特許第6704589号(P6704589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704589Nb3Al超伝導線材用前駆体線材及びNb3Al超伝導線材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704589
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】Nb3Al超伝導線材用前駆体線材及びNb3Al超伝導線材
(51)【国際特許分類】
   H01B 12/10 20060101AFI20200525BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20200525BHJP
   C22F 1/00 20060101ALI20200525BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200525BHJP
   B21F 19/00 20060101ALI20200525BHJP
   C22C 9/06 20060101ALN20200525BHJP
【FI】
   H01B12/10ZAA
   C22C27/02 102A
   C22C27/02 103
   C22F1/00 D
   C22F1/00 627
   C22F1/00 661A
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 692A
   C22F1/00 692B
   H01B13/00 565F
   C22F1/00 622
   C22F1/00 625
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 641C
   C22F1/00 650A
   C22F1/00 675
   B21F19/00 G
   !C22C9/06
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-103238(P2016-103238)
(22)【出願日】2016年5月24日
(65)【公開番号】特開2016-225288(P2016-225288A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2019年4月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-107372(P2015-107372)
(32)【優先日】2015年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 章弘
(72)【発明者】
【氏名】平田 和人
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 安男
(72)【発明者】
【氏名】土屋 清澄
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−059757(JP,A)
【文献】 特開2012−243685(JP,A)
【文献】 特開平09−106715(JP,A)
【文献】 特開平04−132108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 12/10
B21F 19/00
C22C 27/02
C22F 1/00
H01B 13/00
C22C 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nb及びAlを含むフィラメント領域と、該フィラメント領域の周囲を覆う少なくとも2つの第1のバリア層第2のバリア層とを有するシングル線を複数備えたNbAl線材用前駆体線材であって、
第1のバリア層は、Nb又はTaからなり、
第2のバリア層は、Ni、Al、Ti、Co、GdもしくはFe又はこれらのいずれかの元素の合金からなる群から選択された元素又は合金からな
前記フィラメント領域を覆う第1のバリア層及び第2のバリア層は、重ね巻きされた金属箔又は金属合金箔であり、
前記少なくとも2つの第1のバリア層とその間に前記第2のバリア層が挿入された構造を有する、
NbAl線材用前駆体線材。
【請求項2】
前記第1のバリア層及び第2のバリア層を、交互に繰り返し配置した積層構造をとる、請求項1に記載のNbAl線材用前駆体線材。
【請求項3】
前記フィラメント領域は、ジェリーロール法、RIT法、CCE法、PIT法のいずれかの方法によって作製される、請求項1又は2に記載のNbAl線材用前駆体線材。
【請求項4】
