(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
金属の積層造形物を製造するための装置として、特許文献1に記載の積層造形装置がある。この積層造形装置では、造形槽内の造形空間において、リコータヘッドを水平一軸方向に移動させ、リコータヘッドに設けられた材料貯蓄箱およびブレードにより、金属の材料粉末を供給、且つ、平坦化させることによって粉末層を形成し、レーザ照射装置によって粉末層の所定範囲にレーザビームを照射して焼結層を形成する。そして、この焼結層の上に新たな粉末層を形成してレーザビームを照射し、焼結層を形成することを繰り返し行うことによって、金属の積層造形物を製造している。
【0003】
ここで、特許文献1に記載の積層造形装置では、レーザビームを照射して粉末層を焼結する際に火花が飛び散り、この火花に含まれる金属粉末の残滓が焼結層の表面に付着して突起状の異常焼結部となってしまうことがある。
【0004】
積層造形装置によって製造される積層造形物に用いられる材料粉末の粒径は、約10〜50μmである。従って、例えば、粉末層一層当たりの厚みを50μmに設定した場合、焼結の際に異常焼結部が生じると、その上に形成される粉末層の上端面よりも異常焼結部の先端部が上に飛び出てしまうことがある。この場合、粉末層を平坦化させる際にブレードが異常焼結部に衝突し、ブレードの破損防止のために積層造形物の造形加工が一時中断してしまう。
【0005】
このような問題を解決するために、切削工具によって異常焼結部を切除することにより、造形加工を中断させることなく積層造形物の製造を行うことができる装置として、特許文献2に記載の積層造形装置がある。この積層造形装置では、ブレードが異常焼結部に衝突した際、ブレードを衝突位置から一時退避させ、異常焼結部を切削している。これにより、改めて粉末層を形成する際、ブレードと異常焼結部との衝突を防止し、造形加工を中断することなく積層造形物の製造を行っている。
【0006】
ところで、上述した異常焼結部の切削時、焼結層の上面には、切削装置の移動経路に沿って切削粉が散乱する。そして、散乱
した切削粉が残ったままで粉末層を再形成すると、焼結層の上側を移動するブレードに切削粉が咬み込み、ブレードが損傷することがある。
【0007】
特許文献3には、切削中の切削装置に向けてガスを吹き付けることにより、切削粉を吹き飛ばす積層造形装置が記載されている。より具体的には、特許文献3の
図1に記載の積層造形装置では、ガス噴射部を設け、切削装置による焼結層の切削中、切削装置の側面に対して斜め上方向から空気流を噴射している。これにより、切削装置の側面およびその近傍の切削粉に対してガスを吹き付けている。
【0008】
また、特許文献3の
図2に記載の積層造形装置では、切削装置の長手方向中心軸に沿った空気流通過孔と、空気流通過孔と連通する噴出口を切削装置の側面に複数設け、切削装置による焼結層の切削中、その長手方向に対して直交および/または斜交する方向に向かう空気流を噴出させている。これにより、切削装置の側面およびその近傍の切削粉に対してガスを吹き付けている。
【0009】
また、特許文献3の
図3に記載の積層造形装置では、ガス噴射部を設け、切削装置による焼結層の切削中、切削装置の長さ方向に対して平行となるように、その側面に対して空気流を噴射することにより、切削装置の側面およびその近傍の切削粉に対してガスを吹き付けている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献3に記載の積層造形装置では、切削装置に付着する切削粉を除去するために、切削装置から離れた場所ではなく、切削装置の側面もしくは側面を含む切削装置近傍に向けてガスを吹き付けている。
【0012】
