(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の表示画面を直接指、またはタッチペンで触って操作する、タッチパネルを使用した機器が多くなっている。この様なタッチパネルの表面は、タッチパネルの傷付き防止のために保護層が直接タッチパネル表面に塗工積層されているか、保護層が積層された保護シートが貼合されている。
【0003】
前記のタッチパネル表面の保護シートとしては、硬質プラスチックやガラスのような硬質材料、もしくは軟質塩化ビニル樹脂等の軟質材料が用いられてきた。しかし、硬質材料を用いた際にはタッチペンによる入力時の滑り感・硬質感等による筆記感が悪く不評であり、また鋭利なものと接触した場合に容易に傷が付くという欠点を有していた。また、最近は曲面を有するタッチパネルも普及してきたが、硬質材料による保護シートでは曲面に追従できないため、このような曲面を有するタッチパネルの保護に用いるのは困難であった。
【0004】
一方保護シートに軟質材料を用いた場合には、タッチペンによる筆記感は概して良好であり、柔軟な基材を採用することで曲面を有するタッチパネルにも追従して貼合できるが、タッチペンによる通常の入力動作で容易に傷が付き保護シートとしての耐久性に劣るという欠点を有していた。また、指による入力では滑り感が不足し操作性に難があった。
【0005】
特許文献1には上記の課題を解決する手段として、保護シートの表面層が透明で自己修復性を有する軟質合成樹脂からなることを特徴とする保護シートが紹介されており、該軟質合成樹脂としてはポリウレタン系樹脂の使用がもっとも好ましいと提案されている。
【0006】
ポリウレタン系樹脂を使用して自己修復性層を構成した場合、自己修復性層の硬度を下げて柔らかくしたほうが、自己修復性能が向上して耐久性が良好となる。しかしながら柔らかいポリウレタン系樹脂からなる自己修復性層はその表面がタック性を有する。
【0007】
前記タック性に関しては、化粧シートの表面に自己修復性を持つ表面保護層を設け、該化粧シートをロール状に巻き取った際に表面保護層が化粧シート裏面と接触した場合に粘着することでブロッキングし、表面保護層と化粧シート裏面を剥がしたときにその裏面の凹凸により、接触部分が白化する問題が特許文献2の段落0004や段落0011に提示されている。この問題の解決のために、特許文献2では、自己修復性のある表面保護層の伸び率と動摩擦係数、および化粧シート裏面の凹凸形状を特定の値とする解決方法が紹介されている。
【0008】
前記解決方法によって、前記化粧シートをロール状に巻き取った際のブロッキングや白化は解決可能とされているが、前記化粧シートの表面保護層が裏面凹凸の特定値を外れる値を持った凹凸のある物体表面と接触した場合は、ブロッキングや白化の不具合が発生することが想到される。このようなシート裏面以外の凹凸のある物体に表面保護層が接触した場合については、特許文献2には何ら示唆がない。
【0009】
さらに曲面を有するタッチパネルを保護すべく、保護シートの基材を曲面追従可能な柔軟な素材とし、その上にウレタン系樹脂による自己修復性層を設けた場合、自己修復性層表面が物体表面に接触してタック性により粘着した際に、基材が柔らかいことでより広い面積が粘着したり、粘着した部分の相手側凹凸形状に沿った自己修復性表面の変形がより起こりやすくなり、前記ブロッキングや前記白化がさらに発生しやすくなる。その結果、物体から保護シートを引き剥がした際に変形した表面が目視で認識される現象が発生する。これは接触していた部分の表面状態が非接触部分のそれとは異なっていることによる。以下この接触していた部分の目視可能な変形を接触跡と呼称する。
【0010】
また、前記タック性により、指による滑り感が不足して、タッチパネル入力時の操作性低下をまねいていた。これを避けるために自己修復性層を硬くすると、自己修復性が低下して保護シートの耐久性が劣る結果となっていた。結果として曲面に追従し、タッチペンおよび指によるタッチパネル入力時の操作性が良好であり、物質と接触した際に接触跡が発生せず、かつ自己修復性にすぐれた保護シートは存在していない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の保護シートを、さらに詳しく説明する。
【0018】
(自己修復性保護シート)
本発明の保護シートは、熱可塑性エラストマー基材の片面に自己修復性層を積層した自己修復性をもつ曲面追従保護シートであって、前記自己修復性層が少なくとも前記ウレタン樹脂(A)と前記シリコーン樹脂(B)と前記イソシアネート(C)を熱架橋させてなることを特徴とする自己修復性をもつ曲面追従保護シートである。
