締め付け状態を確認しようとするボルト103の位置までボルト回転装置を人力で走行させる。
次いで、台車11の上部フレーム112を図2に示す下方位置にして、ピン19により保持する。
【0034】
また、上部フレーム112を下方位置に配置することに先立ち、オフセットアダプタ40が、レール101や脱線防止ガード102と干渉することなく、それらの間の隙間105から脱線防止ガード102の下側に移行できるようにする。すなわち、操作リング35を引き下げて、カム面37の低部372の作用によりボール33が外方に移動できるようにする。このようにすれば、調節部材32を回転させることができるため、手動で調節部材32を回転させることにより、支持筒39を介してオフセットアダプタ40をその長手方向が前記隙間105の延長方向に沿う方向に回転させることができる。調節部材32に対する操作を解除すれば、スプリング78のバネ力により調節部材32が上方へ復帰移動される。このため、カム面37の高部371の作用により、ボール33が内方へ移動されて、凹部321と係合される。従って、オフセットアダプタ40の向きを凹部321の配置間隔である8度単位で調節できる。
【0035】
よって、この調節状態でオフセットアダプタ40を脱線防止ガード102と干渉することなく、隙間105内を通過させることができる。
そして、オフセットアダプタ40が脱線防止ガード102の下側に位置した状態で、ソケット46がボルト103の頭部に対向するように、前記と同様にして調節部材32によりオフセットアダプタ40の向きを調節できる。
【0036】
一方、図2及び図3に示すように、通常時においては、スプリング78の付勢力により、支持ロッド76は、そのバネ受けリング762が案内部材75の上面に当接する下方位置に配置されている。この状態においては、上端側の上部ストッパ761と規制板79との間に間隔83が形成されている。
【0037】
この状態において、前記のオフセットアダプタ40の向きを調節する作業と相前後して、注油ノズル81が前記隙間105内を通過するように、緊緩レバー801の操作により、注油ノズル81の位置を調節する。そして、注油ノズル81が脱線防止ガード102の下側に位置した状態で、ボルト103の位置にあわせて、緊緩レバー801の操作により、注油ノズル81の向き及び上下位置を調節する。このようにすれば、ボルト103を狙って、注油ノズル81の噴射方向の向きを定めることができる。
【0038】
そして、メインスイッチをオン操作すれば、照明ランプ82が点灯して、レール101と脱線防止ガード102との間の隙間105を介してボルト103の部分が照明される。
この状態において、操作レバー58を下げれば、図2に示すように、ソケット46がボルト103の頭部に嵌合される。一方、支持ロッド76は、ストッパ77が案内ガード51に当接しているため、作動軸27が下がって、規制板79によりスプリング78は収縮されて、前記間隔83が広げられるが、支持ロッド76は下降されず、注油ノズル81はボルト103を狙った位置を保持する。
【0039】
そして、起動スイッチ72をオン操作すれば、図12に示すプログラムが制御部95の制御によってスタートされ、モータ23によりソケット46がボルト103を緩める方向に所定量(例えば3回転)高速回転され、ボルトが緩められる(S1)。このとき、ボルト103及びその周囲に噴射オイルが散布されて、ボルト緩めが補助される。また、このとき、ボルト103の錆び付き等により、ボルト103が緩まない場合は、トルクセンサ48により、トルク異常が検出されて、タッチパネル91に表示されるとともに(S2)、モータ23がいったん停止される(S3)。このため、作業者による操作ノブ28の操作により、駆動ユニット21の減速比が高いほうに切換えられ、起動スイッチ72により、再度モータ23が回転されて、ソケット46が低回転,高トルクで回転される。
【0040】
このように減速比を変更しても、ボルト103が緩まない場合は、トルクセンサ48により、異常トルクが検出されて(S4)、モータ23が停止され(S8)、異常を示すボルト103の位置がメモリカード94に記憶される(S9)。
【0041】