ここで、異常焼結部の切削は高速回転する切削工具によって行われ、切削の際に生じた切削粉は切削工具から勢いよく飛散する。従って、切削装置近傍を飛散する切削粉の運動エネルギーは大きく、引用文献3に記載の積層造形装置のように、切削装置の側面もしくは切削装置近傍に向けてガスを吹き付けた場合、ガスの吹き付けを行っているにも関わらず、切削粉は切削による勢いのままに飛散してしまう。従って、切削加工中の切削工具の損傷は防止できるが、ブレードの移動経路上から切削粉を吹き飛ばしていくことができない。そのため、切削終了後、焼結層の上面には、ガスによる吹き付けを行わない場合と同様に、切削装置の移動経路に沿って切削粉が散乱する。以上により、引用文献3に記載の積層造形装置によれば、改めて粉末層を形成する際に切削粉が咬み込み、依然としてブレードが損傷するおそれがある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、改めて粉末層を形成する際、焼結層の上側を移動するブレードに切削粉が咬み込むことを防止し、ブレードの損傷を防止できる、積層造形装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明の積層造形装置は、金属の材料粉末が敷かれる
造形テーブルと、前記
造形テーブルの上方を水平一軸方向に往復移動し、材料粉末を平坦化して粉末層を形成するブレードと、前記ブレードによって形成された粉末層の所定領域にレーザを照射して焼結させ、焼結層を形成するレーザ照射装置と、前記レーザ照射装置によって形成された焼結層を切削する
切削工具が回転可能に装着されるスピンドルヘッドと、前記スピンドルヘッドが設けられる加工ヘッドと、を含む切削装置と、
ガスを噴射するノズル穴を有するノズルを含み、前記切削装置による切削によって生じた切削粉を吹き飛ばすガス噴射装置と、を備え、
前記切削装置は、第1の方向に向かって、異常焼結部が生じた前記焼結層上の前記第1の方向に対して直交する第2の方向に往復移動することを繰り返しながら、少なくとも前記異常焼結部が生じた前記焼結層の全水平投影領域に渡って切削を実行し、新たな粉末層を形成する際に前記ブレードがその下の焼結層に生じた突起状の異常焼結部に衝突した場合、前記切削装置により
前記異常焼結部の切削を行うと
同時に、前記ガス噴射装置により
前記焼結層の上面に向けて
前記ガスを吹き付ける積層造形装置であって、
前記ノズルは、前記加工ヘッドにおける、前記切削工具よりも相対的に前記第1方向の始点に近い位置に設けられ、前記ガス噴射装置は、
前記ガスを前記焼結層の上面に対して垂直方向に吹き付け、前記焼結層上に散乱した切削粉に対して、後追いで
前記ガスを吹き付けることを特徴とするものである。
【0015】
本発明では、ガス噴射装置から焼結層の上面へ向けて吹き出されるガスによって形成されるガス噴出領域と、切削装置によって切削された切削粉が飛散する切削粉飛散領域とは、可能な限り重複しない。従って、ガス噴出装置から噴射されるガスは、切削の勢いによって飛散する切削粉に対してではなく、主に焼結層の上面に静止した状態の切削粉に対して吹きつけられる。これにより、焼結層の上面に散乱する切削粉をブレードの移動経路上から吹き飛ばすことができる。また、ガス噴射装置は、焼結層上に散乱した切削粉に対して、後追いでガスを吹き付ける。従って、ガス噴射装置から噴射されるガスは、既に切削が行われた場所に散乱する切削粉に対して吹き付けられる。これにより、切削を開始した側から順に、切削装置の移動経路に沿って掃き出していくようにして、焼結層の上面のブレードの移動経路上から切削粉を除去していくことができる。以上により、改めて粉末層を形成する際、焼結層の上側を移動するブレードに切削粉が咬み込むことを防止し、ブレードの損傷を防止できる。
【0016】
また、切削装置により異常焼結部の切削を行うと
同時に、ガス噴射装置により焼結層の上面に向けてガスを吹き付ける。従って、切削装置による異常焼結部の切削とガス噴射装置による切削粉の除去とを同時に行うことにより、異常焼結部の切削を行った後に切削粉の除去作業を行う場合と比較して、積層造形物の造形に要する時間を短縮することができる。
また、切削装置は、第1の方向に向かって、異常焼結部が生じた焼結層上の第1の方向に対して直交する第2の方向に往復移動することを繰り返しながら、少なくとも異常焼結部が生じた焼結層の全水平投影領域に渡って切削を実行し、ノズルは、加工ヘッドにおける、切削工具よりも前記切削工具よりも相対的に前記第1方向の始点に近い位置に設けられ、ガス噴射装置は、ガスを焼結層の上面に対して垂直方向に吹き付ける。従って、切削を開始した側から順に、焼結層の生じたすべての異常焼結部を切削するとともに、焼結層の全上面に対して隈なくガスの吹き付けを行うことができる。