前記フィラメント領域は、Ge及び/又はSiをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のNbAl線材用前駆体線材。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の前駆体線材が加熱処理されることによって前記第1のバリア層及び第2のバリア層の少なくとも一部が互いに反応し、その結果形成されたNb合金又はTa合金を前記フィラメント領域の周囲に備えた、NbAl線材用前駆体線材。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか一項に記載の前駆体線材を、急熱急冷処理及び変態熱処理を行うことによって得られた、NbAl超伝導線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NbAl超伝導線材用の前駆体線材及びNbAl超伝導線材に関する。より詳しくは、Nb及びAlを含むフィラメント領域と、該フィラメント領域の周囲を覆う第1のバリア層及び第2のバリア層とを有するシングル線を複数備えたNbAl超伝導線材用の前駆体線材、及びNbAl超伝導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
NbAl超伝導線材は、約30T(4.2K)の高い上部臨界磁界と優れた耐ひずみ特性を有することから、磁石の高磁場化及び大型化にともなう電磁力の増大に応える有力な超伝導材料候補として、実用化の検討が行われている。歴史的には、1970年代から、NbSnと並んで線材化の研究が行われ、NbとAlの拡散距離を近づけるための複合加工法として、ジェリーロール法、ロッド・イン・チューブ法(RIT法)、クラッドチップ押出法(CCE法)、粉末充填法(PIT法)などが開発されている。
【0003】
現在、NbAl超伝導線材は、NbシートとAlシートをロールによって巻き上げてなる第1の線材をCu(銅)からなる安定化材で覆った第2の線材を形成し、この第2の線材を複数本束ねて銅筒に充填した後、当該筒に伸縮加工を施し、加熱処理することにより作製されるのが一般的である(ジェリーロール法)。このように、複数の極細超伝導フィラメントからなる多芯構造を形成し、各々の超伝導フィラメントをCuで分離することにより、極低温においても、超伝導線材の電磁気的安定化を図ることができる(特許文献1)。
しかしながら、NbAl超伝導線材では、特性に優れる化学量論組成のA15相を得るために約2,000℃の高温熱処理が必要となる場合があり(急熱急冷・変態法)、高温熱処理で溶融する純Cuを母材に使用するのは適当でないという問題があった(非特許文献1)。
【0004】
これに対して、各NbAl超伝導フィラメント間の分離を確保し、かつ高温熱処理においても溶融しない材料として、Nb(ニオブ)を使用することが提案され、例えば、フィラメントの外周にバリア層としてのNbシートを巻きつけたり、あるいは0.2mm前後の金属Nb層で被覆することが行われてきた。
例えば、特許文献2には、素線径76μm、素線数150本のNbAl超伝導素線を束ねてなる多芯構造のNbAl超伝導多芯線を急熱急冷法を用いて製作した後で、表面に厚さ0.3mmの金属Nb層を被覆形成し、その上に密着性を高める目的の中間膜と純銅からなる安定化層を被覆形成したことが記載されている。
しかしながら、バリア層にNbを用いた場合、Nbの超伝導転移温度は9.2Kであるため、超伝導線材の使用温度である極低温の液体ヘリウム温度(4.2K)でバリア層のNbが超伝導状態となり、このバリア層を介してNbAlフィラメント間を渡る渦電流が外部から侵入する磁束を遮蔽し得るため、超伝導線材が低磁場で磁気的に不安定化(フラックスジャンプ)するという問題があった(非特許文献1)。
【0005】
これに対して、各NbAl超伝導フィラメント間の分離を確保しつつ、高温熱処理においても溶融しない材料であることを前提とし、かつNbよりも超伝導転移温度が低いバリア層材料として、NbをTa(タンタル)に置き換えることが提案されている。Taの超伝導転移温度は4.5Kであり、液体ヘリウム温度(4.2K)に近いため、微小な磁場によって簡単にバリア層の超伝導状態を解消でき、4.2Kにおける低磁場下での超伝導線材の磁気的不安定性を抑制することが期待される。
例えば、特許文献3には、バリア層にTaを用いた例として、厚さ0.03mmのAlシートと厚さ0.10mmのNbシートとを巻芯に合わせ巻きした後、その外周に化合物生成防止シート(バリア層)としてTaシートを巻き付けてジェリーロール/シングル線を得、多芯線化して急熱急冷した後、その上にCuパイプとの密着性を向上する目的の金属層を形成したことが記載されている。