【0019】
(基材)
本発明における基材としては、自己修復性層を塗工後、熱架橋した後でも曲面に対して追従させる必要から熱可塑性エラストマーを材料とするのが好ましい。前記基材のマルテンス硬度は0.1〜10.0N/mm
2が曲面追従性と基材強度の点から好適である。前記基材のマルテンス硬度が0.1N/mm
2未満だと、柔らかくなりすぎて容易に変形し、光学用途としては不適である。マルテンス硬度が10.0N/mm
2を超えると曲面への追従が困難になる。
【0020】
(熱可塑性エラストマー)
前記熱可塑性エラストマーは特に限定されず、スチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素系、塩化ビニル系、ポリオレフィン系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、ポリエチレン系などの熱可塑性エラストマーを使用することができる。これらの熱可塑性エラストマーは、単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0021】
これらの熱可塑性エラストマーのうちで、加工性、価格などから、ポリウレタン系(熱可塑性ポリウレタン(TPU))又はポリオレフィン系(熱可塑性ポリオレフィン(TPO))が好ましく、後述する自己修復性層との接着性からポリウレタン系(熱可塑性ポリウレタン(TPU))がより好ましい。
【0022】
TPUとしては、以下のハードセグメント及びソフトセグメントから構成されたものが挙げられるが、保護シートの曲面追従性の点から、イソシアネートとポリオール成分の配合量を適宜調節して、熱可塑性エラストマー基材の伸長応力を小さく、破断時伸び率を大きくすることが好ましい。
【0023】
ハードセグメントとしては、ジイソシアネート及び1,4‐ブタンジオールやジエチレングリコールなどのアルカンジオール又はジアルキレングリコールからなるものなどが挙げられる。
【0024】
ソフトセグメントとしては、ジイソシアネート、及びポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシブチレン−ポリオキシエチレン、ポリテトラメチレン、又はポリオキシブチレン−ポリオキシエチレン−グリコールなどのポリエーテル系、又はアルカンジオール−ポリアジペートなどのポリエステル系からなるものなどが挙げられる。ここで、ジイソシアネートとしては、4,4−ジフェニルメタン−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレン−ジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0025】
TPOとしては、以下のものが挙げられる。
(1)ハードセグメントとしてポリプロピレンを、ソフトセグメントとしてポリエチレンを有する熱可塑性エラストマー、
(2)エチレンと少量のジエン成分を有する熱可塑性エラストマー、
(3)エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、
(4)エチレン−プロピレンゴム(EPR)、
(5)ブチルゴムグラフトポリエチレン、
(6)スチレン系熱可塑性エラストマー、
(7)(1)〜(6)の各熱可塑性エラストマー(ゴム)をブレンドしたもの、
(8)有機過酸化物を(1)〜(7)に添加して部分的に架橋したもの、
(9)不飽和ヒドロキシ単量体や不飽和カルボン酸誘導体でグラフト変性されたもの、など。
【0026】
本発明における熱可塑性エラストマー基材の厚みは50μm以上200μm以下であることが好ましく、70μm以上180μm以下であることがより好ましい。熱可塑性エラストマー基材の厚みが50μm未満になると、保護シートとしての十分な性能が得られず、200μmを超えることはコスト的に無駄である。また、熱可塑性エラストマー基材の破断時伸び率は160%を超えることが好ましく、300%超えることがより好ましい。破断時伸び率が160%未満になると、保護シートの柔軟性が下がり、曲面追従性が低下する。
【0027】
本発明の保護シートの熱可塑性エラストマー基材には、保護シートの曲面追従性を満足するための柔軟性を損なわない範囲で、熱可塑性エラストマー成分以外に他の成分を含めることができる。その他の成分の例としては、改質剤(加工助剤)、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、難燃助剤、ブロッキング防止剤などが挙げられ、これらは必要に応じて単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