【0017】
また、焼結層の上面から切削粉を吹き飛ばすことによって、焼結層の上面に新たに形成される粉末層に切削粉が混入することを防止できる。これにより、各焼結層の品質を安定させることができる。
【0018】
第2の発明の積層造形装置は、前記第1の発明において、前記ガス噴射装置により
前記焼結層の上面に吹き付けられる
前記ガスの強さは、
0.1MPa以上0.5MPa以下の範囲内であることを特徴とするものである。
【0019】
ここで、ガス噴射装置により焼結層の上面に吹き付けられるガスの強さが弱すぎると、焼結層の上面に散乱する切削粉を十分に吹き飛ばすことができない。また、ガスの強さが強すぎると、吹きつけたガスの勢いで切削粉が舞い上がり、造形環境が悪化してしまう。
【0020】
本発明では、ガス噴射装置により焼結層の上面に吹き付けられるガスの強さは、焼結層の上面に散乱する切削粉を吹き飛ばし可能、且つ、吹き飛ばされる材料粉末および切削粉が舞い上がることのない範囲内であ
り、具体的には0.1MPa以上0.5MPa以下の範囲内である。従って、ガスによって吹き飛ばされる切削粉を舞い上がらせることなく、焼結層の上面に散乱する切削粉を吹き飛ばすことができる。これにより、良好な造形環境を保持しつつ、ブレードの移動経路上から切削粉を除去することができる。
【0023】
第
3の発明の積層造形装置は、前記第1
または第2の発明において、前記
ノズル穴は、円形状で
あることを特徴とするものである。
【0024】
本発明では、
ノズル穴は、円形状であって、ガス噴射装置から噴射されるガスは、焼結層の上面に対して垂直方向に吹き付けられる。従って、上から見て、ガス噴出領域は、
ノズル穴を中心とした円形状となる。すなわち、焼結層の上面に、ガスの吹き付け中心から放射状に広がる気流をつくることができる。これにより、偏りなく四方に切削粉を吹き飛ばすことができる。
【0025】
第
4の発明の積層造形装置は、前記第1
または第2の発明において、前記
ノズル穴は、前記ブレードの移動方向に長い惰円形状であることを特徴とするものである。
【0026】
本発明では、
ノズル穴は、ブレードの移動方向に長い惰円形状である。従って、上から見て、ガス噴出領域は、ブレードの移動方向に長い惰円形状となる。すなわち、焼結層の上面に、ブレードの移動方向に短く、ブレードの移動方向と直交する水平方向に長い形状で広がる気流をつくることができる。これにより、ブレードの移動方向では、気流の幅が短いために吹き飛ばされる切削粉の量が少なくなり、ブレードの移動方向と直交する水平方向では、気流の幅が長いために吹き飛ばされる切削粉の量が多くなる。従って、ブレードの移動経路上から、切削粉をより効率的に吹き飛ばすことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、改めて粉末層を形成する際、焼結層の上側を移動するブレードに切削粉が咬み込むことを防止し、ブレードの損傷を防止できる。特に、本発明によると、切削加工に並行して切削粉をブレードの移動経路上から排除することが可能になるので、作業時間の増大が抑制され、作業効率を低下させることがない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
積層造形装置1は、焼結式金属粉末積層造形装置である。
図1に示すように、積層造形装置1は、造形槽内に設けられた造形室1Aと、駆動装置室1Bとを有する。造形室1Aは、積層造形装置1の前側に配置されている。駆動装置室1Bは、後側に配置されている。造形室1Aと駆動装置室1Bとは、蛇腹1Cによって仕切られている。造形室1Aと駆動装置室1Bの室内には、
図10に示す不活性ガス供給装置12から不活性ガスが供給されている。これにより、積層造形物の造形中は、造形槽内の酸素濃度が可能な限り低くなるように構成されている。なお、以下では、
