【実施例】
【0033】
(例1)
アーク溶解法で、Nbに少量のCu、Ni、Al(5〜15at%)、Co(2〜5at%)又はFe(2〜5at%)を固溶させたNb−Cu、Nb−Ni、Nb−Al、Nb−Co及びNb−Fe合金を作製した。
図1に、作製した各Nb合金の超伝導転移温度をSQUID測定した結果を示す。
図1に示したとおり、いずれもNbに対するCu、Ni、Al、Co又はFe量の増加とともにNbの超伝導転移温度が低下した。特に、Fe、Co、Al、Ni、Cuの順で、Nbの超伝導転移温度が急激に低下することがわかる。このことから、これらの合金をNb
3Al超伝導線材のフィラメント間バリア材として使用すれば、極低温下におけるNb
3Alフィラメント間の電気的結合を断ち切ることができ、超伝導線材の安定性が大幅に改善することが示された。
図2に、作製したNb−Ni、Nb−Al、Nb−Co及びNb−Fe合金の硬度を測定した結果を示す。
図2に示したとおり、Ni量、Al量、Co量又はFe量の増加とともに硬度が大幅に増加した。特に、Fe、Co、Ni、Alの順で、硬度が急激に上昇することがわかる。このことから、これらの合金をNb
3Al超伝導線材のフィラメント間バリア材として使用すれば、線材の機械的強度が大幅に改善することが示された。
このようなNb
3Al超伝導線材は、第1のバリア層をNbとし、第2のバリア層をCu、Ni、Al、Co又はFeとした本発明のNb
3Al線材用前駆体線材を加熱処理し、各バリア層を互いに合金化することにより実現できる。
【0034】
(例2)
アーク溶解法で、Taに少量のNi(5〜15at%)を固溶させたTa−Ni合金を作製した。
図3に、作製したTa−Ni合金の超伝導転移温度をSQUID測定した結果を示す。
図3に示したとおり、Ni量の増加とともにTaの超伝導転移温度が低下した。このことから、Ta−Ni合金をNb
3Al超伝導線材のフィラメント間バリア材として使用すれば、極低温下におけるNb
3Alフィラメント間の電気的結合を断ち切ることができ、超伝導線材の安定性が大幅に改善することが示された。
図4に、作製したTa−Ni合金の硬度を測定した結果を示す。
図4に示したとおり、Ni量の増加とともに硬度が大幅に増加した。このことから、Ta−Ni等の合金をNb
3Al超伝導線材のフィラメント間バリア材として使用すれば、線材の機械的強度が大幅に改善することが示された。
このようなNb
3Al超伝導線材は、第1のバリア層をTaとし、第2のバリア層をNiとした本発明のNb
3Al線材用前駆体線材を加熱処理し、各バリア層を互いに合金化することにより実現できる。
【0035】
(例3)
図5に示すように、Nb
3Al線材用前駆体線材のバリア層として、Nb箔とその間にCu−30%Ni合金箔を適量挿入した。Cu−30%Ni合金箔は冷間加工性に優れており、前駆体線材は断線することなく所定の線径まで伸線加工することができた。これを約2000℃の高温熱処理すると、Nb箔とCu−30%Ni合金箔が相互反応する。
図6に、EPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)による元素分布図を示す。六角形のNb
3Alフィラメントの間のバリア部は、Nb、Cu及びNiで構成されており、Nb−Cu−Ni合金に変換されていることが明らかになった。これにより、Nbの超伝導転移温度が低下して、Nb
3Al超伝導線材の極低温下におけるNb
3Alフィラメント間の電気的結合を断ち切ることができる。
図7は、極低温下での磁気的安定性を示す図で、(a)は従来の純Nbバリア線材、(b)はNb−Cu−Ni合金バリア線材の結果である。純Nbバリア線材は8Kでも磁化異常(磁化率の大きな膨らみ)が認められるが、Nb−Cu−Ni合金バリア線材は5Kでも磁化異常は認められず安定性が大幅に改善していることが明らかとなった。
図8は、Nb箔とCu−30%Ni合金箔を相互反応させた線材断面のビッカース硬度の比較である。純Nbの部分は70−80程度の硬度であるのに対し、Nb−Cu−Ni合金で構成されるバリア層は240程度と、約3倍もの著しい硬度上昇が確認され、超伝導線材の線材強度が大幅に増加することが明らかとなった。
【0036】
(例4)
図9に示すように、本発明のNb
