特許第6704704号(P6704704)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6704704熱可塑性樹脂用帯電防止剤およびそれを含有する熱可塑性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6704704
(24)【登録日】2020年5月15日
(45)【発行日】2020年6月3日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂用帯電防止剤およびそれを含有する熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/16 20060101AFI20200525BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20200525BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20200525BHJP
   C08K 5/16 20060101ALI20200525BHJP
   C08K 5/03 20060101ALI20200525BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20200525BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200525BHJP
【FI】
   C09K3/16 102E
   C09K3/16 103C
   C09K3/16 103A
   C09K3/16 111
   C08L23/00
   C08L23/12
   C08K5/16
   C08K5/03
   C08K5/20
   C08L101/00
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-201690(P2015-201690)
(22)【出願日】2015年10月13日
(65)【公開番号】特開2017-75199(P2017-75199A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2018年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛司
(72)【発明者】
【氏名】北野 健一
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−197530(JP,A)
【文献】 特開2014−218636(JP,A)
【文献】 特開平09−286877(JP,A)
【文献】 特開平02−258852(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/142218(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/16
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン脂肪酸エステルである成分(A)と脂肪酸アミドである成分(B)と脂肪族アミンエチレンオキサイド付加物である成分(C)とを含む帯電防止剤であって、
前記成分(A)、前記成分(B)および前記成分(C)の合計重量に対する前記成分(B)の配合割合が30〜70重量%であり、
前記成分(A)が炭素数18〜22の脂肪酸残基を有し、
前記帯電防止剤のアミン価が10〜35mgKOH/gである、
熱可塑性樹脂用帯電防止剤。
【請求項2】
前記成分(A)が炭素数18の脂肪酸残基を有する、請求項1に記載の熱可塑性樹脂用帯電防止剤。
【請求項3】
ポリグリセリン脂肪酸エステルである成分(D)をさらに含む、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂用帯電防止剤。
【請求項4】
前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計重量に対する前記成分(D)の配合割合が5〜15重量%である、請求項3に記載の熱可塑性樹脂用帯電防止剤。
【請求項5】
前記成分(D)が平均重合度3〜10のポリグリセリンのエステル誘導体であって、炭素数8〜22の脂肪酸残基を有する、請求項3又は4に記載の熱可塑性樹脂用帯電防止剤。
【請求項6】
前記成分(B)が下記一般式(2)で示される1級脂肪酸アミドである、請求項1〜のいずれかに記載の熱可塑性樹脂用帯電防止剤。
CONH (2)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は15〜21である。)
【請求項7】
前記成分(C)が下記一般式(3)で示される化合物である、請求項1〜のいずれかに記載の熱可塑性樹脂用帯電防止剤。
【化1】
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は8〜22であり、nおよびmは0以上でn+m=2〜3を満足する数である。)