図1の図面向かって左側を前側、右側を後側、手前側を右側、奥側を左側と定義して、適宜、「前」、「後」、「右」、「左」、「上」、「下」の方向語を使用して説明する。
【0031】
造形室1Aには、積層造形物を形成する造形空間が形成される。造形空間には、金属の材料粉末が敷き詰められる。造形室1Aには、造形テーブル2Aが収容されている。造形空間は、造形テーブル2Aの上側全域に形成される。造形テーブル2Aは、粉末層を形成する度に、新たに形成する粉末層の厚さに相当する高さだけ下降する。
【0032】
図1、
図2に示すように、粉末層形成装置2は、造形テーブル2Aと、造形テーブル2Aを支持するとともに造形テーブル2Aを昇降させる支持機構2Bと、支持機構2Bに動力を伝達する伝達機構2Cと、支持機構2Bを駆動するモータ(不図示)を含む駆動装置とを含んでなる。また、粉末層形成装置2は、リコータヘッド3を含んでなる。
【0033】
図3に示すように、リコータヘッド3は、ブレード3Aと、材料貯蓄箱3Bと、ガイド機構3Cとを含んでなる。リコータヘッド3は、材料貯蓄箱3Bから材料粉末を供給するとともに、粉末層の上面の基準高さに沿ってブレード3Aを左右方向に移動させ、供給された材料粉末を平坦化することにより、新たな粉末層を形成する。
【0034】
リコータヘッド3の上側には、
リコータヘッド3の材料貯蓄箱3Bに材料粉末を供給する材料供給装置(不図示)が備えられている。積層造形物の造形中、材料貯蓄箱3Bの中の材料粉末が不足しないように、適時、材料供給装置から材料貯蓄箱3Bに材料粉末が補充される。
【0035】
図2に示すように、ガイド機構3Cは、一対の軸受
41と、各軸受
41R,
41Lがそれぞれ受ける一対の軸材
42であるガイドレール
42R,
42Lとからなる。ガイドレール
42Rには、ヒュームを吸引する吸引パイプ(不図示)が設けられている。ガイドレール
42Lには、不活性ガスを供給する供給パイプ(不図示)が設けられている。
【0036】
レーザ照射装置5は、粉末層のうちの所定の照射領域にレーザビームを照射することにより、新たな焼結層を形成する。レーザ照射装置5は、2つのガルバノミラーを含むレーザ走査装置5Aと、レーザ発振器5Bと、焦点レンズ5Cと、複数のレーザ伝達部材(不図示)とを有している。
【0037】
レーザ発振器5Bから出力される所定のエネルギーを有するレーザビームは、レーザ伝達部材を通して、レーザ走査装置5Aのガルバノミラーに到達する。一対のガルバノミラーを反射したレーザビームは、焦点レンズ5Cで収束され、造形室1Aの天板に穿設されている通孔に設けられた透過レンズ1Dを通過する。焦点レンズ5Cで収束されたレーザビームは、予め定められているスポット径で粉末層に照射される。
【0038】
図1に示すように、切削装置7は、左右方向に往復移動可能な第1移動体7Aと、前後方向に往復移動可能な第2移動体7Bと、上下方向に往復移動可能な加工ヘッド7Cとを有する。また、加工ヘッド7Cには、その下側部分にスピンドルヘッド8が設けられている。スピンドルヘッド8は、上から見て、中心部に切削工具9を装着して回転可能に構成されている。切削工具9の先端部には、焼結層を切削するための切刃が設けられている。
【0039】
切削装置7は、第1移動体7Aによって左右方向、第2移動体7Bによって前後方向、加工ヘッド7Cによって上下方向の位置を位置決めすることができる。これにより、切削工具9を3軸方向に自在に移動させて、造形室1A内の任意の高さに位置決めすることができる。そして、水平方向に移動しながら高速回転する切削工具9の切刃を焼結層36に当てることによって切削を行う。このとき、
図8の一点鎖線で示すように、切削工具9の切刃近傍の切削粉飛散領域R1では、切削工具9から離れる方向に切削粉36A1が勢いよく飛散する。従って、切削粉飛散領域R1では切削粉36A1の運動エネルギーが大きく、後述するガス噴射装置10によってガスを吹き付けても、切削粉36A1は弾き飛ばされた勢いのままに飛散してしまう。
【0040】
ガス噴射装置10は、焼結層の上面に向けてガスを噴射するためのものである。
図8、