ボルト103に異常がなく、ボルト103が正常に緩められると、ネジの作用により、ボルト103が上昇される。このため、ソケット46も上昇され、従って、規制板79を有する作動軸27も上昇される。この場合、規制板79と上部ストッパ761との間に間隔83が形成されているため、図10(a)に示すように、規制板79はその間隔83の範囲内で上昇され、支持ロッド76は上昇されない。このため、注油ノズル81は定位置を保持し、ボルト103を狙った位置から外れることを防止できる。
【0042】
前記S4を経た後、ソケット46、すなわち、ボルト103が正常に緩む方向に所定量回転されると(S5)、モータ23が前記正転とは逆方向に同量回転されて(S6)、ソケット46も逆転され、ボルト103が締め付けられる。そして、ボルト103が元の状態に復帰して、それ以上の締め付けができなくなり、締め付けトルクが所定値を越えると、トルクセンサ48によってその状態が検出されて(S7)、モータ23が停止される(S8)。次いで、検査位置のボルト103が正常である旨がメモリカード94に書き込まれ、ボルト103の締め付け状態の検査が終了する。
【0043】
一方、ボルト103が所定量回数以上逆転されても、トルクが所定値に達しない場合は、ボルト103のネジ山の欠損等の原因により、締め付け不能の異常であると判断され(S10)、モータ23の回転が停止されるとともに、検査位置のボルト103が異常である旨がメモリカード94に記憶される。
【0044】
ボルト103の逆転直前あるいは逆転時においても、ボルト103に対してオイルが噴射されて、ボルト103締め付けが円滑に行なわれるとともに、ボルト103が錆び止めされる。
【0045】
このようにして、1本のボルト103に対する検査が終了した後は、ハンドル67を、図2の2点鎖線位置及び図10(b)の位置に小さく上昇回転させて、ソケット46をボルト103の頭部から外す。このようにすれば、作動軸27が上昇されて、規制板79と上端のストッパ761との係合を介して支持ロッド76が上昇され、注油ノズル81がボルト103の頭部と干渉しない上方位置に配置される。従って、そのソケット46及び注油ノズル81を脱線防止ガード102の下側の位置に維持した状態で、ボルト103と干渉することなく、ボルト回転装置を人力でレール101上を走行させて、次のボルト103の位置まで移動さることができる。そして、ハンドル67を下降回転させて、そのボルト103の頭部にソケット46を嵌める。このようにして、前記と同様にして、後続のボルト103の検査を行なうことができる。
【0046】
脱線防止ガード102の下側におけるボルト103の検査が終了して、オフセットアダプタ40及び注油ノズル81を脱線防止ガード102の上側に戻す場合は、オフセットアダプタ40及び注油ノズル81を脱線防止ガード102の下側に移行させた場合と逆の手順の作業を行なえばよい。
【0047】
レール101の外側,つまり脱線防止ガード102が設けられていない側のボルト103の検査を行なう場合は、レール101には脱線防止ガード102が存在しないため、つまり、隙間105が存在しないため、オフセットアダプタ40や注油ノズル81の隙間105が存在した場合のような位置合わせ作業は不要である。
【0048】
本実施形態においては、以下の効果がある。
(1)クランク形状のオフセットアダプタ40にボルト103を回転させるためのソケット46が設けられている。このため、オフセットアダプタ40の向きを変えることにより、レール101に脱線防止ガード102が並設されて、脱線防止ガード102がボルト103の上方を覆っている場合であっても、ソケット46と脱線防止ガード102との干渉を避けることができる。従って、隙間105からソケット46を脱線防止ガード102の下側に移動させて、ボルト103の検査を容易に滞りなく行なうことができる。
【0049】
(2)オフセットアダプタ40の向きを変更させるために操作される操作部は、オフセットアダプタ40の旋回を許容する状態と、オフセットアダプタ40を旋回不能にロックする状態とに切換えるための凹部321,ボール33,カム面37等の切換機構を有する。このため、操作部をオフセットアダプタ40のロック状態にすれば、オフセットアダプタ40の妄動を回避できて、ボルト103の検査を安定状態で行なうことができる。
【0050】