【請求項8】
熱可塑性樹脂および請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂用帯電防止剤を含む、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂用帯電防止剤の含有率が前記熱可塑性樹脂組成物に対して0.1〜30重量%である、請求項8に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂がポリオレフィンである、請求項8または9に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンである、請求項8〜10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
ポリプロピレンフィルムである、請求項8〜11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
前記ポリプロピレンフィルムの表面の動摩擦係数が0.15以下である、請求項12に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂用帯電防止剤およびそれを含有する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂類は透明性、保温性、耐候性等に優れていることよりこれらを使用したシートやフィルムは包装材や産業用資材などに広く使用されてきた。
包装材の代表的なものとして、ポリオレフィン系フィルムが挙げられる。これらの包装に対しては、ポリオレフィン自体の加工特性を利用して、機能的に処理されるよう自動包装機を使用して包装されることが多い。近年これらの自動包装機の高速化が進んでおり、包装用フィルムに対する要求特性は高度化しつつある。要求特性の中で問題されることの多い項目として平滑性、特にフィルムフィルム間の動摩擦特性が挙げられる。
【0003】
一方、熱可塑性樹脂の中でも、ポリプロピレンは、透明性、剛性および防湿性が良好であることから、その延伸フィルムや成形品は、食品や衣料品等包装材料や家電製品部品、自動車内装材などに広く使用されている。ポリプロピレン製品は、一般に絶縁性に優れた性質を持つが、その反面、摩擦等によって静電気が発生しやすく、発生した静電気は蓄積(帯電)し、人体へのショック、空気中の埃等を集めることによる成形品の汚れ、電気機器への電気障害等の種々のトラブルが発生することがある。
【0004】
従来、これらのトラブルを防ぐために、熱可塑性樹脂中に帯電防止剤(各種界面活性剤)を練り込み、静電気によるトラブルを防ぐことが行われてきた。この場合、いわゆる練り込み型帯電防止剤では、帯電防止剤が逐次表面に移行(配向)し、表面に導電膜を形成することにより、帯電防止効果を発揮するものと推測される。
【0005】
帯電防止性を必要とされる、野菜等の食品包装に関しても自動包装機が使用されることが多いが、上記の練り込み型帯電防止剤を使用したフィルムに関しては、帯電防止成分が表面にブリードアウトする現象のため、表面平滑性が損なわれることにより、高速の自動包装機を使用する際に問題となっている。また、夏期のような高湿度条件において、ブリードアウトした帯電防止剤の白化現象による、フィルムの透明性低下が問題となっている。
【0006】
たとえば特許文献1には、ジグリセリンモノ脂肪酸エステルを主成分とする帯電防止剤が開示されている。しかし、この帯電防止剤ではポリプロピレンに対する相溶性が十分でなく、ポリプロピレン中で帯電防止剤が分散不良の状態となるため、成形して得られたフィルムの表面平滑性および透明性が優れない。また、マスターバッチを作製する等の高濃度に練り込む必要があるときの生産性の低下や、成形品に直接練り込む場合には分散不良による性能のばらつきが起こる可能性は否定できない。また、帯電防止効果の即効性にも問題がある。
また、特許文献2では、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルおよびアルキルジエタノールアミンの3成分からなる帯電防止剤が開示されている。しかし、この帯電防止剤では、帯電防止性が一時的に発現するものの、時間経過によりブリード過多となることで起こる透明性の低下や過剰に存在するブリード物のためフィルムの平滑性の低下が懸念され、フィルム等の透明性を要求される用途に対しては問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−3273号公報