しかしながら、加速器マグネットなど超伝導線材の用途によっては、超流動ヘリウム温度(1.9K)の極低温でNbAl超伝導線材を使用する場合があり、かかる温度では、バリア層のTaが超伝導状態となるため、上記と同様の理由により、超伝導線材が低磁場で磁気的に不安定化するという問題がある。また、バリア層にTaを用いると、前駆体線材の伸線加工で断線が頻発する等の問題があることが知られており(特許文献4)、バリア層を含む線材の冷間加工性の改良や高強度化も求められる。
【0006】
この点、特許文献4には、バリア層にTaを採用したために生じる前駆体線の伸縮加工性の劣化ないし断線を解決する手段を提供するため、NbAlフィラメント層とTaからなるバリア層(第2バリア層)との間に、前記フィラメント層の硬度と前記第2バリア層の硬度との間の硬度を有する第1バリア層を挟む構成が記載され、実施例では第1バリア層にNbシートを用いた例が記載されている。
【0007】
また、特許文献5には、低磁界不安定性の抑制や良好な前駆体線の伸縮加工性等を図ることを目的として、高温短時間熱処理におけるTaとCu、あるいはTaとAgの間の「非反応性」を活用し、NbAlフィラメント領域をTa隔壁で被覆し、その外側をCu又はAgからなるフィラメント間バリア材で被覆した前駆体線材のシングル線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−132116号公報
【特許文献2】特開2000−243158号公報
【特許文献3】特開2010−244745号公報
【特許文献4】特開2011−90788号公報
【特許文献5】特開2012−243685号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】菊池章弘,「急熱急冷・変態法Nb3Al線材の開発」,低温工学,第47巻,第8号,2012年,503−511頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の背景から従来の問題点を解消するためになされたものであり、Nb及びAlを含むフィラメント領域と、該フィラメント領域の周囲を覆う第1のバリア層及び第2のバリア層とを有するシングル線を複数備えたNbAl超伝導線材用の前駆体線材、及びNbAl超伝導線材において、(1)バリア層の高温特性の改良(約2000℃の高温熱処理でも溶融しない)、(2)極低温における低磁場下での超伝導線材の磁気的不安定性(フラックスジャンプ)の抑制、(3)線材の冷間加工性の改良、ないし線材の高強度化、を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の文献に記載のとおり、NbAl超伝導線材が備えるバリア層としてのNb層又はTa層の欠点を補うためのこれまでの試みは、いずれも、Nb層又はTa層とは反応しない別の層からなるバリア層を別個に設け、各バリア層間のいわば「非反応性」を利用することにより、各バリア層の特徴を維持しつつ、NbAl超伝導線材中の複数のNbAlフィラメント層の分離を図るものである。
【0012】
本発明者らは、これまでの試みとは全く異なる視点から鋭意検討を進めた結果、前駆体線材が備える複数のバリア層の間の「反応性」をむしろ積極的に利用してNbAl超伝導線材を形成することを着想するに至り、例えば、バリア層としてのNb層又はTa層の少なくとも一部を異種元素で合金化し、冷間加工性にも配慮しつつ、これによりかかるバリア層の超伝導性を劣化(非超伝導化)させることや硬度を高めること等を通じて、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1) Nb及びAlを含むフィラメント領域と、該フィラメント領域の周囲を覆う第1のバリア層及び第2のバリア層とを有するシングル線を複数備えたNbAl線材用前駆体線材であって、第1のバリア層は、Nb又はTaからなり、第2のバリア層は、Ni、Al、Ti、Co、GdもしくはFe又はこれらのいずれかの元素の合金又はCu合金からなる群から選択された元素又は合金からなる、NbAl線材用前駆体線材。
(2) 前記第1のバリア層及び第2のバリア層を、交互に繰り返し配置した積層構造をとる、(1)に記載のNbAl線材用前駆体線材。
(3) 前記フィラメント領域は、ジェリーロール法、RIT法、CCE法、PIT法のいずれかの方法によって作製される、(1)又は(2)に記載のNbAl線材用前駆体線材。
(4) 前記フィラメント領域は、Ge及び/又はSiをさらに含む、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のNbAl線材用前駆体線材。
(5) 前記フィラメント領域を覆う第1のバリア層及び第2のバリア層が、重ね巻きされた金属箔又は金属合金箔である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のNbAl線材用前駆体線材。