図9に示すように、ガス噴射装置10は、加工ヘッド7Cの右端部中央に配置されている。ガス噴射装置10は、加工ヘッド7Cの下側部分に取り付けられたガス供給部10Aと、ガス供給部10Aの先端に取り付けられたノズル10Bとからなる。ガス供給部10Aには、不活性ガス供給装置12からガスが供給される。ガス供給部10Aとノズル10Bには、それらの中心軸を連通するガス通過孔(不図示)が形成されている。不活性ガス供給装置12からガス供給部10Aに供給されたガスは、ガス通過孔(不図示)を通過し、ノズル10Bの先端に設けられた円形状のノズル穴10B1から焼結層36の上面に対して垂直方向に吹き付けられる。これにより、ノズル穴10B1から焼結層36の上面にかけてガス噴射領域R2が形成される。
【0041】
図10は、不活性ガス供給装置12とガス噴射装置10との間の構成を示す概略図である。不活性ガス供給装置12からガス噴射装置10へのガスの供給は、電磁弁13によって制御される。また、噴射されるガスの圧力はレギュレータ14によって制御され、噴射されるガスの流量はスピードコントローラ15によって制御される。
【0042】
次に、上述した積層造形装置1を用いて積層造形物を製造する過程について簡単に説明する。
【0043】
リコータヘッド3を左右方向に移動させることにより、造形テーブル2A上の造形空間に材料貯蓄箱3Bから材料粉末を供給しつつ、ブレード3Aによって平坦化させる。これにより粉末層を形成し、層ごとに設定された焼結層形成範囲にレーザビームを照射して焼結層を形成する。焼結層の形成後、次に形成する粉末層の厚さ分だけ造形テーブル2Aを下降させる。そして、焼結層の上に、その厚みが造形テーブル2Aの下降距離と等しい新たな粉末層を形成し、層ごとに設定された焼結層形成範囲にレーザビームを照射することで焼結層を形成する。このような作業を繰り返し行うことにより、所望の積層造形物を製造する。
【0044】
ところで、レーザビームにより粉末層を焼結する際には、金属粉末の残滓が焼結層の表面に付着して突起状の異常焼結部となってしまうことがある。材料粉末の粒径は、約10〜50μmであるため、例えば、粉末層一層当たりの厚みを50μmに設定した場合、焼結の際に異常焼結部が生じると、その上に形成される粉末層の上端面よりも異常焼結部の先端部が上に飛び出てしまうことがある。その場合、材料貯蓄箱3Bから供給された材料粉末を平坦化する際、ブレード3Aが異常焼結部に衝突し、ブレード3Aの破損防止のために積層造形物の造形加工が一時中断してしまう。そこで、ブレード3Aが異常焼結部に衝突した際、ブレード3Aを衝突位置から一時退避させ、切削装置7によって異常焼結部の切削を行う方法が知られている。
【0045】
しかしながら、上述した異常焼結部の切削時、焼結層の上面には、切削工具9の移動経路に沿って切削粉が散乱する。このような状態で粉末層を再形成すると、焼結層の上側を移動するブレード3Aに切削粉が咬み込み、ブレード3Aが損傷することがある。そこで、本実施形態では、異常焼結部の切削を行うとともに、ガス噴射装置10によりガスを吹き付けることによって、焼結層の上面に散乱する切削粉をブレード3Aの移動経路上から除去する。
【0046】
以下、ブレード3Aが異常焼結部に衝突した際の積層造形装置1の動作について、
図4〜
図9、
図11、
図12を参照しつつ説明する。なお、
図4、
図6、
図11に示すように、造形中の積層造形物を構成する焼結層31〜36は、焼結層が形成された順に、下側から、焼結層31、焼結層32、焼結層33、焼結層34、焼結層35、焼結層36の順に積層されている。また、焼結層36の上には、粉末層37が形成される。
【0047】
図4、
図5に示すように、粉末層37の形成中、左方向に走行するブレード3Aが焼結層36に生じた異常焼結部36Aに衝突すると、ブレード3Aを駆動させるブレードサーボモータ(不図示)への電流の供給が停止される。これにより、ブレード3Aが停止状態となり異常焼結部36Aに対して弾性的に反発し、これまでの進行方向とは反対方向である右方向に空走する。そして、所定時間経過後、ブレードサーボモータ(不図示)への電流の供給を再開させ、
図11、
図12に示すように、粉末層形成開始位置までブレード3Aを退避させる。なお、上述したように、ブレード3Aは、新たな粉末層を形成する度に、左右方向どちらかに移動しながら粉末層を平坦化する。より具体的には、粉末層37を平坦化する際は、造形領