【特許文献2】特開平9−286877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、野菜包装等にも対応可能な帯電防止性を持ちながら、高速の自動包装機等にも対応可能な優れた平滑性及び夏期のような高湿度条件においても充分な透明性を併せ持つ、練り込み型の熱可塑性樹脂用帯電防止剤およびそれを含む熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、数種の成分を配合した帯電防止剤を熱可塑性樹脂に練りこむことにより帯電防止性と優れた平滑性及び透明性を併せ持つ熱可塑性樹脂組成物が得られることを発見し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、グリセリン脂肪酸エステルである成分(A)と脂肪酸アミドである成分(B)と脂肪族アミンエチレンオキサイド付加物である成分(C)とを含む帯電防止剤であって、前記成分(A)、前記成分(B)および前記成分(C)の合計重量に対する前記成分(B)の配合割合が30〜70重量%であり、前記成分(A)が炭素数18〜22の脂肪酸残基を有し、前記帯電防止剤のアミン価が10〜35mgKOH/gである、熱可塑性樹脂用帯電防止剤である。
【0010】
熱可塑性樹脂用帯電防止剤は、以下の(1)〜(6)の少なくとも1つを満足すると好ましい。
(1)ポリグリセリン脂肪酸エステルである成分(D)をさらに含む。
(2)前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計重量に対する前記成分(D)の配合割合が5〜15重量%である。
(3)前記成分(A)が炭素数18の脂肪酸残基を有する。
(4)前記成分(B)が下記一般式(2)で示される1級脂肪酸アミドである。
CONH (2)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は15〜21である。)
(5)前記成分(C)が下記一般式(3)で示される化合物である。
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は8〜22であり、nおよびmは0以上でn+m=2〜3を満足する数である。)
(6)前記成分(D)が平均重合度3〜10のポリグリセリンのエステル誘導体であって、炭素数8〜22の脂肪酸残基を有する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および上記熱可塑性樹脂用帯電防止剤を含む。熱可塑性樹脂組成物は、以下の(7)〜(11)の少なくとも1つを満足すると好ましい。
(7)前記熱可塑性樹脂用帯電防止剤の含有率が前記熱可塑性樹脂組成物に対して0.1〜30重量%である。
(8)前記熱可塑性樹脂がポリオレフィンである。
(9)前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンである。
(10)ポリプロピレンフィルムである。
(11)前記ポリプロピレンフィルムの表面の動摩擦係数が0.15以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂用帯電防止剤は、熱可塑性樹脂に対して帯電防止性と優れた平滑性及び透明性を与えることができる。熱可塑性樹脂組成物がポリプロピレンフィルムであると実用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(熱可塑性樹脂用帯電防止剤)
本発明の熱可塑性樹脂用帯電防止剤は、成分(A)、成分(B)および成分(C)を含む。それぞれの成分の内容について以下に説明する。
【0015】
〔成分(A)〕
成分(A)はグリセリン脂肪酸エステルであり、本発明の帯電防止剤を熱可塑性樹脂に配合した際に、帯電防止性を即効的に発現させる成分である。
成分(A)は、そのエステル化度の相違によって、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリントリ脂肪酸エステルに分類され、いずれであってもよい。また、グリセリンモノ脂肪酸エステルとグリセリンジ脂肪酸エステルの混合物であるグリセリンセスキ脂肪酸エステルを使用しても良い。
成分(A)がグリセリンモノ脂肪酸エステルであると、帯電防止即効性に効果があるため好ましい。エステル化度が増加するにつれて帯電防止即効性は低下する。しかし、エステル化度が増加すると、熱可塑性樹脂に対する相溶性が良好となる。
成分(A)が炭素数8〜22の脂肪酸残基を有すると、熱可塑性樹脂との相溶性が良く、透明性が高く、帯電防止性に優れるために好ましい。本発明において脂肪酸残基とは、脂肪酸(RCOOH;たとえば、Rは炭化水素基)から水酸基を除いた有機基であるアシル基(RCO−)を意味する。
【0016】
脂肪酸残基の炭素数は、好ましくは12〜18、さらに好ましくは14〜18、特に好ましくは16〜18である。炭素数が8未満であると、熱可塑性樹脂との相溶性が悪くブリード過多による透明性不良を引き起こすことがある。一方、炭素数が22を超えると、帯電防止性が不足することがある。
このような脂肪酸残基としては、下記一般式(1)で示される脂肪酸残基を挙げることができる。
【0017】
CO− (1)
(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は7〜21である。)