(6) (1)〜(5)のいずれか1項に記載の前駆体線材が加熱処理されることによって前記第1のバリア層及び第2のバリア層の少なくとも一部が互いに反応し、その結果形成されたNb合金又はTa合金を前記フィラメント領域の周囲に備えた、NbAl線材用前駆体線材。
(7) (1)〜(6)のいずれか一項に記載の前駆体線材を、急熱急冷処理及び変態熱処理を行うことによって得られた、NbAl超伝導線材。
【発明の効果】
【0014】
本発明のNbAl超伝導線材用の前駆体線材ないし超伝導線材は、高温熱処理で溶融する材料のみをバリア層に用いていないため、約2000℃の高温熱処理でもバリア層全体が溶融することを回避することができ、従来の急速急冷処理・変態法によるNbAl超伝導線材の製造技術が適用できる。また、バリア層の超伝導転移温度が十分低いため、極低温における低磁場下での超伝導線材の磁気的不安定性を抑制することができ、使用時の超伝導線材の信頼性を高めることができる。また、バリア層には純Ta(タンタル)に代わる優れた複合材料が用いられているため、前駆体線材の伸線加工において断線が発生しにくく線材の冷間加工性に優れており、また、線材の硬度が高いことから、超伝導線材の広範な用途において極めて有用である。本発明の製造方法によれば、上記の効果を奏する線材を作製することができるため、量産時の歩留まりや製造コストの点でも有利であり、産業上利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】Nb−X合金(X:Cu、Ni、Al、Fe、Co)における超伝導転移温度のX濃度依存性を示す図である。
図2】Nb−X合金(X:Ni、Al、Fe、Co)におけるビッカース硬度のX濃度依存性を示す図である。
図3】Ta−X合金(X:Ni)における超伝導転移温度のX濃度依存性を示す図である。
図4】Ta−X合金(X:Ni)におけるビッカース硬度のX濃度依存性を示す図である。
図5】前駆体線材のバリア層として、純Nb箔とCu−30%Ni合金箔を用いた例を示す図である。
図6図5に示す前駆体線材に対し、約2000℃の高温熱処理を施した後の線材断面のEPMA元素分布図である(Nb−Cu−Ni合金バリア線材)。
図7】(a)は従来の純Nbバリア線材、(b)はNb−Cu−Ni合金バリア線材の低温における磁気的安定性を示す図である。
図8図6に示す線材の、中心ダミー部(純Nb)、バリア部(Nb−Cu−Ni合金)、外皮部(純Nb)のビッカース硬度を示す図である。
図9】前駆体線材のバリア層として、(a)Nb箔(比較材)を用いた例、(b)純Nb箔と純Al箔を用いた例、(c)純Nb箔と純Ni箔を用いた例、及び(d)純Ta箔と純Ni箔を用いた例を示す図である。
図10図9(b)に示す前駆体線材に対し、約2000℃の高温熱処理を施した後の線材断面のEPMA元素分布図である(Nb−Al合金バリア線材)。
図11図9(c)に示す前駆体線材に対し、約2000℃の高温熱処理を施した後の線材断面のEPMA元素分布図である(Nb−Ni合金バリア線材)。
図12図9(b)に示す前駆体線材に対し、約2000℃の高温熱処理を施した後の線材断面のEPMA元素分布図である(Ta−Ni合金バリア線材)。
図13】Nb−Alバリア線材の低温における磁気的安定性を示す図である。
図14】本発明の合金バリア線材及び従来のNbバリア線材の引張試験の結果を示す図である。
図15】本発明の合金バリア線材及び従来のNbバリア線材の、バリア部のビッカース硬度を示す図である。
図16】本発明の合金バリア線材及び従来のNbバリア線材の臨界電流密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
(NbAl線材用前駆体線材)
本発明のNbAl線材用前駆体線材は、Nb及びAlを含むフィラメント領域と、該フィラメント領域の周囲を覆う第1のバリア層及び第2のバリア層とを有するシングル線を複数備える。
第1のバリア層は、Nb又はTaからなり、本発明の効果を奏する範囲内で製造上避けることができない不可避不純物を微量含むこともできる。第2のバリア層は、Ni、Al、Ti、Co、GdもしくはFe又はこれらのいずれかの元素の合金又はCu合金からなる群から選択された元素又は合金からなり、同様に、本発明の効果を奏する範囲内で製造上避けることができない不可避不純物を微量含むこともできる。
【0018】
本発明では、第1のバリア層と第2のバリア層の反応性を積極的に利用することから、例えば約2000℃の高温において、第2のバリア層の材料は第1のバリア層の材料に溶解しうる材料であることが好ましく、互いに合金化し得ることがより好ましい。