域の右側から左側へと移動し、その上に形成される粉末層を平坦化する際は、造形領
域の左側から右側へと移動する。
【0048】
次に、第1移動体7Aおよび第2移動体7Bを位置調節することにより、加工ヘッド7Cを造形室1A外側の退避位置から焼結層36の右後方角部の切削開始位置(
図7の一点鎖線で示す切削工具9の移動経路の始点位置)まで移動させる。さらに、
図6、
図8に示すように、加工ヘッド7Cを位置調節することにより、切削工具9の先端を焼結層36の上面36aの高さまで下降させる。そして、
図7の一点鎖線矢印で示すように、焼結層36の右端から左端に向かって、切削工具9を焼結層36の上面36aに沿って前後方向に繰り返し移動させる。これにより、焼結層36の右端から順に、焼結層36の上面全域を切削し、焼結層36の上面に生じた異常焼結部36Aをすべて除去する。
【0049】
さらに、切削中、ガス噴射装置10から焼結層36の上面に向けてガスを継続的に噴射させる(
図8、
図9の一点鎖線で示すガス噴射領域R2)。これにより、切削
工具9によって、その移動経路上に生じた異常焼結部36
Aを切削しつつ、その右側では、それよりも前に切削されて焼結層36の上面に散乱する切削粉36A1に対してガスを吹き付ける。すなわち、ガス噴射装置10は、切削工具9によって切削された直後の切削粉36A1ではなく、既に焼結層36の上面に静止した状態の切削粉36A1に対してガスを吹き付けていく。これにより、切削工具9の移動開始側である右端から順に、焼結層36の上面に散乱する切削粉36A1、および、粉末層37の形成時に焼結層36の上面に途中まで敷かれた材料粉末をブレード3Aの移動経路の外側に加工ヘッド7Cの進行方向に沿って掃き出していくようにして吹き飛ばしていく。
【0050】
なお、ガス噴射装置10は、ノズル穴10B1の口径が1mmであって、ノズル穴10B1の高さd1が焼結層36の上面を基準面として30mm離れて配置され、ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力が0.1〜0.5MPaの範囲内である。
【0051】
また、切削された切削粉36A1が飛散する切削粉飛散領域R1とガス噴射領域R2とは、可能な限り重複しないことが望ましい。これにより、ガスを噴射している領域に新たな切削粉36A1が再飛来することを防止し、ガスを噴射した領域から切削粉36A1を確実に除去していくことができる。
【0052】
以上により、
図11、
図12に示すように、焼結層36に生じた異常焼結部36Aを切除するとともに、ブレード3Aの移動経路上である焼結層36上から切削粉36A1および材料粉末を除去する。その後、改めて粉末層37の形成から積層造形物の造形加工を再開させる。
【0053】
(ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力の差異による影響評価)
次に、
図8に示すように、ノズル穴10B1の口径が1mm、ノズル穴10B1の高さd1が焼結層36の上面を基準面として30mmであるガス噴射装置10において、ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力を変更したときの影響評価について説明する。
i)ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力が0.1MPaよりも小さい場合
ガスの吹き付けが弱く、切削粉36A1を良好に吹き飛ばすことはできなかった。また、切削粉36A1および材料粉末の舞い上がりは見られなかった
ii)ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力を0.1MPaとした場合
ガスの吹き付けにより、切削粉36A1を良好に吹き飛ばすことができた。また、切削粉36A1および材料粉末の舞い上がりは見られなかった。
iii)ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力を0.2MPaとした場合