がアルキル基であると、固体粉末状の形態を取ることができ取り扱いが容易であるため好ましい。
【0018】
成分(A)としては、たとえば、グリセリンモノラウレート、グリセリンセスキラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンセスキミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンセスキパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンセスキステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンセスキベヘネート等が挙げられ、1種または2種以上でもよい。
成分(A)の製造方法については、特に限定はないが、たとえば、グリセリンと脂肪酸とをエステル化反応させたり、グリセリンエステルに脂肪酸エステルをエステル交換反応させたりして製造することができる。
【0019】
成分(A)の配合割合については、特に限定されないが、帯電防止性を確保するため、前記成分(A)、前記成分(B)および前記成分(C)の合計重量に対して、好ましくは5〜70重量%、より好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは15〜55%重量である。成分(A)の配合割合が5重量%未満であると帯電防止性が不足することがあり、70重量%を超えると透明性を阻害することがある。
【0020】
〔成分(B)〕
成分(B)は脂肪酸アミドであり、本発明の帯電防止剤を熱可塑性樹脂に配合した際に、平滑性を発現させる成分である。成分(B)はアンモニア、1級アミンまたは2級アミン等と脂肪酸との脱水縮合物であって、アミンの種類によって、1級脂肪酸アミド、Nアルキル置換脂肪酸アミド、ビス脂肪酸アミドなどが挙げられるが、特に限定は無い。
成分(B)については平滑性の発現が即効的であることより、下記一般式(2)で示される1級脂肪酸アミドであることが好ましい。
CONH (2)
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は15〜21である。)
としては、一般的に入手が容易であり安定性がよいことより、アルキル基やアルケニル基が好ましく、平滑性向上効果が高いことより、アルケニル基がさらに好ましい。
の炭素数は、好ましくは15〜21であり、より好ましくは17〜21、さらに好ましくは21である。Rの炭素数は15未満でも22以上であっても平滑性が劣る。
【0021】
成分(B)の具体例としては、たとえば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられ、1種または2種以上でもよい。
成分(B)の製造方法については、特に限定はないが、たとえば、酸無水物や酸ハライドとアミンの反応や、アルコールとアミンを触媒存在下で直接反応させて製造することができる。
【0022】
成分(B)の配合割合は平滑性と帯電防止性のバランスを取ることができるよう、前記成分(A)、前記成分(B)および前記成分(C)の合計重量に対して30〜70重量%であり、好ましくは40〜60重量%、さらに好ましくは50〜60%重量である。配合割合が30重量%未満であれば、平滑性が劣り、70重量%を超えると表面が成分(B)で覆われるため、帯電防止性が発現しなくなる。
【0023】
〔成分(C)〕
成分(C)は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物であり、本発明の熱可塑性樹脂用帯電防止剤を熱可塑性樹脂に配合した際に、帯電防止性を付与する成分である。
成分(C)は脂肪族アミンのエチレンオキサイド付加物であり、下記一般式(3)で示される化合物であると帯電防止性に優れるため好ましい。
【0024】
【化1】
【0025】
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は8〜22であり、nおよびmは0以上でn+m=2〜3を満足する数である。)
【0026】
としては、アルキル基やアルケニル基が好ましく、一般的に入手が容易であり安定性がよい。
の炭素数は、好ましくは8〜22であり、より好ましくは8〜18、さらに好ましくは12〜18、特に好ましくは16〜18である。Rの炭素数が8未満であると、熱可塑性樹脂に対する相溶性が悪化してブリード過多の原因となることがある。一方、Rの炭素数が22を超えると、帯電防止性が低下することがある。
【0027】
成分(C)の具体例としては、たとえば、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、POE(3)ラウリルアミノエーテル等が挙げられ、1種または2種以上でもよい。
成分(C)の製造方法については、特に限定はないが、たとえば、脂肪族アミンに酸化エチレンを付加反応させて製造することができる。
【0028】