発明者らの検討によれば、Nb−X合金において、XをCu、Ni、Al、Co又はFeとした場合、それぞれのXの含有量の増加とともに超伝導転移温度Tc(K)が下がり、また、Xを同一含有量(〜12at%)含む場合で比較したところ、Fe、Co、Al、Ni、Cuの順で、超伝導転移温度Tc(K)が下がることが実験から明らかとなった。さらに、XがNi、Al、Co又はFeの場合、Xの含有量(〜12at%)が増加するにつれて、高強度化することが実験から明らかとなった。したがって、例えば、前駆体線材の第1のバリア層がNbの場合、第2のバリア層を好ましくはNi又はNiを主成分とする材料、あるいは、好ましくはAl又はAlを主成分とする材料、あるいは、好ましくはCo又はCoを主成分とする材料、あるいは、好ましくはFe又はFeを主成分とする材料を用いることができ、これらの前駆体線材を高温で熱処理して各バリア層間の反応を利用することにより、得られた超伝導線材の低磁場での磁気的安定性が向上するとともに、高強度化した丈夫な超伝導線材が得られることが期待できる。
また、発明者らの検討によれば、Ta−X’合金において、X’をCu、Al及びNiとした場合、Ni、Al、Cuの順で、Taに対するX’の溶解度が高く(X’がCuの場合はTaにほとんど溶解しない)、このうちX’がNiの場合、X’の含有量(〜12at%)が増加するにつれて、超伝導転移温度Tc(K)が下がることが実験から明らかとなった。さらに、X’がNiの場合、X’の含有量(〜12at%)が増加するにつれて、高強度化することが実験から明らかとなった。したがって、例えば、前駆体線材の第1のバリア層がTaの場合、第2のバリア層を、好ましくはAl又はAlを主成分とする材料、さらに好ましくはNi又はNiを主成分とする材料を用いることができ、これらの前駆体線材を高温で熱処理して各バリア層間の反応を利用することにより、得られた超伝導線材の低磁場での磁気的安定性が向上するとともに、高強度化した丈夫な超伝導線材が得られることが期待できる。
【0019】
第1のバリア層及び第2のバリア層は、交互に繰り返し配置した積層構造をとることができ、多層構造を形成してもよい。例えば、第1のバリア層にNb、第2のバリア層にCuNiを用いた場合、Nb/CuNi/Nbとなる構造を採用することができる。このような前駆体線材を高温で熱処理して各バリア層間の反応を利用し、Nb−Cu−Ni合金へと変換することにより、Nbの超伝導転移温度を低下させて極低温下におけるバリア層の超伝導性を劣化させ、これによりNbAlフィラメント同士の電気的結合を抑制し、得られた超伝導線材の低磁場での磁気的安定性が向上するとともに、Nbバリア層が合金化することにより硬度が著しく上昇し、得られた超伝導線材の強度の向上が期待できる。
【0020】
NbAlフィラメント領域は、前述のとおり、ジェリーロール法、ロッド・イン・チューブ法(RIT法)、クラッドチップ押出法(CCE法)、粉末充填法(PIT法)などの公知の方法で作製することができ、いわゆるブロンズ法に代わる、NbとAlの拡散距離を近づけるための複合加工法を用いる等を用いることができる。
【0021】
また、前記フィラメント領域は、適宜、Ge及び/又はSiをさらに含んでもよく、超伝導素材としての効果を発揮するような好適な組成となるように公知の方法を用いて作製することができる。
【0022】
NbAlフィラメント領域を覆う第1のバリア層及び第2のバリア層は、重ね巻きされた金属箔又は金属合金箔であってもよく、シート状の形状の素材を好適に用いることができる。このように、バリア層を、異なる組成からなる複数の箔を適量巻き込む構造とすることで、線材に合金材料を用いた場合に一般に懸念される冷間加工性の困難性に対処でき、線材の優れた冷間加工性を維持・確保できる。また、これにより、第1のバリア層を形成する箔とこれに巻き込んだ第2のバリア層の箔とを、高温熱処理により互いに固溶させた際の合金化も容易であることから、前述のとおり、得られた超伝導線材の磁気的不安定性の抑制と線材の高強度化という複数の性能改善を同時に図ることが期待される。
【0023】
本発明の前駆体線材は、後の加熱処理により、第1のバリア層と第2のバリア層との間の「反応性」を積極的に利用してNbAl超伝導線材を形成することが可能であるが、加熱処理による反応は、第1のバリア層及び第2のバリア層の少なくとも一部が互いに反応すればよく、このような一部の合金化でも効果が期待できるが、互いに層全体が反応して合金化してもよい。このような合金化後の前駆体線材を好適に用い、公知の方法で超伝導線材を製造することができる。
【0024】
また、前記「反応性」を活用するための加熱処理前又は加熱処理後の前駆体線材を好適に用い、公知のいわゆる急熱急冷処理及び変態熱処理を行うことにより、NbAl超伝導線材を製造することができる。化学量論組成のNbAlは2000℃近傍の高温でのみ安定に存在するため、このような高温熱処理は超伝導性を十分に発揮させるための重要な方法である。また、一般に高温熱処理は結晶粒を粗大化し、粒界の減少に伴う臨界電流密度の減少を招くことから、高温からの急冷が有効である。このように高温から急冷する場合、直接A15相が析出する場合と過飽和固溶体が生成される場合があるが、急熱急冷処理及び変態熱処理を行うことにより、後者が実現され、ハンドリングが容易な延性のある過飽和固溶体を活用することができる(非特許文献1参照)。