ガスの吹き付けにより、切削粉36A1を良好に吹き飛ばすことができた。また、切削粉36A1および材料粉末の舞い上がりは見られなかった。
iv)ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力を0.3MPaとした場合
ガスの吹き付けにより、切削粉36A1を良好に吹き飛ばすことができた。また、切削粉36A1および材料粉末の舞い上がりは見られなかった。
v)ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力を0.4MPaとした場合
ガスの吹き付けにより、切削粉36A1を良好に吹き飛ばすことができた。また、切削粉36A1および材料粉末の舞い上がりは見られなかった。
vi)ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力を0.5MPaとした場合
ガスの吹き付けにより、切削粉36A1を良好に吹き飛ばすことができた。また、切削粉36A1および材料粉末の舞い上がりは見られなかった。
vii)ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力を0.5MPaよりも大きい場合
ガスの吹き付けにより、切削粉36A1を良好に吹き飛ばすことができた。また、切削粉36A1および材料粉末の舞い上がりが見られた。
【0054】
以上により、ガス噴射装置10は、ノズル穴10B1の口径が1mmであって、ノズル穴10B1の高さd1が焼結層36の上面を基準面として30mm離れて配置されているとき、ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力が0.1〜0.5MPaの範囲内であれば、造形環境を悪化させることなく、焼結層36の上面に散乱する切削粉を良好に吹き飛ばすことができることが分かる。
【0055】
本実施形態では、ガス噴射装置10から焼結層36の上面へ向けて吹き出されるガスによって形成されるガス噴出領域R2と、切削粉36A1が勢いよく飛散する切削粉飛散領域R1とは、可能な限り重複しない。従って、ガス噴
射装置10から噴射されるガスは、切削の勢いによって弾き飛ばされる切削粉36A1に対して吹きつけられるのではなく、主に焼結層36の上面に静止した状態の切削粉36A1に対して吹きつけられる。これにより、焼結層35の上面に散乱する切削粉36A1をブレード3Aの移動経路上から吹き飛ばすことができる。また、ガス噴射装置10は、焼結層36上に散乱した切削粉36A1に対して、後追いでガスを吹き付ける。従って、ガス噴射装置10から噴射されるガスは、既に切削が行われた場所に散乱する切削粉36A1に対して吹き付けられる。これにより、焼結層36の右端から左端に向かって、切削工具9の移動経路に沿ってブレード3Aの移動経路上から切削粉36A1を除去していくことができる。以上により、改めて粉末層37を形成する際、焼結層36の上側を移動するブレード3Aに切削粉36A1が咬み込むことを防止し、ブレード3Aの損傷を防止できる。
【0056】
また、切削工具9により異常焼結部36
Aの切削を行うとともに、ガス噴射装置10により焼結層36の上面に向けてガスを吹き付ける。従って、切削
工具9による異常焼結部36
Aの切削とガス噴射装置10による切削粉36A1の除去とを同時に行うことにより、異常焼結部36
Aの切削を行った後に切削粉36A1の除去作業を行う場合と比較して、積層造形物の造形に要する時間を短縮することができる。
【0057】
また、焼結層36の上面から切削粉36A1を吹き飛ばすことにより、焼結層36の上面に新たに形成される粉末層37に切削粉36A1が混入することを防止できる。これにより、各焼結層の品質を安定させることができる。
【0058】
ここで、ガス噴射装置10により焼結層36の上面に吹き付けられるガスの強さが弱すぎると、焼結層36の上面に散乱する切削粉36A1を十分に吹き飛ばすことができない。また、ガスの強さが強すぎると、吹きつけたガスの勢いで切削粉36A1および材料粉末が舞い上がり、造形環境が悪化してしまう。
【0059】