(3)ハンドル67の上下操作により、ソケット46を上下させるようにしたことにより、作業者は、下方側に位置するソケット46を直接上下動させる必要はない。このため、作業者は、無理な姿勢を強いられることなく、楽に作業を遂行することができる。
【0051】
(4)操作レバー58を横方向に回転可能にしたことにより、ソケット46をボルト103の位置に簡単に移動できる。また、図4に2点鎖線で示すように、レバー58のみを移動させれば、作業者は、作業しやすい位置にレバー58を配置して、楽で、効率的な作業効率を行なうことができる。さらに、作業者がレール101を踏んでしまうような姿勢を回避できる。
【0052】
(5)台車11の上部フレーム112を上下に回転可能にし、その上部フレーム112に前記作動軸27、オフセットアダプタ40、注油ノズル81、ハンドル67等を支持したことにより、操作レバー58により、それらの作動軸27等を上部フレーム112と一体的に移動させることができる。
【0053】
(6)異常を示したボルト103を特定してメモリカード94に記憶できる。従って、メモリカード94のデータを読み出せば、異常ボルト103を特定でき、ボルト103の交換等を迅速に行なうことができる。
【0054】
(7)ボルト103に対して注油するための装置を設けたことにより、オイルによってボルト103を緩めることができ、また、ボルト103が錆びることを少なくできる。
(8)駆動ユニット21の減速比の切換機構18を設けたことにより、ボルト103が錆ついた場合で、そのボルト103を緩めることが困難であっても、緩めることが可能になる。
【0055】
(9)上部フレーム112をボルト103の検査位置から上側の傾斜位置に保持できるようにしたことにより、ボルト回転装置の移動等に際して、ソケット46や注油ノズル81がレール101やボルト103と干渉することを回避できる。
【0056】
(10)支持ロッド76上において、規制板79と上部ストッパ761との間に、規制板79が上方移動できる間隔83が設けられている。従って、ボルト103の緩めにともなってソケット46が上昇しても、注油ノズル81は定位置を維持する。このため、ボルト103に対する注油ノズル81の狙いが外れることはない。
【0057】
(11)台車11の横方向に突出するアーム13を基部131と延長部132とに分離可能にしたことにより、基部131と延長部132との分離時には、ボルト回転装置全体がコンパクトになって、ボルト回転装置の運搬や保管に便利である。
【0058】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、以下のような態様で具体化することも可能である。
・前記実施形態においては、脱線防止ガード102とオフセットアダプタ40との干渉を避けるために、オフセットアダプタ40を回転させるようにした。これに代えて、ボルト回転装置の上部フレーム112を回転させて、前記の干渉を避けるようにすること。
【0059】
・ボルト103の頭部に対するソケットの46の上下動を上部フレーム112の上下動によって行なうようにすること。
・オフセットアダプタ40内において、ソケット46に回転を伝達するための伝達機構として、歯車よりなる伝達機構に代えて、ベルト及びプーリよりなる伝達機構あるいはチェーン及びスプロケットよりなる伝達機構を設けること。
【0060】
・前記実施形態では、検査データをメモリカード94に書き込むようにしたが、検査データを有線または無線を介して他の機器、例えば多機能携帯電話に対して送信するように構成すること。このように構成すれば、検査データを、多機能携帯電話から、例えば管理本部に対してリアルタイムに送信することが可能になる。
【0061】
・ボルト103を撮像するための撮像装置を設け、その撮像データをメモリカード94等に書き込んだり、無線送信できるようにしたりすること。
【符号の説明】
【0062】
11…台車、12…車輪、14…車輪、18…切換機構、23…モータ、27…作動軸、40…オフセットアダプタ、46…ソケット、57…支持レバー、58…操作レバー、81…注油ノズル、93…カードリーダライタ、111…下部フレーム、112…上部フレーム。
図1
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