【0025】
(NbAl線材用前駆体線材の製造例)
厚さ100μmのNb箔(3N)と厚さ30μmのAl箔(5N)を重ね合わせて、数mm径の細いNb棒又はTa棒に必要回数巻き付け、巻き終わり近くになったところで、Nb箔だけを追加で巻き、第1のバリア層とする。次に、このようにして形成したNb及びAlを含むフィラメント領域の周囲に巻かれたNb箔とともに、冷間加工性に優れた別の金属箔を第2のバリア層として適量重ねて巻きこみ、これにより、フィラメント領域と、フィラメント領域の周囲を覆う第1のバリア層及び第2のバリア層とを有するシングル線を形成する。上記の例は第1のバリア層がNbからなる場合であるが、第1のバリア層がTaからなる場合は、上記の追加で巻いたNb箔をTa箔に代えればよい。また、バリア層の形成には、上記の方法の他、管、電解メッキ又は物理蒸着を用いることが考えられる。
【0026】
次に、このシングル線を、純銅管に挿入し、公知の冷間静水圧押出を行ってNb箔及びAl箔並びに別の金属箔を密着させる。この場合、熱間押出はAlが溶けて積層構造が大きく崩れるおそれがあるため、冷間押出による処理がより好ましい。押出後は、銅管付きのままで所定の径まで冷間引抜き加工を行って、断面が六角形状になるように成形する。この成形体をシングル線と呼んでも差し支えない。
【0027】
その後、成形体であるシングル線の銅管を硝酸で除去し、第1のバリア層であるNbもしくはTa又は第2のバリア層である別の金属がむき出しの状態で所定の本数を束ねる。束ねる際に、中心部分は同形状のNb又はTaからなる六角材を複数本配置してもよい。最後に束ねた外周に、再度Nb又はTa箔を複数回巻き付けて線材の最外皮としてもよく、これをキュプロニッケル管に挿入して、再び冷間静水圧押出を行い、マルチ線となる。このようにシングル線を複数備えたマルチ線をNbAl線材用前駆体線材として用いることができる。
【0028】
なお、第1のバリア層と第2のバリア層の反応性を積極的に利用するため、前駆体線材の製造中又は製造後のいずれかの段階で加熱処理を行ってもよく、例えば、600〜2100℃で加熱処理を行うことが好ましい。また、このようなバリア層のための加熱処理は、後述するNbAl線材用前駆体線材を用いたNbAl超伝導線材の製造のいずれかの段階の急熱処理又は変態熱処理による加熱処理で代替して行ってもよい。
【0029】
(NbAl線材用前駆体線材を用いたNbAl超伝導線材の製造例)
上記の方法で製造したNbAl線材用前駆体線材(マルチ線)に、NbAl超伝導線材の製造方法として一般的な、公知の急熱急冷処理及び変態熱処理を施して、過飽和固溶体線を作製する。この急速急冷処理は、マルチ線が有するAlとNbとの過飽和固溶体を形成する処理である。
【0030】
まず、マルチ線に電流を供給する。マルチ線に電流が供給されると、マルチ線は自己通電加熱により1500℃から2100℃まで温度が上昇する。自己通電加熱により加熱するため、マルチ線は短時間で所定の温度まで急速に加熱される。続いて、加熱されたマルチ線を、所定の冷却用のバス、例えば、Ga(ガリウム)バスに浸すことにより、急速冷却する。このような急熱急冷処理は、加熱を1800〜2100℃で、0.1〜10秒行った後、500℃以下に急冷して行うのが好ましい。これにより、マルチ線を構成するAlとNbとが反応して、過飽和固溶体が形成される。
【0031】
続いて、過飽和固溶体を有するマルチ線に再加熱処理、すなわち、変態熱処理を行うことにより、最終形状を備えたNbAl超伝導線材が製造される。この場合、再加熱処理は、好ましくは600〜1000℃、典型的には800℃で、10時間程度の熱処理により実施することができる。
【0032】
また、比熱の小さい極低温では、臨界温度の低い金属系超伝導線材にとって安定化材を複合することが好ましく、例えば、急熱急冷処理及び変態熱処理を行った後で、断面丸形の線材を平角形状に成形しながら、銅箔(銅テープ)で包み込む安定化銅の複合技術を適用してもよい。複合する安定化材としては、銅の他、銀、アルミニウムなどを適宜使用することができる。
【実施例】
【0033】
(例1)
アーク溶解法で、Nbに少量のCu、Ni、Al(5〜15at%)、Co(2〜5at%)又はFe(2〜5at%)を固溶させたNb−Cu、Nb−Ni、Nb−Al、Nb−Co及びNb−Fe合金を作製した。