(自己修復性層)
本発明における自己修復性層は少なくとも、ウレタン樹脂(A)とシリコーン樹脂(B)とイソシアネート(C)を熱架橋させてなるポリウレタン系自己修復層であって、マルテンス硬度が50〜300mN/mm
2が適当である。マルテンス硬度が50mN/mm
2未満だと指やタッチペン等による入力動作により容易に変形してしまい、光学用途として不適である。300mN/mm
2を超えると硬いため自己修復性が良くない。
【0029】
(ポリウレタン系自己修復性層)
前記ポリウレタン系自己修復性層の材料のうちウレタン樹脂(A)としては、柔軟性と復元力があり、かつ熱架橋させるための官能基を有していればよく、そのような官能基を有する公知のウレタン樹脂が使用可能である。ウレタン樹脂(A)としては、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂ともに用いることができる。前記ポリウレタン系自己修復性層においては、耐薬品性、耐汚染性、耐久性から、熱硬化性ポリウレタン系樹脂を用いることが好ましい。また、熱架橋させるための官能基としては、水酸基を1分子中に複数有することが好ましい。
【0030】
前記熱硬化性ポリウレタン系樹脂の原料に用いるポリオール類は、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール等を挙げることができる。
【0031】
前記ポリオール類の内、耐久性、強度、自己修復性の点からは、ポリエステル系のポリオールが好ましく、環状エステル(特にカプロラクトン)を開環して得られるポリエステル系ポリオールがより好ましい。また、前記ポリオール類1分子中の官能基数は、強度、伸張性、自己修復性のバランスの点から、2〜3であることが好ましい。
【0032】
前記ポリオール類はトリオール単体、2種以上のトリオール混合物、又はトリオールとジオールの混合物が好ましい。また前記ポリオール類は、鎖延長剤を含んでいてもよい。この鎖延長剤としては、短鎖ポリオール、短鎖ポリアミン等を挙げることができる。これらの中でも、透明性、柔軟性、反応性の観点から短鎖ポリオールが好ましく、短鎖ジオールが特に好ましい。
【0033】
前記熱硬化性ポリウレタン樹脂の原料に用いるイソシアネートとしては、1分子中にイソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートであれば特に制限されるものではなく、芳香族ジイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が使用可能であるが、1分子中に付加される反応性基が増えるほど硬度が高くなる一方で自己修復能が低下する傾向があることから、ジイソシアネートが好ましく用いられる。なかでも透明性および耐久性の観点から、耐久黄変性を有する無黄変性ジイソシアネートがより好ましい。
【0034】
無黄変性ジイソシアネートは、芳香核に直接結合したイソシアネート基を有しない脂肪族あるいは脂環族のジイソシアネートであり、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。また前記ジイソシアネート類の多量体である、イソシヌアレート型、ビュレット型、アダクト型等の多官能イソシアネートを用いてもよい。イソシアネートは1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。さらにある特定温度までは反応しないよう官能基をブロック化したイソシアネートを用いてもよい。
【0035】
また、前記ポリウレタン系自己修復性層の耐擦過性、耐傷性等の向上を目的として、前記ウレタン樹脂(A)を、(メタ)アクリル化合物を熱硬化性ポリウレタン系樹脂の骨格に結合させたウレタン(メタ)アクリレート樹脂とするのも良い。
【0036】
前記ウレタン樹脂(A)の原料は、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。また、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の安定剤、ウレタン化触媒、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、シランカップリング剤、レベリング剤等の添加剤を添加してもよい。
【0037】
(シリコーン樹脂)
本発明において使用されるシリコーン樹脂(B)は、シリコーン樹脂の骨格の一部に水酸基を有するものが用いられ、水酸基を2つ以上付加した構造になっているポリオール変性シリコーン樹脂が好適に用いられる。