成分(C)の配合比率については特に限定は無いが、平滑性とのバランスを取るために、帯電防止剤全体のアミン価は5〜35mgKOH/gであり、好ましくは10〜30mgKOH/g、さらに好ましくは20〜30mgKOH/gである。帯電防止剤全体のアミン価が5mgKOH/g未満の場合は充分な帯電防止性を得ることができず、35mgKOH/gを超えると相溶性の悪化によるブリード過多のため平滑性が不良となる。
【0029】
〔成分(D)〕
成分(D)は、ポリグリセリン脂肪酸エステルであり、本発明の熱可塑性樹脂用帯電防止剤を熱可塑性樹脂に配合した際に、ブリード過多に対して抑制効果を示す任意成分である。
成分(D)は、ポリグリセリンのエステル誘導体である。成分(D)を構成するポリグリセリンとしては、たとえば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン等が挙げられ、1種または2種以上でもよい。
成分(D)を構成する脂肪酸としては、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸等が挙げられ、1種または2種以上でもよい。
【0030】
成分(D)には、広範囲のエステル化度のものを使用でき、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル等のいずれであってもよく、ポリグリセリンに対する脂肪酸の反応モル数が1.5や2.5のように中間的なエステル化度のものも使用できる。また、1種または2種以上から構成されていてもよい。
【0031】
ポリグリセリンの平均重合度は、特に限定はないが、好ましくは3〜10、さらに好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6である。ポリグリセリンの平均重合度が3未満であると、ブリード過多を起こし、熱可塑性樹脂用帯電防止剤を熱可塑性樹脂に配合して得られる組成物を成形すると外観不良の原因となることがある。一方、ポリグリセリンの平均重合度が10を超えると、ブリード不良となり透明性が阻害されることがある。
【0032】
成分(D)のエステル化度(ポリグリセリン1モルと反応する脂肪酸のモル数)をyとし、ポリグリセリンの平均重合度をxとしたとき、y≦x+2の関係が成り立つ。熱可塑性樹脂用帯電防止剤の親水性が良好となるため水分吸着により帯電防止即効性に優れる観点から、y<xを満たすと好ましい。また、4≦x≦6の場合、1≦y≦3であると、即効性と過剰なブリードに対する抑制効果のバランスがとれるため特に好ましい。y≧xであると帯電防止剤の疎水性が高くなり、樹脂との相溶性が向上するため、樹脂からのブリードアウトが起こりにくくなるため、帯電防止即効性が損なわれることがある。
【0033】
成分(D)の脂肪酸残基の炭素数は、好ましくは8〜22、より好ましくは12〜18、さらに好ましくは14〜18、特に好ましくは16〜18である。炭素数が8未満であると熱可塑性樹脂との相溶性が悪くブリード過多による透明性不良を引き起こすことがある。一方、炭素数が22を超えると、帯電防止性が不足することがある。
このような脂肪酸残基としては、下記一般式(4)で示される脂肪酸残基を挙げることができる。
【0034】
CO− (4)
(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、Rの炭素数は7〜21である。)
の炭素数は、取り扱いが容易で安定性の観点から、11〜17が好ましい。
成分(D)の製造方法については、特に限定はないが、たとえば、ポリグリセリンと脂肪酸とをエステル化反応させたり、ポリグリセリンエステルに脂肪酸エステルをエステル交換反応させたりして製造することができる。
【0035】
成分(D)の配合割合は、平滑性と帯電防止性と透明性のバランスを取ることができる観点から、前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)および前記成分(D)の合計重量に対して5〜15重量%が好ましく、8〜12重量%がより好ましい。配合割合が5重量%未満であれば、透明性が劣ることがあり、15重量%を超えると帯電防止剤のブリードアウトが阻害され、全体の表面成分量が低下するため、帯電防止性、平滑性が発現しなくなることがある。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂用帯電防止剤は、上記で説明した各成分をそれぞれ混合することによって製造される。混合方法については、特に限定はなく、各成分を一挙または順次に混合してもよく、予めいくつかの成分を混合しておいて、残りの成分と混合してもよい。各成分の混合は溶融混合で行ってもよいし、熱可塑性樹脂に混合してもよく、熱可塑性樹脂の成形加工時に混合してもよい。
本発明の熱可塑性樹脂用帯電防止剤において、対象とする熱可塑性樹脂としては、たとえば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を挙げることができるが、なかでもポリプロピレンに対して最も効果的である。
