(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704652
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】総型ゲージ
(51)【国際特許分類】
G01B 3/14 20060101AFI20200525BHJP
【FI】
G01B3/14
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-141925(P2016-141925)
(22)【出願日】2016年7月19日
(65)【公開番号】特開2018-13362(P2018-13362A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100077779
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110157
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 基司
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋次
【審査官】
眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−189903(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0024232(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 3/00−3/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークにおける切削加工範囲の確認に用いる総型ゲージであって、
前記切削加工範囲をカバーする外周形を有するゲージ基板と、
該ゲージ基板における前記切削加工範囲に隣接する他の部位と干渉する可能性のある箇所の近傍に設置され、測定子を前記ゲージ基板の基準面から進退可能としたダイヤルゲージとからなることを特徴とする総型ゲージ。
【請求項2】
前記ダイヤルゲージが、前記他の部位と干渉する可能性のある箇所近傍を含み前記ゲージ基板の四方に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の総型ゲージ。
【請求項3】
前記ゲージ基板はその下面を前記基準面として、
前記ダイヤルゲージの前記測定子が前記ゲージ基板の下面から進退することを特徴とする請求項1または2に記載の総型ゲージ。
【請求項4】
前記ゲージ基板の上面に取っ手を設けてあることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の総型ゲージ。
【請求項5】
前記ダイヤルゲージがその表示部を上方に向けていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の総型ゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークにおける切削加工範囲の確認に用いる総型ゲージに関する。
【0002】
例えば車両用自動変速機において、変速機ケースのオイルパンに対向する面にコントロールバルブを取り付ける構造が多くみられる。この場合、鋳造による変速機ケース素材の壁面を切削して、
図5にハッチングで示すコントロールバルブ取り付け面Sが形成される。
変速機ケース20のコントロールバルブ取り付け面Sは切削された壁面に油路が開口する複数の島24a、24b、・・等からなっている。
コントロールバルブ取り付け面Sは変速機ケース20側の油路と不図示のコントロールバルブ側の油路との接続部になるためシール性が求められ、例えばフライス盤により各島24a、24b、・・を通じて一平面に切削し、高い平面度を確保するようにしている。
【0003】
図5において、21はオイルパン取り付け面である。
コントロールバルブ取り付け面Sはオイルパン取り付け面21よりも奥まっており、オイルパン取り付けボルト用のボス部やその他の膨出部23が内方へ張り出したケース外周壁22に囲まれている。このため、コントロールバルブとの干渉を避けるため、膨出部23はコントロールバルブ取り付け面S切削の際に一部抉り取られている。
【0004】
ここで、総型ゲージは切削加工範囲の外縁に対応する外周形を有して、コントロールバルブ取り付け面S上に載置してセットされるが、セットした総型ゲージが切削加工範囲に収まっているかどうかの測定は、従来作業者の感覚によって行われるので、合否の判定が曖昧で不良品の確実な発見が困難であり、また測定時間も作業者によりばらつきがあった。
とくに、ゲージをセットした際、切削されていない膨出部23にわずかに乗り上げた場合などの微妙な干渉が生じていても、これを認識することが困難であった。