【0038】
本発明においては、自己修復性層を少なくとも前記ウレタン樹脂(A)と前記シリコーン樹脂(B)を前記イソシアネート(C)で架橋して形成するために、シリコーンが自己修復性層から離脱することが防止できる。その結果タック性を抑える効果による接触跡の発生防止が長期間継続することが可能である。また、シート表面の滑り性維持や汚染防止等の各性能の長期にわたる維持が可能である。
【0039】
前記シリコーン樹脂(B)の自己修復性層中の含有量は、0.1〜10.0重量%が好適である。含有量がこの範囲にあることで、自己修復性層の表面タック性が抑えられ、物体と接触しても粘着しないために、接触跡を生じない。前記シリコーン樹脂(B)の含有量が0.1重量%未満では所望の性能が得られづらい。含有量が10.0重量%を超えると基材との密着力が低下する。
【0040】
また、前記シリコーン樹脂(B)は、シリコーン−ウレタン樹脂の形で自己修復性層に含有させても良い。その場合のシリコーン−ウレタン樹脂におけるシリコーン変性率は、好ましくは、5〜50重量%の範囲内である。
【0041】
前記シリコーン−ウレタン樹脂は、たとえばポリオール変性シリコーン樹脂とイソシアネートを反応させて得られる。またポリオール変性シリコーン樹脂とウレタン樹脂とイソシアネートとを反応させてもよい。前記シリコーン−ウレタン樹脂に使用されるウレタン樹脂は、例えば前記熱硬化性ポリウレタン樹脂として記載されたものの中から、水酸基などの官能基を持つものを適宜用いることができる。
【0042】
ウレタン樹脂の骨格にシリコーン樹脂が結合する形態としては、ブロック結合、ランダム結合、グラフト結合などが挙げられる。本発明においてはいずれの形態も使用できる。
【0043】
前述のように前記シリコーン樹脂(B)をシリコーン−ウレタン樹脂として自己修復性層に含有させる場合、前記シリコーン樹脂(B)の持つ水酸基の当量と、反応する官能基当量から計算される量より過剰にシリコーン樹脂(B)を添加する事で、生成したシリコーン−ウレタン樹脂の分子末端に水酸基を持つがことでき、前記シリコーン−ウレタン樹脂を自己修復性層に含有させたときにウレタン樹脂(A)、イソシアネート(C)と熱架橋することができる。
【0044】
(イソシアネート)
本発明におけるイソシアネート(C)は、水酸基を有する樹脂を熱架橋することができるもので、例えば前記熱硬化性ポリウレタン樹脂の材料として挙げられた物が適宜使用できる。なかでもタッチパネル用途としては変色しない無黄変タイプが好ましく、また自己修復性層としては架橋後に柔軟性があることが好ましいため、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体が好適である。
【0045】
前記イソシアネート(C)の自己修復性層中の含有量は4.9〜40.0重量%が好適である。含有量が4.9重量%未満では、自己修復性層中の前記ウレタン樹脂(A)と前記シリコーン樹脂(B)の架橋が十分に行われず、ウレタン系樹脂の自己修復性層からのシリコーン樹脂の離脱が発生しやすくなり、性能低下を招くおそれがある。含有量が40.0重量%を超えると過剰のNCO基が互いに空気中等の水分を介して架橋し、強固な構造を形成して、自己修復性層の柔軟性が失われる傾向がある。
【0046】
前記自己修復性層は、塗工液をグラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷、ディップコート法、ブレードコート法、ロールコート法、バーコート法などの方法で、基材上に設けることができる。
【0047】
前記ポリウレタン系自己修復性層の厚さは、5μm以上50μm以下が好ましく、10μm以上30μmがより好ましい。ポリウレタン系自己修復層の厚さが5μm未満の場合、十分な自己修復性を発揮しない。傷の自己修復性の観点からは、傷の深さが自己修復性層の厚みを超え、傷が基材にまで到達した場合、傷を修復することができないので、できるだけ厚い方が良好であるが、厚みが50μmを超えると本発明の使用用途においては、使用する機器全体の厚みが増加したり、視認性が低下したりする不具合が起こる傾向がある。
【0048】
前記ポリウレタン系自己修復性層を硬化させるための加熱処理としては、塗工液に希釈溶媒を含む場合には、通常、70〜200℃の範囲内で数十分加熱し、塗膜中に残留している希釈溶媒を除いた後に、硬化処理を行うことが好ましい。加熱による硬化としては、例えば、通常、80〜250℃、好ましくは100〜200℃の加熱温度で加熱すればよい。このとき、オーブンを用いた場合には、30〜90分間、ホットプレートを用いた場合には、5〜30分間加熱すればよい。
【0049】