【0037】
(熱可塑性樹脂組成物)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と上記で説明した熱可塑性樹脂用帯電防止剤とを含む。本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる帯電防止剤の含有率について、特に限定はないが、熱可塑性樹脂組成物に対して、好ましくは0.1〜30重量%、さらに好ましくは0.3〜20重量%、特に好ましくは0.5〜10重量%である。帯電防止剤の含有率が0.1重量%未満であると、帯電防止性が低下し、透明性および平滑性を長時間維持できなくなることがある。一方、帯電防止剤の含有率が30重量%を超えると、熱可塑性樹脂中での分散性が悪くなるため実質的に加工することが困難となることがある。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形材料の中間原料であるマスターバッチでもよいし、成形に用いられる成形材料でもよいし、フィルム、シート、成形品といった成形加工品でもよい。
以下、熱可塑性樹脂組成物が、マスターバッチの場合、成形材料の場合、成形加工品の場合等にそれぞれ分けて、熱可塑性樹脂組成物の製造方法を説明する。
【0038】
〔マスターバッチ〕
マスターバッチは成形品の製造工程における中間原料であり、着色剤や樹脂性能改質剤等の添加剤を高濃度に含有した樹脂組成物である。樹脂ペレットにマスターバッチを混合すると、添加剤を含まない樹脂ペレットに添加剤を単独で混合するよりも、ハンドリング性良く混合することができる。また、マスターバッチを使用することにより、低濃度の添加剤であっても分散性良く樹脂中に均一に混合することが可能となる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物がマスターバッチの場合、このマスターバッチを原料として成形材料を製造する上で、分散の均一性やハンドリング性を向上させる目的から、本発明の帯電防止剤の含有率は、熱可塑性樹脂組成物に対して5〜30重量%であり、好ましくは10〜20重量%である。帯電防止剤の含有率が5重量%未満では、成形材料や成形加工品を作製する際に均一な濃度での混合性を確保できないうえ、成形材料を製造する場合にマスターバッチが大量に必要となり、コスト高となる。一方、本発明の帯電防止剤の含有率が30重量%を超えると、相溶性不足によりマスターバッチの製造が困難になる。
【0039】
マスターバッチは、本発明の効果を損なわない限りにおいて、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤や、本発明記載の成分を除く帯電防止剤、防曇剤、脂肪酸アミド以外の滑剤、造核剤、顔料、無機充填剤、可塑剤、必要に応じてその他のポリオレフィン熱可塑性樹脂添加剤等を含有してもよい。
マスターバッチの製造方法としては、たとえば、通常のプラスチック成形機、すなわちバンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ベント付スクリュー押出成形機、ニーダー等を使用して、熱可塑性樹脂と本発明の帯電防止剤とを溶融混練、冷却後、ペレタイズしマスターバッチを作製する方法等を挙げることができる。
【0040】
〔成形材料〕
成形材料は、マスターバッチと同様に、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の添加剤等を含有してもよい。
成形材料の製造方法としては、帯電防止剤と熱可塑性樹脂とを単に溶融混練する方法や、前記マスターバッチと熱可塑性樹脂とを溶融混練する方法等を挙げることができる。成形材料の製造方法では、マスターバッチ製造と同様の通常のプラスチック成形機を用いることができる。
前記マスターバッチと熱可塑性樹脂とを溶融混練して成形材料を製造する場合、マスターバッチに含まれる樹脂と溶融混練で用いる熱可塑性樹脂とが必ずしも同じ種類の樹脂である必要はないが、両者の分散均一性を向上するため、マスターバッチに含まれる樹脂と熱可塑性樹脂とが相溶性を有していることが好ましく、マスターバッチの嵩比重と熱可塑性樹脂の嵩比重とが概略一致しているとさらに好ましい。
【0041】
〔成形加工品〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物が成形加工品の場合、成形加工品としては、たとえば、インフレーションフィルムや2軸延伸フィルム等のフィルム、シート、射出成形品、ブロー成形品など様々な形状の成形加工品を挙げることができるが、ポリプロピレンフィルムにおいて最も本発明の効果が発揮される。また、高速型自動包装機などを使用したフィルム加工の後工程における金属部との摩擦やフィルム同士の摩擦低減を考慮すると、ポリプロピレンフィルムの動摩擦係数を好ましくは0.15以下、さらに好ましくは0.10以下、特に好ましくは0.05以下とすることが望まれる。