図1に、作製した各Nb合金の超伝導転移温度をSQUID測定した結果を示す。図1に示したとおり、いずれもNbに対するCu、Ni、Al、Co又はFe量の増加とともにNbの超伝導転移温度が低下した。特に、Fe、Co、Al、Ni、Cuの順で、Nbの超伝導転移温度が急激に低下することがわかる。このことから、これらの合金をNbAl超伝導線材のフィラメント間バリア材として使用すれば、極低温下におけるNbAlフィラメント間の電気的結合を断ち切ることができ、超伝導線材の安定性が大幅に改善することが示された。
図2に、作製したNb−Ni、Nb−Al、Nb−Co及びNb−Fe合金の硬度を測定した結果を示す。図2に示したとおり、Ni量、Al量、Co量又はFe量の増加とともに硬度が大幅に増加した。特に、Fe、Co、Ni、Alの順で、硬度が急激に上昇することがわかる。このことから、これらの合金をNbAl超伝導線材のフィラメント間バリア材として使用すれば、線材の機械的強度が大幅に改善することが示された。
このようなNbAl超伝導線材は、第1のバリア層をNbとし、第2のバリア層をCu、Ni、Al、Co又はFeとした本発明のNbAl線材用前駆体線材を加熱処理し、各バリア層を互いに合金化することにより実現できる。
【0034】
(例2)
アーク溶解法で、Taに少量のNi(5〜15at%)を固溶させたTa−Ni合金を作製した。
図3に、作製したTa−Ni合金の超伝導転移温度をSQUID測定した結果を示す。図3に示したとおり、Ni量の増加とともにTaの超伝導転移温度が低下した。このことから、Ta−Ni合金をNbAl超伝導線材のフィラメント間バリア材として使用すれば、極低温下におけるNbAlフィラメント間の電気的結合を断ち切ることができ、超伝導線材の安定性が大幅に改善することが示された。
図4に、作製したTa−Ni合金の硬度を測定した結果を示す。図4に示したとおり、Ni量の増加とともに硬度が大幅に増加した。このことから、Ta−Ni等の合金をNbAl超伝導線材のフィラメント間バリア材として使用すれば、線材の機械的強度が大幅に改善することが示された。
このようなNbAl超伝導線材は、第1のバリア層をTaとし、第2のバリア層をNiとした本発明のNbAl線材用前駆体線材を加熱処理し、各バリア層を互いに合金化することにより実現できる。
【0035】
(例3)
図5に示すように、NbAl線材用前駆体線材のバリア層として、Nb箔とその間にCu−30%Ni合金箔を適量挿入した。Cu−30%Ni合金箔は冷間加工性に優れており、前駆体線材は断線することなく所定の線径まで伸線加工することができた。これを約2000℃の高温熱処理すると、Nb箔とCu−30%Ni合金箔が相互反応する。
図6に、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)による元素分布図を示す。六角形のNbAlフィラメントの間のバリア部は、Nb、Cu及びNiで構成されており、Nb−Cu−Ni合金に変換されていることが明らかになった。これにより、Nbの超伝導転移温度が低下して、NbAl超伝導線材の極低温下におけるNbAlフィラメント間の電気的結合を断ち切ることができる。
図7は、極低温下での磁気的安定性を示す図で、(a)は従来の純Nbバリア線材、(b)はNb−Cu−Ni合金バリア線材の結果である。純Nbバリア線材は8Kでも磁化異常(磁化率の大きな膨らみ)が認められるが、Nb−Cu−Ni合金バリア線材は5Kでも磁化異常は認められず安定性が大幅に改善していることが明らかとなった。
図8は、Nb箔とCu−30%Ni合金箔を相互反応させた線材断面のビッカース硬度の比較である。純Nbの部分は70−80程度の硬度であるのに対し、Nb−Cu−Ni合金で構成されるバリア層は240程度と、約3倍もの著しい硬度上昇が確認され、超伝導線材の線材強度が大幅に増加することが明らかとなった。
【0036】
(例4)
図9に示すように、本発明のNbAl線材用前駆体線材のバリア層として、(b)Nb箔とAl箔を用いた例、(c)Nb箔とNi箔を用いた例、及び(d)Ta箔とNi箔を用いた例について、実験を行った。また、比較材として、(a)従来のNb箔のみを用いた例についても、実験を行った。
具体的には、バリア層として、(a)では、従来の純Nb箔のみ(比較材)を用い、(b)では、純Nb箔とその間に汎用の純Al箔を適量挿入し、(c)では、純Nb箔とその間に純Ni箔を適量挿入し、(d)では、純Ta箔とその間に純Ni箔を適量挿入した。そして、それ以外は、(a)〜(d)のいずれも、作製したNbAl線材用前駆体線材に対して、上記例3と同様にして、従来の急熱急冷処理及び変態熱処理を施すことにより、NbAl超伝導線材を作製した。すなわち、前駆体線材を、急熱急冷装置を用いて移動させながら、通電加熱により2000℃まで加熱し、次いで、Ga浴中を通過させることにより急冷させた。そして、この線材に、Cuメッキ、伸線加工、及び800℃での変態熱処理を行い、超伝導線材を得た。作製時の加工性はいずれの線材も良好であった。得られた各超伝導線材の外径は、1.0mmである。