【0005】
一方、切削されたコントロールバルブ取り付け面S自体の平面度については別途測定される。
平面度測定装置としては、例えば実開平5−25305号公報等に開示されたものがある。
これは基台上に載置したワークの被測定面に、上方からダイヤルゲージの測定子を接触させ、ワークを基台上で移動させることによって被測定面における凹凸の有無を測定する代わりに、ダイヤルゲージを補助筒に装着して、補助筒の先端面を測定子の進退移動範囲とした上で、補助筒の先端面を被測定面に圧接することにより、補助筒の先端面を含む平面に対するワークの被測定面の大まかな平面度を知ることができ、ワークを移動させることなく平面度を大まかに測定することができるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5−25305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の平面度測定装置は、例えばエンジンにおける有底円筒状をなす筒体の底部に隆起部を備えたバルブアジャスタの当該隆起部の平面度を測定対象とするものであって、狭小な面積部分について、補助筒の先端面を基準平面としてこれに対する凹凸から平面度を大まかに測定できるに止まる。
このため、変速機ケース下面の広範囲に広がるコントロールバルブ取り付け面Sに対する総型ゲージの代用として利用できるものではない。
その他、総型ゲージの使用の際の曖昧さを解決する技術は見出せない現状にある。
【0008】
したがって本発明は、上述の問題点に鑑み、曖昧さを払しょくし明確な合否判定が可能な総型ゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため、本発明の総型ゲージは、切削加工範囲をカバーする外周形を有するゲージ基板と、該ゲージ基板における上記切削加工範囲に隣接する他の部位と干渉する可能性のある箇所の近傍に設置され、測定子をゲージ基板の基準面から進退可能としたダイヤルゲージとからなるものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、切削されるべき部位が切削されないまま残っていると、ダイヤルゲージの表示により当該部位にゲージ基板が乗り上げて基準面と判定対象の切削加工範囲の間に隙間ができる干渉部位があることを明確に判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】取っ手の取り付け部とダイヤルゲージの取り付け部の拡大図である。
【
図4】総型ゲージによる合否判定要領を示す図である。
【
図5】変速機ケースのコントロールバルブ取り付け面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、変速機ケースをワークとして、本発明をコントロールバルブ取り付け面に対する総型ゲージに適用した実施の形態について説明する。
図1は実施の形態の総型ゲージを示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A部断面図、(c)は後述する取っ手10やダイヤルゲージ15を取り外した状態のゲージ基板を示す平面図である。
また
図2は部分拡大図で、(a)は
図1の(b)におけるB部(取っ手10の取り付け部)、(b)は
図1の(b)におけるC部(ダイヤルゲージ15の取り付け部)を示す。
【0013】
総型ゲージ1は主要構成としてゲージ基板2、取っ手10およびダイヤルゲージ15(15a、15b、15c、15d)を有する。
ここでは、ゲージ基板2が、先の
図4に示された変速機ケース20におけるコントロールバルブ取り付け面S(複数の島24a、24b、・・)をカバーする切削加工範囲に対応して、
図1の(c)に示される外周形を有するものとしている。なお、この外周形内には、コントロールバルブと干渉しないため切削不要の領域も含まれる。
【0014】
ゲージ基板2には取っ手10取り付け用のボルト孔3を設けてある。なお、ゲージ基板2中央部には、変速機ケース20の下面においてコントロールバルブ取り付け面Sの島24a、24b、・・よりも下方へ突出する部位との干渉を避けるための逃げ孔8を設けてある。
ボルト孔3は逃げ孔8を挟んで離間した位置にある。
ゲージ基板2にはさらにダイヤルゲージ設置部5(5a、5b、5c、5d)が膨出部23(
図5参照)等の他の部位と干渉する可能性のある箇所を含み、ゲージ基板2の四方に設定してある。ダイヤルゲージ設置部5は、それぞれねじ穴7とダイヤルゲージの測定子を貫通させる貫通孔6を有している。
【0015】
図1の(a)に示すように、取っ手10は逃げ孔8を横切って設けられている。
また、ダイヤルゲージ15はその表示部18を上方に向けてあり、上から見下ろすことにより測定数値を読み取ることができるようになっている。