本発明の自己修復性層を有する保護シートをタッチパネル等へ固定する場合は、既存のタッチパネル等製造時に各種シートを積層する際に用いられる粘着剤や接着剤を適宜使用できる。また、タッチパネルなどへの保護シートの固定を目的として、自己修復性層を設けた側とは反対側の面に粘着剤層や、着脱可能な吸着層をあらかじめ設けておいてもよい。着脱可能な吸着層としてはシリコーン樹脂からなるシリコーン吸着層が挙げられる。
【0050】
(粘着剤層)
本発明の保護シートに設置可能な粘着剤層には、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、シリコーン系、ゴム系等の各種粘着剤を使用することができる。なかでもタッチパネル等の光学系用途に使用する場合に高透明な粘着剤が得やすい等の理由から、各種アクリルモノマーおよび/またはオリゴマーを共重合して得られるアクリル系粘着剤やアクリル系高分子粘着剤(エマルションタイプ)などが好適に使用できる。
【0051】
前記アクリル系粘着剤は、例えば、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸アミル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸アルキルエステルと、これらのアクリル酸アルキルエステル又は、メタクリル酸アルキルエステルに、酢酸ビニル、ビニルエーテル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニル基含有化合物や、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、アクリル酸ヒドロキシルエチル、メタクリル酸ヒドロキシルエチル、アクリル酸プロピレングリコール、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸−tert−ブチルアミノエチルなどを共重合したものが用いられる。
【0052】
(シリコーン吸着層)
本発明の保護シートに設置可能なシリコーン吸着層に用いるシリコーンの性状としては、透明性が高く、ゴムのような柔軟性を持っていていることが求められる。そして、シリコーン吸着層の性能としては、表面が被着体表面に追従して貼着できて、被着体からの剥離の際には小さい剥離力で被着体表面から容易に剥離できることが求められる。また、シリコーン吸着層に用いるシリコーンの加工上の性能としては、少なくとも膜厚10μm以上で、目付け加工の方法を用いることなく塗工及び加熱処理だけで、架橋したシリコーン吸着層を設けられることが求められる。このようなシリコーンとしては、架橋反応に際して150℃以下の低温短時間で深部まで架橋し、透明で耐熱性、圧縮永久歪み特性に優れかつ低粘度で液状タイプのものである付加型液状シリコーン樹脂の使用が好ましい。付加型液状シリコーン樹脂は、白金触媒等のもと、ビニル基を有するポリオルガノシロキサンと架橋剤としてSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとのヒドロキシル反応により熱架橋することができる。
【0053】
このようなシリコーンとしては、両末端にのみビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンと、両末端及び側鎖にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンと、末端にのみビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンと、末端及び側鎖にビニル基を有する分岐状ポリオルガノシロキサンからなるシリコーンとから選ばれる少なくとも1種のシリコーンを架橋させてなるものを用いると良い。
【0054】
前述のごとく、シリコーン吸着層の性状としては、ゴムのような柔軟性を持っていて被着体への貼着時に被着体の表面の凹凸に追従して吸着力を確保することが求められる。タッチパネルの保護シートとして使用する場合、シリコーン吸着層の膜厚は、被着体に対するシリコーン吸着層の吸着面方向の剪断力を確保するために少なくとも10μm以上、通常は20〜50μmが必要となる。10μm以下であると被着体に対する保護シートの吸着面方向の剪断力が確保できず、特に長期間の貼着時には、保護シートが被着体から剥がれ易い。
【0055】
本発明において粘着剤層、着脱可能な吸着層を設ける場合には、前記基材と前記粘着剤層、着脱可能な吸着層との接着力の向上、および前記吸着層を各種被着体への貼着後再剥離する際に前記吸着層と前記基材間で剥離することなく、被着体や積層構造体からスムーズに剥離できることを目的として、前記基材と前記粘着剤層、着脱可能な吸着層との間にアンカー層を設けることが好ましい。