成形加工品の製造方法としては、前記成形材料を加熱溶融した状態で、射出成形、ブロー成形、押出成形、熱成形(2軸延伸加工等)する方法を挙げることができ、成形材料を成形する同様の方法であってもよい。
【0042】
成形材料と成形加工品の製造は、連続して行なってもよく、たとえば、前記マスターバッチと熱可塑性樹脂を押出成形機で溶融混練、ついで、Tダイ、インフレーションダイ等によりフィルムに加工する方法が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下の実施例および比較例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例における帯電防止剤や熱可塑性樹脂組成物の物性評価は、下記の方法にて実施した。
【0044】
(アミン価)
帯電防止剤のアミン価を医薬部外品原料規格アミン価測定法第2法によって測定する。
なお、上記測定法は本願出願時に規定された測定法とする。
【0045】
(帯電防止性;表面固有抵抗率)
熱可塑性樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムについて、40℃にて1日保管後の表面固有抵抗率を東亜電波工業製極超絶縁計を使用して測定する。なお、測定条件は温湿度20℃×45%、R.H.である。
【0046】
(フィルム透明性)
熱可塑性樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムを、40℃で7日保管後に、色差・濁度測定器(日本電色工業製)を使用してフィルムのHaze値およびΔHaze(フィルム表面をエタノールで軽く洗い流す前後のHaze値の差)を測定する。
【0047】
(フィルム平滑性)
熱可塑性樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムについて、40℃にて1日保管後の動摩擦係数(μd)を摩擦測定機TR−2(東洋精機製)を使用してJIS K7125−ISO 8295(プラスチック−フィルムおよびシート−摩擦係数試験法)に従って測定する。なお、測定条件は温湿度20℃×45%、R.H.である。
【0048】
(実施例1)
表1に示す配合割合にて成分(A)〜成分(C)を溶融混合して帯電防止剤を調製した。
次いで、ポリプロピレン(ホモポリマー、MFR=2.5g/10min)を準備し、上記帯電防止剤の含有率がポリプロピレン樹脂組成物に対して10重量%となるように、帯電防止剤を混合し、二軸押出成形機にて230℃で溶融混練して、ストランドを得た。得られたストランドをペレタイザーでカットして、マスターバッチを作製した。
【0049】
次いで、得られたマスターバッチおよび別に用意したポリプロピレンを混合して押出原料を調製し、二軸押出成形機にて230℃で溶融混練し、Tダイより押出した。ここで、押出原料は、帯電防止剤の含有率がポリプロピレン樹脂組成物に対して0.5重量%となるように、マスターバッチおよび別に用意したポリプロピレンの量を調整して調製した。
Tダイより押出された押出物をTダイより押出した後、一軸延伸して厚さ20μmのフィルムに成形した。得られたフィルムについて、帯電防止性、平滑性および透明性を評価し、その結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2〜10および比較例1〜5)
実施例2〜10および比較例1〜5では、実施例1の配合割合を、それぞれ、表1および2に示す配合割合に変更する以外は実施例1と同様にして、帯電防止剤をそれぞれ調製し、マスターバッチを作製し、フィルムを成形した。得られたフィルムについて、実施例1と同様にして、帯電防止性、平滑性および透明性をそれぞれ評価し、その結果を表1および2に示す。但し、実施例8は、参考例8とする。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表1に示す評価結果より、本発明の熱可塑性樹脂用帯電防止剤では、フィルム評価にて、帯電防止性良好であり、熱可塑性樹脂に対して即効的な帯電防止性を付与することを確認できた。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、平滑性にも優れておりフィルム平滑性の測定より動摩擦係数が0.15以下となっていることが確認できた。フィルムの経時的な評価としては、40℃7日間の条件にてΔHaze値が0.2以下となっており、優れた透明性を長時間維持できることが確認された。
それに対して、比較例1および2では、成分(B)の含有量が70重量%を超えており、帯電防止性不良となり、本発明と比較すると劣る結果となった。一方、比較例3では、成分(B)の含有量が30重量%より低いため十分な平滑性が得られない結果となった。比較例4では、成分(C)を含有しないためアミン価が0mgKOH/gとなり、十分な帯電防止性が得られない結果となった。比較例5では、帯電防止剤のアミン価が35mgKOH/gを超えているため透明性の阻害および平滑性の不良が観察された。