【0037】
図10図12に、本発明の上記(b)〜(d)のEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)による元素分布図を示す。六角形のNbAlフィラメントの間のバリア部は、(b)では、Nb及びAlで構成され、Nb−Al合金に変換されており、(c)では、Nb及びNiで構成され、Nb−Ni合金に変換されており、(d)では、Ta及びNiで構成され、Ta−Ni合金に変換されていることが明らかになった。また、これにより、Nbの超伝導転移温度が低下し、又は、Taの超伝導転移温度が低下して、NbAl超伝導線材の極低温下におけるNbAlフィラメント間の電磁気的結合を断ち切ることができる。
図13は、極低温下での磁気的安定性を示す図で、上記(b)に対応するNb−Al合金バリア線材の結果である。図7(a)で示したとおり、純Nbバリア線材は8Kでも磁化異常(磁化率の大きな膨らみ)が認められるが、Nb−Al合金バリア線材は5Kでも磁化異常は認められず磁気的安定性が大幅に改善していることが明らかとなった。
図14は、上記(b)〜(d)に対応する本発明の合金バリア線材と、上記(a)に対応する従来のNbバリア線材の引張試験の結果を示す図である。図14に示したとおり、本発明の合金バリア線材は、従来のNbバリア線材に比べて、明瞭な引張応力の増加が認められ、すなわち線材強度が大幅に増加することが明らかとなった。
図15は、上記(b)〜(d)に対応する本発明の合金バリア線材、上記例3の本発明の合金バリア線材、及び、上記(a)に対応する従来のNbバリア線材の、バリア部のビッカース硬度を比較したものである。計測荷重は0.01kgとして測定を行った。図15に示したとおり、バリア部の硬度は、純Nb合金化によって増加し、純Nbに比べて、Nb−Al合金で約2倍、Nb−Ni合金で約3倍、Ta−Ni合金では約4倍にも著しく硬度が上昇することが明らかとなった。
【0038】
図16は、上記(b)〜(d)に対応する本発明の合金バリア線材と、上記(a)に対応する従来のNbバリア線材の、臨界電流密度を比較したものである。具体的には、作製した各NbAl超伝導線材を、液体ヘリウム温度4.2Kで、磁場を18Tまで印加して、臨界電流を測定した。図16に示したとおり、臨界電流密度は、(a)の純Nbバリア線材(比較材)が、336.14A/mm、(b)のNb−Alバリア線材が、369.24A/mm、(c)のNb−Niバリア線材が.361.60A/mm、(d)のTa−Niバリア線材が、392.16A/mmであり、本願発明の超伝導線材が、臨界電流密度の点でも極めて優れたものであることが明らかとなった。
【0039】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記の実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の項で説明した特徴の組み合わせの全てが本発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の超伝導線材用の前駆体線材ないし超伝導線材は、高温熱処理で溶融する材料のみをバリア層に用いていないため、約2000℃の高温熱処理でもバリア層全体が溶融することを回避することができ、従来の急速急冷処理・変態法による超伝導線材の製造技術が適用できる。また、バリア層の超伝導転移温度が十分低いため、極低温における低磁場下での超伝導線材の磁気的不安定性を抑制することができ、使用時の超伝導線材の信頼性が高い。また、バリア層には優れた複合材料が用いられているため、前駆体線材の伸線加工において断線が発生しにくく線材の冷間加工性に優れており、また、線材の硬度が高いことから、超伝導線材の広範な用途において極めて有用である。本発明の製造方法によれば、上記の効果を奏する線材を作製することができるため、量産時の歩留まりや製造コストの点でも有利であり、産業上利用価値が高い。
【0041】
本発明のNbAl超伝導線材は、超伝導マグネットとして応用することができる。また、本発明のNbAl超伝導線材は、臨界温度以下の環境において安定して超伝導性を発現すると共に、優れた耐ひずみ特性を有することから、km級の長尺線材として用いることができ、例えば、送電ケーブル、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、磁気分離装置、磁場中単結晶引き上げ装置、超伝導発電機、核融合炉用マグネット、高エネルギー粒子加速器用マグネット等の機器に適用することができる。
図1
図2
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