【0056】
前記アンカー層の材料としては、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。中でもアクリル系樹脂が好ましく、特にアクリルポリオール樹脂が、帯電防止性や被膜特性の観点から好ましい。また、その他配合材料として帯電防止剤を添加し帯電防止機能を付与することができる。
【0057】
アンカー層塗工液、シリコーン吸着層塗工液の塗工方法としては、3本オフセットグラビアコーターや5本ロールコーターに代表される多段ロールコーター、ダイレクトグラビアコーター、バーコーター、エアナイフコーター等公知の方法が適宜使用される。
【0058】
(セパレーター)
本発明においては、自己修復性層や粘着剤層、吸着剤層の表面の汚れや異物付着を防いだり、保護シートのハンドリングを向上させるためにセパレーターを自己修復性層や粘着剤層、吸着剤層の表面に貼り合わせてもよい。セパレーターとしては、ポリエチレンテレフタレートや、ポリエチレン、ポリプロピレン等よりなる樹脂フィルムよりなり、所望により、表面に剥離剤を塗工したものが使用される。中でもコストや入手の容易性の点で、ポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0059】
以下、実施例と比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、各実施例、比較例中の「部」は特に断ることのない限り重量部を示したものである。
【0060】
(実施例1〜5、比較例1〜2)
(自己修復性層)
厚さ100μmの熱可塑性ポリウレタン基材(マルテンス硬度400mN/mm
2)に、下記表1の組成の材料を混合溶解した自己修復性層塗工液を乾燥、硬化後に15μmになるように調整して塗工、乾燥後、120℃×120秒で熱架橋させて自己修復性層を形成し、実施例1〜5、比較例1〜2の保護シートを得た。
【0061】
【表1】
単位:重量部
サンプレンIB−114B:三洋化成工業製 水酸基を有するポリエステル系ウレタン樹脂(樹脂分30%)
X−22−2756:信越化学工業製 水酸基を有するシリコーン−ウレタン樹脂、シリコーン変性率15重量%(樹脂分100%)
デュラネートTKA−100:旭化成製 ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(樹脂分100%)
【0062】
各実施例、比較例の評価結果を表2に、各評価方法を下記に示す。
【0063】
(マルテンス硬度測定)
前記実施例1〜5、比較例1〜2の保護シート、および自己修復性層を塗工していない基材を10mm×10mmの大きさにカットして試験片を作製し、超微小押し込み硬さ試験機(株式会社エリオニクス製 ENT―2100)を使用して下記条件にて各サンプルの自己修復性層表面、および基材のマルテンス硬度を測定した。
使用圧子:球状圧子(半径200μm)
最大荷重:100μN
荷重時間:10sec
保持時間:5sec
徐荷時間:10sec
【0064】
(タック性評価)
前記実施例1〜5、比較例1〜2の保護シートを50℃、Dryの条件で96時間保存した後、室温まで冷却し、自己修復性層をSUS304板に接触させて2Kgのゴムローラーを1往復させる方式で押し付けて、室温で1時間放置後、結果を下記条件にて評価した。
○:自己修復性層がSUS板と粘着しない。
×:自己修復性層がSUS板と粘着する。
【0065】
(滑り性評価)
前記実施例1〜5、比較例1〜2の保護シートを50℃、Dryの条件で96時間保存した後、室温まで冷却し、下記評価方法にて滑り性評価を行なった。結果は動摩擦係数にて評価した。
○:動摩擦係数が0.50未満
×:動摩擦係数が0.50以上
測定装置:株式会社トリニティーラボ製 TL201Ts型 静・動摩擦測定器
測定子:専用触覚接触子
測定加重:55g(0.54N/cm
2)
測定速度:10cm/sec
【0066】
(自己修復性評価)
実施例1〜5、比較例1〜2で形成した自己修復性層の表面を、下記擦過条件にてスチールウールで擦り、擦過後の自己修復性層の表面状態を下記評価基準にて目視判定して評価した。
(擦過条件)
#0000スチールウール(日本スチールウール株式会社製)を圧力3.9N/cm
2で自己修復性層表面に押し付け、振幅100mmで当該層表面上を10往復させる。
(評価基準)
◎:擦傷が付かない。
○:5分未満で擦傷が消失する。
△:5〜30分で擦傷が消失する。
×:30分超経過しても擦傷が消失しない。