図1の(b)に示すように、取っ手10はコ字形を呈し、その脚部11の先端においてゲージ基板に取り付けられている。
図2の(a)に示すように、脚部11に形成されたねじ穴12にゲージ基板2の下面(裏面)側からボルト孔3を通してボルト13をねじ込むことにより、ゲージ基板2に取り付けてある。ボルト13は皿頭で、ボルト孔3はゲージ基板2の下面側で面取り(4)することにより、ボルト13がゲージ基板2の下面から突出しないようになっている。
【0016】
また、ダイヤルゲージ15は、
図2の(b)に示すように、ゲージ基板2のねじ穴7にねじ込むボルト19によりそのベース16をゲージ基板2に固定してあり、測定子17が貫通孔6からゲージ基板2の下面側へ進退可能となっている。
なお、ねじ穴7(およびボルト19)は貫通孔6を挟んだ対称位置に設けてあるが、ゲージ基板2の外周形によって対称位置に設けることが困難な場合には、貫通孔6に対して片側、例えば
図1の(c)に示す設置部5aのように90°方向に設けることもできる。
ゲージ基板2の下面が基準面となる。
【0017】
以上の構成になる総型ゲージ1によるコントロールバルブ取り付け面Sの検査は、変速機ケース20をそのオイルパン取り付け面21(
図5参照)を上向きとした状態で行う。
準備として、
図3に示すように、総型ゲージ1を定盤30上に置いて各ダイヤルゲージ15a、15b、15c、15dの表示をゼロ点にセットする。
なお、
図3および次の
図4では理解を容易にするため表示部18を横(手前)に向けて描いている。
【0018】
ゼロ点セット後、作業者は取っ手10を掴んで総型ゲージ1をコントロールバルブ取り付け面Sに載置し、各ダイヤルゲージ15a、15b、15c、15dの表示を読む。すべてのダイヤルゲージ15a、15b、15c、15dの表示がゼロであれば、
図4の(a)に示すように、ゲージ基板2がコントロールバルブ取り付け面Sの全面に着座していることを示しているので、コントロールバルブ取り付け面Sとして設定された領域がすべて切削されていることが確認でき、合格と判定される。
【0019】
一方、いずれかのダイヤルゲージ15の表示がゼロからずれた値を示すときは、
図4の(b)に示すように、ゲージ基板2が切削加工されていない部位に乗り上げて下面とコントロールバルブ取り付け面Sの間に隙間ができる干渉部位があることを示しており、不合格と判定される。
この場合、表示のゼロからのずれ量が最も大きいダイヤルゲージ設置部付近が干渉部位と考えられるから、当該部位から開始してずれ量の大きい順に干渉箇所を確認し、検査対象の変速機ケースを切削工程へ戻すなどして、必要な修正を行うことになる。
【0020】
実施の形態の総型ゲージ1は以上のように構成され、変速機ケース20のコントロールバルブ取り付け面Sをカバーする外周形を有するゲージ基板2と、ゲージ基板2におけるコントロールバルブ取り付け面Sに隣接する膨出部23など他の部位と干渉する可能性のある箇所近傍に設置され、測定子17をゲージ基板2の下面から進退可能としたダイヤルゲージ15とからなるものとしたので、コントロールバルブ取り付け面Sとして切削されるべき部位が切削されないまま残っていると、ダイヤルゲージ15の表示により当該部位にゲージ基板2が乗り上げて下面とコントロールバルブ取り付け面Sの間に隙間ができる干渉部位があることを明確に判定できる。
(請求項1および3に対応する効果)
【0021】
さらにダイヤルゲージ15を、上記他の部位と干渉する可能性のある箇所近傍を含みゲージ基板2の四方に設置してあるので、総型ゲージ1をコントロールバルブ取り付け面Sに載置する際のセットミスで総型ゲージ1外周縁のいずれかがコントロールバルブ取り付け面Sの隣接部位に乗り上げた場合も直ちに認識できてセットをやり直せる。
(請求項2に対応する効果)
【0022】
ゲージ基板2の上面には取っ手10を設けてあるので、コントロールバルブ取り付け面Sへのセットが容易である。(請求項4に対応する効果)
また、ダイヤルゲージ15はその表示部18を上方に向けているので、コントロールバルブ取り付け面Sにセットした状態で上方からの読み取りが容易である。
(請求項5に対応する効果)
【0023】
実施の形態は、変速機ケースのコントロールバルブ取り付け面の検査に用いる総型ゲージを例に示したが、本発明はこれに限定されず、種々のワークにおける切削加工範囲の確認に用いる総型ゲージに適用可能である。
【符号の説明】
【0024】
1 総型ゲージ
2 ゲージ基板
3 ボルト孔
5a、5b、5c、5d ダイヤルゲージ設置部
6 貫通孔
7 ねじ穴
8 逃げ孔
10 取っ手
11 脚部
12 ねじ穴
13、19 ボルト
15a、15b、15c、15d ダイヤルゲージ
16 ベース
17 測定子
18 表示部
20 変速機ケース
21 オイルパン取り付け面
22 ケース外周壁
23 膨出部
24a、24b 島
30 定盤
S コントロールバルブ取り付け面