3Al線材用前駆体線材のバリア層として、(b)Nb箔とAl箔を用いた例、(c)Nb箔とNi箔を用いた例、及び(d)Ta箔とNi箔を用いた例について、実験を行った。また、比較材として、(a)従来のNb箔のみを用いた例についても、実験を行った。
具体的には、バリア層として、(a)では、従来の純Nb箔のみ(比較材)を用い、(b)では、純Nb箔とその間に汎用の純Al箔を適量挿入し、(c)では、純Nb箔とその間に純Ni箔を適量挿入し、(d)では、純Ta箔とその間に純Ni箔を適量挿入した。そして、それ以外は、(a)〜(d)のいずれも、作製したNb
3Al線材用前駆体線材に対して、上記例3と同様にして、従来の急熱急冷処理及び変態熱処理を施すことにより、Nb
3Al超伝導線材を作製した。すなわち、前駆体線材を、急熱急冷装置を用いて移動させながら、通電加熱により2000℃まで加熱し、次いで、Ga浴中を通過させることにより急冷させた。そして、この線材に、Cuメッキ、伸線加工、及び800℃での変態熱処理を行い、超伝導線材を得た。作製時の加工性はいずれの線材も良好であった。得られた各超伝導線材の外径は、1.0mmである。
【0037】
図10〜
図12に、本発明の上記(b)〜(d)のEPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)による元素分布図を示す。六角形のNb
3Alフィラメントの間のバリア部は、(b)では、Nb及びAlで構成され、Nb−Al合金に変換されており、(c)では、Nb及びNiで構成され、Nb−Ni合金に変換されており、(d)では、Ta及びNiで構成され、Ta−Ni合金に変換されていることが明らかになった。また、これにより、Nbの超伝導転移温度が低下し、又は、Taの超伝導転移温度が低下して、Nb
3Al超伝導線材の極低温下におけるNb
3Alフィラメント間の電磁気的結合を断ち切ることができる。
図13は、極低温下での磁気的安定性を示す図で、上記(b)に対応するNb−Al合金バリア線材の結果である。
図7(a)で示したとおり、純Nbバリア線材は8Kでも磁化異常(磁化率の大きな膨らみ)が認められるが、Nb−Al合金バリア線材は5Kでも磁化異常は認められず磁気的安定性が大幅に改善していることが明らかとなった。
図14は、上記(b)〜(d)に対応する本発明の合金バリア線材と、上記(a)に対応する従来のNbバリア線材の引張試験の結果を示す図である。
図14に示したとおり、本発明の合金バリア線材は、従来のNbバリア線材に比べて、明瞭な引張応力の増加が認められ、すなわち線材強度が大幅に増加することが明らかとなった。
図15は、上記(b)〜(d)に対応する本発明の合金バリア線材、上記例3の本発明の合金バリア線材、及び、上記(a)に対応する従来のNbバリア線材の、バリア部のビッカース硬度を比較したものである。計測荷重は0.01kgとして測定を行った。
図15に示したとおり、バリア部の硬度は、純Nb合金化によって増加し、純Nbに比べて、Nb−Al合金で約2倍、Nb−Ni合金で約3倍、Ta−Ni合金では約4倍にも著しく硬度が上昇することが明らかとなった。
【0038】
図16は、上記(b)〜(d)に対応する本発明の合金バリア線材と、上記(a)に対応する従来のNbバリア線材の、臨界電流密度を比較したものである。具体的には、作製した各Nb
3Al超伝導線材を、液体ヘリウム温度4.2Kで、磁場を18Tまで印加して、臨界電流を測定した。
図16に示したとおり、臨界電流密度は、(a)の純Nbバリア線材(比較材)が、336.14A/mm
2、(b)のNb−Alバリア線材が、369.24A/mm
2、(c)のNb−Niバリア線材が.361.60A/mm
2、(d)のTa−Niバリア線材が、392.16A/mm
2であり、本願発明の超伝導線材が、臨界電流密度の点でも極めて優れたものであることが明らかとなった。
【0039】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記の実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の項で説明した特徴の組み合わせの全てが本発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。