また、本実施形態では、ガス噴射装置10は、ノズル穴10B1の口径が1mmであって、ノズル穴10B1の高さd1が焼結層36の上面を基準面として30mm離れて配置され、ノズル穴10B1から噴射されるガスの吹き出し圧力が0.1〜0.5MPaの範囲内である。上記範囲内によれば、ガスによって吹き飛ばされる材料粉末および切削粉36A1を舞い上がらせることなく、焼結層36の上面に散乱する切削粉36A1を吹き飛ばすことができる。これにより、造形環境を保持しつつ、ブレード3Aの移動経路上に散乱する切削粉36A1を良好に吹き飛ばすことができる。
【0060】
また、
図7の一点鎖線矢印で示すように、焼結層36の右端から左端に向かって、切削工具9を焼結層36の上面36aに沿って前後方向に繰り返し移動させて、焼結層36の上面全域を切削し、ガス吹き付け領域R2は、切削工具9を基点として、切削開始側である右側に配置されている。従って、焼結層36に生じたすべての異常焼結部36Aを切削するとともに、焼結層36の上面に対して隈なくガスを噴射し、散乱する切削粉36A1、および、粉末層37の形成時に焼結層36の上面に途中まで敷かれた材料粉末を確実に吹き飛ばすことができる。
【0061】
また、ガス噴射装置10のノズル穴10B1は、円形状であって、ガス噴射装置10から噴射されるガスは、焼結層36の上面に対して垂直方向に吹き付けられる。従って、上から見て、ガス噴出領域R2は、ガス噴射装置10のノズル穴10B1を中心とした円形状となる。すなわち、焼結層36の上面に、ガスの吹き付け中心から放射状に広がる気流をつくることができる。これにより、四方に向けて、偏りなく切削粉36A1を吹き飛ばすことができる。
【0062】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態や実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0063】
本実施形態では、ガス噴射装置10に設けられたノズル穴10B1の形状は円形状であると記載したが、ノズル穴の形状は、例えば、ブレード3Aの移動方向である左右方向に長い惰円形状であっても構わない。このノズル穴10B2によれば、
図13に示すように、焼結層36の上面に吹き付けられたガスの気流は、上から見て、左右方向に長い惰円形状に広がっていく。すなわち、焼結層36の上面に左右方向に短く、前後方向に長い形状で広がっていく気流をつくることができる。これにより、左右方向では気流の幅が短いために吹き飛ばされる切削粉36A1の量が少なくなり、前後方向では、気流の幅が長いために吹き飛ばされる切削粉36A1の量が多くなる。従って、ブレード3Aの移動経路上から、切削粉36A1をより効率的に吹き飛ばすことができる。
【0064】
また、本実施形態では、切削された切削粉36A1が飛散する切削粉飛散領域R1とガス噴射領域R2とは、可能な限り重複しないことが望ましいと記載したが、ガス噴射領域R2の広い範囲に新たな切削粉36A1が飛来しない範囲内、すなわち、ガスの噴射による切削粉36A1の除去効果が有効な範囲内であれば、切削粉飛散領域R1とガス噴射領域R2とは重複しても構わない。
【0065】
また、本実施形態では、ガス噴射装置10のノズル10Bに設けられたノズル穴10B1の数はひとつであると記載したが、ノズル穴は複数設けられていても構わない。
【0066】
また、本実施形態では、ノズル穴10B1から噴射されるガスは、焼結層36の上面に対して垂直方向に噴射されると記載したが、ガスが焼結層の上面に対して吹き付けられる角度は、焼結層36の上面に対して垂直方向でなくても構わない。
【0067】
また、本実施形態では、切削作業中、ガス噴射装置10からガスを持続的に噴射し続ける場合について記載したが、例えば、ガス噴射装置10からガスを間欠噴射しても構わない。これにより、焼結層36の上面に対して局所的にガスの吹き付けを行うことができる。また、本実施形態に記載したガスの持続噴射と間欠噴射とを組み合わせることによって、焼結層36の上面のある部分では広い範囲にガスを噴射し、またある部分では狭い限定された範囲にガスを吹き付けることができる。